1 :
風と木の名無しさん:
___ ___ ___
(_ _)(___)(___) / ̄ ̄ヽ
(_ _)(__ l (__ | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ }
|__) ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
l⌒LOO ( ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_, _)フ 「 | ロ | ロ |
( ・∀・)、__)  ̄フ 厂 (_,ィ | </LトJ_几l_几! in 801板
 ̄  ̄
◎ Morara's Movie Shelf. ◎
モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |[]_|| | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ]_||
|__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄| すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
|[][][]._\______ ____________
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |[]_|| / |/ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.|| |[]_||
|[][][][][][][]//|| | ̄∧_∧ |[][][][][][][][].|| |  ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.|| |
|[][][][][][][][]_|| / ( つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(__)_)
前スレ
モララーのビデオ棚in801板63
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/801/1294333262/ ローカルルールの説明、およびテンプレは
>>2-9のあたり
保管サイト(携帯可/お絵描き掲示板・うpろだ有)
http://morara.kazeki.net/
2 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:21:37.98 ID:sxhhygYs0
★モララーのビデオ棚in801板ローカルルール★
1.ノンジャンルの自作ネタ発表の場です。
書き込むネタはノンジャンル。SS・小ネタ・AAネタ等801ネタであれば何でもあり。
(1)長時間(30分以上)に及ぶスレ占拠防止のためリアルタイムでの書き込みは控え、
あらかじめメモ帳等に書いた物をコピペで投下してください。
(2)第三者から見ての投下終了判断のため作品の前後に開始AAと終了AA(
>>4-7辺り)を入れて下さい。
(3)作品のナンバリングは「タイトル1/9」〜「タイトル9/9」のように投下数の分数明記を推奨。
また、複数の書き手による同ジャンルの作品判別のためサブタイトルを付けて頂くと助かります。
(4)一度にテンプレAA含め10レス以上投下しないで下さい(連投規制に引っかかります)
長編の場合は10レス未満で一旦区切り、テンプレAAを置いて中断してください。
再開はある程度時間をおき、他の投稿者の迷惑にならないようにして下さい。
(5)シリーズ物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
また、長期連載される書き手さんはトリップを付ける事を推奨します。
(参照:トリップの付け方→名前欄に「#好きな文字列」をいれる)
(6)感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
作品について語りたいときは保管庫の掲示板か、作品が収録されたページにコメントして下さい。
※シリーズ物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
※感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
※「公共の場」である事を念頭にお互い譲り合いの精神を忘れずに。
相談・議論等は避難所の掲示板で
http://bbs.kazeki.net/morara/ ■投稿に当たっての注意
1レスあたりの最大行数は32行、タイトルは全角24文字まで、最大byte数は2048byte、
レス投下可能最短間隔は30秒ですが、Samba規定値に引っかからないよう、一分くらいがベターかと。
ご利用はテンプレをよくお読みの上、計画的に。
3 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:22:17.66 ID:sxhhygYs0
2.ネタ以外の書き込みは厳禁!
つまりこのスレの書き込みは全てがネタ。
ストーリー物であろうが一発ネタであろうが
一見退屈な感想レスに見えようが
コピペの練習・煽り・議論レスに見えようが、
それらは全てネタ。
ネタにマジレスはカコワルイぞ。
そしてネタ提供者にはできるだけ感謝しよう。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ネタの体裁をとっていないラッシュフィルムは
| いずれ僕が編集して1本のネタにするかもね!
\ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
| | [][] PAUSE | . |
∧_∧ | | | . |
┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ | | | . |
| |,, ( つ◇ | | | . |
| ||―(_ ┐┐―|| |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
| || (__)_), || | °° ∞ ≡ ≡ |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
4 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:22:40.26 ID:sxhhygYs0
3.ネタはネタ用テンプレで囲うのがベター。
別に義務ではないけどね。
テンプレ1
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| モララーのビデオを見るモナ‥‥。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| きっと楽しんでもらえるよ。
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
5 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:23:26.24 ID:sxhhygYs0
テンプレ2
_________
|┌───────┐|
|│l> play. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
∧∧
( ,,゚) ピッ ∧_∧ ∧_∧
/ つ◇ ( ・∀・)ミ (` )
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| ┌‐^──────────────
└──────│たまにはみんなと一緒に見るよ
└───────────────
_________
|┌───────┐|
|│ロ stop. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
ピッ ∧_∧
◇,,(∀・ ) ヤッパリ ヒトリデコソーリミルヨ
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| |
└────────────────┘
6 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:24:39.40 ID:sxhhygYs0
テンプレ3
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < みんなで
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < ワイワイ
i | |/ ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、 < 見るからな
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ"
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < やっぱり
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < この体勢は
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、 < 無理があるからな
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ
7 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:26:05.97 ID:sxhhygYs0
テンプレ4
携帯用区切りAA
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
中略
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
中略
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
8 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:26:47.45 ID:sxhhygYs0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 僕のコレクションに含まれてるのは、ざっと挙げただけでも
|
| ・映画、Vシネマ、OVA、エロビデオとかの一般向けビデオ
| ・僕が録画した(またはリアルタイムな)TV放送
| ・裏モノ、盗撮などのおおっぴらに公開できない映像
| ・個人が撮影した退屈な記録映像、単なるメモ
| ・紙メディアからスキャニングによって電子化された画像
| ・煽りや荒らしコピペのサンプル映像
| ・意味不明、出所不明な映像の切れ端
\___ _____________________
|/
∧_∧
_ ( ・∀・ )
|l8|と つ◎
 ̄ | | |
(__)_)
|\
/ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 媒体も
| 8mmフィルム、VCR、LD、ビデオCD、DVD、‥‥などなど
| 古今東西のあらゆるメディアを網羅してるよ。
9 :
風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 14:27:14.39 ID:sxhhygYs0
|__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄| じゃ、そろそろ楽しもうか。
|[][][]__\______ _________
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | |/
|[][][][][][][]//|| | ∧_∧
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ )
|[][][][][][][][]_||/ ( )
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | |
(__)_)
ここは、どこだ。
元親はぼんやりと、周囲を見回す。
全体的に暗い場所だ。空には雲ひとつないのに、光もない。
足下は小石が敷き詰められ、草木の気配はない。
空気は冷たく乾いている。どことなく冬の朝に似ているが、吐く息は白くはなかった。
ここには、生きとし生けるすべてのものの気配が感じられない。
元親は戸惑い、額に手を当てる。
何故、自分はこんな場所にいるのだろう。
何故、誰もいないのだろう。
何故。
何故、自分の肌までもが、こんなにも冷たいのだろう。
頭を占める幾つもの疑問。それについて元親は考える。けれど、分からない。
―分からない? 本当に?
考えるな、と頭の隅で、もうひとりの自分が警告する。
何も考えるな。そうすれば、このままでいられる。
そう叫ぶ己に戸惑いながら、元親は考える。考えなくてはいけないのだと、また別の自分が忠告する。
このまま忘れていられたら楽な事は分かっている。だけど、逃げていい事じゃない。
だから、思い出せ。己の所業を。奪った命を。この地に堕ちた理由を。
最大にして最悪の罪を。
ドクン、と心の臓が悲鳴を上げた。
違う。鳴るはずがない。それはもう、動く事はないのだから。
なのに。
「は…っ」
息が苦しい。とうに、止まってしまったのに。
「俺、は」
思い出した。
「俺は、もう」
忘れてなどいなかった。
「どうして」
思い出したくなどなかった。
「家康…っ」
忘れてはいけなかった。
えっ
何これ…意味わかんないんだけど
晒し?それとも本人?どっちにせよ迷惑
半生 刑事犬 ツゲ×コマ+ヤナ・ワソコ
第8話後の話です
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
「お茶酌み、ナウ」
給湯室から、ふうわりと膨らんだスカートを翻してワソコが登場した。
丸いお盆を両手で持ち、その上には大小様々な3つのマグカップを載せている。
まるで春を先取りしたような、水色の地に白やピンクの小花をあしらったワンピースを自慢げに揺らめかせ、ゆっくりとした歩調で優雅に足を進めている。
そして、ちょうど門/馬のデスクの前辺りまで来ると、突然ワソコはあらぬ方向に顔を向けて口を開いた。
「今、13係では、ツゲさん、コマさん、ヤナさんが、朝から拳銃使用その他諸々についての報告書を作成中です」
「―――ッてイキナリ始まるのかよ!」
「ちなみにボスは、Sこと浅/倉刑事、そしてガラさんの事件の顛末について、朝一番で刑事部長から呼び出しを受けたので部屋にいません」
「知ってるよ!」
「チャソコさんもまだ検査入院中です。そしてデュークさん、キリさんは、素早く報告書を片付けて外に休憩に行ってしまいました」
「っていうか、お前いっつも誰に説明してんだよ!」
「ということで、今、13係に残っているのは、実は結構不器用でキーボードを打つのが遅いヤナさんと、」
「…ッテメェぶっとばすぞ!!」
「主任、現場リーダーということで、他の皆さんより報告する内容の多いツゲさん、コマさんです」
「だから知ってるよ!!!」
ワソコの放つ独り言へ、柳が逐一合いの手を入れる。
その御馴染みの光景に、先程からうんざりした表情でデスク上のノートPCと取っ組み合っていた小/松/原が顔を上げた。
「ヤナ、お前うるせぇぞ」
「ですよねー…って、えぇ??お、俺ですか??」
「黙ってろ」
「……はい」
途端にしゅんとなった柳が項垂れる。
その横で、どこ吹く風のワソコが柳の専用マグカップをそのデスクの上に置いた。
「は〜い、皆さん、ちょっと休憩にしましょう。温かいお茶ですよ。はい、ヤ〜ナちゃん!」
「わぁい、どうもありがとぅー……ってお前いつまでそれ引っ張ってんだよ!“ちゃん”は止めろっつっただろ“ちゃん”はッ!」
またしても威勢良く抗議の声を上げたものの、斜め向うのデスクに座った小/松/原からサングラス越しにギロリと睨まれ、柳は再びPCの影に隠れるように大きな身体を縮こませた。
そんな柳の元をさっさと離れたワソコは、今度は並んだ机に隣同士で座っている重/村、小/松/原の背後に立った。
「はい、コマさん、今日もバッチリ茶柱立てておきました!」
「…いや、これ紅茶だから、な?」
「はーい、ツゲさん、お茶です」
「ありがとう」
マグカップを受け取った重/村は、早速一口啜ると、ニッコリと穏やかな笑みを浮かべてワソコを見返した。
「どうしたのワソコ、何だか今日もご機嫌だね」
「えぇ〜?やっぱりそう見えますかぁ〜?」
「かなり気持ちワリィことになってんぞーお前」
「そんな!ヒドイです、コマさん!!」
大仰に顔をしかめたワソコだったが、すぐに満面の笑顔に戻ると、舞台女優のように両手を上げて天井を振り仰いだ。
「だって私、凄く嬉しかったんです!皆さんがあんなに私を信じてくれていたなんて!私、13係の一員になって本当に光栄です!この気持ちを皆さんにお伝えしたくて、少しでもお役に立ちたいんです!」
「あー分かった分かった。よーく分かったからワソコ、もうハウスな、ハウス」
PC画面から目も離さず、シッシッとまるで犬を追いやるように右手を振る小/松/原の背中に向かって、「ヒドイです〜」と呟きながらワソコが倒れ込む。
しかしそこで、ワソコは急にきょとんとした表情を浮かべた。
「ん?」
クンクン、と自慢の鼻をひくつかせ、もう一度確認するように小/松/原の肩口辺りに鼻を寄せる。
「おい、何なんだよお前は」
居心地悪げに眉を寄せ、小/松/原はワソコから逃れるように身を引いた。
構わずしばらく匂いを嗅いでいたワソコだったが、今度は隣の席に座っている重/村の胸元辺りをクンクンと嗅ぎ回ると、
「あれ?」
両腕を組み、腑に落ちない様子で首を傾げた。
「どうかした?」
重/村が落ち着きのある美声で柔らかく問い掛ける。
「…変なんです」
「何が?」
「だって、今日のツゲさんとコマさん、……お二人から全く同じ匂いがします」
ポツリとワソコが答えた途端、
「ッブフォアッッ!」
「ガシャーン!!」
「キャアア!」
柳はPC画面に盛大にお茶を噴き出し、小/松/原は持っていたマグカップを床に落とし、それに驚いたワソコが悲鳴を上げるという三重奏になった。
「だ、大丈夫ですか、コマさん!?今、雑巾持って来ますからね!」
何故か固まったまま動かなくなった小/松/原に向かって、ワソコが必死に声を掛ける。
一方、重/村は全く動じない様子で静かに席を立つと、床に散らばった陶器の欠片を拾い集め始めた。
給湯室から雑巾を持って来たワソコと共に身を屈め、一生懸命になって床を拭いているワソコに向かって、細かな欠片を拾いながら俯いたまま口を開く。
「―――別に同じ匂いがしてもおかしくないんじゃないかな。偶然、同じメーカーの洗髪料や石鹸を使うことだってあるだろうし」
「いいえ、そんなはずはありません。同じメーカーでも、開封した時期によって匂いの強さも変わりますし、それが置かれていた状況によっても匂いは変わっていきます。全く同じになることはありえません」
「…そうなんだ」
「そうなんです」
うんうんと同意を求めるようにワソコが力強く何度も頷く。
そこですっくと立ち上がった重/村は、ワソコの遥か頭上で再びニコリと笑みを浮かべた。
「―――じゃあ話は簡単だ。昨日、例の事件のあと疲れちゃって、コマと一緒に駅前のサウナに行ったんだよ」
「……そそそそそそうだぞ、お前!バカじゃねーの!すっげバッカじゃねーの!サウナとか銭湯とか、スーパー銭湯とか、それこそスーパースーパー銭湯だってあるかもしれねぇじゃねーかよッ。誰もツゲさん家にコマさんが泊ったとか思ってねーんだよッ!!!」
勢い良く立ち上がって捲くし立てたは良いものの、柳の言葉が終わると、室内には何故か奇妙な沈黙が流れた。
柳はみるみる顔を蒼褪めさせ、広い額には玉のような汗さえ浮かんできている。
そんな柳の様子を見据える重/村の目が、まるで取調室でマル被と相対している時のように不気味に光るのを、ワソコは不思議な気持ちで見守っていた。
今や柳の額からしたたり落ちた汗が、顎に伝ってデスクの上に落ちそうになっている。
「ヤナ」
「……はい」
「うるさい」
「……はい」
図らずも「蛇に睨まれ脂汗を流すカエル」の実物版が目の前で展開されていることを知ってか知らずか、ワソコはと言えば、椅子に座ったまま微動だにしなくなった小/松/原の薄い両肩を掴んで思い切り揺さ振っている真っ最中だった。
「ちょっ…コマさん!?コマさん!!スミマセン、皆さん、コマさんがさっきから固まったまま動きません!コマさん、コマさーーーん!」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナンバリングをミスりました…。
最後になりましたが、スレ立て乙です!
>>14 乙でした〜
刑事犬のメンバーがリアルに再現できました。
>>14 シゲコマに挟まれるヤナが好きなので楽しかったー!
ありがとう!
>>14 みんな可愛くてニヤけた!ありがとうございます!
23 :
吉三「箱入り」@:2011/03/09(水) 13:58:03.08 ID:1d4YDa2I0
そんな……。
一瞬、頭の中が真っ白になった。あまりの衝撃に声も出ない。三成は息すらできないほどに打ちのめされた。
辛うじて折れそうになる膝をどうにか奮い立たせ、そっと踵をかえす。
襖の向こうで話す女中達の朗らかな声も耳に遠い。
あり得ない、あり得ない、あるわけがない。
何度も打ち消そうとしたが彼女達の話は三成の密かな否定をことごとく覆した。
どれだけ否と唱えても、思い返してみれば全てが思い当たる。確かにこの数日、体調は悪かった。
もともと付き合いも長い。
それにと、そうなる原因を思い返してみても、最後まで冷静さを保てていたことなど一度もないし、
最近はますます酷くなっている気がする。
ただ一点、キャベツ。それだけが相違点だ。
しかしそんなものは些末な事に過ぎない。第一あれは南蛮の食べ物だと、
かつて半兵衛さまは寝物語に聞かせてくださったではないか。
……秀吉様、どうか私に……。
殺すわけにはいかない。どうしても。
気が付けばじっとりと冷や汗を掻いていた。
灯心がジジと微かな音を立てた。すいと視線を動かせば油が残り少なくなっている。
書見台から体をずらして油差しに手を伸ばした大谷は、遠く廊下を歩いてくる気配に耳をそばだてた。
滑るよう静かな足音が迫ってくる。
さて、今日は眠られぬか、それとも恨み言を聞かされるか。
そんな事を考えながらつと鉄瓶を持ち上げた。
「刑部」
話があると言ったまま、しかし三成は黙り込んで白湯を啜っていた。
差し向かっている大谷は掌を湯飲みで温めながら、 はて面妖なと思う。
三成は酷く思い詰めた顔をしている。ここ最近で一番の思い詰めた顔だろう。
夕餉まではまったく異常なかったはずだ。一体この二刻の間に何があったのか。
訝しむ大谷の視界で伏せていた顔が上げられる。怜悧な細面はぐっと白湯を飲み干すと、
意を決したような表情で口を開いた。
24 :
吉三「箱入り」A:2011/03/09(水) 14:01:23.62 ID:1d4YDa2I0
「家康との決戦を、夏が過ぎるまで引き延ばすことはできるか」
「……そうよなぁ……その程度は、如何ようにもなるであろ」
何を言い出すかと思えば、面食らった。一刻も早く家康を討つと息巻いていた三成が延ばして欲しいなど、普段なら考えられないことだ。
何があったのか。これは真剣に耳を傾けなければならない。
大谷は長い話になると予感して、煙管に火を点けた。
「刑部」
「いかがした」
「貴様のせいだ」
三成が結論だけを言い放つのは時折あることだ。大谷は適当な相づちを返した。
私にはその本能が少し欠けているのかもしれんが、貴様も立派な男子、当然欲情してしかるべきだ。
私も貴様に身を委ねるのは当然のことだと思っていた」
「……さようか」
半ば丸め込むようにして手を付けてしまった者としては後ろめたいセリフだ。大人しく頷くしかない。
「だが、だからと言ってそんなものは、最早過ちの言い訳にしかすぎない」
鋭角な柳眉がぐっと苦しげに寄せられ、拳が握り締められる。
大谷はようやく相手が言わんとしていることを理解した。したつもりだった。
何が原因かは分からないにせよ、二人のこの関係に疑問を抱いた。そいうことだろうと。
「何故だ刑部。貴様が……貴様が注意を怠ったせいでこのていたらくっ、もはや取り返しはつかんぞ!」
……いや、見当違いか。
がくがくと己の肩を揺する三成をやや呆れた目で見つめながら首を捻った。
「落ち着け三成、ぬしの話は要領を得ぬ」
「これが落ち着いていられるかっ!気分がすぐれんのだっ」
「ならば早に休め。それとも、われが添い寝してやらねば不安か」
顎を捕らえてからかうと、三成は綺麗な面を不服そうに歪めたまま頷いた。
「当たり前だ、貴様のせいだからな」
「これはしたり。われのせいになる由、とんと分からぬが」
「貴様が注意を怠ったせいで、いずれあれが運んでくる」
「分からぬなぁ、何が何を運びやる」
「知れたことだ、コウノトリが貴様と私の赤子を運んで来る。あれにはもうバレてしまっているぞ」
「……は?」
「惚けた顔をするなっ。刑部が私に子種を散々撒き散らしたあげく、偵察にきた鳥に気付かんからだ、秀吉様と半兵衛様に合わせる顔がないっ」
25 :
吉三「箱入り」B:2011/03/09(水) 14:05:50.05 ID:1d4YDa2I0
大谷はごくりと唾を飲み込んだ。呆然と目の前にいる男を見つめた。
どこから突っ込んで良いのか解らないほど、突っ込みどころが満載だ。
きっとこの男の体の八割は勘違いでできている。
「……三成、偵察に来た鳥とは何ぞ。われに解るよう説明してくれぬか」
「どうした刑部、気が動転して聡明な脳髄が働かないか? まぁいい、話してやる。貴様も承知の通り、
コウノトリは契りを結んだ者達の元へ赤子を運んで来る。ちなみに南蛮ではキャベツという植物から生まれるそうだ」
「…………」
そんな伝説を承知した覚えはない。大谷は自信満々に言い放つ三成をまじまじと見つめた。
まさかここまで筋金入りだとは思わなかった。さっきの計算は間違いだ。
この男の体は七割が箱入り、残り三割が勘違いでできている。
「二人が契りを結ぶ仲かどうかを、コウノトリの斥候班か忍び部隊が確かめにくる。
私も常ならば獣の気配を感じることなど容易いが、あの最中はそれどころではない。貴様さえ注意していれば悟られず済んだものを」
なんという豊かな想像力だろうか。大谷は目を一杯に見開いた後、深い溜め息を吐いた。
……いや、これは軍師自らが吹き込んだのやもしれぬな。
幼い頃何度も軍師と共に休んだと聞いている、その時の話を三成は純粋に信じて大人になったのだろう。
「……それは相済まぬ」
ろくな教育をせずにここまできてしまった事を大谷は深く詫びた。
「だが賽は投げられた、今さら断ることもできん」
「しかし三成よ、ぬしは一つ失念しておらぬか」
「何がだ」
「ぬしは立派な男子、子を成すことはできぬであろ」
「私に契りを結ぶのに男も女も関係ないと言ったのは貴様だろう」
「契りと子を成すことはまた別の話よ」
「黙れ刑部、私には証拠がある」
「……証拠?」
そうだと、大きく頷いた三成は力強く断言した。
「つわりだ」
「……つわりか」
「ここ数日、時折軽い嘔吐感がある。これは胃の風邪などではない、つわりだ刑部。子を運ぶ準備が整うと、気分が悪くなる。
それが合図だからな。夕餉の片付けをしていた女共も子を成せばつわりになると言っていた」
「……軍師が言いやったか」
「そうだ。半兵衛様から教えて頂いた」
26 :
吉三「箱入り」C:2011/03/09(水) 14:07:16.57 ID:1d4YDa2I0
三成はどこか得意げな表情で胸を張り、だから決戦は延ばさねばならないと初めの話に戻った。
「決戦の最中に届いてはまずいだろう、貴様の血のかかった赤子を飢え死にさせるわけにはいかん。
優秀な乳母を捜す必要がある」
三成は不機嫌な顔で今後の育児計画をとうとうと語り始めた。
――先が思いやられるわ……。
この先、誤解を解く過程を考えただけで大谷はどっと疲れが出た。
軍師の言葉を翻すにはどれだけ骨が折れるか、身をもって体験しているだけに気が重い。
それが軍術的なことならまだしも、こんな馬鹿馬鹿しい事にどれだけ時間と情熱をかけねばらないのか。
しかし自分しかそれを成し遂げられる者はいない。
大谷はとっくに燃え尽きていたキセルの雁首をコンと叩いて放り出すと、三成の肩を抱き寄せた。
「ぬしにな、ぬしにどうしても、理解してほしいことがある」
容易く肩に頭を預けてくる顔を覗き込む。
「まずはおしべとめしべから始めるゆえ、よぉく聞きやれ」
明日の朝までにどうにか決着を付けたい。祈るような気持ちで、大谷は壮大な授業を開始した。
>ID:1d4YDa2I0
晒しだかなんだかしらんが
とりあえず
>>2のテンプレを100回読んでから出直して来い
そいつ別のスレでも渋のランキング入りの作品を晒して
なんでこんなのがランキング入りなのよフンガー!消せ!ってやってたよ
気に入らない人間を叩いて罵りたいだけのババア
屑だな
518 :風と木の名無しさん[sage]:2011/03/09(水) 16:15:06.18 ID:1d4YDa2I0
カルパス美味しい^^
たけのこの里美味しい^^^
肉まん美味しい^^^^
じゃがりこ美味しい^^^^^
さっき宮城で強い地震があったんだね
いいぞもっとやれ
偽善者は死んでしまえ
いつものPC8台の人か
>>1乙です。
半生注意。映画「緑蜂」より、社長と助手。やっぱり恋人未満。
二回に分けて投下します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
退社後の自宅で、深夜のパトロールの前に腹ごしらえをしようと相棒に持ち掛けると、今夜は約束があると断られた。
「約束ってなんだ。俺は聞いてないぞ」
「ブリシト、一昨日会社で言った筈だぞ。水曜の夜は予定があるから、パトロールは無しにしようって」
「そうだったっけか?覚えてないな」
「真面目に聞いてなかったんだろ。君はあの時、レ/アのお尻に気を取られていたからな。とにかく今夜はダメだ」
秘書の名を口にした相棒に、俺は疑惑を抱いた。以前にも友達に会うとか言って一人で出かけたが、この野郎実は俺の美人秘書と、こっそりデートを楽しんでいたんだ。
「力ト-、誰と会うんだ。またトニーって奴か?」
「……いや、トニーじゃないよ。昔の仕事仲間」
「仕事って、ああ、車の」
「そう、修理工場の。久しぶりに一緒に飯を食おうって誘われてね」
秘書とのデートの時に使った架空の友達の名前を出すと、相棒はほんのちょっと動揺したようだった。表情は変わらないが、長時間一緒にいるせいか何となくわかる。
仕事仲間と会うという言葉には嘘はなさそうだが、それでもやっぱり疑ってしまう。
「とか言って女に会うんじゃないのか、力ト-」
「いや、男ばっかり。四人で来るって言ってた」
「……お前、けっこう友達いるんだな」
そりゃいるよ、と相棒は呆れたように言ったが、こいつが友達といるとこなんて見たことがなかったから、俺には意外だった。
公私問わず俺とくっついて行動してるんだから、まあ当然と言えば当然なんだが。
「ふうん。そいつらとどこで飯を食うんだ?」
「言ってもきっとわからないよ、君が行くような店じゃないから」
決めつけられたのがおもしろくなく、なおも問い質すと相棒は店の名前を口にしたが、確かに聞いたことのない店だった。
「な、わからないだろ。もう行くよ、時間に遅れそうだ。じゃあな、また明日」
「ああ、また明日」
ヘルメットを被った相棒は愛車に跨がり、エンジン音を唸らせて颯爽と屋敷を後にした。
取り残された俺は、自分の部屋に入った。食事の支度が出来てるとメイドが知らせに来たが、何故か食欲が湧かず、後で食べると断った。
暇を持て余し、書斎に移動してパソコンを開いてみたが、ホーネシトメールは届いていなかった。
何となく相棒が向かった店の名前を思い出し、綴りを打ち込んで検索してみると簡単にヒットした。ここからはわりと離れた下町にある、ダイナーの名前だった。
その店の写真画像を眺めていると、急にあることが気になった。
あいつ、本当にここに向かったのか?また上手く俺を出し抜いて、別の場所で秘書と落ち合ってるんじゃないのか?
異様にむしゃくしゃした気分になり、俺はパソコンを乱暴に閉じて椅子から立ち上がった。
数分後、俺は街に出て車を走らせていた。自分で運転するなんて、いつ以来だろう。あまりにも久しぶりで、出発してから何回かエンストを起こした。
うちにあるやつで一番目立たなさそうな車を選んだが、マニュアル車だったのが失敗だった。だが運転しているうちに、なんとかカンは戻った。
ナビを頼りに、俺は目的の店に向かった。もしも相棒がそこにいなければ……明日はまた、喧嘩になるかもしれない。
店近くの路上に駐車し、中の様子を伺った。何組か男ばかりの客はいるが、顔がよく見えない。俺は車を降りた。
なるべく地味にと心がけて、ダサめのトレーナーにジーンズ、これまたダサいパーカーを羽織り、キャップを目深に被って眼鏡まで掛けた。完璧な変装だ。
しかし尾行の緊張感は止まらず、顔が見えないように俯き加減で、恐る恐る店のドアを開いた。
途端にわっというような喧騒と煙草やコーヒーの匂いが、一気に俺に向かって押し寄せて来た。
相棒を見つけた。一番奥のボックス席に、壁を背中にして座っていた。
入り口からすぐの席に腰を落ち着けると、太った中年の女店員がやって来たのでコーヒーを注文した。
こんな店のコーヒーなんてろくでもない味に決まってるが、座った以上何も頼まない訳にはいかなかった。
車から持って来た新聞を読むフリをして顔を隠し、俺は相棒の様子を観察した。
相棒の両隣に二人、テーブルを挟んで向かいにも二人、合計五人の男達が肩を寄せ合って料理を摘みながら談笑していた。
相棒の他にアジア系の男が一人いて、ひょっとしたらあれがストリート時代からの仲間なんだろうかと想像した。
運ばれてきたコーヒーを一応啜ったが、やっぱりとても飲めた物じゃなかった。ソファは固くて、長く座ってたらケツがおかしくなりそうだ。
よく考えたら、ここに相棒がいるのを確かめたんだから、長居する必要なんてない。でも俺は、相棒からしばらく目が離せなかった。
よっぽど気のおけない友人達なのか、相棒は常にない明るい表情をしてよく喋り、よく笑った。遠くから眺める俺は、俺といる時にはあまり見せない、奴の別の顔に驚いていた。
あいつあんな風に声を上げて笑うんだな、俺のジョークには大して反応しない癖に。昔からの仲間とのお喋りはそんなに楽しいかよ、どうせくだらない話で盛り上がってるんだろ。
マズそうなハンバーガーなんか食いやがって、あんなのより俺んちの夕食がよっぽど……
次第にイライラした気分になり、いたたまれなくなった俺は席を立った。
その拍子に手にしていた新聞が引っ掛かり、床に灰皿を落としてしまった。ガラガランと大きな音が響き、客の何人かがこちらに顔を向けた。
相棒も目線を寄越して来たのでひやりとしたが、それは一瞬のことですぐ仲間に向き直ったので、俺はほっとした。
レジにいた女店員に、釣りはいらないと大目に金を渡して店を出た。
大股に歩き車に戻ると、判別がついた相棒を店の外から眺めた。
相変わらず話に花が咲いているようで、まだまだ帰る気配はなかった。それを苦々しく思い顔を逸らすと、ちょっと距離を置いて路上に停めてある相棒の愛車に気付いた。来た時は、他の車の陰になっていて見えなかったんだ。
あいつ無用心だな、大事なバイクをこんなとこに置いといて、盗まれたらどうするんだ。仕方ない、店から出るまで俺が見張っといてやるか。全く世話の焼ける奴だ……
何となく帰る気になれないでいた俺は、居座る正当な理由を見つけたことに満足して、一人頷いた。
店内と路上を交互に見張って一時間ちょっとが過ぎ、彼らはようやく席を立った。
出て来た相棒に見つからないように、運転席にいる俺は頭を低くした。
バイクの側にたむろして、男達はまだ語らっていた。仲間の一人が肩を叩いて後方を親指で指し示すのに、相棒は首を横に振って何か答えた。
どうやらこれから別の店に行くらしいが、奴は断ったらしい。
男達は手を振って歩き去り、相棒はそれを見送ってから、手にしていたヘルメットをおもむろに被った。顎のベルトをかけながらこちらにちょっと目をやったように見えて、俺はますます頭を下げた。
相棒は何も反応を示さず、バイクに跨がるとエンジンをかけた。赤いテールライトは、あっという間に道の向こうに消えてしまった。
俺はキャップと眼鏡を外し、車のドアを開けて外に出た。相棒が走り去った闇の彼方を見つめて、俺は何をやってるんだとため息をついた。
あいつどうして次の店に行かなかったんだ。きっと酒でも飲んで、またバカ話で盛り上がるんだろうに。
バイクがあるからか?いや、明日また仕事だからか。でも俺の経営パートナーって立場だから、例え遅れて出社したって誰も文句は言わない筈だ。
きっと明日も朝から俺の屋敷に来て、車を運転して会社に向かい、定刻に二人で出勤するつもりなんだな。あいつはそういうとこ、きちんとしてて律儀な奴なんだ。
待てよ、ってことは飲みに行けなかったのは、俺のせいになるのか?……
思考がマイナスの方向に行きかけるのを感じて、俺は考えるのをやめた。
「……帰るか」
一人呟いてドアを開けようとしたが、不穏な空気を感じて後ろを振り返った。
いつの間に近付いたのか小汚い身なりをした若い男が三人、俺の車を眺めてニヤニヤと笑っている。
「よう兄さん、なかなかいい車に乗ってんな。服はダッセエけど、その腕時計も高そうだ」
「けっこう金持ってんだろ?俺達に貸してくんねえかな」
案の定タカって来たチンピラ達がウザくて、元々悪かった気分はいっそうひどくなった。
「うるせえ、とっとと失せろ!お前らみたいなゴミ野郎に、貸してやる金なんかない!」
威勢よく叫んでから、しまったと後悔した。今の俺はロスの夜に暗躍する仮面のヒーローじゃない、ただのブリシト・リ-ドだ。ブラシク・ビューティーもガス銃もない、頼れる相棒もここにはいない。
素直に数百ドルも渡してやれば、こいつらは満足して引き下がっただろうに、余計なことを言っちまった。
道路には車が行き交い、往来にも通行人はぽつぽつといたが、こんな状態の俺をわざわざ助けてくれる人間がいる筈はない。ああヤバい、これは多分、かなりヤバい……と焦っていると、チンピラの一人がおもしろそうにぐっと顔を寄せて来た。
「へええ、ずいぶんデカい口叩くじゃねえか。ゴミ野郎で悪かったなあ」
「いや、その……」
「気が変わったぜ。金もだが、その車も貸してくれよ」
「……悪かった!つい口が滑って。ほら、金ならやるから勘弁してくれないか」
財布から何枚か札を掴み差し出すと、チンピラはむしり取るように奪ってなおも笑った。
「遅ぇんだよバーカ。その財布ごと寄越して、さっさと車から離れな」
「こいつ、俺らをなめやがって気にくわねえ。痛め付けてやろうぜ」
「それで金も車もいただくと。なあ、最高に楽しいじゃねえか」
チンピラ達は汚い声でがなり立てて笑った。冷静になれ、と俺は自分に言い聞かせた。だがチンピラの一人が取り出したナイフを見て鼓動はさらに早まり、体中を脂汗がタラタラと流れた。
絶体絶命のピンチだ、どうするブリシト!
「彼から離れろ」
ふいに響いた静かな声の方向に、俺もチンピラ達も目をやった。
ヘルメットを抱え黒い革ジャンを纏った、紛れもない俺の相棒がそこに立っていた。
「なんだよ黄色いの!こいつ、お前の彼氏かよ?」
「引っ込んでな、お嬢ちゃん。俺らこの生意気な野郎に話があるんだ」
相棒のおとなしそうな容貌に油断して、チンピラ達は奴をからかった。気分を害した風でもなく、シニカルに笑った相棒はさらに警告した。
「いいのか?後悔するぞ」
「うるせえぞ、何を後悔するってんだ!」
「目障りだ、こいつからやっちまえ!」
矛先を変えたチンピラ達は、相棒に向かって躍りかかった。
一瞬だった。
ナイフを振りかざした男の横っ面にヘルメットを叩き付け、懐から銃を取り出そうとした男の右手ごとその腹に回し蹴りを喰らわせた。
返す体で最後の一人の鼻柱に強烈な裏拳を見舞うと、そいつが握っていた百ドル札がひらひらと空中に散った。
それがほんの数秒の出来事で、地面に倒れ伏しひざまずいて呻き声を上げる男達を俺はポカンと見つめた。
再びヘルメットを抱えた相棒は、チンピラが取り落とした銃を拾って男達に突き付けた。
「まだやるか?」
「い、いや!もういい、悪かった!」
あたふたと走り去るチンピラ達を見送ると、相棒は近くのゴミ箱の中に銃を放り込んだ。それから腰をかがめ、道に散らばった札を拾い集めてから俺の側に戻った。
「ほら、君の金だろ」
「……あ、ああ、すまん」
手渡された札と、向き直った相棒の顔を交互に見つめていると、奴は小さくため息をついた。
「一体何をやってるんだ、ブリシト」
「何って……」
「君みたいなお坊ちゃんが一人で来るには、この辺りはけして安全とは言えない土地柄だ。なんでわざわざ来た、自分で車を運転してまで」
「そりゃあ……俺だってたまには、ドライブくらいするさ。うっかり遠出し過ぎたが、まさかお前に偶然会うとはな。いやあびっくりだ」
「白々しいぞ、ブリシト。店の中にいただろ」
「……気付いてたのか!」
気付かない訳ないだろ、と鼻で笑われて俺はうろたえた。バツの悪さと恥ずかしさが脳と体を全速力で駆け巡り、言うべき言葉がしばらく見つからなかった。
「君が入って来た時から気付いてたよ。外には見覚えのある車まで停まってるしね」
「……俺がいるのをわかってて、知らないふりをしてたのか」
「だって、声をかけたりしちゃ気まずいだろ?こっちも友達といて、君を紹介したり説明するのが面倒だったし」
面倒、という言葉にカチンと来た俺の口調は、段々荒くなっていった。
「面倒なのに、帰ったと見せかけてわざわざ戻り、俺のピンチを救って下さったのか。お優しいな力ト-」
「そりゃ、何事もなく君が帰れば僕も本当に帰ったけど、変な奴らに絡まれてたから。放っとく訳にいかないじゃないか」
「そうかそうか。俺が一人じゃ何も出来ないアホのボンボンだから、お前はご親切に見守っててくれたんだよな」
「よせよ、そんな言い方」
ムッとした相棒の表情に、これ以上はやめとけと俺の中の天使が囁いたが、動き出した口はもう止まらなかった。
「うるさい!大体あんなクズ共に絡まれたのも、元をたどれば力ト-、お前のせいだ。こんなろくでもない場所に来たのは、お前に前科があるからだぞ」
「……そんなことだろうと思った。僕が嘘をついてレ/アと会ってやしないか、気が気じゃなかったんだろ。おあいにくだったね」
「確かにな。でも店を出てから彼女と会うかもしれないだろ。だから俺は、ずっと見張ってたんだ」
「ブリシト、いい加減にしろよ。疑いや嫉妬が過ぎるとみっともないぞ。今夜は本当に、友達と会ってただけだ」
俺の言い訳を真に受けた相棒は、眉をひそめてたしなめた。俺は奴の嫉妬という言葉がまたカンに障った。
「友達、ね。よかったな、ごたいそうなお友達と、楽しくお食事が出来て。俺との夕食を断って、あんな、サイテーの店で」
「ブリシト……」
「コーヒーは泥水みたいでクソまずいし、お前らもあんなまずそうなもんよく食えたな。どうせならもっと、マシな店に行けよ。お前の友達が選んだのか?まったくいい趣味だよな」
「おい、ブリシト。僕のことはともかく、友達を悪く言うな」
「怒ったか?本当のことじゃないか」
相棒は肩を怒らせて何かを言いかけたが、ふいに目を閉じ深く息をついた。そして開いた目で俺を見据え、感情を抑えた声で呟いた。
「君には最低かもしれないけど、同じ仕事をしていた頃に、僕は彼らとああいう店でよく飯を食ってたんだ。君がごひいきにしてるような店の味とは比べ物にならないだろうが、それでも僕らには慣れ親しんだ、悪くない味だ」
「……」
「自分達なりの楽しみ方をしてる人間に、一方的な価値観を押し付けて罵るなんて……正直、君をちょっと見損なった」
「おい、力ト-……」
「今度こそ僕は帰るから、君もさっさと帰れ。安心しろ、会社にはちゃんと顔を出すから」
無表情でバイクの方へ歩いて行く相棒を眺めながら、俺は猛烈に後悔した。
違うんだ、そんなつもりはなかった。傷付けるつもりじゃ……ただ俺は、不愉快だったんだ。仲間と騒いでるお前の笑顔を見て、なんだかおもしろくなかっただけなんだ。
このまま帰してはいけないと焦った俺は、足早に立ち去ろうとする奴の背中に駆け寄った。
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
支援
半生きめえ
役者さん冒涜されて可哀想
前スレまだ残ってるんだけど
641 :風と木の名無しさん[sage]:2011/03/10(木) 03:24:46.69 ID:VlWQK6zmO
地震だ地震だヒャッホイ
ドカンとでかい地震来てくれないかな
楽しみ〜
確か原発から放射能漏れると、宮城県民が県外に出られなくなるんだよね
ざまあw
今日は8台の人じゃなくかな?かな?の携帯のいつもの人が来たのか
>>31 緑蜂よかった!続きwktkしながら待ってます^^
連投すみません。
半生注意。
>>31の続きで、映画「緑蜂」より社長と助手、+秘書。
ケンカップルと世話焼きオカン的関係。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「……力ト-、待てよ!俺が悪かった」
「いいよもう、しょせん君にはわからないだろうから」
「違う、さっきのあれは、本気じゃなかったんだ。お前の友達の好みをサイテーなんて言っちまって……その、ホントすまなかった」
よっぽど腹に据えかねたのか、相棒は纏わり付く俺をほとんど無視してバイクに跨がり、ヘルメットを頭に乗せた。
焦りと後悔で動揺した俺は、つい声を荒げて怒鳴りつけた。
「だってお前が、俺が嫉妬してるなんて言うから!売り言葉に買い言葉ってやつだったんだよ」
「また、僕のせいか」
横目で冷笑されて俺はますますカッとなり、なりふり構わず叫んでしまった。
「そうだよ、お前のせいだ!お前が俺の知らない店で、俺の知らない奴らと飯なんか食ってるからだ。なんだよ、バカみたいに大笑いしやがって。あんな顔、俺の前じゃ滅多にしないくせに!」
一息にまくし立ててからはっと我に返ると、相棒は黒目勝ちな目を精一杯開いて俺を見つめ、呆気に取られているようだった。きっと今の俺はフラミンゴみたいに、全身が真っ赤になっているに違いない。
相棒はやがて、深いシワを眉間に刻んだ。この表情には見覚えがある。バカをやった俺を叱る前に、親父がよくこんな顔をしていた。
しかしこいつは、俺を叱り飛ばしたり、嘲笑ったりはしなかった。
「ブリシト、君……そんなことで怒ってたのか」
相棒はシートに横向きに座り直して、俺をまっすぐに見た。その声は穏やかで、意外な反応にちょっと驚いた後俺は、自嘲気味に呟いた。
「ああ、そうだ。小さい男だと笑ってくれよ」
「バカだな、君は。つくづくバカだ」
笑えとは言ったがバカにしろとは言ってないぞ、と小声で文句を付けた俺に構わず、奴はさらに言葉を続けた。
「僕が君の前で笑わないって?そりゃ、君のジョークはその、何て言うか……」
「イマイチ、か?」
「そう。でも全然笑ってないって訳じゃないだろ。それに今日は久しぶりに昔馴染みに会えて、いろんな話が出来て嬉しかったから、顔も自然と緩んだのさ」
「毎日会ってる俺が相手じゃ、簡単に顔は緩まないってか」
「そういう風に言うなよ。君だって、例えば女の子と会ってる時には、僕といる時とは違う顔や態度になるだろ」
「そりゃ、まあ……」
「悪い意味じゃなく、相手によって態度が変わるなんてよくあることさ。それに笑わないからって、楽しくないとは限らないよ」
バイクに腰掛け、下に伸ばした両手を組んで相棒は笑った。和やかなムードに流された俺は、思わずバカみたいな質問をしてしまった。
「力ト-、俺といてお前、楽しいか?」
「楽しくなけりゃパートナーにはならないし、ましてや『兄弟』なんて呼ばないよ。まあいろいろ問題はあるけど、僕は君と一緒にいるのが……好きだ」
茶化しもせず真剣に答えた自分に照れたのか、相棒は視線を地面に落とした。俺は急に俺の心臓の音が、ドラムロールのように激しく耳に轟くのを感じた。
相棒は照れ臭さを打ち消すようにパン、と手を叩いて鳴らすと、シートから立ち上がって俺を再び見つめた。
「ブリシト、そろそろ帰ろう。また危ない目に合わないうちに、君も早いとこ車に乗って……」
言い終える前に、体が動いた。感極まった俺は相棒の顔を両手で挟み、やや熱烈なキスをその両頬に一回ずつと、額にも一回、つまり合計三回もしてしまった。
さらに、驚く奴の肩と背中に腕を回して強く抱き寄せた。勢いよく抱きしめたせいで、相棒の頭からヘルメットが落ちた。
相棒はうろたえまくり、なおもハグをやめない俺の腕から逃げようともがいた。
「……○□×☆、△☆×!ブリシト、ブリシト!」
焦るあまり中国語で喚く相棒と、その体を捕まえたままの俺の側を、ほろ酔い気味の黒人の老夫婦が通りかかった。
「いよう、お熱いねえお二人さん!」
「あなた、若い子をからかっちゃ悪いわよ。かわいいカップルじゃないの」
ごめんなさいね、と言い残して亭主の背中を押す夫人を見送った後、俺達は拍子抜けした顔を見合わせた。
「お熱いね、だってさ」
「……!」
亭主のからかいを繰り返した俺を、顔を真っ赤に染めた相棒が睨んだ。
支援なの?
次の瞬間、左足に強烈な痛みを感じ、続いて左頬をすさまじい衝撃に襲われた。相棒の右足が俺の足を踏み付け、驚きのけ反った俺の顔面を、奴の平手が思いっきり張り飛ばしやがったんだ。
「いてえー!力ト-、お前本気で踏んで、殴ったな!」
「……君って奴は、どこまで人をからかったら気が済むんだ!真面目に取り合った僕がバカだった!」
「力ト-、何言ってる。からかってなんかいないぞ」
「嘘つけ、もう君の言うことなんか信じない!」
「待てよ、からかったって、キスしたことがか?」
「そうだよ!おかげで、通行人にバカにされた」
「あの夫婦はバカになんてしてないぞ。ただ、その、カップルと間違われただけで」
「よけい悪いよ!」
「まあ落ち着け。お前にキスしたのには自分でもびっくりしてるが、嬉しくてついしちゃったんだよ。でも別にいいだろ、この国じゃ普通に親愛の情の証だ」
物心ついてから男にキスしたのはお前が初めてだけどな、と痛む頬をさすりつつ付け加えると、相棒はちっとも嬉しくないと言いたげな仏頂面を作った。
「力ト-、怒るなよ。俺達パートナーで、ションディーだろ。それとも、照れてる?」
「……もういい!」
道に転がったヘルメットを拾い上げて被った相棒は、勢いよくバイクに跨がりエンジンをかけて、大きくアクセルをふかした。爆音の合間に、俺は声を張り上げて相棒に尋ねた。
「力ト-!お前一人で、先に帰っちまうつもりか?せっかく俺を助けたのに、また変な奴らに狙われたら、どうする気だ!」
俺の言葉を聞き取ったらしい相棒は空ぶかしをやめ、不機嫌な低い声で一言告げた。
「……車を出せ」
自宅に向かって走る俺の車の後ろに、少し距離を開けて一ツ目のライトがついて来ていた。
屋敷の門が見える場所に着いたところで、ライトはUターンした。俺は車を停め、段々と小さくなっていく赤い点をルームミラー越しに眺めた。
あいつ、朝はうちに迎えに来てくれるのかな。怒っててもきっと来るだろう。何しろ負けず嫌いで、律儀な奴だから。
視線を前に戻すと再びアクセルを踏み、相棒の怒りを解く懐柔策を思案しながら、俺は門の中に車を滑り込ませた。
翌朝相棒はやっぱり、きっちり屋敷にやって来た。まだ怒っているらしく、車の中や会社に着いてからもずっと無言だった。
無言なのは俺に対してだけで、秘書や他の社員とは普通に言葉を交わしていた。しかし聡い美人秘書は異変を感じ取ったらしく、社長室にいる俺に話しかけて来た。
「ブリシト、彼とどうかした?喧嘩でもしたの」
「彼って、あいつのこと?」
ガラス向こうの応接スペースのソファに陣取り、ボーッとテレビを眺めている相棒を指して訊くと、秘書は他に誰がいるのよという目をして頷いた。
「別にどうもしやしないさ」
「嘘ね。だってあなた達、今日はまともに口も聞いてないじゃない」
とぼける俺を、彼女は鋭く追及し続けた。もはや二人目の相棒とも言える有能な年上の秘書に根負けし、俺は夕べ起きた出来事を話してしまった。ただし、キスの件は伏せて。
「それで力ト-に殴られて、頬っぺたを腫らして、話もしてもらえないって訳ね」
「そうなんだ。俺、かわいそうだろ」
言い忘れたが左頬がまだヒリヒリ痛むので、俺は湿布を貼り付けて出社している。
「ブリシト、あなたってバカね」
「レ/ア……君もか。あの野郎も俺をバカと言ったぞ」
「そりゃ言うわよ。なんなのあなた、彼のことが好きなの?」
「違う!……いや、好きは好きだが、そっちの好きじゃない。と、思う」
微妙に語尾を濁した俺の言葉に、秘書は細くて綺麗な眉をしかめた。
「思う?まあいいわ。ともかく、友達と会ってたくらいで嫉妬されちゃたまらないわね。しかも悪口言うなんて、力ト-が怒るのは当然だし、気の毒よ」
相棒がブチキレたのは嫉妬や悪口のせいじゃなく、俺にキスされたからだとは知らない秘書は、やや的外れな諌言をした。
だが詳しく説明すると話がややこしくなるので、俺は神妙なフリで彼女の言葉に耳を傾けていた。
「ブリシト、そんな風じゃあなた、いつか彼に恋人が出来たら、その子を殺しかねないわね」
「まさか、そんな訳ないだろ!」
「さあどうかしら、あなただもの。力ト-はあなたに本命の恋人が出来たとしても、つまらない嫉妬なんかしないと思うわよ」
「どうかな。その恋人がもしレ/ア、君だったら……というか、君であって欲しいんだけど」
手を取ろうとして伸ばした俺の手の甲を彼女は軽くはたき、姿勢を正して業務用スマイルを浮かべた。
「社長、もうすぐ会議のお時間ですわ。お忘れなく」
「……了解」
ドアの方に歩いて行く揺れるヒップに目をやると、察知したかのようにこちらを振り返ったので、慌てて視線を逸らした。
「ねえブリシト、力ト-と仲直りするのよ。なるべく、早めにね」
「そっちも了解、ありがと」
どういたしまして、と返してドアを閉めた秘書は、テレビから目を離さない相棒をチラッと眺めて自分の席に戻った。
彼女に言われるまでもなく、俺は仲直りを持ち掛けるつもりだった。
完全無視されてもやもやした気分のままじゃ、とても会議になんか集中出来そうにない。
作戦はすでに練った。朝イチに電話で個室を予約した、超高級中華料理店のゴージャスなディナーだ。あいつの好物ばかりを出すよう、手回しもしてある。
金持ちらしい懐柔策だな、とか嫌味を言われるかもしれないが構うもんか、これが俺なりの誠意の表現だ。
お膳立ては出来た、後は相棒を口説くだけ。前にあいつは、『なんで僕を口説かないんだ』とか言ってたっけな。まさに、その日がやって来たって訳だ。
中華料理店のパンフレットを手にした俺は、社長室から出て相棒に近付いた。気付いてる筈なのに、奴は一向にテレビから目を逸らさないでいる。
敵は手ごわい、だが今が勝負の時だ。
「ようションディー、ちょっといいか?話があるんだ」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
やっぱりギャグ入れられなかったorz
デブイデが待ち遠しいです。
>>51 社長不器用だな〜w
これでケイローも意識してくれればいいのにw
両片思いGJ!!
半生
映画「A国王の演説」より、言語聴覚士×国王×言語聴覚士。
はっきりとリバ描写ありです、ご注意を。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
一人きりのソファは寒い。
その上で誰かと二人で過ごす時間を知った者にとっては特に。
古びた家具の上に身を起こしたバ一ティは、
最初にライオネノレ・口一グのオフィスを訪ねたあの日を思い出していた。
思えば不可能じみた事柄は全て、このソファから始まったのだ。
口一グとの出会いや彼とやりおおせたスピーチ、そして数分前までの出来事。
バ一ティは口一グの腕の中に倒れこんで少しだけ甘やかして貰っていた。
いつでも飄然として掴み所のない親友はしかし、
今宵に限っては右にも左にもかわさずに抱きしめてくれた。
国王が彼の胸や肩に頬を擦りつけられるように、
その手の平に接吻することができるように、飽くまでも優しく。
確かにお互いに平静な筈だった。バ一ティはそう考えた。
しかし再びソファから身を起こした時、
二人はもはや“親友”ではなくなっていたのだった。
裸の足に夜気が忍び寄る。
バ一ティは身震いしながら足元に落ちて皺になっている服を拾い集めた。
彼以外の分は既に見当たらない。
その主がバ一ティの体の上から離れて、既に数分が経っている。
「……口一グ、い、一体どこに行ってるんだ?」
入口付近でバ一ティの問いかけに応じる声があった。
再び姿を現した時、口一グは既に衣服を整え、
ティーポットと二つのカップを携えていた。
バ一ティは脱いだ時とは正反対の乱暴な仕草で服を身に付けていった。
照れくさく、苦しかった。
紅茶などすすりながら他人のように向かいあって座っている口一グが憎らしかった。
――彼はどんな思いで私を見つめているのだろう。
今さっき同性に抱かれることを知った男を。
「よければ、わ、私の隣に座ると良い。今夜は、……なかなか冷えるから」
「いや私はここで結構」
口一グはカップを持っていない方の手で頬杖をついた。
そのまま相手の様子を伺うさまは、診療の時のそれとまるで同じである。
バ一ティは怒鳴りつけたいのを堪え、
腹いせのように乱れ髪を整え、ネクタイを強く結び直した。
今宵だけは、かんしゃくと無縁な夜にしたかった。
バ一ティがソファから立ち上がった瞬間、口一グは僅かに身をすくませた。
何を考えたのかは分からない。
その仕草は苛立ちの他にもあらゆる感情を煽るものだったが
全てを抑え、彼は口一グの元へと歩いた。
そのまま足元に座り込み、頬を太腿の上に乗せる。
「では、私が君の所へ行こう」
愛する男は声を立てず息だけで笑った。
初冬の床の上はひどく底冷えがしたが、
口一グに正面から眺められるのを避けることはできた。
紅茶の中をゆっくりと上下する葉を見つめながら、
バ一ティは先程の出来事を一場面ずつ可能な限り細かく回想していた。
事を始めてから二人が完全に一つになるのにはたっぷり小一時間かかった。
それが全ての同性愛に通じるものなのかどうかは分からないが、
時間をかけてじわじわと押し入られ所有される感覚は
生涯体に焼き付けられることだろう、とバ一ティは思う。
痛かった。そして優しく甘美だった。
同時にそれは恐ろしい罪でもあるのだった。
「口一グ」
彼は口を開いた。
「さっき、私は何かとんでもないことを口走ったかな?」
紅茶で温まった右手が伸び、頭を優しく叩く。
「ああ。何回もね」
「言わないでくれよ。せっかく、忘れているんだから」
「いや、言う。君はついに私をライオネノレと呼んだんだよ」
王は弾かれたように顔を上げ、自身を見下ろす瞳を見つめかえした。
「い、い、いつだ?」
「いつって、最後のほうだ。君は無我夢中だったから覚えていないかもしれないが」
ライオネノレ――
その名の主とはあらゆる言葉を共有した。
睦言や罵倒のみならず、時には淫らな単語も。
しかしこのたったの六文字よりも背徳的な響きの言葉があっただろうか。
彼を特別な目で見始めて以来幾度も胸の中で叫んだ名を、
ついに口にしてしまったのだ。
「信じてないな。次からは録音しておこう」
冗談めかして呟いた口一グを他所に、バ一ティは大きく溜め息をついた。
夕暮れのハーレー街には濃い霧がかかっている。
細く開いたカーテンの隙間から覗ける街は冬の海にも似て、
古ぼけたオフィスが恋人同士を乗せたまま当てもなく船出するような
奇妙な感覚がバ一ティを襲った。
口一グの足は温かく血の流れが感じられたが、それでも身震いしたい思いだった。
「後悔しているかい?」
口一グの問いにバ一ティは再び顔を上げ、その顔を見つめ返す。
「まさか」
「しかし今、溜め息をついたろう」
夕闇の忍び寄る中だが、口一グの顔に憂いの影は無いように見えた。
全ていつも通りだ。
心の中ににどんな考えを隠しているか、伺い知ることができないのだ。
「男同士、しかも英国王と平民、英国王とオーストラリア人。
こんな愛は芝居にだってそうそう出てこない。
後悔しない王様なんていないと思ったのさ」
「誤解だ。わ、私が前に言ったことを気にしているのなら……」
頭に上った血がその英国王の舌をもつれさせた。
「既に謝罪したつもりだった。き、君の、身分や故郷を侮辱したことを」
夢中の内に立ち上がり、口一グの肩を強く掴む。
それでも不十分だという思いに駆られ、
その顔を両の掌で挟み鼻同士が触れ合いそうな距離で覗きこむ。
「た、ただ……私は……」吐息ばかりが嵐のように熱く溢れ出てバ一ティの言葉を駆逐して行った。
小指に填めた指環だけが冷たかった。
「“私は”……?」
吃音に捕われてしまったバ一ティに対して彼は多くを問わず、
ただ双眸に微笑を含んだまま、唇の形だけで小さく何かを呟く。
不審げなバ一ティを他所に、幾度も幾度も。
その語が何を意味するか解った時、吐息に混じって温かな笑いが沸き出した。
かつてその下品な言葉が、焦りに縛られた舌と唇を解き放った時のように。
「わ、私が溜め息をついたのは……」
彼は頬を紅潮させ所々つっかえつつも、やっとのことで囁いた。
「煙草嫌いの君と、これから何千回となく接吻することになるのが辛いからさ」
ジョークのタイミングが掴めないのは相変わらずだったが、
ライオネノレ・口一グは小さく声を上げて笑った。
「確かに酷い味だった。また吸ったな」
その酷い味とやらを確認するかのように、
冷たく赤い舌が伸びてきて火照った唇に先端だけ触れた。
やがてどちらからともなく唇を深々と重ね、苦しい程の接吻で互いの味を確かめ合う。
一度目の時よりも強く、優しく。
バ一ティは口一グの腕を引っ張って立たせると録音機のもとへ強引に誘った。
今度は口一グが怪訝な顔をする番だった。
「録音するんだろう?」
まさか本気にするとは思わなかった、などという口一グの呟きも意に介さず
王はたどたどしい手付きでレコードをセットし、そして再び上着を脱ぎ捨てた。
機器の発する僅かなノイズを聞きつつ、その手が口一グの肩にかかる。
「じゃあ……始めようか」
その言葉に続く名前は、心の中だけで囁いた。
真実を口に出せる訳がなかった。
ライオネノレの名を呼ぶのに相応しい者になれたか、あるいはなれるかどうか自信がないのだ、などと。
彼の前では王冠は無意味だ。
バ一ティは、不器用で癇癪持ちの一人の男に戻らなくてはならなかった。
それが恐ろしいのだ。
丸裸になった自分が、このたった一人の平民の前では
あまりに幼稚で頼りなげに思われるのだ。
バ一ティは不安を追うように頭を左右に振り、口一グの体を強く床に押し付けた。
先刻彼に捧げたのと同じものを、今度は自らが奪い去ろうとしているのだ。
こんな局面で恐れを悟られたくなかった。
「やはり痛いかい?」
口一グは既に自らの顔の両脇に肘をついて体を支えているバ一ティに飄然と尋ねる。
その様は相変わらず憎らしく、そして愛しかった。
「最初は拷問のように痛い」
冷ややかに嘘をついてみせたあとで、バ一ティは彼の両頬を柔らかく撫ぜた。
「で、でも一瞬だけだ」
わざとらしく、覚悟を決めたかのように目を瞑った
口一グを見下ろしながら、胸の中で静かに祈る。
――せめて今夜だけは、彼に相応しい男でいられますように。
互いにとって最高の夕べとなりますように。
霧煙るロンドンに、今宵も闇が訪れる。
不安定な恋人たちを包み隠す夜は、まだ始まったばかりだった。
バ一ティは不安を追うように頭を左右に振り、口一グの体を強く床に押し付けた。
先刻彼に捧げたのと同じものを、今度は自らが奪い去ろうとしているのだ。
こんな局面で恐れを悟られたくなかった。
「やはり痛いかい?」
口一グは既に自らの顔の両脇に肘をついて体を支えているバ一ティに飄然と尋ねる。
その様は相変わらず憎らしく、そして愛しかった。
「最初は拷問のように痛い」
冷ややかに嘘をついてみせたあとで、バ一ティは彼の両頬を柔らかく撫ぜた。
「で、でも一瞬だけだ」
わざとらしく、覚悟を決めたかのように目を瞑った
口一グを見下ろしながら、胸の中で静かに祈る。
――せめて今夜だけは、彼に相応しい男でいられますように。
互いにとって最高の夕べとなりますように。
霧煙るロンドンに、今宵も闇が訪れる。
不安定な恋人たちを包み隠す夜は、まだ始まったばかりだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
最後の投稿失敗、失礼いたしました。
前スレまだまだ余裕あるよー
夜中にハッと目が覚めて、私はトイレに向かった…。
その時、いように目に入って来たのが、かいだんのすみやタンスのうらから少し見える、
お母さんが買って来た、「ゴキブリホイホイ」である。
「ゴキブリホイホイ」と言えば、昔からおなじみの、アイテムであり、家の形をしたはこの
中にゴキブリをさそう匂いがする、ふくろがある。
が、その匂いにさそわれてやって来たゴキブリは、その周りにある、超強力な
ねんちゃくシートに足をとられ、無ざんに死んでいく…。
と、言う、5こ入りで、スーパーに売っている398円のお得パックである。
―――そして、そのゴキブリホイホイが妙に気になった私は、箱の中を、
そっと覗きこんで見た…。
「うわっ。ほんまにゴキブリとれとうしー。うげっまだ動っきょう。キモ〜。
こんな罠に引っかかるなんて、アホちゃーん。」
そう言って私は、トイレをすませてベッドへもぐると、
「あっそうじゃ。ちょっとだけマンガ読もーっと。」
そう言うと、マンガでぎっしりの本棚から、一冊取りだして読み始めた。
もう私はゴキブリの事などすっかり忘れていた。
次の日の学校の帰り道、見なれない、かわいい立て物があった。
(んん?こんなお店いつの間にできたん?ぜんぜん気付かんかったな〜。)
かんばんをさがしてもないのでよく見ると入り口のドアにはり紙を見つけた。
「少女マンガ専門店近日オープン!!
今ならおためし期間マンガ何でも読みほうだい!
お気軽にお入りください。」
店内をガラスごしに覗いてみると、うす暗くてよく見えなかった。
「ごめんくださーーい。」
返事がないので店の中へ2.3歩入り、もういちど、
「ごめんくださーーい。誰かいませんかー?。」
目をこらして店内をよォーく見てみると、奥の本棚に、私が以前からさがしていた、
チョーレア物のコミック本をみつけた。私はおもわず本棚へかけよった。
その時何かにつまづいてころんでしまった。
「ドタッ。」
(いったーーーー。)
立ち上がろうとすると、手足がゆかからはなれない。
(何っ!?)
と思ってゆかを見てみると、床材(タイルなど)をはるための強力な接着剤が
べったりと床にぬられていた。
(!!何これ!接着剤!?まだ工事中だったんだ!
どうしよう…。体が全ぜん床からはなれない!。)
「誰かぁーーー。たすけてーーっ。」
いくらさけんでも周りはしーーんとしている。
私は、」ありったけの力をふりしぼって体を引きはがそうともがいた。
しかし、もがけばもがくほど、接着剤が体に、からみついて来て、ますます
身動きができなくなった。
(年で私がこんなめに…。)
まどの向こうは、すっかり暗くなってしまい、ますます心細くなって来た。
その時、まどの外に人の気配を感じた。
(!!誰か来た!)
「たすけて!」
そちらを見てみると、まどいっぱいのとても巨大な目がギョロリとこちらを見た。
「!!」
私は自分の目をうたがった。
そしてまどの向こうから大きな声で、
「うわっほんまにゴキブリとれとうしー。」
私はもがいた。
「うげっまだ動っきょう。キモ〜。こんな罠に引っかかるなんて、アホちゃーん。」
(えっ。この光景、どこかで見たような気が…。
そうだ!これは昨夜の私だ!!!)
>ID:ZbJxR8Ty0
せめて前スレでやって…
闇金ウシジマくんで高田×社長。エロなし。取り立てくんをベースに社長の座敷犬状態のヘタレイケメン×ツンデレ女王様な話です。社長がらしくない程優しいですが、
甘く穏やかな話しが書きたいと思いまして・・・。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
高田は大手レコードーショップで買い物を終え、自分が借りているアパートに戻ってきた。外から自分の部屋を見ると、部屋には灯りがついている。一人暮らしの高田
だが、美麗な見かけの為に相手には苦労したためしがないので、誰かが部屋で高田を待っている状況は別に珍しくはない。
けれど、今日部屋に居るのはそんじょそこらの女ではない。早くあそこに帰りたいと急く反面、嬉しくてここで眺めていたいと思う。
「好いもんだな」
部屋の灯りを見ながら呟くと、冬の冷たい風が急に気紛れをおこして強く吹き始めた。
「寒いっ」
買ったばかりのインナーを見せつける為に恰好をつけてコートの前を開けていたが、堪らず両手で前を合わせながらアパートの中に飛び込んで行った。
ー−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ただいま」
部屋の出入り口のドアを開け、靴を脱ぐ。
「ん?美味しそうな匂い」
ふわりといい匂いがした。唾液が一気に湧き、胃が空腹で切なくなる。小さな玄関に靴を置き、部屋の一番奥にある台所の方に歩いて行く。近づけば近づくほど匂いも
近くなる。1DKの小さな我が家だが、何だかいつもより居心地がよく感じるのは匂いのお陰だろうか。
数歩歩くだけで台所との間のドアの前に行きつき、ノブに手をかけて開けた。
「社長、戻りました」
「おう」
台所には丑嶋が立っていて、鍋を掻き混ぜながら返事をした。高田は丑嶋の大きな背中にそれとなく手を這わし、鍋の中を覗いた。中には茶色のスープと大きく切られ
た肉と野菜の塊がグツグツと煮込まれている。
「カレーですか?」
「あ?ビーフシチューだ。匂いで分かるだろうが。もう少しで出来るから」
言われてみれば匂いがカレーとビーフシチューでは全く違うのだが、料理が出来ない高田にとっては、見かけにおいてはカレーとビーフシチューの見分けはつかない。
会社の前で別れ、レコードショップに向かった高田と、高田の部屋に向かった丑嶋。高田が留守にした時間は2時間近くだが、料理をしないので2時間足らずでビーフ
シチューを作れるのが手早いのかも分からない。
美味しそうな匂いがした時点で何かが台所で行われているのは分かっていたが、まさか鍋まで持ち出して本格的に料理してくれているとは思わなかった。
何しろ、高田としては我が家の台所なのに、丑嶋が今使っている鍋などの調理器具があったことさえも知らなかったのだ。恐らく調理器具自体は以前に部屋に来た何人
かの女性達が買いそろえてくれて、丑嶋が来る前からあったのだろう。それでも知らなかったのは、来てくれた女性達が料理する姿なんて一切興味がなく、出来る料理に
も興味が左程なくて、今のように台所に乗り込んで来たのは初めてとも言えるからだ。
焦げないように鍋を掻き混ぜる丑嶋を見ていると、後ろから腰に腕を回して広い背中に顔を埋めてしまいたくなってしまう。そんなことしたら丑嶋はどういう反応をす
るだろうか。いつも通り冷静さを崩さずいるだろうか。それとも、照れ隠しに怒りだすだろうか。
けれど、怒られても少し、いや、かなり困ってしまう。何しろここには刃物があるので、人の頭を金属バットで砕いてしまうような男相手では虎穴に虎の子を取りに行
くようなものだ。
高田は腰に近づきはじめていた腕を急遽進路変更し、鍋を掻き回すお玉を握る手に向けて行く。
そっと近づけ、後少し、後少しと近づけ、指先があと少しで触れる、とまでなった時、丑嶋の手が動いた。
「ほら」
「は?!」
丑嶋の手は握っていたお玉を鍋の上にあげ、高田の手に握らせた。お玉に入っていたビーフシチューはお鍋の中に落ち、少しだけ跳ねて鍋の表面に付いた。
「は?!これをどうしたら・・・」
持たされたお玉に戸惑う高田に目も合わせず、丑嶋は忙しげにコンロから離れ、机の上に乗せてあったボールの方に向かった。
「いいって言うまで掻き混ぜてろ。俺はその間にこっちをやるから」
戸惑ったままで手を動かさない高田と違い、丑嶋はボールの中に入っている野菜に調味料を掛け、手早くサラダを作っていく。
「混ぜるって、えー・・・」
やれと言われたものの、ただ単純に混ぜるだけの作業でも、やったことがない高田にはそれさえも上手に出来ない。
モジモジと手を蠢かしていると、丑嶋が大股で歩いてコンロの方に来た。
「こうだ、こう」
言うが早いか、丑嶋はお玉を握る高田の手の上に手を重ね、ゆっくりと鍋の底から掻き混ぜさせた。
「焦げないように、こうやってやるんだ」
自分から触れようとしていたのに、先に触れられてしまった。かえって高田の方が緊張して赤くなってしまう始末だった。
高田がぎこちなく手を動かし始めると、丑嶋の手が離れた。
「サラダもすぐ出来るから、そうしたらもう掻き混ぜなくていいぞ。終わったら、そこに置いてある皿に盛れ」
丑嶋は高田の顔の赤さには全く気付かず、再び机の方に戻って行く。
高田は丑嶋の方を振り返るが、手は言われたままにお玉を動かしている。折角の共同作業だったというのに、触れられたのは本当に一瞬だ。相手が女だったら自分はこ
んなにヘタレではないのに、と気落ちしてしまう。
もし高田に犬の尻尾がついていたら、さぞかし情けなさげに下に向かって垂れさがってしまっていることだろう。本当ならご主人さまに飛びついて喜びを態度に表して
興奮していまいたいのに、こう、あまりにつれないご主人さまだと、高田の方のテンションだって下降してしまう。
丑嶋は、高田のテンションを知らず内に上げ、次の瞬間に急降下させたことなど知らないし、考えもしない。味を調えたサラダの味見をするべくボールの中にスプーン
を入れ、それをペロリと舐め上げる。赤に近い桃色の舌、銀のスプーン、薄クリームのドレッシングがそこに絡む。舌の先がスプーンにめり込んだかと思うと、こそぐ様
に付着していたドレッシングを舐めとる。赤に近い桃色の舌に移動した薄クリーム色のドレッシングは舌ごと口内に招き入れられ、ほんの少しの間を置いて嚥下によって
丑嶋の体内に入って行った。ボコリと上下運動した喉仏は綺麗な肌色で、ドレッシングが進んでいく体内は舌と同様に赤に近い桃色なのだろうか。
ただ単なる味見をしている光景なのに、何故か妖しさを漂わせる。高田は少し鼓動が五月蠅くなったのを感じ、慌てて視線を鍋に移して一心不乱に手を動かす。
本当に情けない。中学生ではあるまいし、興奮する沸点が我ながら丑嶋相手では引きすぎると思う。
「うん。これぐらいだな。高田、もう出来たぞ」
高田は、本来なら卑猥でも何でもない光景に僅かばかり興奮していたが、我に帰ってコンロの火を止め、用意されていた二つの皿にシチューを盛りつけてる。まずは液
状部分のシチューを入れ、続いて大きな具材を見栄え良く入れる。皿の淵についたシチューは綺麗な手拭いで拭きとる。
机に置いて見ると、素人ながら綺麗に盛りつけられたのではないかと思う。
丑嶋もシチューの皿より小さい皿を出し、サラダを盛りつけていく。数種類の野菜の彩りよく、高田の盛ったシチューよりもだいぶ綺麗だ。感心していると、丑嶋の視
線がビーフシチューを盛った皿に注がれた。
「綺麗に出来たじゃねェか」
丑嶋はニヤリ、と笑いながら高田を褒めてくれる。テンションの下がっていた高田だが、一気に嬉しくなってしまった。もし高田に犬の尻尾がついていたら、空へ舞い
上がれる速度で尻尾を振っていただろう。
「それじゃ、食うか」
それぞれ各自、出来た料理の皿を持ち、台所から部屋に移る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
広い部屋ではないが、綺麗に片づけてはある。いつも使っている机を拭き、食卓へと変化させる。皿を置き、丑嶋が座る。高田は腕に掛けていたレコードショップの袋
から買ってきたばかりのDVDを出し、デッキにセットした。
再生が始まると、食事も始める。
「うまいっ」
ビーフシチューを一口食べて、食事中だと言うのに思わず大きな声を出してしまった。丑嶋は何も言わない。だが、テレビに映るのは面白くない他の映画の予告篇なの
に、口角が僅かばかりに上がり、高田には笑顔のように見えた。
「社長、うまいです」
わざわざ二回も言う必要ではないのに、高田はわざわざ丑嶋の顔を見ながら言った。
「いいから、DVD見てろよ」
「はい・・・」
失敗したかなぁ、と思った高田だが、それとなくだが、丑嶋の横顔は先程よりも嬉しそうに見えた。めったに見せてくれない笑顔に、高田も嬉しくなった。
嬉しいやら、美味しいやらで思わず含み笑いを堪えていると、DVDは本編に突入した。
今日買ってきたのは、大手会社制作のCGアニメーションだ。ついこの前、丑嶋とマサルと加納と小百合、それに高田の4人で映画館に観に行った作品のシリーズの一
番最初の作品だ。
この前観にいったのは3作目だった。丑嶋はこの作品のシリーズを見るのは初めてらしかった。だが、映画館の帰りに珍しく沢山喋っていたので、おそらく気に入った
のだろうと感じ、高田がわざわざこうしてDVDを買って来たのだ。
最初はただ単に丑嶋との共通の話題となればいいと思い、1作目と2作目のDVDをプレゼントするつもりだった。
だから、今朝、高田がプレゼントすると申し入れたところ、丑嶋は高田にそんなことをされる覚えはないと断ってきた。
別に下心があったわけではないので、せっかく気に入ったなら、1作目から見た方が先日観た3作目の面白さが分かると言い、半ば自分勝手に高田が会社帰りに買って
しまうと宣言したのだった。
そしたら何と、丑嶋が一人で見るより二人で見る方が楽しいから、と一緒に観ようと申し出て来たのだ。しかも、高田がオーディオショップに買いに行っている間、高
田の家で食事を作って待っていてくれると言ってくれたのだ。
正直、高田は飛び上りそうなほど驚いた。驚くと格好悪いのではないのだろうか、と思ったので、表面上はいつも通りの長い髪を指で弄りながら笑顔で応じたのだが。
まさか、丑嶋がそんなことを言ってくれるとは想像も出来なかった。そんなこと言われては、下心なんてなかったのに、下心が生まれてきても仕方がないではないか。
何故丑嶋は、今の状態のような素敵な提案をしてくれたのだろうか。もしかしたら、下心をもっても良いということなのだろうか。
こういうことをグルグル考えること自体が下心の始まりと言えなくもない。テレビの画面には沢山の動くおもちゃ達が出てきて楽しげのようだが、高田は映画どころで
はなかった。ただ、冷めてしまう前に食事を美味しいそうに平らげることで精一杯だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食事を終え、DVD一本を見終わった後、丑嶋はきっちり片付けをしてくれていた。高田も微力ながら手伝っているが、ほとんど何も出来ないも同じだったと自覚して
いる。ありがたいことに、丑嶋が洗って拭いた皿を、自宅だと言うのに収納場所さえもおぼつかなく、言われるがままにしまっただけで「うん」、と機嫌のよさげな声を
頂いた。
ろくに台所に入ったことがないし、片付けなんてしたことがなかった高田だが、何となく、何となくだが、こういうのもいいと感じてしまうのだった。
丑嶋が残った食材を入れようと冷蔵庫を開けると、先ほどの機嫌のよさげな声とはかなり響きの異なる声を上げた。
「おい、何で水と調味料ぐらいしか入ってねェんだよ」
「あー・・・、いや・・・」
別にとやかく言われても構わないのだが、丑嶋の低い声には適度な緊張感を自然と生む作用があるようだ。高田は恐縮しながら丑嶋の後ろから冷蔵庫を覗きこんだ。
「あ、でも、確か他にも入ってたような気がします」
言い訳をするように冷蔵庫の中を探すと、申し訳程度の食材があった。ただ、入っているのは豚肉のスライスパックやら、もとは数枚入りだったはずなのに、半分干か
らびかけた物が一枚のみ残っている油揚げの袋やら、高田には最早何なのか思い出す気にもなれない茶色のキノコらしき真空パックが入っている位だ。これでは、「ほら、
水と調味料だけではないでしょ」、と偉そうに言えないだろうと言う事は、料理をしない高田でも分かった。
「この、キノコ・・・?何でしょうか?」
「ナメコ。汁物にすると美味いんだ。お前なぁ、名前も知らないで買ってくるんじゃねェぞ」
「あー、そうそうナメコですね」
適当に相槌を打ってみる。心許ない食材はでさえ、数日前に使いやすいという理由で手を出している女の奴隷くんが泊まって行った時に、料理を作ってくれたので残っ
ていた物だ。せっかく二人でそれなりにいい雰囲気になっている時に、そんなことを言うべきではないので言葉を濁す。
高田が髪の毛を弄りながら苦笑いをすると、丑嶋は冷蔵庫を閉めながら上目づかいで何かを考えて始めたようだ。
「豚肉に、油揚げ、ナメコに、今日の残りの物と・・・。うん、味噌と生姜とくらいあれば、味噌汁と、煮物と、豚の生姜焼きは作れるか」
今ある物と、足りない食材をすぐ掛け合わせ、すぐにバランスのよさそうな献立を思いつく。高田には出来ない芸当なので、素直に感心してしまう。
しかし、そんな献立を思いつかれても、高田には作る事は出来ない。
「よし、明日にでも作りに来てやるか。外食ばかりじゃ栄養偏るしな」
「はい?!作りに来るって、社長がですか?!明日もですか?!」
「何だ、嫌なのか?」
「いえいえいえ、凄く嬉しいですけど」
突然ありがたい申し出を受け、高田は驚く。嫌な訳ないではないか。むしろ、今日のような美味しい料理だったら飽きることなく食べたいし、及ばずながらでも、丑嶋
の手伝いだったら料理も片付けも苦にならないし、楽しいくらいだ。だが、別に強請ったのではないのに、何故丑嶋がそんな気を使ってくれる必要があるのか。ただ単に
社員である高田の食生活を気遣っているにしても、それでは通い妻のごとく丑嶋が連日来てくれる理由としては弱すぎる。
「何でそんな・・・」
食欲が満たされ、すっかり忘れていた性欲というには小さい下心が再び芽生え始めてしまいそうだ。もしかして、と高田が身を乗り出し、丑嶋の頬に手を伸ばす。丑嶋
は明後日の方向を見つめ、小さく呟く。
「さっきのアニメ、まだ2作目があるんだろ?明日観ようぜ」
「ア?!アニメ、ですか。そうですね・・・」
よっぽどあのカウボーイと宇宙レンジャーの出るアニメ映画が気に入ったのか、と悲しくも納得するしかない理由に頷く。だが、果たしてその理由は丑嶋の本心なのだ
ろうか、とも思う。高田がプレゼントすると言っているのだから、わざわざ高田の家に来て料理をしなくても、ただ今日、持って帰れば済むことではないか。
高田は躊躇したが、丑嶋の頬に伸ばした手を前に少しずつ突き出していく。
もう少し、となった時、丑嶋が後ろに一歩下がって笑った。
「明日、な。今日はもう帰る」
そう言うと、丑嶋は高田の脇をすり抜けて玄関の方に歩いて行き、すぐさま外に出て行ってしまった。
高田は声をかける事も、追いかける事もしなかった。
それよりも、先ほどの丑嶋の「明日」という言葉が、果たして何を示しているのかが気になって仕方が無かった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!お目汚し失礼致しました。高田×社長、竹本×社長等、社長受大好き派ですので、やっぱり高田×社長です。
>>79 お料理上手な社長可愛いぃいいい
続き楽しみにしてます!
>>70,75
>美麗な見かけ
>それとなくだが
違和感を覚える
他の言葉に置き換えろ
>>71,74
一行目書き直し
>>72 二行目(ry
>>73 >もし高田に〜
イミフな例え方
犬の尻尾とかきめえ
添削飽きた
山田悠介とお似合いな文章力
小学校からやり直したら?
また出たよ
透明あぼーん余裕っす
>>79 高田×社長キター(゚∀゚*)ー!
ヘタレワンコ攻めとツンデレニャンコ受けの組み合わせが最高です!つれないニャンコが不意に寄ってきてくれるとすごく嬉しいですよねw
優しいモード入ってる社長の「うん」に禿萌えました
本当にいつもありがとうございます!
暗い話題のご時世ですが、とても元気でました。
もういいかげん自サイト作ってそっちでやってほしいわ
>>81 添削もいいけど、そんならお手本よろしゅう〜。
しかし、IDが顔みたいでおもろい。
赤ペン先生多数出没中だな
そろそろ春休みなのかな?
シルバー事件25区で地調課の月と太陽コンビ。エロなしです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「せんぱぁい、僕ね、先輩の事、本気で尊敬してるんですからねぇえ」
「あーハイハイ分かったよ…」
「ちゃんと、好きですからね」
「そういうのは彼女に言えよ…」
「あれ?言いませんでしたっけ?ちょっと前に、別れちゃいましたあ!」
狭いアパートの一室で、オレとオオサトはだらだらと酒を飲み交わしている。
オオサトのヤツが酒飲みましょう、と唐突な誘いを掛けてきて、それに対して給料日前だから家飲みなら付き合ってやると答えたら、
じゃあビール買って先輩の家ですね!なんて勝手に決めた挙げ句俺の腕を引っ張って買い物カゴに大量に酒缶を突っ込み始め、今に至る。
というかオオサトよ、こんなむさくるしいアパートよりお前の新築間もないお綺麗なマンションへ案内しやがれってんだ。
そんな風に頭の片隅で愚痴りつつも、酒でぐでんぐでんになって背中にしなだれ掛かってくるこいつの体温に人恋しさを刺激されるのが我ながら情けなくてたまらない。
そして彼女と別れたと聞いて嬉しく感じてしまったのはオレの独り身故の僻みからだ、と自分に言い聞かせながら呷るビールはすでに気が抜けて温く、思考の転換にまるで役立たない。
「ね、先輩」
「何だよ…!?」
振り向いた瞬間口のすぐ横にキスをされた。
いや、頬だ。頬に決まっている。当たってない、当たってない!オレの混乱をよそにオオサトはけらけら笑いながら
「びっくりしましたあ?」
なんて言ってやがる。振り向きざまにするイタズラってのは頬を指で突付く程度が普通だろうが!
「だってそれじゃあただ不機嫌にしちゃうだけでしょ?先輩の驚く顔、僕好きだな」
「このバカ!悪趣味!」
コンビニの袋から新しいビールの缶を出し、プルタブを開けてかっ込むようにぐっと呷る。
オオサトはそんなオレをにやにやと眺めていたかと思うと、とんでもない事を言いだした。
「女の子の基準だと、キス出来たらその人とはセックス出来るって言うんですよぉ」
ビールが気管に入って盛大にむせた。咳き込んで苦しい。涙も出て来た。
お前はなぜこのタイミングでそんな事を言うんだ。オレはどうしてこんな目に遭わなければならないんだ。
「まあそんなワケなんで先輩、僕と寝てみます?」
「バカッ!お前なんか床で雑魚寝してろ!」
「もー、あんまりバカバカ言わないでくださいよー。からかい過ぎたのは謝りますけど、僕だって傷付きますよぅ…」
オオサトが体育座りでしゅんとし始めたのでハイハイ悪かったよーなどと言いながら肩を軽く叩いてやったらオオサトはぼそりと呟いた。
「…吐きそう」
「うわっ!トイレ貸してやるからここでは吐くな!吐くなよ!」
肩を貸す必要もない距離なのにオレはオオサトに肩を貸してトイレまで連れて行った。
気が付けば時計の針もすでに2時を指し、明日が休みとは言ってもオオサトの体調を考えればそろそろお開きだ。
「いやあ…先輩、すみませんでした」
「あのさオオサト、なんでこんな痛飲ってくらい飲んじゃったの?」
オレが何気なく放ったこの質問にオオサトはあー、だのうー、だの意味のない唸り声をあげながら柄にもなく逡巡している。
黒靴下の右足先がぶらぶらと揺れながら床を軽く叩き、俯けた視線も右に左に落ち着きなく床を滑っている。
まあ座れよ、何か愚痴でもあるなら聞いてやるから…と言い掛けた時にようやくオオサトは意味のある言葉を発した。
「いやあ…酔ってしまえば思い切れちゃうかなー…なんて、思ったり、した…んですけど、ね…?」
「え?何を?」
「っ、ははは!忘れてくださいよ!じゃあ僕、これで失礼しますね!今日はありがとうございました!」
まくし立てるように一息で言いながらオオサトは玄関から出て行こうとする。
オレは何故だか知らないがこのまま帰してはいけないような気がしてその腕を掴んだ。
でも、有り得ない。だって俺は普通に女の子が好きなのに。仕事であっても女の子の部屋とか入ると無性にはしゃいでしまうし、
街で女子高生とか華やかなOLの群れなんか見るとウキウキしてしまうし。
なんでだ。割り切れない感情なんてたくさん味わってきたと言うのにこんなの、本当に理不尽だ。
オオサトはオレに正面から抱き締められていた。
腕の中の身体は抵抗を見せないどころか、自らの腕もオレの背中に回してどこかうっとりした声で「ツキさん…」なんて呟いている。
思わず腕に力がこもってしまう。
「い、痛っ」
悲鳴が上がった。
「わ、悪い」
冷水を浴びせられたような心地で腕を解くとオオサトがなおもオレの背に手を回したまま問い掛けてきた。
「せんぱい、僕、喜んでしまっていいんでしょうか?」
大きめの、猫を思わせる鋭くも快活な瞳が潤み、いじらしく揺れている。
くそ、これも冗談だったらオレは失踪してやるぞ。そんな自棄っぱちな思いで、オレはオオサトに自分から唇付けた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
>>90 ふっふぁー!ももももえた萌えたー!
ありがとうありがとう!
携帯から削除してないハズだからちょっと再プレイしてくる!
>92
GJ!…だけど、この位の長さなら前スレに投下して欲しかった
今、作品(とも言えない)書いてるんだけど、サイトを持ってなくて作る知識もなくてどこにもうpできない
たった二回のやっそんの話なんだけど、ストーリー性とかないのにすんごく長くなっちゃって一回じゃあとてもうpしきれない
おまけに下手。おまけにリバ…(一回目AB→二回目BA)
顔射編、事後編とかに分けて、トリップ付けて、連載(シリーズ物?)みたいな感じにして棚に投稿してっても大丈夫かな…
シリーズ物ってストーリー性がないとだめかなあ…とか思って
すごい下手なんだけど、でも自分で萌えて書いたものだから誰かに見てもらいたい、批判でもいいから何か言ってもらいたいんだ…
別にストーリー性が無くても構わん。っていうか、ここはどんな物を投下しても自由。
あんまり短期間に何回も投下すると文句付ける奴はいるだろうが、
そういうのは気にする必要はないし、
気になるんだったら一カ月に一回とかのスローペースにすれば文句はつかない(はず)
そしてここに投下したからと言って必ずしもレスがつくとは限らない。
(同人ノウハウ板の「評価スレ」なら絶対にレスはつくが、作品の欠点も指摘されるので、オススメしない)
それでもいいなら好きにするがいい。
(ブログを作ってそこにうpするって手もあるし、それが簡単で楽だとは思うんだが、嫌なら別にかまわない)
リバ注意!ヒカルの碁
アキラ×ヒカル、の後、ヒカル×アキラにかわります
ガチリバな二人でエロ。しかもその日の勝負で上下が決まるというベタなアレで…
顔射、事後、みたいなかんじで小分けにして続き物でちょこちょこやってくつもりです。
ヒカルの一人称(ヒカル視点)で進みます
とりあえず始めのほうの少しだけ。次はいつになるかわかりません…
アキラの部屋からはじまります
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
敷き布団だけを敷き終わった塔矢のスーツの袖から見える、淡い黄色のワイシャツを見て、ふつーの色のワイシャツだったら合うのになあ、
なんて思いながら、そのワイシャツから伸びる手がシーツを整えるのを眺めていると、あることに気がついた。
「あれっ、おまえ、碁盤と布団、場所変えんの?」
部屋の隅にあった碁盤が部屋の真ん中に、いつもは部屋の真ん中に敷く布団が部屋の隅の壁際に移動している。
「ああ、前々から思っていたことだけど……」
「うん」
「畳が傷むんだ」
「…あ、」
爪先を部屋の真ん中の畳に滑らせると、靴下越しに、確かに畳が微かに毛羽立っているのを感じる。
敷き布団を敷き終わって、スーツの袖を軽く払った塔矢は、身体に腕を回して、あちこちに唇をすりよせて邪魔をするオレをものともせず、
背広を脱いで、オレの首のうしろで器用にブラシをかけて、ハンガーに掛けている。
「そっか」
塔矢の腕がオレの腰に回って、もう片方の手がオレの背にブラシをかけた。
「壁際に寄せて、角に固定しておいたら、少しはマシだろう」
「だな」
肩と前見頃にも窮屈そうにブラシをかけている。
「腕出して」
右腕をほどくと、軽く塔矢が腕を持ち上げてブラシをかける。
次に左腕をほどいて、自由になった右腕を、塔矢のセーターの下に潜り込ませた。
「…あ、毛糸、…付くよ」
微かに身をよじる塔矢に構わず、人差し指でワイシャツの上から塔矢の背骨をなぞって、ぼんやり呟く。
「……先に敷くんだ、布団」
塔矢は、ふ、と洩らすと、進藤、上着脱いで、と言ってオレの背を撫でた。
「ん」
ゆるく回された腕の中で、身をよじりながら上着を脱いで、後ろ手に塔矢に渡す。
「この一週間ずっと忙しかった」
スーツの上着をハンガーに掛けてから、塔矢は、オレの額に額を擦りあわせて、前髪をじりじりさせながらそう言った。
「打とうか、進藤」
「……おう」
言いながら、碁盤の前に座る。塔矢も碁盤に座ると、まっすぐこっちを見据える。碁盤を挟んだ距離からでも、塔矢の両目にオレが映っているのが見える。
この目も、この瞬間も、失いたくない、かけがえのないものだと思う。
「…お願いします」
「お願いします」
塔矢の髪の、光を反射してできた輪が、頭の上下に合わせてつるりと揺れた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
とりあえずこれでいったん終わり
>>97 スレでちょっとしたリバ祭りになってから三ヶ月…
長かった…
GJ!
気長に全裸で待機してます!!
半生注意。映画「緑蜂」より社長×助手。
>>46の続きでその夜の出来事。エチー未遂、ちょっと汚い描写あり。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タクシーから降りた俺は、べろべろに酔った相棒に肩を貸して屋敷に入った。
今夜は二人仲良く、高級中華料理店でディナーとしゃれ込んだその帰りだ。
ほんの行き違いから相棒の怒りを買った俺は、ご機嫌を取るために最高の店を予約した。
ごねる相棒を、ほとんど無理やり店に連れ込み丸いテーブルに着かせて、次々に料理を運ばせた。
美味さで頬が緩んだところに極上の老酒を進めつつ、いかに自分が相棒を頼りにして、その才能に敬意を抱いているかを並べ立てた。
俺の口車を聞きながら、相棒はまんざらでもなさそうな様子で料理と酒を口に運んだ。俺はここぞとばかりに誉めておだてては、奴のグラスに強い酒を何度も注いだ。
時が経ち、料理を平らげてそろそろ帰ろうという頃には、相棒はすっかり出来上がっていた。
「力ト-、しっかりしろよ。うちに着いたぞ」
「……已経不行、已経酒不能喝」
「何言ってるかわかんないぞ、力ト-」
「ブリシト……もうダメ、もう飲めないよ」
「言われなくても、もう酒はやらないさ。ったく、こんなに飲ませるんじゃなかったな」
注げば注ぐだけ飲み干すのが楽しくて、ついつい飲ませ過ぎてしまったのを後悔した。俺だって酔っちゃいるが、足腰が立たないこいつほどじゃない。
「力ト-、もう今夜は泊まってけ。ほら、ベッドに着いたぞ」
「うー……是床、發困……」
「だからわかんないって。力ト-、眠いのか?」
自室のベッドの上に降ろすと、相棒はだるそうにゴロリと転がりうつぶせになった。着たままの革ジャンが窮屈そうに見えたので、俺は手を伸ばして脱がせてやった。履いたままの靴も脱がせると、相棒は顔をこっちに向けた。
「……ブリシト、なんで脱がしてるんだ。僕は女の子じゃないぞ」
「バカ、何言ってる。お前が苦しそうだから、上着を取ってやったんじゃないか」
赤い顔をした相棒は、俺をからかってクスクスと笑った。いつもの少し斜に構えたような感じはなく、えらく楽しそうな奴を見て俺は思わず苦笑した。
「ありがとう。ちょっと、楽になった」
相棒は呟くと、仰向けになって手足を伸ばした。
俺は部屋の隅のポールハンガーに、奴の革ジャンと、ついでに自分のジャケットも脱いで掛けた。それからベッドの側に戻り、寝そべる相棒の横に腰を降ろした。
「力ト-、大丈夫か?」
「……うん、大丈夫。でもおかしいな、こんなに酔うなんて滅多にないのに」
「そりゃまあ、あれだけアホみたいに飲めばな」
「ひどいな。飲ませたのは君じゃないか、ブリシト」
「悪い悪い。お前がニコニコ笑ってグイグイ飲むのが、なんだかおもしろくってさ」
「君が上手いこと言って調子に乗せるからだ。全くひどい野郎だな!サイテーだよ、君は」
罵りながらも、相棒の表情は相変わらず陽気だった。こいつは、酒が過ぎるとやたら明るくなるタイプのようだ。まあ暗くなってウダウダ愚痴られたりするよりは、はるかに健全な酔っ払いだ。
「力ト-、もう俺のことを怒ってないんだな」
「怒る……僕が何を、怒ってたって?」
「忘れたのか?口も聞いてくれないくらい、怒ってたくせに」
呆れて頭を軽く小突くと、相棒は首を傾げてちょっと目を閉じた。
「口も?くち……ああそうか、昨日君が僕にキスしたことだ」
「そうあらためて言われるとなんだか照れるが、まあそうだ」
キスしたと言っても頬と額に、あくまで友情のしるしとしてだ。だが相棒はそうとは受け取らず、俺にからかわれたと激怒した。
最高の環境でこいつをなだめて誤解を解くために、俺は今夜のディナーを用意したって訳だ。
「ブリシト、今だから言うけど……僕はあの時、怒ったっていうよりは、びっくりしたんだ」
「そうなのか?まあ俺だって、自分にびっくりしたけど」
「うん……君に悪気がないのはわかってるけど、僕はあんな風に……その、キスされたり、抱きしめられたことが、あんまりなかったから」
「おい、力ト-……お前まさかと思うが、童貞なのか?」
「……違うよ!そうじゃなくって、女の子以外でってこと」
「ああ、なるほどね。でもお前……」
家族とかには、と言いかけて口を閉じた。
こいつは幼い頃に両親を亡くしてるってのに、何を言おうとしたんだ俺は。いくら酔ってるからって、忘れる奴があるか、バカ野郎!
焦る俺の様子なんか気にも留めず、奴は夢見るような口調で言葉を続けた。
「もし本当に兄弟がいたら、あんな感じでキスしたり、抱き合ったりしてたのかなって今は思う。
でも慣れてないからびっくりして、あの時はつい君を殴って、怒鳴ってしまったんだ。そしたらもう、どうにも引っ込みがつかなくって……」
「なんだ、やっぱり照れてたんじゃないか!力ト-」
意地悪く叫んで睨むと、相棒は首をすくめてゴメンと小さく囁き、ますます顔を赤らめた。
いつもは対等の兄弟分で、時には兄貴のように頼もしく振る舞う相棒が、今はまるで弟みたいにやけに愛らしく見えた。
俺は声を上げて笑い、相棒の黒い髪をぐしゃぐしゃと両手で掻き回した。奴も笑って、俺の手を避けようとしながら叫び声を上げた。
「……ブリシト、やめろよ!」
「この野郎、俺を振り回しやがって。もっと素直になれってんだ」
「いつも僕は君に振り回されてるんだ、たまに振り回すくらい、いいだろ!」
「……ああ、構わないさ。それがションディーってもんだ」
俺は手を止めると、左手で相棒の乱れた髪を梳いてやり、ポンポンと頭を優しく叩いた。
相棒は何も言わず、ぼんやりとした目で俺を眩しそうに見つめた。
「ションディーなら、キスなんてますます普通のことさ。たいしたことじゃない、だろ?」
「そうか……そうだね」
そうさ、と返して頭から放した俺の手を、相棒の手が掴んだ。
急に掴まれたことと、その手の熱さに驚いていると、奴はもっと俺を驚かせる行動に出た。
俺の頭の後ろにもう一方の手を回して引き寄せ、 近づいた俺の唇に自分のそれを重ね……つまり俺に、キスをしやがったんだ!
軽く触れた唇をすぐに離すと、相棒は間近にある俺の顔に笑いかけた。
「……本当、たいしたことないね」
楽しそうに笑い声を上げる相棒から、俺は勢いよく体を離した。
なんだ、何をしやがったんだこいつは!あんなにびっくりしたとか、照れてたとか言っといて……口にするか、普通!?
もちろん酔っ払いの悪ふざけに決まってるんだが、大いにうろたえた俺は、自分の頭に血が上っているのを感じた。
「ブリシト、顔赤いぞ。熱いのか?」
「あ、ああ、まあな」
「僕も熱い。実はさっきから、ずっと熱いんだ」
熱い熱いと言いながら、相棒は緩めていたネクタイを首から取り去り、白シャツのボタンに手をやった。だが酔いのせいで、上手く外せないようだった。
「あれえ……指が動かないなあ」
「何やってんだ。脱ぎたいのか?」
「うん……ブリシト、手伝ってくれないかな」
器用な相棒らしくもなくモタつくのを見かねて、俺はボタンに指をかけた。しょうがないなとぼやきながら、俺の胸はなぜかドキドキしていた。
なんでだ、こいつは男だぞこのアホ!と自分にツッコミを入れつつ全部のボタンを外してやった。相棒はシャツの前をはだけて、ほうっと息を吐いた。
「ちょっとはマシになったか?力ト-」
「うん、涼しい。ブリシト、ついでにベルトも緩めて欲しいんだけど」
「……お前スッポンポンになるつもりか?俺は俺のベッドに、裸の男を寝かせる趣味はないぞ」
「違うよ、食べ過ぎたせいで苦しいんだ」
「ああ、そういうことか」
言われるままにベルトを緩めてやる俺の目の前に、相棒の裸の胸があった。
十代の少年のように、相棒の肌は滑らかだと思った。東洋人は男でも肌が綺麗だと聞いていたが、あれは本当なんだなと妙に感心した。
体毛は薄く、しなやかな筋肉を包む肌は象牙色をしていて、柔らかそうに見えた。酒と食い物のせいで、ちょっぴり腹がふくらんでるのがご愛嬌だ。
「趣味じゃないくせに、男の裸なんか眺めてて楽しいのか?ブリシト」
視線に気付いた相棒のからかう声に、俺は自分でも意外な言葉を返していた。
「力ト-、ちょっと触ってもいいか?」
「……いいけど」
普通に考えたら相当気色が悪い筈の俺の申し出を、事もなげに受け入れた。お互い酒のせいで、思考がまともに働かなくなってるみたいだ。
酔っ払いの俺は、超酔っ払いの胸にそっと手を這わせた。くすぐったがって身じろぐのがおもしろくて、俺は相棒の体をむやみに撫でた。
「バカ、やめろよ!くすぐったいだろ」
「お前って、えらくスベスベしてるな。手触りが良くて気持ちいい」
「僕は気持ち良くない!」
「なんだと、俺様のテクを甘く見るなよ!」
相棒は体をよじり、触り続ける俺から逃げようとした。じゃれ合う犬か子供みたいに、俺達はベッドの上でふざけていた。
逃げる体を捕まえようとムキになった俺は、奴の左肩と右手首を掴んで上からのしかかった。
かっちりと目が合った。つぶらな黒い目は少し潤んでいて、まっすぐに俺を見ていた。
半開きの唇はいつもより赤く、さっきこの唇にキスされたんだなとあらためて思った。
吸い寄せられるように俺はキスをした。頬でも額でもない、赤い唇にだ。
相棒は嫌がらず受け入れた。しばらく押し当ててから離すと、今度は相棒の方からキスを仕掛けて来た。気が付くと、互いに口を開いて舌を絡めていた。
両手首を掴んで口内をむさぼると、苦しそうに呻いたので唇を解放した。荒い息の下から奴は、至極もっともな質問をした。
「……なんで、キスした?」
「さっきお前がキスしたからだ、お返しさ」
「僕のは、ションディーのキスだ」
「俺だってそうだ」
「夕べのは、だろ。今のはションディーのキスじゃない」
「じゃあなんのキスだって言うんだ、力ト-」
「ブリシト、僕が君に訊いてるんだよ」
相棒は困ったように笑ったが、構わず俺はまた口づけた。下にした体を掻き抱くと、相棒は自由になった腕を俺の肩に回した。段々とキスは激しさを増し、水音が響くほどになった。
俺は離した唇を首筋に埋め、音を立ててそこにもキスを落とした。両手はつややかな肌の上をするすると這い回り、熱を帯びた相棒の上半身を飽きずになぞった。
呼吸を乱して、相棒は切なそうに俺の名前を小さく呼んだ。俺も荒く息をつき、唇や顔と首のあらゆる箇所に繰り返し口づけた。
俺達はどこへ向かってるんだろうと思ったが、俺のキスに応える相棒がいじらしくかわいくてたまらず、もう勢いは止まらなかった。
震える喉元を噛むようにキスして、鎖骨の真ん中の窪みに唇を滑り落とすと、相棒が悲鳴のような声で俺を呼んだ。
「……ブリシト、ブリシト!待って、待ってくれないか」
「ダメだ力ト-、もう止められない。なんだかわからないが、火が点いちまったんだ」
「ダメ、ダメなんだブリシト、お願いだから」
「力ト-、今さらどうした?俺が嫌なのか」
「い、嫌じゃない……ないんだ、けど」
気付くと、捕らえた相棒の体はブルブルと震えていた。驚いて見直すと赤かった顔はやや青ざめて、何かを耐えるように唇を噛み締め、眉を険しく寄せていた。
「力ト-……やっぱり、嫌なんだな」
「違うよ、そうじゃなくて……ううっ!」
ふいに体を翻して背中を向けると、相棒は拳を握りしめてベッドに顔を伏せた。
「力ト-!?なんだよ、一体どうしたって……」
訳がわからず肩を掴んで軽く揺さぶると、相棒は苦しそうに、心底苦しそうに呟いた。
「……不舒服快要、吐出了……!」
「英語で言えって!」
「……きもち、わるい」
「なんだって?」
次の瞬間相棒はぐうっ、というような声を喉から搾り出し、大きく体を揺らした。俺はようやくヤバい事態だと気付いたが、すでに後の祭りだった。
相棒は盛大に、俺のベッドの上に……をぶちまけやがった。おお、神よ!
第二波をもよおした相棒を我慢しろと励まし、慌てて洗面所まで引きずって行った。一人で大丈夫だからと言い張るので、俺は部屋に戻った。
空気を入れ換えるために窓を開けた後、凄惨な状態になった掛け布団を慎重に丸めて部屋の外に出した。
別の部屋から新しい布団を持ってきて、ベッドの上に広げた。布団以外には被害がなかったのが幸いだ。
後始末をしながら、以前酔いどれた俺が部屋で吐いたブツを、うちのメイドはこんな気持ちで片付けてくれたのかなと考えたりした。そして、もう二度と悪酔いはしないと心に決めた。
だいぶ気分はヘコんだが、粗相をやらかした相棒を責める気にはなれなかった。適量を越えるほど飲ませたのは俺だし、あいつの必死の訴えに早く気付いてやれば、こんなことにはならなかったからだ。
それにおかげで、危うい一線を越えずにすんだ。冷静になってみればあれは、あまりにも勢いに任せ過ぎていた。
酔っ払ってふざけ合った延長で、何となくキスしてサカって……なんて。男と女ならともかく、俺達にそんなことがあったら、後々関係が微妙になっちまう。
「……でもなあ、嫌だったわけじゃないんだよな」
思わず呟いて、自分でびっくりした。
そうなんだ、嫌じゃなかった。むしろ……ああダメだ、思い出しちまった。さっきまでの相棒の顔が頭に浮かんで、一人で赤くなった。俺は窓辺に立ち、火照った顔を夜気に晒して冷やした。
しばらくして窓を閉めると、奴が部屋を出て行ってから、けっこうな時間が経っていることに気付いた。どうしているのか心配になり、様子を見に再び洗面所に向かった。
ドアを開けると、洗面所の片隅でうずくまっている姿があった。タオルを頭にかけうなだれて、膝を抱えて体を小さくしているので表情は見えない。
俺は近づいて側にしゃがみ込み、優しく声をかけてみた。
「力ト-……落ち着いたか?」
「……ブリシト、ゴメンよ、本当にゴメン」
か細い声は、啜り泣くような響きをしていた。もしかしたら、本当に泣いてるのかもしれない。
「いいんだ、元は俺がひどく飲ませたせいだからな。気にするな」
「……僕は最低だ。せっかく君がご馳走してくれたのを台なしにしちゃったし、君のベッドもあんなことに……怒っていいよ、ブリシト」
「怒るもんか。飯はまた食えばいいし、ベッドは布団を取り替えりゃいい。それだけのことさ」
もう取り替えたから安心しろ、と頭を撫でてやると、うつむいていた顔をようやく上げた。
鼻の頭と目を真っ赤にして、相棒はやっぱり泣いていた。流れる涙を被ったタオルの端で拭いてやり、俺は顔を寄せて笑いかけた。
「バカだな、そんな顔すんな」
「ブリシト……僕を嫌いにならない?」
「嫌いになんかなるもんか。俺達ションディーだぞ、忘れたのかよ」
おどけて肩を叩くと、相棒は笑顔を見せた。酔ったこいつは甘え上戸でもあるんだなと俺は悟り、頭からタオルを取ってやった。
「さあションディー、立つんだ。うがいはしたか?……よし、なら部屋に戻ろう。帰ったら水飲むか」
頷く相棒の肩と腰を支えて部屋に戻りベッドに座らせると、冷蔵庫から出したミネラルウォーターのボトルを開けて手渡した。
一気に飲み干した相棒は、眠気に襲われてあくびを連発した。俺は奴のシャツのボタンを何個か留めてやり、腰からぶら下がっていたベルトを引き抜いた。
明かりを弱めてもう寝ろと告げると、素直に従い横たわった。
俺も同じベッドで寝るのだと配慮したらしく、相棒は体を左側に寄せた。
「ブリシト、寝ないのか?」
「ああ、もうちょっと起きてる。お前は寝ろ、具合が悪いんだから」
「うん、今日はありがとう。それから……ゴメン、本当に」
気にするなって言ったろ、と頬を軽く叩くように撫でると、相棒はまた頷いて笑った。
やがて安らかに寝息を立て始めた奴の額に、俺はそっとキスをした。
「……これは、ションディーのキスだ」
涙の跡が残る寝顔を眺めて、俺は独り言を呟いた。
カーテンを閉め忘れた窓から差し込む光の明るさに目が覚めた。
あくびをして体を伸ばそうとすると、肩にぶつかるものに気付いた。横を見やって、相棒が隣に寝ていることを思い出した。
体を横向きに、俺の肩に顔を寄せるようにして、相棒はまだ眠っていた。よく見ると苦しそうな表情でうなされているので、俺は奴の肩に手を置いて囁くように声をかけた。
「力ト-、力ト-どうした?気分悪いのか、起きろ」
「ううん……ああ、ブリシト、よかった」
「よかった?何がだ」
「君さっき、凶暴なパンダに襲われてたろ。助けようと思ったんだけど、足が動かなくって」
「そうか。この通り俺は大丈夫だ、安心しろ力ト-」
夢の中でもこいつは俺を助けてくれるんだな、とちょっと感動した。寝ぼけた相棒はよかった、とまた呟き俺の肩に額を押し付けたが、やや冷静な声になって質問をしてきた。
「ブリシト……なんで隣に君が寝てる?」
「力ト-、そりゃ違うな。お前の隣に俺が寝てるんじゃなく、俺の隣にお前が寝てるんだ。なぜならこれは、俺のベッドだからだ」
「……」
「お前、酔っ払って俺のベッドで吐いたんだぞ。覚えてないのか」
「……覚えてない。けど、悪かった。迷惑をかけたんだね」
「いや、いいけど……本当に覚えてないか?」
「うん……店を出た辺りからの記憶がない」
そうか、と返事をしたが、相棒のその言葉は嘘だと思った。ポーカーフェイスを装っているが、わずかに目が泳いでいたから俺にはわかった。
吐いた記憶を認めれば、俺達が夕べションディー以上のキスをしたことを覚えている、と認めることになる。相棒は気まずさか恥ずかしさから、酔いを理由にしらばっくれやがったんだ。
嘘をつかれてちょっとムカついたが、気持ちは理解出来た。正直に覚えているなんて言われたら、俺もきっと困っただろう。だからここは、おとなしく騙されてやることにした。
「そうか、残念だな。酔っ払ったお前は、えらく素直でかわいらしかったのに」
「何言って……っ!」
相棒は頭だけを起こして急に大声を張り上げたが、それが響いたらしい。低く唸って両手で頭を抱えると、またシーツに沈み込んだ。
「力ト-、二日酔いだ。静かにしてろ」
俺はベッドから抜け出ると、パジャマを脱ぎながら喋り続けた。
「社長命令だ。今日は休んで、ここでゆっくり寝ろ」
「でも、ブリシト……」
「俺なら心配するな、仕事が終わったらまっすぐ帰る。食欲ないかもしれないが、メイドにお前の食事を運ぶよう頼んでおくからな」
「でも、悪いよ。それなら僕はうちに帰って……」
「ダメだ。お前の深酒は俺に責任があるんだから、言う通りにしろ。もし帰ったら絶交するぞ、いいな力ト-」
着替え終わった俺は、ベッドに戻って布団をかけ直しながら、断固とした口調で告げてやった。あくまで譲らない俺に根負けしたらしく、相棒はため息をついて頷いた。
「よし、それでいい。頭が痛むか?薬も持って来させよう」
「それほどじゃないよ。ありがとう、ブリシト」
「どういたしまして。さあ、おとなしく寝てろ力ト-」
笑って額を撫でると、相棒は素直に目を閉じた。手を放した俺は、ふいにその頬に音を立ててキスをした。
「……ブリシト!」
「ほらほら力ト-、大声出すな。覚えてないだろうが、ションディーならキスしてもおかしくないって、お前が言ったんだからな」
「バカ野郎っ!……ううぅ……!」
頭痛に呻いて布団を被った奴の耳が赤くなっていたのを、俺は見逃さなかった。布団の上からポンポンと相棒の体を叩き、俺は自室を後にした。
車の運転席に着くと俺はエンジンをかけ、ポケットから携帯電話を取り出して画面を開いた。
キーを操作して、ある画像を表示させた。
それは、夕べの相棒の寝顔を撮った写真だった。赤らんだ頬に涙の跡を残して、その表情はちょっと笑ってるようにも見えた。
これをネタにして相棒をからかおうとか、脅そうとかいうつもりは全くない。
ただ俺は、初めて知った相棒の顔を残しておきたかったんだ。俺しか知らないかもしれない、あいつの顔を。
携帯電話を閉じてポケットに戻し、俺は車を発進させた。いつもよりだいぶ早い出勤に社員達は目を丸くするだろうが、屋敷に俺がいちゃあいつは落ち着かないだろうからな、しかたない。
土産にテイクアウトの中華でも買って帰ってやるか。食べられるようになってるといいけど。
浮かれているような、でも切ないような不思議な気分で、俺は会社へ向かい車を転がした。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
助手をちょっと泣かせてみたかった。そしたら社長がわりとしっかり者になってしまいました。
>>101 おおお……萌えた、萌え滾ったよ……!
しっかりしてる社長もイイヨー、もどかしいふたりの距離感イイヨー!GJ!
前スレに投下してた者ですが、容量使い切ってしまい、
〆のAA部分だけ置けませんでした。
みっともないことしでかしてすみません。
保管庫で直しておきます。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )これで最後です!
「え、この子、名前イアンって言うの?兄って事は、もしかしてあの…?」
大人になって落ち着いたサムウェルが、ひそ、と、ユキヒサに耳打ちする。
「兄上と同じ名前なんです。それでですね、船に乗せてください」
混乱したユキヒサは、ふと、少年の腰にさしてあるものを見た。
それはいつしかにイアンの父親に渡した、護身刀であった。
「その護身刀は…」
「あ、これですか?兄上の形見なんだそうです。ユキヒサさんの所有物だったらしいですね、今では僕が貰っているんです」
水葬の際、父親はイアンの死体と一緒に入れなかったらしい。
いつか、息子が出来たときに持たせてやるのだと。
それを知ると、ユキヒサは優しく笑った。
「良いだろう、乗るがいい。兄のことを、よく聞かせてやる」
少年であるイアンは、凄く嬉しそうに、うなずいた。
「はい!」
その顔は、昔見た、笑顔のイアンにそっくりだった。
『十年後に会いに行くよ』
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )終わりです。長いことかかってすみません。
>>111 ドンマイ!
なにより前スレを使い切ろうという姐さんの心意気に惚れたよ
SSも素敵でした。GJ!
>101
すごく萌え転がった
ありがとうございます
116 :
春よ来い1/2:2011/03/31(木) 00:47:37.10 ID:tACKM/dT0
半生注意。ドラマ「刑事犬」シゲコマです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
帰り支度を整えロッカールームから出てきたコマが、ふと手元の絆創膏に気付き小首をかしげた。
「その手、どうした?」
「ああ、今朝な。猫を撫でようと思ったらやられた」
「お前、そんなに猫が好きだったか?」
「そうでもないが、ちょっと可愛かったんだよ」
「とうとう見境なく猫にまで手を出したか、色男」
「お前に似てた」
やにさがった表情が一転、眉間に皺を寄せてこちらを睨みあげる。
(ああ、やっぱり似てるな)
触れることを許してくれそうな振りをして、一歩近付けば途端に警戒する。
見えない引っ掻き傷を散々俺に残してるくせに、肝心なところでは逃げ出してしまう。
ずるいなあ、お前は。
なかなかこの手に落ちてこない猫は捕まえてしまうに限る。
不穏な空気を感じたのか、珍しく何も言い返さずに背を向けて部屋を出ようとするのを
後ろから抱きすくめた。
そのまま、襟足にかかる柔らかい髪をかきあげコマの首筋に歯を立てる。
「っ・・・・・・!」
117 :
春よ来い2/2:2011/03/31(木) 00:50:41.92 ID:tACKM/dT0
「バッッカ何しやがるっっ!」
「交尾のお誘い」
「この変態」
「恋の季節だからな」
「万年発情してる奴が言うな」
「相手がつれないからなあ」
「うるせー、けだもの」
文句を言いつつも大して抵抗してこないのは承諾と取っていいのだろうか。
気まぐれな猫の機嫌が変わらぬうちに、急いでコートを取って来なければ。
コマに気付かれぬようにんまりと笑みを浮かべながら、
もう一度、今度は柔らかいキスを首筋に落とした。
すこし肌寒い、春待ちの宵。
-------------------------
その後の13係フロア
「・・・行ったか?」
「行きました。シゲさんすっっげ笑顔でした」
「Spring has comeデスネー」
「あの二人はもう万年桜だろ」
「つーか、もう季節関係ないッスよね」
「あー・・・俺らは飲みに行くかー」
「「「「ウィーース」」」」
-------------------------
in 拘置所
「交通課から頼まれてシゲさんとコマさんのラブを隠し撮りしてるんですけど、
これってけーさつ不祥事になるんでしょうか???」
「総監、いや元総監に伝えておくよ・・・」
-------------------------
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
心にポエム、行動はエロ男爵なシゲさんが好きです。
ちんたら書いてたら前スレにも同じネタorz で、でも吐き出させてくれ!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
side:coffee
その日は遅番だった俺がエントランスに向かうと、すでに彼はいつものようにてきぱきと仕事をこなしていた。
彼。ミノレクくん。ポーターの白い制服が誰よりも似合う―――というのは俺の欲目ではあるまい。
ホテルの仕事というのは忙しいが退屈である。矛盾しているようであるが実際そうなのだ。
例えばドアマンである俺の場合。お客様のお顔やお車を覚えるというのは、慣れてしまえば酷く機械的な作業である。
お出迎えには細心の注意を払うがようこそ誰某様と微笑みかけ、お帰りの際は黙ってお辞儀をすればそれで終わりなのだ。
俺は。ポーターに至ってはもっと単純で退屈な仕事だと思っていた。
お部屋に到着される前にお荷物を届けるというのが唯一の注意点で、それも余程のことがなければ遅れるような事態にはならない。
お客様のお荷物をお部屋まで運ぶ。それだけだと。
実際、このホテルではそうだったのだ。彼が来るまでは。
お客様が彼に笑いかける。彼もにこにこと愛想を返す。
笑顔なのはお客様だけではない。俺を含めその場に居るホテルマンが、そんなミノレクくんをいつも微笑ましく見守っているのだ。
…と、危ない!
お客様に気を取られていたミノレクくんは足元にあったバケツに躓いてしまった。彼が抱えていたスーツケース群が宙を舞う。
よし、任せておけ。なぜこんなものに乗って移動していたのか自分でも謎だったが、この彼の危機を救うためだったのだ。
バスン!バスン!
狙いを定めてカートを停めると綺麗な弧を描きながらスーツケースが飛び乗ってくる。
おお、我ながらバッチリなコース読みだ。体勢を立て直したミノレクくんも最後のひとつを見事にキャッチした。
お客様の前での私語は厳禁である。仕方なく親指を立てて見せるとミノレクくんが荷物を支えている腕の下からニコリ、と密かな笑顔を覗かせた。
「……………!」
か、かかかかか可愛い――――!!!
オホン!
マネージャーの咳払いで我に返る。
カートをそのままミノレクくんに託し、次のお客様をお迎えするべく俺はエントランスに向かった。と思う。
正直、舞い上がっていたのでよく覚えていない。
side:milk
「……………!」
お、重い。どうしよう……。
その日は遅番だった僕がエントランスに向かうと、すでに彼はいつものようにきりりと仕事をこなしていた。
彼。珈琲さん。ドアマンの黒い制服が誰より似合う―――というのは僕の欲目だけではないと思う。
僕はこのホテルのポーターである。故に僕の仕事はお客様のお荷物をお部屋まで運ぶことである。
運ぶことである、のだが……。
たった今到着された……サーカス団、だろうか?のお客様のお荷物である、何が入っているのかわからないがその木箱は相当な重さで、日々それなりに重い荷物を持っている僕でも到底運べそうにない重さだった。
ヘルプに入れそうなポーターは居ない。どうしたものかとパニックになりかけたところでポンポンと肩を叩かれる。
「………………!」
振り向くと珈琲さんが横に立っていて、僕は思わず声を上げそうになった。
こちらの動揺をよそに彼はさっさと木箱に手を掛ける。あれほど持ち上がらなかった箱がふわりと宙に浮き、僕はついうっとりと珈琲さんを見つめてしまった。
「フフフ………」
そんな珈琲さんを面白そうにご覧になったお客様が、パチリと指を鳴らす。
すると、目の前の木箱が一瞬にしてライオンの入った檻に変わったのだ!
「……………!」
これにはさすがの珈琲さんも驚いたようで、声こそ上げなかったものの、檻を支え直した拍子に……。
バリリ!
珈琲さんの。制服のズボンが裂けて……下着が見えた。
珈琲さんの、下着が。
「あっ………!」
考えるより先に自分の帽子を脱いでそれを隠すことに努めたが。
(ハ……ハート、だった?)
檻を落とさないように珈琲さんと息を合わせつつ運ぶ作業の裏で、ついつい瞼に映る残像を確認してしまう。
それは、他ならぬ珈琲さんだからで。
(意外に、可愛いパンツ穿いてるんだなあ……)
half & half
「お疲れ」
「あ、お、お疲れ様です」
休憩室でもないこの部屋は狭い。簡易的なテーブルと、揃いでもない椅子が2脚あるのみなのだ。こんなところに来るのは自分だけだと思っていて、
実際今まで誰と顔を合わせることもなかったが、きょうは先客である珈琲が寛いでいる。
さてどこに腰を落ち着けるか―――逡巡するのも束の間、珈琲が傍らの椅子を丁寧な仕草で示したのでおずおずとミノレクはそこに座った。
「フォロー……ありがとうございました」
「……ああ。いや、こちらこそ」
昼食のサンドウィッチを広げるミノレクにちらりと視線を寄越したものの、何を言うでもなく珈琲は手にしていた雑誌をまた読みはじめた。
沈黙の中、自分の咀嚼する音がやけに響く気がするのを気まずく感じながらも、ミノレクはそんな珈琲をしげしげと見つめる。
(ああ……やっぱり、カッコいいなあ……)
そんな彼の視線の先を追い、手にしているページがまったく進んでいないことに気付いて首を傾げた。
「なにか、面白いことが書いてあるんですか?」
「え!?……あ、いや……」
ぱたりと雑誌を閉じ、身体はミノレクの方へと向き直ったのだが、視線はうろうろと彷徨っている。
ちらり、また寄越された視線がばちりと合い、今度はミノレクのほうが目を逸らせた。
「なんだか落ち着かないな、君にそんなふうに見られると」
「……え?……あ、す、すみません、他に見るところがなくて……」
思ったままを口走ってから、それがかなり失礼な物言いであることに気付いて慌てる。
他に見るところがない、というのは少々語弊がある。他に何があっても彼を見つめてしまう、というのが正しい。正しいのだが。
「いや、別に見るなというわけじゃ……それより、」
しかし珈琲は特に気にした様子もなくさらりとそれを流してくれた。
(確かに、僕も珈琲さんにじっと見つめられたらご飯どころじゃないな)
「それより?」
「……あのパンツは、別に俺の趣味じゃない」
真正面から急にそんなことを言われ、口にしていた牛乳を吹きそうになる。
「あ……ああ。え、えと、か、カノジョとかの趣味ですか?」
「俺に恋人はいない。君はいるのか」
「ぼ、僕ですか?いや、いませんけど……」
「そうか……」
珈琲が立ち上がる。交代の時間が来たらしい。
「意外だなあ、珈琲さんにカノジョがいないなんて。そういえば、どういうタイプの人が好きなんですか?」
そういえば、どういえばだと心の中で突っ込みながら努めて明るく訊ねた。
「好きなタイプ……」
上着のボタンをきっちりと留めながら、珈琲が見下ろしてくる。
軽い世間話程度のつもりだったのに何故か視線が逸らせなくて、そのままミノレクはドキドキと彼の次の言葉を待った。
「そうだな……。基本綺麗だけど、笑うと可愛くて……なんか色々一生懸命なコかな」
「……綺麗で可愛い……いるんですか、そんな人」
「いると思う」
つい、と伸ばされた珈琲の指が、ミノレクの頬から唇の端辺りを舐め取る。
「………!?」
「ついてる」
そのまま彼がぺろりとその指を舐めたのを見て、羞恥とほんの少しの欲情に顔が赤らむのを感じた。
「……す、すみません……ありがとうございます……」
「ああ。じゃ、俺あがるから」
「はい、お疲れ様です」
悠然と歩いていく背中をポーッと見送ったミノレクは。
(……さ、触ってしまった、ほっぺとくちびる……。ぷにぷにだった……)
静かに閉まったドアの向こうで、そんなふうに珈琲が崩れ落ちていたことを知らない。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
分割超足りなかった すみませんorz
半生超注意。
某中華麺図のコント「ア/ト/ム/よ/り」
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
昔読んだおとぎ話
馬鹿げた話だと思いながら、俺は今日も星を眺める
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「・・・なんだこれ。」
昼寝から目覚めて鏡をみて気付いた異変。
なぜ俺の顔にでっかく"のす"って書かれているんだ。
「ノス〜・・・おまえなあ・・・。」
「ノス!!俺が書いたノスよ!!」
なんにでも名前書きやがって。しかも油性で。
「あーもー、とれねーじゃねーか、なんてことしてくれてんだ・・・。」
「トガシ君が悪いんだわいよー!!せっかく休みなのになんでずっと寝てる
のす!!一緒に大マンモス展に行くんだわいよ!!」
「だったら普通に起こしゃいいじゃねえか。なんだって名前なんか書いてくれてんだ。」
「自分のものには名前を書くノス。お前のものは俺のものノス。トガシ君も俺のものノス。
俺はトガシ君が大好きノス。だから、今日は一緒に大マンモス展に行くんだわいよ!!」
子供のような顔してそんなことをいう。うれしそうに。
俺はおまえのものか。意味分かって言ってんのか。
分かってないだろうことは分かってるけど。
「言っとくけど俺は行かないからな。あと名前書くならせめて水性にしてよ。」
「それじゃ消えちゃうノスよ。だから油性で書くノス。」
「消えてくれないと俺が困るんです。」
「俺はトガシ君とずっと一緒にいたいノス。消えたらいなくなっちゃうかもしれないノス。
名前は、失くしたくないものに書くんだわいよー。消したら意味ないノス!!」
・・・なに言ってんのこいつ。
「あのな、名前が消えたって俺はいなくなんかならないよ。」
「ほんとノスか?」
「ほんとほんと。なに、そんなに怖いの。俺がいなくなっちゃうかもしれないことが。」
「俺はお前が大好きノスからねー。」
「そっか。」
いなくなんかならないよ。俺だってお前とずっと一緒にいたいよ。大好きだよ。
でも俺はそんなこと言ってやらない。言っちゃいけない。
だってお前と俺は違うんだから。
好きの意味も、それ以外も。
だから俺は思うんだ。おとぎ話みたいに星に願ったら来てくれないかなって。
「トガシ君大マンモス展がだめなら大ねずみ展に行くノス。でっかいノスよー、ねずみ!!」
「行きたくねえなー。」
「なんでだわいよー!!せっかくの休日ノスよー!!」
「たまにはいいじゃん、家でごろごろするのもさ。」
「あ!じゃあキャッチボールするノス!!」
「えー、お前なんでそんな元気なの。」
「えーっとグローブはどこにやったノスかねー、さっき・・・」
「グローブなら俺が昼寝する前お前さわってたじゃん。」
「・・・・・・・」
「ノス?・・・・ああー・・・」
ほらきた、現実に引き戻される。
「バッテリー・・・あったかなあ・・・。」
充電しなきゃ動かないんだもんお前。機械なんだ、人形なんだよ。
好きで好きでたまらないんだ。
キスして抱きしめて離したくないんだ。
ずっと一緒にいたいんだよ。
それなのに、なんでお前は人間じゃないんだ。
だからさ、俺のとこにも来てよ、ブルーフェアリー。
あの木の人形を人間にしたみたいにさ、こいつも人間にしてくれよ。
それか俺を機械にしてさ、このどうしようもない感情を消してくれよ。
苦しくてたまらないんだ、ロボットに恋をするのは。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ゲ仁ンネタって書いていいのかしらと思いつつ。お粗末さまでしたー。
>>116 ありがとうありがとう!
「シゲさんすっげ笑顔でした」はヤナちゃんでばっちり脳内再生されてニマニマしたよ。
>>124 GJ!本人達の声で再生されて、泣けた
久々にDVD見るノス
129 :
1:2011/03/31(木) 23:34:04.24 ID:wL5PqepAO
弟が今日引退した、某ナマモノツインズの話。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
俺たちは同じ日に生まれ、同じ容姿で、同じ道を歩いてきた。
「辞めんのか」
「うん。体がボロボロだしね」
勉強以外、いつも俺の後をくっついて回っていた彼は、今日新たな道を歩み始める。
生まれて初めて、俺たちは別々の道を歩く。
「ごめんな」
別な生き方もあったはずだった。
それを同じ道に連れてきたのは、間違いなく俺だ。
「何で謝るんだよ。俺、お前と一緒にここに来たこと、全然後悔してないし」
「でも」
「俺は、この仕事に就けたことを誇りに思ってるよ。大したことはできなかったけど、貴重な体験はたくさんできたから」
思えば、この仕事に就いてからの彼は、常にケガと戦っていた。
それでも諦めることなく、いつも全力を尽くしていた。
「1つ頼みたいことがある」
「なんだ?」
「まだまだ先の話になるとは思うけど、いずれは先生になるつもりでいる」
彼の口からは、とてつもない夢が飛び出した。
同期に、ずっと試験を受け続けているにも関わらず、未だに受からないヤツがいるから難しさは当然分かっているはずだ。
130 :
2:2011/03/31(木) 23:35:16.26 ID:wL5PqepAO
「どんだけ先の話だよ」
「まあね。でさ、そんときはメインで乗ってもらいたいんだよね。だから、お前それまで現役でいろよ?」
笑ってごまかそうと思ったが、真剣な目つきに気付いてちゃかすのは止めた。
その目には、はっきりとした意志が見える。
「…50とか60とかまでは待てないからな」
励ましの言葉のひとつでも言えたらいいのに、自分に言っているような気がして、うまいことが言えない。
それでも気持ちはきっと通じているはずだ。
「頑張れよ、ミサキ」
「ダイチもな」
進む道が分かれても、俺たちの絆は変わらない。
新たな夢に向かって歩き出した弟が、少しだけいつもより頼もしく見えた気がした。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
内容は勿論フィクションですが、同じくツインズのミズノ先生の例もあるので、ちょっと期待してます。
お疲れ様でした。
>>129 この兄弟の話が読めるとは…GJです!
まだまだ厳しい状況は続きそうですが、それぞれの道で頑張ってほしいです
>>118 もっとあのCM続編が出てほしいと思いつつGJ!
>>124 ノス可愛いノス
ロボと人間は永遠の切な萌えだな…
>>118 GJ! このCM気になってたんだ。次はカフェオレ展開超希望!
>>124 ノス可愛いよトガシ君切ないよー!
切な萌えたGJ。久しぶりにDVD見直すわ
136 :
ヒロ阪 1/7:2011/04/03(日) 21:50:40.23 ID:UmpwlOcq0
クローズ(原作)よりヒロミ×阪東。原作終了後、ヒロミが上京した後の話です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
ライブが終わるといつも同じ気分になる。
祭は終わり、みんな家路についたのに自分だけが喧騒の後の散らかった通りに取り残されているような、そんな気分だ。
家に帰らなければいけないのはわかる。だが帰り方がわからない。
阪東を頼って故郷の街を出てからもうずっと、桐島には帰り方がわからない。
一人でそこに取り残され、灯も消えた暗い道端で桐島はただ立ち尽くす。阪東はどこだろう。いつもそう思いながら。
奈良岡が運転する機材車の後部座席で桐島は窓を細く開け、煙草に火をつけた。
深呼吸のように深く吸い込み、尾を引く光の群れのような夜景に向かって紫煙を吐き出す。煙は窓の上の隙間から外に流れた。
なんとなくその様子をしばらく眺め、桐島は窓とは逆の隣の座席をちらりと盗み見る。
阪東は斜めに倒したシートに深くもたれ、腕を組んで目を閉じていた。眠っているのだろうか、よくわからない。
眉間には起きている時と同様の深い皺が刻まれている。眠っているのならよくない夢を見ているのかも知れない。
ならば起こすことはない。ざまを見ろ、そんな気分だ。だが桐島は心とは裏腹に手を伸ばして窓をもう少し広く開ける。
起きているのならきっと文句を言うだろう。さみぃんだよ、閉めろバカ。
そんなことを目を閉じたまま、桐島を見ないままで呟き、そして再び桐島を無視して眠ったふりをするだろう。
起きていればいいのに。起きて、自分をそう罵ってくれたらいいのに。
そんな思いで窓を大きく開く桐島に、運転席から奈良岡が声をかけた。
「オイ、閉めろよヒロミ。さむいじゃん」
その声に桐島は我に返る。奈良岡に一部始終をバックミラーごしに見られていたのかもしれない。
照れ隠しに桐島は窓を閉めながらミラーに写る奈良岡の二つの目に向かって舌打ちして見せた。
「えええ!?舌打ち!?なんで!?」
「前見て運転しろよ、いいから」
137 :
ヒロ阪 2/7:2011/04/03(日) 21:51:20.61 ID:UmpwlOcq0
わざとらしく冷たい口調を作って言ってやると奈良岡はそれに抗議して大袈裟に騒ぎ立てた。
口で適当にあしらいながら桐島の目はもう再び阪東に向けられている。
頭が悪いくせにこうやって眉宇を寄せて目を閉じているとまるで憂える哲学者のような顔に見える、と少しだけ笑う。
生きるべきか死ぬべきか、どうでもいいことを苦悩するデンマークの王子様みたいだ。
実際そんなどうでもいいことを悩むのはむしろ桐島の方で、阪東はその種のことに一切心を煩わせないにも関わらず。
なんとなくおかしくなって桐島は笑う。煙草を挟んでいるせいでほんのり隙間が開いた唇から笑みは吐息のように空中に洩れた。
途端に、獣の唸り声のような声が阪東の唇から押し出された。
「……なにがおかしいんだ」
桐島の笑いはますます大きくなりいっそ聞こえよがしなほどに桐島自身にも感じる。
あんな小さな音に反応して目覚めるとは、相変わらず獣のように敏感なことだ。それともやはり寝たふりだったのだろうか。
機嫌はあまりよくない。ライブの出来があまり良くなかった。と、本人はそう言っていた。
正直言って桐島にはわからない。阪東は、あまりにも高みを求めすぎる。
到達しようもない雲の上の頂点を目指し、至らない自分に塞ぎ込むのだ。寝たふりを決め込んでいる時はたいていそうだ。
阪東は生きるべきか死ぬべきかでは迷わない。生きるためになにを為すべきかで迷う。桐島にはそれがたまに不思議な気すらする。
自分とこの男は、根本的なところで決して分かり合えないのかもしれない。
「……別に。思い出し笑い」
桐島の言葉に阪東は小さく舌打ちして再び口を噤んだ。
目は一度も開かない。いつものことなのに、今夜はやけにそれが気に障る。
「起きろよ、阪東」
阪東はそれに再び舌打ちで答え寝返りを打って桐島に背を向けた。
苛立ちと、それ以上に寂寥感を覚えて桐島は阪東の背中に掌を当てる。軽く揺さぶり、阪東を呼ぶ。
「なあ、起きろよ、なあって」
「うるせえ、死ね」
138 :
ヒロ阪 3/7:2011/04/03(日) 21:51:52.15 ID:UmpwlOcq0
阪東がますます背を丸めて桐島を拒絶するのに構わず桐島はその背を揺さぶり続ける。
怒鳴られたり殴られたりした方がましだった。こんなふうに無視されるくらいなら。
なんでそんなに不機嫌なの。ライブの出来が悪かったから?なら俺やツネにも責任があるんじゃないのか?どうして俺を責めないんだ。
俺たちはバンドじゃねぇのか。一人でやってるつもりかよ。
言いたいことはたくさんあったがなぜか口から出てこなかった。そのどれもが、本当に言いたいこととは違った。本当に言いたいのはこうだ。
行かないでくれ。
置いてけぼりにしないでくれ。
「阪東……」
阪東の手が桐島の手を振り払い、次に億劫そうに体の向きを変えて阪東が振り返った。
その目に浮かぶ怒りは桐島と目が合った途端に消え失せる。代わりに阪東の表情には戸惑いの気配があった。
「……なんてツラしてんだよ」
呆れたように阪東はそう呟いた。自分は一体どんな顔をしているというのだろう、と桐島は訝しむ。
あまり情けない顔でなければよいが、と思いながら桐島は笑うかたちに顔を作る。
それが成功したかどうかは自信がない。なぜならそれを見た阪東の顔に浮かぶ戸惑いの色はますます濃くなったから。
「なんでテメェが落ち込んでんだ」
「さあ……」
自分はそんなに情けない顔をしているのだろうか。気恥ずかしくなって桐島はそっぽを向く。
再び窓の外の尾を引いて流れる光の群れを眺めた。
「阪東が落ち込んでるから?」
「……落ち込んでねえよ」
「……うん、悪い」
139 :
ヒロ阪 4/7:2011/04/03(日) 21:52:27.50 ID:UmpwlOcq0
会話はそこで途切れた。話すことは特にない。いつものことだ。阪東と自分はちがう。
阪東は特別な人間で、自分はそうではない、犬と人間くらいちがう。阪東がいる高い場所に、桐島は届かない。窓の外の光と同じだ。
堅いガラスで隔てられた夜景はすごいスピードで流れていく。絶対に、触れることはできない。
「……お前がどうして欲しいのかわからねえ」
ふいに阪東が小さく呟いた。弾かれたように桐島が振り返る。驚きに見開かれた目に阪東の戸惑った顔が映った。
「そんなこと気にしてたんだ」
犬の機嫌など気にも止めないかと思っていた。桐島の唇が皮肉に歪む。
その笑みの意味するところがわかったのか、阪東は気まずそうに目を逸らした。再び寝返りを打って桐島から顔を隠す。
阪東は傲慢なのではない、ただ不器用なだけだ。
それは桐島にもよくわかっているし、それこそが彼の個性だというのも理解できる。だけど。
「……じゃあ、キスしてよ」
阪東の背中がびくりと震え、ややあってゆっくりと桐島を振り返る。バカが、と吐き捨てられた。
「なに言ってんだ、ヒロミ」
「いいじゃん。たまには構えよ」
桐島の言葉に阪東は舌打ちする。
「クソして寝ろ」
「いいからキスしろって。そんくらいいーだろ?」
「死ね」
「キスしてくれたらね」
引き下がらない桐島に業を煮やして阪東は声を落とした。
「……ツネに見られんだろうが」
140 :
ヒロ阪 5/7:2011/04/03(日) 21:53:09.11 ID:UmpwlOcq0
それは決定的な拒絶だった。
誰に見られても構わない、と強く思う桐島と、見られたくないと思う阪東とでは、やはり、住む世界が違うのだ。
桐島は肩をすくめて笑って見せた。阪東を安心させようと明るく答える。
「そうだな、悪かった」
話はそれでお終いだった。諦めは吐息のような笑いとなって桐島の唇からむなしくこぼれた。
阪東が一瞬だけ、どこか痛みを堪えるような顔をした。桐島はそれを無視し、煙草を唇に挟んだ。
窓を細く開けると風の音が車内に満ちた。号泣する巨人のような音。
桐島はライターの炎を掌で覆い、くわえた煙草に火をつけ、そしてそれを捨てた。
フィルターの方に火をつけてしまったからだ。
新しい煙草を取り出し、今度は間違えないように火をつけ、そして桐島は再びそれを捨てるはめになる。
煙草を持つ指に力がこもり、途中で折れてしまったのだ。
桐島は驚愕に思わず折ってしまった煙草を唇に挟んだまま、呆然と自らの足下を見下ろす。
そこには阪東の頭があった。
上体を折って桐島の下半身に屈み込み、歯で桐島の革製のパンツのファスナーをじりじりと下ろしている。息が止まった。
「ば、なにやって……!」
ひそめた声で咎めながら阪東の髪を掴むとその手を払って顔を上げた阪東にきつく睨まれた。
黙ってろ、そう呟かれ、再び顔をそこに埋められる。
ファスナーは下まで下ろされた。萎えた性器を阪東は取り出そうと四苦八苦している。
ファスナーが性器の根元に当たって桐島は思わずイテッ、と呻いた。途端に阪東にピシャリと腿を叩かれる。
静かにしてろ、そう囁かれた。桐島は息を呑む。再び阪東が桐島の脚を叩いた。
その意図に気付き、桐島は恐る恐る腰をそっと浮かせた。タイミングをあわせて阪東がずるりと桐島のパンツを下ろす。
暗闇に桐島の下半身が剥き出しになる。性器が、ぬるりと温かい濡れたものに包まれた。
桐島は前を窺う。バックミラーごしに奈良岡と目が合った、気がした。
思わず阪東の髪を掴んだ手に力を込めると、奈良岡がカーステレオの音量を上げた。偶然だろうか、それとも。
141 :
ヒロ阪 6/7:2011/04/03(日) 22:00:39.27 ID:UmpwlOcq0
思考は快楽に霧散した。阪東のたどたどしい動きはそれでも確実に桐島を追い詰めた。
なぜ阪東がこんなニンフォマニアのような真似をするのか桐島にはわからなかった。
わかるような気がしたが、やはりそれは、どう考えてもちがう、と思った。
まさか、これがキスの代わり、だとか。まさかそんなこと。
ちゅぷっ、と小さな音がカーステレオのジョニー・ロットンの声にかき消された。
阪東の小さな頭が激しく上下し、桐島の性器は濡れた口腔にみるみる堅く育ってゆく。
窓の外を眺めるふりをして桐島は震える指で煙草を取り出し、幾度か失敗しながら火をつけた。
深く深く吸い込むと、肺が痺れた。知らん顔をするのは至難のわざだった。
阪東のうすい舌が桐島の括れに巻き付き、先端の穴をつつき、唇が棹の部分を扱き上げた。
頬をすぼめる横顔が卑猥すぎて桐島はそれを直視できない。窓の外を見るふりでやりすごす。
腹筋に力を込めて堪えるが、あまり保ちそうになかった。
阪東、阪東、阪東。声に出さずに呼び掛ける。
こんなことさせてごめん。おまえにこんな売女みたいな真似させてごめん。ただ少しわがままを言ってみたかっただけなんだ。
おまえが聞いてくれるなんて思ってなかった。聞いてくれなくてよかった。おまえはこんなことしていい人間じゃない。
おまえはもっと、雲の上のきれいな場所を目指していればいい。こんなことしちゃいけない。こんなこと。
心とは裏腹に体は昂ぶってゆく。阪東が、阪東が、俺に、こんなこと。
142 :
ヒロ阪 7/7:2011/04/03(日) 22:01:22.22 ID:UmpwlOcq0
桐島が見る窓の外で尾を引く車のライトが滲んだ。丸く、花火みたいに重なる色とりどりの光たち。
喉を突く桐島の切っ先に阪東がえずいて唸り声を上げる。運転席の奈良岡が再びカーステレオの音量を上げた。
繰り返し繰り返し泣き叫ぶようにロットンがうたう。
未来なんかない、未来なんかない、俺たちには、未来なんかこれっぽっちもないのさ。
桐島の、阪東の髪を掴む手に力がこもった。内腿の筋肉が強張り、性器が一気に膨らんだのがわかった。
引き剥がそうとする桐島の手の力に逆らうように阪東の頭はそこから離れない。
先端の括れを含んだまま、巻き付いた指が根元を激しく扱き立てる。桐島は機材車の天井を仰ぐ。煙草の煙で視界が曇る。
どうにでもなれ、と桐島は腹筋に込めた力を抜く。快感の突き上げるままに任せ、阪東の唇を、口腔を、喉を欲望で汚す。
桐島は目を閉じる。阪東の喉が大きく上下するのを感じる。
こんなことが長く続くわけがない。こんなことは、きっと今だけだ。阪東が俺のものでいてくれるのは、きっと今だけ。
近い将来自分たちのあいだにある齟齬は取り返しのつかないレベルに膨らみ関係は破綻する。
阪東がこんな真似をしてまで桐島を慰めてくれるのは、今だけなんだ。桐島は繰り返し繰り返し自分に言い聞かせる。
そうなった時にけして阪東を引き留めるような真似をしなくてすむよう、桐島はただ自分にそう繰り返す。
未来なんかない。未来なんかない。
俺たちに、未来なんかない。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
半生。邦ドラ淑女より、監理官×係長。エロなし。#10以降のお話。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
藤/堂は少し浮かれていた。
彼はキッチンに立っていて、対面式のカウンターには先輩である柘/植がもたれかかっている。
彼は料理を作っていて、それを眺める柘/植は静かに頬笑みながらワインを飲んでいる。
こんな時間は何年振りだろう。
長い、長い間、藤/堂と柘/植は離れていた。
同じ庁内に勤めているし、同じ帳場に入ることもある。しばしば顔を合わせていたし、少なからず言葉を交わしてはいたが、心が近づくことは決してなかった。
柘/植が藤/堂を意図的に遠ざけていたし、藤/堂もそんな柘/植にどう接して良いか分からなかった。あの事件以来、藤/堂と柘/植は先輩と後輩・上司と部下という距離感に加え、その間を絡まった糸で線引きされていた。
深く忌々しく、越えられないとさえ感じていた溝が、今では浅い堀になったようだ。
柘/植がキャリアルートを外れる原因となった誘拐監禁殺人事件は、C/P/Sの協力により5年の時を経て真の解決に至った。
C/P/Sをあまり良く思わない藤/堂だったが、この活躍により柘/植の心の闇が取り去られたことと、数例ではあるが難事件を解決に導いたことにより、その存在を認め始めていた。
C/P/Sメンバーの1人、香/月/翔/子が関係する"レ/ディーキ/ラー"事件が解決した後、藤/堂は柘/植を食事に誘った。誘ったと言うよりも「要求した」といった方が正しいだろうが。
「奢って下さいよ」「わかったよ」というその会話どおり、先日、美味いと噂のインド料理店に2人で赴いたのだが…
「たしかに、うまい。スパイスの香りが違いますね。」
「………」
「柘/植さん?どうしました、口に合わなかったんですか」
「……お前が昔作ってたのの方が、うまい」
「……じゃあ、今度は俺がご馳走しましょうか」
そういうわけで、藤/堂はせっせとカレーを作り、柘/植はそれを待っているのだ。
鍋はぐつぐつと煮えている。具材には十分火がとおっている。
藤/堂は一旦火を止め、パウチの中身を鍋に注いだ。どろりとした液体が、スープに色をつけていく。おたまで軽くかき混ぜると、それだけで食欲をそそる香りが広がった。
我ながら上出来だ。次のひと手間で、このカレーは完成する。
「よし。仕上げは…」
パックの封を開けようとした藤/堂の言葉に
「ルー。…だろ?」
柘/植が割って入った。
驚いて顔を上げると、頬杖をついてにっこりと笑いながらことらを見る柘/植と目があった。
藤/堂は、ペーストと固形ルーを併せる自分のレシピを覚えられていたこと、浮かれた自分を見られていたことを今更ながらに自覚して
「………です。」
としか、答えられなかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末さまでした。
監理官の中の人ネタです。最終回は凄まじかった
半生 某自動車メーカーのCMより第2弾
宣伝部長→所長×研究員
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
基本的にWEB限定ムービーを踏襲してますが、多少オリジナル設定が入ってます
「T/N/Pを低燃費って、まんまCMやったら笑われるよ!」
「なに!?」
「なに!?」
憤りを抑え切れず、気が付けば椅子から立ち上がっていた。
隣を見ると、同じく新任の研究員も立ち上がっている。
広い会議室の空間は、途端に一触即発の不穏な空気を孕み始めた。
構わず、大きなテーブルを挟んで向かい側に座っている面々を睨み付ける。
一時の感情に任せた態度を表に出すのは余りスマートとは言えない。私の主義に反するが、どうにも我慢ならなかった。
利己主義で低俗な感覚に塗れ切った向かいの面々―――宣伝部の連中に、スマートかつクールな我々研究者のアイディアを一蹴されるとは。
完全にあってはならないことだ。
ところが、諸悪の根源である宣伝部長は、さっきから我々を小馬鹿にした態度で呆れたように鼻で笑っている。
「おたくら本気?」
「いつだって本気ですよ!」
私が口を開く前に隣の丘田が喰らい付いた。…相変わらず可愛い。
うん、そうだ。私もそれが言いたかった。
にもかかわらず、だ。向かいの敵の口から発せられた言葉は、
「なんで」
なんで、だって?
馬鹿な。どうしたらそんな間抜けな言葉が出てくるんだ。お前にはこのJ/C/2なエスプリが、
「――――分からないのか?」
「ちょっと格好良いからですよ!」
素早く私の言葉の後を継いで、再び隣の丘田が言い放つ。
そう、そうだ、丘田。そういうことだ。良く分かってるじゃないか。
何という以心伝心。
もう私と君は一心同体と言っても過言じゃない。まさにT/N/Pとエコア/イドルの関係の如しだ。
君という裏付けがあってこその私なんだ。いや、私のようなH/R/I心を持った上司に恵まれたからこそ今の君の成長があると言うべきか。いやいや、むしろ私のI/K/T/Rセンスが…。
……待て、今は我々二人の関係性を分析している場合じゃない。
度重なる援護射撃に気を良くした私は、再び目の前の敵を見据えると、これが最後通牒とばかりに腕を振り上げて断じた。
「T/N/Pでバーン!といかないか!」
「…勘弁して下さいよぉ先輩」
それまでの木で鼻を括ったようなイケ好かない態度はどこへ行ったのか、急に眼前の敵が情けなく顔を顰めて項垂れる。
相手の様子が一変したことに驚いたらしく、丘田が私の方を向いて声を上擦らせた。
「せ、先輩!?」
「部活の後輩だ……バドミントン部だ」
こんな無粋な人間に成長してしまった後輩を持ったのは我ながら何とも不本意だが、やむを得ない。
中学の頃はあんなに小さくて可愛かったお前が。
今じゃチャラチャラした業界気取りのむさ苦しい男に成り下がってしまった。
あぁ、何という悲劇。時間とはかくも残酷なものなのだ。
しかし、それはそれ。過去は過去。私としては、この場を一歩も引く気はない。
「杉元!」
「参ったなぁ……」
もはや反撃することもなく、杉元は困り切ったようにただ呟いている。
敵の心理に綻びが生じたことを感じ取った丘田が、間を置かずして鮮やかな決定打を放った。
「それを格好良く作るのが宣伝部の仕事でしょう!」
よし、巧いぞ丘田。
案の定、丘田の言葉に変にプライドを刺激されたのか、敵はようやく我々のアイディアを盛り込むことを承諾した。
早速、T/N/Pをバーン!と掲げ、エコア/イドル搭載を角に慎ましく表示したフリップを準備した杉元が、我々に向かって同意を求めるように首を傾げる。
「どう?」
「…良い、と思います」
私の方をチラリと見ながら、丘田が少し自信無さげに答えた。
…可愛い。
ただ、もっと自分の感性に自信を持て、丘田。君はもう私と一心同体なんだから。
そこでようやく会議も終わり、会議室からスタッフ達が続々と退室していく。
最後に残った我々と杉元は、出入り口のドア付近でちょうど向き合う格好になった。
杉元もようやくホッと安心したのか、目線で私を指し示しながら、丘田に向かって溜め息交じりに吐き出した。
「言い出したら聞かないんだよ、昔から」
なに!?
お前にそんな風に言われる筋合いはない!だいたいお前こそ昔から、―――。
舌鋒鋭く反証を始めようとした私の耳に、突然、杉元らしからぬ気弱な言葉が飛び込んでくる。
「…こんな極端なやり方で、売れると思うか?」
一体どうしたんだ、杉元。こと宣伝にかけては自信過剰ともいえるお前が。
そうか、そうだったのか。
本当のお前は、日々不安を抱えながら、それを表に出すまいと尊大ぶった態度で自分自身に鎧を纏っていたんだな。
だが、杉元、もう安心して構わない。
我々が求めているのは結果だ。結果だけが全てなんだ。そして今回に限っては、必ず結果が出る!
何故ならこの私が考えたアイディアなのだから!!
そう言って元気付けてやろうと思ったのも束の間、杉元は勝手に自己完結したようだった。
「でも嫌いじゃないよ。…俺、実は結構、イケると思ってるゼ!」
いや、お前のその感性は全くイケてないだろう。I/K/T/Rのは私だ。
そう思わないか、と同意を求めるべく隣の丘田に顔を向けると、丘田は何故か優しそうな笑みを浮かべて杉元と見つめあっていた。
「時にはそうやって、恥ずかしがらずにまんま素直に表に出すってことも必要なんじゃないですか。僕も最初は戸惑いましたけど、今はそう思います」
「確かに、そうかも、な…」
杉元の方も、ひどく感慨深げに何度も頷いている。
どういうことだ、この二人の間に漂う空気は。
「おたく、良い感性持ってるよ。技術畑には勿体ないなぁ」
照れ隠しのように丘田に陽気な笑顔を向けた後、杉元がふいに表情を改めた。
「先輩―――」
なんだ急に。それに何だその目は。……まさか!?
駄目だ!絶対に駄目だ!
丘田は私の研究所の研究員なんだ!お前なんかにやるわけにいかん!!
それに丘田、お前もお前だ!奴にそんな可愛い笑顔を向けるんじゃない!杉元が誤解するだろう!
二人の間に割って入ろうとした私の両肩を、杉元がガッシリとした手で掴んだ。
「―――実は俺、ずっと、…ずっと先輩のことが好きでした!俺の嫁さんになって下さい!!」
「ッえぇ〜??」
「ッえぇ〜??」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
またしても改行ミスりました…すみません
>>149なんとJC2な!
ラストのプロポーズでフイタw
展開だけ追うとハラハラ三角関係!?という感じだけど
どこかほのぼのしてて可愛いなあ
ごちでした!
>>149 第二弾ktkr!
ラストの展開に自分もニラ茶ふいたよw
第三弾も全力正座でお待ちしてます
遅レス失礼致します
>>101ー109等の姐さん
全ての作品素晴らしいです!読む毎に萌え力で元気になりました
緑蜂以前にも投下なさってらしたのでしょうか、文章の心地良さにすっかりファンです
予告編からワクテカだった作品を棚で拝見出来て感激し萌え再燃してます
更なる続きをお願いしたいですし続編撮って頂きたい位ですwありがとうございました
>>136 おおおおおヒロミと阪東のバンド物がここで読めるなんて!!
二人とも男っぽくて切なくてすごく良いです
売る振るず/しゃっきんだいおうの歌詞に萌えてインスパイアされた二次?BL未満妄想
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あいつとの付き合いは長い。
初めて会ったのは幼稚園、桃組のとき。
父は仕事に忙殺され、母は生まれたばかりの妹にかかりきり。
ふて腐れ気味だった俺の手を引いて遊びに誘ってくれたのがあいつだ。
頭がよく運動神経は抜群。
顔立ちも悪くなく、だけど決して鼻にかけず誰に対しても分け隔てなく接する親分肌。
あいつは俺のヒーローだった。
――そう、「だった」だ。過去形。
十年以上前に、その一種憧れめいた感情は掻き消えた。
できるものなら俺は昔に戻ってあの頃の俺に言ってやりたい。
そいつはやめとけ、今に泣きを見るぞ、と。
「だからさ、ちょこーっとでいいんだって」
現在の時刻、午前5時30分。
寝不足で痛む頭を押さえる。ゆうべ会社から帰ったとき既に日付が変わっていた。
馬車馬のように働いたのは今日が貴重な休みだったからだ。
「おおい聞いてるか?」
「うるさい話を聞く気はない」
俺は眠い目を必死で開けて前方を睨みつけた。
相手はほんの10分前、チャイム連打で俺を叩き起こし、今も我が物顔で寛いでいる男だ。
中途半端に長い髪と無精髭はこいつのだらしなさをよく表している。
へらへらと笑うこいつの目的はいつだってはっきりしている。金の無心だ。
「何だよーケチケチすんなよー」
「お前は金の有り難みってもんをわかってない」
高校生が友人にアイス奢れと言うのとは訳が違う。
俺達はもう遊び歩くのを許されるようなガキじゃない。
社会人になって数年、友人は皆大なり小なり苦労して汗水垂らして金を稼いでいる。
無論、食うためだ。断じて目の前の阿呆に恵んでやるためじゃない。
それを、働きもしないこいつはしれっとした顔で言うのだ。
「別に全財産寄越せってんじゃないんだからさ、ほんのちょびっと貸してくれたっていいじゃねーか」
阿呆かと。馬鹿かと。
目を開けたまま寝言言うんじゃねえよと。
貸すというのはいつか返ってくるからそう言うんじゃないのかね。
学生時代から今に至るまで、何年経っても一向に返さない相手に金を渡すのは貸すんじゃねえ、ドブに捨てるって言うんだよ。
俺が睨みつけるのを気にも留めないで、阿呆はへらへら笑った。
「だーいじょうぶ大丈夫。今回はマジだって。馬でも自転車でも船でもねーよ。ビジネス、いわゆる投資ってやつだ」
投資。いかにも胡散臭いな、おい。
「大当り間違いなしだ」
どんな根拠があるものか、奴は手のひら大の箱を投げて寄越した。
蛍光ピンクのパッケージにボンキュッボンの際どい服着た金髪ねえちゃんのイラスト。
大人の玩具かと疑う下品な箱の上にはでかでかと赤い文字が踊っている。
「……一粒飲めばアナタも魅惑のプロポーション! って……」
どう考えても騙されてるだろ!
叫びそうになったがぐっと飲み込む。
いかんいかん。もうこいつに振り回されるのはやめるんだ。
投げ返そうとしたとき、中身がこぼれた。
吐き出されたのは丸く平べったい白の錠剤。って待てよ。
「おいこれラムネに見えるぞ」
「ラムネじゃねえよ、流行りのダイエット商品だよ。ほら一粒飲めば魅惑のプロポーション!」
両手を使ってナイスバディを表現している阿呆は無視して粒を口に含む。
しゅわっと口溶けよく弾ける。やはり懐かしのあの駄菓子だ。
パッケージをもう一度見る。
心なしか、撫でると金髪ねえちゃんの辺りがざらざらするような。
――まるで絵の具か何かで描かれたように。
そこまで考えて俺は、今度こそ奴の頭めがけて箱を投げつけた。
「投資なんて嘘だろこれお前が作ったんじゃねーか!」
「ばれたか」
「ばれるに決まってんだろ!」
そうだった、こいつは昔から異常なほど手先が器用だった。
その器用さをもっとマシなことに使えよ!
まともに働いて金稼げよ!
「いいか、俺のお前に対する心証は元からマイナスだったが今ので臨界点突破したからな」
「えー俺お前にだけはひどいことした覚えねえぞ。金せびったけど」
それだけでも十分ひどいことだよ、と言いたいのをぐっと堪えて俺は声を低めた。
「俺はお前がマリコに手え出したの忘れちゃいないんだよ」
「なあに人聞きの悪いこと言っちゃってんの。
マリちゃんとは紳士的にお付き合いして話し合いの下円満にお別れしたよ」
そうともお前と妹とは今も仲がいいだろう。
だがそれが今までで珍しいってのはよく知っている。
こいつが女と揉めるたびにとりなしてきたのは他ならぬ俺だからだ。
今だってこいつはあちこち女の家を渡り歩いて暮らしている。
金がなけりゃ家もない。働く気概も情けに報いる誠意もない。
何というダメ男!
これはだめだ、もうだめだ。
今日までずるずると付き合いを続けてきたが、俺の愛想もストックが尽きた。
今まで何遍も思ったが今日こそ終わりだ。
「貸してやってもいいぞ」
そう言った途端、奴は目を輝かせた。
「マジで!」
「その前に今までの借金返すならな」
奴の動きが止まった。ほら見ろ、どうせ返せるはずがないんだ。
「返せ、さあ返せ。全額耳を揃えて返せ」
「いやあの本当に俺今金ないのよ。今あんのって言や……あ、そうだ」
がしっと肩を掴まれ、上から覗き込まれる。
な、何だよ。何で目に力込めてんだよ。
無精髭が生えて、でもよく見ると鼻筋の通った男前がふっと微笑んだ。
奴の顔が近づき、俺の耳元で囁く。
「身体でご奉仕しちゃおうか……?」
ふうっと耳に息をかけられた瞬間、俺は奴を蹴り飛ばしていた。
「帰れ! もうお前二度と来るな!」
「えー! ちょっ金は!?」
「貸すわけねえだろこのタコ!」
暴れる奴を無理やり蹴りだし、扉を閉めた。
しばらくの間、お願いだのごめんだのとわめく声が聞こえたが、諦めたのかやがて足音が遠ざかっていった。
それを確認したら足から力が抜けた。
へたり込み、がつんと扉に頭を打ち付ける。
昔、同じようにごく近く顔を寄せ合ったことがあった。
ガキの頃、近所の林に作った段ボールハウスは、高校に上がるまで俺達だけの秘密基地だった。
基地最後の日はよく覚えている。
中学の卒業式の後、今日のようにあいつがふざけて顔を寄せてきた。
冗談で返せばよかった。でも俺は逃げた。
次の日行ってみると基地は壊されていた。
そしてあいつは変わった。
俺の心臓は今、あのときと同じように扉を蹴破って走り出そうとしている。
きっと顔も耳も首も、どこもかしこも真っ赤だろう。
手が震えて、あいつが置いていった詐欺商品を握り潰した。
「ちくしょ、あいつ……くそっ」
マリコにツバつけたのがわかったときキレたのも未だにあいつを切れないのも。
原因は全部わかってるんだよ。
嗚呼、昔の俺よ、何だってあんな奴に惚れちまったんだ!
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
見捨てられないのは恋だよ!って突っ込みたい気持ちが堪えられなくなったので吐き出し。
捏造失礼しました。
>>136 まさか2でこの二人の話を読めるとは…
ありがとうございました!
リバ注意!ヒカルの碁
>>97-98の続きです
アキラ×ヒカル、の後、ヒカル×アキラにかわります
ガチリバな二人でエロ。しかもその日の勝負で上下が決まるというベタなアレで…
続き物でちょこちょこやってくつもりです。
リバ苦手な方は専ブラでトリップをNGワードに設定推奨です。
ヒカルの一人称(ヒカル視点)で進みます
今回は押し倒し編。しかもビミョーにまだ押し倒してない
押し倒すだけなのになんでこんなに書くのに時間がかかるんだろう…
今はアキラ×ヒカルです
ややヒカアキっぽいかも知れないもしかしたら、自分ではわからない
ちょっと血を舐める描写が出てくるので苦手な方は気をつけて下さい
あと私が気づいてないだけでこの二人結構変態なのかもしれないどうしよう
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
負けた。オレの二目半の負けだ。
塔矢の家で、いや塔矢の部屋で塔矢が勝ったときはいつも、検討を終えて、碁石を片付けると塔矢がじりじり寄ってきて、
そのまま、布団側にいるオレを、敷布団の上に転がして………
そこまで想像を巡らせて思った。今日はどうすんだろ。
塔矢が碁盤と布団の配置を逆にしたから、いつもと逆で布団側に塔矢がいて、碁盤を挟んで反対側にオレがいる。
じりじり寄って、オレを力技で布団に引きずり込むつもりか。
それとも、オレが自分からにじり寄ってくるのを待ってるのか。
そんなことを考えているうちに、二目半の差で負けた碁の悔しさが込み上げてきて、はあ、とため息をついて碁盤に頭を垂れる。
かちゃ、という音を立てて、額の下で石の配列が崩れた。
「…あ、だめだよ」
顔を上げると、塔矢が碁盤に手を伸ばして元に戻そうとしている。
やっぱり忙しかったのか、唇がかさついている。手とか唇にばっかり目が行ってしまう。
かさついた唇を見てなぜか、いつだったか、掠れた、でも熱っぽい声で、碁に負けたキミの顔が好きだ、とぽつりと呟いていたのを思い出した。
そんな顔を見せたままでいるのもなんだか癪で、石の形を戻していた白い手を、手のひらで押し返す。
ばちばちと音を立てて盤面が崩れて、畳の上にいくつか碁石がこぼれ落ちた。
あっけにとられている塔矢の胸に手のひらを押し付けて、じりじり迫ってから体重をかけて力任せに布団に倒す。
スーツの布地が、毛羽立った畳に擦れてざらついた音を立てた。
「盤面、頭に入ってるから。あとで並べようぜ」
ダークグレーのセーターの下におさまっているネクタイの、結び目近くをぐいと掴んで、乱暴に引き寄せる。
「……今日はボクが上のはずだが」
そう、そうだよこの目。この目だ。ぎらぎらしたおまえの目、好きだ。身体中がきゅっと締め上げられる感じがする。
「んなことわかってるよ」
塔矢は左の手のひらを突いて腰を安定させると、下からそろりと右手を延ばしてきて、オレの頬から顎にかけてを、つっと撫でた。
硬い指先が頬をたどる感触にぞくぞくする。やっぱり溜まってる。オレ。
「なあ……オレさあ、」
なに、と言いかけて開いた薄い唇を、最初はゆるく、だんだんきつく、きりきりと噛んだ。
微かな、生温かい感触と一緒に歯の間から鉄の味が広がって、塔矢の口から、あ、という微かな声が洩れる。血だ、と思った。
「ごめん、切れた?…」
かさかさしてひび割れそうだった唇を噛まれて、切れたか割れたかして血が出たらしかった。
自分の下唇に付いた血を舐め取る。口の中で、鉄っぽい味が唾液と混ざった。
塔矢と大差ないくらいかさついている自分の唇の感触を認めて、改めて、自分と同じようにかさついている、薄い唇に欲情する。
「ああ、……切れたみたいだ」
手の甲で口を拭って、その手の甲をちらっと確認しながら言う。
その仕草が妙に色っぽい、なんて思って、だめだこんな調子じゃ、こんなんじゃあんまりもたない、と思った。
左手で顎を持ち上げて、かさついた唇をすり合わせて、まるで噛みつくみたいに強く唇を吸う。
唇を少し舐めてから離すと、塔矢を布団の上に押し付けて、腰の上に馬乗りになって両手を塔矢の顔の横に突く。
塔矢のワイシャツの襟の上に、水色のネクタイの先がぱさりと垂れる。
「オレさ、いま、」
こうやって、塔矢を上から見おろすのは、なんだか好きだ。
塔矢がオレが作る影の中にいると、それだけで、ああ、こいつ今、オレ次第でどうにでもなっちゃうんだな、みたいな気分になる。
まあ、気分の上だけなんだけど。実際は、そうすんなり上手くは行かない。
少し腕を曲げて体を近づけると、ごくんと白い喉が上下して、ネクタイの先が黒髪の上に滑り落ちた。
「すっげえ、したい」
たぶん塔矢の口の中にも、少しだけど血が残っている。今キスしたら、きっと血の味がする。
オレの口の中も塔矢の血の匂いがする。なんだか変な感じだった。口の中の唾液を飲み込む。やけに鮮明に喉を通った。
顔の横でシーツに食い込んでいる右手の、親指以外の四本の指に体重をかけて、無造作に広がった髪の上にある親指で、すりすりと髪の流れをなぞる。
「……こっから、やってみろよ」
今まで、塔矢が力ずくでオレを、っていうのはなかった。
大体、軽く布団に転がしたり、もつれるように倒れこんだり、みたいな感じだった。
力ずくでオレを押し倒すおまえを、ただ見てみたいと、そう思った。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
読んでくれた方ありがとうありがとう
続きます
あああ、名前欄の分数おかしい、途中トリップできてない
ご迷惑かけました
>155
つ、続きマダー? っていうかここで終わりとは殺生な…w
どうしようもない奴に振り回される主人公乙。
167 :
山鉄 1/3:2011/04/07(木) 22:18:43.75 ID:EuD+DtZC0
一応ナマモノ。ymd×t兄(俳優)のつもりです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
眠らなくても動く脳味噌とか食わなくても平気な腹とか、そういうのが欲しい。
眠る時間がもったいなくて、けれど特にする事もなくてただぼんやりと夜を明かしてドロドロに溶ける脳味噌は厄介だ。
何食べようとか考えるのが面倒で何も食わないでいたら、立ちくらみで世界が真っ暗に滲んだ。
カプセル一つで腹が膨れたりとか眠らなくても済む機械の体とかが欲しい。そろそろ未来、来ねぇかな。遅れてるよ、21世紀。
ぐったりとソファーに倒れこんで、このまま死にたい、と思ってもない事を口に出してみる。
……いや、まぁ死にたくはねぇなぁ。何か辛い事でもあったっけ俺?と思いを巡らせてみても、特に何も思い出せなかった。
生きていると辛い事ばかりが降りかかるような気がするけれど、よくよく考えてみるとそのどれもこれもが大した事ではないように思える。
本当に辛い事なんて数える程しかなくて、俺はまだそれが思いつかない。
真実、俺を殺す悲惨な出来事。大抵の事なら、何があっても生きていける。随分と丈夫に育ってしまったので、大体は生きていけた。
けれど、いつか俺を殺すのはこの倦怠感なのかもしれない。心がね、ちょっとナイーブなのよ。
でもまぁ、今のところ死にたくなんてないから死なない。死にそうもないから死なない。さて、本当に俺は何か辛い事でもあったのだろうか。
携帯の震える鈍い音が聞こえて、さっき床に落とした携帯を手探りで掴んだ。
ディスプレイをに表示された名前を見て、数秒迷ってから電話に出る。
『なにしてんの?』
死にかけてるよ。
168 :
山鉄 2/3:2011/04/07(木) 22:19:14.87 ID:EuD+DtZC0
しばらく会っていない兄貴は、そういう探るような言葉でもって俺を誘い出す算段らしかった。
何と返したって、次に続く言葉はどうせ、「来いよ」とか、「来てよ」とか、なんとか。
外に出るのはメンドイな。かといって家に来られてもメンドイな。
これは愛してるとか愛してないとかの問題じゃなくて、俺の生死に関わるアレコレなので勘弁して欲しい。
それとこれとは別問題で、ここの所を深く考えてしまうと俺のアレコレがより深いところまで落ちていってしまうので考えるのをやめた。
(人に気を使わせてまで死にたいフリを続けるのか。結局、外に行ったら行ったで楽しいのに。
それを突っぱねてまでも俺は死にたいフリを続けるのか。あー死にたい。ウソ、死にたくない。)
(あーだから考えるのやめろって。)
結局いつもどおりの返事をして、俺は、とりあえず死にたいフリを一時中断して財布と鍵を掴む。
つうか、俺寝るとこだったんだけど。ブツブツ文句を言いながら家を出た。そんなに近くで飲んでるって事は確信犯だろう。
タクシーを捕まえて、タクシー乗ったよすぐつくよって言ってんのに電話の向こうの人は一向にぐだぐだと意味のわからない事を言って切ってくれない。
ほらもうついちゃうよ。ほら、もう、ついちゃった。通りに突っ立っている男を見つけて慌ててタクシーを止めた。
ちょっと待っててください、って言ったら嫌な顔をされたので財布を人質に置いて車を降りる。
なにしてんの、って声をかけたら、よっぱらいのどんよりとした目が俺を見つけて嬉しそうにほころんだ。
「なんだよ、その格好」
笑いながら俺のジャージを引っ張って、あ、と動きを止めた。
「俺のじゃん」
そうだっけ。道理で裾を引きずるはずだ。まぁいいじゃない。男の手を掴んでタクシーに乗り込もうとしたら、ぐいと引っ張られた。
振り返るとぼんやりとした顔がもごもご意味の分からない事を言うので、とりあえず金を払ってタクシーを見送る。
どうすんの、って見上げると、ぼんやりとした顔がぼんやりと照れた。おぉ、面倒くせぇな。
169 :
山鉄 3/3:2011/04/07(木) 22:19:59.56 ID:EuD+DtZC0
眠らない体が欲しい、腹の減らない体が欲しい。
欠ける部分のない、完璧な心が欲しい。
そのどれかで俺はきっと、何かしらはマシになるのに。
(ま、無理だけど。)
仕方がないので手を繋いだまま歩き出す。薄暗い夜道にぼんやりとした月明かりが落ちてくる。
少し後ろを歩く酔っ払いの手を引いて、ちらりと振り返れば、なんだかとても嬉しそうな顔をしていた。
手を繋いで人気のない道を二人で歩いて帰る。
そのうち本当に死にたくなっちゃったら、この人の体を触って、俺の体を触ってもらって、なんとかかんとか誤魔化してみよう。
頭を撫でてもらって、笑うとくしゃくしゃになるこの人の顔をいやらしい意味で歪ませてみたりしてみよう。
それらを全部手に入れて、それでようやく俺はきっと。
(……ま、わかんないけど。)
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
170 :
風と木の名無しさん:2011/04/08(金) 14:17:06.62 ID:6mk088+aO
棚のまとめって携帯からでも編集出来る?
わ、上げてしまった
ごめん
172 :
嫉妬 1/2:2011/04/08(金) 15:34:27.41 ID:ICB5y1Av0
生 彫りの深い変人刑事とか実に面白いな物理学者の作者×人を殺せる厚さの本を書く和服の人
互いの呼び方は創作
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
始まりなんて覚えていない。気付いたらこういう関係だった、としか思えない。
今日は新しい映画おめでとうございますと祝いに来たという名目だったが、
迎え入れた夫人の隣に立つ彼も俺の視線で意図を理解していたのは明白だった。
「うっ…く…」
お互い何度目かの絶頂と射精を迎えたところで自然と休憩を取る。
愛の言葉を紡ぐでもない。互いの体を愛撫しあうでもない。
視線も合わせず、体から引き抜くこともなくそのままの体勢で。
これは何のための行為なのか、考えることも面倒だった。
彼は肌蹴たシャツを閉じる事はせず、呼吸をゆっくりと整えている。汗をかかない体質なのは知っているが、
見ていると若干プライドのようなものに引掻き傷をつけられている気に障る。
「ねえ、ヒガツノさん」
「ん」
「僕疲れました」
「俺も」
「じゃあもういいんじゃないですか」
「やだ」
即答すると芝居がかったようにえええーと言ってくる。眼は笑っていない。
「もう萎えてるでしょ、それぐらい分かるんですからね」
「そこはほら、キョウくんが頑張れば」
「その呼び方気持ち悪いんでやめてください」
そう言い放つ辟易とした顔が勘に触ったので腰をわざと揺らす。
途端に羞恥と快楽の入り交じった表情に変わる。ざまあ見ろ。
そのまま腰を動かしだすと、彼はソファの生地に爪を立てて小さい声で言う。
「後輩苛めだー…」
173 :
嫉妬 2/2:2011/04/08(金) 15:36:26.15 ID:ICB5y1Av0
そう、これはただの苛め。
後輩の癖にとても目立つ。デビューの経緯だけで一本小説を書けるぐらい。
敬愛する師匠の教えに従った結果かどうかは分からないが、以前の抱かれたい男No.1の容姿が崩れたとしても
相変わらず人目をひく容姿なのは変わりない。
賞だって獲った。実写化もした。アニメ化もした。映画化もした。漫画化もした。
どれも全部俺より先に。
本業以外もこなす多彩な彼が妬ましい。何度自著で皮肉ったことか。
そう思っていたのに、気付けば自分も同じ高さに立っていた。
やっと認められた。嬉しかった。猫と二人で妙なダンスも踊ったぐらいだ。
なのに脳裏には、全てを先じていった男の顔が染み付いて離れなかった。
体を合わせているからか、余計に焼きつく。
壊してやろうとしたってそうそうエロ小説のように人格破壊なんて出来やしない。
ただただ、俺の嫉妬心を癒すために。
病なんて気さえ持てば何でも跳ね除けますよ、とソファの上で言われた数カ月後に生まれて初めて彼が倒れたと
噂で耳にしたときに、胸の奥で何か音がしたことはまだ彼に言っていない。
でもきっと、彼は気付いているだろう。
そうだとしても、これはただの嫉妬。
別の言葉でなど表すものか。絶対に。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ぎゃー誤字だと思って直したところがそうじゃなかった!
1/2の「〜つけられている気に障る」は「〜つけられている気になる」です
恥ずかしい(;´∀`)
クローズ(原作)よりヒロミ×阪東。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
「あー、今百万あったら何すっかなー」
大容量の安焼酎とホッピーをかき混ぜて行儀悪く割り箸をしゃぶる。
酔いで腫れぼったくなった目で奈良岡が呟いたのは去年の大晦日のことだ。
「とりあえず、家賃と携帯代だろ?」
いつになく真剣な顔で指を折りながら、奈良岡はしばらく所帯じみた取らぬ狸を披露した。
どうするのこうするの、とありもしない百万を使って見せた奈良岡は、「おまえらはどうよ?」と、
同じこたつに背中を丸めて酒をすすっていた桐島と阪東に顎をしゃくった。
阪東はあたりめをかじりながらいつもの調子で鼻先に小馬鹿にした笑いを滲ませる。
それでもしつこく聞くので桐島は仕方なく「でかい犬を飼う」とかいい加減なことを言った。
その「ロックと犬」というのが奈良岡の哲学によるところどうも食い合わせが良かったようで、
ひとしきり「犬はいいぜ」と頷かれた後で、二人の視線は残りの一人に注がれた。
阪東は「何見てんだよ」と、鼻の頭に皺を寄せたが二人が構わず視線を外さずにいると、
落ち着かなげにライターを擦ってから、観念したように「ギターのローン」と煙を吐いた。
それから煙草をパーラメントに変えるだのリムジンで里帰りをするだのと、三人であれこれとくだらない夢の金額を見積もった。
最後に奈良岡が「死ぬほど肉食いてー!」と、叫んで床を転げたところで、
近所の寺からまさに煩悩を振るい落とすような除夜の鐘がいやに厳かな響きを上げて、酒臭くこもった四畳半の空気に余韻を引いた。
何となく顔を見合わせてから背筋を伸ばし、それぞれの湯飲みやマグカップに酒をつぐ。
改まって咳払いして「今年もよろしく」と、乾杯してそのまま昼まで飲み続けた。
そんな生活が一変したのは正月気分がようやく抜けた頃で、年明け一発目のライブの後で打ち上げの居酒屋に遅れて現れた阪東は、
食い散らかした皿の間に一枚の名刺を置いて目で笑った。
あれよという間にレコード屋にCDが並んで、畳の毛羽立った四畳半からオートロックの小綺麗なマンションに引っ越した。
もう財布の中身を掻き集めて予約を入れなくても、倍以上も広さのあるスタジオで存分に楽器をならすことが出来る。
相変わらずセブンスターを吸ってはいるが、阪東のギターにはローンを返して釣りがきた。
今年の大晦日には死ぬほど肉を食いながら稀少ものの銘酒で乾杯が出来るだろうし、地元に帰れば知らない親戚や友人も増えているだろう。
あの夜からもう一年だ。
たとえばこんな金の使い方が自分の選択肢に加えられることなど一年前には思いもつかなかった。
電車は人目につきすぎるからタクシーを拾い「これもロックか?」と口の端を持ち上げる。
サングラスをかけ直しながら一緒に車内へ滑り込む奈良岡は「これは別だろ」と、肩をすくめてシートに体を投げ出した。
桐島ははは、と笑って運転手に行き先を告げた。
ゆるゆると走り出す車に合わせて、買ったばかりのラム皮のコートの上をガラス越しの街の電飾が鈍く光って流れ出す。
スプリングのゆるいシートに沈み込むように背中を預けると、さっきまでの昂揚はとたんにうんざりするような疲労に変わった。
腰や背中が重力にまとわりつかれたように重い。
奈良岡を誘って、たった今新宿の「風呂屋」で女を抱いてきた。
ただで足を開く女ならいくらでもつかまるものを、わざわざ商売擦れした女の懐に六万円を落としてきたことに大した意味はない。
どうせ財布の中に金があるなら使いたくなるのが人間だ。酒乱に酒、ガイキチに刃物、ガキに大枚か。
桐島は鼻から長い息を吐きながら、女の体の上で果てた瞬間を反芻した。
「なあ、ヒロミ」
「んー?」
「おまえさ、女でもイケんの……?」
「は?」
思わず顔を向けると奈良岡は前を向いたまま決まり悪そうに小さく咳払いして、桐島に控えめな横目をよこした。
「いや、ほら……。おまえ阪東とさ……付き合ってんじゃねーの……?」
「ああ、そーゆーことな」
桐島はかちかちと点滅する緑の矢印を眺めながら「イケるけど?」と、なげやりにあくびする。
返す言葉に詰まっている奈良岡に苦笑まじりに口元を歪めて「むしろ女の方が全然いい」と、付け足した。
「……ケンカしたとか?」
「してねー日がねーよ」
「だよな」
「大体阪東相手にソープがあてつけになるかよ」
「だよな」
「っつーか、おまえが言ったんだろ?」
「何を」
「百万あったら何するか」
「……?」
「覚えてねーだろ」
怪訝そうに眉根を寄せて顔を向ける奈良岡に「バーカ」と、目を細め窓の外へ首を巡らせた。
窓外の景色はいつの間にかけばけばしい看板の群れから閑静な住宅地に変わっている。
奈良岡が不服そうに身を起こし口を開こうとしたところで、タクシーは止まった。
「おまえ自分とこまで乗ってけよ」
「釣いらねーから」と運転手に一万円札を押し付ける。
一緒に降りようとする奈良岡を残してドアを閉め、ガラスの向こうの何か言いたげな顔に手を振った。
車が生ぬるい排ガスの尾を引いて角の向こうに消えると、桐島は深々と溜息をもらした。
吐いた息が白く濁って渦を巻く。
『新宿で一番イケてる女を買う』
『タクシーで釣を受け取らない』
煙草に火を点け二、三度吹かして首を振る。
一年も前に酒に酔って交わした他愛もない馬鹿話だ。引きずる方がどうかしている。
噛みしめたフィルターを犬歯が突き破る。桐島はひしゃげた吸殻を足元に吐き捨ててポケットに両手を押し込んだ。
立ち止まって見上げる目の前のマンションがいつもの倍もそびえて見える。
去年の今頃こたつ布団をかぶっていたのは二階建ての木造アパートだ。
打ちっぱなしのコンクリートをなぞるように五階の一部屋に視線を這わせた。
分厚いカーテンの赤が室内の照明で鈍く浮き上がっている。
桐島は小さく鼻をすすり上げると、エントランスに続くオートロックのガラスドアを蹴った。ポケットの中で手探りで携帯電話をなぞる。
ボタンひとつで繋がるように登録してある番号だ。
「阪東ーーっっ!!!」
呼び出しを押して相手が出る前に窓に向かって大声で叫んだ。
『馬鹿か、テメェは。インターホンあんだろ』
「使い方わかんねー」
『次やりやがったら前歯折んぞ』
「じゃあ鍵くれよ」
『……』
電話が繋がるのと同時に施錠を解かれたドアの奥に滑り込む。
エレベーターの壁にもたれてへへ、と笑ってやるとぶっつりと電波が切れた。
通話終了の画面表示にひとりで肩をすくめる間に五階のランプが点灯して音もなくドアが開く。
角部屋のノブを引くと玄関の鍵は開いていた。
もうもうと煙のこもったリビングに控えめな音量で気だるそうなピンクフロイドが流れている。
ソファの端で雑誌をめくっていた阪東は黙ったままくわえ煙草の顔を上げると
眉間にひときわ深い縦皴を刻んで目を細め、尻ポケットから出した鍵を桐島に投げつけた。
「叫んでんじゃねーよ。キメてんのか、テメー」
桐島は「さあな」と首をすくめて鍵を拾うと、乱雑にコートを脱ぎ捨てた。阪東の隣に腰を下ろして煙草をくわえる。
サイドテーブルのライターに手を伸ばしながら横目に一瞥する飲みさしのバーボンは量販の大衆銘柄だ。
「安い酒飲んでんなよ」
「うるせぇ。たまには自分とこ帰れ」
「っつーか、何でおまえだけ別のマンションなんだよ」
「知るかよ」
桐島は大袈裟にソファにもたれて天井を仰ぎ煙を吐いた。
「飯は?」
「食ってねー」
「おまえまた痩せただろ」
「知るかよ。つーか、どこ行ってたんだよ」
「ツネと新宿。なあ、鍵マジでもらうぜ?」
「好きにしろよ」
顔も上げずページをめくる阪東を意外そうに眺めてから、桐島は「じゃあ遠慮なく」と、二本の鍵をキーチェーンに通した。
「明日も仕事か……」
新しい鍵を目の前で二、三度揺らし溜息のように呟いた。
体も頭もひどく重たい。ずるずると崩れるように阪東の薄い体に身をもたれる。しみついた煙草の匂いがきつく鼻の奥を突く。
「帰って寝ろよ」
「動きたくねー……」
何かに吸い込まれていく感覚に任せて目を閉じ、女の体の中で爆ぜた瞬間を反芻する。
肉体を確実に満たすだけの快感をともなって走る悪寒に似た小さな痙攣。
財布の中の使うあてもない札と頂上を知らないロックンロールミュージック。
転石苔生さず、か。一体どこに向かって転げ落ちているのだろう。
「悪ィ、阪東……。おれ全然ロックじゃねーよ」
「あ?何言ってんだ」
「前のアパート戻りてー……」
阪東の溜息が額にかかる。
「だせーツラしてんじゃねーよ」
阪東はぐしゃぐしゃとぞんざいに桐島の頭を掻き回して、灰皿に煙草を押し付けた。
頭の下に阪東の肋骨がこすれるかすかな感触が心地いい。
「阪東」
「あ?」
「やらせろ」
「好きにしろよ」
「じゃあ遠慮なく」と、腰に手を回すと阪東は面倒臭そうに雑誌を床に放った。
一段と筋っぽくなった細い首に顔を埋めて「殴んなよ?」と念を押してから阪東の顔を見下ろす。
「おれさっきソープでやってきた」
怪訝そうに細めていた阪東の目が危なっかしい色に据わっていく。
変わらないのはこの男のキレやすさだけだ。
「やっぱ無理か」と、観念して奥歯を噛みしめながら、桐島はひどく満ち足りた顔で笑った。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
>>175 ……もう閉鎖されたサイト様に掲載されていたSSで同じものを読んだ覚えがあるのですが、
管理人様ですか?
>>149 久々に来てT/N/Pに出会えるとは! 遅レス失礼
第二弾ということは…と前スレも漁ってUKUK
やっぱり萌えって元気をくれるねありがとん
183 :
気の迷い:2011/04/10(日) 10:51:51.42 ID:895qLjlrO
62巻19の続きみたいなもの
年下と年上
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ヒサビサノ ジサクジエンガ オオクリシマース!
184 :
気の迷い1/3:2011/04/10(日) 10:54:43.31 ID:895qLjlrO
テレビ画面には女性アイドルが可愛い笑顔を振りまき、リズムよくダンスを踊りながら歌っている。
ソファで隣に座る小柄なチ一ムメイトは、にっこりと頬を緩ませながら彼女たちを眺めていた。
少し温くなったビールを飲み干し、缶に爪を立てて音を鳴らすと、彼は「ん?」と振り向いた。
「誰が好きなん」
「さっきも言ったじゃん」
「覚えられへんわ」
ため息をついて、背もたれに体重をかけた。彼は空いた缶を取って立ち上がる。
「つまんないんだったら帰ったら?」
テーブルに残されたビール缶を見て気が付いた。まだ彼は一本も空けていない。自分ばかり飲んでいる。
「ねえ、飲まないの」
「俺は明日もあるから」
事も無げに言う。だが内心は悔しいに違いない。
彼は不振の為に、降格を受けた。明日からは別行動になる。
わかって、自宅に押し掛けたのだった。
「あー、そうだったね。寂しくなるねえ」
「ウソ。寂しくないだろ」
「あはは。そんなことないですよー」
「どーだか。まだビールあるけど飲むか?」
「あのさ、飲まないのはそれだけじゃないでしょ」
返事がない。振り向くと、彼は冷蔵庫を開けながらこちらを見て固まっていた。
「え」
「前のこと、思い出すからじゃないですか」
彼は頬をひきつらせながら、目を逸らせた。
「・・・何のこと、覚えてないよ」
ぱたん、と冷蔵庫の扉を閉める。
「ふーん」
画面を見ると、アイドルは衣装を替えて、色とりどりの照明を浴びながら踊っている。
彼は再び隣に座るが、先ほどよりも僅かに間を開けていた。
185 :
気の迷い2/3:2011/04/10(日) 10:59:34.94 ID:895qLjlrO
「ねえ」
顔を近付けると、彼は「わあっ」と声を上げて背を逸らして後ろに倒れ込む。
そのまま覆いかぶさって、彼を見下ろした。
「ホントに忘れた?これから思い出す?」
「ダメだって!俺明日あるんだし、それに、こういうことは良くないって!」
逃れようとして胸を押す手を捕まえた。指先を舐めてみる。
「うっ・・・わ」
彼の怯える表情を見て、つい笑ってしまった。
「誰にも言ってませんし、言いませんよ」
聞きなれたメロディが聞こえた。アイドルの一番のヒットチャートだ。
「テレビ消して・・・」
「見られてるわけじゃないのに?」
「次、見るたびに、今日の事を思いだす・・・」
彼の手首からは力が抜けていた。どうやら抵抗は諦めたようだった。
癖のある髪を撫でると、潤んだ視線と合った。
普段見ることのできない表情。自分だけが見ることのできる表情だ。
そっと唇をついばんだ。音を立てて何度も啄んで、舌を絡める。
息をついて離すと、彼は頬を紅潮させながら、今にも泣きそうな表情で見つめた。
「何で俺なんだよ・・・」
「・・・」
返答に困った。
他の人となら、同じことをしただろうか。たまたま彼だったのだろうか。
いや、そうじゃない。
じゃあ、何故。
「他の子だったら、可哀そうじゃないですか。本気じゃないんだし」
あれ、何か違う。正しい言葉だと思って言っているのに、何かが噛み合っていない。
「・・・もう良いじゃないですか、そんなこと」
誤魔化すように、服に手を差し入れて肌に指先を滑らせた。彼は目を閉じて声を上げないように唇を噛む。
その上から、そっと唇を重ねた。
186 :
気の迷い3/3:2011/04/10(日) 11:01:43.10 ID:895qLjlrO
*****
目が覚めるとベットの上だった。
カチカチと時計の音が耳につく。頭を動かして窓を見るとまだ夜は明けていなかった。
傍らには彼が眠っている。
あの後、長い時間触れ合ったが、結局最後まではしなかった。
次の日があることに、気遣ってくれたのだろうか。
する前には「他の子だったら、可哀そう」なんて言葉を吐いておいて、酷いんだか優しいんだかわからない。
近付いて顔を覗き込むと、彼の腕が伸びて引き寄せられる。
ぎゅっと抱きしめられて、一瞬身体に緊張が走るも、それ以上は何もしない様子だったのでホッとした。
規則的で、安らかな吐息に包まれる。
気の迷い、なのだろう。とはいえ。
彼の腕の中は、居心地が良かった。
187 :
気の迷い(終):2011/04/10(日) 11:03:14.25 ID:895qLjlrO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!力イマクwktk!
>>183 多分あの人とあの人かと勝手に妄想して萌えました
紆余曲折あったけどいよいよ始まりますね
>>161 亀だけどGJ!
こんなワイルドなヒカル好きだめちゃくちゃ好みだ(*´Д`)
半生注意。映画「緑蜂」より社長×助手。
>>101の後日の話。エロありです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
久々にスリリングな夜だった。
目を付けていた新興の犯罪組織が、麻薬取引を行うという情報を仕入れた。そいつをブッ潰すために俺と相棒は、ブラシク・ビューティーを駆って真夜中の街へ繰り出した。
麻薬と金を横取りする振りをして取引の邪魔をし、居合わせたヤクザな連中を二人してことごとくぶちのめした。
秘書が通報していたおかげで、いい頃合いに警察が駆け付けた。倒れていた組織の奴らは逮捕され、麻薬も押収された。
だが案の定俺達も警察に追われ、ちょっとばかり派手なカーチェイスになっちまった。
何発か車に銃弾を喰らったが、相棒の巧みなハンドル捌きと、ベン・ハ_を始めとする搭載武器を駆使したことで、なんとか逃げおおせた。
俺達に怪我はなく、警察にも車の被害しか無かった筈だ。
屋敷に無事帰りついた俺達は、高ぶった気を落ち着けるため相棒のラボでビールを空け乾杯し、計画の成功をささやかに祝った。
しばらく飲んでから、相棒はブラシク・ビューティーの故障箇所の点検を始めた。俺は体に付いた埃とベタつく汗を落とすために、自室に連なる浴室へ向かった。
シャワーでさっぱりした俺は、パジャマの下だけを履いてガウンを羽織り、部屋のベッドに腰を落ち着けた。
興奮は治まったが、気分はまだ高揚していた。いつかの赤い服のマフィア達とのバトルに比べたらかわいいものだが、久しぶりの命のやり取りはやっぱり刺激的だった。
抑え切れず小さな雄叫びを上げて、ベッドに寝転がった。まだとても眠れそうにはないので、相棒を誘ってもう一杯やろうと考えた。
そしたら、何となく思い出しちまった。このベッドで、あいつと過ごした夜のことを。
何度もキスして抱き合い、お互いの体温をかつてないほど近くに感じた。
ちょっとしたハプニングのせいで深い情事には至らず、その夜は二人並んで床に着き穏やかに眠った。
その後、相棒の態度はいつも通りで何も変わらなかった。俺もあの夜のことには触れず、相変わらず軽口を叩いてはたまに奴にツッコまれたりして、ごく普通の日々を送っていた。
そして今夜だ。
俺は急に、相棒に触れたくてたまらなくなった。あいつのしっとりと濡れた唇や、みずみずしい弾力を持った肌の手触りを思い返すと、居ても立ってもいられなかった。
俺はまた酔ってるのか?いや構うもんか、いつだって俺は、自分がしたいようにするだけだ。
決心してベッドから起き上がり、相棒がいるラボに戻るために足を踏み出した。
ツナギに着替えて油まみれで修理に励んでいた相棒を、飲み直そうと掻き口説いて部屋に連れ込んだ。汗と油が臭うからと、俺は奴を浴室に追い立てた。
素直に従いシャワーを使ってるだろう相棒に、ソファで酒を飲みながら少しうしろめたさを感じた。
こんなのは卑怯だ、そりゃよくわかってる。だが小ズルい手を使ってでも、俺は相棒を逃がしたくなかった。果たしてあいつは怒るだろうか。これは言わば、一つの賭けだ。
腹を決めた俺は立ち上がり、浴室のドアに向かった。
「力ト-、いいか?話があるんだ」
「……ブリシト、ちょっと待って、もう出るから」
ノックをして風呂場のドアを薄めに開け、相棒に声を掛けた。返事の後に、シャワーの音が止まった。
待てと言われたが、俺は構わず中に踏み込んだ。湯気で煙る空間の中に、裸の相棒が立っていた。ずかずかと無遠慮に入って来た俺に、奴はちょっと慌てる様子を見せた。
「おいブリシト!今出るって言ったろ。そんなに急ぐ用事、なのか……」
諌める口調と共に振り返った相棒の濡れた体を、手に持っていたバスタオルを広げて包んだ。体の正面から背中に回したバスタオルごと、俺は相棒を抱きしめた。
抱いた瞬間にぴくりと震えたが、相棒は手向かいもせずおとなしかった。巻き付いたタオルに、腕を戒められてるからかもしれない。だが相棒が本気になればそのくらいものともせずに、俺の腕から逃げ出せる筈だ。
今こいつはどういう気持ちでいるんだろうか、と考えながら抱きしめたままでいると、相棒は静かに口を開いた。
「……ブリシト、何してる」
「何って力ト-、お前を抱いてる」
「それはわかってる。なんで僕を、抱いたりするのかって訊いてるんだ」
「嫌か?嫌なら殴れよ」
「殴る前に理由を聞きたい。もしあるなら、だけど」
肩に乗せていた顔を上げて、嫌だとは言わない相棒を見つめた。湿って貼り付いた前髪の間から覗く黒い目は、怒りも嫌悪も宿さずに俺をただ見返していた。
俺は少し腕の力を緩めて、黒い髪を指で梳いた。
「力ト-、今夜あらためて思ったんだが……俺達って、ボニーとクライドみたいだよな」
「その映画、見てない」
「そうか。まあ要するに、いつ蜂の巣にされてもおかしくないってことだ」
「うん。なるべく避けたいけどね」
「そうだな……だからつまり、そうなっちまう前に俺は、自分に正直になることにしたんだ。わかるか?」
相棒はよくわからない、という目をした。
「力ト-、お前は覚えてないと言うだろうけど……この前お前が酔い潰れた夜に、俺は」
「ブリシト、それは」
「まあ聞け。あの夜お前に触れてわかったんだが、どうやら俺は、お前にションディー以上の気持ちを持ってる。それで思った。
俺達に明日なんてもんは、あって無きが如しだろ。俺は死ぬ時に絶対後悔なんかしたくないから、自分のしたいことは、絶対……」
「ちょっと待て、ブリシト。君の話は回りくどくて、たまに訳がわからなくなる」
さらに説明しかけた俺の言葉を遮って、相棒は冷静に指摘した。
「……今俺、回りくどかった?」
奴は頷き、もっと簡単に、と告げた。深呼吸をした俺は、相棒を抱き直して真剣にその目を見つめた。
「よし、じゃあ簡単に。力ト-、俺はお前が欲しい」
「ブリシト、欲しいっていうのは……」
答える代わりに、顔を寄せてそっと口づけた。相棒はまた体を震わせ、手は俺のガウンの裾を握った。お互い目をつぶり、しばらく唇を合わせてから離した。俺は相棒の顎に手を添え、赤い唇を親指でなぞった。
「俺を殴らないんだな、力ト-」
「……そんなことしないよ。だって、僕も」
君が欲しいから、と消え入りそうな声で答えうつむいた相棒を、俺は笑って強く抱きしめた。
盛り上がった勢いで、タオルに包んだ相棒を横抱きに抱え上げた。恥ずかしいからやめろと抗議されたが、暴れると落としちまうぞ、と軽く脅かしたらおとなしくなった。
それでなくとも奴を運ぶ俺の足取りは、ヨタヨタと頼りないものだったから、しぶしぶ承知したんだろう。
浴室を出て短い距離をなんとか歩き、なるべくそっと相棒の体をベッドに下ろした。ベッドを横切るようにして、奴は仰向けに寝そべった。
「ブリシト、腕と足が震えてたぞ。たったあれだけの距離なのに、情けないな」
「そりゃ力ト-、お前の体が意外に重かったからだ」
「僕は普通だよ。それに僕なら、君くらい楽に抱えて歩ける。君は筋力が足りないんだ、鍛えてやろうか」
「ああ、またの機会にな。今はけっこうだ」
体から剥がしたタオルで髪を拭いてやりながら、相棒のからかいをいなした。今やこいつは、一糸纏わぬ素っ裸だ。布団に膝をついた俺は、眼下に晒された相棒の引き締まった体をチラッと見た。
にわかにバクついてきた心臓の音を感じ、ごまかすように相棒に覆い被さってキスをした。
頬を両手で覆ってついばみ、それから段々と濃厚なキスに変えた。唇を舐めていた舌を中に差し入れ絡めると、相棒はおずおずとそれに応えた。
甘く深く口づけながら、俺は手を奴の肌に這わせた。この間は触れなかった小ぶりな乳首を撫で上げると、横たわった体がちょっとだけ跳ねた。
舌を離して、俺は首筋に顔を埋めた。同じ物を使った筈なのに、相棒の体からは俺よりも強いボディソープの香りがした。こいつ自身の体臭が薄いせいだと納得し、首筋から顎下を唇と舌でなぞりくすぐった。
「力ト-、お前胸が感じるんだな」
「バカ、そんなこといちいち言うな……あっ」
指で強く摘んでやると、憎まれ口を叩いていた相棒は小さな高い声を出した。赤くなり押し黙った奴に俺はまたキスして、両手を使い胸をいじっては撫でた。
相棒は体をわななかせ、上げた腕を俺の背中に回して縋り付いた。
口づけの箇所を唇から喉、胸元へと移して行き、乳首に吸い付いて口に含むと、相棒はより力を込めて俺を抱きしめた。
キスしては甘く噛んでを両方に繰り返し、左手は開かせた脚を膝から撫で上げた。じわじわと内股をなぞり、そこには何もしていないのに半ば立ち上っている中心に触れようとした。
自分以外の男特有のモノに触るなんて初めてだが、それに関しての嫌悪感はなかった。むしろ優しく丁寧に扱ってやらなければ、とちょっと緊張していた。ふいに相棒が、俺のガウンを引っ張り待ったをかけた。
「……ブリシト、待って!ちょっと、待ってくれ」
「なんだよもう!今日は吐くほど酔ってないだろ、力ト-」
いいところまで来て水を差され、俺は苛々として叫び顔を上げた。相棒は乱した息を整えながら、また口を開いた。
「吐かないよ……でも、聞いてくれブリシト、君はズルい」
「何がズルいんだ。お前をひん剥く手間を省くために、シャワーを浴びさせたことがか?」
「……それもだけど、今は違う。ズルいのは、君が服を脱いでないことだ!僕だけ裸で、まるでバカみたいじゃないか」
真っ赤な顔で必死に訴える相棒は、眉を下げてちょっと涙目になっていた。嫌がらせじゃなく単に脱ぐのを忘れてただけの俺は、納得して一旦相棒から手を放した。
「わかったよ力ト-、そんなことでスネるな。今脱いでやるから」
「別にスネてない。なんでそう、上から目線なんだ……うわっ」
肩からガウンを滑り落とした俺の胸を見て、奴は小さく声を上げた。
「なんだよ、失礼だな。俺の裸なんて何度も見てるだろ」
「……ゴメン、間近で見ると凄かったから、つい」
「お前らがツルツル過ぎなんだ。欧米人なら、このくらい普通だぞ」
「わかってる、怒るなよ。君の髪の毛と同じで、クルクルしてるな」
「こら、くすぐったいだろ力ト-」
相棒は笑って手を伸ばし、とぐろを巻く俺の胸毛を指でなぞった。
俺は手を掴んで悪戯を止め、上から重なって相棒を抱きすくめた。裸の胸を合わせて擦り付けると、今度は奴の方がくすぐったがり悲鳴を上げた。
「毛がくすぐったいよ、ブリシト!」
「じきに慣れるさ。あったかいし、なかなかいいもんだろ」
「今は熱苦しいよ、風呂上がりだし……っ!」
際限のない軽口を遮るために、俺は相棒の中心をやんわりと握った。奴は刺激に少しのけ反り、息を飲んで目を閉じた。
手の中で優しくこね回してやると、緩やかに首を振って感じ入っているようだった。
俺は耳の裏側にキスして、耳元に唇を寄せ低い声で囁いた。
「力ト-、気持ちいいか?もっと良くしてやるからな」
「だから、訊くなって、バカ……」
乱れる呼吸の合間に小声で悪態をつく相棒が、やけにかわいらしく見えた。
もっと快楽を与えたいと心から思った俺は、相棒から体を離して起こし、サイドボードの引き出しを開けた。いつも使っている潤滑用のジェルを取り出すと、利き手の左手に素早く塗りたくった。
「……ブリシト、どうしたんだ?」
「中断してすまん、力ト-。可愛がってやるから、力を抜いてろよ」
「え、何を……あ、バカ!何する、ブリシト」
ジェルにまみれた中指を相棒の後ろに宛てがった。驚きもがく体に体を重ねて押さえ、ゆっくりと指を差し入れた。
「……やだ!やだよブリシト、いきなりこんな……」
「力ト-、大丈夫だ。すぐ気持ち良くなるから、ちょっと我慢してくれ」
「嘘だ、こんなのおかしいよ、ブリシト……!」
「シーッ、静かに。俺を信じて任せろ、力ト-」
焦りうろたえる相棒にキスをしてなだめ、俺は指をうごめかせた。慎重に抜き差しを繰り返すと、強張っていた体から段々力が抜けて行き、俺の肩を掴んでいた両手は所在なげに背中を這い回った。
「ブリシト、ブリシト……」
「力ト-、そうだ。俺の指に集中しろ。何も怖くないぞ、お前に触ってるのは俺なんだからな」
「う、うん……ブリシト……はあっ」
切ない吐息の合間に慎ましやかに漏れる声はひたすら甘く、名前を呼ばれて俺は俄然興奮した。今まで伊達に色事を重ねて来た訳じゃない、ここで本領発揮しないでどうする、と妙に張り切った気分になった。
指を一本増やすと、相棒はまたのけ反ってかすかに悲鳴を上げた。震える中心に再び触れてやりつつ、そろそろと指を動かした。指はすっかり埋め込まれ、熱く狭い中を俺は念入りに擦った。
気付くと相棒の手は俺から離れ、側にあったタオルを掴んで顔に押し当てていた。顔が見えず、喘ぐ声もくぐもってよく聞こえないので、俺は手を伸ばしてタオルを奪おうとした。
「力ト-、しがみ付くならそんな物じゃなく俺にしろ。なんで隠れるんだ、恥ずかしがるな」
「ダメ、やめてくれブリシト!頼むからほっといて……」
「バカ言え、顔が見えなきゃお前が気持ちいいかどうか、わかんないだろ。ほら、タオル放せ」
「ダメだったら!見ないでくれよ……ブリシト!」
無理矢理タオルを引っぺがすと、現れた赤い顔は涙で濡れていた。俺はびっくりしてちょっと固まったが、すぐに気を取り直して相棒に確認した。
「力ト-、泣いてるのは俺が嫌だからか?それとも……」
「……じゃ、ない」
「うん?聞こえないぞ力ト-」
「嫌じゃない、ブリシト。その逆だから、余計に恥ずかしいんだ……察しろ」
素直に告げた後、いたたまれない様子で目を閉じ顔を背けた相棒に、俺はたまらない愛しさを覚えた。そして、ちょっと突っ走り過ぎたなと反省した。
俺は相棒からそっと指を抜き、ティッシュで拭った。相棒の涙も拭いてから、ぐったりした上半身を支えて起こした。頭を俺の肩にもたれかけさせて、火照る体を撫でてやった。
「力ト-、お前あんまり、こういうことに慣れてないんだな」
「……そんなことない、君よりは淡泊なだけだ」
意地を張る相棒の額にキスを何度か落とすと、奴はお返しとばかりに俺の首筋に口づけた。
二人でくっついたまま座り、しばらく沈黙していた。さすがに落ち着いて涙も引いた相棒が、ふいに口を開いた。
「ブリシト、訊くけど……今夜はその、最後まで……するのか?」
「最後までって、つまりこれか?そりゃまあ、出来れば……いってえな、バカ!何するんだ」
下品なジェスチャーをして見せると、眉をしかめて俺の胸毛を一本むしり取った。
痛む胸を摩りながら、俺はふと思いついた質問を相棒に向けた。
「そういや確かめてなかったけど、お前そっちでいいのか」
「何、そっちって」
「だからつまり、俺に愛されるというか、突っ込まれる側……だから痛いって!それやめろ力ト-、ぶっ殺すぞ!」
あまりの痛さにややキレて叫ぶと、相棒は抜いた毛を息で吹き飛ばし、上目使いに俺を睨んだ。
「今さらそれを訊くのか、君は。ここまでしといて」
「うっかり訊くのを忘れてたからな、一応確認だ」
「じゃあ僕が嫌だって言ったら、君は僕に抱かれてくれるのか?」
「うーん、あんまりぞっとしないが、お前がそうしたいならそれでもいい……いや、やっぱダメだな!お前を抱く方がいい!」
ちょっとカッコつけてはみたものの、あっという間に前言を撤回した。相棒の滑らかな肌に触れるのは心地良いし、与えられる限りの快楽を惜しみ無く与えてやりたいと思うからだ。
俺から施される愛撫に身悶えて、涙まで流したこいつの姿を見た後じゃ、ますますそう思っちまうのは仕方のないことだ。
相棒は黙って顔を見ていたが、体ごと俺の正面に向き直り、伏せた顔を肩に押し付けた。
「で、お前はどうなんだ?力ト-」
「……君が好きなようにすればいい。君なら僕は、なんでもいい」
ごく小さく漏らされた囁きを耳にして、俺の心臓はたちまちときめいて高鳴った。
なんていう殺し文句を吐きやがる。一体こいつは、どんな表情でそれを言ったんだ。
肩を掴んで顔を上げさせようとしたが相棒は抵抗し、けっこうな強さで俺の肩に噛み付いて来た。ぶっ殺すぞこの野郎!とまた叫んだ俺の声を聞いて、やっと顔を上げた相棒は実に楽しそうに笑っていた。
好きにしろと言ったものの、ことを成し遂げる覚悟が相棒にまだ出来てないようなので、今夜は無理をせず最後まで行かないことに決めた。
その代わりにお互いのモノを触って一緒に気持ち良くなろうと提案すると、やや固い顔付きで頷いた。緊張を解してやるために、俺は肩を抱いてキスをした。
執拗に舌を絡めて唾液を交わすと、相棒はぼうっとなって顔を上気させた。
腰を撫でていた左手を前に回して、相棒の中心に触れた。口づけながら、俺はそこを優しく擦り上げた。その度に相棒は、喉の奥から甘い呻き声を零した。
「なあ力ト-、俺のも……してくれ」
唇を解いて相棒の右手を握り、股間に導いた。誘われるままにパジャマのズボンの上から、はち切れんばかりに猛った俺の中心に触れると、奴は驚いたような声を出した。
「ロ矣呀!稍等、大……」
「……今『大きい』って言ったんだろ、力ト-」
「……知らない」
相棒はそらとぼけたが、叫び声のニュアンスから俺は間違いないと感じた。自慢じゃないが、俺のは相当デカいんだ。
「そうか、まあいい。力ト-、触ってくれよ。お前の手で感じたいんだ」
微笑んでねだると相棒は俺の頬にキスして、同時にズボンを引き下ろし、飛び出した中心にためらいなく直接触れた。
俺より細い指が俺のモノに絡まり刺激を与えてくれることに、大いに興奮し悦びを感じた。
空いた右手を相棒の後頭部に回して引き寄せ、噛み付くように唇を奪った。俺達は舌を吸い合いむさぼって、手はそそり立つお互いのモノをしっかりと握り扱いていじった。
「ブリシト……ブリシト、もう……」
「力ト-、いいぞ。俺も限界だ……」
近付いて来た絶頂を感じ、手の動きはさらに激しくなった。
小さな高い声で俺の名前を呼び、まず相棒がイッた。すぐ後に俺も唸り声を上げて果てた。息を整えながら、お互いの手の中に放った物をティッシュで拭き取り、俺達は抱き合った。
なんだかやたら照れ臭くて、何を言っていいのかわからないので、とりあえず俺は相棒の顔にキスの雨を降らせまくった。相棒は静かに笑って、俺の背中を撫でていた。
……誰かが俺の頭を優しく撫でている。ああ、これはあいつの手だ。
シャワーを浴びに行った相棒をベッドで待つ間に、俺はうたた寝しちまったようだ。
ぼんやりと意識はあるものの体が動かないので、目を開けず触られるままにしていると、相棒の穏やかな声が聞こえて来た。
「ブリシト……眠った?」
起きてるよ、と心の中で返事すると、髪を梳いていた手を俺の頬に当てて、相棒はまた囁いた。
「なあ、ブリシト。僕達はいつ殺されても不思議じゃないって、君は言ったね」
そんなこと言ったか?……ああ、お前を風呂場で抱きしめた時か。ボニーとクライドの話だ。
「確かに、僕達の夜の世界は危険に満ちてる。何があってもおかしくない……でも、僕は」
相棒は言葉を止め、ちょっと考えてからまた口を開いた。
「僕が、そうはさせない。居場所が無かった僕の手を引いて、新しい世界に連れ出してくれたのは君だ、ブリシト。万一の時二人一緒に死ぬなら、それはそれで構わない。でももし、もしも君だけが消えたら……」
いつになく真剣な口調に驚いたが、俺は心を落ち着けて相棒の言葉を待った。
「君を失えば、同時に僕の世界も終わる。だから、絶対にそうはさせない」
僕が君を守るよ、ブリシト。
口には出さないが、そう言っているのだと俺にはわかった。
なんてこった。お前の世界は、俺が死んだらそれで終わるって言うのか。これまたなんて殺し文句だ。
俺はかつて、誰かにここまで必要とされたことがあっただろうか。いつも俺を気にかけてくれていた親父とは、分かり合えないままで終わってしまった。
相棒と出会ったことで、新世界へ歩き出せたのは俺だって同じだ。
そうだ、俺もだ。もしもこいつを失えば、俺の足はきっともう動かない。
相棒は俺の髪にそっと口づけると、ベッドに入って俺の後ろに横たわった。背中に額を付けて眠りに入ろうとする相棒を、抱きしめてやりたい衝動に駆られた。だがひそやかに告白をした奴の気持ちを思うと、それは出来なかった。
相棒の寝息を背中に感じ、溢れ出す様々な感情に心を乱されて、ちょっと泣きたくなっていた。それから俺は、なかなか寝付けなかった。
コーヒーの香り。ぼんやりと覚醒した意識の中で、まずそれを感じた。寝ぼけまなこで匂いの方向に目をやると、サイドボードの上に置かれたカプチーノと、花瓶に活けた一輪の赤いバラが視界に入った。
上体を起こしてカップを手に取り、香りを楽しんでから一口啜った。あいつの入れたコーヒーは、やっぱり格別だ。
顔を上げて姿を探すと、すでに身なりを整えた相棒はカップを片手に窓辺に立ち、カーテンの隙間から外を眺めていた。
俺はカップを置いて立ち上がり、相棒が佇む窓辺に近付いた。
「おはよう、ブリシト」
「ああ、おはよう力ト-」
振り返らず挨拶をした奴の後ろに俺は体を寄せ、襟足が綺麗に揃えられたうなじに軽くキスをした。相棒は少し肩をすくめ、肩越しに俺を見て苦笑した。
「もう朝だよ、ブリシト」
「ああ、わかってる。だが朝が始まる前に、言っときたいことがあるんだ」
首を傾げた相棒の肩と腰に背後から腕を回し、力を込めて抱きしめた。髪に顔を埋めて、俺は相棒に語りかけた。
「力ト-……もしお前だけが死んだとしたら、俺の世界はそこで終わり、ジ・エンドだ」
「……ブリシト、君、夕べ」
聞いていたのか、と続くだろう相棒の言葉を遮って俺はさらに言った。
「だから、お前を俺が守ってやる。いつでも誰からも必ず守る。だから安心しろ力ト-、俺達の世界は終わらない。絶対、永遠に」
耳元に口を寄せて小さく、だが力強く囁いた。腕の中の体が、少し奮えているのがわかった。相棒は空いた方の手で、肩を包んだ俺の腕に触れた。
「……そりゃどうも。君の気持ちだけは、受け取っておくよ」
「おい、それどういう意味だ、力ト-」
さあね、とクスクス笑う相棒の首を、羽交い締めにして俺も笑った。
何かが変わったようで、実は何も変わらない。俺達の夜の秘密が一つ増えた、それだけのことだ。
朝が来て、そして夜がまたやって来る。俺達の二つの世界は、これからも続いて行く。
きっとずっと、続いて行くんだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
あの映画見てないので、ぼんやりしたイメージで引用してます。世界よ続け、いつまでも。
>>190 2人の後日談があればなあと思ってたらキタ―!!
ベッドだと社長がいつもより格好良く見えるw
社長も助手もお互いが死ぬほど大事なんだと凄く伝わってきました。
ありがとうございました。
>>190 ヤッターーー
すごく萌えながら読ませてんだけど途中泣いてしまった
すごくいい!
ありがとうございました!
ヒカアキです
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
北斗杯授賞式のあと、ヒカルたち三人は荷物をまとめ、ロビーに集合した。
「もうすぐ新幹線の時間やから、ほなな」
社がさばさばした様子で手を上げた。
「ああ」
アキラが頷いて答えた。
ヒカルは無言で社の背中を見送った。
「進藤、キミはどうする?」
質問を理解するのにだいぶ時間がかかった。
「……あんま、うち帰りたくねえな」
もしかしたら、母が自分の対局を見に来ていたかもしれない。
そう考えると、余計に母と顔を合わせるのが億劫に感じられた。
「碁会所で検討するか?」
「北島さんがいるし」
「なら、ボクのうちで検討しよう」
「え、塔矢先生いるんだろ。会場にも来てたって。さっき中国の団長が言ってた」
「だったら、父にも検討に加わってもらえばいいじゃないか」
「そりゃ、嬉しいけどさ。勝ってたらな」
永夏には半目差で負けた。
半目、あと半目が足りなかった。
「じゃあ、決まりだな」
アキラはさっさと歩き出し、すぐに足を止めた。
「行こう、進藤」
「わかったよ」
ヒカルはアキラのあとに続いて自動ドアを潜った。
塔矢邸は無人だった。
ヒカルとアキラはスーツの上着を脱ぎ、自分達だけで検討を始めることにした。
だが、なかなか誰も帰ってこない。
ヒカルは時計を見た。午後七時を過ぎていた。
夕食の時間だと意識したとたん、腹が鳴った。
「店屋物でも取るか?」
アキラが盤面に目を落としたまま尋ねた。
「いいよ、おごってもらってばっかっていうのも悪いし。オレ、ラーメンぐらいなら作れるしさ」
「小麦粉あったかな」
「麺から作れるわけねーだろ!」
「ちょうどいいから休憩にしよう。ボクもお腹が空いた」
ヒカルは台所の戸棚や引き出しを片っ端から開けてみた。
高そうな佃煮や海苔はあったが、インスタント食品の類はなかった。
「お前っていつも何食ってんだよ」
「あ、そばがあった。これじゃだめか?」
アキラがのしのついた木箱を開けた。
「えー、そば? じじくせえ」
そう答えた直後、また腹が鳴った。
「ま、いっか。どうせ、おんなじ材料だし」
「いや、これは十割そばだから材料はまったく違う」
「あーもう、いちいち細けーな。茹でるからちょっとどいてろよ」
「それぐらいボクがやるよ」
「やだよ、なんか時間かかりそうだもん。オレは今すぐ食いたいの」
ヒカルは鍋に水を張り、火にかけた。
そばは十束あった。ヒカルはすべて沸騰した湯にぶち込んだ。
「わかっているのか、一束が一人前だぞ」
「わーってるよ、うっさいな」
アキラは信じられないといった顔でそばつゆを用意した。
ヒカルは茹で上がったそばをざるに盛り、居間のテーブルにどんと置いた。
アキラは遠慮がちに箸でそばを取り、音も立てずにすすった。
ヒカルは限界までつゆにそばを沈め、あまり噛まずに飲み込んだ。
その時、玄関で電話が鳴った。
アキラは箸を置き、慌てて廊下に出て行った。
ヒカルがつゆに七味を振りかけていると、アキラが戻ってきた。
「母からだった。今、台湾にいるらしい」
「台湾? なんでまた?」
「気になる棋士がいるそうだ。しばらくは帰って来られないと言っていた」
アキラは淡々とした様子で座布団に座り、箸を取った。
「帰って来たばっかなんじゃねえのかよ。お前もいろいろ大変なんだな」
「まあ、いつものことだしね」
ヒカルは一人分だけ残し、ざるのそばをきれいに平らげた。
行洋が帰って来ないとわかると、なんだか気もゆるむ。
ヒカルは行儀悪くその場に寝転んだ。
「あー、食った食った」
「牛になるぞ、進藤」
「馬鹿じゃねえの、人間は牛になんかなりません」
「驚いたな。キミも常識を知っていたんだね」
ヒカルはがばと起き上がった。
「くっそ、むかついた。こうなったら碁で勝負だ」
「望むところだが、食器を流しに置いてくれ。できれば洗ってくれると助かる」
「洗えばいいんだろ、洗えば」
ヒカルは袖をまくり、台所でわしわしと食器を洗った。
アキラはまだそばをすすっている。
ヒカルは「先、行ってるな」と言い、客間に向かった。
正座して待っていると、ようやくアキラが現れた。
ヒカルは黙ってニギった。ヒカルの先番だ。
結果は半目差でヒカルの勝ちだった。
「よっしゃ」
ヒカルはガッツポーズした。
アキラはじっと盤面を見つめている。
「検討していた時にも感じたが、やはりキミは成長した。倉田さんの言った通りだな」
「え、倉田さん、なんて言ってたの?」
「高永夏との一戦はキミの成長に必要な一戦だと言っていた。キミの成長はわくわくするとも」
「そっか、倉田さんそんなにオレのこと……」
ヒカルの脳裏に永夏との一局がよぎった。
「それなのにオレ、勝てなかった……」
胃に鉛がたまり、地の底まで沈んでいきそうだった。
「ボクもだよ、進藤」
「え?」
ヒカルは顔を上げた。
アキラの真摯な瞳とぶつかった。
「ボクもキミの成長にはわくわくさせられる」
ヒカルは何も答えなかった。
「今日の副将戦、ボクは勝った。なぜかわかるか? キミが勝つと信じていたからだ。
ライバルのキミが勝つんだからボクも負けるわけにはいかない。そう思ったんだ」
「なんか、わりいな。ほんとごめん。お前にも倉田さんにもいろいろ期待させたのに、肝心のオレがこんなんで……」
ヒカルはさらに胃が重くなったような気がした。
「だから言っただろう、進藤。わくわくさせられるって。実際、キミは成長した。ボクはとても嬉しい。キミがライバルでよかった」
「塔矢……」
ヒカルの目から勝手に涙が溢れた。
「ごめん、塔矢。ほんとごめん」
ヒカルは大粒の涙をぼろぼろとこぼした。
「来年の北斗杯、日本は一敗も喫しないぞ」
「ああ、そうだな」
ヒカルは涙を拭い、頬を両手で叩いた。
「オレはもっともっと成長するんだ」
「もうこんな時間か」
アキラが時計を見て呟いた。
見れば、針は十時十二分を指している。
「やべ、帰んなきゃ」
「泊まっていったらどうだ?」
立ち上がりかけたヒカルを引き止めるように、アキラが提案した。
「いいのか?」
「道具はあるだろ?」
「ああ。じゃ、ちょっと電話してくる」
ヒカルは母に今日も塔矢家に泊まることを告げた。
受話器の向こうの母はなんだかひどく寂しそうだった。
客間に戻ると、アキラはいなかった。
しばらくして、パジャマ姿のアキラが戻ってきた。
「キミもお風呂に入ってくるといい」
「そうだな」
ヒカルはジャージを抱えて風呂場に向かった。
広い浴槽につかっていると、ここ数日昂ぶるばかりだった神経が自然と静まっていった。
ヒカルはため息をついた。
あのまま帰宅していたら、今ごろ負けた悔しさをずるずる引きずっていただろう。
アキラのおかげだ。友達の存在がこんなにありがたいと思ったことはない。
友達……。
アキラは友達なのだろうか。
ライバルだと認め合ってはいる。
では、アキラはライバルであり友達ということか。
いや、違う。
そもそも、アキラは自分のことを友達とは思っていないかもしれない。
それなのにこちらばかりが友達だと慕うのも癪だ。
ヒカルはアキラという存在について、浴槽の中で延々と考え続けた。
おかげですっかりのぼせてしまった。
ヒカルはTシャツの裾をばたばたさせながら客間に戻った。
アキラは碁盤の前できちんと正座していた。だが、その頭が前後に揺れている。
ヒカルは足音を忍ばせてそっと近づいた。
アキラはうたた寝していた。
普段の鬼軍曹のような態度からは想像もできないほど無防備な表情だ。
ヒカルは唾を飲み込んだ。
心臓の音が耳元で聞こえた。
ヒカルは膝をつき、顔を近づけ、キスをした。
その瞬間、アキラがぱちりと目を覚ました。
「うわっ!」
ヒカルは思わずあとずさりした。
「な、なんだよ、狸寝入りかよ」
「そんなことするものか。本当に寝ていたんだ」
アキラがむきになったように言い返した。
「そうしたらキミが……」
アキラは何か言いたそうに口を開け、すぐに閉じた。
「オレ……」
ヒカルは迷った。このままうやむやにしてしまおうか。
アキラは寝ていた。思い違いだったと信じ込ませればいい。
ヒカルは「なんか変な夢でも見てたんじゃねえの」と言おうとした。
「オレ、お前にキスした」
「な……」
アキラは絶句してしまった。
「お前が寝てたから、つい」
アキラは何も答えない。
「オレ、お前のこと、好きだ」
ヒカルは恥ずかしさのあまり、膝に目を落とした。
長い沈黙が続いた。
「あのさ、やっぱ忘れてくんねえ?」
ヒカルは耐え切れずに口を開いた。
「聞かなかったことにして、頼む」
ちらと見ると、アキラはまだ固まったままだ。
「なあ、なんか言えよ。それとも怒ってるのか?」
答える代わりに、アキラがにじり寄ってきた。
アキラの顔が間近に迫り、キスされた。歯がかちと当たった。
「やっぱりそうだ」
「何が?」
アキラはヒカルを押し倒した。
蛍光灯を背にしたアキラの顔は暗かったが、息が熱いことはよくわかった。
「ボクもキミのことが好きだ」
ヒカルはアキラの襟をつかみ、激しくキスをした。
歯が当たったが気にしなかった。
アキラもヒカルに負けないくらい唇を貪った。
舌を入れたら、アキラもすぐに応じた。
二人は音を立てて舌を絡ませた。
「どうしよう」
アキラが口を離して大きく息を吸った。つーと糸が引いた。
「キミをめちゃくちゃにしたい」
「しろよ」
ヒカルはもどかしい思いでパジャマのボタンを外した。
アキラもジャージの上着に手をかけた。
二人は忙しなく裸になった。
ヒカルは仰向けのまま、キスを続けた。
舌は境が曖昧なほど溶け合っていた。
口の端からよだれがこぼれた。乳首に触ると、すでに尖っていた。
ヒカルはらせんを描くように指の腹で乳首を愛撫した。
アキラの喉から小さな声が漏れた。
ヒカルは我慢できなくなり、肘をついて起き上がった。
「進藤、どうし――」
ヒカルはアキラを押し倒し、尻を向けて馬乗りになった。
半勃ちになったそれをくわえ、自分も腰を落とした。
アキラはすぐに目的を理解したようで、ためらうことなくヒカル自身を口に含んだ。
ヒカルが口を上下させると、アキラのそれはたちまち怒張した。
自分のそれもアキラの口の中で痛いくらいに硬い。
アキラにすべてをさらけ出している羞恥心と、アキラのすべてを受け入れている狂喜がない混ぜになり、めまいを覚えた。
アキラは一心にヒカルをしゃぶっている。
ヒカルは喉元までアキラをくわえ込んだ。
むせそうになったが我慢した。
アキラの先端からは苦い汁がとめどなく溢れている。アキラのものなら何でも深く味わいたかった。
アキラがヒカルを強く吸った。
太ももの内側が痺れ、腰に熱が溜まった。
絶頂はすぐそこだ。
だが、先に果てるのは嫌だった。
ヒカルは鈴口に舌をねじ込んだ。
アキラの腰がびくんと跳ね、熱い液体が口内にほとばしった。
ヒカルは最後の一滴まで丁寧に飲み干した。
アキラも鈴口に舌を入れた。ヒカルはアキラの口に精液を放った。アキラもすべて飲み干した。
ヒカルはアキラの上からどき、ぐったりしているアキラの足を割った。
ピンク色の秘所に舌を挿し込むと、アキラが「あぁっ!」と叫んだ。
「や……めろ」
ヒカルは何度も舌の出し入れを繰り返した。
「や、やめろ……お願いだ……やめ……てくれ」
根気強くほぐしたおかげで、舌は三分の二まで入るようになった。
ヒカルは舌を抜き、指を二本入れた。
いきなり二本も入れられ、秘所はきゅっとすぼまった。
唾液まみれのそこはぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。
「……くっ……んんっ……ぁっ」
ヒカルは三本目を強引に入れた。
指を折り曲げ、内壁をえぐるようにすると、アキラの反応が一段とよくなった。
「……あっ……はあっ……ぁんっ」
アキラの頬は紅潮し、目は焦点が定まっていなかった。
ヒカルと同様、それはもう屹立していた。ヒカルは太ももを舐め、指を抜いた。
アキラが安堵したように目を閉じた。ヒカルはアキラの腕を取って起き上がらせると、碁盤に両手をつかせた。
「待て、進藤。何をするつ――」
ヒカルはアキラの秘所に自身を突き入れた。アキラの背が弓なりにそった。
「っ……あぁぁぁっ!」
ヒカルは腰を動かすたびに理性がはがれていくのを感じた。アキラの締めつけはとても強かった。
「……いい、すげえいい、とーや」
「進藤、い、たい」
ヒカルはアキラの下腹部に手を伸ばした。
それは萎えかけていた。ヒカルは手でしごき、快楽を促した。
ヒカルの手の中でアキラは徐々に硬さを取り戻していった。
「し……んど……し……んど」
アキラが切なげに自分の名前を繰り返した。その声は背骨に沁み込み、ぞくぞくと脳まで這い上がった。
「とーや、とーやっ」
ヒカルは泣きたくなった。あまりの気持ちよさに、今自分が何をしているのかわからなくなった。
その直後、果てた。ヒカルは何度も痙攣し、アキラに精液を注ぎ込んだ。
アキラもヒカルの手の中で絶頂を迎えた。二人はしばらく動かなかった。
だが、すぐにまた体を求め合った。
寝入ったのは朝方になってからだった。
「やっべ、秀英と対局の約束してるんだった」
ヒカルは外がやけに明るいことに気づき、急いで起き上がった。
畳の上で寝たせいで体が痛い。約束の時間まであと一時間もなかった。ヒカルはとりあえずジャージのズボンをはき、スーツを探した。
「秀英とは洪秀英のことか?」
アキラがもそもそとパジャマに袖を通した。
「そう。オレと勝負するためにわざわざ日本語覚えた奴。やべえ、どうしよう、メシ食う時間ねえじゃん」
「進藤、落ち着け。向かう途中でチョコレートでも食べればいいだろう。
それよりなぜ洪秀英と対局を約束していることをボクに話さなかった?」
「それは、だって、忙しかったし」
ヒカルはしどろもどろに答えた。
「もちろんボクも行くからな」
「わかってるよ」
二人は急いで身支度し、家を飛び出した。着替えを用意する時間がなかったため、どちらもきのうと同じスーツにネクタイだ。
碁会所には伊角と和谷、永夏と秀英が待っていた。
「三十分も遅刻だぞ、進藤!」
秀英がつり目で睨んだ。
「わりいわりい。寝坊しちゃってさ」
「おい、進藤。もしかしてそれ、きのうのスーツか?」
和谷がヒカルを指さした。
「って、げっ! 塔矢も同じ服じゃん」
和谷の顔から見る間に血の気が引いていった。伊角はそんな和谷に「どうしたんだ?」と聞いている。
永夏は氷のように冷たい眼差しを向け、秀英はぽかんと口を開けていた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ヒカアキヒカアキ!
初々しさゆえにとまらないかんじでカワイイなあ
212 :
1/2:2011/04/14(木) 02:03:28.82 ID:CE0hi+QzI
会話文・似非関西弁注意。人は特に決めてません。
ゲ仁ソさんだと思います。楽屋での一コマということで一つ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!?
「なあなあ」
「なに?」
「…ほんとお前ゲームすっきゃなー」
「お前も人の事言えんやろ」
「まあな」
「んで何?」
「あ、何言おうとしてたか忘れた」
「ふーん」
「ふーんてなんやねんふーんて」
「忘れたなら俺どうすることもできんやろ」
「それもそうやけどー」
「暇なら差し入れ食うたら?」
「うん。…何やこれ!?」
「美味い?」
「おう!めっちゃ美味いで!お前も食うてみ食うてみ!」
213 :
2/2:2011/04/14(木) 02:05:51.24 ID:CE0hi+QzI
「ええよ、俺んちにいっぱいあるから」
「え?これお前からの差し入れ?」
「差し入れっちゅーか、美味しいから持ってきただけ」
「何やねんーじゃあ言えよー」
「俺の持ってきた食べ物を気付かずお前が食べて喜んでる様子を見たかったやもん」
「それやったらバラしたらあかんちゃうの?」
「気付かれないの嫌やん」
「なら普通に渡せばええやんか」
「それはつまらんしー」
「ホンマめんっどくさいなーお前ー」
「せやろ?」
「ははは。でもそういうとこすっきゃで」
「…」
「どした?」
「…恥ずかしい奴」
「せやろ?」
「…俺もお前のそういうとこ好きやわ」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!?
失礼しました。
>>213 ほのぼのイイネーGJ!
自分は勝手によ○この二人で想像してニヨニヨしたよw
ヒカアキ? ヒカアキです
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
囲碁ゼミナール初日の夜、ヒカルが大ホールで指導碁をしていると、いきなり背後からアキラの声がした。
「進藤、ボクと打て」
ヒカルは振り向いて仰天した。スーツ姿のアキラが椅子に腰かけていた。
酒の臭いがぷんと鼻をついた。目も完全に据わっている。
「お前、未成年のくせに酒飲んだのかよ」
「悪いか」
アキラが睨んだ。
「まあまあ、固いことは言わないでくださいよ、進藤先生」
浴衣姿の客がなだめるように両手を上下させた。
「名人になったお祝いにぱあっとおごったんです。十九歳なんて成人みたいなものですしね」
「何杯飲んだらそうなんだよ」
「ビールを二杯だ」
アキラが即答した。
「お前って酒よえーんだ」
ヒカルは和谷のアパートでリーグ戦を行う時、よく缶ビールを飲んでいる。
一、二本なら勝負に影響することもない。酒に対する強さは自分のほうが上らしい。
「大ジョッキで」
「大ジョッキかよ!」
「進藤、なぜボクと打たない」
アキラが身を乗り出して詰め寄った。
「打つも打たないもお前、忙しいじゃん。テレビとかにも出てんだろ。史上最速でタイトル獲った名人様だもんな」
「進藤、グーを出せ」
ヒカルは反射的に拳を握り、握ったとたん「しまった!」と思った。
だが、遅かった。アキラはすでにパーを出していた。
「ボクの勝ちだ。今からボクと打て」
「何これ。塔矢門下の伝統芸?」
その時、ホテルの従業員が会場を閉める旨を告げた。アキラは上着をつかんで腰を上げた。
「ボクの部屋へ行こう」
ヒカルは仕方なくあとに従った。
514号室は布団が二組敷かれているだけで、誰もいなかった。
アキラはハンガーに向かって手を上げ、そのまま空を握った。挙句、バランスを崩して横ざまに倒れてしまった。
「大丈夫か?」
ヒカルは立ち上がろうとしているアキラを支えた。
「ボクは平気だ、何ともない」
アキラは自力で立ち上がり、覚束ない手つきで上着をハンガーにかけた。
「なあ、お前もう寝たほうがいいんじゃねえの?」
「ボクはキミと打ちたいんだ」
アキラは窓辺の椅子に座り、碁笥の蓋を開けた。
ヒカルも向かいに腰かけたその時、ドアが開いた。
「あ、進藤君、来てたんだ」
浴衣姿の芦原が入ってきて、いそいそと自分の鞄を開けた。
「女子大生の団体が下に泊まってるんだ。よかった、おつまみ持ち込んどいて。アキラと進藤君もどう? 一緒に来ない?」
「いや、オレたちこれから打つんで」
「そっか」
芦原はビニール袋を抱えると、戸口でスリッパを履いた。
「アキラ、先に寝てていいからね。オレ、今日は帰らないかもしれないから」
そう言い残して芦原は出て行った。アキラはもう白石を盤上に置いていた。
ヒカルは黒石を一つだけ置いた。アキラの先番だ。
しばらく、打つ音だけが響いた。
「確かにボクは忙しい」
独り言かと思うような小さな声だった。
アキラは視線を盤上に落としたまま続けた。
「だが、何も二十四時間忙しいわけじゃない。碁会所にだって顔を出している。それなのに、どうしてキミと打つことができないんだ」
「だから、予定がうまく噛み合わないんだろ」
ヒカルは勝負に集中しようとした。
いつもの食ってかかるような喧嘩腰のアキラではない。
胸の内を切々と訴えるような口調だ。それがなんだか落ち着かなかった。
「キミの家に電話ばかりしているおかげで、キミの家の番号をそらで言えるようになってしまった」
「オレはオレで忙しいんだよ」
「いや、キミはボクを避けている」
「そんなことするかよ」
ヒカルはアキラを見ずに答えた。
「本当か?」
アキラが顔を上げた。
「ボクの目を見て答えろ」
アキラの目は酔いのせいで赤く潤んでいた。ヒカルは横を向いた。
「わかったよ、お前を避けてたよ。これでいいか」
「なぜだ? なぜ避ける?」
ヒカルは白石をつまみ、また碁笥に戻した。
「なんか昔を思い出して」
「昔?」
「お前を追ってたころ。お前はもうプロなのにオレはまだ院生で、必死になって追いつこうとしてたころ。
お前はずっと先を歩いてたころ」
「キミはすぐに追いついたじゃないか。ボクがタイトルを獲ったくらいで先へ行ってしまったと思っているのか?
その程度でへこたれているのか?」
「へこたれてるとかそんなんじゃねえけど、でも、気分が塞ぐっていうか。ああ、一人なんだなって考えてさ。
この時期は苦手なんだよ。ゴールデンウィークって」
「では、今の状態は一時的なものなんだな?」
アキラが念を押すように尋ねた。
「また以前のように打てるんだな?」
「ああ、そのうちな」
ヒカルはバチッと音を立てて打った。
「よかった」
アキラは安堵したように椅子の背に身を預けた。
「なぜだかわからないが、キミと打てないとひどく不安なんだ」
アキラはネクタイをゆるめ、ボタンを外した。
「心細くてたまらない」
突然、アキラの体がぐらりと前に傾いた。
ヒカルは慌てて抱きとめた。体の線が薄いシャツ越しに生々しく伝わった。
「塔矢、お前もう寝ろ。な? 飲み過ぎだって」
「いやだ。今夜打てなければ、次はいつ打てるかわからないじゃないか」
「暇な時はできるだけお前と打つようにするよ」
ヒカルはアキラを引きずって布団まで運んだ。
「本当だな? 信じていいんだな?」
「ああ、信じろよ。オレはお前と一生一緒に打つ」
ヒカルはアキラのために掛け布団をめくってやった。
アキラは寝そべったまま、目を見開いている。
まるで目の前でマジックの種明かしをされた子供のような顔だ。
「今わかった」
「何が?」
「ボクはキミのすべてが欲しい」
アキラは体を起こし、ヒカルのジャージの襟をつかんだ。
「キスをしてもいいか?」
答える前にアキラはキスをした。熱っぽい息が混ざり合った。
初めてキスをするのに、ああ、これはアキラの味だと思った。
Tシャツの裾からアキラの手が忍び込み、乳首を触った。
何度も撫でられるうちにヒカルの乳首は硬くなった。
アキラはTシャツをめくり、乳首を舐めた。
「……ん」
もう片方の乳首はアキラが親指でこねくり回している。
ヒカルはアキラの後頭部を抱き締めた。
「……塔矢……こんな、こと……どこで覚えたんだよ」
「中学の時、同級生に見せられたんだ」
アキラが口を離して答えた。
「男同士の性行為を収めたビデオを」
「それ、イジメじゃん」
「その当時は男同士でも性行為ができるとは知らなくてね、勉強になったと礼を言ったら変な顔をされた」
「そりゃそうだ」
「でも実際、こうして役に立っている。やはり彼らには感謝しないと」
「ほんとお前、打たれ強いっていうかなんていうか」
アキラはヒカルを仰向けに寝かせ、下着ごとズボンを引き下ろした。
怒張したそれが夜の冷えた空気に晒され、ヒカルは痺れるような快感を覚えた。
ヒカルはぼうっとした頭でアキラに含まれる自身を想像した。
だが、アキラの舌はヒカルのそれには向かわず、蟻の門渡りを刺激した。
次にアキラは陰嚢をしゃぶり、カリ首の裏を吸った。
「……ひっ……いっ……あぁっ」
ヒカルの口から喘ぎ声が漏れた。
アキラは側面に唇を這わせながら根元を揉んでいる。
ヒカルは自身から先走りが溢れるのを感じた。
アキラは丁寧に先走りを舐め取るが、決して先端には触れない。
それがもどかしくて、放尿を我慢する時のように腰が甘くうずいた。
「とうや……も、だめ」
アキラがヒカルをくわえ込んだ。
「……んんっ!」
ヒカルは踵でシーツを何度もかいた。
気づいたら射精していた。アキラがごほごほと咳き込んだ。
「……お前、上手すぎ」
「ビデオで見たからな」
アキラは手の甲で口の端を拭った。少し涙目になっている。
自分も同じような顔をしているのかなと思ったが、きっともっとだらしない表情だろう。
「もしかして洋モノ?」
「出演していたのは白人男性と黒人男性だった」
「またマニアックだな」
アキラはネクタイをほどき、シャツを脱いだ。スラックスも靴下も脱ぎ、全裸になった。
ヒカルは何もする気が起きず、横たわっていた。
何せ、生まれて初めてキスをして、生まれて初めてフェラされたのだ。
アキラは精を放ったばかりのそれを手でしごき始めた。
「なあ、オレって下なの?」
若いそれはすぐに猛った。アキラはぎこちない仕草でヒカルにまたがった。
「言っただろう、キミのすべてが欲しい」
ヒカルの先端を自分の秘所に当てると、アキラは腰を沈めた。
だが、なかなか入らない。
「あのビデオだと簡単そうだったんだが」
「なあ、位置変わろうか?」
ヒカルは肘をついて半身を起こした。
「いい、これくらいどうってことない」
アキラは眉間に皺を寄せながらヒカルを飲み込もうと必死だ。
ヒカルは大人しく仰向けになった。
その時、先端がずぶりと突き抜けた。
アキラが大きく息をつく。ヒカルのそれは徐々に温かい肉壁に包まれていった。
ヒカルの悦びに比例するように、アキラの呻き声も大きくなっていった。
「あんま無理すんなよ」
ヒカルはもう一度半身を起こした。
「大丈夫だ」
アキラは今やヒカルをすっぽりと収めている。
俯き加減の顔から涙が一粒ぽたりと落ちた。
「大丈夫って泣いてんじゃねえかよ」
「嬉し泣きだ」
アキラがヒカルを見た。
その拍子にまた涙がこぼれた。
「キミはボクのものだ」
体が丸ごと心臓になったようにドクンと脈打った。
アキラはヒカルの腹に手をつき、腰を動かし始めた。
「……ん、塔矢」
ヒカルは背を布団に預けた。
甘美な気だるさに支配され、半身を起こしていることができなかった。
「……しんどう……はっ……あぁっ」
アキラはしばらく上下の単調な動きを続けていた。
そのうちコツをつかんだらしく、腰を回転させてより深い快楽を得るようになった。
「……しんどう……しんどう……ぁあっ……ああっ……ぁんっ」
「……とーや……とーや」
アキラの動作がどんどん大きくなっていった。
ずちっずちっと粘膜が立てる音の他に、二人の荒い息遣いが部屋に満ちた。
「……とーや……イく」
ヒカルはアキラと指を絡め、体を引き寄せた。
「キスして、とうや」
アキラがキスをした。
先程のフェラのせいでほんのりと生臭かった。
アキラは無理な姿勢で抜けそうだと思ったのか、力を入れた。
ヒカルの体が震えた。ヒカルはアキラの髪をくしゃくしゃにして頭を抱え込み、強引にキスを続けた。
腰が跳ね、果てた。
アキラが口を離し、白い首をのけ反らせた。
ヒカルの腹に熱い精液が放たれた。
アキラはそのまま、ハアハアと息を切らしながらヒカルにまたがっている。
「塔矢、来いよ」
ヒカルはアキラの腕を引き、ぎゅっと抱き締めた。
「キミ、べたべただ」
「あとで一緒に風呂入ろうぜ」
「ここの大浴場、二十四時間入れるって」
「そこでもう一回って言ったら怒るか?」
「怒るわけないだろ」
その時、ドアの開閉する音が聞こえた。
「あれ、酔ってるせいで変な幻覚が見えるよ?」
芦原の声だった。
「芦原さん!」
二人は急いで起き上がった。
「そうだよな、これは幻覚だよな。さっきそこで煙草吸ってた緒方さんもきっとスナフキンだよな。
スナフキン、オレをムーミン谷へ連れてって」
芦原はふらふらと廊下に出て行った。
ヒカルはジャージを元に戻すと、全裸のアキラの代わりに芦原を追いかけた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
223 :
風と木の名無しさん:2011/04/14(木) 20:47:15.94 ID:vXWU4Nzl0
224 :
215:2011/04/15(金) 10:23:30.93 ID:ee4/hlIC0
すみません、連投は二度としません
うpはやめようやめようと思っていたので
これを機にやめます
>>215 お疲れ様です。
リバもの苦手みたいなので、流し読みしかしてないので感想言えなくてごめんね。
でも、ふたりのことが好きで一所懸命書いているんだね、と思っていました。
元々やめたい気持ちがあったのなら、しょうがないとは思いますが、残念ですね。
>>223 これで満足ですか?
二日空けてるのにダメなんですか?
どのくらい空ければいいのか、ちゃんとご自分の意見を言ってくださいよ。
http://bbs.kazeki.net/morara/
>>225 たった2日で「空けてるのに」?
どのくらい空ければいいのか、スレを半年ROMったら解ると思うけどw
心象が悪くなるのはトンチンカンな擁護するアンタじゃなく
ジャンル(カプ)そのものだって事を忘れないで
2日空いて他の人の投下もあるのに
連投なのか?普通にこれで良いと思うが
続けてならまだしも、別投下挟んでるし
まぁ目を剥くほどの事はないんじゃないかと思う。
ジャンルが悪く思われるんだぞ!って脅しみたいな言い方は違うと思うがなぁ
避難所行こうぜ!
>>225がせっかく誘導してくれてるんだし
碁のアキラ×ヒカル×アキラでリバで続きものを書いてる者です
>>215さんとは別人です
実は、棚に投下されていたあなたのヒカアキSSがきっかけでヒカ碁にはまったんです
「スタバにて」というタイトルだったかな
今回も、酒に酔った襲い受けアキラに大変禿げました、もうつるっつるに
ヒカ碁にはまったきっかけをくれてありがとう
棚にSSを投下した数日後に何気なく携帯で棚を見て、あのSSを見ることがなかったら、今ヒカ碁にはまってなかったと思います
二人の間にあるあたたかくてやわらかい雰囲気が本当に好きです。
このジャンルで初めて同人誌というものを買って、実はリバに目覚めたのもこのジャンルでした
うpをやめると聞いて残念です。
印象的な一文がところどころに散りばめられていて、ときどき頭の中でその文を再生してはニヤけてました
萌えをくれてありがとう
どうぞお元気で
次の投下どうぞ
もしかして別人かな?とは思ってたけど、
だからこそ
>>221にはトリップつけて欲しかった
232 :
215:2011/04/15(金) 21:24:34.14 ID:ee4/hlIC0
私のせいで波風が立ってしまって申し訳ありません
萌えを受け止めてくれる棚にはとても感謝しています
管理人様もいつもありがとうございます
>>230さんの仰る通り
去年から今年にかけて投下されたヒカアキ計7作は私の作品です
毎回これが最後と自分に言い聞かせて投下するのですが
萌えが爆発しそうになるたびに衝動的に書き上げてはうpしていました
結果的に自分本位な行動になってしまいました
トリップを付けることも考えましたが
だったら次はサイトをオープン、何なら同人活動も、とエスカレートするのは目に見えていました
本来、のん気にSSを書いていられるような状況ではないため
自分に区切りをつけるいいきっかけを与えていただいたと思っています
長々と失礼しました
>>230さん、正直、涙が出るほど嬉しいです
馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
234 :
風と木の名無しさん:2011/04/15(金) 21:52:59.08 ID:vWhm5NRr0
腐女子ってめんどくさい生き物だな
厨ジャンルって事がよくわかった
____________
| __________ |
| | | |
| | |> PLAY. | |
| | | | ∧_∧
| | | | ピッ (*´ω`*)
| | | | ◇⊂ ) __
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| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
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青空のこぶしの宗×拳。
女体化っぽくて実はそうではない。
やはり最後にちょっとだけ女絡み。
宗武は特に何とは無しにただブラブラと上海を歩いていた。
一応仕事が終わったので、これから帰る所なのであるが、
家に帰っても誰一人待つ人間が居る訳でもないからただこうやってブラブラしているのである。
そうして歩いているうちに、赤線地帯まで来ていた事に気がついた。
ここに用は無い、そう思って踵を返そうとした時、声を掛けられた。
「ねえそこの少尉さん…」
振り向くと女が立っていた。こんな所に立っているなら、当然売春婦であろう。
「よく俺が少尉だと分かったな」
「階級章見れば分かるじゃない。前にもドイツ軍人なら見た事あるわ。…ねえ、どう、これから?」
宗武は普段は売春婦などに興味は無い。が、何故かこの時は女を買ってみる気になった。
女を連れて連れ込み宿に行った。
「良い部屋ねえ、やっぱりお金あるのね」
「まあな」
女の言う事を右から左へと聞き流しつつ、改めて女の顔を見た。悪くない。
いや、かなりいい方だと思う。しかしさっきから、どこかで見たような気がしてならない。
が、宗武は瞬間記憶能力では無いにしても、記憶力はかなりいい方だ。
その自分が一度会ったことのある人間の顔を覚えていない筈が無い。
(気のせいか…)
宗武は考えを打ち消した。
一足先に寝台に上がった女はさっさと服を脱ぎ始めた。せっかちな女だ、と思った。
まあいいか、と思って宗武も服を脱いだ。相手がその気なら、さっさと済ませてしまうまでだ。
寝台に上がって女の上に被さる様にすると女が口づけを強請ってきたが、それを宗武は制した。
「俺は買った女とはせん」
「…本命とじゃないとキスしない主義?」
「…まあな」
「ふーん、結構一途なんだな」
いきなり女の口調が変わって何、と警戒する間もなく、相手の動きを封じる秘孔、新胆中を突かれた。
動けなくなった宗武の下から女はさっさと抜けだした。
「気がついて無いとは思ったが…やっぱり劉家拳には伝わって無えんだな」
さっぱり事態が飲み込めない。
「…どういう事だ…!」
「あーまだ分からない?」
そう言って女が自分の秘孔を突く、すると見る見るうちに女が、男に、よく見慣れた人物に変わった。
「拳志郎…!」
「あーこれは北斗神拳に伝わる木場っていう秘孔で、これを突くと男は女に、女は男に化けれるんだぜ」
「…何故、俺に…」
「ああー?いや、この秘孔ってさ、便利だけど今一使い勝手が悪くって、いや、体格変わるだろ?
だから『実は男だったんだぜ!』って女から男に戻ると、どう考えても全身の服が破けて素っ裸になるだろ?
だから上手い事披露できるシチュエーションをだな…」
「そんな事はどうでもいい…!」
「ああん?」
「何故俺だった…!」
「いやー、だって、ねえ、玉玲が女買う訳無いし、飛燕を騙すのも悪いし、ねえ。
まあ、お前なら上手い事騙されてくれるかなーっていう…、じゃ、そういう事で」
拳志郎は再び自身の秘孔をついて女の姿に戻ると、床の服を手に取った。恐らくこれから帰る気なのだろう。
「ふ…」
「?」
「ふざけんじゃねえこのクソガキッッ!!」
宗武は、自身の怒りによって新胆中を解いた。
「うわっ!」
拳志郎が避ける間もなく、宗武は拳志郎を寝台の中に引きずり込んだ。
「そう怒るなよ、そんなに溜まってたの?」
その拳志郎の口調がより一層宗武を腹立たせる。もう何が何でも絶対このクソガキを許さない、と思った。
拳志郎は売春婦としてここにやって来たのだから、売春婦として対価を払わせるべきだ、と宗武は考えた。
宗武は女になっている拳志郎の然るべき所に然るべき物を突っ込もうとした。
しかし、先端が触れた、と思った瞬間拳志郎は男に戻っていた。
「…どういう事だ」
「これは女になるんじゃなくて女に化ける秘孔だからな。だから実際にはヤったりとかできねえよ」
だから諦めろ、と拳志郎が言おうとすると、宗武は如何にも悪人らしい悪い笑みを浮かべた。
「穴ならあるだろうが」
それを聞いて拳志郎が悪い予感をさせる間もなく、いきなり宗武は突っ込んできた。
「痛い…痛い…痛ぇ!!」
「いい歳した…男が…ごちゃごちゃ…騒ぐん…じゃねえ!」
「っ…さっきは…ガキ扱い…した癖に……一度…抜いて…慣らすとか…しろよ…お前だって…キツい…だ…ろ…」
実際拳志郎の拒否反応が強すぎて宗武もただ痛いだけで全然進めない状態だった。
「断る…テメエ絶対逃げる…だろ」
「逃げ…ねえ…から…なあ…頼む…から…」
拳志郎が懇願する。普段なら拳志郎に懇願されたらいい気分だっただろう。しかしこの状況では到底楽しめない。
そして拳志郎の言う事は信用できない。ここは一度抜くより、入れたままで済む方法を取るべきである。
「ぬんっ!」
痛みを快楽に変える秘孔を突いた。
今まで拳志郎の全身を支配していた(痛みを与える箇所は身体のごく一部分と言えど、それは全身の痛みに感じられていた)
痛みが一気に快感に変わって、全身の緊張が一気に解けた。
それで今までどうにも進めなかった宗武は勢い余って一気に一番奥まで突っ込む事になり、
それによって途轍もない快感を味わった拳志郎は文字通りあっと言う間に達してしまい、
それによって陽物を締め付けられた宗武も達して拳志郎の中に大量に射精した。ここまでの経緯は実に一瞬であった。
「ああっ!」
「ぐふっ!」
何故宗武がぐふっと言ったかと言えば、
それは拳志郎が射精した時に角度の問題で拳志郎の液体をもろに顔に浴びる事になったからである。
大量に射精された拳志郎は排泄感に似た物を感じて、少し不快な気分になったが、
秘孔を突かれている今はその不快感すら快感といった様子で、再び軽く射精した。
軽くと言ってもそれはかなりの量だったので、また宗武は顔に大量に浴びた。
「……」
顔からぼたぼたと粘度の高い大粒の雫を滴らせ、宗武は拳志郎を睨んだ。
拳志郎はと言えば射精の余韻なのか何処か夢見心地な目付きで焦点が合っていない。
暫くして漸く宗武が睨んでいるのに気付いたようだった。
「…あ…何?…汚い面近づけんじゃねえよ…」
「!…誰の所為で汚れたと思ってる!!誰の!」
「そりゃお前が無理矢理…」
「うるせえ!ごちゃごちゃ抜かすんじゃねえ!」
「うわっ…」
また乱暴に動かれて、その度に拳志郎は達してしまう。
それにつられて宗武も達してしまうので、二人とも殆ど絶え間なく射精しているかのような状態になった。
達する度に顔が汚れるのが嫌なので、宗武は拳志郎の液体が拳志郎本人の顔にかかるようにしてやった。
しかし顔にかかっているのに気付いているのかどうか、寧ろ顔にかかっているのを喜んでいるようにも見える。
この変態め、と自分が拳志郎の秘孔が突いたからそうなった事を全く棚に上げて、宗武は内心悪態を突いた。
それからそういう状態で時は過ぎ、宗武も流石にそろそろ限界かと思って引き抜こうとした。
「ん…」
拳志郎が制止するように宗武の髪を掴んだ。
「次…最後…な」
まあ最後だと言っているのだからいいだろう。
一旦大きく引いた後、突き入れてやった。
「っ!」
一際大量に射精した後、一気に疲れが出た。
拳志郎を見やると、物憂げな様子をしているように見えたので、なんとなく口づけした。
口を離すと、拳志郎が驚いている様子だったので、なんだろうと考えると、
『…本命とじゃないとキスしない主義?』
『…まあな』
という会話を思い出した。拙い事をした、と思っていると、「早く…抜けよ…」と拳志郎に言われたので、我に返って、抜いた。
抜くと同時に拳志郎は眠りに落ちたようだった。宗武にも一気に睡魔が襲ってきたので、寝た。
「…」
拳志郎は目を覚ました。体が痛い。隣を見やる。宗武が居ない。
「…」
「早く風呂に入れ」
声がした方を見ると、風呂から出たらしい宗武が立っていた。
「もうちょっと寝てたっていいだろ」
「料金が嵩む」
「どうせ金持ちなんだしいいだろ」
「お前のせいで余分な金は払いたくない」
風呂に入って、出た後、辺り一面情事のせいで汚れまくっていたが、奇跡的に服は無事だったので、
再び秘孔を突いて女に変身した後、服を着て化粧直しをした。
「…化粧ってのは、必要なもんなのか?」
「そりゃ女だったらするだろ」
売春婦の恰好ですっぴんだったら、変である。
「しかし随分部屋汚れたよねー、少尉さん、お前が弁償してね」
「なんで俺が」
「お前のせいだろ」
「お前のせいでもあるだろ」
「お前の方が沢山出しただろ」
「お前も出しただろ」
「でも、対外的には男女二人組って事になるから、宿の従業員は全部お前のせいだと思うだろうね」
「男女…にしては女の臭いがしないのが変に思われるだろうがな」
「あ、そうだ」
部屋を出た後、拳志郎は懐から香水を取り出して自分と宗武に思いっきりかけた。
「臭っ!何すんだてめえ!」
「あ?だって散々やったから臭いじゃん」
「…気で浄化すれば済む話だろうが!」
「ああ、そうだね」
なんだかんだ言って、宗武が結構金を払って宿を引き払った。
「じゃ」
「…ああ」
「ただいまー」
ただいまー、と言ってもここは拳志郎の家では無く、飛燕が住んでいる教会である。
拳志郎の家(というか玉玲の家)は別に売春婦が出入りしてもおかしくないといえばおかしくないのだが、
これからする悪戯の内容を考えると自宅から出るのはなんとなく気が退けたので教会で女に化けたのだった。
…教会に売春婦が出入りする方がよっぽどまずいんじゃないか、と飛燕は思ったのだが、
拳志郎に住まわせてもらっている身なのであまり文句は言えないし、
拳志郎は文句を言っても聞き入れる人間では無い。
一応拳志郎にこの話を持ちかけられた時「エリカの情操教育に悪い」と反論はしたが、当然の如く聞き入れられなかった。
さて、その拳志郎が帰って来て奥の部屋へ入って行ったのを見て、飛燕は
「なんだか疲れてる様子だなあ〜」と文麗に話しかけた。
「やっぱり怒られたんじゃないのかしら。宗武はそういう冗談の類は嫌いだし」
「でもあの二人が本気で戦ったらもっと重傷を負う筈だあ〜。疲れてるだけで、怪我をしてないみたいだあ〜」
「そうね…」
部屋から出てきた拳志郎はやっぱり疲れている様子で、飛燕と文麗の話しかけにも適当な返事しかせず、帰って行った。
飛燕としては拳志郎が心配でない訳では無かったが、まあ自業自得だし、
それよりも昨日も今日も売春婦姿をエリカの目に入れる事無くこの事案が終わってよかったと思った。
拳志郎は家に帰った後、できるだけ屋敷の人間と顔を合わさないようにして風呂に直行した。
その後も同様に気をつけて自室に戻った。
まずい事をした、と拳志郎は思った。
どう考えたってあの時の宗武の態度は、自分に惚れたという雰囲気だった。しかもそれで自分が嫌じゃない。
満更嫌でも無い。むしろちょっと嬉しいかもしれない位の勢いだ。その自分の心の動きが更に拙い。
だって自分は玉玲を愛している。玉玲を一番愛している。それは今も昔もこれからも決して揺るがない。
しかし自分は宗武に惚れたっぽい。それが拙い。
愛している女がいるのに、愛する妻が居るのに他の男と諸思いになる?いやそれはない。どうしてそんな真似ができる。
自分はどうしてあんな冗談をしようと思ったのか。どうして相手に宗武を選んだのか。
ひょっとしたら自分で気づかなかっただけで最初から宗武の事を好きだったんじゃないか。奴の方ももしかしたら…。
その日はずっと部屋から出ないでゴロゴロしていた。
宗武も宗武で家に帰った後、気分が優れない。
あんなことをせずに、とっとと拳志郎を叩きだせばよかった。どうして自分はあんな振る舞いに及んだのだろう。
多分今まで気付かなかっただけで、自分は拳志郎に前から惚れていたに違いない。
拳志郎は本当に冗談であんな事をしてきたのか、それとも自分の心持を見抜いてしてきたのか、わからない。
さっきかけられた香水が臭いのだが、宗武は風呂に入ったり気で臭いを消したりすることなく、
その日は一日中寝台でゴロゴロしていた、
____________
| __________ |
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| | □ STOP. | |
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| | | | ピッ (*´ω`*)
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
なぜこの二人では真っ当なシチュエーションが思い浮かばないのだろう
キム/タクと唐/沢さんがドラマで共演したらという妄想の産物
キム×空です。
棚15よりダラダラと続けております。
保管庫のシリーズ物に収録して頂いております。ありがとうございます。
超超SSですが、読んで頂けたら幸いです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
春だ。
いい天気だ。
色とりどりの花がいっぱい咲いて、
なんだか全てが祝福しているような、そんなうららかな日曜日。
の、もう昼過ぎ。
やっとなんかゴトゴト音がする。
リビングのドアがゆっくり開き、のそっと音でもしそうな登場で空沢さんが起きてきた。
「おはようございます。…すごいですね、寝グセ」
「あんまりすごいからお前に見せようと思って」
会社の女の子が見たらイメージ違いすぎて卒倒しそうだ。
空色のパジャマは俺と会う前から持ってて、今もよく着ている。
きっと前の奥さんが買ったものだろう。
どうせ俺が同じもの買って来たってこの人は絶対着ない。
でも嫉妬なんかもう無い。
だって今この姿を見れるのは俺だけなんだから。
「コーヒーでも飲みますか」
「…だからー、コーヒーくらい自分で淹れるって言ってるだろうが。お前は俺を甘やかしすぎなんだよ。」
「甘やかしたっていいでしょ。好きなんだから。」
「お前みたいな奴と居たら俺はますます駄目な男になる。」
「空沢さんは今も昔もいい男ですよ。」
「お前が言うと嫌味なんだよ。」
「ちっちっち。わかってないな〜」
ブツブツ言いながら俺の座っているソファの隣りに座ってくるもんだから
思わず近づいてみたりして。
「あぁ??…おい木村、コーヒー入れて来い」
「駄目。空沢さんが駄目な男になっちゃう」
首に腕を回せば一瞬逃げるけどすぐに抵抗を無くす。
あ、なんかこういうの久々でちょっとドキドキするんですけど。
「…お前が俺を駄目にするんだよ」
「じゃあ、いっそ…」
ただただ抱きしめる。
じゃあ、いっそ、俺無しじゃ生きていられなくなるまで駄目になってください。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
世の中色々ありますが、春を感じて頂けたら嬉しいです。
ありがとうございました。
お恥ずかしい
トリップに番号を巻き込んでしまいました。
申し訳ありません…
キム空待ってましたーー!
まっすぐな木村と、ちょい押しに弱いからさーが相変わらずかわええええ
リアタイで出会えたので告白しますが、木村の出張帰りをカレー作って待っちゃうからさーと
「俺のことちょっと好きになっちゃった?」とか言っちゃう木村が大好きです。
そして口調があまりにも中の人っぽいので、脳内再現率がぱねえっす。
あーもう二人とも可愛い!おっさんたちがイチャコラしよってからに…また書いてください、お待ちしてます。
>>246 萌えすぎて禿げました
ありがとうございます!
次はキス以上まで進むといいなw
また投下よろしくお願いします
半生 邦画「落.語.物.語」より師匠←コハル
・超絶ネタバレ注意 ・エロ無し、ぬるい、暗いです
パチン (>⊂(・∀・ )マイドバカバカシイヤオイヲヒトツ
すみません、引っ掛かりまくっているので後ほど…
(・∀・;)ベンキョウシナオシテ マイリマス!
投稿再挑戦、半生 邦画「落.語.物.語」より師匠←コハル
・超絶ネタバレ注意 ・エロ無し、ぬるい、暗いです
パチン(>⊂(・∀・)マイドバカバカシイ(
今日も日差しは温かい。洗濯機は師匠と、僕のぶん、二回楽々回せるだろう。
それが済んだら掃除をやって、ご指名のライスカレーに取りかかる。
家事がまるまる僕の仕事になって、最近ようやく慣れてきた。
師匠は相変わらず家事にうるさく、稽古にいい加減だ。
師匠はよく僕をからかってのほほんと笑う。
「小.春、お茶くれーい」家のどこかで声がした。僕は洗濯機の蓋をばたんと閉めて返事をする。
「はい!緑茶ですか?」「うん、濃いやつねー」
僕は慌てて手を拭いてから台所に駆け込み茶筒を手に取る。そうだ貰い物のカステラが残ってる。
厚めに切って盆を持ち、こぼさないよう慎重に、師匠の部屋に運びこむ。
「師匠、緑茶です」
「うん、そこに。そうそう」師匠は本から顔をあげるとニヤッと笑った。
「カステラかあ、気が利くな。手づかみってのもたまにはオツだよな」
「あっ」僕は正座のままで小さく跳ねる。皿にフォークが載ってない。「すみません!すぐ、すぐ持ってきます」
「いい、いい、それより、今日は肉じゃががいいな」
「え、昨日は…ライスカレーって」
「そうだっけ?忘れた。似たようなもんだろう、芋と、肉と、玉ねぎと」
一応の抵抗を試みる。「ジャガイモも、もう切ってますし、豚の薄切りは買ってこないと…」
「いや、今日は絶対に肉じゃがだな」
もちろんその抵抗は無駄だ。わかりました、と答えて立ち上がる。
「ああ、葵」部屋を出ようとする僕に師匠が声をかけた。
ああ、葵、それを聞くと心臓が砂粒を噛んだみたいになる。
世界じゅうの音がほんの一瞬なくなってしまったみたいになる。
師匠は気づかずにこにこと、小さな皿を僕に差し出す。
「カステラ、食っていいぞ。だから今日は肉じゃがでな。なんだそんな顔して。上物なんだぞ、これは」
手の中のカステラはすごく黄色い。
おかみさんが亡くなったすぐあとも、葬儀の間も、師匠は大きな声でわあわあ泣いた。時には呻くように泣いた。
人類が誕生してからやった泣き方の全部を試すように師匠は泣いた。葵、葵、ばか、葵と言って泣いた。
僕は家から取ってきた防虫剤臭い喪服を着て、できる雑用をこなしていた。
噺家には悲しいことがあった時、平気なふりで周りを笑わせる人と嘆き悲しむ人がいるらしい。
師匠は嘆き悲しむ人で、大きな体を揺すぶって涙を流した。葬儀に来た噺家たちの中に、小六は噺家らしくないと
厳しいことを言う人があった。僕は楽屋でいつもやるみたいにじっと顔を伏せていた。
本当は、おかみさんがどんなに師匠を好きで、師匠がどれだけおかみさんを支えにしていたか、言いたくて言えなかった。
そうして大泣きに泣いたあと、師匠はぱったり泣かなくなった。
仏壇に手を合わせてから高座に出掛け、上機嫌で帰ってくる。
僕の家事にあれやこれやと文句をつけて、理不尽ないたずらをして、毎日稽古をしてくれる。
けれど夜中にふと目が覚めると、隔たった部屋の向こうからきっと声が聞こえてくるのだ。
熊がしゃっくりするような、くぐもった声。
熊がしゃっくりをするのかどうか、僕は知らない。
台所は静かで妙に蒸し蒸しする。窓を細く開けてカステラを食べた。
こんなに温かいけれどあの人はずっと冬の中にいるのだと思う。
稽古中、台所に向かって師匠が「コーヒー」と叫んだあと、あるいは僕がつけている家計簿の食費の欄を覗き込んで
「なんだあ、やけに少ないな」と呟いたあと、師匠は変なくしゃくしゃ顔になり、僕はその度におかしな気持ちになった。
内弟子がこんなことを思うのは間違っている。でも僕が師匠を守っていかなければと思う。
おかみさんもそんな気持ちだったのかもしれない。おかみさんがくれた大学ノートを取り出して、僕は肉じゃがのレシピを
探し始めた。『六ちゃんは』と肉じゃがのページに書かれたメモを読む。
『六ちゃんは、ジャガイモのサイズにうるさいので、大きめのひと口大に切ること(六ちゃんのひと口は春ちゃんの2倍)』
その途端、自分でもよくわからないままに僕は狼狽してノートを勢いよく閉じた。
なにか後ろめたくて、誰かに何かを謝りたくてたまらなかった。初めてノートを見ずにご飯を作って、
僕は見事に鍋を吹きこぼした。
「ジャガイモが小さいよ、肉は牛だし。ライスカレーの材料、そのまま使ったろ」
「すみません」
「小.春には家のこと全部任せてるからなあ。父子家庭は大変だな」
そう言って師匠はわはは、と笑ったが、僕はどう応えたものかわからなかった。
「どうした、高座で何かあったか。…弟子入りしに来た時のフニャフニャに戻ってる」
僕は喋らなくてもいいようにご飯を箸でかき集めて頬張る。師匠もお茶をゆっくりと飲む。
おかみさんだったら「しみったれた顔するんじゃないの」とか、あの下町口調で言うんだろうか。
ご飯ばかり食べていたら、肉じゃががずいぶん余ってしまった。居候の身でおかわりは滅多にしないけれど、
今日だけは炊飯器を開ける。それをからかいもせずどこかぼうっとした師匠は、茶碗を突き出した。
「葵、おかわり」
自分のをよそってから師匠の大きな茶碗を受け取る。ご飯は温かい湯気をたてている。
師匠に茶碗を返す時、「小.春です」と僕は言った。
「ん?」
「僕は。今戸.家小.春、です」師匠はきょとんとしていたが、やがて「間違えてたか」と呟いた。
「今までも間違えてたか?」
「いえ!」すぐさま答えたが、顔で伝わってしまったらしかった。
平気になったつもりでも、こんな時にコミュニケーショ下手が出る。
「そうか。…悪かったな。小.春」謝られたのが意外で、僕はただ座るしかない。
「小.春」師匠が僕の目を真正面から見た。「はい」
「小.春。うん、お前は、小.春だ。な」「はい!」
「ほんとにいい名前だなあ。ぴったりだよな。まあ俺がつけたんだけどな」師匠はそう笑った。
「はい、師匠と、おかみさんに、つけてもらいました!」
途端に師匠はあのくしゃくしゃ顔になって、箸をぱたんと置いた。椅子が大きな音を立て師匠の大きな影が
食卓に落ちた。離れていこうとする袂をぎゅっと掴むと、あっけないほどの軽さで師匠はまた腰を下ろした。
広い手のひらでもっと広い顔を覆って、師匠は泣いた。手のひらの下で口が誰かを呼んだけど僕には聞こえなかった。
師匠はしゃっくりをする熊にそっくりで、僕は熊がしゃっくりをするかどうか知らないけど、袂を離すことができなくて、
机を回って師匠のそばに立った。一際大きな嗚咽が漏れ、それはすぐ僕のTシャツのお腹のあたりに押し当てられて
かき消され、僕は誰かに謝りたい気持ちのまま、師匠と一緒にフニャフニャと泣いた。
m(・∀・)mイジヨウ、オアトガヨロシイヨウデ
長々と失礼しました
>>258 ピ工一ノレの映画ですよね?あの巨体で想像して泣けた
映画見に行ってくる!
260 :
1:2011/04/21(木) 23:55:36.89 ID:NrnXTQW6O
先輩×後輩。
生注意。当たり前ですがフィクションです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ぼんやりと、同僚たちのバカ騒ぎを眺めていた。
いつもなら一緒になってはしゃぐのに、今日はそんな気になれない。
かといって誘いを断ることもできず、片隅でひとり濃いめの酒を煽っている。
あれは、一瞬の判断ミスだった。
期待していたパートナーが故障してクラシックをフイにしてしまって以来、何となく不運なことが続く。
「ほんまに…もう…」
グチを言おうが溜息を吐こうが状況は変わらないのだが、沈んだ気持ちはなかなか元に戻らない。
「ユウジ!」
いつの間にか隣に先輩が座っていて、俺に抱きついてきた。
「あれはユウジらしくなかったねぇ。来週もユウジに会えると思ってたのに…残念だなぁ」
「はぁ」
擦り寄ってきた先輩は、既に相当飲んでいるらしく、顔は真っ赤だし、呂律も回っていない。
「……同情なら結構ですが」
「あれ、ユウジくん怒った?俺、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど…」
「そんな風にしか聞こえません」
261 :
2:2011/04/21(木) 23:57:02.20 ID:NrnXTQW6O
いつもなら、先輩のこの軽さも何とも思わないのだが、どうしても今日はイライラする。
俺を励まそうとしてくれているのは痛いほど分かる。
分かるけれども、今はそっとしておいてほしかった。
「ごめんごめん。やっぱ俺、うまいこと言えないや。何か励ますようなことが言いたかったんだけど」
きっと俺はものすごい表情をしているのだろう。
おちゃらけた顔が、一瞬にして悲しそうな顔になった。
「ごめんなユウジ。俺、ユウジ大好きだからさ……そんな辛そうな顔してほしくなくてさ…」
目がみるみるうちに潤み、すーっと一筋流れ落ちた。
「ちょ、ちょっと、コヤマさん?」
「……」
俺の服の裾を握り締めたまま、顔を肩口の辺りに押し付けて、先輩は本気で泣き始めてしまった。
これではどう考えても俺の方が慰めているというか、俺の方が悪者じゃないか。
「な、泣かないでくださいよ…俺もちょっと大人げなかったですか……ら!?」
俺の言葉が終わる前に。
本気で泣いていたはずの先輩は、にやりと笑ったかと思うと、俺の頭を抱え込んで口付けてきた。
262 :
3:2011/04/21(木) 23:58:38.61 ID:NrnXTQW6O
「ユウジくんが元気になるおまじない」
「え、あの…」
「でもタバコはダメだよ。俺、嫌煙家だから」
確かにさっき同僚のを1本くすねて吸ったのだが、それを指摘されたことより、何が何やらすぐに理解ができなかった。
しかし、カメラの前で号泣してみせる先輩のことだから、あれは迫真の演技だったのだという考えが浮かぶと、急に顔に熱が集まる。
「あんた、アホやろ!」
「うん、アホ。ユウジが好きすぎて」
へらっと笑って、先輩はまたバカ騒ぎの中に戻っていった。
「ほんまにもう…」
新たな悩みが増えてしまった俺は、深い溜息を吐くしかなかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
AFの件といい、隠居後の計画といい、彼らはネタが満載で困る。
あんたら本当に30代後半なのかと小一時間。
>>260 姐さんGJです!
ニヤニヤしながら読んでしまいました。
いい歳したおっさん達が、公の場で仲良くし過ぎで困りますねw
いいぞもっとやry
金属の歯車 平和歩行者
初投下&携帯からです。改行おかしかったらごめんなさい
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
唐突に意識が浮上し、スネークは瞼を開いた。
目の前には金色の柔毛。
状況が掴めず、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、思考を巡らせる。
…確か、任務を終えてマザーベースに帰還し、デブリーフィング後に食事や入浴を済ませ、自室で一服していたところにミラーが酒瓶を携えてやって来たのだ。
安物の蒸留酒を嘗めながら、他愛もない話をしていたはずだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。
自分はベッドに座り、ミラーはそのベッドを背もたれ代わりに床に座り込んでいたと記憶している。
MSFの副司令官として、激務を日夜こなしているミラーもまた、自分と同じようにそのまま眠り込んでしまったのだろう。
…つまり、今目の前にあるのはカズの頭か…
寝起きのぼんやりとした思考で、やっとそこまで辿り着いた。
俯せに寝たまま、呼吸に合わせて僅かに前後するミラーの後頭部を眺めるともなく眺めているうち、いつぞやのミラーのぼやきを―これまた寝起きの思考の突飛さで―思い出す。
…俺はねこっ毛でなぁ、ああ、英語では何て言うんだ?cat coatでいいのか?髪が細くて、セットするのが一苦労なんだ。こう、ボリュームを出すのがな、毎朝苦労してるんだぜ…
その時は「色男も人知れず苦労してるんだな」などと茶化しつつ、猫の毛という言い回しがいまいちピンと来なかったのだが。
成程、何時ものようにかっちりと固められていないミラーの髪は、確かに柔らかそうだ。
殆ど無意識のうちに、スネークは俯せたままミラーの頭へと手を伸ばしていた。
襟足から上へ向かって指先を差し込み、さらさらと指の間を擦り抜けて行く感触を確かめる。
先日、MSFの兵士たちが思いがけなく拾ってしまった子猫―ニュークと名付けられた―を思い出させる手触りに、我知らず口角が上がる。
…なるほど、確かに猫の毛だな…
頭頂部から下へ向けて手櫛の要領で梳いてみる。オールバックにする必然からか、やや長めに調えられたサイドの髪を下から持ち上げ、ぱらぱらと少しずつ手放してみる。
マザーベース内の自室であること、深夜であることも手伝って―酔いもまだ覚めてはいないのだろうという自覚もある―未だに完全には覚醒し切らない脳が命ずるままに、幾度もミラーの髪を梳く。
と、不意に手首を掴まれた。
「…何だ、起きたのか」
「これだけ触られりゃ、いくら俺だって起きるさ」
小さく欠伸をしながら、ミラーがこちらに身体を向ける。膝立ちの状態で、掴んだ手首を一旦離し、スネークの左肩の下に手を差し入れ、仰向けにさせた。
荒っぽくひっくり返されたにも関わらず、常になくぼんやりとした顔つきのスネークに、ミラーは困ったような呆れたような微笑みを浮かべた。常でも少し下がり気味の目尻を一層下げて、スネークの顔を覗き込む。
「…気に入ったか?俺の髪?」
「…ああ」
「…もっと触りたい?」
「…ああ」
ベッドに乗り上がり、スネークの肩口に頭を載せ、目を閉じる。口許にはまだ微妙な笑みを浮かべて。
暫くはスネークが無心に髪を梳くにまかせていたミラーが、再び手首を捉え、目を開けて言った。
「…俺も、触っていい、か?」
「…ああ」
今度はミラーの指先がスネークの髪を弄ぶ。耳の後ろから、頭皮をマッサージするように何度も梳かれると、知らず満足げな溜息が漏れる。
こちらがまるで猫か犬になった様だ、などと、目を閉じて考えていると、
「スネーク…?」
左耳にひどく近くから囁かれ、ひくり、と身体が跳ねた。
目を開くと、ミラーの顔がすぐ近くに迫っている。
いつの間にかスネークに覆い被さるように跨がり、仕方ない、といった風情だった微笑みは、僅かに危険な物を孕んでいる。
「もっと触ってもいい、か?」
先刻のスネークの反応に気をよくしたらしい。低く、掠れた声で、スネークの耳に直接吹き込む。
「…なあ、スネーク。違うところも、触っていい…?」
「っ、……ああ」
頬が熱くなっているのを自覚しつつ、スネークは許可を与えた。
正直、嵌った、と思わなくもないが、未だに覚醒仕切らない頭で何か考えても仕方ない、と早々に諦めて、もう一度ミラーの頭へと手を伸ばした。今度は引き寄せるために。
これから与えられるはずの、指先とは違う感触に備えるべく、スネークは薄く唇を開いた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
分割失敗気味ですねorz
わりと流されやすいおっさんと、チャンスは逃さないよ!って若造を書いてみたかったんです…
おそまつさまでした
オリジナル 平凡部下×エリート上司のリーマン物みたいな…?
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
>>270です
スミマセン、エラーが出るので中止します
ご迷惑をお掛けしました
次の方、投下されて下さい
>>270が戻って来るまで小休憩投下
半生 木目棒の小右っぽい右さん独り言話
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
273 :
愛人論1/6:2011/04/26(火) 22:04:41.36 ID:Gf8uSojA0
不眠をわずらっているのは、カフェインの摂りすぎが原因なのでは――。
昔、元妻に半分本気で指摘されたことだが、右.京の紅茶好きは確かに一種の中毒めいたものがあった。
日中はもちろん、就寝前にも必ず喉を温めてからでないとベッドへ向かう気になれない。
どんなに疲弊している日でも、いや、疲弊している日こそ、紅茶をいれる時間帯だけは無心になれるのだった。
つるの細い薬缶でお湯を沸かしながら、ブランデーのボトルを用意する。
カモミールやラベンダーの絵柄の箱の上で手を彷徨わせてから、右.京は一瞬考え込んで、冷蔵庫をあけた。
陳列しているパックやボトルの中から、低温殺菌の牛乳パックを持ち上げて軽く振ると、右.京は納得した様子で一人頷いた。
それから、ハーブティーの類をしまって、ダージリンの缶を取り出す。
薬缶を見れば、すでに細い首からは女の溜息のような蒸気が立ち上り始めていた。
「さて……」
呟いて、右.京は隣のガラス棚へと目を転じた。ずらりと並ぶのは、白や青、時には濃翠の色合いをした、ティーセットの数々だった。
薫に言わせるところの「緊張して飲んだ気にならない」高級品である。
右.京は毎夜、こうして好きなカップを選ぶ時のわずかなときめきを、ことのほか愛していた。
「どれにしましょうかねぇ」
独り言が自然と弾んでしまうのも、一人暮らしの気楽さがあるからだ。
右.京は絵柄の濃い物から無地に近い一品までをぐるりと流め、しばしの思案を楽しんだ後に、右手前に澄ました顔で陳列されているスミレ柄のティーカップを持ち上げた。
カチャリと陶器の触れ合う繊細な音がする。その瞬間、ふいに奥にしまいこんでいた一つのカップに、目が留まった。
275 :
愛人論2/6:2011/04/26(火) 22:09:35.67 ID:Gf8uSojA0
目の醒めるような蒼の縁取りに、細やかな金のアラベスク模様をあしらった、ひときわ豪奢なカップだった。
黄と赤のバラが絡み合った絵柄の持ち手には、内側に、ご丁寧に右.京の名前が彫ってある。
『物には罪がないでしょ、これでも苦労して選んできたんだから』
すとんと耳に蘇ってきた声に、右.京は眉をしかめた。
もう何年も前の話だ。
イギリス旅行の土産に奥方へ贈るというので、しぶしぶ知っている店をいくつか紹介した。
その結果、送られてきた小包の中身がこのティーカップとソーサーだった。
すぐさま送り返そうとした右.京のもとに、見計らったようにかけてきた電話口で小.野田はしれっと言い放った。
276 :
愛人論3/6:2011/04/26(火) 22:15:13.13 ID:EALfo+e6O
『まぁいいじゃないですか。そのうち使いに行くから、ゆめゆめ捨てたりなんかしないよ
うにね』
いけしゃあしゃあと勝手なことを言う小.野田の声を聴いたのは、それが最後だった。
それからしばらくは電話もかかってきていたようだが、取り合わないまま、そのうちに日
が過ぎ、年が過ぎていった。
色々な物を捨てて生きてきた。
伴侶も、部下も、出世も、男の残した短い悪夢のような蜜月も。
ただ、こればかりは結局、捨てるに捨てられないまま、今に至っている。
正直、最近は存在さえ忘れかけていた。
このまま、変わらぬ年月が埃のように重なっていくものだとばかり――。
277 :
愛人論4/6:2011/04/26(火) 22:16:34.45 ID:EALfo+e6O
右.京は少し考え込んだ後、手にしていた方を元に戻して、奥から冷え切ったそのティーカップを取り出した。
久しぶりに目にするが、やはり悔しいほどに惚れ惚れする出来栄えだった。
細い絵筆で繊細に描かれた金彩の美しい模様が、淹れたての紅茶の湯気にぼんやりと浮かび上がって、芳醇な香りと共に心まで癒してくれる一品だった。
小.野田が苦心したというのは多分本当だろう。
この食器を手掛けた職人は右.京の知る限りでは、えらく気難しい老人で、彼の魂の芸術品であるカップに名前を彫るなどという蛮行を許すわけがないのだった。
それを、わざわざ。
278 :
愛人論5/6:2011/04/26(火) 22:17:34.24 ID:EALfo+e6O
『うちにも同じのがあるからね……』
あれだって、しらじらしい話である。
職人が二つとして同じものを作らないことを、紹介した右.京が知らない筈がない。
小.野田の台詞は、たんに妻と同じものを愛人に贈るという俗っぽい話を、右.京に連想させたいがための嘘に違いなかった。
事実あの時問題になりえるとしたら、同じティーカップであるかどうかより、そこに彫られたネームの方が遥かに火種になりえた。
それを見越しての小.野田の手回しだったのだろう。実際、右.京はカップを送り返せなかった。
どこまでも強引な男なのだ。
279 :
愛人論6/6:2011/04/26(火) 22:18:16.48 ID:EALfo+e6O
右.京は薄っすらと笑って、カップをくるりと回した。
ためつすがめつ、悪戯に手の中で温める。
「物には罪がない、ですか……」
つくづく嫌な言い方をする。
それではまるで、どこかには「罪」があるようではないか――。
右.京は溜息をつくと、キッチンへと身をひるがえした。
冷えた薬缶に手を伸ばし、もう一度沸かすためにコンロをひねる。
ぼうっと青い火が立ち上って、物憂げに更けていく宵をうす暗く照らしあげていった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
すみません、分割に失敗したりPC投稿失敗したりハチャメチャでした
ありがとうございました
>>264 積極的な副司令官と流されちゃうボスにニヤニヤしました…!
この二人のお話が読めて幸せです。
もし宜しければ続きも是非…!
>>272 うおおおありがとうありがとう!すごく萌えた!!
ずっとこういう右京と官房長が読みたかったんです、本当にありがとう!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
うん、そりゃあさ、俺だって昭和生れの男の子だからさ、小さい時から父親とかから
言われるわけよ。
「男たるもの、妻子を持ってこそ一人前だ」なんてさ。
ふーんそんなもんなのかなー、じゃあ大人になったらお嫁さん貰ってー、子供も
たくさん作ってー、でっかい家建ててー、犬もでっかいの飼ってー、なんてさ。
奥さんは、かーちゃんみたいに、忙しく晩ご飯作ってても「おかえりー!」って笑顔で
迎えてくれてさ、子供らが「お土産はー?」なんてまとわりついてきたりしてさ、
まあそんな妄想?いやちょっと言い方悪いか、理想?…そういうのがさ、普通の
男子の在るべき姿ってか、往くべき道ってかさ。
ん?いやいや、昭和って皆そんな感じよ?
特にウチなんか親はモロ団塊だし、田舎だしさ。
284 :
2/2:2011/04/27(水) 17:54:59.39 ID:UC6TuRLNO
まあ思春期には叶わぬ夢になっちゃったんですけどねーあははは。
そうそうだからさ、お二人さんには俺の分も頑張って貰ってー、あ、今のオヤジ臭い?
まいっか、もう立派にオジサンな年だもんね、ってひでー!そこはフォローして
くんないと!笑うとこじゃないよ!?
で何の話だっけ?あそーだ、幸せな家庭を築いて下さいなってことよ。
まあ二人なら俺がどうこう言わなくてもラブラブなんだろうけどさ。仲良いもんね。
…うん、ほんと、お幸せに。
お招きありがとうね。二次会出られないけどごめんね。新幹線の切符取れなくてさ。
ううん気にしないで。新幹線乗っちゃえば寝れるし。そっちこそ体に気をつけてよ。
明日から新婚旅行でしょ?結構ハードなスケジュールだよねぇ。ま、一生に一度だしね。
うん、東京来た時は連絡してよ。土日でも夜だったら大丈夫だからさ。
うん、じゃあね。お招きありがと。あ、さっきも言ったねははは。
じゃあねー、お幸せにねー!
「はぁ〜到着〜」
自宅のドアの鍵を開ける前、思わず声に出てしまった。
引出物の紙袋はやたらと重いし、普段着慣れない礼服もとっとと脱いでしまいたい。
それに。
このドアを開ければ。
「ただいまぁ〜」
「おう、おかえりー」
リビングに入れば、部屋中を満たすいい香り。
この匂いはきっと、自分の大好きな炊き込みご飯だ。
285 :
3/2:2011/04/27(水) 17:57:22.56 ID:UC6TuRLNO
新聞を畳みながら、恋人が立ち上がる。
「早かったな。先に風呂入っちゃえよ」
そう言って、椅子の背に掛けてあったエプロンを身に着ける。
「えー、手伝うよ。着替えて顔洗ったら」
荷物や紙袋をガサガサ言わせながら言うと、
「いいから行って来いって」
長旅で疲れただろ?と背中を押され、
「30分で上がってこいよ。メシにするから」
もう適温の湯が張られ、後は入るばかりの風呂場に押し込まれた。
可愛い奥さんはいないけど。
子供なんて望むべくもないけれど。
大きな家も大きな犬も手に入れてないけれど。
そんなのなくったって、俺は。
「俺…充分幸せじゃん」
いくら抑えても自然に緩んできてしまう口元をしゃんとさせるため、湯船の中に
顔の半分まで潜ってみた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
にぶんのさんって何だよ…orz
分割ミス失礼しました
|>PLAY ピッ ◇⊂(*´ω`*)一応長兄×末弟(と三兄×次兄っぽい感じ)
ケンシロウが目を覚ますと、自分が虎になっていることに気がついた。
昨日の夜は飲みだったので、自分の容量も弁えずガンガン飲んでいると、気分が悪くなった。
それで部屋の隅で臥せっていると、アミバがやってきて、
「ふぉ〜飲みすぎで気分が悪くなったのか、それはいかんなぁ〜。俺の発見したこの新たな秘孔を突けば、お前は忽ち気分が良くなる」と言ってきた。
俺は丁重にお断りしたのだが、強引に突かれてしまった。そして別に気分は良くならなかった。大体そんな秘孔があったらとっくに北斗神拳に備わっているだろう。
その後トキに介抱してもらって、なんとか気分が収まったので家に帰ってきて寝た次第だった。
それで目を覚ますと、何故か体が変なのである。
手も足もなんだか短いし、それに尾があるような気がするのである。
どうにも体がうまく動かせないので、これが二日酔いというやつか、とケンシロウが思ってなんとか体を起こして自分の手を見ると、手ではなくて前足になっていた次第である。
(…いい肉球だ…)
思わずケンシロウは指で触りたくなったが、指が無い(一応あると言えばあるのだが)ので、できないことに気づいて悔しがった。
さて、どうしようかと思った。
今の自分を見て、ケンシロウだと気づかれることはないだろう。下手をするとラオウ辺りに殺されかねない。
しかしお腹は減ったしトイレに行きたい気もする。
兄弟と顔を合わせなければいいのだ、そう思ってまずは寝台から降りようとした。
この体に慣れてないので寝台から転げ落ちる形になった。
以前テレビで見たときには、ネコ科の動物は高い所から落ちてもひらりと身を躱し着地していたのに、何故今の自分はできないのか、理不尽である。それでもなんとか部屋の扉の所まで行って、恐る恐る開けた。
どうやら誰も居ないようだった。それで部屋から出て、扉を閉め、先ずは朝食でも摂ろうかと思った。
「ぬ…?」
廊下の先にラオウが見えた。
俺の人生終わった、とケンシロウは思った。
(いや、いくらラオウでも、家の中に虎が居るからといって直ちに殺そうとしたりしないだろう)
ケンシロウは少し前向きに考えた。
ケンシロウが其の場で立ち止まっていると、
ラオウは歩み寄ってきて、
「ほう…虎か…二日酔いを覚ますのに、丁度よい」と呟いた。
やはり俺の人生は終わった。
とりあえずラオウに対抗するためにオーラを纏ってみた。
「ほう…貴様もオーラを…だがこの拳王の敵ではないわ!」
やはり慣れない虎の身では限界がある。オーラを纏うことはできても、ラオウの剛拳を躱すことができずに、死ぬだろう。
「死ぬがいい!」
「…何やってるんだ、兄さん」
トキだった。
何といい所に現れてくれたのだろう。
「ぬ…トキ…」
「何をしているんだ…」
「うむ、虎が居たのでな」
「そんなホイホイ殺すのは止めてほしい。ひょっとしたら師父が私たちに黙って通販で買ったのかもしれない」
「ぬう…」
通販で虎は買えないだろう、とケンシロウは内心突っ込みつつ、とりあえず助かった、と思った。
「ほら、来なさい、朝御飯あげるから」
ケンシロウはトキについて台所へ行った。
「上手く歩けないようだが…怪我でもしているのか?どれ、少し見てあげよう」
それよりやはく朝食を。
「ふむ…特に異常は無いようだ…さて…」
ようやく朝食か!そういえば一昨日のカレーがまだ残っていたよな…確か…。
昨日は飲みで誰も家で夕食を食べてないわけだし、カレーだ…二晩じっくり寝かせて美味しくなったカレーだ!
「はい、朝御飯」
何故生肉の塊なんだ…トキ…。
確かに虎の食事と言えば生肉が当然なのかもしれない。
しかし自分は虎であって虎でなく、実際にはケンシロウなので、生肉でなくてカレーを所望するのが当然である、というのをトキが分からないのは当然である。しかし…。
「どうした、食べないのか?」
当然これ、味付いてないよな…せめて塩胡椒を…。
ケンシロウはトキに催促しようと思ったが、その時、誰か食堂にやってきた気配がした。
「やあおはよう、ジャギ」
「ああ〜…おはよう兄者…ってうおっ!なんで虎が居るんだよ!?」
ジャギは咄嗟に懐からショットガンを取り出してケンシロウに向けた。
「動物に無闇に銃を向けるものではない…」
「いや、動物って、猛獣じゃねえか!暴れたらどうするんだ!」
「その時は私が確実に仕留めるから心配いらない」
それを聞いてジャギは、「いや、あんたは確実に仕留められても、俺にはできねえよ…」と内心思ったが、
そう抗議したところでトキが虎を何処かへやってくれるとも思えなかったので、それ以上文句を言うのは止めた。
「…で、なんで虎が居るんだ」
「多分師父が買ったんじゃないかな。…お前も昔猫を飼いたいと言ってたから、丁度いいだろう」
ジャギが中学生の頃である。
ジャギは川の橋の下に捨てられている子猫を拾い、家に連れて帰った。当然飼いたかったからだ。
師父は特に何も言わなかったが、意外にもトキの反対を食らった。
「なんでダメなんだよ」
「わからないか…最近兄さんは反抗期なのか何なのか、所構わず不意に暴れたりすることがあるだろう。
そういった時に偶々この猫が居合わせてみろ、悲しい思いをするのはお前だ」
「いくらラオウでも、猫が居る時に暴れたりしないだろ」
トキは溜息をついた。
「ジャギ…お前は今までラオウと一緒に暮らしていてそんな事も分からないのか?
この前だってケンシロウを一ヶ月生死の境をさ迷わせたんだぞ、あの人は」
「そんなのいつもの事じゃねえか」
「それがいつもの事になってる事自体おかしい」
結局ジャギは猫を諦めて、友人にあげた。猫はまだ友人宅で健在なので、友人の家に行く度に可愛がっている。
「何年前の話だよ…それに虎と猫じゃ大分違うだろ…」
「いや、虎も猫も親戚みたいなものだろう。同じネコ科だし」
「違ぇよ!」
「じゃあラオウとリンみたいなものだろう」
それはなんとなくわからないでもない。
…しかし、猫は認められなかったのに虎は認められるというのも少し理不尽な気がする。
「…猫はダメなのに、虎はいいのかよ」
「いや、実際さっき兄さんに殺されそうになっていたが…別にお前は虎がラオウに殺されても悲しくないだろう」
虎がラオウに殺されるより、自分が虎に殺されないかの方が心配である。
「…まあ…」
「とにかく、お前も朝御飯だろう。カレーでいいか?」
「いいよ」
ケンシロウにとって、自分がカレーを食べられないのに、ジャギがカレーにありつけるとは理不尽である。
トキの傍へ行って「俺もカレーが食べたい」と催促してみたが、どうにも伝わる筈がない。
「はい」
トキがジャギの前に温めたカレーを置いた。
ケンシロウはもうこうなったら力尽くで奪い取るしかないと思った。
ケンシロウは普段はジャギに兄としての顔を立てているが、
体が普段とは違うので気の持ちようが普段とは違うためなのか、
それともやはり対象がカレーであるせいなのかわからないが、
とりあえず椅子に座っているジャギに飛び掛かってジャギを床に転がせた後、食卓の上に乗った。
そしてカレーを食べようとしたが、カレーが熱いので、今虎になっている自分は大丈夫なのだろうかと一瞬躊躇した。
虎が猫と同じなら猫舌である筈である。
「…ッ…このクソ虎ッ!」
体勢を立て直したジャギがケンシロウに向けてショットガンを撃ったが、
咄嗟にトキがケンシロウを抱えて移動して助けた。
「兄者!なんでそんなやつを庇うんだよ!」
「まあ待て…彼はおそらくカレーが食べたかっただけだ…撃つことは無い…」
そしてトキはケンシロウに向き直って言った。
「お前には冷ましたカレーをやろう」
「…ったく、カレーを食う虎なんて変わっていやがる、なあ兄者?」
「…人に飼われていたのかもしれないな、人に慣れているようだし」
デザートは林檎だったのでそれも食べた。食器を片づけようかと思ったが手ではなくて前足なのでできない。
歯を磨こうと思ったが、それもできないと気付いた。
ケンシロウはそういえばまだトイレに行ってなかったことを思い出し、トイレに行った。
ケンシロウがトイレから出てきたのを見て、ジャギとトキは、益々変わった虎だ、と思った。
それにしても、何故かこの虎はトキに贔屓にされているようで理不尽だとジャギは思った。
そういえば昔から自分は蔑にされている気がする。
あのラオウの馬だって、ラオウとケンシロウに懐き、トキとはまあまあで、ジャギと師父は完全に蔑である。
たまに訪ねてくるケンシロウやラオウの友人の方を優遇するぐらいだ。
「そういやケンシロウはまだ寝てんのか」
「昨日は大分酔ってたからな…今更起きてきてももうカレー無いし、もうすぐお昼だけど」
「ハッ、自分のカレー食われたって知ったら怒るんじゃぁねえか!昼飯があろうとなんだろうとカレーだけは食うからな、あの野郎」
「そうだな…少し様子を見てくるか」
ケンシロウはトキについて部屋から出た。
トキはケンシロウの部屋をノックして呼びかけてみた。しかし返事が無いので、「ケンシロウ?」とこっそり扉を開けた。
ケンシロウは居なかった。
昼食。
「…ケンはどうした」
昼食は在宅中ならば全員揃って摂るのが常であるから、ラオウがこのような疑問を呈したのも当然である。
「いないみたいだ」
「何?」
「いなかった」
「出かけたのか?」
「いや、誰も見ていない…それに」
トキはケンシロウの携帯とiPod(初代)を取り出した。
「枕元に置いたままだったが…携帯とiPodを忘れていくとは考えにくい」
携帯は中学時代から「欲しい欲しい」と言い続けて大学進学祝いに漸く買ってもらったものであるし、
iPodは何度強請っても買ってもらえなかったのを正月の町内会の福引でようやく入手したものである。
勿論できれば最新型がよかったのであるが、贅沢は言えないので仕方がない。
という経緯があるので、ケンシロウはこの二つを常に携帯している筈なのである。
「ほう…家出か?」
「兄さん、心当たりは無いか?」
「何故俺に心当たりがあるのだ」
そりゃラオウが一番ケンシロウに被害を与えているからだ…とトキは思ったが、その事は言わないでおいた。
もしこの先トキやジャギが家出しても、それはラオウのせいだと思うが、
きっとラオウはそれで悩んだりなど絶対しないだろうから、
ラオウに反省してもらいたいと思って家出をしても得策ではないな、と思った。
「それに、何故虎が食卓に座っているのだ」
「座りたそうだったから」
食後ケンシロウは考えた。何か自分がケンシロウだと訴える方法は無いだろうかと。
(家にiPadとかあればあれで文字が書けるかもしれないのに…)
この家にそんなものは無い。どうやってもこの前足で文字を書ける気がしない。
「…」
ケンシロウは器用に食事ができないので、口の周りに料理がついてないか気になって、舌で舐めた。
まだ残っていないか気になって、前足の甲で顔を拭ったが、猫は前足の平で顔を洗っていたような気がしたので、平で顔を拭ってみた。
(気持ちがいい…)
なんと肉球とは滑々して気持ちがいいのだろう。
面白いので暫く顔を撫でてみた。
午後、ケンシロウは馬小屋へ歩いた。
馬小屋は母屋とは大分離れているのでまだ慣れない身では歩くのが大変なのであるが、
やはり動物の事は動物というか、こういう状況になるとペットと話が通じるようになるというのは漫画の定番であるし、
話が通じなくても黒王ならなんとか自分を認識してくれないだろうかとケンシロウは考えたのだ。
やはり自分が自分と認識されないのは辛い。
しかし、何故俺が虎などになっているのだろう。
酔っ払って泥酔することを大虎というが、正にその通りになっているわけだ。
ケンシロウは、高校の国語の授業に出てきた『山月記』を思い出した。
李リョウとかいう奴が「峻険な性が原因で」「虎になる」話だった。しかし自分は別に峻険な性の持ち主ではない。
性格が原因で虎になるならジャギやラオウの方が相応しいだろう、と思った。
そんな事を考えている内に小屋に着いた。
小屋の扉を開けると、黒王と目が合った。
一瞬黒王は不思議そうな目をしたが、すぐに普段ケンシロウを見ているような目つきになった。
どうやらケンシロウをケンシロウと認識したらしかった。
そこでケンシロウは会話を試みてみたが、やはり会話は通じなかった。
やはり漫画のようにはいかないか、と少し落胆したが、認識されたのは嬉しかったので、暫く其処に留まっていた。
夕方頃ラオウがやってきた。
「む…?何故貴様がこんな所にいる」
ラオウのケンシロウへの態度を見て、黒王は訝しげな様子だった。
自分は虎をケンシロウだと認識しているのに、当の主人が認識してないのだからそれは訝しがるだろう。
「…トキがうぬを探しておった。早く帰れ」
確かに帰るべき時かもしれない。自分を認識しないラオウと一緒に居るのは辛い。
自分をケンシロウと認識しないラオウはただの横暴な男にすぎないからだ。
いや、自分をケンシロウと認識してもそれはそれでラオウが横暴な兄であることには違いない。
しかし認識されているのとされていないのとでは大違いだ。
「…」
またあの距離を歩くのか、とケンシロウは思う。慣れない体であの距離をまた歩くのは辛い。
しかし嘆いても仕方が無いので、扉を開けて小屋を出た。すると、
「ぬ…どうした…黒王」
黒王が後からついてきた。
黒王はケンシロウの脇に立つと、踞んだ。乗れ、という事なのだろうか。
普段黒王は人を乗せるために踞むことなどありえない。いつも人が飛び乗る形になる。
それを自分の為と誤解したラオウが黒王に跨ろうとしたのでそれを黒王は蹴り飛ばした。
とりあえずケンシロウは黒王の上に乗った。馬の背中に虎が乗るとは随分変な状態である。そのまま黒王は母屋まで乗せて行ってくれた。
面白くないのはラオウである。自分とケンシロウにしか背を許さない筈の黒王が何故トキの飼い虎なぞを乗せるのか、理不尽である。
一週間が過ぎた。
ケンシロウは未だ虎のままである。
ラオウが部屋でゲームをしていると、誰かが部屋を開ける気配がした。ケンシロウか、と思う。
ジャギはまずラオウの部屋を開けないし、トキは必ずノックをする。ケンシロウも大抵はノックをするのだが、しない事もある。
だからケンシロウかと思った。
虎だった。
「…」
最近ずっとこうである。ケンシロウか、と期待して、虎であったということの繰り返しである。
虎を無視していると、寝台の上に勝手に飛び乗ってきた。
ケンシロウも時々同じような事をしていたが、虎にされると腹立たしい。ゲームを中断して虎に向き合った。
以前虎を殺そうとしたらトキに止められた事があるので、殺す事はしない。
虎が何か物言いたそうではあるが、生憎ラオウには虎の心情などわかりはしない。
「ケンシロウ…」
ラオウはふとケンシロウの事を思い出して少し寂しくなった。ケンシロウの行方は杳として知れない。
ケンシロウの知人が家を訪ねてきたりしたが、誰一人ケンシロウの行方を知る者はいなかった。
とりあえずケンシロウの友人のレイに八つ当たりしてみた。
更にジャギに八つ当たりしてみたが、それで気が晴れる訳でもない。ケンシロウが出てくる訳でもない。ラオウは孤独を感じていた。
勿論ラオウにとって友と呼べるものは黒王とトキだけだが、やはりケンシロウの有無というのはラオウの日常を大きく左右する。
ラオウにとってケンシロウは友ではないが、やはり弟であり、言うなれば天である。
寂しさ故にラオウは虎を思わず抱き締め、「ケン…」と呟き、力を込めた。
虎が暴れだしたので、ラオウは虎を解放した。この程度で不満を訴えるとは、軟弱な虎である。
ケンシロウならもっと強く抱き締めても大丈夫であるのに。
それにしてもこの虎の振る舞いは腹立たしい。ケンシロウの椅子に座って食事をし、ケンシロウの寝床で寝る。
まるで自分がケンシロウそのものであるかのように振る舞う。実に腹立たしい。
ケンシロウはラオウが何度か自分の名を呟く時、自分に気づいてくれたか?と期待するが、その度に失望する。
「蘭姉ちゃんじゃないんだから…早く気付けよ…」と苛立つ。
確かにラオウは人(動物)の心情については鈍感な所もあるし、無理ないか、と半ば諦めもしている。
それにしても、普段自分を抱き締めるのと同じ強さで今の自分を抱き締めるのはそれはちょっと無いのではないか。
今の自分は普段の自分と比べればそれ程丈夫では無い。やはりラオウは配慮が無いな、と思う。
配慮が無いと言えば、昨日ケンシロウが寝床の上で猫のように丸くなっていた時、ラオウが部屋に勝手に入ってきたかと思うと、
机の上の携帯を勝手に取り上げた。ケンシロウは抵抗したが、メールを見られてしまった。あれは酷い。
大体未読メールを勝手に見てしまえば、メールが既読になってしまうので、
誰かが勝手に見た事がばれてしまうではないか。ラオウはそんな事も知らないのか、気にしないのか。
弟の物は自分の物だと思っているのか。ラオウはいつも横暴だ。
ケンシロウは、自分がこうなった事について、心当たりが無い訳ではないが、
「いくらなんでも…無いよな…」とその考えが浮かぶ度に否定した。まさか人間を虎に変える秘孔などある訳がないではないか。
師父から久しぶりに電話があった。ジャギが先ず電話を取った。
「…親父?」
師父は今週の「まどか☆マギカ」を録画し損ねたので、代わりに一日遅れの地域である我が家で録画してほしいという。この親父は久しぶりに電話をしてきたら、それか、とジャギは思った。呆れていたらトキが電話を代わって欲しいと頼んできた。
「あーもしもし、師父?通販で虎とか買いませんでした?…あーそうですか、わかりました、それじゃ」
「…なんだって?」
「買ってないらしい」
「じゃあこの虎は何なんだよ!」
「私に考えがある」
トキは電話を掛けた。
「もしもし…アミバ?」
「お前が俺を家に呼ぶとは珍しいなあ、何の用だ」
「お前、この前ケンシロウに変な秘孔を突いていただろう」
「変な秘孔では無い、悪酔いを覚まし、気分を良くする秘孔だ」
「ならその逆の秘孔も知っているだろう」
「酔いを悪化させる秘孔か?勿論この天才は既に究明している」
「この虎にその秘孔を突いてくれないか」
「ふぉ〜う、この虎は酔っているのか?」
「…そういう訳ではないが…突いてくれないか?」
「よかろう。虎と言えど秘孔は人間と同じ…ふんっ!!」
アミバが秘孔を突くと同時に虎はぬた打ち回って苦しみ出した。
「ん〜?間違ったかな〜?」
「…間違っていたら私がお前に償いをさせてやる」
そんな事を言っている間に虎は見る見る変化して、見慣れた人物になった。
「…懐かしいなあ、ケンシロウ」
ケンシロウは指を鳴らして、秘孔を突いた。
「残悔積歩拳!!」
「うわらば!!」
「…まああの虎がケンシロウではないかとは思っていたのだが」
「…兄さん、いや、トキ、ならどうしてもっと早くアミバを呼んでくれなかったのだ」
「私もまさか人間が虎になるとは思わなかったし…虎がバターになるのは知っていたが」
「それは絵本の話だろ」
「いや、兄さん…ラオウがいつ気付くかなと思っていたが、全く気付く気配が無く…それでな…」トキとケンシロウは傍に居たラオウを見やった。
「…ふん、とうに見抜いておったわ」嘘つけ、と二人は内心同時に思ったが、それを指摘してもラオウは自分の非を認めないと思うので止めておいた。
「それよりケンシロウ、早く服をきたらどうだ」今のケンシロウはメロスよろしく素裸であったからだ。
部屋に戻って服を着たケンシロウは暫くメールのチェックなどして、友人たちにメールの返信などして自由な身分を満喫した。
その後、ジャギの部屋に行って先週と今週のジャンプを読ませてもらった後、馬小屋に行って黒王に挨拶した。黒王は一瞬驚いたような目付きをしたが、またいつもの黒王に戻った。
虎だった間よくしてくれた事の礼に黒王の世話をして家に戻ると、夕食の時間だったので、久しぶりに箸とスプーンで食事をした。感動的だった。その後久々に自由に風呂に入り、寝ようかと思ったが、その前にラオウの部屋に行った。
ノックをした後返事も聞かず部屋に入った。やはりゲームをしていた。
「ラオウ…」
「ふ…見抜いておったわ…」
いやそれはいいから、と思う間もなくいきなり壁に叩きつけられ、痛い、と思う間もなく口づけされた。
「んぐ…」
暫くそうされていた後、解放されて一息つく。
「…部屋ではできん」
「どうでもよかろう」
「よくない」
確かに一週間以上できなかったのだから、ラオウは今すぐにでもしたい心持なのだろうが、ジャギもトキもいるこの母屋ではしたくない。それは譲れない。
「黒王の所で…」
一々情事の度に小屋を出て行かされる黒王は迷惑だろうとは思うが、仕方が無い。
「どうだってよかろう」
「よくはない。…大体、虎になっている間、ラオウより黒王の方が余程俺に優しかったぞ」
「黒王の方がうぬに優しいのはいつもの事ではないか。俺はうぬに優しくする必要性が無い」
「開き直るな」
結局その後は喧嘩になって部屋の壁が崩壊し、隣の部屋に居たジャギに甚大な被害が出た。
□ STOP ピッ ◇⊂(*´ω`*)
>>295 おもしろかったー!
四兄弟+師父のアットホームさに萌えましたw
あと黒王が素敵w
>>295 ほのぼのした。なんかこうゆるーい感じとネタが好き
間抜け可愛い兄弟w
>>295 またお前かwいろんな意味でGJすぎるwww
>>295 こんなにムチャクチャなのにちゃんとあの絵と声が浮かんで来てしまう
それが余計可笑しい
楽しませていただきました
某CMの上司と部下
部下視点です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
ここ数日、毎日昼時になると俺はとある机に向かう。
一昨日
「おう、暑いからな」
そう言って豪快に冷やし中華にがっついて
タレをシャツにはねさせてしまい、
女子社員に世話を焼かれていた。
…女子社員A、顔近いよもう少し離れなさいって。
昨日
「時間ないからな、」
そう言って幾分残念そうな表情でおにぎりのビニールをひっぱる。
…残念だからって唇を尖らせるのは反則。ダメ。ゼッタイ。
そのおにぎりになりたいとか素で思った自分がいた。
そして今日。
「だいすきだよ…!!」
俺の発言にかぶせ気味になるくらいの勢いで主張された。
その渾身の情熱をコロッケに注がれてしまったのが非常に残念ではあるが
視線はこっちだったのだから良いとしよう。
…ICレコーダーで撮っておけばよかった。
本当は「一緒に食べましょうよ」と誘いたいが
なかなかきっかけが掴めない。
明日こそは頑張ってみよう。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
何故か長すぎエラーが出たのでこれでもかという位短くして
投下してしまいました、すみません。
あの上司役の方の口調がめたらやったら可愛くて萌えました。
ひとりよがりでお目汚しでした。
オリジナル投下させてください。新米兵士と先輩兵士で
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ごめんなさい
何かエラーでまくったのでやめます。。
>304
あのCM見て以来のモヤモヤが解消されたーw
ありがとう!
>>304 GJ。
貴方と一緒にランチ食べたい・正直貴方も食べたい部下、ガンバレ。
短くした結果のその簡潔さが、かえって良い味にもなっとる感じがした
>>304 あの上司と部下は何かあると思ってたんだよ!
CMのようなスピーディーな展開でGJでした!
>>304 say-you!!!
部下可愛いし上司も可愛いよ!
いつかまるっと食べられる日がくるといいねえ部下
>>304 うおおおお、貴女のおかげで新しい萌えが見出だせた…!!
今度からあのCM見る度にニヤついてしまいそうだww
GJでした!
番ガードからモブにナンパされてるところに櫂と三和が通りかかるイメージ
ベタだけど漫画1巻の対ミサキ戦での正義の味方参上!的二人の登場シーンが忘れられなくて
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
313 :
ナンパ1/3:2011/05/10(火) 16:45:30.23 ID:arL/DY/Q0
小さい頃から妹のエミと並ぶたびに「よく似た可愛い兄妹ね」と言われることが度々あった。
時には姉妹と間違えられることもあってその度お母さんが苦笑しながら訂正していたのを覚えている。
小学生の時にいじめらた時も「女みてー」と言われた事があって何となく自分の顔が男らしくないのかなとは自覚していた。
でもさすがにスカートを履いているわけでもないのに女の子に間違えられたのは初めての経験だった。
「君暇してるの?一緒にどっかいかない」
「ここらへんに住んでるの?可愛いね」
公園の噴水の横にぼんやり座っていたところにいきなり知らない二人の男に話しかけられて、
アイチは唐突にイメージの世界から引き戻されびっくりして目を瞬かせた。
「あの、えっと…?」
「あ、びっくりさせてごめんね。俺たち怪しい奴じゃないから」
「そーそー、暇でぶらぶらしてたところに可愛い子がいたから一緒に遊ぼうと思って」
いや十分怪しいんですけど…ひょっとしてこの人達、僕を女の子だと勘違いしてるのかな…
鈍いアイチにもさすがに今の状況が何となく飲み込めた。
今日は多少暖かかったのでいつもの上着を着ずに、タートルネックのシャツとズボンだけだったので
確かに見ようによっては女の子の服装に見えないこともないかもしれない。
それにしても服装だけでそんなに女の子に見えるのかな…
内心密かに落ち込みながらアイチは立ち上がった。
「ご、ごめんなさい、今から行くところがあって。それに僕男なので…」
自分で性別を名乗らなければいけない情け無さと相手の勘違いを指摘する気まずさで
俯いたままぼそぼそとそう言いその場から去ろうとしたアイチの足は、しかし前に立ちはだかった男のせいで再び止まった。
「またまたー冗談ばっかり」
「そんなこと言わないで、ちょっとカラオケに付き合ってくれるだけでいいからさー」
二人の男に囲まれると中3にしては小柄なアイチの体では二人を見上げる格好になってしまい覚えずアイチの足がすくむ。
足を止めたアイチに気をよくしたのか、男の一人がアイチの肩に手を回した。
314 :
ナンパ2/3:2011/05/10(火) 16:46:28.24 ID:arL/DY/Q0
「おごるから一緒にいこ…「おい、ちょっとまて」「ちょーっとまった!」
聞き慣れた声とともにアイチの肩の上の手が消え、強い力で後ろに引っ張られる。
たたらを踏んで新たに現れた人物の後ろに回されたアイチは振り返ってぱっと顔を輝かせた。
「櫂くん!三和くん!」
アイチの声に三和がちょっと振り返って「正義の味方参上、なんてね」とささやいてウインクし
櫂は振り向くわりに引っ張ったアイチの手に少し力を込める。
「こいつは俺たちの連れなんだがどこに連れていくつもりだ」
眼光鋭い櫂の視線に男達は一瞬ひるんだが、櫂達の明らかに高校生と思われる制服を見て
与し易しと思ったのか多少引きつった笑みを浮かべた。
「おいおい、俺たちはちょっとその子と遊ぼうと思っただけじゃねーか」
「ちょっとカラオケ行って食事おごってやろうという大人の親切心だぜ」
再びアイチに手を伸ばそうとした男に、櫂は更に険しい顔になって一歩前に踏み出す。
その時一触即発の空気に割り込むかのように、三和が大きな声で男達に声をかけた。
「あーお兄さん達に言っとくけど、もうさっき警察に電話したから、『公園で小さな女の子を男の人達が
無理やり連れ去ろうとしてます』ってね。
もうそろそろおまわりさんが来るんじゃないかな、あ、来たかも、おまわりさーん!こっちこっち!!」
大声で公園の入口に向かって叫んだ三和に二人はぎょっとした顔になった。
さすがに警察が来てこの状況を見れば男達が不利になるのは明らかである。
覚えてろとかクソガキがとか小さく呟いて足早に去っていく二人の後ろ姿を睨みつけた櫂と、
誰が覚えてやるかと舌を出した三和は、男達の姿が視界の向こうに消え去ったのを確認してアイチを振り返った。
「ごめんねっ!櫂くん三和くん」
「別に」「悪いのはあいつらなんだからアイチは気にするなって」
三和がアイチの頭を抱え込んでわしゃわしゃと多少乱暴に頭を撫でられて
二人を巻き込んでしまったと青くなってこわばっていたアイチの顔にもやっと少し色が戻る。
「あ、警察の人は…」
「そんなのくるわけないだろ、はったりだよはったり。ああ言えば一番穏便に退散してくれると思ってさ。」
アイチの頭を撫でながらいたずらっぽい笑みを浮かべた三和に思わずアイチもつられて顔がほころぶ。
315 :
ナンパ3/3:2011/05/10(火) 16:47:29.93 ID:arL/DY/Q0
いつもカードキャピタルに集まる面子の中でも、三和は一番頼りにされているムードメーカーのような存在だ。
それは一歳年上だからとか言うことではなく、いつも陽気で笑っていて、そのくせカードキャピタルで
誰が悩んでいたり落ち込んでいたりしていると「なーに考え事してんだ?」とさりげなく声をかけたりするところが
皆から好かれているのだと思う。
そんな彼に「もう大丈夫だぞ」と頭をなでられると、いじめられていた昔のように冷たく
氷を飲んだように萎縮していた気持ちが軽くなっていくのを感じた。
アイチの顔色が戻ったのを確認した三和の腕からやっと開放されると、櫂がポケットに手を突っ込んだままアイチに声をかけた。
「あいつらに何もされなかったか」
まだ若干険しさが残った視線で上から下まで見られ、アイチは慌てて首を縦に振る。
「う、うん何もされてないよ。」
「…ならいい」
視線から鋭さが消え、一瞬櫂にしては珍しく優しいと言っていい視線に見つめられアイチは思わず赤面した。
アイチが小さい頃、どんなにいじめられても、学校に行くのが苦しくても手を差し伸べてくれる者など周囲に誰もいなかった。
そんな時唯一ブラスターブレードという手を差し伸べてくれた人もすぐにアイチの前から去ってしまい
それからは彼の残したカードだけを支えにして、苦しく色のない学校生活に耐えてきた。
帰ってきた櫂は4年前とは一見ずいぶん変わっていて、あまりにそっけない態度に
時々不安に思うこともなくはないけれど、でもこんな時は昔と変わらない優しさを感じる。
「ありがとう…櫂くん、三和くん、なんか」
なんか二人とも表に出る形は違うけれどもどちらもとても優しくて、まるで
「うん?」「…?」
「なんか櫂くんと三和くんってまるでお兄ちゃんみたいだなって」
赤面してそう言ったアイチは、眉をしかめて何とも言えない微妙な表情になった櫂と
その横で爆笑する三和にきょとんとする羽目になった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ベッタベタネタでサーセン
虎&兎の兎→虎です。
うちの虎さんは枕とは無縁の純粋なおじさんです。
まだ何もはじまっていない二人です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
あのおじさんは無意識に無自覚に、ちょっと普通じゃない。
なのに、まったくわかっていない。
自分がどう思われてるかなんて一切気にしないみたいだ。
今までどうやって生きてきたんだろう。
僕が居なかったらこの人、どうなっちゃうんだろう。
「ばーか!相棒残して一人で逃げるほど落ちぶれちゃいねぇよ」
足手まといになるくらいなら居ない方がマシだと思ったのに。
人を勝手に相棒呼ばわりして、あの人は爆弾を持った僕の傍を離れなかった。
僕たちはヒーロー初のコンビという事で話題になるよう仕向けられたビジネス上の関係だ。
だけど会社からはなるべく一緒に居るように言われている。
だからか、彼はトレーニングもしないのにトレーニングルームに来て、
僕が走っているランニングマシーンの隣で寝転がりながらどうでもいい話をしてくる。
一応相手にするけど、くだらなすぎて適当にあしらっている。
するとほどなくしてスースー寝息が聞こえてくる。
見れば、今敵が来たら完全に終わりだと断言できるくらい無防備にだらしなく寝ている。
邪魔されるくらいなら寝ていてくれてた方がいいから放っておくけれど、お腹くらいは隠してほしい。
僕たちは友達でもなんでもない。
「バニーちゃん、飯食ったのか?」
なんてプライベートな心配までされても困る。おまけに変なあだ名までつけて。
必要以上の干渉はやめてほしい。お節介なんですよ。
能力は僕とまったく同じなのに、性格は正反対と言っていい。
彼は要領が悪くて計算もしない。
その上発言がおかしいし、考え無しに動くし、出会った時なんかあと少しで死んでいた。
「俺たちこう見えて似た者同士なんですよ」
用意されたセリフを大げさに読み上げる彼を、トレーニングに没頭するフリをして見ていた。
一緒にしないでほしい。僕はあんなに無防備じゃない。
僕が彼のような人間と組んでなんのメリットがあるんだろう。
逆効果にしか思えない。僕は彼と居るとどうもペースが狂ってしまう。
自分の事だけ考えていたいのに、彼があまりにも勝手過ぎてつい目で追ってしまう。
デメリットな部分ばかり見えるからついイライラする。
イライラさせられる事にもイライラして、
つまらない言いあいに乗ってしまって時間を無駄にしたりする。
僕らしくない。
本当はすぐにでも切り捨てたい所だけど、会社の言う事には従うつもりだ。仕事ですから。
僕にはこの仕事を続ける目的がある。なるべく多くの人に名前や顔を見せる必要がある。
そのためにはもっと上に行かなければならない。
彼が勝手に堕ちていくだけならいいけど、このままでは組まされた僕まで共倒れだ。
余計な心配事は増える一方だし、携帯を開けばおじさんの変な顔の待ち受けになってるし。
なんだこれ。なんだこれ。
ずっとどうしようか考えてたけど、やっぱり電話するしかない。
別に明日でもいけど、何度か見ているうちに無性に腹が立ってきた。
こんなくだらない事で僕の時間を奪ったこと、一生忘れません、と言うつもりでかけたのに。
「変な奴に襲われてるんだ!」
ああほらまた。
だからおじさんは、なんでいつもそうなんですか。
なんだろう、胸がモヤモヤする。
どうせ嘘だろう。この間も結局くだらないバースデーサプライズとかだったし…
後からブルーローズに聞いたけど、「プレゼントは俺」とか言ってたそうじゃないですか。
考えられない。どこのおじさんがそんな事を言うんですか。
どういうつもりで言ってるんですか。
僕が喜ぶとでも思ったんですか?思ったなら、何故そう思ったのか聞きたい。
まぁどうせ、あなたの事だから何も考えてないんでしょうけど。
やってられない。
で?まさか本当に襲われてるんじゃないだろうな…。
「お前、そういうの疲れない?」
出会って二週間の時にそんな風に言われた。
「べつに。全て仕事ですから。」
呆れたような顔をしていた。
呆れているのはこっちだ。
何も考えずに済むおじさんは疲れも無くていいでしょうね。
彼は思った事が口にも顔にも出る。
よく言えば、裏表の無い人間。
悪く言えば、ただの脳の無い人間。
そんな事だから敵を逃がすし、チャンスも掴まない。要するに甘い。
疲れる?僕が何年こうして生きてきたと思っているんですか?
あなたが僕の一体何を知っているんですか?
何も知らないはずだ。
僕は大概の事は笑って済ませられる。
楽だし、だいいち他人に興味が無い。
他人の言動で心を動かす事など、有り得ない。
それなのに。
彼の前では何故かそれができない。
結局本当に襲われてたし、何故かファイヤーエンブレムと一緒に居るし、
「さっきは添い寝してあげるって言ってたじゃないか」
ほら。笑って済ませるなんて、全然できない。
おじさん。その人は「そういう」人だと思うんですけど。
「そういう」人が添い寝って言ったら、あなたどうなっちゃうかわかってるんですか?
なんで僕がおじさんの心配までしなくちゃいけないんですか。
勝手に人の時間を潰しておいて、何もわかってない。
そんなに危なっかしいなら、ずっと僕の傍にでもいればいいじゃないですか。
…いられても困るけど。
なんで一人でデビューさせてくれなかったんだろう。
僕は今までずっと一人で生きてきたのに。
今だって一人だ。
そして、これからも、一人なんだ。
なんで僕の前に現れたのがおじさんだったんだろう。
この人じゃなければこんな余計な事考えなくて済んだのに。
放っておいたらどこへ行って何を壊すかわからない、
勝手に飛び出して、すぐに僕の傍から離れていく。
こんな人とはもうやっていけない。
「…ああもう、面倒臭い。」
「どうしたバニー?」
「別に!あなたに言ったってどうにもなりません。」
「ほんっとにお前かわいくないなぁ!…うさぎのくせに」
「…は?」
言わせておけばいい、こんな他愛もない事。
なのに、なんでだろう。こんなにも心がざわつく。
腹が立って腹が立ってしょうがない。
「だいたいあなたは詰めが甘いんですよ全てにおいて!」
「な、なんでそんなに怒ってんだぁ?いきなり。」
驚いたような、悔しいような顔をするおじさんに真顔で近付くと、途端に弱々しい態度になる。
これがいけない。
こうやってすぐ顔に出る所が、おじさんの悪い所だ。
座ってヘラヘラしていたおじさんを上から見下ろせば、泣きそうな顔をする。
ワイルドタイガー?これじゃ、耳を伏せて怯える猫だ。
「…失礼します!ここに居ても時間の無駄みたいなので。」
「あ、おいバニー!バニーちゃ〜ん?」
何もわかってない。
最近、バニーって言われたら普通に振り向いてる自分に気づく。
僕はバニーじゃない。バーナビーだ!
本当に腹が立つ。
携帯を開けばまたあのおじさんの変な顔が現れた。
ああ、腹が立つ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ツンデレ可愛いなぁ。GJ!!
読めて嬉しいなあ
ありがとう!
兎さんかわいいなあGJ
実はこれが虎と兎で二次初読みなんだけど
兎さん一人称視点の場合は「俺」だと思ってたw
蛙軍曹の黄緑前提の緑黄です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
日向家、ケロロの自室。ベッドの上に、黄色と緑。
何をするでもなくだらだらと時間を過ごしていた。
不意に、緑――ケロロが、眺めていた雑誌をベッドの下に放り出した。ちらりと横を見やると、黄色、ことクルルも何がしかの作業を終えたのか、端末を閉じ、転送したところだった。
お互いに手が空き、ふと視線がかち合う。
先に行動を起こしたのはケロロだった。徐にクルルの肩に触れ、柔く押し倒していく。
布団に倒され組み敷かれる形になっても、クルルは動かない。
「……随分余裕でありますな」
「積極的なのは、まあ嫌いじゃあねぇからな」
「あのね、そりゃ普段受け身なのはこっちだけどさ、我が輩これでもオトコノコだしぃ、それにクルルよりもオトナでありますよ? 危機感とか無いわけ?」
くつくつと、常よりの不適な笑みを崩さないまま、クルルはケロロの首に腕を回し、引き寄せる。
「構わねえよ、隊長。……あんたの好きにしろ、全部」
耳元で囁かれた、確かな熱を持った言葉に舌打ちで返したケロロは、乱暴にクルルの眼鏡を剥ぎ取った。
・・・
その後、乱れたベッドの上、眠りこけるケロロに背を向けたクルルは頭を抱えていた。
正直、甘く見ていたのだ。ケロロがそこそこに場慣れしているのは分かっている。しかし、自分もそれなりだという自負もあり、ある程度高を括っていたのである。
結果、玉砕。
最初のうちの余裕など早々に取り払われ散々に翻弄されつくし、挙げ句の果てに軽く記憶と意識を飛ばした。
目が覚めたばかりの頭、それでもおぼろげに浮かぶ己の醜態に、人知れず悶絶する事となった。
――このオッサン、どこまで読めねえんだ……!
クルルは能天気に眠るケロロを忌々しげに睨みつけ、布団にもぐり込む。
ベッドのぎりぎりまでケロロを押しやり、もう一度眠りについた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
とにかく黄色と緑が好き。
どっちが上でもいいからワンセットで!
>>327 黄緑リバktkr!
普段は攻めの黄色が気まぐれで受けに回ってみたら予想外に凄かったでござるの巻きw
面白かったーGJ!
>>326 萌えた!!!緑黄リバ凄くいい…!
緑に翻弄されちゃう黄に萌えました!
姐さん有難う御座いました!
>>304 うわあああ萌えてたのわたしだけじゃなかったあああ
若干遅レスだけど姐さんありがとうまじありがとう
ぜひ長いver.も読みたい!
神様のメモ帳 四代目×ナルミです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
以前、雇い主である幼い少女は
ナルミは四代目の眼を直視できる数少ない人間だと称した。
特に意図的にそうしていたわけではないのだけれど
四代目の眼を見ること自体に抵抗はなかった。
……別に、眼を逸らしたら野犬よろしく
襲いかかられそうだと思っているわけではない。
今日も今日とて、平坂組事務所に呼び出されナルミは、そんなことをぼんやりと考えながら
組員曰く「急に画面が青くなったっス!」状態なパソコンの復帰に努めていた。
「直るか」
「直りますよ。ついでに、またアップデートしときますね」
「ああ」
どうしてこんな単純なことが、これだけ人数のいる
平坂組の誰もが出来ないのだろうと、思いはしたが口には出さなかった。
それくらいの分別はある。
「園芸部。全部口に出てるからな」
「は!」
呆れ果てたような四代目の言葉に慌てて振り返れば、
いつもの狼の眼が眇められている。
怒っていると言うよりは、やはりその声色通り呆れているのだろう。
すみません、と謝るのも憚られるし
とりあえず、誤魔化すようにへらりと笑ってみると、四代目が片眉を器用に上げる。
そういう仕草が様になると、何とはなしに眺めていると
四代目も負けじと食い入るように見つめてくる。
元より互いに口数が多い方ではないが、こうして無言の中
ただ互いに見つめ合うのもおかしな話だ。
まさか四代目こそ、眼を先に逸らした方が負けなどと
野生の狼のようなことを考えているわけでもないだろうに。
「……どうしたんですか?」
流石に訝しく思い、そう訊ねるも返事はない。
その視線だけは逸らさずに、四代目が立ち上がりゆっくりと歩み寄ってくる。
その眼を見つめ続けている以上
自然、仰向けてしまう首が疲れるな、などと思っていると
ちょうど目の前で立ち止まった四代目が身を屈める。
やはり視線は、逸らさない。
徐々に近くなる狼の双眸に焦点が合わなくなる。途端。
「……」
何か柔らかくて、少しかさついたものが、自分の口に押しつけられた感触。
それを計りかねて、ただ目を瞬かせていると、僅かばかり距離を取られたおかげで
ほんの少しだけ見えるようになった四代目が、覿面に顔を顰めているのが分かった。
「……目くらい瞑れねえのか」
不機嫌そうな表情で、不機嫌そうにそう呟かれ、反射的にぎゅっと目を瞑る。
「…………」
思わずそうしてしまってから気づく。
おかしくないか。
その前に、今、自分は、何をされた?
「いや、ちょ……!」
再び目を開き、抗議のために口まで開けたのが悪かった。
「……っ!」
間抜けにも開きっぱなしだった口唇は、同じように開いた四代目の口唇に
発しようとしたその言葉ごと食らわれる。
狼に噛まれた。
口づけなんて、そんなロマンチックなものじゃない。
これは捕食だ。
がぶり、がぶりと角度を変えて、
食い散らかすそれは、まさに狼そのもの。
あまりのことに、抵抗すら忘れた。
それが、どれほど長い時間だったのか
或いは一瞬のことだったのか、判然としない。
気づけば狼は食事を止め、いつもの通りの泰然とした様子で、こちらを眺めている。
「――おい、園芸部」
声をかけられ、不自然なほどに体が跳ねた。
そうして一瞬後、一気に体が熱くなる。
絶対にあり得ないと脳が理解を拒否しようとするが
口唇に残る感触と、口腔に残る自分以外の唾液の味がそれを許さない。
熱い。頭も、顔も。
きっと今、自分の顔は、幼くも聡明な探偵が愛する
あの毒々しい飲み物の容器のような色をしているに違いない。
「し……しつれい、します!」
椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、部屋を飛び出る。
「あれ?兄貴、もうお帰りで?」
「お疲れっした!」
後ろも見ずに事務所を飛び出す途中、電柱たちに
暢気な声をかけられたような気もするが
それに応える余裕などあるはずもない。
ただただ、その場から逃げて
そして、慣れ親しんだあの場所に帰ることだけで頭がいっぱいだった。
「アリス!」
「な、なんだ!」
だから、そこに到着するなり
ノックなどという人としての礼儀などかなぐり捨てて扉を開け、部屋に飛び込んだのだ。
突然、飛び込んできた人物に
その部屋の主は長い黒髪を跳ねさせて弾かれたように振り返った。
主の驚愕に呼応するように、ベッドの上の
彼女の半身達が、数匹ころころと転がり落ちる。
「四代目が……っ」
「お、落ち着け、ナルミ!四代目がどうしたというんだい?」
「四代目が、僕にキ……」
「……き?」
そこまで口にして、はたと気づく。
たった今起こった、衝撃的且つ非現実的な事象を
この年端もいかない少女に話してどうするのか。
いくら混乱しているからとはいえ
そして、四代目の不可解な行為の謎を、一人では抱えきれないからとはいえ
流石にそれは、どうなんだ。
そう考えるだけの冷静さを取り戻した途端、
アリスに縋ろうとした自分の行動が、急に恥ずかしくなる。
「……いや、何でもない。何でもなかった」
「待て、ナルミ!どう考えても今のは何でもなくはないだろう!」
「いや、本当に何でもないんだ!」
「今のきみはさながら、餓狼の牙より這々の体で逃げ出した
哀れなヘラジカの如き有様だぞ!」
「な、なんでそれを?!」
「そうなのか?!」
しまったと思うが、それでもやはり言えない。
言えば或いは、アリスのその明晰な頭脳によって
何らかの回答を得られるかもしれないと分かっていても。
どうして言えるだろうか。
まさしく狼の牙の餌食になったなんて。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナルミ視点の為、四代目が物凄く手慣れて冷静なように見えますが
ナルミが帰った後の四代目は、きっとジタバタしてるはず。
お目汚し失礼しました。
初投下失礼します。
半生注意。洋画「印背ぷしょん」古部?×亜ー差ー
夢の中でエロあり。改行おかしかったらすみません。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
古部は彼女に囚われている。その想いで俺達を危険に晒してしまうほどに。
夜中に何度か機械に繋がって眠っているのを目にしたが、きっと彼女に会いに行っているんだろう。
今でも彼女を深く愛しているのは、誰が見ても明らかだ。
そのせいで任務中に彼女の”影”が俺達の邪魔をする。彼女に傷付けられたこともある。
正直、古部は彼女を失って以来完璧に任務をこなせる状態にまで戻れていないのだ。
だが俺は、古部を咎めることができない。
もう二度と会えない人に会いたいと望むことを止める権利なんて誰にもない。
それに、どうやったら彼を立ち直らせられるかもわからない。
彼女の代わりなんているはずもない。
俺達のためにも、何より古部自身のためにも、なんとかこの状況を
変えなければならないのはわかっている。彼もそう感じていると思う。
だが結局誰も解決策など見つけられないまま、時間だけが過ぎていく。
そして俺が選んだのは、おそらく彼と同じ――いや、彼よりも利己的にすぎる答え。
「……情けないな、俺も」
そう自嘲し、俺は自分が使っているスペースに戻った。
身体を横たえられるサイズの長椅子に腰掛け、機械から伸びる
チューブを手首に繋ぐと間もなく鎮静剤が回ってくる。
やがて瞼が重くなり、深く長い夢の世界へと落ちていく。
そう、俺がどれだけ古部のせいで危険な目に遭っても何も言えずにいるのは。
「良い夢を……」
俺が彼に許されない感情を抱いているからだ。
■■■
俺の夢、俺の潜在意識。登場人物は、皆俺の意識の投影だ。
「亜ー差ー」
古部は柔らかな笑顔で俺を迎え入れる。こんなに穏やかな表情は、現実ではもう久しく見ていない。
常に何かに追われ、追い詰められ、出口の見えない迷路の中で苦しんでいる。
その苦しみから彼を解放してやれるのは俺じゃない。
「亜ー差ー、どうしたんだ?」
「あぁ…何でもない」
立ち尽くしていた俺は小さく笑顔を返し、古部に歩み寄った。
舞台は以前ミッションに使ったホテルの一室。
どこにでもあるような、だが現実には存在しない空間だ。
少し大きめのベッドが二つ並んでいて、その一方に古部が座っていた。
「おいで」
彼は立ち上がり俺を抱き寄せる。夢だとはいえ、姿形はもちろん声も仕種も
いつもつけている香水の匂いまで現実の古部と何ら変わらない。
寸分違わず再現できるほど、俺が彼に執着しているからだ。
その肩に顔を埋めて彼の匂いを感じながら腕を回す。
「……あぁ、古部…」
体温も感触もこんなにリアルなのに、これは現実じゃない。
それは空しいことだが、心のどこかで安心もしていた。
夢の中の出来事の証拠など何も残らない。例え何をしても、何をされても。
俺の呼び掛けに応じるように古部がゆっくりと俺をベッドに押し倒す。
お互いに相手の服を脱がせながら気持ちを昂らせていく。
そして彼は、いつも熱の籠った視線と共にこう囁く。
「愛してるよ……亜ー差ー」
それは俺が一番聞きたくて、絶対に聞きたくない言葉。
嬉しさと惨めさが入り混じって泣きそうになりながら俺は彼の身体に手を伸ばした。
古部の指や唇がゆっくりと俺の身体を這う。その動きや帯びた熱に翻弄される。
この世界の形を保てなくなりそうなほど古部の存在だけが心を占めていく。
「ぁ…っ!」
不意に古部が口に銜えた俺のモノを吸い上げ、上擦った声と共に身体が揺れた。
声を出してしまったことを恥じた俺は手の甲で口を押さえ、少し落ち着こうと大きく息を吐く。
だがそんな様子に気付き、古部はもっと強い刺激を与えるように動きを速めた。
深く銜え込まれたかと思うと、舌で先端の方ばかりを責め立てる。
その間も彼の手は俺の内腿を触れるか触れないかくらいの絶妙な加減で撫で回す。
くすぐったいような感覚に、ますます体温は上がっていく。
「ふ……!ぁ、う…っっ!」
「っは………亜ー差ー、どうして声を堪えるんだ?」
俺のモノを一旦解放し、顔を上げた古部が訊いてくる。口を塞いだ手を退けられ頬に彼の手が重ねられた。
「あ、まり…聞かれたくない…」
「どうして。いい声をしてるのに」
そう言って頬を撫でながら身を乗り出す。
俺は恥ずかしくて顔を背けたように装って彼からのキスを頬で受け止めた。
普通なら当たり前に行われるであろうことを拒むことでこれは現実じゃないと自分に言い聞かせるためだ。
それにキスなんて欲しくない。古部が俺にキスするはずがないからだ。
古部には愛する人がいる。いなくなってしまっても忘れられずに苦しんでいるくらい愛した人が。
そんな男が俺に愛を囁いたりなんてするはずがない。
だが、ここは夢だ。俺の夢。俺が作った世界。
共有していない限りここで何をしてるかは誰にもわからないんだから好きにすればいいのに、と井ー蒸なら言うだろう。
確かにその通りだ。だけど俺にはそれができない。
俺を好きになる古部なんて古部じゃない。俺が好きになったのはそんな人間じゃない。
古部が俺を好きになるなんてあり得ない。絶対にだ。
そう頭ではわかっている。だけど心はそうはいかなかった。
彼に触れてほしい。
彼に抱き締めてほしい。
彼と一緒にいたい。
彼を感じていたい。
彼が、欲しくて欲しくて堪らない。
だから俺はこうして夢の世界に逃げる。
あり得ない古部の虚像を作り上げて、どうにもならない劣情をそんな彼に抱かれることで消化しようとする。
バカみたいに手間をかけた自慰行為。嬉しくて、切なくて、空しくて、惨めな自己満足。
目が覚めた時に感じるのは押し潰されそうなほどの罪悪感と結局何も起こらなかったのだという落胆、そして少しの安堵。
感情が昂ったまま、時に泣きながら目を覚ます度に考える。俺がこんな行為から抜け出せる日は来るのだろうか、と。
あまりハマりすぎるとミッションに支障をきたしかねない。
それこそ古部のように――…
「ぅあっ…!!」
突然の刺激に思考が引き戻される。いつの間にか彼の指が俺の中に入ってきていた。
内側を探られる感覚に耐えられず、かろうじて身体に纏わりついていたシャツを噛んで声を殺そうとする。だがそれも無駄な抵抗だ。
「ん、う……っはぁ、あ…っ!」
彼の指は的確に弱い所を探り当てる。俺の意識の投影なんだから当然だ。俺がしてほしいと思うように彼は行動するのだ。
「っく……ぁ、あっ!?」
だが、さっきから俺が期待するのとは違うリズムでの刺激が続いている。
いつもなら時間をかけて徐々に身体を慣らしていくのだが、今日は少し急いているような気がする。
確かに、今日はあまり余裕がない中で潜っているから心のどこかで焦っているのかもしれない。
――ここにずっといられればいいのに。何も考えず、ただこうしていられたら――…
ふと考えて、自分の女々しさに嫌気がさした。こんな無意味なことに溺れてどうする。
だがこうしているとついそう考えてしまう。快楽に浸っているとそれ以外考えられなくなる。
「あ……んっ、はあ…っ」
掻き回される快感に滲んできた涙が目尻に溜まる。それを拭うように伸びてきた指に少し驚いて目を開けた。
「……?」
「亜ー差ー」
そこにはいつもと違って真剣な顔をした古部がいた。いつもなら穏やかに微笑んでいるだけなのに。
「俺を見ろ」
「え…」
「俺のことを考えろ」
こんなことを言われたことはない。言われるまでもなく彼のことしか考えていない。
「なに、を」
「俺はお前しか見てないのに」
「っ!?」
古部の顔をした彼は言う。古部が、俺のことを?
違う。彼は投影だ。俺がそうしてほしいと望んでいるから、その通りに話しているだけだ。
彼は違う。
「なぁ亜ー差ー」
これは彼じゃない。
「俺を見ろよ」
やめてくれ。もう何も言うな。
「亜ー差ー」
「…止めろ…」
「どうして」
これ以上俺を惑わすな。自惚れさせるな。これは夢だ。そうわかっていても、心が期待してしまう。だから。
「止めてくれ。頼むから…」
「それはできない」
そう言って彼が顔を近づけてくる。さっきと同じように顔を背けようとしたが、今度は彼の手がそれを許さなかった。
ゆっくりと唇が重なる。お互いの体温が触れる。その瞬間、心の奥に秘めていた感情が一気に溢れ出した。
「あぁ……!!」
俺は堪え切れず彼を強く抱き締めた。口を少し開けると彼の舌が滑り込んでくる。
自分の舌を絡め取られ、唇を啄まれ、唾液が溢れそうなほどのキスを交わす。息もできなくなりそうなくらい俺は夢中で彼を貪った。
本当はずっとこうしたかった。膨らみ続けた想いは、とうとうこんな夢を見せるまでに成長していたのだ。
「はぁ…は……っ古部…!古部…っ」
「…亜ー差ー…!」
「抱いてくれ……もっと強くっ…!」
さっきとは違う感情の涙が溢れ出す。心臓が痛いくらい脈打っている。
俺は泣きながら彼にしがみ付いた。その懇願に応えるように彼の腕が俺の背中を優しく撫でる。
「抱いてやるよ…お前が望むだけ、何度でも抱いてやる」
「古部っ…!」
再びキスが落とされ、俺はベッドに縫い付けられる。
両手を頭上で固定され、彼の身体がほんの少し離れるだけで俺は行かないでくれと泣いた。
彼はどこにも行かないと俺を宥め、ゆっくりと俺の中に自身を飲み込ませていった。
「あ、ぁあう…っ!!」
押し入ってくる質量に仰け反ると身体がよりベッドに沈んだ。いつもこうしてたはずなのにいつもより熱く感じられて、過度の興奮と少しの恐怖に呼吸が速まる。
胸が痛い。苦しい。怖い。
「はっ、はぁっ……嫌だ、いや…っ」
「亜ー差ー…大丈夫だ。俺を見ろ」
「いやだ…もういやだ……!」
一気に色んな感情に襲われパニックを起こしかける俺に彼は何度も言い聞かせる。
「大丈夫だ。何も怖いことなんてない」
「助けて……助けてくれ…っ、もう……!」
もう耐えられない。感情の大きさに、強さに、重さに。
「ふっ、俺…は、お前の…こと、が……っ!」
「……言わなくていい」
「っぅあっ!!」
まるで俺の言葉を遮るように突然突き上げが始まった。衝撃に身体を跳ねさせながら俺は声を上げる。
「知ってるよ…お前の気持ちは」
「あっ!や、やめっ…!!」
初めて感じるような満たされる感覚。同時にまだ足りない、もっと欲しいと渇望する心。
俺は泣きじゃくりながら彼の激しい律動を受け止める。自分でも信じられないような姿を晒していた。
「…っ古部、んんっ、は……古部…っ!!」
「………っ」
「も……だめ、だ…っ!イく、っあ!イっ……!!」
きちんとセットされていたはずの髪を振り乱し、がくがくと身体を震わせる。彼は拘束していた手を離して俺を抱き抱え、最奥まで届くように深く腰を打ち付けた。
「ぁあっ!!っや、あっ!――――っっ!!!」
「亜ー差ーっ…!!」
思わずしがみ付いた彼の背中に爪を立て、大きく身体を反らせながら俺は達した。受け入れているソコが強く収縮を繰り返し、やがて彼も息を詰まらせ熱を放った。
タガが外れてしまっていた俺はそれだけでは満足できず、何度も彼に止めないでくれとせがんだ。もっと抱いて。もっと満たして。もっと壊して、と。
いくら絶頂を迎えても足りない。むしろその度に彼をより強く求めてしまう。涙も声も枯れ果てて、身体に力が入らなくなっても彼を離さなかった。
世界の形が歪んでいたのは涙のせいか、それとも形を保てなくなるほど彼しか見ていなかったからか。まるで二人の身体が一つになったような錯覚を覚えながら俺は意識を手放した。
■■■
支援
プシュー…と機械が排気する音に目を覚ます。時計を見ると、潜ってから3時間は過ぎていた。
何て夢だ。あんな夢を見るなんて。いつもより罪悪感が重い。底なしの自己嫌悪に涙すら滲んでくる。
俺は古部になんてことを…夢とはいえあんなことをさせてしまった。惨めな自己満足のためだけに。
しばらく彼の顔をまともに見られないかもしれない。大事なミッションが控えているのに。
あまりの情けなさに手で顔を覆った時、ふと身体の異常に気が付いた。俺のモノが明らかに熱を持っている。
いつもよりかなり強い快楽にずっと脳を晒していたせいか、現実の身体にまで影響を及ぼしてしまったらしい。
……いいザマだ。つくづく自分の愚かさに嘲笑しながら機械を片付けようと身体を起こした瞬間、全身が一気に凍り付いた。
機械からチューブがもう一本伸びている。そのチューブの行き先を目で辿り、そして答えを知った俺は愕然とした。
その先に繋がっていたのは井ー蒸だった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
これって最初のカプ説明詐欺になりますか?
あくまでも致してる二人の見た目はカプ説明通りなんですが…悩んだ結果あのような書き方をしてしまいました。
改行大杉と怒られたのでかなり読みにくいかとも思います。
不快になった方がいらしたら申し訳ありません。
向光性レス虎ン
岸乃×邑木←酒本風味。鯖ブチョーもちょっとだけ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
部長の仲村はいい奴だと思う。
真面目で、優しくて、責任感も強くて。
だけどたまに読めない。異常なくらい空気が読めない。行動も読めない。だから、
「あれ?あそこにいるの岸乃さんとちゃうか?」
レストランからの帰り道、少し遠目の海辺の堤防にその人影を見つけた時、自分はマズイと思った。
直感だった。確かにあの影の輪郭は岸乃さんだ。そしてここからでは微妙に死角になる隣りにいるのはきっと…
わかったから下手に声をかけるのはよそうと言いたかった。
しかしそんな自分の思惑よりも仲村の行動は一瞬早かった。
「岸乃さーん!何しとるんですかー?」
「…………」
呼びかけた声にその人が振り返ったのが見えた。それに仲村は言う。
「あぁ、やっぱり岸乃さんや。ちょっと行ってみよ、酒本。」
「…………」
こうなってはUターンすることも出来ない。
だから「あぁ」と小さくつぶやいて、自分は前を行く仲村の後について行くしかなかった。
「あれ?邑木先生やん。」
そばまで近づいて、仲村の口からその名前を聞いた時、自分はやっぱりと内心小さくため息をつく。
こんな時間、こんな場所にこの人といるとしたら先生しかおらんやろ。
しかしそんな自分の声にならないツッコミをよそに、仲村はあっけらかんと先を続ける。
「隣りに誰かいるように見えた時は彼女かと思ったのになぁ。」
ある意味とても思春期らしい男子校生の言葉に、言われた岸乃は「なんやそれ」と明るく返してくる。
子供相手にも居丈高な態度は取らない。
役場の人間で、町興しのレストランの担当になっているその人は、いつも自分達と役場との橋渡しをし、
時に板挟みにもなっている。そして、
「あれ?邑木先生寝とるんですか?」
何よりこの先生を連れて来てくれた張本人。
幼馴染なのだと言う。
今、岸乃の体にもたれる様にして目を閉じているその人は、高校卒業後上京し、銀座の料亭で板前を
勤めていたらしい。
それが何らかの事情でこの町に戻り、自分達に料理を教えてくれている。
細面で一見神経質そうな。言葉が多くない分、最初は近寄り難ささえ覚えたその人だったが、その態度の
裏に隠されたものが料理に対する真摯な想い、そして自分達と誠実に向き合おうとするがゆえの戸惑いだと
なんとなくわかりだしてからは、部員達は皆この人について行く事に迷いを持たなくなった。
それは当然自分も。もっとも自分はそんな迷い自体、当初からあまり無かったのだが。
それくらいこの人の腕は確かで、本物だった。
「疲れた顔してますね、先生。」
夕暮れ時でだんだん暗くなってきているせいか、その頬に差す影から疲労感が伝わり、思わずボソッとつぶやく。
するとそれに岸乃は「あぁ」となるべく体を動かさないようにしながら、その視線を隣りへと落とした。
「今日は役場との折衝に付き合わせちしまったから悪いと思ってあんぱんおごったんだが、食べてる途中でこれや。」
「あんぱん?」
「ちなみに俺はメロンパン。味の好みってのは学生時代とそう変わらんのやな。」
自由な方の手に持ったメロンパンを軽くかかげて見せながら、くったくのない笑顔の中にサラリと付き合いの
長さをのぞかせる。
そんな相手の印象を、自分は何と言うか、大型犬の子供みたいな人だなと今更ながらに思った。
自分と違いガタイが良くて、なんかモシャモシャしていて、何事も加減の無い力で真正面からドーンと
ぶつかってくる。
そしてその力には何のてらいも無いから、ついつい受け止めてしまう。
それは先生もそうなんだろうか?
きっと気を許していなければこんな寝顔は見せていないだろうその人の気質を思い、知らない内に眉の根が寄る。
するとそんな自分の微かな表情に、その時岸乃は気がついたようだった。
「あのな、こいつ料理の事に関しては馬鹿みたいに真剣やから厳しく思うかもしれんけど、こいつはこいつなりに
一生懸命頑張っとるんやで。」
突然そんな擁護するような事を言われ、えっ?と視線を返す。
その先で岸乃はこの時、どこか困ったような、でも必死な口調で続けてきた。
「ただ料理を教えるだけなら多分そこまで難しくはないんやろうけど、俺の依頼でやった事の無い教師職まで
させてしもてるからな。でも、初めこそ戸惑ってたようやけど最近はこいつも真剣に君らの為になる事を考えてる。
あの高校生ゴゼンかて、出来上がるまでに何日も徹夜しとったようやし。」
「あの高校生ゴゼンをですか?」
不意に横合いから仲村の声が飛ぶ。それに岸乃はコクリと頷いた。
「俺が聞いたのは完成間近な時やったけど、その前に毎晩毎晩悩んどったようや。」
「岸乃さんは……完成した時に立ち会っとったんですか?」
「あぁ、最後の一晩だけやけど。コキ使われたで。」
自分の問いかけに答えながら、岸乃がじんわりと何かを思い出したかのような笑みを見せる。
それにはこの時なぜか自分の胸にジリッと感じる疼きがあった。
しかし今度はそれを悟られたくなくて、スッと視線を眼前の海へと向ける。
このところ大分長くなってきていた日も、そろそろ完全に落ちようとしている。
それに合わせるように、この時岸乃から再び声が上がった。
「さて、暗くなるとまださすがに冷えるからぼちぼち帰るか。おい、いい加減起きろ、おまえ!」
いっそ乱暴な手つきで自分にもたれかかっている相手の肩を揺さぶろうとする。
そんな岸乃に自分は瞬間、慌ててその人が目を覚ます前に声を発した。
「あの、それじゃあ俺らこれで。」
「ん?そうか。気をつけてな。週末はまた頼むで。」
「はい。行こう、仲村。」
「おっ、おう。」
突然呼ばれて驚く仲村が自転車の向きを変えるのを待たず、すばやく踵を返す。
なぜだろう。目を覚ました先生と顔を合わせたくは無かった。
いや、違う。目を覚まし、自分達に対するものとはまったく違う口調で岸乃さんと言葉を交わす先生の様子を
見たくなかったのだ。
「おーい、ちょっと待てよ、酒本。」
後ろから自転車を引きながら仲村が追いかけてくる。
横に並び、口が開かれる。
「しっかし、岸乃さんと先生ってほんまに仲ええんやな。」
「……そうやな。」
「俺らもいつかあんな風になれたらカッコエエなぁ。」
「…………」
「ちょっ、なんでそこで黙るんや、酒本!」
強くツッコまれ、「あぁいや」と言葉を濁す。
時が経てば追いつけるのだろうか。時さえ重ねればあんな風になれるのだろうか。
思い出す二人の姿に、何かが違うと酒本は思う。
相手が大人だからかなわないんじゃない。きっと岸乃さんだから……それでも、
「それでも…俺には料理がある。」
あの人が立てない、先生と同じ土俵。だから、
「絶対、軌道に乗せような。俺らのレストラン。」
いきなり脈絡も無く言い放った自分の強い一言に、仲村は一瞬キョトンとした顔を見せた。が、それでもまた
詰まり気味ながらに「おう」と返事を返してくれた。
それに自分はキュッと口の端を引き上げる。
自分は始まったばかりなのだと思う。
何もかもがまだまだこれからだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
勢いで書いた。方言はわからないのでニュアンスで。大型犬はイイ。
>>347 姐さん超グッジョブ!!!
こういうのが読みたかった。ホントありがとう。
4人とも完全にイメージ通りで、脳内再生されました!
>>335 淫背プしょん観ていてよかった。
素晴らしすぎる萌えでした。夢の中な出来事って所がもうね。
姐さんの一字一句が切な萌えでGJです!ごちそうさまでした。
>>335 うおお理想の鼓舞←朝←いー蒸す!!!
ごちそうさまでしたごちそうさまでした!
姐さんの書いた現実味で致すE/A読みたいっす!
半生。映画「緑蜂」より社長×助手。
>>190のまた後日の話、エロありです。女性絡み+当て馬注意。
二回に分けて投下します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「……あっ、はあ、ブリシト……ダ、ダメだ……」
「何がダメなんだ力ト-。ここ、気持ちいいんだろ?ほら、こんなに締め付けてるぞ」
「うあっ!バカ、や、やめ……ブリシト!」
「やめるもんか。やめたら困るのはお前なんだぞ、力ト-」
俺は意地悪な口調と共にぐりぐりと指を動かし、シーツの上でのたうつ体に被さって甘く責め立てた。
熱く狭い中は塗り込めたジェルで潤い、突き入れた俺の指をくわえ込んで、ひくひくとうごめいている。
相棒の方も俺の中心を握って刺激を与えてくれていたが、下肢に施される愛撫の強さにその手は震え、動きが段々とそぞろになった。
ベッドの上、素っ裸で重なり合った俺達の体は、どちらも熱くなっていた。
俺は緩急を付けて擦ってやりつつ、俺の肩に縋って悶える奴の耳元に欲望を囁いた。
「なあ力ト-……もうそろそろ、いいだろ?」
「……いいって、な、何……?」
「おいおい、とぼけるなよ。お前の中に入りたいって、ずっと言ってるじゃないか。いい加減イエスと言えよ……力ト-」
ねだる言葉に合わせてぐっと突き上げると、相棒は高い声を上げてのけ反った。
あれから何回か肌を合わせたが、俺達はまだ本当の意味で結ばれてはいなかった。
男同士で繋がる行為を相棒が怖がり、指しか入れさせてくれないからだ。
まあ無理はない。自分の後ろに男のドデカいモノが入り込むなんて、俺だって想像しただけで怖い。
だから怯えてる奴の気持ちを汲んで、固いそこを時間をかけて丁寧にほぐし続けた。
相棒は初めての時と、それから何回かは、触れられる度にうろたえて戸惑った。だが優しく根気よく撫でて擦ってやるうちに、俺の指をすんなりと受け入れ、動きに合わせて締め付けるほどになった。
今夜は俺の三本の指を感じて、甘く切ない喘ぎを絶えず漏らしている。俺のモノは指なんかよりはるかにデカいんだが、この様子なら上手くいきそうな気がする。
荒く息をつく唇を吸って、俺はさらに問いかけた。
「力ト-……入れていいよな?俺はお前の全部が欲しい」
「や……やだ、ブリシト……まだ、嫌だよ」
「そう言うなよ。大丈夫だ、痛くないから。うんと優しくしてやるからさ」
「あ、うっ……で、でもブリシト……やっぱり、んんっ」
「まだ不安なのか。しょうがないな……じゃあ、あれでも使ってみるか」
ため息をついた俺は動きを止めて、指を一旦引き抜いた。体を捻って、サイドボードの方に手を伸ばし、一番下の引き出しの中にある物を取り出した。
相棒は蕩けたような顔つきで俺の動きを眺めていたが、手にした物を見つめた途端に目を見開いた。
「……ブリシト!そ、それ」
「力ト-、こいつが入りゃ俺のだって余裕だろ。試してみようぜ」
「ダメ、やめろ!絶対に嫌だ!」
「なんでだよ!お前の為に、やってみようって言ってるんじゃないか」
「そんな思いやりいらない!どうせ、どっかの女の子に使ったんだろ。そんな物を入れられるのはゴメンだ!」
「そりゃ誤解だ力ト-。こいつは前に若気の至りで買ったんだが、女にはみんな使うのを断られた。だからまだ真っさらで、お前が初めてなんだ」
「……ちっとも嬉しくない!」
憤慨した相棒は俺に蹴りを入れようとしたが、重そうな脚の動きにいつもの切れはなかった。
たやすく脚を掴んだ俺は持っていたディルドをかたわらに置き、相棒の肩も掴んで一気に体をひっくり返させた。
「ブリシト……おい、ちょっと!」
「じっとしてろよ、力ト-」
あまりの嫌がり様が俺の悪戯心に逆に火を点け、少し奴を虐めてやりたくなった。
俯せた体にのしかかって押さえ、脚を開かせると、なだらかな曲線を描く尻の間に、再び握ったディルドをぐいっと押し当てた。
異物の先端がほんの少し潜り込み、同時に相棒が息を飲んで、体を固くするのがわかった。
「あ、あっ……!やだ、やめて……やめてくれ、ブリシト!」
「力ト-、力を抜けよ。そう力むと痛いかもしれないぞ」
「こ、このバカっ……最低野郎!やめろったら、そんな物まっぴらだ……うわ、あ!あーっ」
腰を抱え込み、うなじや背中にキスを落としながら、俺はディルドをじわじわと挿し入れた。
三分の一ほど埋め込んだところで相棒の切れ切れの罵倒は止まり、俯いた顔をシーツに押し付けて、唸るような声を絞り出していた。
奴がびくびくと震えているのに気付き、ちょっと心配になって呼びかけた。
「力ト-大丈夫か、痛くないよな?俺、ちゃんと優しくしてるだろ」
「……バカ、バカ野郎、君なんか、嫌いだ……うぐっ」
悪態をついた声は弱く掠れていて、ひょっとしてまた泣かしちまったかもと焦った俺は、顎の下に手を差し込んで顔をこちらに向けさせた。
「ああ、やっぱり……泣くなよ力ト-」
「……君が悪いんだ、君が、ひどいことするから」
「わかったよ、俺が悪かった。今、抜いてやるから」
苦笑した俺は、流れる涙を吸い取るように頬にキスして、そうっとディルドを引き抜いた。
去った異物に安堵して力を抜いた相棒の体をまた返し、腕を回して正面から抱きしめた。
「力ト-、なんだかお前を抱く度に泣かせてる気がするな。あんなに嫌がるなんて思わなかったんだ、もうしないから泣くな」
「……あれは嫌だ。固くて冷たくて、気持ち悪かった」
「なら俺の指は、熱くて気持ちいいってことだな。だったらこっちはもっと気持ちいいぞ、そう思わないか?」
高ぶったモノを太股に擦り付けてやると、相棒は顔を赤く染めて口をつぐんだ。
俺は何も言わない唇を吸って、ねっとりと舌を絡めた。相棒は深くむさぼる舌に素直に応え、その手は俺の中心を包み込んだ。
俺も奴のモノを握り、口づけながら互いに甘く激しく快感を与え合った。
長く塞いでいた唇をやっと離すと、相棒は息を乱しながら囁いた。
「ブリシト……君を拒んで、すまないと思ってる……でも、僕は怖くて」
「うん、まあしかたない。誰だって、未知の体験は怖いさ。踏み出すには度胸がいるからな」
「……そうなんだけど、僕が怖いのは、ちょっとまた違うような……いや、違わない、のかな」
「何訳わからんこと言ってるんだ、力ト-」
「ゴメン、気にしないで」
「バカ、そんなだとますます気になるだろ。正直に言えよ力ト-、何が怖いってんだ」
手を休めた俺に真剣に見つめられて、相棒は困った表情で目を泳がせた。
もう一度名前を呼んで促すと、観念したように目を閉じた。
「僕が怖いのは……君に触られて、指を入れられるだけでもあんなに感じるのに……その、君自身を受け入れたら、一体どうなるのかが、こ、怖いんだ……」
一息に告白した相棒は、俺の視線から逃げるように、体を翻してまた俯せになろうとした。俺は肩を掴んでそれを止め、弱くもがく相棒を上から見下ろした。
押し黙ってしげしげと見られているのがいかにも居心地悪そうに、相棒は目を逸らして忙しく瞬きを繰り返した。
「……何か言えよ、ブリシト。おしゃべりな君が黙ってると、やたらと気まずい」
「そうか。なんて言おうか、ちょっと迷ってたんだ。お前があんまりにも、かわいらしいことを言ってくれるもんだから」
「……やっぱり、しゃべらなくていい」
「そうはいかない。言葉は大切だぞ、力ト-。お前がただ痛みや、俺に入れられることを怖がってるんじゃないってことがわかって、俺は嬉しいんだ」
もういいから、と悲鳴のように叫ぶのを無視して、俺はさらに告げた。
「はっきり聞かせてもらった以上、お前を無理に抱いたりはしない。力ト-、気持ちが決まったら教えてくれ。俺は根気よく待つから」
「ブリシト、君……それでいいのか?」
「いいとも。実は俺は、楽しみは後にとっとくタイプなんだぞ、力ト-」
黒い目を覗き込んでおどけてやると、相棒はつられて頬を緩めた。
「ありがとう、ブリシト……それまでは、こっちで」
「……うお!そうだな、こっちで一緒にイこう、力ト-」
相棒の手にきゅっと握られて体を跳ねさせた俺は、笑って奴のモノを握り返し、扱き上げながらキスを交わした。
こうして互いの手で果てるのが、俺達のいつもの流れだ。結局今夜も最後までたどり着けなかったが、相棒の本心を知った俺に寂しさはあまりなかった。
俺が欲するように、こいつが俺を求めてくれる時が来る。それまでは惜しみない愛撫を与え続けて、ひたすら待とうと思った。
それほどまでに愛しく、大切な奴なんだと自覚した。
たった一人の俺の相棒、俺の兄弟。今はもうそれ以上の、けして失いたくはない唯一の存在。
大切だ、と心の中で何度も繰り返し、俺は俺だけの相棒に深く深く口づけた。
ただならぬ仲になったとは言え、俺達は常にイチャついたりはしていない。
ベッドにいる時以外は屋敷でも会社でも、ごく普通に日常を過ごしている。
ふざけた俺が相棒の頬にキスして、軽く肩を殴られるなんてことはあるが、そんなのは俺達にとっては、もはやありふれたスキンシップだ。
前より頻度は減ったが、俺はたまに女の子達と遊ぶし、二人とも脈無しと知りつつ、いまだに俺の美人秘書を意識している。
全くのゲイでもなければ、愛してると誓い合った単純な恋人同士でもないから、お互いに激しく嫉妬するなんてこともない。他人が知ればちょっとおかしな感じかもしれないが、俺達に問題はなく、ごく円満な関係だ。
その美女は、我が社の新聞の広告主になる予定の、下着会社の社長だった。
濃いブラウンの長い髪は緩めの巻き毛で、大きな目は黒く情熱的に輝き、ラテンの血が入っているらしいエキゾチックな容貌をしていた。秘書とはまた違った魅力の彼女を見て、俺と相棒は『イケてる女だ』と視線で会話した。
背の高い男前の部下を二人従えた彼女は、秘書も交えて社長室で俺と話をした。
相棒は壁にもたれて立ち、何やら手帳に熱心にメモを取っている……と見せかけて、得意のスケッチで彼女の姿を描き留めているに違いない。
話が纏まり、社長室を出た彼女は部下を先に行かせた。
俺と秘書と握手を交わし、最後に相棒の手を握った。その時顔を近くに寄せて、相棒の耳に何かを囁いたようだった。
手を離した相棒は、立ち去る彼女の官能的な後ろ姿を見送ると、ちょっとニヤつきながら応接スペースのソファに腰を下ろした。
秘書も自分の席に戻ったが、俺は美女の囁きがなんだったのか気になり、座って手帳をめくっている相棒に後ろから近付いた。
「おい力ト-、彼女お前に何て言ってたんだ?」
「ん?別に、なんでもないよ」
俺はとぼける奴の肩越しに、その手から手帳を奪い取った。案の定紙の上には、彼女のナイスバディがバッチリ描き写されていた。
「嘘つけ!彼女、お前の手だけ両手で握ってたぞ。正直に吐け、何言われたんだよ」
「ブリシト、そうムキになるなよ。たいしたことは言ってない。『あなた、私の前彼に似てるの。またぜひ会いたいわ』って言われただけさ」
「……そりゃ、たいしたことだろ!」
「でもそれだけで、連絡先を訊いた訳じゃないし。まあまた会社には来るだろうから、その時訊かれるかもしれないけどね」
まんざらでもなく鼻の下を伸ばす相棒を眺めて、俺はちょっとおもしろくない気分だった。俺は妬いてるのか。だとしたら相棒に?彼女にか?……多分その両方だ。
相棒の淡い期待が外れることを俺は何となく祈り、奴の手帳を放り投げて返した。
その翌々日、ちょっとした異変が起きた。昼食がてら外出した相棒が会社に戻らず、俺に何の連絡もして来なかった。
夕刻、相棒の不在に気付いた秘書に、力ト-はどうしたの?と尋ねられたが、俺は肩をすくめるしかなかった。
しかたなく自分で車を転がし、自宅に帰った。夕食の席に着いたものの、相棒のことが気になってどうにも食が進まない。
俺は今日の昼のことを思い返してみた。来客で出られなかった俺は、相棒に買い物を頼もうと会社から電話をかけた。
街中にいた相棒は電話に出たが、途中で誰かに声をかけられたようだった。
焦った様子の奴は、後でかけ直すと電話を切った。しばらく待ったが一向にかかって来ないので、俺から再びかけた。
すると、電源が切れているというメッセージが流れた。なんだよあいつ!と鼻白んだが、さほど重要な用事でもなかったので、繋がらない携帯電話を置いて仕事に戻った。
それから何回か電話をかけたが、やはり電源は切られたままだった。
俺は不安に取り憑かれた。こんなことは、今までなかった。常に会社に行くのも帰るのも一緒だったし、何か用事があって出かける時は、必ず連絡をして来た。
無断で俺の側を長らく離れるなんて、奴が絶対にする筈がないんだ。
きっと相棒の身に何かあったに違いないと確信した俺は、食卓を離れてガレージに向かった。
万一の時の為に、俺達はそれぞれ発信機を身につけていた。俺はブラシク・ビューティーに乗り込んでナビを操作し、相棒の信号の位置を確認した。
そして緑のマスクと衣装に着替え、ガス銃と念のために相棒の銃も持った。
ガレージに寂しげに置かれたままの相棒のバイクを眺めてから、麗しの愛車と共に夜の街に飛び出した。
「全く、お前と来たら……美女にデレデレして油断するから、こんなことになるんだ」
「うるさいな、美人に弱いのは君だって同じだろ」
部屋に連れ戻した相棒に苦言を呈すると、俺のベッドに横たわった奴は、負けじと言い返して来た。
街外れまでやって来た俺は、古びたビルの下で車を停めた。相棒の信号は、ここの最上階から発せられていた。
今は使われていない様子のビル内に侵入すると、明らかに怪しい黒服の男が、エレベーターの前で見張りをしていた。
問答が面倒臭いのでガス銃を一発お見舞いし、上へと上がった。
最上階は外観とは大違いに、金が掛かっていそうな洒落た内装になっていた。廊下の奥に進むと大きなドアがあり、その前にも黒服の男が頑張っていた。
俺に気付いて懐の銃を取り出すより早く、ガス弾を喰らわせて気絶させた。すると中から、問いただすような女の声が聞こえた。
相棒は女といるのかとちょっと驚いたが、ためらいなく鍵を掛けられた錠に実弾をぶち込んで壊し、勢いよくドアを蹴り付けて部屋に入った。
部屋の中には、とんでもない光景があった。相棒はベッドに転がり、柵にゴムのロープで両手首を縛り付けられていた。奴は上半身にシャツを羽織っただけで、ほとんど裸の情けない姿をしていた。
そのかたわらには、あの美しい女社長がいた。艶やかなワインレッドのガウンを身に付けていたが、前がはだけてあらわになった胸は真っ平らだった。しかも下半身にはなんと、隆々と猛った男の持ちモノがくっついていたんだ!
一瞬気が動転したが、赤い顔をして泣きそうになっていた相棒が、こちらを見て嬉しそうに笑ったので、俺は冷静さを取り戻した。
「おっと、俺としたことがどうやら場所を間違えたようだな、失礼した!」などとテキトーなことを叫んで、目を丸くする美女(?)に容赦なくガス銃を発射した。
ロープを解いてやり、そこらに散らばっていた服をひっ掴んで、ふらつく相棒の肩を支え、俺達はビルから抜け出した。
屋敷に帰ると、薬を使われたらしくやや朦朧としている相棒を、とりあえずベッドに寝かせた。帽子とマスクを外して、横で椅子に腰掛けた俺に、相棒はことの経緯をとぎれとぎれに語った。
昼食を取り終えて俺と電話で話していた相棒に、偶然を装いあの女が声をかけた。一緒にお茶でもどうかと誘われ、車に気軽に乗り込んだ奴の首筋に、女は何かを注射した。気絶した相棒の携帯電話の電源を切ったのも、もちろんあの女だ。
相棒が気付くと見知らぬ部屋のベッドに縛られていて、目の前にはガウンの女が妖しく微笑んでいた。
「結局あの美女は実は男で、会社で会ったお前に目を付けて掠い、無理矢理その……モノにしようとしたって訳か」
「……あいつ、僕が前の男に似てるって、それは本当だったらしい。可愛いがり過ぎたら姿を消してしまって、寂しかったところに僕が現れて……どうにもたまらなかったんだって」
「可愛がり過ぎた、って……想像するのが怖いな」
眉を寄せて忌ま忌ましげに話す相棒を心から気の毒に思ったが、俺にはもっと気になることがあった。
だがそれを切り出すのが気まずくてチラチラと顔色を窺っていると、相棒は心を読み取ったらしく、ため息混じりに言葉を吐いた。
「……ヤラれてないよ」
「ホントか力ト-!そりゃよかった」
思わず叫んでベッドに膝を乗り上げ、満面の笑みで手を握った俺を、相棒は真っ赤な顔で睨んだ。
「本当だよ……さらに変な薬を嗅がされて、襲われかけたところに君が来てくれた」
「そうか、間に合ってよかった!お前の貞操が無事で何よりだ、力ト-」
「貞操って……」
「くそっ、あのオトコ女!いや、オンナ男か?ご自慢の顔に一発、ぶちかましてやるんだった!俺の相棒をひどい目に合わせやがって!」
俺は可哀相な相棒の上体を抱き起こし、強く抱きすくめてやった。すると相棒は、居心地悪そうに体をうねらせた。
「どうした力ト-、気分悪いのか」
「ブリシト……僕、僕は」
抱きしめた相棒の体温は上がり、絶え絶えの呼吸は荒く、逸らされた目は潤みをたたえていた。ふと下肢に目をやると、奴の中心は立ち上がって、切なそうに震えていた。
「おい力ト-、薬って……まさか」
「……て、ブリシト」
「力ト-、なんだ?何が言いたい」
「だ、抱いて……ブリシト、僕を、抱いてくれ……」
……今何て言った?
俺の頭は真っ白になり、次いで顔が真っ赤に染まった。相棒がそんな風にねだるなんてことは初めてで、俺の胸は高鳴り舞い上がりかけた。
しかし待て、おそらくあの女に使われた媚薬か何かで、こいつはちょっとおかしくなっているんだと思い直した。
体は俺を求めていても、心が本当にそうとは限らない。俺は深呼吸して、腕の中の相棒を見つめた。
「待てよ力ト-。そう言ってくれるのは嬉しいけど、今のお前は、正気じゃないだろ?」
「正気だよ、ブリシト。僕は本当に、君が欲しいって……」
「そうか?薬で熱くなってるから、気も高ぶってるんじゃないかな。後で正気になったお前に怒られるのは俺なんだからさ、ちゃんと確かめときたいんだよ」
「……なんだよ、その気になったら教えろって、君が言ったんじゃないか!せっかくその気になったのに、ウダウダ抜かすなよ!」
いきなりケンカ腰になられて驚いたが、それも薬のせいだと思って俺は相棒をなだめにかかった。
「落ち着けって力ト-。薬に惑わされてるお前に付け込みたくないんだよ、俺は。本当に俺が欲しいならいいんだが、お前はまだ、動揺してるだろうし……」
「動揺してるさ、女のフリした男に襲われかけたんだから!いいからしのごの言わずに抱けよ、ブリシト。あんな変態にヤラれるくらいなら、とっとと君に突っ込まれた方がマシだ!」
俺の肩を突き飛ばして叫んだ相棒に向かって、口より先に手が動いた。咄嗟に俺は、奴の横っ面を平手で張り飛ばしていた。
ぐらりと体を傾けた相棒はシーツに肘を着き、打たれた右頬を手で押さえた。
「力ト-、このバカ野郎!なんて言い草だ!そんなヤケクソな理由で欲しいなんて言われて、俺が喜ぶとでも思うのか?見損なうな!」
声の限り怒鳴り付けた後、震える相棒の口端に、血が滲んでいるのに気付いた。
しまった、と思った。今のこいつは普通じゃないのに、その言葉にキレてぶん殴るなんて、俺は一体何をやってるんだ。
たちまち後悔し、俯いたままの相棒の肩を両手でそっと掴んだ。
「……殴って悪かった。でもわかってくれよ、お前が本当に大切なんだ。心から俺を求めてくれてるんじゃなきゃ、お前を抱いたって虚しいだけだろ……力ト-?」
顎に手をやって上向かせると、相棒はぽろぽろと涙を零した。ああくそ、またか!と自分に舌打ちした俺の胸に、相棒は顔を埋めてもたれかかった。
背中に腕を回して抱き着く奴の頭や体を、俺は優しく撫でてやった。
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
支援
は、早く続きをハアハア
|`ゝ
_//´
/ :;/' ただいま
>>359はにぼしをドッキング中です。
_/@,;)ゞ
_/;@/ ̄ このまましばらくお待ちください。
/",:;ン
__/,/
最初から2回に分けて投下と書かれているし
初回の9/9すべてうp出来てるんだから支援は不要でしょ
>>360 長編を短気に連続投下すると「占有」視されることもあるから
あまり急かすと作者さんが困惑すると思われ
>>361
何このオバサン
>>335 ありがとう!超絶もだえました!
続き妄想がとまらない
>>361 このAA、どっちが攻でどっちが受なんだ?
つーか♂同士とは限らんだろw
そっくりすぎて、くんずほぐれつしてたら
どっちがどっちだかわかりません(><)
370 :
にぼし 1/3:2011/05/27(金) 19:34:41.98 ID:P1y73j2P0
オリジナル。勢いで書いた。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
かつて大海を自由に泳いでいた頃の記憶は、すでに記憶の片隅にしかない。
あれほどしなやかであった体躯をうねらせることもすでにできず、
自身がかく水に溶けるように透明に広がっていたそのヒレは白く濁り、或いは欠けている。
確かに大海原の中では端役であったかもしれないが、
仲間と共に連れ立って泳ぎ、一塊となってするりするりと向きを変え、
喰らおうとする大魚の目をかわした時などは、己の小ささを忘れるほどに実に痛快であった。
今はこれほど小さいが、いつか八寸ほどになったら連れ添う相手もできるのだろうと、
青い水の向こうに心地良い前途を夢想していた。
だが今は、ただ小さな小袋の中に隙間無くぎゅうぎゅうと押し込められている。
はて、何がどうしてこうなってしまったのやら。
考えたところでどうとも答えは出ぬのだが、考えずにはいられない。
堂々巡りに陥っている頭の片隅に、どこからともなくしくしくとすすり泣く声が聞こえてくる。
動かぬ目を無理に動かしてそちらを見れば、己と同じように袋に詰められた仲間の姿が見える。
いや、見渡す限りそのような同士ばかりであるのだが、そのうちの一匹がさめざめと泣いている。
371 :
にぼし 2/3:2011/05/27(金) 19:37:05.58 ID:P1y73j2P0
「どうした、何が悲しい?」
声をかけるとその彼は、努力の末こちらを見て言った。
「このまま自分が消えてしまうのだと思うと、あまりにも悲しいのです」
折角この世に生まれ出て、ここまで命からがら生き伸びてきたというのに、
訳も分からず硬い身体にさせられ、このまま消えていくのはあまりにも切ないと、
乾いた目から流れぬ涙を流しつつ、か細い声で訴えてくる。
生きた証もなく、ただこのまま消えていくのかと責めるように問いかけてくる。
同じ立場である自分になすすべなどある筈もなく、
その泣き声が日に日に弱っていくのを、こちらも日に日に聞こえにくくなる耳でただ聞いているしかなかった。
時々袋は大きく揺さぶられ、自身に覆いかぶさっていた大量の仲間達がどこかへ連れられて行く。
その度に上空から湿気た風がふわりと舞い込んでくるが、それはただ湿気っぽいばかりで、
生まれ育った海のような潮の香りはしない。
いつかは自分もああやってどこかへ運ばれるのだろうと、半ば諦めつつ揺さぶられるままに過ごし、
揺れに身を任せて袋の中を右往左往していたところ、
ふと見れば、あの日泣いていた彼がすぐ斜め下にいるではないか。
「おお、まだお前はここにいたか」
「貴方はあの時の……」
372 :
にぼし 3/3:2011/05/27(金) 19:39:04.27 ID:P1y73j2P0
もう自分らの上には誰もいない。我々は次にここから出されるのだろう。
「そうして儚く消えてしまうのです。何も無くなるのです」
彼は搾り出すように言う。濁った視界にかろうじて映るその顔があまりにも切ない。
まだ動くだろうか。ギギと音を立てて無理に身体を伸ばす。
「生きた証が欲しかったと言ったね」
そう呟いて、目の前の唇にそっと自身の唇を重ねた。
幾ばくかでも慰められればとした口付けに、思いがけず心がかき乱される。
それは硬く干乾びていて、貪ろうにもカサカサとした音しか立てなかったが、
同じ運命を背負った者同士の最期の精を流し込むがごとく、あまりにも熱くそして甘美であった。
なるようにしかならないのだと悟ったような気でいたが、生きたいという欲にここで苛まれようとは。
「ありがとう……。忘れない……」
離した彼の唇から掠れた声がもれた。口付けたことを、後悔した。
次に生まれ変わることがあるのなら、お前と共にまた海に生まれよう。
並んで泳ぎ、餌を喰らい、こんな乾いた口同士ではなく濡れて艶やかな口付けを交わそう。
懐かしいふるさとのあの海原の中で。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
なんか目から潮が
今日の味噌汁は煮干の出汁にする!
今は無き、なつかしのい も お と スレをほんのり思い出したよ・・・!!
神、出現……!!
煮干しに泣かされる日がくるとは思わなかったよ
目から出汁が…!
なんかすごいものを見た!!神文章とはこういうことか!
なんて美しいにぼしなんだ…
泣かされちまった!ちくしょう!
381 :
sage:2011/05/27(金) 22:47:36.95 ID:xEyj+oph0
ホラーアニメビデオの「世にも恐ろしい日本昔話」の第2話「かちかち山」
卯之助(兎)×吾作(狸)誰か書いてくれないのかな?(自分では書けないし)
あの作画書いてる人って「からくりの君:「からくりサーカス」「うしおととら」の
漫画書いてる藤田和日郎先生だし。
なんだこいつ
>>370 これからはにぼしを大事に食べます
ありがとうありがとう
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )昔ルナドン話書いた人です。今回も吸血鬼テーマですが、かなり変な設定です
「…ってわけで、俺は…、ってことで…で、ってわけで…」
会話を聞き流す。
周りには三人、冒険者がいた。
目の前の座布団に座っているのはガルズヘイムの男戦士であり、名前は自分でも知っている。
その左右には、女魔法使いと男盗賊。
自分はなぜにこの日倭の都市にある大屋敷の居間にある座布団に、おとなしく座っているのだろう。
「だから…、あなたはそういう…ってことはこの子も…」
会話をひたすら聞き流す。
おしゃべりな三人は、ひたすら先程から世間話を繰り広げていた。
「…と、思わない?お前も」
ガルズヘイム戦士が急に話を自分に振ってきた。
正座をずっと続けるのは案外つらいな、とか、この日倭に甲冑着こんだガルズヘイム人は似合わないな、とか、その程度しか考えていなかったなだけに、彼は戸惑い、相手を見た。三人の視線が集中する。
「わ、私は…」
言葉を選ぶが、いい言葉が出てこない。
「すまない、あまり話を聞いていなかった」
だからなぜ、討伐対象である、有名モンスター・ガルズヘイムヴァンパイアの自分がここにいるのかの経緯を思い出した。
事の経緯は三日ほど前。
ガルズヘイムヴァンパイアの彼は、ダンジョンとして人があまり寄りつかない孤高の城にいた。
ダンジョン最深部に、他にうろうろとドラゴンがいたりするのを気にも留めず、倒した冒険者を足蹴りにして、啜った血がこぼれ出て、それを手で軽くぬぐう。
(うっ、やはりヴァーラクシャの戦士の血はまずい)
孤高の城の最深部までやってきたことは褒めてやる。
この部屋は屍であふれ、腐臭がすごい。
さすがに高潔な種族と一応は認識している彼は、取り巻きに合図しながら別の部屋に移る。
何人もの冒険者が挑んできた。
だが、このスティールエナジーとバンパイア・バッドの群れにかなうものはいないのだ。
バンパイア・バッドが八匹、そしてヴァンパイアが一人。
おまけにここは首都ダンジョンときた。
最深部を根拠地にしている自分にとって、ここまで来れる冒険者は大抵いないということだ。
なぜならば首都ダンジョンというだけで気軽に入る馬鹿な人間は、大抵入口にいるドラゴンやミノタウロスに返り討ちにされてしまう。
たどり着いても、何度休憩したかもわからないような顔をした冒険者は無謀にも突っ込んでくる。
バンパイア・バッドとヴァンパイアは体力を削られたら、スティールエナジーという体力を奪う魔法を使う。
(私に勝てる相手などいないのだ)
そう思いながら、ちょこんと埃まみれのベッドで体育座りをした。
はあ、とため息をつく。
(ほかのヴァンパイアたちはどうしているだろうか。最近人間で、それもガルズヘイム人の戦士がリーダーの…名前はなんだっけ?三人組が活躍しているようだが、殺されていないだろうか)
他の仲間もここに入るが、皆自由に移動しているため、出会ったことはあまりない。それに首都ダンジョンは無駄に部屋が多い。
孤高の城も例外ではない。
高潔なヴァンパイアは、孤独など気にしない。
(と、思う)
高潔なヴァンパイアは、人間などには殺されない。
(…はずたけど)
高潔なヴァンパイアは…
(人が恋しいなんて思うはずがない)
どうもこのベッドに座っているヴァンパイアは気が弱いようだった。
そこにバタンと大きく扉の音を響かせ、乗り込んできたのは先ほど考えていた、例の活躍している冒険者であるとみられるメンバーだった。
当然戦闘態勢に入る。
はずだったのに。
なんとなく戦う気がしなくて、彼はそのベッドの上にちょこんと座ったまま、リーダーであるガルズヘイム戦士の顔を見た。
手には正義の鉄槌。あからさまに善・秩序属性の装備だ。
金髪の男は、その正義の鉄槌を手に、拳を振り上げる。
後ろの魔法の女は、ストーンクラブを持っている。更にその隣にいる盗賊も同じ。
「いたぞ、ヴァンパイアだ、カードにするぞ!よしっ、ヴァンパイアめ、俺と戦え!!」
熱く語りだす戦士はビシッと、ベッドに座るヴァンパイアを指差した。
ヴァンパイアは下を向いて溜息をついた。
カードにする、というのは、敵を魔法でとどめをさすと、カードになってしまうという。
ここにはレアモンスターであり強いモンスターが大量にいる、それのカードを集めにこの孤高の城にやってきたのだと推測したが、ヴァンパイアは動かなかった。
むしろ、足に顔を埋めて、もう一度ため息をついた。
「ちょっと、聞いてるの!?」
後ろの魔法使いの女が、ストーンクラブを振り回し、高く声をあげた。
「嫌だ」
ヴァンパイアが言った。
「えっ」
「面倒くさい、戦いたくない、寂しい」
か弱い声。少しだけ見えた赤い眼は、泣きそうに潤んでいた。
「えっ」
冒険者三人の間の抜けた声が部屋に小さく響いた。
「…えっ」
そしてリーダーの男は、もう一度間の抜けた声を出した。
そこから一気に記憶がなくなり、気がつけばこの屋敷の、一室の布団の上にいた。
どうもその会話の後タコ殴りにされたらしい。
というのも、体中に鈍器のあとがあったからだ。
ズキズキと後頭部が痛み、起き上がろうとし、体中が痛んで思わず悲鳴を上げた。
ご丁寧に枕にきちんと寝かされていて、服はどういうわけか人間用のバスローブに変えられていた。が、脱がされたのはどうもいつも着ている青いコートだけらしい。
掛け布団も一緒にかけられていたが、起き上がったはずみで飛んで行った。
さて、屋敷中にヴァンパイアの悲鳴が響き渡り、そのうち一人の男が様子を見にやってきた。
この屋敷には似合わない、ガルズヘイムの格好をした男だった。
例の冒険者組のリーダーの男に間違いはない、が、甲冑は着ていなくて、彼もまた軽装であった。
しかしそんなことは構っていられない。ヴァンパイアはあまりの体の痛みに耐えきれず、丸まって頭を押さえた。
スティールエナジーを、と思ったが、それすらできないほど体中が痛かった。
相当殴られたのだろう。
「うう…」
ヴァンパイアが情けない声を出す。
「おおっ、目を覚ましたか、すまんすまん、殴りすぎた」
カードにされるはずだったヴァンパイアは、その気楽な声の方向に目をやる。すぐに近くまでやってきて、なでなでと彼の銀の髪をなでる。
「痛いの痛いの飛んでけー」
(馬鹿にしてるのだろうか)
と、思いつつも、体が動かせない。
「ストーンクラブ+2と正義の鉄槌で殴られたらそりゃあ誰でも気を失うもんねー、うちのは特製で、ストーンクラブには日倭製の頑丈な釘生えてんの」
ああ、どうりで体中が痛いどころの騒ぎじゃないわけだ。
そんな釘の生えたものと、ヴァンパイアの苦手な善・秩序属性の正義の鉄槌で殴られ続けたら、ここまでひどい怪我をする。
「コート、ボロボロになったから箪笥にあった俺の昔のバスローブ着せたんだけど」
(いやいや)
それ以前に聞くことがある。
「確かカードにするためと言っていた…うっ、痛っ!!けど、カードにしなかったのか」
首を動かしただけで、背中と関節が悲鳴を上げた。
目の前には青い目と金の髪、さわやかフェイスのガルズヘイムの人間。
困った顔をしたヴァンパイアは、特に攻撃するでもなく、蹲ったまま相手の顔を見続けた。
「カード手前までいったんだけど」
「…」
「何にも抵抗しないから、ぶっ倒れたお前を連れて帰ってきた」
アホがいる。
素直にヴァンパイアは思った。
「体痛いと思うけど、さすがにキュアー使ったらお前には逆効果だろ?」
と、さっとデッキからキュアーカードを取り出したのを見て、思わず身を引いた。
ハッと気づけば、周りにはいろんなアイテムが転がっていた。
まず、紅きコンドル。恐らくはこれを使ってファルコンという魔法を発生させ、カードにするつもりだったのだろう。
他にはチェインメイル+5の限界値のついたもの、ガードマンカード、とにかくいろんなアイテムが散らばっていた。普通にローブも転がっているかと思えば、盾が転がっていたり、ここは物置に使っていたらしい。
言い切ってしまえば、いわゆる汚部屋である。
ところで、彼はガルズヘイムの首都ダンジョンにいたはずだった。
ここが日倭であることには間違いないが、場所までは特定できない。
そこそこにぎわっている街だということは、外からの喧噪でわかる。
彼…ヴァンパイアは痛みがだんだん引いてきたので、少しゆっくりとため息をついた。
しかし体育座りは健在だ。
「なんでボスクラスモンスターが寂しいとかいうの?」
「?駄目なのか?」
赤い眼は困り果てて、冒険者を見つめる。
(この男の名前は…バ…バ…なんだっけ。馬鹿ならあってるはず)
「いやだってヴァンパイアっていうセリフといえば『美しく殺してやろう』とか、そんな傲慢でナルシストな発言じゃん。なのにお前、いきなり『戦いたくない、寂しい』とかいうし。何なの?ヴァンパイアじゃないの?でも明らかに特徴はヴァンパイアだよな?」
ぺらぺらと男は続けた。
「あ、そーそー、なんだしなんか持ってくるわ。お前そこにいて」
そして気がつけば、丁寧に茶まで入れてくれて、ヴァンパイアはそれを啜った。
血とは違うが、温かくて心がほっとする。
相変わらず男は目の前でべらべらしゃべり続けているが、半分以上を聞き流していた。
「ところでここはどこだ。私は創造都市の孤高の城にいたはずだ」
ガルズヘイムの首都は創造都市。
「ここ?満月都市。日倭の首都だよ」
世界地図には詳しくなくても、この世界は海が多く、船をついでかなりの日数使わないとここに来れないのだけは知っている。
相当の時間はかかるはずだが、その時間ずっと気絶していたとは考えにくい。
「満月…都市」
「風の精珠使ってすぐにここにきて運び込んだ」
風の精珠と言えば、シルフを倒せば手に入るアイテムとして有名だが、実はそれは意外な使い道もあるというのは、ヴァンパイアの彼でも知っていた。
だが大抵の冒険者はそれに気づかない。
しかしこの男は知っている。そのアイテムを使えば、どこの都市にだって町にだって一瞬にたどり着くことのできる便利アイテムだということを。
「で、さっきの続きだけど、何で寂しいの?」
「…なんとなく…。私はボスモンスターに向いてないのかもしれない」
ぼそりと呟いた。
とても傲慢な種族のセリフとは思えず、男は腹を抱えて笑いだした。
目が点になるヴァンパイア。
それでも笑いは止まらず、バシバシと畳を叩いた。
「何それ!何その文句!今までヴァンパイア退治はすげぇしてきたよ!?でもそんなこと言うの初めてだ!!ネクロマンサーだってそんなこと言わないのに、あのうっざいくらいの傲慢なヴァンパイアがー!!」
ゲラゲラと声が響く中、ヴァンパイアは思わず、ぺこりと頭を下げた。
「すまない」
ぴたりと声が止まった。
「は?」
「いや、だからすまないと」
「ちょっと待って、俺、殴りすぎて頭おかしくさせた?」
どこまで失礼な奴だろう。
が、相手は本気で心配しているようで、じろじろと顔を覗き込んで、頭にこぶができていないか確認する。
殴られ続けたせいでこぶは大量にあるが、出会ったときのあの言葉からするに、このヴァンパイアは最初からおかしかったのだろうと本人は判断したらしい。
間違ってはいなかった。
「うんうん、素直な奴だな。俺の目に狂いはない」
「どういう…」
「ウサギみたいな目をして寂しいとかいうから、思わず連れて帰ってきた」
タコ殴りにした後で、と小さく付け加える。
「…ヴァンパイアが、ウサギ…」
プライドもなにも最初からない彼にとっては痛くもない発言だが、比べる対象があまりにも違う。
彼も今まで様々な冒険者を倒してきた。
たまたま、そのあとなんとなく気分的にテンションが下がってベッドにいたところを、戦いに挑まれたので拒否しただけ。
「かーいいかーいい。うん、可愛いな、お前、その性格面白い」
「…ありがとう」
「だからなんでその言葉が出てくんだよ」
「感謝してはいけないのか」
噛み合わない言葉のやり取りが続いた後、仕方なくヴァンパイアから言葉をつづけた。
「人が恋しい。人は羨ましい。仲間と連れ添って、いつも楽しそうだ。仲が良ければ死んだって蘇生してもらえる。私は人間に生まれたかった」
「でもお前にはバンパイア・バットいたじゃないか、仲間だろ」
「いるけど…違う。人間のように、人間と話したかった。けれど皆モンスターというだけでこちらの言い分など聞かずに襲ってくる、だから嫌だった」
「変なの」
男が、茶を飲み干して、畳に茶器を置いた。
「変…だな」
自分でもそう思う、と思いながら、ヴァンパイアは頷いた。
と、それから三日が過ぎた今、自分は彼らを前にしていた。
その間は殺してやろうとか、逃げ出してやろうとかは特に思わず、素直にその男の愚痴を聞いてやる相手をしていた。
名前は『バルド』というらしい。年齢は二十七で、結婚はしていない。
やっと思い出した、とヴァンパイアが頷いた。
その時のバルドの反応は、自慢げに、そうだろうそうだろう、と繰り返した。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )続きます。ロウッド達の話が後で出てきたりします。覚えてる方いるのかな。
>>384 なにこれカワイイ
元ネタ知らないけどカワイイ
>>370 文章力パネェっす……
これからにぼし大事に食べるよね
>>370 ギャ△コの雪のひ○ひらを思い出しました
>>370 生涯一度のキス・・・萌え滾る!
にぼしさんに惚れました。ありがとう!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )真3マニクロ ライドウ×人修羅です。
そのものの描写はないけど一応スパンキングなので苦手な方はスルー願います。
「僕は、君を仲魔にしたい訳ではない。一緒に捜査してほしい、一緒に闘って欲しい訳ではない。只――愛したいだけなんだ」
とある大正20年ののどかな午後、人修羅は高手小手に縛り上げられ、ソファに転がされていた。
「ライドウっ、ちょ・・・これ、きついんだけど・・・」
縛って転がした張本人、十四代目葛葉ライドウはもぞもぞと芋虫のように蠢くその様を熱い眼差しで見下ろした。
その手には、乗馬鞭が握られている。
「なにそれ。」
「何って。乗馬鞭だよ。これは馬術の障害飛越競技で使用するタイプの鞭で、短鞭とも云うね」
「そゆことじゃなくって・・・俺、馬じゃないんですけど。それで叩く気?痛いんじゃねえの」
「まあ、馬の皮膚は分厚いから。人間の尻を叩いたら、相当痛いだろうね」
感触を試すように掌に鞭を打ち付けながら、ああ、君は人では無かったねと意地悪く嗤った。
ライドウは時折このように人修羅を折檻する。しかしそれは落ち度に対する罰という訳ではない。
人間と悪魔との関係を「忠誠度」という指標で計ることしか知らないこの不器用なデビルサマナーは、
管に入れることの能わぬ愛しい悪魔の愛情を、素直に理解することが出来ない。
愛していると微笑まれても、甘い口吻をしても、その?に触れることを赦してもらったとしても。
初めて人修羅を縛ったとき、ライドウはこう問うてみた。
「愛している振なんて、いくらでも出来るからね。――君、僕にどんな目に遭わされても逃げないと誓えるかい」
愛する悪魔は驚いたように目を見開いた後、困ったように苦笑していた。
「ちょっとなに言ってるかよく分かんないんですけど・・・」
人修羅はソファの唐草模様をじっと見詰めながら、初めて縛られた時のことを思い出していた。
訳も分からず縛り上げられ、食い込む縄の痛みに泣きたいのはこっちだっていうのに、
なぜだか不安で泣きそうな表情をしていたのは、彼の方だった。
苦痛でしかなかったコトを終え、擦り傷になる程食い込んだ縄を外しながら、ライドウは独り言のように呟いていた。
「――逃げないよな。君は。僕のことを愛しているものな・・・」
返事はしてやらなかった。ただ黙っていた。だが、逃げなかった。
「何を考えている」
ライドウは衣嚢からガーゼと絹の手巾を取り出す。
「君はこれから暫く口をきくことが出来なくなるけれども。何か言っておきたいことはあるかい」
ライドウのことは好きだ。
黙って耐えさえすれば彼の歪んだ支配欲を満たすことが出来るというのならば、いくらでも耐えてみせようと思う。
でもやっぱり、痛いのはちょっとイヤだ。
この普通ではない付き合いを通じて、ライドウの屈折した愛情を文字通り痛いほど学習してきた人修羅は
何と言えば、この理不尽な苦痛の時間を短縮できるかを良く心得ていた。
「あいしてるよ。ライドウ。」
「まあ、そうだろうね」
苦しそうに微笑んだサマナーは、丸めたガーゼを愛する悪魔の震える唇に押し込んだ。
「有難う。御免よ。只――愛したいだけなんだ」
□ STOP ピッ ◇⊂(・ω・` )
つたない文章で申し訳ないです。(文字化けの部分は「身体」ですorz)
ライ様には鞭が似合うなあと妄想したら居ても立ってもいられなくなったので。
虎&兎の兎→虎です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
夢を見た。
小さな僕が、あの男をナイフで刺して殺した。
微かな喜びと、壮絶な絶望
あぁ、僕には
僕には幸せな未来なんか、どこにも無いんじゃないか。
いつも無茶をして飛び出して
物を壊して僕の計画を台無しにして
考え無しに動いては足を引っ張って
余計なお節介で人の心に土足で踏み込んで
あなたとコンビなんて組みたくなかった。
目を閉じれば瞼に浮かぶあの悪夢の、その登場人物への憎悪
全身の血が沸き立つような怒りに我を忘れた。
僕はずっと両親を殺した人間を殺す事だけを目的に生きてきたんだ。
いつもナイフを持っていた。
人一倍勉強して、人一倍鍛えて、持って生まれた能力を活かしてヒーローになった。
極力他人と関わらないように、誰にも邪魔されないように。
毎日情報を求めて歩いた。
全ては「ウロボロス」をこの手で葬るため。
その為だけだ。
僕にはそれ以外何も無かった。
むしろ、殺す事だけを生きる糧にしていたのかもしれない。
あの男がウロボロスに関する人物だったなら
あの男をこの手で殺す事ができたなら
少しは…
どれほどの思いで探してきたと思っているんだ。
何年何十年、それだけの為に生きてきたと思っているんだ。
全てを捨てて、全てをかけて。
冗談じゃない
なのになんでだろう。
「あぁ…バニー」
「…はい?」
「手形野郎がウロボロスじゃないってはっきりして良かったな…。」
いいわけない。
いいわけがない、のに。
よくわからない感情が胸に広がって締め付けられた。
なんでこんな気持ちになるんだろう。
「いや…よくねぇか…」
おじさんを乗せた救急車が走り去る。
なんで、僕の事なんか…
あなたには何度もひどい事を言ったはずだ。
あなたの優しい言葉を跳ねのけた。
あなたを散々バカにした。
「無理をしないでください」そう言ってきたのは僕の方だったはずだ。
頭に血が上った僕の攻撃はあいつには一切当たらなかった。…当然だ。
我を忘れた僕の目に飛び込んできたのは
僕をかばって攻撃を受けたおじさんの背中だった。
どうして僕の事なんて。
いつも鬱陶しいくらい元気なのに痛そうにしないでください。
僕のせいで怪我なんかしないでください。
心のどこかでは分かっていた。
幸せなんて二度と来ないという事。
だけど僕にはそれしかないんだ。
僕には関わらない方がいいんだ。
だから…突き放しているのに。
何を言ったって何をしたって、何故あなたは僕の傍を離れないんですか。
僕の傍を離れずに、身を呈して僕を止めた。
もう二度とあんな辛い気持ちにはなりたくない。
人と関わらなければ、そんな感情を持たなければ…
無鉄砲で無防備で、他人のために命をかけてしまうような危なっかしい人。
ウロボロスに向けて構えている僕のナイフを、握りしめてくるような人…。
焼け焦げて千切れたおじさんのタスキを拾い上げる。
僕をかばって千切れたタスキに残るその文字は
”Let’s believe”
この気持ちをなんていうんだろう。
なんていうんだろう。
僕にはわからない。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
>>325 最初は俺にしていた箇所もあるのですが、どうにも文才が無いせいで
書きわけができず、結局全部僕に統一しています。
>>384 ヘタレ吸血鬼萌えの私のハートをピンポイントで貫いた…
ヴァンパイアかわいいよヴァンパイア
続き楽しみにしてます。
半生。映画「緑蜂」より社長×助手。
>>351の続きで、エロありです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
しばらく俺のシャツを濡らしてから、相棒は静かに口を開いた。
「……ブリシト、信じてくれないかも知れないけど、僕は本心から、君が欲しいと言ったんだ」
「でも力ト-、お前……」
「僕の頭は確かだよ、ブリシト。さっきの言い方はそりゃ、酷かったけど……あんな目に合って君に助けられて、真っ先に思ったんだ。君に、抱かれたいって」
溢れる涙をそのままに、相棒は顔を上げて俺を真っすぐに見つめた。目には真摯な光が宿り、嘘をついてるようには見えなかった。
「力ト-……本当にいいのか?そんな風に言うと俺、付け込んじまうぞ」
「いいよ。付け込んでくれて構わない」
本当に本当か?とさらに確認する俺の唇を、奴は自分の唇で塞いだ。
流れ込む涙と血の味がする深いキスを、俺達は夢中で交わした。
長く合わせていた唇を離すと、相棒が俺の耳に駄目押しの一言を囁いた。
「ブリシト、僕に君の全部を感じさせて……」
俺の理性はものの見事に、木っ端みじんに吹っ飛んだ。
お互いに脱ぐのももどかしく、俺は服を着たままで、はだけたシャツ一枚の裸の体に触れた。
顔や唇はもちろん、胸や腹、内股や膝の裏側にまで舌を這わせ、丁寧に撫で回した。いつにもまして相棒は敏感に反応し、たまらず喘いでは俺の名前を必死に呼んだ。
今夜は相棒の全てを味わいたくて、開かせた片脚を肩に乗せ、いきり立つモノを口に含んでやると、高い悲鳴を上げて驚いた。
イッてしまいそうだからやめてくれ、と俺の髪を握って哀願するのを、さらに深くくわえて拒んだ。
イクなら俺の口の中でイケばいいさと囁いて、ぴちゃぴちゃとしつこく舐め回し、強く吸い立てた。相棒は我慢し切れず、とうとう俺の喉に向かって欲望を放った。
音を立てて飲み下すと、泣きそうな声でバカ、と叫んだ。俺は笑って、恥ずかしさに火照る体を上から抱きしめた。
そのまま口づけると、自分の出したモノの味に少し顔をしかめたが、相棒は拒まず、大胆に舌を絡めた。
俺はいつものジェルを使い、萎えた相棒の中心を扱いて大きくさせた。相棒の方も、震える手で俺のベルトを緩めファスナーを開けて、下着の中の俺自身を擦ってくれた。
喜んでまたキスを交わして、甘い刺激に酔いながら、俺はジェルまみれの中指を相棒の後ろに押し込んだ。
吸い込むように受け入れた中は、かなり熱くなっていた。
前を擦りつつ段々指を増やして行くと、濡れた下の口は淫らに音を立てて締め上げた。
念入りに抜き差しを繰り返す俺に、ブリシト、もういいからと相棒がその先を促した。かすれた甘い声で何度も名前を呼んでねだられ、上着を引っ張られて、俺はやっと奴から指を抜いた。
男同士だと楽らしい背後からの挿入を、顔が見えないからと嫌がるので、仰向けのまま腰の下に枕を入れて、受け入れる態勢を取らせた。
下げたズボンから飛び出した俺のデカい一物を見て、相棒は目を見張って喉を鳴らした。
サイドボードからゴムを取り出した俺に、そんなのいらないよ、と相棒が焦れた。だがいくらのぼせていたって、大人の男としての嗜みを忘れる訳にはいかない。
そう言うな、後で大変なのはお前なんだからと説き伏せつつ、ゴムをきっちり被せた。
「力ト-、入れるぞ。いいんだな」
「うん、いいよ、ブリシト」
「途中でやめようは無しだぞ、わかってるな力ト-」
「ブリシト、くどい男は嫌われるぞ」
そりゃマズいなと笑って後ろにあてがうと、相棒は息を飲んで頭を反らした。
ジェルを塗りたくった猛るモノを、脚を抱えた俺はゆっくり慎重に中に突き入れた。相棒は震えて枕の端を握りしめ、目を閉じて細かく喘ぎ続けた。
今まで十分に下準備をしていた甲斐あって、俺は難無く、待ち望んだ奴の奥深くに侵入を果たした。
埋め込まれたモノの大きさに相棒は身悶え、力を抜こうと懸命に呼吸した。俺はやっと征服出来た相棒の中が、想像以上に心地良いことに感動していた。
「あ、あ……ブリシト、大き……っ」
「力ト-、大丈夫か?ちゃんと息しろよ」
「ん、だ、大丈夫……はあっ」
全てを飲み込んで、ちょっと苦しそうに笑う相棒に、俺はたまらない愛しさを感じた。
「力ト-、つくづく無事でよかった。ここまでお前を開発したのはこの俺なのに、危うく横取りされるとこだったんだからな」
「か、開発って……バカ野郎!」
「そろそろいいな、力ト-。動くぞ」
「……あ!ま、待って、待てよブリシト……う、ああ!」
止めようと腕を引っ掻くのに構わず、腰を緩やかに動かした。相棒は突かれる度に声を上げたが、痛そうな様子はなかった。俺は両脚を肩に担いで、深く浅く突いては引いた。
爛れるような熱さに俺は酔いしれ、絶妙に締め付けられて思わず唸った。相棒も涙を浮かべて感じまくっているようで、絶えず俺を呼んではよがり声を上げた。
「あう、ふ、ああっ、ブリシト、ブリシト……」
「力ト-、ああ、たまらない……お前の中、よすぎるぞ。イッちまいそうだ」
「い、い……イッて、いいよ……僕も、僕……あ、うあ……っ」
甘い声に煽られて上から激しく貫くと、相棒は俺の首を抱き寄せて唇を吸った。滴る唾液にも構わず、繋がったままで口内をむさぼり合った。
唇を離すと、相棒が俺を見てふいに笑った。
「なんだ、何かおかしいか、力ト-」
「ふふ、へ、変だ……グリ-ン・ホ-ネットが、僕を抱いてる……」
「変なもんか。ホ-ネットが抱くのは、相棒だけだ。お前だけなんだぞ、力ト-」
緑のスーツとコートを纏ったままの俺は苦笑して、からかう相棒の頬にキスした。
「僕だけ、か……そうだ、僕だってそうだよ、ブリシト」
「何がだ?力ト-」
「僕が欲しいのは、君だ。冷たいオモチャでも、タチの悪いオンナ男でもない、君だけだ。ブリシト、君だけが、僕を好きにして、いいんだ……」
相棒が殺し文句を吐くのは、これで一体何度目だろう。歓喜に満ち溢れた俺は、唇にまたキスをして、腰を大きく動かし打ち付けた。
容赦なく擦られ、甘い口づけを与えられて、相棒はもう限界だと首を振った。
「ブリシト……ブリシト!もうダメ、い、イク……あ、ああ!」
「力ト-……ん、ううっ!」
ぴんと背中をのけ反らせて相棒が果て、同時に俺も呻いて奴の中で達した。
衝撃に相棒の体は波を打ち、シーツの上に腕を投げ出した。目を閉じて意識を失ってしまった相棒に俺は慌て、肩から脚を下ろし、中の萎えたモノを引き抜いた。
外したゴムを結んでゴミ箱に捨てると、相棒の頬を軽くはたいて呼びかけた。
「力ト-、おい力ト-!しっかりしろ」
「……あ、ふうっ、ブリシト」
目を開けた相棒は、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。俺はほっとして、汗ばんだ額に手を当て、大丈夫かと尋ねた。
「很吃驚……我、我想是不是死……!」
「うん、そうか。悪いがもう一回、英語で頼む」
「び、びっくりした……」
「気を失うほどよすぎてびっくりしたのか、力ト-」
笑って頬をつねると、相棒は俺の手を取り、指に軽く噛み付いた。
「いてっ!……力ト-、俺だってびっくりしたんだぞ。寝た相手に気絶されたなんて、初めてだ。あんなこと本当にあるんだなあ」
「妙なことで感心するなよ……」
呆れて俺を睨んだ相棒は、言葉の後に大きなあくびをした。眠いなら先に寝ていいぞと告げると、頷いて目を閉じた。
俺は相棒の体の汚れや汗を、蒸しタオルで軽く拭ってやった。
気持ち良さそうにしていた相棒は、いつの間にか眠りについていた。上から布団をかけてベッドから離れ、奴の飛沫で汚れたスーツを脱ぎ、パジャマに着替えた。
再びベッドに戻り愛らしい寝顔を眺め、額に軽いキスをした。相棒の黒髪を撫でて、本当に間に合ってよかったとあらためて安堵した。
朝になり、俺がシャワーを浴びてバスローブを羽織り部屋に戻ると、俯せに寝ていた相棒は唸り声と共に目を覚ました。
ふいに勢いよく顔を上げて、きょろきょろと周りを見回した。
俺ならここだぞ、と近寄って声をかけると、俺を見つめた顔はみるみるうちに赤くなり、再び枕に顔を埋めた。
「なんだ力ト-、照れてんのか?」
「……照れてなんか、ない!」
「照れるのはいいが、怒るのは無しだぞ。夕べ俺はお前に、何回もいいのかって確認したんだからな」
「ブリシト……わかってる。だからもう、何も言わないでくれ」
ベッドに腰かけた俺は、それならいいんだ、と俯せた頭を撫でた。
「力ト-、気分はどうだ?良くないようなら、うちの掛かり付けの医者に診てもらおう」
「……いや、大丈夫。後に残らないタイプの薬だったみたいだ。頭はしっかりしてるよ」
顔だけをこちらに向けて答えた相棒は、確かにいつも通りの様子だったので俺は安心した。飯を食うかと訊くと、先にシャワーを浴びたいと答えた。
頷いて腰を上げると、ベッドから下りて歩こうとした相棒が、体のバランスを崩してすっ転んだので俺は驚いた。
「おい力ト-!何やってんだ」
「……おかしい。脚にうまく力が入らない」
床に手と膝をついて、相棒はしきりに首を傾げた。俺はシャツ一枚の体を抱えて、ベッドの上に戻してやった。
「力ト-、どうもこれは、俺のせいだな」
「どういうこと?」
「つまり、激し過ぎたんだ。俺は精一杯、優しくしたつもりだったんだが……腰を抜かされたのも、お前が初めてだ。まあ、お前が慣れてないせいでもあるんだろうな」
初めて尽くしだな、と陽気に告げた俺に向かって、相棒は枕をぶん投げやがった。
「笑ってる場合か。これじゃ僕はとても身が持たない」
「大丈夫だ力ト-、次は気を付けるからさ」
「どうだか……君の大丈夫は、当てにならないからな」
顔に命中した枕を手渡すと、相棒はそれを抱きしめて何やら思案した。なんかかわいいな、とその姿を呑気に眺めていた俺に、奴は向き直って言った。
「ブリシト、提案なんだけど、その……入れるのは毎回じゃなくて、時々にしないか」
「時々って、どの程度だ」
「……月一回」
「月一回だあ!?そりゃ殺生だ、力ト-!」
大いに不満を訴えると、相棒は膝に乗せた枕を拳で叩いて言い返した。
「だって!君はいいかもしれないけど、度々歩けなくなるようじゃ僕が困る。特に夜のパトロールにひびくだろ」
「だから次は加減するって!頻繁にってのは無理だとしても、月イチはあんまりだぞ」
「どうせ君は女の子と遊ぶんだから、僕との……行為が少なくたって、別に構いやしないだろ」
「それとこれとは別問題だ!せっかくお前が許してくれたのに、心ゆくまで愛してやれるのがたったの月イチだなんて、そんなの切な過ぎるじゃないか!」
俺の心からの悲痛な叫びに相棒は目を見張り、黙ってまた何か考えた。
「じゃあブリシト、何回ならいいんだ」
「週イチだ!」
「……無理」
「じゃあせめて、月に三回」
「それもダメ」
押し問答を繰り返した結果、俺が大幅に譲歩して月二回で落ち着いた。相棒はまあいいかと納得したようだが、俺はそんな約束をしおらしく守る気はさらさらなかった。
いざベッドに入ればこっちのものだ、口車と押しの一手で、もうちょい回数を増やしてやろう。そう企んでいるのが顔に出たのか、相棒が怪訝そうに俺を見た。
「……ブリシト、何ニヤついてる」
「力ト-、さっきの俺達のやり取りって、痴話ゲンカ……いや、ちょっと夫婦ゲンカみたいだったよな」
いっそうニヤついた俺の顔に、また枕が飛んで来た。
一日休んで出社した相棒に、秘書が一体どうしたのかと心配そうに尋ねて来た。
奴が口を開くより早く、こいつは女とシケ込んでてちょっと痛い目に合ったんだ、と俺が答えた。秘書はあらそう、それはお気の毒と返し、相棒に呆れたような一瞥をくれて仕事に戻った。
相棒は俺の腹に肘鉄を浴びせ、弁解しようと慌てて秘書の側に駆け寄った。俺は腹を摩り、大笑いしてその光景を眺めた。
俺があの女の会社との取引を断ると切り出すと、事情を知らない秘書は、契約違反で訴えられることを危ぶんだ。
だが先方に電話した際に、うちの経営パートナーの意見で方針が決まったと告げると、相手はしぶしぶと承諾し、訴えはしないとの確約を取り付けた。
電話を切った後、そういえばあのスケッチは捨てたのかと相棒に訊くと、今後の戒めとして残しておくよ、と神妙に答えた。
俺なら即破り捨てるんだが、東洋人の発想はやっぱり違うんだなとしみじみ思った。
後日あの女には、薬物法違反で警察の手が回った。
俺達が逃げた後、あのビルに入り込んだホームレスが、人が倒れているのに驚き通報した。駆け付けた警察は女の様子と、グリ-ン・ホ-ネットが襲撃した事実について不審を抱いた。
そして捜査を進めた結果、女の会社が裏で、あらゆる種類の違法な薬を扱う商売をしていたことが明らかになった。
ライバル社にすっぱ抜かれたのは実にマヌケだが、社長室でその記事を見た俺は、ざまあ見ろと快哉を叫んだ。
相棒に新聞を渡し、こういうのを怪我の功名って言うんだよなと笑うと、奴は複雑な顔をして、そうかもね、と返した。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
読んで下さってありがとうございました。デブイデ楽しみ!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )感想励みになります!感謝!!忍法帖規制で短いです
彼曰く、『俺って有名人だから。創造都市でも満月都市でも来光都市でも
善の英雄なんだぜ』と、ふんぞり返っていた。
変なヴァンパイアと変な人間の間に、友情がわずかに生まれていた。
「え、聞いてないの?」
バルドが、つまらなそうにつぶやいた。
「あ、ああ、すまない。考え事をしていた」
「でもホント、この人普通のヴァンパイアとは違うよね」
謝るヴァンパイアを前に、ズバッと魔法使いの女は言った。
盗賊も頷きながら、バルドをみる。
「面白いじゃん、可愛いじゃん?」
その言葉にふんぞりかえりながら、バルドは言い放った。
「そう思うバルドも、十分人間としておかしいと思う」
ヴァンパイアがそう告げると、ほかの二人はくすくすて笑い出す。
ちなみにバルド、という名前を呼び捨てに言えと言いだしたのは本人だった。
最初は『バルドさん』と呼んでいたが、くすぐったい、おかしい、と、さんはやめろと言い付けたので、呼び捨てにしている。
当然だ、あの傲慢なヴァンパイアが、尊敬語で人間の名前を呼んでいる。
□ STOP ピッ(略)すみません、規制で携帯からになりました…。
まとめも避難所も落ちてる?
入れないね
>>410-411 あせって見に行ったら入れた
良かったー
土星に引き続き、ココまで閉鎖されたらどうしようかと
専スレで盛り上がったので投下します
今更なカンジですが別句原作6弦×4弦です
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「平くん、最近ピアスしてないよね」
「んー?」
たまり場になっているおれの部屋で、テレビに向かってコントローラを操作している平くんの背中を見つめながら声をかけた。
目線を彼の右耳に注いで。
右手にスコッチウイスキーの瓶。左手に氷の入ったグラス。
背中を向けたままの平くんはおれを振り返りもしないで生返事。ゲームに集中してんのかな?
彼の右側に腰を下ろして、胡坐をかいて、床に置いたグラスにスコッチを注ぐ。
ちらりと平くんがおれのほうを意識した気配。途端画面からクラッシュ音。
「あー」
「いっつもここでやられるんだよな」
「へー」
コントローラを放り出した平くんがやっとこちらを向いた。
「さっき、なんか言ってなかったか?」
「ああ」
おれはグラスの中身を呷って空にすると、それを床において平くんの肩に手を回した。
一瞬戸惑うみたいな目の色に、なんとも言えない独占欲みたいのがこみ上げてくる。
思わずこぼれる笑みを隠すみたいに平くんの耳元に口を近づけて言った。
「ピアスしてねーなって」
「……なくしたんだ」
「新しいのすればいいじゃん」
「気に入った奴がなかなか見つからないんだよ」
おれの手から逃れるように平くんは距離をとって座りなおす。
それから空になったおれのグラスにスコッチを注ぎ、それを口にした。
ちょっとむせるみたいに咳き込んで、なんか慌ててる風情が見て取れる。
おれの腕がまた平くんの体に伸びて、抵抗で固くなる体を無理矢理引き寄せて、背中側から羽交い絞めに。
睨みあげられても全然怖くなくて、むしろやっぱりかわいいななんて思っておれは舌先で平くんの右耳を舐めた。
「なにしてる」
「んー?」
結構筋肉質で男っぽい体してるくせに、こうやって抱きしめたらおれの腕の中すっぽりサイズとかたまんねぇ。
夢中でおれは耳にキスして。
そのたび跳ね上がる平くんの体を逃げられないように抱きしめた。
……でもそんな風に捕まえてなくても、おれがキスするたびになんとなく従順になってくのが分かる。
こういうとこも、なんかいい。
ちょっとアルコールも入ってるし。
おれはだんだん大胆になって後ろから平くんのシャツの中に手を突っ込んだ。
そしたら流石にやめろって目でおれを見たんだけど、
さっきみたいにピアスの方の耳を舐めてたらおとなしくおれに体を預けてくるし。
こらえるみたいに声を押し殺してるのも分かる。
「ここ、弱いよね」
「……っ」
「まだちゃんと穴開いてるんだ」
おれの腕にしがみつく平くんが、こらえ切れないみたいに声を漏らす。
「ぅ……あっ」
「気持ちいいんだ」
本気で嬉しくなってきて、思わず歌うみたいな口調になってしまう。
抵抗されないうちに前から抱えなおして、押し倒して耳朶を軽く噛んだ。
「……ん、あ」
柔らかい部分を楽しむみたいに唇でもてあそんで、そして舌で強く舐める。
その感触にこっちも気持ちよくなってくる。
平くんが抗議の目で睨む。
鋭い視線のくせになんだか潤んでて、そんな目で見たって全然怖くないよなーって思った。
至近距離で感じる平くんの息遣いは余裕がないみたいに思えて、
それが余計な考えや理性はすべて取っ払ってしまえって、
脳内を支配する欲だけを追い求めていけって言われてる気がしてくる。
「りゅう……すけ」
「ん?」
おれにすがりつくみたいに腕を回した平くんが、やっと聞こえるくらいの小さい声で呼ぶ。
「なに?」
問いかけるおれに、平くんはさっきと変わらず鋭い視線を向けたまま。
「ん?」
もう一回口を開きかけた瞬間、平くんはおれを強く引き寄せてキスしてきた。
ダイレクトに口ん中に舌突っ込まれてかき回されて、その途端おれの中でちょっとだけ残ってた理性がどっか行ってしまった。
畳の上に抱き合ったまま転がって、下になった平くんをそこに貼り付けておれは夢中で舌で応戦した。
さっきお互い飲んだアルコール混じりの息が脳髄を麻痺させる。
熱い口内の温度。平くんのおれをその気にさせる舌使い。
分かってたけどおれは到底この人にはかなわない。
下から突き上げながら、おれは自分の体の上の彼を見つめた。
顔を隠すように俯いたまま、声を押し殺すみたいに唇を噛んでる。
汗ばんだ首筋から手を回して、薄い色の髪の毛をかきあげてやる。
わずかにおれに注がれる視線。でもそれはすぐにそらされる。
確かに感じているはずなのに、なんでこう強情なんだろ。キスで誘ったくせに。
「平くん」
名前を呼ぶとまたちらりとこちらを見上げる。そのままの姿勢で、おれはわざと腰を使う。
「……っ」
そうしてやると、息を吐いて倒れこみそうになる自分を必死でこらえてる。
「気持ちよくない?」
「……」
「痛くない?」
「……」
「なんか、言ってよ」
頭を振るだけで何も言わない平くんの、顎を掴んで無理矢理上を向かせる。
目は潤んでるのに、おれを睨む色の鋭さは変わらないまま。
引き寄せて、右耳を噛む。目線を落とすと耳朶の真ん中にピアスホールが見えた。
そこを舌先でつつくみたいに悪戯すると、抱き締めた体が目に見えてビクリと震えた。
「あっ……あ、……っ」
背中に回った腕が強い力でしがみつく。おれを受け入れる体内もおんなじくらい強くおれ自身を締め付けた。
「平くん、エロいよ」
耳朶を舌で攻めながらおれは言う。
その言葉に平くんは頭を振って否定するみたいな態度。なのに体は全然違うみたいだ。
「すっげぇぎゅうぎゅうしてる」
「……うるせぇ」
やっと返事くれたと思ったら。でもそんなんでもなんか可愛いし嬉しいんだよな。
思わず笑ってしまって、また平くんに睨まれた。けどもうこっちも限界。平くんを抱えて寝かせてのしかかる。
「う、あっ」
角度が変わったせいか苦しげな声を上げる平くんの耳元をまたキスで攻めて、そしたら顰められた眉根がちょっと緩んだ。
なんかホッとする。ゆっくりと手を下半身に伸ばして、確かに反応している平くん自身を掴んだ。
怒ったような顔で一瞬こっちを見るけど、無視して続ける。濡れた先端から擦り付けるみたいに扱いた。
「……んんっ」
平くんがかすれた声をわずかに上げた。余裕のない表情がおれを見据える。きっとおれも同じような顔をしてるんだろう。
浮き上がった腰を押さえつけて、自分の欲を吐き出しにかかった。
自分の目元を隠すみたいに、平くんは腕を顔に回す。それをゆっくり剥がしておれは平くんを見下ろした。目が合う。
「……気持ちいい?」
「……」
頷いた平くんにおれは心底安堵する。
真っ白になりそうな頭の中で、
自分の欲より目の前のこの人に快楽を与えられているかの方が気になっていた。
「竜介」
「……ん?なに」
暗闇の中で、ライターを擦る音がして、その周りだけがぼんやりと明るくなる。
一瞬そこだけが照らされて平くんの顔が浮かび上がった。珍しくタバコなんて咥えてる。煙のにおいがゆっくり漂ってきた。
「穴の中をな」
「え?」
「……ピアスの」
「ああ、うん」
言葉の意味が一瞬分からず戸惑ってしまう。
「そこを何かが通りぬけてく感覚って分かるか?」
「え、……いやわかんない」
おれの答えに、平くんは喉を鳴らして笑ってる気配。
「なんでピアスしてないんだ?って聞いただろ?」
「あ、うん」
「おれはその感覚が結構好きなんだ」
「……」
「他にない感じだし」
「……」
「だからだよ」
平くんの言葉を頭の中で反芻していて急に分かった。
別に深い意味なんてなくて目に付いたから話題にしたピアスのことだったけど、実は平くんはそこがめっちゃ感じるんだってことだよね。
……なんか嬉しい。
またひとつ、これで平くんのことを理解した。
それにしても
「なんかすごいエロいこと言ってない?」
「は?」
「だって、穴の中を通り抜けてく感触なんて」
「……」
平くんが盛大にため息ついた音がした。
それから暗闇の中で立ち上がって、身支度する気配。
あーあ、なんか余計なこと言っちゃったか。元々シモネタあんまり食いついてこないもんな。
とっとと衣服を着けたらしい平くんは、楽器をかついで入り口へ向かう。
本気で帰っちゃうの?
おれは慌ててシーツを腰にまきつけて立ち上がった。足と布がもつれて転びそうになる。
「ちょ、平くん、マジで帰るの?」
しまった!配分間違えて終わりませんでした_| ̄|○
続きます…!
がらがらと開いた引き戸。そこから空を見上げたら満月だった。
真っ暗な部屋では見えなかった平くんの顔が月の光に照らされてうっすら見えた。
入り口に立ち止まって半分振り向いた彼の手をおれは捕まえる。
平くんはおれから目をそらせたまま、何か言いたげに唇を開いた。でも何も言わないで、口を閉じて。
それからゆっくり視線をあげて「じゃあ、またな」って言ってそっと手を引いた。
「うん」って答えたおれにさっさと背を向けて。
平くんの足音が遠ざかっていくのをおれはそのまま見送っていた。
なんだかいつも別れる時は物足りない気持ちになる。
「またな」っていういつもの挨拶を、また会えるんだって変換してちょっと嬉しがったり、本当は何を言いたかったんだろうってちょっと不安になったりする。
それからさっきまでの時間を思い出して、幸せになったりも。昔よく右耳にはまってたシンプルなシルバーがなくなったのに気づいたのって
やっぱおれが平くんのことばっかり見てるからなんだろうな。
なんでだろう?
やった後に相手のことこんなにも考えるなんて、音楽のこと以外にこんなにも執着するなんてのも、普段のおれにはありえない。
切ないけど嬉しい。ため息が出るけどわくわくしてる。
この気持ちの種類はとっくに知ってる気がするけど、今は知らん顔していたいんだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナンバリングミスってしまった
申し訳ありません!
>>413 GJ!
体ら君の強情だけどドエロな感じがたまらんかったよ
やっぱりこのカプが好きだなー
久しぶりにhshsしました、ありがとう
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )前回はLv1で辛かったけど今回は少し長めに!
それを聞いてひとしきり皆に笑われたが、ヴァンパイアはあまり笑わなかった。
というより、困惑して笑えるどころではなかった。
「うん、男に可愛いは褒め言葉じゃないよ、バルド」
「そういう問題ではない…」
おかしいのはバルドだけではなく、類は友を呼ぶという日倭のことわざにある通り、
この二人もヴァンパイアを前に、怖がるということはしなかった。
全く殺気など見せず、常に困った顔をするヴァンパイアを見ているうちに、警戒も薄れたらしい。
話を聞けば、バルドがここ、悪属性の日倭の首都に家を構えているのは、日倭が好きという理由だけ。
ガルズヘイムはベッドやレンガのうちが多いが、日倭はその逆で、
木造に畳や落ち着いた部屋が多く、寝るときは布団を使う。
日差しが入りやすい作りをしているので、
ヴァンパイアにとってはつらいが、少し眠くなる程度で大して害はなかった。
「あ、お前また眠ってる」
バルドが、しっかりしろ、と彼の肩を揺さぶるが、彼はすっかり睡魔に支配されていて、うんうんと何度か頷いてから、ゆっくり立ち上がる。
「…眠い…。あの部屋で寝てていいか?」
あの部屋、というのは例の物置に使われていた部屋である。
バルドはそこを彼の部屋にと与えた。
しかしこの豪華な部屋に、バルド一人しか住んでいないかったらしい。
仲間もそれぞれ家を持っていて、さすがに三日たって、バルドが殺されていないか心配して見に来た程度。
そこにたまたま座って話していたのがヴァンパイアとバルドだった。
「んじゃ寝てれば?」
「…そうする…」
ごしごしと瞼をこする。
半分眠りそうな彼を支えて、バルドが部屋まで連れて行ってやる。
こういうところは意外に世話焼き。
さすが特徴が几帳面なだけある。
その割には物置兼ヴァンパイア部屋は汚いが。
目を覚ましたのは夜中だった。
なんとなく寂しくなって、隣にあるバルドの寝室まで足を運んだ。
もう仲間は去ったあとで、バルドは寝ているかと思ったが、彼は夜更かしが好きだった。
そのおかげでここ三日は夜に話し相手になってくれている。
くれている、という思い方に、モンスターとしての自覚はないのだろう。
「バルド」
「お、起きたか」
バルドはごろりと布団の上に転がって、のんきに煎餅を食っていた。
手元には日倭の文字で書かれた書物である。灯籠の明かりだけをつけて、今まで煎餅を食いながら書物を読んでいたようだった。
「…寂しい、何か話してくれ」
その枕元に彼が座ると、バルドは本を閉じる。
何の本かはわからない、なぜならガルズヘイムヴァンパイアである彼には、ガルズヘイム国以外の文字の読み書きができないからである。
「面白い話してやろうか」
うんうん、と小さくうなずく彼に、バルドは昔語りをしだした。
「あのな、お前知ってる?異世界の噂話。有名なんだけど」
「?」
「この本に書かれてあるんだよ。これは吟遊詩人が記したものでな、異世界から買ってきたんだ」
「?」
「この本に書かれてあるんだよ。これは吟遊詩人が記したものでな、異世界から買ってきたんだ」
その本をのぞくが、いまいちよくわからない彼に、バルドは続ける。
「異世界カルアディアの悪の英雄、ロウッドとその仲間のレインの話。
あくまで噂話程度なんだけど、お前をつれてきた理由がこの本を読んだからってのもある。長くなるぞ、よく聞け」
その言葉に、すっかり頭のさえた彼は、何度も頷いた。
「昔々、まあ、もう二百年も前の話さ。とはいってもこの世界と時間の進み方が違うから、どれくらい違うのかわからない。
ロウッドはいつも一人だったんだと、ロマールの戦士だったそうだ。退治も討伐も暗殺も誘拐もすべて一人だった。
ところがある日突然仲間を連れて旅に出だした。その仲間とは、この世界の人間にあり得ない髪の色と眼をしていたってさ。
ローブを着こんで、精霊の槍をもった、男。それが、ヴァンパイア。と、いう噂。
その二人によって三段階目のあのくそ強いムシュフシュが倒されたのはすげぇ有名な話なんだ!」
興奮気味に話すバルドは子供にでも帰ったかのようだった。
ムシュフシュといえば地方最強モンスターで、三段階の強さがあることは知っている。
最初の段階はあまり強くないが、三段階目は鬼のように強い。
たった二人の人間が、いくらいい装備とはいえ、戦いに挑むのは無謀に近い。
それを倒したというのだから、名前が世界を超えて異世界にまでに知れ渡るのは当たり前だ。
「ヴァンパイアと旅だぜ?で、ムシュフシュとの戦いによって、ロウッドという悪の英雄は大怪我をして、
助からないといわれていた。ところが、たった六日で完治、傷跡さえなかった。
しかも、目の色が青だったはずなのに、赤に変わっていた。
赤の目の色といえばヴァンパイアの特徴だ。それ以降、その二人は二十年は旅をしていたのに、
年齢が全く変わらない。だけどある日突然いなくなった」
「ヴァンパイアと…旅」
彼にとっても信じられない話だった。
確かに周りのヴァンパイアはプライドがとても高く、人間とともに暮らすことや旅をするなんてありえない。
それゆえに、話に深く聞き入った。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )続きます。懐かしいキャラの名前を出しました。インデックスにあるやつです。
426 :
風と木の名無しさん:2011/06/04(土) 02:01:44.13 ID:jJTgdynpO
ヴァンパイア可愛すぎる
シリーズものに入ってるキャラが出てきて懐かしい!
>>421 ヴァンパイアかわいいよちくしょー!
毎回萌えさせていただいてます
里予王求 D30とド荒です
同ジャンル投下は数名の方がいらっしゃいますので
テンプレに基づきサブタイトルをつけようと思ったのですが
どうにも思いつかなかったのでトリップをつけました。
シリーズ物ではありませんが同ジャンル過去作品一覧 31-415 37-60 44-401 50-501
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
しゃちほこドームでのバイトは、時にドラマを見てしまう。
滅多にない事だけれど。
あ…盛野さんだ。ラッキー…
正直こういう所でバイトするのって、選手目当てだったりする。
働いてみれば試合も見れないし思っていたのとは全然違うけど、
たま〜にこういう、裏ですれ違ったりするのが嬉しい。
まぁ、何食わぬ顔で通り過ぎるだけなんだけど…仕事中だし、相手は試合前のピリピリした時だ。
握手だサインだなんてのはもちろん禁止。
角を曲がった所で、つい隠れて盛野さんを目で追ってしまった。
トイレか。
ん?向こうから来る青いのは…
盛野さんとド荒がトイレ前ではち合わせた。珍しい光景に笑ってしまう。
盛野さんに「俺が先」と言われたド荒が「漏れちゃう」のポーズをする。そうだ、確かこの二人仲良いんだ。
微笑ましいやりとりについ、目が離せなくなった。
そういえば最近不調続きの盛野さん…よかった、笑顔だ。
結局盛野さんが先に入って、出てきたとたんにド荒が慌てて入って行った。
…あれ?
盛野さんが帰らない…。
ド荒を待ってる…?
ドアを開けてまだ居る盛野さんに大げさにびっくりするド荒。二度見、三度見、四度見あ叩かれた。
真顔で何も言わない盛野さん。……おいド荒……お前、出番だぞ。
僕は仕事を忘れ一人壁に隠れながらグッと拳を握り、二人を見ていた。
知ってるんだ。
見ちゃったもん。
泣いてなかったけど、泣いてた。
毎日毎日、終わりには沈んだ顔。次の日の朝には笑顔になって頑張っていたけど。
知ってるんだ。
「お前昨日バク転成功したな」
昨日を切り捨てて笑顔になる事がどれだけ大変か。
切り替え?日々は続いているのに。
「ずっと失敗ばっかりだったのに」
応援の声、罵声、野次。色々聞こえる。きっとお客様が思っているよりはるかにここにはよく響く。
期待に応えられない日々は、どんどん積み重なって盛野さんにのしかかっていた。
ド荒は一生懸命ジェスチャーで応えている。
「練習?ふーん。お前が?」
差し伸べられる手も握れなくなっているのかもしれない。
それでも、できる、できると暗示をかけて。
「練習したんだ。あっそ。……俺も練習したいな」
練習してるじゃないですか。あんなに。
…それは、二軍で、ってこと?
「…。」
お前なんか落ちちまえ、この役立たず。足引っ張るんじゃねぇ
そんな声は毎日聞こえる。
それでも監督は盛野さんを落とさない。
落とさない理由は、わかる。だけど、もどかしい気持ちにもなる。
落ちない事の有難さと、いっそ落ちてしまえたら…そんな挟間に盛野さんは居た。
黙ってしまった盛野さんを、ド荒はジッと見ていた。
そしておもむろに手を伸ばし、盛野さんの頭に触れる。
いいこ、いいこと、撫でた。
その手はすぐに払われた。
「ずうずうしく触ってんなよ人の頭を。」
めげないド荒は盛野さんを指差すとその手を拳にして自分の胸に当て、トントンと叩いた。
そして、親指をたててgoodのポーズをした。
(おまえの きもちは おれが わかってる だいじょうぶ)
「……あっそ。お前にわかられてもね。」
なにいってんだよ おれがいるだろ〜??
とでも言うように、ド荒がずうずうしく盛野さんの肩を組んでもたれかかりお腹を叩いている。
あ、叩かれた。
あ、蹴られた。
大げさに痛がり、指を刺して抗議するド荒。
蹴られた足を引きずり、骨が折れたとアピールする。
相手にされないとわかると、盛野さんを指差して、泣くポーズをして、プーと馬鹿にして笑う。
当然また蹴られた。
盛野さんを指差し、自分を指差し、腕をパンパンと叩く。
(おれは おまえより うでがある)
盛野さんと自分を交互に何度も指差し、バッティングのポーズ。
(かわりに うってやろうか?)
「やっぱ天狗だわ」
よかった…盛野さん、めっちゃ笑顔だ…。
二人はもつれながら、叩き合いながら、グラウンドへと出て行った。
その日の三打席目、盛野さんは数試合ぶりにライトスタンドへ奇麗なアーチを描き、
その打点が決定打となりチームを勝利へと導いた。
ヒーローインタビューに答える彼に、スタンドからは拍手と割れんばかりの声援が降り注いだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
打てますように。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )感想嬉しいです!マイカプですがよろしくです
「が、それから百年たって、名前も外見も、吟遊詩人が語るそのムシュフシュを倒した英雄そっくりの人物と、銀の髪と赤い眼をローブで隠した男二人がまた旅に出た。
それからまた何十年か単位でいなくなっては現れるを繰り返した。人間は百年たてば大抵死んでるさ。だが吟遊詩人は人間ではない、
一説では神と関係があるとまでもいわれている。まあそこはいい。その吟遊詩人が見る限り、何度も現れるその男二人は、いつまでも老いない。意味わかる?」
「ヴァンパイアが、人間を助けるためにヴァンパイアにした…生命力は桁違いだから」
頭に浮かんだのはその答えしかなかった。
助からないとされた大怪我が、たった六日で治ることはまずあり得ない。…ヴァンパイアでない限り。
「当たり。だけど本人たちは今でも旅を続けていて、素性は不明、しかも仲はすごくいいときた。
けど同性結婚もできる世界なのに、結婚しない。さてなんでだ」
ズビシと人差し指を、ヴァンパイアの目の前に持っていく。
ヴァンパイアは少し身を引いて考える。
「本人たちにその気があるのであれば、ヴァンパイアに戸籍はなく、人間のほうは時間が過ぎされば死亡とみなされて、戸籍抹消されるから、できないだけ?」
人間の世界に詳しいわけではない。
ただ、人間が持ってきたガルズヘイム製の書物を持ち去って静かに読んできたので、ある程度のことは知っている。
彼は読書が趣味だった。
大抵のヴァンパイアは、人を殺し、血を啜ることを快楽とするが、彼は全くそういうところがなかった。
だから、いま目の前に獲物であるはずの人間がいるのに、素直に話を聞いているのだ。
「それも当たり。すごいよな、人間とヴァンパイアがそこまで心をかよわせる。
確かにヴァンパイアという種族はかなり美形が多いな。それだから傲慢でうざったい性格してるんだけど、
お前は、見目も綺麗なんだけど、性格おかしい。気が弱すぎる。普通人間に謝罪だのお礼だのしないぜ?仲間も不思議がってたけど、よくそんなんでボスクラスモンスターしてたな」
「バルドは、寂しくならないのか?」
一つ間をおいて、バルドは返事をした。実に間抜けな声だった。
「あ?何が」
ヴァンパイアが人間と心をかよわせることはとても珍しいが、その話が本当なら…。そう思い、ヴァンパイアはバルドの手を握った。
「だって、そのヴァンパイアも寂しかったんじゃないか。だから人間を助けて不老不死にしてまで一緒にいたかったんだと思う。バルドは、
こんな広い屋敷に一人でいて、いままで寂しくなかったのか」
頭を垂れて、ヴァンパイアは続けた。か細い声で。
「私は、あのダンジョンにいてもどこにいても、寂しくて仕方なかった。先ほど目が覚めた時も、近くに誰もいなくて寂しかった」
孤独なヴァンパイア。
どこにいても、たとえ取り巻きがいても、人間が恋しい。
人間になりたい。
その話の内容に出てくる二人はきっと楽しい人生を送っているはずだ。
死ねないというつらさも、二人でなら乗り越えられるかもしれない。
それすら羨ましい。寂しがりやで甘えん坊。
まさにその言葉がしっくりくるような性格をしていた。
しゅんとして目を伏せる彼に、バルドは手を伸ばして頭を軽くなでた。
それはまるで、眠れない子供をあやすかのようだった。
「俺は平気。でもお前が寂しいなら、一緒に寝る?」
軽い冗談のつもりだった。
すぐに否定されていると思っていたが、ヴァンパイアの出した答えは違っていた。
「うん」
目を若干輝かせて、頷いた。
すぐに握った手を離して、ヴァンパイアは隣の部屋から布団を持ってきた。
ちゃっちゃと広い部屋の、バルドの隣に布団を敷く。
「面白いやつ、普通なら人間と一緒に寝られるかなんて思わない?」
そう切り返してきたが、ヴァンパイアは十秒くらい考え込んだ後、すぐに答えた。
「むしろ嬉しい」
「変なの。そうだ、お前って名前あんの?」
突然の言葉に、ヴァンパイアは記憶を探るが、生まれて気がついて現在まで、名前を決められたことはなかった。
そういえば先程の書物に載っていたとされるヴァンパイアには名前が付いていた。
ということは、自分で決めたか、人間につけられたかのどちらかだ。
名前がほしい。仲間がほしい。一緒に話ができる相手がほしい。
「ない、だから」
「?」
「バルドがつけてくれないか」
「ん〜。本によるとさ、ヴァンパイアの名前、ロウッドってやつがつけたらしいんだ。まあこれもあくまで噂。最初から名前あったのかもしれないけど、
雨の日に仲良くなって、それでレインって名付けたんだと。レインは、その名前をえらく気に入っていたそうだ」
ヴァンパイアは思わず外を見た。
開けられた窓からは、雨が入る兆しもなく、桜が顔をのぞかせていた。
満開の桜を見たのは、初めてだ。
拾った本に、日倭にある桜は美しいと、挿絵入りでかかれていた。その絵とほとんど一緒、だから桜だと思った。
雨は降っていないし、快晴とまでも行かない。
「俺、日倭の血が入ってんだよね。祖父が日倭人で、祖母がガルズヘイム人>
小さいころから祖父が刀の手入れしてるの見て育ってさ。もうその頃すでに家族はガルズヘイムにいたんだけど、
日倭のよさとか語るんだ。悪人の多い街なのに、雰囲気はほかの国をしのぐものがあるって。だから俺、日倭の名前つけるけどそれでいい?
ガルズヘイム人なのに、日倭の名前だけど本当にいいの?」
更に頷いて、ヴァンパイアはまっすぐ相手の目を見た。
日倭の名前というと、漢字が多い。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
新359むそー6の早熟→叩き上げ。801要素低めのBADEND。人が死にます。
一応叩き上げの列伝ベースですが99%デタラメです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )トウガイ、ドコマデモワタシノジャマヲスル...
爆発にも似た轟音と共に門扉が吹き飛んだ。
俄かに速まる鼓動を感じながら、すい、と手を上げる。浮き上がった剣が己を守るように音もなく整列した。
木っ端だの鉄屑だのが混じった砂煙を風が払った後には、予想した通りの姿があった。
九尺にも届かんばかりの巨躯。その身すら超えるほどに巨大な螺旋形の槍を、片手で軽々と振り回す強靭な筋肉。額に巻いた布の下から覗く鋭い眼光もあいまって、その姿は歴戦の勇士さえ圧倒する。
もっとも、今さら恐れなど抱きはしない。そう言い切れるだけの時間を共にしてきた。
何度も肩を並べて戦った。厳つい相貌とは裏腹に、無用の争いを好まぬ、心根の優しい男であることも知っていた。どれほど近くにあろうとも、その槍が己に向けられる心配など必要なかった。
……昨日までは、の、話だ。
軽く息を吸うと、喉がひくりと音を立てた。何か言おうかと思ったが、やめた。普段通りの声を出せる自信がなかった。
彼の喉元を見つめながら、悟られぬよう息を整える。顔を直視することはできなかった。彼はきっと、己が予測した通りの表情をしている。
「なにゆえ魏を裏切った、鍾l会殿?
いや……鍾l会」
ああ、やはりだ。表情を窺う必要さえない、思った通りの声音。また、喉が塞がる感覚がした。
彼には理解できるはずもない話だ。多分、一生。
幼少の頃から、およそ思い通りにならぬものはなかった。人の心を除いては。
天賦の才と、その才を磨くに申し分ない環境の双方に恵まれ、何より人一倍に努力した。
いかなる賞賛を受けようとも飽き足らず、ただ貪欲に高みを求めた。己は選ばれた人間だと信じて疑わなかった。いつかこの手で、全てを手に入れるのだと。
必然的に強烈な反感を買ったが、相手にしなかった。努力もせず他人を貶めるばかりの人間による中傷は、いっそ優越感を煽りさえした。
仕える主すら、のし上がるための踏み台と考えていた。己の自尊心を満足させる程度には優秀だったから、今の主に不満はなかった。
そんな主の下で、彼と出会った。
最初から気に食わなかった。ちゃちな実績を重ねてようやく出世した、時代遅れの泥臭い人間。そのくせ、皆から一目置かれている。歴戦の将、彼がいれば安心……位の上下を問わず、時には敵将までもが彼を高く評価する。
無性に腹が立った。あんなつまらない男より、己の方がずっと優れている。すぐにでも蹴落としてやると、そう思った。
何かにつけて敵愾心をあらわに噛みついた。何気ない言動に難癖をつけ、少しの失敗にも嫌味を浴びせ、機会があれば出し抜こうと企んだ。顔を歪めて罵倒してきたら、存分に嘲笑ってやるつもりだった。
だが、事態は思いも寄らぬ方向へと進んだ。
彼は、そんな己を全面的に受け入れた。
言いがかりでしかない要求もすんなりと呑み、自らの非を認めれば率直に詫びる。危地に陥った己を我が身も顧みず救出に来ておいて、礼の一つも言わぬことを咎める風もない。早すぎる出世を妬むどころか、勉強熱心だと手放しで褒め称えさえした。
予想もしなかった反応に戸惑い、次いで妙な苛立ちを覚えた。己の敵対的な姿勢にも誠意で応える彼が理解できなかった。
時を重ねるにつれ、彼と組むことが増えた。何度も行動を共にするうちに、いつしか彼の態度にも慣れた。
実際、彼はまったく理想的な同僚だった。確かな実力を持ちながら決して出しゃばらず、雑用から汚れ仕事まで、他人が厭う役割も率先してこなす。不遜極まる己の物言いからも的確に真意を酌み取り、心得た配慮を見せる。
知らず知らず、彼と共に在ることを快くさえ思い始めていた。
ずっとそのままでいられたならば、ある意味では幸せだったのかもしれない。
だが。
ある時、不意に気づいてしまった。
いつの間にか彼にすっかり心を許し、それどころか頼り切ってさえいる己に。
「旧式」だの「私の方が優れている」だのといったお決まりの悪態が、己の本心から遠く乖離してしまっていたことに。
大袈裟でもなんでもなく、その事実は己の存在そのものを揺るがすほどの衝撃だった。
己は誰よりも優れている。他人は全て、野心を叶えるための踏み台に過ぎない。そう信じる強烈な自尊心こそが、今日の己を成立せしめたのだ。他人を認めるなど、信じるなど、頼るなど、断じて許されることではない。
躍起になって彼を否定しようとした。だが無駄だった。彼はどこまでも誠実で、勤勉で、謙虚で、どれほど不当に罵られようと己を思いやった。周囲が彼に与える高評価にも、何一つ否定できるものはなかった。他ならぬ己自身が、それを否定できなかった。
嫌いたいのに、見下したいのに、どうしても理由が見つからない。いっそ無視したくても、それすら叶わない。彼を意識するたびにたまらなく苦しくて、身体が二つに裂かれてしまいそうだった。
まったく、彼は理想的な同僚だった。……あまりにも、理想的にすぎたのだ。
このままでは壊れてしまう、と思った。そうならないために、もはや思いつく手段は一つしかなかった。
彼という存在を、現実から消してしまえばいい。そうすれば、もう二度と、こんなに苦しい思いをしなくて済む。
「と、う、がい……」
絞り出すように、彼の名を口にする。途端に膨れ上がった激情が喉を押し上げた。何かわめき散らしたい思いに駆られ、すんでのところで意味のある言葉にすり替える。
「あんたばかりが、魏で評価される。
あんたが、私の栄達を閉ざした! だから!」
他に言いようはなかったのか、と、頭のどこかで冷静な己が囁いた。これでは、ごねて暴れる子供そのものではないか。
理由なら用意してあった。己の才を天下に示す。全てを手に入れる。昨日までの主や同胞に問われたならば、鼻で笑ってそう答えるつもりでいた。
決して間違ってはいないはずだ。そのためにこそ、己は兵を挙げたのだから。だというのに、今はその理由が白々しく思え、かといって全てを告げるにも虚栄心が邪魔をした。
「それが、理由か……?
そのために、魏を……司l馬l昭殿を裏切ったというのか」
彼の声は揺れていた。怒りの色はない。ただ困惑しているようだった。
くっ、と、喉を鳴らす。歪みきった声音をもはや取り繕う気にもならなかった。端から無理な話だったのだ。彼を前にして平静を装おうなど。
「……そうだ。
ずっと、あんたが邪魔だった。あんたがいる限り、私は上へ行けない!」
言葉と共に、勢い良く腕を突き出す。放たれた剣が一直線に彼へ飛んだ。迫る数本の剣を、彼は手にした槍を操り叩き落す。一本が彼の右上腕を浅く掠めた。
「なんと……」
ひどく苦い呟きが耳を掠めた。奥歯を強く噛み締める。聞きたくなかった。また、胸が軋む。
振り切るように、鋭く剣を操った。薙ぎ払われた槍が剣をまとめて弾き飛ばす。そのまま彼が踏み込んできた。腕を引き、剣を身に引き寄せながら大きく後退する。
あの巨大な槍の破壊力は凄まじい。一撃でもまともに喰らったが最後、命があったとて満足に立つことも叶うまい。防御は突き破られる。致命傷を負わぬためには、ひたすら逃げ回るしかない。
空を切った横薙ぎの攻撃に続けて、切っ先がこちらへ向く。思いきり地を蹴って横へ跳んだ直後、すぐ脇を巨大な塊が風を纏って過ぎた。
着地と同時に腕を振り、がら空きの背に向けて剣を放つ。彼は身をひねり、手甲で刃を強引に跳ね返した。さらにもう一撃。振り下ろした腕に従って上から剣が襲う。一本が髪を掠め、もう一本が肩当てを傷つけた。
もう一度。手を横に払い、横合いから切りつける。構え直された槍に阻まれ、金属同士のぶつかる嫌な音が響いた。一瞬拮抗した後、槍が剣を振り払う。
一旦手を止め、再び後退。追って距離を詰める彼の顔面めがけて剣を一本叩きつけ、受け止めた槍が視界を遮った瞬間に指を鳴らした。残りの剣が一斉に彼へと突き刺さる。腕や脚が切り裂かれて血がしぶき、くぐもった呻きが漏れた。
確かな手応え。今さら、背筋が震えた。噴き出した血が、彼の血が、赤い。
槍を握る手に力がこもる。構えが変わった。防御から攻撃。わずかに反応が遅れた。我に返り、咄嗟に後ろへ跳んだ己を追うように、槍が大きく振り抜かれる。
躱した。そう思った瞬間、腹に重い衝撃がきた。平衡を欠いた体が宙を飛ぶ。しばしの浮遊感の後、何か凸凹のある物に叩きつけられた。ず、と崩れ落ちる。背に擦れるざらついた感触は、木の幹か。
「は……っ」
頭がくらりと揺れた。ぶつけた背は鈍い痛みを訴えているが、腹はそれほど痛くない。風圧で飛ばされたらしい。
彼の気配が迫る。体勢を立て直す時間はない。地に伏したまま、ただ、顔を上げた。
目の前に、槍の先が突きつけられた。彼そのもののように、武骨で重く、鋭い金属の塊。こんなもので刺されたら痛いどころではないな、と、改めて思った。
「降伏を勧告する。これ以上愚行を重ねるな」
静かな声が告げた。
喉が震えた。吸い込んだ息が鋭い音を立てる。
「愚行、だと……?」
「よもや、分からぬほどに分別を失ってはいるまいな?
現状も展望も見えぬまま武器を取り、安定しつつある国をいたずらに掻き乱す。それを愚行と呼ばず何と呼ぶ。
……姜l維は討った。将兵の大半は既に投降している。反乱は、もう終わりだ」
言われて初めて、周囲の静けさに気がついた。剣戟が聞こえない。足音さえしない。もう、残っているのは己一人なのかもしれない。
槍がすい、と引かれた。代わりに彼が一歩距離を詰め、膝をつく。つられて視線を上げ、今日初めて彼の顔をまともに見た。
酷い有様だった。鍛え上げられた体のあちこちに生々しい裂傷が開き、流れる血が肌も服も赤黒く染めている。全て、己が負わせた傷だ。
けれども、見下ろしてくる瞳には一片の敵意も、憐憫すら浮かんではいなかった。ただ、深い哀しみと……おそらくは、己を止められなかったことへの自責。
ああ、やはり彼は今も、己を敵だとは思っていないのだ。刃向かわれ身を裂かれようとも。名を呼び捨て地に叩き伏せようとも。
歯を食いしばっても、顔が歪むのを止められなかった。熱い塊が胸から喉元までせり上がって呼吸を塞ぐ。
「そ、んな……そんな目で、私を見るな……!
私は、有能だ……選ばれた人間なのだ……」
震えて上擦った声は、己のものとは思えないほど弱々しかった。
見なければよかった。辛辣な言葉よりも、彼の眼差しが深く心を抉る。
「確かに、お前の才は飛び抜けている。ただ、焦るばかりでは得られぬものもある。
小さくとも堅実な成功が、道を開く……お前は、それに気づけなかった」
目の高さを合わすためか体勢を低くし、己の目を真っ直ぐに見据えながら、彼は諄々と語りかける。
「だが、まだやり直せる。ここで降れば、再びの仕官も許されよう。お前は若い。時間は十分にある」
縫い止められたように動けない。せめて目を逸らしたいのに、視線すら動かない。
「だ、れが」
頭がくらくらと揺れる。熱い塊は今にも喉から溢れ出しそうだ。堪えて、必死に睨みつける。
「誰が、あんたの言いなりになど……! 言ったはずだ、あんたがいる限り、私は」
「ならば自分は去ろう」
「…………は?」
すっと、頭から熱が引いた。
今、彼は何を言った? 言葉の意味を把握し損ね、ただ呆然と彼の顔を見る。
「お前の復帰を待ち、暇を願い出る。自分との接点が消えれば、比較に縛られ目が曇ることもあるまい。今後は己の器を正しく見定め、着実に上を目指せばよい」
彼は呆気ないほど淡々と告げた。部下に任務の内容を伝える時と同じ、少しも揺らぐことのない声。
空白になった意識に、彼の言葉が徐々に染みて形を成してくる。それにつれて、急速に体から体温が失せていった。
己が再び国に仕えるならば、代わりに今の立場を捨ててもいいというのか。
彼が今まで歩いてきた道。何十年もの時を費やし、心身に負った無数の傷に耐えながら、誠実に、愚直に、地道に、一歩ずつ足元を踏み固めて、必死の思いでここまで築き上げてきた、功績を、名声を、地位を、信頼を、
つまらぬ意地を張る反逆者一人のために、全て棒に振っても構わない、と?
がくり、と体が平衡を崩した。視線を落とすと、地面についた手が震えていた。
違う。そんなつもりで言ったんじゃない。こんなことを望んでいたわけじゃない。全てを捨てろなんて言っていない。
――なら、何を望んでいた? 彼がどうすれば満足できた? そもそも、彼から命さえ奪おうとしていたのに?
体の震えが止まらない。一度下がった熱が、再びふつふつと湧き上がってくる。熱くて、苦しくて、痛くて、どうすればいいのかわからない。
「ふっ……」
「戦乱が終息しつつある今ならば、自分が役目を退こうとさほどの問題は……」
「……ざけるなァ!」
腕を素早く振り上げる。同時に、全身のばねを使って跳ね起きた。
「ぐっ!」
押し殺した悲鳴が漏れた。剣は過たず彼を斬りつけたらしい。それを確認する余裕もなく、もつれる足で転がるように距離を取る。
「お、お得意の、自己、犠牲の、つもりか? ぎ、偽善者が、わ、私を、あ、哀れむ、な!」
泣いているわけでもないのに、しゃくりあげるように喉が詰まった。
彼はゆっくりと立ち上がった。かすかに顔がしかめられ、足元がぐらつく。脇腹の辺りが赤く染まっていた。緩慢な動作で槍を拾い上げ、こちらを向く。その瞳は、変わらず真摯に己を見据えていた。
「侮辱に聞こえたならば詫びよう。だが、決して哀れんでなどいない。犠牲のつもりもない。
お前は才気に溢れ、未来への大望を持ち、常に研鑽を惜しまぬ努力家でもある。大成の暁には、いかばかりの人物となるか……自分は、その末を見たい。他ならぬ自分が前途を妨げるのであれば」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」
狙いも何もない。爆発した感情のまま剣を叩きつけた。これ以上、彼の言葉を聞きたくなかった。
なぜ、どうして、そんなことを言える? 身勝手な動機で殺意を抱き、反乱まで起こした相手に。
嘘なら、口先だけの世辞なら、それでよかった。彼の言葉に嘘などないと、本気だと知っているから、辛い。
「その薄汚い口を閉じろ、忌々しい旧式が! あんたが、あんたさえいなければ全てうまくいったんだ! あんたの存在自体が邪魔なんだよ! 消えるというなら、この世界から消えてしまえ!」
声の限りにわめき散らしながら、無茶苦茶に腕を動かす。攻撃とも呼べない攻撃を、彼は最小限の動きで防ぎながら声を張り上げた。
「冷静になれ! 分かった、もう何も言わん。個人的な憎悪は後で受ける。だが、今は降れ。これ以上抵抗を続けるならば、反逆者として討つ!」
耳鳴りがうるさい。目の前が赤い。体が軋んで、ばらばらになりそうだ。ああ、やはり、一刻も早く彼を消してしまわなければ。早く早く早く早く!
「だ、まれ……黙れぇっ! 旧式ごときが、その体で私を討てると思うな! 目障りだ、今日こそ処分してやる!」
力の限り腕を払う。受け止めた槍と剣との間に火花が散った。彼の表情がわずかに歪む。
「やむを、得んか……!」
槍が剣を払いのける。剣が己から離れた隙に、彼が踏み込んできた。後ろへ身を投げ出すと同時に、掬い上げるように槍が振りかぶられる。足元ぎりぎりを穂先が薙いだ。風圧に押されるまま転がって間合いを稼ぐ。
起き上がりざま、バン、と地面を叩き、剣を潜らせる。察知した彼は己に向けて振り下ろしかけた槍を地面に突き刺し、真上に跳んだ。一拍遅れて、無数の刃が噴き出し、彼の足を掠める。だが、傷を負わせるには至らない。
ふらつく頭を押さえて立ち上がったのとほぼ同時に、彼も着地して槍を引き抜いた。
攻め手を緩めてはならない。彼の重く小回りの利かない攻撃とは逆に、己は軽く素早い攻撃を得手としている。彼の体力を考えれば、二発当てた程度で致命傷には至るまい。
攻撃を続けようと腕を引いた時、彼の左手が動いた。黒い塊が放られる。まずい。即座に剣を引き戻し、己を庇うように展開する。直後、目の前で爆発が起きた。
爆風と共に、熱が、煙が、無数の破片が全身を襲う。それらをできる限り剣の腹で遮りながら、吹き飛ばされまいと足を踏ん張る。
まともに喰らいさえしなければ、爆破の衝撃自体は大したものではない。雑兵はともかく、名のある武将ならば……
ひやり。そこまで考えた時、背筋に戦慄が走った。
そうだ。確かに、爆弾自体の威力は強くない。それを彼はどう使っていた? 己は知っていたはずだ。
「あ……」
理解した時には、既に遅かった。
身を引く暇さえなかった。眼前に迫る気配。黒煙を割って現れた槍の切っ先を、現実感もなく、ただ、見つめて、そして。
大きな衝撃が襲った、はずだ。音もひどいものだっただろう。だが、何一つ感じ取れなかった。全ての感覚が灼きついたようにただ、白くて。
気がつくと、目の前に彼が立っていた。景色は動いていない。どこかに叩きつけられて止まったらしい。視線を落とすと己の腹に槍が埋まっていたが、麻痺したのか痛みは感じなかった。ただ、少し寒いような気がした。
「自分の技量では、ここまで……恨むな、とは、言わぬ」
重く、感情を押し殺した呟きが聞こえた。落ちかかる瞼をこじ開けて映した瞳は、やはり痛ましげに沈んでいた。自身の傷よりも、相手の痛みを思う色。
唇がわなないた。笑いたいのか泣きたいのか、己自身にも判らなかった。
どうして、彼がそこまで気に病むのだろう。彼は何も、悪いことなどしていないのに。
出会ってから今まで、何一つ善いものなど返さなかった。生意気な口ばかりきいて、何かにつけて反発して、差しのべられた手にも不満ばかりぶつけて、ついには彼の存在自体を否定して。
それなのに彼は、全てを許して、受け入れて、譲り渡して、今もなお、己の理不尽な言い分に怒りもせず、自らの無力を責めている。任務のためには殺すべき私情を入れてまで、己を生き残らせようと心を砕いて。
支援
ああ、だからいけないのだ。
いつもいつも、無条件に優しくして。散々突き放したのに、ためらいもなく助けようとして。失礼な態度を咎めもせず全て受け止めて。
彼がそんな風だから、揺らいでしまう。甘えてしまう。彼には勝てないと認めたくなってしまう。そんなことは許されないのに。
己は誰よりも有能で、孤高で、絶対の存在でなければならない。他人の優位など認めてはならない。ましてや、己とは何もかもが違う、武骨で古臭い人間など。
せめて、嫌ってくれたらよかった。己を妬む大勢のつまらない人間と同じように、悪意を向けてくれたら。そうしたら、こんなに苦しむこともなかった。嫌いにならせてもくれないなんて、酷すぎる。
だから、やっぱり、
全ては、彼のせいなのだ。
不意に彼が膝を折った。彼の体にも、限界がきたのだろう。
早く手当てしてくださいよ。いつもの皮肉な調子で、声に出さず呟く。さっさと養生しないと、皆の迷惑でしょう。……あなたは、まだ必要な人間です。
地面に膝をついたまま、彼は槍に貫かれた己を見上げ、小さく笑った。
「自分と出会うことがなければ、大成の道もあったろう。
次の生が、もし存在するならば……自分と関わることなく、幸福を手にするよう願っている」
全てを諦めた笑みだった。
ざわり。体の奥で、何かが蠢いた。
ここで終わってしまうのか。本当に、他の道はなかったのか。
まだ、彼に何も言っていない。彼の言葉をきちんと聞いていない。感情的に突っかかるばかりで、まともに話をしようともしなかった。それなのに。
ゆっくりと暗くなる視界は、彼の顔をもう捉えられない。わずかに残る感覚さえ、砂がこぼれ落ちるように消えてゆく。
何か、言わなければ。もう何もかもが遅いとしても、せめて最期に一言だけ。今まで言えなかった、本当のことを。
あるだけの気力をかき集めて、口を動かす。薄く開いた唇が、かすかに震えて。
ぶつり。意識が、途切れた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イツカコウナルヨカンハシテイタ
身長は漢代の尺(1尺=約23cm)に従って記述しました(“彼”の身長は200cm)。
繰り返しますが99%くらい嘘っぱちです、戦闘も含めて。史実に至っては掠りもしていません。
これでもかなり詰めましたが、長々と失礼を。
半生です。仮面ライダー大図、竪琴
時系列は18話くらい。
初めてなんでうまくいくかどうか…
多少エロ、多少出血ありです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
448 :
竪琴:2011/06/09(木) 22:13:01.34 ID:El8+0eK00
「ハーイ、お目覚めかな?後藤ちゃんだっけ?こんばんは」
軽い話口調で声をかけられた。
ここは…このソファーは、俺の部屋か…?
確か会長の部屋でケーキを食べて、それから急に眩暈がするほどの眠気が襲ってきて…
会長がハッピーバースデイって叫んで…
あれ?なんで叫んだんだ?大体何の話をしてたんだ?
頭が痛くて思考が纏まらない。
「あれ?まだ朦朧としてる?ちょっと多かったかな…、俺覚えてる?」
忘れられる訳無いだろ。こんな大男。
「…伊達さん…?」
なんでこの人が俺の部屋に?
449 :
竪琴:2011/06/09(木) 22:15:09.89 ID:El8+0eK00
「あっ覚えててくれたんだ。ん?状況がわかんない顔してるねぇ。そりゃそうだ。」
おい、俺体の自由が利かないんだが、まさか縛られてるか?
「俺が倒れたあんたをここまで運んだんだぜ、まぁ男の割りに軽くて助かったけどよ」
「…ありがとうございます、なんで俺縛られてるんですかね。」
「そりゃ、暴れられたら困るからさ。いくら軽くっても暴れる男を担げないぜ。」
運ぶために縛ったのか。そんなことするぐらいなら会社の床にでも転がして置いておけばいいものを。
横たわっていたソファーから上半身を起こし確認してみる。
縛られているのは手首と足首と膝か…。
450 :
竪琴:2011/06/09(木) 22:18:17.89 ID:El8+0eK00
「それはご迷惑をおかけしました。解いてくれませんか。俺はもう大丈夫ですから…」
お帰りください、と続けようとしてドンっと胸をつかれまた倒れこんでしまった。
「いやいや、これからご迷惑かけるのはこっちだから。」
「それは、どういう…」
こちらの質問にはまったく答えず、伊達さんは部屋を勝手に見回りはじめた。
「寝室こっち?おおーデカイ鏡。意外とやらしいねぇ。風呂とトイレはこっちかな?1LDKか。ひろいねぇ。ライドベンダーの隊長さんも結構もらってるね…」
451 :
竪琴:2011/06/09(木) 22:25:12.28 ID:El8+0eK00
「…伊達さん…?」
なんでこの人が俺の部屋に?
「あっ覚えててくれたんだ。ん?状況がわかんない顔してるねぇ。そりゃそうだ。」
おい、俺体の自由が利かないんだが、まさか縛られてるか?
「俺が倒れたあんたをここまで運んだんだぜ、まぁ男の割りに軽くて助かったけどよ」
「…ありがとうございます、なんで俺縛られてるんですかね。」
「そりゃ、暴れられたら困るからさ。いくら軽くっても暴れる男を担げないぜ。」
運ぶために縛ったのか。そんなことするぐらいなら会社の床にでも転がして置いておけばいいものを。
452 :
竪琴:2011/06/09(木) 22:32:22.00 ID:3j673HVQO
やっぱり失敗したあげくサルになってしまいました。
修行して出直して来ます。
スレ汚しすいませんでした。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )名付け編です。
男の場合は苗字があるが、苗字はいらないから名前だけほしいと伝えると、バルドはしばらく天井を眺めた。木の天井が見える。
そのあと窓の外に目をやり、桜が満開なのを見て思いついた。
夜桜というものは暗闇に白く映えてとても美しく、それとヴァンパイアはよく似ている。
暗闇によく映える白い肌に、赤い眼。
「夜桜」
「え?」
「こう、漢字でただな…こう書くんだ。読み方は『よざくら』。今どき全国の文字の読み書きができないと人間と一緒に暮らせないぞ。で、だ、女みたいな名前だな、いや?」
すらすらと、そばに置いていた羽ペンにインクをつけて、手元にあった和紙に漢字を書いていく。
夜桜と名付けられたヴァンパイアにとって、全く理解できないし、読むことすらできない文字であるが、なんとなく、その形が綺麗なものに映った。
「全然。じゃあこれからそう呼んでほしい」
そこでバルドはにっこりと笑った。
「おー、よく似合う名前だ。気の弱いお前には儚い桜の名前はぴったりだな」
「桜って儚いのか。いつまでも咲いているわけではないのか?」
それを聞いて、ぷぷぷと笑いだすバルド。何か変なことでもいったか、と戸惑う夜桜に、バルドは続けた。
「お前本当に世界のこと知らないんだ、桜はすぐに散るんだよ。だから美しいんだ。だけどまあ、お前にはすぐに散ってほしくないなー」
またもぐりぐりと頭をなでてきた。
お前にはすぐに散ってほしくない、という言葉が妙に嬉しい。
すぐ顔に出る夜桜は、軽く腕で顔を覆い隠した。
その下に見えるのは、少々赤くなった整った顔立ち。
それでもバルドは夜桜の頭をなでづけた。
「だってお前、素直に言うと可愛い。邪気なんてほとんどないし、そりゃ人殺しはだいぶしたみたいだけど、そのせいで憂鬱になってたんだろ?嫌々人を殺すヴァンパイアもおかしいおかしい」
(馬鹿にされている気がしないでもない)
だが、この男もまた憎めなかった。お互い変わり者同士、うまくやっていけそうな気がする。
「っと、もうこんな時間か」
懐中時計を取り出し、眠気を感じたので、バルドは時間を確認する。
時間は三時半だった。
眠くもなる時間だ。
「俺さー、一か月くらいここで滞在しようと思うんだ」
一つあくびをすると、布団にもぐりこんだ。
「冒険に出ないのか」
「あー、なんか討伐とか退治とかいろいろやってたら金が有り余るほどたまって。それにお前がいるし?寂しがり屋の夜桜を放っておくことできないじゃない?」
「さ、寂しがり屋」
「一カ月したら、あのレインのようにローブ羽織って行け。ガルズヘイムの魔法使いくらいには見えるかもしれない」
その言葉が意味するのは、家に置いていかないで、冒険者としてついて来いということだった。
「じゃあ灯籠消すからお前も寝れ」
「起きたばかりだというに」
「仕方ないな。そうして三日も話にきてるもんな」
何か考えたそぶりをすると、布団をめくりあげる。
バルドは両手広げて、にっこり笑った。
「添い寝してやろうか?今度は俺の小さい頃の話でもしてやるよ、そのうち眠っちまうけど」
どうせ来ないと思ってからかうつもりでやってみたが、相手の反応は違うことだった。
「…添い寝…」
それだけ言うと、夜桜はもそもそとその腕の中におさまってきた。
意外に身長高いと思っていたが、腕の中にすっぽり収まる。
バルドの身長は百八十五くらいはあるが、夜桜は百七十五くらいだ。体格差もあって、ずいぶん小さく見えた。
思わずバルドも口元が緩む。
それにしても、どれだけ寂しがり屋なのか。
一体何年生きてきてこうなったのかはわからないが、人が恋しいというあたり、相当孤独に耐えてきたのだろう。
「添い寝とか。一緒に暮らすとか。話すとか。憧れていた。人間は冷血だという仲間もいたけれど、温かい。
仲間のほうが冷血なのが多い」
「お前そんな素直だと変な人間さんに食われちゃうぞ。主に俺とかに」
「?食うとは?人間は血を吸わないのに」
そう切り返されて、言葉に詰まる。
十八禁な発言をしかけたが、やめてうやむやにした。
見つめる瞳の無垢なこと無垢なこと。
「バルドの昔話は?」
「ああ、そうそう。俺は生まれも育ちもほとんどガルズヘイムなの。ただ、祖父が日倭だったから日倭が好きで、
初めて冒険者として日倭の都市に立ち寄った時はさすがにびっくりしたな。ま、ガルズヘイムでも日倭人は沢山見たけど、
日倭と、あと長唐の人間はかなり浮いていたよ。この世界に長唐はないからそのせいだけど」
何度か頷いてるのが感触でわかる。軽く抱きしめてやると、しがみついてきた。
「あー、それで、冒険者デビューして数年たったころね。俺、すげーモテるのね。驚いたね、宿に泊ってると男女問わず訪ねてきて、
もう有名になった頃には、いい加減寝かせてくれと思ったほどだ。たぶんモテるのは祖父がそう言う体質だったからだけど、
祖父は男に興味ないからって同性からの告白は受け入れてなかったんだと。俺その逆。別に男でも行けるし。男役でのみなら。
好みのやつなら誰とでも寝たよ。ぶっちゃけバイだ。だからさ、夜桜」
「ん」
夜桜はすでに眠くなりかけている。
人間の心臓音が心地いいらしく、話もちゃんと聞いてるが、うとうとして目をつむったまま聞いていた。
「お前も気をつけろよ。主に俺とかに」
一瞬びく、と震えたような気がしたが、すぐに元の位置にとどまる。
「そういう意味か。襲ってきたら鈍器で今度こそ私のほうから殴りつける」
相当タコ殴りにされたことを根に持っているのか、鈍器でと言い出した。
普段のヴァンパイアといえば素手で長い爪による攻撃か、魔法のどちらかのパターンになる。
これでも夜桜はヴァンパイア。素手で十分痛い。
鈍器なんかで襲われたら相当痛い目に会うはずだ。
転がっているストーンクラブで殴られたら、死ねないのに延々と殴られ続けて苦しい羽目に陥りそうだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )続きます。長くてすみません…。
>>428 新作キタ――(゚∀゚)――!!
なぜか不調がシンクロしてるこの一人と一匹が
はやく調子が上がってくれますように
>>455 かわいいなぁ吸血鬼
毎回楽しみにしてます
>>455 寂しがりやの吸血鬼かわいい〜!
しあわせにおなり〜。レインも好きです。
なんか投下しづらくなってしまったのかねえ
さるさんもあるし、忍者までw
といいつつ今だに忍者がなんなのか良く分からないけど、
投下したいけど出来ないなんて人がいなくなると良いな。
464 :
風と木の名無しさん:2011/06/12(日) 08:21:37.17 ID:x8jyaRIj0
>>463 自分も忍者わからん。
なんかエラーになる人が多いみたいで、
投下も少なくなったような気がする。
あれ?ちゃんとsageたつもりなのに。
今度はさがってるかな。
またageてしまったらごめん。
>>464 忍者はLvが足りてないとものすごい連投規制と改行規制があるから、
長文投下は難しい
アニメ虎&兎の兎→虎です
10話あたりまでのお話です。
エロコラネタは受スレより拝借。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
この感情がなんなのかわからない。
変わった事と言えば、おじさんに自分の話を聞いてほしくなったという点だ。
マーべリックさん達以外の第三者に話す日が来るなんて思わなかった。
ちょっと前まで考えた事も無い、むしろ拒絶していた事だったのに。
今まで集めたたくさんの資料を見せたりもした。
おじさんに知ってもらうと不思議と心が軽くなる気がして、なんだか昨日も喋りすぎた気がする。
この間、おじさんに娘が居るとか奥さんが亡くなっているとか驚くような話を聞いた。
指輪をしているから結婚しているのかなとは思っていたけれど…
単純なおじさんの事はほとんどわかっているつもりでいたのに、
そんな根本的な事を知らないという事に驚いた。
おかしいな…なんだか腑に落ちない。
どうも納得がいかなくておじさんを目で追うようになった。
毎日顔を合わせてずっと見ていても、やはりよくわからない。
「ぁ、バニー?なんかさ…なんかお前、すっごいこっち、見てない?」
「見ていますけど、それが何か?」
「いや、何か?って、気になるだろぉ!!なんなんだよ一体!」
「観察しているだけなんで、あなたは普段通り過ごしていただければ結構ですよ。」
「観察ぅ?!日記でもつけてんのかぁ?」
露骨に変わる表情、抑揚のある話し方。
雑な事務作業といい加減な作業日報。
この人はヒーローとしての仕事の時以外は本当にいい加減だ。
まぁヒーローの時もいい加減…といえばいい加減だけど。
感情に素直で剥きだしで、まるで子供だ。
やっぱり単純でわかりやすい。気のせいか…?
「タイガー、バーナビー。これ、今日のファンレター。バーナビーまた増えてるわよ!」
事務の女性が段ボールを抱えてきた。
「重い物を持たせてしまってすいません。言って下されば僕が取りに…」
「いいのよこのくらい。タイガーのは1通しかないから軽いし大丈夫よ。」
「ありがとうございます。今度からは僕に任せて下さい。」
「あら気がきくわね。ありがとうバーナビー。はい、タイガー。」
「んあー」
僕の前に色取り取りのかわいい封筒のファンレターがいっぱい入った段ボールが置かれる。
おじさんの前には無機質な定型外の茶封筒が一通。
「ぐ…またこいつか…」
おじさんの顔色が変わる。そういえば、似たような封筒を受け取っているのを以前見た気がする。
ファンレター事態が滅多に届かないから覚えていた。
それにしてもおじさんあての手紙なんて、何が書いてあるのか気になってしまう。
なのに、一向に開けようとしない。
「読まないんですか?」
「んー…まぁな。バニーちゃんこそ。そんだけあったら早く読まないと明日になっちゃうぞ〜」
あれ…これって話を逸らしたのか?
そういえばこの人、よくこういう風に話をすり替えている気がする。
…僕とした事が今まで気付かなかったなんて…
おかしい。
それどころか、言いながら封筒を机にしまってしまった。
絶対におかしい。
「気になるんですけど。」
「へ?」
「気になります。おじさんのファンレター。」
「な、なんで?」
「気になるんです。何が書いてあるのか」
「いっ今まで気にした事無かったろぉ!俺のよりそのいーーっぱいあるファンレターの方がたっくさん楽しい事書いてあるぞぉ?
ほらっこれなんか絶対かわいい女の子からだろ!よかったなぁーバニーちゃん!」
段ボールから一際ファンシーな封筒を手に取りぶんぶんと振る。もうその手には乗りません。
「僕はかわいい女の子より今はあなたの方が気になるんです。」
「へぇっ??!」
おじさんがなんだか目を白黒させている隙に手を伸ばして引き出しを開け封筒を奪う。
「だっ!!ちょっ!待てバニー!!」
おじさんが机に乗り上げて僕の方へ来た。そんなに嫌なのか。ますます気になる。
「ちょっとタイガー!子供じゃないんだから!!」
「返せ!俺のファンレターだぞ!!」
「おじさんが隠すのが悪いんですよ。」
肘でおじさんの顔を押しながら封筒を開ける。
中から手紙と、一枚の印刷物が出てきた。
「やめろっ!!見んなって!!」
「『ワイルドタイガー様 相変わらず僕はあなたが好きです』……男性の名前ですね」
「っだぁああああああああ」
「…!」
印刷物を見て、絶句した。
「見るなって言ってるだろお!!」
呆然としていたらおじさんに取り返された。
「おじさん…今の…」
「ぁあっ忘れろ!」
忘れられるわけがない。
そこに映っていたのは、あられもない姿のおじさんだった。
元の写真は見た事がある。
確か昔ワイルドタイガーの旧スーツがビリビリに破れた時があった。
敵によってではなく、崖から滑り落ちたか何かの自損事故だ。
翌日の新聞はこぞってそれを笑いの記事にしていた記憶がある。
もっとも、僕が見たいのはそんな記事ではなく、わずかでも手がかりになるような犯罪者の記事だったから、邪魔でしか無かったけれど。
その写真がCGで合成され、色々足してあり…とても卑猥な物になっていた。
…強烈だな…
「送り主は男性…でしたよね?」
「ああああーーー忘れろっ忘れろっ」
「何度か貰ってますよね?いつもこんな感じなんですか?詳しく話してください。」
「う…いいじゃんおじさんの事なんて気にすんなよバニー」
「おじさんの事が気になるのは僕の勝手ですよ。とやかく言わないでください。」
「あんたたち!そろそろトレーニングの時間よ。」
「あっそう?!トレーニングの時間だって!!おじさん先行ってるぅーー!!」
「ちょっと、どうせトレーニングなんてしないくせに逃げないでください!」
封筒を持ったままトレーニングルームに向かうおじさんを追いかける。
脚で僕に勝てるわけないのに。
階段を駆け上るおじさんを捕まえようと手を伸ばした途端、足を滑らせたおじさんが落ちてきた。
ちょうど伸ばしていた腕でダイレクトに支える。
「……何度お姫様抱っこさせたら気が済むんです?まったく。まさかあなたが僕のお姫様なんですか?」
「!…ぅるせぇよ…降ろせっ」
おじさんの頬が赤くなる。嫌味が効いたみたいだ。
「おじさんが逃げるからいけないんですよ。」
「お前が追いかけるからだろうが!いいから降ろせよっ」
「逃げませんか?」
「逃げてねぇよ。走るだけだ」
「じゃあ降ろしてあげません。早く詳しく話してください。」
「だっ!!」
トレーニングルームまでそのまま歩く。おじさんが足をばたつかせた所で、僕にとってはいい運動です。
しっかり封筒を抱きしめたままもう二度と見せないという態度だ。
「お前なぁ…誰にだって、話したくない事の一つや二つあるんだぞ。」
僕は話したのに。話したくない事を話したのに。
あれ、なんで話したいと思ったんだろう…
「…おいバニー?聞いてんのか?」
おじさんだから
この人なら
そう思っている?
「…おーい…無言で見降ろされてもアレだぞ…ぁーあと、とりあえず早くトレーニングルームに行こうぜ!
あとできれば降ろしてほしい!!」
おじさんの茶色の目がキョロキョロする。
この人はなんなんだろう。
なんで僕はこの人に自分を知ってもらいたくて、この人の事をなんでも知りたいと思うんだろう。
「あなたはなんなんですか?」
「やっぱり俺のお願いとか聞いてないよねー…あーそう…」
おじさんは不思議だ。
この人は一体、僕の…何?
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
兎はあの顔で王子様キャラを装っているにもかかわらず、こういう事に関しては
自分がとんでもない行動でとんでもない言葉を口走っていると気付いていない
新ジャンル『無自覚スーパー攻め様』だと思っております。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )しんげきのきょじん 団長×兵士長です
この部屋に入ってくる時,彼は決まって青白い顔をしていた。
夜の闇の中で足音を殺し,ゆっくりと扉を開ける。
懺悔をする罪人のように。あるいは,処刑を待つ殉教者のように。
初めて来た夜,彼は酒に酔ってひどく荒れていた。
真夜中の訪問者に戸惑う俺を睨みつけるように見上げ,
男はいけるかと乾いた声で尋ねてきた。
――さぁ,経験がないからやってみないとわからない。
酔っ払いの戯言だと思い,俺は軽くあしらった。
気難しい部下の珍しい姿に,微笑ましいとすら思ったはずだ。
しかし,それは大きな誤りだった。
彼が俺の夜着の胸元をつかみ,強い力で引き寄せた。
そのまま首筋に噛み付かれて,ようやく彼の行動の異常さに気付いた。
――おい,一体どうしたと言うんだ。
肩を掴んで引き離すと,彼が俺の手を払った。
――あんたが俺をここに連れてきたんだ。こんなところに!
彼の目は,暗く燃えていた。後悔,憎悪,絶望。
全てが織り交ざり,血の気のない顔の中で,瞳だけが異様な光を放っていた。
その日の夕刻,一人の兵士が死んだという報告があった。
異形の怪物に脚を喰われ,多くの血を失い,震えながら息を引き取ったという。
将来を期待された青年だったので,俺も名前は知っていた。
その兵士は,彼にとって初めての部下だった。
光る目を見て,俺は全てを理解した。
潔癖な彼が,なぜ自制を忘れるほど酒を飲んだか。
俺を責める口振りで,なぜ自分を傷つけるようなことを望むのか。
最強と呼ばれるにはあまりにも繊細な心を持ちあわせる部下に,何と声をかければい
いか俺は迷った。
「哀れむならアイツを哀れめ」
彼は吐き捨てるように言った。
――左手の癖が抜けていない,あんなグズは連れて行けない。
出兵前の訓練で,彼は断言した。それでも戦闘人数の確保のためだと他の者に説得さ
れ,半ば無理やり押し通す形で参加させることが決まったのだ。
彼は,俺が彼を拾い,兵団に入れたことを詰った。
それは司令官クラスの者なら皆知っている事実だ。
しかし,彼が真に責めているのは俺ではない。
兵士を戦地に連れて行った自分自身に,我慢できないのだ。
――俺がアイツを連れていったんだ。あんな危険な場所に。
悲痛な叫びが聞こえるようだった。
俺から手を伸ばしたのか,再び彼が噛み付いてきたのか,もう思い出せない。
小柄な体を抉じ開ける様にして抱いた。
ときおり跳ねる腰を宥めるように撫ぜた。
最後まで,お互い一言も声を上げなかった。慰めも赦しもそこにはなかった。
ただ白い背中を眺めながら,涙を流さずに泣くのだなと思った。
その夜から,彼は俺の部屋に訪れるようになった。
裁いてほしいのか,罰してほしいのか,俺は尋ねない。
強くて脆い部下の,唯一の逃げ場を奪う気にはなれなかったからだ。
今朝,婚約したばかりの女性兵士が命を落としたという。
彼はまた来るだろう。唇を噛んで,拳をきつく握り締めて。
本当は自分がどうしたいのか,俺はわかっている。
同時に,それが不可能なことも,誰より深く理解している。
だから今夜も,俺は彼を抱く。
――俺がお前を連れてきてしまった。こんな場所まで……。
言えない言葉を飲み込んで,不毛な夜を繰り返すのだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ ) 改行失敗しました…読みにくくてすみません
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )感想ありがとうございます!嬉しいです!!
とは思ったが、この、天敵であるはずの人間の腕の中で静かに眠りかけている気の弱いヴァンパイアにはそれができるかどうか。
「くつろいでる最中に家の中で殴りつけるのだけはよしてくれよー」
ケラケラと笑ってみせる。
優しいその声に、夜桜はバルドを見上げた。
だがすぐにバルドの胸に顔をうずめた。
「…そんなことしない…、まだまだバルドと話もしたい、暮らしたいし、
人間の生活にいつまでいられるとかわからないけど、その本に書かれていた二人のように、いつまでも…仲良く…。仲…」
と、途端に声が小さくなった代わりに、寝息が聞こえた。
「おい、夜桜、よざ…おお、寝てる」
完璧に眠っている。
軽く、夜桜の額に口づけをしてみた。
灯籠の明かりを静かに消すと、そのままバルドも眠りに入った。
そういえば、誰かと一緒に寝るのは久しぶりだ。
結構心地いいものなのだと改めて認識する。
朝目覚めたが、夜桜は夜行性のせいか、起きる気配がないので、布団に彼を寝かせたまま、バルドは風呂に入ることにした。
湯船につかると、温かいお湯によって体も起きる。
(そういえば夜桜ずっと風呂入ってないな)
腹や胸や腕には無数の傷跡があり、今までどれほど戦ってきたか思わせるものがある。
筋肉は隆々としていて、逞しい。
それに女受けしそうな顔立ちで英雄ときたら、宿を訪ねてくる女も後を絶たないわけである。
(なんだっけ、ヴァンパイアはニンニクと水とサンザシと十字架と銀が苦手?)
苦手なもの多いなあと思いながら、湯船から出て、バスローブを着こむ。
食事を作るべく台所へ向かう。
バルドはガルズヘイム人だが、食事は日倭のものが好きだ。
特に甘いものが好きで、ケーキよりも饅頭が大好物だったりする。
(夜桜は饅頭食ったことないんだろうなー)
食事を作りながら、饅頭を一個頬張った。
「味噌汁にー、あ、やべ、味噌がなくなる。タイガーバターもなくなる。白飯炊いてー」
ごそごそと棚を漁ったところに、気配がして振り返ると、眠そうな顔をした夜桜が立っていた。
瞼をこすりながら、近づいてくる。
「早いじゃん、おはよう」
味噌を取り出すと、台所に置いた。鍋はすでにお湯を沸かしている。
「…もう一度…、もう一度したい」
「あ?どうした寝ぼけてんの?」
「…!あっ、わっ、私は、いや、その」
「?」
何をあわてているのか、夜桜は顔を真っ赤にして、たじろいだ。
「なんか変だけどどうしたんだよ」
「その…夢を見て…」
「夢?」
どうも夢で変なものを見たらしいのはわかったが、とりあえず朝食できるまで待っていてくれと、夜桜に頼んでちゃぶ台の前に座らせた。
「お前飯食えるっけ?この三日間何も食ってないけど平気なの?」
ちゃっちゃと用意するが、作った飯の量は一人分。これを分けることになるが、あとは茶菓子で腹を満たせば問題ない。
が、ヴァンパイアという種族は血しか飲まない。ので、夜桜はいらないと首を振った。
それより気になるのが、顔を赤くして今にも湯気が出そうなくらいに、下を向いている夜桜だ。
やっと茶と白飯とたくあん、味噌汁を用意すると、朝食が始まった。
「なんだよ、どうしたよ?」
「名前、ありがとう」
「これくらいどうってことねーし」
もしゃもしゃとたくあんを食らう。
相変わらず低姿勢の彼に、バルドは気にせず相手をしていた。が、どうも様子がおかしい。
「夢…、私はおかしいのかもしれない」
「なんの夢見たの」
「私が眠りにつくかつくかないかの時に、額に唇の感触がした。悪くないと思ったが、これは…、夢だと思うのに、先ほどから熱が止まらない」
思わず箸でつかんだたくあんを落とした。
ぺたりと音がして、たくあんはちゃぶ台に落ちた。
「…あんだって?」
「その、正直よくわからないけど、…よくわからないんだ。夢の中ではバルドは私の額に、キスして。これが欲求なのだろうか、そうだとしたら私はおかしい」
昨夜、こっそりと口づけしたことを夢だと思い込んでいるらしい。
たくあんを拾い上げると、白米の上に乗せた。
「…夜桜ってさ、女とやったりとかはしないの?」
「え」
「いや、何そのウブな反応。今どき人間でも珍しいぜ。だから、女とやらしーことしたことあんの?」
耳まで真っ赤になる夜桜に、確信した。
経験が全くないのだと。
「あっ、あるわけ…、二百年生きてきたけれど、そんなことあるわけないっ」
「二百年!?」
ある意味すごい。
味噌汁を飲みながら、すっかり真っ赤になった夜桜を見つめた。
(二百年生きてきて孤独で寂しい女経験なし。うーん、むしろ長生きしたからこそ寂しがり屋なのか?)
「よ、よく考えれば昨日もおかしかった!!バルドの腕の中で熟睡してしまうなんて、ヴァンパイアだったら普通しない、しないのに、私は変なんだ。
確かに私は寂しがり屋かもしれない、けれど、誰でもいいだなんて思ってない。話せる相手は、バルドだと楽しいし、私のことも気遣ってくれるところもあるし。
平気で添い寝までしてくれるなんて、私に全く警戒していない。そのせいか、やけに心が許せる」
素直にすべてを話す夜桜に、ちょっとしたいたずら心が芽生えた。
彼は自分を妄信している状態で、恋愛か友情かわからなくなってきているのだろう。
もちろん恋愛だなんてバルドも夜桜も軽く考えていない。
バルドはともかく、夜桜は全く経験がないうえに、恋愛すらろくにしたことがなかった。
「よっし」
飯をすべて平らげると、バルドは夜桜の顎をつかんで引きよせた。
目の前にバルドの顔がある状態で、夜桜はとても驚いているようだった。
「賭けしよう、賭け」
「賭け?」
「その感情が恋愛なら俺の勝ち、その感情が一時の気の迷いなら俺の負け。俺が勝ったら家事全てお前にやらせるし、
頼みも何でも聞け。ただし一カ月な。俺が負けたら、お前の好きなこと何でもしてやるよ。こっちも一カ月な。
答えが出るまで一週間待とう。どうだ?」
しばらく考え込んで、一週間の間に答えが出るものなのかと思った。
確かに一時の感情なら、熱はすぐにさめるだろう。
さめなければ、どうなるのだろう。
ぐるぐると考え込んでいるうちに、夜桜はすっかりパニックに陥った。
「大丈夫、手出しはしないから、な、無理やり抱いたりなんかしないしない」
「ほ、本当か?」
「ああ、でもまー、これくらいなら」
と、唇が唇に軽く触れた。
それが何を意味しているのか、一瞬思考が固まった夜桜はわからなったが、唇が離れた時、思いっきりバルドを突き飛ばした。
バルドは柱に頭をぶつけたが、すぐに起き上がって笑って見せた。
「!!!!!!」
「いてて。まあ、まだ俺に気があると決まったわけじゃないもんね、そりゃ拒否するよな」
「別にそんなことはどうでもいい!かっ、賭けとやら、乗ってやろう。ただし一時の気の迷いだ、これは、間違い…ない…と思う…よ!」
だんだん最後のほうに行くにつれ、言葉が弱々しくなっていくが、夜桜はその賭けに乗ってしまった。
何せ恋愛をしたことのない夜桜が、経験豊富なバルドに勝てるはずがなかった。
直感もかなりあるバルドには、もう答えはわかりきっているというのに、悩む姿が面白くて、ついつい意地悪をしてしまった。
(でも…夜桜が、俺に恋愛感情があるとすりゃ面白いよな)
そう、面白い。
嬉しいじゃなく、面白いのだ。
夕方になると、バルドは街に買い物に出かけてしまった。
調味料と食糧がないからだという。
ついていくと言ったのに、目立つと悪いからと、夜桜は連れて行ってもらえなかった。
当然だ、ヴァンパイアが街に出没したと分かれば、警備員が九人は余裕でやってくるだろう。
バルドならそれくらい蹴散らすことはつらいことではないが、夜桜のためによくないと判断してのことだった。
夜桜は、暮れていく空を見つめ、自室兼物置の布団の上で、体育座りをしていた。
まだ心臓がバクバクしている。
ファーストキスなのに、それをいともたやすく奪われてしまった。しかも、まだ好きだとも決まっていない、人間の男に。
いいや、そんなことはどうでも良かった。
ただ、口づけという行為が、好き者同士ですることを知っているがゆえに、バルドがふざけてやったのか、それとも何か意味があるのかとずっと考えてはため息をついた。
(一時の感情なら…私の勝ちだ。何をしてもらおう。ずっと話を聞かせてもらおうか。それともどこかに連れて行ってもらおうか。異世界にも行きたいし、
特にロマールは行ってみたい。この世界の街すべて案内でも楽しいかもしれない。…うん、そこら辺だ。まず人間のように冒険に出たい)
特に血を吸ってやるとか、こき使ってやるという感情はない。
当然血を吸わないと生きていけないが、四日ほど前に十分吸血したばかり、あと一カ月は吸わなくても平気だ。
一緒に遊んでもらいたい。一緒にいてもらいたい。一緒に異世界に冒険に出たい。一緒に、ずっといたい。
(寂しい)
ごそ、と、バルドの部屋を訪れて、敷きっぱなしの布団に寝転がった。
バルドの匂いがして心地いい。昨日寝たときの安心感を思い出した。
(あんなに心地よかった眠りは初めてだ)
それから夜まで、バルドは帰ってこなかった。
もちろん酒場で久しぶりに会ったなかま友人たちとたまたま飲んだだけであるが、ずいぶん待たせてしまったと反省しながら手土産を持って家に帰る。
がらがらと豪華な家の戸をあけ、大きな声を出した。
「おーい、ただいまー」
しん、と、大きな屋敷からは何も声が上がらなかった。
「夜桜ー?」
自分の部屋に戻ると、なぜか布団の上で夜桜が爆睡していた。
とても心地よさそうな顔をして寝ている夜桜の寝顔はとても無垢で、可愛らしい。
(本当にヴァンパイアなのかなー、なんかとのハーフなんじゃねーの?)
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )レインの回より短くします。レイン覚えてくださってありがとうございます!!
自分でサイトでも作れば?
481ウザいよ
楽しみにしてる人いんのに
いやでもさすがに連投し過ぎのような
このスレだけで、5/28、5/30、6/3、6/5、6/11、6/13と6本
しかもだいたい2日開け
トリップくらいはつけた方がいいと思う
>>484 いつから長編駄目傾向になったんだか
つか調べてるとかキモい。掲示板池
>>486 いつからも何も、昔の方が長編の連投はフルボッコだった
傾向はわからんが、眺めてて、文句言われてるから駄目なのかな〜と
思うと、なんかが長文連投でも文句言われてなくて、誰か特定の個人が
気に入らないと文句言うのかなぁって見てた。
同じ書き手が、同じカプで、多レス、間隔を空けない投下、←これが2スレほど続く
と、だいたい叩かれる。自サイト作ってそこでやれ、と。
公共の設備を占領して、「公共の設備だから自分が使っても問題ないだろ」と言うのと似ている。
そんなに長編がNGなら、読み切り推奨とか書いとけばいいじゃん
このままじゃなんのためのスレなのかわかんないよ。
この誘導って意味あるんかね
読み専だけどまったく占領されてるなんて感じないよ
気にせず投下すればいい
廃れるより投下が多い方がずっといい
ただしケチ付けられないようにID付けてくれ
擁護レスの方が不快な言葉遣いなのが・・・
ジャンルそのものの心象が悪くなるから気をつけた方がいいよ
ところで、もうすぐ新スレの季節ですね。
申し訳ない事に私は建てられる状況ではないので、可能な方にお願いしたいです。
長編はたくさんあるけど、今までの様子からすると意見が出るのは投下感覚が短い物だけのようです。
これを機に長編投下は「一週間空ける」とか明確なテンプレを決めるのもいいかもしれませんね。
>>397 それだったら空ける日を一日二日にしてトリップ徹底の方がいい
テンプレ2
_________
|┌───────┐|
|│l> play. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
∧∧
( ,,゚) ピッ ∧_∧ ∧_∧
/ つ◇ ( ・∀・)ミ (` )
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| ┌‐^──────────────
└──────│たまにはみんなと一緒に見るよ
└───────────────
_________
|┌───────┐|
|│ロ stop. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
ピッ ∧_∧
◇,,(∀・ ) ヤッパリ ヒトリデコソーリミルヨ
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| |
└────────────────┘
誤爆です
失礼しました
乙!
スレ立てにくい状況の中
>>501おつあり
長編も短編も、興味があれば読む、興味なければヌルー
いままでもそうしてきたし、自分はこれからもそうするし
そんな訳で字書きさんたちにはこれからも良質な萌えを期待
いつも萌えをありがとねえ、これからもよろしくねえ
君が好きだった
だから無防備に向けられた君の背にためらいなく刃を突き立てた
君は振り返ることもなくあの暗い井戸に落ちた
水道が引かれ使われなくなった裏山の井戸
板で蓋をし重り石を乗せてしまえばきっともう二度と開けられることはない
冷たい石の井戸の側面に頬ん寄せる
石の隙間から冷えた空気がわずかに漏れてくる
君の苦しげな声も
助けを求めているのか?私への呪詛の言葉が?耳を寄せた
“あい……し……てる……”
なんだって
“……愛して…る”
誰を
“愛している”
やめろやめろやめろやめろやめろやめろ
鮮明になる言葉近くなる声
刺され井戸に落とされ閉じ込められ
それをした男に愛を囁くこの男はなんだ!人ではないのか?
私の愛した人は井戸で変容したのか
それともあの人は井戸に落ちてはいないのか
どちらにせよ今ここに閉じ込められているモノは人ではない化け物だ
逃げなくては逃げろ逃げるんだ
そして逃げた脱兎の如くに
それっきりあの井戸には行かなかった
長い年月の後死を前にして私はひどく穏やかだ
妻と子供たちとその伴侶、たくさんの孫たち
ああなんて……
「愛している……」
その瞬間あの井戸が脳裏に浮かぶ
全てを理解し私は苦しみと後悔の中生涯を閉じた
なんぞ?
506 :
風と木の名無しさん:2011/06/17(金) 01:02:44.97 ID:4dPfdfRGO
>>504 山に井戸…?
湧水を樋で引いてくるとかじゃなくて?
飲用なら井戸の方いいんじゃ?
放射能で閉鎖されちゃった某村も、ある意味山に井戸。
テンプレもないし、タイトルもない
どっかからのコピペなんじゃないのか
>>501乙
埋めがてら、中途半端に書いたものを供養させて下さい。
オリジナルで高校生
演劇部女装中男子×サッカー部
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「長い髪に、…ほら、パンツも女物なんだよ」
恥ずかしげにはにかみながら、裾を摘んで持ち上げられたスカート。
その下にはスラリと伸びた白くて細い脚。
全体的に透けていて、レースの縁取りがされた三角の生地。
サラサラのプラチナブロンドが頬に当たる。
サランだかなんだかいう材質の、腰まであるカツラ。
化粧で目鼻立ちのくっきり強調された顔。
瞼まで突き刺しそうに伸びた睫。
赤い唇。
華奢な作りの体。
絢爛豪華な鹿鳴館スタイルのドレス。
レースのパンツ。
パンツからちょっとはみ出てる金玉。
舞台の最奥の控え室。
全員着替えが終わって、役者、音響、大道具、クラスのみんなは荷物をごっそり持って、緞帳付近でてんやわんや。
そんな中、テーブルに押し倒されたメイドのオレと、シンデレラの意地悪な姉2。
周りは現代の脱ぎ散らかされた制服と校舎。
劇の最初に延々シンデレラを罵倒する、そこそこ台詞があるコイツと、「おかえりなさいませ」の一言だけで笑いを取る為の出落ちのオレ。
硬質な美人の意地悪な姉2が誰かと、文化祭前から騒然となった数日前が懐かしい。
それが今、何故こうなった。
世界観が滅茶苦茶だ。
「おま…、遊んでる場合じゃないだろ、本番もう…」
「意地悪な姉なら一人居れば十分」
そういって笑ってみせる顔は、そこらの女子よりよっぽど綺麗で可愛い。
シンデレラは、クラスで一番可愛い当馬子よりも、こいつがした方が似合ってたろうに。
その意地悪な姉2が、オレの質素な紺のメイド服の裾へと手を入れ腿を撫でる。
ついでにパンツまで引き下げにかかる。
ちょっと待て。
こんな冗談シャレにならない。
「ちょ、マジで」
「あー、やっぱり受井っていい筋肉してるよな。サッカー部だろ?毎日走ってるもんな」
明らかにパンツと部活は関係ないし、何故強引に脱がしにかかるのか。
「パンツと部活関係ねぇだろ」
「知ってる」
いつもは無臭の癖に、部活帰りには偶に化粧品の良い匂いもして、女子みたいに細いと思っていた攻山。
その肩を押し返して、案外ちゃんと育った男の骨格だと知った。
舞台に立つとき以外は猫背で俯き加減で小さいイメージだったのに、抱き合えばそう変わらない身長だとも今知った。
「みんな、お前の長台詞…待ってるの」
「知ってる」
演劇部万年色白貧弱で大人しい攻山を、からかうために作られた、それはクソ丁寧に長い長い長台詞。
全部間違えずに言えるか賭の対象になってる。
5分以上ある台詞を、一度も咬んだり間違えないくらい舞台好きなんだろう?
「好きだよ」
心の中を見透かされたような言葉。
舞台以外でそんな台詞をいう奴だったのか。
ヌルリと自分の舌へと攻山の舌が重なる。
今日の舞台、初めて攻山へ賭けたのに、本人居なきゃ掛け金どうなんだ?
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンガオオクリシマシタ!
梅がてら、サイトと逆カプになってしまったのをっと。仮面ライダー大図 腕パン
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
どうしてこんなことに−AGは呆然とベッドに押し倒されていた。
何も悪いことはしていないハズだ。アソクの気に障ることをいった覚えもやった覚えもない。
グリード相手だからと人間相手よりちょっとは、キツいあたりをしたことはあるかもしれないが
それがどうしてこのようなことになるのか、ちょっと意味がわからない。
仕事が終わって部屋に入ってきて、なんだか知らないが急に押し倒された。
ベッドに頭を打ち付けて、文句を言おうとした口をアソクにふさがれる。
舌先まで入ってきて抵抗する前に、ぐいぐい攻め立てられてよくわからなくなる。
舌先が触れる部分全部が熱い。どうにかなってしまいそうだ。
おとなしくやられる気はないのだが、アソクに睨まれるとそうもいっていられない。
何度か抵抗を試みたが、ギロッとあの目に睨まれて身動きがとれないのだ。
正直男相手にナニとか個人的にかなりどんびきなのだが、
あの瞳でじっと見つめられると、抵抗することがまるでいけないことのように思えてしまう。
それぐらい威圧する勢いでのしかかってくる。なにより下手に抵抗すると刑事さんの身体に
なにかあったらとついつい自制してしまうのだ。
「AG」
名を呼ばれて顔をあげる。にぃっと笑うアソクと目があった。
「俺以外のことを考えるな」
グリード、欲望そのものの名を持つだけあってアソクが欲望をむき出しにすればそれだけで気迫がある
。
圧倒的な王者の瞳だ。これは逆らえそうにない。
「・・・アソク、ちょっと」
「うるさい!」
俺、何されるの?とわかりきったことを聞こうとして止められる。アソクの手がばさばさとAGの服をたく
しあげる。
「面倒だ」
アソクが長いツメのついた手をAGのシャツにひっかけようとした瞬間だけAGは抵抗した。
「うわああ、ストップ!!ストップ!脱ぐから!脱ぐからッ!!やめて、やぶかないで!」
最後の方はほぼ悲鳴だった。金のないAGにとって服はかなりの生命線だ、安いとはいえ気に入った服を
破かれてはたまらない。
「チッ」
舌打ちしてアソクが手を止める。グリードの姿をしていた手が元にもどった。
「その気になったか」
「いや、そういう・・」
「なに!」
「いえ、ハイ。ソウデス」
もう脅しだよ、これ・・・。半分泣きそうになりながらAGが一枚一枚服を抜いて畳んでいく。
「ア、アソクは?」
まあ自分だけ脱がしてどうこうするわけでもないので聞いてみると仕方なさそうに脱ぎ始めた。
「うん・・・いやわかってた」
そういうことなんだろうなあと思う。他の女のところに行かれても面倒だし、自分が相手をして我慢すれば
誰かが救われるのだ。そうに違いない。前向きに考えろ!と自分を奮い立たせるが。割合絶望的な気分になってくる。
少なくとも男に抱かれる趣味はない。この状況をどう逆転すべきか、アソクの顔を見るがいいアイデアなど出てきそうにない。
その間もアソクはバサバサと服を脱ぎ捨てている。
「おい」
「あ、はい・・」
睨まれてシャツをぬぎ、ズボンを脱ぎ、パンツ一枚になる。そういえば初めて刑事さんにあったときもパンツ一枚だったなと
どうでもいい思い出に浸りたくなった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンガオオクリシマシタ!
ここまで書いて「おれはしょうきにもどった!」つづかない。
日本語崩壊しすぎ
もっと読ませる文章を書け
516 :
赤ペン先生と僕:2011/06/18(土) 08:30:28.66 ID:XtRvzlXBO
赤ペン先生!句読点をお忘れですよ!
つ。。
ついでに埋め。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマス!
「日本語が崩壊しています。それに、読者を引きつける工夫が足りませんね」
眼鏡の細いブリッジを右手中指で押し上げながら、冷ややかな眼差しをレンズ越しから頂戴する。
「どこら辺が悪いんでしょうか?」
狭い教卓を挟んで、たった一人の放課後の授業。
二人きりで向き合うには、教室はあまりに広すぎる。
赤ペン先生が文字通り赤ペンを取り出し、400字詰め原稿用紙にサラサラと淀みなく色を足す。
白い原稿用紙の上を縦横無尽に赤が走る。
繊細な文字を書き出す、赤ペン先生の指は綺麗だ。
「まずは、起承転結の起。恋愛短編には長すぎます。ファンタジーやら、時代物なら背景の説明は必要でしょうが、現代ですから一々日常の説明など不要でしょうね」
原稿用紙の最初の頁。半分近くが赤で消されていく。
まぁ納得。
一つ頷いて先を促す。
「次に承。ここで始まるのは、…主人公の恋愛対象者が…その、男性に見えるが、主人公は女性だろうか?短編ですから、読者に迷いを与えるのはよくありません」
「男です。どちらも。だってこれ、小説じゃなくて私小説ですから」
赤ペン先生がギョッとした目でこちらを見る。
目が合えば、視線を逸らして口ごもる。
そんな様子につい唇の端があがる。
「好きです。酷評しか貰えなくても、斜め読みされても、いつも見てくれるアナタが好きです。だってアナタだけが、僕の読者で、アナタが見てくれる事が僕の喜びですから」
先生、顔赤いよ?
先生の指が震えた文字を原稿用紙に書く。
20点。
ちょっと吹く。
「脱赤点まで付き合って下さい」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンガオオクリシマシタ。
書き忘れてました。
赤ペン先生怖いよ、赤ペン先生。
棚といいめざしといい、こういうのパッと書ける人素敵だな
やべーちょっと萌えたw
ヤバイ赤ペン先生テラ萌えスw
>>516 句読点?句点じゃなくて?
荒らしを挑発してんなヴォケ
語彙力無さすぎる
523 :
夢幻 1/2:2011/06/19(日) 02:09:42.11 ID:krLLdKGFO
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマス!
×麺 若磁界×若教授 エロ有りと言うかエロしかない。
なんとなく映画を見に行って、腐の屍になって帰ってきた勢いだけで書いたので
おかしい所があると言う自覚はあるが、どうかご容赦を。
ベッドのヘッドパイプがうねり、両の手首に絡みつく。
本来無機質なそれが自分の意を汲み、生き物のようにうねり、相手の抵抗を封じ込めるように
きつくきつく締め付ける。
途端咽喉をせり上がる苦鳴。
しかしそれと同時に無理矢理開かせた足の間に沈めた腰を穿つように突き上げてやれば、その声には
すぐさま違う色が混じった。
真面目だけれどけして初心な訳ではない。
それなりに快楽を知り、それゆえに拒絶するよう打ち振られる汗ばんだ眼下のダークブラウンの髪を、
自分は綺麗だと思う。
うっすらと上気する肌も、含みきれず口の端を伝った唾液に濡れた唇も。
そして何より交わるこの気持ち良さに、あぁこれは夢だと笑った。
夢だ。夢でしかない。でなければ自分は彼にはもう触れられない。
明るく、自分に揺るぎない自信を持ち、寛容でありながらそれでも残酷なまでに傲慢な彼は、
こんな仕打ちを受ければ自分の精神をズタズタにするくらいの激情はきっと持ち合わせている。
それとももしくは、最後に残ったプライドで彼は最後まで自分を憐れんで見せるだろうか。
膝裏に手を掛け、開かせた足を強くベッドのシーツに押し付けながらより深く身を進める。
欲望の赴くまま揺さぶりを激しくすれば、悲鳴とも喘ぎともつかない呼気と共に唯一自由になる
膝から下の足が躍った。
それにも自分はこれが夢だとの自覚を強くする。
伝え聞いた現実。彼の足はもう動かない。
それを彼はあの時「君のせいだ」と断罪した。
そして決別と言う名の解放をこの手に握らせた。
だから、自分は己の道を行くしかない。
524 :
夢幻 2/2:2011/06/19(日) 02:13:31.12 ID:krLLdKGFO
幻を抱きながら思う。
憎しみと言うには甘すぎて、未練と言うには永遠すぎる。
こんなふうに頭も身体も彼でいっぱいになるのは今だけ、夢の中だけだ。
目が覚め無粋な鋼で覆わなければ、自分の意識はきっとすぐに彼に見つかり繋がれる。
もっともそうなった時、自分がこんな事を考えていると知ったら、あの男のあの清廉ぶった顔は
どんなふうに歪んで見せるだろうか。
穢らわしそうに眉をひそめるか、裏切られたとばかりにあの深いアクアブルーの瞳に傷ついた色を浮かべるか。
無性に知りたくなり、組み敷いた彼の顔を覗き込もうと身を深く折る。
途端、跳ね上がろうとする身体は力任せに抑えつけ、膝から離した片手で無慈悲に髪を引けば
強引に上向かされた唇が不意に何かの形を象った。
『……工リ…ック…』
微かに紡ぎ零された音はただの名だった。
しかしそれはこの地上で、もはや彼しか呼ぶ事の無いだろう自分の名でもあった。
その響きは苛立たしくも、愛おしい狂おしさを伴い、自分の胸に鈍く疼く痛みをもたらす。
あぁ、彼への想いはこんな夢の中ですらパラドックスに満ちていて…しかしその甘い泥に溺れる事は
もう自分には許されない。
だから口元に皮肉げな笑みを浮かべ、彼の真実も自分の真実もすべて捩じ伏せるように、
「…チャーノレズ…」
この時自分も彼の名を呼び返すと、その唇に深い口づけを落とした。
それがこの夢幻に終わりを告げる事になろうともうかまわない。
そうなる事はきっと自分だけの……罪に対する罰だった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンガオオクリシマシタ。
とにかくグルグルする想いを吐き出したかった。梅に役立てれば幸い。
稲妻拾壱 必殺技の背景に出てくる魔人×10番
注意!人外との絡みでエロです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
『強くなりたいか?』
豪炎寺が、己の心に直接呼びかける声を聞いたのは、沖縄でひとり、新必殺技の特訓をしていた時だった。
『お前に、力を貸してやろうか?』
その声は、いぶかしむ豪炎寺に、再度囁きかけた。
「・・・誰だ?どこにいる?」
『ココだよ』
その声と同時に、豪炎寺の足元から、陽炎のような炎が立ち上り、見る間に見上げるほどの火柱となった。
揺らめく炎は、やがて仁王像に似た形をとり始め、激しく燃え上がる炎の中に立つそれは、まさに「炎の魔人」であった。
『お前が望めば、いつでも儂の力を貸してやろう・・・ただし、条件がある』
「条件?」
突拍子も無い申し出に、豪炎寺は眉根を寄せて問い返した。
確かに、今、新しい力は欲しい。もうすぐチームに合流できるが、エイリア学園に勝つには、新しい必殺技が必要だった。
魔人が、その力と引き換えに豪炎寺に求めたものは、彼の生気。
『つまりは、精液、スペルマよ』
容易い事だろう?と、魔人は笑った。
その笑みに邪悪なものを感じながら、豪炎寺は承諾した。新しい、強い力を得るために。
それ以来、豪炎寺が爆熱ストームを放つたびに、魔人が現れるようになった。
試合中には、彼に力を貸すために。
そして、その日の夜には、その代償を受け取るために――。
+++++
蒼い月明かりが、宿舎のベッドで眠る豪炎寺を薄く照らしている。
すべてが寝静まった深夜。
豪炎寺の微かな寝息だけが、静かに響く室内に、ふと、小さな炎が灯った。
眠る豪炎寺の足元で、わずかに揺らめいたそれは、瞬く間に部屋の天井に届くほどの、巨大な魔人の姿になった。
「・・・来たか」
炎の気配で、深い眠りの底から呼び覚まされた豪炎寺は、目を閉じたまま、胸のうちで呟いた。
炎の魔人は、ゆっくりと豪炎寺に近づいていく。
『今日の報酬を、貰いに来たぞ』
低い声が、豪炎寺の頭の中に響く。
「・・・ああ」
未だ目を開かずに、豪炎寺は答えた。
魔人の放つ炎が、豪炎寺を覆っていた布団を弾き飛ばす。
きちんと着込まれたパジャマの裾から、魔人の燃える手が、その下の、日に焼けていない白い素肌へと伸びる。
実体を伴わない魔人の炎は、熱くはなく、火傷もしない。
しかし、豪炎寺は、全身が焼けるような感覚に包まれていた。
これから、魔人にされることを思うと、心の底から湧き上がる嫌悪感で、総毛立つ。
「く…っ」
だが、耐えねばならない。
これは、自分と魔人とが交わした契約なのだから。
豪炎寺は、ぎり、と奥歯を強く噛んで、乱れそうな呼吸を理性で押さえつけた。
「力の代償」3/6
さわさわと豪炎寺の肌を這う魔人の手は、いつしか数条の赤い炎の筋となって、鍛えられた体躯の方々へと伸びていった。
すでに豪炎寺のパジャマの前は肌蹴られ、下着はズボンごと脱がされてしまっている。
ほぼ全裸に近い格好で、ベットの上に仰向きで横たえられた肢体を、口元に狡猾な笑みを湛えた炎の魔人が、ゆらゆらと赤く
ゆらめきながら、覆いかぶさるようにして、見下ろしている。
豪炎寺の全身に纏わりついた無数の小さな炎は、それぞれが的確に、この引き締まった体が感じやすいところを探し出しては
ちろちろと細かく蠢き、そこへ甘い刺激を与え続ける。
耳たぶを擽る炎は、時折生暖かい熱気を吹き込ませて、耳の穴の奥までを弄り、首筋では微かに燃える炎が、豪炎寺にまるで
羽毛で撫で擦られているような感触を呼び起こさせる。
「くぅ・・・っ・・・」
硬く両目を閉じたまま、快感を振り払うように、かぶりを振っても、炎による責めは止むことはなく、どころか、豪炎寺の
反応を楽しむかのように、徐々にその動きを強めていく。
小さく丸まって柔らかなスライム状の塊となった炎の一部が、豪炎寺の鎖骨に吸い付いて、所々に紅い痣を残していく。
燃えるように揺らぎながらも、なぜか粘性を持つそれは、数個に分裂して散らばり、肘や膝の裏、脇腹、手足の指の間など
皮膚の柔らかいところに吸い付いては、同じように薄紅い痕を残していく。
「んっ・・・んっ・・・」
吸い付かれる度に、ピリッとした弱い電流が走るような痛みが走り、その後、そこを舐めあげるようにぬるぬると蠢く刺激に
豪炎寺の理性が、少しずつ蕩かされていく。
息があがって大きく上下する両胸の、薄桃色の乳首で蠢動する炎は、時々その姿を細く伸ばし、その小さな突起に絡み付いては
強く引っ張りあげて、豪炎寺が甘い愛撫に慣れる事がないように仕向ける。
「くっ・・・ぅ、っ・・・は、あっ・・・」
こんな、人外のものにいい様に玩ばれて、それでも感じてしまう自分が嫌で、なんとか声を抑えようとするものの、こう全身の
性感帯を同時にいたぶられては、どうしようもなかった。
それに、この行為を受けるのは今夜が初めてではない。今までも、さんざん、魔人によって全身に快楽を与えられ、体の奥底から
湧き上がる愉悦を教え込まれた豪炎寺の体は、以前よりもずっと敏感になってしまっている。
その証拠に、心ではどんなに嫌悪しようと、炎の愛撫に豪炎寺の体は従順に反応し、その中心では、紅潮し張り詰めたペニスが
浅ましくも透明な先走りの汁を垂らしながら、更なる快楽が与えられるのを待っている。
ぴくぴくとひくつくソコへ、吸い寄せられるように、豪炎寺の左右の内腿に張り付いていた二つの青白い炎が、両足の付け根を
ぐるりと一回り撫で付けてから、焦らす様な緩慢な動きで、ねっとりと絡み付いていく。
「あぁっ!」
炎の触手が一番敏感な所に触れた途端、背筋を走った強烈な快感に、豪炎寺の閉じられていた目は大きく見開かれる。
涙に潤んだその両目には、己を犯す魔人の、満足そうな笑みが映っていた。
ペニスに絡んだ二つの炎は、それぞれに意思があるかのように、艶かしく蠢きだした。
竿の部分全体を包むように絡んだ炎は、適度に締め付けながら、リズミカルに上下に擦り上げ、亀頭へと這い登ったもう一つの炎は
ぐりぐりと押さえつけるような円運動を繰り返す。
「あぁぁっ!・・・あっ!ああっ!!」
最早、嬌声を抑えることができなくなった豪炎寺が、全身を震わせる。
すぐにでも、射精にまで導かれそうな刺激を与えられて、未だ達しないのは、豪炎寺の意思ではない。
ペニスの根元に張り付いたもうひとつの炎が、尿道を強く押さえつけて、精子を塞き止めているからで、出したくても出せない衝動に
豪炎寺の腰が、我知らず、誘うように揺れる。
「あぁ・・・んっ・・・・・・あぁぁ・・・っ」
豪炎寺の嬌声に、泣いている様な、媚びる様な色が混じる。
年齢にしては精悍な顔つきが、快感に歪む。
『まだまだ、だぞ・・・』
冷酷な魔人の声がすると同時に、豪炎寺の両足に絡んでいた炎が、ぐいと持ち上がり、大きく股を開かせた。
「ぁ、やっ!」
豪炎寺は反射的に足を閉じようとするが、かなう筈もなく、膝を曲げてM字に足を開いた恥ずかしい格好で固定される。
開かされた双丘の中心で固く窄まったアヌスへと、数条の炎の筋が伸びる。
細長く伸びたそれは、1本、また1本と、窄まりを解すかの様に入り込んでいっては、入り口の辺りで細かく蠢いている。
「ぅ・・・。くっ」
少しでもその快感から逃れられるように、豪炎寺は、また目を閉じて、顔を背けた。
閉じた瞼から、一筋の涙が滑り落ちて、シーツに小さな染みをつくった。
「・・・ん、・・・っん、ん・・・っ」
最後には6本にまで増やされた炎の触手は、暫く入り口を浅く出入りしていたが、豪炎寺の喉の奥からくぐもった嬌声が聞こえ始め
括約筋が少し緩んできたのを感じると、一斉にぐいと外側に動き、アヌスを無理矢理広げさせた。
「あっ!」
びくりと豪炎寺が体を震わせると、そこへ圧倒的な質量と固さを持った塊が押し付けられた。
「ひっ・・・や・・・っ・・・ぁ」
恐怖と羞恥で全身を固くする豪炎寺の頭の中に、魔人の嘲笑が響く。
『なにを怖がる。お前の体には傷ひとつ付かんぞ?』
そう、実体では無いので傷は付かない。しかし感触はある。
狭い所を無理やり押し広げられて、内側へと入ってこられる異物感と人外のものに犯される嫌悪感で、豪炎寺は心で悲鳴を上げる。
ただ、その先にある快感を教え込まされた豪炎寺の体は、心ではどんなに拒絶していても、なんなくそれを受け入れていく。
『ほほぅ、いい具合になってきたではないか』
どこか嬉しそうな魔人の声が、豪炎寺の羞恥心を煽る。
『ココが、好いんだろう?』
豪炎寺の直腸に入り込んだ塊が、ぐりっと前立腺を押し擦る。
「ああぁっ!!」
ペニスで感じるのとはまた違った快感が、豪炎寺の全身を走った。
熱く硬い炎の塊が、直腸の内部で強弱をつけた蠕動を繰り返し、豪炎寺を射精とは別の絶頂へと誘う。
前立腺での快感を十分に味あわせるためか、ペニスに纏わりつく炎はその動きを止めている。
ただ、豪炎寺の全身を嘗め回す炎は、絶頂への後押しとなるように、容赦なく彼を責め立てていく。
「あっ!あっ!・・・ああっっ!」
興奮で大きくなった前立腺を、何度目かに強く擦られた瞬間、絶頂の波が豪炎寺を襲った。
脳髄を焼くような快感に、意識を飛ばしてしまいそうになった豪炎寺を、魔人の声が呼び戻す。
『さぁ。これからだ』
次の瞬間、先ほどまで止まっていた、ペニスに纏わり付いた炎が、淫らに動き始めた。
「うっ!…はっ・・・っ・・・ぁ・・・は・・・っっ」
まだ絶頂の渦から戻りきれない豪炎寺は、畳み掛ける快感に翻弄されて、息もできない。
竿を扱かれ、亀頭を擦られ、睾丸までも揉むように刺激されて一度は引いていた射精感が、またせり上がって来る。
全身を震わせて反応する豪炎寺の頭の中で、また魔人の声がした。
『ずいぶんと、気持ち良さそうではないか』
その声は嘲笑うようでもあり、また心底嬉しそうでもあった。
(・・・違う!)
声にならない声で、豪炎寺は叫んだ。
(気持ち・・・良く、など・・・!)
こんな、セックスとも呼べないような行為で、全身を弄られて、気持ち良いなどとは思いたくなかった。
たとえ、体が、その快感に反応してしまっても。
クックックと魔人の笑い声が響く。
『強情な事よ。まぁ、それも良い。・・・では、頂こうか』
豪炎寺のペニスを扱く炎がその動きを増し、と同時に、アヌスに入ったままだった塊も、ぐりぐりと前立腺を押し付ける。
「はぁっ!ああぁっ!ああああっっ!」
大きく体を仰け反らせた豪炎寺のペニスから、白い精液が爆ぜた。
「あっ!・・・あっ!」
一度の射精では満足できないのか、炎の責めはすぐに止むことは無かった。
達っしても達っしても果てが無いほどの快感の中で、最後の一滴まで搾り取られる。
赤い炎の中に、何度か放たれた精液は、蒸発するように全て消えていった。
頭の中が真っ白になる程の快楽の渦中で、豪炎寺は、ふわりと全身が浮いているのを感じた。
空中に浮いた体は、燃え盛る魔人の手中にあった。
(この浮遊感は・・・)
同じだ、と豪炎寺は思った。
試合中、魔人の力を借りて爆熱ストームを撃つ時の、あの高揚感と浮遊感。
(俺は、もう、この手の中から逃れられないのだろうか・・・)
豪炎寺の頬を、また涙が伝い落ちる。しかしその雫さえも、彼を包む業火の中に消えていくのだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
代行者より連絡と謝罪;
テキストの分量を見誤り、途中からナンバリングが一つ多くなってしまいました。
失礼いたしました。