アウトロー同盟　（山崎渉、ぼるじょあ、わむて、ミノル他）2

「急激な時流は確然と変革しつつあった。
　快楽・革命・法悦・希望・色恋・飽食・暴利・投機・躍動感・生命力。
　豪奢に爛熟した大文明の魔力が繚乱と混和しながら大都の随所に燦爛と溢れ出し、計り知れない一大のアトモスフィアが如実に醸成され始めていた。
　当代で私が瞭然と記憶している珍事がある。
　私は帰社すべく個人タクシーに乗車していた。
　藤色と薔薇色に英々と染まり上がった夕空の下、11月の華やぐネオンの洪水に陶然と誘われる様に、車は折りしも屹然と林立する巨大なビル街の谷間を滑る様に直進している。
　ラジオからは、一世を風靡している名優の歌声が小音量で流れていた。
　私は覚えず、言葉にならぬ万感の奇声を上げ始めていた。
　――そうだ、私には既に判然と分明してしまっていたのだ――。
　自分は既に千万の所望を全て実現してしまった人間で、我々はもうこの先、是以上幸福にはなれっこないのだと云う狂おしき空恐ろしさを。」