162 :
風と木の名無しさん:
「僕に言えることは…」
肩をすくめて、突堤は答える。
「…これはただ、愛のせいだ」
発音は明瞭で、聞き間違う余地はどこにもなかった。
―――問題は、お互いの見解の相違だ。
ナカータは、さらなるめまいに落ちていきながら思った。
…なんで、そんな簡単に手の内を見せる…。
渦巻く疑問が出口を求めて、ジリジリと焦れていた。
つまり…今のおれは、おまえにとって脅威じゃないのか。
「…愛って、なに」
おれはおまえのライバルじゃないのか…。
ナカータは、胸にきざした疑問を、もう少し穏当な言葉に置きかえる。
「そんなんじゃわかんねーよ…突堤。だから…?」
ナカータは競争相手に向き直る。
「…ナカータ…」
同じジョカトーレとして、少なからぬ自負と気負いが言わせた言葉は、しかし
本人のおよそ予想しないベクトルでチームメイトの耳に届いたらしい。
「…君は…僕が相手じゃダメなのか…?」
大きく見開いた瞳にありありと傷心をたたえて、突堤はナカータを見つめる。
ナカータは心中密かに天を仰いだ。
…マジっすか…?
事ここに至って、事態はナカータの思惑を超えていた。
――想像以上だった。