モララーのビデオ棚in801板57

1風と木の名無しさん
   ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板
                  ̄       ̄
        ◎ Morara's Movie Shelf. ◎

モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)
前スレ
モララーのビデオ棚in801板56
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1265871268/

ローカルルールの説明、およびテンプレは>>2-9のあたり

保管サイト(携帯可/お絵描き掲示板・うpろだ有)
http://morara.kazeki.net/
2風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:10:52 ID:uW729sCA0
★モララーのビデオ棚in801板ローカルルール★

1.ノンジャンルの自作ネタ発表の場です。
書き込むネタはノンジャンル。SS・小ネタ・AAネタ等801ネタであれば何でもあり。

(1)長時間(30分以上)に及ぶスレ占拠防止のためリアルタイムでの書き込みは控え、
   あらかじめメモ帳等に書いた物をコピペで投下してください。
(2)第三者から見ての投下終了判断のため作品の前後に開始AAと終了AA(>>4-7辺り)を入れて下さい。
(3)作品のナンバリングは「タイトル1/9」~「タイトル9/9」のように投下数の分数明記を推奨。
   また、複数の書き手による同ジャンルの作品判別のためサブタイトルを付けて頂くと助かります。
(4) 一度にテンプレAA含め10レス以上投下しないで下さい(連投規制に引っかかります)
   長編の場合は10レス未満で一旦区切り、テンプレAAを置いて中断してください。
   再開はある程度時間をおき、他の投稿者の迷惑にならないようにして下さい。

※シリーズ物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
※感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
※「公共の場」である事を念頭にお互い譲り合いの精神を忘れずに。

相談・議論等は避難所の掲示板で
http://s.z-z.jp/?morara

■投稿に当たっての注意
1レスあたりの最大行数は32行、タイトルは全角24文字まで、最大byte数は2048byte、
レス投下可能最短間隔は30秒ですが、Samba規定値に引っかからないよう、一分くらいがベターかと。
ご利用はテンプレをよくお読みの上、計画的に。
3風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:11:55 ID:uW729sCA0
2.ネタ以外の書き込みは厳禁!
つまりこのスレの書き込みは全てがネタ。
ストーリー物であろうが一発ネタであろうが
一見退屈な感想レスに見えようが
コピペの練習・煽り・議論レスに見えようが、
それらは全てネタ。
ネタにマジレスはカコワルイぞ。
そしてネタ提供者にはできるだけ感謝しよう。

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  | ネタの体裁をとっていないラッシュフィルムは
  | いずれ僕が編集して1本のネタにするかもね!
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
4風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:12:47 ID:uW729sCA0
3.ネタはネタ用テンプレで囲うのがベター。

別に義務ではないけどね。

テンプレ1

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  モララーのビデオを見るモナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  きっと楽しんでもらえるよ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
5風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:13:39 ID:uW729sCA0
テンプレ2
          _________
       |┌───────┐|
       |│l> play.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
   ∧∧
   (  ,,゚) ピッ   ∧_∧   ∧_∧
   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |            ┌‐^──────────────
  └──────│たまにはみんなと一緒に見るよ
                └───────────────

          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) ヤッパリ ヒトリデコソーリミルヨ
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                |
  └────────────────┘
6風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:18:18 ID:uW729sCA0
テンプレ3
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < みんなで
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < ワイワイ
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 見るからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < やっぱり
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < この体勢は
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 無理があるからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ
7風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:24:09 ID:uW729sCA0
テンプレ4

携帯用区切りAA

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

中略

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

中略

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
8風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:26:45 ID:uW729sCA0
 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 僕のコレクションに含まれてるのは、ざっと挙げただけでも
 |
 | ・映画、Vシネマ、OVA、エロビデオとかの一般向けビデオ
 | ・僕が録画した(またはリアルタイムな)TV放送
 | ・裏モノ、盗撮などのおおっぴらに公開できない映像
 | ・個人が撮影した退屈な記録映像、単なるメモ
 | ・紙メディアからスキャニングによって電子化された画像
 | ・煽りや荒らしコピペのサンプル映像
 | ・意味不明、出所不明な映像の切れ端
 \___  _____________________
       |/
     ∧_∧
 _ ( ・∀・ )
 |l8|と     つ◎
  ̄ | | |
    (__)_)
       |\
 / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 媒体も
 | 8mmフィルム、VCR、LD、ビデオCD、DVD、‥‥などなど
 | 古今東西のあらゆるメディアを網羅してるよ。
 \_________________________
9風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 06:28:27 ID:uW729sCA0
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   じゃ、そろそろ楽しもうか。
   |[][][]__\______  _________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |       |/
    |[][][][][][][]//|| |  ∧_∧
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ )
   |[][][][][][][][]_||/(     )
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   | | |
              (__)_)
10風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 15:47:49 ID:hi2Kbs900
1乙
11風と木の名無しさん:2010/03/26(金) 17:03:00 ID:8orOKGsx0

      ∧_∧ >>1
   __(  ・ω・)
  / ||/ ⊃ ⊃∧_∧
  |  ||___ノ (     )
  | ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/
  |    | ( ./     /
12サソダー口ー卜゛1/6:2010/03/27(土) 00:21:37 ID:3K0Tf5yE0
>>1乙です。さっそく投下させてもらいます。
現 原始人バンド 唄×六弦
前作では反応ありがとうございました。前作の設定を引きずりつつ、高低ズ解散直前の話。



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

お前が笑ってくれなくなって、もうどのくらい経つのかな。
さっき俺の前で取り繕って見せてた、あの、嘘の笑顔じゃない、本物のやつだ。
もうどのくらいの間、俺たちは心の底から笑い合ってないのかな?
俺たちの心にできたおかしな距離は、いったいいつからあったのだろう?
いつでもすぐ側にお前がいるのが当然だと思ってた、それは俺の傲慢なのか?
お前の心が見えなくなったのは、きちんと見ようとしてなかった、俺の怠慢なんだろうか?
もう俺は、どうやってたらお前が笑ってくれるのか、それすら分からなくなってるんだ。

ただ俺は、お前に笑っていて欲しいだけなのに―――
そうして、側にいて欲しいだけなのに―――
13サソダー口ー卜゛2/6:2010/03/27(土) 00:22:28 ID:3K0Tf5yE0
ヒロトは途方にくれていた。

プライベートスタジオの休憩室に1人、ソファに四肢を投げ出すように座り込み、空を睨んだまま動けない状態で、いったいどのくらい経つのだろう。
窓の外はもちろん深い闇に塗りつぶされて、人通りの気配もない。時折、長距離トラックであろう大きな車の通り過ぎる音がする他は、物音一つない。
真夜中過ぎの、自分の職場とも言えるこの場所で、匕口卜はひたすら途方にくれていた。


『俺…このバンド……、もう辞めたい…』

とうとう言われてしまった。
怖れていたことが現実になってしまった。

その現実は思った以上に匕口卜を打ちのめし、その場を動けなくさせた。あらゆる力が座っているソファに吸い取られていくような、そんな心地すらして。
それでも、気力を振り絞り、なんとか匕口卜は立ち上がった。

「あーー、もう!!」

けれど、こんなときは音楽でもかけて気分を落ち着かせよう、そんな余計なことを考えたのがまずかった。
CDトレイの中身を確かめもせずにプレイヤーの再生ボタンを押すと、スピーカーから流れてきたのは、物悲しい口笛の音。

「……………!!!」

匕口卜はくずれ落ちるように、再びソファに収まった。
口笛で奏でられるイントロのメロディ、そして続く、骨太のギターリフ。
匕口卜は頭を抱え、小さく呻いた。
それは去年、自分たちのバンドがリリースしたシングルのタイトル曲。
真縞が――、匕口卜の相棒が――、そして今匕口卜を死ぬ程悩ませている張本人が、作った曲だ。
『孤独を抱いていくんだ』なんて、今のシチュエーションにぴったりの歌詞が、匕口卜を更に苦しめる。
14サソダー口ー卜゛3/6:2010/03/27(土) 00:25:36 ID:3K0Tf5yE0
なんて自分は鈍い愚か者だったんだろう、と匕口卜は思った。
PVはマカロニウェスタン風にしようぜ、とはしゃいでみたり、イントロに使う口笛がどうしても吹けない真縞のことを笑っていたりした、のん気なあの当時の自分を蹴っ飛ばしてやりたい。

もしかしたら、あのとき既に、真縞の心は匕口卜から離れていたのかもしれないのに。

いつだって隣にいるのがあたり前だった男は、気が付いたときには少し離れたところで、困ったような顔をして佇んでいた。
匕口卜が近づいていっていつものように軽口を叩いてみせても、いっそう困ったように、そして悲しそうに笑うばかりで。
そうして、2人の間に開いた心の距離は、じわじわと広がっていくようで。
どうしたらいいんだろう?
どうしたらこの距離を縮めることができるんだろう、と気持ちばかり焦る中、とうとう真縞が切り出してきたのだ。

『俺…このバンド……、もう辞めたい…』

このバンドを続ける意味が分からなくなったと、俯いて、頑なに匕口卜を見ようとせずに、ボソボソ話す真縞は、まるで自分のしでかしたいたずらを告白する子供のようだった。
けれど、付き合いの長い匕口卜には分かっていた。
この申し出が、彼がいろいろと考え抜いたあげくに出した結論だということを。
真縞の決意が、決して揺らがないであろうということを。
だから匕口卜は、とりあえず笑って見せたのだった。
真縞の気持ちが少しでも軽くなるよう、こんなことは大したことじゃないのだと知らせるように。
真縞の脱退を許すのではなくバンド自体を活動停止という形にしたのは、真縞をどこへも行かせたくなかったから。
寝耳に水の事態になるだろう残りのメンバーへの罪悪感よりも、真縞を逃がしたくないという気持ちが勝った。
『でもさ、もうちょっとは続けようよ、ね?』
いきなり止めるんじゃみんなに悪いし、と諭すように真縞の顔をのぞきこんでも、合うことのない視線。焦燥感で、匕口卜の口の中はザラつく。
結局、いま決まっているステージを消化することと、あと1枚シングルを出そうということで、一応の話はまとまった。
15サソダー口ー卜゛4/6:2010/03/27(土) 00:26:59 ID:3K0Tf5yE0
『じゃあ、そういうことで……』

ごめんな、と去り際に真縞がかすかに浮かべた微笑。
それを見た匕口卜は、胃袋をぎゅっと掴まれるような感覚に、身体を強張らせたのだった。


―――そうして、いまに至るのだ。

真縞から話があったのが夕方のこと。それから深夜になる今まで、匕口卜はろくに動くこともできず、もんもんと考え続けているのだった。
どうしよう、と。
どうしたら真縞を失わずに済むのかな、と。
考えるたびに、匕口卜の脳裏には、夕方、真縞が見せた微笑が浮かんだ。
それは、最近よく見せるようになった、困ったような笑顔。
内心を押し隠して取り繕ったように浮かべてみせるその笑顔を見るたびに、匕口卜はひどい寂しさに襲われるのだった。

心を閉ざしてしまった真縞。

その原因がまるで分からない匕口卜は、彼を失いたくないと、それだけをくり返し思うことしかできずに。
そして思考はだんだんと、真縞を責めるような方向へ傾いていった。


ひどい男だ、と匕口卜は思った。
最初のバンドも、今のバンドも、真縞が言い出して結成したものなのに。
真縞に導かれ、励まされ、支えてもらって、自分はここまでやってこれたのに。
それなのに、いまになってこの手を離すと言うのか。
16サソダー口ー卜゛5/6:2010/03/27(土) 00:28:18 ID:3K0Tf5yE0
「…………」

あいつは分かってるんだろうか、と匕口卜は思った。
20年前のあの時、世捨て人のような気分で移り住んだ廃工場。
『来たよ』とギターを抱えてやって来て、そのまま住み着いてしまった真縞が、どんなに自分の心を支え、強くしてくれたのか。
2人で最初に作ったバンドが解散して、やるせなさや虚無感や、持って行き場のない怒りに押しつぶされそうになっていたあのとき。
『新しいバンドやるんだけど、おまえ、ボーカルやらない?』
あっけらかんと誘ってくれた真縞に、自分がどんなに心救われたのか。

匕口卜は分かっていた。
ほんの気まぐれのような真縞の行動の裏に、彼の強い決意があったことを。
人と接することが得意ではないあの男が、そんな決意を行動に移すのに必要だった、勇気の程を。
何気なさを装ってかけられたその声がはらんでいた、緊張の響き。かすかな唇の震え。
匕口卜は今でも鮮明に思い浮かべることができる。

真縞は、果たして分かっているのだろうか?
匕口卜がその記憶を辿るたびに、どんなに暖かな、幸せな気持ちになるのか。
匕口卜が、そんな真縞のことを、どんなに大切な、かけがえのない存在だと思っているのか―――。


「………分かってないんなら、分からせればいいんだよな」

匕口卜はひとりごち、勢いよく立ち上がった。
CDコンポのスイッチを切ると、くり返し流れていた例の曲が止む。そのことに満足のため息を吐いて、匕口卜はおもむろに辺りをキョロキョロと見回した。
紙とペンが必要だったのだ。
17サソダー口ー卜゛6/6:2010/03/27(土) 00:29:51 ID:3K0Tf5yE0
分からせてやるのだ、彼に。

匕口卜は思った。
孤独など選ぶことはできない、ということを。
どんな荒野でも、灼熱の溶岩が流れる道でも、はたまた凍てついた氷の大地でも。
どんなにつらい、険しい道のりも、往くのなら2人で、だ。2人並んで進んで行くべきなのだ。

―――自分たちの運命はもう、離れがたく結びついてしまっているのだから。


それをおまえに分からせてやるんだ。
俺ができるただ1つの方法で。

これから俺が作るのは、おまえに捧げるロックンロール。
今度出す新曲は、俺の気持ちをストレートに歌うことにするよ。
もしかしたらちょっと分かり易すぎるんじゃないかって、他のみんなが聞いたらどう思うのかなって、かなり気恥ずかしいところもあるんだけれど……。
それでもいいんだ。皆に笑われたって、呆れられたって。
分かりやすいくらいじゃないと、ほら、おまえって案外、鈍いところがあるからさ。

――ちゃんと伝わるだろうか? 俺の気持ちを、おまえは分かってくれるだろうか……?

どうか、分かってくれ。そしてまた、俺に笑いかけてくれ。
俺が願うのは、ただそれだけ。



やっと見つけたサインペンをくるりと器用に廻し、壁から剥がしたカレンダーの裏側に、匕口卜は頭の中浮かんでくる言葉を、猛然と書き付けていった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

彼らのラストシングルが、あまりにも唄から六弦へのラブソングなので、辛抱たまらなくなって書いた。
いまはちょっとだけ反省している。
18風と木の名無しさん:2010/03/27(土) 13:43:07 ID:E11/yrDF0
>>12
うああ、待ってました!!
唄のこのストレートさに六弦はヤられっぱなしのような気がするw
聴いてるこっちが恥ずかしいわ
(でも高低ズの唄の曲って六弦に捧げたっぽいの多いよね)
19ピンポン 再見 1/5:2010/03/27(土) 22:59:34 ID:U1LhbNz50
>>1乙です
ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 の続き
56-456の半年後 じわじわとしか進まない二人だよ


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「コンちゃんさー、つうかさー、普通見えねーでしょ」
「見える」
「おっかしーだろー。なんでホームにいる孔ちゃんが、ロマンスカーに乗ってる人間ハアクできるのよ」

あるうららかな土曜日の午後、孔は木村に誘われて、町田まで遊びに出た。
木村は時々、思い出したように孔を遊びに誘ってくる。
江の島からは小田急線で一本。程々に遠く、程々に近い。
初めて行く街は、賑やかでおもしろかった。
駅ビルを冷やかし、木村のナンパに呆れながら付き合い、109の前でたむろする女の子の化粧に圧倒され、ラーメンを食べ、そろそろ帰るべぇかと言う木村と二人、駅のホームで急行を待っていたところだった。

向いの新宿行きのホームに、藤沢から町田を通過して終点へ向うロマンスカーが入ってくる。
停車しないロマンスカーは、駅の構内に入るとスピードを落とす。
見るともなく乗客を眺めていた孔は、その中に見覚えのある顔を見つけて声をあげた。
「風間!」
ほんの一瞬だったが、確かに風間だった。
向こうもこちらのホームを眺めていたらしい。
風間は一瞬驚きの表情を見せ、手を上げ、笑った。
風間の姿はあっという間に視界から消えた。
20ピンポン 再見 1/5:2010/03/27(土) 23:00:31 ID:U1LhbNz50
孔は少し興奮気味に、よそを向いていた木村に「風間、いたよ今! ロマンスカー!」と言った。
「あ? 風間って誰?」
「誰て…海王の、風間。私、試合した」
「あーあーあー、あの『海王の風間』」
「そう」
「ロマンスカー? 乗ってたの見えたの?」
「うん」
「うっそでしょー。通過列車よ。走ってたじゃん」
「私うそ言わないよ」
と続き、先の会話になったのだった。

「木村、卓球の玉と、今のロマンスカー、どちら早い?」
「そりゃー、ロマンスカーに決まってるでしょー」
孔は額に手を当てた。
「木村が卓球へたな理由、今わかた」
「なんだよそれー」
停車した片瀬江ノ島行きの急行に乗り込みながら、孔は今見た風間の姿に思いをはせた。
髪が伸びてた。
髪が伸びた風間を見てみたい、と言ったのは自分だ。だが、
…なんだか知らない人みたいだ。
知らない人間もなにも、実際何も知らないのではあるが。
孔は風間と親しく付き合ったことはない。
繋がりは卓球だけ。
星野が渡欧するというので空港に見送りに行った時に顔を合わせて以来、接点はまったくなかった。
あれから半年の間に髪が伸びたのだろう。空港で会った時は眉はあったが、髪の毛はまだ剃っていると言っていた。
私服で、髪が伸びて、普通の様子をしている風間に少しどぎまぎした。
21ピンポン 再見 3/5:2010/03/27(土) 23:01:58 ID:U1LhbNz50
木村が吊り革につかまりながら孔に言った。
「ねーねーねー、やっぱりつるっぱげだった? 海王の風間」
「つ…つる?」
「あー、髪の毛なかった?」
「あたよぉ。まゆげもある」
「へぇー、やっぱ伸ばすんかー。あたりまえかぁ」
「かこよくなてたよ」
「想像出来ねー」
孔は笑った。確かに想像出来ないかもしれない。
「木村、『卓球通信』見てないか?」
「えー? 読まないし見ないよー。俺卒業したじゃん卓球。ゲンエキの時も見たことねー」
「風間、載てるよ」
「なになに、孔ちゃんたら、わざわざチェックしてんの?」
図星を指されて、孔は一瞬言葉に詰まった。
卓球通信を手にしたら、風間を探してしまうのは事実だが、それは星野の記事を探すのと一緒だ。
木村の言い方はまるで、違う意味に聞こえる。
「そんなこと言てない。本見てたら目に入る」
「あー、何赤くなってんのよー」
「赤くなてない」
本気で孔が怒りそうだと見たのか、木村は口を閉じた。
22ピンポン 再見 4/5:2010/03/27(土) 23:03:06 ID:U1LhbNz50
孔は突然暑くなって、Tシャツの首をつかんでパタパタと空気を送り込んだ。
しばらく無言が続いたが、木村はどうにも落ち着かないらしく、口の端をもぞもぞと指で掻いている。
孔は木村のそぶりに気がついたが、無視して吊り広告を見るふりをしていた。
我慢出来なくなったらしい木村が孔をつついてくる。
「孔ちゃーん」
「なに」
「怒ったのー?」
「怒てない、別に」
「怒ってるじゃーん」
「怒てない」
「拗ねないでー」
「拗ねてない」
「んもー、そんなかわいい態度取っちゃったらさー」
「なに」
「恋する乙女みたいって言われちゃうよー、俺に」
孔は黙って木村の足を踏んだ。
「ぐわー! いでででで! 言わない言わない!」
「よし」
「孔ちゃん乱暴」
「人からかう、木村悪い」
「だってさー、孔ちゃんなんか嬉しそうだしさー」
「嬉しそう? …そう?」
孔は慌てて顔をこすった。
嬉しそう? そりゃ、まあ、久しぶりに旧友に会ったようで嬉しい。
旧友と言えるかどうかは別として、風間に会えたのは嬉しい。
風間もこちらを認めて、笑ったのが嬉しい。
あんなところで偶然、お互いを認識できたなんて、ちょっと奇跡みたいじゃないか。
23ピンポン 再見 5/5:2010/03/27(土) 23:04:55 ID:U1LhbNz50
藤沢に着いたところで電車を降りると、孔は知らずに息をついた。
風間もここからロマンスカーに乗ったのだ。今までも気がつかないだけでどこかで交差して、どこかですれ違っていたのかもしれない。

「孔ちゃんこれからどうするー?」
「ん…帰ろかな」
「そかー、じゃまたなー。俺、飯食ってくわー」
「バイバイ」
孔は少し迷ったが、一駅分、歩くことにした。たいした距離ではない。夕焼けがきれいだ。
一人になって、自分の思いに沈み込めるのがありがたかった。
孔の頭の中はいま、風間のことでいっぱいだ。
会えてよかった。一瞬だったけど、顔が見れて嬉しい。
風間はもうとっくにロマンスカーを降りただろう。どこへ行くのだろう。
…誰と、会うのだろう。
先程の風間の顔が浮かぶ。
驚き、そして笑顔になった風間。
いったい俺は何だって好きな女の子のことを考えるみたいに風間のことばかり考えているのだ、と思いながら、なんとなく温かい気持ちを抱えて、孔はゆっくりと歩き出した。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ナンバリングミス失礼しましたorz 1/5が2つあるよ
24風と木の名無しさん:2010/03/28(日) 00:18:51 ID:9Z86MWb8O
>>19
貴方様のドラチャイを読みに…と思ったらなんと新作がー!!

丁寧に優しい時間が過ぎていくのが、そしてチャイナのカタコトの日本語が可愛くてたまらないですw
25そ/こ/で/お/は/よ/う/の/キ/ッ/ス 0/4:2010/03/28(日) 01:20:48 ID:XWUMvsxq0
>>1乙です


 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.        | |
 | |                | |           ∧_∧  生注意
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) ベリショのおじさまCa/ts m/e×蛇事務所暴風雨の四男
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
26そ/こ/で/お/は/よ/う/の/キ/ッ/ス 1/4:2010/03/28(日) 01:21:58 ID:XWUMvsxq0
俺じゃだめ?
丹乃宮はテーブルに行儀悪く肘をついたまま、烏龍茶のグラスを傾けてそう言った。

泥酔しきった丹乃宮をタクシーに押し込んで彼のマンションまで送り届けるはずが、
自宅に連れてきてしまったのは一時間ほど前のことだ。
今日は俺、帰らないよ! だって鍵なくしちゃったもん。
そう唇を尖らせた二回り近く年下の友人を路上に放置することはさすがに憚られ、
立つことも出来ないくらいふにゃふにゃの丹乃宮をほとんど担ぐようにして帰宅したのだった。
まだ酔っ払ってるのかコイツ、そんな思いを込めて鷹嘴は短く問い返した。
「……は?」
「だからぁ、一人寝が寂しいっつってたじゃん。俺じゃだめ?」
「おまえ、こんなおっさんつかまえて妙な冗談言うもんじゃないよ」
冗談。
その響きを半ば確かめるように、半ば嘲弄するように繰り返した丹乃宮は
まるでマジックの道具を扱うような手つきでグラスを弄んだ。
丸い指先がグラスの縁を滑る。
「本気だ、って言ったら?」
唇の端をつりあげた丹乃宮が躙り寄る。子供のような掌が鷹嘴の頬を包んだ。
顎にある寂しげなほくろが妙に至近にあることを訝しむ暇も与えられず唇を重ねられ、
無意識のうちに丹乃宮の舌に応じてしまった自身を鷹嘴は内心で恥じた。
戸惑いと照れを浮かべた年上の友人を罠にかかった獲物を眺める表情で見つめた丹乃宮は、
鷹嘴が拍子抜けするくらい色気のない仕草でTシャツを脱ぎ捨てた。
27そ/こ/で/お/は/よ/う/の/キ/ッ/ス 2/4:2010/03/28(日) 01:23:44 ID:XWUMvsxq0
「痛くしたらキレるからね、俺」
爼上の鯉よろしくベッドに横たえられているというのに、
平素と些かも変わらないちょっと生意気な口調だった。それが鷹嘴には嬉しい。
彼が呼吸をするように演技の出来るたちであることにもなんとなく気づいていたから、
丹乃宮の行動が芝居などではないことに安心したのかも知れなかった。
「おまえの声って通るんだから、あんまりうるさくしないでくれよ」
「大声出ちゃうくらい、気持ちよくさせてみろっつーんだよ」
誘うというには余り色気のない口調でそう告げた丹乃宮は、鷹嘴の首に腕をまわした。
鼻先を掠めたアルコールのにおいがやけに生々しい。

筋肉も贅肉も薄い、ただただ平坦な腹を撫でると丹乃宮は体を捩るかすかな抵抗をみせた。
「やだよ、それ……くすぐったい」
「敏感だなあ」
鷹嘴にそう誂われた丹乃宮は、むっとした様子で目を逸らす。
年齢よりもずっと幼い表情だったので、鷹嘴は妙にどきりとする。
丹乃宮はこんな表情を、どれくらいの人間に見せてきたのだろうか。
相手の経験の多寡にいちいちこだわるほど鷹嘴だって若くはない。
そもそも鷹嘴からすれば子供に等しい年齢とはいえ、既に少年と呼ばれる時期は終えた丹乃宮だ。
これが彼の初めてのセックスであるはずはない。
それでも自分がいたいけな少年に対していけないことをしているような罪悪感に駆られ、
鷹嘴は敢えて丹乃宮に確認した。
「オッサンだけど、俺でいいの。丹乃」
「ばっかだなあ、俺はあんたがいいの」
丹乃宮の返事はこちらが気恥ずかしくなるくらいに明瞭だった。
28そ/こ/で/お/は/よ/う/の/キ/ッ/ス 3/4:2010/03/28(日) 01:25:19 ID:XWUMvsxq0
体を裏返して四つ這いにしてやり、窄まりの周辺を指の腹で擽ると、丹乃宮は不安げに鷹嘴を振り返った。
その視線にダイジョーブダイジョーブ、とごく軽く応じた鷹嘴は、
丹乃宮の漿果から零れた先走りを絡めた指で緊張しきったそこをゆっくり解していく。
指を鈎の形に折り曲げて前立腺をやや乱暴に引っかいても丹乃宮は短く喘ぐばかりだ。
はやく、と小さな声で急かされた鷹嘴は昂った自身を取り出すと、
既にひくついた丹乃宮の後ろにあてがい、一息に押し込んだ。
「ひ、あっ」
「丹乃、苦しい?」
そう問われて首を左右に振った丹乃宮は、より深い快感を求めるように自ら腰を動かした。
ポーカーフェイスと形容されることの多いこの男が、熱に浮かされたように目を細め、
唇を小さく開けて息をつく光景はそれだけで鷹嘴を煽った。
「活未、活未っ……!」
上擦った声が鷹嘴の名前を呼ぶ。
応じて深く突き入れると丹乃宮の腰が逃げるように動いた。
両手で引き戻して穿つ。くぅん、と子犬めいた嬌声をあげた丹乃宮がシーツに爪を立てた。
「活未ぃ、ちょっ、あんまがっつくな、って」
「悪い」
少しもすまなそうでない口調で鷹嘴は呟く。
「んっ……は、あっ……!」
滑らかな背中を舐め上げられ、うなじに歯を立てられると、
ただでさえ追い詰められていた丹乃宮はすぐに体を震わせて達した。
同時に内部が切なく収縮し、僅かの後に鷹嘴も吐精する。
29そ/こ/で/お/は/よ/う/の/キ/ッ/ス 4/4:2010/03/28(日) 01:27:08 ID:XWUMvsxq0
充足感よりも気怠さが勝っているのは間違いなく自分が年齢を重ねた証拠だ。
ひょっとすると自分よりも体を酷使したはずの丹乃宮が既に目を覚まし、
隣に寝そべったまま涼しい顔で携帯をいじっているのを見ると、鷹嘴は更に強くそう思うのだった。
裸にジーンズを穿いただけの体は痛々しいくらい細くて薄い。
貧弱と言ってしまっても良いくらいだ。
首からのラインをなぞる鷹嘴の指を、丹乃宮は無作法を窘めるように軽く叩く。
「そういう触り方、オヤジくさい」
「ご、ごめん」
「謝んなよ。なんか、こっちがへこむわ」
拒んだのは自分のくせに、丹乃宮の瞳はあっさり引き下がった鷹嘴の指を名残惜しげに追いかけ、強請るように潤んだ。
「ねぇ、活未」
「ん?」
「おっさんで、髪も薄くて、どっか頼りなくって……でも好きだよ」
んふふ、と小さく笑った丹乃宮が今更恥じ入ったように肩をすくめ、タオルケットを被る。
成人男性がこんなんでいいのか、と思ってしまうくらい罪のない仕草だった。
僅かに覗く肌の白さが夜明け前の仄暗さに映えてやりきれない。
腕の中に飛び込んできた丹乃宮の髪が状況に不釣合いなくらい瑞々しく爽やかに香った。


 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧  これからも掌でコロコロしちゃってください
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
30風と木の名無しさん:2010/03/28(日) 01:48:22 ID:dW8gAboBO
>>29
超GJ!!!
尋常じゃないくらい萌えましたありがとう!
荷乃未矢の素っ気なさとかどこまでもカシミをなめきった態度がたまらん……!カシミより何枚も上手だ……!
31風と木の名無しさん:2010/03/28(日) 01:50:07 ID:34dtjRcD0
>>25
うわあああ萌えた!
前に偶然深夜の番組で見て仲良すぎwwとちょっと萌えてたんだけど
姐さんの話読んでイメージが具体的になってすごく萌えました
鷹嘴さんはともかく暴風雨あまり知らないんだがチェックしてみようかな、ありがとう!
32風と木の名無しさん:2010/03/28(日) 05:33:54 ID:5bYZtnEi0
!!ナマ注意!!
飯共の川柳と全夜の花見ジングルをネタに歩歩路の撮影風景を妄想
エロ無しのただ甘いだけの小話です

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
33鳳 粕×和歌 巷に花の降る如く 1/3:2010/03/28(日) 05:35:37 ID:5bYZtnEi0
ひらひら、ひらひらと花びらが次々に舞い落ちる。

不規則に揺れながら落ちていく花片を目で追っていると
頭上からカメラマンの声がする。
「目線、上にくださーい」
大声に促されて視線を上げる。

脚立の上の眩しいライトの、そのまた上のほうから
次々とピンクの花吹雪が舞い落ちてくる。

『綺麗だな』とは思うけれど、どんな顔をすればいいのか分からなくて
ただぼんやりと見上げていた。
こうゆうのって本当に苦手なんだよなぁ。
撮影前には、気を使ったスタッフから「和歌林さんは・・・いつも通りで」なんて言われちゃって
いつも通りって・・・能面でいいんッスかね。

隣では本当に楽しそうに笑う相方。
素直に表情に出せるこいつが、昔から羨ましくもあり、妬ましくもある。

俺の視線に気付いたのか、粕賀がふとこっちに視線を向ける。
目が合うと、あいつの笑顔がさらに優しくなって、ドキリとする。

舞い散る花びらの中に立つ粕賀は、いつもより格好良く見えて
ピンクのベストが、花吹雪に溶け合うのを、つい見惚れてしまった。

「満開の粕賀は、どうですか?」
照れ隠しなのかなんなのか、頬も少しピンクに染めて、一段と胸を張る。
「バーカ、お前なんか、いいとこ三分咲きだろうが」
34鳳 粕×和歌 巷に花の降る如く 2/3:2010/03/28(日) 05:38:14 ID:5bYZtnEi0
「じゃあ、まだまだこれから咲き誇るって事ですね」
「・・・日本のために、止めてください」
「なんなんだよっ!」
いつもの軽口の応酬に、我知らず口元も緩む。
自分でも、自然と笑顔になっているなと思った瞬間
連続したシャッター音が聞こえた。

「いただきましたー!ありがとうございまーす!」
満足そうなカメラマンの声がかかって、撮影が終わった。

やれやれと肩の力を抜いて、ふと傍らに視線をやると
なにやら困惑したような表情が目に入った。
「どうした?」と目で問うと、ため息交じりに粕賀が呟いた。

「困ったねぇ・・・」
「何が」
「こんなに可愛らしい顔で笑うあなたを他の誰にも見せたくないなんて、思っちゃって」
「は?」
「今の写真を見る全ての人類に、嫉妬しそうですよ」
恥ずかしげも無くこんな事を言ってのける相方に、手が出そうになるのをぐっと堪えた。

「何言ってんだ、バーカ」
「だぁってぇ!」
「お前が、一番間近で見てんだから、贅沢言うな」
自分が言った言葉に、自分で照れてしまって、頬が熱くなる。

視線を逸らして横を向いた俺の頬に、そっとアイツの右手が触れる。
不意を衝かれた俺は、少しびくりと震えてしまった。
35鳳 粕×和歌 巷に花の降る如く 3/3:2010/03/28(日) 05:41:20 ID:5bYZtnEi0
「・・・何?」
「ん?花びらがね・・・おたくさんのホッペに・・・ほら」

ちょいと摘んで、一片の花びらを俺の目の前に差し出した。
よく見ると、粕賀の髪にも数枚の花びらが乗っている。
「お前にだって、ついてんじゃん・・・ほら」
手を伸ばして払ってやると、はらはらと舞い落ちる薄紅の花。

俺とあいつとの間に流れる甘い空気に流されそうになって、慌てて手を引っ込めた。

粕賀は俺の動揺を読み取ったのか、ニヤリとスケベ面で微笑って
指先に摘まんだ花びらに、俺の目を見ながら軽く口付けた。

茶色の瞳が揺れて、その奥にちらりと光る情欲が透ける。
「なに、考えてる?」
探るように問い質すと、ふふふと小さく笑う。
「おたくさんと、同じ事」
「・・・すけべ」
「っ!お互いさまでしょうよ!!」

一歩体を寄せて、周りのスタッフに聞こえないように小さく小さく囁いた。
「・・・後で、な」
粕賀は一瞬息を飲んだ後、物凄く嬉しそうに「うぃ」と返事して満面の笑みを浮かべた。


  巷に花の降る如く、わが心にも花が降る
  かくも心に滲み入る、この幸せは何やらん・・・


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
36銀盤※ナマモノ前編:2010/03/28(日) 13:19:07 ID:EdAnDp4rO
再びこちらで失礼します。
生モノ、銀盤某選手2人の2009エピを、画像や動画を元に捏造妄想。
名前は完全に伏せてあります。
細かい部分は銀行からのニワカ故にご容赦ください。
前スレのものから続いています。
前後編に分けますので、後編は様子を見て、夜か明日投下させていただこうかと思います。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
37銀盤生モノ 1/4:2010/03/28(日) 13:20:10 ID:EdAnDp4rO
彼への印象は『そこそこ気が合って、たまに理解出来ないセンスを持つ、女好き』。
あと、僕は嫌いなスピンが得意で美しい、せいぜいこのくらいだったと思う。
最初は本当に軽い気持ちで彼に声を掛けた。
このつまらない時間を潰してくれるなら誰だって構わなかった。
たまたま、すぐ横に僕と同じようにつまらなそうな顔をした彼がいた、それだけ。
別に他意なんてものは無かったんだけど…。


「……っ!?」
唐突に、柔らかく首に巻き付いてきたのは黒いマフラー、…じゃなく、腕?
頬を擽る髪から香るフレグランスで、背後から抱きしめてきた相手が誰なのかはすぐに判った。
「ははは、いいね、そのショット!」
たまたま僕の真正面にいたカメラマンが、笑いながらカメラを構えて、フォーク片手に背後から抱きしめられてる様をカメラへ写しとった。
まったく、なにが『イイ』んだ。
38銀盤生モノ 2/4:2010/03/28(日) 13:21:54 ID:EdAnDp4rO
「……食事をジャマされるのは好きじゃないんだけど」
カメラマンが他のテーブルへと移動するのを横目に、チクリと釘を刺しても巻き付いた腕は離れない。
「ミスターゼブラ?聞いてる?」
「どうしていきなりいなくなったの?」
くぐもって僕の肩口から聞こえてくる、わざと拙くした返事は、聞かなければよかった類のそれ。
やっぱり『それ』か。
あえて答えることは放棄して、首に彼の腕を巻き付けたまま、僕は食事を再開した。
身が付いたままの毛皮だと思えば気にならない。
「ウブなんだ、見掛けによらず」
黙々と食事を再開した僕をようやく解放した彼の言葉は、普段なら僕を苛立たせるには充分なんだけど、恐ろしく無邪気な笑顔に苛立ちも引っ込んだ。
「…見掛けで判断されるのも好きじゃない」
フォークで食べかけのフルーツを突きながらそう返すと、彼はやっぱり無邪気に笑いながら肩を竦めるだけだった。
どうしていきなり、ね。
それはこちらの台詞じゃないか?
39銀盤生モノ 3/4:2010/03/28(日) 13:23:38 ID:EdAnDp4rO
ついさっきまで、僕と彼はちょっとした『お遊び』をしてた。
ショーのリハーサルなんて、その半分以上は待ち時間との戦いだ。
そんなつまらない時間を潰すのに、彼を誘ってペアの真似事をしたのはほんの気まぐれでしかない。
でも、いざ始めてみると、これが中々に面白かった。
周りの反応も上々で、僕のエージェントなんかカメラまで持ち出してたし。
それだけなら『面白かった』って気分良く終われたのに、彼がそれをぶち壊した。
またスロージャンプをやろうと、二人で並んで滑っていたら、不意に彼が僕の前に回り込んできた。
「なに?」
彼が僕の腰に両手を絡めたままだから、まるで抱き合うみたいになって滑りながら、僕は彼の行動に首を傾げて見せた。
「……君といると不思議な気持ちになる」
「え?」
あまりに突然な告白に、頭の中が一瞬フリーズを起こした。
自慢じゃないが、『口は禍』を地でいく僕は、周りからバッシングを受ける程度には口が回る方だ。
でも、その瞬間は彼の瞳に飲まれたみたいに口が動かなかった。
40生モノ銀盤 4/4:2010/03/28(日) 13:28:29 ID:EdAnDp4rO
「君は本当は男でも女でもない、天使なんじゃないかって思えるんだ」
エッジが氷を削る音に紛れる程の小さなその呟きは、それこそ天使が放った矢のように僕に刺さる。
刺さった場所から広がる訳の解らない感情にバランスを崩して、自然と傾ぐ体を僕は支える事が出来なかった。
そのせいで、動きを止めた彼の胸に身を預ける羽目になったのは、盛大なるミステイク。
「……大丈夫?」
耳に吹き掛けられた吐息混じりの問い掛けに、一気に熱が上がっていく。
ハイスクールのウブな女の子でもないのに、胸が苦しくて、頷くしか出来ない。
フッと彼が笑った気配に顔を上げたのは、僕の二度目のミステイク。
そして、僕の耳元から頬へ彼の唇が移動する。
柔らかく濡れた感触が、見開いた僕の瞼の縁に、そっと、触れて離れていくのを僕は呆然と眺め…、気が付いたら彼を突き飛ばしていた。
周りは何事かと、一瞬、騒然となったけど、あれは僕だけの非では決してない。
そして、この胸の高鳴りにも、意味なんてないんだと、僕は自分に言い聞かせた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
エロもなく、801でもなく、すみません。
後悔はしてませんが、反省はしてます。
41月蝕 1/2:2010/03/28(日) 14:42:17 ID:8iBHxCki0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智→涼真。
涼真三味線ベンベンの回と先生涙ポロリの回をねつ造。
似非土イ左弁なのはご愛嬌で。

涼真の歌声が聞こえてくる。
そういえば昔から歌う事が好きな男であった。

酒元家の前に佇みながら武智はふと昔を思った。
決して幸福とは言えないがあの家族に包み込まれた涼真は夢の中にまどろんでいる子供の様であった。この世の厳しさも理不尽さも理解し切れていない男だった。
だが、愛する者を失うというあの一件で目覚めていた。

涼真は器用である。
自分自身に対しても他人に対しても、迷いながらでも結局は器用に生きている。
それが己はできないでいた。
これからの土イ左の為には涼真は必要である。

武智は門を叩いた。
42月蝕 2/2:2010/03/28(日) 14:43:42 ID:8iBHxCki0
「おまんを頼りにしちゅうじゃが!」
皆が涼真を求めている。それなのにこの男の態度は煮え切らないでいる。
何故理解してくれない?何故この声に耳を傾けようとしてくれない。
苛立つ心を引き摺って飛び出していた。
「武智さん!」
己を呼ぶ声を振り切って駆け出す。
何故土イ左の為に・・・いや、この国の為に必死になっているこの心を理解してくれないのだ。誰も。
『おまんはしょうまっことそう思っちゅうのか?』
「誰じゃ!」
突然の声に足を止める。
だが、周りには誰もいない。
『おまんががしょうまっこと求めちゅうのはなんじゃ?』
やはり耳元で声がする。静かで見透かした様な声だ。
空耳なのか?いや、それとも自分の心なのか?
姿の見えぬ何かはまだ語りかけてくる。
『おまんがしょうまっこと求めちゅうのは』「やめい!」
その先を聞くのが恐ろしくなってその声を遮るように叫んでいた。
違う。違う。違う。
己はそんな弱い男ではない。

「武智さーん!」
遠くで涼真の呼ぶ声が聞こえ、咄嗟に物陰に身を潜めた。
違う。違う。違う!
何度も聞こえてきそうな声を打ち消していた。
43月蝕 新月1/2:2010/03/28(日) 14:51:15 ID:8iBHxCki0
そんな日々の記憶がさらに武智を追い詰めていた。
「くうぅああ」
苦しい。
塔要達に足蹴りにされた痛みの所為ではない。
絶望と恐怖がじわじわと体を締め上げていた。
どうすればいいのだ。
朦朧とする意識の中で答えの出ない問いを考え続けている。
『めっそ目を覚ませ、武智』
誰だ?
その声は聞き覚えがあった。
『おまんは何を求めちゅう』
ああ。あの時の声か。
その声は涼真の家から苛立ちに任せて走り去ったあの日に聞こえた声であった。
―おまんがしょうまっこと求めちゅうのは―
やめろ。やめてくれ!
『ほりゃあ先生などとゆう立場でもなく、この国の将来でもない』
やめろ。
『おまんが求めちゅうのはあの男』
「やめいぃ」
部屋には自分にそっくりな男が立っている。だがその目は酷く冷たく、自分であって自分で無い様な顔だった。
44月蝕 新月2/2:2010/03/28(日) 14:52:30 ID:8iBHxCki0
『めっそ目を覚ませ。おまんがほがな中途半端な気持ちで求めちゅうから、誰にもなんちゃーじゃ伝わらん。このままじゃーおまんは終わりだ』
「わしはどうすれば」
『わしはお前の味方ぜよ』
ポロリと涙が零れる。ずっと欲しい言葉であった。その一言でいいのだ。
「どうすれば・・・」
『酒元に塔要を・・・・』
その言葉に目を見開く。体が芯から冷えていくのが分かる。
「けんど」
『ほがな想いに縛られるな。おまんの周りは全て手駒だと思え』
「わしにゃいかんじゃ」
『おまんにゃその資格も器もある』
「けんど」
『そうでもしやーせん限りおまんは酒元を手に入れられん』
「・・・っ」
『わしはおまんの味方じゃき』

張りつめていた糸がピンッという音をたてて切れた。
「・・・そうじゃ。斬ってしまえ」

『そうじゃ。わしの声に従っていればはやだらしゅうもならん』
『おまんから全てが無くなっても』

「わしはおまんの味方じゃき」
汗に濡れた口元が歪んだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナンバリングを間違えて苦し紛れをやってしまいました。すみません。
黒のも白のも先生が好きすぎて困る。
ありがとうございました。
45風と木の名無しさん:2010/03/29(月) 00:40:03 ID:TMAyYLhH0
>>41
黒白先生GJです!
「味方ぜよ」は寂しい人には究極の殺し文句だなぁ。
46記憶 1/4:2010/03/29(月) 01:07:36 ID:cx9cp3As0
生 注意
六角なクイズ番組同級生コンビ新×先

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



しんだろー……しんちゃん、好きだよ……


耳に残るのは甘いささやき。唇には柔らかい感触。
目に焼きついた、とろける様な極上の笑顔──。



「おい!聴いてんのかよ?」
カフェのテーブルをコンコンとひろみが叩く。
「あ、ごめん。もっかい言って?」
「何だよー。ちゃんと聴けよな」
文句を言いつつ話を繰り返す顔と声には、甘さの欠片も無い。
いつもと同じひろみだ。

忘れてる。
こいつ昨日のこと絶対に覚えてないな、と確信した。

47記憶 2/4:2010/03/29(月) 01:08:17 ID:cx9cp3As0


みんなでわいわい騒いでた昨日の飲み会。
偶然が重なり、二人ぽつんと部屋に残された。

「しーんちゃん。おい、しんたろう!こっち向け」
「お前すげー酔ってるだろ?」
「なーに言ってんだよ。酔うために飲んでんだからあったりまえじゃん」

やべー。完全に目が据わってる。
ひろみがこんなに酔っ払ってるの珍しい。
いつもはハイになっても、ここまで酔うことないのに。

「ひろみ、ちょっと水飲んだら?」
「いらねーよ。なんで水なんだよー。せっかく美味い酒飲んでるんだからお前も飲め」
「はいはい、飲んでるさー」
「あれ?なんで誰もいねーの?」
「みんなトイレとか電話とか……あとは分からん」
「ふーん……二人きり、なんだぁ……」
ちらりとこちらを見上げる、上目遣いの目線に思わずどきりとする。

48記憶 3/4:2010/03/29(月) 01:08:47 ID:cx9cp3As0
「しんたろー」
呼ぶなり、両手で襟元を掴まれて強く引き寄せられる。
至近距離で見ても綺麗な顔だ。
「何ー?」
額をこつんと合わせたひろみはふふっと笑った。
あどけないのに色っぽい、不思議な笑い。

「しんたろー……しんちゃん、好きだよ……」

ささやかれた声に時間が止まった。
長い睫毛がゆっくりと伏せられる。
目の前の顔がもっと近くなり、唇が重なる。

柔らかい。と思った瞬間にはもう離れていた。
ゆるやかに、華が咲くようにひろみが笑う。
その笑顔に、心の奥からいままで知らなかった感情が引きずり出される。
メッシュが入った髪がふらりと揺れて倒れてくるのを受け止めた。

49記憶 4/4:2010/03/29(月) 01:09:28 ID:cx9cp3As0


あのまま寝ちゃうなんてひろみはズルイ。
そんで起きたら何も覚えてないなんて、もっとズルイ。

「だからー、ってマジ聴いてねーだろ?またボーっとしてるし」
「はいはい、聴いてる聴いてる」
「人が一生懸命説明してんだから、もっと真面目に聞けよな」

口を尖らせる顔をうっかり可愛いと思ってしまい、無理矢理視線を窓の外へ向ける。
そんな話じゃなくて、もっと聴きたいことがあるさー。
昨日のあの言葉はマジ?とか。
今度は俺からキスしてもいい?とか。
でもお前が何も覚えてないんだから、俺だって何も言えない。

もやもやする気持ちを持て余し、アイスラテをストローで思い切り吸い込んだ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

飴☆の会話で、先は酔っ払ったら何かしそうと妄想したらこうなったw
同級生コンビ可愛いよ。
50銀盤生モノ 後編:2010/03/29(月) 07:12:08 ID:ywbFVZ0FO
>>36-40の後編を投下させて頂きたく、携帯から失礼します。
生モノ銀盤某選手2人の2009年エピを、画像や動画を元に捏造。
生モノなので名前は完全に伏せてあります。
銀行からのニワカ故、細かい箇所はご容赦を。
溜まりに溜まった萌えの発散で、801未満です。orz

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
51銀盤生モノ 1/3:2010/03/29(月) 07:14:09 ID:ywbFVZ0FO
「たまたま当たっただけで…」
「ふぅん、君は舌をいつも出しっぱなしなのかい?まるで犬だな、次のEXは猫じゃなくて犬にしたらいいよ」
なけなしの僕の言い訳は、思い出したくない過去を擬えた皮肉で、スッパリと切り落とされた。
僕自身、どうしてあんな事をしたのか、わからない。
いや、正確に言うなら、どうしてしたのかは解るんだけれど、それを引き起こした感情は解らない、かな。
きっかけはあのスロージャンプ。
僕の腕から離れ、羽根でも生えたように宙を舞い、鮮やかに着地した彼を見た瞬間、『美しい』と素直に思った。
流れるようなランディングに、しなやかに舞う身体、氷上の彼は紛れも無く僕を魅了してた。
競技としてではない、遊びのそれはむしろ、彼本来の持つ魅力を際立たせているように感じたのは、間近で彼を感じていたからなのだろうか。
一つ一つの遊びの中で、彼の違う面をもっと見たくなった。
その妙な感覚は、ベッドでの交わすそれに似ていて、触れる度に沸き起こる高揚と、もっと暴きたいという欲求。
捕まえようとすると、するりと逃げる彼に、翻弄されてる錯覚さえ覚えた。
だから、逃したくなくて、捕まえてみたくて、正直に彼へとそれを伝えたのが失敗だった。
52銀盤生モノ 2/3:2010/03/29(月) 07:15:44 ID:ywbFVZ0FO
すんなりと僕の腕の中へ堕ちてきた彼の、間近で見る薄い皮膚の下で色付いた頬の滑らかさに息を飲んだ。
そして、伏せられていた瞼を彩る長い睫毛が揺れて、僕へと瞳が向けられた瞬間、考えるより先に体が動いていた。
舌先で震える睫毛を軽くなぞるようにして、彼の瞳を奪う。
震える程の愉悦を覚える自分と、何をしているんだと警鐘を鳴らす自分、結局勝ったのは、僕を盛大に突き飛ばしてくれた彼だった。

「……もういいよ」
思案の海に漂っていた僕を引き戻す、小さな言葉に逸らしていた視線を彼に戻す。
部屋の暖かさに色濃くなった赤い唇が笑みに上がるのを見て、身体を駆け抜けたのは安堵。
「僕も君を突き飛ばしたし、チャラにしよう」
いつの間にか空になっていた皿にフォークを戻しながら、肩を竦めた彼に異を唱えたい衝動に駆られたけれど、なかった事にしたくない、なんて事を言える訳もない。
「ヘイ、お二人さん、さっきから仲良しじゃないか」
どう答えたらいいのか迷っていると、先ほど彼と談笑していたカメラマンが再び戻ってきた。
「ペアだからね、当然だろ」
気楽に返す彼の声は、普段と変わらぬそれ。
何となく気まずくて笑い返しただけの僕の肩に、スルッと彼の腕が回される。
「一枚、頼める?」
「もちろん」
カメラを構えたカメラマンに、ポーズを決める彼につられるようにして、笑顔を作る。
たったそれだけなのに、触れ合った身体の体温や、ほのかに香るフルーツと彼のフレグランスの甘さが気になってしまうのは、一体なんなんだろう。
53銀盤生モノ 3/3:2010/03/29(月) 07:17:08 ID:ywbFVZ0FO
にこやかに離れていくカメラマンを目で追いながら、ぼんやりと考える。
「……隙だらけだよ、ミスターゼブラ」
「え?」
我に返るきっかけは彼だった。
チュッと高らかな音を立てて頬に触れて、すぐ離れた柔らかい感触。
そして、周りから上がる冷やかしの口笛に、呆然とする僕を婉然と見下ろした彼は、これみよがしに微笑んだ。
「さぁ、僕の可愛いパートナー、行こうか」
そう言って彼が差し出してきた手を取りながら、僕は自分の気持ちを半ば否定しながらも認めざる得なかった。
複雑に絡んだ気持ちはまだ理解を越えてるけど、唯一わかるのは、彼は天使なんて甘いモノではないって事だけだった。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
銀行で知って画像や動画を漁るうちに積もった萌えを吐き出したかったので、こちらを利用しました。
後悔はしてませんが、反省はしてますので、これ以上、銀盤関連の投下はしません。
ありがとうございました。
54風と木の名無しさん:2010/03/29(月) 14:53:27 ID:XyfWZf/DO
>>46
うわー、GJ!
親先可愛いよ、親先ハァハァ
55Offのゼータク 1/2:2010/03/29(月) 22:47:04 ID:5ewaLbfd0
半生注意
しーえむ。Offのゼータクで新人→先輩です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「先輩、今日呑みに行きませんか?」
「え? 俺と?」
花の金曜日。勇気を振り絞って誘ったのに帰ってきた声はあまりに間が抜けていて、けれ
どまぁ先輩らしいっちゃ先輩らしくて俺は少し笑ってしまった。
「他に誰が居るって言うんですか」
新入社員の癖に生意気だ、なんてどやされそうな台詞も、このお人好しの先輩は何も言わ
ない。そうだな、すまん、と謝られる。そして先輩は、たぶんこの人の癖なのだろう、少
し瞳を揺らして、
「別に、かまわないよ」
その返事に心の中でガッツポーズ。入社してずっとこの先輩が気になっていたのだ。気に
なっているというか、目が離せないというか。人当たりは穏やかで、怒った所なんて見た
こともなくて。でも意外と仕事が出来ることにも最近気がついた。たいていの先輩は入社
して一度は呑みに行こうと誘ってくれたのに、この人はそれが一度もなかったのだ。ただ
たんにそういうことが苦手なのだろうというのは、毎日の生活の中で気がついたけれど。
だからこそ、今日は思い切って自分から声をかけてみたというわけだ。
「店は、俺が選んで良いのか?」
行きつけの店があるんだ、と続く。思いの寄らない言葉に目を見張り、もちろんです、と
力強く言えば、先輩はそうか、とくしゃっと破顔した。この顔がたまらなく好きなんです
と言ったら、たぶんお店には連れて行って貰えなくなるから黙っておくけど。



*
56Offのゼータク 2/2:2010/03/29(月) 22:49:54 ID:5ewaLbfd0
「でも、良かったんですか、僕なんか連れて来ちゃって」

ほどよく酔って、涼しい夜風に顔をさらしながら歩く。先輩はポケットに片手をつっこん
で、歩いていた足を止めてえ? と目を見張った。
「だって、初めて連れの人とって」
女将さんはこの人が誰かを連れてきたのは初めてですと綺麗に笑っていた。とうことは、
先輩は誰もここには連れてきた事がないはずで。友達も、同期も、上司も。そんな誰も入
り得なかったプライベートゾーンに、まだ知り合って少ししか立たない新人社員の俺が初
めて足を踏み入れてしまったというわけだ。
嬉しくて、たぶん夜じゃなかったらにやけた表情が晒されていた。今は三日月の光がほの
かに差しているだけで、少しだけ安心する。
「そうだなぁ」
先輩はうーんと考えるようにクビを捻った。瞳が月明かりを反射してゆらゆらと揺れる。
綺麗だなぁとその横顔を見ながら、俺は返事を待った。
「何でだろう。でもずっとお前を連れてきたいって思ってたんだ、なんでかなぁ…」
良いだろう、あのお店。またくしゃっと笑って先輩は言う。俺はたぶんそのあとの言葉を
飲み込む余裕なんて無くて、真っ赤になってしまった顔をふいっと背けた。なんと言うこ
とをさらっと言ってしまうんだろう。
「また連れて行ってやるからな」
俺は、はいと返事をするのが精一杯で、気に入ってくれて嬉しいよという先輩の声をどこ
か遠くに聞いていた。
何というかたぶん、今の自分にとって、この人と共に過ごす週末が何よりの贅沢だ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

衝動で書いてしまった。
もっと後輩君はガツガツしてそうなんだけども…
57ピンポン 再見 5/5:2010/03/29(月) 23:46:38 ID:SINcvIyV0
>>55
わー、CM見て萌えてたよ
ありがとう
58風と木の名無しさん:2010/03/29(月) 23:47:09 ID:SINcvIyV0
名前欄すいません…
59風と木の名無しさん:2010/03/30(火) 00:02:18 ID:iFlc17LN0
>>58
ドンマーイw
亀だけど姐さんのお陰でまた新しい萌の扉が開けたよ!ありがとう

ここ数日投下ラッシュで嬉しいなぁ
投下してくれる全ての姐さん達に幸あらんことを!
60風と木の名無しさん:2010/03/30(火) 00:52:14 ID:RfjexgGd0
>>55
もんのすごい萌えたありがとう
先輩は無意識でどんどんあのお店に連れて行ってしまって
後輩はいつか先輩を酔い潰してお持ち帰りすればいい
いつか後輩→先輩に気付いた女将もきっと協力してくれるはずだ
61風と木の名無しさん:2010/03/30(火) 01:00:57 ID:1MFWJWOiO
>>55
CMを見ながら、後輩、先輩を見る目が獲物を狙うタカの目だw
と思っていたら、作品ktkr
可愛らしい萌えありがとうございました!
62「愛した人」オリジナル 1/3:2010/03/30(火) 08:40:16 ID:UkRItXIZO
携帯から失礼します
オリジナルで別れの話です
とある泣ける歌を聞いて、それをネタにしてますが、キャラはオリジナルです

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

目の前のグラスが、まるでスローモーションみたいに、ゆっくりと床の上へ落ちていく。
でも、衝撃音は耳を素通りしていった。
ただ、目の前にいるハルの、怯えたように竦められた細い肩と、零れ落ちそうに見開かれる濡れた瞳だけが、酷く印象に残っていた。


「……ッてぇ、」

指先に走った痛みに、僕は小さく舌打ちした。
しゃがんだ足先へと、再び転がっていく破片が傷付けた指先に、見る間に血が滲んでくる。
フローリングの床に散らばるガラスの破片と、無残に花弁を散らした花と水、そして、それに紛れるような涙の跡。
さっきまでハルが立っていた場所に、ポツンと残された丸い水滴を、血の滲んだ指先に掬い取ると、苦い痛みが広がる。

バラバラになった花とグラス。

かき集めたって元には戻らないそれは、まるで俺達を表しているみたいだった。
じわじわと足元が崩れるような感覚に、僕は拳を握りしめた。
柔らかな癖のある薄茶の髪も、少女めいた顔も、細く小さな身体も、僕とは真逆なハル。
出会って恋に落ちて、それから二人で重ねた日々が、過去へと流れて朽ちていくような気がする。
63「愛した人」オリジナル 2/3:2010/03/30(火) 08:41:51 ID:UkRItXIZO
散らばった破片もそのままに、暗鬱とした気持ちのまま僕はソファーに横たわった。
見上げた天井のライトに、キリッと目の奥を苛まれて、その痛みから逃れる為に瞼を閉じる。
浮かんでは消える、過去のハルの優しい笑顔と、見慣れてしまった今の泣き顔。
愛しい気持ちも、やる瀬ない気持ちも、ゴチャゴチャになって傷付け合った心は、もう無理だと告げている。
今の歪んだ関係が一番ハルを傷付けていることが、辛くて苦しい。
たった一言で愛しい人を解放してやれるのだと思えば、この頬を伝っていく涙も他人事のように思える。
もう僕は、ハルへと繋いだ鎖を手放さないといけないのかもしれない。
64「愛した人」オリジナル 3/3-1:2010/03/30(火) 08:45:15 ID:UkRItXIZO
「……もう、終わりにしよう」

あの激しい喧嘩から数えて5日目の雨の休日。
朝からの憂鬱な天気のせいだけではなく暗転した部屋で、僕はハルに終わりを告げた。
苦い決意を固めて、覚悟も決めて、伝えた別れの言葉の衝撃は、予想以上の痛みで胸を貫く。
大きく見開かれたハルの瞳に映るのは、痛みに歪んだ僕の顔。
微かに震えるその細い肩を見ていることが耐えきれなくて思わず抱きしめた。
この愛しいという気持ちは嘘なんかじゃない。
そう腕の力に込めるけれど、でも、もう戻れない。
掛け違えたボタンを掛け直すには二人でいた時間が経ち過ぎていて、ハルも僕も、充分過ぎるくらい互いに傷付け合って、僕らの心は傷だらけだった。


「……わかった」

そう言って、そっと僕の胸を押し返すハルの、冷たい指先が痛い。
サイズの合わない、肩の位置が落ちた僕のTシャツを着たハルが、僅かな温もりを残して僕の腕から離れていく。


「……俺、ショウの事、すごく好きだったんだ」

狭い部屋からすぐの玄関で、独り言みたいにハルが呟く。

「さよなら、ショウ」

こちらを振り返ったらしいハルの姿は、見れない、見てはいけない。
ただハッキリと残された別れの言葉だけが、残響として耳に届く。
半身をもがれたような痛みに、僕は立ち尽くすしかなかった。
65「愛した人」オリジナル 3/3-2:2010/03/30(火) 08:46:30 ID:UkRItXIZO
どのくらいそうしていたろう。
外の雨が止んで、カーテンの間から陽の光が滲んできた。
生まれ変わって、またキミと出会えたら…、そんな女々しい事を考えながら、ハルのいない玄関へ、ようやく顔を向ける。

さよなら、愛しい人。
もう振り向かないで、歩き出して。

声にならない願いを噛み締めて、僕はカーテンを開き、眩しい光の洪水を部屋へと招き入れた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
最後、2つ分けになってしまいました
不手際ですみません
66風と木の名無しさん:2010/03/31(水) 01:27:01 ID:qg0+bxs50
>>53
誰か分かって萌えてしまった…!ゼブラこの野郎;;orz;;
私にとってはGJです、有難う!お疲れ様でした!
67風と木の名無しさん:2010/03/31(水) 19:33:54 ID:qs4PquP8O
>>35
GJ!甘い雰囲気にニヤニヤさせてもらいました
68僕の恋人。1/6:2010/04/01(木) 00:24:14 ID:A59Vdd9K0
先日発売された、まぜこいホットドッグの坂風です。
萌えーてなって勢いで書いた。楽しかった。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

真夜中。突然の訪問に目呆け眼を擦りながら部屋に招き入れて茶を出した僕に、風間さんは朗らかに告げた。
 「驚かないで聞いて欲しい。実は、デキちゃったみたいなんだ」
 「…………はあ」
驚くというより、呆れた。
何がデキたのかと聞くほど野暮ではないけど、だからって信じれる話しじゃない。
あからさまに胡乱な顔をしているだろう僕にニコニコと笑いかける風間さんは、一体何を考えているんだろう。
前々から、少し…いや、大分、変わった人だと思っていた。付き合うようになって、少しはわかった気になっていた

けど、やっぱり、変な人だ。

寝起きで跳ねてる後ろ髪を撫で付けながら、なんて言おうか考えていて。ふと、気付いた。
時計を見れば、時刻は0時を過ぎていた。そう、つまり、今日はもう4月1日。
エイプリルフール、だ。
 「………」
気付いたそれに、僕はなんだか酷く疲れた気分で床に転がった。
うとうとしていた所を起こされて、こんな真夜中に何の用事かとほんの少し緊張もしていたのに。
ああ、眠気が戻ってきた。いっそこのまま寝てしまおうか。
 「坂上君、キミ、その態度はないだろう。そりゃあ混乱する気持ちもわからなくはないが、これは現実だ。二人の

将来もかかってるんだから、ちゃんと起きて考えたまえよ」
フローリングの床にべたりと張り付いたまま身動きしない僕に風間さんの声がかかる。
そうですね、現実ですね。いっそ夢オチならよかったですよ。
というか、どうせつくならもっとちゃんと、一瞬でも信じるような嘘を用意して欲しいと思うのは僕の我侭でしょう

か。それとも、聞いた瞬間に笑うべきでしたか? だったら僕のリアクション間違いですね、すみません。
謝るんで、今の所は帰っていただけないでしょうか。明日また会いましょう。その時にはちゃんとリアクションしますんで、今はこのまま寝させてください。
69僕の恋人。2/6:2010/04/01(木) 00:25:13 ID:A59Vdd9K0
 「……坂上君?」
黙ったまま床に寝転がっていると、膝を引き摺って近寄った風間さんが僕の肩を揺さぶる。
閉じた目もそのままで無視していると、また、名前を呼ばれた。
その声がなんだか弱弱しく聞こえて、そぅっと、薄目を開ける。
 「ねぇ、ちょっと…」
風間さんは、凄く困った顔をしていた。途方にくれた、でもいい。
…寂しそうだとか、泣きそう、でも、いい。
 「………さかがみくん」
ぽつりと、もう一度。呟くように僕の名を呼んでから、風間さんの手が肩から離れていく。
このまま行かせちゃいけない。
がばりと起き上がって、引きかけた腕を掴む。驚いた顔で僕を見る風間さんをそのまま強引に引っ張って、一緒に床

に転がった。
二人分の体重の乗った勢いでいい音をたてて打ち付けた後頭部が痛い。我慢だ。
 「さ、坂上君…?」
胸元に顔を押し付けられたまま、風間さんが戸惑った声で僕の名を呼ぶ。
背中に腕を回してぎゅうと抱きしめたら、少しの間があって、僕の背中にも腕が回った。
ちらりと見れば耳まで真っ赤にした風間さんが僕の胸に顔を埋めている。

僕は、幸せ者だ。

好きな人が傍にいてくれて、抱きしめれば返してくれる。そりゃちょっと変わった人だけど、それも知っていて好き

になったんだから、嫌だとは思わない。
困った人だなと思う事もあるけど、嫌いになんてなれない。むしろ、そんな所が可愛かったりもする。
たとえば、今とかも。
70僕の恋人。3/6:2010/04/01(木) 00:25:56 ID:A59Vdd9K0
こんな夜中に訪ねてくるだなんて、きっと、一番に嘘をつこうだなんて思い立ったんだろう。
そうしてどんな嘘なら僕が驚くか考えて、どんな嘘をついて信じさせるか考えて、色々色々考えて、それで、どこか

で方向を間違えたんだ。
どこでどうしたらそんな方向にいくのか不思議だけど、風間さんだから、まぁしょうがない。
きっと風間さんが知ったら憮然とするだろう理由で納得して、僕はくすくすと小さく笑う。
 「…なに笑ってるのさ」
 「別に、なにもありませんよ」
納得いかないのだろう風間さんは少しだけ唇を尖らせて、それに僕はまた笑う。
ああ、ああ、本当に、もう。

 「………それで、キミはどうしたい?」
 「え?」
 「…………」
まだ続ける気らしい。あのまま済し崩しにすればいいのに、妙な所で律儀な人だ。
だけど、呆れるにしろ笑うにしろ、なんだか今更だ。それに今の僕なら、他の反応もできる。
 「……いや、いい。なんだかおかしな空気にしちゃったね。もう止めようか、こんなはな」
 「嬉しいです」
努めて明るく早口で言ってた風間さんにかぶせて、口を開く。
僕の言葉に風間さんは一瞬ぽかんとした顔を見せて、それから、疑わしそうな表情で僕を見た。
 「ホントにぃ?」
 「ええ、もちろん。風間さんに似てて欲しいなぁ、そうしたらきっと可愛いですよ」
頭の中で風間さんをそのまま小さくした男の子と、少し柔らかい感じにした女の子を想像する。
うん。凄く可愛い。これで性格が僕みたいに普通だったら、人生勝ったも同然じゃないだろうか。
見た目が全てとは言わないけど、見た目も大切だ。中身は育てる方にかかってるから、僕が頑張ろう。
71僕の恋人。4/6:2010/04/01(木) 00:26:27 ID:A59Vdd9K0
想像している内に、なんだか楽しくなってきた。
この若さでパパは困る気もするけど、子供の幼稚園だとか小学校だとかで若いパパと評判になるのも悪くはない。
そうしたら、隣にいる風間さんはなんて噂されるんだろう。子供とそっくりだからって、ママには見えないし。あれ

、ひょっとして僕がママ扱い? いやでも、その頃には僕だって背も伸びて男らしくなってる筈だから大丈夫だ、き

っと。
小さくてもいいから一軒家に住んで、家族四人、楽しく仲良く幸せに暮らすんだ。
その内、長男は独立して家を出て、長女は結婚……嫌だ、誰が嫁になんてやるもんか。ずっと家にいればいい。
 「っ、は…あははははははっ」
 「!」
大きな笑い声で我に返った。
しまった。すっかり入り込んで、何時の間にか口に出していた。
痛々しい妄想を聞かれ大笑いされた恥ずかしさに、顔が真っ赤になるのがわかる。
 「そ、そんな笑わなくてもいいでしょう!?」
元々は風間さんが言い出した事なのに、なんだか理不尽だ。
怒鳴る僕に風間さんは「ごめんごめん」と思ってもないんだろう軽さで答えて、笑い涙を拭ってる。
重ねて文句を言ってやろうと口を開きかけた僕は、出かかった言葉を喉で止めた。

目の前、風間さんが笑う。
その顔はとても楽しそうで、嬉しそうで。幸せそうだった。
 「でもね、ボクに似ればそりゃ可愛いだろうけど、キミに似た子も勝ち組だと思うよ」
伸びてきた手が僕の頬を撫でる。
犬や猫を撫でるような気安い仕草で撫でながら、風間さんは目を細めて笑う。
それは本当に楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうで。

この人は僕の事を好きなんだって、そう、感じさせてくれる笑顔だった。
72僕の恋人。5/6:2010/04/01(木) 00:27:30 ID:A59Vdd9K0
 「…え、あ、あれっ?」
腰に腕を回して強く引き寄せると、パジャマ代わりのスエットは布越しに確かな熱を風間さんに伝えた。
慌てた様子で僕から離れようとする風間さんの足に足を絡ませて抵抗を封じながら、僕は思う。
この人は、本当に。
なんて可愛くて、愛らしくて、いとおしい人なんだろう。




数日後。
春休みは塾通いなんてクラスメートもいるけど、特にレベルの高い大学を目指すでもなく成績が悪いわけでもない僕

は、ほぼ毎日、風間さんと会っている。
今日もまた、何をするでもなくぶらぶらと街を歩いて、今は公園のベンチで一休みしている所だ。
 「喉が渇かない? 坂上君、キミちょっとさっきの自販機で買っておいでよ」
 「さっきって、入り口じゃないですか…通った時に言ってくださいよ」
ぶつぶつ言いながら、ベンチから腰を浮かす。風間さんと付き合いだしてから、僕のサイフには小銭が増えた。
 「コーラでいいですよね」
 「いや、オレンジジュースにしようかな」
あれ、珍しい。…あれ? そういえば、最近の風間さんはコーラを飲んでない気がする。
缶やペットボトルよりビンの方が美味しいと拘りまで持っている人なのに、どうしたんだろう。
 「炭酸の飲みすぎで胃の調子でも悪くしましたか?」
 「なに言ってるのさ。まあボクも飲みたいのは山々だけど、糖類をあまり摂るのはよくないって聞くからね。でも

、好きな物を我慢するのもストレスで良くないって言うだろう? ねぇ、どっちがマシだと思う?」
 「…………えっと」
73僕の恋人。6/6:2010/04/01(木) 00:28:13 ID:A59Vdd9K0
何に、とは愚問なんだろうか。
いつもの調子で言いながら、そのくせ、ほんの少し頬を染めて照れくさそうに僕を見る風間さんは、そういえば最近

、少しだけお腹周りがふっくらしてきた気がする。
太りましたか、なんて、失礼すぎて言えないし、元々痩せてる人だから気にはしなかったんだけど、もしかして。
いやでも、まさか。だって、あれは。そんなこと、あるわけ。
 「そうだ。ネットで調べてみればいい。坂上君、キミの家にパソコンあったよね。後でお邪魔するよ」
だから今の所はオレンジジュースね、と付け加える風間さんに、だったら僕の家に向かいながらジュースを買えばい

いんじゃないかと思いながら、それでも言えなくて、「はい」とその場を後にした。

ちらと振り返れば、木陰にあるベンチに腰掛けたままの風間さんが小さく手を振る。早くいけ、の動作にも見えるけ

ど、気のせいだ。
そうだ。気のせいだ。糖類控えてる人が太るだなんて、そんな。こうして遠目で見ると全体的にラインが柔らかくな

ってるように見えるのだって、きっと、気のせいに違いない。
だって、ある筈がないじゃないか。そうだよ、だって僕らは男同士なんだから。いくら風間さんが変わった人だから

って……あ、でも、風間さんは………月…、いやいや、だからって、そんなこと……。
 「……いや、ないよ。ない。ないない。あは、は…ははははは……」

渇いた笑いを溢す僕を、頭上の昼月が静かに照らしていた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

スンバなら卵くらい産めるんじゃないかと思う。ありがとうございました。
74風と木の名無しさん:2010/04/01(木) 00:29:02 ID:A59Vdd9K0
すみません、最後ageちゃいました…
75風と木の名無しさん:2010/04/01(木) 00:59:41 ID:k3Xj1z0R0
>>74
萌えましたGJ!
坂風ルートをちょうど今日クリアしてときめいていたので嬉しい
萌えをありがとうございます
76涙のプリンスメロン  1/7:2010/04/01(木) 01:53:43 ID:CTSHm5dm0
誰得な生モノ。
美知ーと事務所の元先輩バンドのG

元先輩バンドのGのブログにあった写真から妄想捏造w
どマイナーすぎてごめんなさい。



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!





授業が終わり、俺は足取りも重く次の目的地へと向かう。
何年ぶりだろうか。無意識に足はあの場所へと進む。
迷うことなく、身体が覚えている。いや、まだほんの数年だ、通っていた年月には及ばない。
レコーディングが嫌なわけではない。
一つのバンドに縛られることなく、色んなミュージシャンとセッション出来るこんな機会は嬉しいのだ。
このレコーディングに俺を呼んでくれた彼に不満があるわけでもない。
一呼吸して、俺は目の前の建物を見上げた。
ただこの場所が、まだ苦しい。

意を決して中へと入る。
懐かしい光景が目の前に広がる。自分の知っている頃と変わらない。
それが嬉しいような気持ちと、ずっと日常だった場所から突如放り出された疎外感が同時にやってきた。
ぶるりと身を震わせる。こんな感傷にひたる為にここへ来たわけではないのに。
77涙のプリンスメロン  2/7:2010/04/01(木) 01:54:44 ID:CTSHm5dm0

ぐるりと周囲を見渡して、目的のスタジオを目指した。
そう言えば彼はこの秋からのドラマにレギュラー出演していたことを俺は思いだした。
人気のドラマで、しかも主役の相棒役だ。きっと撮影で忙しいはずだった。
今日のようなバックのレコーディングに彼が来るなんてないだろう。
そう思い至り、俺は少し気が楽になった。彼に問題は無い。
しかし、今はまだどう接していいのか分からない。
俺を呼んでくれた彼のことだから、何も気にせずに普通に接すればいいと分かっているのだけれど、
それでも何となく事務所の関係者とはまだ気まずさを感じる。
これは俺の内の問題。

すれ違うスタッフに挨拶をしながら、スタジオの中に入った。
入った瞬間に俺の目に飛び込んできたのは、眩いばかりの笑顔を浮かべ手を振っている彼……追河くんだった。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
礼儀正しく、俺よりも先に彼が挨拶をする。
「あ……。おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
慌てて俺も挨拶をした。なんか恰好悪い。


78涙のプリンスメロン  3/7:2010/04/01(木) 01:55:27 ID:CTSHm5dm0


集中していた神経を和らげる為に俺は喫煙室で煙草を吸っていた。
俺のレコーディングは一曲のみで、さほど問題もなく終わった。
改めて追河くんのアーティストとしての意識に驚かされ、いい刺激を受けた。
楽しいレコーディングだった。
ぼんやりと煙草を吸いながら、俺は何故か追河くんと初めて会った時のことを思い出していた。
22歳でバンドに加入した俺は他のメンバーとの年齢差もあって、王子と呼ばれていた。
中学や高校で全くもてることに縁のなかった俺なのに、本当は自分のギターに注目してほしいと思っているのに、
バンド内ではアイドルっぽい扱い。
見た目にも年齢的にも、何より結婚もしたのにこれでいいのだろうかと思い続けていた頃に彼が現れた。
新人アーティストとしてデビューが決まったと、事務所で初顔合わせをした。
事務所の女性スタッフが「彼は王子様キャラで売ってるんです」と楽しそうに言った。
確かに整った顔立ちと立ち居振る舞いは王子様だなと俺は妙に納得した。
彼は俺たちメンバーの一人一人に挨拶をし、俺の前に立った時に隣に居たブッチャーが余計なことを言った。
「こいつはうちの王子や」と。
俺なんか比べ物にならないくらい王子様らしい追河くんを前に、よくそんなことが言えるなと、
俺はブッチャーを横目で睨みつけた。
が、ブッチャーは気にすることなく他のメンバーに「なあ?」と同意を求めていた。
目の前の追河くんは気にすることもなく、キラキラとした笑顔で「宜しくお願いします」とお辞儀をした。
初めて会った時から彼の笑顔はキラキラしていたなぁと思いだした。
79涙のプリンスメロン  4/7:2010/04/01(木) 01:56:14 ID:CTSHm5dm0


次に思いだすのは、対バンと称したゲストに彼を呼んだ俺たちのライブだ。
「正装してきました」と言って現れた姿はオスカルのような格好だった。
数年前に事務所の女性スタッフから「弐市山さん、王子なんだからこれくらいの恰好しませんか?」と
見せられた写真そのままの衣装だ。当然、俺が着るよりも、数倍も似合っていた。
あの時のスタッフの押しの強さに負けなくてよかったとしみじみ思った瞬間だった。


ふと視線を感じて、視線を出入口に向けると、追河くんが立っていた。
「少しいいですか?」
「あ、うん……」
手にはコーヒーだろうか、カップを2つもっていた。
「すいません。コーヒーを持ってきたんですけど、声掛けそびれて冷めちゃいました」
「ただ煙草吸ってただけだよ」
そう言って、短くなった煙草を灰皿でもみ消した。
「ブラックで良かったですか?」
「うん」
カップを受け取ろうとすると、彼の手が一瞬止まった。そしてテーブルの上にカップを置いた。
気がつくと追河くんの顔が近くにあった。ああ綺麗な顔だなぁとぼんやり思っていると、唇に軽いキスをされていた。
艶やかな唇が離れてくのが見えた。
追河くんは小首を傾げて「リアクション薄いなぁ」と呟く。

80涙のプリンスメロン  5/7:2010/04/01(木) 01:56:49 ID:CTSHm5dm0


「驚かないんですね」
「あぁ……。ほら、うちにキス魔がいたからね」
ここ暫くは会っていない男を思い浮かべる。
「端元さん?」
「そう。どこでも構わずしてくるの。ラスベガスのホテルでもさぁ……ロビーでみんな見てるのにお構いなしでするんだよ。まいっちゃうよね」
FCの企画でラスベガスに行った時のことを思い出して話した。
「でも端元さんは、弐市山さん限定のキス魔って聞きましたよ」
「何それ。キス魔でも何でもないじゃん。誰が言ったの?」
どこからそんな話がまわったのかと笑った。
「やっと笑ってくれましたね」
そう言って追河くんはにこにこと笑っていた。
「え?」
「もしかして、今日ここに来るの嫌だったかなって思ってました」
その言葉にどきりとした。そして本当にそう思っていたことを少し恥じた。
「でもこの曲はどうしても弐市山さんにお願いしたかったんです。弐市山さんに嫌われてもね……」
「嫌うわけないだろ」
きっと彼も色々と考えたんだろう。俺たちの問題を、関係のない彼にまで押し付けている。
関係ないどころか、今も事務所に在籍している彼にとっては迷惑かもしれないのに。
俺と事務所が和解済みでも、波紋は広がったままだ。


「弐市山さん」
不意に顎を掴まれ、また追河くんの顔が近くに見えた。
……今度はさっきよりも深く。キスをされた。するりと舌が滑り込んでくる。不思議とそれを拒もうという気は起きなかった。
頭のどこかで、追河くんってこんなキスするんだなぁとか、そんなことに感心していた。
81涙のプリンスメロン  6/7:2010/04/01(木) 01:57:37 ID:CTSHm5dm0

「こんなおじさんとキスして嬉しいかなぁ……」
キスから解放された後で、小さく呟いた。
「そうでもないですよ。……って、僕も同じ40代ですけど」
「ええっ……40っていつの間に? あ、あれ? もしかして最近誕生日だった?」
かつて、俺たちのFCスタッフは追河くんも担当していた。そのスタッフから教えられた彼の誕生日はつい先日だったはずだ。
「はい。つい最近40になりました」
とても40歳とは思えない笑顔だった。
「40になりたてと、もうすぐ50の40代は全然違うよ」
「同じですよ。だから、今のキスは誕生日プレゼントってことで……」
ふふっと彼が微笑んだ。なんでこんな彼が俺とキスして楽しいのか分からないよ。
「これを機会に、僕もキス魔に立候補していいですか?」
「何言ってるんだよ。……あ、そうだ。俺ブログやっててさ、一緒に写メ撮っていい?」
「いいですよ」
思いっきり話題を逸らした俺に何かを言うでもなく、追河くんは近くのスタッフに俺の携帯を渡して写真を撮ってもらった。
「ありがとう。ブログに載せるけどいい?」
「弐市山さんのブログっていつも大御所ばかりなのに、僕でいいんですか?」
「駄目なわけないだろう。あ、そう言えばドラマみてるよ」
「ありがとうございます」
「だから今日は撮影で来ないかと思ってたよ。撮影忙しいんじゃないの?」
「どんなに忙しくても、自分のアルバムですからね」
さっきよりも普通に会話が出来ていると自分でも感じていた。変に気負う事も必要ないと分かったからだろうか。
こんな俺よりも彼の方がどう接するべきかを心得ている。
それからしばらく2人で話をした。今日のレコーディングのこと、彼のドラマの撮影のこと。

82涙のプリンスメロン  7/7:2010/04/01(木) 01:58:34 ID:CTSHm5dm0



「それじゃ、俺は帰るよ」
「今日はありがとうございました」
「こっちこそ、ありがとう。楽しかった」
素直にそう言えた。
「弐市山さん」
「ん?」
「……また、あの頃みたいに一緒にやれたらいいですね」
あの頃と言うのは初めて一緒にライブをやった時のことだろう。
「そうだね」
空中分解したバンドが元に戻るとは思えないけれど。それでも彼の気持ちは嬉しかった。


重い足取りで通った光景は、軽くなった気分と足取りで見る光景は全くの正反対に見えた。
まるであの頃と変わらない気分で、この道を歩いてる。
今日は不思議な日だった。
普段はあえて思い出さないようにしているあの頃のことをすんなりと思い出し、それを懐かしいとさえ思う事が出来た。
あんなにも重く考えていたことがバカバカしく思えてくる。
来てよかった。レコーディングも楽しかったし。こんなことなら、あのキスは安いものだと言ってもいい。





□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

1枚の写真でここまで捏造出来る自分テラバカスw
83風と木の名無しさん:2010/04/01(木) 03:46:23 ID:v1NAe1fY0
>>82
うお!未知ーナマモノきたあああw
ブログ写真探しに飛んでいきましたよ!
キスされる未知ーはよく見てきたけど、する側は新鮮でした。姐さんGJ!
84風と木の名無しさん:2010/04/01(木) 10:34:42 ID:hmfqU+poO
>>82
未知ーのナマモノは初体験だ!
どうもありがとうございます!!
85風と木の名無しさん:2010/04/02(金) 00:53:04 ID:z1SNM0Ex0
>>25
遅レスだけど萌えました
荷野未屋と香罪さんのやり取りがたまらんです!
86風と木の名無しさん:2010/04/02(金) 01:17:22 ID:ETn/Aey/0
>>25
当時規制で書き込めなかった…。今更ですが私もGJと言いたい!
二人のキャッキャぶりが好きだったんで萌え転がりました
心の潤いをありがとう!
87ピンポン 矢印の行方 1/9:2010/04/03(土) 00:07:19 ID:lWJv/Zo10
規制解除やっとキター!
ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 57-19 の続き

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

孔文革は辻堂学院高校卓球部の生徒達と一緒に、小田急線の新宿駅地下ホームで、急行を待っていた。
都内の姉妹校と交流試合をした帰りだった。
孔が辻堂学院を卒業し、卓球部のコーチになって、2年半近くが過ぎようとしていた。
全体的にスタミナ不足が目に付く。ラリーに持ち込まれると、小さなミスで得点を奪われる。練習メニューの立て直しをしなくてはならない。
まずは何よりも走り込みだろう。
生徒達はさばさばしたものだ。雑談で盛り上がっている。
さばさばしてるのも問題なんだけどな。
頭の中で練習メニューを組み立てていると、生徒の一人が「ねーねー、コーチ」と話しかけてきた。
「あそこの人、K大の風間さんじゃね?」
「え?」
孔が振り向くと、柱の向こうに風間竜一が立っていた。同じ急行を待っているのだろう。
「ほんとだー」
「え、なになに、誰だって?」
「かっけぇなー、俺、ファンなんだよね」
生徒達の視線に気がついたのか、風間が顔を向けた。
孔の姿を認め、一瞬驚きに目を見開いて、笑顔になる。
そう言えば前にも、こう言う顔を見たことがあったな、と思い出す。風間はロマンスカーに乗っていて、孔は反対側のホームにいた。
「孔!」
「風間」
孔が手を上げると、生徒が「えー、コーチ知り合い?」と大袈裟に驚いた。
「まあね」
「あ、俺知ってる。同学年だったんよね?」
「うん」
「えーマジマジ? コーチすごいじゃん」
88ピンポン 矢印の行方 2/9:2010/04/03(土) 00:08:09 ID:lWJv/Zo10
同学年ということのなにがすごいと言うのか、生徒達が口々に言うのをドアを開けた急行に押し込み、自分も荷物を抱え直して電車に乗り込む。
風間が隣のドアから入り、荷物を網棚に乗せ、こちらを待つように見た。
近づいて自分の荷物も隣に乗せ、吊り革につかまる。
「すごい、偶然ね」
「本当だな」
生徒達はひとかたまりになって、こちらを気にする様子だったが、自分たちとは一線を画する存在と見たのか、それ以上は話しかけてこなかった。
あいつらでも遠慮するんだな、と孔は少しおかしくなる。
「辻堂の生徒か?」
「うん、今日、試合あたのよ」
「勝ったか」
「負けたよ。試合、少ない、だめね。練習、たくさん。試合も、たくさん。まだまだ全然。経験、不足」
「確かにその通りだな。相手と対峙することで体が覚えるものがある。…元気そうでなによりだ」
「元気よ。風間、前、ロマンスカー、乗てたね?」
「ああ。やはりあれは孔だったか」
「びくりしたよ」
「私もだ」
星野を空港に見送りに行ってから、どのくらい経ったのだったか。
「髪、伸ばしたね」
「ああ」
「いいね」
「そうストレートに言われると照れる」
「そう? 似合うよ」
風間は黙って微笑んだ。
孔の心臓が少しばかり、どきりと跳ねる。
89ピンポン 矢印の行方 3/9:2010/04/03(土) 00:09:36 ID:lWJv/Zo10
「孔はこれから何か用事があるのか」
「学校行って、荷物取てきて、帰て、ご飯たべて、お風呂はいて、寝るよ」
シンプルな孔の生活に、風間は笑って頷いた。
「彼らは?」
「藤沢、着いたら解散」
「そうか。ではどうだ、食事でも一緒に。私は海王に用事があるのだが、すぐ終わる」
「ん。いいよ。なに食べる」
「藤沢にうまい定食屋がある。7時に駅で待ち合わせではどうだ」
いいよ。孔は窓の外を見ながら答えた。
なんだろう。風間の目を見ながら話していると、顔に血が上るような感じがする。
「念のため、携帯電話の番号を教えておこう」
「あ、私も、持てるよ」
携帯の番号を交換すると、後は近況報告のような会話になった。
今は辻堂のコーチのみか、と言う風間の問いに、「午前中、2時まで、スポーツセンター。遅番もある。それから、辻堂で、コーチ」と簡潔に答える。
「そうか、スポーツセンターか」
「楽しいよ。いろんな人、くる。卓球、台、たくさんあるからね、週2回、センターの教室でも、教えてる。あと、ジム。トレーナーも少しやる」
辻堂を卒業後、生徒達の授業が終わるまでの空いた時間を就労に当てることにした。
経済的にも自立を迫られ、藁にもすがる思いで受けた民間のスポーツセンターの面接が合格した。
後に聞くところによれば、辻堂の卓球部顧問の口添えがあったらしい。
「名門の名を復活させるために」が口癖の、卓球を何も知らない名前だけのただのおっさんだと思っていたのに、孔の卒業後について一番やきもきしていたのは顧問だった。
当時はさしたる感慨もなかったが、今は感謝以外に言葉が見つからない。
そんな経緯があって、もう2年以上、スポーツセンターの職員と、辻堂学院卓球部コーチの二足のわらじを履いていることになる。
本当に、時間なんてあっという間に過ぎるものだな。孔は思う。
会ってみればまた車の中と変わらずに会話が続く。
そう言えば、風間は俺のアパートの場所は知ってるけど、電話番号も住所も知らなかったんだな。
俺に至っては、向こうの連絡先を何一つ知らなかったわけだ。
別方向を向いて進んでいたベクトルが、気まぐれを起こし交差する。
交差した後は、また別の方向に進むのだろうか?
90ピンポン 矢印の行方 4/9:2010/04/03(土) 00:10:49 ID:lWJv/Zo10
風間がうまいと言っていた定食屋は、本当にうまかった。
定食屋なだけあって、安くて量がたっぷりしていて、満足感がある。
炊き立ての白米、餃子、豆腐とわかめのみそ汁に、小鉢、漬物。風間は生姜焼き定食を頼んでいた。
餃子はちゃんと皮を練っているのだろうか。厚く、もちもちして、上海で食べるのと大差ない、と思う。
自分のように日本で暮らす中国人が作っているのかもしれない。
餃子と言わず、焼鍋とでもしてくれたらもっといいのに。
「おいしかた」
「海王の連中と試合帰りによく食べにきた。高校生の財布でも苦しくならないのがいい。それに、うまい」
孔が笑うのを見て、風間が怪訝な顔をした。
「なんだ」
「風間も、高校生、だたんだなあ、って」
「高校生だったではないか。試合しただろう」
「したけど、高校生には見えなかたよ」
「そんなことはないだろう」
本気でそう思うのなら、風間はちょっと変わってる。
「ぎょうざ、おいしかたよ」
「だろう? ちょっと本格的だろう」
風間はこれを俺に食べさせたくて連れてきたのか。
孔はポケットに入っていたガムを口に放り込むと、風間にも一つ渡した。
「これから、どする?」
「そうだな」
「今度こそ、風間、うちきて、お茶、のむ?」
「路上駐車を気にする必要もないしな。邪魔させてもらうか」
二人で顔を見合わせて、笑う。
自分の言っていることが相手に素直に伝わるというのは嬉しいことだ。
言葉は、日本に残ると決める以前から、コーチに強制的に日本語の学校に通わされていた。
そのせいあって、話す、聞くは日本に来た当初より格段によくなった。
けれど、それだけではないなにかが風間との間にある。
それが心地いい。
腹ごなしに孔のアパートまで、二人は連れ立って歩いた。
肩や腕のぶつからない間隔を開けて、並んで歩く。
照れ臭いような気持ちがするのはどうしてだろう。
91ピンポン 矢印の行方 5/9:2010/04/03(土) 00:11:46 ID:lWJv/Zo10
結局二人が飲んだのは、お茶ではなく、酒だった。
数日前に木村や山田が遊びに来て酒盛りをして行った際に置いていった焼酎や日本酒が、部屋の隅に並んでいたのだ。
「旨そうなのが置いてあるな」
と言う風間に、それじゃ、とスナック菓子とつまみを出し、焼酎を出した。
「それ、瓶、いいでしょう」
『百年の孤独』と言う名前のその焼酎は、前に店頭で見て、名前に惹かれ、瓶に惹かれた。値段を見て諦めたのだが、家が酒屋を営む辻堂の同級生が、半分しかないけど飲もうぜ、と酒盛りの時に持ってきたのだった。
「名前がいいな」
「ね。私もいい、思う。友達、くれた。『まぁわん』もある」
「まーわん?」
「これ」
孔が台所から持ってきた瓶のラベルには、『魔王』と骨太な筆文字で書かれていた。
「まおうか。成程。百年の孤独は中国語で何と言う」
「『ばいにぃぁん・ぐどぅ』。それ、すごぉい高いから、ひとりで飲めー、友達、言う」
「私が飲んでは申し訳ないようだな」
「風間と飲むから、おいしいのよ。ひとりで酒、まずい。私、飲まないよ」
「では遠慮なく戴こう」
「うん」
92ピンポン 矢印の行方 6/9:2010/04/03(土) 00:12:55 ID:lWJv/Zo10
風間と向いあって飲む酒は、木村や他の辻堂卒業生とわぁわぁと飲む酒とはまた別な味がした。
正直なところ、まだ酒の味の良し悪しはわからない。飲むという行為が楽しいのだ。
酔うだけなら、缶ビールで十分だ。
風間にその焼酎を出したのは、名前が、海王時代の風間を連想させたからだった。
アパートの壁に背を預けて、つまみを噛りながら、ゆっくりと酒を口にする。
風間は孔のベッドにもたれていた。
窓の外からは、ふざけながら大声をあげ歩く若い男たちの声に、はしゃぐ女の子の声が交じって聞こえる。
気持ち良く、酔いが回る。
二人はぽつりぽつりと会話を交わした。
孔は弱くはないが、強くもない。
軽い酩酊を覚えて風間を見ると、ほとんど変わらない様子で焼酎を口に運んでいる。
酒を飲んでいると、咽喉が渇く。孔は少し前、冷蔵庫にあったウーロン茶を出した。
そのコップとペットボトルが汗をかいている。
孔はコップに付いた水滴を、爪でなぞった。
大きくなった水滴が、ガラスの表面を伝って落ちた。
その様子を見ていた風間が、自分もウーロン茶を口にした。
「冷たいものを飲むと、咽喉が渇いていたことに気がつくな」
「風間て、おもしろい、ねぇ」
「そうか?」
「私知ってる、日本人、誰とも風間、ちがう」
「そうか」
「うん」
沈黙が流れる。居心地のいい沈黙である。黙っていることに不安を覚えない。
孔は幸せだった。
93ピンポン 矢印の行方 7/9:2010/04/03(土) 00:13:51 ID:lWJv/Zo10
風間が腕時計を見た。
「時間を忘れていた。そろそろお暇しよう。終電が無くなる」
「え、あ、うん」
立ち上がりながら手にしていたコップをテーブルに置こうとして、孔は手を滑らせた。
「おっ」
「あ、ごめん、なさい」
風間のTシャツが濡れた。タオルを探して手渡すと、風間は軽く拭いて、
「着替えがある」
と、濡れたTシャツを脱いだ。
脱いだものを丸めて側に置き、スポーツバッグの中をさぐるのに、風間の背中が孔に向けられた。
バッグの口からラケットの柄が見える。孔は微笑んで、ふと、風間の背中に視線を移した。
孔の息が止まった。
風間の肩甲骨の辺りに、赤い痕が走っている。誰かが、背中を掻き抱いた痕に見える。
…女が、いるのだ。
風間のような男に、いないほうがおかしい。
冷水を浴びたように、酔いが一気に冷めた。孔の顔がこわばる。
「…それ」
「ん?」
「かのじょ、か?」
「なんだ?」
「せなか」
風間は一瞬けげんそうな顔をした。そして背中という言葉に思い当たったらしく、苦笑いを浮かべた。スポーツバッグから出したTシャツを着込む。
「彼女ではない」
「おんなだ」
「女ではあるが、恋人ではない」
「風間は、好きでないの人、寝るか」
94ピンポン 矢印の行方 8/9:2010/04/03(土) 00:14:59 ID:lWJv/Zo10
孔の胃の上辺りがきゅっと縮み、怒りが首をもたげた。
「好きではないわけではない。ただ、恋人とは言わんと考えている」
「わからない」
「そういう関係もある。何を怒っている」
なぜ怒っているのか、孔は自分でもわからなかった。風間の女関係が孔に関係するはずもない。はずもないのだ。
息を吐く。
「…わからない」
少し前まで孔は幸せな気持ちでいっぱいだった。それがぺしゃんこにつぶれて、惨めな気持ちでいっぱいになっている。
こんな気持ちでさようならするのは嫌だ、と孔は思った。しかし孔には今の自分の心のうちを表すすべがなかった。
風間が立ち上がり、荷物をまとめ、肩にかけた。孔ものろのろと風間の後について玄関まで出る。
「すまなかったな」
「…なぜ、風間あやまる」
「怒らせたようだ」
「怒てないよ」
風間は、そうか、ならいい、と呟いて、アパートのドアを開けた。孔もサンダルを履いて、外に出る。
「かざま」
風間が振り向く。
「…また」
「また」
「駅、わかる?」
「ああ、大丈夫だ」
「…バイバイ」
風間は笑みを浮かべ手を振って、歩き出した。
孔は少しの間その後ろ姿を見送っていたが、途中で耐えきれなくなって中へ戻った。
ドアを閉めて部屋に入ると、風間のいた気配が色濃く残っていた。
それだけに、一人になったことが孔をうちのめす。
胸が苦しい。
片付けをする気になれず、ベッドに横になって目をつぶると、涙がこぼれた。
泣くなんて、もうずっとなかったのに。
どうして俺は泣いているんだ。
孔はシーツに顔を埋め、泣き声を噛み殺した。泣いている自分を認めたくなかった。
泣いている自分が信じられなかった。
95ピンポン 矢印の行方 9/9:2010/04/03(土) 00:15:41 ID:lWJv/Zo10
そうか。俺は、風間のことが好きなのか。
噛み殺した泣き声が嗚咽に変わって、ようやく孔は自分の気持ちに気がついた。
あの怒りは、嫉妬だったのか。
風間に抱かれる女がいることに。
気がついたところで救いがあるわけではない。
むしろ、気がつかなければよかったのだ。

孤独なのは風間ではない。俺だ。

交差したベクトルは、やはりまた別の方向へと進むのだ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
96風と木の名無しさん:2010/04/03(土) 00:36:40 ID:ANtFtA1PO
>>87
続きktkr!
ありがとう、姐さん
またこの先を待ってるよ!
97風と木の名無しさん:2010/04/03(土) 01:52:53 ID:JrchocVqO
>>87
なんてもどかしい…!そして相変わらず孔のたどたどしさが愛らしい
続き楽しみにしてるよ
98ピンポン そしてまた太陽が昇る 1/3:2010/04/03(土) 22:48:40 ID:lWJv/Zo10
投下される方がいらっしゃらないようなので、またちょっとスレお借りします
規制続きなんでしょうか…

ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 57-19 57-87 の続き

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

夕暮れの薄暗い部屋の中、ベッドの上で胡座をかいた風間は、手の中で携帯電話を玩んでいた。
傍からは瞑想中にも見えただろう。
後頭部を壁に軽く預け、静かな呼吸だけが続いている。
風間は今、自分の中で一つ決着を付けたところだった。

体が満たされる瞬間、精神の一部も満たされる。
全てではないところがおもしろい、と風間はいつも自嘲気味に考える。
満たされる部分、それは大概気がつかないところにあるものだ。
餓えていたことに、満たされてから気がつくのだ。
そしてその満たされた部分がまた、飢えた部分を刺激して、怒りにも似た飢餓感はもっと強くなる。
何か満たされないものを抱えて、それが何かもわからずに、餓えている。
時折会って、お互いの飢餓を満たすために屠りあい、別れる。

二人の間にあるものは、愛でも情でもない。

女との、恋人とは言わぬ、この関係を何と表すのか風間竜一には見当がつかない。
99ピンポン そしてまた太陽が昇る 2/3:2010/04/03(土) 22:50:37 ID:lWJv/Zo10
星野を見送りに行った空港からの帰り、孔を車に乗せてアパートまで送ったことがあった。
しばらくしてから女に会った時、女は少しばかり目を細めて風間を見、
風間君…好きな人が出来たでしょう
と言った。
そんな人はいない、と風間は答えた。
女は笑って、
風間君って時々40歳くらいのおじさまなんじゃないかと思うことがあるんだけど、かと思うとやっぱり20歳そこそこの男の子なのよね…
と、吸っていた煙草を揉み消した。

風間が孔と偶然に再会し、孔のアパートで酒を飲んだ夜、風間の背中には前の晩に女が付けた爪の跡があった。
風間はその時ひどく乾いていた。
孔を車で送ってから、風間に常につきまとっていた餓えと乾きは強くなったようだった。
怒りと、焦りと、もどかしい感情が風間を支配していた。
行為に表れたのだろう。そのため、爪を立てられたのだ。

孔と飲むのは楽しかった。
正直に言えば、孔と居ること自体が楽しかった。
昂揚したような、どこか興奮しているような、感じたことのない感情が風間に襲いかかる。
自分を律しながら、孔との時間を楽しんだ。孔も楽しそうだった。
一変したのは、濡れたTシャツを着替えようとして、風間が孔に背中を向けた瞬間だった。
空気が変化したのが気配でわかった。
「せなか」
と言われて、前の晩に女と会ったことを思い出した。
「かのじょか」
と問われて、恋人ではない、と答えた。
女との関係を説明する気はなかったし、実際、説明のしようがなかった。
恋人ということにしておけば孔は納得したのだろうが、それは風間の中の実直さが許さなかった。
孔はきっと誤解しただろう。不実な関係を楽しむ男と思っただろう。
それはそれでいい。
100ピンポン そしてまた太陽が昇る 3/3:2010/04/03(土) 22:52:29 ID:lWJv/Zo10
問題なのは、孔に背中の爪の跡を見られたことが、風間自身に予想外に大きなダメージを与えたことだ。
まるで不貞のあとを見られたような。
孔は久し振りに会った良い友達で、スポーツを介した戦友だ。
浮気と言う表現は現実にそぐわない。
しかし…なぜ、孔を裏切ったような気持ちになるのか。
いや、違う。孔ではない。自分を裏切ったような気持ちが風間を襲うのだ。

風間の中で、答えはもう既にあった。本当は最初からあったのだ。
気がつかないふりをしていただけだ。
孔の気持ちが自分に向くことなど有り得ない。
初めての自分の恋愛は不毛なまま終わるだろう。
まあいい…。自分に正直でないより、ずっといい。

風間は不器用な男だったのだ。
自分が器用な男ではなかったことに、風間は安堵と同時に軽い失望も感じた。
そして、風間はまだ若かったのだ。
驚くほど老成しながらも、未熟な部分があることに、自分でも気がつけない程、まだ若かったのだ。

風間は掌の中の携帯電話を開き、ボタンを押した。
何度かのコールの後、女の声が聞こえる。
風間はゆっくりと口を開いた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ようやくそれぞれ自分の気持ちに気が付いたナリ
101薄氷の音1/8:2010/04/04(日) 01:22:17 ID:nO9YY8fVO
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智(黒)×奈須。本編でほぼモブだったのに夢見すぎてエロがあります。
黒白タケチの関係性が難しく、なんだかわかりにくい話になってしまいました。
雰囲気だけでも伝わってくれれば幸いかと…


それは、鈴を振るかのごとく高く澄んだ音だった。
長く尾を引きながら、薄く剥がれ細かく欠けていく音。

『東洋は生きちょります』

それが一際大きくなった瞬間。
耳の奥で反響するそれに、自分の声も聞こえないまま唇だけが動く。

『…涼真は…』
『あやつも』

しかしその音が……不意に止んだ。
それに自分はあぁと思う。
あぁ、とどめだ、と。
しかしそれは初めからわかっていた事だった。
わかっていたから、自分は今目の前にいる男を呼んだのだ。
それでも最後の一欠片で、信じたい気持もあったのだろう。
それが――彼はまだ報告に現れない――その事ですべてを悟らされる。
愚かだと思う。愚かすぎていっそ憐れなほどだ。
いったいこれまで、何度同じような事を繰り返してきたのか。
だから『少し休め』と、自分はもう一つの自我に唇を動かさぬまま呟く。
自由は欲しい。しかしだからと言って完全に消えてなくなられても困るのだ。
だからしばし……眠れ。
告げる言葉と裏腹に、閉じていた目が開く。
光の無い黒い瞳が、前に座す男を映し出していた。
102薄氷の音2/8:2010/04/04(日) 01:24:32 ID:nO9YY8fVO
奈須進吾。
道場に通う門弟の中でも、抜きん出た体格の良さと武芸の腕を持っている彼とその仲間に、
数日前、自分はある仕事を頼んだ。それは、
藩の参政、芳田東葉の動向を探る事。
それは登城時の道筋や護衛の数。帰城の時間。屋敷への来訪者の詳細。そして、
それと同時に見張らせた阪本涼真の行動。
自分と彼の縁戚関係は周囲には知られている。
それゆえに最初聞かされた時、彼は一瞬怪訝な顔をしてみせた。
しかし腕だけでなく頭も回る男だったのだろう、彼はそれ以上の事は言及せず忠実に任にあたった。
その上での、今の報告。
あの男も、彼も生きている。ならば次に打つ手は、
「手間を取らせてすまんかったな。」
「いえ。」
「何分、自分では動けんかったでの。助かった。」
言いながら無意識のようにその手を頬に触れさせる。
そこには数日前、東葉とその甥によって足蹴にされた際、出来た痣がまだ薄く残っていた。
途端、那須の視線が歪む。
「大丈夫ながですか?」
問われ、静かに微笑した。
「あぁ。腫れは大分と引いた。しかし見栄じゃな。皆の前であのような目にあって、
なんちゃあ頼み事をするにも、収次郎達を頼るのは気が引けた。」
普段、片腕とも言うべき旧知の仲間の名をさらりと出せば、それに奈須の目には瞬間、
微かな喜色が浮かぶ。
「いえ、声をかけてもろうて、嬉しかったがです。」
多勢の中から一人、認められたと言う事実が自尊心をくすぐる。
そしてそれは更なる特別を求めさせる。
「先生は、阪本に何を?」
答えを察っしているだろう上で口にしてくる問い掛け。それに自分は尚も静かに笑ってみせた。
「なんちゃあない事や。」
「しかしあやつはあの東葉を前にして、なんもせずに戻ってきたがです。あれがわしやったら、」
「やめい。」
103薄氷の音3/8:2010/04/04(日) 01:26:16 ID:nO9YY8fVO
憤る語調を諌めるように、短く強く言う。
それに奈須は一瞬呑まれたような表情を見せたが、それに自分は彼の目の前、一度小さく息をつくと
再び口元に柔らかな笑みを浮かべた。そして、
「……涼真にも出来んかった事じゃ。おまんに無茶はさせられん。」
わざとの名出し。わざとの労り。
その響きが優しげなら優しげなほど、相手の義侠心を煽るのは想定の内の事だった。
「先生!」
座していた間を詰められ、腕を掴まれる。
「望む事を言うてつかぁさい!わしは先生のお役に立ちたいんじゃ!」
握り込んでくる手の強い力。本気の声の響き。
追い込む。あと、もう少し。
「一人では無理じゃ。」
「今回の事に関わった保岡と大居氏にも声を掛けます。」
「事が成れば、おまんらはこの土イ左におられのぉなる。」
「それが先生の、この国の為になるがなら本望ですきに。」
「……いかん、」
微かな沈黙の後の溜息、そして微笑。
やんわりと掴んでくる腕を解こうとする。その気配に奈須は抵抗した。
「先生!」
振り解かれまいとする手が腕を引き寄せようとし、その強い力に体が思わず傾く。
奈須の肩に顔を埋めるような形になる。
触れた場所から伝わる振動で、彼がはっと息を呑むのがわかった。だから、
「……その前に、おまんには今回の礼をせねばならんのう。」
話をはぐらかし、着物越し、その胸に手を置く。
押し返すわけでも縋るわけでもなく、ただ触れ、その目を上げる。
「何か、欲しいもんはあるかえ?」
目を細めて笑いながら、問う。
その答えは……再び深く抱き込んでくる腕の強さで返された。
104薄氷の音4/8:2010/04/04(日) 01:28:27 ID:nO9YY8fVO
窓辺に座り込み、細く開けた障子戸の隙間からのぞき見た眼下には、夜も更けた頃合いになっても
行き交う人の影が幾つか見て取れた。
賑やかと言う訳ではない。どちらかと言えば密やかな、しかし眠る事のない淫猥な雰囲気が
日が落ちると共に漂い出す町の一角。
しかしそんな界隈の中でも今、自分がいるこの店は比較的まともな店構えをしていた。
あれから数日、落ち合う場所は相手に決めさせた。
果たしてどんな所を指定してくるか。思い、辿りついた場所にあったのは、一見普通の
小料理屋を前面に出した色茶屋だった。
その選択は彼なりの自分に対する配慮だったのだろう。
ふと思い、背後を振り返ろうとする。
しかしその背中にこの時、ふわりと掛けられる羽織の感触があった。
「夜は大分と冷えてきましたきに。」
情事後、眠っているとばかり思っていた男がいつの間にか側近くに来、着物一枚だった
この身を心配して労わりの声をかけてくる。
そんな相手に武智はこの時、ゆっくりと視線を巡らせると静かに微笑みかけていた。
「すまんな。」
礼を言いその羽織を引き寄せながら、そのまま後ろにいる彼――奈須の腕の中に凭れかかろうとする。
そのわずかに傾いた体を、彼はしっかりと受け止めてきた。
先刻まで一度深く絡み合っていた肌は、互いの着物越しでもこの時しっとりと纏いつく。
太い腕が体温を分け合うように体を抱き込み、柔らかく引き寄せてくる。
それに武智は逆らわなかった。
むしろ自ら甘えるように首を傾けてその頬をすり寄せようとすれば、その顎に添うように
奈須は手を持ち上げてきた。
柔くなぞり上げ、それは頬のある一点で止まる。
そして小さく呟かれる。
「許せんがです……」
真剣に思いつめたような声。それに武智はふっと口元を緩めた。
「そんな事を言うてくれたは、おまんだけじゃ。」
105薄氷の音5/8:2010/04/04(日) 01:31:09 ID:nO9YY8fVO
決死の訴えを退けられ、あげく犬猫のごとく痛めつけられ、その際に出来たこの顔の痣から、
あの時門弟達は皆、まるで腫れ物に触れないでおこうとするかのように目を背けた。
それは新入りの者達から、古くからつきあいのある者達に至るまで。
もっともその中には、驚きのあまりこの痣自体目に入っていないかのような者もいたが……
脳裏に浮かびかけたその者の顔を、武智はしかしこの時、すぐに打ち消すように意識を触れてくる
手の方に集中させる。
優しい手はただそれだけでひどく肌になじむ。
それはそれだけこの身が、まるで渇いた砂のように労わりに飢えていた事を意味していた。
幼い頃からもう気が遠くなるほどの長い間、この身はずっと我慢に我慢を重ね、耐える事を覚え、
それでも期待をすれば裏切られ、与えられる事を望んでも奪われ続けるばかりで。
そしてそんな重なる痛みと共に、心は荒んで、荒んで……
「なぁ…」
視線を落としたまま、抑揚の無い呟きが零れる。
「おまんは、心が削られる音っちゅうもんを知っちょるか?」
急に耳に届いたそんな言葉の意味を、奈須はこの時はかりかねたようだった。
えっ?とばかりにわずかに姿勢が正され、その顔が武智の表情を覗き込もうとしてくる。
それを武智は戯れるように微かに首を振りながら拒んだ。
それでも呟きだけは零れ続ける。
「最初は何の音かわかっちょらんかった。それは高く澄んだ音で、鈴でも振るかのように
か細く長く後を引く……たまに聞く分だけなら綺麗だとも思えたんじゃがな。あまりに
鳴り続けられると、神経をやられる。」
絶えることなく耳の奥で響き続ける音に侵され、苛まれてゆく。
長じるにつれ酷くなっていたその現象から解放されたのは、彼が側にいた時だけだった。
考えまいとする矢先から浮かび上がってくる一人の男の面影に、武智はこの時たまらず苦笑する。
唯一の光。唯一の救い。しかし皮肉なものだとも思う。
その男が結局は、自分の中に一番大きな音を立てていったのだから。
あれ以来、もう音は聞こえない。
だからもう……いらない。
106薄氷の音6/8:2010/04/04(日) 01:32:48 ID:nO9YY8fVO
「先生?」
心配そうに呼びかけてくる声。それに合わせるように武智はこの時顔と共に手を差し伸ばした。
頬に触れてくる手に、自分のそれを重ね合わせる。
相手など、選ばなければいくらでもいるのだ。
それが例え行きずりだろうと、今宵限りの者だろうと……
「なんちゃあない。それより、もうええがか?」
だから滑るように口にする、誘いの呼び水。
「せめてもの餞別じゃ。好きにしてくれたらええ。」
事が成った後、彼が徴収へ落ち伸びる手配はすべて自分が整えた。
この時勢、これが終生の別れになるかもしれない事は双方口にしないまま理解している。
それゆえの衝動。
不意に膝裏に腕を差し込まれ、座り込んでいた場所から抱き上げられようとする。
力強い腕の、しかしその行為を武智は刹那制した。
途端、怪訝にひそめられる奈須の眉根。
それを見て取りながら、武智は少しだけ可笑しげに笑ってみせる。
そして視線を外さぬまま、この時伸ばした指先。
それはコトリと小さな音を立てて、細く開いていた障子を後ろ手に閉めていた。
107薄氷の音7/8:2010/04/04(日) 01:35:56 ID:nO9YY8fVO
すでに寝乱れていた布団の上に運ばれて、貪るように始められる二度目の情交。
余裕を失くしたような奈須の荒々しい求めにも、武智の体はすぐに慣れ溶けた。
物心ついた頃からもう何度、意思に反して踏みにじられ苦痛しか感じなかった行為も、自ら
受け入れてしまえば、そこにあったのは果てのない悦楽だった。
首筋を辿り下りていく唇に胸の尖りを捉えられ、念入りに舌を絡められれば、そこから生まれる
ジリジリとした昏い熱に無意識に指先が伸びる。
胸元に伏せられる男の髪に手をやって、弄るようにその首や肩を撫で下ろし、その上に早うと
せがむように爪を立てる。
それに奈須は応えてきた。
手を掛けた足を持ち上げ、押し開き、あてがってくる。
それに抗う素振りを見せなければ、奈須は一気に彼自身を武智の中に埋めてきた。
すでに猛りきっていた男の欲の圧迫感には、さすがに息が詰まった。
けれど熟れた体に走る痛みはもはやあまり無い。
だから戻す呼吸と共に、武智は自らも動く。それは、罪に蜜を絡めるように。
明かりの落ちた室内に響く、脱ぎきれていない着物の衣擦れと淫らな水の音。
抱き締められ、揺さぶられる度に上げる喘ぎは、塞いでくる手さえなければこの上なく甘く、
淫らがましく己の耳にも届き、それに武智は自らの胸の奥をちりちりと焼く疼きがある事を知る。
回した腕で懸命に男の背に縋りつきながら、それを武智はふと可笑しく思う。
まったく往生際の悪い。
ここまで堕ちて、まだ恥と感じる心があるのか。
認めてしまえば、解放してしまえば、楽になれると言うのに。
たとえば、このように………
「…やぁ…っ…あぁっ…」
乱れる布団の上、徐々にずり上がっていた体を再び引き戻され、より深くを穿たれる。
途端、跳ねる背と共に悲鳴にも似た声が口をついた。
「やめっ……や…ぁ…」
それまで男のすべてを従順に受け入れていた体が、突如もがく様な仕草を見せる。
けれどそれを、嘘をつけと含み笑う意識があった。ただ、
「……やめ……こわ…い…っ…」
怯えるように切れ切れに零された、その言葉は本当の事だろうとも思う。
もっともそれが理性を失くしかけている男を煽るだけにしかならない事も、自分は知っている。
108薄氷の音8/8:2010/04/04(日) 01:38:33 ID:nO9YY8fVO
律動が早まる。逃れられず追い込まれる悲鳴が、男の下で徐々に啜り泣く様な吐息に変わってゆく。
それでも、
「…もう……いて…くれ……」
その中でも呟かれた掠れた声の訴えに、肌一枚の下、浮かべていた笑みは明確な失笑となった。
いったいどこまで……お綺麗にお人好しなのか。
しかしその願いを叶えてやる訳にはいかなかった。
どれ程願おうと―――自死など選ばせてなるものか。
この体は自分のものでもあるのだから。
だから、
不意に、それまでなすがままに揺れていた足を、武智は奈須の腰に絡めた。
うねるように二人して昇り詰めるよう、その首筋に腕を回し、引き寄せる。
そして耳朶に這わせた唇で、その時声に出さずに奈須に告げた囁き。それは、

―――わしの為に、東葉を…

「…殺いて…くれ………」

恍惚とした笑みを浮かべるのと同時に果てた瞬間、聞いたそれは鈴を振るかのごとく
高く澄んだ音だった。
わずかに残っていたそれに罅を走らせ、粉々に砕け散らせた……
願う冷たい死とは裏腹な熱い欲を身の内に感じながら、武智はこの時あらためて、
人の心とは薄氷が割れるような音を立てて壊れるのだと知っていた。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
白タケチをイジメる黒タケチのイメージは木春屋4十奏の幻惑だったと言ってみる。
109101:2010/04/04(日) 02:12:59 ID:nO9YY8fVO
すみません。今頃カプ表記を間違えた事に気付きました。

武智(黒)×奈須ではなく→奈須×武智(黒)です!

間違えて読んでしまった方がいたら、本当にすみません…
110架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 1/3:2010/04/04(日) 20:45:08 ID:bbRAoi3bO
架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

トイレから帰ってきたら、ドアの前で松/村に頭を叩かれた。
「なんだよ」
「お前パソコン開いたままで行っただろ。ヒラ/サワさん読んでるぞ。」
「げ」
俺の暇つぶしの松/村×ヒラ/サワ小説(完結編)を事もあろうに見られた。
ヒラ/サワさんに。
俺が座っていた椅子に座り、足を組みながら堂々と画面を凝視している。
お、俺は…ど、どうしたら…
松/村が顔だけ動かして「行け」と命令してくる。
わかってるよ。こうしてたってしょうがないしな。
でも心の準備ってもんが…
ああ、でも見られたもんはしょうがない。
俺のせいだ…。

ドアを開け、恐る恐る近づく。
おい、松/村、お前も入ってこい。いや、入ってきてください。
俺の必死の形相に松/村は呆れて溜息を吐きつつ入ってきてくれた。
しかしいつでも出られるようにドアの前から動かない。くそが。

「あ、あ、あのーー……」
くるっと振り向いたヒラ/サワさんの目力のすごさに後ずさる。
「ほんとすいません!!」
やばい、やっぱり怒ってるよ。やばい。嫌われるのだけは嫌だ…!
111架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 2/3:2010/04/04(日) 20:46:39 ID:bbRAoi3bO
ああなんで最後まで書いちゃったんだろう。
かなりきわどい事もさせちゃったし怒るよそりゃ。
こんな風に見られてるって知ったら俺だって怒るし書いたやつの事嫌いになる。
うわああ嫌だ嫌われたくない!!
どうしよう、どうしたら…
「こんなもので」
「はい!すいまs」
「こんなもので私が(ピー)ながら(ピーーー)るとでも?」
「……え?」
なんだって?
今、な、なんだって?そっち?
「……」
にわかに信じがたい事を言われた気がする。
思ってた突っ込みと方向が違う。
やばい、体が動かない。目力がすごすぎてヒラ/サワさんから目も離せない。
俺、丸腰なんだけど。
ヒラ/サワさんは俺を見たまま椅子をくるんと回転させ体ごとこちらを向いた。
椅子に深く腰かけ、足を組んだ膝の上で手も組んで俺を見上げる。
思わずフラフラと近づきそうになった。のに。
「だいたい(ピー)は(ピー)なのだからこんなもんでは私は(ピー)しない。」
近づきそうになった途端、また俺の思考が止まる。
112架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 3/3:2010/04/04(日) 20:47:50 ID:bbRAoi3bO
「あ、あ、」
「もっと(ピー)なもので(ズキューン)しても(ピー)だと思わないか?」
あれ?あれ何これ?
ヒラ/サワさんなんか笑ってるし。
違う方向からなんかでかい爆弾が落とされてる!あれ?
ていうか俺の防空壕の中にヒラ/サワさんが居る!!
「(ピー)というのは、(ピー)であるゆえに、つまり(ピーーーーー)。私を(ピー)たかったら(ピー)くらいしないとダメ。」
長い!!話長いよ!!!助けてーーーーーーーーー!!まつ…
あっ松/村が居なくなってる!!
「す、すいま、すいま、」
「わかったら、はいやり直し。」
全選択→del→上書き保存
ああああああ渾身の作が。いや、駄作が…。
「最低限(ピー)するように。でないと(ピー)てやんない。」
席を立ち、静かに自分の作業に戻るヒラ/サワさん。

「おい」
呆然としている俺にいつの間にか帰って来ていたらしい薄情な松/村が話しかけてきた。

「なんか好きな話題だったみたいでよかったな。」
くそが。


俺…いつかヒラ/サワさんを満足させられる日が来るんだろうか。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
たくさんのねつ造がかさんでおります。
読んでくださってありがとうございました。
113ピンポン 恋は思案の外 1/5:2010/04/04(日) 22:54:05 ID:HM7kvPxB0
ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 57-19 57-87  57-98 の続き
じりじりと進んでおります

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

孔が風間と久しぶりに顔を合わせたのは、仕事先のスポーツセンターのジムだった。
交代の時間になり、ファイルを手に取りながらジムを出ようかと歩き出したところで視界の端に存在感のある何かをとらえ、振り向くと、壁際のベンチシートに座って孔を見る風間の姿があった。
「…風間?」
「トレーナー姿も板についているものだな」
風間は、孔のアパートからの帰り際気まずく別れたことなど何もなかったかのように話しかけてくる。
孔の働く姿を見ていたのらしい。気が付かなかった。
「びくりした…いつからいた? トレーニングに来た?」
「ここには今しがただな。隣に、注文していたラケットを受け取りに来たのだが」
「ああ」
スポーツセンターの隣には、スポーツ用品全般を取り扱う大きいショップがある。
「いいトレーニングマシンが入ったと大学で噂で聞いてな。それにここで働いていると言っていただろう。ついでにのぞきに来た」
「新しいのベンチかな。あれ、いいよ。レッグストラッチャーも、新しくなてる」
「ここのジムは孔をトレーナーに指名すれば付いてくれるのか」
「うん、私、その時、空いていれば。来たら、ジムの受付、聞け」
話しながら、先日のことは、風間にとってはなんでもないことだったのだと気が付いた。
顔を合わせづらいと考えていたのは孔だけだったのだ。
「そうしよう。ジムにいる日を教えてくれ」
目を覗き込まれて、孔はごまかすように腕にかけていたジャージの上を羽織った。
114ピンポン 恋は思案の外 2/5:2010/04/04(日) 22:56:35 ID:HM7kvPxB0
「孔はその色合いが似合うな」
孔が着たのは、黒に鮮やかなオレンジのラインが入ったジャージだ。
オレンジは辻堂学園卓球部カラーで、あればついその色が入っているものを選んでしまう。
そう言うことは女の子に言え、と思う。
「ラケットの受け取り、これから?」
「もう終わった。仕事は終わったのか? この後は辻堂か?」
「ん、昨日土曜で試合あたろぉ、今日は午前中自主練、私休み。今日はジムだけ」
「ちょうどよかった。それならば少し付き合ってくれ」
「どこ?」
「台があるのだろう。新しいラケットの調子を試したい」
「ああ。いいよ」
いいよ。

孔は一度職員ロッカーに戻り、ラケットと球を持つと卓球室へと急いだ。
卓球室には8台の卓球台があり、使用申込書を書いて料金を払えば誰でも使用出来る。
既に着替えてストレッチしていた風間を見つけると、孔の心臓が早くなった。
趣味や、健康づくりのために来ている利用者がほとんどの卓球室の中で、風間の姿は異彩を放つ。
「あら孔さん、こんな時間に珍しい。今日はジムじゃないの?」
「こにちは、ええ、はい、これから、友達に付き合って、打ち合いです」
なじみの利用者に声をかけられ、挨拶を返しながら風間の元へと急ぐと、孔もストレッチで身体をほぐした。
一通り終えると、風間と孔は深緑色の台を挟んで構えた。
「いくぞ」
「うん」
カツッと言う音の、風間のサーブでラリーが始まった。
孔はこの球が走り出す、その一瞬前の緊張感が好きだ。
アドレナリンが身体を駆け巡るのがわかる。
二人の間を、軽い音を立てて白い球が走る。
相手の打ちやすいところへと球を返すラリーは、技術の高いもの同士、互いの息が合うと長い間続けることが出来る。
自分の打つ球が、風間の元へ吸い込まれるように飛び、風間から返ってくる。
辻堂の生徒の相手として打つラリーとはまた違う楽しさ。
115ピンポン 恋は思案の外 3/5:2010/04/04(日) 22:58:20 ID:HM7kvPxB0
何回ラリーが続いたか、風間が不意に球を見送った。
手を止めて二人のラリーに見入っていた利用者達から、
「ああー」
と言うため息のような声が漏れる。
誰かが気を利かせてロストボールを取りに行くのが目の端に見える。

風間が新しく球を手に取り、構えた瞬間、風間の持つ威圧感がぐっと強くなるのを孔は感じた。
心臓がどくりと跳ね、興奮に肌がざっと粟立つ。
これから始まるのはラリーではない。
風間が真剣勝負を仕掛けてようとしているのを孔は瞬時に理解した。
(来い!)
風間がサーブした瞬間、孔の耳から回りの音が消えた。
「はぁっ!」
どん、と音が聞こえるようなサーブを打ち込まれ、反射的に孔の身体が走る。
飛び、
返し、
打ち込まれ、
拾い、
翻弄され、
翻弄し、
弱点を暴かれ、
暴く。
この狭いコートは、なんと広いのだろうと思う。
この、軽く小さな白い球は、なんと重いのだろうと思う。
孔は風間が、辻堂2年の時に対戦して以来の間に、変化したことを知った。
あの頃の風間のプレーは戦車のようだった。
装甲車を相手にしているようだった。
孔の知らない、風間の中に積み重なった様々な経験が、風間を変えたのだ。
風間はこれからも変っていくだろう。
116ピンポン 恋は思案の外 4/5:2010/04/04(日) 23:00:07 ID:HM7kvPxB0
白い球を追って、打ち込んで、聞こえるのは、自分と、風間の息づかいのみ。
汗が滴り落ち、床に飛ぶ。
打ち続けるうち、孔はセックスしているかのような感覚にとらわれた。
卓球とはこんな球技だったろうか。
裸に剥かれて、心の奥も剥かれるように感じる、こんなスポーツだっただろうか。
風間はこんなにしなやかでセクシーな男だっただろうか。
これが本当のセックスだったら、俺はとうの昔に射精している。
勃起していないのが不思議なくらいだ。

「10-12! 風間選手!」
コートのエッジに打ち込まれ、興奮した声で点数を告げられると、孔は誰かが審判役を買って出、点数が付けられていたことに気が付いた。
破顔しながら風間が大股に近づいて来、孔に握手を求めた。
孔も笑いながら腕をのばし、握手を交わす。
それから抱き合い、肩を叩いて健闘を称える。
スポーツマンの抱擁。
「孔さん、すごいわねえぇ」
「風間選手のプレーが間近で見られるなんてな」
顔なじみの利用者が次々に声をかけてくる。
「もう終わり?」
「ええ、今日はこれで」
風間が息荒く答え、孔も流れ落ちる汗をタオルで押さえながら、審判をしてくれた男性に礼を伝えた。
利用者たちがわいわいとそれぞれ自分たちの台に戻る。
ストレッチで身体をクールダウンさせると、風間が先に立ち上がり、孔に手を差し出した。
風間の手のひらを握り、立ち上がる。
117ピンポン 恋は思案の外 5/5:2010/04/04(日) 23:03:06 ID:HM7kvPxB0
「風間、スタイル変ったね」
「そうか。孔は相変わらず燕のようだったな」
「つばめ? 鳥?」
「そうだ。空をすいすいと飛んで、掴まえられない。海王の頃から、孔を見る度そう思っていた」
それはなんだ。真顔で殺し文句か。
照れた顔を見られずにすむよう、まだ汗が出る、と言う風に、孔は頭からタオルをかぶった。

「ラケット、どうだった」
「ああ、なかなかいい」
荷物を持って卓球室を後にしながら、再び風間との距離が近くなったことを孔は何者かに感謝した。

風間。
風間は俺がお前を好きだってこと、知らないだろう。
知らなくってもいい。
俺が知ってる。

「孔、時間があるなら飯を食おう」
「あ、行く行く。でも日誌書くから、ちょと遅くなるよ」
「わかった。待っている」
更衣室に歩き出した風間と別れ、孔は急ぎ足で事務所へと向かう。
泣きたいような、
嬉しいような、
苦しいような、
晴れ晴れとしたような、
何とも言えない気持ちとともに。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
118風と木の名無しさん:2010/04/04(日) 23:36:33 ID:oPCS1IZi0
>>113
GJ! ドラチャイにはまりました。
続き待ってます。
119犬も食わない 1/3:2010/04/05(月) 23:42:54 ID:0TWOkb3F0
ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 57-19 57-87  57-98 57-113 の小話

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

きっかけはささいなことだった。
何かの拍子に、風間と孔が珍しく喧嘩になった。
いつものように居酒屋で、楽しく飲み且つ食べる時間のはずが、二人ともお互いに譲らない。
風間はむっと黙ったまま孔を見つめているし、孔は自分の持ちうるかぎりの語彙で、怒りを表現している。
孔は風間が何も言わずにいることに、だんだんむかっ腹が立ちはじめていた。
だいたいなんだ。
言葉にせずに相手に伝わるはずがないじゃないか。
俺がこんなに一生懸命、お前の言葉でしゃべろうとしているのに、どうしてお前は黙るんだ。
くそ。
そんな目で見るなよ。
俺の言いたいことなんかお見通しかよ。
「風間っ」
「おまたせしましたー。酎ハイと生ビールになりますー。ご注文は以上でよろしいでしょうかー」
かっとしたところで、追加注文していた品物が届き、孔は気勢をそがれて、目の前に置かれた酎ハイをあおった。
つられたように、風間も生ビールを口にする。風間が孔を見た。
あっ。またそう言う目をする。言ってやる。やっぱり言ってやる。

「もうっ、風間、そんな、人、ハダカにして、舐めるみたいに見るなっ!」

ぶふぅっ

思いきり、風間がビールを吹き出した。
満杯だった生ビールは半分以上こぼれ、白い泡がぼたぼたとあちこちに吹き飛んだ。
むせた風間はおしぼりで口と鼻を押さえ、咳込んでいる。
周りの客の視線が痛い。
120犬も食わない 2/3:2010/04/05(月) 23:44:44 ID:0TWOkb3F0
あ、あれ?
日本語おかしかったか?
見透かすようなその視線が気にくわない、と言いたかっただけなのだが。

「……孔」
憮然としながら吹きかけられたビールを拭いていると、ごほごほと苦しそうな息の間から、風間が言った。
「…それは、かなり性的な意味に聞こえるが、そう言う意味か?」
「え?」
「私が、お前を、性的な視線で見ていると、そう言う意味に聞こえるが」
立ち直ったらしい風間が、咳込みながら笑いを含んだ声で言う。

かぁっと頭と顔に血が上り、ビールを拭いていたおしぼりで風間の頭を一つはたくと、財布から札を出してテーブルに叩き付け、「私もう帰るよっ!」と叫んで孔は席を立った。
「待て、孔、待て」
慌てて風間が追いかけてくる。
かっかと顔がほてる。
くそう。
風間め。




孔が席から立ち上がるのを見て、風間は慌てた。
本気で怒らせるつもりではなかったのだ。
孔が置いた金と伝票をつかみ、荷物を抱え、財布を出しながら会計へ急ぐ。
孔はどんどん歩いて行ってしまう。
121犬も食わない 3/3:2010/04/05(月) 23:46:13 ID:0TWOkb3F0
まったく。
風間は苦笑する。
私としたことが。
孔があまりにもかわいいことを言うのでからかいたくなったのだ。
男相手にかわいいと思うのも、いかれた話ではあるが。

会計を終え、店の外に出ると、孔が早足で歩く後ろ姿が見える。
ほとんど走るように大股で歩き、孔の隣に並ぶ。
「孔、悪かった」
「もう、知らないよ」
「悪かった。そう怒るな。少しからかっただけだ」
「知らない、ってば」
拗ねたように孔が言う。
いい年をした男同士が、何をしているのやら。これではまるで痴話喧嘩だ。
まだ怒っている孔をなだめながら、風間は再び、苦笑を浮かべた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
122風と木の名無しさん:2010/04/06(火) 00:21:48 ID:gjBCXY6lO
>>121
ドラチャイいいですなあ。リリカルホモたまりません^^
安らぎます…
123風と木の名無しさん:2010/04/06(火) 00:24:42 ID:c7I1HTPu0
>>119
GJ!チャイナ萌えの自分にとって毎日がwktkですw
片言痴話げんか萌える!
124風と木の名無しさん:2010/04/06(火) 00:28:58 ID:cyblt6d/0
>>119
GJ!この空気たまらんです。
125風と木の名無しさん:2010/04/06(火) 00:41:16 ID:JhxmoKaHO
ピンポン好き姐さんが沢山いらっしゃるのが嬉しい…
____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 生注意
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) うっかり富士門に萌えてしまってドッペル富士門×富士門
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ちくしょ~・・・・」なんていいながらソファーで寝ぼけている
もう1人の自分を見つめながら、これから起こることを考えてると笑いが止まらなくて
必死に笑いをこらえていた
そして誰に言うでもなく「馬鹿なやつやなぁ」と呟いた

明日になったらお前の生活も笑いも人生も俺のもんだ

そんな事にも気づかずにとうとう大きないびきをかきはじめた自分の顔を覗き込んだ
しあわせそうな顔して寝てるなぁ・・・・
そう思うとなんだか急に腹が立って、気づいたら奴の上に乗る形になっていた
俺の重さで寝苦しいのか「んん・・・・」と寝言を言ってるが起きてはいない様だ


そんな顔を見ていたら、自分の中で黒い感情が芽生えているのに気が付いた

まあ正直なところ、明日のためにもなかなか起きれないようにするのも作戦の1つだから
まあいいやと考え服の下から手を入れるとそのまま弄ってみた
「ううっ・・・ん」愚痴りながら飲んでいたせいかだいぶ酒が回っているみたいで
起きる事はなさそうなのでそのまま胸の突起を弄りはじめた
「はぁ・・・・」赤い顔が更に赤くなり、切なそうに声を上げた
そのまま手を下にすこしずつ下げていくと、勃っているのが分かった
「お前も感じてるんだからおあいこだな」そのままズボンを脱がすと
指を入れはじめた
「本当はもっとゆっくり犯してやりたかったけど時間がないもんな」
ほぼ時間的には朝になっている掛け時計に目をやると
二本目の指を入れると
「あっ・・・ああ」
そのまま入れた指をゆっくり抜き差しを繰り返した
「ぐっ・・・んん・・・ああっ・・・・」
部屋にわざと水音が響くように大きく指を動かしはじめた
「まあ聞こえてないだろうけどこれ自分の音やからな」
そういいながらおもむろにもう1人の自分のズボンのポケットからケータイを取り出すと
写真を撮りはじめた、状況には似つかわしくない軽快な電子音が響く
「これでよし・・・」そう呟くと
自分もズボンを下ろし、押し付けると同時にゆっくり挿入していった
「ああっ・・・・」今までより大きな声だったので起きてしまったかもしれないと
動きを止めたが、まだ寝ているようだった
「俺にぶいなぁ・・・まあそのほうがいいんやけど」
また動きはじめ、全部を入れていったが、また腰の動きを止めて携帯で撮りはじめた
「これぐらいでいいやろ」と呟き、携帯を閉じると
また動きはじめた
起こさないようにゆっくりと上下に動いた
「やぁ・・・・あっ・・・・」
ぬちゅ・・・と淫靡な音を立てながら
奥まで入れるとまた引き抜く動きを何度も何度も繰り返した
「これじゃあ満足できないよな?・・・」
もう1人の自分に耳の側で呟くと小声で
「イキたい・・・」と呟いた
驚いて「お前起きてるのか!?」
問いかけてみたが、答えは返ってこなかった。どうやら寝ぼけているらしい
「お前がそういうならしゃあないな、自分がいったんやで」
そう言うと、腰の動きを少しづつ激しくしていった
「ああっ・・・・ああっ!!んん・・・・!」
パンパンと部屋に肉と肉がぶつかりあう音とあえぎ声が大きく響いていた
「えらいやらしいな・・・・そろそろええやろっ・・・!!」
「あっ・・・・ん!」

そのまま俺はもう1人の自分の中に出してやりたい気分だったが
もう出なければいけない時間だったから処理する時間も考え、腹の上に出してやった

翌日、あいつが寝ている間に俺はさっさと仕事に行ってやった
今頃あいつは家でまだ寝ているか気づいてTVを付けて真っ青になっているかと思うと
一日中ニヤニヤが止まらなかった、

仕事が終わって家に帰ると、案の定もう1人の俺は帰ってきた瞬間に掴みかかってきた
「お前俺の仕事取るんじゃねえよ!!」今にも殺されそうな勢いだが
俺は気にせず携帯をポケットから取り出した
「これなんだか分かるか?」
目の前にちらつかせると「俺の携帯やないか!返せ!」
飛び掛ってきたが、それを避けると
携帯を開き、フォルダのなかの画像を開くと
「これ覚えてるか?」と見せ付けた
その瞬間に耳まで真っ赤になり
「なんじゃこりゃああああぁぁあああっ!!」と叫んだ

ニヤニヤしながら「覚えとらんのか?」そういうと
「そんなん嘘に決まってる!!返せや!!」飛び掛ってきたのを
また俺は避けると
「悪いけど本物や、これ誰かに送ってやろうかな」
にらみつけてくる視線を見ながら挑発してみた
「・・・何が目的や」

「さすが俺や、さえてるな!もし俺がこのまま仕事してる時にお前が殴り込んだりしてきたら
この画像どうなるかは分かるよな?」
答えもしないがそのまま睨みつけてるくるのは自分なりの同意と受け取った
「じゃあ、おまえは家の家事よろしくな~」

それが事のはじまりだった

そして今が終わってしまうときや、
今日ははじまりの日から三日目
最後の日だった
風が吹いてくる屋上の上で俺はもう1人の俺にナイフを突きつけられていた
「俺の笑いも全部俺のもんや!!」
そういいながら少しずつ俺に近づいてきた
でも俺だって欲しかったんや!
お前から見たら俺はお前の物を奪っていく奴かも知れんけど
俺だってそれ以外方法がわからんかったんや!
何もわからないまま生まれてお前の記憶しかないのに
お前にならないよ三日目には死んでしまうなんて考えたくなかったんや!!
色々なことを考えたけど、今のもう1人の俺にはこんなこといっても聞こえないだろうし
何を言ってもどっちかが消える方法しかない
だからもう終わりなんだ・・・・・
そう考えると、方法はなく、そのまま目をつぶった―――――――


ところが痛みはなかった
俺は本物じゃないからこのまま消えるのかもしれない・・・
良かった、痛みはないのか――-―


すると、カランと金属の乾いた音が響いた
足元を見るとナイフが落ちていたが、血はついていなかった
顔を上げると、もう1人の俺は泣いていた

「殺せるわけないやん!」

なんて事を言っていた
ほんまアホやなぁ・・・俺が死なないとお前がいなくなるのに
なんて思っているとあいつフェンスのギリギリのところまで
ゆっくり歩いていき飛んでしまおうとしていた

なんで助けてやろうかと思ったかわからないけど
いつのまにか俺は立ち上がって走っていくとあいつを持ち上げて投げ飛ばした
そのまま俺は怖かったけど足を思いっきり踏み出した
風がごうごうと耳もとでうるさかった
俺は上を見ながら飛び込んだのでもう一人の俺の顔が見えた
まさか俺がお前を庇って飛び込むなんて思ってなかったんだろうな
本当にあいつはまたアホな顔してる、何回俺は自分のことアホっていったんやろうな

俺と変わったら俺のほうが売れてたかもしれんけど、結局のところ
俺とお前は同じ人間なんだから考える事なんてあまり変わらないだろう
だからせいぜい売れ残るようにがんばれよ―――――。

そのまま俺は時空の歪みのようなものに飲み込まれた
痛みはないが、体も思考もなにもかも少しずつ消えていった・・・・
最後には
はじめての夜に眠っていたもう一人の俺の顔がなぜか記憶によぎり
俺はすべてを消した
「結局のところあれはなんだったやろう・・・」
仕事が終わった後に、自宅で相方の原西と話をしていた
「よくわかんねえな・・・俺は気づかなかったわけだし」
バッと立ちがると「そこは気づけよぉ!!まさか腹西さんあなたも
入れ替わってませんよねぇ!?」そのまま勢いよく顔をつかむとぐりぐり弄り
はじめた「いてて!!ごめんって!!入れ替わってない!ないから!!」
しばらく気が済むまでいじくり回すとやっと開放された腹西が言った
「でも消えたもう一人のお前はどうなったんだろうな」
また空気が重くなったが藤稿は顔を上げると
「いいんや!もう考えてもわからんし、どうしようもないやろ、でも・・」
喋るのを突然やめた藤稿に腹西は「でも?」と続きを問いかけた
「いなくなった俺に恥ずかしくないように俺なりの笑いをもっと磨かなアカンと思った」
それを聞いた腹西がニヤッと笑うと肩を叩きながら
「いや~かっこいいですね!藤稿さん!!」
なんて言われたので「やかましいわ!!」と流すと携帯に電話がかかってきた
それに出ると「え?急に仕事が入った!?・・・まあ腹西もいまうちにいますけど・・はい」
電話を切ると「聞いてたやろ?仕事だってよ」
腹西はうなずくと「今日もがんばるか!!」
そういうと2人は休みの日の仕事だけど笑顔で家を出て行った
____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ いろいろミスしてごめんなさい 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 最後にドッペル富士門が消えちゃうときは脳内で炉.心融.解が流れた
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
135風と木の名無しさん:2010/04/06(火) 23:02:08 ID:V8tFehOG0
>>110
ようやく規制とけた!
読んでてニヤニヤが止まらないwwおっさんも変態スタッフもかわいいよかわいいよ。
いつも素晴らしい作品ありがとうございます!
136風と木の名無しさん:2010/04/07(水) 01:20:42 ID:8LfONtt00
>>110
新作投下ありがとうございます!
おっさんの切り返しに、まるで自分がスタッフになったみたいにドキドキしました。
一筋縄ではいかないところがさすがって感じです。今回も楽しませていただきました!
137ぼくらは、ぼくら。 1/4:2010/04/07(水) 01:25:32 ID:MDPCIBnZ0
北の大地のローカル番組。
長い春休みを取っている筈のD二人。タイトルはDの本の台詞から。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


普段、退社をする時に示し合わせたりする事はほとんどなくて、お互いがお互いの事情や体調なんかで「

じゃあ、また明日」の挨拶を置いて部屋を出て行くのがほとんどだ。「じゃあ、また明日」は
休日の前なら「また来週」や「休み明けに」に変わるけれど、ぼくらのスタンスは変わらない。
付かず、離れず。
この言葉がぼくと売篠くんの関係を表すには一番なんだろう。
コンビを組もうと思って組んだ訳ではなかったけれど、二人で仕事をする様になって十四年になる
相棒は、ぼくが立ち上がっていつもの「じゃあ、また明日」の「また明日」を発する前に口を開いた。

「俺も帰るわ」
別段止める理由は何もなかった。今日の分の仕事は片付いているし、流れとしては不自然でも
なんでもない。だから「じゃあ」の次にぼくはこう続けた。

「途中まで一緒に帰るか」
「そうだね」

頷いた売篠くんは妙な淡々さを醸し出していたけれど、よくよく考えればこの淡々さこそが
売篠くんの味でもある。思考が読み難い男だな、と思った。今日は東京辺りで仕事をしてるだろう
あのすずむしは考えてる事がよく顔に出る。売篠くんは真逆だ。でもぼくには売篠くんが一体何を
考えているのか、よく分かった。それはぼくの読解能力が優れているからではなくて、
二人で積み重ねた時間の長さと密度の濃さがあるからだ。
だからどうして今日に限って売篠くんが一緒に帰ろうと暗に言ってきているのか、分かっていた。
連れ立って部屋を出る。上からの沙汰で、もうすぐなくなってしまう馴染んだこの部屋を。
ぼくと売篠くんは、部署の移動を命じられていた。
138ぼくらは、ぼくら。 2/4:2010/04/07(水) 01:26:07 ID:MDPCIBnZ0
不幸中の幸いとして、例えレギュラー放送が終了したとは言えども局のドル箱番組を握っている
ぼくらが引き離される事はなかったけれど。
製作部の消滅は、ぼくと売篠くんをひどく落ち込ませたし、憤らせた。
二人分の足音が廊下に響く。隣を歩く売篠くんの横顔は沈みがちで、ぼそぼそと会話を交わす声は
ちっとも弾まない。
擦れ違う顔見知りのスタッフや守衛さんに軽い挨拶を交わし、局の外に出る。四月といえども
まだ肌寒い北の大地は、ぼくが生まれた所とも、売篠くんが育った所とも全然違う。
思えば、本当なら会わなかったかも知れない男なのだと、今更ながらに気が付いた。
売篠くんの足が止まる。何度も枠を撮った公園の途中。もう夜が更けているから、遊んでいる
子供なんていやしなくて静かだった。
眉間に皺を寄せたまま、売篠くんは口を開いた。

「そういえば、富士村くんと花見した事、あったっけ?」
「桜前線を追いかけたりはしたじゃない」
「それはそうだけどさ。全国の色んな所の桜は見たけど、ここは見たっけなって思ってさ」
「記憶ねぇな」
「俺もさ。不思議なもんだね」

静かに目を伏せて呟かれる声は風に流れる。
淡々とした売篠くんの表情や声に滲む愛惜に、ぼくの他の誰が気付けるっていうんだろう。
組織という大きなものに、作り上げた場所を居場所を奪われて、大切にしているものを踏み躙られた
同志だからではなくて、売篠くんとしてのぼくの心が共鳴をしてるのが分かる。
悔しいね。辛いね。
でもその半面、売篠くんとならば何処に行っても大丈夫だと思っているぼくもいる。
DOでSHOWがあるからじゃない。確かにぼくらはDOでSHOWを完全なものとして残す為に
DVD全集を出す作業を敢行し、番組のレギュラー放送を終えた。それはMr.とO泉くんにとっては
一つの巣立ちであり、四人での新たなる旅へのスタートでもあった。
ぼくらは一生DOでSHOWをするつもりで、四人の内の誰かが死んでしまっても、きっと最後まで
旅をするのだ。その日を迎える為に、レギュラー放送という形をやめたんだし。
139ぼくらは、ぼくら。 3/4:2010/04/07(水) 01:26:51 ID:MDPCIBnZ0
でもDOでSHOWだけじゃない。ぼくは売篠くんとならば、もっと沢山の新しい何かを
作っていけると信じている。DOでSHOWがぼくにくれたものの中で、とても大きなものが
売篠くんだからだ。
売篠くんを一生の伴侶だと思った時の事を、今でも覚えている。売篠くんがぼくに言った、「キミに
いろんなことを話し掛けるのが、ぼくの一生の仕事だと思ってるんだよ」って言葉の、本当の重さに
気付いた時だ。

「ここが俺らの居場所だと思ってたのに、桜見た記憶がないんだな。勝手に局に敷地に植樹はしたのに」

ぼそりと落とされた言葉に、不意にずっと前に東北で見た桜が頭を過ぎった。あれが一番最初に一緒に見

た桜だっただろうか。移動する車の中、ぼくが笑って、O泉が怒って、Mr.は苦笑混じりに
黙っていた。そして売篠くんがいた。カメラを構えて、少し口元を緩ませて、ぼくらを見ていた。
幸せな旅だった。幾つもしてきた、辛くて、幸せな旅の一つだった。

「なぁ、売篠先生」
「んー?」
「旅に出ますか。番組とか関係なくってさ。俺とあんたと、そうだな、キャップも誘ってやってさ」
「男三人ぶらり旅ってのもむさくるしいけど」
「何時もより一人少ない分、マシじゃねぇか」
「それもそうだね」

ここに桜がないのなら咲いている所まで行けばいいのだ。そして桜を連れてここまで戻ってくればいい。
時間ならばたっぷりある。
伏せていた睫毛を上げて売篠くんが微笑みながらぼくを見た。久々に真っ直ぐに視線が合う。
この所、お互いにずっと俯いていたからだ。
顔を上げれば売篠くんの肩越しに長く続くなだらかな斜面に萌える緑の芝生が見える。夜目にも
鮮やかな、新しい命が芽吹く色だ。
売篠くんが微かに笑ったのに安堵して、思わずぼくも笑ってしまった。すると売篠くんは細い目を
僅かに見開く。
140ぼくらは、ぼくら。 4/4:2010/04/07(水) 01:28:01 ID:MDPCIBnZ0
「何驚いてんだよ」
「最近、富士村くんが笑ってなかったって気付いてなかった俺に気付いてびっくりしたんだよ」

指摘をされて驚いた。爆笑魔人と言われるこのぼくが笑っていなかっただなんて。思わず問い
返してしまう。

「俺、笑ってなかった?」
「あんまりね」
「そっか。でもあんたも笑ってなかったぞ」
「お互いに自分の事はよく分からないんだな」
「だから俺にあんたがいて、あんたに俺がいるんだよ」

腰に手をあてながらO泉くんに命令する時の偉そうな口調で言ってやったら、売篠くんは顔を
くしゃくしゃにして泣き笑いの様な複雑な表情を浮かべた。
馬鹿だなぁ、そんな顔しなくていいのに。どうせぼくらは一蓮托生だ。一生DOでSHOWを
するんだから。O泉にだけ誓わせた訳じゃないだろ。四人出なきゃ、DOでSHOWは出来ないんだ。
この先だって旅は続くだろ? 否、今だって本当は旅の途中なんだぜ。なぁ、売れしー。
売篠くんが掠れた声で言った。

「だったら、やっぱり、一生あんたに話し掛けるのが俺の仕事だな」

そうだよ、と答えたぼくの声も掠れていたけれど、売篠くんにはちゃんと届いた筈だ。
これ以上視線を合わせていると泣いてしまう気がして、同時に逸らした二人の視線が坂のずっと
向こうを見る。
それはこの先一生かかって辿り着く、本当の最終回に繋がっている。ベトナム縦断よりも長くって、
ブンブンで迎える夜よりも過酷な旅路に違いない。でもきっと幸せな道程だ。Mr.がいる。
O泉くんがいる。そして売篠くんがいる。売篠くんとならば歩いていける。
闇雲な力で信じながら夜空を仰いだ。ぼくはとても長い時間、星の光が滲んだ夜空を渡る春の風と、
すぐ隣に立つ売篠くんの気配を、ただただ大切なものの様に感じていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
141風と木の名無しさん:2010/04/07(水) 01:42:49 ID:oSYo3f0I0
>>137
姐さーーーーーーーーん!!。゚(゚´Д`゚)゜。ウァァァン
ありがとう!!!書いてくれて本当にありがとう!!
苦しかったんだよずっと!!彼らのことが、DOでSHOWのことが!!
姐さんの話読めて嬉しい!心が慰められた!!ありがとう!!!!
142涙の理由を聞かせてよ0/4:2010/04/07(水) 10:18:47 ID:Qs93llmt0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  半生 気乃下部長と簿句 気乃下←簿句元←日伊住
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  一応最終回のその後といった感じです
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
143涙の理由を聞かせてよ1/4:2010/04/07(水) 10:22:12 ID:Qs93llmt0
最近、日伊住には気になる事があった。
同期入社の簿句元がどうも元気が無いのだ。
いつも日伊住は彼にちょっかいを出して楽しんでいるのだが、
相手があからさまに精彩を欠いていると、どうも罪悪感が芽生えてしまう。
理由ははっきりしている。
簿句元の所属する部署の部長だった気乃下が、突然会社を辞めてしまったのだ。
いつの間にそんな信頼関係が出来上がっていたのかは日伊住は全く知らないが、
出来る事なら助けてやりたい、そう思っていた。
なぜならば、日伊住は簿句元に恋心を寄せていたのだから―――。

「気乃下の居場所?」
「はい、黄身島部長なら知ってるんじゃないかと思って」
日伊住は思い切って黄身島に尋ねる事にした。
他の気乃下部の面子に聞いても何も情報は掴めなかったし、何だかんだで
気乃下に一番近い位置に居るのは黄身島だと思ったからだ。
「知ってるよ」
「!!」
黄身島はあっさりと答えた。そしてとあるバーのチラシを差し出した。
「このバーへ行くと良い。行き方は今教えるから」
「ありがとうございます!!」
日伊住は深々と頭を下げた。これで気乃下に会える…そう思うと嬉しかった。
「でも、本当にそれで良いのか?」
「…はい?」
「あの簿句元とかいう新入社員に気乃下を再会させたいんだろ?
後で後悔する事になるかも知れないぞ。」
「どういう…意味ですか?」
日伊住は、黄身島の意味深な言葉になぜだか不安が込み上げた。
144涙の理由を聞かせてよ2/4:2010/04/07(水) 10:23:50 ID:Qs93llmt0
「どういう風の吹き回し?お前が飲みに誘うなんて」
簿句元は眉間に皺を寄せている。日伊住はどうも彼に信用されていない様だ。
でも日伊住はめげずに笑顔を作り、答える。
「まあまあ…すげえんだから、簿句元驚くぞ」
日伊住は簿句元の腕を引っ張り、目の前の小さな建物に入っていった。

照明は暗く、落ち着いたロマンチックなムードの店。
中に居るのは、大人の恋人同士ばかりだ。
デートで来たかったなと、日伊住はこっそり思った。
中央のカウンターに二人で座る。すると、奥からバーテンダーらしき人物が現れた。
「……えっ!?」
衝撃が走った。なぜならその人物は、誰あろう気乃下部長だったからだ。
「部長……」
気が付くと、簿句元は両の眼から涙を流していた。
会いたかった人物にやっと再会出来たのだ。無理も無かった。
「ヘイ、らっしゃい。あ…誰やったっけ?」
気乃下はどうやら二人を覚えていないらしく、首をかしげる。
「気乃下部長、お久しぶりです。黄身島部の日伊住です」
「日伊住…誰やったっけ」
「二代目です」
「え…ああ、二代目か!久しぶりやなあ、二代目。で、この子なんで泣いてんの?」
気乃下が簿句元を指差し尋ねる。
「あの…何と言ったら良いか」
「部長!!」
突然簿句元が叫んだ。
「どうして突然辞めちゃったんですか!?寂しかったんですよ、今まで!!」
145涙の理由を聞かせてよ3/4:2010/04/07(水) 10:24:50 ID:Qs93llmt0
「……そら、悪かったな。寂しい思いさせて」
気乃下は困惑しながらも謝った。
「部長、今日はたくさん聞かせてもらいますよ。今まで何をしてたのか、何があったか」
「ん…ああ」
こうして簿句元と気乃下はたくさんの話をした。
日伊住は側でうなずいていたが、だんだんと心に寂しさが生まれてきた。
簿句元の気乃下を見る眼差しが、部下が上司を見るもの以上に感じられたのだ。

「不味かったな…カクテル」
「うん」
「バーテンダー向いてないんだから、また会社に戻ってくれば良いのに」
「そうかな…」
帰り道、簿句元はまだ気乃下の話を続けていた。
日伊住も相槌を打ってはいたが、どこかうわの空だ。
「どうした?日伊住」
「別にどうもしない」
「嘘付け、なんかボーッとしてんじゃん、分かるんだぞ」
「なあ、簿句元」
「へ?」
日伊住は真面目な顔つきになった。
「俺、簿句元が気乃下部長を想ってるみたいに、お前の事が好きなんだ」
「……へ?」
一瞬意味が飲み込めなかった簿句元だが、
「えええええっ!?」
ようやく分かった。これは愛の告白だ。
「ど、どうして俺なんかを好きなんだよ、日伊住ならもっといい相手いるじゃん!!」
「分かんねえよ!ただずっと好きだったんだよ、大学の頃からずっと……」
言い終えたその時、日伊住の眼から涙が溢れ出した。
ああなるほど、俺が部長を見つけた時と同じだ……と簿句元は思った。
146涙の理由を聞かせてよ4/4:2010/04/07(水) 10:25:49 ID:Qs93llmt0
「泣くなよ!まあ…俺もさっきまで泣いてたけどさ……」
とりあえず公園のベンチに腰掛け、簿句元は日伊住をなだめていた。
日伊住は涙声で簿句元に尋ねる。
「簿句元は、これからもずっと気乃下部長が好きなのか?俺にチャンスは無いの?」
「う……」
そう言われると困ってしまった。
今気乃下部長の事が好きなのは確かだが、気乃下部長には全くこの気持ちは届いていない。
そう考えると、いつかは諦めなければいけないのかとも思う。
それに、今こうして泣いている日伊住を放っておけない。
「未来の事は分からない…かな」
簿句元は曖昧に答えた。
その言葉を聞いた日伊住は涙を流しながらも笑顔を作り、
「じゃあ、俺はまだ簿句元を好きでいて良いんだ。決めたよ、俺これからはもっと素直になる。
そして簿句元にいつか振り向いてもらえるようになるんだ」
「え…ええええっ!?」
簿句元は驚いた。日伊住は本当に前向きな奴だと思った。

その後、日伊住の積極的なアプローチに簿句元は大いに戸惑う事となる―――。
147風と木の名無しさん:2010/04/07(水) 10:26:28 ID:Qs93llmt0

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 規制解除されて良かった…。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 最終回とっても良かったです。
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
148風と木の名無しさん:2010/04/08(木) 02:41:45 ID:tUC0fEE7O
>>137
この二人でこういう話を書いてくださってありがとうございます!
141さんとだぶってしまうけれど、私の心も慰められました。
本当にありがとうございました。
149くしゃみ 1/6:2010/04/08(木) 22:48:21 ID:u7lvLBqV0
ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 57-19 57-87  57-98 57-113
57-119 の続き

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

孔が、「鎌倉に行きたい」と言いだした。
日本に来て数年経つが、いまだに行ったことがないのだと言う。
観光客みたいに大仏を見て、写真を撮りたい。
天気は上々、吹く風も気持ちいい。江ノ電に乗って鎌倉まではあっという間だ。

鎌倉は、駅に下りた瞬間からいかにも「ここは由緒正しき皆様の観光地です」と言った雰囲気に充ち満ちている。
街路樹の生い茂る石畳を歩き、建ち並ぶみやげもの屋を冷やかす。
寺へ向って歩いていくと、突然視界が開け、青空を背景に大仏が鎮座している。
「わー…」
孔が声をあげた。その大きさに、何度かは足を運んだことのある風間でも一瞬虚を突かれる。
巨大な大仏のその背後にはただただ空が広がっていると言うのが、視覚的にすごいのだ。
大仏の前は、記念写真を撮っているカップルや、外国人の集団、バスでやってきた中年女性の団体、ヘルメットを小脇に抱えたツーリング中のバイク乗り、帽子をそれぞれ被りリュックを背負った老夫婦、小さな子供を連れた家族連れ…雑多な人達でいっぱいだ。
二人の足元を小さな何かが駆け抜けた。
「リスだ」
「ずいぶんいるな」
参道にはリスが多い。人慣れしているのかいないのか、孔が唇をとがらせて「ちちちち」と音を立てても知らんふりで足元をすり抜けてゆく。
境内のにぎにぎしいみやげもの屋の店先で、孔が足を止めた。
150くしゃみ 2/6:2010/04/08(木) 22:50:31 ID:u7lvLBqV0
「風間、これなに?」
孔が指差したその先は、ビニール袋に入った丸い三角のせんべい菓子だった。
細い和紙が帯のように一つ一つにまかれている。
「おみくじせんべいだな」
「なに?」
「せんべいを割ると中におみくじが入っている。フォーチュンクッキーだ」
「ああ、うん。ちゅごくにもあるよ。レストランでご飯のさいごに出る」
「ほう」
「私、買う。これ、ください」
孔は戦利品のように紙袋に入れてもらった菓子を受け取ると、さっそく袋を開けて一つを風間に手渡した。
「風間の、なんて書いてある?」
「ちょっと待て」
「これ、甘いね」
孔はすぐに割った菓子をほおばると、口をもぐもぐと動かしながら、空洞に畳み込まれていた小さな紙切れを開いた。
「『ま・ち・び・と・き・た・る』 …ってなに?」
「あー、待っていた人が来ますよ、と言う意味だ」
「待てた人? 私、誰待てる?」
「私に聞いてどうする」
「風間のは?」
「『まよわずすすめ』」
点取り虫占いのようにひらがなで一言だけ書かれた紙切れは、未来を示唆しているようでもあるが案外頼りない。
子供のおみやげに向いた、罪のない遊びだ。
風間もせんべい菓子を噛み砕きながら、その甘さに懐かしさを覚えた。
この類いの菓子はほとんど食べたことがないのに、どうして懐かしいと思うのか、人間の頭は不思議だと思う。
「あっ、おもちゃだ」
一つ目を食べてしまって、二つ目を噛み割った孔が歓声を上げた。
指先ほどもないような小さなプラスチックの車が、孔の手のひらにころりと落ちる。おみくじは入っていないようだ。
「おもしろいねえ」
孔は一人で受けている。
151くしゃみ 3/6:2010/04/08(木) 22:52:11 ID:u7lvLBqV0
これを全部食べた暁には、いったいいくつのおみくじと、細々した玩具が孔の手元に出現するのだろう。
風間は店先にぶら下がっていた、レンズ付きフィルムと呼ばれる簡易カメラに目を留めた。
「そう言えばカメラは」
「あ、忘れた。それ、買う」
店員に代金を支払い、そのまま手渡してくる孔からカメラを受け取る。
「大仏の前で写真を撮るのだな」
「うん」
孔を適当なところに立たせ、ファインダーを覗く。
孔をちょうどよく写そうと思うと大仏の頭が切れる。
少しずつ後退して、孔も大仏も一緒にカメラに収めると、その様子を見ていたらしい中年の夫婦が、
「お兄さんも一緒に撮ってあげましょうか」
と声を掛けてきた。
「いや、私は…」
少しばかり狼狽して断ろうとする風間に、孔が「風間、早くここ並ぶ」と手招きした。
試合会場でもなく、表彰台の上でもないと言うのに写真を撮られるということが、風間にはこそばゆい。
孔が隣にいるとなればなおさらだ。
意味もなく顔を撫で、孔の隣に立つと、一つ咳払いをしてカメラのレンズを見た。
「はい、じゃあ撮りますよー。ハイ、チーズ」
シャッターが切れる微かな音と共にフラッシュが光って、風間はほっと息をついた。
孔が夫婦に駆け寄りながら「ありがとござまーす」と言ってカメラを受け取っている。
風間も頭を下げて感謝を表すと、夫婦はにこにこ笑いながら離れていった。

大仏の中に入ると、中は薄暗いが案外明るい。
上を見上げると、大仏の背中に開いた二つの四角い窓から光が入っている。
案内の年配の男性の手によって扉が閉められると、灯りのない空間が暗くなり、目が慣れるまで一瞬を要した。
152くしゃみ 4/6:2010/04/08(木) 22:54:09 ID:u7lvLBqV0
中は思ったよりかなり狭い。
人の流れに乗って進む。観光客の話し声がざわざわと響く。
孔が上を見上げて、「風間、頭だよ」と指差した。
確かに、大仏の髪が盛り上がっていると思われる部分がぼこぼことへこんでいる。
二人で上を見あげていると、同じように上を見たまま前へ進もうとしていたカップルが、孔にぶつかった。
「わっ」
「あっ、すいませーん」
「おっと」
孔が不意をつかれてつまずきそうになり、風間は腕を伸ばして孔の腰を取って支えた。
「大丈夫か?」
「だいじょぶ」
一瞬、風間の頭を、このまま抱き寄せてしまおうかと言う思いがよぎった。
その思いは強く風間を支配したが、意志の力で頭の片隅へ追いやった。
孔が嫌な思いをする。
風間は孔の腰を離し、移動し始めた人の後をついて、出口へと体を向けた。服ごしの孔の感触が手のひらに残る。
ぐ、と手を握りしめる。
人に押されたのか、孔の手が風間のこぶしに触れた。
風間は思わず、握ったこぶしを開いて孔の手を握った。
そして直後に後悔した。
触れてしまえば、気持ちが勝手に暴走する。
同性の友人に手を握られて喜ぶ男がどこにいるだろう。
握りしめてしまわぬよう、自分の気持ちが指に出てしまわぬよう、風間は苦心しなければならなかった。
孔は手を振りほどくかと思われたが、意識がよそへ向けられているのか、風間の手を軽く握ったままだった。
自分でも気付かぬうちに緊張していた風間は、小さく息を吐いた。
薄暗い中、ゆっくり歩を進める。
153くしゃみ 5/6:2010/04/08(木) 22:56:08 ID:u7lvLBqV0
この時間がずっと続けばいい、と風間は願い、自分の臆病さに笑った。
これではまるで初めて恋をした中学生と一緒ではないか。
手を握ったまま、二人はずっと無言だった。
ガイドの男性が出口の扉を開けた。さっとまぶしい光が射し込む。
風間はそっと、指の力を抜いた。そのまま、孔の手は離れるだろう。
孔の指が一瞬ためらうように動き、風間の指に絡んだ。
風間は驚いて孔の顔を見た。孔が怒ったような顔で風間を見、目を逸らした。
指が離れてゆく。
混乱しながらも、風間は離れてゆく指を追いかけ、強く握った。
握らずにはいられなかった。
先頭が外へ出たらしい。二人も、後から押され、出口へと近づいた。
風間の指と孔の指が恋人同士のように絡まった。
離したくないと強く思い、当然ながら離さぬわけにはいかず、そして今度こそ、その手を解放した。
指は素直に離れていった。

大仏から出ると、風間は陽光のまぶしさに目を細めた。
さわさわと吹く風に、解放感があふれる。
孔は何事もなかったかのように、風間に「のど、乾いたな」と言った。
風間も、「何か飲むか」と応えた。
あれはなんだったのだろう。
はっきりと、絡められた指の感触が残っている。
何一つ変わらないようでいて、少しだけお互いの顔が違う方を向いたような、ぎこちない空気が二人の間を流れる。
落ち着かない胸の内を隠して、風間は孔と並んで歩く。
こんなことで自分の気持ちがこうも乱れるとは、予想もしなかった。
154くしゃみ 6/6:2010/04/08(木) 22:57:56 ID:u7lvLBqV0
孔は手の中でカメラをいじっている。
「まよわずすすめ、か」
「なに?」
「おみくじと言うのも、おもしろいものだなと思ったのだ」
「もひとつ、あけてみる?」
「いや、遠慮しよう。人形でも出てきてはかなわん」
孔が笑い、風間も笑った。
まぶしい光が街路樹の葉の隙間からこぼれ、風間の目を射った。
手を上げて光を遮る。
「ペットボトルの茶でもいいか」
「うん」
風間は孔と歩調を合わせ、それでもこうやって一緒に歩けることがすでに僥倖なのかもしれない、と胸の内で呟いた。
ポケットから小銭を出すと、咽喉を潤す飲料をふたつ買い求める。
呆れるくらいに青い空を見上げると、風間はひとつ、大きなくしゃみをした。
その瞬間、カメラを構えていたらしい孔の元から、シャッターが切られる音がした。
「風間、ヘンな顔、よー」
孔の笑う声が空に響いた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
少し進んだ!
155風と木の名無しさん:2010/04/09(金) 00:00:43 ID:ZfXUIDpG0
>>149
ムラムラする二人に萌えつつ、くしゃみしてる風間にも萌え…GJ!!
このジリジリ感でさらにkskです
156風と木の名無しさん:2010/04/09(金) 02:11:28 ID:fOJWifOv0
>>149
GJ!!!
157籠目CM 野菜鳥×おバカ 0/4:2010/04/09(金) 03:50:20 ID:VenI9yc80
ナマ(半ナマ?) CMネタ

籠目のVegetable Life(和訳)の野菜鳥×おバカ
野菜でエロです。
食べ物ネタNGな方はスルーして下さい

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
158籠目CM 野菜鳥×おバカ 1/4:2010/04/09(金) 03:52:07 ID:VenI9yc80
「むんずっ!!」
有介は、朝勝鳥に大事な所を思い切り掴まれて、思わず目を見開いた。

「わわわわっ!起きるよ、起きるっ・・・てか、もう起きたから!放して!!」
「だねー、ココも起きたみたいだし」
朝勝鳥は握っていたモノを放すと、今度は柔らかな羽毛でソコの裏筋をなであげた。
「ぅわっ・・・!」
「って言うか、朝立ち?」
嬉しそうな含み笑いで朝勝鳥がからかうと、有介の頬が赤くなる。

「なにすんだよぉぉっ!」
「なんもしてへんし。いっこもしてへんし」
「なんで、いきなり関西弁なんだよ!」
「ええやん、ええやん」
「よくねーよ!・・・ホント、マジ、起きるから、俺の上からおりろよぉ」

有介が体を起こそうとすると、朝勝鳥は更に全体重をかけて覆いかぶさっていく。
「ヤーメーローよぉ!」
「さっさと起きないアンタが悪い」
朝勝鳥は声のトーンを落として有介の耳元で呟くと、ふわふわの羽根をパジャマの裾から滑り込ませた。
わき腹を撫であげ、胸を這い、そこにある小さな突起を擽る。

「・・・ふっ・・」
甘い吐息が有介の口から漏れる。
「体を動かして、野菜を取るんだろ?」
敏感に反応を返す躯を羽毛で包み込みながら、快楽へと誘いかける。
「ベッドの上でできる、運動をしようか」
朝勝鳥は有無を言わさず、有介のパジャマのズボンを下着ごと剥ぎ取った。
159籠目CM 野菜鳥×おバカ 2/4:2010/04/09(金) 03:54:20 ID:VenI9yc80
「ヤっ・・・!」
抵抗しようとする手を片方の羽根で絡め取り、もう片方で有介の中心を再び握りこんだ。
先刻ふざけ半分で握った時よりもずっと、ソコは熱と大きさを増していた。
「あぁ・・・っ」
優しく上下に擦りあげると、嬌声と共に有介の腕から力が抜ける。
抵抗を封じる必要がなくなった羽根は、すぅっと背筋を辿り降りて
形のいい双丘をゆっくりと愛撫する。
「・・・あ、ん・・・ふぁ・・・あっ」
次第に艶を増す有介の声に誘われるように
さわさわと臀部を撫で回していた羽が、すっとその谷間の奥の一点に触れる。
「ココ・・下の口から、野菜、取る?」
朝勝鳥は、みだらな響きを含んだ声音でそう囁くと
どこからか、野菜がいっぱい詰まったバスケットを取り出した。

「まずは・・・んー、アスパラガスなんか、どう?」
「や・・・だ、無理・・・」
弱弱しい抵抗は、先程から絶え間なく続く熱い中心への愛撫にかき消される。
「美味しいよ・・。ほら、口開けて」
「あ・・・」
薄く開いた有介の口元にアスパラガスが滑り込んでいく。
「ん・・・」
「噛まないで・・・ゆっくり舐めて・・・そう」

溢れる唾液を絡め取って益々鮮やかに光る緑を、朝勝鳥はそっと有介の後ろにあてがう。
「旬のアスパラだから、柔らかいし、ね。大丈夫」
そう軽く言い放つと、先端を秘孔に潜り込ませる。
「あ、つっ・・・痛てぇ・・よぉ・・っ」
「痛い?・・・でも、もう先っぽ全部入っちゃったよ?」
「い・・やぁ・・・」
160籠目CM 野菜鳥×おバカ 3/4:2010/04/09(金) 03:57:19 ID:VenI9yc80
「まだ入るかな?」
ぐるりと回転させながら、奥へと捻じ込まれるアスパラの先端が、有介の敏感な所を擦りあげていく。
「あっ・・・ああぁ・・っん」
「ぎゅうっと咥え込んで、いやらしいお口だね?」
言葉でも弄られて、有介の熱が上がる。
「・・・もぅ、ヤだぁ・・・っ」
「イヤなの?本当に?」
涙で潤む有介の瞳を覗き込みながら、朝勝鳥は意地悪く問う。

「ああ!これじゃぁ、物足りないんだね」
楽しくて仕方がないという風に朝勝鳥が囀る。
「じゃあ、次は、にんじんいってみる?」
無邪気にとんでもない事を提案されて、有介はヒッっと短く息を飲むと、必死でかぶりを振った。
「にんじん、イヤ?好き嫌いはいけないなぁ」
そう言いながら、朝勝鳥はアスパラガスをずるりと引き抜いた。
その刺激に有介の全身が震える。

「じゃあ、これは?」
異物が引き抜かれたばかりで、ひくつくソコにヒヤリとした感覚が走る。
有介が反応する前に、それは無遠慮に有介の内部に入り込んできた。
「あああっ!」
一段と強い刺激に、有介の躯が反りあがる。
「新鮮だから、いぼいぼがしっかりしてて、気持ち良いでしょう?」
朝勝鳥が楽しそうに出し入れしているのは、緑色も鮮やかなきゅうりだった。
痛いくらいに張り出した突起が、秘孔の入り口を、内壁を否応無く刺激する。
「ああ・・・っ、あっ・・はぁ・・・っん」
絶え間なく与えられる快感に、有介は抗う術もなく、呑み込まれて行く。
161籠目CM 野菜鳥×おバカ 4/4:2010/04/09(金) 03:59:15 ID:VenI9yc80
「おや。こっちも、どんどん張りが出てきたね」
朝勝鳥の柔らかな羽毛が、有介の雄を擦りあげる。
「あぁぁっ!」
焼けるような快感が、有介の全身を走った。
「気持ちいい?」
楽しそうに囁きながら、朝勝鳥はやわやわと包んでいるソコを撫で上げる。
「あぁ・・・ん・・っ、あ、あぁっ!」
前を柔らかく、後ろは力強く刺激されて、有介の興奮がどんどん高まっていく。

「あっ・・も・・ダメ・・・出ちゃ、う・・・よぉ・・っ」
込み上げる射精感に、たまらず哀願の声をあげる有介を、朝勝鳥は愛しそうに眺める。
「いいよ、とりあえず、1回出しとこうか」
「・・・え・・?」
「だって、まだまだ野菜を取らなきゃ。にんじんにセロリにゴーヤーに・・・」」
「いっ・・やぁ・・・あっ」
「大丈夫。ちゃんと気持ちよくしてあげるから」
「あああぁっ!」
これから与えられる快楽に恐怖すら感じながらも、有介は悦楽の淵に堕ちていった。



数時間後。
有介がぐったりと河原に座り込んでいると、顔見知りの女性が走って来るのが見えた。
「おはよっ!!」
なるべく明るく声をかけると、女性は怪訝そうな顔で振り向いて、足早に走り去っていった。
「もう、昼」
隣の朝勝鳥が呆れたように言う。
『昼まで寝込んじまったのは、誰のせいだと思ってんだ!』
拳を硬く握って、心の中で毒づく有介だった。
162籠目CM 野菜鳥×おバカ 終:2010/04/09(金) 04:04:13 ID:VenI9yc80
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

起きろ!編の寝顔の可愛らしさに萌え滾り
web限定の関西弁がエロさ5割増でもう…っ!

色々すいませんでした。
163風と木の名無しさん:2010/04/09(金) 09:46:01 ID:fj6ZS/tSO
>>149
なんて清らかな交際なんだ…!プラトニック好きにはたまらん
このまま迷わずにゆっくりと進んで行ってほしい?
164風と木の名無しさん:2010/04/09(金) 20:33:17 ID:1MQ6UfKF0
>>162
のおかげで健全に見ていたのに不健全な目でしか見れなくなったww
どうしてくれるww
165風と木の名無しさん:2010/04/10(土) 12:06:09 ID:RJC3ZMu5O
>>162
もう野/菜/生/活のパッケージをまともに見られない…だがGJ!
166風と木の名無しさん:2010/04/10(土) 12:08:21 ID:RJC3ZMu5O
sage忘れスマソ
167山雨来たらんとして風楼に満つ 1/8:2010/04/10(土) 22:58:13 ID:n/qwpx660
ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 57-19 57-87  57-98 57-113
57-119 57-149 の続き
原作で何にびっくりしたって、あの風間があのゲームを知ってたってことだよ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「部屋で…リオカートなどっ!」
風間の怒号が廊下に響いて、下級生は首をすくめた。
真田が下級生に説教しているのを後にして、風間は息を吸い込んだ。
沈丁花の匂いがする。

    ◇

寮でそのテレビゲームが流行っているのを、風間はうっすらと認識していた。
卓球部員だけでなく、寮全体を巻き込んだ流行である。
前年度の卒業生が在学中に灰色の四角い家庭用カセット式テレビゲーム機を持ち込み、それが火をつけたのだ。
火は瞬く間に広がり、「部屋」と呼ばれる、ワンフロアに一部屋置かれているいわゆる談話室に誰かが持ち込んで、各階に一台置かれるようになった。
寮鑑は黙認している。寮の生徒の部屋にはテレビはない。
ややこしいことに、生徒の部屋は「自室」と呼ばれ、談話室が「部屋」と呼ばれる。
「テレビ部屋」が縮まったものだろうか。
168山雨来たらんとして風楼に満つ 2/8:2010/04/10(土) 22:59:36 ID:n/qwpx660
風間はテレビゲームに興味はなかった。
卓球部員の中にも夢中になっている者がいて、真田や猫田もご他聞に漏れずコントローラーを握っていた。
『部屋』で夕食後スポーツ雑誌を読んでいた風間の耳に、かまびすしい寮生の声が飛び込んできた。
ふと気がつくと、テレビ前はゲーム画面に向う寮生とそれを取り巻くギャラリーでいっぱいになっていた。
記事に集中していた風間は気がつかなかったのだ。
真田と弓道部の沢岡がコントローラを握っていた。どうも真田が勝ったようだ。
「くっそー」
沢岡が大げさに悔しがっている。
かけていた眼鏡を外しながら振り向いた沢岡が風間に目を留めた。
「風間、お前もやってみろよ」
「何をだ」
「これこれ」
「いや、遠慮しておこう」
真田も口を出した。
「たまには下賤の遊びにも付きあうもんじゃ」
「そうや、風間、真田と勝負せぇ。こいつ、一人勝ちしとるんや」
猫田が風間の眉をひそめた顔を見て笑いを噛み殺しながら近づいて来、風間の手を引いた。
テレビの前に無理矢理に座らせられ、手にコントローラーが押し付けられる。
「ほい」
「ちょっと待て、私はやったことがないのだぞ」
「よっしゃ、俺が教えてやる」
立ち直ったらしい沢岡が、眼鏡をかけ直して真田からコントローラーを奪った。
あの風間がゲームする気になった、と周りの寮生が驚き、わけのわからない盛り上がりを見せた。
勢いに押され、手の中のコントローラーを握る。
キャラクターを選択し、見様見まねで操作をすると、よろけながらキャラクターが走り出した。
169山雨来たらんとして風楼に満つ 3/8:2010/04/10(土) 23:02:00 ID:n/qwpx660
慣れた沢岡はあっという間に風間を置いて見えなくなった。
おいてきぼりを食った風間のキャラクターは操作感が掴めないままコースアウトした。
立て直したところをスリップして半回転し、ようやく前を向いて走り出したと思ったら上から降ってきた巨大な石にぺちゃんこにつぶされた。
茫然としている間に突然後から何かをぶつけられ、星を撒き散らしながらまたもやコースアウトした。
その脇をすごい勢いで沢岡が追い抜いて行く。
なすすべもなくこてんぱんにやられると、ふつふつと煮え滾るものである。
「まず練習させてくれ」と低い声で告げると、風間は集中して何度かコースを辿った。
アクセルのかけ方、ブレーキのかけ方を手に覚えさせる。
その後、沢岡と真田にそれぞれ走らせた。
「そのカーブのところでテンテンと飛ぶのはなんだ」
「ドリフトじゃ」
真田が答え、テクニックを教える。
ドリフトを覚え、ついでに相手への嫌がらせも覚え、「風間、勝負しようぜ」と沢岡が言うのを機に、「せっかくじゃけぇ4人で対戦じゃ」と真田が言って、
コントローラーが二つ増やされ、「どうせならトーナメントにするべ」と誰かが言いだし、フロアの寮生を巻き込んで大騒ぎになった。

    ◇

風間が孔を初めて自分のマンションに招き入れたのは、小雨が降る肌寒い夜のことだった。
外で夕飯を済ませ、コンビニでアルコールを購入した。
風間の部屋は、シンプルで余計なものがない。
こまごまとしたものが置いてある孔のアパートに比べると、がらんとしていると言ってもいい。
「うわ、なにもないねぇ」
半ば呆れたように孔が声をあげる。
「物は少ないほうがいい」
「そう?」
「私はな」
「ふぅん」
170山雨来たらんとして風楼に満つ 4/8:2010/04/10(土) 23:04:18 ID:n/qwpx660
フローリングに落ち着いた色のラグ、テレビとビデオデッキの置いてある棚、それに本だけはたくさん詰まった本棚とローテーブル、ソファ。
ダイニングにキッチンがくっ付いているような部屋の奥に、もう一部屋あって、風間はそちらを寝室に当てていた。
寝室の床には筋トレ用品がいくつか転がっている。
風間には見慣れた風景が、孔には珍しいのだろう。
きょろきょろしている孔に座るよう促し、「何か飲むか?」と聞く。
「お茶、買った?」
「いや。茶がいいか。淹れるか」
「うん」
キッチンで湯を沸かし、急須を用意しかけ、思い直して手のひらに乗るほどの小さな鉄瓶を出す。
風間は茶が好きだ。コーヒーも飲むが、緑茶もよく飲む。
海王の寮にいて唯一不満だったのは、茶が不味いことだった。
一人暮らしをする段になって、家から母親の茶とその小さな鉄瓶を持ちだした。
茶葉を入れた小さな鉄瓶に湯を注ぐ。
器には頓着しない風間は、マグカップに湯気の立つ液体を注いだ。
とろりとした翡翠色の茶がいい香りを放つ。
「あ。いい匂い」
孔が嬉しそうにマグカップを手にする。
一口すすって、「オイシ」と微笑む。
「風間、これ、いいお茶」
「ああ」
「私、日本来て、お茶まずい、がかりしたよ。ペットボトルのお茶、みんなまずい」
「まあ、売っているのはな」
まだ珍しそうに部屋の中を見回していた孔が、なにかに目を留めた。
「なにそれ、風間、ゲーム?」
「ん?」
孔の目線を辿って、テレビの下の、グレーのカセット式ゲーム機に気がついて、苦笑した。
「ああ、海王を卒業する時に、後輩どもが卒業祝いだと言って一式くれたのだ」
世界で一番売れたと言うゲーム機である。
それにコントローラー4つとタップ、ゲームカセットをセットにして贈られたのだ。
風間は笑って受け取るしかなかった。
171山雨来たらんとして風楼に満つ 5/8:2010/04/10(土) 23:06:27 ID:n/qwpx660
「風間、ゲームするぅ?」
孔がすっとんきょうな声を出す。
「一人ではやらんが」
と手を伸ばしてゲーム機を出す。しばらく存在を忘れられていたそれは、うっすらと埃をかぶっていた。
差し込まれたままのゲームカセットには、車に乗った赤い帽子のヒゲの配管工の絵が描かれている。
「ああ、これ知ってる」
「寮で流行ったんだよ、一時期」
「へぇえ」
よほど風間とゲームが結びつかないのだろう。孔の目が丸くなっている。
「流行っても、風間、やらない人かとおもた」
「寮の悪友に無理矢理やらされたんだ。そうしたら負けた。負けたら悔しくてな、徹夜したよ」
それを聞いた孔が楽しそうに笑った。
「風間、やりたい。勝負」
「ほう? 私は強いぞ」
「私も、負けない、よっ」
埃を払い、電源を差し込んで本体をテレビに繋ぐと、ゲーム機から伸びるコントローラーを持って、二人はテレビの前にあぐらをかいた。
軽快な電子音が響き、キャラクターの選択画面に進む。
「風間、なににする?」
「キノコだな」
「ええっ」
即答した風間に、孔が絶句する。
「ゴリラかとおもた」
「孔は」
「決まてるよー、私、いつだって主人公選ぶよ」
孔がいそいそとキャラクターを選ぶと、チェッカーフロッグが振られ、キャラクター達が走り出す。
何度か孔の妨害にあったが、立ち上がりの早いキノコは、その瞬発力にものを言わせ、ぐんぐんとコースを進む。風間の勝ちだった。
「…なんか、ずるい」
「ずるくはないだろう」
「もう一回、やる」
172山雨来たらんとして風楼に満つ 6/8:2010/04/10(土) 23:08:38 ID:n/qwpx660
負けて熱くなった孔が、ローテーブルの缶ビールを開けて口を付けた。
上下する咽喉に一瞬目を奪われ、目を反らし、風間もビールを手にする。
冷たいアルコールが咽喉を滑り落ち、胃を冷やす。うまい、と思った。
コースを変えて再び勝負したが、やはり風間の勝利だった。
あっという間に缶は空になった。
「むー」
孔が二本目に口を付ける。
「最初にコースを頭に入れて、それからコース取りをするんだ」
「ん」
「ビールがなくなりそうだ。買ってくる。一緒に行くか?」
「んー」
「…練習しておくといい」
「ん」
靴を履いて鍵を取り上げる。
正直なところ、一人暮らしをするようになって、自分の住まいに誰かをあげたのは孔が初めてだ。
ドアに手をかけて、部屋の中を振り向くと、背中を向けた孔がテレビの前にいる。
孔が振り向いて、「いてらしゃーい」と手を振った。
「…行ってきます」
ドアを閉めると、吐く息が白い。雨は止んで、街灯に濡れた道路が光っている。
ぶるりと身を震わせて、上着のポケットに手を入れ、すぐ近くの店目指して風間は歩き出した。
酒屋が経営しているコンビニで缶ビールとつまみを買い、店を出ると、さっきは止んでいた雨が、また微かに降り始めた。
霧雨に近く、急ぐ必要も感じなかったが、気温がぐっと下がったようで風間は早足になった。
「ただいま」
ドアを開けて玄関に入ると、暖かい空気が風間を包んで、荷物を床に置くと早々に上着を脱いだ。
「おかえりなさーい」
暖かい部屋で孔が自分を待っていることが予想以上に嬉しい、と言うことに、風間は驚いた。
風間の胸がふと緩むような気持ちになる。
173山雨来たらんとして風楼に満つ 7/8:2010/04/10(土) 23:10:19 ID:n/qwpx660
孔が振り向き、笑いだした。
「かざまー、鼻、赤い」
「外は寒いのだぞ」
風間は手の甲で鼻を擦った。
「風間、早く、続きやる。もう負けないよ、私」
ビニール袋をローテーブルに置くと、風間は孔の隣に腰を下ろした。
それからしばらく、風間と孔のレースが続いた。孔は確かにコツを掴んでいた。
程よくアルコールが回り、ささいなことがおかしい。
甲羅を投げられたと言っては笑い、押されて橋の上から落ちたと言っては笑い、二人ともげらげらと笑って盛り上がった。
ビールの最後の一口が風間の咽喉を落ちてゆき、孔の缶も空になった頃には、とっくの昔に終電はなくなっていた。
二人とも酔って、画面の中のキャラクターはよろよろとした動きをするようになった。
「あー、もう、おしまい」
孔がコントローラーを投げ出して、カーペットに転がった。
「うわー、私、酔てるよー。ぐるぐるまわるー」
「私もだ」
「風間も転がれ」
「わっ」
孔に腕を引かれ、転がった孔の隣に倒れ込む。
一緒に天井を見上げていると、ふと壁の時計を見た孔が、慌てた声をあげた。
「あー、もう、電車、ない」
「泊まっていけばいい」
「ん…」
孔が腕をあげて天井の灯から目を隠した。
「眠い…。泊まる」
「そうしろ。酔いざましに茶でも飲むか」
「うん…アリガト。風間のお茶、オイシイ」
起き上がって茶を淹れ、振り向くと孔は寝かかっていた。
「孔。茶が入ったぞ」
「ん…」
孔が身じろぎして、腕を下ろした。目を閉じた孔の顔が現れる。
その表情に、風間は見入った。
174山雨来たらんとして風楼に満つ 8/8:2010/04/10(土) 23:12:28 ID:n/qwpx660
泊まれと言ったのには何の他意もない。しかし、すぐ近くに孔がいるということをあらためて意識すると、風間は落ち着かない気持ちになった。
「孔。寝たのか? 風邪を引くぞ」
いらえはなかった。
「孔?」
孔の側に腰を下ろし、顔を覗き込む。
微かな息遣いが聞こえ、風間の胸が締めつけられた。
好きだ、と言えたらばどんなにいいだろう。
近くにいれば触れたくなる。
不意に、鎌倉の薄暗がりの中で触れ合った指を思い出した。
「孔…?」
腕を伸ばし、孔の髪に触れる。真っ黒な、短めのさらさらと癖のない髪の毛が、風間の指の間を滑る。
幼い子供をあやすように、風間は孔の頭をゆっくりと撫でた。
手を付き、孔の顔の上に覆いかぶさる形で、風間は自分の顔を寄せた。
やめろ、と言う声が頭の中で響くが、体が止まらない。
風間はほとんど聞こえないような小さな声で、囁いた。
「好きだ」
孔の軽く引き結ばれた唇に、唇を寄せ、軽く押し当てる。
「…文革」
もう一度くちづけると、無理矢理に体を引き離した。
これ以上孔に触れていると、くちづけ以上の何かをしてしまう。
「すまない」
眠っている孔に向って謝ると、体を起こした。
立ち上がり、毛布を出して孔の上にかけると、ちいさなスタンドをつけて、部屋の明かりを消した。
オレンジ色の光がぼんやりと部屋の中を照らす。
風間は迷って、孔の顔が見える場所に腰を下ろした。
ローテーブルの上で湯気を立てているマグカップを手にし、また少し考えて置く。
戸棚から、時折口にするジンの瓶とショットグラスを手に取ると、孔の近くに座る場所を変えて、好きな男の髪をまたゆっくりと撫でた。
風間は、今夜は眠れないかもしれない、と思った。

胸が痛い。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
175風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 04:22:51 ID:LcHHIV0q0
>>167
もどかしい!GJ!!
176Wing 1/4:2010/04/11(日) 06:35:23 ID:il/orEwc0
生です。竜31×有袋類。捏造注意。エロ無し。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 2010年。今年のド荒は身が軽い。

 今年のド荒のバック転の成功率には、目を見張るものがある。
まだシーズンスタートから数週間しか経っておらず、中曰の主催試合、
つまりド荒がバック転する試合も、まだ数試合だけしか開催されていないとはいえ、
一度も失敗していないというのは驚くべきことだ。
しかもただ「飛べている」というだけではなく、妙な安定感がある。

ド荒が失敗した時に備え、連日ちあドラの蟹ちゃんが裏でアップしているが、
彼女の美麗なバック転の出番は、なかなかやってこなかった。
医師黒さんが「どうしたんでしょうね。逆に心配になってきたり」と
公式ブログに書いてしまうくらい、それくらい今年のド荒は凄いのだ。
177Wing 2/4:2010/04/11(日) 06:41:21 ID:il/orEwc0
 話は三月初旬にさかのぼる。
名ゴ屋の某局で、開幕前に放送される「願銅鑼」という番組の収録が行われた。
その番組のクイズのコーナーで、ド荒に関する問題が出題されたのだ。

 あらかじめ出題される問題を聞いていたド荒は、
解答する選手たちの前で、落ち着かないそぶりを見せていた。
中曰には益子ットと仲の良い選手も多く、
みんな日頃から益子ット達を構ってくれてはいるのだが、
コアなド荒ファンでもなければ知らないようなマニアックな問題に
答えられる選手がいるとは思えなかったからだ。


「問題! 今や銅鑼ゴンズの人気者、ド荒の好きな食べ物はなんで」
ピンポーン!
「きたー! 野手チーム!」
問題が読み終えられるのを待たない勢いで、野手チームのベルが鳴った。
そのあまりの速さに、アナウンサーも選手達もド荒も、
誰が押したの? という顔で野手陣の顔を見回している。

「食パン」

そこには、さも当たり前のような顔をして答える盛野がいた。
178Wing 3/4:2010/04/11(日) 06:45:19 ID:il/orEwc0
 何でそんなこと知ってるんだよ! と言いたげに、
周りの選手達が驚きの表情で盛野を見た。観客席からも拍手が沸きあがる。

「今答えたのは盛野さんですか? さすが!」
アナウンサーの賞賛の声に、やはり当然のような顔で頷きながら盛野は言った。
「良く知ってますよ。自分のことですもん」


 盛野はそっけない男だ。しゃべるテンションもいつも低い。
グラウンドで時折ド荒を構ってみては、お前は絡み辛いんだよ、とぼやく。
ぞうきん臭いと文句を言う。飴の袋だけくれて去っていく。
会えば必ず、期待に答えて構ってくれるけれど、
それでもあのそっけなさに、いつか飽きられるのではないか、
そのうち無視されるのではないかと、ド荒は時々不安になっていた。だが……。

盛野はド荒のことを、自分のことだと言ったのだ。
だから、良く知っているのだと。
まるでド荒の事を、我が事のように感じているかのように。

「自分のことですから」
もう一度、盛野が言った。
顔が火照っているような気がして、ド荒は手にしていたスケッチブックで顔を
覆った。
恥ずかしくて、そしてとてつもなく嬉しかった。
よく言うよ! という仕草で盛野にツッコミを入れた。
それがその時できた、ド荒の精一杯の反撃だったのだ。
179Wing 4/4:2010/04/11(日) 06:53:24 ID:il/orEwc0
 三月二十六日、開幕。出番を待っているド荒の背中に声がかかった。
「今年からね、ファンの皆さんの意見を聞くために、目安箱を置くことになった
んだよ」
振り向くと、愛用のデジカメを抱えた医師黒さんが立っている。
「ほら」
見せられたデジカメの液晶画面を覗き込むと、ついさっき撮ったであろう
目安箱の写真が表示されている。
目安箱はただ置いてあるのではなく、ド荒のパネルにくっついていた。
ド荒が箱を持っている、そういうデザインの目安箱なのだ。
「盛野選手会長の発案なんだよ」
にこやかに、医師黒さんが言った。
箱をド荒に持たせたのが盛野であるのかどうか、そこまでは分からない。
でも、盛野が考えた目安箱に自分が使われていることが、ド荒は素直に嬉しかった。


 グラウンドに立ったド荒は、自分の身体がとても軽い、と感じていた。
飛ばなければならないという、ここに立つといつも感じるプレッシャーが
少し弱くなっているような気がする。
選手のように、この日に合わせて調整をしてきた。体調も良い。
でもそれだけではなくて、心に羽根が生えているような、そんな軽さ。

「なんでこんなに、今年は身体が軽いんだろうなぁ?」
ド荒はぽつりとつぶやいた。

──自分のことですから……

ふと心の中に、あの時の盛野の声が響いた。
ああ、一人じゃないからだ、と、ド荒は自問の答えを見つけた。

 ふわり、と今日も、ド荒は宙を舞う。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
180風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 07:55:49 ID:5EEkYBzI0
>>167
待ってました!GJ!
続きが楽しみです。
181風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 08:08:53 ID:YrUnxai30
>>176
も、萌えた!キュンキュンしたよ!
182風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 10:23:27 ID:s/vtwrP70
>>176
乙!
じゅ、純愛、純愛なの???
二人とも可愛すぎるw

183風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 12:16:30 ID:9TQJsr6Z0
>>167
読み返しにきたら新作来てた!!
ジリジリ進んでるのがたまらん ハァハァ
184風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 12:20:48 ID:q1GOKdUfO
>>176
2人ともすごくかわいい!
萌えましたGJ!
185風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 18:01:34 ID:afs0BT3l0
>>167
萌え過ぎて何度も読んでしまう!!
GJGJ!!続き楽しみにしてます!
186185:2010/04/11(日) 18:02:38 ID:afs0BT3l0
上げてしまってすいません・・・
187風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 19:07:48 ID:sXuXq5+Q0
>>176
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
まってたよぉぉぉぉぉぉぉ。
今年の守野はデレ期だ。間違いない。
でも背番号は30だwww
188風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 20:23:28 ID:Y0BlO2ThO
>>167
静かに丁寧に物事が進んでいくのがたまらない
続き楽しみにしてるよ
189宵惑い 1/7:2010/04/11(日) 23:15:46 ID:H4Zr4KGz0
ピンポン ドラチャイ
56-429 56-448 56-456 57-19 57-87  57-98 57-113
57-119 57-149 57-167 の続き

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

孔は眠りに引き込まれた。
風間の声が聞こえたような気がしたが、それもすぐにわからなくなった。
短い夢を見た。
誰かが遠くで、何かを話している。何を言っているのか聞き取れず、顔も見えない。
せめてもっとちゃんとしゃべれ、と言おうと思ったところで唇に柔らかいものが触れた。
そこでまた、孔の夢は途切れた。

目を開けると、薄暗いオレンジ色の光の中、風間がすぐ近くに座って、自分の髪を撫でていた。
顔はなんとなくこちらを向いていたが、目はどこか遠くを見ていた。
撫でているのとは反対の手で、ショットグラスを口に運んでいる。
一瞬、自分がどこにいて、どうして風間がそばにいるのか思い出せなかった。
風間とゲームをして、ビールをたくさん飲んで、電車がとうにない時間で、眠くなって寝てしまった…。
孔は自分が毛布にくるまっていることに気がついた。風間がかけてくれたのだろう。暖かい。
「風間、何、飲んでる?」
孔の髪の毛を撫でていた手が止まり、物思いから覚めた顔で風間が孔を見た。
さりげなく手が離れてゆく。
「ジンだ。…目が覚めたか。起こしたか?」
「ううん。トイレ」
「そうか」
用を足して出てくると、キッチンの小さな明かりの中で風間がやかんを火にかけているところだった。
190宵惑い 2/7:2010/04/11(日) 23:17:25 ID:H4Zr4KGz0
「酔いはどうだ」
「んー、まだ、のこてるかな。のど乾いた」
水道の水をコップに汲んで一気に流し込むと、大きく息をつく。
冷たい水が胃に落ちたところで、突然寒くなり、ぶるっと大きく震えた。
「冷えたか?」
「少し」
湯が湧いたところで火を止めた風間が、茶筒から茶色の大振りな葉を急須に入れ、湯を注ぐ。
香ばしい香りがたった。
「なに?」
「ほうじ茶」
孔がマグカップを二つ見つけて置くと、風間が熱い液体を注いだ。
二人シンクの前に並んで、立ったままマグカップに口を付ける。
「オイシイ」
キッチン横の磨ガラスに、常夜灯の白い灯りが映って見える。時折窓の桟から水滴が落ちている。
まだ雨が降っているのだろう。
「何時?」
「2時頃か」
「そか…風間、明日は?」
「別に何もないな」
「デート、予定はないのか」
「そもそも相手がいない」
「そうなのか?」
「そうだ。孔は」
「ひさしぶり、スポーツセンター、休み。辻堂も休み。日曜、両方休み、珍しい」
なんとなく二人は黙り込む。
孔はマグカップを両手で包みながら、立ち上る湯気を見ていた。
「寝るか。歯ブラシあるぞ。シャワーを浴びるなら風呂場はそっち」
風間が口を開いて、孔は頷いた。
191宵惑い 3/7:2010/04/11(日) 23:19:53 ID:H4Zr4KGz0
寝室の床に置かれていた筋トレ用の用具を部屋の端に片付け、空いた場所にクローゼットから出された寝袋が置かれた。
海王時代に合宿で使った寝袋である。
誰かが泊まることなど想定していなかった風間の部屋には、孔が寝るための寝具がない。
孔は借りたスウェットに着替えると、エンベロープ型の寝袋にもぐり込んだ。
孔と入れ替わりでシャワーを浴びた風間がキッチンで水を飲んでいる気配がする。
ことりとグラスがシンクに置かれる音がして、寝室のドアのところにもたれてしばらくたたずむ風間の姿が見えた。
「風間、寝ないのか」
「寝るよ」
足音が近づく。ベッドがぎしりときしんでごそごそと布がこすれる音がし、風間がベッドに入る。
ベッドサイドのスタンドが消されると、部屋の中に暗闇が落ちた。
カーテンを閉めていない窓から、夜の街路灯の明りが白く天井に射す。
孔は寝袋にもぐりなおすと、瞼を閉じた。
眠気は体中に行き渡っているのに、なぜか頭がさえて、もう眠りは訪れてこなかった。
頭のどこかが薄ぼんやりとしている。まだアルコールが体の中を巡っているのだ。
風間のもとからは規則正しい息遣いが聞こえてきたが、それはただ、風間が規則正しく呼吸しているだけ、と言うことが孔にはわかった。
狭い寝袋の中で何度か身じろぎしたところで、諦めて孔は目を開けた。
風間のシルエットが見える。
孔は自分が緊張していることに気がついた。
唇が乾く。すぐそこに風間がいて、お互いに眠れない。
酔いながらも緊張している自分が奇妙に思える。
孔は自分がなにを言おうとしているのか、わからないまま口を開いた。
192宵惑い 4/7:2010/04/11(日) 23:21:55 ID:H4Zr4KGz0
「風間」
「うん?」
「寝袋、寒い」
「毛布を足すか?」
「ううん、私、そっちに入れろ」
風間が枕から頭をあげたのがわかった。
「…交代するか。孔がベッドで寝たいならそれでも」
いい、と続く言葉の上に声をかぶせた。
「風間の隣に、私、入れろ」
「冗談言うな。----狭いだろうが」
「狭くていい」
「勘弁しろ」
「風間。私、まだ酔てる。酔ぱらいの、言うこと、聞け」
「なんて言う理屈だ」
あきれたような嘆息が風間から聞こえ、孔は少し笑った。
「風間も、酔てるだろ? 寝袋、寒い」
本当は寒くなんてないのだ。
寝袋の中ははちゃんと暖かい。
風間はベッドから身を起こすと、しばらく逡巡した様子でいたが、「知らんぞ」と呟いて掛け布団を持ち上げた。
「来い」
孔は寝袋から抜け出すとするりと入り込む。
「暖かい」
「…そうか。それはよかった」
風間は孔に背を向けた。
193宵惑い 5/7:2010/04/11(日) 23:23:30 ID:H4Zr4KGz0
「風間」
「なんだ」
「こっちを向け」
「…孔、」
「こっち向け」
少ししてから、大きなため息を付き、風間が仰向けになった。
こちらを見ない。
少しだけためらって、孔は探るように風間の手に自分の掌を重ねた。
一拍おいて、骨張った大きな手が指を絡めてくる。
記憶の中にある風間の手。
こうしているのが当たり前であるかのように、二人の指が絡む。
暗闇の中、天井を眺めながら、しばらく無言が続いた。
「くそ、どうにもならん」
行動を起こしたのは風間だった。
風間が指を絡めた手を顔の近くに引き寄せ、孔の方を向いた。
気配を感じて、孔も風間の方へ顔を向けた。
風間の空いている手が孔の頬に触れ、反射的に孔は瞼を閉じた。
乾いた指がゆっくりと頬をなぞるのを、孔は不思議な思いで感じていた。
まるで風間の指は、恋人を愛撫しているかのようだ。
目を閉じた孔の頬を、風間の指がゆっくりと滑る。
親指が孔の唇をとらえ、触れてくる。
風間が絡めた指を引き寄せて、その先にくちづけた。
感覚に、孔の息が止まる。なだめるように唇に触れられて、孔は軽く唇を開いた。
「風間…」
声が上ずり、慌てて孔は口を閉じた。心臓の音が耳元でする。熱い。
「孔、誘っているだろう…?」
目を開けると、暗闇の中に、射るような風間の瞳が鈍く光っていた。
「ちが…、風間が、誘てる…」
「そうか…?」
見たことのある目だ。濃緑色の台を挟んで対峙した、あの「ドラゴン」の目だ。
「私の方か?」
風間が体を起こし、孔に覆いかぶさった。
194宵惑い 6/7:2010/04/11(日) 23:25:06 ID:H4Zr4KGz0
顔の両脇に腕を置かれ、上から覗き込まれて孔はまた息を止めた。
ゆっくりと風間の顔が下りてきて、孔にくちづけて離れていった。
風間からは、風間のまだ少し水気を含んだ石鹸の匂いと、歯磨き粉の匂いがした。
腰に風間の昂ぶりを感じて、孔は眩暈のような感覚に襲われた。
片手は風間の指に搦め捕られたまま、もう一方の手で風間の髪の毛を探る。
「かざま…」
吸い寄せられるように風間の唇が落ちる。
「なんだ」
「アナタ、背中に、痕…付いてるか?」
風間が一瞬虚を突かれたように黙り、小さく笑った。
「やはり、誘っているだろう…?」
「ん…」
そうかもしれない。
「相手がいないと言っただろう…自分で確かめてみろ」
低い声で告げられて、背中にぞくりと電流が走る。
「一つだけ聞かせてくれ」
風間の唇が、孔の唇に軽く触れながら囁いた。
「…私のことが好きか、孔」
腕を下ろして風間の眉に指を当てながらそっと滑らせると、孔は
「おしえない」
と答えた。
195宵惑い 7/7:2010/04/11(日) 23:27:07 ID:H4Zr4KGz0
「かざまが、私を好きか、言ったら…おしえる」
「好きだ」
即答されて、孔は狼狽した。
そうだ、風間はいつもこうだった。
ラケットを構え、緑色の台を挟んで対峙する時。
いつも重量のあるまっすぐさでこちらを叩きのめそうとしてくる。
恐ろしいほどの強さで。
「風間、」
「好きだ、孔」
「かざまっ…」
自分の思いは、一方通行ではなかったのか。
風間に抱きつくと、息が苦しくなるほど抱きしめられた。
孔は自分の眦から、温かいものが流れ落ちたことに気がついた。

涙がシーツに落ちる音が耳元で響いて、どうか風間に気がつかれませんように、と孔は願った。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
196風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 23:38:56 ID:LJI+gNVV0
なんつうか……すごいね
197風と木の名無しさん:2010/04/11(日) 23:58:38 ID:WpmNC3x/0
>>189
うp早すぎです姉さん!萌えが追いつきませんw
ゆっくり読ませてもらいます
ありがとう
198風と木の名無しさん:2010/04/12(月) 00:12:03 ID:zFznOKYo0
>>189
ここ覗いて良かった。
実はピンポンあんま知らないんですが、このシリーズに引き込まれてしまったw
今度原作読んでみたくなった。ありがとうございました。
199風と木の名無しさん:2010/04/12(月) 00:25:25 ID:W6nGnFg2O
>>189神へ
愛しています。
200風と木の名無しさん:2010/04/12(月) 08:19:17 ID:pvNwA5QdO
どうしてサイトを作らないのか
いろんな意味で
201サイレント/ヒル4:2010/04/12(月) 15:32:10 ID:vz4p8vBQ0
静かな丘4(要英訳) ウォルター×ヘンリー
ぬるすぎですが若干の血表現有なので苦手な方はご注意ください

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
202サイレント/ヒル4(1/6):2010/04/12(月) 15:34:06 ID:vz4p8vBQ0
 小さなアパートの一室、生まれた部屋に臍の緒がついたまま置き去りにされ、狂った
カルト教団の運営する孤児院で育てられた哀れな男。
ウォルター・サリバン。

 そう、彼の不幸な生い立ちを聞いただけならば同情を誘う話なのだが、彼はその後
頭のいかれた集団に日常的に虐待を受け、育てられたおかげで、
母に愛されたいという純粋な欲を満たすために結果20人もの人間を殺害する事件を引き
起こすことになる。
 自身の手で絞殺、拳銃で射殺、ゴルフクラブや鉄パイプで撲殺…目を覆いたくなる
ような連続殺人の記録。
 凄惨な殺し方の割に、どの事件も現場に偶然あった凶器で被害者を襲っているという
無計画さと、老人から10歳にも満たない幼い兄妹までまったく無差別に選ばれた犠牲者
達のリストは捜査に当たった警察を酷く混乱させた。
 おそらく誰でも良かったのだろう、儀式を成功させる為の血と生贄さえ手に入れば
たとえそれが昨日まで隣で笑っていたような存在でも。
容易く殺せるならば彼には躊躇う理由がなかったのかもしれない。
 殺害後は骸から心臓を抜き出し、ご丁寧に傷口を縫い合わせてから用の済んだ遺体を
棄てているというこのイカれた猟奇殺人の目的が『ママに会いたいから』…だというの
だから、何とも後味の悪い話だった。

 そして彼の21人目の犠牲者になる予定だったのは他でもないこの私だった。
 すべてが終わった今でも、その事を思い出す度ゾクリと背筋が寒くなる。
 母への執着と無意識の憎悪、歪んだ妄想から生みだされた血と膿と錆に塗れた異質な
世界で、何度も執拗に追い回された記憶のせいか元々精神的にそう強い方ではない私は
事件の後しばらく悪夢に魘されては飛び起きる夜が続いた。

 夢の中ではいつも私は何の武器も持たないまま、只管猫に追われるマウスのように
暗闇の中を手探りで逃げ惑っている。
203サイレント/ヒル4(2/6):2010/04/12(月) 15:35:31 ID:vz4p8vBQ0
(…あり得ない、これは夢だ。すべては終わったことなんだ)
 背後から感じる肌を刺すような嫌な気配がだんだんと私に近づいてきて、そして紅い
闇の中から死神のようにあの男が姿を現すのだ。ウォルター・サリバン。
 逃げ道を壁に塞がれて、為す術もなくゆっくりと目の前に迫るその男の名を震える
口唇で紡ぐ私に、彼は幼子のように小首を傾げて笑う。
 長身で逞しい体躯、アッシュブロンドの髪には所々血がこびり付き端正な顔に酷薄な
笑みを湛えた殺人鬼が、魂を狩る大鎌の如く何人もの犠牲者の血を吸った錆びた手斧を
私の目の前でゆっくりと振り翳す。
 逃げなくてはと思っているのに私の両の足はぴくりとも動いてはくれない。このまま
ぐずぐずしていたら確実に柘榴のように呆気なくこの頭を割られ、絶命するのが分かっ
ているというのに。
「ウォルター…」
 振り絞るような、掠れた己の声を嘲笑うようにウォルターは口端の笑みを深めて躊躇い
もなく手斧をこちらに向かって振り下ろした。

「うあぁぁッ……?!」

 一瞬にして視界は眩い光に包まれて、じりじりと照りつけてくる午後の太陽の強烈な
日差しにココが異様な異世界などではなく、サウスアッシュフィールドハイツの近くに
ある小さな公園のベンチの上だということを思い出し、私は安堵の溜息を吐いた。

 周りの喧騒をぼんやりと聞きながら額に伝う嫌な汗を拭う。
 まだ夏には随分とはやいというのになんという陽気だろう。
 己が先程まで肌に感じていた温度との差にあらためてアレが夢だったのだとはっきり
確認する事が出来て、私はベンチの背にだらしなく体を凭れさせたままずるずると項垂れた。
 空は雲一つ無く真っ青に晴れ渡り、木々は青々と芽吹き花壇には色とりどりの花が咲き
乱れている。
 そんな光景に、草臥れ不健康にやつれた己のなんと不釣り合いなことか。
 青褪めた顔で俯く己の狭い視界を、子供の小さな靴が軽やかに横切っていく。
 幼子の笑い声が響き渡る平和な公園の風景に、ホッとすると同時にもう一つ失念していた
ことを思い出した。
204サイレント/ヒル4(3/6):2010/04/12(月) 15:37:04 ID:vz4p8vBQ0
 今こうしてベンチに座っているのは自分だけ。
 そういえばあいつは?あの男はどこに行っ…
 思わず反射的に腰を浮かせて立ち上がろうとしたところで、上げた視界の真正面に捉えた
光景にへなへなと力が抜けてしまった。

 明るい公園の片隅で、軽快な音楽をかけながらキャラメルポップコーンを売る小さな可愛
らしいワゴン。そしてたっぷりのポップコーンを湛えている、そのアクリルで出来た箱の
側面にべったりと片頬を押し付けるようにして興味津々中を覗き込んでいる長身の男。
 …可哀想に、販売員がすっかり怯えた顔でワゴンから距離をとってしまっているではな
いか、これでは営業妨害も甚だしい。
 傍らを通り過ぎる親子連れの「ママァ、あのお兄ちゃんなにやってるの?」「シッ、見
ちゃダメよ」という頭の痛くなるようなやり取りに私は渋々と重い腰を上げた。

「すまない、ウォルター。睡眠不足が祟ったのかな」
「ん、目が覚めたのか。珍しくよく寝ていたからな、起こしてはいけないと思って………
どうしたんだ?ヘンリー。寝ていた割には顔色がひどく悪いぞ。悪い夢でも見たのか」
 彼の気遣いは有難いが、『夢の中で過去のあなたに殺されそうになっていました』とは
流石に言えやしない。
 曖昧な笑みを浮かべて「夢の内容は忘れてしまったよ」と取り繕いながら歩み寄り、
やんわりと屈んだ彼の肩に手を置いた。
「ウォルター、そうワゴンを抱え込んでしまっては皆の迷惑になるよ。スナック菓子は家
にあっただろう?」
 スーパーマーケットで買ってきた大袋入りのポテトチップスが確か棚にあった筈だ。そう
告げれば彼は子供のように口唇を尖らせて、ポップコーンが弾けるところを見るのは初めて
なのだと言った。
205サイレント/ヒル4(4/6):2010/04/12(月) 15:38:10 ID:vz4p8vBQ0
「ポンポンと弾けて実に面白い」
 瞳をきらきらと輝かせワゴンを飽きもせず眺め続ける端正な横顔に、やれやれと今日何度
めか分からない溜息を吐いた。
 この男、教団施設に監禁されていた子供時代、大量に詰め込まれた書物のおかげで私では
到底無理な大学に悠々合格出来た程の優秀な頭脳をもってはいるが、その癖普通の子供があ
たりまえのように受ける親からの愛情と云うものを何一つ与えられなかった為、こういう
方面に関しては信じられないぐらいに疎いことに驚かされた。
 アルバイトらしき若い店員が途方に暮れた顔で、私とウォルターの間で何度も視線を往復
させているのもそろそろ居心地が悪くなってきた。
 20代も半ばを過ぎた外見の男がワゴンにへばり付いている光景はそりゃ気味が悪いだろう、
そのワゴンが自分の商売道具なら尚更のことだ。君の気持ちは痛いほどによくわかる。
 逃げ腰の彼を手招きで呼んで、私はポケットから数枚のコインを取り出しながら人差し指
を立ててみせた。

「すまない、1つ貰えるかな」
 ポップコーンワゴンに同化していた大男が、私の言葉に瞳を輝かせ子犬のようにピョコンと
顔を上げた。
「いいのか?ヘンリー」
「ああ、…たまにはね」
 本当は夕食前の買い食いはあまり良くないんだけど、そう窘めるように続けた私の声は、
憎らしいことに彼の耳には全く届いていないらしく店員がポップコーンを紙袋に掬い入れる
間もずっと彼の視線はそちらに釘付けだった。
 ぶんぶんと激しく振り立てられた透明な尻尾が彼の尻に透けて見えるようでなんとも可笑
しな光景に苦笑いが零れた。
 嬉々として店員から温かい包みを受け取るウォルターの姿に瞳を細めて、私は先にベンチ
へと戻ることにした。
 ポップコーンが弾ける様が物珍しい、…確かにそれも欲しがる理由の一つにあるのだろう
が彼がポップコーンに惹き付けられたきっかけは多分、私たちの周りに広がるこの光景なの
だろう。
206サイレント/ヒル4(5/6):2010/04/12(月) 15:39:49 ID:vz4p8vBQ0
 隣のベンチも、そのまた隣も。
 公園のあちこちで仲睦まじくポップコーンを摘まむ親子の姿がなんとも微笑ましい、長閑
な午後のひととき。
 幼い頃に母親の愛情を与えられなかったどころか親の顔すら知らないまま棄てられたウォルター
にとって、この菓子が親子の絆を結ぶ魔法のアイテムに見えたとしても不思議ではないだろう。
 思わず笑ってしまう程特盛りにサービスされたポップコーンを、溢さないよう慎重に運んで
きたウォルターの為に隣を空けて並んでベンチに腰掛けると、案の定。

「ほら、ヘンリー」
「………」
 深い翠色の瞳を輝かせて、いそいそと私の鼻先に一粒のポップコーンを突き付ける彼の姿。
 確かに周りの皆はそうしている。が、
 幼子とその親、もしくは若いカップル同士ならばとても微笑ましい光景なのだろうが私も
ウォルターもいい歳をした大人で、男同士だ。
 不思議そうにこちらを眺める老夫婦の視線がある意味拷問に感じられる。
「あの、ウォルター、私は…」
「ほら、あーんだ。ヘンリー」
 真顔で迫るな、怖いから。分かったよ、分かった食べればいいんだろう食べれば。
 ひくり、と自分の口唇の端が引き攣ったのがよくわかる。一旦言い出した事は絶対に撤回
せず、やると決めたらそれがたとえどんなに迷惑なことでも遣り遂げる男だということを
嫌という程知っているからこそ、私は深い溜息と共に早々に白旗を揚げた。
 ぱくりと私が口で受け止めたそれにウォルターはにっこりと笑い、下手糞な口笛を奏で
ながら自分の口にも2粒3粒と放り込み上機嫌で咀嚼する。
「大切な存在と分け合う食事というものは私が思っていた以上にいいものなんだな、ヘンリー」
 再び差し出されたポップコーンと同じタイミングで頭一つ分高い位置から降ってきた優しい
声色は、余りにも不意打ちすぎて私の喉をひどく詰まらせた。
207サイレント/ヒル4(6/6):2010/04/12(月) 15:41:56 ID:vz4p8vBQ0
 噎せる私の背を笑いながら叩く大きな掌からはもうあの血の臭いはしない。
 犯してしまった過ちは消せるものではないが、過去に囚われすぎて前を向かない人間は神が
差し伸べた慈悲の手に気付くことも出来ない。それはいつか私が彼に言った言葉。
 儀式の失敗と共に彼が一度に失ってしまった、母親、信仰、それからこの世に存在する意味。
 …おそらく帰る場所も、だろうか。
 それらをすべて自分一人で埋めてやれるなどとは思わないが、彼の狂気を止められる最後の
楔としての役割だけでなく、私自身の意思。ヘンリー・タウンゼントの望みとしてこれからの
生を彼と共に探していこうと思った。
 その決意に後悔など微塵もしてない。

「これだけの量があると食べきるのも一苦労だな」
「無理しなくてもいいさウォルター。残りは部屋に持ち帰って、ポップコーンミルクを作ろう」
「何だそれは?ハハ、ヘンリーは本当にいろいろなことを知っているな」
「ミルクとポップコーンを同じ量だけカップに用意するんだ、まぁ口で説明するよりもやって
みせる方が早いかな」
 心底感心したという顔で食べかけのポップコーンを片付け、彼はベンチから先に立ち上がり
私に向かって自然な仕草で大きな手を差し伸べてくる。
 そんなウォルターの手をとりながら、私は彼がこれまで願っても決して得る事が出来なかった、
『当たり前の幸せ』を一つでも多く伝えていこう、まずは私が幼いころに母に拵えて貰った単純
だが優しいおやつからはじめてみようか。と。そんなことを静かに考えていた。
 この夢のような平穏がいつまでも続く事を心の底から強く祈りながら。



「…あの、すまないが部屋まで手を繋ぎっぱなしというのは勘弁してくれないか…周りの視線が…」
「遠慮するなヘンリー。水臭いぞ」
「……いや別に遠慮しているわけではなくて」




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
208風と木の名無しさん:2010/04/13(火) 01:12:31 ID:1xQr1do6O
>>189
ここに投下して下さった御蔭で、私は貴女のドラチャイに出会えた
ありがとう
209風と木の名無しさん:2010/04/13(火) 01:16:12 ID:g0+nzrumP
からまれて連投自重してるジャンルの姐さん方もいるんだけどなー
サイト作った方がいいんじゃね、いろんな意味で
210風と木の名無しさん:2010/04/13(火) 01:59:09 ID:Q+xPtDRgO
>>201
姐様ありがとう!
久々にウォルヘン読んで禿萌えた
211風と木の名無しさん:2010/04/13(火) 06:28:37 ID:s0KP1gnIO
てるたいの時を思い出した
あの人は結局自サイト作ってここにメアド晒していなくなったよね
212風と木の名無しさん:2010/04/13(火) 08:08:35 ID:sB4ScfiN0
相談・議論等は避難所の掲示板で
http://s.z-z.jp/?morara
213風と木の名無しさん:2010/04/13(火) 21:10:33 ID:b75I3//e0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  魁!!男塾、梁山泊兄弟長兄人気梃入れ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  エロなし、走馬灯注意
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

214花の下 1/7:2010/04/13(火) 21:11:07 ID:b75I3//e0
修練場の音が遠い。

泉池を渡る風が頬を撫でる。火照った肌に、翠籐の冷たさが心地よい。
「どこでくたばっているかと思えば、ここだったか」
降る声に、山艶はうすく目を開けた。
四阿の軒からそそぐ逆光を背に、長身の人影が屈み込む。
口元へ手が伸びて、仄かな甘い香が鼻先をかすめ、抉じ開けられた口中へ、甘い果実の一粒が落とし込まれた。
噛み締めれば、冷たい果汁が渇いた喉を潤し、心地よさに知らず、溜息が漏れる。
「朝課で無様を晒したそうだな」
ようやく人心地がついて、頭上の兄を仰ぎ、山艶は緩慢に口を開いた。
「初手からかわす一方だったんですが、間合いが取れぬうちに打ち込まれ…
十合までは流したのですが、とうとう受け損ねてまともに喰らいました」
「宋江相手に十合ならまあ、善戦した方だが。失神したとは情けない」
すげなく言い捨て、梁皇は露台の端に腰を下ろした。手にした果実一掴みを、無造作に白磁の鉢へ放り込む。
「受け切れぬなら押し返せ」
「無茶を仰る…」
年の近い兄弟だが、膂力は親子ほども違う。どだい無理な注文と言えよう。
肘をつき身を起こしかけて、山艶は引きつった声を呑んだ。
「痛…ッ」
向けば、末弟の泊鳳が小さな手で兄の編み髪の端を握り、屈託のない笑顔でこちらを見上げている。
「あーんちゃあ」
「来たな、やんちゃ坊主めが」
梁皇は、一回り下の末弟へ手を伸ばし、むんずと襟首を掴んで、猫の子のようにぶら下げた。
手足をじたばたさせて喜ぶ腕白小僧を格好だけは睨めつけながら、その口へ冷えた茘枝の一粒を放り込む。
「人の髪を引っ張るなと、何度言えばわかる?」
兄の胡座へ放り落とされるも、粗雑な扱いにめげもせず、泊鳳は目を輝かせて果物鉢へ手を伸ばす。
よちよち歩きの幼子から見れば小山のような兄の脚を乗り越えんと、無心にもがく様が可笑しく、
山艶は痛みも忘れて苦笑した。
215花の下 2/7:2010/04/13(火) 21:11:58 ID:b75I3//e0
「全く、この豆台風は」
もはや眼前の水菓しか頭にない弟は放っておいて、引きつれた編み髪を解きほぐしにかかれば、
籐椅子に寝そべった兄が口を出す。
「結い上げれば良いものを。くそガキに引き抜かれずに済む」
当のくそガキはと言えば、兄の脚の間へ陣取って果実の鉢を抱え、
果汁で前掛けが汚れるのもおかまいなし、口いっぱいに戦利品を頬張っている。
「結えないんです」
すいと手を伸べ、山艶は兄の髪から銀の簪を引き抜いた。
「何だ、断りもなく」
「いい細工ですね、どこの妓楼の姑女からですか」
咄嗟、返答に詰まった兄を後目に、山艶は同じく無断拝借した?を銜え、解いた髪をくるくると巻き上げた。
兄と同じ総角に髪を纏めると簪を挿して留め、?で巻き込む。
「ほら、ね」
結ぶに足りない布端をつまみ、山艶は兄の方へ向いて見せた。
「髪が多すぎて、?に巻き切れないんです」
「髪が足らずに義髻を乗せている妓女が見たなら泣いて羨ましがろうな」
「双尤ぐらいなら自前で結えますよ」
?を解き、簪を引き抜いて軽く頭を振る。長い黒髪が滝の如く流れ落ちた。
「もういっそ、剪ろうかと」
「武髪でも結うか」
「夜目遠目酔目で女に見えないなら、この際何でも」
「…またか」
鉢から棗をつまみかけた手を止め、梁皇は眉を寄せて弟を見やった。
216花の下 3/7:2010/04/13(火) 21:12:52 ID:b75I3//e0
「どこの与太者だ」
「さあ」
「山艶!」
語気を強める兄と目を合わせ、少女とまごう細面の弟はそらっとぼけた風に言う。
「全員叩きのめして河に放り込んだ後は、とっとと帰って来ましたから。顔も見ておりません」
「単騎で、か?」
「はい」
面映ゆいような笑顔で頷く弟をみとめ、梁皇は口の端を上げた。摘んだ棗を口へ放り込みつつ、満足気に嘯く。
「やっと、か。──ハッ、当然だ」
弟の勝ちを耳にして、我が事の如く得意気に誇る兄に、山艶はくすぐったいような思いで笑みかけた。
「もう少し背が伸びれば、一人歩きで酔漢が寄ってくる事もなくなりましょう。
 差し当たってそれまで、花街では男とわかるなりで」
「要らぬ!」
「え?」
弟の言葉を鋭く遮り、梁皇は声を荒げた。戸惑い見返す山艶を、兄のきついまなこが射抜く。
「痴れ者共に譲る必要がどこにある。傍の目におもねるな!
花街だろうとどこだろうと、髪を下げて長衣で歩け、絡む馬鹿は片端から叩き殺して構わぬ!」
「そのような無茶を」
弟の苦笑にも引き下がらず、梁皇は尚も言い募った。
「一人残らず打ち伏せれば、お前の見てくれをとやかくいう者はなくなろう」
「兄上と肩を並べられるようになったら考えます」
「いつまで待たせる?」
驚きに兄と目を合わせたはずみ、編みかけた髪が手の中で跳ね、結い紐が飛んだ。
黒絹の髪がさらりと肩へ流れ落ちる。
「──私を首領にでもなさるおつもりか?」
「何がおかしい、当然のことだ」
思わずまじまじと見詰め返すも、日頃から冗談の大嫌いな梁皇の目に、戯言の色は欠片もない。
しばし言葉を告げず、──笑っていいのか、困っていいのか──山艶は途方に暮れた。
四阿を吹き抜ける風が、梨の花を舞い散らす。
217花の下 4/7:2010/04/13(火) 21:13:42 ID:b75I3//e0
腹の脹れた末弟は、長兄の脚にもたれ、とうにぐっすり眠り込んでいた。
兄の長衣の端へ投げ出されたちいさな手指は、果実のしずくで斑になっている。
続く言葉を探しあぐね、とりたててどうという理由もなく、山艶は弟の手に触れた。
玩具のように小さな指がきちんと五本揃っているのは不思議なほどで、
つまんでみれば、もみじの手のひらはぷわぷわと柔らかく指を押し戻す。
暫しそうして、小さな手を玩んでいた白い繊手に、下から長兄の手が触れた。
肉厚でいかつい梁皇の手の中、山艶の手が如何にも華奢に見えるのは否めない。
日に焼けた肉厚な手指が、戯れにしなやかな手指をとらえ、掌を弄ぶのを、山艶はただ無言で眺めやっていた。
成人間近の長兄に比べれば殊更、小柄な体躯も四肢も、
他人に触れられることを好かない──ことに男には──癖の山艶でありながら、兄の手だけは不快と感じないのは、
自分に触れるその様が、愛おしさからつい末弟に触れる自分自身とそっくり同じだからだろう。

仰向けに寝転がった兄の髷が、山艶の腿に当たって崩れ、蓬々と乱れ散った。
無言で簪を拾い、懐から象牙の櫛を出して、山艶は兄の髪を解き、梳いて元通り結いなおす。
「いい細工の櫛だな、どこの妓女からだ」
兄の揶揄に、山艶は無言の微笑で答えた。
暫しどちらも何も言わず、ちょうど真上から兄の顔を覗き込むかたち、俯いた弟の肩へ、
ふと挙げられた手の甲が触れる。
戯れに、こぼれ落ちる黒髪を受け、繰り返し手櫛で梳く兄の手の甲へ、山艶は軽く唇を当てた。
無骨な指先が、唇から頬へ陶磁の肌をなぞり、艶やかな前髪を払った。

気慰みに触れられる弟の物思いを、この長兄が思いやることは決してあるまい。
傲慢で冷徹、尊大で横柄、我侭で短慮で、時に浅薄ですらあるこの年嵩の男を、何ゆえ自分は嫌いになれないのか?
戯れに触れられる事が我慢ならず、いっそ切ろうと思った髪を、
こうして手慰みにされることに、心地よさの他感じないのはなぜか。
不遜さにも気短さにも、辟易はしても疎ましくは思えない。
それを目にして、時に胸が苦しくなるほどやるせなくとも、憎めようはずがない。
それが悪意を持って自分に向いた事は、ただ一度としてないのだから。
──血の繋がった兄弟であればこそ。
218花の下 5/7:2010/04/13(火) 21:14:39 ID:b75I3//e0

巡る想いを、けたたましい泣き声が断ち切った。


「…泊鳳、」
「泣くな喧しい!」
梁皇は瞬時に身を起こし、景気のいい寝返りを繰り返した挙句
寝椅子から転げ落ちた末弟の襟首を掴んで拾い上げる。
抱き上げられて、兄の肩口にしがみつき、あらん限りの声を張り上げ泣き喚く弟の額を、梁皇はぞんざいに撫でた。
「ただのたんこぶだ、大げさに喚くな。唾でもつけておけば治る」
言葉どおり、ぺろりと額を舐められ、まだしゃくりあげつつも泊鳳は泣き止み、
小さなこぶしで涙に濡れた頬をこすった。
「…あんちゃ」
「何だ」
「はら減った」
深く嘆息し、幼い弟を軽々と肩へ乗せて、梁皇はすっと立ち上がった。
「全くお前は、将来さぞ大物になろうな。…行くか、ぼちぼち昼だろう」
219花の下 6/7:2010/04/13(火) 21:15:52 ID:b75I3//e0
「兄上」
立ち上がり、先へ行く背を追って、隣へ歩き出しつつ山艶は呼ぶ。
「午後から稽古をつけていただけますか」
「どういう風の吹き回しだ」
「…兄上の隣に立ちたくなりました」
「やっとか」
得意気に応じる兄へ、はにかみつつ笑みかけながら、山艶の心中にふとひとしずく、苦いような思いが過ぎった。
耳従わず省みず、余人に媚びるところのない兄の性情は、首領としての求心力という裨益と共に、
数知れぬ敵をももたらすだろう。
陰日向と添うて立つことで、それを和らげられるなら…当の兄には、要らぬでしゃばりと叱責されようとも。

優でた若年者と認められてはいても、未だ上位十六騎に数えられぬ身に、それはまだ、遠い望みだけれど。
「もう誰にも負けたくないのです。兄上の外は」
「無論のことだ。この兄に並ぼうという身で、有象無象の輩相手に無様を晒してみるがいい、
この手で叩き斬ってやろうほどに」
「兄上の手にかかるなら、何の後悔がありましょう」
「…くだらぬ冗談を言うな」
「本当です。この指一本、髪一筋に至るまで、元より兄上のもの」
「当然だ」
酷薄な唇の端を上げ、梁皇は言い放った。
220花の下 7/7:2010/04/13(火) 21:17:13 ID:b75I3//e0



走馬燈の欠片が、思考の隅を影と滑り落ちる。
今際の刻みになぜ、あの遠い日を思い出したのか。
…あの日の言葉に、嘘はなかった。
けれど。



「悔いはない……………」
世界が傾ぐ。



伏して乞おうとも、兄は許すまい。この『裏切り』を。
けれど。

薄れ行く視界の端、勝者が踵を返す。
兄の背を追って、その肩に並び。共に数多の戦を勝ち渡って──この敗地に伏す今、
死の淵に沈まんとするこの際の、拳士としての自分の、これもまた偽らざる本心だったから。
──詫びはすまい。


『悔いは…ない』
漆黒のあぎとが口を開き、何もかもを呑んだ。


221風と木の名無しさん:2010/04/13(火) 21:17:56 ID:b75I3//e0

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧  文字化けしたのは
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) "巾責"って漢字ですた
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
222風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 03:07:27 ID:Fwi27QQF0
ttp://www.k-tropicana.com/100/#/cheflist
ト口ピ力─ナ100%果物汁のシェフ ぶどう×りんご de ほのぼの

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

いつものように赤い表紙の本を手にして、寝室を出てリビングキッチンに向かう。
リビングからは弾んだ息遣いと、カウントの声が聞こえた。どうやら今日も彼の方が早起きだったらしい。
「998……999……1000」
キリのいいカウントを待ってやって、リビングへと入る。
頭に手を置いたスクワットの体勢から振り返って、私の顔を見るなり暑苦しいイギリス英語でこう言った。
「なんだ! そんなスイートな寝癖、見たことねーよ」
そんな馬鹿な。ちゃんと直してきたはず。
思わず頭を撫で付けた。そして眼鏡のブリッジを指で押し上げる。
そもそも、朝一番に人の顔を見てたらおはようぐらい言えないのかね。
「ボンジュール」
あくまでも冷静に。ペースを乱されては堪らない。
「俺をドキドキさせてどうするつもりだ?」
……ドキドキしているのなら、それはスクワットのせいじゃないのかい。
私は少し笑った。笑ったというよりは小さく息を吐いたようなものだ。
彼は私のそんな態度を意に介さない様子で、朝食を作ってくれると言う。
「『つぶつぶスイートコーンとチーズのパンケーキ』だぜ」
得意げに指を立ててはいるが。
「前回作ってくれたのは何だったかな……」
「前回?『ツナとオニオンのパンケーキ』?」
「ああ、そうだったね」
「パンケーキは嫌いかい?」
「嫌いではないよ。この間のも美味しかったとも」
そう、イギリス人の料理に期待はしちゃいないよ。
彼は腕捲りをしてキッチンに立つ。
では私はソファに座って、本の続きでも読んで、優雅に待たせて貰おうか。
ああ、またフォークで混ぜたりして……私には随分とがさつに見えるが、彼はそれが普通のようだ。
彼がそれでいいなら、特に注意する事もあるまい。
223風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 03:08:01 ID:Fwi27QQF0
春のやわらかな朝日の中でページを進めていくと、やがてバターのいい香りがしてきた。
そしてチーズの溶ける香りとソーセージの焼ける香り。急に空腹を意識させられる。
キッチンに目を向けると、鼻歌まじりに皿にピクルスを乗せている。
そろそろ出来上がるようだ。私は本を閉じた。
「できたぞ」
テーブルのセッティングは私も手伝おう。
そしていつものト口ピカ─ナ100%ジュース。彼はグレープ。私にはアップル。
彼は自分でなみなみと注いで飲んだ。喉が渇いていたらしい。
パンケーキをナイフとフォークで切り分けて、「うまそう」と彼は自分で言い、口に運んで満足そうに頷いて「コーンとチーズのスイートなサプライズ」などと得意げだ。
では、私も戴こう。
パンケーキにナイフを入れると溶けたチーズとスイートコーンがとろりと溢れて、私の食欲をそそった。
ふん。確かに美味しい。これはサプライズかもしれないな。
そう伝えて彼が嬉しそうにはにかむのを見て、私はアップルジュールを一口飲んだ。
「ねえ。今、君にキスしたらリンゴの味がするんだろうな」
……っ。
思わず噴きそうになる。優雅な朝になんて似合わない。
ずれてはいないが眼鏡のブリッジを指で押し上げて、彼の顔を見返す。
目が合うと、うっとりと笑みを浮かべてウインクまでしてくる……。
「ねえ、君。フランス人を口説きたいなら、もうちょっと凝った台詞を考えたらどうかな」
「ストレートな表現は嫌いかい?」
「……実は、そう嫌いではない」
重なった彼の唇は、甘いグレープの香りがした。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
224ドラマ紅将軍の凱旋 1/3:2010/04/14(水) 04:05:26 ID:GYIIHPkrO
白+紅と白→愚痴。白ヘタレ注意
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


僕にとって、早水は偶像であり理想でもあった。そう認めることに異論はない。口に出して言うことでもない。

医療現場から官庁へと立ち位置をシフトさせ、悪習の濃い行政を改革していくことに新たな理想を見出だした僕にとって、早水は遠い日の自分であり、もう一人の自分でもあった。
胸中に秘めた、最高の友人だった。
だからこそ――早水が理想を腐らせ、後戻りができないのであれば、引導は自分の手で渡すべきだと、そう思っていた。

正規の監査業務を終えても尚、「お泊りセット」を愚/痴外来に置いているのは、僕なりのグッ/チーへの甘えだった。
もう業務は終わったんでしょう、なんで居座るんですか。
そう、グッ/チーに問われれば、真の「監査」を告げることができる。以前の事件の時のように、共に真相究明に乗り出すことになる。
また、彼に救われ、彼をどん底にたたき落とすことに、なる。
それでも。
225ドラマ紅将軍の凱旋 2/3:2010/04/14(水) 04:06:23 ID:GYIIHPkrO
僕には分かっている。これは自分一人が抱えるべき問題だと。あのお人よしで、涙もろい、情に篤い不器用な神経内科医は、贈収賄の泥沼とは無縁なのだから。
それでも――否、だからこそ。

グッ/チーは、強い。
小動物じみた外観や、他人に親身になりすぎて流す涙に騙されそうになるが、精神構造は柔軟で、受容性に富む。
彼といる時、僕は安定する。アクセルしか積んでいない僕の、外付けブレーキでありニトロたる存在。足元を照らす確かな光。

だからこそ、過去、僕は飛べた。これからも、飛び続けられる。
だからこそ――巻き込むのだ。
甘えともSOSとも悟られない、傲慢さで。


お前は見付けられなかったのか、早水。
僕にとってのグッ/チーを。


なにもない屋上と、せき立てられるモニタだらけの司令室を思い浮かべ、僕は嘆息する。
飴玉の搭とドクターヘリの模型、海の底のような青い暗さ。それが早水の今であり、僕の過去の理想だとは、認めたくなかった。
哀しすぎる。
それがただの感傷や邪推だとしても。
226ドラマ紅将軍の凱旋 3/3:2010/04/14(水) 04:07:08 ID:GYIIHPkrO

愚/痴外来で主を待ち続けていたコーヒーカップを見ながら、僕は目を閉じた。
すべてが終わった後で、早水には告げておこうと決めた。
僕はあの日、お前一人に理想を負わせて逃げた、思い人になにもできない――ただの臆病者なのだ、と。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

初投下につき不細工陳謝。アーキンチョウシタ
227風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 12:53:38 ID:3p/u5xuT0
うざい
228風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 13:00:34 ID:QcCnHMy5O
>201
遅レスだけどGJ!!!

>吐露ピカーナな姉さん
あまりの甘さに激萌えた。
ちょっとコンビニいってくるわ
229風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 16:57:46 ID:aTy1a7Tw0
>>227
( ´∀`)<オマエモナー
230※ナマモノ注意!!『あなたの言いなり』1/4:2010/04/14(水) 19:56:06 ID:t+yR5r9n0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ※※生物注意!!! 音楽系
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  楽都×灰土(楽都の某発言より妄想)
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



『あなたの言いなり』

「うっわ、ほんまに来た!」
ロッジでストーブにあたっているところへ現れた、大きな影に向かって灰土は呆れたように叫ぶ。
辺りに他の客が居ないのが幸いだが、フロントにいる若い女性スタッフが小さく吹き出した。
その様子を視界の端に捉えて、楽都は、荷物を降ろしてごちる。
「はやくきて~って泣きながら電話してきたくせに・・・」
「泣いてへん泣いてへん! でもこんな早くくると思わんかった」
灰土の隣のソファにどっかりと腰を下ろして、帽子とサングラスを外す。
苦笑してため息をつくと、いかにも機嫌よさそうな笑顔の灰土が、楽都の跳ねた髪を直してくれた。
「がっちゃん、仕事は?」
「後回し。あんな声で電話してこられたらそれどころじゃないよ」
言いながら、怒っている風ではない。
そんな楽都の様子を見て、灰土はヨシ!と小さくガッツポーズをした。
231※ナマモノ注意!!『あなたの言いなり』2/4:2010/04/14(水) 19:57:44 ID:t+yR5r9n0
 もともと、最初から二人でくるはずだったのだ。
春スノボは国内でも空いてていいよ、と言ったのは楽都で、行きたいとねだったのは灰土だった。
もちろん、可愛い彼のおねだりに抵抗する理由はなく、楽都はさっそく旅の一から十までを手配した。
けれど、急な打ち合わせが入ったものだから、灰土だけ先に行かせたのだ。
そうしたら、今日の昼。
『がっちゃん、オレひとりで寒いよ、淋しいよ、早くきてよー』
打ち合わせ中に、そんな電話がかかってきて。
楽都は半ば強引に、というかほぼ強制的に打ち合わせを切り上げて、飛行機に飛び乗った。
で、息も絶え絶えに駆けつけてみたところ、呼びつけた本人から出たのは冒頭の一言、と言うわけだ。

「ごめんね。これ、飲む?」
灰土が差し出したのは、今まで自分が飲んでいた缶コーヒー。
受け取ろうとしたところで、彼は突然、すっくと立ち上がった。
「ごめん!飲みさしじゃ嫌やんな!?新しいの買ってくる!」
自販機に向かって走っていく灰土の後姿を、あっけに取られてしばし見送る。
わがままは言うくせに、なんでこんな小さなことには気を遣うのだろう。
それから、楽都は小さく笑って、置き去りにされた飲みさしのコーヒーに口をつけた。
232※ナマモノ注意!!『あなたの言いなり』3/4:2010/04/14(水) 19:58:30 ID:t+yR5r9n0
 ナイター終了までまだもう少しあるから、と、二人はゲレンデへ繰り出した。
あたりはもう、紫色の夕闇に包まれていて、どこか幻想的な雰囲気だ。
上級者用リフトで頂上まで登ると、見下ろす景色は、遠くに街の明かり、近くに白い雪が煌いて絶景だ。
「がっちゃーん?先いくで?」
「ん、ああ・・・」
するり、と滑り出す灰土の後姿に目を奪われる。
薄紫の空間を、小さな黒い影が滑っていく。
「かわいい・・・」
思わず心の声が漏れたことに、本人すら気づいていないのかもしれない。
雪を蹴って、楽都は、前をゆく人を追いかけた。

 雪原を駆ける兎のように、灰土は斜面を颯爽と滑っていく。
それを追いかけていると、狼にでもなったような気分だ。
可愛いくて、綺麗で、すばやくて、捕まえられない黒い兎。
後ろから飛び掛って、引き摺り倒して食べてしまいたい。
そんな、少し物騒な事を考えていると、愛しい黒兎がいきなりこちらを振り返った。
考えていたことがばれたような気がして、楽都は意味もなく手を振ってごまかす。
すると、灰土は、いきなりコースアウトして、林の中へ突っ込んでいった。
「ハイディ・・・?」
 慌てて自分も、後を追う。
程なくして、木々の間にたたずんで、遠くを眺める灰土を見つけた。
隣に並んで、ゴーグルを外す。
「どうしたの、灰土」
「がっちゃん、見て見て!」

233※ナマモノ注意!!『あなたの言いなり』4/4:2010/04/14(水) 19:59:16 ID:t+yR5r9n0
 心配そうな楽都とは対照的に、灰土はにこにこ笑って、指をさす。
その先を視線でたどってみると、そこには、山のふもとの夜景が、スパンコールを撒いたようにキラキラと光っていた。
楽都は思わず、その光景に魅入る。灰土は、首をそらせてそんな楽都を見上げた。
「綺麗やろ。昼間見たときも、ええ景色やなぁって思ってん。だから、夜に見たらもっと綺麗かと思って。・・・がっちゃんに見せたかってん」
急に名を呼ばれて視線を戻す。
一瞬、ぱっちりと目が合ったあと、灰土はうつむいてしまった。
「灰土、ありがとう」
「べつに・・・そんな・・・てか、その、こっちこそありがとう」
「何が?」
「オレが呼んだら・・・すぐ、来てくれた」
うつむいた灰土の表情が見えなくて、それが残念で。だから楽都は実力行使に出る事にした。
片手で細い肩を抱いて、もう片方の手で華奢な顎を掴んで、上を向かせる。
こちらを向いた灰土の、頬や目元が赤いのは、寒さのせいだろうか?
「だってオレ、灰土の言いなりだから」
「・・・そうなん?」
「うん。でも、たまには言われて無いこともするよ」
「言われて無いこと?」
灰土の理解が追いつく前に、視界が暗くなる。そして、唇にやわらかい感触。
反射的に目を閉じると、抱きすくめられて、キスが深くなった。
「・・・ん・・・っ」
少し息があがったところで、解放されて、急に唇が冷えた。
二人分の吐息が、白い霧のように流れている。
「言われなくても、灰土のしてほしいこと、解るから」
微笑みと共に告げられて、灰土は思わずニ三度、目をぱちくりさせてから。
楽都の広い胸板に、ぺったりと頬をつけた。
「・・・がっちゃんて、恥ずかしいやつー・・・」
「そうかもね」
満足そうな笑いを含んで肯定されて、灰土は小さくため息をつく。
言いなりになっているのはどっちなのだろうか、と、一瞬頭をよぎった疑問は、この際忘れる事にした。
____________
最後のレスに終わりAAが入れられなかったorz
すんませんでした。。。 
____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧  以上、楽都サンの発言より妄想デシタ。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
235風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 22:12:17 ID:p2Sn3dkC0
>>222
ブレンドもフランス系っぽいっから、りんごと通じ合うものありそう
グレープの出だし空気読めない感(スクワット)からまさかの展開に…!
マンゴーも歌があほの子っぽかったwww
236風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 22:48:56 ID:Te2E5oZW0
>>230
お。懐かしいエピソードね
237風と木の名無しさん:2010/04/14(水) 22:53:48 ID:t+yR5r9n0
>>236
>>230です。わ~、わかってくれる人がいてよかったです!
なんか久々に聞いたら、再燃しました。
238君がまってる 1/5:2010/04/15(木) 00:24:01 ID:3hUGrCJJ0
誰得な生モノ続き。
美知ーと猟犬D (猟犬D×G前提です)



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!





視線の先に見覚えのある後ろ姿をみつけた。
記憶よりも若干細くなっているけれど、ライオンのたてがみのような髪は変わっていない。
駆け足で近寄って声を掛けた。
「端元さん」
振り返ったその人は間違いではなかった。
「お、なんや。美ッ知ーやないか。元気か?」
豪快な笑顔で迎えられた。
初めて会った頃は怖そうな人だと思ったけれど、実際は気さくで面倒見のいい人で、
気軽に美ッ知ーと呼んでくれる。
弐市山さんは未だに美ッ知ーとは呼んでくれないのに。

239君がまってる 2/5:2010/04/15(木) 00:24:40 ID:3hUGrCJJ0

「忙しそうやなぁ、ドラマ見てるで。ええなぁ、あの役」
「あ、はい。おかげ様で……」
何気に弐市山さんと同じ端元さんの言葉に笑ってしまった。
「端元さんにもそう言って頂けて嬉しいです」
わざと引っかかるような言葉を選んで言った。
「ん……にも?」
予想通りに端元さんはその言葉に引っかかってくれた。
勢いでしたとはいえ、相手のいる人にキスして、その相手も知ってる人っていうのは後味悪い。
何とかさらっと伝えられないかと思った。事後承諾とも言うかな。
「ええ、弐市山さんにも同じことを……」
「……タケシに、最近会ったんか」
「昨日マザーで。レコーディングに来ていただいたんです」
マザーという言葉を聞いて、端元さんの顔が一瞬固まったようだった。無理もない。
「ドラマの撮影もやって、レコーディングもかい。そら忙しいなぁ」
「撮影も毎日じゃないですから」
「あ~……。タケシ、元気そうやった?」
ちょっと聞き辛そうな顔をしている端元さんを見るのは初めてかもしれない。
「レコーディング中は順調でしたよ」
「そうか……」
安心したような顔。でも、実際に感じたことを言ったらどう思うだろう。
「でも……やっぱり複雑だったと思います」
他のスタジオでのレコーディングなら良かったかもしれない。
けれど、ドラマの撮影の合間をぬってレコーディングをしている都合もある。
240君がまってる 3/5:2010/04/15(木) 00:25:18 ID:3hUGrCJJ0

「弐市山さんを苦しめるつもりはなかったんですが、どうしてもあの曲は弐市山さんがよかったんです。
実際に凄く良かったんですよ」
「美ッ知ーが気にすることやないで。あれは俺らの問題なんや。それにタケシが気にし過ぎてるんや」
困ったもんやと笑って言うけれど、そんなところも好きなんだってことがよくわかる。
「ずっと弐市山さんが笑ってくれないんで、驚かそうとキスしたんですけど……。失敗しちゃいました」
「キスしたあ?」
「はい。でもオトコからのキスは端元さんで慣れてるから驚かないって言われて」
「そんなこともしたなぁ」
「それから笑ってくれたんですよ、弐市山さん。猟犬の思い出話で……」
「……そうか」
「はい」
「ありがとな。美ッ知ー」
そう言って端元さんは頭を撫でてくれた。何がどうありがとうなのか分からないけれど。
「ところで」
頭を撫でていた手は、急にがっしりと頭蓋骨を掴んだ。
「タケシとキスしてから、他の誰かとキスしたか?」
「え? してませんけど……」
質問の意味が分からない。
「そんならタケシとキスしてた時間はどれくらいや? あと、唇だけか?」
顔を近づけて、立て続けに質問をする端元さんは昔のイメージの怖いお兄さんになっていた。
「えっと……そんなに長くはしてません。あと……舌はちょこっと入れました……」
目は合わせないで、正直に話した。
「美ッ知ーが手を出すと思わんかったから忠告せんかったけどな。俺の許可なくタケシに手を出すんやないで」
そう言うと端元さんの手は頭の上から顎へと滑り下りてきた。
241君がまってる 4/5:2010/04/15(木) 00:26:05 ID:3hUGrCJJ0

これもデジャヴュというのかな?
昨日自分が弐市山さんにしたように、端元さんにキスされていた。何で?
「これが他の男やったら、ボコボコにしたるとこやけどなぁ。美ッ知ーはドラマあるしな」
だからってキスするか~普通? ってそう言えばこの人はキス魔だった。弐市山さん限定なはずだけど。
……っていうか。
「予め許可を得たらキスしてもいいんですかっ?」
ドラマの缶戸よろしく手を挙げて聞いてみた。
「タケシを傷付ける心配のない奴なら……」
「キス以上も?」
「それはあいつ自身が許さへんから」
そう言って端元さんはにやりと笑う。よほどの自信があるのか信頼しきっているのか。

「そんなに大事な人なのに、なんで一緒にやらないんですか?」
「元々目指す方向は違ってたからなぁ……」
確かに。弐市山さんは猟犬に居たころから、自分のやりたい音楽とは違うと公言していた。
そして猟犬のファンもいつか脱退してしまうだろうと心配していたらしい。だけど実際は違った。
詳しい内情は知らないけれど、マザーをやめてまで猟犬についていった。
「俺もタケシも、俺らが戻る場所は猟犬やと思ってるから」
胸がちくりと痛む。戻りたいのに戻れない。今を一緒にやってもそれは別のもの。
「僕も、また皆さんが一緒にやってるところ見たいです」
「見るだけでええんか?」
「ゲストに呼んでもらえます? そしたら正装で行きますよ、また」
「タケシが大じじいになる前にまたマザーの王子共演を果たさないとなあ」
端元さんにとっての王子は弐市山さんで、それが永遠に変わらないことは周知の事実だ。
初めて会った時にもそう宣言されているし。一応僕も王子って認めてくれてるのかな。

242君がまってる 5/5:2010/04/15(木) 00:27:02 ID:3hUGrCJJ0


「では……」と会釈をして端元さんに別れを告げて、お互いに自分の目的地へと向かい歩き出した。
2・3歩進んだところで、ふと足を止めた。
……昨日、弐市山さんとキスをして。今日、端元さんとキスをした。弐市山さんと端元さんは…………。
「うぅん……。 これってどんなプレイなの?」
僕を介しての関節キスってやつ?
「人のモノを奪うシュミはないけど、最初から相手にされてないのも悔しいなぁ」
ひとりごちて、僕はまた歩き始めた。





□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!



熟年カポの間接キッスプレイの間接にしちゃってごめんね、美知ー
長年萌えていたカポをこんな形で書くことになるとは思わなかったYO!

Gにキスしたのがバレて、Dにキスされる美知ーを妄想しかけて会う機会ないなと
諦めたのに、レコーディング翌日にDに偶然会っていたと知った……美知ー恐ろしい子w

243歪み 1/9:2010/04/15(木) 01:59:10 ID:KzQGjoXhO
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの飛来×武智(白)。本編にグルグルしすぎてムショーにエロが書きたくなった。
すいません、ドン暗いです。


夜半も過ぎた頃となると、藩邸内は深い眠りの淵に沈み込んでいるようだった。
すべてが寝静まり、物音一つしない廊下を月明かりだけを頼りに収次郎は進む。
目指す先は武智の部屋だった。
事の発端は昼の内にあった。
皆が集まった所で出た世間話。それは昨今、京の町で続く天誅の騒ぎ。
根底には根深い政治情勢が絡んでいながらも、かまびすしい京の町衆達にとっては
そんな事はどうでもよいのだろう。ただやんやと囃し立てる。
そしてそれに乗じる仲間達の中でも、しかしあの時自分は共に乗る事が出来なかった。
それは数日前に見ていたから。
花街で設けた酒席の中、武智がひそりと口にした名前と、それを聞き姿を消した一人の男の…
伊蔵の背中。
その前にも予兆はあった。
武智が怪訝を口にした、その翌日に消された浪人者。
まさかとは思った。けれど打ち消しようも無かった。
だからもはや居ても立ってもおられず、武智の後を追いかけた。そして二人だけになった場所で、
問おうとしてしかし問いきれず、
244歪み 2/9:2010/04/15(木) 02:02:03 ID:KzQGjoXhO
廊下の角を曲がり、顔を上げる。
そして見やった先の部屋には、もはや明かりは付いていなかった。
今宵と言われつつも踏ん切りがつかず、手元の仕事を片づけている内に遅くなってしまった。
寝てしまったのなら今日は戻った方がいいのかと、思いつつも一度だけと収次郎は辿りついた
部屋の前、膝をついて声をかける。
「先生。収次郎ですが、もうお休みになられちょりますか?」
障子戸越し、返事は無かった。
ならば仕方がないと立ち去ろうとする、しかしその瞬間何やら胸にざわつく不安がよぎった。だから、
言うと同時に戸に手を掛け、引く。
はたして部屋の中にこの時、武智の姿は無かった。
代わり、あったのは上掛けのめくられた一組の布団だけ。
思わず部屋の中に足を踏み入れ、その布団の上に手を置く。
触れた布は秋の夜気に冷え、長く人のいた気配を感じさせなかった。
胸の不安が一気に増大した。だから、
「先生っ」
もう一度短く叫ぶと同時に、収次郎は消えた武智の姿を求め部屋を飛び出していた。


大きな声を上げる事は出来なかった。
それどころか足音さえ忍ばせて、収次郎は藩邸内を巡る。
人を呼ぼうと言う考えは無かった。そうしてはいけないと何かが本能に告げていた。
御用部屋、応接の間、果ては風呂場までのぞき、しかしそのどこにも姿は見当たらない。
まさか外に出たのかと、昨今の京の町の物騒さを思い血の気が引きかけるが、なんとか冷静さを
努めて思考を働かせる。
この異様さ、正面から外に出るとは到底思えない。ならば裏口か。
踵が返される。向かったのは勝手口だった。
下働きの者や商人達が出入りするそこは屋敷内の端に位置していた。
幾つもの角を曲がり、戸板を引く。
格子越しに月の光だけが差し込む蒼い闇に沈んだ台所。
土間へと降りる階段状の板の間にその人は、いた。
245歪み 3/9:2010/04/15(木) 02:04:22 ID:KzQGjoXhO
白い夜着姿だった。羽織一枚羽織らぬその寒々しい背が、冷たい板の上にぺたりと座り込んでいる。
「先生?!」
思わず叫ぶような声が出る。しかしそれにもその背が動く気配は無かった。
ただひたすらに闇の一点を見据え、こちらを振り返ろうともしない。
その異様な雰囲気には、驚きより先に恐ろしさが立った。けれど、
「……先生…何しちゅうがですか、先生っ…」
懸命に声を振り絞る。足を踏み出し、立つその背後。
それでも武智がこちらを見ようとしないのがわかればその膝は崩れ、収次郎は堪らず腕を伸ばし
目の前の体を後ろから強く抱き締めていた。
引き寄せた、その肩は冷たかった。
いったいどれくらいの長い間、一人ここにいたのか。
思えば腕の力が更にこもる。それはいっそ痛い程に。
だからだろうか。
「……苦しい…」
ようやくに聞こえた声。それにはっと視線を上げれば、そこにはどこか不思議そうにこちらを
振り返ってくる武智の目があった。
「どういたがじゃ?」
密やかに呟かれる、その言葉は自分のものだと思う。だから、
「先生こそ、どういて……」
責める言葉が、しかし最後まで続かない。するとそれに武智はもう一度視線を前方に戻すと、ぽつりと
言葉を落としてきた。
「来ぬなと…思うて…」
「えっ?」
意味がわからず思わず聞き直してしまう。しかしそんな収次郎を気にかける様子なく、武智の呟きは
流れ続けてゆく。
「仕方がないの。切ったのはわしの方じゃき。あれとわしでは考え方が違う。言葉にはせんでも
あれはあの笑顔でいつもわしを拒絶する。それにわしはもう……どういたらええかわからんくなって
しもうたがじゃ。」
「…先生……」
「言葉では何も通じん。目ももう合わん。なら…もう終わりにしなければならんきに、あれは
忘れられたと思うた頃にひょっこりと現れる。酷い奴じゃ。せやきにわしは……」
246歪み 4/9:2010/04/15(木) 02:06:40 ID:KzQGjoXhO
視線が上がるのがわかった。その瞳が闇を見続けているのがわかった。
そして言葉が繰り返される。
「来ぬな……」
どこか遠く寂しげに響く、その言葉の意味はほとんどわからなかった。
もしかしたらわかるかもしれない部分はあったのかもしれないが、それでも収次郎はあえて
わかりたくないと思った。
ただ、今のままでは駄目だという警鐘だけは頭の中で鳴り響く。
脳裏によぎる昼間の記憶。
傲然と笑み、こちらを見つめてきた光のない黒い瞳。
それと瞳の闇はまったく同じなのに、今目の前にいる人はまるで別人のように脆く儚げで。
夜着越しでさえわかる肌の冷たさが、自分の心を追いつめる。だから、
「戻りましょう。」
ここにいてはいけないと、収次郎はこの時抱き留めていた腕をゆっくりと解くと武智に告げた。
それに武智は無言の視線を向けてくる。
是とも非とも言わない。それが焦りに拍車をかける。
なんとしてもこの場から離れねば。だから迫る言葉が口を突いた。
「わしが負うてゆきますきに。」
「……負う?」
「ええ。」
反応があった事を幸いのきっかけとして、収次郎はこの時素早く座る武智に背を向ける。
しばし、声は無かった。
拒絶されるか、無視されるか。賭けのような時をそれでも収次郎は耐える。
長くも短い、気の遠くなるような……そんな時間の代償は、首筋に回った腕の感触だった。
ふわりと袖ごと巻きつけられる二の腕。そして背中に重なってくる冷たさ。
こうなっても武智からの声は無い。
それでもこの時収次郎は構わないと思った。
ただ預けられた身の重さが泣きたいほどに切なかった。
247歪み 5/9:2010/04/15(木) 02:08:17 ID:KzQGjoXhO
二人無言で廊下を渡り、辿りついた部屋の布団の上に武智を下ろすと、収次郎は最初に上掛けを
その足元に寄せた。
そして手を取る。
「冷えちょりますね。湯を持ってきますきに、それまでは布団の中であったまっておいてつかぁさい。」
近くにあった羽織も引き寄せ、その肩に覆わせると、立ち上がろうとする。
しかしそれは不意に引かれた袖のせいでままならなくなった。
「先生?」
視線をやれば、そこには引くだけでない、袖ごと自分の腕に絡みついてくる武智の姿があった。
伏せがちの黒い瞳がゆらゆらと揺れている。そして、
「……も…いくがか…」
小さく呟かれた声。聞き取れずえっ?とその身を下ろし、収次郎が向き合えば、それに武智は
視線の先、くっと眉根をしかめもう一度言った。
「おまんも……行くがか…」
声が、腕が、震えていた。
ギリギリに張りつめながら、それでいてほんの些細な事で一気に瓦解してしまいそうな、
そんな不安定な心の内が触れる肌の感触から伝わってくる。
それに収次郎は痛ましさと共にこの時、どうしようにもない憤りを感じずにはいられなかった。
別人のような。ひずみ。
いったい何がこの人をここまで追い詰め、誰が……この人をここまで壊してしまったのか。
自分の預かり知らぬ所で起きただろう事に悔いと嫉妬を感じながら、それでも収次郎はこの時、
その怒りを胸の内だけに必死に収める。そして、
「どこにも行きません。」
絡みついてくる武智の体を抱き寄せながら、その耳元静かな囁きを告げた。
「せやきに、わしが温めてもええですろうか。」
顔が上がる。視線が絡む。
そこにやはり声は無かったが、もう答えは待てなかった。
248歪み 6/9:2010/04/15(木) 02:10:53 ID:KzQGjoXhO
着物を脱ぎ、引き寄せた行灯用の油を指に絡ませ、もつれ込んだ布団の中で裾を託し上げるように
下肢を探れば、それに武智はその時、反射的に背を反らしながらも逃げる事はなかった。
どころか、抱き締められる肩先で押し殺される息と縋ってくる震える指先。
胸元、喉、そして頬に這い上がったそれがなぞるように唇に触れてこれば、その冷たさを拭おうと
収次郎はその一つを口に含んだ。熱を与えるように舌を絡める。
爪から関節、そして付け根までを舌先でくすぐる。と、瞬間それに武智は感じ入ったような吐息を洩らしてきた。
それは今まで収次郎が見た事のない武智の表情だった。
これまでも肌を合わせた事は幾度かある。
無理矢理でも合意でも、その体はどこか慣れている事が察せられた、けれど行為自体はひどく
厭うような強張りをいつも初めに見せていた。
しかしその戸惑いが今は……ない。
あるのは、慣らす指を受け入れ、立てる水音と交わす吐息に聴覚を刺激されたように、自分を
見上げてくるどろりと重く甘い闇を秘めた瞳。
不意に口元からそっと指が引き抜かれた。自分の唾液を絡めたそれが、ゆっくりと下ろされてゆく。刹那、
「…先生っ」
思わず呼ぶ声が口をついた。それは武智の指が自分の下肢の熱に絡んできたからだった。
それまでの抱擁ですでに昂ぶっていた男の欲を、武智はこの時柔く握り込んでくる。そして、
「…ええから…」
落とされた呟き。
「優しゅうしてくれんで…ええから…」
「……せん…せ…い…」
「お願いやき…もう全部…壊いてくれ……」
願うそれは体なのか、それともまた違う何かなのか。
力無く茫洋と、それでも切実に何かの終わりを乞う武智の声に、収次郎は瞬間胸に刺すような痛みを覚える。
大事に、大切にしたいのに、それを許してくれないこの人が憎かった。
それでもそんな事を求めなければならない程、何かに追い詰められているこの人がたまらなく憐れで
愛しかった。だから、
「力、抜いておいてつかぁさい。」
告げると同時に収次郎は絡めていた腕を解くと、武智の体をうつ伏せに返す。
武智の顔を見る事が出来なかった。
そして何より、愛憎に塗れた自分の醜い顔を武智に見られたくないと思った。
249歪み 7/9:2010/04/15(木) 02:13:34 ID:KzQGjoXhO
重い闇が堕ちている。遠く聞こえるのは虫の音か。
濁流に押し流されるような情事の果てに訪れた静寂の中、身を起こす収次郎が落とした視線の先に
あったのは、こと切れたように眠る武智の青白い横顔だった。
優しさを拒まれたあれから、自分は武智を手酷く抱いた。
体を伏せさせ、腰だけを高く抱え持ち、なんの技巧も無く後ろから貫けば、それに武智の背は
強張りを帯びて震えた。
上げられる悲鳴からは耳を塞いだ。
ただ望まれたまま、その身を苛もうとする。
それでも、そんな武智の体が腕の中で溶け始めるのにかかる時間は、記憶のものよりも遥かに
短かかった。
押さえつける肌が徐々に淡い朱に染まりだす。
切れ切れに零される悲鳴にはいつしか縋るような艶が交じり、欲をのみ込む粘膜はおそらくは
本人の意識の外で熱くうねり、男を奥へと誘った。
明らかに男に弄ばれた痕跡を匂わせる媚態。
そしてそれがけして自分の手によるものではない事がわかる分、与えられる快楽が深ければ深いほど
自分の砂を噛むような嫉妬はそのまま荒い愛撫となった。
胸元に滑り込ませた手で両の尖りを捏ね、深く身を折り、さらされたうなじに歯を立てる。
途端、きつくなる下肢の締め付けをも突き崩すように腰の穿ちを早めれば、それに武智は無慈悲に
揺さぶられながら啼いた。
淫らがましくも憐れな肢体が、己の為すがままに追い詰められていく。
悶え、狂いながら……果て堕ちる。
途端、崩れるように力の抜けた武智の体を、しかしあの時自分は許さなかった。
前のめりに倒れかけるその腹に腕を回し、身を起こした自分の膝の上に座らせるように引き寄せる。
解かれぬままだった繋がりが自重でまたも深くなり、武智は刹那、呻くような声を上げたが、
自分はそれを聞いてはやれなかった。ただ、
「まだです……」
小さく、それでも強く囁きをその耳元近くに落としてやる。
すると武智はあの時、それ以上の抗いは見せなかった。
その後は、律動、嬌声、どこまでが自分かわからなくなるほどの溶けあう情交。
永久にも思える甘くも苦い共の責苦は、長く武智が気を失うまで続けられた。
250歪み 8/9:2010/04/15(木) 02:15:45 ID:KzQGjoXhO
伸びた指先が、武智のこめかみに落ちるほつれ毛をはらう。
消耗しきる事でようやく訪れた眠り。
それを妨げるつもりはなかったが、その微かな感触にこの時、不意に武智の瞼が微かな震えを帯びた。
うっすらと開く、その奥に黒い瞳がのぞく。
そこに光は無かった。
だからそれに収次郎は瞬間、冷たい緊張を背筋に走らせる。
目の覚めたこの人は、また別の人になってしまっているのではないかと思った。けれど、
そんな自分の恐れはこの時、微かに動いた唇から零された小さな呟きの前に霧散した。
「………ん…」
それは渇き、掠れた声だった。
「…すま…ん……しゅう…じろう…」
それきり―――だった。
薄く開いていた瞳が再び力尽きたように落ち、辺りに静寂が戻る。
またしても一人、闇の中に取り残される。
けれど収次郎はこの時、そんな武智を眼下に見つめたまま、しばし動く事が出来なかった。
脳裏に反響する声がある。
それは確かに自分の名を呼んだ。
この夜初めて、自分の名を呼んでいた。
だからそれに、わかっていたのかと……ちゃんと、わかっていたのかと。
思い出す、虚空を見つめ、何も映していなかった瞳。
言葉を交わしても肌に触れても、どこか遠かったその人は、縋り抱かれた相手すら誰だか理解を
していないようで。そんな鈍い痛みに苛まれ続けていた心が今、ただ一つの名に救われる。
選ばれていたのだと熱を持つ。

『おまんで、ええか』

たとえそれが、どれほど都合のいいものであったとしてもだ。だから、
251歪み 9/9:2010/04/15(木) 02:17:37 ID:KzQGjoXhO
「側におります。先生の…望まれるままに。」
無意識に溢れ出た、その言葉は決意だった。
それはどんな形でも。支える為でも、温もりを与える為でも……壊す為に、抱く為であっても。
ただ……
「だから……少しだけ、許してつかぁさい。」
腕が伸びた。
眠る武智の背を包み込むように抱き寄せながら、収次郎はこの時その隣りに静かに身を添わせてゆく。
夜は深く、闇は暗く、夜明けはまだ遠い。
だからそれまでの間しばし、と願う。それは、

優しく抱かせてつかぁさい―――

ただ……それだけの事だった。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナガーイ鬱話。読んでいただいてありがとうございました。

252風と木の名無しさん:2010/04/15(木) 11:58:15 ID:Ja4Lj50v0
>>243
痛々しくもきゅんきゅんしました
子供のような、でも色っぽい不思議な人ですよね先生
253拒食(1/3):2010/04/15(木) 17:31:14 ID:KGEEnetx0
映画のホ.ー.ム.ズに触発されて、なぜか「倫敦魔魍街」のホ.ー.ム.ズとワ.ト.ソ.ン
ホムワト気味。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「ワ.ト.ソ.ンさんたらまた残して…」
 頬に手を当てて困ったようにテーブルを見下ろす婦人。
「どうしたんです、ハ.ド.ソ.ンさん」
 いい月だった、とご機嫌で帰ってきた男が、そんな様子の家主の母親に気づき。
「あら、ホ.ー.ム.ズさん、帰っていらしたんですの?」
 早かったんですのね、と笑いかける婦人への挨拶は忘れずに返して、テーブルへと近寄る。
 浅黒い肌に金色の瞳、そして何よりとがった耳が、彼が"ヒト"ではないことを示している。ヒトとオオカミの中間の存在、人狼であると。
 今は収められているが尻尾を生やしていたり、犬耳を頭にくっつけた姿を、さらには金の目をした巨大なオオカミに変わる姿を見れば、大抵の人間は恐れをなす。
「ワ.ト.ソ.ンさん、またお食事を残されたんですよ。お口に合わないのかしら…」
 かくいう彼女も、厳密に言えばヒトではない。かつてヒトであった、と言うべきだろう。
 すでに寿命を終えて数十年、若々しい外見そのままにこの下宿を切り盛りしている。
 いかにも心配だという顔の、一見ごく普通の人間に過ぎない彼女に目を向けてみればなるほど、テーブルの上にはほとんど手をつけられていない料理の数々。
 もったいない事をするなぁと呟きながらホ.ー.ム.ズは、食欲旺盛な彼用にと分厚く切って焼いてあるローストビーフをひょいとつまみ上げて口に放り込んだ。
「大丈夫ですよ、ハ.ド.ソ.ンさん。たまにあることです」
 言うと彼女は首をかしげて言った。
「でもホ.ー.ム.ズさん。お行儀悪いですわよ?」
254拒食(2/3):2010/04/15(木) 17:33:23 ID:KGEEnetx0


「入るぞ」
 部屋の住人が許可する前にドアを開ける。
「…っと、寝てるのか」
 ベッドに散らばる長い黒髪に気付いて声を落とした。
 ホ.ー.ム.ズとは対照的に青白い肌、今は隠されているが緑の瞳ととがった牙、そして同じくヒトでない印でもあるとがった耳。
 ノスフェラトゥと呼ばれ、人々から恐れられるそれは、苦しげに眉を寄せたままシーツの中に埋もれていた。
 ホ.ー.ム.ズは、ため息をついて相棒の寝顔を見つめた。
「…まったく、無茶をする」
 ため息ではあるが厄介ごとだと疎んじている風はなく。ただ彼の気性にいささかの苦笑と共感を感じずにはいられないだけで。
 今度は何が原因だろうか。
 彼は、ヴァンパイアである。しかしながら人間であった母親の血がそうさせるのか、はたまた彼女から受け継いだ豊か過ぎるほどの感受性ゆえにか、吸血しようとしない。
 どんなことがあっても、たとえそのまま己が死ぬ羽目になっても、(もともと死んでいるのだが)ヒトからの吸血を望まない。だが彼の本能は、鮮血を欲し続け、その欲求と常に戦っている。
 まったく、なんの因果だか、とホ.ー.ム.ズはベッドのふちに腰を下ろした。
 吸血を望まないがゆえに、"貧血"で倒れてしまうこともしばしばだが、食事を拒むほどのことはそうめったにない。
 彼は生きること―存在すること―を拒否するかのように、時折、すべての欲求から遠ざかろうとする。
 ヴァンパイアである彼は、ウェアウルフであるホ.ー.ム.ズに比べ、食事量もほんのわずかしか必要としない。本来吸血で必要なものを、食事で代用させているが、それも植物しか食べないのでは、代用の意味もなさない。
 ホ.ー.ム.ズはそっとワ.ト.ソ.ンの額に手を置いた。
「本当に…意地っ張りだな」
 困ったように苦笑する顔は可愛い弟を見ているようでもあり。す、と手を引くと、つややかな黒髪がさらりと下に落ちた。
255拒食(3/3):2010/04/15(木) 17:34:17 ID:KGEEnetx0

 もうひとつ、ため息をつくと、ホ.ー.ム.ズは自身の右手の人差し指に、爪を立てた。肉食獣のそれは、本人の意思にしたがって簡単に皮膚を裂く。つぅ、と盛り上がる赤い血液の玉を見つめて、ホ.ー.ム.ズはそっとワ.ト.ソ.ンの口元へ、指を運んだ。
 きゅっと閉じられた唇を指先でこじ開け、舌を探る。暖かいものに触れると、それに血を塗りつけるように、口内をかき回した。
「…ぅ……ふ…」
 ワ.ト.ソ.ンの口から息が漏れる。と思った瞬間、噛み付かれた。
「っ…」
 急いで指を引き抜き、今度は腕に爪を立てて血をにじませ、口元に持っていってやる。
 ヴァンパイアとしての本能に目覚めたワ.ト.ソ.ンは、己が衝動のまま、ホ.ー.ム.ズの腕に噛み付いた。鋭い牙を突きたて、血を吸い上げる。人狼の血を。
 痛みにいささか眉をしかめつつ、ホ.ー.ム.ズは明後日のほうを向いた。ワ.ト.ソ.ンは、吸血する姿を見られることを、極度に嫌っている。それが例え生まれたときからそばにいるホ.ー.ム.ズであっても、いや、だからこそ許せない、らしい。
 そんな彼の心情が理解できるだけに、苦いものが胸をよぎる。
 満足したのか、ワ.ト.ソ.ンの頭が、ホ.ー.ム.ズの腕から離れた。そのままぽすんと枕に頭をうずめ、すやすやと寝息を立て始める。先ほどとは比べ物にならないくらい、穏やかな寝顔。
「まったく…」
 苦笑して、血の滲む、というよりもだらだらと流れ出す腕の噛み跡に目を落とし、ぺろりと舐めた。
「あんまり心配かけるなよ」
 わずかに目を細めて、小さく呟いた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
人狼×吸血鬼に萌えます。
256風と木の名無しさん:2010/04/15(木) 19:21:25 ID:kirpNwulO
>>253
まさかここで魔魍街が読めるとは…
ありがとう。萌えた。
257風と木の名無しさん:2010/04/15(木) 21:14:08 ID:ix15wGHz0
>>253
なつい……! GJ。
あの人外達は液体生物in義理の弟も含めてえらいことになってた気がする。
258Are you cry? 1/3:2010/04/15(木) 21:29:41 ID:309ENoNlO
半ナマ
ターミネーター2のT-800×ジョン


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



 いままでポツリポツリと言葉を紡いでいたジョンが、急に黙り込んだので、"ボブおじさん"は「不思議そうな」とでも形容できる顔を向けた。
 トラックの下に潜り込んで作業をしているので身体ごと向けることは出来ないが、彼の機械仕掛けの頭脳はその必要はないと告げていた。
 作業を続けながら、首だけ横を向けてT-800は訊ねた。
「どうかしたのか」
 そこにあるはずのない気遣わしげな色を読み取って、ジョンは力なく笑った。
「なんでもない」
 ただ、ちょっとだけ不思議な気分だった。
 それは言葉では言い表せない気持ち。
 目の前のターミネーターから視線を外して、ジョンは彼の手元に目をやった。
「僕のパパは未来から来て、」
 少年は歌うようにつぶやいた。
「僕のママは指名手配されてる犯罪者」
 言いながら声をかけられる前にスパナを手渡す。
「そして僕は人類の最後の希望。未来のリーダー」
 少年は微笑んでいるのに。ターミネーターは少年がまた涙を流すのではないかと思った。
 人間がなぜ泣くのかはまだよくわからなかったが、わずかな経験で知覚したパターンに似ているような気がした。
 けれど少年は泣かなかった。ただほんの微かに笑っただけだった。
「泣かないのか?」
 だから素直に訊ねた。
259Are you cry? 2/3:2010/04/15(木) 21:30:52 ID:309ENoNlO

 ジョンは弾かれたように顔をあげ、驚いた顔でT-800を見つめた。
「……君は未来から来たサイボーグ」
 そう言葉を続けて、じっと相手の顔を眺めた。
 ターミネーターも、ハシバミ色の淡い瞳を見つめ返した。
「…そうだ」
 なにか言わなければいけない気がして、同意を示した。
 答えに、ジョンはまた微笑んだ。
「どうしてそう思ったの?」
「…?」
「僕が泣くと思った?」
「違うのか?」
 問いかけの繰り返しに、ジョンはまいったなぁと笑った。
「君はやっぱり人間に見えるけど、サイボーグなんだね」
 その言葉の意味を定義することは難しかった。
 けれど言葉以外の部分で了解できたような気がした。
「普通の人間だったらって思うことがよくあったよ」
 唐突に、少年はつぶやいた。
 文脈も脈絡もない言葉についていけないサイボーグは、とりあえず続きを待った。
「ごく普通の10歳の子どもでさ。みんなと同じように学校へ行って、放課後は馬鹿みたいに遊んで。世界の終わりのことも、犯罪者で精神病院にいるママの事なんかも考えないで」
 少年は少しだけ遠い目をした。
 その表情の意味を、T-800は正確に窺い知ることは出来なかった。
 またわからないものが増えた。ターミネーターは思った。
 ジョンに関して理解の出来ないことは増えるばかりだった。
 今の表情もそうだ。
260Are you cry? 3/3:2010/04/15(木) 21:32:29 ID:309ENoNlO

 相槌のないことにも慣れてしまったジョンは、目の前の男には構わず話を続けた。
「でもそれじゃ僕は僕じゃないんだ。パパはどこにでもいる普通の人間で。ママだってちょっと口やかましいけど戦争のことなんてこれっぽっちも考えていなくってさ」
 少年が、少し口篭もった。
「…"普通"がよかったのか?」
 感情の篭らないはずのサイボーグの言葉が妙に温かくて、ジョンは無性に泣きたくなった。
「……そうだね。"普通"なら、こんな目にあわなくてもいい。なんにも知らないで生きていける。きっとどんなに楽だろうね。でも……僕は僕だから」
 そう微笑む少年は、幼いながらも確かに人類のリーダーたるにふさわしい風格と自信を覗かせていた。
「それに…"普通"だったら、君に逢えない」
 ハイ、とスパナを受け取り、もう片手でレンチを差し出しながらジョンは言った。
「君に逢えて、よかったと思っている。だから、"今"のほうがいい」
 なんと答えるべきかしばし迷って、"ボブおじさん"は言った。
「私も、君に逢えてよかった、と思う」
 戸惑いがちに告げられた言葉に、ジョンの顔が驚きに染まり、そして満面の喜色に変わった。
「うん、ありがとう」
「なぜ礼を言う?」
 不思議そうな顔で、サイボーグが訊ねた。
「…嬉しいから、かな」
「……そうか」
 そこで、トラックの下での会話は終わりを告げた。
 二人は黙り込み、黙々と作業に励んだ。
 けれど無言の空間は、ほのかな柔らかさを漂わせていた。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
T-800←ジョンは鉄板だと思います
261風と木の名無しさん:2010/04/15(木) 22:31:32 ID:EiJwsH1AO
>>258
GJ
スレ見て渇望してたところだったんだ
美少年と武骨サイボーグって映えるなあ
262見上げてごらん夜の星を(1/3):2010/04/16(金) 00:14:42 ID:s2So6Bpn0
|>PLAY ピッ ◇⊂(;∀; )ウシミガンバッタナア…
内容がタイムリーなうえ不謹慎なので注意!
生きていれば昨日誕生日だったコーチと、某監督の話です。
ちなみに元ネタは、今日発売の週刊ブンシューの4コマ漫画。


真夜中、ふいに鳴ったチャイムの音に目を覚まし、玄関のドアを開けた私は驚愕した。
そこには、先日、我々の前から突然姿を消したはずの人物が、ユニフォームを着て立っていたからだった。

「監督、このたびはご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
彼はただでさえ小柄な身体を、さらに縮こまらせるようにしてぺこりと頭を下げた。
「・・・そ、そうだぞ!みんなしてワンワン泣いて、大変だったんだからな!
ほら、こんなところにいたら寒いだろ。とりあえず家に入れ。」
そう言いながら彼の肩に手をかけたが、その身体はギョッとするほど冷たくなっており、私は改めて、彼が既にこの世の人ではないのだということを思い知らされた。
「すみません、僕はもう行かなくちゃいけないんです。これ、あとで読んでください。」
彼は呆然と突っ立ったままの私の手に、手紙らしきものが入っている白い封筒を押しつけると、
「それでは、失礼します。」と言うやいなや、夜霧のようにさぁっと、その姿を消してしまった。
263見上げてごらん夜の星を(2/3):2010/04/16(金) 00:16:11 ID:s2So6Bpn0
一人残された私は、手元にある封筒の口を破り、中身を取り出した。
真っ白な便箋に黒いインクで書かれたそれは、彼の生真面目な性格をそのまま表したかのような、
ごく丁寧な文字で綴られていた。

「このような形で監督にお手紙を差し上げることとなってしまい、大変残念です。

監督がセカンドで僕の名前を叫ぶ声を聞いて、久しぶりに大泣きしてしまいました。
できることなら今すぐにでも、皆さんの元に帰って、また一緒に野球がしたい。
しかし、今の僕には、もはや生身の身体すらありません。
あるのは、死してなお野球を愛している、この魂だけです。

若手に出番を奪われていた僕を必要としてくれて、もう一花咲かせてくれた監督に、
十分な恩返しもできぬままになってしまい、本当に申し訳ないと思っています。
どんなときも勝利を目指して、一緒に戦ってきた仲間達を、よろしくお願いします。
コーチとしてひよっ子だった僕に、笑顔で教えを乞うてくれた若い奴らを、よろしくお願いします。
監督に『二人で一つ』と言われていたのに、突然一人ぼっちになってしまった僕の友達を、よろしくお願いします。
そして、僕の大好きな奥さんと、可愛い3人の子ども達を、どうか、どうか、よろしくお願いします。
264見上げてごらん夜の星を(3/3):2010/04/16(金) 00:17:43 ID:s2So6Bpn0
最後にもう一つだけ、監督とみんなに、伝えたいことがあります。
もし僕に会いたくなったら、空を見上げてみてください。
きっと、どこかに僕がいるはずです。

それでは、いつか、また。」

気がつけば双眸から雫がこぼれて、インクの文字が滲んでいた。
夜空を見上げると、キラキラと幾千もの星が瞬いていて、
その中で彼が確かに笑っているような気がした。


翌朝、目が覚めると、手紙はどこにも見当たらなくて、昨夜のことはやはり夢だったのかと悟った。
それでも、青い空に遊ぶ白い雲を見上げると、胸の中に何かじんわりと温かいものが
広がっていくのを感じることができたのだった。


□ STOP ピッ ◇⊂(;∀; )
気持ちの整理はとっくについたはずなのですが・・・。
ブンシューの漫画の「監督に『僕に会いたくなったら空を見上げてください』と手紙を渡すネタ」を見て、
どうしても話を広げたくなりました。

改めて、ご冥福をお祈り申しあげます。
265風と木の名無しさん:2010/04/16(金) 00:36:02 ID:s2So6Bpn0
しまったブンシューじゃないブンシュンだったorz
266243:2010/04/16(金) 01:17:02 ID:TzyeqMHoO
すみませんが一言だけ。
一日たって投下ミスに気付きました…
1レス目、追加訂正を保管庫でさせてもらいました。
267バッソンピエールの尋問(1/9):2010/04/16(金) 01:47:03 ID:Goniwin90
エヌエチケーにて放送中の人形劇三十四より アヌス×谷やん前提の
バッソン×谷やんです。
誰得なカップリングですが、脱出おめ記念ということで。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「そういうことであれば、お望みどおり死んでいただこう。
 ……裏庭へ連れて行け」

バッキンガム公の言うとおり、ダルタニアンというのは中々気骨のある
青年らしい。この若さで朽ち果てさせるには惜しい人材であることに
間違いはないのだが、生きて返せば間違いなく手ごわい敵となり向かってくる
であろう危険因子をみすみす見逃すことなど、できるはずもない。

『ふりでも、仲間になると言えばいいものを……!』

自分が思った以上にあの青年に肩入れしていることに、我ながら意外だとは
思いつつも、“惜しい”という気持ちを消し去ることができない。
だから、なのだろうか。
殺してしまう前に、もう少しだけ彼と話してみたいと思った。

それによくよく考えれば、彼は見習いとはいえ銃士隊に所属していたはず
なのだからその動向を聞いておかなくてはならない、という重要な事実を
思い出した。
国王直属の近衛銃士隊が出陣しているとなれば、それは国王自らが兵を
率いて戦場に来ていることを意味しているからだ。
そうとなれば、リシュリュー枢機卿が戦場に来ている可能性も、また高い。
元々一般民衆がその大部分を占める我が軍は、イギリスからの支援があるとはいえ
本格的な戦闘が始まってしまえば、本職の軍人と銃を撃った経験もない一般人。
最低限の訓練は施してあるが、正面から戦えば戦況の不利は最初から
わかりきっている。
268バッソンピエールの尋問(2/9):2010/04/16(金) 01:48:20 ID:Goniwin90
持久戦に持ち込まれては、自滅あるのみ。
一点突破でリシュリューの首を取ることは、勝利のために必要不可欠な要素なのだ。

その成否を握る情報を、あの青年は知っている可能性がある。
さっきまで、ほんの少しとはいえ心にあった同情心は一瞬にして消え去った。
どんな手段を用いてでも、必要な情報は引き出す。
……殺してしまうのは、それからでも遅くはない。

そう決意が固まるのにさして時間はかからなかった。

ダルタニアンを自分の私室に連れてくるよう指示を出し、どう口を割らせるか
思案をめぐらせる。
勇気と度胸はあるのだろうが実戦の経験が浅そうなあたり、普通に拷問に
かければ案外あっさりと全てを白状する気もするが……。
だが、意地になった人間は案外苦痛によってでは真実を語らない
ものだということを、私は経験から良く知っていた。
自白内容の真否が確認困難である以上、何でもいいから白状させるのが
得策だとは思えない。相手はこれから銃殺されるのがわかっている身の上だ。
最期の一芝居に付き合わされてはたまらない。

要は、苦痛に起因するものであろうが何であろうが、相手の心を折ることが
できなければ本当に必要な情報を得ることはできない、ということだ。

となれば、……やはりアレ、だろうか。
まぁ、駄目だったなら駄目だったで構わない。
とりあえずやってみる価値はあるだろう。
彼のことは、結構“お気に入り”なのだから。
269バッソンピエールの尋問(3/9):2010/04/16(金) 01:49:51 ID:Goniwin90
考えがまとまったところで、タイミングよくダルタニアンが半ば引きずられる
ように部屋の入口まで連行されてきた。
銃殺の指示を出したかと思いきや、間髪いれず、また連れ戻す指示が出たことで
部下も若干いぶかしげな表情をしている。が、輪をかけて困惑した表情を
浮かべているのはもちろんダルタニアンだ。

部下を下がらせると
「……今更、何か御用ですか?」
挑むような目つきで、そう尋ねてきた。
「君に色々と聞いておきたいことがあったのを、忘れていた」
ダルタニアンの眉が一瞬ぴくり、と動く。どうやら、自分が尋問の対象と
なり得ることは理解していたらしい。
「……あなたにお話しできることは、何もありません」
そう言い切った口調からは、どんな些細な情報も漏らすまいとする固い決意が窺えた。

これでは正面から力押しで情報を吐かせるにしても、大分骨が折れそうだ。
不意に横合いから殴りつけるような、とでも評すべきこの作戦が
思ったように功を奏すれば良いのだが。

「そう意固地にならなくてもいいだろう。
 無駄に痛い思いをするのは、馬鹿らしいと思わないか」
「……拷問でもなんでも、したいならすればいいでしょう。
 それで本当のことを話すとでも思っているなら、ですが」
「なに、そんな野蛮なマネは私たちはしないさ」
その返答は少し予想外だったのだろう。
彼は不可解なものでも見るような目つきで、こちらの出かたを窺っている。

では行動開始といこう。
戸棚から小瓶を2つ取り出すと、その片方の中身をグラスに空けて
ダルタニアンに差し出す。
270バッソンピエールの尋問(4/9):2010/04/16(金) 01:51:03 ID:Goniwin90
「飲みなさい」
と勧めてみても、全く正体のわからない飲物に口をつけたりしないのは当然だろう。
堅く口を閉ざし、そっぽをむいてしまった。
まあ、こっちも素直に飲むなんて思っちゃいない。

実力行使あるのみ、だ。
……つんと上向いた鼻をぐっとつまんでやった。
みるみるうちに苦しそうな表情を浮かべ、抵抗するように首を振ろうとするが
それは逆に限界までの時間を短くする効果しかなかった。

空気を求めて口を開かざるを得ないタイミングを見計らい、グラスの中身を煽って
微かに開いた唇をこじ開け、舌ごとねじ込むように“それ”を流し込む。
ぐっと喉が鳴る音がして、液体が間違いなくそこへ入り込んだことがわかった。

「ちょっ……!! くそっ 今、何を飲ませた?!」
された行為にも驚いたのだろうが、既に飲み込んでしまった液体の正体の
ほうが気になるのだろう。縄で後ろ手に縛ってあるとはいえ、まるで掴み
かからんばかりの勢いだ。
さて、飲まされた物の正体を知ったらどんな顔をするか。
「なに、ちょっとした催淫剤の一種さ」
「……さ、サイン?」
予想外に鈍い反応は、聞き覚えのない単語を耳にしたせいなのだろうが……。
「媚薬、といえばわかるか」
その単語にも反応は薄かった。
この手の知識については、まだまだ子供レベルということなのだろう。
少し興を削がれたが、何を飲んだのかわかってもらわないとその効果も半減だ。
肩をつかんでベッドまで連れて行き、力任せに背中を押すとつんのめるように
ダルタニアンの身体がベッドに沈む。
背中越しに青ざめた様子でこちらを窺う彼には悪いが、ここからが本番だ。
思う存分、泣いてもらうことにしよう。
271バッソンピエールの尋問(5/9):2010/04/16(金) 01:52:56 ID:Goniwin90
腰に手を回し、ベルトを抜き取ると当然のように抗議の声があがったが
構わずに下着ごとズボンも膝まで下ろしてしまう。と
「やめろ!」「何考えてんだ」「ふざけるな!!」「馬鹿」「変態」等々
考え付く限りの悪口雑言が、途切れることなく声高に繰り広げられ続けた。
「……うるさいな」
あまりにも間断なく文句ばかり言うものだから、力任せに1発
尻に平手をくれてやった。
ダルタニアンはぎゃっと小さく悲鳴をあげると、いったん言葉を止め
今度は突き刺すような視線で憎々し気に睨んでくる。
「そう怖い顔をしないで頂きたいな。
 ……死ぬ前に、気持ち良い思いをさせてあげようと思っているのに」
「……!!」
その一言でさっと血の気が引いたところを見ると、今から自分の身に
降りかかるであろう運命は理解できているようだ。
媚薬の存在を知らなかったわりには……と、少し意外な気もしたが
彼ほどの容姿であれば、そう不思議な話でもない。
何も知らない子供を蹂躙するわけではないのならば、気も楽だ。

「あまり要領を得ていないようだったから、きちんと教えてあげよう。
 さっき君が飲んだのは、まぁ、こういった行為の快楽を何倍にも
 高めてくれる薬さ。……強制的に、ね。」
見開かれた目が、信じられないという心の声を声高に代弁している。
「なるほど。そんな薬があるなんて信じられない、か。
 だが、それが嘘じゃないことは君自身が一番良くわかっているはずだ。
 身体が熱くて仕方がないだろう? それが、薬の効き始めだ」

はったりだろう、信じない。という気持ちと、だが事実として熱を持つ身体に
揺れ動く心中が手に取るように伝わってくる。
もう一押しが必要だ。
272バッソンピエールの尋問(6/9):2010/04/16(金) 01:55:09 ID:Goniwin90
「薬の効果を信じるも信じないも君の自由だ。だが、聞く耳を持たないというのなら」
さっき使わなかった方の小ビンの中身を右手に空け、とろりとした液体を指に
馴染ませると、躊躇なく後孔にそれをねじ込む。
「……どうなっても、知らないぞ」

「やっ、やめろ! 触るな!!」
思いのほか簡単に指を飲み込んだあたり、相当念入りに“仕込み”が
行われていたらしい。これは作戦が大当たりしたかもしれない、と
思わず口端が上がる。
指を1本から2本に増やし中を解すように動かし続けると、ある部分に
触れた瞬間びくりと体が跳ね上がった。

急所を探り当てたことに気をよくして、緩やかにそこを愛撫してやると
された方はたまったものではないのだろう。ぴんと背中を張って、なんとか
快楽の波を我慢しようとしているようだが、それに追い討ちをかけないほど
こちらもお人好しではない。

「やっ……。もう、やめ……」
大分限界が近いのだろう。
変に意地など張らないほうが、辛い思いをしなくて済むものを。
今度はわざと焦らすようにポイントを外して、なお執拗に攻め続ける。
徐々にではあるが、抵抗する力が確実に弱まる中
「や…やだ、あっ…。助けて  ァ…ト 」
と、無意識に零れたのであろう言葉に思わず手を止めた。

「ア、ト、 ……三銃士のアトスのことかな?」
「呼べば助けに来てくれるくらいには、近くにいるのかい?アトスは」
「……」
「だんまり、か。それがあまり得策でないことを
 そろそろ君は理解したほうが良いな」
273バッソンピエールの尋問(7/9):2010/04/16(金) 01:57:13 ID:Goniwin90
敏感なところに狙いを定め、多少力を入れて指の腹で擦るように刺激を
与えると、瞬く間に形の良い眉がぎりぎりとつり上がって、何秒もしない
うちに限界に達した。

いくら未経験ではないといっても、さすがにこんなマネをされたことは
ないのだろう。その屈辱、そしておそらくは快楽も想像を絶するもの
だったに違いない。
まるで魂が抜けてしまったかのように弛緩し、力なく涙を流して呆ける様は
一瞬精神が壊れたかと心配になったほどだ。
「かわいそうに。
 強情を張らなければ、ここまではしなかったものを」
「……う…るさい」
この期に及んでの減らず口に、思ったより根性もあるようで感心する。
ここでそれを発揮するのが良いことかどうかは別問題だが。

「まだ口が利けるようで安心した」
その言葉に嘘はない。
ただ目的が達成されるまで容赦するつもりもないので、
彼自身のためにも早く折れてくれるのを祈るばかりだ。
ぐったりする身体を返して仰向かせると、漆黒のマントをとめる
肩の留め金を外して一気に引きずり抜く。
まだ真新しい様子のそのマントを床に投げ捨て、さて、どうしてくれようか
と思考に入ろうとした刹那、かさ、とその場には違和感のある音がして
その出所に目をやった。
そこにあるのは床に投げ捨てたマントで、布と多少の金属から構成される
はずのそれから、紙の音がするのは何とも妙な話で。
何となく興味をそそられて衣嚢を探ると、果たして1通の手紙が出てきた。
274バッソンピエールの尋問(8/9):2010/04/16(金) 01:58:28 ID:Goniwin90
その手紙をみた瞬間、半ば死人のようだったダルタニアンが突如として
起き上がり全身で体当たりをしてきた。…と気が付いたのは、不意を突かれた
せいでもろに頭突きを食らって床に転がった後だった。
窮鼠猫を噛むとはよく言ったものだ。完全に油断していた!

すぐさま起き上がりダルタニアンは、と見ると、何と例の手紙に噛み付いて、
いや厳密に言えばそれを“食べよう”としていた。
慌てて、手紙を取り戻そうとするが真ん中の部分はもう欠けてしまっていて。
力任せに引っ張っては被害が拡大するだけとみて、また鼻をつまんでやった。
残った部分は手中にできたが、全く、手紙を食って処分しようだなんて、
どこからそんな発想が湧いてくるのか!

邪魔をされてはかなわないと、ダルタニアンをベッドの柱に縛り付けて
手紙の中身を検める。
真ん中がなくなってしまったせいで、わかるのは彼の安否を心配する内容
だけだったが、署名が残っていたお陰でそれでも問題ないように思えた。

手紙の最後にあった署名は “ポルトス”

やはり銃士隊、……三銃士がラ・ロシェルに来ているのだ。
書かれてからそう長い期間は経過していないことがわかる
インクの色に、その距離の近いことを感じて否応なく緊張感が高まる。

三銃士といえば敵対を避けたい相手の筆頭株なのだが。仕方あるまい。
思いもかけない事態で知りたかった情報が手に入り、ダルタニアンも
これでお役御免で構わないのだが、さてどうするか。
景気づけにヤってしまうのも悪くないが……。
「ダルタニアン。知りたかった情報は全てあの手紙のなかにあった。
 もう君に用はない。が、君に飲ませた薬のことがある。
 その状態で放って置かれれば、辛い思いをすることになるだろう」
275バッソンピエールの尋問(9/9):2010/04/16(金) 02:00:44 ID:Goniwin90
「……君が望むのならば、抱いてやるが。 どうだ?」
そう言われて、はいお願いします。などと言う人間はまずいないだろう。
ダルタニアンも怒りのあまり顔を真っ赤にして、
「冗談じゃない! 誰がお前なんかに!!」
と、視線で物が貫けるのならば即死しそうなほど、鋭く激しい眼光で
こちらを睨み付ける。
手負いの獣は厄介だ。本人がそう希望しているのだから、とっとと檻に
戻して、……処分してしまおう。

縛られて自由の利かない彼の代わりに身繕いをしてやり、部下を呼んで
一旦地下牢に入れておくよう指示をだすと、ふと、ある疑問が頭に
わいた。非常に重要な情報をもたらしてくれたあの手紙だが、何故
彼はそんな“危険”な手紙を処分もせずに持ち歩いていたのだろう。
手紙には、読んだら燃やせと書いてあったのに、だ。
処分できない、ないしはしたくない理由でもあったのか。

全ては謎のままだ。
そしてそれで構わないはずだった。どちらにせよ、明日はない命なのだから。
処刑の準備をできるだけ急がせて、確実に息の根を止めておかねばならないと思った。
数時間前までならいざ知らず、今となっては、再び相対することがあれば
彼は私の命を奪うことを躊躇しないに違いない。
そういう相手が、戦場では1番やっかいなのだ。

「何も問題ない」
何故か自分に言い聞かせるようにそうつぶやいて、手に入れた情報を最大限に
利用するべく作戦を立てる作業に没頭することにした。
それが処刑に立ち会わない理由になる気がしたから。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

お目汚し失礼しました。
276風と木の名無しさん:2010/04/16(金) 17:10:56 ID:VNAwLLxG0
オリジナル鉄道もの半擬人化。エロ無しです。バッドエンド注意。
モデルにした路線は一応ありますが、具体的にここというのではないです。
長くなってしまったので連載になってしまいますが、2回で終わります。
すみません。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
277僕の金色の 1/7:2010/04/16(金) 17:15:07 ID:VNAwLLxG0
 その踏切は、通称「3号踏切」と呼ばれておりました。ある駅から数えて
3つ目の踏切なので、3号です。幅が1m弱しかなく、片側は道路に降りる
ところが数段の階段になっているので車やバイクは通れません。人と、頑張
って持ち上げられた自転車くらいしか通らない小さな小さな踏切です。
 毎日どの電車も轟音を立てて3号の前を通っていきます。3号もそれを自分
の仕事をしながらただ見送っています。カンカンカンカン……。
「電車が来ますよ。危ないからくぐったり渡ったりしてはいけませんよ」
……カンカンカン。

 ある日の夕方、3号の前を見たことも無い車両が通り過ぎました。シャンパ
ンゴールドのボディ、そのところどころに赤いラインのアクセント、顔には黒
いサングラス、シンプルなパンタグラフ。どうやら新型車両の回送のようです。

 東に向かう上り線を走る金色の車両は後方から大きな夕陽に照らされ、通り
過ぎる線路上に黄金の粒を振りまいていくかのように見えました。
「なんて綺麗なんだろう!」
まるで太陽から生まれてきたようだと3号は思いました。
 翌日の早朝、金色の彼が今度は下り線を走っていきました。朝日を浴びる
彼は白金に輝いて、全身がプラチナでできているかのようでした。満員のお客
様を乗せて、昨日よりもどこか誇らしげに見えました。3号はほれぼれとしな
がら金色の彼を見送りました。

 その日以来、その金色の彼を見ることが3号の楽しみになりました。金色の
新型は、起点のターミナル駅から終点の観光地までという最も長い距離を往復
していたので、3号は1日に数回しか彼を見ることができませんでした。
278僕の金色の 2/7:2010/04/16(金) 17:18:28 ID:VNAwLLxG0
 なかなか会えない分、彼を見れた時の喜びはひとしおです。金色の彼が通る
時刻が近づくとドキドキと胸が高鳴ります。
 風に乗って聞こえてくる彼の警笛は、他の車両の鳴らす
「ぷぁああっ! どけオラァ!」
という怒号ではなく、甘く優しいメロディでした。地面を伝って響いてくる彼
の振動は、金属然とした下品な揺れ方ではなく、小刻みで上品な心地よい振動
でした。

 3号は毎日、黄色と黒の縞模様の身体いっぱいに彼の音を感じ、彼からこぼ
れる太陽の光を浴び、その度にたまらない気持ちになりました。
「一度でいいから、話をしてみたいなぁ……」
 けれども3号にとって、それは見果てぬ夢でした。
「彼からしてみれば僕はたくさんある踏切の1つにしか過ぎないものな。しか
もこんなに小さい、一瞬で通り過ぎてしまうようなちっぽけな踏切だもの。
きっと彼は僕のことなんて気づいてもいないんだろう……」
 3号はポロリと涙を流しました。その涙は通り過ぎる人たちからは、赤いシ
グナルの下に溜まった雨粒のように見えたことでしょう。


 3号が金色の彼への届かぬ想いを抱えてから二ヶ月ほど経った頃、この路線
で大きなダイヤ改正がありました。
 ベッドタウンと都心を結ぶ線でもあるこの線は、朝の通勤ラッシュ時には数
分間隔で電車が通ります。大変な過密ダイヤの上に、人が多過ぎて乗り降りに
時間がかかるので、どの電車も少しずつ本来のダイヤから遅れていきます。そ
れが積み重なると、ついには線路上で電車が渋滞状態になってしまいます。
 ダイヤ改正はこの通勤ラッシュ時の混雑を解消しようというものでしたが、
改正の翌日には、さほど駅に近くもない3号踏切の前でも徐行や停止をしてい
る電車が増え、かえって電車の渋滞が酷くなったように見えました。
279僕の金色の 3/7:2010/04/16(金) 17:21:48 ID:VNAwLLxG0
 ラッシュのピークが少し過ぎても電車の数珠繋ぎは続きました。今まで以上
に開かずの踏切になってしまったと3号が自身を嘆いていた時、ふと足元から
覚えのある心地よい振動が伝わってくるではありませんか。
「え? 彼はこんな時間には走らないはずだけど……」
 けれども視界には、あの金色に輝く彼の姿が見えています。以前なら軽やか
に3号の前を通過していた彼が、今日は数珠繋ぎに巻き込まれ少しずつ少しず
つゆっくりとこちらに近づいてきます。そして3号のすぐ手前の信号が赤にな
り……。すぅと金色の彼は止まりました。3号の目の前で。

「はわわわわわわあわわわぁわわわああああああっ!!!!」
突然降って沸いた幸運に3号は頭が真っ白になりました。何か話さなければと
思っても、なかなか言葉が出てきません。
 カンカンカンカンカンカンカンカンッ! 自分が鳴らしているのですが、警
報音が余計に焦りを誘います。
「お、おは、おは、おはようございますっ!」
数秒後、大変な努力の末に3号は憧れの彼にやっと話しかけました。やや挙動
不審気味の上ずった声ではありましたが。

「あれ? こんなところに踏切があったのか」
突然踏切から声をかけられた金色の彼は少し驚いて、チラリと3号を見ました。
「あ、はい、その、すみません……」
「ふうん、ずいぶん小さい踏切だなぁ。まぁいいや」
 金色の車両は3号の挨拶をさらりと受け流し、前方で遅々として進まない各
駅停車の車両を恨めしげに眺めながら、ぼそりとつぶやきました。
「俺はね、こんなふうに各駅停車ごときの尻をじわじわ追いかけているような
チンケな車両じゃないんだよ」
280僕の金色の 4/7:2010/04/16(金) 17:27:22 ID:VNAwLLxG0
 彼は、以前はラッシュのピークを避けた時間帯に走っていました。ところが
今回のダイヤ改正でこういった朝の混雑に強引に巻き込まれるようになってし
まい、えらく腹を立てているようなのです。
「俺は特急列車なんだ。しかもただ停車駅が少ないだけじゃない。都会の喧騒
から、自然あふれ、心休まるリゾート地へ快適にお客様をお連れする、お客様
にラグジュアリーな旅をお約束する、その為に俺は作られたんだ。
 だからスタイリッシュだし、台車もシートも特製で乗り心地は最高だし、窓
が大きくて景色もいいし、騒音も少ないし、終点のホームは俺専用だし、車内
販売のお弁当は有名料亭のものだし、美人アテンダントも乗っている」

 ここで信号が橙黄ニ灯に変わりました。金色の車両は徐行をはじめ、ずるず
ると進みながらもさらに話し続けました。
「それがどうだ? こうやって朝から延々と各駅停車の尻を眺めている。しか
も乗っているのは寝不足のサラリーマンやOLばかり! 俺の座席で経済新聞
読むな! 俺の座席で化粧をするな! 俺の座席は日常から非日常へのアプロ
ーチなんだぞ!」
 金色の彼は、愚痴を吐きながら通過していきました。

 3号は、憧れの彼がいきなり怒っていたことに少なからず驚きました。美し
く品が良いと思っていた彼が、乗客に対して文句を言っていたことには少々
ショックを受けました。
 でも同時に、彼はきっとリゾート列車として高いプライドを持っているのだ、
だからあんなに怒っていたのではないか、とも思ったのです。
「あんなに美しく作られたんだ。通勤に使われるのは嫌だろうな。僕だって彼
が通勤電車だなんて似合わないと思うもの」
281僕の金色の 5/7:2010/04/16(金) 17:30:37 ID:VNAwLLxG0
 次の日の朝からも、金色の車両は3号の手前の信号で止まっては同じように
こぼしていきました。日中から夜と土日や祝日は軽快にリゾート列車として走
ってはいましたが、3号には彼が以前よりどこか元気が無いように見えました。
「僕にはダイヤを変えるなんてスゴイことは絶対できないけれど、でも何か、
彼の為にしてあげられる事はないだろうか……」
 考えた末、自分にできることは聞くことだけなんだと3号は思い至りました。
だからどれだけ長い愚痴であっても同じ愚痴が繰り返されても、3号は黙って、
時には相槌をうちながら、金色の車両の話を聞き続けました。

 金色の車両は独り言のように不満を吐き散らかしていきました。小さな踏切
にこぼしたところで何かが変わるとは思えません。それでも彼は話さずにはい
られなかったのです。
「この間、俺の車内で酔っ払ってゲ○吐いた奴がいたんだ。この俺の中で○ロ
だぞ? あり得ないだろ」
「それは酷いね。すぐに掃除してもらえたの?」
「当たり前だ。俺の車内が汚いなんて許されないことだ。お前は知らないだろ
うけど、ゲ○吐かれるって本当に情けない気分になるぞ」
「……わかるよ。悲しい気持ちになるよね」
「お前も吐かれたことあるのか?」
「足元にね……。雨が降って綺麗になったけど……」
 信号が変わり、金色の車両は走りはじめました。いつもこんな風に、2人の
会話は中途半端に途切れていました。

 3号の次の踏切を通り過ぎたあたりで、金色の車両はさっきの会話をなんと
なく反芻していました。
「雨が降って綺麗になったって……。あいつ、掃除してくれる人いないのか」
 ここにきて金色の列車は、あの小さな踏切はいつも一人ぼっちで立っている
んだということにやっと気が付いたのでした。
282僕の金色の 6/7:2010/04/16(金) 17:34:20 ID:VNAwLLxG0
 ある日、いつものように3号の前に止まった金色の車両は言いました。
「おい、俺のフロントのワイパーを見てみろ」
「何? あっ! 紅葉!」
 朝日に照らされてプラチナに輝く車体の前面に、真っ赤な紅葉の葉がそっと
添えられています。それは彼の赤いボディラインとコーディネートされている
かのようで、金色の車両にひどく似合っていました。

「この辺のは、まだこんなに赤くなってないだろう?」
「うん。山の方はもうこんなに赤いんだね?」
金色の車両は走り出しの向かい風に合わせて器用にワイパーを動かすと、紅葉
の葉をふわりと、3号に向けて飛ばしました。
「お前は見に行けないから、仕方ないから持ってきてやったよ」
「ありがとう!」
 3号は、自分の列車進行方向表示器の上に舞い落ちた紅葉の葉を眺めました。
風よ吹くな、紅葉の葉よ、ずっと僕の上にいておくれと願いました。金色の
車両がどこにも行けない自分のためにプレゼントしてくれたことが、とても
嬉しかったからです。
 その葉を通して、目の前の線路が行き着く遠い山に思いを馳せました。赤や
黄色に色づいた山の中を走る金色の車両も、さぞや美しいことでしょう。でき
れば見てみたいものだと、3号は思いました。

 ある日の昼下がりのことです。3号は向こうから、車椅子を自分でこいで
いるおじいさんが近づいて来るのに気が付きました。
「僕を渡るつもりなのかな? こちら側は階段なんだけど……」
 近所の人達は、この踏切の片側が階段であることをみんな知っています。
それでも念のため、踏切の向こう側には『この先階段につき自転車・バイクは
通れません』という看板が立っています。
283僕の金色の 7/7:2010/04/16(金) 17:38:40 ID:VNAwLLxG0
 でも、おじいさんはその看板に気が付いていないようでした。
「この辺に住んでいる人じゃないのかな?」
踏切の真ん中が高くなっていて、向こうから階段が見えないのもやっかいです。
「誰か階段だって教えてあげて! 電車が通り終わったら僕は遮断機を上げな
くてはならないんだ!」

 左右から時間差で通過していた電車がどちらも通り過ぎ、遮断機が上がった
ので、おじいさんは踏切を渡り始めました。そして真ん中を過ぎたあたりで、
やっと反対側が階段であることに気づきました。おじいさんはあわてて元いた
方に戻ろうとしましたが、この3号踏切は幅が1mも無いのです。
 おじいさんは車椅子の向きを変えようとしますが、今にも脱輪しそうです。
3号に次の電車が近づいているとの信号が届きました。もう少ししたら警報機
を鳴らさなければなりません。
「誰か! 誰か! 気が付いて!」
自分が人と話せないことを、今日ほど呪った事はありませんでした。

 おじいさんは結局、たまたま通りがかった近所の主婦達に助けられました。
反対側に脱出できた頃には、警報機が鳴り始めていました。主婦達はおじいさ
んに声をかけながら、この踏切はホント危ないのよと口々に言いました。
「前に○○さんの娘さんが自転車で通ろうとして階段で転んでね……」
「うちの娘はベビーカーで……」
彼女達は過去にこの踏切で起きたトラブルの例を挙げていき、3号はそれを
悲しい気持ちで聞いていました。

 直後、電車が轟音とともに通り過ぎて主婦達の声はかき消され、3号の耳に
「また町会で言おうと思うのよ……」
という断片的な言葉だけが残ったのでした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
284世紀の邂逅 1/3:2010/04/16(金) 20:47:57 ID:mlhCLfQhO
ナマ、というか干物で丸クス×円ゲルス。



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



 1844年8月末、パリ。
 ヴァノー街のとある家で、2人の青年が対面していた。
 2人とも背が高くがっしりしていたが、同時に対象的であった。

「…私は、またあなたにお会いできるのを楽しみにしていましたよ。マ/ル/ク/ス博士」
 シルクハットにステッキという粋ないでたちの若者が、いくぶん頬を染めて手を差し伸べた。
 背が高く、肩幅が広く、痩せた若者は、意思と知性、温厚と鋭い観察力をたたえた顔をしていた。
 一度見たら、決して忘れられないような、そんな男だった。
「会いたいと思っていたのは君だけじゃないですよ、エ/ン/ゲ/ル/スさん」
 その家の主でもある黒髪の若い男は、差し出された手を強く握りしめた。
 肩幅の広い、ずんぐりとした印象のある彼は、深みをたたえた黒い瞳の率直で快活な眼差しをもっていた。
 それは人をひきつけずにはおられない目だった。
「君の『国民経済学批判大綱』を読みましたよ。あれは近年稀にみる、天才的な論文ですね。『ブルジョア経済の一切の矛盾は私的所有によって引き起こされる』というあなたの発見、これはまだ誰も述べていないことですよ」
 2人は小さなテーブルに向かい合って座った。
「それは褒めすぎですよ。私の到達したところは、あなたがこれに関わっていたなら、あなたはきっと、私よりもずっと早くに到達していたでしょう」
 エ/ン/ゲ/ル/スの細い端正な顔は、出会ったばかりの、けれど尊敬する友人からの率直な賛辞に紅潮していた。
285世紀の邂逅 2/3:2010/04/16(金) 20:50:41 ID:mlhCLfQhO


 2人とも、手紙や論文で互いを知っていたために、まるで長い間の知り合いのような心地だった。
「今になって、2年前に君がケルンに訪ねてきたときの、僕の不調法が悔やまれます。
あのとき君がこれほどの知性と才能をもっていると知っていたら!」
「その話はなしですよ、マ/ル/ク/ス博士。私だって不遜なところがありました」
 2人は顔を見合わせるとにこりと笑った。
 2年前、ドイツのケルンで『ライン新聞』の編集長だったマ/ル/ク/スのもとを、イギリスへ赴く前のエ/ン/ゲ/ル/スが訪ねたが、そのときの邂逅は不首尾に終わっていた。
「フリードリヒ、君の2年間の成果を聞かせてください。産業革命のあったあの国で、そしてブルジョワ社会の最も進んだ国で、君が何を見てきたのかを。
ケルンでもパリでも、海を越えた隣国の話は伝わってきていますよ。明日にもプロレタリアートが革命を起こすんじゃないかと、皆噂しているんですよ」
 マ/ル/ク/スが促すと、エ/ン/ゲ/ル/スは少し驚いたように目を見開き、それからにっこりとした。
「ええ、そうですね……実はそれに関して、論文を書こうかと準備しているところです。僕の故郷のヴッパータールでも見てきたことですが、プロレタリアートはまったくひどい状況に置かれているんです。
だからわたしは、イギリス人に向かって、見事な罪状目録を作ってやるつもりなんです。イギリスのブルジョアジーの殺人や強盗、その他ありとあらゆる大量の罪状を全世界に向けて告発するのです」
 エ/ン/ゲ/ル/スは熱をこめて語った。マ/ル/ク/スは力強く頷いた。
286世紀の邂逅 3/3:2010/04/16(金) 20:52:37 ID:mlhCLfQhO


「その点で、僕たち2人はまったく同じ結論にたどり着いた」
 マ/ル/ク/スがエ/ン/ゲ/ル/スのほうへ身を乗り出した。
「プロレタリアートこそが、この世界と人類を変革する偉大な使命を担っている。君も、そう確信しているんですね、フリードリヒ」
「もちろんですよ、カール。プロレタリアートの勝利を、私は信じて疑いません」
 エ/ン/ゲ/ル/スが応じると、マ/ル/ク/スは嬉しそうに頷いた。
「われわれは共同作業ができますよ、フレッド。われわれの至った結論に攻撃を加えてくる連中、プロレタリアートを搾取する彼らを敵に回した、人類史的にも偉大な事業にとりかかるのです」
「まったく同感ですよ。…カール、僕は、あなたのような親友をずっと探していましたよ」
「僕こそ、君のような素晴らしい友が欲しかった」
 言い合って、2人のドイツ人の若者は陽気な笑い声を立てた。
「ワインを開けましょう。今日は記念すべき日ですよ」
 マ/ル/ク/スが言った。
「すべてのブルジョアジーにとって、もっとも恐ろしい敵が手を取り合ったんですからね!」
 エ/ン/ゲ/ル/スが高らかに応じた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
マイナーで萌えててすみません…orz
頭いい人が天然でいちゃついてるのが好きです。
あと、直訳したような文章で書くのが楽しいです。
287風と木の名無しさん:2010/04/17(土) 01:50:48 ID:z4Y2pQcqO
そんなことより頭いい人に聞きたいんだが、スタヴローギンの見る幻ってなんなのよ
チホンには正体が一つの雑多なものと言いつつ、文書ではマトリョーシャになってる
マトリョーシャと鬱陶しい小悪魔どもが元々同じ存在だったってことか?
288風と木の名無しさん:2010/04/17(土) 01:51:29 ID:z4Y2pQcqO
誤爆死んできます
289風と木の名無しさん:2010/04/18(日) 01:21:54 ID:22jpzYcB0
>>243
遅ればせながらGJ!
姐さんの本編と専スレの行間補完力パネエっす。
側にいて欲しい、お側にいたい、それだけの望みすらはかない。
せつなすぎるよ先生。
290生 親愛の赤 0/5:2010/04/18(日) 01:32:31 ID:WWQx7z5XO
なまもの。完全捏造です。ダメな方はスルーしてください。
数年前の話です、捏造120%なのでもうパラレルみたいなものだと思っていただければ…

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
291生 親愛の赤 1/5:2010/04/18(日) 01:34:11 ID:WWQx7z5XO
彼は世界に愛されていた。選ばれた者とそうでない者がいたとすれば、彼は前者だ。
才能があるというだけでは役に立たないこの世界を、圧倒的な実力と素晴らしい成績を示すことで黙らせて、あの場所で咲き誇る姿が好きだった。
悠然と笑う彼のわずかな表情の違いさえも判る距離で、彼が見つめるその先にいられることが誇りだった。
彼は世界に愛されすぎてしまった。

ぺたんと胸と胸をつけて、彼の左手で俺の右手を掴んで指を絡ませて、鼻と鼻を擦り合わせて。
彼の普段の振る舞いから、体温は低いものだと勝手に思っていたものだから、熱い素肌がすこし意外だった。
乾いた唇を開いて甘ったるい空気を吐き出しながら、彼は笑っていた。
それはどこかよそよそしさを感じさせるもので、彼の焦燥を汲み取るには十分だった。
彼が彼でいられなくなるようなことが起きているのだ、認めたくなんてないのだけれど。
292生 親愛の赤 2/5:2010/04/18(日) 01:35:10 ID:WWQx7z5XO
暗い廊下の突き当たりで告げられた短い言葉を思い出す。なぜこんな話になったかなどもう忘れてしまった。そんなものはどうだってよかった。
おおきな背中をちいさく丸めるようにして、ぎゅっと両手を握りしめて、しかし視線だけは揺るがず強くこちらに向けられていて。
弱った姿で自分に助けを求めた彼の手を振り払うことができなかった時点で未来は決まっていたのかもしれない。
そのときの彼の瞳の熱さも吐息の色も、きっと自分は生涯忘れはしないだろう。それだけを覚えていれば十分だ。

彼があまりに情熱的で魅力的で煽情的ですらあったので、誤解してもいいと思えた。
彼は本気なのだと思い込んでもいいのではないかと。

液状にとろけた彼が覆いかぶさってきて、身体のすべてを包まれた。ぜんぶそのまま吸収されてしまったいま、自分のすべては彼のなかだ。
そして同時に、彼の身体を毛細血管のように支配しているのは自分だ。
目が合えば彼の考えていることがわかるし、彼が自分にどうしてほしいのかがわかる。こんなときまでわかりたくはなかった。
彼の想いにこたえてやりたいと考えることは、自分にとって当然のことで、それに抗う術など持ち合わせていなかった。
293生 親愛の赤 3/5:2010/04/18(日) 01:36:06 ID:WWQx7z5XO
だいじょうぶ。そう言って彼がにやりと笑えば、たいていのことはなんとかなるのだから不思議だ。
動揺もなにも表には出さず綺麗に笑うものだから信じてしまう。そうしていくつもの逆境を切り抜けてきたのだから、
大丈夫と彼が言うならば大丈夫だ。そう、この世界を支配する彼が大丈夫だと言っている。
彼が自分のことを見てきたと言う時間と同じだけの時間、自分は彼を見つめていた。信頼している、なんて簡単に言えるはずもない。
彼に全権を委ねている、捧げている、どんな言葉も陳腐で役に立たない。「へいきですか」
指先で彼がそろりと顔に触れてきて、慈しんでいるかのような仕種で頬を撫でている。
そんなに平気ではない顔をしていただろうか。声を出そうとすると余計な感情まで溢れてしまいそうだ。
表現することができなかったから、せめてもの想いで彼の細い身体を抱きしめてやった。頷いてやることで伝わるとわかっている。
だいじょうぶ。自分が彼を安心させてやらなくてはならない。
294生 親愛の赤 4/5:2010/04/18(日) 01:38:29 ID:WWQx7z5XO
***

圧迫感に気付いて目を覚ますと、彼の長くしなやかな腕が肩に回っていた。頭をまるごと抱え込まれていることに気付き、
必要以上の負荷をかけている彼の身体と腕が心配でたまらなくなった。どれだけのひとがその腕を好きでいるのか、
どれだけおれがその腕を愛しているのか、わからないわけがないくせに。だから本当はこんなこともするつもりはなかったのだ。
こちらの想いなど知らず、かれは静かな呼吸で眠り続けている。どんな苦痛も消えてゆくような、穏やかで揺らぐことない表情のままで。
少なくとも、悪夢にうなされているようには見えない表情に、心から安堵した。

見上げた先にある顔はまるで気に入ったぬいぐるみを手放さない子供の顔だった。
ぎゅっと締めつけられたその中から、それなりの労力と時間を費やして彼を起こさぬよう抜け出す。
緩みきった幼稚な顔にキスをしてやりたい。無意識に浮かんできた不用意な気持ちを、再生してこないように細かく切り刻んで捨ててやる。
愛しいなど、そんな身勝手な想いを抱いてはいけない。世界に愛されている彼を、自分の所有物にしてはいけない。
295生 親愛の赤 5/5 おわり:2010/04/18(日) 01:40:03 ID:WWQx7z5XO
彼が今日のことを後悔するようなことがなければいい。できることならいますぐ忘れてくれたらいい。
夢から醒めたあとは、なにもなかったことにして昨日までと同じ顔で笑ってくれればいい。
明日も、明後日も、どちらかがこの世界を去ったあとも、
ふたりで違う世界を生きることになったあとも、この先何年何十年先も、死ぬまでずっと。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


いつもありがとうございます。
296花冷え1/10:2010/04/18(日) 20:33:45 ID:b2+UlytTO
オリジナル。
酔っ払ってヤっちゃう若気の至り。
年下攻。
オチが汚いです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマス。


 さっぱりわからない。
 既に何が何だかどうしてこんな状況になったのか。
 思いだそうとするほどに頭痛がする。

 バイトの飲み会終了後。
 飲み足りないと、新しいガンプラを買ったという噂を確かめに、上司でもあり駅から家が近いという理由だけで吉川さんの家に転がり込んだ。
 無駄に広い3LDK。
 一人暮らしには贅沢すぎやしないかと、散々冷やかして、嫌がる家主を無視してエロ本検索をかけたが、埃のない部屋同様に身綺麗なもので、至極ノーマルな雑誌が数冊。
 DVDも字幕のない何語かわからない暗いものが出てきたくらいだ。
 一人暮らしだとエロネタ溜め放題という将来の夢と希望と期待を返せこの堅物め。
 オレと渡辺は後頭部を一発ずつ殴られる。
 大人しく飲む、騒がない、寝場所だけ貸して欲しいと泣きついた結果、半ば強引に押し掛けただけの後輩を労るような優しさはない。
 チキショー。
 ちょっと先に生まれて、社員だからって横暴だ。
 冷蔵庫の中には、ワインとウィスキーくらいしかなくて、飲み慣れないオレはウィスキーの一杯目でアウト。
 調子に乗って飲んだ渡辺は、現在トイレでゲロと頭痛とランデブー。
 ははははは。ざまぁ見ろ。
 何だかフワフワして楽しい。
 支離滅裂な鼻歌に、嫌そうな表情の吉川さん。
 いつものトレードマークの眉間に皺は、今日も絶好調に3本がっつり。
「まま、そんな深刻な顔してても、ウザいし」
 部屋にあったウィスキーの蓋を開ける。
297花冷え2/10:2010/04/18(日) 20:36:38 ID:b2+UlytTO
新しい瓶だが気にしない。
 何か吉川さんはわめいていたが、開けちまったもんは仕方なかろう?
 金玉の小さい男だ。
 あれ?ケツの穴だっけ?
 チンコ?
 ま、どっちでもいいや。
 とにかく小さい。
背だってオレより10cmは小さい。
威張っているからデカく見えていたが、実際には170と少しらしい。
190くらいあるのかと思ってた。
 なんだかんだで、オレが手酌で5杯ほどグラスにウィスキーを注いでやった頃、吉川が突然キレた。
「お前らタク出してやるから帰れ!」
オレと渡辺のケツが蹴られる。
 うっわ、暴力。
 月曜日に上にチクってやる。
 コートと渡辺を抱えて、追い出された部屋のドアを蹴る。
 一発後頭部を殴り倒され、盛大に渡辺ごとぶっとばされる。
 え?何この文系引きこもりっぽい癖に無駄な力持ち。
 SEだから理系か?
 廊下を連行されながらマンションから出される。
 真夜中ムードの田舎道。
 もともとここに来たのだって、終電を諦めたからだ。
「おい、無ぇよ。こんな電車止まってる時間にタクシー駅なんか来てねぇし。」
「ある。」
 断言か。
 足取りはしっかりしているが、目が据わっている。
 相当酔っているな。
298花冷え3/10:2010/04/18(日) 20:41:28 ID:b2+UlytTO
 早足で人の腕を引く吉川の腕を払う。
 急に止まった勢いで、渡辺を背負っていたオレもこけかけるが、なんとか持ちこたえて両足をしっかり地に立てる。 
オレ、超カッコイイ!
 いかん、酔ってる。
 目が回る。
「・・・・・・・・」
 背中に負った渡辺が、何か呻く。
 あーだか、うーだかそんな感じだ。
「どうした、渡辺?」
 背中から地面へ下ろし、頬を数回叩く。
 吉川も気になったのか、渡辺の背中をさする。
「吐くか?少し先に公園があったぞ」
 表面だけはマトモになったのか、酔っぱらっていてもそこだけ正常なのか、はたまた別な何かなのか、吉川が今は正常だ。
「・・・変質者・・・」
 は?
 地面に座り込んだ渡辺の、まっすぐ指指す方向へ目を向ける。
 子供の落書きのような絵と、変質者注意の看板。
 夜間でもハッキリ見えるようにと気遣いか、夜目にも痛い蛍光イエロー。
 渡辺は、ごそごそとカーキ色のアーミッシュコートを広げて、「変質者じゃーーーーーーーーー!!!!!!!」と叫ぶや否や、公園の植え込みに突撃し、ピクリとも動かなくなった。
 ポカンと置いてけぼりのオレ。
 同じくポカンとする吉川。
 え?
 え?
 どいうい
299花冷え4/10:2010/04/18(日) 20:46:39 ID:b2+UlytTO
※最後の行訂正:どういう事ですか?
 ネタですか?
 全力で置いてけぼりですよ。
「・・・木元くん、・・・僕にはサッパリついていけなんだけど、今時の若い子はこんなもんなんか」
 遠い目をして吉川が呟く。
 いやいや、同じ大学生で、学部も同じではありますが、オレにだってサッパリですよ。
「全然着いてけません。オレにもサッパリ。」
 惚けたように道に座り込み頷きあう。
 そら解らんよな、と妙な連帯感を共有しつつ、重い腰を上げる。
 思いの外、遠くまで走り抜けた渡辺の背中をさする。
 全く反応無し。
 むしろ心地よさそうに寝息を立てて、完全にあっちの世界。
 どうしようもない状況を報告しようと振り返れば、吉川が一人でコートの前を広げて得意げな笑み。
 アルコール以外の頭痛で、目の前がクラクラする。
 ああ、もうどうしてこんなにアホばっかりか。
 本気で泣きたい。
 オレは今、世界で一番味方が少ない危険地帯へ突入したのか。
 得意げな酔っぱらいとの距離を詰める。
「アンタ、何やってんですか。」
 薄い春物のコートを広げ、千鳥足と酔拳と足して割らずとも結局グダグダなままの、どうしようもない足取りで細い小道へ消えてゆく。
 手の施しようのない酔っ払いが増えた。
 今日はもうこれなんて厄日?
 金を持っているのは吉川なので、しょうがなく追いかける。
 普段マトモな振りして、どんだけ駄目な大人だ。
「吉川・・・、もう諦めてマンション帰るぞ。」
 やっとこさ追いついた細い小道、吉川の右腕を掴んで持ち上げる。
300花冷え5/10:2010/04/18(日) 20:54:44 ID:b2+UlytTO
 少しはしゃっきりするかと思いきや、全くそんな事はなし。
 地面にしゃがみこんだまま、寝転がる。
 お前、髪の毛とかドロドロだろ。
 ほんとに社会人かよ。
「起きろよ。」
 何度か肩を揺すぶる。
 眠そうに目を擦った後、片手で自分のコートを広げ、先ほども聞いた言葉を繰り返す。
「変質者。」
「知ってる。」
 べちんと一発頭を叩く。
 恨めしそうに呻いて、なにやらごそごそと探る仕草。
「変質者だ。」
 喉元近くまでシャツをまくりあげ、肋の浮いた胸元を見せつける。
「オイ、・・・」
 ゴクリと喉が鳴る。
 薄暗い街灯。
 夜にくっきりとそこだけ白く光って、呼吸まで吸い込むような生命力。
 突然突きつけられた生々しさに、息が止まる。
「よ・・・」
 所詮酔っ払いだ。
 正常じゃないんだ。
 酒のせいだ。
 頭の中で100くらい言い訳をして、吉川係長の前に座り込む。
 なぁ、酔ってんだろ?
 さらりとした薄い手触りのコート。襟を掴んで顔を寄せる。
「酔ってる?」
 鼻先同士が触れそうな距離。
 お互いの酒臭い息も、今なら許せる。
「酔ってるだろ?」
 黙って肩を震わせて笑う吉川の唇を塞ぐ。
 酔ってなきゃ許さないだろ?
「・・・酔ってる」
301花冷え6/10:2010/04/18(日) 20:57:25 ID:b2+UlytTO
 わずかに首を傾げるようにして、押し返される唇。
 頬を撫でて首筋へと回る指。
 自然とかけられてくる体の重み。
 冷えた夜中の風とは違う、熱いくらいの体温。
 ああ、オレも相当酔ってる。
 なんで男なんかに手を出してんだよ。 ましてや直接の上司だ。
 これから仕事やり辛ぇだろ、どう考えても。
 薄く目を開け、現実の世界を確認。
 今キスしている相手は吉川係長。
 吉川係長はバイト先のちょっとエラい人。
 しかも仕事の鬼だ。
 ペアだってよく組まされる。
 そして男だ。
 目を覚ませオレ。
 俯き加減のせいで、薄く伏せられた瞼から陰を落とす長い睫。
 スーツではなく私服のせいでいくらか若く見える顔。
 濡れた唇を舐める薄い舌先の赤さ。
 再び頭が酔っぱらう。
 乱暴に抱き寄せ、膝を抱えあげる。
 最初に僅かに抗っただけで、くったりと力の抜けた体。
 抵抗がないことに半分苛立ちながら、無理矢理に服をはぎ取る。
 アンタ酔っ払ってりゃ誰でもいいのか。
 さすがに少しは抵抗が強くなったが、本気で今の状況を変えるのには弱すぎる。
 キスを繰り返しながら、吉川の腹を手のひらで撫でる。
 明日から仕事増やされてもいい。
 残業や掃除も理由つけて逃げないし。
「・・・あ」
 ジーンズのチャックに手をかけた時、さすがに吉川の手が胸を押す。
 それを無視して下着の中へと指を入れる。
 ふにゃりと硬さの欠片もないペニス。
 指で扱けば酔っ払いは僅かな抵抗で肩を押すが、唇を離す事無く舌は絡めたまま。
 抵抗よりも煽られていると強く感じる。
302花冷え7/10:2010/04/18(日) 21:01:24 ID:b2+UlytTO
 酔うと性格変わりすぎだろ?
 自分もジーパンのチャックを下ろし、硬くなって先走りで濡れたペニスを握る。
 鈴口近くに溜まった先走りを指へと塗り付け、その指を吉川の唇に塗り付ける。
 オレの唇の代わりに当てがわれた指。
 その指に絡んだ粘つきが、何か知ってんのか吉川?
 離れた唇を追って寂しげに寄せられた眉も、唇の代わりが与えられればすぐに元へと戻り。
 くちゅくちゅと音を立て、人差し指と中指へと唾液を絡める吉川の口から指を抜き、なんども己のペニスと唇を往復させる。
 指を抜く時も、目を瞑ったまま物欲しげに薄く開けられた唇と、そこから覗く赤い舌先。
 ドクンと胸が強く鼓動を繰り返す。
 滅茶苦茶にしてやりたくなって、吉川の下着を剥ぎ取り、膝を右手で抱え左手で尻を割開く。
 なにも考える時間を与えず、強引に尻穴へとペニスを突っ込む。
 悲鳴地味た声を出し、逃げようとする吉川の口を逆手で塞ぐ。
 強張った体がペニスを締め付け、一瞬でもって行かれそうな程気持ち良い。
 騎乗位で貫かれた吉川も、尻から血を流しながら勃起してるとかどんだけマゾだ?
 我慢出ず、強引に尻穴へとペニスを突っ込む。
 悲鳴地味た声を出し、逃
303花冷え8/8:2010/04/18(日) 21:08:16 ID:b2+UlytTO
※最後の行訂正:悲鳴地味た声を出し、逃げようとする吉川の口を逆手で塞ぐ。
 強張った体がペニスを締め付け、一瞬でもって行かれそうな程気持ち良い。
 騎乗位で貫かれた吉川も、尻から血を流しながら勃起してるとかどんだけマゾだ?
 そのまま腰を抱いて、貪る様にガツガツと上下に揺する。
 どこに突っ込んでいるのかとか、男同士だとか、これは強姦だとか、最後にちらっと浮かんだ仕事だとか。
 気が付いたら吉川の両脚がオレの腰へと周り、自分から尻を擦り付けてきて。
 イキそうだと、目を眇めて耐えている間際、頭上で小さなうめき声が聞こえたと同時、酒臭い物が勢いよく音を立てて胸元へ。
 ちょ、おま、ちょーーーーーーーーー!!!!!!!


 ゴホゴホと噎せる吉川を担ぎ、一目散に公園の便所へ向かって走る。
 その間にもあふれるゲロ、体中を伝う固形物のイヤな感触、今更暴れる吉川、色々な意味で止まらない頭痛、悪臭、つられてこみ上げる吐き気。


何でこんな事になったのか。
 何を間違えたのか。 解っていることはただ一つ。
「最悪だ。」




 さっぱりわからない。
 既に何が何だかどうしてこんな状況になったのか。
 思いだそうとするほどに頭痛がする。
 ただ一つわかった事は、オレはかなり年上で、手に。
 ほんと、明日からどうしよう。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
304花冷え8/8の下7行目以降訂正:2010/04/18(日) 21:13:43 ID:b2+UlytTO
 さっぱりわからない。
 既に何が何だかどうしてこんな状況になったのか。
 思いだそうとするほどに頭痛がする。
 ただ一つわかった事は、オレはかなり年上で、仕事では鬼の、どうみてもかわいくないオッサンの、吉川係長へ突っ込んだという事だけだ。
 できれば一生縁がないまま終わりたかったが、男とヤッてしまった。
 全然好みじゃないし、男なんかまっぴらゴメンだと思ってたのに、勃った。
 しかも出した。
 ゲロ塗れの相手に。
 ほんと、明日からどうしよう。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


間違えまくってすみません。
305風と木の名無しさん:2010/04/19(月) 01:53:37 ID:LeGmh4iK0
>>290
なまものって注意があるけどヒントくらい書いてくださいませんでしょうか?
読んでも何のジャンルなのか全くわかりません
>いつもありがとうございます。
ということは続きものでしょうか?
306風と木の名無しさん:2010/04/19(月) 09:49:05 ID:B3B4kblM0
>>305
290の人は2008年から「~の赤」って題名のシリーズで
時々作品を投下してくれる人ですよ
今回で6作目だと思います
自分も全く元ネタがわからないので
もうオリジナルとして楽しませてもらってます
307僕の金色の(2) 1/6:2010/04/19(月) 11:39:32 ID:h4SAwe7m0
オリジナル鉄道もの半擬人化。エロ無しです。バッドエンド注意。
>>283からの続きです。今回で終わりです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 数年が経ちました。金色の車両と3号はすっかり打ち解け、何でも話せる間
柄になっていました。

 金色の車両の話は愚痴ばかりではなくなっていました。終点の観光地の雄大
な景色について話したり、変な乗客を乗せた時の話を面白おかしく語ったりも
しました。各駅停車がノロノロ詰まっていても、腹が立つことも無くなりまし
た。3号の手前の信号が赤くないと、がっかりしている自分に気が付きました。

 彼は時々、沿線に咲く花の花びらをとらえて3号に届けました。桜、ツツジ、
あじさい、コスモス。小さな野の花の時もあります。
「俺は花なんかに興味は無いが、お前が動けないから持ってきてやったんだ。
お客様の為に、たくさん咲いているところをゆっくり走るんだ。これはあくま
でもそのついでだから」
金色の車両はいつもそう言うのでした。

 3号は金色の車両の話を楽しみにしていました。彼の為に話を聞いてあげて
いたつもりが、いつのまにか聞くことが自分の楽しみになっていたのです。停
止信号の時しかゆっくり話せないことが物足りないくらいでした。もっと彼の
話を聞いていたいと思いました。
 そしてそれ以上に、朝日や夕焼けの中、太陽の光をいっぱい浴びながら走っ
てくる金色の車両が相変わらず好きでした。

「キミは本当に綺麗だ」
ある日3号は、これまでずっと心の中だけで思ってきたことを、思い切って口
に出してみました。
「…………。当たり前だろう? 俺は特別なんだから」
一瞬の沈黙の後、金色の車両はさも当然のように答えました。いつもと違って
何故か3号から目を逸らして答えていましたが。
308僕の金色の(2) 2/6:2010/04/19(月) 11:46:01 ID:h4SAwe7m0
 数日後の夜、その日最後の往復仕事を終えた金色の車両が、車庫に向かって
珍しく徐行運転で走り抜けていきました。
 昼間見ると金色や白金に見える彼の身体は、夜間に線路を照らす白い照明の
中では銀色に浮かび上がります。何しろ彼は、その鉄道会社の看板車両でもあ
りましたから、いつだってピカピカに磨きあげられていました。そのピカピカ
の銀色ボディに沿線で灯る信号機やネオンの色とりどりの光が反射して、それ
はそれは幻想的な雰囲気を醸し出していたのです。

 うっとりと銀色の虹になった彼を眺めていた3号の耳に、
「お・や・す・み……、さ・ん・ご・う……」
という声が響いてきました。
「えっ?」
いつもいばっている彼の、今までに聞いたこともないような優しい声。3号の
中に何かあたたかいものが広がっていきます。
「おやすみなさい……」

 幸せそうに答えた3号から少し離れたところで、数人の男性達がなにやら話
をしていました。彼らは残業している公務員と会社員でした。区役所とか県庁
とかそういうところの職員と、3号や金色の車両が所属している鉄道会社の社
員と、ゼネコンの社員です。

 その日以来、3号の周りにはやたら人が多く来るようになりました。最初は、
双眼鏡のようなものを持った人と、何かの図面を広げた人がきました。次にい
つも3号を渡っている近所の住民さんが集まったりしました。その後に、ヘル
メットをかぶった人達が大きなトラックとともにたくさんやってきました。
 彼らは3号から少し離れたところにある線路際の空き地に穴を掘り、鉄の杭
を打ち込み、コンクリートを流しました。3号は自分の仕事をしながら、毎日
横目でその様子を眺めていました。
「何を作っているんだろう?」
309僕の金色の(2) 3/6:2010/04/19(月) 12:05:48 ID:h4SAwe7m0
 工事は昼も夜も続きました。線路を挟んだ両側で作られていたものが線路の
上空に伸びはじめ、数ヵ月後には左右の建物が線路の上で繋がりました。両側
には屋根とスロープの付いた階段と、大きなエレベーターがありました。

 ヘルメットをかぶった人達がいなくなり少し静かになった頃、役所と鉄道会
社と近所の人達が、新しくできた建物のところに集まりました。人々はエレベ
ーターに乗ってこの新しい橋に登り、そのまま線路の反対側に渡っていきまし
た。みんな嬉しそうでした。
 3号を渡ってくれる人はとても少なくなりました。開かずの踏切になってし
まう朝のラッシュの時間帯には、3号の周りには全く人がいなくなりました。

 数日後、3号のところに鉄道会社の人達がきました。3号の身体に手をかけ
てグラグラと揺すってみたりしています。
「結構キテるなぁ。来月のいつだっけ?」
「14日ですね。すぐは無理なんでとりあえず止めるって」
 3号は自分がこれからどうなるのか悟りました。いやきっと以前から、あの
橋ができた時から、何が起きるのか本当は分かっていたのかもしれません。

 朝、赤信号で止まった金色の車両は、いつも通り3号に話しかけてきます。
3号も、何事も無いかのように普通にそれに答えます。
「そういえばな、新しく出来たあの橋の野郎、なんか感じ悪いんだよ」
「……そうなんだ」
「ここじゃなくて、1つ前の信号で止められるとあいつの前になるだろ?
だからこないだ一応挨拶してやったんだけど、あいつ無視しやがった。この俺
の方から挨拶してやったっていうのに! 腹立つよなぁ」
「……そうなんだ」
「……? どうしたんだよ? お前最近なんかぼーっとしてないか?」
「そんなことないよ。踏切がぼーっとしていたら、通る人の命に関わるもの」
「そりゃそうだけど……」
 信号が変わり、いつも通りの尻切れトンボな会話を残して金色の車両は走り
出しました。
310僕の金色の(2) 4/6:2010/04/19(月) 12:09:48 ID:h4SAwe7m0
 何日経っても3号は、金色の車両に本当のことを言えませんでした。目の前
を金色の車両が通過するたびに、胸が張り裂けそうになりました。いつも饒舌
な金色の車両も、何故か3号を問い詰めることはできませんでした。お互いに
心にわだかまりを抱えたまま、日々が過ぎていきました。

 某月14日。今朝も金色の彼は3号の前で止まりました。いつものように話
しかけられ、いつものように答えているつもりでした。
「……3号?」
「あ、うん、聞いてるよ」
「それならいいけど……。変わったから行くよ。またな」
「うん。またね」
 動き出した金色の車両は朝日を受けて白金の光を放ち、その光は3号のぼや
けた視界いっぱいに広がりました。涙で波打つ光の中を遠ざかっていく彼の姿
は、溜息が出るくらい美しく思えました。3号は、金色の彼が走り去っていっ
た線路をいつまでもいつまでも見つめ続けていました。誰にも気づかれないよ
うに、赤いシグナルを濡らしながら。

 最終電車が車庫に帰っていった後、3号のところにヘルメットをかぶった人
達がやってきました。いよいよなんだなと、3号は思いました。
 さよなら、僕の金色の……。

 静かに、役目を終えた3号踏切の電源が落とされました。間違って誰かが通
っては危険ですから両側にバリケードが築かれ、『使用禁止』の看板が立てら
れました。
 踏切として動けなくなった後も薄っすらと3号の意識は残っていて、淡々と
作業をする工事の人々の声を、ただぼんやりと聞いていました。
311僕の金色の(2) 5/6:2010/04/19(月) 12:13:11 ID:h4SAwe7m0
 次の日の朝。すぅと目の前に車両が止まる気配がしました。彼なのだと音と
振動で分かりました。けれどももう、あの光り輝くプラチナの、3号が大好き
な美しい彼の姿を見ることはできませんでした。3号の赤いシグナルにはカバ
ーがかけられていたからです。

「よう」
いつもの通り金色の車両は3号に話しかけましたが、3号から答えは返ってき
ませんでした。
「おい、3号?」
 彼には、何がどうなったのか分かりませんでした。今まで一度だって3号が
自分を無視したことなどありません。それなのに、自分が来たというのに、こ
こにいるというのに、3号はカンともスンとも言わないのです。
「俺が通ってるのに、どうしてカンカンやらないんだ? 誰か渡ったら危ない
だろう? お前はいつも人間を気にしていたじゃないか」
 金色の車両は3号を見ました。いつもならウザイくらいに点滅している赤い
シグナルが見えません。他の踏切より少し甲高い、3号独特の警報機の音も聞
こえません。人が通る道の左右は、良く分からない板でふさがれています。
「3号……」

 3号の薄れゆく意識の中に、金色の車両の声が響いていました。
 さよならって言いたくなくて、最期までただキミの話を聞き続けていたくて、
こうなってしまうことをどうしても言えなかった。ごめんなさい……。毎日本
当に楽しかった。キミに会えて幸せだった。ありがとう。大好きだよ。
 彼に伝えたかったけれど、3号にはもう、それを伝えるすべは残されていま
せんでした。
312僕の金色の(2) 6/6:2010/04/19(月) 12:20:08 ID:h4SAwe7m0
 金色の車両はそれでも毎日3号に話しかけ続けました。もう答えは返ってこ
ないのだと分かっていても、話しかけずにはいられませんでした。思えば3号
から最初に声をかけられて以来ずっと、金色の車両はほとんど一方的に3号に
向かってしゃべり続けてきたのでした。一方的に話しているという状況だけな
ら前と同じなのに、今はどうしてこんなに悲しいのでしょう。
 彼は、とりとめの無い話に耳を傾け続けてくれた、そして美しいと褒めてく
れた3号に、自分がどれだけ甘えていたのか、どれだけ支えられていたのか思
い知ったのでした。ちっぽけで優しい踏切が、自分にとってどれだけ大きな存
在だったのかを。

「おい3号。今日俺は団体のお客様を乗せるんだ。終点の山では紅葉が見ごろ
なんだ。毎年言ってるけど、山が燃えているように赤くなるんだぞ。新しい観
光スポットもできて、とんでもなく混んでるんだ。俺が運ぶお客様で駅がいっ
ぱいになるくらいで、いつもより1往復多く走らなきゃならないんだ。それく
らい忙しいんだ。
 だからお前に、いつものアレをとってきてやるのは、少し……、少しだけ、遅
くなっちゃうかもしれないんだよ。でもそれまで、それまでは、ここにいろよ。
わざわざとってきてやるんだからな……」

 数日後、3号の全面撤去作業が始まりました。地面に埋められている黄色と
黒の身体が掘り起こされ、今にも引き抜かれようとしています。遠くから風に
のって優しいメロディが聞こえ、地面から心地よい振動が伝わってきます。
 その時、3号のシグナルにかぶせられていたカバーの片方が、重機のアーム
にひっかかって外れました。現れた真っ赤なシグナルの上に、真っ青な空と、
白い雲と、すぐ傍を走っていく金色の車両が映りました。

 金色の車体の鼻先を、静かに水がつたいました。天気雨と思った運転士はワ
イパーのスイッチを入れましたが、何故かワイパーは少し動いただけで止まり、
代わりに一枚の真っ赤な紅葉の葉が空に舞い上がって、3号のシグナルの上に
ふわりと降りたのでした。
313風と木の名無しさん:2010/04/19(月) 12:22:26 ID:h4SAwe7m0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
314風と木の名無しさん:2010/04/19(月) 12:36:17 ID:DlPGVZgIO
>>313
GJ。
きゅんきゅんしながら、リアルタイム更新見ていました。
切な萌え良かったです。
315風と木の名無しさん:2010/04/19(月) 14:25:38 ID:n7NnYBNdO
>>313
3号…°・(ノД`)・°・
良い物読ませてもらいました!
316風と木の名無しさん:2010/04/19(月) 16:48:32 ID:KKEV2y5w0
>>313
未読だったので>>277から一気に読んで、途中からもう目の前がぼやけたよ
切な萌えありがとう
317風と木の名無しさん:2010/04/19(月) 19:38:18 ID:7tYsEsxZ0
失礼します。
ローカルルールの追加のお知らせです。

5)シリーズ物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
 また、長期連載される書き手さんはトリップを付ける事を推奨します。
(参照:トリップの付け方→名前欄に「#好きな文字列」をいれる)
(6)感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
 作品について語りたいときは保管庫の掲示板か、作品が収録されたページにコメントして下さい。

この件に関するご意見ご質問等は会議室にて。
http://s.z-z.jp/?morara
皆様よろしくお願い申し上げます。
318Absolute Zero 0/5:2010/04/21(水) 18:20:54 ID:GsWqJ+iz0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  KOF01より、中ボス×ラスボス
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  公式小説とは矛盾するかも
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ソシテ オソイウケギミ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
319Absolute Zero 1/5:2010/04/21(水) 18:21:39 ID:GsWqJ+iz0
玉座から差し出される白い手に、音もなく触れる。
初めは指先で。続いて包み込む掌で、次には接吻する唇で。
委ねられた手の重みと、肌理の整った皮膚の滑らかさが伝わる。
しかし、何度触れてみても、体温だけは感じられない。

神の座を求め、科学技術による強化を重ねても、生身の人間だ。
血の通った肉体は、相応の温かさを持っているはずだった。
だが、男には何故か、それを感じ取れたためしがない。
薄い皮膚に触れるたび、感じるのはその奥底の冷たさ。
人の形をした身体に、人のものとは思えぬほど静謐な何かが。
しんと冷え切った何かがあるように、男はいつも感じていた。

男がその不可思議な温度を知った契機は、ひとえに総帥の命による。
否、より正確に言えば、彼は組織内で正式に認められた総帥ではなく
実権だけを影から手にした、表向きは一幹部にすぎなかった。

彼が実父たる当時の総帥を消し、組織の全権を一手に掌握した時。
その事実を知らされたのは男を含め、数人の幹部だけであった。
本来そう呼ばれるべき人物を失った今、総帥の座は空席であったが
何故か男は、その子息を――簒奪者にすぎぬはずの人間を
新たな総帥、ひいては自らの主と、ごく自然に認識していた。
仕えるべき相手は彼ひとりと、最初から定められていたかのように。
彼に忠誠を誓い、およそ現実的とは思えぬその志に従うことも
少なくとも男にとっては、至極当然の流れであった。

だが、そうした鋼の如き意志、あるいは忠誠心をもってしても
即座には受け入れることのできなかった指示が一つだけある。
男が未だ忘れることの叶わぬ、全ての契機となった命。
320Absolute Zero 2/5:2010/04/21(水) 18:22:10 ID:GsWqJ+iz0
作戦への指示を与えるのと同じほどの重さで、あるいは軽さで。
眼前で跪く男に対し、要は当然のことのように総帥は命じたのだ。
傍に来て、自分を――有体に言い表すなら、抱くようにと。
実のところ男は、その時の総帥の言葉をはっきりとは覚えていない。
言葉遣いよりも内容そのものの方が、それだけ衝撃的であったのだ。

ともあれ、男はまず当惑し、次には堅く拒んだ。
今や己にとって、否、組織全体にとって絶対の存在。
私情など、いかにして抱けよう。まして欲望など。
それは幾億の命を奪うよりも、なお罪深い所業に思われた。

しかし、逃れようとする男を、総帥は許さなかった。
か細くも見える指で、砕けよとばかりに男の顎を捕らえ。
真紅色の瞳で、射抜くように見据えながら、ただ一言。
――神たる私に、禁忌などあると思うのか。
厳かな、正しく託宣と呼ぶに相応しいその響きに。
それきり男は、抗うことを止めた。
己が欲望を抱こうと抱くまいと、そんなことは問題ではない。
命ぜられたなら、理由など考えず、従わねばならないのだ。
それほどに総帥の存在は、男にとって絶対のものであった。

事実、その遣り取りの直後、男は再び痛感することになる。
主の望みの前には、己の意思など何ら意味を持たぬのだと。
自らが理性と思い込んでいたものは、全くの無力であった。
触れれば身体は自ずと熱を持ち、汗が伝い、呼吸は乱れた。
まるで思考よりも先に、肉体が彼に恭順を示すかのように。
321Absolute Zero 3/5:2010/04/21(水) 18:22:46 ID:GsWqJ+iz0
その様に満足したのか、以降も総帥は男に同様の命を下した。
上辺だけを見れば、主導権を握っているのは男の側であったろう。
しかしその実、優位に立っていると感じたことなど一瞬とてない。
あくまで上に立つのは総帥の側であり、男はそれを拒めぬだけのこと。
いかなる理由によってか求められるのに、ただ応えるだけであった。
己の肉欲も、交わすべき情も、自覚している余裕すらない。
自ら口にすることこそなかったものの、おそらくは総帥もまた。
身体と共に重なるべきものが、およそ二人の間には欠落していた。

もっとも、忘我の淵で一瞬、閃くように何かを感じることはあった。
褥の上に広がる金の髪、焦点を失い視線を彷徨わせる瞳。
あるいは低く掠れる声、抜けるような白い肌に差す鮮やかな朱。
そうした光景が、突き上げるかの如く、不意に心を動かすのだ。
しかし、男はそれを表に出さなかった。必死にそう、努めてきた。
美しさを称える睦言、甘やかな抱擁、あるいは眼差しの一つさえ。
世俗の男女が行うようなそれらは、主の望むところではなく
むしろ、神たらんとする身への冒涜でしかないように思われたのだ。

しかし総帥は、それすらも許そうとしなかった。
男が視線を逸らそうとすれば、鮮やかな紅の瞳はたちまちにそれを悟る。
ほんの刹那であっても、見抜かれずに済んだためしなどなかった。
もっとも、見抜いたところで、整った面差しが怒りの色を宿すことはない。
ただ、戦いなど知らぬかのような細い手が、男の黒みがかった頬に沿い
無造作な、しかし有無を言わさぬ力で己の方に向き直らせるだけである。

強引に視線を合わせられ、男は直視せざるを得なくなる。
総帥の姿を。そして、それを目にして己の内に湧き上がった何かを。
先刻までは閃きのようであったその感覚は、続けばまるで烈日の光だ。
視界から、意識から、他の全てをかき消す、眩しいほどの衝動。
322Absolute Zero 4/5:2010/04/21(水) 18:23:24 ID:GsWqJ+iz0
身も心も逃げ場を失った男を、総帥はその手を伸ばし引き寄せる。
招き寄せるのでも、ましてや抱き寄せるのでもない。
刈り込まれた白い髪を掴み、まるで玩具でも扱うように引き寄せるのだ。
そして、口付ける。
退こうとする男の頭を捕らえ、歯列を割って、深く。
拒む術など、もとより男の側には存在しない。
喉の奥で上げる微かな呻きすら、呼吸ごと飲み込まれてしまう。
互いの舌が別の生き物のように絡み、繋がり合った箇所がぎちりと軋む。
しなやかな白い脚は、容赦のない力で腰を挟み込み、擦り寄せてくる。

額から頬へ、そして顎の先へ。黒い肌を、透明な汗の雫が伝う。
やがて白い肌の上に落ちるそれを、男はどこか他人事のように見ていた。
熱い、のだろう。
皮膚で、あるいはそれ以外の箇所で、交わり触れている全てが。
だが、男にはその熱が、当然あるべきそれが感じられない。
神経を刺激しているはずのそれが、意識にまで届かない。
届くのはただ、皮膚を透き血を凍らせるような、冷え切った静謐。
間近で生じている、濡れた音すらもかき消してしまうほどの。
息を継ぐ間もなく、五感に注ぎ込まれるそれだけが全てとなる。

耳の痛くなるような静謐の後、互いの全身に張り詰めていた力が緩む。
その時に何を思うのか、総帥は決まって微笑んだ。
瞳の深い赤はわずかにその光を弱め、色の薄い唇は形良く弧を描く。
どこを見ているともしれぬその表情は、一分の屈託もなく美しい。
男の心など意にも介さぬ一方、それを隠し通すことは決して許さない。
人らしい感情など滅多に表さない、時に背筋が凍るほど整った相貌が
男を捕らえ弄ぶこの瞬間だけ、唯一満ち足りた様子を見せる。
その姿を目にするたび、男は痛烈に思い知らされるのだ。

これは、情交などではない。
神が人に対し、気紛れに与える、試練なのだと。
323Absolute Zero 5/5:2010/04/21(水) 18:28:02 ID:GsWqJ+iz0

 ____________
 | __________  |
 | |                | |   世界に1人くらい、だいしゅきホールドな
 | | □ STOP.       | |   イグニス様がいたっていいじゃない
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
連投規制ひっかかった、そしてナンバリングがおかしかったorz
これで終わりです。読んでくれた方、ありがとう。
324風と木の名無しさん:2010/04/21(水) 22:04:38 ID:NIubDAamO
>>295
もしかして商売道具の色がお揃いの二人ですか?
325風と木の名無しさん:2010/04/22(木) 01:08:43 ID:lArZz1090
>>324
投下者さんへの質問は、保管サイトの感想板での方が良いかもしれない
ttp://s.z-z.jp/?morara
でも姐さんの言葉でピンときたwありがとう
326風と木の名無しさん:2010/04/25(日) 18:04:54 ID:ZywIlU3z0
生モノ注意

タイガードラマ製作スタッフ&中の人の捏造ギャグです。
チーフD→竹地中の人というか、
チーフDは竹地中の人を美しく撮ることに命をかけています。
ちょっと竹地中の人の出演映画ネタバレもあるので注意。


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
327恐るべき監督たち(1/3):2010/04/25(日) 18:06:25 ID:ZywIlU3z0

O共「えー、これからディレクター会議を行いまーす」
W鍋・M奈辺「うぃーす」
O共「では、まず『O盛君のうなじをいかにセクシーに撮るか』ということについて、
D同士の見解を一致させておきたいと思います」
M奈辺「・・・・・・」
W鍋「他に話し合うことあると思うんですけど」
O共「もちろん。これは話し合いのとっかかりだよ」
M奈辺「ははは、そりゃそうですよね」
O共「そう。大事なのはうなじだけじゃないんだよ。O盛君のいいところっていうのはね、手、目、腰のライン・・・」
W鍋・M奈辺「・・・・・・」
O共「つまり全身・・・そう、全体だ。映像作品とは全体の調和によって、初めて価値が高まるものだからね」
W鍋「前半は意味わかんないけど、後半の意見には賛成です」
O共「そう。だからこそ、O盛君の撮り方について、意見を一致させておくべきなんだよ。
でないと、竹地の描かれ方に、我々の解釈の相違がそのまま反映されてしまう。
O盛君は製作者の心の鏡のような存在だからね。彼をいかに撮るかで、その人間の本心がわかるんだよ」
M奈辺「じゃあ、O共さんの本心って・・・・」
W鍋「しーっ」
328恐るべき監督たち(2/3):2010/04/25(日) 18:07:07 ID:ZywIlU3z0

W鍋「とにかくさぁ、バンバーンと派手に行こうよ派手に」
O共「O盛君の出てた映画あったじゃない・・・・笑う景観ってやつ・・・・」
M奈辺「うーん、あんまり騒がしくしすぎるのもよくないでしょ」
W鍋「でも、幕末なんだから騒がしいもんだろ?」
O共「・・・・O盛君の撃たれるシーンあったんだよね・・・・俺なら、俺ならもっと色っぽく撮ったのに・・・・」
M奈辺「けど、対象はお茶の間なんですから」
W鍋「だからって、毒にも薬にもならない画じゃつまんないじゃないか」
O共「しかも、後輩から殴られるシーンもあったんだ。そういうのもさ、もっとこう・・・・」
M奈辺「やっぱり、フツーの演出が一番だと思います」
W鍋「でも、どの層を基準にした普通なんだよ」
O共「しかも、M佐湖君と一緒にヤクザに殺されそうになり、そこから絆が生まれるというおいしい設定が・・・・
その設定が完全に死んでいたんだよ! ああああ!」
W鍋・M奈辺「(泣いてる・・・!)」


カメラ「W鍋さーん、ちょっとこれ見てくださいよ」
W鍋「ん? どうした」
カメラ「なんかこう、竹地のセクシーショットが撮れたんですけど」
W鍋「あー、これは・・・・・・セクシーだな。なめらかだ。半開きだ。まさに光と影の奇跡だな・・・」
カメラ「で、どうしましょう。本編にはちょっと使えるかどうか微妙っすけど・・・」
W鍋「こういうのはな、持ち主に返すんだよ。O共さーん、O共さーん、いい画取れましたよー」
カメラ「持ち主なんだ・・・・・・」
329恐るべき監督たち(3/3):2010/04/25(日) 18:08:16 ID:ZywIlU3z0

O共「こ、これは・・・」
W鍋「まー、本編にはちょっと使えなそうな画なんですけど」
O共「・・・・・・・・・」
W鍋「ああ、・・・まずかったですか? すいません、勝手にO盛さんのセクシーを撮っちゃって」
O共「・・・・・・・・・」
W鍋「うん、わかってます。こういうのは、O共さんの求めるセクシーじゃないんですよね。
どちらかというとO共さんの求めるセクシーってのは、ストイックというか、
追い詰められた中に発揮される何かであって・・・・」
O共「(ガッ!と手を握る)」
W鍋「!?」
O共「素晴らしい映像だ・・・・ついに君も・・・・この領域に」
W鍋「(うわぁ・・・仲間になったと思われたくないな・・・・)」



W鍋「なんか向こう盛り上がってるね」
M奈辺「O盛さんが砂糖君にポッキーを両端から食べるゲームをけしかけてるらしいです」
W鍋「ふーん、和むねえ」
M奈辺「なんか砂糖君も熱くなってるらしいですよ」
W鍋「そりゃまあ、O盛君に舌入れられそうになったら必死になるわな」
M奈辺「いえ、それがフラン使ってやってるせいで、どちらがチョコのついてる端からはじめるかについてのバトルが・・・」
W鍋「譲れよ。O盛が」
330恐るべき監督たち(3/3):2010/04/25(日) 18:08:43 ID:ZywIlU3z0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
331風と木の名無しさん:2010/04/25(日) 22:08:31 ID:/z9Zdb9y0
これは酷い
332風と木の名無しさん:2010/04/25(日) 23:40:52 ID:AjzDbz86O
よしよし、携帯小説HPに帰ろうね……
333風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 00:08:05 ID:q6RHMdoU0
>>326
超どストライク!
監督sの掛け合いにニヤつきながら楽しませて頂きました
334風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 00:22:21 ID:+qKJH+3R0
>>326
これが小説…だと…?
酷すぎる
335風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 00:31:51 ID:2lex2dgY0
>>326
わいわい会話してる情景が目に浮かぶようでした
チーフDの強すぎる思い入れ、イイです!
336風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 00:41:29 ID:/Je6gXNjP
>>317
(6)感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
 作品について語りたいときは保管庫の掲示板か、作品が収録されたページにコメントして下さい。
337風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 01:08:59 ID:FFrZI4lXO
作品はけなされるし
感想は保管庫へ追っ払われるし
最悪だなここ
338笛と猫 1/6:2010/04/26(月) 02:03:46 ID:SBSewMxT0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマから三條×武智。描写は少しあるけどエロくは無いです。多分…



その夜、自分の前に現れたのは一匹の猫だった。
月の光が落ちる、庭に臨む廊下の板の上。
寝つかれず、寝所を出て柱にもたれるように腰を下ろし、手慰みにと吹いていた笛の音が
不意に横合いからの気配を察し、止まる。
向けた視線の先、あったのは闇の中で煌々と輝く二つの目だった。
迷いの黒猫か。
夜の影の中に輪郭を滲ませた、その正体を三條はそんなふうに思う。
けれど無言で見つめる自分の方へ、やがてゆっくりと近づいてきたその毛並みは、月明かりが
射す場所まで出てこれば、驚くほどの真白だと知れた。
ただ染まりやすいその色は今、闇と月光の双方を吸い取り、鈍い錫色の光沢を放っている。
そんな曖昧な色合いは瞬間、自分の脳裏に一人の男を思い出させた。
だからだろう。
「おいで。」
半ば無意識に唇から零れた言葉と、差し出した手。
手招く己に、その時猫は逃げなかった。
それゆえ、ゆるりと近づいてきたその体を静かにすくい上げ、夜着一枚の胸元にそっと抱く。
柔らかな毛並みだった。
優しく撫でれば輝く瞳は心地よさそうに細まり、小さな口からは短な鳴き声が洩れる。
その素直さがまたしても自分の違う記憶に触れる。
思い出す。
彼は自分の前でけして、こんなふうに素直に啼きはしなかった。
339笛と猫 2/6:2010/04/26(月) 02:04:55 ID:SBSewMxT0
彼が初めて自分の館を訪れたのは盛夏の折りだった。
うだるような京の暑さの中まみえたその姿は、質実にもどこかひんやりとした冷気を
帯びているようだった。
土イ左の荒くれ下司200人を束ねる人物としては、想像していたよりはいささか細身の、しかし
時折上げられる瞳の意思の強そうな光にはやはり目を引かれるものがある。
事実彼が退出した後、周りにいた者達は皆、彼を評して黒曜の石のようだと口にした。
しかしそれをあの時自分は、違和感を持って聞いていた。
黒曜の石。
そんな煌びやかにも輝く玉石ではないだろうと。その実はおそらくは泥に塗れたものであろうと。
三條家は土イ左の山宇知家とは縁戚関係にある。それ故に噂ながらにも知っている。
かの国の苛烈なまでの身分に対する偏重を。
そんな中で下級層出身である彼がどのような手を使い、どのようないきさつを経て、藩の実権を
握るまでになったか。
興味は沸いた。それは周りの者達と同様に。
公家の身の悪癖だ。
遥か昔に政り事の実権は武家に奪われ、残されたのは飾りばかりの高い位と、それと引き替えに
そんな武家に頼らねば生きてゆけぬ程の御家の窮乏。
そして傷つけられた自尊心を紛らわす為とばかりに身を浸したのは、恋と呼ぶには面映ゆいほど
誠の無い色事の享楽。
ゆえの、それは彼自身まったく預かり知らぬ所で起きていた自分達の水面下での駆け引きだった。
朝廷への働き掛けを餌に、皆が彼を手元に引き入れようとする。
それは戯れでもあり、退屈しのぎでもあり、中には本気になる者もあり……
そんな中、自分は果たしてどうだったのか。
利害関係上、彼に一番近い位置にいたのは自分だった。
その自負が自分に優越感を持たせ、同時に……焦燥感も与えた。その末での言葉だった。
『今宵、私のもとに』
座を同じにした宴席の最中、酔いで口を滑らせたようにひそりと告げた自分の囁きに、あの時
彼の肩は見間違えようのない程の震えを帯びた。
彼は酒が飲めなかった。その性質は生真面目で、ごまかす事も出来なかった。だから、
『……はっ…』
やがて短く返されたのは、声と言うよりは吐息に近かった。
そしてそれに潜む彼の胸の内の感情は、この時怒りでも侮蔑でもない、ただひたすらの諦めのようだった。
340笛と猫 3/6:2010/04/26(月) 02:06:09 ID:SBSewMxT0
主の意を汲みすぎる使用人と言うのも困りものだと、その夜御簾越しに彼の姿を見留めた時、
自分の脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった。
淡い行灯の明かりだけが灯る寝所に、綺麗に身支度を整えられて一人座らされている。
その、こんな時にまでひどく良い姿勢は、いっそ奇妙に可笑しくさえ思えた。
部屋に足を踏み入れれば、それに彼は顔を上げる。
そこに浮かんだ表情には、これまで昼の光の下では見た事が無かった幼さのようなものが一瞬見て取れた。
ほのかな明かりを受けて黒い瞳が揺れる。印象の幼さはそのせいかもしれなかった。
意外さに思わず目を奪われる。
けれどそんな自分から視線を引き剥がすように、その時彼は再び顔を伏せるとそのまま自分の前に
身を折った。
発せられた声。何やら懸命な口調で告げられる。それは今彼が身に纏う夜着について触れていた。
真白く繊細な織りの、それは絹だった。
それについて彼は言った。
下司であるこの身は絹を纏う事は許されない、と。
正直、驚きながらも少しだけ…呆れた。
こんな自分達以外誰もいない秘め事の場でまで、国元の因習の縛りに捕らわれる彼が滑稽にも……
どこか憐れだった。
だからきっと、正面から答えても彼には届かないのだろう。ならばすべて戯れにしてやろうと思った。
『着れぬのやったら、すぐに脱ぎますか?』
静かな慇懃さで、告げた言葉に彼はもう一度顔を上げた。
己でも無意識だろう、その反射的に上げられた瞳には明らかに傷ついた色が見えた。
人は昼の彼を黒曜の石のようだと言った。
しかし今自分の前にいる彼は、触れる事にすら躊躇を覚える柔らかな殻のようだった。
あまりに違う印象に戸惑いが隠せない。それでいて、伸ばす指を止める事も出来なかった。
髪に触れ、頬に触れ、ゆっくりと抱き込むように腕をその肩に回し、引き寄せる。
それに彼は一瞬硬く身を強張らせた。けれど結局はそれも頬を埋めた肩先、ひそりと零された
吐息と共に弛緩する。
伝わってくる彼の諦めと瞬間胸に覚えた微かな疼き。
それが痛みだったのだと自分が知るのは、もう少し後の事だった。
341笛と猫 4/6:2010/04/26(月) 02:07:17 ID:SBSewMxT0
何もかもが危うい均衡の上に立っているようだった。
厭うた着物越しに触れただけでその目は堅く閉じられ、その質感ゆえにするりと滑り落ち
露わになった肩口に唇を寄せれば、その呼吸は詰められた。
そのくせその内は熟れていた。
香油を纏わせた指で中を探れば、抱き留めた背筋に小刻みな震えが走る。
傷つけるつもりはなかった。
だから戯れを装いながらゆるく内側を擦り、その身が痛みを覚えぬよう徐々にその数を増やそうとする。
けれど彼はその時、そんな自分の意図を拒絶するように首を横に打ち振った。
『ええです…そんな…』
労わってくれんでも―――
声にならない声までもがはっきりと耳に届いたような気がした。
行為そのものに嫌悪を抱きながら、しかしその肌は触れるほどにその温度を上げ、でも心の芯は
どこまでも潔癖な。
この繋がらなさはどこから生じたのか。
想像はある意味容易かった。
彼の身分とその国の事情を思へば、さもありなんと邪推が出来た。
しかし、だからこそとも思う。
今彼がいるのは彼の国では無い、京だ……自分の手の内だ。だから、
『私が、こうしたいのや』
宥めるように告げた、その言葉に一瞬彼は目を開けた。
信じられないものを見るように、その視線を自分に向け上げてきた。
それは不安定に無防備な、子供のような顔だった。
だからこんな時にそんな表情を浮かべる彼を、自分は刹那、稚くも痛ましく思う。
愛おしいと…想ってしまった。
それから、始め方を間違えたこの抱擁は、与えるばかりのものになった。
遊びでも真実でも、人の恋情には多かれ少なかれ打算が混じる。
気を引き、寵を競い、相手を自分のものにする為に懸命な手を尽くす。
しかし彼には何も無かった。
ただ己が身を貪り食う相手の欲に狂わされ、奪われるばかりだった。
憐れだった。
自分自身が彼を喰らう矛盾を止められないまま、傲慢でも身勝手でも、そう思わずにはいられなかった。
342笛と猫 5/6:2010/04/26(月) 02:08:21 ID:SBSewMxT0
ことりと横で音が聞こえ視線を向ければ、そこには膝から落ち廊下を転がる笛の影が見えた。
胸元に抱かれていた猫がにゃあと鳴く。
それらに物思いに耽りすっかり意識を飛ばしていたと気付き、三條はこの時抱えていた猫を今一度
腕の中深く抱き直すと、もう一方の手を落とした笛へと伸ばした。
拾い上げる、それはあの日吹いていたのと同じ物だった。
視線も言葉も、肌以外何も交わせない情事の後、眠るように気を失った彼を残し自分は寝所を出た。
その手には笛があった。
体にはわだかまる気怠い疲れがあった。それでも寝つける気配は無かった。
それゆえ襖を開け、庭の見える廊下へと下り立ち、その場に腰を下ろす。
そして構える。
笛は三條の家に代々課された家業。幼い頃から手に馴染んでいる。
ゆえの音色はかそけき優美さで夜のしじまを渡った。
どれくらいそんな時間を過ごしたか。
ふいに指の動きが止まったのは、背後に何やら気配を感じたからだった。
振り返る。
そこにはいつの間に目を覚ましたのか、ふらりと立つ彼の影があった。だから、
『起こしてしもたやろうか』
笛を脇に置き、声を掛ければ、しかしそれに返される彼のいらえは無かった。
彼はただ立っていた。光の無い目をして立っていた。
その不安定さが自分の中で言い様の無い焦りを生む。それゆえ、
『こちらに来なさい』
まっすぐに見つめ、差し伸べた手。
それに彼は……静かに足を踏み出した。
一歩一歩近づき、手が重ねられる。それを自分は引いた。
落ちるように崩れたその体を腕の中に抱き留める。
それに彼は抗わなかった。
床の中で長く解けなかった強張りは今は無く、ただ大人しく自分の腕にその身を預けてくる。
その力の抜けた冷えた背を自分は優しく撫でた。
視線を落とす白い夜着は、蒼白い月の光を受けて淡い錫色に染まっているようだった。
それを自分は綺麗だと思う。
だからこの色にしようと思った。
343笛と猫 6/6:2010/04/26(月) 02:10:41 ID:SBSewMxT0
今、朝廷に上奏している幕府への勅使の議が通れば、自分は江戸へと立つ事になるだろう。
それに彼も連れてゆく。
身分を偽らせてでも、側におこう。その為に
着物を用意させる。絹で。
腕の中の動かぬ体を抱きながら、密かに思う。
自分ならば、彼をその身相応に扱ってやれるものを。
しかし彼の心がここに無い事は朧げながらもわかっていた。
孤高で、不安定で、人の手に怯えて……それでいて人の手に馴染み、その中でしか眠れない。
だからそのいびつさを埋める為に、彼は今夜も誰かの腕の中にいるのだろう。
それはまるで罰でも受けるように……
手が背を撫でる。
自分が今触れるのは、彼ではない、温かくも柔らかな毛並み。
それに密かな声が零れ落ちた。
「今夜は、おまえがここにいておくれ」

彼の、武智の代わりに―――

猫は妖しに近い獣だと言う。
だから言葉を解する事が出来るのだろうか。
腕の中で上がる瞳。
それは自分と目が合った瞬間、人と聞き間違う声で、鳴いた。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
三條様に癒しを求めるあまり夢を見過ぎてる自覚はあるw
専スレで家業を教えて下さった姐さん、ありがとうございました。
344風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 11:50:26 ID:9G0jwrp70
>>326
小ネタ、いいね!
某ネタスレでも書いてた方かな
チーフD最萌えの自分には嬉しい…

>>338
待ってました参上さん
離れられなくなる位優しくしてやって!
345風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 17:52:47 ID:E6GPK4s4O
>>338
参上様きたー読みたかったので嬉しいです
やっと先生に優しくしてくれるお方が…それなのに矛盾だらけでやっぱり痛々しい先生に萌えました!
もしかして以前にも投下してくれたのと同じ人かな…?
姐さんの文章と先生受すごく好きです
346春の夢 1/4:2010/04/26(月) 20:58:15 ID:FIP/a4FQO
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

俺屍
男主人公・菊人
日常のひとこま。
性描写はありません。
主人公の性格捏造してますので苦手な人は気を付けて下さい。


「今年でこの桜も見納めかァ」

中庭の桜を見上げながら、男がしみじみと口にした。そっと木の幹に触れて、撫でる。幹のざらりとした感触が皮膚の上を過ぎていった。
「なあ菊人、お前は来年も見られていいよなあ」
妬みや、不満でなく、本当に羨ましいといった風に男は言う。子供のような純粋さで。
「……何が羨ましいんだか」
彼はまだ生まれてから一年少ししか経っていない。
短命の呪い。彼の一族にかけられた呪いは、異様な成長速度と、あまりにも短い寿命をもたらした。四季を経てようやく次の年を迎えたあたり、来年を迎える前に彼らは死ぬ。
「人間様はキミみたいに桜をありがたがるけどさ、何がそんなに良いんだかねェ。
僕にはサッパリわかんないや、春にはぞろぞろ行列引き連れて宴会、酒飲んで酔っ払って、騒いで歌って……まっ、祭り好きな君たちの事だ、そういう乱痴気騒ぎが好きなのは分かるけどサ」
「菊人は桜が嫌いか?」
菊人はさぁね、と誤魔化すように笑ってみせた。
「考えたこともなかったなそんな事。ああ、花びらが地面に散らばって踏まれてンのはみすぼらしいと思うけど」
「そうかあ、俺は好きなんだけどなあ……」
はらはらと花弁が男の肩に舞い落ちる。男は肩に視線を移し、そっと拾いあげた。
347春の夢 2/4:2010/04/26(月) 21:00:45 ID:FIP/a4FQO
「ほら、見てみろよ綺麗だろ?」
「ふぅん、綺麗だから好きなんだ」
「ああ。綺麗なものは好きだ、花も女も……お前もな」
菊人が馬鹿にしたような視線を男に向け、鼻で笑い飛ばした。
「はぁ?! なあに言ってんだか、とうとうモウロクしちゃった?」
「死期は近ェだろうけどよ、そこまでボケてねぇよ。この通りピンピンしてらあ」
死期が近い。冗談めかした台詞にある鋭さに、菊人は一瞬返事を躊躇った。
「それじゃあ春に毒されでもしたんだろ」
「ハハ、相変わらずきっついな」
菊人は桜に近づく。男の隣に並んで、空を仰ぐ。
「俺もさ、前はそんなに好きじゃなかったんだよ桜って。
すぐ散っちまうし、縁起悪いだろ。
でもさぁ、最初に咲いた桜が散ってよ、夏になって……葉桜になって秋になって……でさあ、冬になって待ってるうちに、待ち遠しくなってる自分がいて……あ、俺って桜好きなんだって気付いたわけさ」
「ふぅん。割とどうでもいいね」
「ひでぇなお前。人が真剣に話してんのに……」
「ハハハッ、悪い悪い」
菊人は桜を見た。男が「縁起悪い」と言った通りにすぐ散ってしまう儚い花。

男が不吉を感じたのは、おそらく花に人の生を重ねたからだろうと思った。
永劫を生きる神からしてみれば人間の生は米粒のようなもの。その刹那の生を、咲き誇ろうと藻掻きあらがい、消えていく。

人はあまりにも脆く弱い。

だからこそ、この男を見ていると思うのかもしれない。

「もし、君たちが、朱点を倒して君たちと僕の呪いが解けたらさ、花見に行こう」
人に秘められた可能性を。
神の力だけでは為しえない奇跡。
神と人が交じりて子を産した時、その子は神をも超えし力を持つという。

348春の夢 3/4:2010/04/26(月) 21:05:03 ID:FIP/a4FQO

「僕、いい庭を知ってるんだ。紅い華が咲いてそりゃあ目も眩むほど美しいんだから……」


男は返事をしなかった。
菊人の言葉を聞いて、目尻を緩ませうっすらと微笑んだだけだった。
来年も桜は咲くだろう。
その頃、自分はいない、と。
聡いからこそ、彼は自分の行く末を知っていた。
菊人は歯噛みする。本当に憎たらしい。せめてもう少し愚鈍であったなら、甘い夢に酔わせ続けてやれたものを。

「……だからおいで。僕を殺しに」
自分以外には誰にも聞こえないように囁くと、「何か言ったか」と肩に声が降りてきた。

「ううん、何でもないサ、ちょっとね、他愛いない独り言だよ」
「そっか、それならいいんだかな。なあ菊人」
「ん?」
振り返る。御天道様みたいにカラッと晴れた顔がそこにあった。

「案内、楽しみにしてるな。お前と見る花は綺麗だろうから。ああ、そん為にも朱点を討たないとなあ」
「だっらしないなァ、面倒臭そうにしてさ、嫌なのかい?」
「いやあ、そんなことはねェけど。だってよ、朱点を倒したら、お前元の姿に戻れんだろ?」
まさかそれを言われるとは夢にも思っていなかったので、返答が遅れた。
「え?……ああ、ウン」
今一度向けられた視線は菊人をしっかと捉えて離さない。
「だったら張り切らねえとな」
349春の夢 4/4:2010/04/26(月) 21:10:01 ID:FIP/a4FQO
菊人はそこで初めて知った。
この男は。
この風変わりな男は。
「死ぬ前によ、一度くらいは好きな奴の手に触りてぇじゃねえか」
己の為でも、一族の悲願の為でもなく。
「……我が儘」
「我が儘で悪かったな」

ただ自分が肉体を取り戻せるようにと戦おうとしていることを。

なんて……愚かな奴だ。
家族より血族より、恋した相手をとるなんて。

「ご先祖様が見たら鼻水垂らして泣いちゃうかもね」
「泣かしとけ泣かしとけ。男の人生は一度きり、誰の為に闘うも生きるも、そして死ぬのも全て俺が決めるさ。なあ菊人、今日は随分と暖かいな……なんだか眠くなっちまうぜ、ははっ」

男はゆっくりと瞼を伏せ寝息を立て始める。
声はぬくもりを宿してそこに留まり続ける。
「桜か……ま、悪くない、ね」

半透明の肉体――触れることができず、温かみの通わないはずの身体に、春が滲んだ。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
350風と木の名無しさん:2010/04/26(月) 21:19:25 ID:bwwPneTV0
>>346
リアルタイムでご馳走様でした。
このゲームに限り、性格捏造ってことはないですよ。
まちがいなく他の誰でもない「彼」がプレイ内に存在していたとおもいます。
良ゲーの良レポをありがとうございます。
351「俺たちの季節」 0/3:2010/04/27(火) 01:40:52 ID:h3fH79pF0
SilverSoul(和訳)劇場版より 銀×ヅラ

エロ無しの駄文で失礼します。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
352「俺たちの季節」 1/3:2010/04/27(火) 01:43:06 ID:h3fH79pF0
戦場と化した高杉の船から、無事に脱出できた銀時と桂だったが
パラシュートが風に流されて、海の上に落ちてしまった。

なんとか岸まで泳ぎ着いた頃には、もう日も落ちて
うらぶれた海岸には、小さな街灯が遠くに灯るだけで
辺りは人影もなく、ひっそりと静まりかえっていた。

「・・ったく、もうちょっとマシなやり方はなかったのかよっ!」
ざばざばと波を蹴って、海から上がってきた銀時が
濡れた銀髪をかき上げながら毒づくと
「どさくさで俺にくっついて来たくせに、文句を言うな」
こちらも、濡れて頬に張り付く黒髪を耳の後ろへなで付けながら、桂が返す。

「へーへー、どうもすいませんでした。・・ってか、ココどこだよっ!」
周りを見渡しても、見覚えのない景色ばかりで、銀時が焦りだす。
「随分流されたからな、まぁ、心配はいらん。
 どこに居ようと、エリザベスが迎えに来てくれる」

いつもと変わらず鷹揚とした桂の態度に、銀時は仄かな期待を込めて尋ねた。
「え?なに?お前、からくり嫌いのくせにケータイとか持ってんの?GPSとかGTOとかそういうの?」
「いや。気配で」
「は?」
「エリザベスは、俺の気配が分かるらしい」
「あー・・・そうですか」
『んなワケねえっ!』と心の中だけで突っ込んで、銀時は不毛になりそうな会話を打ち切った。
353「俺たちの季節」 2/3:2010/04/27(火) 01:46:45 ID:h3fH79pF0
とにもかくにも、このずぶ濡れの着物をなんとかしようと、二人は近くの松林まで歩いた。
そこで、重くなるほどに海水を含んだ着物をやっと脱いで、両手で絞ると、手近な枝に干し掛けた。

銀時が、脱いだブーツを逆さにして、中の海水を振り絞っていると
ふと傍らの、夜目にも白い肢体が目に入った。

月光の下、白く浮かぶ艶やかな肌。
そこには不似合いな赤黒い傷が、一筋貼りついていた。

「それは、紅桜に、やられた跡か?」
岡田に、とは言いたくなかった。
銀時の脳裏に、桂の黒髪に頬ずる岡田のにやけ顔が甦る。
胃の辺りがきりきりと痛んだ。
「ああ」
傷の主は、さして気にする風もなく、そう一言頷いただけだった。

「見事にバッサリいかれちまって。よく死ななかったもんだな!」
不快感を吐き出すように言い放った銀時を、桂は横目でちらりと見やって
すっと視線を足元へと移した。
そこには、刀傷のついた古ぼけた本が、潮風に吹かれて僅かに頁をめくっていた。

「・・・この本のお陰で太刀傷が浅くなった。
 もう少し深くやられていれば・・・危なかったろうな」
354「俺たちの季節」 3/3:2010/04/27(火) 01:49:42 ID:h3fH79pF0
ふいに銀時の腕が伸びて、桂を体ごと引き寄せた。
銀髪がふわりと、傷を負った桂の胸に当たる。
「銀時?」
「他人事みたいに言ってんじゃねぇ!俺が、どんなに・・・っ」
桂の胸に顔を埋めた銀時が、言葉を詰まらせる。
傷を気遣うように、桂の背にゆるく回された銀時の両腕が小刻みに震えている。
自分の胸を暖かい滴が伝うのを感じた桂が、驚いたように声をあげる。

「なっ・・泣いているのか?・・・銀時?」
桂の問いに、一息、鼻を啜り上げて、低い声が応えた。
「うそみたいだろ」
「・・・ありえないだろ」
ため息と共にそう呟くと、桂は胸の中の銀髪を
両腕で包み込むように抱きしめた。
「お前が俺の腕の中で泣く日がくるなんてなぁ」

「全くだ・・・ガラじゃねぇ」
ずずっとまた鼻を啜って、銀時が顔を上げた。
「なんとも、情けない面だな、銀時」
「オメーもな。ヅラ」
気付かぬうちに桂も涙目になっていたようだ。
「ヅラじゃない、桂だ」
いつものように返して、桂は優しく笑った。つられたように、銀時も微笑う。
そうして、ゆっくりと、お互いに唇を寄せ合った。

静かに重なる二つの影を、遥か中天に懸かる月だけが見ていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

なんか中途半端ですいませ…っ! お目汚し、失礼しました。
355キスしてみたい 1/7:2010/04/27(火) 07:56:07 ID:EzFYsspH0
ナマモノ注意



邦楽バンド原始人ズの唄×六弦
また書いてしまいました。
以前の話と続いています、すみません。
ローカルルールでシリーズ物執筆者はトリップ推奨とありましたが、
今後の予定が未定ですので、とりあえず今回は名無しで失礼します。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


キスしてみたい(あるいは友情と恋情のあいまいな境界)
356キスしてみたい 2/7:2010/04/27(火) 07:56:41 ID:EzFYsspH0

最近、俺にはちょっとした悩みがある。

ほんの些細なことさ。お気に入りのレコードに針を落とせば、すぐに頭のすみっこに追いやられてしまうほどの。
例えるならそう、のどに引っかかった魚の小骨みたいなもんだ。
気にはなるけど、別に死にゃしない。

何より大切なことは俺の心の真ん中にどっしりと居座っていて、きっともう、どんな事があってもびくともしない。
大切なことは一つだけ、他はどうだっていい。
だから魚の小骨だって、放っておいたって構やしないんだ。

でも―――、やっぱり、気になるじゃんか。
のどに刺さった小骨って、すごく気持ち悪いじゃんか。
好きな音楽聴いてたって、いつの間にかそのことばっかり考えちゃってるじゃんか。

だから、これって些細な悩みなんかじゃないのかも。
もしかしてすごく重大なことなのかも。
そう認識すると、余計に気になって気になって仕方がない。


どうして―――、なんであのとき俺は、マーツーにキスをしたんだ?
357キスしてみたい 3/7:2010/04/27(火) 07:57:37 ID:EzFYsspH0
夜更けのスタジオに2人きり。

一緒に晩メシを食べに出かけたあと、なんとなくまた連れだってスタジオに戻ってきて、そのままだらだらと居残っている。
昼間、ばったり出会ったレコード店で見つけた掘り出し物のレコードは、プレイヤーの上でもう何巡目になるのか。
マーツーはと言えば、お気に入りの1人掛けのソファにすっぽりと収まって読書なんか始めちゃって、完全に長居モードだ。
そして俺は、さっきからそんなマーツーの様子をちらちらと盗み見ていた。

なんでだ。何でこんなことしてんだ俺。

こそこそする必要なんて全然ない。堂々と、思う存分見つめてたっていんだ。俺とマーツーの間にいまさら、変な遠慮なんかないんだから。
マーツーが俺の視線を訝しく思ったとしても、「お前の顔を見ていたいんだ」って正直に言えばいい。そしたらマーツーはきっと「なんだそりゃ」って呆れて笑うだけで、あとは別に気にしないでいてくれる。あいつはそういう男だ。
それなのに、俺はさっきから通学の電車の中で気になる女子を盗み見ている中学生よろしく、数メートル先の男をこっそりと観察している。
バンダナしてないとやっぱり若く見えるなあ、とか、髪の毛ふわふわだなぁ柔らかそうだなぁとか、あ、白髪発見、とか。
伏せた目元に差すまつげの影や、高く繊細に通った鼻筋にドキドキしてみたりだとか。

なんなんだ俺、中学生男子そのまんまじゃないか俺。

そして困ったことに、観察の目が行きつく先は、常にマーツーの口元で。
今はほんの少し口角が上がって、なんだか猫みたいだ。控え目に色づいてる薄い唇。
ドキドキ感が加速する。

……あの唇に、俺はキスしちゃったんだよな……。

毎回毎回、最終的に思考はそこに辿りつく。
そして、思い出すのだ。あの時のことを。
358キスしてみたい 4/7:2010/04/27(火) 07:58:15 ID:EzFYsspH0
心を閉ざし、俺から離れていこうとしていたマーツーが、もう一度俺の手をとってくれた時。
マーシーの望みが、俺と同じ「ずっと一緒にロックンロールをやっていきたい」ってことだと分かったあの時、
俺は嬉しさのあまりマーシーに抱きついて、顔中にキスの雨を降らせていた。
喜びが、あいつへの愛しさが濁流のように俺の心に渦巻いて、そうやって表現でもしなきゃいてもたってもいられなかったんだ。
マーツーはそんな俺の行動を黙って受け入れて、優しく俺の背中を撫でてくれた。
そして、笑ったんだ。穏やかに、目を閉じて。
それはとても満ち足りた、幸せそうな顔だと、俺には見えたんだ。
衝動的に俺は、マーツーの唇を塞いでいた。
その上、突然のことでガードのゆるかった歯列を割って、俺はマーツーの口の中に舌まで差し入れていた。
さすがに俺を押しのけて、非難の声を上げたマーツー。
けれど、言い訳にもならない俺の弁明を聞いて、ため息をひとつ、それだけで俺のしでかしたことを、あっさり水に流してしまったのだ。
キスされたのに。男にキスされて、舌まで入れられたと言うのに。
加害者(?)の俺が言うのもなんだが、ちょっと能天気すぎるこの対応。

真縞昌俊とは、そういう男だ。
359キスしてみたい 5/7:2010/04/27(火) 07:58:58 ID:EzFYsspH0
その後は何もなかったみたいに、以前の俺たちのまま。
むしろ以前より更に関係は良くなったのかもしれない。
マーツーは前みたいに―――、それ以上にリラックスしてよく笑うようになったし、俺はそんなマーツーの笑顔で幸せな気持ちになる。エネルギーを貰ってる。
新しく始める俺たちのバンドはそりゃもういい感じで、日々、スタジオに来ることが楽しくて仕方なくて。
わくわくとした毎日。
万事が順調だ。

ただひとつ、俺の心に引っかかる「魚の骨」を除いては。

ささいなことなのかもしれない。
嬉しくて、テンションが上がってつい、勢いでしてしまったこと。ライブ中に脱いじゃうのと同じレベルの出来事。マーツーだってすっかり忘れてくれている。

でも俺は―――、忘れられなかった。

ささいな出来事だって思い込もうとして、でもできなくて、こんなにもぐるぐる悩んでる。
360キスしてみたい 6/7:2010/04/27(火) 08:00:37 ID:EzFYsspH0
あのときだって、本当はものすごく動揺してたんだ。
衝動的に友情の範囲を超えたキスをしてしまった俺を、少し赤い顔をしたマーツーが非難の目で見つめていたあの時。
笑ってごまかしてみせながら、俺の心臓はドキドキと暴れ出しそうだった。
だって、俺にとってはキスは重要なことだもん。特別な人としかキスはしたくないんだもん。
こう見えても俺は慎み深いんだ―――、ライブ中に全裸になったりはするけれど。
だから、あんなにあっさりと無かったことにされても、それはそれで困るんだ。
何にも気にしてないって態度に、正直ヘコんでたりするんだぜ。
なあ、マーツー、お前、なに考えてる?

それ以前に、俺は――、俺自身のこの気持ちの正体は、一体何なんだろう…?

俺はマーツーと一緒にいると安心する。
楽しくて、ふわふわとした、幸せな気持ちになる。
ドキドキしたりもする。
そして―――、キス、したくなる。


中学生男子と、同級生の女の子なんていう2人だったら、簡単に説明ができるその感情。
でも俺たちはそうじゃない。40をとうに過ぎたオッサンと、その長年の相棒。
ありえない。
マーツーは大切で、かけがえのない存在だけれど、だからこそ、簡潔な“あの単語”ひと言で俺の気持ちが表現できるわけがない。

でも――、だったら、青臭くて甘酸っぱい、このドキドキの正体はなんなんだ?
361キスしてみたい 7/7:2010/04/27(火) 08:01:35 ID:EzFYsspH0
こんな状態で俺の思考は堂々巡りを続けていて、今この部屋にかかっているレコードと同じだ。ぐるぐる考え続けて、もう何巡目なんだろう?
スーヅー・クア卜口のライブ盤は何べん聴いたって最高だけど、こうやって思い悩むのは、正直もう飽き飽きなんだ。

「……………」
俺は大きく息を吐きだした。それは、決意のため息だ。

うだうだと考え込んでたって仕方ない、何にも変わりゃしないんだから。
思い切って行動するしかないんだ。このままじゃ嫌だから。


――そしてこんなにも俺はいま、マーツーにキスしてみたいんだから。


もう一度あの感じを確かめてみようと思う。そしたらきっと分かるはず。
マーツーとするキスの意味が。
俺の中で苦しいほどに存在を主張している、この感情の正体が。


[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

10レス超えてしまうので、ここで区切ります。
長々とすみません。
362風と木の名無しさん:2010/04/27(火) 09:37:34 ID:U561mAp70
>>351
なんとタイムリーな!ありがとうございます!
EDの歌詞の使い所がいいと思いました
363キスしてみたい 1/6:2010/04/27(火) 13:34:49 ID:FJP9bEts0
>>355の続きです。ナマモノ注意

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


「ねえ、マーツー」
意を決して呼びかけると、「なーにー?」と間延びした声が返ってきた。
それでも目線は広げた本に向けられたまま、どうにもこちらを向いてくれそうにない。
仕方ないので俺は、とりあえず読書に夢中な俺の相棒の元へ近寄って行った。
ソファに座るマーツーの前に立つと、「どうかした?」とでも言いたげな無言の上目づかい。その仕草に、心臓をキュッと鷲づかみにされる。
高まる緊張。なんて陳腐で古典的な、俺のこの反応。
どこか冷静な部分が内心で苦笑いしているのを感じながら、俺は気持ちを落ちつけようと、2度3度大きく呼吸をした。
そして、まっすぐにマーツーの目を見て言った。


「ねえ、キスしてもいい?」


言った。言っちまったよ。
ずいぶん唐突な話だ。ムードなんて皆無、不自然極まりないって、我ながら思う。
だってフランス映画みたいに、いいムードに持ってって自然な流れでキスするなんて芸当、俺にはぜったいに無理。
だから潔く直球勝負で行くしかないんだ。びっくりして目をまんまるくさせているこいつには、不意打ちかけたみたいで悪いなぁとは思うけど。
いつもは少し眠たげな目をめいっぱい見開いて俺を凝視しているマーツーは、まるで人に馴れない猫のよう。息をひそめてこちらの様子を窺っている。
悪意はないんだよ、と俺はマーツーに目で訴えかけた。
別にからかってるわけじゃないんだ。そして、強要するつもりもないんだ。
お前がどんな対応をしたって、俺はがっかりしたりしないよ。
俺たちの関係は何にも変わったりしない、そうだろう?
364キスしてみたい 2/6:2010/04/27(火) 13:37:59 ID:FJP9bEts0
だから、そんなに警戒しないでくれ――――。

そんな俺の想いを読み取ってくれたのかは分からない。
しばらくひたと俺の目を見つめていたマーツーは、ふ、と短い息を吐き出して、いつものようなのんびりとした口調で言った。

「……いいよ」

こんなにあっさりOKをもらえるとは思わなかった。
少し拍子抜けした気持ちでマーツーの目を覗きこむと、見返すまなざしが、ほんの少し強いものになって。

「でも、舌、入れるのは……、だめ」
「…………………………」

そんなとんでもないことを、いたずらを嗜めるみたいな「めっ」って顔をしながらさ、舌足らずのあどけない口調で言っちゃって、おまえは俺をどうしたいの…?
……そしてまたこれがほぼ100%天然なんだから、余計たちが悪い。

ほんっと、真縞昌俊という男の生態は、未だ謎に包まれている部分が多いよなぁ……。

なんだかもう色々な意味で腰が砕けそうになりながら、それでも俺はとりあえず、マーツーに神妙な顔をして頷いて見せた。
「分かった」と。
365キスしてみたい 3/6:2010/04/27(火) 13:39:23 ID:FJP9bEts0
「うん、じゃあ約束だからな」
そう言いながら、マーツーがおもむろに立ち上がる。
向うから動かれたことに、俺は驚いた顔をしていたらしい。
怪訝な表情のマーツーが、「座ってた方がいいのか?」と尋ねてくる。
俺はあわてて首を横に振った。
「いや、別に……。返ってありがたい、デス」
「……ソウデスカ」
「………うん、じゃあ…」
「ハイ………」
変に畏まって、ぎくしゃくとした妙な雰囲気。俺はそれを振り払うように咳払いをして、改めて目の前の男と向き合った。
緊張で背筋が伸びる。すると目線が少しマーツーをを見下ろす形になって、そう言や俺の方が背が高かったんだっけ、と再認識。
うつむき気味のマーツーが、ちらりと不安げな視線をよこしてくる。その上目づかいにまたしても心を持ってかれる俺。
やばい、かわいい。心臓飛び出しそう。
俺がみっともなく震えながら細い肩に手を置くと、ピクン、とほんの少しだけマーツーの身体が揺れた。
そして意を決したように顔を仰向かせたマーツーは、「ん、」という短い声と共に目を閉じた。
潔いほど無造作なキスの催促。けれど、俺にはこいつが精いっぱい無理をして、強がって、平気なふりをしているのがよく分かる。
よくよく見れば細かく震えている瞼、緊張に引き結ばれた唇。
全てがかわいくて、愛しくて仕方がない。

俺は、できうる限りそうっと優しく、マーツーの唇を塞いだ。
366キスしてみたい 4/6:2010/04/27(火) 13:39:49 ID:FJP9bEts0
「……ん…」

吐息交じりの声はいったいどっちから出たものなんだろう。
触れ合わせた唇は、べつに甘いなんてことはなくて。
少しかさついた、薄い唇だ。触れていても現実味が薄くて、どこか儚いようなマーツーの唇。
もっと確かな手ごたえを感じたくて、確かにいま、マーツーとキスをしているのだと実感したくて、俺は触れているだけだった唇を深く重ね合わせた。
「……………っ」
おののく身体をぎゅっと抱きしめ、その背中をあやすように撫でさする。
そうすると安心したのか、抱きしめた身体のこわばりが段々と解けていく。
それが嬉しくて、俺の腕の中でリラックスしていくマーツーが愛しくて、この前みたいに、気持ちが溢れだしそうになって。
「…………ふっ…」
悩ましく漏れた吐息と一緒に、引き結ばれていた唇がうすく開かれた。
そうやって無意識なんだろう、マーツーが俺のキスに応えてくれたのが、俺が自制心をあっけなく放り出した直接のきっかけだった。
「……っ、んんっっ!!」
さらに深く重ねた唇、差し入れられた舌。突然激しくなったキスに、当然のことながら驚いたマーツーが抵抗を始める。
けれど俺はその抵抗を許さずに、もがく身体を抑えつけてマーシーの唇を、口内を貪った。
怯えて縮こまる舌をちょん、とつつき、おじゃましますの挨拶をして、並びのいい歯の裏側や、上あごや、口の中の触れられる所を、くまなく差し入れた舌で暴いていく。
押し入った口の中はつるりとして、熱くて、すごく気持ちが良くて。
俺はマーツーとするキスにすっかり夢中になった。
「……ん、ふ……っ、ぅ………」
そうして、長く続くキスで、腕に抱く身体が力を無くしてくったりしてしまうまで。
367キスしてみたい 5/6:2010/04/27(火) 13:40:24 ID:FJP9bEts0
名残惜しい気持ちで唇を離して見れば、半開きのマーツーの唇の端からどちらかのものとも分からない唾液がひとすじ垂れている。
それを俺はベロリと舐めとった。
とたん、思い切り突き飛ばされる。
「っ、うわ……っ、と……っ」
大きく体勢を崩して2、3歩後ずさった俺を、マーツーが手の甲で乱暴に唇を拭いながら睨みつけていた。
「お前……っ、約束違反だろ……っっ」
好き勝手しやがって馬鹿野郎、と語気荒く俺を責めるマーツーの、赤みを増した唇、涙をためた瞳、目の周りを染める赤く上った血の色。

たまらない。

俺は、こみ上げる衝動を抑えるように、ごくりと唾を飲み込んだ。

いや、なんかもう、これは、もう……

認めないわけにはいかないな、と髪の毛をかきあげながら俺は思った。
やっぱりこれはさぁ、愛情ってやつだよ、と。
もちろん友情だって感じている。
愛情と言っても家族に感じるそれと同じなんじゃないかと言われたら、それもそうだと俺は頷くだろう。
俺がこの男に抱く想いは今やいろいろなものを内包して、とてつもなく巨大になっていて。
その大きな袋の中に、俺は未知の感情を発見してしまったんだ。
その未知の感情に、たったいま、はっきりとした名前がついたんだ。
368キスしてみたい 6/6:2010/04/27(火) 13:42:25 ID:FJP9bEts0
俺は、真縞昌俊を愛している。真縞昌利に恋している。

そして―――、どうしようもなく俺はいま、この男に欲情している。


認識してしまえば、すとん、とその感情は俺の心の棚に整理され収まって、我が物顔で激しく主張を始める。
友情に愛情に、欲情まで感じちゃうだなんて、なんてパーフェクトな感情。まったくもって素晴らしいじゃないかと。
早くマーツーと、この感情を共有してみたくはないか、と。

その心の声にそそのかされるように、突き動かされるように。
俺は、妙に晴れやかな気分でマーツーに告げた。

「やっぱり俺さ、マーツーのこと好きだわ」

と。



「だからさ―――――、俺とセックスしてみない?」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

貴重なスペースをどうもありがとうございました。
369風と木の名無しさん:2010/04/27(火) 19:20:59 ID:w+PXmnKg0
>>368
長編乙です!でもなんという寸止め!!
前回のも今回のも、2人のじれじれした感じやまっすぐなかんじに禿萌えました
もし良ければ、続き、お願いします。
370音→日 0/5:2010/04/27(火) 22:46:08 ID:ZhRu8l+yO
今期アニメ・Angel Beats!より。4話後を音無視点で捏造
音無→日向止まりです
二人に萌えが抑えきれない今日この頃

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
371音→日 1/5:2010/04/27(火) 22:51:50 ID:ZhRu8l+yO
空の眩しさに、打ち上がった白球が溶けて見失いそうになる。
彼の目がその行方を捉えきれていたのかはわからない。
けれど、掲げたグローブにボールが吸い込まれていくのがフラッシュバックした瞬間、俺は叫んでいた。
たとえ届かないとしても、走らずにはいられなかった。


「あーあ。優勝目前だったのになー」
「チーム結成すら無理そうな状況からよくやったよ」
「ほんと、人望の差が歴然でしたからねっ!」
「黙れチビレスラー」
「なんですってえぇ!」
グラウンドを後にする道の途中、後ろから日向に肩を引き寄せられた俺は、されるがまま、引きずられるように歩いている。
過剰スキンシップにもそろそろ慣れてきた。端からは間に合わせピッチャーの奮戦を労っているようにも見えるだろうか。
負け試合だったのに、日向はいつもと変わらないどころかそれ以上に、人好きのするまっすぐな笑顔を隠しもせずに向けてくる。
敗北に貢献したユイも相変わらず賑やかだ。こんなことを言ったら容赦なく関節を決められそうだが、
同じレベルでいじり倒し合える日向をわりと気に入ってそうな感じがする。
俺はというと、きっとどこかばつが悪いような、照れくささと安堵が混じったような、よくわからない表情をしていると思う。
「おまえなんてこうだっ」
「いでっ!」
ものすごい音がして、ブーツを履いたユイの渾身のローが無防備な日向の膝下に入った。
「わ」
肩を組まれているから、当然崩れる日向と一緒に沈みそうになる。腰を掴んで体重を支えた。なんとか転倒は避けられた。
俺にぶら下がった状態で日向が背を震わせている。
「大丈夫か?」
「あのアマ……」
ユイは、汗臭い野郎二人がべたべたあつくるしいんだよ! と俺を巻き込んだ捨て台詞を吐き、親衛隊の女の子達の輪へと駆けていった。
最後尾の俺達にきゃんきゃんくっついて歩くのも飽きたんだろう。
でも俺は、彼女に内心ものすごく感謝していた。
あの時ユイが日向に―――。
でも、日向への仕打ちを考えると礼を口にするのもなんとなく憚られて、そのことは黙っていた。
372音→日 2/5:2010/04/27(火) 22:56:36 ID:ZhRu8l+yO
俺達は、死んだ世界戦線という妙な組織に所属している。
ここは死後の世界で、仲間はみんな死んだ連中。
しかも、俺には生きてた頃の記憶がなく、死んだ理由さえわからない。
現世で自分がどんな人間だったかは知らないが、免許もなしに銃火器を使うことになるとは想定していなかったと思う。
それも一人の女の子相手にだ。
記憶が飛んでるのであいにく有効活用できないが、そういった武器の類は生前の知識をもとに製造・調達するという、
とんでもDIY設定がおまけでついてくる。
現実世界なら間違いなくあの世逝きであろう怪我を負ったって、もう死んでるから死にはしない。
時間が経てば治癒してしまうのだから、本当に何でもありだ。
とにかく、挙げればきりがないくらいにまともじゃない。戦線のメンバーも相当な個性派揃いである。
でも悪い奴等じゃない。オペレーションの一環とはいえこうやってつるんだり、本部で他愛のない雑談をしてる時なんかは、
置かれている状況の奇怪さがどうでもよくなることが、最近はたまにある。
けれど、この前の作戦中の出来事は、頭から離れそうにない。
実行部隊が天使エリアでの侵入ミッションを行っている間、陽動部隊は体育館で大規模なライブを始めていた
373音→日 2.5/5:2010/04/27(火) 23:00:26 ID:ZhRu8l+yO
その最中にオーディエンスの前で消えた岩沢。
彼女が話してくれた、無念のうちに絶たれた短い生涯。
かき鳴らされるアコギのストロークと静かな激情を湛えた歌声が、まだ耳に残っている。
歌いきった後、ギターだけを残して岩沢はどこにもいなくなってしまった。
誰にも何も告げず、彼女は彼女の最期を迎えたのだ。

既に肉体的には死んだ人間が死を迎えるとはどういうことなのか。
それは、ここで抗うことを辞めた時に訪れる。
天使に従って模範生徒になるか、あるいは、生前の苦悩から解放されて満たされたと感じるか。
どちらにせよ、思い残すことがなくなったら、俺達は消滅してしまう。
死んだ世界における最期とはそういうことだ。
374音→日 3/5:2010/04/27(火) 23:04:10 ID:ZhRu8l+yO
生徒会チームとの決勝戦。アウトあと一人の場面で、日向がこの世界に来た理由の断片を教えてくれた。
日向は震えていた。そんなあいつを見たのは初めてだった。
日向自身よく覚えていない、とは言っていた。野球少年だった日向は野球によって人生を狂わされ、
そして恐らく自責の念を抱えたまま、ある日敢え無く命を落とした。
「何も考えられなくて、あの時と一緒で。俺とボールと空しかない感じも」
9回裏1点差でツーアウトランナー2・3累、打球はセカンドフライ。
グローブを構える彼の姿に岩沢が重なった。
日向が消えるイメージが脳内で再生される。
俺はあいつに消えて欲しくないと強く願い、叫び、走っていた。衝動だった。
その時だ。ユイが力の限り突っ込んでいったのは。
それがなければ日向は捕球していただろう。今考えても背筋が寒くなる。
「けど、全然同じじゃなかった。だいたいこのチームめちゃくちゃだからな」
「確かにな」
「それに、ここにはお前がいるから」
―――今、なんて。
不意を突かれて相槌も打てない俺に、日向は続ける。
「今日はちゃんと思い出せるぜ。音無、俺の名前を呼んだだろ」
「……」
「ありがとうな」
日向の声がくすぐったい。耳が熱くなる。
お前のこと結構気に入ってるとか、俺にはお前が必要だとか、こいつのストレートな物言いに多少の免疫ができた頃だと
思っていたのに。
強く胸が締めつけられて、何も言えずに俯いた。
あんなところで勝手に消えさせない、ぐらい吐いて格好付けられたらいいのに。
お前に消えて欲しくなかった、と今ここで言えるほど素直になれたらいいのに。
どっちもできなくて、ただ下を向いて、自分の気持ちをかみしめる。
375音→日 4/5:2010/04/27(火) 23:08:32 ID:ZhRu8l+yO
知り合ってほんの短い間に、日向が俺を気にかけてくれるのを、自然と受け入れていた。
それが元々の日向の性格によるもので、たとえ俺だけに向けられるものじゃなかったとしても、それでもいい。
失いそうになってわかった。
俺も日向のことが大事だ。
日向が好きだから大事にしたい。失いたくない。
強く湧き上がる感情を何度も確かめる。
これからも、お前が一人で勝手に満足していなくなってしまおうとしたら、俺は全力で妨げる。
俺にもお前が必要なんだ。
この思いだけは、お前が消えるなんて形で終わらせたくない。
「そんな顔しなくても、お前を残して成仏なんて心配だからできない!」
「……おう! 頼むぜ」
どんな顔してた、とは聞けなかった。
間近の日向はやっぱり笑っていた。置いていかれそうになった子どもに向けるような、優しくてあたたかい笑顔を見て、
日向の言葉はきっと嘘じゃないと思った。

死ぬ前の記憶をなくした俺は、いったい何をしたら満たされたと感じるんだろう。
俺が消えそうな時は、日向に引き留めて欲しい。
そう願っている。
376音→日 5/5:2010/04/27(火) 23:14:36 ID:ZhRu8l+yO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

勢いで書いてから本編見返して辻褄合わせたのは内緒
そうだね侵入班はライブ見れなかったね…
二次創作が増えるといいなーと思っています
ありがとうございました
377風と木の名無しさん:2010/04/27(火) 23:31:00 ID:HvdMEDQJO
グッドマッスル!!
音無は乙女だなあ音無は乙女だなあ
378風と木の名無しさん:2010/04/28(水) 00:39:17 ID:ygVZyVbl0
>>351
GJ!棚で銀ヅラが読めると思わなかったw
タイムリーで萌えましたありがとう
「岡田に、とは言いたくなかった」の一文がすごく好きです。
379風と木の名無しさん:2010/04/28(水) 02:54:34 ID:m8VG3I030
>>376
GJGJGJ!!!
萌え禿げるってこういう事なんだな
380恋心0/4:2010/04/28(水) 16:34:01 ID:zMGd80Fq0
※ナマモノ・エロ有り注意

紙川氏×空澤氏です。
紙川氏が結婚する前の設定
遅いですが具ー単で紙空に萌え過ぎるあまりやってしまいました
初投下です
全くの捏造なので細かい所はスルーしてやってくださいw

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
381恋心1/4:2010/04/28(水) 16:34:50 ID:zMGd80Fq0
初めて彼に会ったとき、その大きな瞳に吸い込まれた。
彼は自分よりも歳上とは思えない程童顔で
驚くほど小さな顔の中に収まっている二つの黒目がちな瞳で興味深げに覗きこんできた。

「紙川です。よろしくお願いします。」
「おうっ、よろしく。紙川って言いづらいから下の名前で呼んでもいい?」
「はぁ…、?」
「それじゃ、ノリpじゃなくてタカpでw」
「…」

初対面なのになんて慣れ慣れしいんだと内心、少し腹立たしく思いつつ
彼が冗談を言って突っ込まれたがっているのは
極度の寂しがりやのせいだということに徐々に気付いた。
そして、誰とでもすぐに親しくなれてどんな場所でもリーダーシップをとってしまう彼に
軽い嫉妬を覚えながらも、何となく一緒にいるのが心地良くて二人でいる時間が増えてきた。
親しくなるまでさほど時間はかからなかったように思う。

「今日は後、何か予定あるのか?」
「いえ、空澤さんは?」
「いや、それならお前んち行ってもいい?」
彼主催の恒例の飲み会の後、いつもそんな会話が続いた。
382恋心2/4:2010/04/28(水) 16:35:53 ID:zMGd80Fq0
「冷蔵庫の中ビールばっかだなー」
一応一言断った後、勝手に冷蔵庫の扉を開いて中を物色している。
「一人暮らしの男の家なんてみんなそんなもんですよ。」
缶ビールの中から見つけたらしいミネラルウォーターを
喉を鳴らしてごくごく飲み始めている。
「ー空澤さん」
「ん?」
後ろから両腕を回して抱きしめた。
項のあたりに口づけたら急に彼が焦り出した。
「水飲んでんだよ!」
「…そのつもりで来たんでしょ?」
「…」
こっちを向かせると少し潤んだような視線が絡まった。
「隆哉…」
自分の名前を呼ぶ彼の唇に口づけた。
唇を割り、歯列を舐め舌を無理矢理中に挿れて絡ませる。
もっと奥に入りたい、彼の奥の奥まで感じたいー
そんな欲望が疼く。
383恋心3/4:2010/04/28(水) 16:36:53 ID:zMGd80Fq0
ベッドへ移動し、お互いに服を全て脱いで抱き合った。
素肌が触れ合う感じが気持ちいい。
空澤さんの耳の中に舌を差し入れ、首筋から下って乳首を舐めると一瞬びくっとされた。
彼の中心に触れて、上下にゆっくり優しく扱いでやると段々硬く熱を帯びてきた。
感じる部分を気持ちよくさせながら、中指を少しずつ挿れていった。
「んっ…」
中指、人指し指、薬指、と自分の指が彼の中に徐々に飲み込まれていく。
中を探っていき、ある一点を擦ると突然空澤さんが「あっ」と声を上げた。
そこを強く刺激してやる。
「あっ…、あっ、隆哉ぁ、もう…」
普段と違う甘い口調で名前を呼ばれて顔を上げると、空澤さんの大きな目に少し涙が浮かんでいる。
自分のものが熱を持ってかなり大きくなるのを感じた。
「挿れていいですか?」
「ん…」
少しずつ自分の張りつめたものを空澤さんの中に埋めていく。
十分ほどこしたにも係わらず中はまだかなりキツかった。
彼の中に入って一つになる、そう考えただけでイきそうだ。
全て中に収めてしまうとゆっくり腰を動かした。
ふと、空澤さんの顔を見ると眉間のあたりに皺を寄せて苦しげに顔を仰け反らせている。
そんな彼を見ていたら抑えが利かなくなってきて
さっき見つけたイイ場所に当たるように激しく腰を動かした。
「…あっ、あっ、あっ、ん…ひっ、あっ」
「空澤さん…!」
「隆哉…隆哉ぁ…、俺、もう駄目っイクっ…」
「空澤さん…!俺も…」
その瞬間、頭の中で火花が散った。
384恋心4/4:2010/04/28(水) 16:37:46 ID:zMGd80Fq0
あれから結局何回もしてしまった…。
隣ですやすや寝息を立てて眠っている彼の横顔を見つめる。
まぁ、忙しくてあまり会えないんだから仕方ない、なんて自分に言い訳をして。
後で体がキツかったらまたうるさく言われるんだろうなー、
このまま時間が止まってしまえば良いのに、なんて思いつつ
こうして彼の隣で眠れることに幸せを感じている自分がいる。

ただ今だけ、今だけ彼は自分だけのものだ。
気持ち良さそうに眠る空澤さんを後ろから静かに抱きしめた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
385風と木の名無しさん:2010/04/28(水) 17:33:50 ID:1Hzxrww60
>>355
GJ!!!
2人の台詞・表情・仕草…すべてがそれっぽくて目に浮かぶようです!
そしてタイトルをはじめとして各所に散りばめられた小ネタ(?)にもニヤリ

次もあっさりいいよって言っちゃうのかマーツー…期待してます
386風と木の名無しさん:2010/05/01(土) 00:09:25 ID:6/swhsuz0
>>368
ものすごくこの二人らしくてもうニラニラが止まらないです!
387陽気な強盗の終末の馬鹿:2010/05/03(月) 02:32:12 ID:IY3UQAC10

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |   陽気な強盗in終末の馬鹿で成→響
                     |   パラレルだから気をつけてくださいってさ!
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|   というか発行時的に結構前のネタですが
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

388陽気な強盗の終末の嘘1/3:2010/05/03(月) 02:33:12 ID:IY3UQAC10
「当然の疑問じゃないか。食事と空気は、生きるのに必然な物だぞ。
そもそも、方舟と言う名が気に喰わない。
方舟というのであれば、人だけではなく動物も乗せるのが必然だろう。
それに、考えても見ろ。
例え小惑星の衝突から生き延びたとしても、生き延びたのが人間だけならそれ以降何を食べて生きていれば良い。
人か?共食いをしろというのか?共食いをしても繁栄できるほど、方舟に人は入るのか?ほら、見ろ。どう見たって行き詰っているじゃないか。全く、後々餓えと酸欠で苦しい思いをしながら死ぬ為に生き延びるなんて馬鹿らしい」
「……そこまで考えられるのは、お前ぐらいだろうな」

響/野の所へと「方舟」の関係者が来たと言う事を聞いた時、成/瀬はあまり心配はしなかった。その代わり、よりにもよって彼の元へ来たその人物の運命に、哀れみを覚えた。
避けられない終末をネタに優越感を得た挙句、人を馬鹿にしようとした報い、という言葉も当てはまるのだが。
結果は全く想像通りで、その上、恐らくは関係者へと語ったのであろう演説を延々と受ける羽目になった。事の顛末を尋ねた時、簡潔に、と言ったはずなのだが、やはりと言うか、予想通りと言うか。結果は見えていたはずなのに、聞いてしまう己が憎らしい。
ああそれとも、予想通りだったから聞いていたのだろうか。

別れた妻の嘘偽りの無い言葉より、的確に未来を示す息子の言葉より。
今はこの男の、ばかばかしくてありえない、ほぼ100%近くを嘘と屁理屈で持って塗り固められている、本当にどうしようもないほどの与太話を、聞きたい。

理由なら――解る。
後少しで、世界が終わるからだ。
389陽気な強盗の終末の嘘 2/3:2010/05/03(月) 02:35:24 ID:IY3UQAC10
一年ぐらい前に聞いたアナウンサーの言葉からは嘘は聞き取れなかった。
大丈夫と言う救いの言葉(つまりは響/野の元へと赴いた、方舟だのなんだのという連中の言ったのと同じ言葉だ)は、耳へと届いた瞬間に「嘘」の一文字に変換されて、終わった。
慰めの言葉は全て嘘。となれば、思いつく言葉は一つしか、無い。
この世界には、逃げる場所など何所にも無いのだ。

持ち前の能力でその事を看破してしまった成/瀬だが、だからなんだ、と言う訳でもない。
今になって度胸が据わった訳でもない。
嘘を見抜ける。真実が解る。全てが見抜ける。
そのお陰で今までやってきて来れたし、捕まることも無かった。
だから、なんだ。
何時かは死ぬだろう。自分も。仲間達も。例え、それがどんな理由であっても。
「真実」と暮らしてきた成/瀬にとって、それぐらいの事実で動揺する事は無かった。
成/瀬を動揺させたと言えば、妻と別れた事と、数年前の事件で犯人の一人の電話からリダイヤルをしたら響/野が出てきた事ぐらいだ。その他はまだ、そう。自分の想定内の範囲で動いている。
例えば…それが、自分や大切な人たちの死に直面していた、としても。

響/野特有の不味い珈琲を入れながら、響/野は明るく笑い話を続ける。
まだ外は落ち着かない。
優越感に満ちた笑みを浮かべた人が来て、何かを言っても、成/瀬も響/野も騙される事は無い。
彼等は騙し、奪い取る方だ。騙される方じゃない。
長年騙し、真実を見抜き、中身の見えない話で人を誤魔化してきた自分達に、軽い言葉は通じない。
まるで彗星など無かった頃のように、まるで昔に戻ったかの様に。
ゆっくりとのんびりと、時間が過ぎていく。
390陽気な強盗の終末の嘘 2/3:2010/05/03(月) 02:54:48 ID:IY3UQAC10
「全く、あの時のお前の作戦と言ったら…いや、私はちゃんと解っていた。解っていたぞ?
だがな、いきなり連れされられるだなんて久/遠は解っていないだろうから、事前に言っておけばあいつの動揺も少なくて済んだ、というかな」

明るく笑い話を続ける響/野。その内容は、本来で有れば人々へと隠し通すべき事のはず。
だが、もうそれも必要ないだろう。
警察など、あって無き者。
自分達の話を聞いて誰かに通報する人なんて居やしない。
店には客は成/瀬一人。響/野の奥方は、昨日から、我等がチームの紅一点や某劇団の俳優達と一緒に騒いでいる。
そう。
店には響/野と成/瀬だけ。昼夜等の関係無く、まるで学生だった頃の様に、強盗だ何て想像せず、地球の未来なんて思いもせず計画を立てる前の如く、あの日あの場所で、成/瀬が一人だけ、イグアナの行進を見ていた頃の様に。

嗚呼それも今となれば「今更」と言う単語に移り変わるのか。
銀行強盗よりもっと悲惨な事になっている外へと思いを廻らし、成/瀬がどうしようもないと微笑み。
そして、釣られるように笑った響/野が口を開いた。
あっけらかんと紡がれる言葉は何の問題も無い、自分や相手のところに来た「方舟」関係者ともう一人の仲間についてだ。

「そう言えば聞いたか。いや、聞いていないだろうな…聞いたら驚くぞ」
「何の事だ?」
「久/遠は、方舟と言うなら動物も乗せろ、と言ったらしいぞ。この間、電話で聞いた。なんともあいつらしいじゃないか」
「ああ……そうだな」

ちなみに当の本人は、数ヶ月前からオーストラリアだ。
このご時勢、一人でちゃんと向こうに行けたかどうだかを心配していたが、先日奇跡的にかかってきた電話で動物達が食べられる為に殺されている、と嘆いていたから元気なのだろう。
何時か嘆くだけではなく、実力行使に出ないか、と言う事が心底心配ではあるが。

391陽気な強盗の終末の嘘 3/3:2010/05/03(月) 02:55:38 ID:IY3UQAC10
自分達の心配は何知らぬと言う様に、空にはぽっかりと現実味の欠片も無く、彗星の軌道が映っている。
成/瀬は知って居る。
あれが何時か人類を滅ぼすと言う事を。そして、きっと響/野も信じているのだろう。
テレビに言われたから、気象庁が言っていたから、と言う訳ではなく、ただ、成/瀬が「そう」と言ったから。
ああそれとも、日に日に大きさを増す彗星に、現実と言うものを突きつけられたからか。
きっと今も空を見れば、さんさんと輝く太陽と、それに負けじと己の姿を主張する、彗星の姿が見えるのであろう。
全ての嘘を見抜ける力を持ちながら、大切な人に対して嘘をつき続けている自分を嘲け嗤う彗星が。

「なぁ、響/野。…もしも明日で世界が終わるなら……」
嘲け嗤う彗星に対抗する様、成/瀬は精一杯の言葉を紡ぐ。
「その瞬間まで、お前と一緒に居たい」

成/瀬の言葉と、響/野の返答にある間は、気心の知れ渡った相棒として、必要不可欠な分しかなかった。

「おおそれは偶然だな。実は私もそう思って居た」
笑って、あっけらかんと言う響/野が嘘をついているわけではない、と言う事は成/瀬には解っていた(そもそも、彼の前では一切の嘘は無効だ)。
だが、自分と同じ思いでその言葉を言っている訳ではない、と言う事も知っていた。

それでも、非常に珍しく、嘘偽り無く笑う響/野を見ていると、己を嘲け嗤う彗星の姿が擦れる。
そうして、それでもまぁ良いか、と言う気分になっていく。
自分の力を持たずしても解る様な嘘をあっけらかんと付き、そして、自分の力が無くては解らないような嘘は決して付かない。
きっと彼は最期まで彼のまま、笑って不味い珈琲を作り、彼の妻に愛を囁き、自分へと信頼と親愛を紡ぎ、仲間達へ微妙な気遣いをして逝くのだろう。
そうして自分は人知れぬまま言うに言えぬ想いを抱き、「一緒に居たい」と言った言葉に返された「私もそう思って居た」を支えに、彗星の日を待つのだろう。



嗚呼、これも、ある意味ではロマンなのかもしれない。
392陽気な強盗の終末の嘘:2010/05/03(月) 02:57:45 ID:IY3UQAC10
  ____________
 | __________  |     全体的にナンバリング間違ったよ!!強盗も嘘も好きでこうなった。反省はしている。
 | |                | |     
 | | □ STOP.       | |     
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
393風と木の名無しさん:2010/05/03(月) 03:14:25 ID:5ONyaVcAO
>>387
素敵でした。その手があったか!という新鮮な感覚
彼ららしさが表現されていて楽しかったです
ありがとう
394板缶 その6:2010/05/03(月) 22:46:12 ID:5Gvd0exD0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |   いつも喋ってるだけの板缶 その6
                     |   今回、缶は気の毒ですごめんなさい。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  時季遅れまくり。規制されまくり。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
395板缶 その6(ホワイトデー) 1/5:2010/05/03(月) 22:47:22 ID:5Gvd0exD0
閏年でなければ、2月は4週間ぴったりしかない。
2月の14日が日曜日だったということは、・・・つまり翌月の14日も日曜日だということだ。
もちろん、特/命係は休みだった。組織犯/罪対策五/課の奥にぽっかりと開いた戸口はまるで洞窟の暗い入り口のようだったし、壁に掛けられた名札は二枚とも裏返されたままだった。
しかしそろそろ日も暮れようかという時刻、その部屋に灯りがついた。
不思議に思った組対五/課の刑事たちが窓越しに覗き込んでみると、見慣れた姿がそこにはあった。
神部だった。

神部はいつものようにコートを脱ぎ、空いた椅子にばさりと放った。今日はMACを持ってきていなかったので、デスクに座っても少しばかり手持ちぶさただった。
わざわざ休日出勤しなければならない用事など、もとよりなかった。もし隣の課長にでも見とがめられたら、確認したい書類があった、と言い訳するつもりだった。さぞ怪訝な目で見られることだろうが、怪しまれたところで神部は困りもしない。
ブラインドの隙間から、弱い西日が射していた。
神部はそれを見てため息をつき、ポケットから携帯を取り出した。
半時間過ぎてもまだ来ない、伊民からの返信を待っているのだった。


***


神部が伊民を誘って飲みに行ったのは、ちょうど一ヶ月前の夜だった。
あの二時間は楽しかったな、と神部はぼんやり思い返して、頬を緩めた。
汗をかいた生ビールのジョッキ、炭火焼きの焼鳥の香ばしい香りが思い出される。
にっくき「杉/下警/部」について滔々と文句を述べ立てながら、そのビールとタバコを交互に口にしていた伊民の横顔も。
カウンターにぐんにゃりともたれかかってこちらを向いた伊民は、確かに微笑っていた。
・・・しかし、その後のことを思い出すと、神部は自分の頬をひっぱたきたくなってしまうのだった。
なぜ別れ際に、あんなことを言ってしまったのだろうか。
確かにチョコレートは持っていった、バレンタインデーだったからだ。つまらないジョークにかこつけてでも、きっとあの男に押しつけてやろうとは思っていた。
だがまさか、まさかあれほどバカなことを口走ってしまうなどとは思ってもみなかった。
396板缶 その6(ホワイトデー)  2/5:2010/05/03(月) 22:48:49 ID:5Gvd0exD0
酔っぱらっていた、魔が差した、口が滑った、・・・この一ヶ月の間、神戸はいろんな言い訳を考えてみたが、そのどれにも心は慰められなかった。
脳裏に蘇るのは、あの瞬間の自分の声ばかりだ。腹に力の入らない、小さな声だったと思う。

『あなたのことが好きなんです』

よりにもよって、バレンタインの夜にチョコレートを渡したタイミングで、そう言ってしまったのだ!
あのときの浮ついた高揚感を覚えている。そしてその後しばらく経って、やっちまった、と自覚したときの頭から冷水を浴びせられたような気分も。

『あなたのことが好きなんです』

「・・・あー、もうっ!」
神部は勢いよく立ち上がって、頭を振った。
相手の性的許容範囲どころか好みのタイプさえ、さらには現在つきあっている女性がいるのかいないのかすらも訊かずに、あんなことを言ってしまった。
どう控えめに考えても大失態だった。
その後、現場で顔を合わせたときも伊民はこれまでどおりの冷ややかな態度を保っていたが、それこそが神部には拒絶を感じさせた。仮にも一晩酒を酌み交わした相手であれば、すこしは親しげな様子を見せてもよさそうなものではないか?
だが伊民はそんな様子はまったく見せなかった。神部にはそれこそが、伊民の「答え」に思われてしかたがなかった。

だというのにいまも、情けないことには神部は伊民の返事を待っている。
あれからちょうど一月経って、忘れたふりをして誘うにはいい頃合いだと思ったのだ。
今日がホワイトデーだということも頭の隅にはあった。
期待するだけ傷つくに決まっているというのに、千に一つ、万に一つの可能性を捨てきれずに出てきてしまった自分を、神部は嫌いになりそうだった。

やっぱり帰ろうか、と思い始めたとき、デスクに置いた携帯がガタガタと震えだした。



***


397板缶 その6(ホワイトデー)  3/5:2010/05/03(月) 22:50:54 ID:5Gvd0exD0
前回と同じく、伊民が待ち合わせに指定してきたのは警/視庁のエントランスだった。エレベーターを降りてホールへ出てきた伊民に、神部は笑って会釈した。伊民も軽く頭を下げて、それに応えた。
「また急に誘っちゃって、すみません」
心にもない台詞だったが、伊民は律儀に答えた。
「いいえ。前から約束してたところで、行けるかどうかはわかりませんから」
「今日はどこへ行きますか?」
「どこでもけっこうですよ。ただし、勘定は俺持ちです」
「割り勘でいいですよ」
「次は俺が奢ります、と申し上げたはずですがね?」
互いに、なんとなく声が硬いと、神部は思った。やはり伊民は、バレンタインの夜に神部が言ったことを忘れてはいないのだ。

すっかり暗くなった官庁街へ出ると、伊民はさっさと先に立って歩き出した。店はどこでもいいと言ったくせに、神部がどこへ行きたいかと訊くこともせず、勝手に方角を決めて歩いてゆく。神部はおとなしくその背中を見ながらついていった。
伊民の足が向かったのは、やはり有楽町方面だった。歩けば20分はかかるが、地下鉄を乗り継いで行くほどの距離でもない。もしかして前回と同じ焼鳥屋へ行くのかな、と神部が思い始めたころ、伊民が不意に足を止めた。
たまに市民ランナーとすれ違うくらいの、人通りのない歩道の上だった。
「警/部補殿、これはこの前のお返しです」
そう言ってポケットから取り出されたものを見て、神部は目を丸くした。
伊民の大きな手のひらに載っていたのは、小さな紙袋だった。百貨店の小袋だ。リボンはかかっていないが、銀色のシールでちゃんと封がされていた。
「なんです、これ?」
「先月、高そうな菓子をいただきましたんでね。もらいっぱなしってのは気が引けるんですよ」
チョコレート、ではなく、菓子、と伊民は言った。
神部はその意味を考えながら、紙袋を受け取った。中身は布だろうか。やわらかい手触りで、軽い。我知らず心が浮き立ち、口もとが緩むのを抑えきれなかった。
398板缶 その6(ホワイトデー)  4/5:2010/05/03(月) 22:55:03 ID:5Gvd0exD0
「ありがとうございます。いま開けてみていいですか?」
「だめです」
「えっ、どうしてです?」
「たいしたもんじゃないんで、うちに帰ってから開けてください」
「いいじゃないですか。伊民さんが何くれたのか、早く見てみたいですよ」
「・・・どうしてもいま開けるとおっしゃるなら、俺はここで帰ります」
低く、ぴしゃりとはねつけられて、神部は言葉を失った。街灯のもとで見た伊民の顔は険しく、彼が本気で言っているのだということが窺えた。束の間の幸福感が砂のようにさらさらと、神部の指の間をこぼれ落ちていった。
「・・・じゃあ、開けません。だから行きましょう」
「ええ」
今度は神部が前を歩く番だった。余裕を失ってこわばったままの顔を、見られたくなかったのだ。

その背中から、伊民の声が容赦なく追ってきた。
「警部補殿、あとひとつ。・・・この間みたいな冗談は、ごめんこうむりますよ」
神部はそのまま走り出したくなったが、ぐっとこらえた。
喉元に鉛の塊のようなものが急にこみあげてきて、顔がかっと熱くなるのがわかった。

最初から、わかってたことじゃないか。

俯いて歩き出しながら神部は胸の中でそう繰り返し、破裂しそうに騒ぐ心臓が落ち着くのを待った。伊民がくれた紙袋をコートのポケットに突っ込み、後ろを振り返らずに速い歩調で歩いた。いかにも不審すぎる態度だと自分でもわかっていたが、止めようがなかった。
背後から、すこし離れて、伊民の靴音がついてくる。
ゆっくりとした足取りだった。


***


399板缶 その6(ホワイトデー)  5/5:2010/05/03(月) 22:56:33 ID:5Gvd0exD0
なにも、世界の終わりがきたわけじゃない。
神部はこれから彼とふたりきりで飲みに行くところだ。
ポケットの中には彼がくれた「バレンタインのお返し」まで入っている。
伊民にメールを送ったときに思い描いていた望みは、すべて叶えられていた。
だからなにも悲しい気持ちになどなる必要はないのだと、神部は自分に言い聞かせた。


もうすこし歩いたら、日比谷の交差点に出る。
そこまで行ったらちゃんと顔を上げて、伊民が追いつくのを待つつもりだった。
「で、今日はどこへ連れてってくれるんですか?」
笑って、さりげない口調でそう訊ねるのだ。
これ以上失わないために。


<おしまい>





  ____________
 | __________  |     なんかかわいそうな缶ですが、きっと大丈夫です。必ず救済します。
 | |                | |     
 | | □ STOP.       | |     
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
400風と木の名無しさん:2010/05/04(火) 00:40:55 ID:XK/xQOBV0
>>394
板缶好きです
切ないけど萌える……!!
401針歩多(孫世代):2010/05/04(火) 01:06:02 ID:osywE6MG0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |   針歩多7巻最後に出てきた子たちの3年後でカプだよ
                     |   キャラ名自体がネタバレだから気をつけて
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|   針銅鑼からの流れらしいよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |


402針歩多(孫世代)-1/4:2010/05/04(火) 01:09:49 ID:osywE6MG0
「何を」
 見下ろせば、血の気の失せた頬はいつもに増して青白かった。シーツの上に散った髪はプラチナ、困惑に揺れている瞳は青灰色。冷たい色ばかりに彩られるスコ/ーピウスの顔の中で、荒い吐息に震えている唇だけが朱い。
「……ジェーム/ズ」
 唾液に濡れた唇がもう一度動いて、仰向いた己の上に馬乗りに座って、自由を奪っている年上の少年の名を呼んだ。
「何って、うーん、賢い君らしくないことを訊くんだな」
 ジェーム/ズは首を傾げて、右手に握った杖をふらふらと振った。
 スコ/ーピウスは、所在なげにジェーム/ズの杖先を目で追いながら、頭の中の混乱を鎮めようと努力しているようだった。
 ベッドの上でねじ伏せられて、唇を奪われて、その次に何が起るかなんて、四年生にもなってわからないわけがない。けれどスコ/ーピウスには信じられないのだろう。
 グリフィンドールの監督生で、親友の兄で、同時に親しい友人でもあるジェーム/ズが、自分に対してこんなことをするのを。
「それよりも、スコ/ーピウス。キスの最中に噛むなんて酷いな」
 ジェーム/ズは非難がましく言い、血のにじんだ唇を杖先で指した。淡い色の瞳にたちまち動揺が走った。
「あ。ごめ、なさい、ジェーム/ズ」
 白い歯列の陰に、震えて縮こまる小さな舌が見えた。
 ああ、可愛い。ジェーム/ズは満足した。スコ/ーピウスは、向こう気が強くて気に入らない相手にはすぐ噛み付くくせをして、好いている相手にはちょっと強く言われただけですぐに、こうやって怯えたような顔をする。まるで嫌われることを怖がっているみたいに。
403針歩多(孫世代)-2/4:2010/05/04(火) 01:11:41 ID:osywE6MG0
「いいよ、別に。これくらい」
 そう言ってやるとスコ/ーピウスがほっと表情を緩めたのが可笑しくて、ジェーム/ズはくっくっと喉で笑いながら、スコ/ーピウスの両手首を纏めて縛って、ベッドのヘッドボードに括り付けた。
 使ったのはスコ/ーピウスの襟首から外したタイだ。緑と銀のスリ.ザリン色が、真っ白い肌に良く映えた。
「これから、僕のほうがもっと痛くて怖いことを、君にするんだからさ」
 ジェーム/ズはスコ/ーピウスの、一番上まできっちり釦の止められた首元に杖を差し込みながら、目を細めて、にっこりと笑った。いつものように。
 金縛りの呪文でもかけられたように、スコ/ーピウスはただ目だけを見開いて、ジェーム/ズを仰ぎ見ている。
 ジェーム/ズは杖先で前立てを持ち上げた。ぷつ、と釦が飛んだ。

 スコ/ーピウス・マル.フォイとアルバ/ス・ポッ.ターは、スリ.ザリンとグリフィ.ンドールの垣根を越えた親友同士だった。
 放課後ともなれば規則破りすれすれの遊びの相談ばかり。そこに悪戯に関する英知ならホグワーツで一番のジェーム/ズ・ポッターが入れ知恵をすれば怖いもの無し、というのが周囲の評判だ。
 いつの頃からだろう。アルバ/スがふとした瞬間に、隣にいるスコ/ーピウスから目を逸らすようになったのは。
 ジェームスが、最初におやと思ったのは、そっぽを向いてうつむいたアルバ/スの眦が、微かに朱に染まっているのを見た時だった。
 きっと誰も、スコ/ーピウスだって、まだ気付いてはいないだろう。秘密を暴くのが大好きで大得意な、ジェーム/ズが一番最初に気付いた。
 アルバ/スの、父親似の緑色をした瞳が、どんなに甘い表情でスコ/ーピウスの横顔を見つめるのかを。
404針歩多(孫世代)-3/4:2010/05/04(火) 01:12:48 ID:osywE6MG0
 
「ずっと前から、こうしてやろうって決めてたんだよ」
 まだ子供の華奢さの消えきらない脚を押し開き、一番奥の、柔らかくて温かい粘膜に楔を打ち付けながら、うっとりとジェーム/ズは囁く。
 啜り泣くような悲鳴が、スコ/ーピウスの唇から絶え間なく上がった。
 どうして。嗚咽の合間、かろうじて聞き取れるのは、繰り返し理由を問う言葉。どうして。理由など、ジェーム/ズには一つしかない。
「何故って、だってね、優しくして甘やかすのは、アルの方が上手だから」
 ふ、と獣のように吐息して、ジェーム/ズはスコ/ーピウスの鎖骨に唇を寄せた。噛み付いたら、白い肌に真っ赤な痣が咲いた。
 素直で正直で優しい弟。アルバ/スと同じことをしても、絶対に自分が負けると、ジェーム/ズにはよくわかっている。だから、正反対のやり方を選んだ。
 怖がらせて脅しつけて、逃げ道を塞いで他の誰も見られないように仕向けて、手に入れてしまおうと決めていた。
「アル……アルバ/ス、アル……!」
 泣き声も悲鳴もジェーム/ズの耳に甘かったけれど、助けを求めるように名を呼ぶのは耳障りだったので、ひたりと杖先を額に当てて黙らせた。
「アルは来ないよ。今夜君を呼び出したのは僕だし、この必要の.部屋は、今は僕の望みを聞いてくれているしね」
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃのスコ/ーピウスを見下ろして、ジェーム/ズは笑った。
 見上げてくる淡い色の瞳を占めるのは、絶望に似た光だった。仕打ちに対する怒りでも嫌悪でもなく、裏切りへの絶望。 
 ずいぶんと、この後輩は自分のことを好いていてくれたのだと、ジェーム/ズは改めて知った。けれど後悔はしていない。傷は大きければ大きいほど、この少年と自分とを深く結びつけてくれるだろう。
「……泣いてくれて嬉しいよ、スコ/ーピウス」
 ジェーム/ズは微笑み、杖をシーツの上に放り捨てた。
405針歩多(孫世代)-4/4:2010/05/04(火) 01:16:13 ID:osywE6MG0

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧  寮名一カ所ずつ伏せ損ねていたorz
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 分割も3つでいけた見苦しくてスマソ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

406風と木の名無しさん:2010/05/04(火) 20:10:38 ID:/eXJcC+i0
>>394
続きが読めて嬉しいです!
救済を…ぜひとも救済をお願いします!
切な萌え、ごちそうさまです。
407風と木の名無しさん:2010/05/04(火) 21:33:28 ID:lKoFWUHoO
>>394
GJ!と言いたいけど、ぜひ救済を…
心臓に悪いので早目に救ってあげてください!
408某王求団 頭首×保守:2010/05/04(火) 22:09:13 ID:GbEJwnlf0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |   某王求団 頭首×保守 だモナー
                     |   有り得無さ過ぎる馬鹿話だモナー
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  モデルはいるけどとても言えないカラナ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 保守は腰が大事だゴルァ!!
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
409某王求団 頭首×保守 1/7:2010/05/04(火) 22:10:06 ID:GbEJwnlf0
そこをならすのは保守自身だ。
慣れた手つきでクリームを塗り、できるだけ滑らかな挿入ができるよう予防する。
頭首は、すでに昂っている。
話しが頭に入る状態では無いのだ。
こちらが冷静でいるしかない。

いつからだろうか。
試合前のこの時間、保守はロッカーで頭首を受け入れるようになった。
ある日、先/発を任された頭首に頼まれたのがきっかけだ。
最初こそ断ったが、あまりの頭首の気迫に折れたのだ。
バッ手リーは運命共同体。信用と信頼。
そうする事で何かが変わるとは到底思えなかったが、
連敗続きだったその当時、藁にもすがる思いだった。
その日、チームは連敗をストップした。
偶然にすぎない。そんな事はわかっていた。
しかしそれ以来その頭首が先/発の日には必ずロッカーで彼を受け入れた。
ロッカーでの行為は、当然他のチー/ムメイトにも知れ渡る。
結果、その日の頭首が望めば、保守は誰でも受け入れるようになった。
恋愛感情など無い。
ただその昂りをぶつけられるだけの行為に、保守は耐えた。

最近はほとんど求めてこなかった彼が、今日は目の色を変えて保守の所へやってきた。
410某王求団 頭首×保守 2/7:2010/05/04(火) 22:10:44 ID:GbEJwnlf0
彼は中/継の頭首だ。
今日の先/発は保守を求めなかったので、安心していた矢先だった。
それは昨日の試合。
チー/ムは必死の思いで同点までこぎつけた。
ここを抑えて次の回で逆転する。誰もがそんな願いを持ってその試合に挑んでいた。
次の回の裏を投げるのは抑えの頭首だ。
その抑えの頭首にたすきを渡すのが彼の仕事だ。この回、なんとしてでも点を入れてはならない。
しかし彼は打たれてしまった。
サヨナラのランナーが彼の目の前を笑顔で駆け、仲間たちに迎えられているのを、ただ呆然と見ていた。
その頭首を、保守は見ていた。
頭首は、保守のリードする場所よりもやや高い位置に投げてしまった。
そして、打たれた。
頭首の落ち込みは計り知れない。戦犯と言われた。

「いいですか。」
そう言うと、頭首は保守の返事を待たず、ロッカーに向かった。
前日にこっぴどい負けを味わった時、たまにこの目をする、と保守は思った。
こういう時の彼は誰にも近づけない。
濃い色のオーラが渦を捲いているのが見えるかのようだ。
自分より一回り以上年下の彼が、少しだけ怖く思えるほど。

保守はいつものように自分でならそうとクリームを取り出す。
そのクリームを、頭首が取る。
「俺がやります。」
「あ…?」
411某王求団 頭首×保守 3/7:2010/05/04(火) 22:11:48 ID:GbEJwnlf0
頭首はクリームを指につけると、保守を前から抱き込んだ。
そこをグルリと撫でる。
「…てめ…っ」
挿れる以外の行為はした事が無い。
愛撫などもちろん無い。相手自身を受け入れる事しか知らない。
クルクルと撫でられたあと、そのまま中指が挿入された。
意思を持った別のものに支配され、中を掻き回される感覚。
保守は戸惑った。
「…いい、自分でやるからちょっと待ってろ」
「いえ、ちょっと我慢できないんで。」
「わぁかったからいいから指抜け」
「いえ、…」
まるでマウ/ンド上でサインに思い切り首を振られたかのように。
ここに向かってこいとグラ/ブを構えているのに逆に投げられた時のように。
言う事を聞かない。
保守の下腹にゾワゾワと知らない感覚が湧きあがる。
立っていられなくなり傍にあった机によろめくと、そのまま仰向けに倒れた。
その上に頭首が覆いかぶさる。
いつも主導権は保守が握っていた。
挿れられていても、支配しているのはこちら。
そういう意識があった。
頭首がジッと保守の顔を覗き込んできたので、
柄にもなく顔が赤くなるのを感じた保守は目を逸らした。
412某王求団 頭首×保守 4/7:2010/05/04(火) 22:12:23 ID:GbEJwnlf0
うちの球/団には似合わぬ整った顔の子が入ってきた。
入/団当時の頭首はそんな風にもてはやされていた。
最近では整った顔の新人が次々と入り珍しくもなくなったが、結婚してもなお彼の周りには女性ファンが絶えない。
その整った顔が保守を見降ろし、下では長い指が保守の中を掻き回す。
保守は反応しそうになっている自分に気づいた。
このままでは翻弄されてしまう。
「…もういいから入れろよ」
声が上ずらないよう、平静を装って促す。
「…はい。」
今度は素直に従った。指を抜き、そこに自身をあてがう。
そして、ゆっくりと挿入した。
正常位で突かれるのは初めてだ。
いつもは顔を合わせないようバックから挿入させる。
自分の昂りを治めるためだけに集中しろ、と、頭首には自由に突き上げさせた。
それは保守にとって苦痛でしか無かった。
それなのに。今日の頭首は挿入してからもユルユルと動くばかりでずっと見つめてくる。
実にやりにくい。
「…っさっさと動けこの野郎!こんなもんに時間かけんじゃねぇよ」
「…今日はこうしたいんです。僕の好きにさせてください。」
「あぁ?」
「お願いします。」
いくら威圧しても、組み敷かれ挿入されている状態ではどうにもならない。
中をこするようにユルユルと動く腰はとても居心地が悪い。
自分の中の何かを壊されそうな恐怖感が保守を襲う。
頭を振って正気を保つしかない。
その視線から逃れるようにギュッと目を瞑り、早くこの行為が終わるよう願った。
そのなんとも言い難い時間は、突然変化した。
413某王求団 頭首×保守 5/7:2010/05/04(火) 22:13:12 ID:GbEJwnlf0
保守の腰がビクリと跳ね、息を飲むような声が漏れてしまったのだ。
驚いて目を開けると、そこにはまじまじと自分を見つめてくる頭首の目があった。
いつもと違う色をした頭首の目が、また別の色に変わるのを見た。
頭首は保守の膝裏から手を回し、足を持ち上げる。そしてそこを擦るように執拗に腰を動かし始めた。
やめろと叫びそうになる。
身体が痺れたように自由が効かない。
何かに飲み込まれそうな感覚に保守の全身に鳥肌が立つ。
その反応を見て、頭首はだんだん速度をあげ、小刻みに擦った。
保守の口から荒い息が漏れる。
こんな事は初めてだ。このままでは本当に飲み込まれてしまう。
抱えあげられた足がビクビクと動くのがわかる。
今まで経験した事の無い違和感が絶えず下腹部に湧きあがり、自分では抑える事ができない。
たまらず首を振る。
頭首の唇が保守の頬に落ちた。
なんてことしやがる
そう毒づきたかったが、保守はもうどうにもならなかった。
完全に翻弄されている。
そんな自分を自覚し、赤面した。
下腹部を湧きあがる波が広範囲に広がり、いよいよ昇りつめてきそうになった。
「やめろ…てめぇ早くイけ馬鹿」
絞り出すようにそう呟くと、保守は浅くなった息を整えようと、深く息をした。
だが、それがかえって快感の波を誘った。

今まで感じた事の無い強い快感に、保守はとうとう飲まれた。
414某王求団 頭首×保守 6/7:2010/05/04(火) 22:14:21 ID:GbEJwnlf0
「うぁっ…あ…あ!」
腰が浮く。
勝手に溢れてきた涙が一筋頬を伝う。
絶頂を迎えているような気がする。
しかも、その状態が通常より持続している。
保守には自分に一体何が起こっているのかわからない。
できる限り声を出さないように、体を痙攣させないように、ただただ絶頂が去るのを待った。
頭首の胸元を押しこの行為を拒否しようと試みるが、腕に力が入らない。
行為は続く。
絶頂は去った。
しかし、しばらくするとまたやってくるのだ。
頭首は止まらない。
幾度目かの絶頂を迎えた時、保守はもう懇願するしか無かった。
首を激しく横に振り、頭首の胸を押す。
「………む、無理………」
「はい。わかりました。」
やはり素直に言う事を聞いた頭首は、体制を変え、いつものように好きなように腰を動かし、自身の熱を放った。

やっと終わった、と安堵し、ぐったりと目を瞑る保守の頬に、また頭首の唇が落ちた。
だからなんてことしやがる
と思ったが、もう言い返す気力も無かった。
415某王求団 頭首×保守 7/7:2010/05/04(火) 22:15:12 ID:GbEJwnlf0
「てめぇ…これから試合だっつーのに…」
保守の腰はわずかに抜けているようで歩くのがままならない。
「今日スタ/メンじゃないみたいです。」
「…あ?」
「今日は○○が…。」
「…なんで知ってんだよ。」
「さっき保守さんがトイレに行ってる間に言ってました。」
「…じゃあなんでおめーは俺に頼んだんだよ」
「え、今日スタ/メンじゃないって言ってたから…」
「逆だろ!受ける保守にやって貰えよ馬鹿野郎」
「いや、自分は保守さんなんで。」
「はぁ?!」
意味がわからない。
何だか知らないが自信たっぷりの顔でそんな事を言ってくる頭首に保守は呆れた。
彼がどういう人間かは保守にはわかっている。
単純に、大真面目なのだ。
突然あんな事をしたのも、理由はなんとなく察する事ができる。
だが理解はできない。
しかし頭首に「説明しろ」と言ってもよくわからない空中分解した答えが返ってくるのは目に見えている。
保守は諦めた。
「なんか、良かったです。ちゃんとできて。」
整った顔が爽やかにそんな事を言ってくる。
保守は眩暈がした。
「おめーには二度とやらせねぇからな」
爽やかな顔が目を見開く。
困惑した顔でわけがわからないながらも謝ってくる。

保守は、諦めた。
416風と木の名無しさん:2010/05/04(火) 22:16:48 ID:GbEJwnlf0
  ____________
 | __________  |     
 | |                | |     
 | | □ STOP.       | |     
 | |                | |           ∧_∧   ムラムラしてやった。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )  今は反芻している。
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
417東京がす1/3:2010/05/04(火) 22:21:01 ID:BctKmqGR0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!東京gasCMより

俺の名前はシマブキヒトシ。
東京のガス会社の社員だ。
今日も俺は自社製品のメンテナンスに勤しんでいた。
上品だが、なぜか俺にはいつも厳しい老婦人のもとを訪れるのはこれで何回目だったか…

「ねえ貴方、割のいいアルバイトに興味ない?」
俺がガス機器のチェックをしていると、不意に老婦人がそう切り出してきたので、俺は生返事を返した。
「ああ、最近不況ですからねえ。残業代も出ないし、興味あるかも…」
「じゃあ決まり。うちの留守番一泊二日で。報酬は、お宅んとこの新製品の設置を考えるってことでよろしくね」
俺がなんちゃって、と続ける前に、老婦人がそう言い放ったので俺は二の句が継げなくなった。
副業は基本的にアウトである、が、自社製品の購入をちらつかされては…俺が迷っているのを見て取ったのか、
老婦人は「あんた、うちのミーちゃん(仮名)がどうなってもいいの、前回なんてペットホテルに預けたらかわいそうにやつれちゃって(以下略)…!」
となったので、俺はもう降参するしかなかった。最初から選択肢もなかったような気はしたが。しかし、俺は最後のあがきと思いついた。
「あ!あの、そういえばいらっしゃいますよね、下宿人の方が!鎧?の!!その方に…」
「ああ、ノブナガ?あれに防犯が務まると思ってんの?くれぐれもよそ者とか入れないようにして頂戴よ」
剣呑な目つきで老婦人にそう言われ、本当にノブナガだったんだ…と感慨にふける間もなく、「頼んだわよ」と言われてしまい、
俺はその頼みを引き受けることになったんだ。
418東京がす2/3:2010/05/04(火) 22:22:19 ID:BctKmqGR0

「おじゃましま~す・・・」
俺が勤務を終え、老婦人宅に向かったのは日が暮れてからだった。ダイニングには家のカギと、伝言が置いてある。
【ノブナガには台所に触れさせないこと。森に注意。留守頼む。 ミーチャンの母より】
「一番目はわかるけど、森・・・?」
俺が悩んでいると、後ろから突然肩を叩かれた。まったく気配を感じなかったので思い切りおののく。
「あれ、お客さん?」
後ろから呑気にそう言ってきたのは、噂の主、ノブナガ(下宿人)であった。俺は心臓を押さえながら、挨拶を切り出した。
「こんばんは、あの、私ガス会社の…ってもしかして何にも伝わってなかったりします?」
「ん?何が??」
「本日お留守番を言いつかりました、シマブキヒトシです」
「ああ!君ね!!ふーん…」
俺が自己紹介すると、ノブナガは俺を興味深そうに眺め始めた。何なんだろう、この人。っていうか、
この人って本当に『あの人』なんだろうか。俺がこの際聞いてみようとしたところ。
「ガスの人ってことは、アレ使えるよね!ねえ~何か作ってよ~」
ノブナガと思われる人は、急におねがい☆モードになり、周囲をうろうろし始めた。アレというのは調理器具を指すらしい。
改めて冷蔵庫の中身を確認してみる。
「何かって、そんな急に言われても…」
「ふうん…君ってあんまり器用じゃないタイプ?前の子はちゃっちゃとやってくれたんだけど」
俺は思わず冷蔵庫の物を取り落してしまう。その反応こそがダメなんだ、と思ったが、遅かった。
「しかも粗忽者…何、ドジって言うの?というより、出来の良い兄貴を気にしてるダメな弟タイプ?」
ノブナガからはさっきまでの子供のような表情が抜け落ちている。俺のほうを見下ろしながら、厭らしい感じの笑みを浮かべている。
猫が鼠を構うときの感じによく似ていた。ミーちゃんはどこに行ったんだろう、と俺はふと思ったが、口から出たのは全然違うことだった。
419東京がす3/3:2010/05/04(火) 22:23:29 ID:BctKmqGR0
「やっぱり、あんた、気づいてたんだな」
「そりゃあ気づくよ~そっくりなんだもん。何その眼鏡。双子?」
ノブナガは俺の眼鏡に手を伸ばそうとしたので、俺はその腕を引いて阻止した。
「弟だよ。兄貴は…あんたがあっちの世界に『帰って』、気にしてたんだよ。それを呑気に…」
「気にしてたんならよぉ、引きとめたり追いかけたりしてくれてもよかったんじゃね?」
ノブナガは急にヤンキーのような座り方で言い出す。彼のしゃべり方は本当に安定しない。俺はイラッとした。
「兄貴はなあ、まだ例のプリクラ貼ってるんだぞ!おまえは知らないと思うけど…」
「プリクラって、これのこと?」
ノブナガは急に懐から携帯を取り出してきた。確かに色あせたプリクラが貼ってある。しかも最新機種のようだ。俺に見せつけるようにしながら語る。
「メルアドも教えたのに、彼ったら器用だしモテるじゃない?連絡くれないのよ~」
「って…えっ!?メル友??今あんたがこっちにいるの知ってるの!?」
「そりゃ、こっちの世界の友達少ないから。まあ、あっちでもそうだったんだけどね」
言いながらノブナガは笑っている。さっきまでの嫌な感じはもうしない。さっきは、何だったのか…というか、俺は単なるおせっかいだったのか。
「俺、てっきりあんたが兄貴のことも忘れて好き勝手やってるとか思って…ごめん」
「いいけど、まあ年長者への口の利き方がなってないよね、現代っ子は。謀反レベルだよ」
「すぐ!今すぐぱぱっとコンロやりますんで!!」
「気まぐれクッキングじゃ駄目だからね」

俺とノブナガとの邂逅はこんな風に始まったのだった。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!モウチョットツヅクヤモ。
420風と木の名無しさん:2010/05/04(火) 22:37:31 ID:Oqt1dt4J0
>>394
板缶姐さんキテター!!
規制解除おめでトン!
片思いぽくきゅんと来ましたが、やはり可哀相なので早く救済してやってください。
421風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 09:40:03 ID:gyGUncnw0
>>419
そのCM大好き。超GJ!!
422風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 13:35:38 ID:iA+tx9JfO
>>394
ああ、板缶姐さん久しぶりです!待ってました。
切ない系でくるとは…缶と同じく自分の胸まで痛い…
救済!?ああ、良かった…缶救済編待ってます!
423風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 16:52:56 ID:V7pBmrI70
ローカルルール追加分再掲
(6)感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
 作品について語りたいときは保管庫の掲示板か、作品が収録されたページにコメントして下さい。
424風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 20:06:34 ID:SOplfbt5O
「ほどほど」にしか見えないんだけどな
拡大解釈はやめなよ
425風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 21:25:29 ID:0FnrXbRN0
相棒801ジャンルって頭のおかしい霊前の姉の人とかの粘着飼ってて
棚もばっちり目つけられてるのに投下できる&姐さん姐さんと
信者感想を連ねるのは相棒スレ住人流石だな
ただ>422のレスの書き方はモメサーのわざとらしさぷんぷん
426風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 21:35:15 ID:vx96O09zO
>>425が知りすぎてる件w
自重してればバレないのに、馬鹿なモメサだな
427Ground Zero(前編) ◆SXgBVRgXXw :2010/05/05(水) 21:37:35 ID:1tf2ouLN0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | KOF01より、中ボス×ストライカー(部下の方)
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 公式小説読まずに捏造気味
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ マタカヨ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
428Ground Zero(前編)1/5 ◆SXgBVRgXXw :2010/05/05(水) 21:38:04 ID:1tf2ouLN0
男が治療室を訪れた時、部下は文字通り死んだように眠っていた。
肉体の損傷は既にないも同然、記憶データの修復も完了している。
しかし、あとは目覚めを待つばかりという状況にもかかわらず、
寝台に横たわる彼の姿は、生気というものをほとんど感じさせなかった。
褐色の肌はやや青褪め、鍛えられた手足は無防備に投げ出されている。
呼吸のたびに上下する胸の動きも、注意深く観察してようやく見えるほどだ。
心拍と脳波を測る計器の音がなければ、遺体安置所と見紛うほどの静謐。

男は寝台の縁に腰を下ろし、改めて部下の姿を覗き込んだ。
シーツの上へと無造作に置いた手が、横たわる褐色の指先と触れ合う。
意図せずして触れたそれは見た目より冷たく、男をわずかに驚かせた。
無論、冷たいとはいえ死人のそれではない。
微かな湿気も感じるところからして、清拭の直後ででもあったのだろう。
しかしその冷たさはやはり、男の記憶にある部下の印象とは程遠い。

――要らぬことをしてくれる。
今はもういない、自らと同じ遺伝子を持つ者に対し、男は内心で呟く。
自らもクローンでありながら、いや、クローンであったからこそなのか。
まだ利用価値のある戦力を、独断で使い潰そうとした愚かな男。

確かに、組織の誇る科学技術は、戦力としての人間を容易に生み出せる。
優れた戦闘員を規格品のように複製し、量産品のように使い潰せるほどに。
だが、男のクローンであった彼は、ひとつ重大な履き違えをしていた。
規格品だろうが量産品だろうが、生み出すには相応のコストを要するのだ。
まして、組織が擁する技術の粋をもってしても、自我までは複製できない。
優れた身体能力と安定した精神、そして忠誠心を全て兼ね備えた人員は
幹部を含めた組織全体を見渡しても、未だ数えるほどしかいないというのに。
その貴重な戦力を、かのクローンは惜しげもなく捨て駒として用いたのだった。
429Ground Zero(前編)2/5 ◆SXgBVRgXXw :2010/05/05(水) 21:38:51 ID:1tf2ouLN0
男がそれを知ったのは、作戦が失敗に終わり、事後処理も完了した後のこと。
だが、男は悼むことなどしなかった。組織の技術は、そのためにこそ存在する。
母体から生まれた人間であろうと、培養槽で生まれたクローンであろうと同じ。
不用な者は廃棄される。だが有用な者はそうある限り、死ぬことを許されない。
それこそが己も含め、組織に属する者の宿命なのだと男は考えていた。

肉体の損傷を修復し、あるいはその代替を用意する。
一時は消去された記憶データを復元し、生前のそれと繋がるよう再構成する。
そうした、いわば人間として最低限の蘇生にすら、一年以上の時間を要した。
実戦に参加できるレベルにまで回復するには、さらに時間がかかるだろう。
だが、そのために必要不可欠な――当人の意識が、未だに戻らない。

青年の蘇生が始まってからというもの、男は毎日この部屋を訪れていた。
横たわる彼の傍にしばし留まり、経過を観察してから本来の職務に就く。
肉体の蘇生は成功した。理論上は、いつ意識が戻ってもおかしくない。
だが彼は目覚めなかった。男は毎日訪れ、そのたびに期待を裏切られた。
有能な人材だ。健在でさえあれば、直近の作戦にも同行を命じただろう。
彼の死を悼んだことこそなかったが、不在を惜しんだことは数知れない。
たとえば今、横たわる彼を、片時も目を離すことなく見守るこの瞬間も。

しかし、総帥から直接に与えられる任務は、当然ながら私用に優先する。
時計を見れば、文字盤は既に立ち去るべき刻限を示しつつあった。
戻らねばならない。男は腰を上げ、寝台に置いていた手を離そうとして――

その時不意に、指先に小さな手応えを感じた。

振り返る。
何気なく触れ合ったままでいた、青年の手が震えていた。
目視では見逃しそうなほどの、微かな動き。
だが肌で感じ取るには十分の、確かな動きで。
430Ground Zero(前編)3/5 ◆SXgBVRgXXw :2010/05/05(水) 21:39:44 ID:1tf2ouLN0
――意識が、戻ったのか。
男はすぐさま寝台に向き直り、部下の顔を覗き込んだ。
しかし彼はそれ以上動くことなく、変わらぬ無表情で眠っている。
生気を感じさせない姿のまま、呼吸だけを規則的に繰り返して。
ただ指だけが、解けるでも縋るでもなく留まっている。
離そうと思えば振り払うことすら要しないほどの、極小の力で。

何故か、ひどく弱々しいと感じた。
十分な戦闘能力を持つ部下であることは、熟知している。
当然だ。彼はそのように造られ、強化を受けてきた。
しかし、意識の戻らぬまま、男の指に触れて眠る彼の姿は
それとは無関係に脆く見え、このまま立ち去ることを躊躇わせた。

再び寝台に腰を下ろし、先刻微かな震えを感じさせた手を取る。
両の掌で包み込むと、またしても応えるように指先が震えた。
それは目覚めの前兆なのか、単なる筋肉の反射にすぎないのか。
組織の科学技術をもってしても、他者の意識までは読み取れない。
しかし男は、その手を離さずにいた。
それで部下が目覚めるなどと、予測したわけではない。
ただ、そうせずにはいられなかった。理由も、根拠もなく。

最初に感じた冷たさは、時間の経過と共に薄れていった。
当然だ。人工的に創り出されたとはいえ、生身の肉体である。
本質は母体から生まれた人間と変わらぬ、血の通ったそれだ。
負傷すれば出血を伴う。死が迫れば、恐怖を感じる。
違いなどない。何一つ。
431Ground Zero(前編)4/5 ◆SXgBVRgXXw :2010/05/05(水) 21:40:54 ID:1tf2ouLN0
ふと。
傷痕に横切られた、青年の瞼がわずかに動いた。
見守る男の眼前で、それはゆっくりと開かれる。

長い眠りから覚めた青年は、無防備な表情でひとつ息をついた。
眩しげに数度瞬きをした後、当て所なく視線を彷徨わせる。
やがて彼は、手を取られているのに気づいたようだった。
未だ焦点の曖昧な視線が、男の手から腕、上半身へと伝う。
そして視界に男の顔が入り、二人の目が合ったその瞬間――
青年は突然その瞳を見開き、怯えたように顔を強張らせた。

「どうした」
呼びかけても、青年は応えなかった。否、応えられなかったのか。
喉の奥からは声の代わりに、引き攣った呼吸音が漏れるばかりだ。
握っていた手は緊張に強張り、瞬く間に冷たい汗を帯び始めていた。
心拍数を測る計器の音が、まるで警告信号のように速さを増す。

視線が合ったことがきっかけであったかのような、唐突な豹変。
男は少なからず驚いたが、同時に思い当たる節もあった。
蘇生の際に再現した、青年が一度死を迎える直前の記憶データ。
現場の崩壊に伴い、本部の指示を仰いだ彼の瞳に映ったのは
自らを切り捨てると宣告した上司の顔――男と同じ形のそれであった。
実際にその宣告を行ったのは男ではなく、そのクローンであったのだが
同じ造作の顔を目にしたことが、想起の引き金となったのだろうか。

意識が戻って間もないのは、かえって僥倖であったかもしれない。
身体を十分に動かせる状態であったなら、彼はすぐさま手を振り解き
状況もわからぬまま跳ね起きて、半狂乱で逃げ出した可能性もある。
その想像すら容易にさせるほど、彼の表情が示す絶望は深かった。
432Ground Zero(前編)5/5 ◆SXgBVRgXXw :2010/05/05(水) 21:41:29 ID:1tf2ouLN0
本来なら直ちに医療班を呼び、引き継ぐべきであったろう。
たとえば薬で眠らせてしまえば、落ち着かせるのも容易だ。
だが、男はそうしなかった。
今はそれよりも、必要なことがあるように思われたのだ。

見開かれた瞳を覗き込み、呼びかける。
「私だ」
名は、あえて名乗らなかった。
男のみならず、彼のクローンにもしばしば用いられるその名は
それに裏切られた青年にとって、恐慌を深めるものでしかない。
「00だ。……判るか」
代わりに男はコードネームを名乗り、青年の手を強く握った。
自分こそがオリジナルであり、敵対の意思がないことを伝えるために。

はたして青年は、半ば朦朧としながらも、男の意図を理解したようだった。
クローンとオリジナル――姿形は同じでも、態度は違うのが伝わったのか。
未だ弱々しくはあったが、握り返してくるのが今度は明確に感じ取れた。
口を開き、掠れた声で何か言おうとするのを、男は首を横に振って制する。
意識が戻ったばかりなのだ。今は、負荷をかけるべき時ではない。
話を聞くのは、青年が心身ともに落ち着いてからでも遅くはないはずだ。
何より、長らく拠り所を失っていたその表情が、あまりに痛ましかったので。

青年が意識をはっきりと取り戻すまで、男はただその手を取って傍にいた。
433Ground Zero(前編) ◆SXgBVRgXXw :2010/05/05(水) 21:43:30 ID:1tf2ouLN0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |   前後編になるか、前中後編になるか
 | | □ STOP.       | |   未定だけどとりあえずトリつけてみる
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
つけ方はこんな感じでいいのかな。変なとこあったらスマソ。
読んでくれた方、ありがとう。

434風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 21:49:52 ID:Bw4b6rlG0
生。短い。オチなし。矛盾あり。アニバーサリー。

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「貴方の人生において、貴方がもっとも名を呼んだ人が貴方の名をもっとも呼んだ人であるならそれは幸いである」

突然すぐ近くで聞こえてきた声に目を開ける。
二部屋続きの楽屋の自分の側に――というより寝ている自分の目と鼻の先に――先ほどまでいなかった人物がいた。
「おまえ来たん?」
「ん、来た」
寝起きに相方のどアップを見せられても特に驚くことはない。いつもの事だ。
こいつは良くこうやって俺の寝顔を覗き込んでいる。
いつもは気遣ってか息さえ遠慮しているのに、今日はどうしたことだろう。
さっきのセリフは?
貴方がもっとも名を呼んだ人物が・・・

「お前か」
じっと黙って俺を見ていた相方はきょとんとした表情ををした。
自分からふっといてそれか。
「ちゃうか。俺とお前、か」
ふわっと笑うと相方は正解、といって俺の頭をなでた。
「たいした意味はあらへんよ。ただ今日はこどもの日やったからなんとなく」
撫でて撫でて、気が済んだのか鼻歌など歌いながら自分の楽屋側に戻っていった。
相方が立ち上がったタイミングで抱きしめようと伸ばした俺の手は宙に浮いたまま。
まあいいさ。相方の機嫌がよければそれでいい。
出会ってから今日で19年、『これまで』が作り上げたそんな二人の関係。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!シャッチョサンニハアシムケテネレナイYO!
435風と木の名無しさん:2010/05/05(水) 23:31:58 ID:lGT1WhItO
>>434
ほのぼの可愛い、GJです!
ほんとシャチョサソに感謝だYO
436風と木の名無しさん:2010/05/06(木) 12:47:49 ID:RJ/iEC5S0
>419
謀反レベルワロタ。GJ
続き楽しみにしてます。
437風と木の名無しさん:2010/05/06(木) 12:49:21 ID:qL19s1uvO
保存庫で芸人って書かれてるけど、
芸人ではないよね?
438二つのスプーン 0/5  ◆Cf6pwGhzSc :2010/05/07(金) 00:36:09 ID:dzzXtVS90
ピンポン ドラチャイ 最終話です。エロ有ります。
このあと5レス消費いたします。
いろいろとご迷惑をおかけしました。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
439二つのスプーン 1/5  ◆Cf6pwGhzSc :2010/05/07(金) 00:38:26 ID:dzzXtVS90
目をぎゅっとつぶって涙を押し出すと、まだ潤みが残っている瞳で孔は風間の目を見つめ、
「背中、見せて」
と囁いた。
風間が布団をはねのけてベッドの脇に立った。
着ていたスウェットの上を無造作に脱ぎ、背中をこちらに向ける。
明りのない部屋の中でも、風間の鍛えられてきれいに盛り上がった筋肉がわかった。
孔はベッドから降りると、カーテンを閉めていない窓の外からの、常夜灯の明りで薄暗く照らされた風間の身体に、そっと近づく。
「ここ…」
つぶやいて手を伸ばし、指の先でそっと肩甲骨のあたりを撫でると、孔は小さく息を吐いた。
「ここに、赤く、痕が…」
赤い痕を思い出す毎に、孔は見知らぬ指に嫉妬した。
自分には付けようのない傷を付けることの出来る指。
一緒に歩く時、風間の背中を意識するとどうしようもない感情が孔を襲った。
風間の逞しい身体と寝る自分を想像したこともある。俺はいかれている、とその度に孔は思った。
身をかがめ、風間の肩甲骨にキスを落とす。
軽く噛む。
風間の身体がぴくりと反応し、口づけたまま孔は囁いた。
「風間…好き、」
その瞬間、勢いよく振り返った風間にベッドに押し倒され、噛み付くような口づけを落とされた。
暗闇の中でぎらぎらした風間の目が孔を見つめる。
お互い、引きむしるように身に付けていたものを脱ぐと、深く舌を絡めたまま相手の下半身に手を伸ばす。
押し付けられるそこが熱い。
一度唇が離され、触れるか触れないかのところで、風間の舌が孔の唇を愛撫する。
唇を開いて誘うと、また唇が落ちてきた。
舌を絡める。
キスだけでもいってしまいそうだ。
440二つのスプーン 2/5  ◆Cf6pwGhzSc :2010/05/07(金) 00:40:21 ID:dzzXtVS90
あと何回か上下されたらいく、と孔が思った瞬間、風間が孔を愛撫していた手を離し、自分の唾液を指につけると、孔の脚を広げさせて小さなすぼまりにゆっくりと塗り付けた。
「あ、あっ、風間、なに」
知らぬ感覚にぞくぞくと背中を何かが這い上がる。
耳元で風間に囁かれ、孔はきつく目をつぶった。
「ここに、孔の中へ通じる扉がある…」
「かざま、…あっ」
ぬめりの助けを借りて、風間の指先、ほんの少しが窄まりの中に入った。
異物感に孔が声を上げる。
「あっ、あぁ、」
「私がゆっくり時間をかけて鍵を開けてやるから、」
孔が握る屹立したものを、意識させるように動かす。
「これを、入れさせろ」
未知の快感が孔の身体を走り抜ける。
再び孔の一部は風間の手に翻弄されていた。
「お前が私の背中に痕を付けろ…孔」
「は、あっ、…は、」
これ以上ないというほど張り詰めてとろとろと透明の液体を落としていた孔は、その声を聞いて、達した。



途中で理性を失しかけると言う経験を、風間は初めてした。
本当は、もっと時間をかけるつもりだった。
しかし、これはどうだ。
ブレーキが利かない。
孔に触れる度、孔の顔を見る度、孔の視線に見つめられる度、風間の胸の中に激しい何かが沸き起こる。
一体孔の何が風間をこうも駆り立てるのか、全くわからなかった。
相手は男だ。
しなやかではあるが太い骨格を持ち、鍛えられた筋肉をその上に張り付け、張り詰めた皮膚が覆っている。
孔が自分に触れる、それだけで興奮する。
大声でこの男は自分のものだと怒鳴りたくなる。
441二つのスプーン 3/5  ◆Cf6pwGhzSc :2010/05/07(金) 00:42:36 ID:dzzXtVS90
自分の恋は不毛のままに終わると思っていた。
思いを伝えることも出来ないと思っていた。
と同時に、もし孔を手に入れることが出来るなら、この自分の乾きは治まるかもしれないとも思っていた。
けれども、孔に触れれば触れるだけ、乾きが強くなる。
もっと。
もっと。
孔、お前を私にくれ。
私を好きだと言え。
舌を絡め、ぬめる口内を吸い上げながら、こんな寓話がなかっただろうか、と考える。
飲んでも飲んでも咽喉が渇く、王様の話。
なかったか?
ああくそ、孔。

薄いゴムに覆われた風間が、狭い中に入っていく。
回数と時間をかけるべきなのを十分わかっていて、しかし風間には全く余裕がなかった。
ぬるぬるとぬるつく人工の液体が侵入を助ける。
孔はきつく眉を寄せて、風間を見上げている。
広げられた脚の間に入り込み、ゆっくりと腰を進めていくと、ぎりぎりと差し込むような苦しい喜びが風間の胸を突き上げた。
汗がこめかみから頬を伝って流れ、顎の先から孔の腹の上に落ちる。
額から流れた汗は鼻の先から落ちた。
全てが納まり、皮膚と皮膚が密着すると、孔は背をそらせて呻き声をあげた。咽喉があらわになる。
孔の首筋から汗が流れ落ちるのが見える。
上半身を倒して孔の腰の下に手を差し込み、もっと密着するように抱え上げる。
孔の汗と自分の汗で腕が滑る。
「孔、私の背中に手を回せ」
関節が白くなるほどシーツを握りしめていた指がこわばりながら開き、溺れる人間のように風間に回された。
かき抱かれる。
442二つのスプーン 4/5  ◆Cf6pwGhzSc :2010/05/07(金) 00:45:07 ID:dzzXtVS90
孔、お前が私に痕を付けろ。
あの時付けられた痕とは、全く意味合いの違う傷を。
お前の所有の証を付けろ。
私はお前の物だ。



一体、あれから何度の夜が過ぎただろう。
目が覚めると、カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでいた。
大きく伸びをして、風間は孔を見やる。
孔が目を開き、風間を見て笑った。
「おはよう」
風間が口を開いた瞬間、孔も同時に口を開いて、声が二つ重なった。

少しばかり感動を覚えて、風間は孔を眺めた。
時々、こうやって誰か自分達以外のものが謀ったかのように、孔との行動が重なることがある。
思考を読まれているのかと疑うほど、自分が考えていることを口に出されたりもする。
そう言う時、風間は一冊の本を思い出す。
遠征のために新幹線に乗らなければならなかったことがあった。
スポーツ雑誌でも購入して手持ち無沙汰を解消しようと駅構内の本屋に立ち寄り、文芸誌のコーナーを通りかかった時、普段は目に留まらないハードカバーの本が目に付いた。
作者の名前もかなり個性的なそのミステリは、風間の好奇心をちょっと刺激した。
ほんの2時間程度の旅である。旅の供に、たまにはこう言うのもいいかもしれない。
風間はその黒い表紙の本を手に取ると、レジへと向った。
短編集だった。一話目は、探偵とその助手が、古い友人に助けを請われ、ある屋敷へ赴く話だ。
探偵と助手が、友人の服の裾を掴んでいる子供に挨拶する。
その声が、「二つのスプーンが重なるように」ぴたりと重なる。

読みながら、風間は、男同士でずいぶん仲の良いことだなと単純に思った。
揶揄する気持ちではなく、ただ印象に残ったのだ。
孔と声が重なるように同じことを言うという体験をするようになって、風間の脳裏に浮かぶのは、その短編だった。
二つのスプーンのように重なる二人の声。
そして、少しばかり使い込まれて、瑕が付いていたり、光が鈍くなったりしているそれが、テーブルの上に重ねられて置かれているイメージ。
443二つのスプーン 5/5  ◆Cf6pwGhzSc :2010/05/07(金) 00:48:06 ID:dzzXtVS90
これからもスプーンには瑕が付くだろう。使われて、新品の輝きは失われていくだろう。
それでも、一緒に重ねれば、寸分の狂いもなくぴたりと重なって落ち着く。
一緒に暮らしてはいなくとも、孔とそんなふうに時間を重ねられればいい、と、風間は思う。

「どした?」
孔の顔を見つめながら物思いにふけった風間に、いぶかしげに孔が声をかける。
我に返った風間は、「なんでもない」と答えながら、小さく笑った。
「コーヒー、飲むか?」
「ありがとう、貰おうか。午前中、ちょっと田村さんのところまでちょっと出かけてくる」
「田村サン…誰だっけ。私知ってる人?」
「そうか、知らないのだな。星野と月本が小さい頃から卓球をやっていた所の人だ」

日本代表の選抜試合で、風間は負けた。
夢に向かって最大限の努力をし、しかし伸ばした手は届かなかった。
後悔はない。
やるだけのことはやった。
どのような結末であれ、風間はそれを受け入れる。
自分が卓球から離れることなど出来ないことも承知で、夢が手に届かないことも思いしらされて、考えなければならないのはこの先のことだった。
負けについては納得している。
気持ちは穏やかだ。
しかしふと、口の悪い、しかし愛情深い、「オババ」と呼ばれる田村の顔が見たい、と思ったのだった。

「うん、わかった」
「午後には戻る。そうしたら、買い物にでも行くか」
「いいよ。何買う?」
そうだな、と風間は呟いた。
「揃いのスプーンを買いたいのだが、どうかな」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ありがとうございました!
444風と木の名無しさん:2010/05/07(金) 04:21:20 ID:fEK/E7tV0
>>408
勝手にmy保守で読ましていただきました
大変な萌えをありがとうございます

>>434
通じ合ってる2人イイヨイイヨー
アニバおめ!来年は20年か…
445風と木の名無しさん:2010/05/07(金) 05:15:56 ID:32SfCmd7O
>>443
GJ
うおおドラチャイうおお新しい扉すぎるうおおおお
チャイナの片言とドラゴンの固い喋りがかわいくてたまらんです
お疲れ様でした!

446風と木の名無しさん:2010/05/07(金) 13:21:17 ID:snapPuF9O
>>438
GJ
長年このカプを好きでいて良かったよ
お疲れ様でした
447風と木の名無しさん:2010/05/08(土) 23:20:53 ID:PTPwM3Zg0
ただ今、棚の保管庫の掲示板にて、作品へのレス・感想について議論しております。
よろしければ下記urlへ
http://s.z-z.jp/?morara
448連鎖<三條>1/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 22:30:04 ID:1ys8p8tl0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの三條×武智→飛来×武智。エロ少々だが有。起承転結の転しか無い感じになってます。

噛み締める唇を解かせようと指を差し入れれば、それは笛を扱うものだと知っているからか歯を立てない。
情事の最中ですらそんな理性の働く武智を、三條は可哀想にと想う。
明かりを抑えた寝所に二人きり。膝の上に抱え上げ貫く体はすでに溶け、無意識に揺れる腰を
もう止められずにいると言うのに、その表情にはいつまでも苦悶の色が残る。
眉間に深く刻まれた皺。
何故だろう。彼はいつも罰を受けるかのように、この行為に身を沈める。
確かに初め方は間違えた。それでもそれ以来無理を強いているつもりはないのに、武智の体と心の
乖離の溝は一向に埋まる気配を見せない。
それは淋しくも憐れな事だと三條は思う。だから、
含ませた指で口腔内を探り食い縛る歯列を割って、三條はその奥から彼の声を引き出そうとする。
「…あっ…やぁ…っ」
下肢をじわりとした緩やかさで突き上げながら、零れ落ちるその喘ぎが止められなくなるまで。
やがて含みきれなかった唾液が口の端を伝うようになる頃、三條は武智の口からそっとその指を
引き抜くと、それを武智の指と絡ませた。そして、
「自分のええようにしなさい。」
告げた言葉に、それまで力を失くしていた武智の瞳がわずかに揺れる。
傷ついた光をちらりと覗かせ、しかしそれはすぐに閉じられると、両の手を捕らわれたまま、
彼は自らその身を蠢かせだした。
「あぁ…っ…ん…ぁっ…」
快楽を追う。それはけして悪い事ではないだろうと思う。
人を欲しくなり、肌を合わせたくなり、共の快楽に溺れる事を望むのはけして罪ではない。
それを武智の身体は知っているようになのに、心だけは頑なにそれを受け入れようとしない。
「…ひ…ぁっ…もう…」
そして望むのはいつも終わり。
許してくれ。もう早く終わってくれ。その為ならば、と自分の上でその身体が淫らにうねる。
何もかもが裏腹な、そんな彼に沸き上がる感情は憎らしさと愛おしさ。
あぁ、自分までもが引き摺られる。
その自覚に微かな苦笑を浮かべながら、三條はこの時武智の手を引き寄せると、彼の望みを叶える為、
その体を自分の下に組み敷いていた。
449連鎖<三條> 2/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 22:31:20 ID:1ys8p8tl0
「大丈夫ですか?武智。」
事が終わり、名を呼び、言葉なく茫洋と目を開けている武智の頬に手を添え、そう声を掛ければ、
それに彼は瞬間ハッと意識を戻したようだった。
「申し訳ありません…すぐに…」
上げすぎたせいか、すっかり掠れてしまっている声でそう言いながら、三條の腕の中から辞そうとする。
しかしこの時、三條はそれを許さなかった。
「まだ無理でしょう。もう少しここにおりなさい。」
言いながら膝の上、横向きに座らせた武智の身体を抱え直す。
それに武智は逆らわなかった。いや、逆らう力も無いようだった。
ぐったりと手足を投げ出し腕の中に収まる、その身がひどく重く感じるのは彼が疲れきっているからだと、
手に取るようにわかる。
相反する心と体に必要以上の気力と体力を削り取られている。
それでいてそんな行為から逃げようとしないのは、やはりこれが彼にとって罰だからなのだと三條には思えた。
「武智は、私が嫌いですか?」
それ故、思わず口をついた言葉。それに腕の中で武智の瞳が持ち上がった。
「……三條…さま…?」
「おまえはいつも私とこうする時つらそうだ。それは私が嫌いだからですか?」
「…そんな事は…っ」
「ならば好きですか?」
「…………」
「好いた相手にも、このような抱かれ方をするのですか?」
「…この…ような……」
言われた言葉に、戸惑うような武智の呟きが零される。
反応する所はそこなのか、そう思えば少しだけ可笑しくて、三條はこの時腕の中の武智を肩を
強く抱き寄せるとその言葉を続けた。
「別に責めているつもりはないのです。ただもしそうなら、たとえ好いた相手が私でなくとも
それは憐れな事に思えてね。」
「……あわれ…」
「望む相手と肌を合わせて気持ちようなる事は、けして悪い事ではないのですよ。」
「………っ…」
「恥じる事でも、苦痛に感じる事でもない。それどころか自分の腕の中で共の快楽に溺れてくれれば、
それはひどく……愛おしい。」
450連鎖<三條> 3/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 22:32:26 ID:1ys8p8tl0
伸びた指が武智のほつれた髪を撫でる。
それにこの時武智はひどく驚いたような目を向けてきた。
黒い瞳が行灯の淡い光を受けてゆらゆらと揺らめいている。
その動揺が、三條にはひどく不憫だった。それは、
「今まで、おまえにそう教えてくれる者は誰もいなかったのですか?」
彼の、おそらくは自分が知りえる事の無い、過去に対して。
「ならば、それはやはり可哀想な事です。相手も、おまえも。」
告げた言葉に返される声は無かった。
それは図らずしも己の推測の正しさを意味しているようだった。だから、
「変な事を言っていますね、我ながら。でもそう言わずにはおられぬほど、私はおまえが好きですよ。」
少しだけ笑みを含ませた声でそう囁き、三條はこの時もう一度武智の顔を胸元に押し付けるように抱き込む。
それに武智は抗わなかった。
しばしそのまま身を添わせ、その果て、

ありがとうございます―――

ひそりと耳に届いた小さな呟き。
それは好いた相手は自分ではない、別の者なのだと言う事を素直に告げていた。
けれどそれを三條は刹那、これでいいのやもしれぬと思う。
あれは、そんな自分だからこそ言ってやれた言葉だった。
これがもし、この愚直なまでに己に厳しく、それでいて誰よりも人寂しい魂を自分だけのものに出来る
可能性のまだある身であったなら、おそらく自分はこんなふうに彼を思いやる余裕など持てなかっただろう。
抱き寄せて、触れるぬくもりの柔さに知る恋情の深淵。
見える。
この魂が手に入るとなれば彼に想いを寄せる者はきっと、それはその想いが強ければ強いほど、

気が……狂うのだ――――
451連鎖<武智> 4/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 22:33:34 ID:1ys8p8tl0
三條邸を辞し、その日予定していた他藩士との会合を済ませ、藩邸に戻ったのは日が西に傾く頃合だった。
まっすぐに自室へと向かい障子戸を閉めると、武智はそのままその場に座り込む。
頭がひどく重かった。原因はわかっている。昨夜、三條に言われた言葉のせいだ。
『望む相手と肌を合わせて気持ちようなる事は、けして悪い事ではないのですよ』
今日一日脳裏に巡っていたその言葉を、武智はそんな事……と胸の内で一人ごちる。
そんな事、これまで考えた事も無かった。
物心ついた頃から奪われ、汚されるだけの行為は、慣れてゆく身体と共に自分には嫌悪しか感じない。
だからこの身体も道具でいい。
けれどそんな嫌悪をあの人は罪ではないと言う。
好いた相手とならば違うのだと。
それどころか、それを知らなかった自分は可哀想だとまで……
うつむき、落とす視線を動かせぬまま、武智はそんな事はない、と心の中で否定する。
しかしそうする矢先にも、しかし…と揺れる想いが脳裏を埋ずめてゆく。
昨夜から何度この繰り返しに苛まれているのだろう。
その度に目の奥に浮かんでくる一つの面影に、武智はこの時その目元を苦く歪める。
浮かぶ顔はいつも自分を痛ましげに見下ろしていた。
心配そうに、そして時折つらそうに。
それを自分はずっと同情なのだと思っていた。
優しい者だったから、憐れに思い相手をしてくれているのだとも。
でなければ何故、わざわざこんな汚れていると知っている身を………
しかしそれでいて自分が彼に与えてやれるのも、またこの身体しかなかった。
心など伴わなくても男が快楽を追える事は嫌と言うほど知っている。
だから使ってくれればいいと思っていた。思っていたのに……
それすらあの人は互いが憐れだと言った。
ならば自分はどうすればいい。
思考の堂々巡りに知らず、深い息が口をつく。と、その時、
「失礼します。先生、お戻りですろうか?」
障子一枚を隔て、不意に聞こえた声に武智はびくりと肩を震わせた。
咄嗟に背後を振り返り、それでもなんとか返事を返す。
するとそれを合図とするように横に引かれた戸の向こう、姿を見せたのは収次郎だった。
452連鎖<武智> 5/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 22:34:42 ID:1ys8p8tl0
「お疲れ様です……と、どうされたがですか?」
着替えもせぬまま座り込み、動けずにいた自分を見て、収次郎が不思議そうな顔をする。
しかしその眼差しはあらためてこちらをしかと認めると途端、怪訝な色を濃くした。
「なんや顔色が悪いようですが。気分でも悪いがですか?」
少しばかり慌てたように部屋の中に入ってきたその身が、立てずにいる自分の側近くに膝を
付いてこようとする。
しかし武智はそれを遮ろうとした。
「なんちゃあない。ちっくと疲れただけじゃ。」
言いながら逆に立ち上がろうとする。しかしそれはこの時、為される事はなかった。
不意に目の前を襲った暗闇。
それが目眩だと気付く前に、傾いだ肩に手が掛けられた。
「先生っ」
名を呼んでくる収次郎の声と、支える為にこめられた手の力。
それに武智は懸命に体勢を立て直そうとするが、この時目眩はなかなか治まってはくれなかった。
しばし収次郎に支えられたまま目を閉じる。それでも、
「……すまん…」
やがて平衡感覚がようやくに戻り、もう大丈夫だと武智はなんとかその身を起こそうとする。
しかしそれをこの時、収次郎は許してはくれなかった。
肩を掴む手に力を込められたまま、それを不意に強く引かれる。
えっと思う耳元に唇が寄せられ、落とされた言葉。それは刹那、武智の背筋を凍らせた。
「昨夜は三條様のお屋敷でしたか。」
「――――」
「ええ匂いがします。」
それは、おそらくは移り香だった。
昨夜一晩、その腕の中に包んでくれていた人の……
思い至った瞬間、武智は反射的に目の前にある収次郎の胸を強く押し返していた。
寄せていた身が離れる。
するとそんな自分の反応に収次郎は瞬間、困ったような、それでいてどこか悲しそうな顔を見せた。
が、彼はそれをすぐに表情から掻き消す。そしてその代わり、
453連鎖<武智> 6/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 22:36:10 ID:1ys8p8tl0
「やはり顔色が悪いがです。布団を敷きますきに、今日は休んでつかぁさい。」
無理に作っただろう笑みをその口元に浮かべ、自分からその手を離してきた。
座り込んだまま動けない自分を置いて、立ち上がろうとする。
行ってしまう……
それに武智の胸はまた痛む。
傷つく?ならばそれは身勝手だ。支離滅裂ですらある。
しかし思い返せば、自分は彼に対していつもこうだった。
いつも……それはいったいいつから?
幼い頃からずっと側にいた。それが誰より近い存在だと思うようになったのはいったい…
前だけを向こうとしながら、それでいてどうしようにもなく揺れ惑う自分の背中を支えてくれた彼が
常に後ろにいてくれると知らず安堵するようになったのは……
しかしそんな彼に自分は与えられるばかりだった。
時折求められる、この身体ですらまともにやれてはいなかった。ならば、自分はこの先、
どうすればいいのだろう?
震える指先が宙に伸びた。背を向けようとする収次郎を止めるように、縋るように。
それに気付いた収次郎が少しだけ眉根を寄せる。
どういたがですか?先生?
こちらの身を案じるような声。
しかしそれを武智はいらないと思う。欲しいのは…わかって欲しいのは……
自ら触れれば伝わるだろうか。
心配げに戻ってきた収次郎の頬に触れる指先。
反らさず、目を見れば伝わるだろうか。
声が出ず、視線を絡ませる事しか出来ない。
けれどそれではきっといけない。だから懸命にせめて、
「……収次郎……」

名を呼べれば……伝わってくれるのだろうか―――

わからない。わからない事だらけだ。
自分は気持ちの伝え方などまるで知らない。
そんな事は……今まで誰も、教えてはくれなかった。
454風と木の名無しさん:2010/05/09(日) 22:46:46 ID:LPNnic1JO
支援。連投規制かな?
455連鎖<収二郎> 7/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 23:42:39 ID:1ys8p8tl0
障子戸越しに禍々しいまでに赤い西日が部屋の中に射していた。
夕闇はもうすぐ近く。藩邸内では夕餉の時刻に合わせて人が騒々しく動き出す頃だろう。
ここにも誰かがまた声をかけに来るかもしれない。
そうわかってはいても今、武智を抱く欲を収次郎は止められなかった。
「……ぁ…あぁ…っ…」
布団どころか羽織一枚を脱がす手間さえ惜しんで、抱き込み畳の上に押し倒した身体は、
互いに袴だけを解き落とすような性急さでも、繋がる快楽に甘い声を上げる。
そんな武智の汗ばんだ首筋に収次郎は顔を埋める。
そして吸い込む、その匂いが堪らなかった。
それは武智自身のものでは無かった。土イ左のものでも、この藩邸内のものでもない。
自分のような者では気後れするような感覚を覚える、冷たくも高雅な薫り。
出所は一つしか思い浮かばなかった。
京の三條家。主家耶麻内家と縁戚関係にもあるその家の主と武智は、なにやら当初から
不思議と息が合うようだった。
それは思想だけでは無い。
剣術や学問、武に繋がるもの以外にも、絵や書などの趣に武智はよく通じている。
世の流れが流れでなければ、むしろそう言った方面に重きを置く穏やかさがその性質の根底にはある。
だから、仕方がないと思っていた。
この人はずっと苦衷の中にいた。
厳然とした国元の身分差の中、上に抑えつけられ溜まり続ける下の不満のやり場の無い怒りを
一身に受け止め、よもや暴走しようとする集団を懸命に理の方向へ導こうとしていた。
けれどそれは一人で背負うにはあまりに大きな負荷だった。
だから誰かに縋りたくなる、その心中は理解できた。
その誰かが自分ではない事は、悔しくも寂しい事ではあったが…
仕方がない、仕方がない。それでもこの人がそれで少しは楽になれるのならば。
けれどそんな自分の想いとこの人の弱さは裏切られた。
武智が心の支えとしていた者はある日突然、自分達の目の前から姿を消した。
事情はわからなかった。けれどそれ以来、武智はその瞳から光を消す事が多くなった。
言葉数は減った。笑う事も少なくなった。ただ悲愴なまでも厳しさで前だけを見るようになった。
それはまるで後ろを振り返り、そこにあったものを認める事を恐れるかのように。
強くて、不安定な背中だった。
456連鎖<収次郎> 8/9  ◆P/AE4i02XU :2010/05/09(日) 23:44:13 ID:1ys8p8tl0
何か一つのきっかけで瓦解してしまいそうな、強固ゆえの脆さがそこにはあった。
だから支えたいと思った。それがどんな形であれ。
昼の間の権謀術数。それに疲れたように時折壊れるその精神。
そんな人を身近で見つめ、手を差し伸べられたのは気付けば自分だけになっていた。
彼がいなくなり、自分だけになっていた。
それを自分は心のどこかで喜んでいた。
不在に付け込み、弱さに付け込み、それでも手に出来たその存在に心の奥、あったのは仄暗い悦び。
おそらくそれを天に見透かされたのだろう。
武智の前に現れた、自分にしてみれば雲の上のような存在。
その人の元に通うようになって、武智の雰囲気は明らかに和らいだ。
いつも張りつめていたような空気が解け、土イ左を出て以来、ようやく息が出来ているような表情を
見せるようになった。
それに自分が何を言えただろう。なんて事は無い。また元に戻っただけだ。
それであの人が楽になれるのなら……
武智不在の一人寝の夜に何度呟いたかわからない、しかしそれが欺瞞だと言う自覚は嫌と言うほどあった。
それが証拠に、
「…先生……武智…さん…」
今こうして腕に出来れば、後先を考えずその身を飢えたように貪る己を止める事が出来ない。
鼻腔を埋め脳裏をかき乱す、汗と見知らぬ男の匂いに対する情動と嫉妬。
昨夜の居場所と行為を何も隠せぬその身体が愛しくて、憎らしくて、でもやはり…愛しくて…
そんな愚かな自分に、武智はこの日少しおかしかった。
一度は突き離し、それでもすぐに手を伸ばしてきた。
頬に触れる。目を上げる。視線を絡め、そして、
彼はいつも抱かれる時、目を閉じていた。反らしていた。開いていても、そこに光は無かった。
それなのに今は……
「……しゅう…じろ…う…」
瞳がまっすぐに自分を見つめている。唇が動く。甘く掠れた声が自分の名を呼ぶ。
自分に抱かれてくれていた。
457連鎖<収二郎> 9/9  ◆DEP4IVx7X6 :2010/05/09(日) 23:46:50 ID:1ys8p8tl0
それに収次郎はこの時、人の欲の果ての無さをまざまざと思い知る。
仕方がない。そんな事は嘘だ。この人が楽になるのなら。でも苦しい。だってそれは、
「武智さん…わしは……」
ずっと想っていた。それはもう気が遠くなるほどの長い時間、一人だけを……だから、
「えぇ……しゅうじろう…えぇ…よ……」
訥々と不器用な響きで、それでも懸命に言葉を紡ごうとしてくる武智に、収次郎はもう己の本心を
抑え込む事は出来なかった。
自分のものにしたかった。他の誰にも渡さない、自分だけのものにしたかった。
背に武智の腕が回される。
縋るように、より深くに引き寄せるように着物越しに立てられる爪の感触。
それが収次郎の焦燥感を更に煽り立てる。
どうしたらいいのだろう。
焦がれる想いが、身の内で醜く昏い狂気に変わる。
過去の影を忘れさせる為に、包む優しい匂いを消す為に……
膝を取り、開かせた足の間の溶けるほどに熱い粘膜に乱暴なまでに深く捻じ込み、刻む己の存在。
上がる武智の悲鳴まじりの嬌声にも止められない自分が望むもの。
欲しかった。
それはどんなものでも構わない。
西日が射す。赤い光が畳の上に落ちる。その中に二人溺れながら、瞼の裏さえ物狂おしい赤に染めて、

今、この手にあらん限りの力を、収次郎はただ欲しいと願った――――




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
すいません、途中で引っかかり投下に時間がかかりました。申し訳ないです。
次に待たれていた方がいたら本当にすみません。 そして>>454さん、支援ありがとうございました。
三條クリニックが書けたのは楽しかったです。
暗い話ばかりですが、おそらくもう少し何か書きたくなると思うので、トリつけさせてもらいました。
458風と木の名無しさん:2010/05/10(月) 01:54:09 ID:MyAURbzbO
支援から一時間空くなんて、いくらなんでも長すぎ
次投下するなら、もっと工夫した方がいいと思うよ
459風と木の名無しさん:2010/05/10(月) 09:17:01 ID:pv4ErBkU0
>>458
私怨乙
460風と木の名無しさん:2010/05/10(月) 10:21:08 ID:HCXG/hWE0
>>458
保管庫の掲示板
http://s.z-z.jp/?morara
461風と木の名無しさん:2010/05/10(月) 18:17:18 ID:yG/7YWNa0
>>459
だれうま
462オリジ 掃除屋 1/4:2010/05/10(月) 21:34:51 ID:ba2rMHZQ0
微ファンタジー的。えろ要素は残念ながらない。申し訳ない。
死ネタ。


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 どうせ長くは生きられん。男はそう言って低く笑った。暗殺者が大往生なんざ、笑えねえ
冗談だ。そう続けたものだから、暗殺者心得なのかと思ってしまった。言葉通りだったのだ。
 眠れなくなった、ぽつりと彼は呟い た。手酷く抱けとのリクエストに従ったあとのこと
だ。どろどろに汚れて疲弊しても、眠りは彼を休ませてくれなくなったのだと。その時はさ
して問題に感じなかった。じいさん連中に扱き使われるな、そう不満げに漏らした彼の目は
静かだったからだ。今思えばあそこにあったのは諦観だった。
 次に彼に会ったのは数週間の後だった。ぞっとした。泪袋を赤黒く染めて、淀んだ視線を
寄越して男は力なく笑った。あんた、呆然と零れた呟きに彼は言葉を返さなかった。
 彼はもう仕事をとらなくなった。集中力を要する仕事だ。悪夢ばかりとはいえ眠りは必要
だった。散々に彼を扱き使って、上層部の老人たちは彼を捨てた。彼はそれを嘆かなかった。
当たり前だ、殺されなかっただけありがたいね。いっそ仕事で失敗した方が、と彼の未熟な
弟子は漏らして、はっと恥じるように俯いた。日頃生意気な彼女が、実は深く師匠を愛して
いるのだと知っている。かつて一度、彼が死にかけたとき、彼女は迷わず己の全てを差し出
そうとした。血も臓器も何もかも使っていいから、彼を助けてと。しかし血液型があわなか
ったためにそれは叶えられなかった。彼女は今でもあのときのことを憎んでいる。差し出せ
たにも関わらず、血の一滴すら与えようとしなかった男、と蔑むあの目。その男と愛する師
匠が恋仲などと、彼女は長い間認めようとはしなかった。あの嫉妬の視線は存外に心地いい
ものだった。彼女の、唯一少女らしい部分だった。
 遺伝性の病なのだという。四十までに発病しなきゃ勝ちだった、と彼は笑った。ギリギリ
で負けちまったな。
「そんな顔するんじゃねぇよ、まだ死んで ねーぞ」
センパイ、と呟いた声は無様に擦れて、彼に悲しげな顔をさせた。冷酷な素振りをして、本
当はひどく優しいのを知っている。
463オリジ 掃除屋 2/4:2010/05/10(月) 21:35:51 ID:ba2rMHZQ0
「おまえがそんな殊勝な呼び方するってことは、無理なお願いしたいんだろ。言ってみろよ」
ソファにふかく埋まった彼は、恐る恐る差し出した指を軽く握った。熱い手のひらだった。
「死なないで」
膝をついて、請うように。いや、正しく請うたのだ。熱い手を額におしあてて、滲んだ声で
呟いたそれに、彼はただ緩く笑うだけだった。
 叶えられない願いだと、知っていたのに言わせる彼は残酷だと思った。それとも、彼なり
の贖罪だったのだろうか。
 それまで一番怖いものは死だった。死ななければ何とでもなる、そう思って生きてきた。
生きていても、どうにもならないことがある。彼の言葉を遮るように口付けることが多くな
った。彼は薄く笑ってそれを受けた。彼は、彼の友人であり部下であり恋人が、彼の、殺し
てくれというただ一言を恐れてい ると知っていた。その一言が彼の渇いた唇から発せられ
ること、それが一番恐れることだと。
 ゆっくりと死んでゆく彼。浅い息、いつでも熱い身体。 時折ふと許されたように薄く微
睡む。しかしそれだけだった。彼の体は活動を続ける。彼が生きるはずだった時間を早回し
で消化するように。
 体の時間と逆行して、彼の意識は過去を漂いはじめた。微かな声で思い出話をする、それ
は死の間際に過去を思い出すようで嫌だったが、同時に安堵もした。少なくと も話してい
る間は、彼は生きていた。
「おまえが初めて、ここに来たとき」
彼の声に耳を澄ませる。
「所長と俺で、飯食いに行ったろ」
 家を出て、この社会に足を踏み入れたときのことだ。彼はまだこの事務所の所長ではなか
った。薄暗い眼をしたクソ餓鬼を、彼と先代は拍子抜けするような明るさで以て迎えた。
「けっこうイイ店だったのに、おまえ、変な味っつって」
笑みを零した彼の、骨張った指をなぞる。
「覚えてる、すっげえ怒られて」
「おまえ、涙目で謝ってさ、あの頃は可愛かったのになァ」
今は違うって?、当たり前だ馬ァ鹿、あんただってあの頃は優しかった、俺はいつだって優
しい先輩だ。他愛ないやり取り。近く失われる。
464オリジ 掃除屋 3/3:2010/05/10(月) 21:38:22 ID:ba2rMHZQ0
 ブサイク、彼が苦しそうに笑って、はたはたと彼の手の甲に落ちる雫にやっと気付いた。
指を絡める。祈りの形をつくるように、でも神には祈れない。今死のうとしているのは神だ
からだ。
「あのとき、俺たちはおまえが可哀想で、」
彼の手が柔らかく頭に落ちるのを感じた。彼はもはや笑っていなかった。
「こんな俺らだけど、ぜったいこいつを上の思うようにはしないって思った。こいつを笑わ
せて、怒らせて、泣かせて、思う存分生きさせてやるんだって、思った」
だから、と彼は微笑んだ。
 黒い煙が上がる。顔を焼かれ、指の皮を剥がれ、歯を抜かれた彼の死体。その処置を粛々
とこなした小男は、憐れむようにこちらへ視線を寄越して一言、やるか、と訊いた。できる
はずがなかった。彼の、身体だったモノ、に。身元不明で他の有象無象の死体と一緒に焼か
れた彼の、煙を見つめる。目元を赤く腫らした同僚の肩を抱く。常なら決して許さなかった
だろうその行為を、彼女は許した。感傷を分かち合いたい気分は自分だけのものではなかっ
たらしい。
 毒に慣れ、毒になった身体を、厭うことなく愛情を返してくれた彼の死に顔は安らかだっ
た。やっと永の休息を手に入れたのだ。絶望と安堵。彼は最後まで、殺して欲しいとは言わ
なかった。辛そうに息を途切らせてぎゅっと手を握ることはあっても、殺せとは言わなかっ
た。
 いつだって人のことばかりで、本当は、殺せ、と言ってくれても良かった。それがどれほ
ど辛いことでも、彼のためならやれたのに。やれたのに。お前は、思う存分、思うように生
きていいのだと、そう言って。思うように笑って、泣いて、怒って、やりたいことを、やり
たいように。
 自嘲の笑みを佩いた。愚か者。やりたいことは、やりたかったことは、もうできない。彼
は死んでしまった。もう彼を救うことはできない。
 泣くことすら、できない。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ごめん、4つもいらなかった。
部下をかわいがるオッサンとそのオッサン大好きな部下が好きだーー!!
465追い盛り0/6:2010/05/11(火) 01:59:39 ID:XqzhlJ6L0
D.S.のcome on animal's forest(和訳)
学芸員とマ.ス.タ.ー
今更再開して再燃したのでついうっかり。
勢いだけ。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ここはある村の博物館。
二十四時間開放された入口を入って直ぐの大きな柱時計の前に置かれた事務椅子に座り、時折はあ…と溜息をついている青年がいる。
彼はこの博物館の学芸員、名をフータという。
彼は近頃寝不足に悩まされていたが、今ついている溜息の原因はそれとは違う。
先程、化石の鑑定をしてほしいと訪れた女性との会話のせいだ。
その女性はこの村に引っ越してきてから毎日、化石を掘り出しては寄贈、昆虫を採取しては寄贈、魚を釣っては寄贈と、博物館に通い詰めである。
そして博物館の地下にある喫茶店にも通い詰めである。
その喫茶店は眼鏡を掛けた穏やかで無口な中年男性がマスターをしている、何の変哲もないただの純喫茶である。
しかしそのコーヒーは絶品で、村人の中にもファンが多い。
そしてそのコーヒーこそが、例の溜息の原因となった会話のタネだった。
466追い盛り0/6:2010/05/11(火) 02:00:56 ID:XqzhlJ6L0
先程例の女性が訪れた際、フ.ー.タは寝不足からの溜息をついてしまった。
当然のことながら女性はフ.ー.タにどうしたのかと尋ねた。
女性が訪れたのは昼で、普段ならばフ.ー.タは昼間居眠りをしているのだ。
フ.ー.タは最近眠れない、コーヒーの飲み過ぎかも知れない、と答えた。
女性は笑いながらそうかもねと言った。
「確かにコーヒーに入っているカフェインにはですね、神経を興奮させる作用がありますです、ハイ」
女性はうんうんと頷く。
「しかしですね、わたくしの場合、特別なブレンドを頼んでいますから!」
女性がきょとんとした顔でフ.ー.タを見る。
「ピジョンミルクですよ。あれはカフェインとは逆に神経をリラックスさせるんです、ハイ」
「ああ、ピジョンミルク!それなら私もたまに入れてもらってますよ。甘くてまろやかになって、凄く美味しいですよね!」
467追い盛り3/6(番号変更忘れ済みません):2010/05/11(火) 02:02:20 ID:XqzhlJ6L0
フ.ー.タは思い返しながらやっと気付いた。
自分は毎日喫茶店に通い詰めの彼女に少しばかり嫉妬していたのだ。
フ.ー.タは喫茶店のマ.ス.タ.ーに、淡い恋心を抱いている。
男同士であるし、下手を打つと親子ほどの年の差がある。
決して伝えることはないだろうが、それでも彼を独占したいと思う気持ちはあり、実際にそうできているような心持ちでいたのだ。
しかし、自分以外に喫茶店に毎日顔を出す、しかも女性が現れ、知らず知らず気は焦ってしまっていたのだろう。
それで、恐らく自分以外には出したことのないであろうピジョンミルクの話をして、彼女には、「へえ!そんなのがあるんですか!良いなあ」というようなことを言ってほしかったのだろう。
それがどうだ、自分だけが知っている味と思っていたそれは、独占などできていなかった。
彼女も自分も、マ.ス.タ.ーにとってはただの大切なお客様でしかないのだ。
フ.ー.タの溜息はますます深くなるばかりであった。
468追い盛り4/6:2010/05/11(火) 02:03:14 ID:XqzhlJ6L0
夜が更け、村が静まり返る頃、博物館を訪れる人などいなくなる。
フ.ー.タはその時間帯、喫茶店に行くのが習慣であった。
既に昨日となってしまったが、少しばかり苦々しいことがあったとて、それは覆らない。
例え独占できていなかったとしても、愛しいものは愛しいのだ。
「こんばんはー」
「あ…、フ.ー.タさん…」
マ.ス.タ.ーは少し眠そうな眼をしていたが、優しい笑顔でフ.ー.タを迎えた。
フ.ー.タはコーヒーを飲まずとも既に癒されながら椅子に腰掛けた。
「いつものお願いします」
「はい…。あ、ピジョンミルク、入れときます…?」
思わずうろたえそうになったのを何とか留め、フ.ー.タは普通を装って首を縦に振った。
「じゃあ、入れときますね…」
磨き抜かれた白いコーヒーカップがソーサーに乗り、差し出される。
469追い盛り5/6:2010/05/11(火) 02:04:05 ID:XqzhlJ6L0
深い焦げ茶色にピジョンミルクを加えて甘いベージュになったコーヒーから立ち上がる香気を孕んだ湯気が心地良い。
一口飲んで、ほっと一息つくと、フ.ー.タの心にあった独占云々という重いものは、どこかへ消え去ってしまっていた。
この時間だけで良い、二人切りの時間があれば、それで良い。
そう思いながらフ.ー.タはいつしかマ.ス.タ.ーをじっと見つめてしまっていたらしく、マ.ス.タ.ーは困ったように俯いて「あの」と口を開いた。
「はい、あ、なん、何でしょう」
「あ…、えっと…」
フ.ー.タが自分の恥に気付いて取り繕えきれずに返事をすると、マ.ス.タ.ーはカウンターに隠れた棚から何やら取り出してフータに差し出した。
「これ…、良かったら…」
「あ、サブレですか?」
それはどこかの銘菓としても知られているらしい鳩の形に似せて作ったサブレだった。
「ありがとうございます、遠慮なく頂きますです、ハイ」
「あの…、それ…」
「ハイ?」
470追い盛り6/6:2010/05/11(火) 02:06:45 ID:XqzhlJ6L0
「特別…ですから…」
「…え?」
マ.ス.タ.ーの意図することが分からないフ.ー.タが聞き返すと、俯いていたマ.ス.タ.ーが顔を上げた。
薄赤く頬が染まり、困ったように眉を寄せている。
「フ、フ.ー.タさんのために…、一つ余分に…、買ってきましたから…」
フ.ー.タは自分の思考が停止するのを感じた。
余計なことを考えず、マ.ス.タ.ーの言葉だけを反芻することを脳が命じるのだ。
しかしそれではいけないとフ.ー.タは何とか口を開いた。
「あっ、あ、…あり………ありがとう、ございます…」
元からくりくりとした目を更に大きく丸くして自分を凝視するフ.ー.タに圧倒されつつも、マ.スタ.ーは好意を感じたのかにこりと微笑んだ。
フ.ー.タはシナプスが焼け切る様を脳裏に描きながら、不自然なのだろうと分かりつつも笑顔を作った。

翌日からフ.ー.タの溜息のタネはサブレを食べるか食べないかになったが、それが解決するかどうかは神のみぞ知るという奴である。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

途中ナンバリングミスがあり済みません。
そして主人公(女)登場注意記載も抜けて済みません。
化石コンプしたのでこれからの夏でたっぷり虫を捕まえます。
471ヅラ×銀1/4:2010/05/11(火) 03:54:02 ID:eer/TDWq0
SilverSoul(和訳) のヅラ×銀です。


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


「銀時……」
 目の前に、神妙な面持ちのヅラ。俺の名を、甘ったるい声で囁きながら更に近づいてくる。
 このままだと。このままだと、キスされてしまう。分かっている。なのに、俺は、動けない。
 ああ。唇、が。

「っ……うわあああああ!」
 飛び起きた。そこは、いつもの応接用のソファで、顔に乗っけていたジャソプが床にばさりと落ちる。
 当然、ヅラはいない。いつものとおり新八と神楽がいるだけだ。落ちがベタ過ぎる。ただの夢とは。
 しかし、悪い夢だ。悪いにもほどがある夢だった。
「銀ちゃん、うるさいアルよ」
「そうですよ、銀さん。静かにしてください。計算間違っちゃうじゃないですか。大体、こないだ紅桜の件で、怪我したからって、いつまでもそんな食っちゃ寝じゃ太りますよ。メタボまっしぐらですよ」
 もうどうしようもなく身悶えたくなる思いで、頭を抱えている俺は、向かいのソファで酢昆布を齧っている神楽と、万事屋の事務作業をしてくれている新八の二人から揃ってお小言を食らう。
「つか、お前らもうるせえよ!」
「ていうか、何の夢見てたんですか? 随分うなされてましたよ」
「え、っと……あー……忘れ、た」
 笑って誤魔化す。ヅラにキスされそう、つうか、されたらしい夢、なんて言えるわけがない。
ほんとに、真昼間からなんでそんな夢を見てるんだ。俺は。
「はー。新八ぃ、銀ちゃんは、怪我こじらせて、頭がパーになってしまったようアルな」
「うるせええええ! どうでもいいだろ! 俺の夢なんて!」
「何ムキになってるんですか」
「……あー、もう。全部あいつが悪ぃんだよ……」
「あいつ? あいつって誰です?」
「は? 何でもねえ! 誰でもねえ!」
472ヅラ×銀2/4:2010/05/11(火) 03:54:49 ID:eer/TDWq0
「……なんかやましいことでもあるアルか」
 酢昆布をごくりと飲み込んだ神楽がじとっとこちらに視線を向けてくる。
「ねえよ! ねえ、全く、ありません! から!」
 必死で否定する。それが、余計疑われちまう原因になると分かっていながら。それでも必死で、さっきの夢も打ち消してしまいたくて、俺は立ち上がって叫んだ。
「コイツ、ほんとは、やらしい夢でも見てたアルよ。新八、銀ちゃんのパンツ……」
「神楽ああああ!」
 言われて、一瞬どきりとしてしまったが、そんなことは、ない。ないない。ヅラとキスする夢みて夢精って、俺は中学生か。つうか、相手がヅラってのがシャレにならん。
「神楽ちゃんんん! 女の子が、そんなこと言っちゃだめえええ!」
「二人ともお子様アルね。ふう」
「そういう問題じゃねえええ」
 気だるく溜息をつく神楽に新八と二人で取り敢えず突っ込んでおいた。
「新八ぃ、それ、まだ終わらないアルか。早く買い物行くアル。私、お腹すいたアル」
「じゃあ、先に買い物に行こうか。銀さん、なんか欲しいものありますか? エロ本ですか?」
「いらねえよ! さっさと行け!」

 まだ多少痛む体を引きずり、玄関先まで、買い物に出てゆく二人を見送ったあと、もう一度寝るか、今度はあんな夢見ませんように、と祈ったその時インターホンが鳴る。
「はーい、誰ですかああ」
 がらりと引き戸を開いたそこには。
473ヅラ×銀3/4:2010/05/11(火) 03:57:49 ID:eer/TDWq0
「ヅラ……」
「ヅラじゃない、桂だ」
「そうか。じゃあ、またな」
 開けた引き戸をすぐに閉めようとした、その手をヅラに掴まれる。
「待て、銀時」
「……んだよ、もう。面倒くせーな。中入れ」
「邪魔するぞ」
普段応接に使っている部屋でなく、奥の和室にヅラを通した。そうしたことに、深い意味はない。なんとなく。だ。
 しかし、これでは神楽のいうとおり、やましいとこありありじゃねえかと思いながら。そして、畳の上に、二人で向かい合って座る。俺は胡坐をかいて。ヅラはきっちり正座で。
「で、ほんとに何の用なんですか、ヅラぁ」
「……お前の顔を見に来た」
「あーじゃあ、もう見ただろ。またな、さっさと帰れ」
「今日は、お前一人か?」
「帰れっつってんだろ。一人だよ。あいつらは買い物行ってる」
「傷はどうだ」
 くそ。こいつ、ヅラ、も、帰れ、もどっちも全部スルーしやがった。
「……どうって、見ての通りだよ。つか、てめーはどうなんだよ」
「俺よりお前のほうが深手を負っていた」
「まーその内、治んだろ」
 ぼりぼりと頭を掻きながら答える。どうも、調子が狂う。あんな夢を見たせいだ。あんな夢。
「銀時……」
 ヅラの顔が近づいてくる。神妙な。そして指が伸びてくる。ああ、これは、夢で見たような。
「おい……?」
 ああ、もう。あんな夢。ホント、シャレにならねえんだよ。よりにもよって、こいつ、相手じゃあ。
よせ、って……」
「ここ、の傷。まだ、癒えていないようだな」
 つつ、と人差し指で、頬にある傷をなぞられた。拍子抜けだ。いや、でも、別に、されたかったわけじゃない。違う。ないない。ぜってーねえ。
474ヅラ×銀4/4:2010/05/11(火) 04:00:11 ID:eer/TDWq0
「え? ああ、まあそう、だ、な」
「どうした銀時。お前、様子がおかしいぞ」
「年中様子がおかしいてめーに言われたかねえ!」
「銀時。もう、あんなのは、ごめんだ」
 膝を立てて、ヅラがこちらににじり寄ってくる。
「は? 何だ、お前、おい……」
 そして、ヅラの額が、俺の肩に。随分短くなってしまった髪が、間近にある。
「お前が、もしも……んでいたら、俺は……」
「もしも、の話は、やめにしようや……つまんねーんだよ」
 ぽんとヅラの肩を叩く。俺は、死なねえ。し、お前も死なねえ。んだと言いたくて。
「……そうだ、な」
「で、そろそろ……」
 どけろ、とヅラの両肩を掴む。
「銀時……もう少し……」
「……じゃあ、あと三秒な。三、二、一。はい、お終い」
「じゃあ次はこれで」
 ばっと顔を上げたヅラが、今度は抱きついてきやがった。ああ。こいつの、息遣いをこんなに近くで聞くと、どうしても、昔のことを思い出してしまう。夢なんかじゃない、現実にあったこと、を。だから、シャレにならねえんだよ。
 だから。
「ヅラ、よせって」
「銀時…!」
 ひときわ強く名を呼ばれ、背中に回るヅラの腕に力が篭められたのが分かる。
「…………はぁ」
 溜息を一つこぼす。俺も、観念して、ヅラの背中に腕を回した。
「じゃあ……二人が帰ってくるまで、な」
「……ああ」
「ちっ……正夢かっつうの」
 言ってから、違うな、キス、されなきゃあさっきのは正夢にはならねーな、と思った。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

 4つも使ってしまいすみませんでした。
475風と木の名無しさん:2010/05/11(火) 10:10:55 ID:wy3DaKHQ0
>>471
まさかのヅラ×銀!ありがとうございます!
台詞が其々らしくって萌えました。GJ!
476風と木の名無しさん:2010/05/11(火) 17:43:58 ID:POavzZN50
ヅラ銀ありがとう!
あんまり見かけないだけに嬉しいw
477風と木の名無しさん:2010/05/11(火) 21:20:39 ID:OwxE1gUkO
>>470
萌えたよ……!!GJでした!
478キスしてほしい 1/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:13:51 ID:nhqDBHQ00
ナマ注意 邦楽バソド原始人ズの唄×六弦
こちらに投下するのはこれで最後だと思いますが、連作物なのでトリップ付けてみました。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


セックスを「小さな死」と表現するのは、どこの国だっただろうか。
上手いこと言ったもんだと、俺はこの頃つくづく思うのだ。


(あ~……死ぬかと思った………)

今夜もまた俺は「死を迎えて」ベッドの上。ライブを一本終えたような――、いや、それよりもひどい疲労感でぐったりと横たわっている。
隣には、共に死を迎えた相手のぬくもり。首だけをめぐらせて様子をうかがえば、いまだ荒い息をしながらも目を閉じて満足げな笑みを浮かべている。
無駄な肉の一切ついていない身体、長い手足をだらりと投げ出して、まるで腹のくちくなったチーターのようなその男は(なんと相手は男なのだ!びっくりだ!!)、俺の長年の相棒。
一緒にロックをやるのに誰よりも最高の相手。互いのことを誰よりも分かりあえる、俺にとって最高の男だ。

けれど、まさかその男とこうして同衾するような仲になるなんて―――、ふつう、思わないだろ?
479キスしてほしい 2/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:14:27 ID:nhqDBHQ00
『やっぱり俺さ、マーツーのこと好きだわ』

そう言った匕口卜は本当に嬉しそうに笑っていて、俺はああ、この笑顔が好きだなぁとつくづく思いながら「俺もだ」と返事をしようとした。
そうしたら、

『だからさ、俺とセックスしてみねぇ?』

その後に続いた言葉はそれこそ青天の霹靂というやつで。俺の世界はしばし時を止めた。
けれど、その間にもヒロトの時は動きづづけているのであって。

『―――マーツー? だいじょうぶ?』

俺をこんなにした張本人のお前が言うのか、という気遣わしげな声と、覗き込む顔。
そして頬にそっと触れてくる骨ばった手。
その感触にはっと我に返った俺は、とりあえずその手をやんわりとどかしながら、おそるおそる現状の把握を試みるのだった。
『……今さぁ、おまえさぁ…、「セックスしてみないか」って、言った……?』
『言ったねぇ』
『……。えっと……、ホントに俺とセックスしたい、の…?』

『うん。そうだよ』

――残念なことにさっきの言葉は俺の聞き間違えでもなく、恐ろしいことに、これは現実であるようだった。
そのうえこの男は、ニコニコと笑いながら
『できれば俺さ、マーツーのこと抱いてみたいんだけど』
なんていう要求まで突きつけてきて。
そんな匕口卜の顔を、俺は目をひん剥いて見つめていたに違いない。
480キスしてほしい 3/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:15:18 ID:nhqDBHQ00
信じられない、と思ったんだ。
だって、俺だぞ?
何年いっしょにいると思ってるんだよ。下手したら、というか確実に、家族よりも長い時間を過ごしている間柄だ。それこそ、昔は同じ屋根の下に暮らしてたこともあったのに、何をいまさら……いきなり……

本当に、本気で俺とセックスできるのか?
そもそもおまえ、俺にさぁ、俺でさぁ……、勃つ、わけ―――?

『うん、もちろん』

またしても返ってきたのは明快な肯定の答え。
さらに匕口卜はいま思い出した、とばかりに言うのだ。『そう言えばさ、前にも俺、おまえに欲情したことあったわ』だなんて。

『アメリカでツアーやったときにさ、俺、よくマーツーで抜いてたもんな』
――アメリカツアーって言うと、前の前のバンドでやったやつか? 長いドサ回りの女日照りで、俺たちが若い性欲を持て余してた、アレだよなぁ…。
あの時はたしか……、マネージャーの持っていた某人気AV女優のビデオテープにさんざんお世話になったんだった。おまえだって、ビデオの貸し出しローテーションに組み込まれてたはずだぞ?

なのに、なんでだ。なんで俺なんか使ってんだよ!?

そんな、とおい記憶を辿りながらの俺の詰問にも、匕口卜はしれっとしたもので。
『うん、でもさぁ、だんだん飽きてきちゃうじゃんか。だから、AV観ながら、イクときはおまえの顔思い浮かべたりしてさ』
『……………』
481キスしてほしい 4/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:15:57 ID:nhqDBHQ00
バンド仲間に、誰よりも気の合う友達だと思ってた相手に、自慰のときのおかずにされていた。

そんな衝撃の事実を、この歳になって知りたくはなかった……。
匕口卜、おまえ謝れ。何も知らずにのん気にAV貸し出しの順番待ちをしていた、あの当時の俺に謝罪しろ。

それに…、うっかり思い出しちゃっただろうが。
ヤローから言い寄られて苦労した、昔のことを。
若いころの俺は、悔しいことになよなよとした見てくれをしていたようで、そして俺が関わっていたのは、普通とはちょっと違う常識がまかり通っていた、「音楽業界」というやつで。
そのせいなのだろうか、同業者やら、いわゆる業界人とやらに、性的なアプローチをされることが時々あったのだ。
あれには閉口した。けちょんけちょんに撃退したり、角が立たないようになんとか逃げ回ったり、とにかくお断りするのがとても面倒だった……苦い思い出だ。

まあ、そんなことがあったのも鑑みてだな、わかった、百歩譲ってあの当時の俺には、いくばくかのセックスアピールが(自分で言ってて情けなくなったのは内緒だ)あったとしよう。
それでも、いまは。
もう20年以上経ったいまとなっては、俺だっていいオッサンだ。
おまえよりいいガタイしてるぞ。うっかりビール飲み過ぎたりすると、腹も出る。
シワも白髪だってあるんだ。

ちゃんと現実を見ろ、そして思い直せ。そんな願いを込めた俺の言葉に、けれど匕口卜はのほほんと笑うのだ。

『俺だって白髪あるよう。染めてるからわかんないだけでさ』
『――――…………』

俺はめまいがした。
駄目だ。話が通じない。
それはいまに始まったことじゃないけれど、この状況でその天然ボケはかんべんしてほしい。
頭を抱えた俺の身体を、おもむろに伸びてきた手がぐい、と引きよせた。
482キスしてほしい 5/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:16:35 ID:nhqDBHQ00
『……っ!?』
『もー、マーツーはむずかしく考えすぎなんだよ』

その見てくれにそぐわない力強さで長い腕の中に抱き込まれ、ひるむ間もなく腰を抱かれ下半身を密着させられて。

『ほら―――、これが何よりの証拠ってやつ』

ね、俺、ちゃんとおまえに欲情してるよ。
どこか誇らしげな言葉の響き。
そして、押し付けられた匕口卜の股間の熱さに―――、

『………あ……』

自分の中にもずくりと熱が生まれるのが分かって、とうとう俺は観念した。

本当は、少し前からこの男の様子がおかしいことには気づいていたのだ。
いつにも増して落ち着きがなくて、どこか思い悩んでいて。
俺を見る目が、日に日に熱を孕んでくるのにも―――、本当は気がついていた。
「キスしたい」と言われたときだって、拒否しようと思えばできたはずなのに、俺はそれをしなかった。
「舌を入れるな」と、ディープな接触を禁じてはみたものの、その約束が守られることはないだろうって、半分そう思っていた。
俺はきっと予感していた。俺たちは今のまんまじゃ居られないんだって。

そして――、匕口卜とするキスはとても気持ちがよかったのだ。
匕口卜が与えてくる愛撫に、俺はたしかに夢中になったのだ。

諦めと開き直りの境地で俺は、匕口卜の背中に腕をまわして抱擁に応えた。
どうあっても俺はこの先、匕口卜と共に有ると決めたのだから。セックスの一度や二度したところで、こいつとの関係の本質が変わるはずもない。
483キスしてほしい 6/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:18:20 ID:nhqDBHQ00
まあ、なるようになるさ―――。

自分の貞操の危機においてさえ、持ち前の楽観主義的思考が発揮されるのが、まるで人ごとのように面白くて。
再び降ってくる匕口卜の唇を受け止める俺の顔は、きっと笑っていたのだと思う。


とまあ、そんな経緯で俺は匕口卜を受け入れて、以来、俺たちの間には大っぴらには口に出せない関係が付け加えられた。
非常にインモラルな関係だ。男の俺が男に抱かれるという理不尽さにも、いまいち納得がいかない。
けれど俺は、匕口卜とこんな仲になったことを、ひとつも後悔していないのだった。
罪悪感はもちろんある。どこか嫌悪感も捨てきれない。
それでも、匕口卜と身体を繋げたときの、なんとも言えないあの感じ―――探し求めていたものを与えられた満足感、不完全な自分に足りないものが補われた充足感―――、あれは、どう考えたって「幸福」以外のなにものでもなくて。
だから、俺は匕口卜とセックスをするのは嫌いじゃない。いや、むしろ好きなんだ。
けれど、ものには限度と言うのがあるわけで。


「やりすぎだ………」

ぐったりと、泥のような身体をベッドに横たえて、俺は恨めしく匕口卜を見つめた。
確かにしばらくライブの予定がないからいいよ、とは言ったけれど、こんなふうに指一本動かしたくない程くたくたになるまで好きにされるとは思わなかった。
自分たちのライブはないけれど、明日は大事な予定があるんだぞ。来日してるス卜ーソズのライブを見に行くというビッグイベントが。少しは加減してくれよ。
それなのに匕口卜は半死半生の俺を目の前に「えー、そうかなぁ?」なんて能天気に頭をかいている。
この、全身恥部男め、と俺は心の中で毒づいた。
484キスしてほしい 7/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:19:41 ID:nhqDBHQ00
まさかこいつが―――、「ライブのあとの楽しみは、ホテルの部屋で数独を解くことです」なこの男が、こんなにもセックスに積極的だとは、思いもよらなかった。
下手すると若者並のがっつきっぷりなのだ。ベッドの中の匕口卜は、はっきり言って野獣だ。
それを身を持って実感している俺としては、もうお互い歳が歳なんだから少し落ち着いてほしいと思っているのだけれど、それとなく何度も匕口卜を諌めているのだけれど、
返ってくるのは「だってマーツーがエロいのがいけないんだよ」という訳の分からない責任転嫁と、「えっ、おまえ、もう枯れちゃったとか? その歳で!?」なんていう聞き捨てならない言葉だったりする。
そうすると、失礼な!とつい負けん気が出てしまうのだ。
おまえと違って俺はただ、がっついてないだけなんだよ、と。
俺は断じて枯れたわけじゃねーー!!と。

そうやって毎回、馬鹿を見ている俺だった。


「…………」
俺はとほほ、という気分で、寝返りをうった。 そうすると身体がぎしぎし悲鳴を上げて、いよいよもって情けなさが募る。
「……明日、ライブ行けなかったらどうしよ…」
ため息ついでに漏れてしまった俺の弱音。
それを聞いて、それまでのほほんとしていた匕口卜の顔色が変わった。
「えっ、うそっ、どうしよ……、マーツー、そんなに身体つらいの?」
勢いよく起き上がって匕口卜が、おろおろと俺の顔を覗き込んでくる。
「………………」

好きなバンドのライブに行けないと聞いたとたんにその態度か。どんなことに対しても、おまえの判断基準はロックなんだな……。

485風と木の名無しさん:2010/05/11(火) 22:26:22 ID:vxLVhtjxO
支援?
486キスしてほしい 8/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:44:31 ID:f/k0KOvqO
そんな嫌味を言ってやりたい気持ちもあったけれど、泣き出しそうなその表情を見ていると、これ以上ぼやく気もなくなって。
俺はだるい腕を持ち上げて、匕口卜の頭をポンポンと撫でた。
「身体、拭きたいから、タオル濡らして持ってきて」
頼みごとをするとぱっと顔を輝かせて、匕口卜は風呂場へすっ飛んで行く。
忠犬のようなその後ろ姿を苦笑しながら見送ることしばし、濡れタオルを手にとんぼ返りしてきた匕口卜が拭いてやろうと伸ばしてくる手を断って(なんだか子供扱いされているようで嫌なんだ)、俺はのそのそと自分の身体を拭った。
「シャワー浴びといでよ」
落ち着きなく傍に立ちつくしている匕口卜に言うと、「えー、めんどくさい」という子供のような返事。
そいつに、「汚れたまんまじゃ一緒に寝てやんないぞ」としかつめらしい顔をしてみせる。
自分が子供扱いされるのは嫌いだけれど、こいつを子供扱いするのは大好きな俺だ。

「ええーー…」
いよいよ困り顔になった匕口卜は、けれどどうあっても風呂には入りたくないらしい。
「じゃあ、それで身体拭くからさ」
もういいよね、ちょうだいね、と俺の手から取り上げたのは、使用済みの濡れタオルだ。
「―――おい、」
人の使ったタオルを使うんじゃないよ、汚いなぁ、と制止する間もあらばこそ、よくいえば手早く、悪く言えば適当に身体を拭いた匕口卜が、
これでいいよね、と言わんばかりの顔でタオルを後ろに放り投げ、ベッドに潜り込んでくる。
ぴったりと寄せられる身体、巻きついてくる腕。
「えへへ」
もぞもぞと身動きを繰り返して、俺を抱き込むような体勢に落ち着いた匕口卜が、いたずら坊主の顔で笑う。

――本当さぁ、おまえは……、子供か。
487キスしてほしい 9/9 ◆bTtXMmxSP. :2010/05/11(火) 22:48:31 ID:f/k0KOvqO
俺はもう、ため息しか出やしない。
おまえはいったい幾つになったら風呂嫌いが治るんだ。あきれ果てながら、それでも、「まあ明日の朝風呂に叩きこんでやればいいか」なんて、
「そしたら俺が、頭の先からつま先までしっかり洗ってやろう、そうしよう」だなんて、大甘な算段をしている俺がいて。

きっと俺は、こいつを甘やかしすぎているんだろう。
いろいろと振り回されている自覚もある。
このままでいいものか?という危機感も、ほんのちょっぴり。

それでも、悔しいことに、この腕の中に捕われてるのは、案外気持ちいいんだ。
抱きしめ返すと、細い身体は俺の腕にちょうどいい具合にすっぽりと収まって、そのサイズ感が小気味いいんだ。
そして、俺の腕の中で嬉しそうに笑う、この男の笑顔が、俺はなによりも好きなんだ。
本当に、まったくもう、こいつには敵やしない。

きっとこんな状態を「幸せだ」って言うんだろう。
だからまあ、仕方ない。このさい全面降伏して、素直になってしまおうか。
俺は白旗をあげるような気持ちで、匕口卜の額に自分のそれをこつん、とぶつけた。
ねえ匕口卜、と目を覗き込むと、きょとんとした顔が見返してくる。
そのまんまるの瞳を愛しく思いながら、俺はとりあえず思い付いた「素直な願い」を口にした。

「ね―――、キス、してほしい」


その直後、なにかに打ちのめされた風情の匕口卜が「まったくおまえには敵わねぇよ…」と白旗を上げるのを、腑に落ちない気持ちで眺めることになるのだけれど。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
最後規制にひっかかって、スレを占領してしまいまして本当にすみません!
読んでくださった方、どうもありがとうございました。


488風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 07:47:46 ID:4mbfDVZ90
そろそろ次スレ立てないかんと思うのだが、
会議室掲示板での話しあいは新テンプレにどう反映させればいいのか
489風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 08:11:07 ID:Ucatd4HlO
まだちゃんとまとまってないし、次回でいいんじゃないのかな?
個人的には、あまりテンプレ増えすぎるのもどうかと思うんだよね
490風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 08:27:13 ID:i0hoKGIJ0
とりあえず>>317の追加だけでいいんじゃないかな
自分は規制されててスレ立て出来ないので
どなたかお願いしたい
491風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 15:47:10 ID:4mbfDVZ90
ほな、行きます
492風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 15:50:07 ID:4mbfDVZ90
すいません、だめでした。
どなたかお願いします。
493風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 16:54:17 ID:r4zZX10+0
では行ってみます
494風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 17:05:18 ID:r4zZX10+0
新スレどうぞ
モララーのビデオ棚in801板58
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1273650944/

テンプレ中に
ERROR:連続投稿ですか?? 5回
って出て焦った
495風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 17:07:41 ID:r4zZX10+0
スマソ
新スレ>>2のローカルルール1の(5)の前括弧が抜けてるorz
次のときに修正よろしく
496風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 20:48:13 ID:F0QEfXLA0
>>495
乙でしたー

現在489.8KB
短い話ならまだいけると思うけど、AAとかで埋めてしまってもいいかもね
497風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 21:50:27 ID:AIwjbMB60



  ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板
                  ̄       ̄
        ◎ Morara's Movie Shelf. ◎

モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)
498風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 21:50:48 ID:AIwjbMB60



  ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板
                  ̄       ̄
        ◎ Morara's Movie Shelf. ◎

モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)

499風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 21:52:42 ID:AIwjbMB60
  ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板 
                 ̄       ̄

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
500風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 21:53:03 ID:AIwjbMB60
  ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板 
                 ̄       ̄

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  うめるお
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
501風と木の名無しさん:2010/05/12(水) 21:53:23 ID:AIwjbMB60
  ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板 
                 ̄       ̄

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  梅
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
502風と木の名無しさん
  ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板 
                 ̄       ̄

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  上の住人がうるさい、ころしたいわー
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄