AA Battle Royale Z

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126名無しさん@├\├\廾□`/:2006/02/16(木) 23:12:50 ID:0h3rGnWT
                / ̄ ̄ヽ     珍米  飛びます〜!!
               ○――っlllll
               <    6)|     __
                ト    ノ⌒ ̄ ̄とニ⊃っ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄´ゝ
                  ̄ ̄ヽ    __tソ   珍米            / ̄|
                     \                      /  /
                       ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\/メ  /
                         /                 (_/
127曝しあげ:2006/02/20(月) 11:49:22 ID:Q/K6EQL7
            
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   >( c´_ゝ`) 
           
>( c´_ゝ`)    。
            。    >( c´_ゝ`)
             。

        ∧ ∧
       ( / ⌒ヽ
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        | 100t |
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128名無しさん@├\├\廾□`/:2006/03/19(日) 23:48:24 ID:ZzpWX+2Y
保守
129名無しさん@├\├\廾□`/:2006/03/20(月) 13:06:47 ID:FIr56YMN
まだこのスレ生きてるんだぁね…

>>120-121
>>117はここに健在だが死んだスレを復活させようとは思わないわけで
つーか作りたい奴は自サイト作ってやればいい話なわけで
130名無しさん@├\├\廾□`/:2006/03/20(月) 20:59:00 ID:adBiUpSp
結局4が頂点だったな。
131名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/20(木) 18:39:18 ID:MHSXAVJH
('A`) 砂漠はこれでいくといいよ ラクダより快適だよ
謎⊂ノ ).  
               ┌―く―┐
            _,― ̄|| ''  '' || ̄ー、__
           「| '' [] '| ''  '' | ' □ ''|
    _ィ´ニ ̄T_|_|    | :  :三| :  : |
 ,__{= (  )ミ□†||||]| ,,  ェェ| :  : ̄| ,,  :,, |
  ' ̄ー二*―- ̄`┴┬┬┼┰┰┬―┬┬┘
             .(◎/_j`┸┸´t__{◎}           
            / / ̄      匸| | |       
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132名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/20(木) 23:37:30 ID:k+1Trw14
            ('A`) 砂漠はこれでいくといいよ ラクダより快適だよ
     謎⊂ノ ).  
                 ┌―く―┐
             _,― ̄|| ''  '' || ̄ー、__
            「| '' [] '| ''  '' | ' □ ''|
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133名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/22(土) 03:28:34 ID:g+F4YuDl
過疎スレ再利用。
AABRを俺が一から勝手に書いて、飽きるまで続ける。
134名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/22(土) 03:32:36 ID:g+F4YuDl
内部資料第二○六三九○一八号

―次世代青少年心理解析プロジェクト「プログラム」―

概要:
 このプロジェクトは近年多発する青少年による凶悪犯罪分析のために行われる。
なぜ青少年が殺人、強盗、放火などの凶悪犯罪に及ぶのか、その心理を分析し、
今後の学校教育および心理的に問題を抱えている青少年の更生に役立てるのが本計画の目的である。

 プロジェクトの発案者は少年心理の専門家である、AA大学のギコ教授。
全国の中学校から無作為に選び出した1クラス40人前後を実験対象とし、
実験対象となる生徒全員に何らかの凶器またはそれに類する物を支給した上で
実験場となった離島において極限状態に晒し、全員の行動と心理の変化を記録する。

 運営はギコ教授を中心とした研究チームと陸軍が共同で執り行う。
実験場はAAカテゴリから200kmあまり離れた「紗崙島(サロンとう)」、
記録器具として首輪型発信機付き集音マイク「アナリスク1号」を使用する.....
......
....
..
.
135名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/22(土) 03:33:43 ID:g+F4YuDl
 3年2組生徒名簿 

 実験責任者:ギコ教授 

出席番号
【1番】アサピー     【21番】ちんぽっぽ
【2番】アヒャ      【22番】つー
【3番】荒巻スカルチノフ 【23番】づー
【4番】ありす      【24番】ッパ
【5番】1さん      【25番】ツンデレ
【6番】イマノウチ    【26番】でぃ
【7番】妹者       【27番】ドクオ
【8番】えー       【28番】内藤ホライゾン
【9番】おにぎり     【29番】ネーノ
【10番】ガナー      【30番】激しく忍者
【11番】花瓶       【31番】八頭身
【12番】ギコ       【32番】ヒッキー
【13番】さいたま右    【33番】フサギコ
【14番】さいたま左    【34番】フサしぃ
【15番】しぃ       【35番】モナー
【16番】じぃ       【36番】モナカ
【17番】ジサクジエン   【37番】モナエ
【18番】ショボーン    【38番】モララー
【19番】ジョルジュ長岡  【39番】リル子
【20番】タカラギコ    【40番】レモナ
136名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/22(土) 03:51:05 ID:g+F4YuDl
午前10時43分、少し高くなってきた日差しが窓から車内へと差し込んでくる。
空は抜けるように青く、どこかへ出かけるには最高の1日になりそうだ。
5月上旬、まだそれほど暑くは無い。海沿いの国道を、バスが数台連なって走っていく。

大勢の中学生と引率の大人達を乗せたバスの一団は、どれもまるでお祭りのように賑やかだ。
ある1台では調子はずれなカラオケに全員が笑っている。
またある1台では安いスナック菓子や飴玉を全員に配る者がいて、これまた全員が笑っている。
後ろのバスが前のバスを追い越そうとする。2台のバスに乗った生徒達は窓越しに手を振り合い、
変な顔をし、はたまた中指を突き立てては互いに指さしあい、また窓越しに笑いあう。

今日は第二AA中学校修学旅行の1日目だ。3年2組の生徒40人が乗る2号車も、例に漏れず賑やかである。。
「なぁギコ、駅まであとどれ位だい?漏れはもう、待ちくたびれたからなー」
モララー【38番】が助手席をはさんで隣のギコ【12番】に言った。
「まだ出発したばっかだぞ・・・あと20分ってところだゴルァ」
自動巻きのクロノグラフに目を落としつつ、ギコは答えた。
「嘘だろ?いくらなんでも時間かかりすぎだからな〜!」
「あはは、モララーは相変わらずせっかちモナね」
モナー【35番】が前の座席から顔を出して、モララーに笑って言った。
「あーもう暇だからな!誰か何か面白いことやってくれYO!」
モララーはいかにも退屈そうにそう言うと座席にもたれ掛かり、車内前方のテレビに目をやった。
ちょうど朝の星占いが始まったところだったので、モララーはとりあえずそれを見始めた。

モナーは座席にのぼったついでに、ちょっと周りを見渡してみた。
バスの前方ではいつも集まってはバカをやっている内藤ホライゾン【28番】にドクオ【27番】、
ショボーン【18番】の三人が青い瓶を回し飲みしては、マズイマズイと騒いでいる。
後ろの方では、つー【22番】とづー【23番】、それにアヒャ【1番】とでぃ【26番】
―――どこのクラスにも必ずいる、ちょっと悪い感じの集団―――とさいたま右【13番】と
さいたま左【14番】のHIPHOPコンビにダンス部仲間のイマノウチ【6番】とおにぎり【9番】が談笑していた。
昨日のライブの話でもしているのだろうか。左がマイクを持つような動きをし、軽く開いた手を上下に振っている。
右と左のさいたまコンビと他のクラスでDJをやっている太陽、それにダンス部のイマノウチとおにぎりは、
いくつか上の先輩達と「グレイティスト・パーティー」なるHIPHOPライブをたびたび企画してはオールナイトで
歌い踊っている。昨日も修学旅行前夜祭ということで、相当はじけてきたのだろう。
一睡もせずにライブハウスで騒ぎ、強行軍でバスに乗り込み、それで今のハイテンション。
どこにそんな体力があるのかとモナーは半ば感心し、半ば呆れつつ彼らを見た。

他にも、じぃ【16番】やモナエ【37番】を中心とした体育会系女子のグループや、
しぃ【15番】やえー【8番】といった文科系女子が同じように談笑していた。
荒巻スカルチノフ【3番】は窓際の席でいつもと同じように寝ている。
本当に無害そうな顔をしているとモナーは思った。
137名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/22(土) 03:52:20 ID:g+F4YuDl
そして自分から見てちょうどすぐ前に目をやったそのとき・・・
「ちょ、ちょっとジョルジュ・・・何やってるモナ?」
「え?何ってそりゃ見ての通りだけど・・・どうかした?」
ジョルジュは大きな胸を露にした女性のピンナップが載った雑誌――俗に言うエロ本、である――
を広げつつこともなげにモナーの質問に答える。隣でありす【4番】が顔を赤くしてうつむいている。
「さすがに女の子の前でそれはまずいんじゃ・・・」
「え、あー、そうだな。ありがと。ありすさん、ゴメン空気読めてなかった」
ジョルジュは少しはにかみながらありすに謝罪し、雑誌をカバンに入れた。
まったくこの男は・・・とモナーは思った。
エロ大王、おっぱい星人と数多くの異名を持つジョルジュは、学年ではちょっとした有名人だ。
カバンの中には常時エロ本が3冊入っているとか、女性の胸をちょっと見ただけで何カップか判別可能とか、
とにかくロクでもない習慣や特技を持っている。あ、パッドかどうかも見ただけでわかったっけ。
また彼のそのテの本の蔵書量は半端ではなく、それを格安で購入希望者に流したりもしている。
オカズに困ったらジョルジュに頼め、が3年男子の裏の合言葉である。。
男子にとっては神、女子にとっては敵以外の何者でもない男。それがジョルジュ長岡だ。

「まったく、もう・・・」
モナーはため息をつきつつ座席に座った。
窓の外に港が見えてきた。駅まであと15分、といったところだ。
駅に着いたらそこから新幹線に乗り換え、一路京都へと向かう。向こうに到着するころにはもう夜だろう。
そしてそのままホテルに行き、そこで一夜を過ごす。今夜は眠れないとモナーは思った。
長い人生で中学の修学旅行は1回しかない。楽しみ倒さなくてどうするのだ。
同室の連中と夜通し話すか、何かして遊ぶかしないともったいない。
女子の部屋への突撃――――は内藤たちのグループかジョルジュあたりがしでかしそうだ。
もし奴らが実行したら、どうなるだろう?本当にやったとしたら、結果を聞くのが楽しみだ・・・

モナーの目の前にバスが現れ、通り過ぎていった。3号車だ。続いて4号車、5号車と次々に他のクラスのバスが、
2号車を追い抜いていく。6号車に乗っていたちびギコと手を振り合ってから5秒後、2号車は最後尾となった。
「モララー、今日の運勢はどうだったモナか?」
再び座席から顔を出してモナーが尋ねる。だが、モララーは返事をすることなくすやすやと眠っている。
「あーあ、モララー待ちくたびれて寝ちゃったモナ」
そう言って、すぐにモナーも眠くなってきた。昨日は興奮して寝付けなかったからだろうか?
再び座りなおし、座席を最大限傾ける。駅に着くまで一眠りしよう。目が覚めたら、もう新幹線が待っているだろう。
モナーは目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。他のクラスメイトも同じように眠っているとは、露とも知らず。
バスの列から2号車1台だけが外れ、そのまま国道から港の中へと消えていった・・・



【実験開始 残り40人】
138名無しさん@├\├\廾□`/:2006/04/26(水) 17:56:46 ID:99UweG0B
>>133
もう飽きた?
139名無しさん@├\├\廾□`/:2006/05/01(月) 22:43:02 ID:PbvIgyWC
保守
140名無しさん@├\├\廾□`/:2006/05/02(火) 21:09:34 ID:Vvd5WEF8
飽きたようです
141名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/11(日) 08:33:08 ID:ID8J3cvE

142名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/30(金) 06:39:36 ID:TU/h8btd
>>112から
無機質な物体を掴んだ右手はひんやりとした感覚を脳へと送信している。タカラギコ【男子11番】がうつろな双眸をじぃ【女子9番】へと向けている。
「ご、ごめん……じぃ」
震えるその声に何もしてあげられず、頼られながら応えられない事が辛かった。
仮眠中のタカラギコが突然の頭痛と全身の震えを訴えてからは森林公園の南東部(G−4)に留まっていた。
おそらくは親友ありす(女子2番)とフサギコ(男子18番)を失った精神的ショックと血液への恐怖がじわじわとタカラギコを蝕んでいるのだろう。
反面、誰一人として仲間が死んでいない、じぃ(というか仲間と言う仲間が居ないんだが)。妙な表現だが、申し訳ない気持ちにすらなった。
つい先ほどに遭遇したカウガール(女子4番)の壮絶な悶死。その凄惨さに、一歩間違えば奈落の底へ落とされる現実を改めて痛感した。
現在地はありす(女子2番)の亡骸がある場所にごく近い。彼女がタカラギコを冥府へ誘っている、というのは考え過ぎだろうけれど。
タカラギコに掛けた上着がずれていたので、それを手で掛け直した。この時期の時間帯にシャツ一枚と言うのはかなりきつい物があった。
「……寒くはないんですか?」
じぃの心中を察したようなタイミングで、タカラギコが訊いてきた。
「別にぃ。普段、結構薄着で生活してるし、さ」
痩せ我慢で返し、再びレミントンを手に取る。それから東、密集した草木の先を見詰めた。さすがに透かして見る事はできなかった。
数時間前、このすぐ北を生徒が目にも留まらぬ速さ駆け抜けていった事を思い出した。正体の確認は間に合わなかった。
尋常でないあの俊足、忍者(男子15番)と判断した。
直後、この北東で銃撃音が数回響いた。足を向けるのは懸命ではなかった。少なくとも片方は確実にやる気で、発見されれば今のタカラギコが逃げきれるはずがない。  
「……気になりますか?」
先ほどと同じ調子でタカラギコが訊いてきた。当然、銃撃戦の跡の事だ。じぃは靴底を動かして土を均す。深く思考する際の癖だ。
じぃは立ったまま視線をを上げ、タカラギコに答えた。
「知らない奴の死体が転がってるだけでしょ」
「僕は、気になります」
何とタカラギコはふら付いたまま、その背を木に擦るようにして立ち上がり始めた。慌てて止めようとしたじぃだが、突き出された手に制止された。
立ち上がったタカラギコは苦しげに肩を揺らしている。 
「無理しないでよ、タカラ」
「じぃもですよ」
タカラギコがおぼつかない手でディパックを掴み上げ、じぃを見た。
「さっきの銃の人がこっちに来ないか心配なのでしょう」
「それは……」
「寄り掛かる為に一緒に行動しているんじゃないんです、僕。みんなで脱出する為に、一緒に動いてるんです」
睨むようにじぃを見据えている。困ったじぃはとにかく、タカラギコの肩を掴んで座らせようと試みた。しかし彼の抵抗が押し切れない。タカラギコの意思の強さに圧されていた。
「……うん、わかった。タカラ、わかったからさ…」
とりあえずはこの場から離れられればいいのだろう。そう思ったじぃはタカラギコの促しに承知した。――それこそが命運を左右すると、知るはずもなく。
143名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/30(金) 06:41:22 ID:TU/h8btd
「……何か聞こえませんでしたか?」
急に声を潜め、タカラギコが神妙な顔付きになった。不覚にも聴覚に意識を集中させていなかったじぃは、首を横に振ると茂みの向こうへと首をやる。
見慣れた制服が見えた。あれは――女子だろうか?
「誰?」
その声に被さって轟音が林に反響する。タカラギコの頭部がありえない速度で傾いたのは、それとほぼ同時だった。
水風船が破裂するような、妙な音が耳元で響いた。
薙ぎ倒されるようにタカラギコの体が地面に叩き付けられ、遅れて何だかわからない半固体物質が数個、地面で砕けた。
例えるなら重量のある豆腐の落下音だった。生存本能か、はたまた脊髄反射か。
じぃは腕を轟音の源へと向けると、レミントンの引き金を絞り抜いた。手元で小爆発が生じ、反動で腕が跳ね上がる。
驚くほどに脳は冷静さを保っていた。しぃ(女子8番)を視界に捉えた時にはタカラギコの生死考察は完了していた。
喪失感と、遅れて込み上げてきた憤慨を感じる。
「しぃ!!!」
何故しぃが。何時も学校では可愛い顔して澄ましていて、殺伐さとは無縁だった彼女が。疑問ではあるが、この場において最早それは関係なかった。
殺し合いなど望まない、体調不良で無抵抗なタカラギコを躊躇なく狙撃し、非情にも屠った。
問答無用だった。今のしぃはじぃにとって一線を越えた許さざる存在だった。
ご挨拶代わりに散弾をもう一撃放つ。しぃの体が茂みの陰に沈み、草木を掻き分ける音が近付いてくる。
垣間見えた表情は血の気は無く冷徹で、到底中学生のそれではなかった。

 ――何なの。あいつ

しぃは殺戮機械のように淡々と事に及ぶ。S&W M945が咆える度に、間近な木の幹が抉り取られる。その正確な射撃を前に、さすがのじぃも不利を察した。
しぃは只者ではない、それは確実だった。散弾の装填は練習済みだが、付け焼刃でどうにかなるだろうか。
「……無理かな?」
格の違いは歴然だった。足を止めれば直ちにタカラギコと枕を並べる事となるが、止めねばしぃに命中させられない。
交戦する以上、選択肢のほぼ全てに死が結果として存在するように思えた。
 ――それも上等、と相打ちを覚悟する。身を翻した時、タカラギコの声が脳裏に甦った。
『このギリギリの状況で僕がどうしてもやりたいって思った事なんです。』
タカラギコはこの殺戮ゲームからの仲間との生還を願っていた。そのタカラギコの思いが易々と踏みにじられた。
心の中で何らかの精神を留めていたネジが弾け飛んだ。
―――もう抑えが利かない
牽制の一撃を放つと、シェルを装填しながらの全力疾走を開始する。装填完了するなりもう一撃。ここからは一か八かだ。
瞬発力に劣る分、力一杯大地を踏み付けて推進力を得る。じぃの命懸けの猛突撃が開始された。
144名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/30(金) 06:42:26 ID:TU/h8btd
新たな”ゲームに乗った生徒”を前に下唇を軽く噛む。

「しぃぃー!!」
声を張り上げるも、再度に身を隠したしぃからの返答はない。矯めつ眇めつ、あくまで冷静に勝利を掴もうと息を潜めているのだろう。
代わりに右手側から爆音が上がり、粉土がじぃを襲った。
「くぅっ・・!」
それでじぃはバランスを崩し、傍の木へと半身を打ち付ける。
途端、頬をナイフが掠め、それでじぃの中の”何か”が覚醒した。眼光がさながら獲物を狙う肉食の獣のようにギラリと鋭い輝きを放った。

 やらなきゃ、やられる!

全身に熱く滾る血液の流れを感じる。放出されたアドレナリンが高揚感を与え、瞬く間に引き締まった筋肉が大地を蹴った。
「うぁああぁ!!」
レミントンのポンプスライドをしながら、コマのように身を翻して屈み込む。耳元を掠めた銃弾にも表情一つ変えず、銃声の方向へ照準を移して発砲した。
木の枝が小さな炎を瞬かせながら地面へと落ちる。
しぃは二丁の拳銃を持っているようだった。
「……タカラァ!!」 
脳裏に浮かぶタカラギコの笑顔を振り払うかのように怒号を発する。予備弾を左手の薬指と小指で器用にフィンガーパームしたまま、木を背にして森の奥へと二発撃ち込む。
「キャッ!」
しぃの小さな悲鳴が届き、じぃは素早く再装填を終え、身を隠した木から飛び出す。

「しぃぃー!!!」
絶叫するじぃに迫ったナイフを、首を傾げてかわす。更に足を踏み込んだその時、ふくらはぎの筋肉が唐突に攣り、じぃはバランスを崩して膝から倒れ込んだ。
肉体的な限界が、遂に現れたのだ。狙いすましたように木陰からタカラギコを一撃で葬ったS&W M945の銃口が顔を出す。

 あたしは、まだやれる! 

渾身の力を振り絞り、身を起こすと共に健脚を飛ばす。刹那、またも全身に活力が漲り、一瞬にして本能が”反撃”のシグナルを発した。
脇の立ち木を力強く蹴り、丁度三角飛びの要領で、襲い来る銃弾から逃れる。
器用に空中でバランスを整え、着地音に発砲音を重ねるまでの一連の動きは、正に常軌を逸していたと言える。
数メートル先で気味の悪い液体音が響いた。続いてしぃの倒れる音が響く。
「……ぅ…あぁ……あ…しが…」
虚ろなするしぃの視線と、絶望の色を含んだその声。しぃを見てみると右足を大腿の部分から失っていた。が、じぃもまた、限界を迎えていた。
器官という器官が悲鳴を上げ、覚醒から開放された体は、指先に至るまで絶えず痙攣を行い始める。嘔吐勘と、強烈な眩暈が重複してじぃを襲っていた。

 ……あたし……は……。

意識が断ち切られそうになるのを堪え、朦朧とした感覚の中で、それでもじぃはしぃがいるであろう前方を睨みつける。
ぼやけた視界の中で、しぃの右腕と自分の視線が合ったのがわかった。
直後、じぃの頭部は弾け飛び、うつ伏せに崩れ落ちた。

タカラギコ(男子11番)
じぃ(女子9番)
しぃにより射殺
AM5:30 【2名退場・残り21人】
145名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/30(金) 08:13:23 ID:3J/7Yf/q
残念ながらすでに終了しています。
146名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/30(金) 22:40:48 ID:TU/h8btd
とある商社ビルの地下。反政府組織の拠点は、そこに設けられている。
地下に日の光は差し込まず、黄ばんだ蛍光灯の明かりだけが室内を照らしている。
個室の一つ、デスクに腰掛けたニダー(反政府組織構成員)は資料を手にしながら沈んだ表情で首を軽く振った。
憂鬱の種と言えば、現在戦闘真っ最中の”プログラム”だ。
ジャンヌ(構成員)の妹のルルカ(女子20番)がそれに巻き込まれている。
情報を手にした以上、プログラムへの乱入、またはそれの妨害を訴えたジャンヌだったが、
上層部は煮え切らない返答を返すだけで昼前に差し掛かる今もなお悪戯に時間は過ぎていた。
ジャンヌは最早プログラム会場への単独潜入も辞さない腹づもりのようでそれを口走ったりもしたが、ニダーはそれをどうにか抑えてこの場に留まらせてた。
気持ちはわかるが、ジャンヌの考えている行動にはリスクが大き過ぎた。正義感と銃器だけでどうにかできるほどプログラムはやわなプランではない。
ジャンヌならば賛同して協力するメンバーもいるかもしれないが、それはすなわち皆を”身内の事情”に巻き込む事とも言えた。
そこを認識しているからこそ、ジャンヌは単独行動という言葉を一度は口にしたのだ。
「兄さん?」
振り向くと、ニダーの弟のニダダー(仮構成員)が心配そうにこちらを見下ろしていた。
「お、ニダダーか。どうしたニダ?」
「大丈夫? 根詰め過ぎると……これからが大変なんでしょ?」
兄が反政府組織に身を投じた事で、弟・ニダダーもまた生活を投げ打って兄と同じ道を選んだ。気遣う声もどこか無理の色を感じ、ニダーは胸に痛みを覚えた。
「そうだったニダ。で、モネー達のほうはどうしているニダ?」
ニダダーは苦笑いしてから、右を向いて壁のほうをじっと見詰めた。仲間がいる部屋の方向だ。
「ん、一応順調だけどテナーさんがね……。そろそろ向こうに行かない?」
「そうニダね」
ニダダーの口調からすると、あまり隣の空気は良くないらしい。
幾分気を楽にしたニダーは椅子から立ち上がる。押し潰した椅子カバー内のスポンジの感触が多少気持ち悪かったが、それはともかく。

「まだかよモネー? こうしてる間にもプログラムは……」
大柄な青年――テナー(構成員)が、せっかちな様子で口を開く。その目は、パソコン机に腰掛けている女性へと釘付けになっている。
「急かすなら手伝ってくれればいいのに」
視線が煩わしいのか、テナーを追い払うように後ろ手で右手を振ってみせる。
その間にも業務用デスクトップパソコンの黒いディスプレイには次々と白い文字列が並べられていった。
「俺はドンパチ専門なんだよ、適材適所っテナー! ハッキング系の作業はお前に任すしか……」
「アンタモネー…わかってるなら邪魔しないで」
一瞥すらせず、端末を叩く女性――モネー(構成員)冷たく言い放った。
モネーの両手はピアノ演奏よろしくキーボードの上を軽やかに滑り、カタカタと音を打ち出している。
キーボードの手前に置いたマグカップから立つ湯気が、陽炎のようにゆっくりと揺れた。
二人の様子を横目に、ニダーは部屋の奥で椅子に腰掛けているジャンヌのほうへと歩いていく。それに気付いたジャンヌが、ニダーを見上げた。
「ジャンヌ、落ち着いたニダか?」
ジャンヌが強張っていた表情を少し緩め、それからしっかりとニダーを見据え直した。強い意志がこもっているのが見て取れた。
「ニダーさん。組織の意向どうこうはともかく、このプログラムの進行を指を咥えて見ている事……私にはとても…」
ニダーは、改めてジャンヌの強い覚悟を確認した。
ジャンヌはこれまでにニダーができなかった事を行おうとしている。
知っていたならば、そして成功の可能性があるならばしなければいけなかったであろう事――プログラム会場への乱入及びその破壊。
「ウリも、ジャンヌと正義を貫きに行くニダ」
147名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/30(金) 22:41:29 ID:TU/h8btd
「みんな、来て」
よく通る声でモネーが呼びかけ、ニダー達はパソコンの前へと駆け寄った。
皆のほうを一度振り返り、それからニダダーに部屋の鍵をかけるように指で支持してからモネーは再びパソコンへと手を伸ばした。
モネーの白い指が規則的なリズムでキーを叩く。時折タンという小気味良い音が鳴り、キーボード上の合唱にアクセントを添えていた。
「ダウンロード開始ですね」
ジャンヌが画面を見詰めながら呟き、モネーは懐から取り出したシルクのハンカチで額の汗を拭う。
政府データ関係のセキュリティは非常に堅いものだった。
時間はかかったものの、そこへ潜り込んだ事で改めてニダーはモネーの実力に感心した。
「よし、俺はAKのチェックをし直してくるっテナー」
「あぁ、マシンガンですか。……テナーさん、本当にいいんですか? この戦いの後、もうここには戻れないかもしれないんですよ?……」
部屋を出ようとしたテナーに、ジャンヌが珍しく弱い声音で訊く。やはり自分が戦いに巻き込むという気持ちがあるのだろう。
テナーは向き直り、腹の底から力強い声を押し出した。
「…俺はやるって決めたんだっテナー…。 とことんいこう、ジャンヌ!」
「耳が痛いから騒がないで」
机に並べた栄養剤を見比べながら、モネーがテナーのほうを見ず辛らつに呟く。テナーは眉をしかめつつモネーの背中に向けて舌を打った。
148名無しさん@├\├\廾□`/:2006/06/30(金) 23:38:07 ID:TU/h8btd
もう立ち上がる力もなかった。右手に握られているデザートイーグルを向ける気も失っていた。
左足に最後の力を込め、体を転がせて仰向いた。眼前に立つ女子生徒に対し、しぃ(女子8番)は、力なく微笑んでみせた。

梢の先から場を照らす朝日をバックに、ルルカ(女子20番)がしぃにS&W M945(元は自分の武器だ)を向ける様が目に入った。
ルルカの表情は逆光だった上、霞んでしまった視界の中でははっきりとは窺えない。けれど、震える指先が何より彼女の心を代弁していた。
ルルカの指の震えが止まり、ほんの微かながら銃口が下がったのが確認できた。林の中でルルカの嘆息が響く。
嘆息の意味は察する事ができなかったが、しぃはそれに自嘲の含みを感じていた。決して根拠はなかったけれど。

「大丈夫? 誰に…やられたの?」
「…ほら、そこに、いるでしょ…? …じぃ。」
ルルカの質問に対し、強がりではなく自然とそんな言葉を出した。ルルカの表情に変化はない。ただ、ボリュームの有るロングヘアが揺れている。
「どうして…? どうして私なんかのことを気遣うの?」
ルルカの言葉はしぃの思考回路を麻痺させた。クラスメートを殺し、自分だけが生き残ろうとする自分にどうしてそんな言葉を。
口中に鉄臭さを感じて吐き捨てる。血は、失われた右足の断面から生まれた赤黒い血だまりに混じり、土に染み込んでいった。
大腿部の激しい脈動が気持ち悪かったが、言葉を続けた。

「私の姉は、二年、前に…この プログラム で 死んだ。」
不意にしぃが目線を地面へと向け、告白を始める。激しい息切れで言葉が途切れ途切れとなる。
「私は、死んだ姉 の無念を 晴らした かった。姉と 比較さ れるの は嫌だった。」
しぃの姉。その事は反政府組織の姉からも聞いていた。
二年前のプログラムで死んだと聞いたが、それこそがしぃがやる気になった背景だったのである。
しぃは首を傾け、口から零れる血を頬へと伝わせる。過度の失血により感覚は曖昧となり、血を吐き出す力も失われつつあった。
それでもしぃは、ルルカとの会話を最後まで続ける。
「ルルカは温室育ちだから、わかんないかも。」
しぃを皮肉ったわけではなく、逆に自らの運命を唾棄するように呟いた。
境遇は対照的であれ、ルルカもまた家庭に対してある種の葛藤を抱いて育ってきた。
過保護な政府の犬となった親に縛られ、都合の良い子供として自らを飾り、偽った日々。
それは、もう少しルルカが大人になっていれば愛情として理解したのかもしれない。
けれど当時のルルカにとって、それは偽りようのないストレスだった。
姉もそんな両親に嫌気が差し、家を飛び出し反政府組織に身を投じていた。
自己の深層を触れられる事は、とても不愉快で、辛い。
それだけにルルカが突いている部分はしぃにとって最も触れられたくない部分だと重々承知していた。

―――もう苦しい……撃って

ルルカはしぃの要望に無言で頷いて返答する。銃口をしぃの額へと合わせ――数秒そうした後、それを胸元へと移した。
しぃは安らかな表情のまま、既に覚めぬ事のない眠りへと就いていた。

胸元へと放たれた銃弾は、生物の急所、心臓を破壊する。残響が消えた後には、数十分前の喧騒とは裏腹な深い静寂が場を支配していた。
しぃの眠りを妨げぬ配慮か、ルルカはタカラギコ、じぃ等の亡骸に手を合わせると、彼等の武器を拾い上げると、足音を立てぬよう立ち去って行った。


しぃ(女子8番)
ルルカにより射殺
AM5:52 【1名退場・残り20人】
149名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/01(土) 00:13:41 ID:dY18xjEg
>>146-148
ここはあなたのオナニスレではありません。感想議論スレに移動してください。
150名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 20:35:48 ID:5u+wO9qV
したらば(男子9番)は、狼狽した表情で窮鼠のように茂みの中でその身を縮こまらせていた。
「何で、ありすが……何で殺し合う必要があるにょら……!」
ダマレコゾウ(男子12番)に向けて発砲したH&K MP5A5に銃弾を装填しながら苛立った声でしたらばが呟く。
したらばは仲間であるモララーや、ありすの親友であるタカラギコを探すべく、移動をするつもりだった。
だが、発砲音を嗅ぎ付けてきたダマレコゾウに襲撃を受け、当時唯一の仲間であったありすを喪ってしまった。
デザートイーグルの弾が胸部に命中したようで、血飛沫が舞うのが見えたかと思うや否やありすが倒れ込んだ。
問題はその後だ。何故、自分はダマレコゾウを仕留めなかったのか。
いや、それ以前に何故、フサギコやえー、しぃと言った、「やる気満々」の生徒達を撃てなかったのだろうか。
もしあの時、ダマレコゾウを撃っていればありすは死なずとも済んだかもしれない。
それだけではない。これまでに死亡したクラスメート達の中に、自分が仕留めなかったえーやしぃの犠牲になった生徒達がいるかもしれない。
「みなさーん、おはようございまーす」
ギコ教授(担当教官)の声が突然響き、虚を突かれたしたらばは足を縺れさせて尻餅をついた。
慌てて腕時計の時刻を確認する。六時を八秒過ぎたところだった。
「それではここまでの追加死亡者を発表しまーす。」
 一瞬息が詰まり、動悸が激しくなる。良からぬ想像が脳裏でぐるぐると回っていた。
 ――アヒャは、モララー達は無事だろうか?
「男子6番、コリンズ君、男子11番タカラギコ君、男子15番、激しく忍者君……」
それを耳にした途端、したらばの両肩にずっしりと重い感覚が圧し掛かった。
タカラギコ。それはありすの親友で彼女が死の直前まで再会を欲していた生徒の名であった。
ありすへのせめてもの罪滅ぼしとして、タカラギコだけでも無事に生還させようと考えていた矢先の放送である。
「ふぁ〜ぁ・・・次は女子です。女子8番しぃ、女子9番じぃ、女子10番ちびフサ、女子18番モナカ、はい以上です。」
ギコ教授の放送が棒読みになっているのが分かった。相当面倒なのだろう。
したらばはその態度が、死者を軽んじて見ているように思えた。平常心が怒りに押しつぶされそうになるのを抑え、バッグから地図をペンを取り出した。


「午前7時からE−10,午前3時からH−2、午前5時にはE−8です。じゃ、がんばってください。」
 民家近くの図書館の中(G−9)、リル子(女子19番)は朝の放送を聞き、地図に印をつけた。
「あーあと前回よりもペース上がったんで強制ハンターはしません。またペース下がったら誰かが選ばれることになるのでね。
 あと、一人しか殺せなかったヘタレなジエン君は処刑しちゃいます。じゃこれで放送尾張」
ギコ教授のやる気の無い放送が終わる。しかし、彼女は表情一つ変えず近くに落ちていた拳銃を拾い上げた。
マガジンが抜かれている。新しいマガジンを入れようとしてバッグの中を見てみても、中には入っていない。
彼女は取り出しやすいようポケットの中にしまっておいた非常用のマガジンを差し込んだ。

外で断末魔と不快な液体音木霊した。


奇跡的に一瞬留まった意識は、図書館内にリル子の存在を確認させた。小柄な体が爆発により半分以上が失われる。
勢い良く噴出する鮮血は、白い図書館の外壁を深紅に染めた。目を見開き、体の半分を失ったジエンは既に絶命していた。
痛感が脳に到達する前の事で、痛みすら感じる事はなかった。


男子8番  ジサクジエン
ノルマ未達成により処刑
AM 6:02 【残り19人】
151名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 20:45:23 ID:5u+wO9qV
時刻は既に午前六時を回っている。ワンボックスカーの助手席に腰掛けているモネー(反政府組織構成員)は、手首を返してシックな雰囲気の腕時計を一瞥した。
遅れ過ぎた。思いながら目を軽く伏せて首をゆっくりと振る。運転席のジャンヌ(構成員)がこちらを窺う素振りを見せたので、小さく右手を上げて”問題ない”と返答した。
後部座席では物騒にもAK74を二丁脇に抱えたテナー(構成員)と、皮の袋を足元に置いているニダー(構成員)の姿がある。
テナーは苛立だしく太股を上下に揺らし、びんぼう揺すりに似た仕草を繰り返していた。
モネーら反政府組織の面々は現在進行中のプログラムを破壊する為、山側のスカイラインから一路会場へと向かっていた。
突入用の武器や銃器を積んだカスタムワンボックスカーが唸りを上げ、山道を滑るように走っていく。
「ジャンヌ、焦るなニダ」
ニダーの声が届いた。それでジャンヌのほうを見ると、ハンドルを握る両手が小刻みに震えているのがわかった。
スピードメーターを見ると下り坂にも関わらず、更に加速を続けていた。
ジャンヌはニダーの助言に応じたようで、大きく息を吐いてからアクセルペダルに乗せた足を浮かせるのが見えた。強張らせていた肩もゆっくりと沈む。
「……すいません、ニダーさん」
「到着までに事故でお陀仏は、頂けないニダよ」
礼を述べるジャンヌに対し、ニダーが諭すように返した。妹であるルルカ(女子20番)が巻き込まれている以上、ジャンヌが逸るのは当然の事だろう。
成すべき事を確実に遂げる為に心を抑制することが重要なのだ。ましてや弟のニダダー(仮構成員)が待っている以上、それこそ死ねるはずがない。 
モネーは膝に乗せたノート型パソコンから手を放し、ジャンヌの奥、ガラス越しの外を眺めた。金色の草をまとう斜面と静かな闇が、穏やかに海原を見下ろしている。
もう一度車の外へと視線を移動させた。ゆったりと広がった螺旋を描く白いガードレールの帯が、延々と視界に映りこんでいる。
その中に赤いバイクを見付けると同時に、ジャンヌがブレーキをかけた。
ワンボックカーは速度を緩め、並走するバイクと共に停車した。
「あっ……」
そのナナハンバイクに跨る男性を確認するや否や、モネーは腰に差した自動拳銃FN M1910へと手を添える。危険信号は濃密な赤の点灯を繰り返していた。
ニダーは、バイクに跨っている男性と、車内から彼に拳銃を向けているモネーを交互に見詰めていた。
「モネー?」
運転席のジャンヌが困惑してモネーを見詰めたが、モネーは鋭い眼光で男性を見据えたまま小型自動拳銃FN M1910を下ろそうとはしない。
「ソラネーヨさん、どうしてここに来たんですか」
モネーが極めて冷たく声を投げかける。訝しげな目でモネーを睨むその男性は、ジャンヌ達と同じ組織のソラネーヨ(反政府組織幹部)だった。
「やっぱ、そういう事か」
ソラネーヨがモネーにそう返した。ニダーはわけがわからず、脇に腰掛けているテナーと顔を見合わせる。
テナーも困惑したようで眉をひそめていたが、すぐに座席から乗り出して口を開いた。
「なぁモネー、ソラネーヨさん。何がどうなってんだっテナー?」
「モネーはな……政府のスパイだ」
必要以上に溜めを作り、ソラネーヨが言い放った。それでニダーはモネーへと視線を戻し、ジャンヌ達の視線もモネーへと注がれる。
モネーは変わらずM1910をシラネーヨへと向けていた。
「アンタモネー」
モネーが一区切りして、白い指をトリガーに深く絡めながら続けた。
「政府とグルだったんですね。飼い犬が飼い主の悪友を噛み殺す前に、薬殺処分ですか?」
モネーの言葉には、静かながら深い怒りがこもっていた。それが芝居だとは、ニダーには到底思えなかった。 
「政府とグルだぁ?ハッ、ソラネーヨ。ジャンヌ達騙して政府んところ突き出すつもりだったんだろ? ガキが、俺の目の黒いうちはそうはいかねぇ」
元々口の悪いソラネーヨだったが、その口調を更に凶悪に歪めてモネーと罵倒を交差させ続けている。
152名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 20:51:24 ID:5u+wO9qV
突然発生した非常事態に、ニダーは困窮しながら事態の収束に努めようと脳を回転させ始めた。
「ソラネーヨさん。モネーが政府のスパイだという証拠はどこからニダ?」
まずはその言葉が口をついて出た。妥当な発言だった。ソラネーヨはニダーやジャンヌ達よりも古く、組織発足当初からのメンバーだった。
記憶では嫁を政府に殺された事で組織に入ったという記憶がある。
ジャンヌ達が会場に乗り込もうとするのを上層部同様に制止し続けていたので、ニダー達はソラネーヨらには何も告げず組織を出たはずだった。
組織の上層部が政府と一部繋がっている部分があるだろう事を考えると、ソラネーヨの発言は疑わしく思える。
しかし一方のモネーも実家が政府側であり、スパイ疑惑は以前から数度持ち上がっていた。
ニダーにとって一番理想の結論は、ソラネーヨが単に勘違いをしており、モネーもソラネーヨも裏切り者ではない、というものだろう。
その願いも虚しく、ソラネーヨがジャンヌに一枚の紙を突き出してきた。
「ジャンヌ、ニダー。これ、見てみろ」
モネーから視線を外さぬままソラネーヨが言い、それに目を通したジャンヌの顔色が一変した。
テナーもまた体を窮屈そうに動かし、ジャンヌの背後から紙を覗き見る。ニダーは自らの気持ちが昂ぶるのを感じながら、訊いた。
「ジャンヌ、何て書いてあるニダ?」
ジャンヌは呆然とした様子で紙を眺めていたが、やがて口を開いた。僅かに声が震えていた。
「モネーの両親が、モネーが……スパイである事を明かしたという内容の文章です」
「そんな馬鹿な事!」
モネーがらしからぬ荒い声を上げ、銃を手にした右手を震わせた。真っ赤に蒸気させた顔は、なおもソラネーヨへと向けられている。
「な、モネー。もう芝居はやめろ。本部の場所が政府にバレた。それで向こうはモネーを差し出せば最悪の…まぁ、武力行使は避けると言っている。」
信じられなかった。しかし一枚の紙が全てを物語っている。紙に押されている拇印もおそらくは本物に相違ないはずだ。
特にショックを受けているらしいテナーは、口を半開きにしたまま打ちのめされた様子を見せていた。
「皆、口惜しいがここは一度引くしかない。会場に乗り込んだとこで討たれるのがオチだ。
 いや、その前にそこのガキに何されるかわからん。組織の幹部として、そんな狼藉見過ごないんだよ、俺は」
「騙されないで!」
モネーの強烈な一喝だった。おそらくはニダー達に疑われいるのがショックなのだろう。
芝居の可能性もあるのだがとにかく、モネーが目に涙を浮かべて叫んだ。
「私は裏切ってなんかいない。私達が描く新しい大東亜の為に、今の狂った世界を直すために、それが小さな事でも、組織に全霊を込めて尽くしてきた!」
「ソラネーヨ、モネー。な、本部の場所もお前がバラしたんだろ?」
その言葉にも、ソラネーヨはやってられないという感じで頭を掻き、気だるそうにそう返した。続いてニダーのほうへと顔を向け、声をかけてきた。
「ニダー、そろそろそのガキの銃を奪って拘束してくれよ? いつ撃たれるか……物騒でたまらん」 
ソラネーヨの口調は、普段の癖あるそれ以上に人をくった感じに聞こえた。どちらを信じるべきなのか。
ニダーの脳内で様々な考えが乱れ飛び、続いて過去の光景が浮かぶ。
153名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 20:54:46 ID:5u+wO9qV
『この国が間違っているのなら、国にさえも拳を振るう』
あの時、自らに誓い、自らに掲げた決意。自分は今何をすべきか。結論は弾き出された。
「ソラネーヨさん。ここはこのまま行かせて欲しい。それで何かあった時は、ウリはこの命をもって責任をとるニダ」
「ニダーさん!」
ジャンヌがこちらへと驚愕の目を向けた。続いて他の三人の視線もニダーへと動く。皆の顔を見渡してから、続けた。
「これはもう、引けない戦いニダ。それだろう? ジャンヌ」
その発言に対し、ジャンヌがはっきりと頷いた。同時に横のテナーが景気良くニダーの背中を叩いてきた。加減を知らぬその張り手に、思わず咳き込む。
「そうだよな、ニダーさん! おいモネー! もしスパイだとしても、無理矢理一緒に戦わせてやるっテナー! 最後まで俺らは運命共同体だ」
「テナー……有難う」
モネーは目元を潤ませたまま、得意の悪態も吐かず素直に感謝の意を述べた。到底芝居には思えなかった。ニダーはモネーへと顔を向け、諭すように言った。
「モネー。ウリ達は信じている。一緒に戦うニダ」
「はい」
目元を拭い、モネーがはっきりと返答した。やはりモネーが裏切り者というのは何かの間違いなのだ。ニダーは確信した。
刹那、小さな舌打ちが耳に届き、ニダーは反射的にソラネーヨのほうを見た。
ソラネーヨが素早く体を左、後部座席のほうへと移動させようとしていた。
咄嗟にモネーがM1910を発砲したが、既にソラネーヨは車の側部、防弾ガラスの向こうへと移動している。
思うよりも先に、ニダーの体が動いていた。脇のノブを右手で掴み、スライド式のドアを開ける。
眼前、手榴弾のような物に手を掛けているソラネーヨの姿が現れた。
ニダーは、狼狽するソラネーヨの胸元に向けて渾身の蹴りを放った。ソラネーヨの手から手榴弾が転げ落ち、ソラネーヨの体が道路へと倒れ込む。
手榴弾は緩やかな下りカーブをのんびりと転がっていった。
「うわぁぁあ!」
後方からの排気音を聞きつけたソラネーヨが絶叫と共にそちらへと首を向ける。
次の瞬間、追い抜こうと横を通過してきたトラックがソラネーヨを撥ね、歪な衝撃音と共にソラネーヨがガードレールの向こうへと吹き飛んでいった。    
「あぁ……」
間接的にしろ人を、しかも同じ組織の人間を殺してしまった事でニダーの心は大きく動揺する。視界がぐらりと揺れ、酔いそうなほどに回り始めた。
「ニダーさん!」
ジャンヌ達の叫びが耳に届き、どうにか平常心を保ち続けようとするものの、ガードレールにプリントさえた血飛沫が、ニダーに拭いきれない罪悪感を与え続けていた。
ニダーが意識を振り戻したのは、派手な掃射音と共に車体が激しい揺れを見せたその瞬間だった。

ソラネーヨ(反政府組織幹部)
トラックにより轢殺
AM 6:20 【生徒外1名退場・残り19人】
154名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:40:02 ID:5u+wO9qV
モララー(男子20番)達は一階のベランダ側から外の様子を窺っていた。ガレージの向こうへ視線を戻す。
「出よう」
極力音を立てずにガラス戸を開け、ガレージに出る。そこには一台の軽トラックが置いてあった。
「まず僕がトラックの陰から家の裏側に移動する」
そう言ってモララーはガラス戸の隙間から顔を出し、右に見える玄関先を確認する。
人がいないのを確認してからビルから出てトラックの陰に身を隠して再び周囲を見渡す。
「OK」
モララーが小さく手招きをして、それで1さん(男子2番)がガラス戸から半身を出したその時、玄関のほうにスカートを履いた人影がフェードインするのが見えた。
「戻れ」
叫びこそしなかったものの、早口でモララーが促す。それで1さんが手にしているS&W M19を玄関先に向けた。
刹那、轟音が響き、軽トラックの脇、モララーと1さんの間の地面にクレーターが出来る。
慌てて身を引っ込ませる1さん。続けて威嚇する為にガラス戸の陰から右手だけを出して数発発砲した。
「……誰だ?」
モララーが再び軽トラックの陰から玄関先を見ると、女子生徒が散弾銃のようなものを持って構えているのが見えた。
身を隠すのと同時に発砲音が数回。軽トラックのサイドミラーが砕け落ちてガラスの破片がモララーに降り注ぐ。
「今度は拳銃? でもスカートを履いていたみたいだけど、女子であぁまで上等に撃てるなんて普通じゃないよ!」
「だれか女装してるのかな?」
「レモナ、状況的に考えて女装なんて……」
「……1さん、レモナ」
考察を述べる二人を唐突にモララーが遮る。
「あの銃弾の跡を見ろ、等間隔で何て的確に……信じられないが撃ち慣れている」
「撃ち慣れているって?」
「だからそう言う事。どうにも物騒な奴がクラスに潜んでいたわけ。勘弁してくれよ……」
「あーもうっ!何なのよぉ!」
玄関先から飛び込んできたトーンの高い声でモララー達は顔を見合わせた。あまり面識はないものの、モララーはその特徴的なアクセントをしっかりと記憶している。
「ルルカか……」
玄関先で拳銃や散弾銃を構えているルルカ(女子20番)の姿を想像して、不可解な表情を見せるモララー。
ルルカは極めて細身の体だ。何故、あぁまで銃を正確に使いこなせるのだろう?モララーはそこに深い何かがあるであろう事を感じていた。
「声を掛けるべきか……」
だが、今度は逡巡する間もなくルルカの軽快な足音(モララー達にとってはどれだけ絶望的な足音だろう)が軽トラックのそばまで迫っていた。
155名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:42:15 ID:5u+wO9qV
「待って!」
先に声を上げたのは1さんだった。一階のガラス戸の脇へ身を隠したままで聴覚を集中させる。
ルルカの足音が止んでいた。おそらくは軽トラックのフロント部に隠れたのだろう。
逆にモララーはナンバープレートの辺りに顔を寄せて様子を窺っている。
「何なんだよルルカ! 君は、一体……」
そもそも、先に銃撃を行ったのはルルカのほうだった。しかもモララー……いや、距離的に誰かはわからなかっただろう。
その存在を確認しただけで撃ってきたのだ。当然、1さんは『ルルカはやる気の人間』として認識して軽トラックの陰に毒気を含んだ言葉を送る。
「その声は、1さん? ごめんなさい、反射的に撃っちゃいました…。それに……」
「反射的にって? それに随分撃ち慣れてるみたいじゃ……」
「ルルカ、僕はモララーだ。1さん、それからレモナと兄者の4人でいる。武器を手放してくれれば部屋の中で話ができる」
1さんを遮ってモララーが軽トラックの前部へ声を掛けた。続けて1さんに言う。
「こんなとこで留まっていたら、皆危険だ。とりあえずは中に入るべきだろう」
ルルカが小さく唸るのが聞こえ、それから返答が返ってくる。
「その前に……質問してもいい? したらば君やモナー君は合流したんじゃないんですか?」
どうやらルルカはモララー達がやる気になっているかもしれないと思っているようだ。そう考えるのは1さんも一応理解はできた。
しかし、撃ってきたのはルルカのほうだ。『やる気なんじゃないのか?』と訊きたいのはこちらのほうだ。
1さんはそう思いながらもモララーに対応を任せて耳を傾ける。
「僕は分校で仲間と何のコンタクトもとっていない。だから合流できるはずもないんだ。モナーも合流どころか…亡骸すら確認できていない状況なんだ…。」
モナーの名前を出した瞬間、モララーの声のトーンがガクンと下がった。
「わかった。撃ってしまったのは心から謝ります。ごめんね!」
ルルカが返答するなり硬い物が地面を擦る音がして、ガラス戸から覗いた視界の先、
モララーのすぐ脇に散弾銃(レミントン)と拳銃二丁(DesertEagle 50A.E.、S&W M945 .45ACP)が入ったバッグが滑ってきた。
何故、これだけの武器を所持しているかは気になったが、今は詮索しないことにした。信じるのだ。とにかく。
「OK」
モララーが立ち上がり、それで1さんも顔を出す。軽トラックの脇にルルカが両手を上げたまま立っていた。 
156名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:44:04 ID:5u+wO9qV
事務所のテーブルを囲んでモララーと1さん、そして向かいにルルカが腰掛ける。
流石兄者は見張りとしてS&W M19を片手に一階を忙しなく歩き回っている。
「じぃやタカラギコの死体目の当たりにした上に、その後しぃを撃ったのか。それでナーバスになっていたんだな」
「さっきは本当に動揺してたから……」
事情を知ったモララーと1さんが顔を見合わせ、続いてルルカが伏せていた顔を上げた。
「銃の扱いといい、妙な使命感といい、ルルカには何かあるの?」
それでルルカはテーブルに置かれていた筆談用のメモ用紙に手を伸ばし、それにペンを走らせて再びテーブルの中央へ戻す。こう書かれてあった。
『首輪には盗聴機が付いてるから話の内容には注意ね』
『付いてる?』
横から割って入った兄者が、メモ用紙にそう短く書き殴りルルカへ放る。兄者が書かずともモララーも同様の返答をしただろう、そう思った。
確かに兄者やモララーも盗聴の可能性は予想していた。だからこそ重要な会話は筆談しているのである。
しかしルルカは、盗聴器が『付いてる』と断定系で書いている。この確信は何なのだろう?
「もしかして、策あり?」
1さんが腰掛けたままで身を乗り出してルルカへ訊いた。筆談にするべき言葉だったが、今の言葉くらいならば大丈夫だろうと思いモララーも注意はしなかった。
そう、この時点ではその発言による問題はなかったのだが。それを見てから1さんは口に手を当てて考える。
横目に映るモララーも同様に考え込んでいた。
ルルカは右手で再度ペンを走らせる。さすがにこの内容には皆驚きを隠せずに見開いた目をルルカに向けた。
ルルカの姉が反政府組織の人間である事、両親が政府の重役であること、やがてルルカが『戦う為の拳』を求めて姉に政府との戦い方を教わるようになった事。
自分がモララー達との馬鹿話に日々を費やしている時に、ルルカは格闘術や銃器の扱いに放課後のほとんどの時間を費やしていたのだ。
ルルカは政府と何らかの形で戦うつもりだったのだ。1さんは自ら過酷な生き方を選んだ『ルルカ』という女性に言いようのない脅威を感じていた。
多かれ少なかれモララーと流石兄者もそう思ったに違いない。
問題は最後の行だ。
最後の行――そこには姉が自分達を助けに来るであろう事が説明されていた。
これは大きな、とても大きな希望だった。
157名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:45:19 ID:5u+wO9qV
「やってやろうよ!」
1さんは力強く言い放つ。次の瞬間、モララーと兄者が血相を変え1さんを取り押さえて口を塞いだ。

 あ、そうか。今の台詞、話の流れ的におかしかったたよね!

1さんは自らが犯したミスに気付き、拝むように両手を合わせて謝罪の意を示す。
モララーは「ま、時間はあるんだしな。ゆっくり考えよう。」と上辺の脱出策議論を続けながらメモ用紙にペンを走らせた。 
そこには『ドンマイ。みんなの命もかかってるんだ、忘れないようにな』と書かれていた。改めて自分のミスを反省し、今後失策がないように得た情報を頭に叩き込む。
苦笑顔のモララーに頷き、それから心配そうに見詰めるルルカを見た。生きてここから出られる。
当然その先に以前と同じ平穏な日常があるはずはないが、ここにいる仲間達と共に歩める未来が存在するというだけで充分な希望だった。
迷いは微塵はない。方法は他にないのだ。ならば乗る。殺し合いゲームには乗らないが、政府相手のサバイバルゲームなら上等だ。
プログラムに巻き込まれた1さんにとっては願ってもない展開がそこに出現した。

AM 6:25 【残り19人】
158名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:48:04 ID:5u+wO9qV
テナー(反政府組織構成員)が我に返った時には、既にジャンヌ(構成員)の横に見えるサイドミラー内に新たな車両が映りこんでいた。
刹那、その車両より乗り出した黒い影からフラッシュと共に激発音が鳴り響く。
ようやく車が”銃撃を受けた”事に気付き、ニダー(構成員)の膝を跨いで右側の窓から半身を乗り出す。
「おどらぁ!」
テナーは威圧するように喉から怒号を放ち、AK74の引き金を力一杯に絞った。
それが起爆スイッチだったかのように、後方から迫る黒塗りの車両のボンネットが爆炎を上げ、片輪を浮かせながら脇のガードレールへと体を差し込んでいった。
「何だっテナー、こいつら!」
駆動音を耳にしながら、テナーは叫んだ。これはまさか――組織が政府に自分達を”売った”という事なのだろうか。考えたくはなかったがしかし――
「警察か、削除人か、それとも……」
テナーと席を交替しながらニダーが言った。いずれにしても、状況はこの上なく最悪のようだ。
「来たわ、後方に三台。黒塗りベンツ……政府の車ね」
「ベンツで襲撃とは豪勢な奴らだ」
ノート型パソコンを両膝で維持しながらモネー(構成員)が背後を窺い、ジャンヌはハンドルを握りつつ毒づいた。
続いて激しい掃射音が幾重にも響き、リアガラスがガチガチッと耳障りな騒音を奏でる。いかに防弾ガラスとは言え、被弾を続ければもたないだろう。
「テナー、撃って!」
ジャンヌの声と同時に天井部のサンシェードが開き、テナーは待ってましたと二丁のAK74を手にそこから身を乗り出す。
モネーの言うとおり、背後から迫る黒塗りベンツの集団が見えた。
「景気良くやってやるっテナー。遠慮なく受け取りやがれ!」
絶叫一番、歯を食い縛って両腕のAK74を連射した。その強烈な振動が腕に満遍なく伝わり、耳元では激発音が弾ける。
最もガードレール寄りを走るベンツの助手席からスーツ姿の男が道路へと転がり落ちるのが見え、それを新たに出現したベンツが弾き飛ばしていった。
「あいつ等、おかまいなしか!」
激しい怒りが込み上げ、テナーは更にAKの銃撃をベンツ集団へと散らす。猛風に殴られる頬がひりひりと痛むが、気にしてはいられない。
ちらりと車内を覗き見ると、ニダーが窓から手榴弾を放っていた。
それはアスファルト上の石で跳ね、ベンツの一台、ボンネット上に乗り上げた瞬間爆風へと昇華する。
車は激しくスピンを起こし、炎上しながら後続のベンツをも巻き込んでいった。
「すげー! ニダーさん、何気にプロかよ?」
「テナー、安心しないで。まだ来るはずよ。ジャンヌさん、対向車に注意して右に寄って下さい」
モネーは助手席から周囲に目を配りつつ、パソコンを操って的確な指示を出し続けていた。
その言葉通り、転倒したベンツの間を縫って、視界に次々と新手が現れた。一旦サンシェードを潜り、鞄から換えのマガジンを取り出して装填する。
その間はニダーの手榴弾攻撃でしのぎ、装填するなりテナーは体を跳ね上げ銃撃を再開する。
瞬間、痛みが跳ね、肩口から零れた鮮血を強烈な海風がさらっていく。既にジャンヌたちの搭乗する車は相当数の銃弾を受けていた。
タイヤに命中すればこちらも一たまりもないだろう。
159名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:49:41 ID:5u+wO9qV
「くそったれ!」
マズルフラッシュの向こうで転倒するベンツを睨み付けながら、テナーは咆哮を上げた。
遠心力に抗いながら、がむしゃらに二丁のAK74を掴み、掃射、掃射、絶えず掃射。
「手前ら! 覚悟はできてんだろ!」
痺れる手首に力を込め、右へ左へと銃撃を降り注がせる。
「テナー、大丈夫!?」
「キリがないっテナー! 何台沈めたら……」
「アッ!」
突然助手席からモネーの短い悲鳴が上がった。らしからぬ叫びだなと疑問を覚えたが、確認の暇もなくAK74の銃弾をばらまき続ける。
「モネー!」
テナーがマガジン交換の為に体を沈めたのと、ニダーが叫んだのは同時だった。反射的に助手席のモネーへと視線を移す。
身を乗り出すというより投げ出す感じで窓の外へ上体を傾がせるモネーの姿が目に入った。白い首筋が真っ赤な液体で染まっている。
背筋に悪寒、脳裏に最悪の可能性。テナーは口を開き掛けたが、それよりも早く――
「モネー!嫌ぁっ!!」
痛みのこもったジャンヌの叫びが、テナーにモネーの死を知らしめさせた。
反りは合わなかったけれど、同じ志を掲げた運命共同体が、今、戦いの中で命を落としたのだ。
熱いものが込み上げてくる。もうリミッターは外れていた。グリップを握る手に力を込め、再度体をサンシェードの上へと乗り出した。
「手前ら、どれだけのAAの未来を」
そこからは呆気なかった。首筋に衝撃が跳ね、驚きで目を見開いた直後、視界の中心に滑稽なほど拡大された銃弾が飛び込んでくる。
続いて襲った、強風を凌駕する激しい横揺れと共に、テナーの意識はブラックアウトした。
直後の急ブレーキ音、何らかのフェンスに車が衝突した際の衝撃。それらのいずれも感知する事なく、テナーは意識を永遠に手放した。

モネー(反政府組織構成員)
政府の手により射殺
テナー(反政府組織構成員)
政府の手により射殺
【生徒外2名退場・残り19人】
160名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:54:39 ID:5u+wO9qV
断崖に光を遮られた海岸に脱落したワンボックカーは、横転したままタイヤを空転させている。
全身の激痛に堪えながら、ジャンヌ(反政府組織構成員)はゆっくりと瞼を開けた。
車は運転席が上を向くようにして砂浜へと突っ込んでおり、助手席側に転がったジャンヌの下敷きとなったモネーの亡骸の感触が背中にあった。
どうやら政府連中と思われるあのベンツ集団の銃撃でタイヤを撃ち抜かれ、そのまま崖から車ごと転落したようだった。
無理矢理体を起こし、右の後部座席を見る。目が霞んでよく見えないが、誰かが座席の中で倒れ込んでいるのが見えた。
「くっ……ニダーさん、テナー……」
「ジャンヌ……」
ジャンヌの呼び掛けにか脆弱な声で呼応したのは、ニダー(構成員)だった。目を凝らすと、彼の口から大量の出血が見受けられる。
転落時に内臓か何かを損傷したのかもしれないと思い、かける声に力が入る。
「だ、大丈夫ですか!」
ジャンヌの言葉に、ニダーは無言で首を横に振った。咳き込むのと同時に今度は鼻腔から血が噴き出してきた。
どうにかしたいが、この状況では手の打ちようがない。
「い、行くんだ……生徒を、生徒達……を……」
ニダーがジャンヌに首も向けず、窓から覗く虚空を見上げながら苦しそうに呟いた。おそらくは首も負傷してしまったのだろう。
「ニダーさん」
「ウリは、もう、駄目ニダ……。……」
うっすらと見えるニダーの頬が痙攣するのが見えた。刹那、ニダーが起こしかけた背をゆっくりと沈める。
静寂に微かに届いていた息遣いが消え、ジャンヌは息を呑む。
「ニダーさん、ニダーさん?」
もう、その呼び掛けにニダーの声が返る事はなかった。
161名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 21:58:27 ID:5u+wO9qV
後部座席の鞄に残っていた手榴弾二個と”必要な道具”を紺色ジャケットのポケットに押し込み、ジャンヌは運転席のドアから車外へと抜け出た。
急がねばならない。突き上げる痛みに歯をぎりっと鳴らす。
左の二の腕、亀裂程度は入っているだろうそれを強引に持ち上げ、左胸から携帯電話を取り出した。
その時、ジャンヌは地面に倒れ込んでいる人影を発見した。
右肩からストラップで吊り下げられている突撃銃AK74は、考えるまでもなく同志のテナー(構成員)の得物だった。
ジャンヌは駆け寄り、声を掛けようとして――衝撃で口を噤んだ。
テナーの頭部に黒っぽい部分が見え、それが着弾により爆ぜた頭部で、鮮血が彼の脳味噌を汚しているのだと気付いたので。
脱力感が襲う。膝を崩し掛け、慌ててそれを堪えた。しかし事実は変わらない。
もうこの場に残ったプログラム破壊チームはジャンヌしか残っていないのだ。
「ルルカ……。待っててね。」
時間はない。ジャンヌはAK74を拾い上げると仲間に心で黙祷を捧げ、プログラム会場内へと向けて崖を駆け上り始めた。
途中、携帯電話を片手で器用に操作し、ニダダー(仮構成員)への連絡を試みる。どういうわけか、呼び出し音は鳴れどニダダーの応答はない。
こちらがこの調子ではニダダーのほうでも何かあったのかもしれない。しかし、それを気にしている暇はなさそうだった。
「あれは……」
地図で言うならばH−9付近。ジャンヌは斜面の先を歩く人影を見付けた。
まずは目を凝らす。スカート姿である事から、それが女子生徒だと判別できた。木を影にして少しずつ人影へと接近する。
首を周囲へと向けるその女子生徒はルルカではなかったが、顔立ちは悪くない、やや細めの”女の子”だった。
意を決して足を踏み出す。女子生徒――がそれを耳にして振り返る。首輪に盗聴マイクが内蔵されているので、叫ばれたら厄介だ。
素早く彼女の口に手を当て、耳元で”騒がないで”と囁く。女子生徒はそれから素直に脱力した。
それを確認してからジャンヌは携帯電話を開き、保護してある送信トレイを開いて女子生徒へと見せる。
”私達――もうジャンヌ一人だが――は反政府組織。わけあって今回のプログラムを破壊する為にここにきた。
 騒がなければ何もしない。首輪には盗聴マイクがあるから声は出さないで欲しい。一緒に脱出しよう”
それを見た女子生徒はゆっくりと首を上下させた。ジャンヌは安堵し、両手による拘束を解いた。
解放された女子生徒が、ジャンヌを凝視している。ジャンヌは手で彼女を促し、崖の下へと先行し始め――
162名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 22:02:37 ID:5u+wO9qV
 プシュッという音と共に、首筋に衝撃が走った。

そのまま地面へと伏す。ちょうど首の裏付近に熱と異物感。銃撃の類を受けたのだろうか。しかし、一体誰が。
疑問を過ぎらせるジャンヌの耳に、女子生徒が呟いた。
「もう残り半分なのよ、邪魔しないで。あたしはあたしのやり方で優勝して、平穏で安定した新しい生活を送るの。
 逃亡に生涯を費やすなんて馬鹿げてるじゃない」
現実はジャンヌの想像を遥かに凌駕していた。か弱い女子生徒までが牙を剥くプログラム。
振りかざした正義は、いとも容易くその細腕によって奪われた。
ルルカは大丈夫だろうか。心配でならない。目的を達成できなかった以上は満足感などあるはずもなく、むしろ無念の思いが満ちている。
しかし、正しい道理を自分は貫いた。それだけは自信を持って言えた。妹や仲間の顔が交互に浮かんでは消える。
ジャンヌの脳裏に今度こそ本物の走馬灯が過ぎる。その途中、強烈な破裂音が割って入り、そこでジャンヌの思考は永遠に遮断された。
上空で一際輝く星。その一つが金色の軌跡を残して闇に流れ、その脇で輝いていた雲も後を追うように夜闇を泳ぎ、消える。
冷たい風の中、ジャンヌの亡骸は双星の消えた空を眺め続けていた。

ニダー(反政府組織構成員)
車転落により内臓破裂死
ジャンヌ(反政府組織構成員)
えーにより射殺
AM7:00 【生徒外2名退場・残り19人】
163名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/02(日) 22:17:06 ID:5u+wO9qV
『皆さーん、元気に殺りあってますか?』
突如、周囲の空気をノイズ音が掻き鳴らし、時間外だというのにギコ教授(担当教官)の呆けた声が聞こえてきた。
「臨時放送……」
急にルルカの表情が曇る。不可解な放送を前に、モララー達もまた眉を寄せて耳を傾けた。それは、モララー達にとっては色んな意味で悲報と言えた。
『臨時放送です。今入った採れたてぴっちぴち情報なんですが、反政府の構成員が会場に潜入しようとしたけど無事削除人達が始末してくれたようで。』
その言葉でルルカの表情がたちまち歪む。目を伏せ、涙を堪えるように窓の外を眺めた。
ルルカ達が期待を寄せていた反政府組織の救出劇が失敗に終わった事を告げる放送。すなわち政府に彼らが敗れた事を示す放送。
それは姉・ジャンヌ(反政府組織構成員)の訃報でもあった。
『それと、侵入した人を殺害してくれた生徒さん、GJ! 戦利品は構わず使用してくれよー。プログラムは不測の事態その他諸々の利用、何でもありだからなぁ』
その言葉でモララーは愕然とした。自分達を救出にきた人達を殺害した生徒がいるというのだ。パニックのまま射殺してしまったのだろうか。
「……どれだけ」
腹の奥から響かせたのであろう、重いルルカの呟きでモララー達は彼女を見やる。細めた目には深く静かな怒りの色が漂っていた。
「ルルカの大切な人間を奪えば気が済むの……」
背中からも窺える深いルルカの怒り。プログラムへの、そして政府への、やり場のない怒り。
その言葉に何も返す事ができず、モララーは俯きかけた。しかし、何か力になりたい、今こそ自分達がルルカを支えてやる時だという思いがモララーの体を動かした。
「ルルカ、政府の連中にぶつけよう。この国のクソッタレなやり方で死んだ奴らの分もひっくるめて、ありったけの一撃を」
ルルカが少し驚いたような表情でこちらを向いた。続いてレモナもルルカに駆け寄り、腕を掴みながら言った。
「私達でやろうよ、ルルカちゃん!」
穏やかなその声は諭すように、ルルカの心に染み込ませるように紡がれた。ルルカは一瞬愁傷に耐えるように顔を歪めたが、すぐに目元を拭いながら笑顔を見せた。
「……そうですね…死んだおねえちゃん達の為にもルルカがみんなを助けなくちゃ!」
ルルカが自分の鞄(軽トラックに駆け寄った際は玄関先に置いていた)を持ち出し、中から単行本程度の大きさの四角い箱を取り出してモララー達に見せる。
「これこれ」
「……?」
1さんと兄者が揃って首を傾げる。箱の蓋を開くと、中には見慣れない形状のドライバーや、錐(キリ)に似てはいるがスイッチが付いている棒状の物体など、
奇妙な道具が幾つも並んでいた。続けてルルカが自分の胸元に手を添える。
ルルカが切なそうな表情を浮かべ、首から吊るしていたネックレスを外して1さんに渡す。細い鎖の中央に、大口径の銃弾に似た銀細工が付いていた。
その、女子中学生には似合わない無愛想な飾りを、スラリとしたルルカの細い指が指す。
ペンを走らせてまたもテーブルに置くルルカ。申し合わせたように同時に目を向ける1さん達。
『これは雷管なの。ちょっといじると時限起爆装置になっちゃうんです。
 それからこの箱。反政府の人が専守防衛軍の装備品研究所から裏で新型首輪の情報を送ってもらっているの。
 この首輪解体仕様のツールを使えば私が首輪を解体できちゃうんです』
『見えてきたな、俺達のプランの全体図が』
既に世を去ったモナー(男子19番)もモララー達の今を見詰めているだろうか。そう考えると気の引き締まる思いがした。無様はできない。クソ政府なんかに負けられない。

AM7:30 【残り19人】
164名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/04(火) 06:35:07 ID:xuq32GPW
「気分悪い……最悪」
えー(女子3番)は、吐き気を堪えて私物として持参していた粉薬を口に流し込んだ。すると独特の苦味が口中を満たして嘔吐感が少し気にならなくなった。
それでも、えーの中から絶え間なく込み上げる不快感は拭いきれない。
 ――あれから、ずっと気分悪い……
ジャンヌ(反政府組織構成員)を射殺してから、えーの脳裏にはずっと彼女の死に様がこびり付いていた。
すえた匂いを放つ熟れた果実。それはかつて『人』であった『物』。
えーを殺害した時は明け方。空は明るく、ジャンヌの側頭部を銃弾が捉えた瞬間をも特等席で拝んでしまった。
再び腹から鼻へ嘔吐感が突き上がったが、目を瞑りながらかろうじてそれを呑み込む。
「駄目、こんなんじゃつーさんに追いつけない……これから大一番が待ってるのに!」
視線の先には病院(C−8)があった。その背後では庭園が見渡せた。
ふと気になって立ち寄った病院、その玄関に人影を発見したえーは、見付からないように細心の注意を払いながら玄関先に近付いた。
それは、同グループの親友、ガナー(女子5番)だった。
更に民家の引き戸を開けて中から顔を出したのはえーのグループのリーダーである花瓶(女子6番)だ。
えーはクラスメイトを撃つ事を『つーさんを超える為の試練』『新しい生活への架橋』と割り切っており一切の禁忌を持たずにいた。
それは、えーの精神が負の感情に侵されて破壊されてしまった事を意味しているが、当然ながら彼女にその自覚はない。
えーは敵を見付けた事による高揚状態のまま、どうやって花瓶達を始末するかを考えていた。
「やっぱりまずはこれで……」
えーはディパックからジャンヌから奪い取ったAK74を取り出した。
相手が複数である以上、S&W M19では少し分が悪いと思ったからである。
165名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/04(火) 07:41:35 ID:Kzba5zMx
感想スレに来い
166名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/04(火) 20:53:59 ID:xuq32GPW
「さっきの銃声、誰だったんだろう」
「考えてもわからないでしょ。えーとかあいぼんじゃないのを祈るけれどね」
ガナーの疑問に、天井へ視線を泳がせながらモナエ(女子17番)が答えた。
「えーもあいぼんもきっとわかってくれるのれす!」
木製テーブルでモナエと向かい合い、つい先ほど合流を果たしたののたん(女子14番)がちんまりと座っている。
ののたんが意気込んで叫んでいると、奥の診察室から花瓶がやってきて声を掛けた。
「そうだよね。他の三人も一緒に……みんなが力を合わせなきゃね」
「花瓶、ガナー、のの。生きよう、精一杯」
「うん」
ガナーとモナエが揃って親指を立てて微笑んだ。
「あっ!」
花瓶が短く叫び、それで二人は一斉にそちらを向く。花瓶の視線は入り口へ釘付けになっており、そこへ自分達以外の人影が出現したのは明らかであった。
花瓶は腰に差したH&K P9S .45ACPを抜いて両手で構えた。モナエはメリケンサックを装着し、ガナーは右手に握った黒いリモコンへ指を掛ける。
入り口から真っ直ぐ伸びる通路の途中にリモコン式の地雷が設置されていた。
もし入り口に敵が現れた時は、リモコンのスイッチを押せば相手の足元付近で爆発が起きるよう設置してある。
果たして、接近する影が磨りガラスへそのシルエットを出現させた。
「待って!」
ガナーが通路に立って声を掛ける。その向こうで影が動いた。
刹那、連続する凄まじい銃撃音と共に磨りガラスが木っ端微塵に砕け散った。
「きゃぁっ!」
けたたましい音に顔を歪める花瓶。その視線の先――
磨りガラスの破片を浴びたガナーの制服。その背中部分が赤く滲んでおり、ガナーの体が小さく泳いでいた。
「ふぁあ……」
ガナーがうめいて膝から崩れ落ちる。仰向けに倒れた彼女の胸と腕には、無数の銃弾が撃ち込まれていた。
続いて割れた引き戸が勢いよく開き、AK74を構えたえーが飛び込んできた。
同時にさらに跳躍するえー。その元いた場所で凄まじい爆発が起こる。
「くぅっ……」
最後の力を搾り出すようにガナーが呟き、首が重力に従って横に倒れた。今の爆発は、地雷のものだったのだろう。
「花瓶、逃げて!」
叫びながらえーへ飛び掛るモナエ。えーはリモコンごとガナーの腕を蹴り飛ばし、モナエに接近して再びAK74の引き金を引く。
無数のマズルフラッシュが薄暗い室内で暴れ狂い、激発音に合わせてモナエの体が派手に揺れた。
その様は、場末のディスコの光景のようだったが――極めて悪趣味な。
「いやぁぁ!」
その花瓶の声でえーはよろけるモナエの後方、拳銃を構えている花瓶へマズルの閃光を走らせた。
「あぁぁぁ!」
体を捻るようにしてののたんと花瓶が床に倒れる。同時にAK74が弾切れをおこした。
167名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/04(火) 21:01:38 ID:xuq32GPW
「花瓶、のの! 逃げて!」
ここぞとばかりにモナエが起き上がり、えーの顔面へ拳をめり込ませた。
えーの小柄な体が浮き上がり、玄関脇の下駄箱へ激突する。下駄箱の上に飾ってあった高価そうな壷が傾き、えーの手元で砕けた。
「モナエ!」
花瓶がののたんに肩を貸しながらふらふらと立ち上がって叫んだ。二人とも被弾していたが、モナエほどではない。
「いいから早く!」
モナエが決死の形相で花瓶を睨む。それに気圧される形で、花瓶は裏口に駆け出して行った。
「えー……!」
モナエは痛む体を引き摺って玄関先のえーへと迫った。えーは歯を食い縛りながらモナエを見上げている。
「こんな事を……あぐ!」
えーの髪を掴んで無理矢理引き起こそうとしたモナエが、苦痛に顔を歪ませた。えーが腰に差したS&W M19を抜いて、モナエの腹部へ発砲したのだ。
更に二発。モナエの上体が跳ね上がり、口からは押し出されるように血が溢れ出した。
しかし、モナエは倒れない。既に充分に被弾していたが、それでも執念でえーの左の脇の下へ頭を差し込み、両の手で彼女の両脇腹を掴む。
「うあぁぁぁぁああ!」
そのまま残された力を振り絞って上体を反らせ、後方へえーを投げ飛ばした。
プロレスでいう所のノーザンライト・スープレックスという技だが、それはともかく。
えーの体は豊かな放物線を描き、廊下の半ば付近へ叩き付けられた。モナエは悶絶するえーを再び見下ろす。
えーが目線を上げ、乱れた息遣いで毒づいた。
「ば、化け物……」
「何とでも、言いなさいよ……こんな事して、えー、あんた……?」
モナエはそこまで言い、えーの表情が勝利を確信したものに変わっている事に気付いた。
一瞬それは強がりだと判断したが、すぐにえーがその手の虚勢を張らない事を思い出し、周囲を見渡した。
その『一瞬』が、命取りになった。
倒れていたえーの右手に、彼女が先程蹴り飛ばした地雷のリモコンが握られており、そのボタンがえーの親指で押されていた。
そして、モナエは地雷の真上に立っていたのだが、果たして彼女はそれに気付いただろうか?
瞬間、モナエの下半身が爆ぜた。飛び散った肉片が白い壁とえーの服を深紅で彩る。
何かを求めるように右手が虚空を一掻きして、モナエの体がえーの眼前に沈んだ。
「ははは……モナエ、最高! だよ……!」
それでもえーは口元を笑いの形に保ち、廊下に伏したモナエの亡骸へうつろな視線を送っていた。

ガナー(女子5番)
えーにより射殺
モナエ(女子17番)
えーにより失血死
【退場者2名・残り16人】
168名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/04(火) 21:08:08 ID:xuq32GPW
えーの嘔吐感は、ピークに達しようとしていた。喉元へ込み上げるそれを強引に押し戻すと強い酸の刺激が鼻先を貫いた。
えーは、顔をしかめながら周囲を見回す。玄関先には、全身に銃弾を浴びて文字通り蜂の巣状態のガナー(女子5番)が仰向けで事切れており、
また、目の前には下半身を消失させたモナエ(女子17番)が、負けず劣らずの無残な亡骸をさらしていた。
その親友だった亡骸――そう、親友『だった』。もう二人は、私の事を友達だなんて思ってないよね――から目を引き剥がして奥へ歩いて行く。
途中、床に落としていたS&W M19を拾って右手に握った。手に吸い付くようなその感触が、えーに僅かな心身の安定を与える。
S&W M19の他にも、モナエに殴り飛ばされた時に手放したAK74が地面に転がっているのが見えたが、
連射時の反動が大きくこの怪我では扱えそうにないので一応は無視する事にした。
 ――誰かに使われるのは嫌だから、終わった後に回収だけはしておかないといけないけれど。
えーはいよいよ波打つ嘔吐感と戦いながら、頼りない足取りで残りの獲物、花瓶(女子6番)達を追う為に裏口のドアに手を掛けた。
「……ん?」
何気なく振り向いた先、デスクの脇にかけられた鍵の束を見てえーが足を止めた。
「ふふふ……轢き潰したげる…」

 『鍵穴』に合う鍵は、一発でわかった。これと同じデザインの鍵を、えーの父が所持していたからだ。
その鍵は、父の物と同じワンボックス車の鍵と同型だった。裏口から出てぐるりと家の周囲を回りこむ。
広い庭先の片隅で、そのマイエースが四角い巨体を休ませていた。
その白いワンボックス車のドアを開けてえーが運転席へ小柄な体を滑り込ませた。
使い古されたハンドルの埃をハンカチで払ってから、鍵を差し込んでキーシリンダーを回した。
一度縦揺れを起こし、重い排気音が鳴り響いた。暗い車内で操作パネルの緑色の光が存在を強調するように晧々と灯る。
「逃がさないからね、あははは!」
えーが幾分痛む左手でギアを傾けると同時に右足に力を込めた。轟音を轟かせながら、道路へ四角い巨体を進めていった。

えーの運転は、中学生ながら随分と手馴れていた。というのも、父の車を運転させてもらった事があるからなのだが。
えーの父は、時たま日曜の朝方に教習所の教官よろしく自宅の裏路地でえーに運転をさせてくれた。
不慣れなえーの運転に冷や汗をかきながらも、好奇心旺盛な娘のささやかな願いをえーとして一つでも多く叶えてあげたかったのだ。
兄の持っていたエアガンや改造銃を通じて銃の知識も少し詳しくなった
そんな事を考えながら、えーはアクセルに力を込める。
169名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/04(火) 21:14:36 ID:xuq32GPW
やがて、道路の右手に小さな空き地が見えてきた。続けて空き地の中央に花瓶とののたんの姿を確認してえーがほくそえむ。
「見付けた! 二人まとめて始末してあげる!」
唸りを上げて突如出現した白い巨体に花瓶達が目を見開いているのが見えた。二人とも、制服の所々が赤く滲んでいた。
空き地の奥に並ぶ立木の群れへ足を引き摺って進む二人の背中へ四角い巨体が迫る。
不意に前方のののたんが、花瓶をえーから見て左へ突き飛ばす。同時に花瓶が遥か西方に駆け出すのが伺えた。
突き飛ばした反動でののたんはよろけて、後方の太い立木へ体を預ける形になった。
両手を胸の辺りで合わせてえーを見上げるののたん。その姿がえーの視界一杯にぐんっと広がった。
「!」
瞬間、えーは激しい感情の高ぶりを覚えて右足から足を離してしまった。しかしののたんと車の距離は既に二メートルにまで迫っておりどうにもならない。
肩や腹に強烈な圧迫感がかかり、シートベルトをしていなかったえーの体が浮き上がってフロントガラスへ頭部をしたたか打ち付ける。
そのままハンドルへ顎をぶつけて再び椅子へ尻餅を付いた。
「痛ぁ……?」
額を押さえながら顔を持ち上げるえーは、そこで凍り付いた。
傾いだ立木が眼前でこちらへお辞儀をしているのが見えたが、それよりも車のフロントガラス、半透明のオレンジ色を帯びた液体が点々と付着しており、
灰色の物体がぐしゃぐしゃになってこちらもガラス全域へ飛び散っていた。
それが何なのかは、車体の下から伸びているののたんの左手が語っていた。ののたんは、立木とワンボックス車へ押し潰される形で無残に絶命していた。
「うぇあああぁぁ!」
嘔吐感が遂に限界を越えてえーが助手席へ嘔吐する。同時に車の左前部が爆音と共に火を噴き出した。
えーは吐ききらないまま慌てて車から転げ落ちる。振り向いたその先、車体前部の下方にののたんの細い足が確認できた。
「ののたん!」
プログラムが始まってからずっとえーの脳裏を覆い、ある意味守ってくれたとも言える幻想という名の一つの塊が、今、木っ端微塵に砕け散った。
えーは、全て理解した。自分が恐怖により現実から逃げた事、幻想で自分を装い友人を殺し続けた事。自分が冒した事の大きさも。
だが、幻想という名の衣を剥ぎ取られたえーに残ったのは『殺人鬼』という名の血塗られた衣装だけだった。
「わたし、取り返しのつかない事……皆……」
無限に湧き上がる罪悪感。えーは両膝を地面に付き、呆然とした表情で地面を見詰め続ける。
やがて何かを思い出したようにえーが不意に立ち上がり、助手席側へ歩いて行く。
車体前部から鼻を付く嫌な匂いが漂ってきたが、気にも留めなかった。
ただ、えーの頬を一筋の涙が伝った。

ののたん(女子5番)
えーにより轢殺
【退場者1名・残り15人】
AM9:00
170名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/06(木) 20:47:49 ID:70d8e+VA
漁協の建物(B−2)がしたらば(男子9番)の前方で後光にその姿を浮き上がらせていた。
したらばはギコ(男子5番)へ手紙を渡すためにこの数時間、島を歩き回っていた。
とは言っても、慎重に進まなければいけないので大した距離は進んでいない。ここまでで収穫といえるものはほとんどなかった。
「そろそろ誰かに出くわしてもおかしくないにょら……でもえーとかは勘弁して欲しいにょら」
再び訪れた暗闇を前に、したらばの脳裏に躊躇なく己の友人に銃口を向けたえー(女子3番)の歪んだ笑みが浮かんでいた。
したらばが漁協の入口、半開きのシャッターの脇へ歩み寄る。
「……誰かいるにょら…?」
足を踏み入れかけて、漁協内に人の気配を察知したしたらばがH&K MP5A5を構え直した。
したらばは漁協内の暗がりに目を細めながら確認する。数秒程度、膝を軽く曲げた状態で様子を窺う。
 十秒、二十秒――
「気のせいだったにょら?」
したらばが息を漏らすように呟いた瞬間、シャッターの裏側から二つの人影が飛び出してきて、したらばの眼前へ踊り出た。
したらばが銃口を動かした。したらばのH&Kが二つの影をを捉える。
「えっ?」
「あっ!」
「おぉっ?」
が、3人が同時に声を上げ、その銃口が交差して入れ替わった。眼前の人影が目を丸くしてこちらを見ている。
したらばの銃口の先にはルルカ(女子20番)と1さん(男子2番)がそれぞれの武器を持って構えていた。
「1さん!」
「したらば?」
二人が交互に顔を見回す。したらばとルルカは、日常でほとんど関わり合いがなかった事もあり、幾らかの警戒心を残しているようだ。
逆にしたらばと1さんは、それぞれ同じグループの仲間であった。
「1さんにルルカさんって、随分奇抜な……でもないにょら?」
したらばがH&Kの銃口を下ろして言った。それで一応の警戒は解かれたようで、ルルカも銃を下げた。
「ルルカさん……ってか、ルルカって呼んでいいにょら? とりあえず握手から始めてみるにょら……?」
不器用な愛想笑いを浮かべてしたらばが手を伸ばす。接点を持ちえない者同士、ぎこちなくなるのも無理はないだろう。
「あ、よ、よろしくおねがいします!」
ルルカがしたらばの右手を両手で握り返す。その後、揃ってお辞儀を交わした。
「あれ、1さん? それって……」
1さんの足元に置かれた二つの灯油缶を指差してしたらばが何か訊こうとしたが、ルルカが口元に人差し指を当ててそれを制する。
「あ、したらばも一口乗ってくれるよね?」
「?」
首を傾げるしたらばに、ルルカから手渡された紙切れを1さんが渡す。
紙には『首輪に盗聴器がある。会話内容に注意』とあった。
『ルルカは首輪を外せるんです。今、モララー君達と手製の爆弾を作ってるの。学校を爆破して管理機能を麻痺させ、混乱に乗じて脱出する計画』
「詳しくは後で話す。とりあえずは身を隠さないと危ない」
したらばが一通り文章を読み終えるのを確認すると、灯油缶を持って身を翻す1さん。
突如天から舞い降りた脱出プランに、したらばは唖然とした表情を隠せなかった。
171名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/06(木) 20:54:58 ID:70d8e+VA
漁協内に身を隠して三人は今までの経緯を話し合っていた。
勿論、その裏では脱出計画の内容についてメモでやり取りを行っていた。
「そうか……レコもフサギコも、不安で自分を見失っちゃったのかな」
1さんが、心を痛めて視線を落とす。
「一方で、しぃやえーみたいにこのクソゲームに乗る奴もいるにょら…」
言いながら複雑な表情を見せるしたらば。ルルカが1さんのほうを向いて優しい口調で話し掛ける。
「些細な事が殺意に変わっちゃうの。何から何まで理不尽で、最悪なゲーム……」
それからルルカは手元の紙へメモの続きを書いてしたらばへ手渡す。その紙の内容で、大まかなプランの手順は理解した。
まず、軽トラックの荷台に起爆装置と灯油やガソリン、プロパンガス等の増燃物を積む。
その軽トラックだが、1さん達がいた雑居ビルのを使用するとの事だ。
運良く車内のギアの根下にスペアキーが置かれていて、直角定規でドアの鍵を開けて(不法?それどころじゃないし)見事に車ゲットと相成ったという事だ。
決行時間になったらルルカが裏切り、寝ている仲間を次々殺す(実際には首輪を外して死亡に見せかける)。
最後に見張り番と相打ちになったふりをして、これまた首輪を解除する。
後は軽トラックを運転して(兄者さんがするんだって。凄ーい!他の人は荷台で武装して援護ね)学校へ突っ込む(勿論、直前に皆トラックから飛び降りるの)。
コンピューターを破壊したら海から逃げるというのがプランの内容だ。
さすがにルルカが反政府組織系の人間だと知った時は驚いたが、ここまでのプランを見せられては信じざるを得なかった。
不意にしたらばの中で疑問が浮かび上がった。首輪が外せるならば学校を襲撃する危険を冒さずともそのまま海から逃げればいいのではないだろうか?
その旨を書いた紙を手渡すと、ルルカがすぐさま返答を書き足して返す。
『自分達だけのうのうと逃げられないでしょ? 機械を壊して首輪の役目を封じれば皆にも逃げるチャンスがある』
確かにそうだ。自分達だけで逃げようとした事に自己嫌悪を覚えながら続きに目を通す。
『それから、全員の生徒が逃げられるとなれば、四方四隻(船が東西南北に一隻ずつあるというのもルルカの知識ね)の船だけでは監視が間に合わなくなる』
したらばは心底感心して、尊敬の眼差しをルルカへ向けた。
「それでどうよ? したらばも一緒に。当然OKっしょ?」
1さんが腰掛けていた灯油缶から体を乗り出して返答を求める。したらばはしばらく考え込む。
そしてしたらばは二人へ返答した。

 時計の針は、丁度10時を指していた。

【残り17人】

今までの残り人数に二人分ほどの誤差があった模様
172名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/08(土) 22:23:01 ID:qjAuFcKs
少女の顔には憎悪の面が掘り込まれ、細身の体はまるでそれ自体が熾っているように熱い気を発していた。
少女――でぃ(女子12番)の瞳には、鮮烈な復讐の光だけがあった。
絶望だけがただそこにある。優勝しても何かが変わるとは思えない。目的は只一つ、かつての仲間達の抹殺。
やってみせると決めた。”あの場所”で見つけた新しい自分、内なる部分に眠っていた彼女は覚醒して殻を破った。あとは過去を清算するだけだ。
裏切りに打ちのめされた間抜けな自分も、偽りの幸せに満足していた能天気な自分も、
モララー(男子20番)達の死をもって全て葬り去る。奴らの亡骸の前で”でぃは死んだ”と宣言してやる。
お友達ゲームに浸っていたでぃという少女は、もう必要ない。そんなものは”あの場所”でとっくにくたばっている。  
でぃは歪んだ笑みを浮かべた。かつての仲間のうち1人が、でぃの眼下にその姿を見せていた。
二人は茂みの間を縫い、早足でどこかへと移動していた。時刻は午前11時を丁度回ったところである。
その双眸には憎悪しか映らない。でぃは両足を踏み込んで跳躍する。それで下の二人がでぃの存在を認める。
――撤収はさせない  今度は私のターン
過剰なアドレナリンと未曾有の狂気が、でぃから恐怖と躊躇を除去していた。
ともかく、でぃは公園の丘の上(F-2)から、二十メートル下まで一気に駆け下りてみせた。
映画のワンシーンのような出来事に目を丸くするギコ(男子5番)とつー(女子11番)の姿が、今ではすぐ目の前にあった。
でぃの冷笑を見たギコがすぐに狼狽の表情をみせた。まずはたっぷりと怨念のこもった言霊を搾り出す。
「逃がさない……。」
左手を顔に被せる感じで持ち上げた。消失したはずの火傷が疼く。心の痛みも同様に、癒えず胸壁に貼り付いてでぃを促していた。
 ――殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、恨み晴らさずおくべきか。
「でぃ…てめぇまでやる気んなっちまったのかゴルァ…」
「ヒャッヒャッヒャ!でぃちゃんじゃん!怒っちゃって、どうかしたのかな〜!?
「とぼけんなぁ!!」
ありったけの怒声でつーの言葉を遮る。聞く耳を持つつもりはない。火傷の傷跡も、絆も、もう戻らない。
否、絆など最初から存在したのか、それすら疑わしく思えた。
「つー、私は随分と回り道をした気がする。お前にそそのかされた友達ゴッコは、もう引き摺ってない。ここでやるのは命のやり取りだけ。」
「ヒャッヒャヒャヒャ!!なーんのことだかさーっぱりわかんないけど〜」
「でぃ! こんなこと間違ってる! なんで今までクラスメートだった奴等同士で殺りあう必要があるってんだ!!目ぇ覚ましやがれゴルァ!!」
今すぐに黙らせたい衝動に駆られた。
「目? お陰様でバッチリ冴えてる。怒りってのは最高の覚醒剤だ。」
所々錆付いた鉄筋――先ほど拾ったものだ。棒術もバッチリ教わっているから大丈夫――を握り締め、でぃは冷たく言い放った。

――偽りのエデンへ堕ちろ
173名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/08(土) 22:29:04 ID:qjAuFcKs
ギコがつーを背後へと寄せ逃げるよう促し、手にしているナイフを右手に構える。
「外道が・・・。もうこれ以上…これ以上俺のダチは殺させねぇぞ!ゴルァ!!」
「邪魔するか…しかたない。」
でぃは腰を沈ませて踵へと力を込めた。応戦体勢万端のギコもまた即座にナイフの刃先を上げたが、でぃがボウガンを抜き出した時は驚愕を隠しきれていなかった。
命中率に欠ける片手撃ちも、この距離ならば有効だった。しかし、先手の一撃はギコのナイフによって叩き落された。
しかし、怯んだギコの体が傾ぎ、膝が地に着かせる。ブレーキとターンを兼ねた、車でいうドリフト的な動作を行いながら、ボウガンを戻す。
再び足を踏み込むと同時に鉄筋を両手で強く握った。まずはギコの後頭部を叩き、失神させてやる。
勝利を確信したでぃだったが、甲高い金属音と共に鉄筋が弾かれた。
「づぁあああああああ!!!!」
「!」
鬼気迫る、修羅の如き剣幕だった。空気を揺るがす激しい怒号に、でぃも一歩右足を後退させていた。
それを確認したギコが睨みの標的をでぃへと戻す。歯を食い縛り、悔しそうに目を潤ますその姿はこれもギコらしからぬもので、でぃは思わず攻め足を止めた。
「お前がつーを恨む気持ちは痛ぇ程分かった。だがな・・・殺して何が変わる。恨みの対象を屠ったとしてもそいつがこの世から消えるだけだ!!
 遺恨は消しきれねぇんだよ!!!」
その言葉がでぃを殊更刺激した。反射的に声を荒げ、今までに使ったことの無いような言葉遣いが覚醒する。
「それがウゼェんだよ!! 遺恨は消せない!? お前らの物差しで何でも決めんな!!」
振り下ろした鉄筋が勢い余って岸壁を削る。火花が散り、弾かれた腕が痺れた。
仇討ちを否定される事は、でぃに対しての禁句となっていた。


『モナーとモララーは貴方の傷をみて、何も言えなかったんでしょう?』

『あんたの親は、私たちが殺したのよ!』

ちびフサ(女子10番)の虫唾の走る声によって暴露されたあってはならない事実が、でぃに眠る獣を覚醒させた。
腹部へと放った爪先がちびフサの感情を刺激する。次は右の拳をちびフサの顔へと叩き込んだ。
左手がちびフサを掴み、右手が顔を殴り続ける。ちびフサが痙攣を始めてもなお、延々と殴り続けた。
危険極まりないオーラに包まれたでぃが我に返ったのは血塗れのちびフサが痙攣を止めた後だった。
結果、でぃは祖父の言いつけを破った。しかし、でぃはただ”自分を守った”に過ぎなかった。
私は悪くない。孤独な時間の中ででぃは理不尽さに喘ぎ、しばらくは涙で頬と袖を濡らした。
それらの感覚が麻痺した後、でぃの胸に残ったのは孤独の心地良さだった。
裏切りに怯える事もなく、周囲の顔色を窺う事なく、自分のルールだけで生きていける“孤独”は、絶望の底へと落とされたでぃが辿り着いた理想の世界と言えた。
居場所を見付けた。ここから離れたくない。それを脅かす奴は、どんな手段を用いても排除する。
174名無しさん@├\├\廾□`/:2006/07/08(土) 22:32:08 ID:qjAuFcKs
ギコが疲れたような表情を見せた。ナイフが再び構え直される。でぃもまた、鉄筋を握り直した。諦めと怒りの表情が交錯する。
「説得は無理みたいだな……。」
「無駄口はいい。GET LOST。」
でぃ対ギコ、最終ラウンドのゴングが鳴った。これまで同様に足を踏み込み、加速中にもう一度足を踏み込んだ。
驚異的な加速はギコに狙いを付けさせなかった。これは祖父に教わった棒術の奥義で『禁じ手』として使用を禁止されている危険極まりない技だ。
『超加速のより高速を凌駕し神速となった刹那、棒を突き出すことで、棒は鋭利な槍の如し殺傷力を発生させる』だったっけ?とりあえずそんな感じだった。
大きく振られたナイフの刃をかいくぐり、でぃの鉄筋がギコの腹部を貫き、背後の木の幹へと突き刺さった。
「げぁあぁぁ!」
ギコの絶叫が響く中、ボウガンから放たれた矢がギコの胸部を貫く。大量の血が学生服を新たに濡らす。
虫の息となったギコが小さく呟くのが聞こえた。
「花…瓶、に……」
それが最後の力だったのか、直ちに彼の口と鼻から大量の血ゲロが放出される。目を見開き直立したまま、ギコは死の床に就いた。
最後に胸を満たしていたのはでぃへの憎しみか、あるいは――。
でぃは頭を振り、血に塗れたギコの腹部を踏み押さえ、鉄筋を引き抜く。ギコの亡骸がその場に崩れ落ちる。
立ち去りざま、ギコを一瞥したようだった。
「友情ゴッコにも随分と演技力が必要だな」
でぃは溜息を吐くと、歩み始める。メインイベントが迫っている事を、肌に触れる空気で感じ取っていた。
「待っていろ、つー、モララー。」
高まる鼓動と共に、鉄筋を強く握り青天へと掲げる。付着した血飛沫がでぃの顔へと散る。その血を舌ですくい、その上で溶かした。
口中に広がる鉄の香りが益々でぃを高揚させた。一抹の虚しさもその感情に呑み込まれていく。
歯止めの効かないでぃの凶行は、ギコの殺害によって遂に最終段階へと到達しつつあった。
雪すら焦がす鮮烈な殺意の炎が、でぃを満たしていた。

【残り16人】
男子5番 ギコ
でぃにより射殺
AM 11:27
175名無しさん@├\├\廾□`/