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「 ち が い 」
星新一
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643 :
1/21:2007/02/08(木) 18:25:10 ID:mwttv4QR
ひとりの女が神経科の医者の所へやってきた。
30歳ぐらい。ちょっとした美人だが、表情には深い影があった。
∧_∧
( ・∀・) ∧_∧
(| ̄ゝノl⊃ (゚ー゚;)
|_ ゜_| ( l
(__)_) ( ( し━┓
し(__/ ━┛
┃
┻
それは内面の強い悩みからきたものだろう。
もっとも悩みが無く精神が正常であれば、だれもここへは出かけてこない。
644 :
2/21:2007/02/08(木) 18:25:45 ID:mwttv4QR
彼女を迎えて、医者は冷静な声で言った。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| どうなさいました
\__ ________
∨
∧_∧ ∧_∧
( ・∀・) (゚ー゚;)
_φ___⊂) ( l
/旦/三/ /| ( ( し━┓
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | し(__/ ━┛
|鹿児島製鉄|/ ┃
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ┻
∧
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| それが、あの……
∧ \___________________
/ ̄ ̄  ̄ ̄
| お話をうかがわないことにはどうしようもございません。
| 気を楽になさってください。
| ことのおこりからでもうかがいましょうか。
| お話になりたくないところは、けっこうですよ。
| 気の向くまでお待ちしますから。
\_________________________
645 :
3/21:2007/02/08(木) 18:26:54 ID:mwttv4QR
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 実はあたしの夫のことでございます
\__ ________
∨
∧_∧ ∧_∧
( ・∀・) (゚ー゚;)
_φ___⊂) ( `l
/旦/三/ /| ( ( し━┓
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | し(__/ ━┛
|鹿児島製鉄|/ ┃
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ┻
∧
/ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ご主人がどうかなさいましたか
\_____________
646 :
4/21:2007/02/08(木) 18:27:48 ID:mwttv4QR
(*゚ー゚) 「どこからお話したものかわかりませんけど、数年前のことですの。
ある日、夫は外出したまま、それっきりになってしまいました。
それ以来、なんの連絡もなく…」
:::::::::::::::::
:::::::∧:::::∧::::
::( )::
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::::::::::(_) (_)::::::::::
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( ・∀・) 「ははあ、失踪なさっというわけですか。
しかし、そのような件でしたら、ここはすじちがいです。
警察のその方面の係にご相談なさるべきでしょう」
647 :
5/21:2007/02/08(木) 18:28:21 ID:mwttv4QR
(*゚ー゚) 「もちろん、そういたしましたわ。
警察の方は、夫の勤め先の会社の方とも協力し、
ずいぶんよくやってくださいました。
だけど、それはなんの収穫もあげませんでした。」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| ☆ 主人お探し交番 ☆ |
| |
| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
| | サガシタゾゴルァ .| _____ |
| | ヽ=@=ノ ヽ=@=.| | 交通事故.| |
| | (゚Д゚ ) (・∀・;.| |死者 1人| |
| | ( V ) (. V | |負傷. 00人| |
| | | | | | | ,|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
|______,| (_(__) (_(___ |_______|
( ・∀・) 「もしかしたら、どこかで事故にあわれたか、
自殺をなさったのかもしれませんね。」
(*゚ー゚) 「ええ…」
_____
/ .//‐|| ==
/∧_∧ || || ==
ウワアアアアア! /<`∀´;>||_|| ==
∧_∧ / O⌒⊂ / ===
( ;´∀`) == / ̄ ̄ ̄ ̄/  ̄ =====
( ) == | ̄ ̄ ̄ ̄||_ ====
| | | == |□====□| __/ =====
(__)_) (========)__
`ー― `ー―
649 :
7/21:2007/02/08(木) 18:29:40 ID:mwttv4QR
( ・∀・) 「先走ったことを言うようですが、ご主人の消息、生死がはっきりしない、
そのため、気持ちの整理が付かないそれが心の中にこもって、
精神のバランスが崩れかけてきた、とでもいったところでしょうか。」
(*゚ー゚) 「いえ、お話はまだ序の口ですの。
それに、あたしはあきらめがいいほうなのです
調べてもわからないことを、あれこれ悩んでも仕方がないときめました。」
( ・∀・) 「それはそうですね。
勝手に口を挟んで失礼しました。
で、それからどんな生活を…」
(*゚ー゚) 「くらしには困りませんでした。
夫の残した財産がありました。ボーイフレンドと遊んで、けっこう楽しい気分でした。」
______________
/1万 / 1万 / 1万 / 1万 / 1万 /|
/1万 / 1万 / 1万 / 1万 / 1万 /| |
/1万 / 1万 / 1万 / 1万 / 1万 /| | |
/1万 / 1万 / 1万 / 1万 / 1万 / || | |
/1万 / 1万 / 1万 / 1万 / 1万 / | || | |
|三||三|三||三|三||三|三||三|三||三| | || | |
|三||三|三||三|三||三|三||三|三||三| | || |/
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|三||三|三||三|三||三|三||三|三||三| |/
|三||三|三||三|三||三|三||三|三||三|/
650 :
8/21:2007/02/08(木) 18:30:24 ID:mwttv4QR
( ・∀・) 「それだったら、なにもこの神経科にいらっしゃることもないでしょう。」
(*゚ー゚) 「でも、そう遊んでいるばかりいては、お金が続きません。
夫の生命保険をもらおうと思いましたの。
しかし、このような場合はすぐにもらえず、一定の期間がたたないとダメなそうです。
その期間がまもなくなので、あたし保険会社へ交渉に行きました。」
──┐
保険|
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| | | │ λ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ・∀・) 「なるほど、どなたでもそうなさるでしょうね。
保険金をもらうのは正当な権利なのですから。
で、どうでしたか」
651 :
9/21:2007/02/08(木) 18:30:57 ID:mwttv4QR
(*゚ー゚) 「あたしが事情を話すと、保険会社の人はたいへん同情してくれましたわ。」
∧_∧
(;゚ー゚) オカネチョウダイ
__|| O,__O__
|\ \
| \ ∧_∧\
|l\ \ ( ) \
\| \ (|| ̄ ̄|) \
||l\ |ニ|| |ニニニ||
∧
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| 当社はお客様の幸福を第一の目標としています。
| もちろん失踪のまま期限が来れば、すぐにお支払いします。
\_________________________
( ・∀・) 「当然そうでなくてはなりません」
652 :
10/21:2007/02/08(木) 18:31:29 ID:mwttv4QR
( ・∀・) 「…それからなにが起こったのですか」
(*゚ー゚) 「それが、とても…」
( ・∀・) 「どうぞ、お話になってください」
(*゚ー゚) 「きたんですの」
( ・∀・) 「保険金がきたのですか」
,:'"':, ,:'"':,
,:' ,:':.':, ,:' ,:'::':,
,:' ,:':::.::::':,,,.....,, ,,,:' ,:'::::::::':,
,' ,:'::::::::::::', ,:' ,:'::::::::::::':,
,::' '::,
,:'.. ':,
,':. ○ ○ ',
;;:: ; < いいえ、夫が帰ってきたんですの…
;;:: ---- ;'
':,:: ,:'
'::,::.. ,.::;
"''':; '' ""; ''"
653 :
11/21:2007/02/08(木) 18:34:01 ID:mwttv4QR
( ・∀・) 「…それはよかったですね」
(*゚ー゚) 「それはそうなんですけど…」
( ・∀・) 「戻られたご主人にお聞きになりましたか。何で失踪なさったのかを」
(*゚ー゚) 「ええ、要領を得ない答なんですの。一種の記憶喪失にかかっていたらしいとかで…」
∧ ∧
(*゚ー゚) < イママデドコイッテタノ?
⊂ ⊃
〜( |
U U
∧_∧
(´∀`;) < 西にある東の太陽を見て、
( ) 北にある南太平洋を泳いで、
| | | 上にある下水道に行って
(__(_) 左にいる右大臣とおしゃべりしてたモナ…
( ・∀・) 「なるほど、そういった症状もよく起こりうることです。
失踪の期間、どこかで別人となって生活していたのでしょう」
(*゚ー゚) 「起こりうる、といってもなんだか信じられないことで…」
( ・∀・) 「どこでどんな生活をしていたのか、少しもわからない。
あなたはそこに恐怖のような物を感じるのでしょう」
(*゚ー゚) 「ええ、それもありますわ。だけど、それもちがうんですの」
( ・∀・) 「どうちがうんですか、ご主人は以前の生活に戻られたんでしょう」
(*゚ー゚) 「ええ、新しいつとめ先を見つけ、毎朝ちゃんと家を出て、夕方には帰ってきます。
でも、ちがうんです」
( ・∀・) 「なにが、どうちがうんですか。そこをはっきりおっしゃってください」
(*゚ー゚) 「以前の夫とちがうんです。
つまり、帰ってきたのはあたしの夫じゃないんです」
| ヽ
ー|ー | -― 、
レ⌒ヽ  ̄| ̄| \ヽヽ }
ノ | J __ノ
 ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧ ∧_∧
(;・∀・) (゚ー゚;)
_φ___⊂) ( `l
/旦/三/ /| ( ( し━┓
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | し(__/ ━┛
|鹿児島製鉄|/ ┃
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ┻
655 :
12/21:2007/02/08(木) 18:35:41 ID:mwttv4QR
( ・∀・) 「まさか…」
(*゚ー゚) 「いいえ、本当です。あたしにはわかるんです。
( ・∀・) 「別人だとおっしゃるんですね、なぜそう断定できるのですか」
(*゚ー゚) 「そこは、はっきり言えませんわ。
たしかに、顔つきや体つきは、あたしの夫にそっくりです。
でも、あの人は絶対に夫ではありません」
昔 今
∧_∧ ∧_∧
( ´∀`) (´∀` )
( ) ( )
| | | | | |
(__)__) (__(_)
( ・∀・) 「失礼ですが、こんな原因じゃないかと思いますよ。
あなたはひとりぐらしになれてしまった。のんきで楽しい毎日だった。
順調ならばたくさんの保険金が入り、その生活がずっと続くところだった。
それなのに、ご主人が帰ってきて、その夢は消えてしまった。
この不満が心の奥につもり、ご主人をみとめたがらないのでしょう」
(*゚ー゚) 「いいえ、そんなことではありません。絶対にちがうんです。夫ではありません」
( ・∀・) 「いかにも確信がおありのようですが、理由はなんなのです。
失礼かもしれませんが、じつはあなたが自分でご主人を殺し、
世の中に失踪と言いふらしていたのとちがいますか」
(*゚ー゚) 「とんでもございませんわ。
前にも警察はそんな疑いを持ったようです。
巨額な保険金がついていると、こんな場合、まず受取人が疑われるらしいですわ。
床下から庭まで掘り返されてしまいました。
でも、あたしはそんな恐ろしいことはしていません。
警察の専門家をごまかして完全犯罪をやるような才能は、ありませんもの」
ホルゾゴルァ .___
___ / |
ヽ=@=ノヽ/ ミミ
(゚Д゚ // ミ ミミ ヽ
( //つ (::;:;:;:;)::::;:;)__
_______ / //) (;;:;):;:;;:;:;::;::):;::)
ノ (__ ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ ノ
ヽ_ノ
657 :
14/21:2007/02/08(木) 18:36:52 ID:mwttv4QR
( ・∀・) 「では、なぜ別人だと…」
(*゚ー゚) 「そうとしか考えられないんですもの」
( ・∀・) 「やっかいなことになりましたな。
で、あなたが私の所へいらっしゃったのは、なぜなのですか」
(*゚ー゚) 「あたし、自分を診察していただこうということではありません。
先生のお願いして、あの別人の正体をつきとめていただきたいのです。
それでうかがったのですわ」
( ・∀・) 「なるほど、なるほど。そうでしたか。よくわかりました。
では、よく言いくるめて、ご主人を、いや、ご主人らしき人物を、
ここへよこしてください。わたしが調べてさしあげましょう。」
∧_∧
( ・∀・) ∧_∧
_φ___⊂) (゚ー゚;) < よろしくおねがいします。
/旦/三/ /| |ヽノ |
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | ( )〜
|鹿児島製鉄|/ U U
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
658 :
15/21:2007/02/08(木) 18:37:47 ID:mwttv4QR
次の日、問題の男がやってきた。
ハイ アーンシテ
∧_∧
( ・∀・) ∧_∧
(| ̄ゝノl⊃(´∀` )
|_ ゜_| ( l
(__)_) ( ( し━┓
し(__/ ━┛
┃
┻
ハイ チューシャ ∧_∧
∧_∧ ,. ..(´Д`;) チューシャコワイ…
( ・∀・ ) .⊥ ⊂ )
(| ̄ゝノlつ|__| と____ ノ○
|___」 . .┻ [  ̄]
(__)_).  ̄|| ̄
659 :
16/21:2007/02/08(木) 18:38:19 ID:mwttv4QR
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ははあ、あなたはアンドロイドですな。
| 死んだ男とそっくりに作られた、人造人間…
\__ ________________
∨
∧_∧
( ・∀・) ∧_∧
(| ̄ゝノ l (´∀` )
|_ ゜_| ( l ギクリ
(__)_) ( ( し━┓
し(__/ ━┛
┃
┻
∧
/ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| どうして、それを…
\__________
660 :
17/20:2007/02/08(木) 18:39:11 ID:mwttv4QR
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| それぐらい、すぐにわかりますよ。わたしの目はごまかせません。
| 保険金はあまりに巨額だ。できるもなら支払いたくない。
| そこで保険会社は写真や記録をもとにアンドロイドを作る。
| 保険加入時の検査で、資料はそろっているから、作りやすい。
| それを派遣し、生きて戻ったように形を整える。合理的な方法です…
\__ ________________________
∨
∧_∧
( ・∀・) ∧_∧
(| ̄ゝノ l (`∀´ ) ギギギギギ
|_ ゜_| ( l
(__)_) ( ( し━┓
し(__/ ━┛
┃
┻
661 :
18/19:2007/02/08(木) 18:40:21 ID:mwttv4QR
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
| そこまで見抜かれては、先生をほおってはおけない。|
| この秘密が漏れたら一大事です。 |
| お気の毒ですが……… .|
\__________ __________/
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< ○ /⌒丶 ===
< ○ l < ===
<○ ノ____ < ====
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662 :
19/19:2007/02/08(木) 18:41:07 ID:mwttv4QR
/∧ /∧
/ / λ / / λ
/ / λ / / λ
/ / /λ / / /λ
/ / / //λ / / //λ
/  ̄ ̄ ̄ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ \ | およしなさい。意味のないことです。
/ /\ < ここの医者は前にその真相を知り、殺されてしまいました。
/ /| | わたしはそのあとがまに保険会社で作られ派遣された、
| ● ヽ / ● / /| | あなたと同じアンドロイド……
| ヽ___/ / //| \__________________________
| ヽ / / / //|
| ヽ / / ///|
| ヽ/ / / ////|
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「マイ国家」より「ちがい」でした。おわり。