1 :
風と木の名無しさん:
___ ___ ___
(_ _)(___)(___) / ̄ ̄ヽ
(_ _)(__ l (__ | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ }
|__) ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
l⌒LOO ( ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_, _)フ 「 | ロ | ロ |
( ・∀・)、__)  ̄フ 厂 (_,ィ | </LトJ_几l_几! in 801板
 ̄  ̄
◎ Morara's Movie Shelf. ◎
モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |[]_|| | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ]_||
|__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄| すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
|[][][]._\______ ____________
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |[]_|| / |/ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.|| |[]_||
|[][][][][][][]//|| | ̄∧_∧ |[][][][][][][][].|| |  ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.|| |
|[][][][][][][][]_|| / ( つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(__)_)
前スレ
モララーのビデオ棚in801板53
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1257751859/ ローカルルールの説明、およびテンプレは
>>2-9のあたり
保管サイト(携帯可/お絵描き掲示板・うpろだ有)
http://morara.kazeki.net/
2.ネタ以外の書き込みは厳禁!
つまりこのスレの書き込みは全てがネタ。
ストーリー物であろうが一発ネタであろうが
一見退屈な感想レスに見えようが
コピペの練習・煽り・議論レスに見えようが、
それらは全てネタ。
ネタにマジレスはカコワルイぞ。
そしてネタ提供者にはできるだけ感謝しよう。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ネタの体裁をとっていないラッシュフィルムは
| いずれ僕が編集して1本のネタにするかもね!
\ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
| | [][] PAUSE | . |
∧_∧ | | | . |
┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ | | | . |
| |,, ( つ◇ | | | . |
| ||―(_ ┐┐―|| |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
| || (__)_), || | °° ∞ ≡ ≡ |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
★モララーのビデオ棚in801板ローカルルール★
1.ノンジャンルの自作ネタ発表の場です。
書き込むネタはノンジャンル。SS・小ネタ・AAネタ等801ネタであれば何でもあり。
(1)長時間に及ぶスレ占拠防止のためリアルタイムでの書き込みは控え、
あらかじめメモ帳等に書いた物をコピペで投下してください。
(2)第三者から見ての投下終了判断のため作品の前後に開始AAと終了AA(
>>3-7辺り)を入れて下さい。
(3)作品のナンバリングは「タイトル1/9」〜「タイトル9/9」のように投下数の分数明記を推奨。
また、複数の書き手による同ジャンルの作品判別のためサブタイトルを付けて頂くと助かります。
※シリーズ物・長編物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
※感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
※「公共の場」である事を念頭にお互い譲り合いの精神を忘れずに。
相談・議論等は避難所の掲示板で
http://s.z-z.jp/?morara ■投稿に当たっての注意
現在連投規制が厳しくなっており、10レス連続投稿すると、ばいばいさるさんに引っかかります。
長い作品の場合は、分割して、時間をずらして投下することをおすすめします。
1レスあたりの最大行数は32行、タイトルは全角24文字まで、最大byte数は2048byte、
レス投下可能最短間隔は30秒ですが、Samba規定値に引っかからないよう、一分くらいがベターかと。
ご利用はテンプレをよくお読みの上、計画的に。
3.ネタはネタ用テンプレで囲うのがベター。
別に義務ではないけどね。
テンプレ1
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| モララーのビデオを見るモナ‥‥。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| きっと楽しんでもらえるよ。
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
テンプレ2
_________
|┌───────┐|
|│l> play. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
∧∧
( ,,゚) ピッ ∧_∧ ∧_∧
/ つ◇ ( ・∀・)ミ (` )
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| ┌‐^──────────────
└──────│たまにはみんなと一緒に見るよ
└───────────────
_________
|┌───────┐|
|│ロ stop. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
ピッ ∧_∧
◇,,(∀・ ) ヤッパリ ヒトリデコソーリミルヨ
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| |
└────────────────┘
テンプレ3
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < みんなで
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < ワイワイ
i | |/ ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、 < 見るからな
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ"
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < やっぱり
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < この体勢は
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、 < 無理があるからな
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ
テンプレ4
携帯用区切りAA
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
中略
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
中略
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 僕のコレクションに含まれてるのは、ざっと挙げただけでも
|
| ・映画、Vシネマ、OVA、エロビデオとかの一般向けビデオ
| ・僕が録画した(またはリアルタイムな)TV放送
| ・裏モノ、盗撮などのおおっぴらに公開できない映像
| ・個人が撮影した退屈な記録映像、単なるメモ
| ・紙メディアからスキャニングによって電子化された画像
| ・煽りや荒らしコピペのサンプル映像
| ・意味不明、出所不明な映像の切れ端
\___ _____________________
|/
∧_∧
_ ( ・∀・ )
|l8|と つ◎
 ̄ | | |
(__)_)
|\
/ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 媒体も
| 8mmフィルム、VCR、LD、ビデオCD、DVD、‥‥などなど
| 古今東西のあらゆるメディアを網羅してるよ。
\_________________________
|__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄| じゃ、そろそろ楽しもうか。
|[][][]__\______ _________
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | |/
|[][][][][][][]//|| | ∧_∧
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ )
|[][][][][][][][]_||/( )
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | |
(__)_)
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ ilの港ラムのようなもの
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
11 :
雪花1/2:2009/12/06(日) 02:29:43 ID:wH5zZm6X0
裸体の港の、勃起した性器が薄闇の中に見えた。シーツは自分の体温で温まっていた。
港の性器を見るのも久しぶりだ、となんとなく思った。
晴喜さん、と港は私の名を呼び、固くなった性器を私の中に入れた。
彼が入ってくる感触も懐かしいものだった。最も、彼以外を受け入れたこともないのだが。
港は私の体を強く抱き、耳元で愛していますと言いながら、腰を動かす。
愛しています、好きです、そう言われることもここ数年絶えてなかったので、
懐古のような安堵のような思いで泣きたいような気持ちになった。
六年ものあいだずっと独りきりで過ごしていた。もう独りではない、港がいる。
もう何もかも安心なのだと思うと、叫びたいくらいに嬉しかった。
だが、港のように真直ぐに生きられない私は、憎まれ口を叩くことしか出来ない。
「そんなに、愛しているなら、なぜ、あんなに長いあいだ、放っておいたんだ」
港は困った笑顔で、ごめんなさい、と言った。
そして、これからはずっと一緒だ、もう二度と離れることはない、と言って私の髪をなで、額にキスをした。
私は何も言うことができずに、港の背に手を回す。
何か言葉を発したら、思い切り泣いてしまいそうな気がした。
港は、あの頃の港と何も変っていなかった。セックスの最中に、ずっと甘い言葉をささやき続けるのも、
額にキスをするのが好きなのも、最中は必ず私を抱きしめ続けることも、六年前のままだった。
熱い息と共に吐き出される甘い言葉に応えるように、冷たい背中に回した腕の力を強める。
すると港は動くのをやめ、手を繋ぎましょうと言った。
そういえば、港は昔からセックスの最中に指を絡めることが好きだったとも思い出す。
手を繋ぐ時、少し身体が離れてお互いの顔が見やすくなる。
港は私の顔をまじまじと見つめ、やっぱり可愛いと呟いた。そしてまた、肌を合わせて腰を動かす。
私も片腕で夢中でしがみ付き、滑らかな胸板に唇を押し当てる。
12 :
雪花2/2:2009/12/06(日) 02:30:03 ID:wH5zZm6X0
跡がつくかもしれない、まずい、とぼんやり思った。私は今、なぜ、まずいと思ったのだろう。
この部分は普段ワイシャツで隠れるところであり、他者の目にさらされることはない。
服を脱がなければ解らない場所の跡を、私はなぜ恐れたのだろう。
(そうだ、奥さんだ)
愛している、と港がささやき続けるのも、私が跡をつけてしまうことを恐れるのも、港の妻の存在があるからだ。
港がここで、過剰にも思えるような愛の言葉を私に投げかけるのは、ここでしか言えない事だからだ。
(だが、奥さんは六年前に亡くなったじゃないか)
そう思い出したときに、胸の底がすっと冷えるような気がした。
港の妻は自殺している。それは、彼女が港の浮気相手を殺してしまったことが原因のひとつだ。
では、他の理由は?港が無理心中を図った監察官として、新聞で取り上げられてしまったからだ。
(無理心中?)
蓋をしていた記憶が溢れる。首から血を流す港、生気を失い蝋のようになった港の冷たい頬。
港は六年前に死んでいる。だが、ここで自分を抱いているのは紛れもなく港である。
手を強く握れば、同じ位強い力で握り返してくる。確かに港はここにいる。
この背中も、胸も、髪も、顔も、性器も、声も、吐息も、全てが港である。
だが、港はもう死んでいる。そうするとこの空間は、今港に抱かれていることは、全て夢なのだろう。
絶望が押し寄せる。港が不思議そうに私を見て、どうしたの、と尋ねた。
私は黙って更に強い力で港を抱きしめた。本当にどうしたの、と港が少し笑いながら言う。
眼を閉じたら港が消えてしまうような気がして、私はどうしても眼を閉じることが出来ずにいた。
13 :
雪花2/2:2009/12/06(日) 02:31:10 ID:wH5zZm6X0
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 最初もSTOPだったなぁ
| | | | ピッ (・∀・; )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
遅くなりましたが
>>1乙!
即死回避には短すぎますが、ご容赦下さい。
初っ端から乙!!
禿萌えました!
ミニャラム最高゜+。:.゜ヽ(*´∀`)ノ゜.:。+゜
16 :
□と×の話:2009/12/06(日) 21:21:00 ID:qA30KscI0
>>1さん乙です!
某自動車CMのwebコンテンツ、「カ.クカ.クシ.カジ.カの部屋」より
×(バツ)×鹿
文中に限っては、基本的に×はバツと読んでください
すっごいぬるいよ!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「最近、絶好調ですね、カクカ.クシカ.ジカさん」
早押しクイズ番組の収録が終わって私が急ぎ足でスタジオから出て行こうとしたその時、
すぐそばで気弱そうな声がした。ふと見れば、扉の横には番組で使われていた
雑多な小道具の山があり、そのふもとに×の札がしゃがみこんでいる。
「ああ、久しぶりだね」と驚く私は言葉を返したが、×はむっとしたように
黙り込んだままだ。これは何かあると思い、私は腕を組んで×を見つめなおした。
×の札とはこのクイズ番組で知り合った仲だ。ある時私がひっかけ問題を見事に間違え、
席の横に×の札が一枚立つことになった。その回で私は準優勝賞品である
『熱海高級旅館一泊分宿泊券・豪華夕食付』を手に入れ、×を伴って出かけた。
この×とはそういう間柄だ。
×の札は×だけあって非常にネガティブな性格で、しかも45度傾けると
うっとうしいほどの+思考になるという厄介な性質を持っていた。
しかし結果的には楽しい旅行だったと言えたし、何よりあの豪華な夕食…。
私が思い返していると、とうとう×は口を開いた。
「優勝、おめでとうございます」
「ありがとう」
「今日はいちだんと、冴えてましたね。あなたの周りには○、○、○ばっかりで」
×は俯きながら言ったが、そんなこの世の終わりみたいな調子では
言われた方は嬉しくもなんともない。だが私には、×が本当に言おうとしていることが大体わかった。
「あのね、勘違いをしているようだけど…」
「いいんです、楽しんできてくださいね、ハワイ。楽しんできてくださいね、たくさんの、○たちと」
「○たちとハワイになんて行かないよ」
「嘘だ、だって優勝が決まった時、ぼくは他の出演者の隣に立ってたのに、あなたぼくのことなんて
見向きもしなかったじゃないですか。熱海の帰り道、今度優勝したらハワイに行こうなって言ってたのに、
カメラに向かっておどけたりして。あの時にはもう、○たちをはべらせることしか考えてなかったんでしょう?」
思ったとおりだった。×は完全に誤解していたのだ。
おどけたのはそれが仕事だからだし、×の方を見なかったのはハワイには行けないとわかっていたからだった。
本業の評論の仕事がいくつも立て込んでいて旅行どころではないのだ。私は×にそう説明した。
「それじゃあ、旅行券はどうなるんですか?」
「知り合いの編集者にあげることにしたよ。ちょうど結婚記念日だから」
「本当に、カクカ.クシ.カジカさんは、行かないんですね?」
×はほっとしたように言った。どうやら×は自分がハワイ旅行に行けないからではなく、
私がハワイ旅行に行ってしまうのがいやで落ち込んでいたらしい。
やっと陰鬱な雰囲気が晴れたところで、空腹だったことを思い出した。
一刻も早く夕食をとりたくて、私はスタジオを出ようとしていたのだ。私は×に言った。
「時間が時間だし、何か食べにいかないか。旅行にはつれていけないから、代わりにおごるよ」
小さいけれど気に入っている店で、ふたり向かい合って食事していると×もだんだん元気を取り戻し始めた。
×は小食な性質らしかったが、そのかわりよく飲む。私は愛車で来ているから酒は飲まなかったが、
気持ちよさそうに酔っ払っている×を見ながら食事を楽しんでいた。
そういえば熱海旅行以来まったくと言っていいほど話をしていない気がする。自然に会話が弾んだ。
ネガティブなりに×も饒舌になり、ばかばかしいこと、大事なこと、いろんなことで盛り上がった。
ところが×は何の前触れもなくしくしくと泣き始めた。少し飲みすぎたらしい。
「ぼくなんて、ぼくなんてぜんぜん、ダメなんです。ほんとはあなたにごちそうになっていいような
存在じゃないんです。ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」
「何を言ってるんだよ。こないだ言ってただろう。世の中にはバツが必要だ、縁の下の力持ちだって」
「ち、ち、違うんです。バツじゃないんです。ほんとはぼくはものすごく浅ましくて、欲深なんです。
自分でもそれに気付けないくらい卑しい存在なんです。あなたはぼくを+になれるって言ってくれたのに、…」
支離滅裂な×の話をまとめるこういうことだった。×が最近札仲間の→に聞かされたところによると、
×が兼任している『×(かける)』が今、世の中で変わった意味を持っているらしい。それは主に人の名前と名前の
間で使われていて、お互いがお互いの所有物であるとか、またはお互いがお互いに異常なほど固執しているとか、
お互いがお互いに性的な興奮を覚える関係であるとか、そういうことを意味するらしい。
自分はこれまでその手のことには奥手で、たとえ気持ちが昂ぶってもそれを見せないよう努力してきたのに、
そんなあけすけでいやらしい意味を持っているなんて思いもしなかった、恥ずかしくて消えてしまいたい、云々。
「そんなに落ち込むことじゃないだろう」
「落ち込むよっ、インターネットで調べたら、あっちでもこっちでも×、×って、それでそのページには
裸が載っていて、それで、それでその男たちがふたりで、ふ、ふたりで」
「今の話だと、かけるは愛という意味だろう」
「愛?」
正直なところ×の話はまったく理解できなかった。かけるとやらはどこでどんな使われ方をしているのか。
×の『男たち』という言い方も引っかかる。だが私はさっきまでの楽しい会話を取り戻したい一心で話し続けた。
「どんな形かは知らないが、お互いに固執したり、特別な感情を持ったり、それは愛といってもいいだろう。
かけるは人と人を愛で結ぶ記号として使われているということになる」
かけるは愛、かけるは愛…、と何度も口の中で転がして、やっと×は落ち着き…と思ったら、再び泣き始めた。
なんなんだ、今度は。面倒くさいやつだな。
「ぼくはなんて、馬鹿なんだろう、愛だなんて、考えつかなかった、馬鹿だ馬鹿だ、ぼくは馬鹿です」
いよいよ飲みすぎたらしい。私は酔っ払った×を抱え上げ、店を出ることにした。
「カクカ.クシカ.ジカさん、今日でぼくのこと嫌いになったでしょう。うっとうしいやつだって」
×を助手席に乗せてドアに手をかけた時、×は言った。そんなことはない、と私は答える。
だが運転席に乗り込んだ私に、×はなおも言った。
「そうですよね、今日だけじゃない、ぼくはずっといやなやつなんだ。人にも物にもバツばっかりつけて。
しょうがないんです、ぼくの仕事は、何かにバツをつけることなんだから」
「車を出すから、シートベルトを締めて」
「あなたが最近ぼくに会わないようにしてたの知ってます。番組でも自信のある問題にしか答えないし。
でも、き、でも、お願いだから、きらわないでください」
私は話を聞かずにシートベルトを締めてやろうとした。あわてているせいか手が×にひっかかる。
酩酊した×の体はあっさりと傾き、しまったとも思わぬ間に×は+思考に豹変した。
「いいですよ別に嫌ったって。むしろそれくらいの難問の方が、恋愛としては盛り上がりますもんね。
嫌よ嫌よも好きのうち。バツよバツよもかけるのうちってね。まあぼくはこの状況がバツだなんて思ってないけど。
かわいかったなあ、ぼくが泣き出したら困った顔しちゃって。
こんなに人を好きになるなんて幸せですよ。あ、鹿か…」
まくしたてる+をまっすぐに直すと、×はぴたりと口を閉じた。
私は混乱した頭を整理するために座りなおし、咳払いをひとつ。沈黙が気まずい。
なんだ今のは。×が私を何だって?いや落ち着こう。私は論理的な鹿、カクカ.クシカ.ジカだ。
たしかに最近、クイズ番組での正答率は上がっていた。CM出演以降多忙になったから出る回数自体は減っていたが、
近頃は一問も間違えていないくらいだ。最後に間違えたのはいつだろう。熱海旅行を勝ち取ったあの回に違いない。
そうだ、と私は思った。私は絶対に、絶対に間違えないように答えている。早押しで答えを間違えるくらいなら、
他の解答者に発言をゆずる。そういう姿勢で答えている。だから×は私の隣にやってこない。
最近の私は間違えないかわりに、今日のように賞品をもらうことはめったになくなっていた。
それはなぜか?
論理的な私は、しかし答えを出さないことにした。そして、間違いを恐れないでいようと思った。
×が大きないびきをかきはじめた。寝たふりを決め込むつもりらしい。+の自分が言ったことを悔やんでいるのだろう、
両目からびしょびしょと涙が滲んでいるものだから、狸寝入りにはなんの説得力もなかった。
「なあ、次に賞品がもらえたら、今度こそ一緒に行こうな。ハワイでも、熱海でも」
私の愛車、ム.ー.ヴ.コ.ン.テは×を家に送り届けるべく、夜の街を走り出した。
22 :
□と×の話:2009/12/06(日) 21:32:59 ID:qA30KscI0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナンバリングを間違えてしまった…
カクシカの評論は中の人の演技もあって禿萌えるよね
無機物やケモノに萌えたのは初めてかもしれん
お粗末さまでした
某霊界探偵の敵サイドの二人だよ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
仙水が連れてきたのは茶色いふわふわした髪と大きな目を持つ少年だった。
素性の知れない大人達に囲まれて緊張していた彼が、刃霧の姿を見て
わずかに表情を緩ませた。
近所の高校の制服を見て。
それだけで安心できてしまう御手洗の幼さを、刃霧は疎ましく思った。
御手洗は今日も目の下に隈を作り、白い顔をさらに青白くしてやってきた。
ビデオを見せられてからというもの、召集がなくても彼はここにやってくる。
ソファに暗い顔で縮こまり夜になれば帰っていく毎日。
今日、普段と違うところといえば口の端に切り傷を作り、わき腹を手でかばって
いるところぐらいだろう。
刃霧の視線に気付いた御手洗は、クラスの奴らにやられた、と呟いた。
御手洗はガチガチの優等生でも、どうしようもないバカでもない。
しかし彼にはどことなく無防備な人の良さがあり、それが同級生を苛立たせる、
そんなところだろう。
齢が近いだけに、刃霧にはなんとなく想像がついた。
「‥コーヒー飲むか?」
刃霧の気まぐれな申し出にも、ありがとう、と律儀に返答してくる。
口が切れているのに、熱いコーヒーはしみるから、と断ることができない少年。
刃霧は火にかけた薬缶をそのままにして、再びソファに近づいた。
まるで刃霧に命令されたように、御手洗はおずおずとシャツをたくしあげる。
滑らかな皮膚には赤黒いあざが広がっていた。
わざと強く触ってやると、御手洗は無言で身を捩った。
「能力で殺してやればいい。」
「‥ばれたら、計画がだめになるかも。」
だから無理だよ。丸い目を見開いてどこか焦って言い訳をする御手洗に、
刃霧は苛立ちを感じた。
無理ではない、そうしたくないからだ。人類が犯した罪を憎みながらも、自分に
危害を加える同級生を殺すこともできない甘さ。
その甘さが原因で、御手洗は仙水が選んだ仲間たちとも馴染めず、いずれ
切り捨てられる立場にあることを気付きもしないのだ。
「痛っ、なに‥!」
今度は口の切り傷を指で強く押すと、さすがに御手洗は悲鳴をあげた。
「‥仙水さんの命令があるまで、お前の力はとっておけ。」
下らない同級生は俺が殺してやるよ、そう囁くと刃霧は御手洗の頭をなでてやった。
最初は驚いた顔をして、次に少しだけ嬉しそうな顔をした御手洗は、ううんいいよと
律儀に刃霧の申し出を断った。
少し薄いコーヒーを飲みながら、刃霧は考えた。
次はもっとおいしいコーヒーを淹れてやろう。御手洗が自分になつくように。
彼の退屈しのぎになる予定の少年は、何も知らずにコーヒーをすすっていた。
26 :
刃霧×御手洗:2009/12/07(月) 00:03:31 ID:enSD9cUg0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ファンサイトまわってたら再燃。刃霧は天然Sで御手洗は天然Mだと思う。
そして高校生と中学生の微妙な年齢差に萌え。
生
一角獣、太鼓鍵盤+太鼓←唄、太鼓鍵盤のエロあり
でも唄は全く出てこないので注意。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
バスルームから聞こえるご機嫌な鼻歌。音が結構外れている。
「ま、今日は普段より出来がよかったから」
俺は一人呟いてこっそり笑う。音痴だし、時々歌い出しも間違える……でも。
「俺は好きなんだよね」
「なに?」
ドアが開いて彼が顔を覗かせる。
「……聞こえてた?」
解ってなさそうな彼を見てホッとした。気持ちを言うつもりは無いから。
「風呂入るの?」
彼の声に頷くと、一緒に入る?だって。襲われそう、と思ったのを隠して首を横に振る。
「襲わないけど?」
……ペットボトルの水を飲んでいたんだけども、盛大に噴いた。
「ちょ!」
「今までだってさ、嫌がる事はしてないでしょ」
下半身にバスタオルを巻いた彼が近づいてくる。俺の口の端に垂れている水を彼は舌で舐め、そのままキスになだれ込む。
「ん……んっ、ふ」
壁際に追い込まれて手を押さえ込まれ……その気になってるのが手に取るように解った。唇が離れる。
「襲っていい?」
……やっぱり…………でも、断れない。
「……いいよ」
ニコリと彼が笑う。もう一回唇が軽く触れ合った。
服を脱がされてバスルームに連れ込まれる。彼の力強い手に引っ張られてよろけた所を抱きしめられた。彼は俺を抱きしめながら耳元で囁く。
「聞きたい事あるんだけど」
……なんだろう?って、予想出来るけどね、実は。
「俺の事、どう思ってるの?」
俺は彼の名前を呼んで、逆にどう思ってるか聞き返す。彼は口ごもった。お互いに言えない思い。
「ねえ、寒くない?」
話題を変える。鳥肌が立ち初めている俺。彼は小さな声であ、と呟く。
「入ろうか」
彼は湯舟を指差した。二人で入れる程広い湯舟に浸かる。彼は後ろから俺を抱きしめていて……腰に当たってますよ、勃ってるものが。
「勃ってるんだ……ね」
「そりゃあね、勃つさ」
あんたには反応すんの……彼はそう言って俺の首筋を指先でくすぐる。
「今までずっと最後まではしてないからね……今日は我慢出来なさそう」
だからね、と彼は首筋をくすぐっていた指先を俺の頬に這わせた。
「俺はね……好きだよ」
グイッと俺の顔の向きを変えてキスされる。
「あんたは……どう思ってる?」
……はっきり言われたって言えない。
沈黙している俺をいぶかしげに見ている彼。……言えないんだってば、アイツの気持ちも解ってるから、絶対言わないし言えない。
「……ごめん」
彼の手から力が抜けた。俺は立ち上がって風呂から上がる。彼に背中を向けて湯舟のへりに座る。
「なんで」
彼が話しはじめるのに合わせて俺も声をあげる。
「嫌いじゃ無いよ、でも応えられない」
彼の声が静かに問いただす。
「なんで応えられない?理由を教えて」
……気づかない、気づいてない。彼はなんで鈍感なんだろう……。アイツは言うなら自分から言いたいだろうし……。
「……言えないの?それとも…………まさか、理由なんて無いの?」
無い……無い訳ないじゃん。アイツが幸せになって欲しいから、俺の気持ちは言わない……それが言えない理由。
「……ごめん、言えないんだ……理由が無い訳じゃ無いよ、本当にごめん」
彼のため息が背中から聞こえた。小さな声でもう一回ごめんと呟いて外に出た。
「…………好きなんだよ、俺も」
ソファーに座り、小さな声で呟いて頭を抱える。
アイツには、幸せでいて欲しい。好きとは少し違うけど、大事な相手。彼の隣にはアイツが似合ってる、俺じゃない。
「……割り切れ、引きずられたら駄目だ」
彼の強い気持ちに引きずられたら、アイツが悲しい顔になる。ドアの開く音。笑顔で彼が俺を見ている。……引き攣ってないか?
「……これだけは聞きたいんだけど……」
「なに」
彼は少し顔を横に向けた後、凛々しい顔で俺を見た。
「俺の気持ちに応えられないのは、嫌いだからじゃ無いんだね?」
……うん、って言っちゃうと認める事になる……でも……。
「どっち?」
彼が近付いて来て、ソファーの背に押し付けられた。
「言わないんだったら……身体に聞くよ?」
ビクリと震えた俺を見て彼は笑った。
「身体の方が素直そうだね」
キスされて、流れるように首筋に唇が動いて、キスマークを付けられる。
「っ!」
息をのんだ俺を見て彼は笑う。
「気持ちいいなら、声を出して……聞きたい」
耳たぶを甘噛みされて、耳の軟骨に歯を軽く立てられる。
「っ、んふ」
彼の指が、唇が、舌が俺の身体を這う。時々キスマークを付けられてるのが解るけど、抵抗する気力は無い。彼は俺の顔を見て、クスクス笑った。
「気持ちいいんでしょ?……やっぱり身体は素直だね」
彼はソファーから身体を起こして、俺を抱き上げる。
「え、ち、ちょ」
「ベッド行くよ」
首にしがみつく。軽々と抱えられると複雑な心境になった。
「軽いねえ」
ちゃんと食べてる?と聞かれてなんだか恥ずかしくなる。
「はい、ついた」
ポンとベッドに下ろされた。すぐに彼が覆いかぶさって両方の手を押さえ込まれる。
「余計な事を考えないようにしてあげるから」
乳首にいきなり舌が這う。軽く吸われ、舌先でつつかれる。
「ん、あ……っく」
少しすっきりしかけてた頭が再び霧に包まれた。
「……ん、く……うっ」
びくびく震える身体を自分では制御出来ない。彼は俺の手を離して、俺の身体を裏返す。
「…………好きだよ」
小さく彼は呟いて背中に舌が這っていく。普段ならくすぐったいだけなのに、今はただただ気持ちいい。
「ひゃ!……ふっ、あ……く」
シーツをにぎりしめて枕に顔を埋めて声を上げつづける。……好きって言って抱かれたらもっと気持ちいいんだろうか……。彼の甘い声が耳に滑り込む。
「なに考えてるの?」
「な、なんでも……」
否定しようとした俺を制するように、彼は耳元で囁いた。
「いいなよ……聞きたい……俺は、大好きだよ」
尻に手が伸びて指先がアナルに触れる。
「っ!……ふ」
ゆっくりと撫で回されて指先を軽く押し込まれた。
「あ!」
ビクンと身体が跳ねる。すぐに指が出ていき、また軽く押し込まれるのを何回も繰り返された。
「……好きだよ、大好き」
譫言のように彼は繰り返す。どんどん俺の中で何かが壊れていく。
「ひっ!あ……く」
グイッと中に指が入り込んだ。中を掻き回されて思わず顔が上がる。
「愛してる……だから」
彼の声が耳から入って身体に、心に変化を起こす。限界を超えた俺の理性が、言ってしまえ、と指令を出した。
「お、俺も………………っ、ち、違う、ちがう」
俺の理性は緩んでいるが、何かがその先の言葉を止め、否定の言葉をも口にさせた。それはきっと、アイツの悲しそうな顔。
「っ!……なんで」
彼の苦しそうな声。……ごめん、本当にごめん、やっぱり言えない、応えられない。
「なんでだよ!」
彼の抑えられた、でも怒りの伝わってくる声色。
「……ごめん、嬉しいけど……駄目なんだ、言えないんだ」
彼が俺を一瞬強く抱きしめ、身体が俺から離れた。俺に背を向けて服を着込む彼の気配を背中で感じる。
「…………諦めないから、あんたの事」
低い声ではっきりと彼は俺に告げて、部屋から出ていく。
「……俺も好きだよ」
小さく呟いて俺は声を殺して泣いた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
IDが途中で変わったのはいきなりカキコミ出来なくなったから。ああ驚いた。
救いようが無い雰囲気だ…
半ナマ
中華麺ズのコント「銀/河/鉄/道/の/夜/の/よ/う/な/夜」
トキワ→カネムラ
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
世の中というものは、そう上手くいくものではない。
例えば、絶対にミスをしないように気をつけようと思ったってあり得ない誤字をしたりするし、
例えば、何の努力もしないで億万長者になることを望んだところで、実際はいつまでもただの活版印刷所職員だったりする。
結局僕は今日も、文字を拾う仕事をして、いくつかのくだらないミスをして帰路に着くだけだった。
ただいつもと違うことといえば、競馬の知識など全く無いのに馬券を買ってみたことだ。
ちょうど一年前のあの夜、何故かポケットに紛れ込んでいた馬券。
掠りもしないということをわかっていても、また同じ馬に賭けることにした。
あの、目が痛くなるような服を着たジョッキーの馬。元より競馬の知識など無いのだ。
だったら記念と、ほんの少しの期待を乗せても良い。
そういえば、今日は祭りの日であるらしかった。言われてみれば街全体の空気が浮き足立っているようにみえる。
しかし僕は何をするわけでもない。それは去年と同じだった。
変わらないことといえば、空もまたそうである。本当は星の光り方だって変わっているはずなのだけれど、
数え切れないくらい溢れる星に昨年との違いを見いだせない。
僕はまた、同じように空を見上げ、こぼれるような光の粒に同じように感嘆の息を漏らした。
まるで、一年前のこの日をなぞるような一日。変わったことなど何一つない。仕事のミスの数も、街の様子も、空も同じだった。
ただ一つ、思い出せるとしたら。
あの日の帰り道に出会った友達のことである。
UFOを見たと言っていたアイツ。上着の濡れていたアイツ。
「金村」
今は、呼んでも答えない。いなくなってしまったアイツ。
家に帰ると、牛乳が届いていなかった。
そういえば、こんなことが去年もあった。
――と気がついた時、僕の胸は突然の躍動を始めた。
去年と同じ。
すべてが同じだとするならば。
牛乳屋の対応は粗雑で。
それに腹を立てた僕は自力で取りに行くことを選ぶ。
列車に乗り込んで。
そしてそこで――
誰かと一緒だった気がしたのだ。
気がつくなり、寝たきりの母に声をかけた後僕は家を飛び出していた。
あんな牛乳屋に確認の電話をするのは無駄である。だったらまっすぐ、駅に向かうほうが良い。
祭りに浮かれる人々をすり抜け、駅までの道を駆け抜けた。後ろに影を伸ばしながら、街灯に照らされた坂道を下り降りる。
広場を通って、原っぱも走り抜けた。
そんなわけで、駅に到着したのは昨年より二本も早い列車が出る時刻である。しかし、それに乗り込むことはしない。
3時到着予定のあの列車のチケットを、僕は買った。
列車の中は、閑散としていた。この時刻、更に街でお祭りのある時にわざわざ余所に出かけようという者も少ないのだろう。
窓際の、ある一つの席に少しだけ鼓動を高めながら僕は近づいていった。
その鼓動が確実な音に変わったのは、座席に置き去りになっていた新聞を見た時だ。
ーーまるで、あの夜と全く同じ。
僕は震える手でそれを取った。馬鹿らしいと自嘲してしまいそうだった淡い期待は、今、少しずつ現実の色を帯びている。
「お、今日の新聞だ。ラッキー」
同じ言葉を呟きながら、同じように、見えない誰かが傍にいることを希っていた。
予想が確信に変わるには、まだもう少しの再現が必要であることはわかっている。
ポケットにあるチケットを取り出すと、もう知っている時間を確認した。
「3時到着予定。まだ時間があるな」
これは、もう一度アイツに会うための儀式だ。
「しりとりでもするか」
何故、いなくなって一年も経つアイツにこうまで執着するのだろう。
「機関車」
一年経って忘れたとは言わない。しかしそれでも、今日までの日々の中、記憶の隅に置き去りにされ
ていたことだ。
「写真部、ブリーフケース……」
それが、今日。この夜。あの日と同じような天の川が、アイツを思い起こさせたのかもしれない。
じゃあな、と笑って去ったアイツ。あれを最後に会えなくなったアイツ。
「すもも、もも・・・桃太郎」
でも、あの時この列車に、一緒に乗っていたんだろう?
「ウナギ屋、野心家」
アイツの気配を逃さないよう、出来るだけゆっくり。噛みしめるように進めていく。
「カラス瓜、理科、枯れ葉」
今夜くらい、また一緒に行きたいと思った。
「博士――」
がたりと揺れた列車に身を傾ける。
えっと、次は何だったか。
「――星座早見表」
“う”
そうだ、これで僕は、終わってしまったのだ。しりとりを終えて、そして呟く言葉ももう決まっている。
だけど――あの時とは違う。
誰かと一緒にいるような気持ちなんて、しなかった。
「う、ちゅう・・・・・・ステーション」
いつのまにか紡ぐ言葉がゆっくりになっていたせいだろう。列車はもうすぐ目的の駅に着くらしい。
時間切れのように、車内放送が駅名を告げる。
ああ、駄目だった。
あの夜との符号がずれていく。
競馬場もとうに過ぎて、遠い牛乳屋もすぐそこだった。
僕は、悔しさに唇を噛む。寂しさに自身の体を抱きしめて、喉からこみ上げて来る声を抑える。
列車が線路を進むガタゴトという音は、今ではとても無情なものに感じられた。
よろよろと立ち上がり、少したてつけの悪い窓を開けてみた。牛乳の川が流れている。
この時初めて、見上げた空がとてつもなく高いということに気がついた。
本当は、始めからわかっていたことだ。
今夜が一年前の夜とは違うということも。
いくら重ね合わせたって無駄だということも。
こんな列車に乗ったって、会えるはずないことも知っていた。
それだけ遠く、それだけ高いところへアイツが行ってしまったことも知っていた。
それでも僕は――
「一人でやっても、つまらないよ」
決められた言葉を呟く。
そうすれば、アイツが笑ってくれるような気がして。
祭りの夜を飾る天の川も、当然のように当たらない馬券もそのままに。
ただ一人だけがいない夜空は、呆れるほどに綺麗だった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末様でしたー
>>16-22 中の人声で再生されたw
困ったシカ、絶対可愛いに違いない!
投下してくださってありがとうございます! 新たな萌え広がりました〜w
「みじめったらしく見える801の組み合わせ」スレ302さんのレスにインスパイアされて書いてみた
貧乏人×男娼
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
着古した作業着に身をつつみ、日がな一日化学薬品にまみれ製紙工場特有の悪臭に耐えながら精いっぱい働いたが、
その結果として受け取る報酬はあまりにもささやかなものだった。愛する者を支えるどころか、
自分ひとりが生きていくのさえ危ういほどだ。結局、ニールの収入をあてにするほかない。
ケネスは汚れた両手にわずかな賃金を握りしめて、ふらふらと家路についた。
仕事柄、ニールの帰りは遅い。ケネスは薬品のしみついた手を洗い、スパムの缶詰めをひとつ皿にあけた。
これに切り分けたパンをつけて夕食を終え、お茶を飲み、たびたびノイズの走る
古いテレビで映画を観て、ニールのためにふたつめの缶詰めをあけたところで
フラットのドアが静かに開いた。誰が入ってきたのか確かめる前にケネスは素早く体を反転させ、
優しい笑顔を浮かべて腕を広げているニールの体を抱きしめた。ニールの肌は冷たかった。
「また歩いて帰ってきたのか?危ないからよせって言ったはずだ」
「悪かった。仕事のあとはどうも電車に乗る気にはなれなくて」
弱い電灯の下では青ざめてさえ見えるニールの顔が弱々しく笑うのを見て、ケネスは口をつぐんだ。
ニールは、仕事のあとは誰とも顔を合わせたくないのだ。
ニールがテーブルについて夕食をとり始めたのを見て、ケネスは大きな音を立てて椅子に腰を下ろした。
「ご機嫌ななめだな? 悪かったよ、明日からは電車を使う。このごろ寒いしね」
「ニール……違うんだ、ごめん。きみに怒ってるわけじゃないんだ。俺はただ……」
「わかってる」
ニールは優しくケネスの手を叩いてほほ笑んだ。
“そんな仕事はやめてくれ”といえたらどんなにいいだろう。
きみがそんなことをする必要はないんだ。きみは美しい若者で、頭が良く、そして誰より優しい。
きみは素晴らしい人間なんだ。
ケネスが言わんとしていることを理解したニールは、ケネスの目の前で大きく口を開けた。
ニールが噛みくだいたスパムやパンの残骸があらわになり、ケネスは思わず身を引いた。
口の中をいっぱいにして声を出さずに笑い出したニールを見て、
ケネスは胸の内に暗澹たる思いが立ち込めるのを感じた。
互いに理解している。ニールの収入なくしては、二人とも生きてはいけないのだ。
フラットの窓からちょっと外を覗けば、暗い路地や公衆電話の中で夜を明かす者達の姿が目に入る。
これから厳しい季節を迎える。
雪の積もる季節になったら、彼らの姿は影も残さず消えてしまう。彼らはどこへ向かうのだろう。
ニールのボスは10万ポンドと引き換えにニールの足ぬけを許可すると請け合った。
もっともらしい数字を出して組織に対するこれまでの“つけ”や“借金”の総額だといいはったが、
物心ついたときから今の仕事をしていたニールはずっと路上生活を強いられていた。
屋根のある場所で寝起きできるようになったのはニールが成人してからのことで、
組織がニールに対してなにかしらの援助を施したことは一度もない。
当然学校にも通えず、ニールはずっとひとりで生きてきた。
そんなニールにそこまでの借金があるはずがないのだ。
一度、ケネスは拳銃を手にしてフラットを出ていきかけたことがある。ニールは止めなかった。
きっと、ケネスは思いを実行できずに戻ってくるだろうと悟っていたのだ。
実際その通りになった。
悔し涙に暮れながら、ケネス自身にも果たして自分がどこに行こうとしていたのか、
銀行かあるいはボスのところか、それすら理解できないまま
ただ弾丸の入っていない拳銃を握りしめて泣いていた。
そして今にいたる、古めかしく狭いフラットで静かに身を寄せあって生きる二人の若者。
ケネスは毎日全身の筋肉が痙攣するほどの疲労と悪臭を帯びた化学薬品にまみれ
ニールは毎日名前も知らない男女とベッドをともにしている。
その結果得られるものはその日の食事すらままならない明日をも知れぬ生活だ。
二人で誰も知らない遠い町へ逃げようとしたり、いっそ別々の道を歩もうとさえした。
だが結局のところ、互いに結果は見えていた。住む町を変えたところで物事が
良い方向に転じるとは思えなかったし、今のニールの収入に頼れなくなる時点で生活が成り立たなくなる。
別れるなどありえなかった。もっとも耐えがたい選択肢だ。ケネスにとっても、ニールにとっても。
だからといって他に打開策があるはずもない。大胆な手に打ってでる勇気も無鉄砲さも
互いに持ち合わせていなかった。不安ではあったが
愛する者とともに暮らせる静かな生活だ。それを失うのが怖かった。
「ケネス、見てくれよ。今日宝くじをもらったんだ。どうする? 大当たりするかも」
ポケットからくしゃくしゃの宝くじを取り出して、ニールはケネスに見やすいように
テーブルの上でしわを伸ばした。ケネスが覗き込んできたのを上目で確認し、優しくほほ笑んだ。
「幸運をくれないか」
「え?」
ニールは白い指先に宝くじをはさみ、静かに自分の唇まで持っていった。
音を立てずにその紙きれにキスをして、ニールは指先をケネスの唇に伸ばした。
「幸運を」
ケネスが宝くじに口づけると同時に、ニールがそういった。
ケネスはニールの指先に唇をすべらせた。先ほど氷のように冷えきっていた肌は
室内の暖気であたたまり、ここちよい柔らかみを帯びている。
ニールの手を握ったまま立ち上がってニールのそばへ行くと、
ニールは首を曲げてケネスの口づけに応えた。
ケネスがグレーのハイネックセーターの下に手を這わせると、
ニールはもどかしそうにケネスのシャツを脱がそうともがいた。
互いに半裸になりながらもつれあって立ち上がり、どちらともなくベッドへ向かう。
唇といわず首筋といわず互いを愛撫しながらベッドに向かう道中
背中や頭を壁にぶつけ、やっとのことでベッドに飛び込んだ。
ケネスが仰向けで自分のスラックスを脱ぎ捨て、ニールはケネスに覆いかぶさるようにして
口づけながらベルトを外し、脱いだジーンズを床へ放り投げた。
ニールが慣れた手つきでケネスの性器にコンドームをかぶせ、
すでに硬くそそりたっているそれをのどの奥までのみ込んだ。
ケネスが息をのみ、ニールの明るい茶色の髪を優しくなでる。
口にくわえたそれを愛おしそうに舌で包み、頭を上下するニールを尻目に、
ケネスはテーブルの上に置かれたままの紙きれに目をやった。
「ケネス、愛してる」
先端に音を立ててキスをし、ニールはいったん口を離して次の準備を始めた。
小さなタンスからチューブをとり出して中身を指先にしぼり出し、肌になじませてから
指先を四つん這いになった自分の後ろにもっていく。
「ニール、宝くじが当たったら、俺はまずきみを自由の身にする」
きれぎれの息を吐きながら、ニールがにっこりと笑った。
「それから遠い町に引っ越して、素敵な家に住むんだ。大きな庭もある。
そこで犬を飼って暮らす。そして二人で大学に通う。
教育を受けて二人ともきちんとした仕事に就いたら
きみと結婚して養子をとるんだ。どんな子だってかまわない。
ずっと仲良く家族で暮らすんだ。旅行にも行くのさ、スペインや、フランスや、
カリブ海でダイビングするんだ。きっとみるみる太るだろうな」
ニールは声を出して笑った。寝そべったケネスの上にまたがり、
ゆっくりと腰を下ろしていく。
「こんなふうにしたらきみが窒息するくらい?」「うん」
すべて中に挿入してしまうと、ニールはいったん動きをとめた。
乱れた息を整えようと深呼吸しながら、ケネスの汗ばんだ前髪をかき上げる。
「愛してる」
「ニール、俺の方がもっと愛してるよ」
吹き出すように笑って、ニールはケネスの胸元を優しくなでさすった。
「ほんの少しでいいんだ……そんな大それたことは……ただきみを幸せにできたら……」
そう小さな声でささやいて、ケネスの上で引き締まった腰を振り始める。
ケネスが見上げると、ニールは変わらず優しい笑顔でケネスを見つめていた。
二人ともわかっていた。宝くじなど当たらない。現実はいつ明けるとも知れない暗闇に続いている。
ニールの体にはあちこちにあざがあった。
真新しいものもあれば古いものもある。いわゆるキスマークと呼ばれるものと、
本当に傷を受けて内出血を起こした痕のものだ。ニールは多く語らないが、ハードプレイ好みの客が
つけていくのだろう。ケネスはニールの顔に手を伸ばし、目で口づけをねだった。
ニールはすぐに応えて身をかがめた。互いの唇が粘着質な音を立て、触れては離れる。
ケネスは優しくニールの背中に腕を回し、いったんニールを
ベッドに寝そべらせてからリードを交代した。
魅力的で頭が良く、優しいニール。どうしてこんなことに?
ハンサムで思いやりがあり、純粋なケネス。どうしてこんなことに?
俺のせいなのか?
明日も同じような一日を過ごすだろう。もちろん明後日も。もちろん来週も来月も、
何年も何年も同じ日々の繰り返しだろう。つらい生活の中で自分を責め続けるのだ。一生。
俺がこんな仕事しかできない能なしじゃなければ、相手を支えてやれる男であれば、と。
いっそひとりで生きるほうがましだと心のどこかで思いながら、
結局互いに離れまいとしがみついている。
ニールはすべて諦めたような優しいほほ笑みを浮かべ、ケネスは苦渋にまみれ
怒りに耐えながら、彼らは変わらぬ日々を送っていく。
「ごめん」
「謝るなよ」
「なんとかできるなら……」
「わかってる。わかってるよ」
それでも時は流れていく。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
初の携帯投下で上手くできてなかったらスマソ
おおお投下ラッシュだー
>>43 すごい萌えた!
こういうの好きです。
※生注意※
オサーン盤
迷彩視点
不謹慎要注意!!
死ネタ注意
捏造注意
萌え無し
|>PLAY ピッ ◇⊂(;A; )ジサクジエンガ オオクリシマス…
一足先に冬を迎えたニューヨークの夜は、吐息をかすかにけぶらせる。
日本を発つときには必要なかったコートに身をくるみ、鉄はタクシーを降りた。
深夜にリトルイタリーの入り口でタクシーを停めさせた東洋人を運転手は怪訝な顔で見たが、余計なことは何も聞かなかった。
英語が不得手と思われたのだろう。
車内では必要最低限のことしかしゃべらなかった。
眠らない街と言われるニューヨークでも、全ての街が眠らない訳ではない。
ここリトルイタリーでもメインストリートこそきらびやかな灯火で夜を謳歌してはいるが、一歩裏通りに入ってしまえばよそ者には不穏な空気をかもし出している。
その澱んだ空気に怯むことなく、鉄はうらぶれた通りに足を踏み入れた。
この界隈も、これから向かう店も、初めてではない。
以前に一度だけ訪れたことがある。
連れられてきた、と言った方が正しいのかもしれない。
記憶をまさぐり裏通りを進めば、見覚えのある古い建物が見えた。
住人がいるのかどうかも怪しいそれは今夜も明かりが灯ることなく、しんと静まり返っている。
そこを曲がり、細い路地を更に進む。
突き当たりの手前に小さな明かりが見え、看板であることを確かめた鉄は、足早に路地を進んだ。
記憶にある看板に間違いはなさそうだったが、店の名前までは覚えていなかった。
アルファベットの連なる店名は、イタリア語に馴染みの薄い鉄にとって記憶に引っかかってくれるものではなかったらしい。
B1の文字を確かめ、地下へと下る階段に足を向けた。
ひとり歩くだけで精一杯な狭い階段は手元さえも薄暗く、非常灯すら灯っていない。
携帯電話を取り出してライトを点灯し、足元を照らしながらそろりと下りる。
階段を下りきった先には古めかしい木扉がひとつあった。
それだけなら店舗の入り口にも見えるが、ここに看板はなく、店の名前すらどこにも出ていない。
鉄は軋む音を立てる木扉を開けた。
階段よりはわずかに明るい店内から、明かりが漏れる。
低い天井から間接照明がスポットライトのように光を降り注ぎ、漂う紫煙をゆらりゆらりと浮かび上がらせていた。
煙る中、鉄は足を踏み入れる。
縦に細長い空間はカウンター八席と申し訳程度にテーブル席が置かれたバールだった。
街中にあるような洒落たものではなく、人がいるのに裏路地同様どこか廃れた雰囲気が漂っているのは、壁を飾る色褪せたポスターの仕業か。
壁際には多種多様な酒瓶がずらりと並び、その前に陣取っているのは仏頂面を下げた店主らしき年老いた男がひとり、煙草を片手にショットグラスで酒を舐めている。
客はいない。
その静寂をあざ笑うかのようにジャジーなBGMが控え目に流れている。
鉄はカウンターに向かい、一番奥のスツールに腰を下ろした。
「グラッパをショットで二杯」
ひとりで来店しているにも関わらず二杯という不自然な注文をした鉄に店主はちらりと目をやり、棚奥からボトルを一本取り上げた。
「前回と同じでいいかい?」
店主の問いかけに気を奪われ、コートのポケットから取り出してくわえた煙草を鉄は危うく落としそうになり、慌てて手で掴んだ。
この店に訪れたのはもう何年も前、ただの一度きりだ。
いくらこの界隈で東洋人が珍しいとはいえ、ただの一度しか来店していない客を全て覚えているのか。
驚きに見開いた目を店主へ向ければ、何事もない顔をした老人は鉄の前に灰皿を置くと、くわえ煙草のままショットグラスに酒を注いだ。
呆然とその動きを目で追う鉄の前へ、静かにショットグラスがひとつ置かれる。
もうひとつは隣のスツールの前へ。
全てを見透かされている気になった鉄は手にした煙草を再びくわえ、火を点けた。
深く深く、肺の奥まで吸い込み、一息に吐き出す。
忙しなく灰にしていく煙草が半分にもならぬ内に、鉄の前にはチェイサーが置かれた。
根本まで灰にしてからようやく鉄は灰皿に煙草を押しつけ、ショットグラスを手にした。
小さなグラスは片手にも余る。
それをほんの少し揺らしてなみなみと注がれた液体を波立たせ、隣のグラスに触れ合わせた。
澄んだ音色が古めかしいジャズに飲み込まれていく。
口元に運べば酒の弱い自身には気化したアルコール臭だけで酔えそうな強い香りが鼻腔をくすぐり、鉄は誘われるままに薄い琥珀の液体を一口含んだ。
それは嚥下をためらうほどの灼熱を鉄にもたらし、一瞬で口内を焼く。
負けじと飲み下せば、口内を焼いた酒は喉を焼き、食道を焼き、胃の腑を焼いてなお気化して口内へと舞い戻っては熱を増長させた。
グラッパが今どこに居座っているのか、灼熱がその在りかを否応なしに知らしめる。
こんな酒を、あの男は生で飲んでいたのか。
炭酸で割って飲んだあのときとはあきらかに違う、暴力的なまでに雄々しく、力強いこの酒を。
すぐさま脇のチェイサーに手を伸ばし、グラス半分ほどを胃に流し込む。
胃の中で水割りにしてやろうという魂胆だったが、ちりちりと熱を持つ粘膜にはあまり効果がないように思えた。
あの男はこの酒を何と評していただろうか。
剛直かつ野趣溢れる土臭さは原始のエロティックさに通じる、だったか。
酒の味などとんとわからぬ人間には理解の及ばぬ語り草でしかなく、そのときは何を気障ったらしいことをと鼻白んでみせたが、味覚に異常がある訳ではない、酒が飲めるか飲めないかの違いでこうも捉え方に差が生じるものかとある種の感嘆を覚える。
マイブームだと言っていた当時、日本ではまだあまり知られていなかったグラッパを、海外に出ると好んで飲むと話していた。
まさしく『呑む』という比喩が当てはまる飲み方で、いつの間に覚えたのやら、粋にグラスを干す様は豪胆の一言に尽き、同じ時代を駆けてきた盟友がずい分と遠く離れた大人の世界に身を浸しているような疎外感を、隣に座る男に感じさせられたものだ。
もちろん、当時の自身とて子供と呼べる年齢ではなかったし、無邪気にはしゃいでいられるだけの立場でもなかった。
見たくもない光景だとて見飽きるほど散々見てきたし、表に立つ者としての責任感も身についていた。
それでも、立ち位置の相違とは明確なもので、ひとつの世界を作り上げる同士でありながら、一方は人の上に立つことを覚え、一方は夢と理想に向かってただがむしゃらに突き進んだ。
初顔合わせから二十年。
いまだに酒宴でもウーロン茶で口を湿らせる自身には、あの男の呑み方は真似できそうにない。
汗をかき始めたチェイサーのグラスを干し、タンと音をたててカウンターに置く。
間を置かず次のチェイサーが目の前に置かれ、鉄はありがたく受け取った。
お世辞にもかっこいい飲み方ではないなど百も承知。
不案内な異境の地、しかも独りで出歩いておいて酒に呑まれる訳にはいかない。
同行のスタッフにすら何も告げずにホテルを抜け出している。
朝になっていないことがバレでもしたら、大騒ぎになるだろう。
それくらいの分別はさすがにつくようになった。
思えばこの業界を共に生き抜いてきた二十年、言い尽くせぬほどの思い出があるはずなのに、一番に浮かぶのは酒に焼けた胴間声と、何物にも左右されない頑強な意思だ。
この店に連れられてきたときも、客がいないのをいいことに声を張り上げ、業界の悪しき慣習を嘆き、取り巻く現状を糾弾し、未来への希望を語った。
白熱する議論に終わりはなく、互いに一歩も譲らないまま、きっと変えてみせると誓った、まだ青き時代。
遠き過去と呼ぶにはまだ近い、手が届きそうで届かないあの頃。
そして、裏方とは思えない、派手でいかつい容姿。
反面、仕事上では誰より細やかな気配りのできる男だった。
空気の読める男、とでもいうのだろうか。
率先してメンバーに絡んでくる姿勢はやることなすこと忌憚とは無縁で、助けられたことも一度や二度ではない。
何もかもが豪快な男だった。
過去形にしなければならないことが、胸をえぐるほど惜しいと思わせる程度には。
込み上げる何かを押さえつけるため、手にしたショットグラスを口元で傾ける。
舐める程度の量でも、視界の揺れを感じた。
不可解な飲み方をする東洋人に何も尋ねてこない店主が、今はひどくありがたい。
煙草に手を伸ばしたついでに、時刻を確かめる。
日付が変わるにはまだ早いが、日本では正午を回っている。
音出しも始まっているだろうあの場に思いを馳せ、煙草に火を点けた。
ちりりと紙が焼ける音と共に、肺腑へニコチンを充溢させる。
レコードでもかけているのかと思わせるほど雑音混じりのBGMはオールドジャズ一辺倒で、名も知らぬ歌手が切々と愛を嘆いていた。
どこまでおあつらえ向きのシチュエーションだろう。
いっそのこと、底抜けに明るく、耳をつんざくほどやかましく激しく、我知らず杯を重ねたくなる曲ならまだ救われるのに。
どうにも感傷を誘われる諸々に鉄は固く目を閉じた。
熱く滲む目頭を持て余し、煙草の煙が目に染みたせいだと自身に言い訳するも、気にかける人間など誰一人いはしない。
何を置いても馳せ参じたかったライブも、心だけはあの場に参加している。
不義理とは無縁な男のことだ。
今頃はあちこちに顔を出して、休む暇もないくらい忙しくしているのかもしれない。
長く業界にいれば当然のこと、交遊関係も広かった。
そう、心だけ届いていれば、それでいい。
他に何を望むことがあろうか。
最高だったと胸を張って言える二日間、確かに背中から押される気負いを感じた。
どこまでも届くように根限り叩いた。
身体を食い破る勢いで暴れる衝動を声に託して何度も叫んだ。
会場のどこかで見ているはずの男へも向けられていた気迫は、何がしかを観る者に与えられたと自信を持って言える。
その姿を見ることは適わなかったが、きっとあの男は爛々と目を輝かせ、拳を握り、人一倍あの時間を楽しんでいたに違いない。
だが、この胸に巣食う昏迷を、自身ではどうにも持て余す。
いっそのこと吐き出してしまえれば、いくらか楽になるだろう。
酒飲みであれば、正体不明になるまで酔ってくだを巻き、わめくついでに悲嘆も吐き出して、代償は翌日の重い頭に重い身体といったところか。
そんな器用な真似などできない自身には、全てを抱えたまま進むしか術がない。
もとより投げ出せるはずもないし、愛しい思い出と共に、投げ出すつもりは毛頭ない。
だからこそ、わずかでもいい、ほんの少しだけ、言葉として残しておきたい気分にさせられたのは、時代から取り残されたようなこの店と、あの男が旨そうに呑んでいた酒の仕業だ。
「ここ、電波は入るのか?」
根本まで焼けた煙草を灰皿に押しつけながら店主に尋ねると、煙草を旨そうに喫んでいた店主はわずかに肩をすくめた。
「知らんよ。携帯電話なんていうハイテク機械は持ったことがないんでね」
老年らしい言いように小さな頷きをひとつ返し、鉄はコートのポケットから小さなノートパソコンを取り出した。
手ぶらで出歩く際にはホテルに置きっぱなしにすることも多いパソコンを今日に限ってポケットに突っ込んでいたのは、何がしか思うところがあったのかもしれない。
それとも、呼ばれる何かがあったのか。
信仰の対象などついぞ持ち合わせのない人間らしからぬ思考にも、今夜だけはそれも悪くないと思える。
電源を入れてブラウザを起動させれば、どうやら電波は届いていることが確認できた。
飾る必要はなかった。
あの男に手向ける言葉に、余計な装飾などいらない。
飾らなければならない関係ではなかったし、何より自身の柄ではない。
ただ思うがまま、胸の内を打てばいい。
そう思いつつ、揺れる視界が邪魔で進まない。
アルコールに悪態をつきながら幾度か瞬きを繰り返し、またショットグラスの酒を舐める。
最後の一文を入力し終えたところでそのまま送信した。
見直しはしなかった。
する必要もないと思った。
すぐさま電源を落とし、パソコンはポケットにしまった。
三分の一も残っていないショットグラスを干し、店主に向かって突き出す。
「同じ物を」
音をたててカウンターに置けば、店主は無言でボトルを取り上げ、そのままグラスに注いだ。
愛想のかけらもない老人に、そんなことで客商売がやっていけるのかと思わないでもないが、だからこそここはいつ来てもがらんとしているのだろう。
道楽でやっているようにしか思えない店だが、それに慰められる人間だけが、ここには集うのかもしれない。
喧騒とは無縁で、見せかけの安寧もなく、時折古き時代のジャズに身を委ねたくなる、そんな者達のためにある酒場。
そんな店が一軒くらいあってもいいだろうというのも、今の鉄なら理解できる気がした。
煙草に火を点け、手慰みにショットグラスを揺らす。
視界だけではなく身体の揺れも感じ、鉄は酔いを自覚した。
最後の一杯。
そう心に決め、グラスを一息に空ける。
灼熱のかたまりが身の内を焼き、方々で暴れるのも構わず、煙草を一吸い。
あの呑み方を真似してみたが、やはり向いていない。
目を閉じるとあの男の笑顔が浮かび、片手で顔を覆った。
ただ無性に会いたいと思ってしまう自身を戒める。
会わなくていい。
会いに来なくていい。
夢になど出てこないでほしい。
どこかで見ていてくれるのなら、心だけ届いているのなら、それでいい。
次に会えるのはいつになるのかわからない。
何年後か、はたまた何十年後か、それすらも。
それでも、顔向けできないようなことをするつもりはないし、俺は俺の道を行く。
だから、待っていてほしい。
自信を持って会いに行ける、その日まで。
またぞろ込み上げてきた遺憾をチェイサーで押し流し、空のショットグラスを手に取った。
満たされたまま減りようがない隣のショットグラスに触れ合わせ、最後の乾杯を告げる。
高直な音色は胸を締めつける残響を伴って、人生賛歌に飲み込まれた。
そうして鉄は腰を上げる。
財布から紙幣を数枚抜き、カウンターに置いた。
その内何枚か帰そうとした店主に、鉄は無言で首を振る。
酒を飲みに来たのではない。
この時間を買いに来たのだ。
その対価として見合う額を置いたに過ぎない。
重い扉を押し開け外に出ると、きんと冷えた空気が首元を洗った。
襟を合わせて寒さをしのぎ、階段を昇る。
酔いも醒ましそうな冷気に身をすくめながら、鉄はタクシーを拾うため表通りに足を向けた。
□ STOP ピッ ◇⊂(;A; )イジョウ、ジサクジエンデシタ…
不謹慎なお話で、大変申し訳ありません
『故人が夢枕に立つということは、その方と縁が切れるということだ』
昔の人はそう言いました
大阪での紫×赤を書いていたはずが、あの日の迷彩ブログを拝読してから言いようのない哀惜に筆が止まり、気づけば不善極まりない代物になっていました
どこにも需要がないであろう話で申し訳ありません
>>27 太鼓、鍵盤、唄の三角関係が大好きなわたしとって凄く良かったです。
唄のことを想う鍵盤セツナス。残酷な最後も私好みです。
また良かったら書いてくださるとうれしいです。
萌え、ごちそうさまでした!
携帯から失礼します。
半ナマ。月/キ/ュ/ン/東/京/犬よりス○。
8話のネタバレ含みます。
すっごくベタだよ!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
嘲笑うかのような回咲の声を最後に、通話は途切れた。
それきり、携帯から聞こえてくるのは無機質な電子音だけ。
俯く総の表情には、隠しようのない焦りと動揺が滲んでいた。
そんな相方の顔を茫然と見つめながら、丸男は雪の言葉を反芻する。
「丸男…総長就任…おめでとう……?」
一体何のことなのか。言われた丸男自身にすら、全く意味が分からない。
自分が総長だったのはもうずっと昔のことだ。それを何故今更、就任おめでとうなどと。
「どういうことだ」
「分かんねえよ……っ」
「今のは雪からのサインだ」
思わず漏れた弱音に答えたのは、こんな時でも冷静に響く総の声。
知らぬうちに辺りを彷徨っていた視線を、彼へと向ける。
見つめた男の顔に、もう動揺の色はなかった。
「恐らく雪はこれから行く場所を俺達に伝えようとしている。どこだ丸男!」
途方に暮れかけている自分とは違う、確かな答えを、活路を見出した揺るがぬ眼差しで
総は真っ直ぐに丸男を見つめていた。
この瞳に応えなければという気負いが、自然と丸男の胸に生まれる。
しかし、気負ったからといってそう簡単に閃きが降って沸くものでもなかった。
「えぇ…! サイン……?!」
「思い出せ! 早く思い出すんだ! 早く!!」
急かす総の怒声を耳にしながら、頭の中にあるはずの答えを必死になって手繰り寄せる。
丸男。総長就任。おめでとう。
呪文のように念じながら記憶を浚うが、目標の手掛かりさえ見えてこない。
焦りが不安を生み、不安がまた焦燥を生む。
考えれば考える程に胸中を混乱が占め、思考は掻き乱されるばかりだ。
「…っ、ああもうっ! 分かんねえ、分かんねえっ……!」
軽いパニックを起こしながら、丸男はほとんど無意識に傍らの総の腕を掴む。
まるで、縋り付くかのように。
二人の視線が交錯する、わずか四半秒程の空白。
次の瞬間。何の前触れもなく、総は丸男の手を振りほどいた。
乱暴な仕草に文句を言う前に、自由になった両腕がすぐさまこちらへと伸ばされて。
気付けば。
丸男は、総の腕の中にしっかりと抱き締められていた。
胸を潰さんばかりに膨れ上がっていた焦燥や不安が、消えてなくなる。
どころか、回咲のことも雪からのメッセージのことも
雪自身の安否のことさえ、何もかも吹き飛ぶ。
頭の中は、文字通り真っ白だった。
何も考えられないし、何も分からない。
背中に回った腕の力強さとか、触れ合った体の温かさとか
シャンプーや洗剤の香料に混じって香る、見知った男の匂いとか。
それ以外に何も、感じられなくなる。
「丸男」
不意打ちで名を呼ばれて、不覚にも、体が大きく震えてしまった。
それでも何故か、この腕の中から逃げ出そうとは考えなかった。
「落ち着け」
耳元で聞こえる声は驚く程優しいくせに、変に掠れていて低い。
「大丈夫だ。お前なら絶対に思い出せる」
ぐっと、顔を肩口に押し付けるように頭を掻き抱かれて、総の香りが余計に強くなった。
体が更に密着する。互いの心臓の鼓動すら、感じられるぐらいに。
「俺は、お前を信じてる」
未だ茫然自失のまま、それでもごく自然に、丸男はその言葉に頷き返していた。
抱き締めた時の唐突さとは裏腹に、総はゆっくりと体を離す。
「どうだ? 何か思い出したか?」
「――あ」
その言葉に導き出されるように、フラッシュバックする記憶の片鱗。
いつか、彼女に見せたいと伝えたもの。総長就任記念に書き記した、あのメッセージ。
「思い出した!!」
「よし行くぞ!」
「ちょ、おい、待てって! 場所分かんねえだろあんた! 一人で先走んなっつの!」
そして二人は、揃って部屋を飛び出した。
法定速度の限界に挑みながら疾走する車の中。
すっかり定位置となった助手席に腰掛け、丸男はどこか落ち着かない気持ちで
過ぎ行く風景を眺めていた。
雪の安否が気にかかる、というだけではない。
今頃になってようやく冷静になった頭で
改めてさっきの出来事を思い返していたのである。
別に好きで思い出している訳ではない。
ただどうしても、頭から離れてくれないのだ。
抱き込まれた腕の感触とか、体温とか匂いとか、その他諸々。
今まで意識もしなかった、知らずにいた総の一部が
記憶にだけでなく、肌にまで残っているような気がする。
何より問題なのは、それらを余り不快に感じていない自分の気持ちのほうで――。
『大丈夫だ』
「大丈夫だ」
「はっ?! な、なな何が?!」
いきなり隣から投げかけられた言葉が、回想の中のそれと重なって
つい過剰に驚いてしまう。
運転中の総は明らかに挙動不審な丸男を見はせず
前だけを見据えて続ける。
「雪は俺が命に代えても守る」
「あ? あ、ああ…そっちね……あ、そう……なんだ」
「……何の話だ」
そこで初めて、総は横目で丸男を見た。
何を言っているんだこいつは。そう言わんばかりの怪訝そうな表情からは
さっきのことに対する照れや動揺は微塵も感じられない。
あんなことをしでかしておいて涼しい顔をする総に、丸男は自分一人が
振り回されていることへの気恥ずかしさと、それ以上の憤りを覚える。
「…あのさぁ。今後の為に今はっきり言っときたいんだけど」
「何だ」
「もう、ああいうことすんの止めてくんない? そりゃまあ、アメリカ育ちの先生はあのぐらい慣れてんのかもしんないけど――」
「ああいうこと? 何だ、ああいうことって」
「何っ、て…決まってんだろ! さっきあんたが俺を……!」
この期に及んで惚けたことを言う総に怒鳴り返そうとして、しかし言葉はそれ以上出てこない。
抱き締められた、この男に。あの胸に、あの腕で。力強く、けれど優しく。
それだけのことなのに。それ以上でもそれ以下でもないはずなのに。
“それだけのこと”に過ぎない事実を口にすることが、どうしても出来ない。
一体自分は、どうしたっていうんだ。
ぐるぐると廻る思考を中断させたのは他でもない、総の心底不思議そうな声だった。
「おい、ちょっと待て。どういうことだ。俺はお前に何かしたのか? 身に覚えがない」
「……はあ?」
無意識に俯けていた顔を上げると、目に飛び込んできたのは
困惑しきりという風な総の表情。
走行中にも関わらず顔を横に向け、正面から丸男と顔を見合わせる総からは
しらばっくれているような様子はない。
まさか、と思いながらも、丸男は恐る恐る総に尋ねる。
「…さっきさ、俺あんたに思いっきり抱き締められちゃったんだけど。もしかしなくても……覚えてない?」
「…………寝惚けているのか、お前は」
返ってきたのは、余りにも予想通り過ぎる答えで。
零れた溜息と一緒に体中の力が抜けて、ぐったりとシートにもたれかかる。
「――っ、ああああ! いいよもう、俺が寝惚けてたってことで! 運転邪魔してすみませんでしたあっ!」
羞恥やら、憤怒やら、何やら。込み上げてくる感情のままに、丸男は今度こそ総を怒鳴り付けた。
顔に熱が集まるのが自分でもよく分かり、強引に会話を打ち切ってそっぽを向く。
「何なんだ一体……」
さすがにいつまでも脇見運転は出来ないのか、総も一つ溜息を吐いただけで
それ以上は何も言ってこなかった。
何のことはない。
つまり、総もあの時は丸男と同じくらいに、いや丸男以上に混乱していたのだろう。
だから、平静であれば絶対やらないような間違いを、犯してしまった。
その上、混乱の極みでの出来事だったから、冷静になった今では最早覚えてもいない。
たったそれだけの、ことだったのだ。
真実本当に、何の意味も理由も存在しなかった行為と、言葉。
それを自分は、勝手に一人で期待して――。
期待、して……?
「…………ッ!!」
思わず、掌で口元を覆う。一拍遅れて、燃えるように熱くなる自分の顔。
何故と思っても、分からない。当然のこと、止めようもない。
何だこれは。何だ、これは。
訳も分からないまま、少しでも火照りを冷まそうと窓ガラスに額を押し付ける。
ひやりと冷たいガラスには、丸男の様子に気づきもせず運転に集中する
男の横顔が映り込んでいた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
エロなしだと注記するのを忘れていました。
すみません、ROMって来ます。
オサーン盤の普段ならC×kであろう所に、Cの師匠(いろんな意味でW)を絡ませたら「師匠>C<k」になるんじゃ…って話です。
時間設定は前後するけど、来年の京都2デイズ事って事で。
注:文才がないゆえに、セリフばかり&安易なタイトル、そして携帯からなので細切れでスミマセン。
それでは
|>PLAY ピッ ◇⊂(;A; )ジサクジエンガ オオクリシマス…
京都2デイズ公演が終わり、打ち上げのお開きの挨拶も終わると、Cはkと一緒に師匠を囲んで話し込んでいた。
「師匠、今夜はわざわざ観に来ていただいて、ありがとうございました」「やっぱりみんな、京都は楽しそうやな。なんか生き生きしとったよ」
「やっぱこのバンドの地元ですからね。テンション上がるんはしゃあないですよ。あ、そろそろ師匠もお帰りですよね?送らせてください」
「何言うてんねん、C?まだまだお前は酔うてへんやん。なぁ、kも一緒に、ホテルで呑み直そうや」
少し酔った師匠に押し切られ、kも一緒に部屋に戻ると、マネージャーに酒を調達させて3人で部屋呑みする事になった。
師匠に注がれたら飲まない訳にはいかず、ライブ後の疲労もあり元々酒にはそう強くないCは、たちまち酔いつぶれてしまった。
「スンマセン!なんか俺、ベロベロっす〜」
「C、無理せんと寝てええで」
「なら、お言葉に甘えて…zzZ…」
しかしそれは、師匠の仕組んだ罠で、目を覚ましたCは全裸で仰向けの腹の上で手枷をされ、猿轡と黒いアイマスクで声と視界まで奪われて、おまけにアソコの根元を縛られた無様な姿でベッドに横たわっていた。
「C…、目ぇ覚めた?」
kの声がする…
あれ?真っ暗…
「ぅぐ、ぅう…(な、なんやコレ!?)」
声を出したくても、出るのはくぐもった呻き声だけ。
抵抗するにも手枷をされ、まだまだアルコールの抜けないカラダでは、いまいち力が入らなかった。
「こんなん久しぶりやな、C」
し、師匠!?なんで?
kには俺が師匠に仕込まれてたって事は内緒だったのに…
まさか俺が寝てる間に、師匠が喋ったんか!?
「Cが悪いんやで。俺が観に来てるの知ってて、kとキスしよるから」
「C、水くさいなぁ…。実はこういうの好きなんだってな?こんな無様な格好にされてんのにさぁ…ホントは嬉しいんじゃねぇの」
「ぅう、ぐぅっ…(嫌だ、嬉しくない!)」
「手首とクチとアソコの自由を奪っただけやし優しいもんやろ?外したくなったら手首以外は自分で外せるで」
殴ってやりたいのは山々のCだが、相手は師匠と最愛のk…ここは大人しく受け入れるしかない、と諦めるほかなかった。
「k、東京のライブまで5日間空くんやろ?なら、今日はタップリ可愛がろぅや」
「んぐっ、ぅぐ…(ま、マジかよ!?)」
「C、思いっきりイカセてあげる…」
kが低めの声でCの耳元で呟く。
その声に弱いCは不安と期待で、表情がこわばり、鳥肌がたった。
どうしよう…ライブでもないのにk、めっちゃドSモードや。
師匠もちょっと怒ってるみたいだし、俺ズタボロにされんのかな?
ま、たまにはイイけど俺だけがヤラれるのは、ちょっと恥ずかしいよなぁ…
そんな事を考えていたCを知ってか知らずか、猿轡を緩めて首へずらすと、師匠は口内を犯すような激しいキスで襲った。
「イイ声聴かせてくれるんやったら、このままコレは外したるよ」
「は、はい…お願いします」
猿轡を外されたCは、久しぶりの師匠のサディスティックなキスにうわずった声で答えた。
「なんか、Cの敬語って新鮮だよな」
色んな場所にキスしたり指を這わせては、薄笑いを浮かべてCの反応を楽しむk。
「C、どんな顔で感じてるのか見せて…」
アイマスクにkが手をかけると、Cは隠れていた表情を晒される恥ずかしさで首を横に振った。
しかしそんなCの素振りにはお構いなしに、kはアイマスクを剥ぎ取ると耳、目尻、鎖骨、胸元、臍…と撫で回し、跡が付くほど下品に音を立ててクチヅケした。
そうしてから自由を奪われたCの手に啄むようなキスをする。
「k、エロいなぁ。Cの顔見てみ、溶ろけてんで」
「見んでええって…」
「そう言われたら、余計に見たくなるじゃん」
kがCの顔を見ながら拘束した手を取ると、指を舐めては少し強く吸い、疑似フェラを繰り返す。
Cはそのイヤらしい舌づかいに抑えていた喘ぎ声を洩らしはじめた。
「イイ声出んじゃん。ココも少し固くなってきたみたいだし、そろそろ違うとこ責めて欲しいんじゃないの?」
kにアソコを握って確認されると、余計に羞恥心が込み上げる。
「C、そろそろ後ろいくで」
そんな状況に更なる追い討ちをかけるような師匠の声。
師匠に言われるままうつ伏せになると、昔の事とは言え、しっかり仕込まれていたCは腰を上げ、四つん這いの姿勢を取った。
「ちゃんと覚えてるもんやなぁ…」
師匠はローディ時代に教えられたことを忠実に覚えていたCの背中をヨシヨシと軽めに叩いてから、尻を掴んで広げ唾を垂らした。
「いい姿だね、C。思わず突っ込みたくなるよ」その姿にSっ気を刺激され、思わずkが呟くと
「お願いだからk、いきなりはやめてや」
慌てた様子を見せるC。
「いきなりがツラいのは俺にもイヤってほど分かってるよ。でも師匠から聞いた感じじゃ、それくらいツラいのもCは嬉しいんじゃねぇの?」
「そ…んなこ……」
師匠に唾を潤滑剤にして穴を撫でられると、反応してしまったCは言葉を詰まらせた。
「C、まずはkに突っ込んでもらうからな。こっちは俺がゆっくり広げたるから、ちゃんとお願いして、しゃぶらせて貰うんやで」
「はい…」
「k、もし動きづらそうだったら手枷外してやってもええから」
師匠の許しが出ると、少し可哀想に思ったのかすかさず手枷を外しにかかる。
うっすら赤くなった跡をkの細い指先でなぞられると、Cはピクッと反応してしまう。
「kの、舐めさせて…」「うん!?よく聞こえないなぁ…」
師匠に促され、kにフェラを願い出るが、ドSモードが発動したkは、そんな言葉じゃ許さない。
「kのチン△、舐めさせて…」
「舐めるだけでイイんだ?でもそんだけじゃ、勃たないかもな」
うわっ!今日のk、たち悪いなぁ…
「k、お願いだから意地悪言わないで…」
上目づかいでお願いするCがなんか可愛く見えて、kは許してしまう。
「分かったよ…初めてお前の中に入るんだから、たっぷり愛情注げよ」
「初めて入る」という言葉が嬉しくて、Cは思わず深く頷いた。
kは膝立ちになると自らベルトを外し、ジーンズの前を全開してしゃぶり易くしてやる。
「今のCの顔、すっげぇヤラシイよ。そんなに俺のしゃぶるのが嬉しいの?」
Cは頷く代わりにゆっくり瞬きをすると、まだアルコールが残る為なのか、潤んだ瞳でkの顔を見上げながら愛おしそうにアソコを舐めあげる。
「これからお前を犯そうとしてるのに、そんな目で見つめるなよ」
照れ隠しでそっぽを向くk。
Cは充分な硬さになってきたのにクチを離す気配がない。
「k、こっちはもうチョイ時間かかりそうやし、1回クチん中でヌいてもええで」
それを察したように、師匠が声をかける。
それを了解するとCの頭を掴み、少し息を荒げながら激しく腰を振って、初めてCのクチで果てた。
初めてkの精を受け止めたCは、しばらく嬉しそうにクチの中で転がしながら味わうと、照れくさそうにするkの目を見つめ飲み下した。
「ば、バカ!飲むなよ…」
「初めてkが俺に出してくれたんだもん、吐き出すなんてもったいないやろ」
少し焦ったkに笑顔でCが続けた。
「kの、濃くて美味しかったよ…」
「ば、バカ…」
それからしばらく師匠に身をまかせていたCは、ドライを2度迎えて、やっと指を3本飲み込めるようになっていた。
「k、そろそろええで。C、初めてkに入れてもらえるんや。ちゃんとお願いするんやで」
「kのチン△、俺に突っ込んで…」
「どこに?」
まだドSモード?
しゃあない、めっちゃヤラシく言ってやろう…
「俺のオシリに…kの熱くなったチン△を入れて…奥まで犯して…」
Cに見つめられながら、初めてされた淫らなおねだりにkは照れくささを隠してOKした。
「入るよ…」
「う、…ん…」
初めてで興奮したのか、一度根元まで深く挿入すると加減もなにもない状態で激しく突き回す。
「ぁ…ぁあ…あっ!…k…」
「ん…なに?…」
「こ…この紐、…ほどい…て…」
快感にカラダをビクビク震わせながら、目に涙を浮かべて射精できない苦しみから解放されたくて、Cが哀願した。
「…ほどいてやってもイイけど…自分で、ほどける?」
「…ぃっ…んぅ…、うん…」
「じゃ…、俺がイク時に、ほどいて…一緒にイコう…」
そうは言ったものの、一度果てていたkはすぐにはイケず、自分のせいでCのソレを解放してやれないような気がして、早くイコうと激しく腰を使った。
「ぃ…ぃいっ…イクっ!イクよっ…」
「んっ、ぅう…ぅぁああっ…!」
2人で一緒に果ててから、少しおいて部屋を見渡すと師匠の姿は無かった。
やっぱり愛し合う者同士を2人きりにしてやろうと、メモに「おやすみ」とだけ書き残して静かに部屋を後にしていたのだ。
「師匠、粋な事するなぁ…」
「でも結局、師匠はCの違った面を曝して帰ったって事だよね?」
「なんか俺、恥ずかしい思いのさせられ損?」
「でも、気持ちよさそうだったじゃん」
「ま、まぁね…今度会ったら、御礼にキスしとくわ」
「そしたら俺が嫉妬するよ」
「嫉妬したらええやん」
「そん時は、もっと酷くしてやるからな」
2人は顔を見合わせると照れ笑いを浮かべ、優しくキスを繰り返しながら眠りについた。
「ねぇ…C、久しぶりに燃えたし、また東京がおわったらさぁ…」
「俺は当分ええわ…」
ピンポーン♪
それから数時間経ち、迎えに来たマネージャーの何度となく押されるチャイム。
「Cさ〜ん!起きて下さい。あと1時間でチェックアウトですよ!」
「うっさいわ、アホ!」
と枕を投げつけ、チェックアウトの時間になっても抱き合って眠る2人だった…
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
長々、スミマセンでした。
完全に割り振りミスで、タイトルに振った番号を使い切れず、後半グダグダでご迷惑おかけしました。
次回があったら、もう少し上手くやれるようになってると嬉しいんですが…
スイーツ(笑)
>>前スレ535
今更ですが本当にGJでした!心情の経緯がイメージ通りすぎて泣いた
細かい時系列に感動して自分の中では正規のサイドストーリーになりましたw左大臣にも萌えたw
ただ一度のとか殺し屋切なすぎるよ殺し屋…ありがとうございました
83 :
前夜 0/5:2009/12/09(水) 03:22:40 ID:eDbotBQS0
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < ナマモノ注意・イ非イ憂 上ノリ隆哉氏と唐シ尺寿日月氏・珍しく後者視点
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < 自重する方向だった矢先、降ってきたのでつい
i | |/ ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、< 非カプ友情・明るい結婚話故に苦手な方はご注意を
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ"
84 :
前夜 1/5:2009/12/09(水) 03:24:50 ID:eDbotBQS0
ヴー…ヴー…
2009年12月某日深夜、日付が変わって少し経った頃。心なしか控え目に、携帯電話のバイブレーションが鳴った。
着信画面の表示を見て少し驚く。
「…え?」
普段、こんな時間に電話をかけてくる心当たりといえば自分よりも随分と若い二十代の役者仲間たちだ。
彼らは大抵大した意味も無く突然電話をかけてくる。時に酔って、時に素面で。
そして馬鹿な会話を一通り交わして切る。たまに真面目な話もする。
それが楽しいし、もちろん嫌などではないのだが。
画面には嫌とか楽しいとかそういう次元の話では無い、意外な人物の名前。
こんな時間に電話などそうそうかけてくることの無いそういう男。
その珍しさ故、何かあったのではないかと一瞬戸惑った。戸惑ったが、反射的に指が通話ボタンを押す。
「もしもし」
「………唐シ尺さん?」
低く抑えた声。普段から言い回しやら何やら固いところはあると思う。これは別段珍しいことでもなくて。
けれど妙に深刻ぶったその声が不意に心配になった。だから努めて明るい声で応えた。
「おう、どした?」
「お話したいことが、あって。今大丈夫ですか?」
「ん。平気平気」
竜哉や瞬なんかこれよりまだ遅い時間に電話かけてくることあんだから、と笑って若い仲間の話を伝えると
それでもまだ申し訳無さそうな声で、すみません、と小さな呟きが受話器の向こうから聞こえた。
「気にすんな。で、何?」
「…」
一拍置いて。
先程とは違って強い意思を秘めたその声がしっかりと耳に届いた。
「結婚、することになりました」
85 :
前夜 2/5:2009/12/09(水) 03:27:58 ID:eDbotBQS0
「………え?」
聞こえてきた単語は意外中の意外。
結婚?
こいつが結婚!?
思わず間抜けな声を出してしまいそれを取り繕うかのように、もう一度過剰に。
「えええええっ、えええええー!?」
「…そんなに大袈裟に驚かないで下さいよ」
繋がった受話器の向こうでは彼が苦笑する気配がする。
手に取るように想像出来た。その誠実そうな声で、少し困ったような口調で、控え目に眉をしかめて笑うのだ。
いやそりゃ驚くだろ。普通、驚くだろ。つーかいきなり何なの、結婚て。
普段とは逆に激しいツッコミが胸を過ぎったが、それは口に出さずにもう一度事実確認をしてみることにする。
「…………………………マジで?」
「マジです。大マジ」
実はもう一昨日入籍は済ませまして、とこちらはさらりと付け加えられ更に衝撃を受ける。
「はあっ…?お前!何で今頃」
「…明日公式に発表する予定なんです」
その途端、声が神妙なものに戻った。
「…あー…」
瞬間、経験的に理解する。
自分たちが身を置いている世界のこと。
熱愛ひとつ、結婚ひとつで有ること無いこと書き立てられるのが常。
ただでさえプライベートにはなるべく触れられたくないのだろうと思えるスタンスの神経質で慎重な男だ。
ほんの数ヶ月前、バラエティの現場で一緒になった時に私生活が謎だらけだとネタにして弄ってやったことを思い出す。
しかし隠されるほど人は知りたいと思うものだ。
彼に関して言えば、新しい作品に出る度共演者の女性と口さがない噂を立てられることも多かった。
その男が不惑の年齢も超えた今、漸く伴侶を決めたとなればおそらく多かれ少なかれ世間は好奇の目で見るだろう。
それまでせめて少しでもと今まで親しい友人にすらほとんど漏らさずにきたのに違いない。
86 :
前夜 3/5:2009/12/09(水) 03:32:21 ID:eDbotBQS0
「唐シ尺さんには」
「え?」
名前を呼ばれ急に現実に引き戻される。
今度は柔らかい笑顔を連想させる声音で、彼が静かに口にした。
「その前にご報告しておこうと思いまして」
「…もしかして俺が最初?」
「はい」
「………」
さっきまでは水臭いと軽く文句のひとつでも言ってやろうかと思っていたのに。
そんな事情に重ねてそんなことを言われてしまったのでは、怒るわけにもいかないと心の中でひとつ、溜息。
そもそもこの生真面目を通り越してクソ真面目とも言えるような男が、
深夜の、おそらく彼にとっては非常識な時間にこうして電話をかけてきた。
訊かずとも、言わずとも、それだけでわかろうというものだ。
まあ、何というか、ありがたい話だ。
さてさて気持を切り替えて。
「それで、一般の人?」
「まあ今はそういうことになりますかね」
その言い回しに疑問を感じてはみたものの、それは今訊かずともいいこと。
いずれゆっくり聞く機会もあるだろう。
「そっか。マスコミ対策大丈夫?」
「それは考えてます」
敢えて最小限の情報を出すことで、可能な限り彼女には迷惑がかからないようにするつもりだと。
言い切ったその声に今までとは違う頼もしさを感じて少し笑ってしまった。
守るものが出来ると人間強くなるとはよく言うし、自分も以前身をもって実感したことがあるけれどそれにしても。
(変われば変わるもんだねぇ)
そのままくすくすと笑う。
「唐シ尺さん?」
怪訝そうな声が聞こえる。
87 :
前夜 4/5:2009/12/09(水) 03:35:10 ID:eDbotBQS0
「ああ、ごめんごめん」
「どうかしたんですか?」
「や、別に」
誤魔化しついで、戯れのように質問を続ける。
「いい娘なの?」
「はい」
「一緒にいて楽な人、なんだ」
「はい、とても」
なるほど、これ以上具体的な表現は無かったわけだ。
「そうか。良かったな」
そこで息を吸った。
肝心なことを。伝えるのを忘れていた。
「…おめでとう」
「……―――――――」
電話の向こうが無言になった。
不自然なくらいの静寂、そっと静かに呼びかける。
「隆哉?」
「あ、」
「どうしたよ?」
「すみません」
律儀にそう一言謝った後。
88 :
前夜 5/5:2009/12/09(水) 03:39:55 ID:eDbotBQS0
「――――ただ唐シ尺さんにそう言われると何となく嬉しいなって。…ありがとう、ございます」
「………」
今度はこっちが無言になる番だった。
きっと今、傍に居たなら照れ隠しに背中のひとつでも叩いていただろう。
(ったく、嬉しいのはこっちだっつの)
誰も見ていなかったけれど、照れ隠しのその代わりに頭をひとつ掻いた。
他人の幸せでここまでの気持ちになるのは久しぶりだった。
おめでとう。
胸の中で再びそう呟く。
「ん。じゃあ俺もう寝るから。明日頑張ってな」
「はい、遅くにすみませんでした」
「いいって」
「じゃあ失礼します…おやすみなさい」
「おやすみ」
プツッと通話の切れる音がして、着信画面はいつもの待ち受けに戻る。
「誰だったの?」
背後から寝ぼけたような声がした。
自分の守るべき者。
「あ、起こした?悪い悪い」
「ううん、別に」
そう言って微笑む目の前の人に、ひとつ今閃いた提案をしてみようと思う。
「なあ今度さ…」
家に呼んで手料理でも振る舞ってやろう。
振る舞う側も振る舞われる側も、今度は二人、二人ずつ。
ちょっとばかり物珍しさでからかってしまうかもしれないがしょうがない。
あいつは本気で怒るだろうか、それともいつもの苦笑とあのツッコミで華麗にかわしてみせるだろうか。
その図を思い浮かべて、もう一度。
静かにくすりと笑ってみせた。
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < 勢いだけですいません根底がノマですいません
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < どうしてもおめでとうって言わせたかったんだあああおめでとう
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、< お読み頂いた方ありがとうございました!
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ
>>83乙!!
私もここで叫ぼうおめでとおおおおお!!!!!
この二人の組み合わせならば友情でも構わないっ!最高でしたー
>>83 自分もこっそり言わせて下さい。おめでとう!w
互いに守るものがある立場を理解出来る男同士の友情は麗しいです。GJでした!
2人の幸せそうな姿を読めて、こちらもホンワカしました。
>>83 GJです!二人の絆が一生続くといいな〜と
自分もほんわかしました
なんだかんだ言ってこの二人かなり相性良さそうw
あと上ノリさんおめでとうございます!!
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 地雷注意! ショタ(ペド)、女絡み、汚い下ネタ&言葉、愛のない行為あり
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| ※主人公は女性を慕ってます
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
初めて男に体を触られたのは8歳の時、俺はスミレ色の目をしたかわいこちゃんで、しょっちゅう女の子に間違われていた。
その日はモニカ――隣の家の姉ちゃん――にもらったお下がりのキュロットパンツを履いていたし、
しばらく髪を切っていなくてえりあしが伸びていたから、あの男もきっと女の子だと思って俺を呼び止めたんだろう。
「きみ、子猫を見たくないかい? うちで飼ってる猫が産んだんだ、可愛いよ」
なんせ8歳のバカなガキだ、俺はこれっぽっちの疑いも持たず、男についていった。
細い路地を幾度も曲がり、昼間でも薄暗い建物の影に入った時、ふいに男に抱き上げられた。
あそこをのぞいてごらんと、窓とも呼べないような小さな換気口を指さされ、俺は男の腕の中で首を伸ばした。
だけど中は暗くて何も見えない。猫の声も聞こえない。
必死で目を凝らしてたら、男の手がシャツの裾から忍び込んできた。
くすぐったさに身をよじったら、大人しくしてないと落としてしまうよ、と男に諌められた。
男の指は、へそのふちをなぞり、胸をまさぐり、背骨を辿っていく。
さすがに何かがおかしいと気付いたが、子猫に未練がある俺は、まだ換気口にしがみついていた。
「そうやってじっとしてるんだよ。さあほら、猫を呼んでごらん」
男が気色の悪い裏声で猫の鳴き真似をしたが、俺はもうそんな気分じゃなかった。
もうちょっとだけ粘って、猫が見られたら、さっさと逃げだしてしまおうと思った。
それでも変態男の鼻息はどんどん荒くなる。
体を撫でまわしながら、猫を呼びよせるポーズなのか、俺に言わせたいだけなのか、耳元でミャウミャウと繰り返され、
我慢も限界に近付いてきた。
男がついにキュロットの中に手を入れた――次の瞬間、俺は唐突に解放された。
呆けた顔をしている男を置いて、わけがわからないまま逃げた。
どうやってアパートまで帰ったのかは覚えていない。
ただひどく喉が渇いていたことは覚えているから、死に物狂いで走ったのは確かだ。
階段でへたりこんでいたら、モニカが気付いて、どうしたの、顔が真っ青よと声をかけてくれた。
母親がまだ仕事から帰ってなかったので、俺はモニカの部屋に入れてもらうことにした。
汗はなかなか引かなかったが、ミルクを飲み、ジンジャークッキーをかじると、やっと落ち着くことができた。
自分の身に降りかかった出来事を説明したら、モニカはけらけらと笑い出した。
「ウィル、運がよかったね。パンツの中のちっちゃい銃があんたの身を守ったんだよ。もしも可愛い女の子だった
ら、今頃食べられちゃってたかも!」
モニカにうまいことおだてられて、俺はハイになった。
あのクソ野朗にまた会ったら、こっちから下着を脱いで見せ付けてやればいい。
もう二度と勝手に体を触らせたりしないんだ、俺はそう雄々しく宣言した。
モニカは手を叩いて支持してくれたが、俺が迎えに来た母親と一緒に家に帰ろうとする時、一つ忠告するのを忘れなかった。
「あんた、もうそのキュロット履くの止めな。気に入ってるなら私が仕立て直してあげるから」
当時は意図を理解できなかったが、要するに女に間違われるような服を着るなってことだったんだろう。
女達はいつも正しく、優しい。
俺の中では、あの日男にされたことより、モニカにしてもらったことの方が強く印象に残っている。
――おやすみ、かわいいスミレちゃん。
あの親しみとからかいの混じった声だって、鮮明に思い出せる。
さて、1度目はラッキーで済んだが、2度目はそうもいかなかった。
10歳のある日、クラスメイトの家に遊びに行ったら、そいつの親父に出迎えられた。
本人は入れ違いで郵便局に出かけたという。
俺は哀れな友人から、親父のアル中ぶりとクレイジーなパンチ力についてさんざん聞かされてきたもんだから、
内心かなりびびっていた。
中に入って待ってろと言われて断れなかったのは、何をされるかわからないという恐怖があったせいだ。
ダチの前歯を折ったのも、その兄貴の鼓膜を破ったのも、目の前にいるレスラーみたいな大男だ。
気に障るようなことをして痛めつけられるのはごめんだった。
散らかったリビングのソファに座って縮こまっていると、親父が洗ったのかどうかもわからないグラスを持ってきて、
コークを半分まで注いだ。
それからにやっと顔を歪めて笑い、坊主、お前もやるだろ、とウイスキーのビンを取り出した。
ノーと言う前にコークハイは完成していた。アルコール中毒者は聞く耳をもたない。
親父はビンを掲げ、おまえと俺の息子の友情に、と薄ら寒い台詞を述べた。
俺も仕方なく乾杯の仕草をして、グラスに口をつけるふりをした。
「チビがちびちび飲んでじゃデカくなれねぇぞ、男なら豪快にいけ」
オヤジが俺の口元のグラスに手を伸ばし、角度を変えた。当然コークハイが口の中に流れ込んでくる。
俺は咽そうになるのを堪えて、目を白黒させながら飲み込んだ。
喉が焼け、胸が熱くなる。涙もにじむ。
親父はアル中の上にサディストのおまけ付きで、顔を真っ赤にして逃れようとする俺を、愉快そうに眺めていた。
息苦しさにもがいたが、首の後ろを捕まれ、唇にグラスを押し付けられて、結局飲みきるまで離してもらえなかった。
頭がくらくらして、体が熱っぽくて、親父は悪魔みたいだし、どうすればいいのかわからなかった。
もう一滴も飲めない、きっと殴られる。鼻の骨が折れなきゃいいけど……。
不安を見透かしたように、親父が尋ねてきた。――俺が怖いか?
俺は答えられなかった。否定しても肯定しても親父がキレるんじゃないかと思ったからだ。
怖いに決まってるのに、こんなことを聞くのはおかしい。おかしい奴には何を言っても無駄だ。
親父は俺の沈黙をどう受けとったのか、おまえは良い子だな、と小さく呟いた。
頭を撫ぜられ、キスまでされて、素直で愚かな俺はほっとした。
親父が正気を取り戻してくれたんだと、能天気なことを考えていた。
でもそんなうまい話はこの世に存在しない。ジーザス、神は俺を見放した。
「おまえ、姉ちゃんはいるか? 妹は?」
親父は俺の肩を抱き寄せ、下衆な瞳をぎらぎらと光らせた。
いないよと答えれば、大げさに肩を竦められる。
「そりゃ残念だ。じゃあママはどうだ。おまえみたいに、夜明け前の空のような瞳をしてるか?」
母親は薄いブルーの目だから、俺の目はたぶん父親に似たんだろう。
会ったことも、写真を見たこともないから、実際のところはよくわからない。
それを聞いた親父は軽く鼻を鳴らした。そして俺を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。
俺達は向かい合わせに座ることになった。
「俺は良い子には怖いことも痛いこともしない。だから言うことを聞いてくれ」
ぬるっと、べたついた手が首筋を這った。親父の血走った目を見て、血の気が引いた。
酒で火照っていた体が、一気に冷えていく。
モニカはあの日、俺にちんちんがついてたから助かったんだと言った。男が俺を女の子と間違えたんだとも。
でもこのアル中親父は違う、俺を男だと知っていて、姉や妹の存在を確認した末に、触ってきた。
「どうした、泣きそうな面しやがって。おまえは良い子だろ?」
俺が黙ると親父は少し苛立ったようで、乱暴に俺の手を取って自分の股間に押し付けてきた。
布越しだったが、心底気持ち悪かった。
上手だな、かわいこちゃん。親父は適当なことを言いながら、ジッパーを下げてどす黒いブツを取り出した。
あのションベン臭いぐにゃぐにゃした肉を目にした時の絶望感! 俺は悪夢を見ているような気分だった。
目を覚ましたらそこはモニカの家で、横には迎えにきた母ちゃんがいて、遅くなってごめんねと囁いてくれる。
全部が夢だったらどんなにいいか。でも、これは現実だ。
俺がキスする相手はモニカじゃなくて薄汚いちんぽで、俺の髪を梳くのは母親ではなく親父の芋虫みたいな指だった。
帰り際、くしゃくしゃの5ドル紙幣を渡された。
親父はウインクになっていない無様な瞬きをして、また小遣いが欲しかったら来いよ、と言った。
ダチはまだ帰ってきてなかったが、これ以上長居したくはなかった。
郵便局に出かけたということ自体、親父の嘘だったのかもしれない。
アルコールが抜けきらない体でふらふら歩いていると、次から次へと涙が溢れてきた。
ケツを掘られたわけじゃない。殴る蹴るの暴力も受けてない。
それなのに、嗚咽が止まらなかった。
ファック、ファック、ファック。俺は声に出さずに叫んだ。
5ドル札を出来る限り細かく引き裂いて、どぶに捨てた。
「あらやだスミレちゃん、こんなに濡れちゃって。いつの間に雨が降ったのかしら?」
モニカはおどけつつ、俺を招き入れて、エプロンの裾で俺の涙と鼻水を拭いてくれた。
部屋は暖かくて、メープルシュガーの甘い香りに満ちていた。
「クッキーが出来上がる前に泣き止まないと、焼き立てを逃しちゃうよ。何があったか言ってごらん」
モニカ、俺の銃は役に立たなかった。でも小遣いをもらったよ。親父のをしゃぶったご褒美だってさ。
ああそうだ、その前にコーク・ハイも飲んだんだ。
友達の家に行ったけどそいつは出かけてて、レスラーみたいな親父が出て――。
クソみたいな告白の代わりに俺の口から出たのは、大量のゲロだった。
ザーメンとコーラとウイスキー、それに昼食のピーナーツバターサンドの残骸に胃液が混じって、フローリングはそりゃもうひどい有様だった。
だけどモニカは少しも動じなくて、もう全部出たの、気持ち悪かったら最後まで吐いちゃいな、なんて言ってた。
洗面所で口をゆすぎ、貸してもらったパジャマに着替えた頃には、床はきれいに片付け終わっていた。
モニカ、ごめん。しょぼくれて謝ると、モニカは微笑みながら俺の頬を軽くつねった。
「バカねぇ、ガキのくせに酒なんか飲むからこうなるの」
――うん、ごめんなさい。
「あたしがぶっとばしてきてあげるから、誰に誘われたか教えな」
――言えない。
「ママには黙っといてあげるから」
――言えないんだ、モニカ。
たとえ何をされたとしてもダチの親を売るわけにはいかなかったし、モニカが逆ギレしたアル中親父に殴り返されるのも嫌だった。
モニカは真剣な顔で俺を見つめた。俺も目をそらさなかった。
澄んだ鳶色の瞳の中に、自分が写っていた。
ああ、誰も彼も俺のスミレの目を褒めるけど、モニカの方がずっときれいだ。
なぜ男達は、身勝手な欲望を俺に押し付けてくるんだろう。
俺は子猫なんか見なくてもいい、金だって要らない。
帰る家と、モニカが焼くクッキーがあれば、それでいいのに。
「……ウィルも秘密ができる年頃になっちゃったのね。もうスミレちゃんなんて呼べないわ」
モニカは俺をぎゅっと抱きしめて、まだゲロくさい唇にキスをした。
タイミングよく、オーブンのタイマーの音が鳴った。
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 長めなので、残りは後日投下させていただきます。
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
GJ
良い意味で古くさいこの文章好きだ
すみません、昨日の六角形クイズの先元の爆弾発言にやられて
我慢できなくて書きました
生注意
ノマネタ含注意
六角形クイズ
富士藁・富士元&先元
カプ話ですらない先元視点
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
収録が終わった。
眠い。ひたすら眠い。
罰ゲームで水までかぶったのに、やっぱり眠い。
「春眠暁を覚えず」とは言うけれど、季節は冬真っ盛りだ。
やっぱり寝ないと次の日の仕事がキツイと改めて思った。
濡れてはりついたジャージが気持ち悪い。
楽屋に帰って、すぐにそれを脱いで着替えた。
ていうか、寒い。
まずい。
新介さんじゃないけど、本気で風邪ひいたかも。
やっぱ寝不足の所為なのかな。
体力が落ちているのかもしれない。
コンコン。
ドアが2回ノックされる。
「はーい、どうぞー」
「おー、入んでー」
開いたドアから見慣れた茶髪がぬっと現れた。
僕の黒髪と同じく、まだ少し湿っていてぺしゃんとなっている。
「お疲れ様でした」
「はいはい、お疲れさん。って今日はお互い散々やったなあ」
富士元さんは笑っていた。同じように罰ゲームを受けて水浸しになったのに。
やっぱり芸/人さんはタフだなあとしみじみ思った。
「どうしたんですか?」
「ん、いやあ、一緒に水かぶった時、寒いて言うてたやろ?せやから大丈夫かなあと思て」
どうやら僕を心配してきてくれたらしい。
富士元さんって本番でのキャラはあんなだけど(って言ったら「あんなってどんなやねん」怒られそうだな)、
本当に優しい。
噂の彼女サン(同番組で共演)が好きになるのもよくわかる。
「大丈夫ですよ。僕、こう見えても体力あるし、何より若いし」
「若いって、それは俺に対するあてつけかい!こいつ〜」
富士元さんがふざけて僕に襲いかかってきた。
首の辺りを小脇に抱え込まれるようにして、バランスを崩しそうになる。
その途端、不意に視界がグラッと揺れた。
やばっ…。
「お前……頬めっちゃ熱いやん!」
富士元さんが腕の力を緩めるや、僕は足元から崩れ落ちた。
ガクンと膝をついたところで、再び富士元さんの腕に、今度は支えられる形になる。
「あかんって!お前、熱あるやんか!」
「いや、僕、顔に出ない、タイプなんで…」
「答えになってへんやろ!」
富士元さんが怒っていた。変なの、さっきまであんなに楽しそうに笑っていたのに。
あれ?何か、思考が……熱の所為か、うまく頭が回らない。
「とりあえずお前のマネージャー呼んできたるから。そこに寝とけ!」
「ん……」
富士元さんに肩を貸してもらい、ソファーに着いてすぐ横になった。
ふぁさっ、と何かが上にかけられる。
え、これ、富士元さんの上着……?
「ええ子やから、おとなしくしとくんやで?」
「あ……」
富士元さんが部屋を出て行こうと、背中を向けた。
僕はその腕をとっさにガッと掴んでしまった。
「何やねん?マネージャー呼んでくるって言うたやろ」
「いや、その……」
別に呼んでこなくていいです、とか、上着はいりませんとか、はたまたありがとうございますとか。
引き止めて言うべきことはいくらでもあったはずなのに。
「やっぱ、夜通しメールとか……しちゃダメ、ですよ…ね」
「はあ?」
口を突いて出た言葉に、富士元さんの顔に明らかな困惑の色が浮かぶ。
「…本番で言うてた、お兄ちゃんみたいな奴、とか?」
「は、い……」
僕はその『お兄ちゃんみたいな人』と一緒に過ごせない時間さえ少しでも共有していたくて。
それで一晩中メールのやりとりをした。彼も寝ないで付き合ってくれた。
気がついたら朝になっていた。
とても眠かったけど、仕事を休むわけにも行かないので、そのままテレビ局に向かった。
そしたら何故かこういう結果になった。
「ホント…時間が、過ぎるのも、寝るのも、忘れて、しまう…くらい、楽しくて…」
ダメだ。これ以上は言っちゃダメだ。
頭の片隅でまだ正常に働いている理性がそう叫んでいるのに。
熱に浮かされた僕の口は、構わずその言葉を紡ごうとする。
「だって、ぼく、そのひとのこと、おにいちゃんとかじゃなくて、ほんとうに、す――」
そこまで出かかった僕の言葉は、ふっと遮られた。
富士元さんの人差し指が、僕の唇に押し当てられたから。
「それ以上は言わんと。ええから、休んどき」
「ふ…じも……さ…」
「病気ん時は弱音のひとつやふたつ吐きたなんねん。今のお前、そんな感じやから」
富士元さんはまるで子供をあやすように、まだ湿ったままの僕の髪を2度3度撫でてくれて。
それから僕の指をするりと解いて、ドアに向かって歩き出した。
「ああ、その上着は気にせんと。マネージャー連れてくるまでの応急処置みたいなもんやから、な?」
「ん……」
僕が頷くのを確認して「よーし、先元はええ子やなあ」とニッと笑う富士元さん。
そして、部屋を出て行く直前、こう言った。
「俺もわかんで。好きな奴とメールするのって、ホンマに楽しいよなあ」
…あはは、やっぱり富士元さんって優しい人だなあ。
一人残された僕は、自然と楽屋の高い天井を見上げることになった。
天井がぐにゃりと歪んで見えた。空間認知能力もきっちりやられている。
本気でまずい。
新介さんじゃないけど、今日は看病をお願いすることになるかもしれない。
……一体、誰に?
もちろん『お兄ちゃんみたいな』あの人に――。
なんて考えながらも、ぐるぐる回り続ける頭の中で。
ふと、ほんの一瞬だけ。
富士元さんの顔が浮かんだのは、誰にも内緒です。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
この場合だと富士元×先元はないけど
書きながら富士元←先元はありだなあと思いました
駄文でお目汚し失礼しました
>>108 GJ
あの発言には萌えたけど、こういう方向にいくのは思いつかなかったよ
ちょっと世界が広がりそうだよ、ありがとう
>>108 おおお
新たな萌を発見しましたGJ!
富士元←先元はあると思います!
生
一角獣
太鼓鍵盤+太鼓←唄。友情以上愛情未満で唄←鍵盤っぽい
太鼓鍵盤のエロありです
前回の続きです
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ある日の打ち上げ。居酒屋のトイレに行くと彼がいた……気まずい、あの日以来俺は避け続けていたから……余計に気まずい。酒に濁った目で俺を見ている彼は口許を歪めた。
「……なあ」
肩に手を置かれた、と思った瞬間に、個室に連れ込まれる。
「ち、ちょ」
「俺の事好きなんでしょ?」
ビクッと身体が震えた。後ろから抱きしめられて耳元で囁かれる。軟骨に舌が這い、耳たぶを甘噛みされて、舌が耳の穴に入り込む。
「ん、くっ」
必死に声を堪える。
「身体は素直なのにね……何で口は素直にならないの?」
ベルトを外される音に青くなった。身体を反転させられて向かい合わせにされる。
「今日は身体に最後まで聞く事にしたよ」
彼は歪んだ笑いを漏らして、俺の下着ごと引き下ろした。ひっ!と息を飲んだ俺を見て笑う。
「なに?恐いの?……なんで」
恐いのかな?彼はそう言って俺のを口に含んだ。
「ひゃ!……んっう」
飴を嘗めるように俺のを舐める彼の頭を、引き離すつもりだったのに……手に力は入らない。
「やっ……ぁ」
彼は上目使いで俺を見てニヤリと口許を歪めた。口を離した彼はガチガチなった俺のを指で軽く弾く。
「んっ、くぅ」
「抜けよっか、二人で」
逆らえない雰囲気に頷いた俺に彼は、やっと楽しそうに笑う。
「さあさあ、こっそり抜けるよ」
裏口から出て歩く。腕を引っ張られて、よろけながら俺は歩いた。
「ホテルにする?それとも俺の部屋がいい?」
「……どっちでもいいよ」
最後までされる……されたら……俺は……
「なに考えてんの?」
いきなり目の前に彼の顔が。
「えっ……わっ!」
キスされて抱き寄せられる。
「好きだよ」
ビクッと身体を震わせた俺に彼は笑う。
「口には聞かないから、俺……もうね、素直な気持ちは……身体に聞くよ」
そういって彼は俺をタクシーに押し込み、住所を告げる。……逃げるなら、逃げだすなら今しかない。
「逃げられないよ、逃がさない」
耳元で囁かれて力が抜けた……全部を見透かされていて、少しずつ追い込まれていく、そんな考えにふと取り付かれた。
結局場所は、彼の部屋になった。彼は笑顔で玄関を開ける。
「はい、どうぞ」
「あ、はい……おじゃまします……」
躊躇いがちに上がろうとする俺を、部屋に押し込む勢いで彼は背中を押した。
「わっ!」
バランスを崩した俺を後ろから抱きしめにかかる彼。
「捕まえた」
うなじに鼻先を埋められ、おまけにうなじにキスを一つされる。
「っ、ん」
少し声の出た俺に気を良くしたのか、彼はそのままうなじを舌で舐め上げ、首筋にキスマークを残す。もつれるように部屋に上がり、リビングの床に押し倒された。
「さて、身体に聞くからね」
どこか影のある笑顔で彼は言い、俺の服を脱がせ自分も脱いだ。……なんで抵抗しないんだ、俺は。考えてる事と、行動が一致しない自分に気付きながらも、どうにも出来ない自分がいる。身体と心は彼を受け入れていて、理性だけで抵抗しているんだろうか?
…………もし、アイツのためって言葉が……自分が彼を受け入れない言い訳でしか無かったとしたら……?
小さく身体が震えた。
彼が俺の身体をまた抱き上げた。
「床はないよね、さすがにさ」
彼は笑いながら寝室まで俺を運ぶ。そういえば、と彼が切り出した。
「なんで避けてたの?」
……聞くの?理由を…………。顔を見ると真剣な表情の彼が俺を見ている。目を反らすと彼は小さなため息を一つついた。
「ほんとに全部身体に聞かなきゃ、駄目みたいだねえ」
彼の言葉に俺は一応の理由を教える。
「……恥ずかしかったんだよ」
……本当は違う。いや、全くの嘘ではないけど……ちょっと違う。拒んだ癖に俺は彼の事が好きで……本当に…………大好きで、それが態度に出るのが怖かった。
普段の態度に出てしまえば……きっと彼は……どんな手を使っても言わせようとする……駄目だ、それだけは駄目なんだ、絶対に。
「ふーん」
彼は呟いて、俺をベッドに寝かせ上から覆いかぶさる。彼の顔を真正面から見ると無表情で俺を見下ろしていた。口許だけが動いて言葉を紡いだ。
「俺は、アンタしか見てないよ……アンタの心が……誰のモノであってもね」
…………え……?俺の心は彼のものだ。彼はアイツの名前を言い、俺にとって恐ろしい事を囁く。
「アンタの心、奪い取るから」
違う!言葉が喉元まで出てきて一旦は止まった。違う、ちがう……ち……が……う……。思考回路が混乱し、全てを暴露してしまいたい衝動に駆られる。
そして、その衝動は俺の理性を、心を暴走させた。
「違う!隣にいていいのは、隣にいるべきなのは俺じゃない!」
涙が溢れて止まらなくなる。一度関を切って溢れた感情に押し流されて、もうどうにもならない。
「俺だって、俺だって隣にいたいよ!でも、でも、隣にいていいのは違うんだ!」
声を荒げ泣き叫ぶ俺に、圧倒されたように彼は動かなかった。
「俺だって……おれだって」
アイツの顔が一瞬浮かんで、直ぐに感情の嵐に飲み込まれて消える。
その瞬間、俺の今までしてきた努力は全て無駄になった。
「好きだよ!」
好きなんだよ!好きだよ!……何回も叫んだ、泣きながら叫ぶ。
彼の顔が歪んだ、苦しそうな顔、やっと何かに気づいた顔……。でも、もう遅い。
彼は泣いている俺の顔を苦しそうな表情で見ている。見られる事が苦痛で顔を背けた。
「……ごめん」
彼が謝った声は沈鬱で、取り返しがつかない事を悟っているように聞こえる。少し冷静になった俺は彼の頬に指を這わす。
「…………辛そうにしないで……俺も……辛くなるから」
好き、と伝えてしまった想い……少し冷静になった瞬間に浮かんだアイツの顔…………微かな怒りと、複雑すぎて解けない感情。
「ごめん……アンタの事、俺は何も解ってなかったんだね」
彼は俺の上からのけて、俺の横に寝転ぶ。俺は彼に背中を向けて丸くなった。彼の手が俺を抱きしめようとする。
一瞬払いのけようとして思い留まった。背後から伸びてきた手は優しく俺を包んでくれる。
「俺はね……」
彼に全てを告げた。伝えなくてはいけない、そう感じた。俺の中で感情、理性、全てのものを咀嚼しながら、ゆっくり時間をかけて話す。話し終わる頃、彼は俺をきつく抱きしめていた。
「……俺はね、残酷かもしれないけど……アンタしか見えてない」
彼が口を開く。
「でも……俺、アンタを好き、なんて言う資格……無いね……アンタの……俺にとって……都合いいとこしか……見てこなかった」
辛そうな顔をしているのが想像出来そうな声色。苦しげに彼はため息をついた。俺は、俺を抱きしめている彼の手に自分の手を重ねる。
「…………ごめん」
彼は辛そうに謝り、手を離そうとした。俺はその手を一瞬つかみすぐに離す。
「俺の方こそ……ごめん」
俺の声に彼は辛そうに笑う。
「あやまんないの」
彼の優しい声にちょっと泣きそうになった。
「……戻んなきゃ」
携帯が鳴り続けている。……戻れば……いや、この部屋から出たら……二度とこんな時間はもてない。もっちゃいけない。
「……戻りたくない」
彼の少し強い声。沈黙の中、また携帯がなる。俺が携帯に手を伸ばすと、彼の手が上に重なって止められた。
「取らないで……今だけでいいから」
彼の声が耳元で聞こえる。苦しそうな声……。
「少しの時間でいいから……俺に下さい」
彼の声に俺は逆らえなかった。言葉も無く身体を反転させて、俺は彼の腕の中にすっぽりおさまって目を閉じる。彼は、俺の名前を呟き抱きしめた。堪えきれなかったんだろうか、彼の声が聞こえる。
「好きだよ……」
俺は声を出さずに、腕を伸ばして彼を抱きしめかえした。口には出さない想い、二度と言わない。……俺にとってアイツも彼も大切な人。アイツが辛そうなのは……やっぱり見たくない。
俺が出来るのは…………彼を諦める事……だけだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
続きが浮かんだので書いてみた
お目汚し失礼しました
120 :
月夜の川原:2009/12/12(土) 09:01:08 ID:KmervXIA0
大鳥 リバ・・・かな?差残・鍬多氏「moon(和訳)」を聞いて
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
快晴の夜、仕事帰りに、2人で原付を飛ばす。こうして一緒に走るのもどんくらいぶりかな・・・
「和歌囃子、明日は午前の仕事が無いだろう。午後のためにしっかり休んでおけよ」
「分かってるよ。お前に心配されるようじゃ、俺も終わりだな」
「何言ってる、粕画はあんたを気遣ってやってるんだよ?・・・ま、そーいう意地っ張りなとこも好きですがね」
「ばーか」
交差点で止まると、珍しく粕画が横に並んできた。どういう風の吹き回しかとそっちを向くと、いつもの調子でまた声をかけてきた。
「とにかく明日は、和歌囃子の分まで頑張ってきてやるから」
「はいはい頑張れよ」
こっちもいつもの調子で返すと、顔を見合わせて2人でくすっと笑った。
「じゃあ、また明日」「ああ」
白線越しに握手を交わして、交差点で別れた。
途中で家路をそれて、川沿いの道を走る。
ちょっと前の大雨で水かさの増した川は、もう濁ってはいないけど、勢いを変えずに流れている。
原付を止めて空を見ると、満月が出ていた。周りには雲1つない。
その空を見ながら、俺は今日までの自分を思い返した。
売れない時期が長いこと続いて、本当に辛かった。けどその頃は、2人とも平等に扱われていたから、そういう意味では良かったかもしれない。
知名度が急激に上がった今は、あいつばかりが注目されて、俺は昔と変わらないように思えた。
キャラを守る為とはいえ、粕画からも「華が無い」だの「腹黒い」だのボロッカスに言われて、収録中にリアルに凹んだこともある。
でも粕画は、俺を見捨てはしなかった。それどころか、さっきみたいに、激励の言葉もかけてくれたりした。
何で、どうして。俺みたいなのを前に出して、何の得になる?こんな暗い奴なんか、ほっといてくれればいいのに。けど、それが理由で惚れたのも事実だ。
もしも、粕画が俺の心をとうに見透かしていて、素じゃない自分を演じていたとしたら?そのせいで、余計に苦しんでいたとしたら?
嗚呼、もういっそ、目の前の川に身を沈めてしまおうか。
いや、このままではいけない。せめて
せめて、あいつの声を聞いてから。
呼び出し音が鳴り止むまで、俺はじっと待った。
【遺言】を残す時が来るのを。
k.side
彼の原付を見つけて、慌ててブレーキをかける。必死に辺りを見回すと、既に膝まで水に浸かっている彼が眼に映った。
自分の原付を引き倒さんばかりの勢いで駆け寄り、腕を掴んだ。
「やめろよ!離せ!」
「何言ってんだ!早くこっちへ来い!」
「離せっつってんだろ、バカスガ!」
「この状況で離せるか!いいから来い!」
そのまま彼を川原へ引っ張り上げた。
和歌囃子から電話があったのは、そろそろ寝ようと思っていた時だった。
『ごめん、起こした?』
「大丈夫だ。そろそろ寝ようとはしていたけどもね。・・・もう家にいるんだろう」
『いや、ちょっと寄り道してんだ。月でも眺めてから帰ろうかなって』
「和歌囃子らしいな。でも早めに帰れよ、遅いんだから」
『ああ・・・なぁ粕画』
『いつもごめんな、文句ばっか言って』
「・・・どうした、急に」
『「いや、今考えたら、俺ずっとお前に悪口しか言ってないなって思ってさ』
「・・・粕画は分かっているよ。それが和歌囃子の愛情の裏返しだってね」
『分かってるならさ・・・素のお前見せてくれよ』
「えっ・・・?」
『俺が見てるお前って『俺が好きな粕画』ってことだろ?俺が好きだって知ってるから、好きでいてほしいからなんだろ?』
「いや・・・でも何もかも素じゃないってわけじゃ」
『それでお前自身が苦しいならさ』
『もう、俺いらないよね?』
「・・・!お、おい、それって」
『明日頑張れよ、じゃ』
「ちょっ・・・和歌囃子!和歌囃子!!」
「いらないわけあるか、よく考えろ。粕画ですら、お前がいなけりゃできないことは山ほど」
「それいつも俺に言ってんだろ。『頼りにしてる』とか『頑張れ』とか言うけど、全部取って付けたっぽいんだよ、お前」
「あのねえ、意地っ張りにも限度ってもんが」
「馬鹿か、お前マジで意地っ張りだと思ってんの?秀才芸人もそこんとこを考える脳みそは空っぽ」
ばしっ!
w.side
目の前のデカブツは、物凄い勢いで俺の横っ面を張った。
「いい加減にしろ」
静かに凄みを利かせて粕画が言う。痛みと驚きで、そのまま動けなかった。その間にも、奴は淡々と俺に語りかける。
125 :
月夜の川原:2009/12/12(土) 09:14:10 ID:/vQfOTxFO
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
規制を・・・orz
文才無し・不謹慎ですみません!
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| フリゲ廃都の牛勿言吾で、己様とお母さん騎士
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| したらばのネタを拝借だよ
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
光が瞼を赤く透かし、水底から引き上げられるような浮遊感。
かすかに頭痛を感じながら、テオノレは目を開いた。
都の自室と比べればずいぶん質素なつくりの天井も、
もはや見慣れたものとなった。
逗留先の屋敷はその主に似て、無駄な贅を凝らすことをよしとしない。
はっきりと見える微細な模様が、日が昇ってから
かなりの時間が経ったことを物語っている。
いささか増した頭痛といつもより高く感じられる体温が、
昨晩の酒宴の名残を残していた。
深酒が過ぎて寝過ごすとは、己らしくもない。
都にいた頃には夜通し女連れで騒いだ翌朝に、
すぐさま軍事演習の陣頭指揮をとることもしばしばだった自分である。
だがそのらしくなさが却って愉快に思われて、テオノレは口元をゆがめた。
床を出ようと身じろいで、違和感に気づく。
半身を起こして掛布をめくり、今度は抑えた声で笑った。
これに気づかないとは、まったく今朝は己らしくない。
そこで寝こけていたのは、テオノレの従兄弟だった。
枕の端を握り締めるようにして眠っているアノレソンは、
普段からいや増して幼く見える。
幼いのは顔立ちばかりではない。目覚めた時に感じた妙なあたたかさは、
彼の青年にあるまじき高い体温によるものであろう。
こうして少し身を離していても感じるほどだ。
光を撚ったような金髪を指に絡めてみる。
軽い癖のあるそれは、指先に心地よい弾力を与えながら、
チラチラと日差しを弾いた。
金色。
テオノレはこの色が好きだった。まばゆい輝きそのものの、力のある色だ。
美しいと思うその心のままに、絡めとった一房に口付ける。
すると髪の引かれるのを感じたのか、ゆっくりとアノレソンの瞼が開かれた。
「ああテオノレ……おはようございます」
普段は空のような瞳が、今は細波立つ湖面のように眠たげに潤んでいる。
「日の高さからして、もはやさほど早くはなさそうだがな」
額から髪を梳くように撫ぜてやる。
昨日は少し羽目を外しすぎちゃいましたねと言いながら
アノレソンがわずかに手に擦り寄り、再び心地よさげに目を閉じた。
髪を撫でながら、テオノレがまた眠るつもりなのかと思ったところで、
ふとアノレソンが笑い出した。
どうしたと問えば、笑いながら少し昔のことを、と言う。
「誰にだったかもう忘れちゃいましたけど、公子の犬って言われたことがあったんです」
テオノレの手が止まった。
「僕の屋敷でも犬を飼っていましたけど、そういえばあの子も
撫でると気持ちよさそうにしていたなあと思って」
ちょうどこんな風に。そう言ってアノレソンは髪を撫でていたテオノレの手にそっと触れた。
「確かにおなじだと思ったら、なんだかおかしくて」
そのままとられた手の甲に、柔らかく唇が落とされる。
未だ従兄弟のこういうところがテオノレには理解できない。
自分がそのような侮辱を受ければ、相手はどうなったことだろう。
だがこの従兄弟はなんでもないことのように笑う。
愚かだからではないことは、すでに知っていた。
しかし言葉が見つからず、テオノレはそうかと一言言うに留めた。
「さすがにそろそろ起きないといけませんね!」
すっかり目を覚ましたらしいアノレソンは、勢いよく床を出ると大きく伸びをした。
風に吹かれるレースのカーテンが、均整の取れた背に不思議な模様を落とす。
伸びやかに動く身体の縁が、光に照らされて白く輝くのを眺めていると
シャツを羽織ったアノレソンが振り向いた。
「厨房を借りて、今朝は僕が何か作ります」
テオノレ、宿酔しているんじゃないですか?
そう言われて頭に残る鈍痛をにわかに思い出した。
鈍いように見えて、こういうところには昔から妙に敏い。
あまりひどいなら部屋まで持ってきましょうか、と
頬に触れようとした指先を取って軽く噛みつく。
「わ」
「あまり至れりつくせりでは、妻を娶る時に苦労しそうだな」
まさか、と快活に笑うアノレソンの顔が、逆光で翳った。
「テオノレのお嫁さんになる人は、綺麗で素敵な人でしょうね」
声をかけますから、起きられるようならそれまでに支度を。
部屋を後にしながらそう告げるアノレソンに軽く手を振って答える。
昨晩の酒宴。
それは、この街のある若者がもたらした報せによるものだった。
突如見つかった遺跡の奥に棲まう、古い王の亡霊。
近隣に降りかかった災いの源と目されていたそれが討ち取られたということに
町中が歓喜した。
しかし、杯を傾け浮かれはしゃぐものたちを眺めながら、
テオノレの胸にはこれで終わりではないという確かな予感があった。
階段を下りる足音を聞きながら、テオノレも漸く床を出る。
何かが大きく変わるだろう。
だがいかなることが起きようとも、これは己の物語であるに違いない。
これまでそうであったのだし、これからもそうあるべきなのだ。
光差す窓に軽く手を掛け、若き公子は一人嗤う。
眼下を流れる大河が、ぎらりと輝いた。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| したらばにスレ立ててもらってから毎日楽しいモナ
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| お母さんのプリン食べたいねえ
| | | | \
| | □STOP. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ ) オソマツサマデシタ
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
>>126 うわーこれは、うわー…これは…!
自分も件のスレで軽くネタを書き込んでたんですが、
まさかこんな萌えるSSが出来上がってくるとは思いもよりませんでした。
本編であんな事になってしまう2人にもこんな日があったかもしれないと思うとなんだか切ない。
いいもの読まさせてもらいました!
>>126 GJ!
スレの書き込みに萌えまくりだったから嬉しすぎる
>頬に触れようとした指先を取って軽く噛みつく。
萌えすぎるよ!情景目に浮かぶ…!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ サイカイシマース!
「お前は、どうやったらそこまで自分を貶められる?もう10年だぞ。もうじき中堅って時に、そこまで自分を追い込んでどうするんだ」
「だ、だって・・・」
「第一、お前は・・・そこまで・・・悩みが、あったのか・・・」
(・・・あいつが、泣いてる?)
話の合間、途切れ途切れに、堪え切れない嗚咽が漏れた。
「俺からすりゃ、お前は完璧超人だったよ。学校の人気者だし、気軽に女子と話せたし、友達も沢山いてさ・・・だから、パシられたっていじられたって、俺はお前が好きだった」
そのまま粕画は、俺を強く抱き締めた。
「もう、どこへも行くな」
「きっぽ」
「・・・お前、馬鹿過ぎ・・・」
言えたのは、それだけだった。でも、心の中で呟いた。
ありがとう、愛してる。
2人を見つめる月に誓って。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
規制くらって続きが遅れたうえにナンバリングミスorz
申し訳ない殴殺だけはやめry
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
激団親幹線「バソユウキ」から殺し屋→復讐鬼&うっかりオリキャラ。
演劇スレからネタをお借りし、過去を捏造していたら長くなりすぎました。
エロもないのに……途中で引っかかったらスミマセン!
『生きてくれ…… 』
最後に自分の名を呼んで、死んだ男の骸が足元にあった。
白い王宮の大理石の床に徐々に広がってゆく赤い血の染み。
それに腹の傷から足を伝い、流れ落ちる自らの血が交じってゆく。
何故か立ち尽くす、自分の耳に階段を駆け上がってくる兵達の足音が聞こえた。
また反射的に手が刀の柄を握り直す。
また本能的に身体が動く。
ゆらりと踏み出したその背後に、それまで覗き見ていた吹き抜けの下
開かれていた裁きの間からの声が届いた。
『異国人はすべて完獄島に送り込むのがこのカダの国の掟だ―――』
それが、復讐の日々の始まりの記憶だった。
「君の髪に似合いそうだ。」
人の賑わう市場の一角、様々な細工物を売っている店の前でふと足を止めた
自分の言葉に、その時前を行く怒門はひどく嫌そうな顔をして振り返ってきた。
「おまえまで…なんだ。」
吐き出される声に疲労が滲んでいる。
そんな彼に目を向けながら、佐治はこの時小さく声を立てて笑った。
怒門が疲れきっている理由。それは先程まで一緒にいたペナソ達に原因があった。
明日、自分達は蓬莱国へ向け出航する。
しかしそんな日の直前まで、彼女らが精力的に取り組んだのはいわゆる買い物で、
その目的はあちらの国に着けば番新教教主・緋頭番に姿を変える怒門の
身の回りの品を取り揃える事にあった。
新しく広める宗教の、その旗頭にふさわしく、煌びやかな衣装や装飾品を得る為に
あちこちの店に引き回し、あてがい。
それに着せ替え人形よろしく振り回されていた怒門は、当初はこの旅の資金源は
彼女らだと我慢もしていたようだが、それも数刻もたてば限界に達したようだった。
面白がりついてきていた自分に『逃げよう、佐治』と耳打ちし、腕を掴んできた。
そして彼女らから離れ、紛れ込んだ市場の雑踏。
その一角で自分は足を止めていた。
「彼女達だけ君で遊んでいたのはずるいじゃないか。少しは僕につきあって
くれてもいいだろう。」
茶化すようにそう言って、店頭の棚に置かれていた一つの髪飾りを取り上げ、
佐治は怒門を無邪気に手招く。
それに彼は一度深々とため息をついたようだったが、結局は仕方がないとばかりに
踵を返してきた。
「それは……ちょっと派手すぎじゃないか?」
そして手元を覗き込んでくるのと同時に零された呟き。
それに佐治は尚も笑いながら首を横に振った。
「これくらいの方が君の髪の色には映えるよ。」
強引に言い募る、その髪飾りは留め金部分は金の細かな細工が施され、その下の
揺れる飾りの部分には、小さな空色のターコイズと赤瑪瑙が幾つもはめ込まれている物だった。
振ればしゃららと音が鳴りそうな、そんな繊細な飾りを手から離さぬまま佐治はこの時、
怒門に後ろを向けと指示をする。
それに意図を察した怒門は一瞬躊躇する素振りを見せたが、ならばと佐治は自ら
相手の背後に回った。
10年という牢獄生活の中で白く変わり果てた怒門の髪は、それでも脱出を果たした
この一年の間に、色こそ戻る事は無かったもののその艶や張りをかなり取り戻していた。
指の間をサラリと流れるその束を捕らえ、佐治は器用に彼の後ろ髪をまとめ上げる。
そして手にしていた髪飾りを最後に付け留めれば、それは自分の予想通り、彼の髪に
とても色鮮やかに照り映えた。
満足げな佐治を援護するように、奥から店の主人が声をかけてくる。
「良くお似合いですよ、旦那。」
「だん…っ」
普段あまり呼ばれ慣れない呼称に一瞬面食らったような表情をした怒門に、佐治が
また笑う。そして、
「気に入ったからもらうよ。」
言いながら袖の袂を探り、無造作に主人に金を渡せば、それに怒門は慌てたように
詰め寄ってきた。
「佐治っ、俺の物なら俺が!」
「いいよ、これは僕から未来の教主様への貢ぎ物だ。」
「しかしっ、」
「じゃあ、これならどうだい?その髪飾りについているターコイズは友情の石とも
言われている物だ。それを受け取れないなんて野暮な事はいくら君でも言わないよね?」
さすがに黙った相手にしてやったりと微笑んで、佐治はこの時もうこれ以上の文句は
何も聞かないとばかりに怒門の横をすり抜けてやる。
そんな自分の後を彼は追ってきた。
横には並ばず、少し距離を開けた後ろを。
そして何が一体そんなに納得がいかなかったのか、
「なら、あの赤い石は?」
先程チラリと見ただけだろう飾りについていた石について憮然と言及してくる。だから、
不意に歩みをピタリと止めて振り返る背後。
佐治は目元に艶然とした笑みを湛えながら口を開いてやった。
「赤瑪瑙は、血の石だよ。」
告げられた、その言葉に怒門は一瞬絶句したようだった。
そして自分もこの時、そんな彼の顔をあえて見ようとは思わなかった。
出航を明日に控えて取った宿は港近くにあり、窓を開ければ潮風と共に夜の遅い
港町の喧騒が入り込んできた。
そんな窓辺の張り出しに腰を掛け、佐治は一人光の無い暗い海を眺める。
と、その耳にこの時、不意に部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
足をそちらに向け、静かに扉を開く。
そしてその向こうに見たものは、廊下に立つ怒門の姿だった。
「下の店でもらってきた。少しやらないか?」
そう手に持っていた一本の酒の瓶を掲げ見せられる。
だからそれに佐治は、どうぞと彼を部屋の中に招き入れると、部屋にあった杯を
二つ用意してやった。
「この国の酒ともしばらくお別れになるからな。そう思ったら急におまえと
飲みたくなった。」
「それはそれは。」
ご相伴に預かり光栄、と綺麗な琥珀色の酒を注ぎ入れられた杯を手に、佐治は窓辺に戻る。
一方怒門は、部屋の中に置かれていた椅子の一つに腰を下ろしていた。
「いよいよ明日だな。」
静かに口にされた怒門の言葉に、佐治の視線が流される。そして、
「楽しみ?それとも少し怖い?」
率直に今の気持ちを尋ねてやれば、それに怒門は苦笑にも似た笑みをその口元に浮かべてきた。
「計画に対する不安は別に無い。が、あの国がどう変わっているのか、それとも
まったく変わっていないのかは……確かに少し怖いかもしれないな。」
どこか遠くに思いを馳せるような、そんな声の響きに佐治は更に言葉を継ぐ。
「君の国はどんな国だった?」
また問う。それにも怒門はまっすぐな返事を返してきた。
「四つの巡る季節に姿を変え続ける美しい国だった。それは時に厳しく、
日々の暮らしを脅かす事もあったが、受け止める人々の心は比較的穏やかで澄んでいた。
ただそれはどこか諦めからくる静かさでもあって、この国のような活気は無く、
支配層の豪族達と民の間には明らかな貧富の差が横たわっている。それを俺達は
変えたいと願っていたんだが……」
「殺された君の親友の事だね。」
僅かに言い淀んだその語尾を捕らえ、佐治が指摘する。それは彼が牢獄に捕らえられる
原因ともなった冤罪に触れていた。
蓬莱国からの留学生・京鐘調辺の殺害。
彼は豪族京鐘氏の嫡男であり、それと同時に怒門の許嫁の兄でもあった。
「許嫁の事はどうだい?」
言外に会いたいかと問えば、それに怒門の笑みはふと諦観の色を帯びる。
「彼女は豪族の娘、しかも俺は兄殺しの汚名を着せられて事情が伝えられているはずだ。
あれから10年……待っているはずがない。」
言い終わると同時に手にしていた杯を煽る。その様子に佐治は同じく酒を口にしながら思う。
頭では理解しているが、感情がついてきていないと言うところか。
これは少し先が思いやられる……
しかしそんな佐治の内心を知らずに、この時怒門は逆に自分に問いかけてくる。
「俺の事ばかりじゃない。おまえはどうなんだ?」
「僕?」
何を聞かれたのか意図が分からず聞き返す。するとそれに彼はこう言葉を継いできた。
「おまえの国はどんな所だったんだ?」
そこを離れて自分に着いてきてもいいのかと、そんな今更で、これまでも幾度となく
聞かれた問いに、佐治はたまらず鼻先で笑ってしまう。そして、
「僕に国なんて無いよ。」
いつも通りの返事を返せば、それに怒門はしばし何とも言えないような沈黙を
落としてきたが、その最後おもむろに椅子から立ち上がった。
杯を机の上に置き、窓辺に座る佐治のもとへ歩み寄ってくる。
そして彼はそこで不意に袂を探ると、その中から何かを取り出した。
「俺ばかりもらうのもなんだったからな。」
言いながら拳を突き出し、佐治にも手を出すよう促してくる。
だから差し出した手の平。その上にコロリと転がされたのは、何やら灰色の石のようだった。
ただそれは普通の丸いものではない。薄い円状の結晶が何重にも重なり合うような、
その特徴的な形状に、佐治の唇からポツリと小さな呟きが零れる。
「これは……砂漠の花…」
「なんだ、知っているのか。」
佐治の言葉に、こちらも少し驚いたような怒門の声が洩らされる。
「あの後、もう一度あの店に行って、何か珍しい石はないかと主人に聞いて
買ってみたんだが。なんだ、知っていたのか。」
まるで子供のように残念そうな言いぶりで繰り返す、そんな怒門を佐治は見上げる。
「いや……確かに珍しいものだよ…」
そして告げる。その声が掠れがちになってしまうのはこの時、どうしようもなかった。
「これは砂漠にしか無い石だ。しかもその砂漠の中でも水があった場所にしか
結晶として生成されない。だからこれは水脈を辿る目印にもなるもので……」
つらつらと説明じみた言葉が、無機質に口から零れ落ちていく。
知っている…知らぬはずがない。それは……
自分が砂漠の民、楼蘭の一族であったからだった。
先程彼に語った、自分に国は無い、その言葉には厳密には嘘は無かった。
暗殺を生業に、大陸の砂漠を渡る流浪の民、楼蘭の一族は国を持たない。
そんな確実な寄辺を持たない彼らは、それ故に同族同士の結びつきの強い一族だった。
幼き頃から親元を離され、同じ境遇の者達と共に殺しの技を仕込まれ、
暗殺者として育てられる。
そんな子供達が成人して仕事を請け負うようになれば、必ず実行者と見届人、
二人で一つの組を組まされる事となる。
そのしきたりは自分とて例外ではなかった。
成長の過程から既に頭角を現していた自分に成人後、あてがわれたのは
それまでの数年、自分に様々な事を教えた師にもあたる年上の男だった。
彼は本当に自分に己のすべての事を注ぎこんだ。
殺しの技、各国の言葉や知識、そして閨事に至るまで。
そして彼は自分に溺れていった。
共に行動し、日々傍らで手に取る様にわかった感覚。
その積み重ねが……自分の目を鈍らせた。
あの日、自分達にもたらされた一つの仕事。
大国カダからの依頼による、一人の異国の男の殺害。
仕事は簡単なものだった。
ただ一つ違和感があるとすれば、それはその仕事の結末を見届けるように指示された事。
自分の為した殺しの罪は、殺害された男の仲間がかぶらされたようだった。
王宮内の裁きの間を覗き見れる階上の踊り場から、落とした視線が捉えた
組み伏せられる青年の長い黒髪。
憐れな事だ……そんな心にも無い事を思いながら立ち去ろうとした、そんな自分の
振り返った眼前にあの時迫っていたのは、師であった男の手に握られた、閃く白刃だった。
ぶつかられた衝撃と同時に脇腹を襲った痛覚。
何が起こったのか、しかし考えるより前に体は動いていた。
本能的に身を引き、それ以上の傷の深さを避ける。反射的に手が刀の束を握る。
目に映る男の顔はわかるのに、それが誰だからと判断する前に足が踏み出された。
一度切り結び、二度その斬撃を避け、三度目的確に急所を突いた。
刀身すべてを深々と突き入れる、その体の中心を貫く一撃に目の前、男の膝が崩れ落ちる。
二人、無言のまま数瞬。
やがてゆっくりと落とした自分の視線の先で、男はその時、微かに笑ったようだった。
『やはり…無理だよな…』
血と共に吐き出された掠れた声には、どこか可笑しげな響きが滲んでいた。
しかし自分はそれに『なぜ』とは聞けない。
聞く必要など無いと教えられてきた。
だからそんな自分の胸の内を察するように、男は切れ切れな息の中懸命にその言葉を
紡ぎ続ける。
すべては一族とカダの国の間で結ばれた罠だった、と。
強くなりすぎた者に対する恐怖が一族の長老達の目を曇らせた、と。そして、
『許せ』と男は言った。
裏切り者には死を。それは一族の掟。当然の報い。
それでも俺は、おまえの弱みと選ばれた事を喜んでしまった。
『許せ、そして逃げろ』
やがてここにも兵は来る。仕留め損なったと知れば、一族はまたおまえに刺客を送る。
それから逃げろ。どこまでも逃げろ。そして、
『生きてくれ…… 』
最後にそう自分の名を口にして、男はこと切れた。
床に広がっていく血。動かなくなった骸。
それを見下ろし続けながら自分は思う。
『許せ』そんな言葉は自分は知らない。
『逃げろ』そんな生き方を自分は教えられていない。
ただこの身に深く刻み込まれているのは、
僕を試す者、騙す者、裏切る者、そういう人間は皆、死ぬ事になる―――
耳に、男が言った兵達の足音が届いた。
本能が身体を突き動かす。
ゆらりと踏み出すその背中、階下に裁きの声が聞こえていた。
「佐治!」
名を呼ばれ、ハッと顔を上げる。
するとそこには心配そうに自分を覗き込んでくる怒門の顔があった。
「急にぼうっとしてどうした?」
言われ、返事を返そうとするが、何故か上手く声が出てくれない。
それ故もう一度視線を手元に落とす、そんな佐治に怒門は少し困ったように言葉を継いできた。
「何かその石に悪い思い出でもあったのか?なら逆に悪い事を、」
言いかけられる、その言葉に佐治はいいやと首を横に振る。
悪い思い出などではない。ただ……
あの後、追ってきた兵を皆殺しにし、王宮を後にした自分が次に狙いを定めたのは
一族の長老達だった。
傷が癒えるのを待ち、襲撃した。そんな自分の姿を見た時、彼らは一様に驚いたようだった。
カダの国からは両者相討ちとでも伝えられていたらしい。
己の目で確かめる事をしなかった、その甘さを呪えばいいと行った容赦のない虐殺。
箍の外れた復讐は、その場にいた女子供にまでその矛先が向けられた。
気づけば、辺りに動く人影は自分のものしかなくなっていた。
代わり、足元の砂の大地には広がる赤い染みがある。
それを自分は海だと思った。
砂漠に赤い血の海がある。
風が吹いていた。
その中に高く響く獣の咆哮のような声が聞こえる。
何だろうと思った、それが自分の笑い声だと気付いたのは、しばらくたった後の事だった。
支援
「あ…っ…」
強張る指先にこもった力が手の中の石に伝われば、脆いそれは途端クシャリと
微かな音を立てて崩れた。
「…佐治…」
「…あぁ、ごめん。せっかくくれたのに…でも…」
ふわふわとした言葉が口をつき続ける。
「でも……これは白いね……」
あの血の海の中で出来た物ならば、きっと赤かったろうに。
思い、知らず笑いながら上げようとした、そんな佐治の目の前をこの時覆う影があった。
腕を伸ばし、座った姿勢のままの自分を身を折る様にして抱き締めてくる。
まっすぐな強い力。それは怒門のものだった。
「……どうしたんだい…?」
もしかしたらひどく間が抜けていたのかもしれない、そんなポツリと呟かれた自分の声に
返される彼の答えはこの時無かった。
その代わり、更に無言で腕に込める力を強くされる。
それに佐治は、あぁ、彼は本能的に自分から何かを感じ取ったのかと思った。
こんな姿になってまで、まだ心の根が優しい男。
先が思いやられる……
そんな事を胸の内で一人ごちながら、佐治は視線を傾け、彼の白い髪を流し見る。
初めて見た時は黒かった……それを思い出した事は昔にも一度あった。
一族を虐殺した後、自分にはその時、任務で各地に散っていた一族の生き残り達の
報復の手が伸びるようになっていた。
そのほとんどは返り討ちにした。
しかし同族の追っ手は、そこらの兵を束で相手にするよりは遥かに厄介で、癒えきる前、
度々開く腹の傷に、ふと思い出す声があった。
『異国人はすべて完獄島に送り込むのがこのカダの国の掟だ―――』
ならば、王でも殺せばそこへ行けるか。
思う脳裏に、浮かび上がる残像があった。
それはあの日、罪を着せられ憐れと見下ろした黒髪の青年の姿。
彼は……今でもその島で生きているのだろうか―――――
砕けた石を握ったままの佐治の手が持ち上がる。
ゆらりと静かに、それは自分を抱く怒門の背に回ると、その髪をそっと撫でた。
「ねえ、」
甘えるような声が唇から零れる。
「君がくれた名を、呼んでくれないかい。」
彼はそれを聞き入れてくれた。
「佐治――」
ふわりと軽いその願いを繋ぎとめるように、何度も何度も耳元近くで囁かれる名前。
目を閉じて受け入れる、そんな自分の指の隙間から、細かな石の粉が零れ落ちていく。
それは窓の外、聞こえてくる潮騒と混じり合い、瞼の裏に砂の嵐の記憶を運んだ。
白く霞んだその奥に幻が見える。
『 』
血に塗れた男がこちらに向け、口を動かす幻が見える。
それに佐治はもういい、と思った。
もう呼んでくれなくていい。
もう……心配など、してくれなくていいから。だから、
「佐治――」
耳に届く怒門の声に、背を抱き返す佐治の手に力がこもる。
この声があれば、この腕があれば、今の自分はもう『本当の名』などいらなかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
殺し屋は初めての男殺してるよね!と言う意見に1票…w
ひたすら殺伐と長くなってしまいましたが、読んでもらえていたら幸いです。
そして支援ありがとうございました!
>>137 リアルタイムでwktkしながら読んでました!
萌えすぎてハゲた…gj
>>137 はあ〜。もううっとりです。
ここの姐さん方の描く殺し屋は、艶やかで猫みたいにしなやかでいたずらで
残酷で無邪気で凄みがあって・・・、でもなんだか下卑たところがないというか、
品すら感じさせるというか。
殺し屋が足音なく歩くときの、麝香の匂いや風の音まで感じそうです。
それと教主様が素敵。きっと教主様はいい匂いがするんだろうな。
消そうとしても消せない清潔な匂いが。
生です。竜の31←有袋類(ほんのり31×有袋類風味)
捏造注意。エロ無し。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
>>155の名前欄を間違えました…すみません。やり直しです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
Mr.Dと呼ばれた男が、22年間背負ってきたもの。背番号「3」
若い選手が、躊躇無く声をかけられるような背中ではなかった。
毎日チームに帯同している裏方でも、一拍の呼吸をおいてから声をかけたものだった。
背番号「3」の鶴の一声で、チーム全体に緊張感が走った。
このチームに関わる者のほとんど全てが、何かしらの特別な思いを持って
「3」という数字を眺めていた。
それは尊重であり、尊敬であり、憧憬であり、時には畏怖でもあった。
── そう、背番号「3」とは、遙か遠いところにあったもの ──
ド荒は事あるごとに、ベンチに顔を出しに行く。
グラウンドでも、タイミングが合えば、気の合う選手にちょっかいを出す。
構ってくれる選手やコーチ、裏方さんはたくさんいる。
その中でも特別に構ってくれた、いや、むしろ特別扱いをしないでいてくれた、
仲間としてさらりとあしらい、時には下手な司会者より上手く自分を弄ってくれた、
そんな男の背中の数字は「31」
自分は口下手なのだと「31」は良く言う。だから野王求で語りたいのだと。
ド荒は良く、その「31」を目で追っていた。
無論、スキができたら絡みに行こう、構ってもらおうという魂胆だったが、
それと同時に、真剣に野王求と向き合う、その瞳をいつも見ていた。
野王求で語る「31」は、いつもより少し、遠いところにいるように見えた。
練習を終えた「31」が歩いてくる。
ただベンチに帰るだけ。そう思うが、通るであろうルートにいないでいられない。
── 今日は座ってみよう。
ベンチの前の白線際で、いつもの体育座りをする。
姿はただじっと座っている。心はドキドキと音を立てている。
近づいてきた「31」は、自分の通り道に座っているド荒にチラリと目をやると、
視線を前方に戻し、さも興味が無さそうな顔をしながら同じペースで歩き……
そして通りすがりに、ド荒の頭をポカリと叩いた。
うわぁあああああっ!
期待を裏切らない「31」のリアクションに、音を立てていた心がさらに躍る。
すかさず立ち上がり、振り向いて「31」を追いかける。
何で殴るんだよ! 酷いじゃないか! と訴えるような動きで、
でも本当は、嬉しくてたまらない気持ちを、その身体いっぱいに溢れさせて。
バタバタを自分を追いかけてくる気配を感じつつも、一度も振り向かない。
けれども、その口元には笑み。
「31」は、遠いようで近い番号。
野王求で語る為に少し離れても、すぐにド荒の傍に戻ってくる。そんな数字。
オフシーズン。その「31」が、来年から別の選手のものになるという。
では元「31」はどうなるのかと、ド荒は親しい裏方さんに尋ねた。
── どうやら、「3」になるらしいよ。
ド荒の脳裏に、Mr.Dと言われた男の背中が浮かび上がる。
ヒー□ーインタビューや記念撮影、そういった益子ットとしての役目上以外で、
あの背番号「3」に近づけた事が、一体何回あっただろうか。
遊んでくれ、弄ってくれと、うかつに近寄れるようなものではなかった。
無理に近づこうとすれば、周りの人達から必死に止められた。
Mr.Dは「3」という数字に、中曰というチームそのものを込めて背負い、
22年間立ち続けていた。ド荒の手の届かない、遠い遠い、高いところで。
今までだって、あいつはコロコロと背番号を変えてきたじゃないか。
背番号が変わって、それで何かが変わったことなんて、一度も無かったじゃないか。
そう自分に言い聞かせるド荒も、やはり中曰の一員だった。
背番号「3」の意味するところを、嫌でも考えてしまう。
遠くて近かった「31」は、「3」の立つべき、遠く高いところに行ってしまうのだろうか。
いや、本人にその気が無くても、「3」を背負ったその瞬間に、
自然と遠いところに、引きずり出されていってしまうのだろう。
背番号「3」というのは、そういう数字なのだ。
それを、「31」だった男が背負うのだと言う。
ド荒はたまらなく寂しくなった。無意識に、顔が下を向いた。
数日後、新たなニュースが流れた。元「31」が「3」を背負うことを拒んだという。
── 自分には、まだ早い。
彼はそう言った。まだ、自分はそういう数字を背負うべきではない、と。
一部のファンが「3」の永久欠番を望んでいたこともあり、
元「31」の謙虚な姿勢は、世間で概ね好意的に受け止められた。
いつか、誰もが納得する形で「3」を背負えれば良い。
特別な数字は、一旦王求団預かりとなった。
代わりに与えられた数字は、「31」から1つ減った「30」
階段を1つだけ上がったような、そんな数字。
ド荒はそのニュースを聞いて、胸の中に広がっていた痛みが
穏やかに和らいでいくのを感じていた。
そうやって、一息に遠くに行ってしまわないで、
少しずつ、少しずつ、上がって行ってくれるなら、
その背中を、遅れずに追いかけていけるような気がしたから。
いつか彼が新たなMr.Dになったとしても、ずっと追い続けていられたなら、
それほど遠くない存在のままで、いられると思ったから。
ド荒は、新しい数字を背負った元「31」を思い浮かべ、
ふう、と安心したように息を吐いた。
ポカリと頭を叩いて、いつも振り向かずに歩いて行ってしまう彼が、
今日は待っていてくれたような気がした。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
分かりにくいネタだったかもしれません。すみません。
有袋類の為に足踏みしてる感じがしちゃったもので、つい書いてしまいました。
>>161 神様来てくれた━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
以前からお待ちしておりました
そしてそのニュースでは心を痛めておりました 31はどんなに悩んだことだろうと
そして脅迫じみたこともあったという話なので、どんなに苦しかっただろうと
31にはド荒と一緒に乗り越えていただきたい
ありがとうございました
>>137 あああ…!萌えたぎった…!
自分の中で公式になりました。
超ありがとう!大好きだ!
>>137 ステキ過ぎる…!
殺し屋の初めての男が変なオヤジだったらヤだなーと思っていたんでこの設定は美味しい!
ごちそうさまでした!
教主様もイイよー私も惚れるわ(笑)
165 :
電車待ち1:2009/12/13(日) 21:10:26 ID:8UXZzbRNO
オリジナル
年下ダメ男×年上リーマン。
エロ無し。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマス。
寒空の下、何もない時刻表を見つめる。
何もない周りの景色と同じ程度に空白の続く時刻表。
時刻表に倣って白くなる頭。
え?
もう一度指で時刻表をなぞる。
10時32分。
次の電車はそこまで来ない。
今の時刻は9時30分。
数分前に出たところらしい。
ちなみに終電は19時台だった。
いや、そんな事はこの際どうでもいい。
電車が来ない。
とぼとぼと引き返し、風を凌ぐには心許ない待合所に向かう。
屋根があって壁がある。
バス停留所さながら、横からの殴りつける様な風は防げても正面からは無防備で。
ああ、今日はついてないなとうなだれた。
元々はさっきケツを見送った電車に乗れる筈だったんだ。
チェーンの外れた子供さえ無視して過ぎれば、何事もなく今頃電車で寝ていた筈だ。
もっと言えば手袋だってお釈迦にならずに済んだ。
チキショー。
なんだってこんなについてないんだよ。
憤懣をぶつける様な乱暴さで、昔ながらの板っ切れで出来た安普請のに見るからに冷えたベンチに腰を下ろす。
166 :
電車待ち2:2009/12/13(日) 21:14:45 ID:8UXZzbRNO
ギャンと抗議地味た音を立てて、左側の連結されたベンチが浮き上がり、危うくひっくり返りかける。
クソッ。
何もかもついていない。
乱暴にコートのポケットへと指を突っ込み、イヤホンを取り出して耳に当てる。
何度かカチカチと三角のマークを押す。
耳に入る音楽は気分じゃないバラード。湿気った気持ちが滅入りきる前に三角をもう一度。
途端に無音になるイヤホン。
慌て数度ボタンを押す。
クソッ。
マジでクソ。
どうやら今の早送りで充電が尽きたらしい。
ああ、ついてない時はとことんついてねぇ。
今や耳当てとなったイヤホン越しに、びゅうびゅうと聞こえる風の音。
10分ほどそうしていた頃だろうか。
コツコツコツと硬い足音を左耳が捉える。
伏せた瞼を薄くあげて、そっと盗み見る。
20代後半だろうか。
落ち着いた黒のコートに黒い皮の手袋。首もとから見える山吹色のチェックのマフラーは、オレにだってわかるブランド品。キチッと着こなしたスーツを含め、何もかもが嫌味ではなく板についている。
爪先が尖った靴は汚れはないが使い込んだ味があり、どことなく育ちの良さまで演出していて正直鼻につく。
もしかしたら10歳くらい年上かもしれない。それでも35まではいかないか。
テレビで見る官僚という人達と同じ匂いのする男は、しばらく周りを見渡してから、10分前のオレと同じく時刻表前にたどり着き、形の良い眉をほんの少し上げた。
「ぷっ」
さながら映画の1シーンの様な、あまりにも決まりきった仕草。
167 :
電車待ち3:2009/12/13(日) 21:19:07 ID:8UXZzbRNO
慌てて吹き出した口元を押さえる。
ああ、この人はきっと切れ長のあの目で冷たく睨むんだろうな。
どう見たってオレ底辺のクズ丸出しだし。
メガネ官僚が2回ほど瞬きする間に、そこまで考えた。
メガネ官僚の唇がうっすらと形を変える。
今度はオレが瞬き数回。
びっくりするくらい柔らかな笑顔。
「ヒエマスネ」
しばし固まる。
ヒエマスネ
ヒエマスネ
ヒエマスネ
冷えますね?
慌てて数回頷き、だらしなく開いていた膝を閉じる。
何を焦っているのかわからず、ボリボリと頭を掻いてぶっきらぼうな声を向ける。
「ベンチ、どうぞ」
幾らなんでも不機嫌過ぎな声に、自分で出して自分で驚く。
取り繕う為、顎で隣を示して俯く。
それもまた、年上の相手に対して尊大過ぎやしないかと、思考の悪循環で死にたくなった。
ああ、ついてねぇ。
メガネ官僚は気を悪くした様子もなく、笑顔でこちらに近付き、オレが座った時とは違い音も立てず、自分で出して自分で驚く。
取り繕う為、顎で隣を示して俯く。
それもまた、年上の相手に対して尊大過ぎやしないかと、思考の悪循環で死にたくなった。
ああ、ついてねぇ。
メガネ官僚は気を悪くした様子もなく、笑顔でこちらに近付き、オレが座った時とは違い音も立てずにベンチに座る。
お育ちもよろしいようで。
ふわりと風に乗って流れてきた香りは、やたら高級そうな良い匂い。
よく見ればコートもいかにも柔らかそうで、カシミヤだかなんかだろうか。
光を吸い込む落ち着いた黒が、金持ち属性を伺わせる。
住む世界が違うんだろうな。
168 :
電車待ち4:2009/12/13(日) 21:24:59 ID:8UXZzbRNO
そう思えば途端に居たたまれなくなって、少し動いただけでシャカシャカと安い音を立てる化繊のダウンジャケットを恨んだ。
北風に対する様に、身を小さくして金持ちをやり過ごそうとした矢先、金持ちメガネが目敏く指先の傷へと気付く。
「血が、出ていますよ」
左手人差し指の間接の内側。
乗り過ごしの原因。
「さっき、自転車のチェーンが外れて」
「ここには自転車で?」
「オレのじゃなくって、…直せそうだったから」
「それはお疲れ様でした。優しいんですね。」
逃げられなかっただけだと、苦笑いして会話が止まる。
お互いの呼吸音のみ小さく響く。
霜焼けにやりかけた指を、ジャケットの中へ引っ込める。
お互い俯いて自分の足下を見つめるだけ。
破れかけたスニーカー。片や手入れの行き届いた上等な革靴。
足下1cmから既に違いすぎる。
メガネがコートのポケットを探る音。
クールなウッディ系の香りがこちらの鼻まで届く。
香水は好きじゃないけど、この香りは悪くない。
メガネが俯いて露わになる白い首筋。
耳元から顎先へかけての剃り残しのない滑らかなラインに、ゴクリと喉が鳴る。
マフラーから覗く無防備なラインに目を奪われていれば、メガネが目的の物を見つけたのか顔を上げる。
疚しさに顔ごと目をそらし、ベンチの肘掛けへと腕をついて距離を置く。
酸っぱい葡萄。
落ち着くまで何度も心の中で呟く。
手が入らない物を諦める呪文。
逸らした目先へと白い袋が差し出される。
酸っぱい葡萄。
「良ければどうぞ」
169 :
電車待ち5:2009/12/13(日) 21:26:45 ID:8UXZzbRNO
ささくれた気持ちを溶かしそうな、気遣いの滲む声。
「…どうも」
薄いバンドエイドを受け取り、くっつけられた保護紙を剥がそうとするが、寒さで悴んだ指が上手く動かない。
たかだかバンドエイドすら上手くはがせず、泣きたい気持ちになる。
ついてねぇ。
どうしようもなくついてねぇ。
焦りでますます動きが空回る指を、隣から伸びた白い指が制して袋を取り上げる。
爪すら綺麗に整えられていて、些細な違いがどんどん自分を惨めにさせる。
何やったって上手く出来ない。
世間どころかバンドエイド一枚すらままならない。
カッとなって苛立ちをぶつけかけた間際、綺麗に剥かれたバンドエイドが左手の傷を隠す。
温かい体温。
「指、随分とかじかんでいますね。開けるの難しかったでしょう?気付かずすみません」
凍えた手のひら全体を包み込む右手。
神様、今日はちょっと言い過ぎました。今日、手袋をお釈迦にしたのはプラマイ0で帳消しにします。
バンドエイドが貼られた後も、手を握っていてくれるのは、もしかしてこれは出会いでしょうか。
労る様に添えられた手を、勇気を込めて握り返す。
早鐘を打つ心臓。
なんとなく触れた体温が、離れがたかっただけかもしれない。
躊躇いがちに指が握り返される。
驚いて左手を見る。
目を細めて薄く微笑む笑顔。
勘違いかもしれない。
けど、酷くしてやりたいという衝動にも駆られて、乾いた唇からポロリと言葉が漏れる。
「…キスしたい気分じゃない?」
言った後に早鐘を打つ心臓。
170 :
電車待ち6:2009/12/13(日) 21:30:29 ID:8UXZzbRNO
驚いた様に見つめてくる瞳。
そりゃそうだろう。
明らかにホモで変質者のナンパだ。
自分だって驚いている。
驚いて固まっている相手の唇へと、素早く自分の唇を重ねる。
抗って弱く押し返す指を握り、噛み付く様に何度も乱暴に唇を奪う。
言葉を発する為に開いた歯列に舌をねじ込み、濡れた息ごと唾液を吸い込む。
ほんのりとした喫煙特有の苦みのある味と、ザラりとした舌の感触。
爽やかそうな見かけから、勝手に煙草は吸わないだろうと決めつけていた為、その意外性の発見に小さな喜びが湧く。
抗う為に胸を押していた手が肩へと周り、触れるだけのキスの応酬へと変わる頃、互いの唾液で濡れた声で囁きかける。
「ホテル、行かない?」
小さな頷き。
両手で万歳したくなった気持ちを押さえ、握りあった指に力を込めた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ。
場所お借りしました。
そして3にペーストミスがありましたorz
失礼しました。
>>171 GJ
静かな中のエロい雰囲気に、すごく萌えました
>>171 メガネ官僚すげーツボっす!
個人的には歳の差10歳くらい希望だなー
続き読みたい!
>>171 メガネ官僚すげーツボっす!
個人的には歳の差10歳くらい希望だなー
続き読みたい!
175 :
望み:2009/12/14(月) 00:46:18 ID:esavzdgaO
元チ一ムメイ.トの二人
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
試.合が終わり、久しぶりに取材を受け、おかげで一人遅れて控え室を引き上げることになった。
試.合直後の忙しない喧騒は大分おさまり、廊下ではスタッフが数人行き来している。
自分のいた時より大分綺麗になったな、と辺りを見渡す。
今までに味わったことのない高揚感がじわじわとよみがえる。
長いグラウ.ンド生活の集大成だと思って立った場面。
放った一発は晴れ渡る青い空に、美しい放物線を描いた。
最後の思い出の舞台にしてはあまりに劇的だ。
まだいけるかもしれない。
何度も繰り返した甘美な期待。その都度味わった絶望。
でももしかして、今度こそは。
背後から自分を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。
「よう、ヒーロー」
小柄な元チ一ムメイ.トが、土で足元の汚れたユニフオ一ムのまま寄ってきた。
今日初めて敵として彼と対峙した。彼の走りを止めた場面で、彼は嬉しそうに笑っていた。
数年前、離れる時にくれた言葉の通り、彼は思い続けてくれていたのだ。
胸が熱くなった。
「言っとくけど、わざと刺されたんじゃないからな」
「でも俺のことめっちゃ意識してたでしょ。バレバレですよ」
「お前もな」
互いに笑う。
違う色を纏ってはいるけれど、同じチ一ムにいた数年前と同じ絆で結ばれている。
互いの困難と、望みが重なっていたからなのだろうか。
177 :
望み 2/2:2009/12/14(月) 00:53:41 ID:esavzdgaO
いつの間にか周囲に人がいなくなっていた。
「まあ今回は勝ったから良いけど、次は刺すなよ」
「ああ、その前に出さんかったらええんですね」
彼は「違うだろ」と口を尖らせる。笑いながらも、言葉を噛み締める。
次。
本当にあるのだろうか。望めるのだろうか。
「これから、何度でもお前とできるんだな」
「年に四回だけですけどね」
「最後にまだあるだろ」
昨日までなら、まるで絵空事のような会話だ。けれど、目の前の彼が言う。
信じられる。
彼はそんな気持ちを見透かすように、笑った。
鮮やかなリストバンドの手が延びて、腕に触れる。
「お前がここに戻ってくれて嬉しいよ」
彼の頭が肩に寄りかかった。じわりと感じる心地よい体温。
「俺の、望みだ」
ぽん、と優しく肩を叩かれる。
「またな」
彼は背を向けて、歩き出した。
その小さな背中に何か声をかけようかと思ったが、やめて彼とは反対の方向に進む。
余韻はここまでだ。次はもっと強くなるんだ。やることは沢山ある。
また、彼と戦いたい。この望みを叶えるために。
立ち止まって振り返る。
だがもうそこに彼の背中は見えなかった。
178 :
望み (終):2009/12/14(月) 00:55:08 ID:esavzdgaO
□ STOP ピッ ◇⊂(;∀; )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
>>176でうっかりナンバリング忘れてました(望み 1/2)
失礼しました
>>137 亀レスだがGJ!激しくGJ
なんだか姐さんの作品を読んで、この二人はああいう最期を迎えるべくして迎えたんだなって思ったよ
何ていうか、どうしたって抗えない結果だったんだなと。
だけど一緒に過ごした時間の中で、相手に対して本当の“好き”って感情が
(それは友達としてでも腐的な意味でも)あったこともまた事実なんだろうなと思うと
猛烈に切なくなってしまった。というか、そうであってほしいな。
>>161 有袋類の為に足踏みって、えらい価値低いんだね、達っさんの3番は
>>171 静かで寒そうな空気もいいです!
できれば年下君の職業(無職?学生?)とかも含めて続き読みたいです。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 生注意 六角形なクイズ番組煙草銘柄ユニット
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 紫色×水色 既にデキてる前提で
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゜Д゜ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
硬いな……。
薄暗い照明のひな壇で紫色が小さく呟いた。
目線の先に立つのは、スポットライトの光に包まれた恋人だ。
明るいグレーのスーツが似合っている。
見つめる間も、水色は落ちつかなげにハットのかぶり具合を直し、マイクスタンドに手をかける。
マイクスタンドを握る腕にも、肩にも、全身のあらゆる箇所に力が入ってガチガチだ。
モニターに映し出された顔も強張り、全く余裕が無い。
しかしそんな怖いほど張り詰めた表情も紫色を魅了する。
彼と二人でいる時の寛いだ、あどけなくさえある顔とは対照的だ。
前奏が流れ出す。
二人一緒の歌い出しの後にまず彼のパートナーの歌声が流れ、そこに水色の声が重なる。
よし、第一段階クリア。
間奏の後は水色のソロパートだ。
紫色はグッと両拳を握りしめた。
彼の心配をよそに澄んだ歌声が水色の唇から滑り出る。
いいんじゃねえの?
普段の練習に比べれば伸びが足りないものの、これだけ緊張した状態でこの声が出せれば上出来だ。
贔屓目は自覚しているが、もとより本職の歌手ではないのだ。
ライトを浴びた二人に合わせて歌詞を口ずさむ。
水色の練習に付き合って数え切れない程口にした言葉達を噛みしめながら。
生放送の特別番組の主題歌を歌うという大役に抜擢された水色は、その晴れがましさに浮かれるような事は一切無かった。
若さに似合わない長い芸歴がなせる技なのだろうか、責任の重さを正確に受け止め、それを全うする為に全力で努力を始めた。
本番が近づくにつれ落ち着きが無くなって行く中、ひたすらプレッシャーに堪え、跳ね返す為に歌い続けた。
ずっと練習に付き合って来た紫色は、ライトを浴びて歌う姿に改めて感動を覚えた。
しかし今日がゴールではない。
特番の本番はまだ先だし、CDの発売日さえまだ二週間先だ。
今日はたんなる途中経過の一つに過ぎない。
でも、祝杯くらいはいいよな。
紫色のマンションの冷蔵庫には特別高いシャンパンが入っている。
見かけによらず酒が好きで、意外にも底なしの水色のために買い求めたものだ。
先輩芸人の家に呼ばれたりした時に、自分では手を出さないような酒を貰う事もあるのだが、今日のこの日、水色と乾杯するのは自分で金を払った酒がいいと思ったからだ。
音楽が終わった。
紫色がひな壇から降りて水色の後ろへと移動すると、水色がハットを深く引き下げていた。
肩が微かに震えている。
一瞬だけカメラの存在を忘れ、思わず水色の肩にそっと手を触れた。
そのまま抱き寄せてしまいたかったが、すぐにここがどこかを思い出す。
スタジオで、自分の立場でそんな真似はできない。
「お疲れさん。……良かったよ」
言葉に出来ない思いを込めてそれだけ告げた。
水色が更に深く俯く。
周囲もようやく水色の様子に気付き、パートナーが水色の肩を優しく抱いた。
ぎりっと紫色の胸が軋む。
カメラの前で堂々と水色の肩を抱けるパートナーが羨ましかった。
妬ましかった。
司会者が水色のエピソードを語る間も彼の目からはぽろぽろと涙が零れ落ちる。
綺麗な泣き顔だな、と思うのと同時に水色の肩にしっかりと回された手が気になって仕方ない。
ようやく泣き止むと、水色はこぼれるような笑顔をパートナーに向けた。
彼の腰に自分から腕を回し、見詰め合って微笑む二人。
分かっている。
彼らは二人組のユニットなのだから、息を合わせるのは当然だ。
長い時間をかけて準備をしてきたし、これからも二人でイベントや歌番組などにも出るのだから親密になるのは読めていた事だ。
それでも嫉妬が紫色の胸を焼く。
数多くいる芸人の一人に過ぎない紫色は、毎週の出演が約束されているわけでは無い。
だから今日の出演が決まった時、共にスタジオにいられることの幸運を喜んだ。
でも本当に幸運だったんだろうか。
他人と見つめあい、微笑みあう水色の姿を目の当たりにして、立ち位置の違いをまざまざと実感した。
芸人である事を誇りに思っているし、崖っぷちと言われながらもこの世界で生き残っている自負もある。
それでも、今日ばかりは水色との距離がもどかしい。
目の前の二人の姿をちらりと見ては、急いで目を逸らすことを繰り返す自分が不甲斐無かった。
*
「あー、つっかれたぁー」
仰向けに倒れこむように勢い良くソファに座った水色が声を上げた。
収録終わりに他の出演者と共に軽く飲んだ後、いつものように二人で紫色の部屋へと帰ってきた。
勝手知ったる様子で冷蔵庫から出したミネラルウォーターをごくごくと飲む水色は、ひとまず重圧から開放されて晴れやかな顔をしている。
紫色は、心の中に渦巻く嫉妬心を押し隠し、努めて陽気な声をかけた。
「マジでお疲れ!いいモンあるぜ」
冷蔵庫から取り出した瓶を水色の前に出す。
「じゃーん!!」
「うわっ、すっげー!ピンドンじゃないですか!」
「乾杯しようぜ」
同じく今日の日の為に買ってきて冷やしておいた二つのシャンパングラスに手際よく注ぐ。
「譜蓮図デビュー曲初披露の成功と比呂巳の前途を祝して乾杯!」
「乾杯!ありがとうございます」
並んでソファに座り、軽くグラスを合わせると澄んだ音が響いた。
ごくごくと美味そうに一気に飲み干した水色のグラスにお代わりを注いでやる。
一方の紫色は、ほんの形程度にグラスに口を付けただけだ。
顔を寄せて微笑みあう二人の姿が胸につかえて、よく冷えて美味いはずのシャンパンも喉を通らない。
「成功、なのかなぁ」
水色が自信の無い声を漏らす。
「成功だろ。ちゃんと歌えてたよ。あれだけ努力したんだし」
「でも…努力だけじゃ駄目でしょ?結果を出さないと」
アルコールの影響を一切感じさせない真剣な顔に、紫色は己の浅ましい嫉妬心を恥じた。
ふと目を上げると水色がじっとこちらを見ている。
「どした?」
「……古嶋さん、なんか変です。いつもと違う」
「えっ?そんなこと無いって。比呂巳が疲れてるからそう見えるんじゃねーの?」
冗談めかして答えながらも、相変わらずの勘の鋭さに舌を巻いた。
「疲れてるけど、それくらいは分かります」
心の奥底まで見透かすような水色の強い目線を受け止めかね、つい目を逸らしてしまう。
「ほら、俺も比呂巳の緊張がうつっちまったとか」
「誤魔化さないで言ってください。……俺の歌、出来が悪かったんでしょ?」
思いもかけないところへ話が飛んで行き、紫色は言葉に詰まった。
「やっぱり蔓埜さんに比べて声が全然出てなかったし、硬くなって息も続かなかった。練習に比べても駄目だったですよね?」
「いや、そうじゃなくて……比呂巳は良かったよ!マジで」
必死で言い募っても、まるで信じていない。
嘘の上に言葉を重ねても水色には通じない。
紫色としてはどうしても言いたくはなかったが、こうなっては仕方が無い。
こっちのくだらないプライドの為に、年下の恋人の自信を失わせるような真似は出来ない。
深く長い息を一つ吐いて、紫色は腹を括った。
「わりー、俺がおかしいのは……妬いてるからだよ」
「え?」
意表をつかれた水色が目を瞠る。
「比呂巳の歌は本当に良かったし、感動した。上手いとか下手とかじゃなくて、心がこもってて響いてきた。すげー誇らしかった。でも歌の後に蔓埜さんに肩抱かれて
ぼろぼろ泣いて、比呂巳も蔓埜さんの腰に手ぇ回して、二人で笑い合ってんの見たらさー……こっちは、妬けて妬けてしょうがなかったんだよっ」
口に出すとますます恥ずかしくなり、最後はヤケクソ気味に言い放った。
「はー、情けねーなー俺は。比呂巳は一生懸命歌って感動して泣いてたってのに、こっちは心狭くヤキモチ妬いてんだからな」
くすりと水色が笑いを漏らす。
恥ずかしいのをこらえて白状して笑われたのに一切怒りは湧かず、笑顔が見られたことに喜びを感じるなんて我ながら相当イカレてるな、と紫色は思う。
釣られて笑いながら、手を伸ばして水色の髪をくしゃくしゃにかき回す。
「笑うなよ。蔓埜さんの隣であんな風に泣いて、しかもその後満面の笑みだろ?すんげーイイ笑顔で。そりゃ妬くぜ?」
「……あんなに泣いたのは誰のせいだと思ってるんですか」
「え?歌のせいだろ?」
「それだけだったらあそこまで泣いてませんっ」
水色が拗ねたように言う。
少しむくれた顔が幼く見える。
「あれは、あの時……俺が泣いてるのに古嶋さんが真っ先に気付いてくれて…………嬉しかったんです。なんか、いつも絶対古嶋さんは見てくれてるんだって思ったら
安心して、涙が止まらなくなっちゃって……だから俺があんなに泣いちゃったのは古嶋さんのせいですからね」
照れくさいのか頬を紅潮させて上目遣いで睨む水色に、紫色は上手く言葉を返せない。
「比呂巳……」
「それから、泣いた後に俺がイイ顔で笑ってたんなら、それも古嶋さんのせいです。少し気持ちが落ち着いたら、古嶋さんに良かったって言われたのが嬉しくって……。あの時誰が隣にいたって、俺は同じ顔で笑ってましたよ。たまたま蔓埜さんが隣にいただけです」
きっぱりと言い切った後、水色は目を伏せて紫色の肩に頭を載せ、囁くような声で続ける。
「あの時すぐに俺のところに来てくれて……ありがとうございました」
紫色は感動で胸が詰まった。
自分の些細な一言が、水色にこんなに影響を及ぼすなんて想像もしていなかった。
愛おしさがこみ上げる。
「比呂巳?」
かすれた声で呼びかけると、水色が顔を上げ、そのまま唇を寄せてきた。
軽く触れるキスを繰り返した後、水色はまたくすくすと笑い出した。
「何だよ、俺が妬いちゃそんなにおかしいのかよ」
「違いますよ……だいたい妬く必要も無いのにって思ったらおかしくて。蔓埜さん、俺に神時さんと埜久保さんの話しかしないですもん。俺なんか眼中に無いですよ?」
「そっか」
「やっぱりあの三人の絆って特別なんだな、と思います」
「羨ましいのか?」
「そんなこと無いです。だって俺には……」
水色はそれ以上は言わなかったが、見上げる目が言葉以上に饒舌だった。
どちらからともなく唇を合わせる。
触れたかと思うと、すぐに水色が舌を差し入れる。
いつもこういうキスを仕掛けるのは決まって自分からだった紫色は驚いた。
誘うように動く舌を己のそれで捕らえ、絡め、存分に吸い上げると、水色の体は芯を失い、くたりと寄り添ってくる。
しっかりと抱き寄せ、甘く柔らかい感触を楽しんでいると水色がそっと身を引いた。
「……俺、先にシャワー使っていいですか?」
長い睫毛の下からすくい上げるように見つめる目が濡れている。
その明らかな欲情の色に一気に押し倒してしまいたかったが、かろうじてこらえた。
「ああ、風呂入れてあるからゆっくり浸かれよ」
「はい」
水色の後姿を見送り、紫色は大きく溜息をついた。
いつも、キスもベッドも誘うのは紫色の方からだ。
なのに今日の水色は違う。
あからさまに求められ、紫色は天にも昇る心地だった。
じりじりと待つ時間が長い。
いつもよりやや長めの入浴が終わり、Tシャツにスウェットを着た濡れ髪の水色が戻ってきた。
そんな何でもない見慣れた格好なのに、今日は全身から色香が立ち上るように紫色には見える。
水色の肩を抱き、軽くキスして
「俺も入ってくる」
と告げると、水色は紫色の首に腕を絡め、またとびきり甘くて扇情的なキスをした。
「早く、来て……下さいね」
もとより長風呂をする気はさらさら無いものの、そんな事を言われて紫色は更に舞い上がった。
とはいえ、暑いスタジオで長時間の収録をこなした体は汗やほこりで汚れている。
汚い体で水色を抱くなんてとんでもないとばかりに、紫色は可能な限りの速さで身を清め、ベッドルームへと急いだ。
薄暗い部屋に入ると、水色の好きな香りがした。
サイドテーブルでフレグランスキャンドルの小さな炎が揺れている。
お気に入りの香りのキャンドルは泊まる度に灯され、今は二本目だ。
水色が前よりも大きなサイズのキャンドルを選んできた時、この部屋で二人で過ごす時間を約束された気がして紫色は心密かに喜んだ。
タオルケットの下で向こうを向いている水色に低く声をかける。
「比呂巳?」
水色は動かない。
照れているのかと思い、ベッドに腰掛けて顔を覗き込んだ。
長い睫毛をしっかりと閉じた安らかな顔。
耳を澄ませば気持ち良さそうな寝息が聞こえる。
マジで?
こんなオチありかよ。
一瞬呆然とした後、笑いがこみ上げてきた。
起こさないようにそっと隣に寝そべると、クーラーで冷えたシーツが火照った体に心地良い。
次第に体の熱が引いていくのが分かる。
過去の女達ならばすぐさま起こして一戦に及んだだろう。
己の欲望を満たす事が最優先だった。
しかし今は、恋人の寝顔を見つめるだけのこの静かな時間も愛おしく貴重なものに思える。
こんな気持ちになる自分に改めて驚かされた。
寝返りをうった水色にタオルケットを掛けてやると、無意識にこちらにすり寄ってくる姿が猫のようだ。
「お疲れさん。まだまだこれからが大変だけど、頑張ろうな」
優しい手つきで黒髪をなでながら低く囁き、キャンドルを吹き消した。
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ <お粗末様でした
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
連投規制の為、最後手間取って申し訳ありませんでした
>>161 ありがとうありがとう
ずっと待ってました
癒される…(*´д`*)
>>192 GJ!
高学歴コンビ萌えが満たされて幸せです
195 :
欠片の人1:2009/12/14(月) 22:56:31 ID:HdCwlNqIO
電車待ち続き。
まさかのGJありがとうございました。
連続GJに、田舎者騙す気かとガクブルしてます。
一応続きではありますが、メガネ官僚がテンプレ淫乱受け子チャン状態につきご注意下さい。
あれから2ヶ月くらい経過。
ずっとエロのターン。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「……っ…」
噛み殺される声。
浴槽に背中がぶつかる重みのある擦れた音。
膝裏を抱え直して浴槽の縁へついた手を引き、向かい合わせで座らせたマエダさんと胸の距離を詰める。
途端に締め付けてくる貪欲な孔は、排泄器官である事を忘れた立派な性器だ。
眉を寄せて苦悶に耐える表情は、余計に嗜虐心をそそる。
「後ろ、そんなにイ?…前よりよっぽど…、イイ顔するね」
腰を浮かせて何度か突くが、強請らせる為に極力浅く。
「あっ……ひぁ、……無理ッ…突かないで」
上擦った声。
マエダさんが背後の浴槽の縁に手をかけて、ずり上がる為に腕を伸ばす。
アヌスから抜けてゆくペニス。
擦れて焦れた赤い粘膜が、濡れたペニスを咥えて離す気などない癖に。
そんな程度で逃げられない事くらい知っているのに、何時だって逃げるフリをする。
196 :
欠片の人2:2009/12/14(月) 23:02:48 ID:HdCwlNqIO
強く陰毛を握って引きずり下ろし、ついでに腰を突き上げる。
薄い精子を飛び散らせて、マエダさんのペニスが揺れる。
きゅっと引き締まる腿、丸められた爪先。
泣き出しそうに濡れた声。
赤い舌を覗かせ喘ぐ様がイヤらしい。
力の入らない腕を抱き寄せ、浴槽から引き離す。
背後に縋る物が無くなって、イヤイヤと頭を振るのを無視し、貫いたままで一纏めにした両手を胸へと乗せさせる。
自ら腰へと座り込む形となり、自重でより深く咥えるオレのペニスをヒクついたアヌスがヌチャヌチャと咬む音が響く。
最奥までを一気に擦り上げ、乱暴にそのまま何度か突き上げる。
小さな悲鳴。
被害者ぶった声とは裏腹に、腹へとついたまま揺れるマエダさんのペニス。
ヒクつく尿道を乱暴に爪で擦って指先へと精子を絡める。
既に散々絞って薄く粘ついた残滓を、マエダさんの伸びきったアヌスへ塗り付ける。
もう無理だと、パサパサと音を立ててマエダさんの髪が揺れる。
それでも腰を回しながら、ゆっくり浅く自分の腰を浮かせる。
不完全な刺激に、何時だって我慢が出来なくなるのはマエダさんの身体だ。
震えながらも、徐々に徐々にとペニスを締め付け、自らゆっくりと腰を揺らし始めて。
何時だって身体はマエダさんの気持ちを裏切り、声と行動が乖離する。
イヤだと言いながら腰を振り、無理だと鳴きながら空になるまで精液を漏らす。
誑し込まれる為に生まれた身体。
上手く出来れば頭を撫でる。
それだけで、賢いこの人はやり方を忘れない。
197 :
欠片の人3:2009/12/14(月) 23:06:55 ID:HdCwlNqIO
良くできました。
その一言とキスだけで、男は初めてだったこの人にフェラを教え、乳首を開発し、アナルセックスの快感を植え付けた。
今じゃ会う前に、潤滑剤代わりのリップクリームも自分で用意する。
ケツにねじ込むからか、用意されるのはいつだって透明なパッケージのついた新品。
竿をしゃぶらせている間、マエダさんのケツへと塗り付け、時にはそれでオナニーを命じて散々なじって。
この綺麗な指で、身元も分からぬ男とするセックスを思い、リップクリームを選ぶのだろうか。
待ち合わせの度に、何かの間違いではないかと目を疑う清廉そうな男。
スーツにはいつだって皺一つなく、知的な仕草も身に付けた、良識ある社会人。
そんな人が、8つも年下で高校中退の無職の男の腰に座ってケツを振る。
世の中狂ってる。
「ケイ…、も……出して…。奥欲しい…」
それでも耳に響く声は甘く、首へと両腕で縋って抱き付くマエダさんにキスして頭を撫でて。
ああ、嫌になる。
なんでこの人はこんなに無防備なんだろう。
せめて初めて会った日、もっとちゃんとセックスしとけば良かった。
セックス出来てラッキーしか覚えていない。
「マエダさん、上手…」
身体と携帯番号しかしらない。
実際のところ、29歳という年齢も、マエダという名前も嘘かもしれない。
問い詰めれば淋しげに笑って消えてしまいそうで。
夢の欠片の様な人。
厄介な相手に惚れてしまった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ。
変態でゴメンナサイ。生まれてきてゴメンナサイ。
淫乱大好き。
>>184 わー、いいものを読ませて貰った
今日の特番見るのにニヤニヤしてしまいそうw
>>197 マエダさんかわいいよマエダさん
はげしくGJ!
>>178 ありがとう!あの日のお話ですよね
いま読むとすごく切ない……泣きそうだ
夏/.目.友人.帳
あんまり同志いなさげな北夏
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
棗は何かを見ているらしい。
それは同級生の間で、密かに知れ渡った噂となっていた。
今年一番の寒さを記録した朝、登校する北元は友人の棗の姿を見つけた。
木に向かって何か話している。早朝、この道を通る人は少ない。
(油断しているな…)
北元は足を止めて待ち、少し離れた所から様子を見守る。
見えない何者かに話しかける姿は、棗のことをよく知っていても
やはり少し怖いと感じた。
棗が歩き出すのを見て駆け寄る。
「おはよう、棗。今日は寒いな」
「ああ、北元。おはよ、寒いな」
少しびくっとした笑顔で棗が振り返る。
「北元この道だっけ?」
「いや、このへん霜柱がたくさん出来るんだ。それで今日はこっちにしてみた」
「本当だ。ざくざくするな」
「だろ?」
「ああ、楽しいな…」
(いつもそんな笑顔ならいいのにな)
北元は普通の学生の顔に戻った友人の笑顔に安堵して並んで歩いた。
ざくざくざく。霜柱を踏みしめて歩く夏目が急に立ち止まった。
「ん?どうした?」
「いや…悪い、北元。先行ってくれ。ちょっと忘れ物した」
「え」
棗の顔に緊張が走る。
おそらく何かが見えている…普通の人間には見えない何かが。
「分かった。あまり遅れるなよ」
「ああ…」
必死に取り繕っている顔を見ると
どうしてもそれ以上、聞くことが出来なかった。
ざくざくざく。霜柱を一人で踏みしめ歩く。
さっきまで一緒に、こんな些細な事を楽しんでいた。
(なのに何故…)
北元は表情を険しくした。
何の力にもなれない自分がただただ悔しかった。
(どうして俺には見えないんだろう…)
(何故あいつには見えてしまうんだろう…)
二限終了のチャイムが鳴り、北元は棗たちのクラスを訪ねた。
「西邑、棗来てるか?」
「おう、北元。棗は今日はまだ来てないな。
どうしたんだろう?休みの連絡もなかったみたいだし…」
言いようのない不安が北元の胸をよぎる。
(あの後、何かあったんだろうか?)
あの時、何も出来ないにしても
棗を待ってみるべきだったのかもしれない。
(一体何が?あいつは大丈夫なんだろうか…)
考えれば考えるほど不安になってくる。
(でも…)
(あいつは大丈夫だろう)
棗は“そっち系の事”に関しては意外にしっかりしていて
きちんと対処できている様なのだ。
(だから大丈夫…)
ふと、棗が転校して来た頃のことを思い出した。
いつも一人でいた横顔を。
当然のように一人でいた横顔。
もう誰にも期待しないとでもいうように。
「…くそっ!」
同じものは見れなくても心配することは出来る。きっと力にもなれる。
(それがなぜ棗にはいつまで経っても分からないんだ…!)
「棗!棗、いないのか?」
北元は朝に会った道まで戻ってきていた。
ここにいるとは限らないが、ここしか心当たりがない。
家に帰っていないことは担任に確認していた。
(どこにいるんだ…いつも何も話さないで、心配ばかりかけて)
見つけたら、そんな遠慮ばかりするなと叱りつけてやろうと思う。
一人で何でも抱え込むから、みんな心配するのだと。
森に入ってしばらく探していると、少し開けた所に
古びたお堂があるのが見えた。
何かを感じて北元は木の引き戸に手をかける。
戸は思ったより固かった。ギギ、ギギギ…軋みながら少しずつ戸が開く。
戸が開いた瞬間、バシ!という音と光、衝撃が北元を襲った。
「…な、何なんだ?」
閃光に眩んだ目をまばたきして凝らし、堂の中をのぞき込む。
「…んん?何だ…?……」
ようやく目が慣れてきて目の前に倒れているものの姿がはっきりする。
「…!」
北元は慌てて駆け寄りそれを抱き起こした。
「棗!しっかりしろっ!おい」
「う…」
「大丈夫か?一体どうした」
「うう…」
床に手を付いて呻く棗の姿が、薄暗い堂の中では気味が悪く見えた。
思わずゾクッとして身を引き締める。
(まさか何かに取り憑かれてるなんて事ないよな…)
暗闇に微かに差し込む光が、青白い顔を薄く照らし出す。
色の無い唇は浅い呼吸を繰り返し
頬に掛かる髪で、表情がよく見えない。
「棗、大丈夫か?棗…」
呼び掛けていると、俯いていた棗が顔を上げて北元を見た。
感情の読めない目に、北元はしばしたじろぐ。
「…北元?」
「…!おう、棗」
(大丈夫だ。棗だ)
ほっとして思わず明るい声が出る。
「…どうしてここへ?」
「心配になって探しに来たんだ。棗、大丈夫か?」
「あぁ」
大分気持ちが解れた北元とは反対に、棗は堅い表情をしている。
「一体どうした、何があったんだ?」
「…何でもない」
「何でもなくないだろ。そんな青い顔して」
「……」
「何を聞いても大丈夫だ。だから話してくれ」
「……」
「俺のこと、信用できないか?」
「……」
棗の態度に業を煮やした北元は核心を突いた。
「…棗、お前何か見えてるんじゃないか?俺らには見えないモノが」
その時、戸のほうでギシッと床板を踏む音がした。
棗がハッとしてそちらへ目を向ける。
そこに立っていた和服に長髪の男…
それは北元にも見ることができた。
「的芭…」
棗が男を睨み付ける。
「そろそろ過去の事を思い出して大人しくなっている頃かと思いましたが…」
的芭は悪びれた様子もなく、棗に微笑みかける。
「そのご友人に助けられたようですね」
「的芭…あんたが。何でこんな」
刺すような視線を投げる棗を軽くあしらって的芭は笑った。
「私は貴方に夢を見て頂いただけです。
あの妖は夢で過去を見せるだけで、
そんなに力の強い妖ではありませんから
結界は簡単に破られてしまいましたがね」
的芭は静かに微笑みながら
唇を噛みしめる棗の顎を指で持ち上げ、目を覗き込んだ。
「それでも、思い出したでしょう?」
棗の顔から血の気が引く。
隣りで聞いていた北元は、事情を察することは出来ないが
棗が追い詰められていることだけは分かった。
「何なんだ、あんた。棗に何か恨みでもあるのか?」
おや?というように的芭が北元に目を向ける。
「君は友達思いですね。恨みなどありません。
さっき君が言っていたでしょう?棗君は何かが見えていると」
(妖、結界…そうか、こいつは棗と同じものが…)
今時、和服に黒髪、長髪。おかしな眼帯などにも納得がいく。
(この人はそういう能力を職業にしている奴か…)
「的芭さん」
棗が横から制す。
「北元は同級生で、普通の友達なんだ。北元を巻き込むのはやめてくれ」
真剣な、意志の強い眼差しが的芭を見上げた。
「……分かりました。今日はこれで引き上げましょう」
的芭は意味のない笑みを引っ込め、棗の耳に囁いた。
「でもこれで終わりではありませんよ。
君にはまた夢を見てもらいます。何度でも、何度でも。
君が壊れるまで」
的芭は棗の瞳が大きく見開かれるのを見届けてから
床を軋ませながら堂を出て行った。
戸の外に完全に的芭の姿が見えなくなると
棗は崩れるように床にうずくまった。
「棗…大丈夫か?」
「北元…」
床に置かれた手は微かに震えている。
北元はその上に自分の手を重ね、しっかりと掴んだ。
「棗、俺はもう大体理解したよ。棗が俺たちに言えなかった事」
棗が苦痛に耐えるように顔を伏せる。
「見えていることを、俺にはもう隠さなくていい」
北元はそっと手を伸ばし、頭を撫でた。
「普通の人に見えないものが見えていても、棗は棗だよ」
床にポタポタと雫が落ちた。
「棗…」
「…北元…ありがとう。でももうダメなんだ」
「ダメ?何が?」
「俺がもうダメなんだ…」
棗がそう言った瞬間、ぶあっと冷気が棗を取り囲んだ。
「なっ、棗!?一体これは…」
最初にお堂で棗を見つけた時のような
感情の読めない目が北元を見つめ返す。
「北元、昔お世話になった家に少し年上の男の子がいたんだ。
…その子は……俺に……性的虐待を………」
冷気がどんどん分厚くなり、繋いでいた手が離れる。
「俺は親がいなくて親戚の間をたらい回しだったから…
守ってくれる存在もいなかったから
どうにでも出来たんだ。どうにでも…だから…」
何か良くないモノが棗に纏わりついているのが分かる。
「色々…色々…」
棗の指が床を引っ掻く。爪が割れて指先に血が滲む。
「的芭がさっき言ってた俺に見させた夢っていうのはそれなんだ。
人は本当に辛い記憶は思い出さないって本当なんだな…
自分を守るために…」
棗の姿が黒い靄に霞む。
「…北元、巻き込んでゴメン。
こうなっても、俺は幸せだったよ。最後に優しい人達に会えたから。
だから…」
「棗っ!」
北元は黒い靄の中に手を突っ込んだ。必死に。
体中の血が凍り付くような、嫌な、
おぞましい冷気が北元を襲う。
「北元っ!やめろ」
黒い靄の中に動揺する棗が見える。
(救える。俺に力がなくても
棗の心を揺らすことが出来れば多分救える…)
こんなことに関わるのは初めてだったが、北元はそう確信した。
「棗、俺はお前にいなくなってもらいたくない。
お前が苦しむのも嫌だ。
でもどうしても苦しむのなら…」
分厚い冷気に阻まれていた手が、少し前に進む。
「俺が同じ苦しみを背負う。同じ罪を背負ってやる」
ぎりぎりと手が棗に近付く。
「棗、俺はお前が好きなんだ…だから…
だから消えないでくれっ!!!」
バチンッ!と何かが弾けるような音がした。
急にストッパーがなくなったように体が軽くなって
北元は、手から勢い良く棗に倒れ込んだ。
「北元…」
戸惑う棗を北元はそのまま抱き締めた。
「よかった…」
「北元…ゴメン。俺、もうダメだと思って…」
体を起こしながら、棗は今起こったことを説明する。
「的芭さんは俺がもう自分を諦めるような過去を見せて
俺の心を封印する術を掛けたようなんだ。
それで自分の式…使いの妖を憑依させて
俺の力を自分の好きにしようと…」
一度、封印を受け入れて呼び戻されたお陰で
棗は冷静さを取り戻していた。
「こんなどうしようもない過去を持っている自分が
あんな優しい人達の中にいるなんて…
許されないと思ったんだ。
でもきっと、心の有り様だよな…」
北元は前方を見つめ、黙って棗の話を聞いた。
「必死で引き留めようとしてくれてる北元の顔を見てたら
逃げようとしている弱い自分が恥ずかしくなってさ…
逃げないで強く生きなきゃと思ったんだ」
そう言って棗は北元に向かって微笑んだ。
「本当にありがとう。北元」
「…!!」
次の瞬間、棗は面食らって固まっていた。
北元の唇が棗の唇を覆っていた。
固まったままの棗の顔を北元は手で挟んで自分に向ける。
「同じ苦しみ、同じ罪を背負ってやるって言っただろう?」
北元が優しく微笑みかける。
「いいよ、そんなの!俺もう大丈夫だから!」
焦って棗は顔の前で手をぶんぶん振る。
「そうやってまた一人にならないでくれ。
一人で閉じないでくれ。
俺が共有したいんだ。俺が一緒にいたいんだ…」
「…どうして?」
俯いた棗が小さな声で訊ねる。
「こんな思いが恋か友情なのかは分からない。
でもきっと、棗のことが好きだからだな…」
「こんな思いが恋か友情の延長なのかは分からないけどさ…」
冷え切っていた棗の手を北元の温かい手が包んだ。
「名前なんかどうでもいい。
ただ、近くにいたいんだ」
俯いたままの棗の手が北元の手を握り返した。
北元はようやく安堵したように笑って棗の頭をぐしゃぐしゃに撫で
しっかりと抱き締めた。
あれから数日が経った。
二人はベッドの中で一緒にノートを広げ
明日提出の宿題を解いていた。
北元の部屋は狭いが、何だかとても暖かくて
すごく安心する、と棗は思った。
「棗」
北元が棗に自分のノートを差し出した。
「ほら、Qちゃんだぞ。棗、好きだろ?」
北元が邪気のない笑顔で笑いかける。
ふいに棗の目から透明な雫が落ちた。
「ど、どうした。棗?」
「そうだな…。こんな感情の名前は知らない」
棗は思いがけずこぼれたそれを拭って笑った。
北元は布団ごと棗を抱き締めた。
この部屋の暖かさを覚えてもらいたい。もっと。
もう凍えていた昔を思い出さないように。
〈終〉
212 :
北夏:2009/12/15(火) 22:06:11 ID:FlV7FTnoO
書くのに6日もかかったことにびっくり。
のわりにラブシーンなくてすみません。北夏好きだ!
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
>>212 GJ!!北夏大好きです。
なかなか見つからないので、かなり幸せですw
>>176ってkwsk聞いたら駄目かな
凄く良かったんだけど、自分が思ってるやつじゃないとしたら気になって…
>>214 >>1にある保管庫に感想スレがある
長文感想や出遅れ感想、質問、投下者コメント等はそちらへ
____________
| __________ |
| | | |
| | □ START. | |
| | | | ∧_∧ 半生、コント番組「現基礎」より探偵と怪人
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
痔畏惨、馬蛙惨
地下のレンガ造りの部屋に彼女らがいなかった。
私はそこでとんでもない恐怖に襲われ、同時に絶望したのであった。口をきこうとするが、声は出てこないで陸に揚がった
魚のようにぱくぱくするだけ。お嬢さん。私の宿命はどこへ行ったのだ。
重たい鉄の扉を開けるが、光が見えない。私の未来は真っ暗であった。
ついこの間までの、「待ち」の時間を考えると頭が割れるようである。唸りながらなんとか歩みを進め、砂利を踏み締める。
音を聞くたびにそれで脳みそを磨かれているかのような感覚に陥った。絶望や恐怖ばかりが叫び声をあげる。
人生二度目の氷河期がやってくる。
一度目のそれは約二十年前。ぱたりと怪人による事件が途絶え、お嬢さんも姿を見せなくなった。探偵のいるところに事件
あり。逆もまた同様であり、事件のないところに探偵は必要ないのであった。
私は世界からお払い箱となった。それから小さな依頼をうけたり日雇いで働いたりして、なんとか食いつないできたが、最
終的に落ち着いたのはホームレスで、公園でダンボール暮らし。
そんな生活がまたやって来るのかと思うと、一足先に訪れた寒気が足元からはい上がって来る。
しかしホームレスでも、生きようと思えばいくらでも生きられる。私が何よりも嫌なのは別のことであった。二十年間、一
人だった。そんな二十年前間の再来である。
ああ、だがしかし、とりあえず。とりあえず腹ごしらえをしなければ。
財布を確認すると、ペットボトルの飲み物が買えるだけの金しか入っていなかった。思えば彼は私の持ち金がなくなるころ、
ちょうどよくやってきたのであった。それを思い出し、ぐす、と鼻がなる。鼻血は出ない。外に出たら鼻水垂らして泣こうと思う。
コンビニでジュースよりもたらこのおむすびを選んだ私は、それを持ったままいつもの公園にヨタヨタと帰ってきた。しばら
くはここに住むことになるだろう。このおむすびは、金で買える最後の食事であった。
公園の正面にコンビニがあり、そこから公園の中を突っ切った端っこに私が住んでいた場所があった。ひとまずそこでおにぎ
りを食べることにした。
ざっ、ざっ、と足を引きずる。体力よりも気力が足りなかった。女心だか怪人心だか知らないが、二度も煙のように消えてし
まうとはずいぶんとあっけないもので、秋の空のほうがよっぽど誠実である。冬の予感に震え、もしかするとこの震えは絶望か
ら来たものかもしれなかった。
あのベンチに座りたい。でもおばさまやお嬢さんに悪いから座るまい。
点々と並ぶベンチを遠目に見ながらノロノロと歩いていると、ベンチに黒い塊が転がっているのに気がついた。思わず二度見
をしたが、黒いシルクハットに長いマント。間違いなく私の宿敵であった。
冷え込んでいた心臓がかっかと熱を放つ。爪先から頭のてっぺんまで熱くなる。私は一足飛びにベンチに駆け寄った。
彼はベンチにぐったりともたれていた。顔は蒼白。呼吸をしていないのかと思うほど、その体は静かであった。
私は彼の頬をぺちぺちと叩く。それにしてもこの男は二十年前とあまり変わらない。太ってないし。
そのうちに彼は目を開いた。ぎょろっとでかい目が私を見る。
「……なんや。俺は死んだ」
転がったまま彼が言った。
「死なん」
「なんで!斬られたんやぞ」
「そういうもんなんだ!」
懐からピストルを抜いて、彼が構える前に撃った。赤い光と煙が出る。まったくまめなスタッフである。
「死んだことないだろ」
「……いっぺん、なかったか」
「さあ?」
彼は釈然としないようであったがむくりと起き上がり、座り直す。私はその目の前に立っていた。
彼とのわずかなやり取りのうちに体の芯からあったまっていることに気がついた。溶けたものがこぼれてきそうなので、いますぐ
真冬になってほしいと思ったが、どちらにしろこの熱は都会の寒さに勝るのだから意味はないのだろう。
それほどに感極まっていた私であったが、面倒臭そうに「なーんか刺々しいなあー」と思いやりもなにもない疑いの目を向ける
彼が私のタガを外したのであった。
私はピストルのグリップで彼のこめかみを殴りつけた。
「ぎゃっ」
呻く怪人を押しのけてベンチの隣に足を組んで座った。ぎょろっとした涙目が睨みつけてきた。が、私も負けじとキッと目つきを強くする。
「刺々しくもなるさ!」
わさびを食べた時のように鼻がつーんとした。
「またっ、二十年、待たされるのかと思うと……私は!」
「な、なんなんやお前……泣くなアホ」
「泣く! 鼻水垂らして泣く!」
「鼻血が鼻水垂らしてどうすんじゃアホ!」
「う、うう」
「ああもう泣いたし」
怪人の隣で探偵が泣いているという、なんとも奇っ怪な光景であった。私は前後不覚になっていたので人目も憚らずにグスグス泣いた。
隣の男がすねを蹴ってきたから蹴り返したらまた蹴るので、泣きながらもう一度ピストルで頭を殴った。
「いってぇ!」
私は涙を拭って、いきり立つ彼を見上げた。すると彼はぐっと唸って振り上げた拳を止め、座り直す。気まずそうに顔を背けられた。
「ふん」と私は鼻を鳴らした。
憂さを晴らしてようやく落ち着いてきたので、話をすることにする。
「そういえば斬られたってなんだ。というかお嬢さんは」
「遅いわ」
そんなわけでかくかくしかじか、事情を聞いた。
私は立ち上がって叫んだ。
「じゃあ、お嬢さんはそのはだか侍にさらわれたのか!」
「さらわれたっちゅうか意気投合してな」
「はだか侍と!」
「はだか侍と」
「くっそー……二十年前はいなかったのに寂しかったのかなんだか知らないがポッと出てきたあげく美味しいところとお嬢さんを
掻っ攫って行くなんて……」
泣いている場合ではない。
そもそも怪人が見つかったので絶望する意味がない訳であって、むしろ私は使命感に燃えているのであった。
怪人からお嬢さんを救い出すのが神が私に与え賜うた天命なのである。
「待ってろ怪人よ」私は立ち上がり怪人を見下ろした。
「アァン?」
「私がお嬢さんを連れ戻してくる。そしたらまた思う存分さらえ。私が一生涯助け続けてやる!」
きょとーんとして目をひんむいた怪人に指を突き付けてやった。
「私の宿敵はおまえ以外にいないのだ」
「赤い目で何を言うか」
「うるさい! 二十年待ってろ! 必ず連れ戻すから!」
怪人は「に」と言ったので、二十年だと!? とか言いたかったのだと推測できる。い、の口の形ままかたまった彼を見て、
私は意気揚々と彼の元から立ち去ったのであった。
一人の二十年は長いぞ。そして夏でも寒い。そんな思いを私にさせたのだから、私達が帰ってくるまで私と同じ時間を過ご
せばいいのだ。そんな気持ちでいっぱいであったから、私が彼を振り向くことはない。
二十年後だとみんなじいさん、ばあさんだなあ、としみじみと思うのであった。
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 新作のオチがあまりにも切なかったので
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ラスト名前欄間違いすみません
>>212 GJ!!
原作であっても違和感を感じないような萌えエピソードでした!
北ってそういう子だよねえ……
歌ヘタ王座ケテーイ戦スペサルの第4回があったら…という捏造設定の妄想SS
ナマモノ注意!!
エロ注意!!特にフェラシーンがあります(しかもちょっと変態チック)苦手な方はスルーを
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
歌ヘタの収録が終わって、マネージャーの運転する車で各々の家に送ってもらう事になった。
二連覇の不名誉は免れたものの、音痴を物笑いのタネにされて
和歌林の機嫌はすこぶる良くない。
「お笑い芸人はなぁ『笑われる』んじゃなくて『笑わせる』もんなんだぞぉ!」
狭い車内に舌ったらずな叫びが響き渡る。
気持ちは分からなくも無いので、優しい俺は聞いて聞かぬフリ。
「俺さー。マイク持つと緊張して、余計声が出なくなるんだよー」
両手で後ろ頭をぐしゃぐしゃにかき回しながら、愚痴をこぼす。
「普通にしてたらさぁ、もうちょっと上手く歌えんだぜ」
そう言って、先刻スタジオで披露した曲を歌い始めた。
歌うこと自体は嫌いじゃないのにねぇ。
先ほどのスタジオでの収録中の様子とは違い、リラックスしているせいか
表情は柔らかく、声も良くでている。
音程は・・・まあ、その、アレですが。
ふと見れば、運転席のマネージャーの肩が震えている。
笑いをこらえるのは結構ですけど、ハンドル切り損なわないで下さいよ。
ワンコーラス歌い終わって「な?」と俺の顔を見る。
まあ、黙っていつもの拍手をしてあげましょう。
そもそも粕賀は、和歌林が一生懸命歌ってる姿を見るのは嫌いじゃないのでね。
「だからぁ、マイクが悪いんだよ、マイクがぁ」
往生際の悪い繰言は、車が和歌林のマンションに着くまで続いた。
「和歌林さん、着きましたよ」
マネージャーが振り返ってそう告げると、和歌林は乱暴にドアを開けた。
やれやれと一息ついて気を抜いていた俺の首根っこを
乱暴な相方にひっ捕まれて、力任せに外にひっぱり出された。
「こいつも、ココで降りるから」
助手席の窓越しにマネージャーへ言い放つ。・・・粕賀の意見は無視ですか?
「また明日、迎えに来て」
ぶっきらぼうにそう告げると、どんどん俺を引きずって行く。
俺の方から『行きたい』って言うと大抵『ダメ』とか言うくせに
なんなの、この気まぐれな強引さは。
無造作に放り込まれるようにして、俺は和歌林の部屋に入った。
最近ココに来れたのはいつだったろう。あの時は頼み込んで頼み込んで
ようやく入れてもらえたのに、今日に限っては・・・
ぼんやりとした俺の物思いを和歌林の声が遮る。
「よし。ヤルぞ、粕賀!」
和歌林が上着を脱ぎながら、高々と宣言する。
「・・・は?」
不意をつかれた俺を壁に押し付けると、いきなり俺のズボンに手をかける。
「ちょっ、ちょっと!!なんですか、いきなり!!」
俺はまだ上着すら着たままなのに、まだ玄関から数歩も入っていない壁際で
ずるりとズボンを下着ごと刷り下げられて、声も焦る。
「うわっっ!ちょっとっ!ストップ、ストーーップ!!!」
「んだよ、したくねーの?」
ズボンを脱がすために身を屈めていた和歌林が、挑発的な目で睨め付けながらゆっくりと立ち上がる。
「いや・・・したくないわけじゃないですけれども・・・」
しどろもどろの俺を尻目に、和歌林の両手が俺の上着の襟元を掴んだ。
力任せに肌蹴られて、肩に掛けていたカバンごと剥ぎ取られる。
和歌林は自分のワイシャツのボタンを外しながら、噛み付くようにキスを仕掛けてくる。
「むしゃくしゃするから、ヤって、スッキリしたいんだよ」
唇が触れるか触れないかのところで、欲情に濡れた声で囁く。
「・・・そういう、ストレス発散のためのセックスはどうかと・・・」
「ウルセーよ」
憎々しげにそう言って、俺の下唇に歯を立てる。
「っ!」
鋭い痛みが走った所を次の瞬間ぺろりと舐められて、ぞくりとした感覚が全身を走る。
理性の糸が切れそうになるのを押し留めて、熱い体を引き剥がす。
「ちょっと待てって!ヤルのはかまわないけど、こんな、玄関先で?!
・・・ちゃんとベッドまで行きましょうよ」
家賃7万円の部屋は、俺の部屋よりは広いけれども、玄関からベッドまでなんて目と鼻の先なのに。
なんとかそっちまで動こうにも、足元まで下げられたズボンが纏わりついて上手く歩けない。
「そこまでいくのも、メンドクセェ・・・」
逃げようとする俺のシャツを掴んで引き戻し、体全体で壁に押し付けながら裾を捲り上げてどんどん脱がして行く。
どこまでもワガママなんだから。俺は抵抗を諦めて、シャツを脱ぐために両腕を上げる。
まさに降参のポーズだなぁと自嘲の笑みが漏れる。
手首にシャツを絡げたところで脱がすのを止め、和歌林は俺の手をその背に回し、輪になった腕の中に入ってくる。
手足を自らの衣服で拘束されているようで、無性に興奮してしまう自分はやはりMなのだろう。
和歌林の舌が、俺の鎖骨を辿り、首筋を這い登って耳朶を軽く擽る。
「うあ・・っ」
痺れるような刺激につい声をあげてしまった。くくっと可笑しそうな声が間近で聞こえる。
やられっぱなしも癪なので、俺はちょうど顎の辺りにあった和歌林の白い首筋に口付けた。
弱く息を吹きかけながら首元まで下りて、その柔らかい肌に吸いつく。
「・・・跡、つけんなよ」
甘い声で耳打ちされると悪戯心が湧いてきて、つい一層強く吸いあげた。
「こら、よせってっ!」
身を捩ってのがれようとするのを、自由にならない腕で、それでも力いっぱい抱きとめた。
ひとしきり味わってから唇を離すと、そこは赤紫に小さく腫れていた。
「てっ、めぇ・・・これ絶対、跡残るじゃねぇかっ!」
和歌林は右手でキスマークを摩りながら憤る。
「ワイシャツの襟で隠れるから、大丈夫ですよ」
「ぎりっぎり見えそうな所じゃん!もう、お前、信じらんねー」
信じられないのはこんな所でコトに及ぼうとする、あんたですよ。
俺の心の中を読んだのか、和歌林がきつい瞳で睨み付けて言う。
「罰として、挿れるのは、ナシだからな」
「ええぇ〜〜、ヤルって言ったじゃないですか!?」
「ばかやろう!第一、明日も仕事だぞ。足腰立たなくなったら、どうすんだ!」
「粕賀がずっと抱っこしてあげますよ」
「バカ言ってんじゃねぇ!!・・・とにかく、挿れんな!いいなっ!!」
「・・・うぃ」
明日の仕事を考えれば、仕方が無いのは分かっているけど、その約束を果たすために
どれだけ粕賀が理性を総動員して本能と戦わなくてはならないか、あんた知ってるんですか。
「ンな、むくれんな。気持ちよくシテやるからよ」
すっと身を屈めた和歌林が、まだ半立ちぐらいの俺のモノを掬い上げるようにして口に含む。
生暖かい口内を舌で転がされる。
「これくらいなら、咥えやすいのになぁ」
一旦口を離して、何故か楽しそうに和歌林が呟く。
「こんなんじゃぁ、お宅さんが満足しないでしょう?」
「・・・言っとけ」
俺の中心は和歌林の口の中でどんどん大きくなり、湧き上がる快感も増していく。
十分に熱を蓄えたソレは、和歌林の口に全ては収まらなくなってくる。
「んっ・・・む・・っ・・んぁ・・」
口いっぱいに頬張って、息苦しそうに鼻で啼いてくるのが、そそられる。
俺を全部呑み込もうとするから、先端が和歌林の喉の奥まで届いてしまう。
「あ・・・そんなに、奥まで咥えたら・・・」
「っ・・うぇ・・・」
「ほら・・・苦しいでしょう?」
「ウルセー、黙って感じとけ」
ようやく口を離したかと思うと、今度は左手で竿を扱きながら、
右の掌で先端を押さえつけるようにして撫でてくる。
「っあ・・ちょっと・・・」
「な、感じるだろ?」
どんどんエラの部分が張り詰めていく。
中心に骨でも入っているのかと思うほど、硬く大きくなる。
「すげぇ・・・」
どこか恍惚とした和歌林の声。
先端に軽く口付けると、俺のモノの彼方此方にも啄ばむようなキスを落としてくる。
よく粕賀が愛しいものにする、あのキスのように。
熱い舌で全体を嘗め回して、また口に含む。
「ん・・・っ・・・ん・・・」
苦しいだろうに、一生懸命、俺に快感を与えようとしてくれる様がたまらない。
なんとか手首に絡まっていたシャツを解き、自由になった右手で優しく髪を撫で上げると、和歌林の目が細まる。
和歌林が顎を動かすたびに、溢れ出した唾液がじゅぱじゅぱと厭らしい音を立てる。
じゅるっと一際大きい音をさせて、和歌林が上目遣いで俺を見る。
挑発的なその瞳は、俺の劣情を煽り、和歌林の口内でまた一段と俺の熱が膨れ上がる。
「うっ・・・はぁっ」
息苦しさに耐え切れなくなったのか、口から欲情の塊を出して、今度は舌先で弄ぶ。
右手で竿を支えて、舌を先端の窪みの所に這わせてぐるりと舐め上げる。
「はっ・・・あっ・・・あ・・ぁ」
舌を出しているために開いたままの厭らしい口から、艶かしい吐息がもれてくる。
まったく、この時の和歌林の声は強烈に色っぽい。
「・・・俺のを、マイクにして、歌ってるみたいだな」
ふと思い付きが口をついて出てしまった。
てっきり怒り出すかと思いきや、和歌林は不敵そうにふふんと鼻で笑う。
握る右手に力がこもり、和歌林は俺のモノを口元に当てると小さく歌いだした。
艶かしい吐息が混じる歌声は俺の耳を擽り、淫らな表情と合わさって俺の真芯を刺激する。
「今度、歌へた出るときはさぁ、マジでコレをマイクにして歌ってみよっか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、先端をぺろりと舐める。
「っ、そんなことっ、出来るわけ、無い、でしょ・・・ぅっ」
絶え間なく与えられる快感に言葉も途切れがちになってしまう。
「そうかぁ?・・・こうやって、両手で包んで隠せばいいじゃん」
左右の掌でぎゅっと挟みこみ、ゆっくり前後に扱き出す。
先端を強く吸われて、湧き上がる射精感に全身が震える。
「・・・ぅあ、わか、ばや、し・・・っ」
茶色の髪に絡ませた指に力をこめて名前を呼ぶと、俺を見上げる和歌林と目が合った。
その瞳がにやりと笑う。
「・・・出していいぜ」
なんて優しい悪魔の囁きだろうか。
「ほら・・・」
絶頂に誘うように、口いっぱいに咥え込んでくる。
魔性の誘惑には抗えず、俺は白い精を和歌林の口内に放った。
右手の甲で口元を拭いながら、和歌林がゆらりと立ち上がる。
「・・・不味い」
「っ、あんたねぇ」
自分から飲んでおきながら、その言い草はなんですか。
少しむっとした俺の頬を和歌林はちょいと摘んで、へへっと笑う。
「うそだよ。まぁ、美味いもんでもないけどな」
「どれ」
和歌林の顎を掴んで引き寄せ、強引に口付ける。
「ばっ・・か、やめっ・・」
文句を言うために開いた唇に舌を捻じ込んで、奥まで弄る。
いつもの甘い唾液に混じる雄の匂いが鼻をついた。
「・・・なるほど」
納得して唇を離すと、真っ赤になった和歌林が搾り出すような声で呻いた。
「・・・この、変態っ」
そんな何を今更。
「少々、青臭いですな」
自分の唇を舐めながらポツリと言うと「だろ?」と和歌林が続ける。
「よくお前、毎回俺のを飲むよなぁ」
変なところで感心されてしまった。
「いえいえ、粕賀にとって、和歌林のエキスは最上級の甘味ですよ」
あながち冗談でも無かったのに
「あ、ツマンネェ」
片手を挙げて、軽くあしらわれる。
この憎たらしくて可愛らしい相方を、両腕で抱き込んだ。
形のいい耳に舌を這わせて、低く囁く。
「味わわせて頂けるんでしょう?」
「・・・だから、ヤルっつってんだろ」
威勢のいい言葉とは裏腹に、和歌林の頬は紅潮して俺が嬲っている耳まで赤い。
「さんざん気持ち良くして頂きましたからね。たっぷりお返ししますよ」
そう言って、ひょいと和歌林を肩に担ぎ上げる。
足元に纏わりついていたズボンを脱ぎ蹴って、抱き上げたままベッドへと急ぐ。
そっと和歌林をベッドに降ろして、ゆっくりその身に覆いかぶさっていく。
和歌林の両足の間を割って入った俺の太ももに硬いモノが触れる。
彼はまだズボンを穿いたままだったが、その布が持ち上がるほどに張り詰めている。
ソコに手を這わせると、和歌林の体がびくんと跳ねる。
「随分、お待たせしちゃったみたいですね」
布越しでも形が分かるソレの根元から、つうっと指先で撫で上げる。
「あっ・・・っ」
和歌林は短く嬌声をあげて、背中を弓なりに反らした。
仰け反った首筋に口付けると、先刻のキスマークが目に入って、例の約束を思い出す。
「和歌林・・・?」
耳元でなるべく甘く、優しく問いかける。
「・・・ん?」
「ホントに、挿れちゃ、ダメ?」
「ダメ」
即答で返されて、がっくりと項垂れる。
いや、でも、せめて。
「じゃあ、指。指だけでも、ね?」
立てた右手の人差し指を自分の額に当て、お願いしますと目を瞑る。
ふっと、和歌林が小さく息を吐くのが聞こえた。
恐る恐る目を開けると、ちょっと困ったように眉根を寄せた和歌林が口を開く。
「・・・無茶、しねーなら・・・」
いいよ、と和歌林が口の中で呟いたのが分かって、気持ちが上擦る。
立てた人差し指を振りかざし「トゥーーースッ!!」と、つい全力でやってしまった。
すかさず『何やってんだ!』とツッコミが入ると思ったのに
我が相方は、向こうを向いて肩を震わせて笑っている。
なんだかんだ言って、結局粕賀のギャグがツボなんだなぁと思うとたまらなく愛おしくなる。
「わ〜かちゃんっ」
上機嫌で背中から抱きつくと
「なんですか、とっちゃん」
なんて、返してくる。
ふたりで笑いあって、柔らかいキスをした。
そのまま、深く深く口付けながら、俺はどうやって先ほどの仕返し・・・
いや、お返しをしようかと考えを巡らしていた。
―――翌朝の一コマ―――
「わ〜かちゃんっ」「・・・んだよ、この嘘つき野郎」
「だぁって、お宅さんがあんまりにも可愛いもんだから、つい・・・」
「うっせー。黙れ、バカ。もうお前は俺に触るな。絶対、一生、金輪際!」
「おい、お前それ、本気で言ってるのか?」「ちょっとは本気だよっ!!」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ オソマツサマデシタ!
ナマ 電機具留ーヴ シ龍×卓Q
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
カウンターの上の放り出しっぱなしにしていた携帯が震えているのを、シ龍は同席者に指摘されて気付いた。
慌てて着信名も確認しないまま、隣にごめんと断って通話ボタンを押すと、聞き間違え様のない相方の
成人男性にしては高いトーンの声が鼓膜を震わせる。
『ういっす』
「なんだ、お前かよ。って、お前、確かドイツに行ってたんじゃなかったっけ。もう帰って来たの?」
『つい先刻にな。帰って来たてのほやほやだよぉ』
卓Qの高いトーンの何時もの声に少し疲れが滲んで聞こえるのはその所為かとシ龍は納得をする。
隣でグラスの底を上げながらちらりとシ龍に視線を投げた同席者に、唇の動きだけで通話相手の名前を伝えた。読唇術の心
得がある訳ではなかろうが間違えずに読み取ったらしく、あぁと納得をして頷きながら
呼べば? と返される。同席者はシ龍と卓Qにとっても馴染みの深い関係だ。何せ、デビューアルバムを
英国で共同生活をしながら一緒に作った仲なので。シ龍は頷いて見せると卓Qに伝える。
「あのさぁ、今家の近所の、ほら、この前お前と飲んだ時に行った店あんだろ。そこでjkと飲んでんだよ。
お前も来たら?」
『え、そうなの? 行ってもいいなら行くわ』
「ん、待ってるから早く来い」
『あいよー』
能天気な返事を最後に通話が切れる。そういやかけてきた用件を聞いてなかったと今更気付いたけれど、
来てから聞けばいいかと軽く流した。まさかただいまを言いにかけて来たとも思いがたい。
シ龍は携帯を同じ場所に置きながらjkに告げる。
「フミトシ、来るってさ」
するとjkはほんの少し笑った。揶揄するのではなく、口元をゆるやかに和ませるだけの、
ちょうちょでも出て来そうな春の気候を思わせる暖かい笑みだった。
「どしたの?」
「いや、フミトシね、フミトシ」
音楽関係の仲間内で、卓Qをフミトシと本名で呼ぶのはシ龍だけだ。ジェーケーの口から出た相方の名前は、
何だか別の人の名前に聞こえる。
「本当に変わんないな、お前ら」
「あ?」
「二人でキャッキャッしてんの見ても思うけど、シ龍のその呼び方聞いたらしみじみ思うよ。卓Qがdjで
世界的に有名な奴になっても、シ龍にはフミトシなんだよなぁって」
改めて指摘されてシ龍はどんな顔をすればいいのか分からなくなった。卓Qがどれだけ世界の
『TAQ iSHiNO』になろうが、シ龍にとってはやっぱり十六歳からの付き合いのフミトシなので。
「だってさぁ、変わらないでしょ。変わる方が変じゃね?」
「幼馴染だもんな、お前ら」
「幼馴染っちゅーには、うちらが出会ったのは十六の頃だけどね」
「人生の半分以上一緒にいるんだから十分だろ」
幼馴染という形容詞を使うには出会ったのが遅すぎる気もするのだが、そう言われればそういう気もして、
シ龍は深くは反論しなかった。定義なんて人によって違うものだ。考えればこんがらがる。こんがらがった
話なんてそれでもイイじゃん、だ、
ただ違うとは思う。卓Qとの関係は何か一言に収められるものではない。どの言葉を使っても
きっと違和感が拭えないのだろう。
詮無い事を考えるのは一旦やめにして、上手く話を逸らす。jkは逸らされたのに気付いたかも知れないが
敢えて触れずにシ龍の振った話に乗ってくれた。
実のない話をしながら時間を潰している内に、ようやく店に辿り着いた卓は開口一番で店員に
ビールを頼んでシ龍の隣に腰を下ろす。
「おかえり」
「卓Q、ドイツ行ってたんだって?」
「ただいま。jkも久し振りだね」
「そうだな。お互い忙しいから。ドイツ、どうだった?」
「えー、パーティ自体は良かったんだけどさぁ……」
端から同席していた様な馴染み方で話を始めた卓Qにシ龍はこっそりと笑う。そうやって場に溶け込むのは
相手が顔見知りの時だけだ。飛行機で多少のアルコールは摂取しているだろうが、もう酔っ払っているみたいに
目元を赤くして、饒舌に語り出した卓Qに日本語に餓えてんのかなと思う。一時はドイツにアパートを
借りてみたりしていたが、やっぱり住むのは日本だなぁと以前に愚痴られたっけとシ龍は思い出した。
jkと卓Qは音楽を作る側の人間として話が合う。最近の日本の音楽事情やなんかを忌憚なく話していれば、
いくらでも時間は過ぎていく。勿論馬鹿話が間に入るのだけれど。
そんな卓Qを見ていると、とことん音楽がないと駄目な奴だなとシ龍は思った。草野球を職業と呼び、
ゲームや釣りとある程度他にも趣味を持っているシ龍と違い、卓Qは生活のほとんど全てが音楽だ。
だからシ龍は今自分が少し話しに入りづらい状況になっていても、卓Qが嬉しそうにしているからいいやと
思える。卓Qから音楽を取ったら何も残らない様な人間だと分かっているからだ。
何かを作らなくては生きている価値がない訳ではないけれど、何かを作らなくては生きていけない
人間が確かにいる。卓Qはまさしくそういう人間だった。もしも手久野の世界にも神様がいるならば、
卓Qは神様に愛された人間に違いなかった。だからきっと余分にしんどい事がある。でも神様は
ある意味で公平だから、シ龍の様な人間を卓Qの傍に置いた。
何年も前に、あるライターに言われた言葉が頭を過ぎる。意志野君はシ龍君がいなくちゃ
立っていられない人間じゃない。そのライターは慧眼にも言ってのけた。当時は然程重みを感じなかった
彼の言葉が、今になって沁みてくる。
かなり真面目な顔で話を続けている卓Qにふと目をやって、シ龍は違和感に気付いた。何時もよりも
飲むピッチが遅いし、何よりも表情に滲んでいる疲れが気になる。こいつ、熱あるんじゃね? と
考えると同時に、これは今まで無かった大発見だとシ龍は卓Qの額に自分の手を押し当てていた。
「あ、やっぱり」
「何? なんなの」
「熱あるよ、お前」
「へ?」
「変だなーって思ったんだよ。煙草の本数も少なきゃ、酒もじゃん。いっつも牛みたいにビール飲んでる癖に」
「霜降り作る為だから仕方ねぇだろ」
「認めんのかよ」
呆れ半分のシ龍の態度にようやく自分に熱があるのを納得したのか、卓Qはロボットみたいに
素直に歩き出した。幸いにも店は卓Qの家の近くなので、タクシーを捜すか少し迷ったけれど、
歩く方が早いと判断をする。
手のかかる子供を連れている気分で、シ龍は卓Qの腕を掴んだままなのを気にも留めずに足を進める。
平日の夜中の道路は人通りが少なくて、街灯の明かりが律儀に二人分の影を作り続ける中
四方山話の続きをしながらだらだらと人攫いは出ないから怯えなくてもいい家路を辿った。
帰り着いた卓Qの家は、今日の夕方に一度家主が戻って来ただけだからなのか、妙な静けさに
覆われていた。サソリが部屋の中にいて困っちゃう訳でもないのに、何となく
卓Qが帰りたがらなかったのが分かる。長期ではなくても、家は誰かが住まないと
途端に息をしなくなるからだ。
我が家に帰り着いて気が抜けたのか、卓Qが言った。
「やべぇ、気持ち悪くなってきた。寒い」
「ほらー、だから言ったろ。人の言う事はちゃんと聞けよ。さっさと寝なさい、馬鹿」
「そうする」
手早くズボンとシャツを脱ぐと、卓QはTシャツとトランクスでベッドに潜り込む。寝間着はと聞いても
面倒だと返事が返ってはどうしようもない。無理矢理着せてやる程でもないかと、シ龍はきょろきょろと
何度も来た事のある部屋を見回し、客用の布団の目星をつけようとした。
「シ龍」
「あー?」
「寒い」
「毛布出してやろうか?」
「めんどいから、いいよ、お前で」
「……は?」
「シ龍の分の布団を出す気力もないよ、俺は。だからお前がここで寝ればいいんじゃないのかしらって」
「熱でおかしくなってるだろ、お前」
とんでもない事を言い出した卓Qに取り合わずに、シ龍は押入れの方へ歩き出そうとした。けれど背中に
投げられた小さくくぐもった声に足が止まってしまう。
「熱で心細いし、寂しい。人肌恋しいんだよ」
「……仕方ねぇな」
がりがりと頭を掻いてシ龍は振り返った。横になった姿勢のまま布団を目の下まで引っ張り上げた
卓Qは縋る様な目でシ龍を見上げていた。
無言で電気を消すと自分もジーンズとパーカーを脱いで卓Qの横に大きな身体を滑り込ませた。
成人男性二人分の体重をかけられたスプリングがぎしりと軋む。当たり前だけれど、狭い。
狭くて密着するしかない。溜息は飲み込んだ。こういう馬鹿な発想には、無理が祟るとなるみたいだ。
「これさぁ、開き直って腕枕でもして寝た方が楽じゃない?」
「お前、本当に頭おかしくなってんぞ。大丈夫かよ、フミトシ」
「……うん」
今じゃ言えない秘密でも呟く様に、不意に低くなった卓Qの声。シ龍は薄闇の中卓Qの顔を覗きこんだけれど、
表情は見えやしなかった。
一つ息を長く吐くと、卓Qが諦めた様に続ける。
「悔しいんだけど、シ龍に『フミトシ』って呼ばれると、ホントに帰って来たわぁ……って気になるわ」
「そっか」
「うん」
卓Qが言っているのは、きっと表面上の事だけじゃない。それが分からないシ龍ではない。
だからただ頷いただけで言葉の全てを受け止めると、シ龍はごそりと腕を持ち上げて卓Qの首の下辺りに
捻じ込んだ。
「何だよ、いきなり」
「腕枕の方が楽だって、おめーが自分で言った癖に」
「言ったけどさぁ。……あったけぇな」
「そうだな」
暖かいのは発熱しているお前の方だと言いたいけれど、卓Qの欠伸にきっかけを失う。旅の疲れも
出たのか二度連続で欠伸をしてから、卓Qがぽつりと告げた「おやすみ」にシ龍も目を閉じた。
なんとなく物の形が分かった先刻とは違い、今度はモノノケでも出て来てダンスしそうな黒い闇が広がる。
間近にある呼吸と、腕の中の体温。心臓の鼓動が伝わらないかと、シ龍は暗がりに思考を浸しながら
感覚を研ぎ澄ます。少しでも卓Qのたてる音を聞きいていたかった。
楽器を使って奏でるだけが音楽ではない。
卓Qがシ龍の傍でようやく意志野フミトシに戻れる様に、卓Qがいるからこそシ龍の中で鳴る音がある。
もし、無理矢理に一言でシ龍にとっての卓Qを形容するのならば、卓Qはシ龍にとっての音楽だ。
天から降る様な。いろんな形をした色の波の様な。
意志野フミトシの全てが空気を震わせ、心を震わせる。
思えば、出会った時からずっとそうだった。
断続的な卓Qの呼吸が静かな寝息に変わる。そのリズムはシ龍を妙に安心させた。
明日の朝になれば卓Qはきっと熱に酔っ払って腕枕なんていう提案をした己に後悔するだろうが、
知ったこっちゃない。シ龍はリクエストに答えてやっただけなのだから。
暴れるフミトシもまた面白いだろうなーと鷹揚に構えたシ龍は大きく欠伸をして、言葉の無駄な意味が
切捨てられはじめた意識を手放した。
一番大切な音に包まれた眠りは、遠くて近い、掴めない、どんな色か分からない、けれどひどく奇麗で
幸せなものだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ オソマツサマデシタ!
前回反応してくれた人達、ありがとうでした。
申し訳ないですが、3と4の間に以下が入ります。
「熱なんてねぇよ。全然ないってば」
「熱がなきゃ死んでるじゃん」
シ龍と卓Qではボケの二乗になるけれど、jkはすとんとツッコミを入れてくれた。まじまじと
卓Qを見たjkはシ龍と同じ感想を抱いたらしい。
「そう言われたら、目とか潤んでるもんな」
「だろー? ほらほら、やっぱりそうだよ。明日っからの仕事は?」
「夕方に打ち合わせ」
「だったら今日は帰れよ。寝込んだら元も子もねぇだろ。帰れ」
「どうせならもっとお母さんみたいに叱って」
「やかましいわい、このマゾが」
「やめてよ、罵られると得した気分になるじゃーん」
「駄目だ、堪えてないわ、この人」
匙を投げかけたフリをして、シ龍は今まで手ブラでブラブラさせていた卓Qの腕を掴んで立ち上がった。
「jk、悪い。こいつ送ってくるわ」
「いいよ。俺も明日作業あるし、また後日」
からりと笑って場を終わらせたjkに礼を言って会計を済ませてからシ龍は店の外へ卓Qを連れ出した。
熱の自覚があまりないらしく、卓Qは飲み足りないと唇を尖らせている。
「はいはいはいはい、拗ねてないで歩けよ」
「だってさー、帰っても一人だしさー。折角日本戻って来たのに、寂しいじゃん」
「だったら泊まってやるから帰れ」
「……俺、そんな熱ある?」
「あるよ。お前に自覚がないのが不思議な位だよ」
「んー、店ん中がちょっと寒いな、程度だな」
「それってどう考えても悪寒だろ」
「え、そうなの?」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ オソマツサマデシタ!
今度こそ本当にオソマツサマデシタ!
>>238 うわー丁度読みたかったので凄く嬉しいです!
やっぱり萌えるわぁ…
また気が向いたら投下お願いします。
良いね電氣!gj
>>238 前回感想を言いそびれたので言わせてください!大好きです!
投下ありがとうございました!
>>238 ところどころ歌詞がさりげなく上手く使われてるのがまた素敵です。
同じく亀ですが
>>155さん
ありがとうございました!
堪能しました
>>238 腐れ縁萌えです、さすがパートが滝なだけはある…w
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 野球部 後輩→先輩(の球) みたいなモノ
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| モデルはあるけど別人になったのでオリジナルで
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
とある書き込みが元ネタです
エロも絡みもないですごめんなさい
マウンドの上、モーションに入った先輩の体。片脚を上げて、ぴたりと静止する。
真正面から見るのは初めてで、俺は「きれいなフォームだなぁ」と感心した。見とれていたと言ってもいい。
だから、振り下ろされた先輩の腕から放たれたボールに、意識を向けるのが遅れた。
MAXで150km/hを超える先輩の球は、本気を出していなくてもすごい威力で。ボールはミットから零れ…あまりの重さに俺は尻もちをついてしまった。
「コラァァ!おま、本気で捕手なる気あんのか!?」
先輩がマウンドから降りてくる。怒ってる。
「すん、ませ…」
「本気出しとらんぞ!出とっても140や!それも捕れん奴なんぞ、補欠にすら使えんわ!」
やめやめ!そう言って先輩は、正捕手の先輩と共にブルペンに入っていった。
放心したまま座り込んでいる俺を、同学年の篠ノ井が覗き込んできた。
俺は「見んなよ…」と呟いて、装備を外すためベンチに入った。
パァン!と、鋭いミットの音が聞こえる。先輩の本気の投球。それを零さず捕った音。
俺も、あんな音を鳴らせたら―――。
野球部に入ったのは――先輩が居たからだ。
エースピッチャー。3年生の、上杉先輩。
その速球は有名で、他校のバッターはみんな「打倒上杉」を目標に日々練習に明け暮れている、なんて噂が立つくらいだ。
と言っても、俺は部に入るまでそんなことを知りもしなかった。
野球なんて、小学生の頃の少年団でしかやったことが無い。上達しないのが面白くなくて、中学ではテニス部に入った。なんとか3年は続けたけれど、上手いとは言えなくて、最後の大会でも同級生の応援しかできなかった。
2度挫折したけれど、それでもやはりスポーツへの憧れはある。文化系の部活は逃げだと思った。
家から近いという理由で選んだT高校。運動部が盛んで、花形の野球部は甲子園の常連だった。
部活見学で色々と見て回り、最終日にグラウンドを訪れた。
正直、野球部に入るつもりは無かった。
小学生の時に諦めたものだし、強豪校の部活に今さら素人が飛び込むのも…と思ったからだ。
でも、そんな考えはすぐに掻き消された。
パァン!
鞭で叩いたような、高い音。ぼんやりと立っていた金網の向こうからだ。
「ナイスボー!」
ゴツいプロテクターを着けたキャッチャーが、野太い声でボールを返す。
ひゅっ、ぱす。
投げられたボールが収まった、薄茶のミットの持ち主。
帽子から覗く黒髪と、同じ色の太めの眉。気の強そうな眼。
それが上杉先輩だった。
今の音は、あのひとの投球?
握りを確かめるそのひとを、俺は金網にしがみつき食い入るように見つめた。
すると、視線を感じたのか、顔を上げた先輩と目が合った。
先輩は、俺が部活見学に来た1年生だと分かったんだろう。にぃっ と笑って、キャッチャーに「もっかい、ストレートいくわ」と言った。
足元をならし、ぐっと振りかぶって、踏み出す。
パァン!
さっきよりも、鋭い音がした。
こんなに近くで見ていたのに、見えなかった。目が追い付かない程の速球。
なんだか体がじわっとしてきて、涙まで出そうになった。
すごい…すごい、すごいすごい!!!
余程しっかりと見つめていたんだろう、こちらを見た先輩が ぶはっ と吹き出した。
「おっま、なんちゅー顔しとんねん!は、初めて球場来たガキか…ッ!!」
まさに破顔、という顔で笑った先輩。
そうして俺は、野球部に入ったんだ。
夜のバッティングセンター。仕事帰りのサラリーマンがちらほらと入っているだけで、ひとけは少ない。
「よし…」
持ってきた荷物を下ろし、素早く着替えにかかった。マスク、レガース、プロテクター…セーフティーカップは着けてきた。
ミットをはめ、ネットの向こうに入る。球速は、150km/hに設定した。
年代物のピッチングマシンが、ゆっくりと腕を回す。
ボールを持った次の瞬間、びゅん!とバネが弾かれた。
ドッ!
「っ、うぇっ!」
ボールは、構えたミットの下、俺の下腹部に投げ込まれた。プロテクターで殺しきれなかった衝撃にえづく。
だがへたり込んではいけない。すぐに第2球がくる。
びゅん!
「ッ!」
今度はなんとか、位置を修正したミットにボールが収まった。
しかしそれは重く、受けた左手がびりびりと痺れ、ぽろりと零れ落ちてしまった。
びゅん!
3球目。今度は捕り逃さない。
ドッ!
感覚がない左手から全身に伝わる衝撃に、しっかとミットを閉じた。
零さずに捕れた―――初めてだった。
右手にボールを持ち替え、ピッチングマシンに向けて投げ返す。思わず
「ナイスボー!」
と、声を出してしまった。隣に入っていたサラリーマンが噴き出した。
顔が真っ赤になるのが分かったけど、それでも、150km/hを捕れたのが嬉しかった。
俺はそれから、何度も何度もピッチングマシンの球を受け続けた。?
「――っし、そろそろ上がるかー!」
9時を回り、とっぷりと暗くなったグラウンド。今日の練習はこれで終わりだ。
監督の声を受け、部員が手分けしてバットやらボールやらを片付ける。片付けは1・2年生の仕事で、3年生は先に部室で着替える決まりだ。
俺は、タオルで汗を拭きながら歩く上杉先輩を見つけると、トンボを放りだして駆け寄り、正面に回って勢いよく頭を下げた。
「うわっ!ちょ、ビビらすなや!なんや自分いきなし!?」
驚いた先輩が歩みを止める。その声に、他の部員もなんだなんだと集まってきた。
「お願いします!もう一度、俺に、先輩の球受けさせて下さい!!」
地面に向かって、大声で叫んだ。
ざわざわと声がする。「またかよ」「懲りねぇな」
あの日…1週間前、俺は「捕手になります!」と宣言し、頼み込んで先輩に投げてもらった。先輩は「可愛い後輩の頼みやしな、しゃーない」と了承してくれた。
嬉しかった。絶対捕ってやる、と息巻いた――なのに、結果は散々。まともに捕れもしないなんて、と先輩は怒ってしまったというわけだ。
直角の姿勢で、先輩の声を待つ。緊張で体が震える。
…ため息が聞こえた。
「こん前ので分かったやろ、自分にはまだ早いで。つぅか、こないだまで素人同然やったんに、1週間かそこらで捕れるよぉになると思えへんわ」
「練習、してきましたっ!!」
「はぁ?自分、基礎ばっかで捕球練習なんぞしとらんかったやろ」
「自主練っす!!」
「おー、そりゃゴクローなこって」
呆れてる。周りも、やめとけよ、無理なんだよって空気。でも諦めない。諦めたくない。先輩の球を、受けたい。
「お願いします!1球、1球だけでいいんです!俺に投げて下さい!!」
必死で頼み込む。土下座しようか、と思ったその時
「…わぁーかった!」
先輩の声。
「え…」
「えーかげん鬱陶しいわ。そこまで必死になんねやったら、えぇわ、投げたろ。ただし!捕れへんかったら、すっぱり諦めーよ?これから先、二度と『投げて下さぃ〜』言うな」
「は、はいっ、はいっ!」
バッと顔を上げて、何度も頷いた。やった、投げてもらえる、先輩に…!
喜色満面の俺に、先輩は「1球だけやぞ」と念を押した。
急いで準備をする。他の部員たちは、片付けもそこそこに遠巻きにこっちを見ている。先輩は、マウンドの上で退屈そうにロジンバッグを弄んでいた。
プロテクターを着けながら、俺は、バッティングセンターでの練習を思い出していた。
部活が終わった後。無機質な機械から繰り出される速球を、毎晩必死で捕った。体に当たったり、怯んだり、捕りこぼしたりもした。たくさんした。
でも、球に慣れることはできた。
今、目の前には、憧れ続けた先輩が立っている。本物の球を投げてもらえる。
「準備、できました!お、お願いします!!」
緊張で声が上擦る。心臓がどっくどっくとはねる。でも不思議と、体は震えていなかった。
ロジンを捨て、先輩がこちらを見据える。強気な眉と眼、結ばれた口。真剣な、顔。
ボールを握って、ぐっ と振りかぶり、脚を上げて、踏み込む。
投球フォームはやっぱりきれいで、一連の動作がスローに見えた。
でも今度は、見とれて捕りこぼしたりはしない。
びゅんっ
きれいな「まっすぐ」が放たれる。俺の、構えたミットに向かって。
――パァン!
…左手がじんじんと痺れる。マシンの時よりも、痛い。
衝撃も、体全体に伝わって、あやうく後ろに倒れこむところだった。
でも…ミットに受けたボールは、しっかりと、掴んでいた。
「――と、れた…」
しん、としていたグラウンドが、次の瞬間活気づいた。
「え、捕ったの!?」「まーじで!?ぜってームリだと思ってたのに!」「上杉、手加減してねー!?」
わいわいとしゃべりまくる外野の声は、ほとんど右から左だった。
立ち上がって、ミットの中のボールを呆然と見つめる。
本当に…先輩の球が捕れた。
「捕られてもーたなぁ」
驚いて顔を上げた。
ぼーっとしていて、正面に先輩が居ることにすら気付かなかった。
「全力まではいかんでも、手加減したつもりも無かったんやで?自分、どんな練習しとったんや」
ここいらにオレより早よ投げれるヤツは居らへんやろー?
と、先輩は首を傾げて悩み始めた。
俺は、はっきりしない頭で答える。
「あの…バッティング、センター…」
「はぁ?」
「バッティングセンターで、球速、150にして、それで…」
「そんで捕っとったっちゅーんか!? ふはっ、ぉまっ、ちょぉっ…!!」
バッセンて…っ!
先輩が、膝から崩れてひぃひぃと笑いだした。
俺はまだ呆然としていて、部員が「どうしたどうした」と寄ってきても、説明できなかった。?
そうして俺は、キャッチャーとしての華麗なる球児人生を歩み始めた。
…なんて、言えたらカッコイイんだけど。残念ながら、高校でも活躍は期待できそうにない。
1球勝負の後、先輩は俺に言った。
「ま、本気やなかったにしても、捕れたんは偉いわ。でも、正捕手になるには“捕れる”だけではアカン。アタマも、肩も、他にも色々要るんや」
とりあえず自分は体やな、地肩から話にならん!と一蹴された。これは事実だから反論できない。
きっと俺には、もう先輩の球を捕る機会は無いだろう。
3年生の先輩は今年引退するし、最後の試合までに俺の肩が劇的に強くなって、ゲームメイクもできるようになんて、なるわけないから。
でも、それでいいと思う。正捕手になれなくても、これから3年間がまた補欠続きだったとしても。俺は、あの日打ち抜かれた先輩の球を、何かに打ち込むことを教えてくれた特別な球を、しっかりとこの身で受けられたんだから。
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ サルサンヒッカカリマシタ
| | | | ピッ (・∀・; )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『この前バッティングセンターでマスクかぶってキャッチャーの練習してたやつがいた
それだけでも面白いのに取ったボール返しながら「ナイスボー!」とか言ってるからもう泣いた』
より妄想。ただの青春のメモ書きになったよ…。
>>253 長編お疲れさまです!GJ!
リアルタイムでキュンキュンしながら読んでました
後輩可愛いよ後輩
アニマックスの再に燃えたぎっているよ
目立×努力、原作最終回前後くらいで目立は努力の正体知ってる感じ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「おいジジイ」
なんだボウフラ!と、振り向きざまに裏拳をくれてやろうとしたら真剣な目にぶつかった。努力は拳を解いてたがるに向き合い、今度は静かに「なんだボウフラ」と返事をする。
「お前らヒーローは、何万年も生きるんだろう」
「ああ…まぁ、地球人とは、寿命が違うからな。長い修行もせにゃならんし、星を守るには百年やそこらの寿命じゃ追い付かない」
だから何だと言いたげな瞳は、紅く燃えてたがるを引き付ける。百年、なんて、地球人からしたら随分ご長寿だというのに。
「じゃあ、オレがニュースになるくらい目立つ長生きをしても、お前とは添い遂げられないんだなァ」
「またその話か。私にはそーいうシュミは無いっつっとるのに」
「オレにもねーよっ!シュミじゃあなくて、その、なんだ!アレだ!」
がっしりと努力の肩を掴んで、たがるは叫んだ。努力のちからならばそれを振りほどくなんて簡単なはずだけれど、そうしなかったのは彼に気圧されたからだ。
曲がりなりにも地球を任されたヒーローがボウフラごときに情けないと思いながらも、努力はそのボウフラの口から飛び出す言葉を待つしか出来なかった。
「アレだよ……、男だからじゃなくて、テメーだから好きってやつだよ」
「さぶいな」
「うるせえジジイ」
言葉では軽く受け流しながらも、努力は顔面に血が集まってきているのを感じて狼狽えた。ストレートな好意は、素直に嬉しい。そしてその喜びを隠すすべを、努力は持っていなかった。少女マンガとか、とれんでぃドラマとかを読んで努力していたら、上手くかわせただろうか。
「だからさぁ、その、何万年の寿命のうちの百年くらい、オレにくれたって大したこっちゃないだろ」
どういう理論だ、と蹴っ飛ばしてやりたいのに、今日に限って下駄が重い。同じく重い唇をやっとの事で動かして、努力は「いやだ」と呟いた。一言出ると、今度は崩壊したダムみたいに溢れ出す。
「んなこと言って、どうせお前は馬鹿だから馬鹿みたいに長生きして、ようやく老衰で死んだと安心した所で例の細胞分裂でプチプチ生き返って、私が死ぬまで付きまとうんだろーが…」
言い募るうちに熱いものが頬を伝い、ぽたぽた落ちて胴着の胸を濡らす。まだ来ない、けれど宇宙の時間からしたらあっという間に来る未来が、怖い。口にした反論は、努力の中で希望の形をしていた。
「好きなヤツを泣かすなんて、オレは罪作りな男だぜ。
……お前のいう通り、スーパースターマン様は不死身だから安心しろー?」
「ば、バカヤロー、お前が死んだって私には師匠も兄さん達もいるんだぞ!
寂しいとか悲しいとかあるわけないだろうが!」
止まらない涙を、かさついた指が拭い取る。内職で荒れた指。ヒミツの特訓で傷付いた指。
大宇宙の中の第三小宇宙の中の銀河の中の太陽系の中の小さな小さな地球にくっついたミジンコみたいな、目立たがるという命が愛しくてたまらない。刹那で終わるそいつの寿命が恐ろしくてたまらない。
「ボウフラが…調子に乗るな……」
悪態が勝手に飛び出る口が鈍ったその隙に頬を包んだ手、ゆっくりと近づいてくる顔。ああ、黙っていればコイツは、結構な男前だ。
「ん」
優しく触れあう唇は、確かに今、宇宙の中心に在る。
「……誓いのキッスは、カメラの前でって決めてたんだけどなぁ」
痛みを堪えるような顔でたがるが言って、その瞬間努力は勝手に顔面ファイアーが出たと思えるくらい熱くなった。思わず手加減無しに腕を突っ張ると、たがるの貧弱な身体はぶっ飛んでって壁にぶつかる。
「お前と誓うものなんか一つもねーぞバカヤロー!」
モルタルをへこませて背中を擦るたがるに指を突き付けて叫び、努力は下駄の音を高らかに響かせて走り去る。
その後ろ姿を見送りながら、たがるはそっと自らの唇に指を触れた。手入れなんかした事ないのだろう、乾いてひび割れた唇の感触が残っていた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
1レス目、分母ミスってスンマセンした。
分割のコツがわからん…
ラッキーマン最盛期にまだ腐ってなかった自分が悔やまれる
>>255 ここで幸運男を読めるとは!
この二人の掛け合いがムチャクチャ好きだったのでとても嬉しいです
いい物読ませてくれて本当にありがとうございました!
>>258 GJ!GJ!
まさかここで目立×努力が読めるとは…ありがとうでした!!!
>>192 キャンドルの件に思わずニヤリとしたw
積極的な水色カワイスで、ぐるぐる悩む紫がちょっとカコヨス
>>255 今日偶然幸運男見て、何かがたぎってたところに
なんというタイミングのいい投下かー!!
ありがてえありがてえ!!
263 :
傷痕 1-1:2009/12/19(土) 22:25:34 ID:tJioMX1F0
ドラマ義羅義羅の冬麻×悠樹
今は無き本スレの169姐さんと義羅義羅していた姐さん方に一方的に捧げます
連投規制にかかりそうなので分割して投下
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
俺が悠樹と暮らすようになって二ヶ月。
凛区始まって以来の危機も去り、皆で盛大に航平さんを送り出し、店もすっかり落ち着いた。
俺達はまずまず平和に暮らしている。
──予想外の形ではあるものの。
サリナさんに謝罪に行った次の休みの日、俺は悠樹の部屋に引っ越した。
俺よりあいつの部屋の方が広いし綺麗だからと言われたけど、確かに俺の1DKとこの部屋では雲泥の差と言える。
親戚から借りているという部屋は3LDKと広い。ただ、綺麗と言うのも違うだろ、と心の中で突っ込んだ。部屋は
がらんとしていた。すっきりしていると言えば聞こえは良いが、物が極端に少なくて殺風景だ。
玄関を入ってすぐ左の洋室には、シルバーパイプのハンガーラックが三つ無造作に並び、スーツやシャツがクリー
ニングの袋に入ったまま吊るされ、壁際に置かれたチェストの上にはネクタイや小物が乱雑に置かれている。どう
やら衣裳部屋らしい。
その隣に、同じくらいの洋室が丸々一つ、何も置いてない状態で俺を待っていた。
とりあえず俺の荷物はすんなりとそこに納まった。俺の為に空けたんじゃない事は一目で分かった。他の部屋に物が
移動した形跡が全く無いからだ。
玄関から真っ直ぐ伸びた廊下の先のリビングには大型テレビと二人がけの革張りの黒いソファ、小さいサイドテーブル。
リビングに続く和室には焦げ茶色の絨毯を敷き詰め、そこにクイーンサイズのベッドと背の高いスタンドライト、小さな
チェストがあるだけだ。
「お前、ソファでメシ食ってんの?」
「んー、家であんま食べない」
「今まで彼女とかどうしてたんだよ?確かいただろ?」
「呼んだ事無い。いつも外か相手の家」
キッチンを見ても鍋一つ無い。唯一、電気式のケトルだけが存在を主張していた。
ありえねー。
俺の部屋は確かに散らかってたけど、こんだけ物が無かったらそりゃ綺麗だよな。
264 :
傷痕 1-2:2009/12/19(土) 22:26:28 ID:tJioMX1F0
「おはよ。いい匂い……冬麻ってマメだよね」
感心したような呆れたような寝ぼけ声が投げかけられる。
お前がしねーからだろ。
こっちだってヤロー相手に朝から、つーか俺らが起きるのは昼過ぎだけど、トーストに目玉焼き、カリカリベーコン、
サラダにスープなんて新婚チックなメシ作るとは思ってもみなかった。マジで。
でも俺が作らないと、悠樹はほとんど何も食わない。昼過ぎに起きて水を飲み、店に行ってからオープンまでの間に
ゼリー飲料を流し込むのが習慣で、固形物を口にすれば上出来といった具合だ。店が終わってみんなでメシに行く
時くらいしか、物を食わない。
「なんで食わないんだよ?」
「だってメンドーだもん」
「メンドーじゃねえよ。体に悪いだろ」
「別にいいじゃん、生きてるし」
こんな調子だ。
かと言って食う事自体が嫌いな訳でもない。旨い店にも詳しいし、いざ食事に行くと、細いくせによく食う。でも一人だと
てんで駄目。料理も出来ない。買うのも面倒だと言う。隣のビルの一階がコンビニという恵まれた立地条件なのに、飲
み物を買うくらいしか使っていないらしい。俺が引っ越してきた時、冷蔵庫にはアルコールと水とゼリー飲料しかなかった。
こんな奴放っておけるか?
ほとんど飲まず食わずで客相手に酒飲んで、今までよく倒れなかったものだと感心さえした。必然的に俺が飯を作る事
になる。
ま、飯作るのは得意だし好きだからいいんだけどな。
意外と手のかかる悠樹だけど、新しく買った二人用のダイニングテーブルを挟んで向かい合っていると、これでいいかと
思う。明るい陽射しの中で子供のように笑う顔も、眩しそうに細めた目も、寝癖であちこちにはねている髪も、何もかも
可愛く見えるのは惚れた欲目だとしても、こんなにくつろいだ顔を見せるなんて反則だ。なんでもしてやりたくなる。
特に──ひどくうなされていた夜が明けた後には。
265 :
傷痕 1-3:2009/12/19(土) 22:27:12 ID:tJioMX1F0
店から帰宅すると、悠樹は毎晩誘ってくる。体力の限界までヤッたらそのまま電池が切れたようにすぐに眠り
に落ちて行く。だが、安らかな眠りは長くは続かない。じきに寝返りを始めたかと思うと、苦しげな顔に脂汗
を浮かべうなされる。眉間に刻まれた皺が悪夢の深さを物語っている。
「…う……ん…い、やだ……あぁっ!」
最後はいつも激しく何かに抗ってもがき、悲鳴のような声と共に飛び起きる。はあはあと肩で荒い息をつき、
そっと俺の様子を伺っているのが気配で分かる。最初の日は驚いて、どんな夢なのか問い詰めた。だが悠樹は
忘れたと言い張り、決して語らなかった。
予想はついた。容易く。──潤の夢なのだろう。
問い詰めた時の悠樹の昏い目を見た俺は、次の日から気付かない振りをすることにした。悠樹は荒い息のまま
ベッドを降り、汗でべったりと貼りついたパジャマを苛立たしげに脱ぎながら、部屋を出て行く。向う先はバ
スルームだ。静かに様子を見に行くと、出しっ放しのシャワーの下でずっと体をこすっているのがすりガラス
の扉越しに分かった。
どんな思いで、何を落とそうとしているのか。
決して短いとは言えない時間が過ぎた後、そっとベッドに戻ってくる。俺を起こさないように端に入り、背中
を向けて縮こまる。俺はわざと寝返りを打ち悠樹の方に体を寄せ、無意識を装って抱き寄せる。最初の日は、
その体の冷たさに驚いた。水を浴びていたのだ。悪夢を追い払えない自分の無力を噛みしめながら、寒さに震
える体をしっかりと抱え込む。冷え切った体にゆっくりと熱が戻り、緩やかに二度目の眠りに入るまで絶対に
離さない。悠樹に訪れる全ての眠りが安らかなものになるようにと切ない程の願いを込めて抱きしめる。
毎夜繰り返す俺達の儀式だ。
朝食の後、いつものようにソファに座ってコーヒーを飲みながら悠樹に声をかけた。
「休みだからどっか行くか?」
問いかける言葉を無視して、悠樹が唇を重ねてくる。
「おい、コーヒーこぼれたら火傷するぞ」
と言うと、俺のカップを取り上げてサイドテーブルに置き、また続きを始める。預けてくる体を軽く支え、舌を
絡めると嬉しそうに小さく吐息を漏らすのが可愛い。薄く目を開けて至近距離の顔を見ると、目の下の翳が今日
は一段と濃い。
266 :
傷痕 1-4:2009/12/19(土) 22:28:04 ID:tJioMX1F0
昨日のうなされ方がいつもよりもひどかったせいだろうか。
俺と暮らすようになって以前より飯を食うようになったせいか、顔色は少し良くなった。太らない体質らしく体型
は全く変わってないが、ちょっとは健康そうになったと思う。
でも──悪夢が訪れない夜はまだ一度も無い。
あの事があってから俺がここに来るまで、一人であんな夜を過ごしてきたのか。
あんな目に遭ったのがどうしてお前だったんだろう。
俺達がいがみあっていたのが原因ならば、どうして同じだけの痛みを与えてくれなかったのか。
お前だけが傷を受け、苦しんでいるのが堪らなく辛い。
傷を抱えてもがく悠樹を一番傍で見つめているのが俺に科せられた罰なのかもしれない。
ぼんやりと思いを巡らせているといきなり唇を噛まれた。
「つっ、何すんだよ」
「なんか他の事考えてただろ。ヘタクソ」
「ヘタクソって何だよ!」
「ヘタクソはヘタクソだろっ!言われるのが嫌なら上の空のキスなんかすんな。俺といる時は俺の事だけ考えろ」
「お前の事考えてたんだよっ」
「どんな事だよ?言ってみろよ」
「それは……その、起きてすぐになんでもよく食うよなーとか、痩せの大食いだよなーとか」
「悪かったなっ」
しまった。
完全に拗ねて背中を向けてしまった。でもこっちもこれで引き下がるわけにはいかない。上の空だという悠樹の
指摘が図星だったのをごまかした後ろめたさから、却って後に引けない気持ちになる。
「おい、悠樹」
「……」
「取り消せよ、ヘタクソって言葉」
「なんで?」
向こうを向いたままつんけんと答える背中に言う。
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
268 :
傷痕 2-1:2009/12/19(土) 23:33:18 ID:tJioMX1F0
空いてる隙に、
>>263-266の続きです
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )トチュウカラ オオクリシマース!
「なんでって……それ言われたらショックだからに決まってんだろ」
「じゃあ下手じゃないって証拠見せてみろよ。今すぐ」
ぐいっと顎をそびやかし、横目で俺を挑発する。
「見せてやるよ」
後頭部を抑えて噛み付くように荒々しく唇を重ね、舌で口中を探り柔らかい舌を捕らえて吸い上げる。舌で歯の
内側をなぞると悠樹の体からくたりと力が抜ける。息もろくにつかせない程激しく、長い時間をかけてキスをし
た。甘く柔らかい感触の唇を名残惜しく離すと、悠樹の目はすっかり潤んでいる。完全にスイッチが入った顔だ。
「誰が下手だって?」
「…冬麻」
畜生。コイツ、やっぱ可愛くない。
「このヤロー、思い知らせてやる」
「出来るもんならやってみろよ」
赤く染まった目元で上目遣いに睨んでくる顔が色っぽくてぞくぞくする。
その目つきがどんなにそそるか知らないだろ、お前。
ソファに押し倒し、もう一度キスしながら上半身に手を這わせゆっくりと撫でる。それだけでうねるように反応
し始めたのを確認して、親指の腹で胸の中心を撫でると途端に甘い声が漏れ出す。小さく固く尖ってきたものを
きゅっと強く摘まむと背中が弓なりにしなる。もう片方の手を背中に回し、背骨に沿って上へ滑らせると
「んっ……あ、あぁっ…」
荒い息と共に声が止まらなくなる。両手で俺のシャツを握りしめ、固く目を閉じてる。パジャマを捲り上げて
胸の尖った物をねっとりと舐めた。
「ぁあんっ」
普段は可愛くない事ばかり言うくせに、唇を押し当てると切ない良い声で啼く。悠樹の体は俺が今までに寝た
どの女よりも敏感で貪欲だ。
もっと感じろよ。俺を。
俺がどんなにお前を想っているかを。
何もかも忘れるくらい感じさせて、悠樹を俺で上書きしてしまいたい。
苦い記憶もつらい経験も忘れてしまえる程に。
269 :
傷痕 2-2:2009/12/19(土) 23:34:15 ID:tJioMX1F0
胸を弄びながら片手で全部脱がせ、うっすらと筋肉が浮いている平たい腹から更に下に手を伸ばすと、そこは
もう勃ち上がっていた。手の中に収めるとぐっと熱と硬さが増す。先端からあふれている透明な蜜をすくい、
くびれに塗りつけると悠樹の腰が揺れだす。強張ったものを手で柔らかくいじりながら、膝の裏から腿にかけ
て唇を滑らせ時折強く吸いつくと、小刻みに震えて快感を伝えてくる。赤い痕を残すと、その度に己の昂ぶり
を俺の手にすりつ
けてもっととねだった。徐々に根元に近づくにつれ期待で体を強張らせるのを、わざと焦らして下腹部に移る。
いつまでも続くゆるい刺激に我慢できず、焦れた悠樹が訴えてきた。
「とうま、早く……」
「ん?何を」
さっきのヘタクソ呼ばわりのお返しとばかりにしらばっくれて訊き返しながら、指でくりくりと先端を撫で回す。
「んんっ…はぁ……焦らすの、仕返しかよ……早く、舐めろよ…」
涙目になっているのを見て満足した俺が、根元をしごきながら先端の口を舌で抉ると「あぁ……」と吐息交じり
の声を漏らす。くびれに丹念に舌を這わせると腰の揺れが大きくなる。
「…ん……とう、ま……あっ」
下から上まで隈なく舌を走らせ、先端に唇をかぶせる。じゅぶりと音を立ててゆっくり上下させると、悠樹の体
が跳ね上がる。そう簡単にイかせてはやらない。べったりと舌を押し当てて軽く上下させる。刺激しすぎないよ
う注意して、じわじわと高めていく。溢れ出た唾液を指にたっぷりと絡ませ、後ろに塗りつけた。もうすっかり
慣れたそこは、浅く埋め込んだ指を熱く迎え入れる。ほぐすように動かすと奥へ誘い込むようにうねうねと応え、
絡み付いてくる。指の出し入れと唇のストロークを同時にすると、ゆっくりしたペースにも係わらず感じやすい
悠樹はあっけなく追い詰められていく。
「あっ、あん……んっ…とうま……やだぁっ」
悲鳴のような訴えで咥えていたものを離すと、
「もう、いいだろ……はやく、入れ、ろよ…」
荒い息のまま泣きそうな顔で言う。上から目線の可愛くない台詞を、すがるような目で言う悠樹が可愛くて愛しく
てしょうがない。
「なんで?気持ちいいんだろ?まだいいじゃん」
余裕のある口調で言うこっちも、もう硬く張り詰めたモノが疼いて仕方が無いのを隠すので精一杯だ。
270 :
傷痕 2-3:2009/12/19(土) 23:34:52 ID:tJioMX1F0
「一人じゃヤなんだよっ……イくのか一緒がいいって気付けよ、馬鹿」
右の目尻にぽつんと涙が一粒零れる。子供みたいな口調に、一瞬で我慢がきかなくなった。
「了解」
涙を吸い取って額に口付け、一度体を離して服を脱ぎベッドサイドからローションを取ってきた。手の平にたっぷ
りと出したローションを自分のモノに塗りつけ、ソファに座った俺の上に悠樹を跨らせる。ふにゃふにゃの体を支
えてやると、ゆっくりと腰を落としてくる。
「んっ……ぁ…」
目を閉じたまま俺の肩につかまり、少し苦しげに眉根を寄せる。くちゅっと音を立てて先端が飲み込まれると、
一気に突き上げたくなる衝動に襲われ下腹に力を入れてこらえる。全てが入りきると、悠樹がゆっくりと目を開け
て俺の目を見た。
「…冬麻、なんか苦しそうな顔」
「お前もだよ。ここにしわが寄ってる」
眉間を軽く突くと何故か嬉しそうに笑った。
「気持ちいいことしてるのに二人とも苦しそうなんだ」
「気持ちいいか?」
「うん…冬麻が俺の中にいる」
いつもの減らず口が帰ってくると思っていたのに、思いがけない素直な返事に愛しさがこみ上げる。頭を引き寄
せて唇を重ねると、舌の動きに合わせて悠樹の腰が動き出した。中の熱い肉が包み込み、絡みつき、締め付ける。
最高だ。
腰をしっかりと掴み下から突き上げると、更に蠢きが激しくなる。二人とも次第に息が荒くなり、キスをしてい
るのが苦しくなってきた。喉元から胸に唇を滑らせ、滑らかな肌にきつく吸い付く。赤く咲いた華に気付き、
悠樹が口を尖らせる。
「…ん……そんな、とこ、付けたら…店で着替え、られ、ない…だろ」
「いいだろ…お前の体、他の奴に見せてたまるか…」
「ヤキモチ、かよ……俺に…興味、ある、奴なんか……いないよ…ぁ…」
「るせー…それでも嫌なんだよ」
背中に手を回ししっかりと支えて突き上げる角度を変えると、悠樹の体が止まらなくなった。
271 :
傷痕 2-4:2009/12/19(土) 23:35:25 ID:tJioMX1F0
「あぅっ…んっ……そこ、いい……」
俺の胸に手をついて上半身を軽くそらし、夢中で快感を貪っている。黒い髪が額に散らばって乱れているのを
かき上げてやった。苦痛に耐えるような顔がなまめかしい。南側の大きな窓からの日差しを浴びて、上気した
肌が汗ばんで艶を帯びてしっとりと光っている。
「悠樹……綺麗だな」
ひとりでに言葉がこぼれ出た。
「え……?」
驚いた顔で悠樹が目を開けたのと同時に、悠樹の中がきゅうっと俺を締め付けた。
くっ、それヤバイ。
タガが外れたように一気に激しく突き上げた。音を響かせながら腰を叩きつける。腹に当たる悠樹のモノを握り、
同時に動かす。
「とう、ま……とうまぁっ」
俺の名前を呼びながら手の中で悠樹がイくのに合わせて悠樹の中に放ち、びくんびくんと震える体を抱きしめた。
荒い息が落ち着いてから二人でバスルームに行く。普段から朝食兼昼食の後に風呂に入るから、起きるとすぐに
沸かしてある。夜は酒が入っているからシャワーだけだ。頭からシャワーを浴びている悠樹を湯船の中から鑑賞
する。細いけれど必要な筋肉がついて引き締まった体に、水流がまとわりついて落ちていく。
やっぱり綺麗だ。
湯船に入ったら抱きしめてもう一度キスしようと待ち構えていたら、キュッとシャワーを止めてそのまま出て行
った。
「おい、つからねーのか?」
「ん、いい」
妙に低いトーンで、振り返りもせずに答える。
寝不足でヤッて疲れたのか?
いや、そんな感じでもない。
272 :
傷痕 2-5:2009/12/19(土) 23:35:54 ID:tJioMX1F0
気になって急いで上がる。タオルで拭いた俺の髪は短かくてドライヤーの必要も無い。服を着てリビングに行く
と、悠樹の姿が見えない。と思ったらベランダの前の床に座っていた。折り曲げた脚を両腕で抱え込み、膝の上
に顎を載せ、ぼんやりとした様子で空を見ている。髪は拭いた様子がなくTシャツの首周りがぐっしょりと濡れ
ていた。
しょーがねーなぁ。
洗面所に戻りタオルを手に戻る。後ろから頭に被せ、がしがしと拭く。
「風邪ひくから髪くらい拭けよ。お前去年の冬もたまに熱出して店休んでただろ。これから寒くなるんだから」
黙って為すがままの悠樹に説教をしても、聞いているのか聞いていないのか分からない。
俺、おかんみてー。
ふいにそんなことを思いくつくつと笑いがこみ上げてきた時、悠樹が何か言った。
「ん?聞こえねー」
「……じゃない」
「ちっせーよ、声が。もう一回」
「俺は、綺麗じゃ、ない」
短く切った言葉を叩きつけるように悠樹が言った。その言葉に驚いてタオルを外しても俯いたままだ。濡れてい
るせいでいつもよりくるくると強く巻いている髪が目にかぶさって、どんな顔をしているのかよく見えない。
「悠樹」
呼びかけても頑なに顔を上げない。隣に腰を下ろし髪をかき上げようと手を伸ばすと、悠樹の体がびくっと震えた。
「わりー。見せたくないなら見ねーよ」
小さな声で言って、代わりにそっと抱きしめた。
「俺、汚いんだ」
俺の胸に顔を埋め、体を固く強張らせたまま絞り出すように言う。その声の悲痛な響きに胸が痛い。
お前ずっとそんな風に思っていたのか。
誰よりも誇り高いお前が。
口に出すのがどんなに辛いことだろう。
それでも口にせずにはいられなかったお前を、誰が汚いと言えるのか。
273 :
傷痕 2-6:2009/12/19(土) 23:36:45 ID:tJioMX1F0
「バーカ。お前は綺麗だ。俺が言うんだから間違いはねーんだよ」
無理に軽く言った俺の言葉に、ふるふると頭が揺れる。
「汚い。こんな汚い体を冬麻に抱かせて……ごめん。俺、最低だ」
繰り返し自問する問いがまた心に湧いてくる。
どうしてお前だったんだろう。
ことさら自分を追い詰めるような、自分に厳しいお前に何故こんな事が降りかかってきたんだろう。
薬を盛られて朦朧としているところをいいように弄ばれた事よりも、望まない行為で感じてしまった自分の体が
許せない。航平さんにそう語るのを聞いた。
どちらにもお前には何の責任も無いのに。
──あの時。
もしも悠樹が先に指名されて、エミが俺に指名を変えたとしても何の騒ぎにもならなかっただろう。これは断言
できる。俺みたいに後先考えず感情をぶちまける事は、悠樹は絶対にしない。心の中で歯軋りすることはあって
も、指名変えの事実を表面上は涼しげに笑って受け止め、皆がギスギスした雰囲気になる事は無かっただろう。
俺がカッとなりやすい性格で、悠樹にライバル心を燃やしていた事をあっさりと見抜かれたからこそ、あの罠の
獲物に悠樹が選ばれた。
だから誰かのせいだとしたら俺のせいだ。でもこれを悠樹に言うわけにはいかない。俺が負い目を感じていると
知れば益々自分を責めるだろう。「俺のせいだ」と謝ったところで楽になるのは俺だけだ。
お前の荷物を増やしたいんじゃない。簡単に「忘れてしまえ」なんて言うつもりも無い。そんな事出来っこない
のは分かってる。
だからせめて。
お前の苦しみを一緒に抱えたいんだ。
274 :
傷痕 2-7:2009/12/19(土) 23:38:31 ID:tJioMX1F0
「悠樹」
両腕に力を込めて強く抱きしめる。
「俺はお前を抱かされてるんじゃねーぞ。俺は俺の意志でここにいて、お前が愛おしいから抱くんだ。……正直
に言えばな、お前が汚れていようがいまいが俺にはどうでもいい。どんなお前でも、お前がいればいいんだ。
お前が毎日寝ぼけながら起きてきて、俺の作った飯食って、お前が俺の服選んで、二人で出勤して、店で皆で
馬鹿な事言いながら働いて、同じ部屋に帰ってきて、同じベッドで寝る。俺はすっげー贅沢な毎日だと思って
るよ。お前がお前を汚いと思ってても、俺はお前が綺麗だと思ってるし綺麗だって知ってる」
「でも俺はっ」
両腕で俺の胸を押しのけ、体を引き離して叫ぶように悠樹が言う。
「俺は冬麻を利用してるんだ……。一人でいると辛い事や嫌な事ばかり考えてしまって、でも冬麻といると忘
れられて。だから一緒に住もうって言ってくれた時はすごく嬉しかった。でもっ、冬麻が優しいのに付け込ん
で俺が楽になる為に利用してるって認めたくなくて、見ないようにしてた。ずっと。…………こんな俺が綺麗
なんて言ってもらう資格無いだろ?」
悠樹の瞳から涙が溢れた。
はらはらはらはらと。静かに。
その姿がやっぱり綺麗だと言ってもお前は怒るだろうか。
「悠樹、俺といると楽なのか?」
恐々と頷く。
「そっか、なら良かった。お前、言葉の使い方間違ってる。利用してるんじゃなくて、お前は俺に甘えてるだけだ」
「あまえ、てる…」
思いがけないように悠樹が目を瞠った。
「そう。一緒に暮らしてる恋人に甘えるのに罪悪感持ってんじゃねーよ。俺に甘えなくて誰に甘えるんだよ。
お前を甘やかすのは俺の特権なんだぞ。堂々と甘えろ」
「で、でも……」
「あー、もういちいち面倒くせーな、お前は」
離れてしまった体を荒っぽく引き寄せ、まだ泣いている悠樹の顔を俺のTシャツに埋めさせた。
「一緒に居ると嫌な事が忘れられる、なんてすごい殺し文句言っておいて自覚がねーってのもお前らしいか
もな。いいか、悠樹。俺はお前に惚れてるんだ。お前が出て行けって言うまで傍にいる。俺の大事な悠樹の
悪口は、いくら本人でも許さない。覚えとけよ」
静かな涙が段々はげしくなり、腕の中でしゃくりあげる背中をそっと撫でた。
悠樹をもう一度しっかりと抱き寄せた。
275 :
傷痕 2-8:2009/12/19(土) 23:39:34 ID:tJioMX1F0
今なら言ってもいいか。
ずっと一人で計画していた事を、緊張しながら口に出す。
「俺、もう少ししたら調理師免許取りに行く。お前はマネージャーに習ってもっと酒に詳しくなれよ。金が
貯まったら店を開く。飯がうまいバーがいいな。お前が好きなダーツも置こうぜ。店が終わったらあいつら
も来れるように、遅くまで開けておかないとな」
悠樹が顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃだ。
こんな顔、他の誰にも見せてやるもんか。
こいつはずっと俺の傍にいるんだ。
胸の中で静かに、だが固く決心する。
「ずっと考えてたんだ。俺はお前と一緒に生きていく。いいな?」
「冬麻……とう、ま…」
しゃくりあげながら何度もうなづく悠樹をもう一度しっかりと抱き寄せた。
その夜、やはり悠樹は熱を出した。
おじやが食べたい。
スポーツドリンク飲みたい。
苺もいる。
子供のようなリクエストを次々投げてくるくせに、俺が買い物に行こうとすると却下する。
結局うとうとした隙を狙ってコンビニに走った。
目が覚めて、俺が買い物に出たと知ると少し不機嫌になったけど、おとなしくおじやを食べ横になった。
解熱剤は嫌いだと言うので使わなかった。
額に保冷シートを貼りつけ、俺にしっかりと抱きついたままの眠りは驚くほど安らかだった。一度もうなさ
れる事も無く、時折目を覚ましては俺の存在を確認するかのようにぎゅっとしがみついてはまた眠りに落ちた。
熱が更なる悪夢を呼び込むのではないかという俺の心配をよそに、呆気無い程静かに朝が来た。
この日を境に、悠樹が悪夢を見る日がぱったりと無くなった。ごく希に、思い出したように見ることはあって
も、冷たいシャワーを浴びることは無い。
マネージャーに習ったカクテルを自宅で練習し、オリジナルレシピを考えては店で仲間に味見させている。なか
なか好評らしい。
276 :
傷痕 2-9:2009/12/19(土) 23:40:15 ID:tJioMX1F0
悠樹。
俺の悠樹。
俺のせいで負ったお前の傷は少しは癒えたのか。
俺たちの絆の証として、その傷痕に口付けて生きよう。
何があってもお前と一緒だ。
神でも仏でもなく、俺はお前に誓う。
永遠(とわ)に共に、と。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
DVD-BOX見るの楽しいけどスペサルを激しくキボン
277 :
傷痕 訂正:2009/12/19(土) 23:51:16 ID:tJioMX1F0
訂正です
>>270傷痕 2-3
一行目
「一人じゃヤなんだよっ……イくのか一緒がいいって気付けよ、馬鹿」
↓
「一人じゃヤなんだよっ……イくのは一緒がいいって気付けよ、馬鹿」
すみませんでしたorz
>>277 GJGJ!
原作知らないけどドキドキさせてもらいました。
原作を探す旅にでます。
>>277 ありがとう!またここで読めるなんて!!
当時萌えた身なのでタイトルだけであのエピねwとわかりました。
素敵な萌えをありがとう!
>>276 あああああ、萌えた!
萌えたよ姐さん
あの続きが読めるなんて幸せだ
>>278 原作見た後に棚の保管庫で「義羅義羅」と検索すると幸せになれるかもしれない
>>137 亀ですがGJでした!オリキャラって一瞬ドキッとしたけど過去の話かw禿げ萌えました
綺麗に芝居の台詞も織り込まれていて自分の中でやっぱり公式になった、ありがとうございます
しかし練られすぎていて萌えるよりも先に燃えてしまうのは如何ともし難いんだぜ
あと演劇スレで髪飾りネタ書いたの自分なのですがそれも織り交ぜ上手くて萌え尽きた!
教主が後ろ向く度にオペラグラス構えてたくらいなのでw嬉しかったです。d!
あれ、一番長い飾りの先端に付いてるトップがどうもハート細工っぽかったんだよなあww
長文スマソ
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < 半ナマ・腐妄痴態で山咲スレ先週の流れに禿げてネタを拝借し鮫域
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < 娘結婚式周辺云々に関しては本スレからの原作ネタ聞きかじり
i | |/ ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、< 紅湖ちゃん帰った後の無理矢理鬼畜エロで若干流血アリ故ご注意
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ"
ちょwジャンル違うのに直前の方とタイトルかぶった件w
何ていうか、その、すいませんorz
鈍い機械音を立ててエレベーターが開いた。
耳障りな音を立ててアパートメントのブザーが鳴った。
部屋の主―――域忠志はうんざりした顔をしてその重い扉を再び開けた。
「紅湖さん?…さっきの事なら申し訳ないが今日のところは大人しく帰って」
「今晩は、域さん」
其処に立っていたのは先程まで一緒に居た女ではなく、何処と無く肉食獣を思わせる長身の男だった。
「…!」
反射的に思わず扉を閉めようとするその瞬間、扉の隙間へと長い脚を滑り込ませて男は口角を上げる。
「つれないなあ、入れて下さいよ」
「…鮫縞さん。誠に申し訳ないが、ちょうど就寝しようとしていたところですので」
それを聞いて男―――鮫縞達蔵は開いた扉に手を掛けて域を見下ろすように狡猾そうな笑みを浮かべた。
「可哀想に。紅湖ちゃん泣いてましたよ」
「!会ったんですか、…彼女に」
「ええ、今そこで」
正確には、鮫縞はアパートから出てきて自棄のような足取りで歩いて行く彼女を見ただけなのだが。
そんなことは露ほども知らぬ胸の内にほんの僅かばかりの罪悪感を覚える。
「しかし域さんも隅に置けませんね」
「何の話です」
「保湾さんの第二夫人に手を出すなんて」
「あなたは何か誤解をしていらっしゃるようだ。私と彼女はそんな関係ではありません」
「へえ」
にやにやとしながら適当な返事を返す鮫縞に最早不快な表情を隠すこともせず、域は告げた。
「とにかく帰って下さい。大体どうしてこのアパートが」
「お邪魔しますよ」
「…っ」
鮫縞の動きが一瞬速く、室内への侵入を許してしまう。
「鮫縞さん!」
咎める声を飛ばしても相手は既に何処吹く風。ずかずかと歩を進め、応接間の方へ向かうその背を慌てて追う。
「いやあ、いいとこ住んでるんですねえ。流石、天下の禁忌商事の海外支社を丸ごと任されるだけはある」
そう嘯きながら鮫縞は先程まで女の居た柔らかい長椅子にどっかと腰を下ろした。
「いい加減にして下さい。何なんです」
域が追いついて抗議の声を上げれば、鮫縞は芝居がかった表情と声色で大袈裟に肩を竦める。
「本当につれない人だ。そうやって紅湖ちゃんも追い返したんですか」
「あなたには関係の無いことです」
「関係無いは酷いな…私とあなたはもう親戚なんですよ?
アメリカ出張のついでにこうしてちょっとばかり顔を出したって何にもおかしかないでしょう」
「それとこれとは…話が別でしょう。
そもそも奈央子たちの式にも顔を出さなかったくせに、都合のいい時だけ親戚面をするのはやめて頂きたい」
「手厳しいなァ」
くくっと笑った鮫縞は次の瞬間、その顔から笑みを消した。
「ねえ域さん、そんなことより最近お仕事の方はどうなんですか」
こんな夜中に押しかけてきて何かと思えばそれが狙いか。域は心の中で小さく舌打ちをする。
「あなたに言う義務はありません」
「そんなこと言わずに、順調かそうでないかだけでも教えて下さいよ」
鮫縞の長い腕が域の方へと伸びてきた。
それを振り払うようにして域は先程と同じ言葉を言い放つ。
「だからそんな義務はありませ、んっ、と…ッ!」
あっという言葉を発する間も無く、腕をしっかりと掴まれた華奢な体躯が長椅子へと引き倒される。
不覚だった。
状況を把握した時には既に両肩はがっちりと固定され、鮫縞の顔を見上げる体勢にさせられていた。
一呼吸遅れて、馴染んだ柔らかさをその背に感じる。
「域さんが何時までもそんな態度なら、体に訊いちゃおうかな?」
無表情のまま鮫縞が呟いた。
するりと長い指がガウンの合わせ目に潜り込む素振りを見せる。その指先が上等な布越しに胸へふ、と触れた。
その感触に思わず鋭く息を飲んだ。
「…っ、」
「………なーんて、ね。ちょっと月並みすぎましたね」
そう言って即座に指を引き、鮫縞がにかっと笑った。
その言動に、強張っていた全身の筋肉が一気に弛緩する。
張り詰めた吸気は深い溜息となって吐き出された。
「……笑えない冗談はやめて下さい」
「ははは、すいません」
「もういいですから、早く退いてくれませんか」
「でもここで退いたら域さんすぐさま私を追い出すでしょう」
「当たり前です」
「じゃあ退くわけにはいきませんね」
「……」
何故だか。
そのしつこい応酬に酷く心がざわめき、苛ついて。
「…いい加減にしてくれ」
「え?」
「いい加減にしてくれ!」
常ならばこんな些細な戯事如きで此処まで声を荒げたりはしなかっただろう。
今夜は確実に何かがおかしくなっていた。
「今夜はもう誰とも話したくないんだ。特に鮫縞さん、あなたのような人とは」
ただ不幸は、域自身がそのことに気づくのが少々遅れたことだった。
「…私のような、ってどういう意味ですか?」
しまったと思った時にはもう遅かった。
鮫縞の目の光は何時も以上にどす黒いそれへと変化していた。
全てを見透かされるようだった。
この鮫縞達蔵という、商社に魂を売った見本のような男を心の何処かで蔑み見下していただろうことまでも。
尤もそれは端から透けて見えていたのかもしれないが。
どちらにせよ、眼前の男の逆鱗に触れるには今の一言が酷く有効だったのに違いない。
「域さん?」
「………」
言い返す言葉は咄嗟に見つかりはしなかった。
「…ああそういえば、」
無気味な静寂の訪れた室内に鮫縞の声が低く響く。
「最近どうなんですか?お仕事」
まるでたった今思いついたかのように、先刻の問いをただ淡々と繰り返す声。
恐らく返事は返ってこないと承知した上で。
「…お答えする義務は無いと言った筈ですが」
域もそう繰り返す他には無かった。
「強情な人だ」
獲物を捕らえた獣を思わせる形相で鮫縞が口角を吊り上げた。
その目は笑んではいなかった。
「――――…それじゃあ、体に訊きましょう?」
鮫縞の腕が今度こそしっかりとした意思を持って胸元へ伸びてきた。
慌ててその肩を掴み押し返す。
けれど其処に容赦なく存在する体格の差はどうすることも出来ず。
鮫縞の体は抵抗に怯むこと無く、寧ろ反動を利用して域の体に圧し掛かってくる。
「…ッ、何を、する気ですか」
「何って」
そのまま、上質の触感を楽しむように軽く撫で擦りその下方へと。
「わからないわけじゃないでしょう。純な生娘じゃあるまいし」
しゅるりと音を立て鮫縞は域の上着を留めていた絹帯を解き抜く。
布が滑り、肌蹴た。
「…!」
同時に鮫縞の肩を掴んでいた域の両手が容易く外される。
両の掌で素早く細い手首を掴んだ鮫縞は、妙に手馴れた仕草で一息に域の体を反転させ再び抑え込んだ。
そうしておいて、口に咥えたその帯で後ろ手に纏め固く縛り上げる。
「!…何をするんですか、っ外して下さい…!」
「域さんも男だし全力で抵抗されると流石にキツいですからね。まあ、念のため」
無防備な背中に覆い被さられ、耳元で囁かれる。背筋がぞわりと粟立った。
手首をよじっても結び目は解ける気配すら見せず、それどころか柔らかい絹の感触はますます肌に食い込んでくる。
「ふざけるな…っ、外せ!こんなことをして恥ずかしくないのかっ」
「何とでも。もうあなたはせいぜいそうやって私を罵ることくらいしか出来ないでしょうから」
存分にどうぞ、構いませんよ。そう囁く鮫縞の声色は昏い愉悦に満ちていた。
最早顔を見るまでも無い。寧ろその表情が窺えぬからこそ手に取るように感じられる。
「……―――」
域が今その言葉通りに形振り構わず罵れば、恐らくこの男は更に悦に入り声を上げて笑うのだろう。
そう感じた。だから口をつぐむしか無かった。
それがせめてもの抗いだった。
「さて」
鮫縞が呟いて域のズボンに手を掛けた。
手を前に回し腰を浮かせて釦を外し、わざとらしく音を立ててゆっくりとジッパーを下ろしてゆく。
「やめ…」
自由の利かない体で必死に抗おうとするも、抵抗をほぼ一切封じられた状態ではどうにもならない。
一枚一枚、布が剥ぎ取られていくのをただ肌で感じることしか出来なかった。
露わになった下肢が冷えた室内の空気に触れる。未だ服を纏う上半身との感覚の差にぞくりと鳥肌が立つ。
腰を浮かせられた体勢のまま、横たわるには狭い長椅子の上で半端な膝立ちを強要される苦しさに微かに喘ぐ。
「いい格好ですねえ、域さん。中々そそりますよ」
愉快そうなその声音に無理矢理首を捻って僅かに後ろを向いた。
想像した通りの笑みを浮かべながら鮫縞が此方を見下ろしているのが辛うじて視界に入る。
罵倒の言葉を発する代わり、域はきっと其方を睨みつけた。
「ああ、その目だ」
鮫縞の唇が動いた。
「その目で睨まれるとね…ねえ域さん、何と言うのかな。…酷く無体なことをしてやりたくなるんですよ」
「っ、」
鮫縞の大きな手が勢いよく域の小さな頭を柔らかなクッションへと押し付けた。
「…っは…ッ」
抑え付けられたその耳に男の唇が押し当てられ、掠れた声が直接注ぎ込まれる。
「――覚悟しておいて下さいね…?」
それは救済の選択肢など存在しない、最後通告だった。
鮫縞の節くれ立った指が剥き出しになった域の下腹部を無遠慮に這う。
腿の表面を軽く円を描くように撫で、するりと内側へ入り込む。
「…ぁっ」
思わず声を漏らしてしまい域は唇を噛んだ。
この男を耳でも愉しませてやるようなことなど、間違ってもしたくはなかった。
「無理せずに声、出してもいいんですよ?」
そんな此方の思惑を読んだように鮫縞の声がすかさず上から降ってくる。
返事の代わりにいっそう強くその唇を噛み締めた。
傍目に見ればその頑なな仕草こそがますます男の嗜虐性を煽り立てるとも思い至らず。
口の中に鈍い鉄の味が広がる。
執拗に内腿の辺りを撫で回していた鮫縞の指がいきなり域の中心に触れた。
「…!」
そのままやんわりと握り込み、幾度か扱く。
強引な行為とは裏腹にその仕草は優しくまるで何かの情が通っているようにすら感じられた。
「…っ、ふ、…っ」
「あれえ?」
可笑しくて堪らない、といった風情で鮫縞の笑う声がした。
「こんな状況でも扱かれて感じちゃってるんですか?域さんもやっぱり男ですね」
言いながら鮫縞の指は更に柔らかな刺激を与えて蠢く。
行為で快楽を与え、言葉で羞恥を与える。その方が相手を追い詰めるには効果的だと、知っている。
忽ちのうちに域の中心が硬さと熱を帯びてきた。
頬は上気し、目が潤み、吐息は乱れる。
それでも決して嬌声を零すまいと堪える姿は恐ろしく煽情的なのに違いなかった。
「もうそろそろかなァ」
呟きが聞こえ域を包み込む指の動きが突然激しくなる。容赦の無い快楽の波が域を襲った。
唇は理性で抑えられても、本能はもう限界だった。
「…っうっ…!」
先端を爪で弄られたのを合図に。
微かな呻き声を伴って域の精が鮫縞の掌へと吐き出される。
「ッ、は…はァ、ぁ…あ」
「あーあ」
がっかりしたような白々しい声が頭上から降り注ぐ。
「もう出しちゃったんですか?」
乱れた呼吸を整えるのに精一杯で、その音ははっきりと頭に入ってはこない。
脳も神経も熱に侵されるままどうにかなってしまいそうだった。
「汚れちゃったじゃないですか。ほらこんなに」
言葉と共に背後から前髪を掴まれ引かれ、強引に顔を上げさせられる。
まだ少し焦点のぼやけた視界に、ぬっと長い指が差し出された。
域の放った白濁に濡れたその指と掌を見せつけるようにして鮫縞は続けた。
「舐めて綺麗にして下さいよ」
耳に飛び込んできた信じられない言葉に域の黒目がちな瞳が大きく見開かれる。
「ほら、こうやって」
息を整えるために半開きになったままの唇へぐいと指が捻じ込まれた。
「ふっ…ぐ」
その臭いと味に顔をしかめる暇も無く、鮫縞の指はその数を増やし無造作に域の咥内を犯していく。
二本の指で舌を捉えて弄び、無理矢理外へ引き摺り出してはまた押し込む。
その乱暴な仕草が繰り返される毎に域の唇や頬にもどろりとした液体の感触がこびりつく。
「んん、む…っう、ん、んんん…」
「下手糞ですね」
鮫縞が喉の奥から絞り出すようにくくくっと笑った。
「もう少しちゃんと、舌、使って下さいよ」
ほとんど抵抗を見せなくなった域に気を良くしたのか、いたぶることに飽きたのか、傍若無人な指は動きを止める。
ずるりと咥内から退かせた指を鮫縞はあらためて域の目の前にほら、と示した。
黙って舌を突き出し誘うと、蛇の如くにうねる指が再び咥内へ侵入する。
生温かい舌と粘膜でその人差し指を丁寧にねぶる。口の端から唾液が零れ、顎の下のクッションを濡らした。
「…その調子だ。イイですよ、域さん…」
気を緩めたらしい鮫縞の髪を掴む力も少しばかり緩んだ、その時。
「痛ッ…!」
鮫縞が勢いよく指を引いた。
域の咥内に先程とは異なる鉄の味がじわりと満ちた。
「この野郎、噛みやがったな!」
「ッ、」
髪を掴んでいた腕で、叩きつけるように頭を投げ出される。
他に反抗する術を思いつかなかった。…情けない。無意識のうちに口元に自嘲の笑みが浮かぶ。
それがますます鮫縞の気に障ったらしい。
無言でジッパーを下ろす音が聞こえた。続いて、布の擦れる音が。
次の瞬間硬く張り詰めた肉の塊を腿に押し当てられ息を飲んだ。それが何か、見ずともわかる。
「…こっちは噛まれちゃ堪りませんからね。下の口だけにしときますよ」
淡々と紡いだ言葉と同時に鮫縞は浮かせた域の双丘を掴み、一息に己の滾った欲望を突き入れた。
「!!ッ、ああ、あああ…ッ…!」
何の準備も無く体を貫かれる衝撃には流石に堪え切れず域の口から苦痛の声が迸る。
「ちッ、やっぱりきついな」
根元まで埋め込んだ鮫縞が舌打ちをし、乱暴に抜き挿しを始めた。
純白のクッションの表面にぽたりぽたりと紅い液体が滴り落ちる。
いっそ気を失ってしまえればどんなにか楽だろうとさえ思えた。
しかし過去、苦痛に慣らされた体は痛みを感じはしても簡単に意識を手放すことを許してはくれなかった。
寧ろ痛みの為に頭は冴え始め、感覚は研ぎ澄まされていく。
「ア、う…ぅッん…んっん」
ぬるりとした鮮血が潤滑油の役目を果たし、徐々に鮫縞の腰の動きが滑らかになるのを繋がった部分で感じ域は喘いだ。
無情な抽挿はぐちゅぐちゅという淫らな水音を伴いますます激しさを増す。
その音に耳の奥まで犯されていくようだった。最早声を殺すことも儘ならなかった。
「ん…?」
無言で腰を動かしていた男の動きがぴたりと止まった。
「…これはこれは…」
その声は嘲笑の色を帯びていた。すっかり機嫌が直った体で笑いながら鮫縞は域に話しかける。
「…域さんも澄ました顔して結構好きものなんですねえ」
「何ッ…の話、」
「だって、ほら」
鮫縞が再び域の中心に手を遣る。
一度達した後、触れられもしなかった其処は先程の硬さを取り戻すとまでいかずとも確かに反応を見せていた。
「こんな目に遭わされて興奮してるってことは痛くされるのがよっぽどお好きなのか、もしくは」
鮫縞はそこまで言い、その続きをこの男には珍しく言い淀んだ。
「――あれ、もしかして域さん…こっちの経験がお有り、ですか?」
「…っ」
沈黙は、雄弁にも勝る肯定。それを勘良く察したのか、鮫縞は心底愉快そうに声を上げて笑い出す。
「これはいい!お相手は誰です?大紋社長ですか?久末大臣?
そういえば同期や部下からも随分と人気がお有りのようでしたね……ああそれともまさか噂のシベリア時代に」
「言うな…ッ!」
消耗し切った表情と姿態を晒しそれでも尚、鋭く飛んだ制止の声に鮫縞は一瞬驚いたようだった。
が、すぐに元の笑みを浮かべ体を折り曲げて、男は自らが陵辱している相手の顔を真横からしかと覗き込む。
「いけませんねえ。他人様に物を頼む時はそうじゃないでしょう」
「…!」
「ほら、お願いしてみて下さい?」
でないと詮索好きの血がもっと騒いじゃうかもしれません、そう続けられ域は唇を噛んだ。
知られても何ら構わなかった。だがそれ以前に、今はこれ以上あの部分をこの男に抉られたくは無かった。
「…のむ」
「聞こえませんよ」
「それ以上は言わないでくれ、頼む…っ」
にたあっと鮫縞の口角が吊り上がり、瞳が細められる。
きっとこの加虐者の胸中は気に食わない相手を遂に屈服させたという高揚感と優越感で満ち満ちているのだろう。
「もう一声」
「っ」
「お願いします、でしょう?域さん」
酷く間近で吐息が触れ合う。好いた同士の甘いそれとは真逆の淀んだ熱を孕んで。
その残酷な言葉をなぞり、途切れ途切れに被虐者の唇が音を紡いだ。
「お…ねがい、しま、す」
それを聞いた鮫縞は満足気に身を起こした。
「まあね、あなたのお相手が誰だろうとどうでもいいんですよ、本当はね。
――代わりに珍しい台詞が聞けたからよしとしておきましょう」
そう言っては愉し気にくくっと笑う。
「今は今で、楽しみましょうよ」
再開の合図をするかの如くにパンッと音を立てて白い肌を打ち据え、鮫縞の腰が律動を始める。
確かに覚えのある屈辱と法悦とが域の心身を焦がしてゆく。
繋がった男の動きが加速するにつれ、無意識のうちに自らも腰を揺らめかせ焦れたように喘ぐ。
「ん…ひ、あ、アあああ、あっあ…ッ」
手首に食い込む戒めと肉を裂かれる苦痛に悶えながらも、それを快感だと認識している己が何処かに居る。
何よりも興奮したのはその事実―――だったのかもしれない。
体内に感じる男の灼熱が一際質量を増して膨らむ。
そう意識した次の瞬間、その熱が弾けた。
それに対して僅かに遅れ。
域の脳裏にも火花が弾け飛び、その意識は今度こそ、暗く寒く濁った過去の。
泥闇の中へと、堕ちていった。
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < 人間分不相応なことをしてはいけないと実感しました
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < ネタ拝借した姐さん方dでした・花輪君は出せなくてすいませんw
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ〜
| | / , | (・∀・; )、< お粗末ながらお読み下さった方ありがとうございましたー
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ
>>292 支援ありがとうございました!…多分w
>>294 リアルタイムで域さん(´Д`*)ハァハァ
鮫縞さんの鬼畜さが素敵でした…GJ!
>>294 姐さん、ごちになりました鮫域イイヨイイヨー
>>294 鮫粋ハァハァ
289の段階で「鮫、無防備に指を口に入れたら危ない!噛まれるぞ!」と
心配してしまった悪役応援派でごめんなさいw
>>294 GJ!!
慇懃無礼さを崩さない鮫とここに及んでもプライド高い域に禿げた
299 :
風と木の名無しさん:2009/12/20(日) 10:26:05 ID:6uQJnjKFO
>>294 禿しくGJ
不亡遅滞スキーあんまり見かけないから嬉しいんだが
こんな破壊力抜群の鮫域きたらもう禿げるしかないね
また姐さんの萌えが読みたいですぜ
>>294 GJ!!!鮫の言葉遣いがリアルに脳内で再現された!禿萌える!!!
>>299 「山崎」で板内検索したらスレ建ってるお
>>294 GJです!!禿萌えました
鮫域に飢えてたので嬉し過ぎます
また是非お願いします!
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ぬるーいオリジナルで後輩→先輩風味?
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 自分ひとりだけ楽しんでるけどね
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
304 :
1/3:2009/12/20(日) 17:21:29 ID:F4TMs9oI0
ここのところの寒さははっきり言って異常だし、正直自転車飛ばして買い出しなんてするんじゃなかったと思わないでもなかったけれど、寒いの一点張りで外出を控えた結果、とうとう貴重な備蓄食料を食い尽くしてしまったのだから仕方がない。
運良くタイムセールの安売り玉子もゲットできたんだから、このタイミングで買い物に来て良かったじゃないかと、主婦じみた発想で自分を慰めながら、俺はペダルを踏み続ける。
冷たい風が顔面に当たって鼻の頭がじんじん痺れてきたけれど、久しぶりに身体を動かしていると、次第に気持ちよくなってきて、ちょっと遠回りしていこうという気分になってきた。
このまま家に着くにはハンドルを右に切ればいいところを、わざとまっすぐ突っ切っていく。
風がますます強くなってきて、潮の香りを運んでくる。このまま行けば、小さな波止場に着く。
最近、そこで釣りをするのにはまっている、と先輩が言っていたのを思い出したのだ。
俺の予想は当たり、人気の無い波止場に、ぽつんと一人だけ折り畳み式の小さなイスに腰をかけている背中を発見した。
遠目でもよく分かる、頼りないオーラを発しているあの背中は先輩の背中以外の何者でもない。
派手なブレーキ音をたてながら、俺は先輩のすぐ後ろで自転車を留めた。
先輩は微動だにせず、ただただ海に向かっている。
305 :
2/4:2009/12/20(日) 17:22:20 ID:F4TMs9oI0
人が来たことに気づいていないのか、気づいていても振り返るのが面倒くさいだけなのか、どちらでも大いにあり得る。とりあえず、先輩の無関心を良いことに、俺は遠慮なく先輩の傍らに置かれているバケツをのぞき込んだ。
「うひゃあ」
思わず俺は感嘆の声を上げた。
これはひどい。
「大漁だろ」
そう言いながら、先輩はまた釣った成果をバケツの中に放り込む。
カランといい音を響かせながら、炭酸飲料の空き缶が転がる。これで、一つ二つ……四つ目かな。その他に、長靴が片方突っ込まれている。
「ちょっとした才能ですね」
「俺さ、海の美化にちょっと貢献してるよな」
冗談めかしているけれど、やっぱり悔しいのか、再び釣り糸を垂れた先輩の瞳は真剣そのものだ。
「先輩」
「ん」
声をかけても、全然こちらを見てくれないのがなんとなく悔しい。
「寒くないですか?」
「さみーよ、無茶苦茶寒いって」
ずるずると鼻水をすするので、俺はポケットティッシュを差し出した。長い指先がティッシュを摘みあげるが、やっぱり先輩はこっちを見ない。
「今日、俺、鍋するんです。寂しい一人鍋だけど」
「あーそう」
気のない返事に、なんとなく落胆してこのまま帰ろうかと思ったのに、
「じゃもうちょっと待ってろ。大物釣り上げて、手みやげにするから」
こう言われたら、もう待っているしかないじゃないか。それから待つこと30分弱、たわいもない会話が続いた。
会話の内容の九割以上「寒い」ということで、二人して寒い寒いとぼやきながら、微動だにせずずっと座り込んでいるという間抜けな構図になっている。
306 :
3/4:2009/12/20(日) 17:22:47 ID:F4TMs9oI0
「おっ」
とうとう釣り針になにかがかかった。俺はとっさに先輩の足元に置かれていた網を持ってスタンバイする。
「来てる来てる、大物だよ、これは!」
きらきら目を輝かせている先輩の横で、俺も胸をドキドキさせながら網を持つ手にきゅっと力を込める。ばちゃんと派手な水しぶきがあがった。
「あっ」
「あーあ」
ようやくかかった生きている魚は、見事に餌だけ食い逃げして行ってしまった。
日はすでに傾いていて、吹き付ける潮風はさらに冷たくきつくなってくる。
またもや先輩はくしゃみを連発し、俺からティッシュを強奪する。
「もうちょっと待ってて、もうちょっと」
「いや、ちょっとじゃなくって。やばいですよ。先輩、風邪引いちゃいますって」
それでも先輩は「だって、お前にうまい魚食わせたいし」なんて言いながら、またもや釣り糸を垂れようとする。
気持ちはうれしい、とってもうれしいけど。
「でも先輩、残念だけど、俺、生きている魚捌けませんから」
「え、嘘。いや、大丈夫。先輩命令だ、なせばなる。やってみなくちゃ分からない」
「こういうのは釣り人が責任持つべきですよ!」
やっぱり先輩、自分で魚を捌けなくて、俺にやってもらうつもりだったんだ。
これまで釣りした時はどうしていたんだろう? きっと、まだ生きた魚は釣れたことがないんだろう。
下手の横好きとはよく言ったものだ。
どうしても俺は釣り上げたいんだと言い張る先輩の手から強引に釣り竿をもぎ取ると、俺は釣り針のさきっぽを、自分のダウンジャケットの袖に軽く突き刺した。
「ほら」
先輩に竿を突っ返して、俺は釣り針のかかった袖を突きつける。
307 :
4/4:2009/12/20(日) 17:23:12 ID:F4TMs9oI0
「俺がかかったから、もういいですよね!」
一瞬の間があった。
夕日が先輩の頬に当たっていて、赤く染まっている。俺の顔もきっと赤くなっている。
これは夕日のせいだけじゃないけれど。
先輩の方はどうなんだろう。
ははははは、楽しそうに笑い声を立てて、やっぱりまた先輩はくしゃみを一つ二つ、連発した。
「そうだな。すげえ大物だ。やったね」
俺のポケットティッシュはもうとっくに無くなっていたから、先輩は自分のポケットからくしゃくしゃになったティッシュの最後の一枚を取り出して、盛大に鼻をかんだ。
やけに慣れた手つきでゴミ袋に本日の成果を詰め込み、釣り道具をまとめる先輩は、釣り竿を手に、俺に笑いかけた。
「なんか、実は俺がお前に釣り上げられた気がするんだけど」
そんなことは無いと思います。先輩に釣られて、俺は遠回りしてこんなところに来ちゃったんです、なんて言えない。
「ここは釣り人が責任持って、釣った魚を料理すべきだよな」
この人、俺にどんな返事を期待しているんだろう。先輩は相変わらずの笑顔で、冗談なのか真面目なのか分からない。
「俺、釣った魚には餌をやらない主義なんです」
動揺のあまり、なんか的外れな返し方をしてしまった気がする。
「えー俺、腹減ってるのに」
先輩は一足早く自分の自転車に乗って走り出す。ところで先輩、俺の家がどこかって知っていたっけ?
俺はあわてて自転車にまたがって、先輩の後を追った。風はやっぱり冷たいけれど火照った顔にはそれが心地よかった。
SHT船体、悪麻呂とジュウゾウ初対面捏造。書きたいとこだけ書いた。すっごい断片だよ!
(*゚∀゚)<悪麻呂エロいな! と思って書き始めたはずがほとんど数字要素ない不思議。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「……これは」
「カタナ、でござります。あんたさんの渇きを癒す、たったひとつの薬にござりますよ」
なかば押し付けるように握らせた悪麻呂は、ついと刀に手を添えた。
「刃渡り、拵え、切れ味も。我ながら良い出来でありまする。ご覧なさいこの刃」
二匹の外道の視線が刀身を滑る。向かい合うジュウゾウを窺って、異形の面頬から含み笑いがこぼれた。
「妖しいものがござりませんか」
険しくなった眼の先で、異形は掬った刀の平に顔を寄せた。
「この握り、この輝き。あんたさんに振るわれることを、心待ちにしておるような――」
「何が望みだ」
恫喝めいた声に遮られ、悪麻呂はおとがいを上げた。挟んだあやしの刃の上で、彼我三寸の眼光が散った。「はて、望みとは」
「とぼけるな。人斬りに刃物を差し出して、はいそうですかと受け取られるとでも思ったのか。何か目論見があるのだろう」
「おお、これはしたり。我はただ、同志を援けに参っただけ、でござりまする」
「同志?」
ジュウゾウは目を細める。探る目の先、いびつな笑みを象る面頬の奥でぬるりと気配が身じろいだ。
「あんたさんがそのお心に獣を飼うておりますように。我もまた、満たされぬ器を抱えているのでござります」
述べた異形はじっと窺うまなざしを受け止めて揺るぎもしない。捉えたままどこか陶然と、刀に頬擦るようにする。
「我の――」囁く。「――地獄」
「……ふん」
目を逸らしたのはジュウゾウだった。
「まあいい。鍛冶の腕は本物のようだ。くれると言うなら否やもない」
異形の刀をもぎ取って、男は湿った咳をした。死病に冒された人斬りは、抜き身の妖刀を掲げて夜へと踏み出す。
「さあジュウゾウサン、行ってらっしゃいませ」
深く頭を下げ見送る外道がかき消える。
「獣の腹がくちるまで、どうぞご存分に――」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
309 :
おしまい:2009/12/20(日) 17:25:05 ID:F4TMs9oI0
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ ナンバリングミス、スマソ
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
310 :
308:2009/12/20(日) 17:38:18 ID:DtBjC2Ka0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
激団親幹線「バソユウキ」から教主様と殺し屋の話。
お礼がなかなか言えませんでしたが、これまでに感想を下さった方
ありがとうございました。いつも感謝しております。
このところ黒い話や赤い話が続いたので、たまにはと白い話をと
チャレンジしてみました。が、自分が書くとどうしてもグレーになった気が…
そんな話ですwエロはありません。すいません。
肩に白いものが触れ、視線を上げる。
「雪か…」
そう呟いた怒門がこの時見たものは、重く垂れ込める灰色の空から舞い落ちる
無数の白い雪だった。
「冷えてくるな。今日はこのくらいにして、みな家に戻った方がいいだろう。」
仮住まいとしている村外れの寺の境内で、粥の施しに集まった者達にそう告げれば、
それに彼らは一斉に落胆の声を上げた。
彼らのほとんどは近在の農民。
普段は年貢の取り立てに苦しみ、食うや食わずの生活をしている中、こうして
一日の労働を終えた後、腹いっぱい食える機会を短く切り上げられるのは辛いのだろう。
口々にもう少しと懇願してくる、そんな彼らを宥めて歩く怒門の歩みが瞬間、
不意に引き止められる。
カクリと進む足を止められ振り返った、そんな視線がその時かなり下方で
見留めたものは、自分の服の裾を掴む子供の姿だった。
物珍しげにも羨ましそうに、汚れた小さな手が白い羽織の先を握っている。
それに近くにいた母親らしき女が、慌てて子に離すように声を発する。
しかし怒門はこの時、それを手をかざす事で制した。
そして逆に服が汚れる事も構わずその子を腕に抱き上げれば、周囲からどよめきにも
似た声が上がる。
そんな中で見遣る、子供の服は薄く粗末なものだった。
雪降る寒さの中、剥き出しになった細く小さな手足は冷たく凍えていて、
それに怒門の眉根がたまらず寄る。だから、
「ペナソ。」
近くにいるだろう仲間の名を呼べば、それに彼女は足早に自分に近付いてきた。
「ドウシタ?」
「彼らに分けてやれるような衣類の予備はあるだろうか?なんなら暖の取れそうな
布の類でも構わないのだが。」
「あ〜、さがしてミルヨ。たぶん、ダイジョウブ!」
片言ながらも楽観的に言い放つ、そんな彼女の明るさにつられて怒門の表情が和らぐ。
「ありがとう。」
だから短く礼を言って、そのままゆっくり周囲に向き直ると怒門は声を張った。
「みな、今から暖の取れそうなものを用意させる。それを持って今日のところは
家に戻りなさい。そして子供達を労わってやりなさい。この子達はこの国の宝だ。」
優しくも慈悲深く、そう訴えながら怒門は抱かえ上げていた子供を母親へと返してやる。
途端、どこからともなく小さな声が上がった。
「教主様…」
それが引き金となった。
「教主様…っ…緋頭番様っ!!」
周囲から次々と叫ばれてゆくもう一つの怒門の名。
それはやがて波のようなうねりをもって境内中に響き出す。
中には自分に向け手を合わせ、拝みだす者達まで現れる。
そんな彼らに怒門は一度静かに頷いた。
もう余分な事は語らない。それが一番効果的である事は、これまでの経験ですでに知っていた。
人の気配から遠ざかる様に、その時寺の裏側へ向かう怒門の足取りは荒かった。
まっすぐに前に向けられた瞳の奥には、押し殺しきれない怒りの色が浮かんでいる。
その感情の源はすべて、どうする事も出来ないやりきれなさから来ていた。
10数年ぶりに戻った故国。そこはすべてにおいて自分の予想を悪く裏切る国へと変わっていた。
支配層と被支配層の貧富の差はますます開き、そこに住まう民達は日々の暮らしに追われ、
その目に未来に対する希望の光はない。
そして何より自分が囚われた時とほぼ同じくして、この国に持ち込まれた新しい宗教・番教は、
貧しい者達からすべてを取り上げ、欲深き富める者達を際限なく潤すようなそんな教義に
歪められ、広く国中に伝えられていた。
それに怒門はふざけるなっ、と胸の内怒りを露わにする。
自分と友・調辺が心血を注いで学んだ番教はそんな教えではなかった。
それなのに…それを自分達の欲望の為に歪め、それによって築いた財の上にあぐらを
かく者達がいる。
右大臣・希宇木名と学問頭・音津加羅麻呂。
それは自分を無実の罪に陥れた者達の名でもあった。
彼らをけして許さないと怒門は思う。必ずその座から引きずり落とし、八つ裂きにしてやる。
その為に今は力が必要だった。
民の心を掴み、朝廷さえ見過ごす事ができなくなる一大勢力を作り上げる必要が。
そうして大陸から渡った西国を起点に、取りかかった正統な番教・番新教の布教は
瞬く間に各地に浸透した。
それは一人一人の胸にどれだけ希望の光が必要かという事を、突きつけられるような
結果でもあった。
どれだけ今の彼らが不幸であるかの裏返しでもあった。
それが……計画は順調であるはずなのに、怒門の胸に鈍い痛みをもたらす。
「…くっそう…っ」
民やペナソ達の前ではけして口には出来ない悪態をつきながら、怒門は人気のない場所を
求めて本堂の角を曲がる。
先にあるのは裏山に続く小さな庭だった。
しかしそこへと向けた足先が、この時ギクリと止まる。
誰もいないと思った、そこには先客がいた。
葉がすべて枯れ落ちた木々に囲まれる物寂しい空間に一人、雪降る空に手を伸ばし立つ人影。
それは自分の恩人であり友でもある、佐治のものだった。
本堂の角でしばし声を失ったように立ち尽くす。
そんな自分の存在に気づき、先に声をかけてきたのは佐治の方だった。
「どうしたの?」
ふわりと声色柔らかく、笑う目を向けてくる。
それに怒門はハッと我に返った。
「いや…誰もいないと思っていたから、少し驚いただけだ…」
「ふうん。表の方は終わったのかい?」
つっと視線を流し、境内で行われている施しについて尋ねてくる。
それに怒門は頷きながら、ようやくその足を踏み出していた。
「あぁ、雪が降ってきたからな。今日のところは締めた。そっちは今日はどうだった?」
佐治は普段、番新教の布教の場にはあまり顔を出さない。
その代わり、彼が請け負っているのは施しの場を部外者から守る警護の役割で。
民達が集まればそれを警戒するその土地の代官達は、色々と横槍を入れてくる。
それは時に暴力であったり、時に賄賂の要求であったり。
そんな彼らの動きを佐治はいつも一早く掴み、その対処に一役買ってくれていた。
「うん、彼らもこの寒さの中で働くほど勤勉ではないようだ。動きに特に変化は
ないようだったから帰ってきてしまったよ。」
言いながらこちらに体を向けてくる。
その足元にふと視線が落ちた時、怒門は再びギクリとその歩みを止めていた。
「何をしているんだ…」
唇から零れる声が掠れる。
そして固まってしまった怒門の視線の先にその時あったのは、冷たい地面に直に触れる
彼の白い裸の足だった。
驚きを隠せない、しかしそんな自分の様子にも佐治の軽やかな口調は変わらなかった。
「あぁ、雪が降ってきたから積もるかどうか確かめてたんだ。」
地面が暖かいとすぐに解けてしまうからね、とそんな事を口にしながら、
佐治は続けて、君の国の雪はすぐに消えてしまってつまらないとも言った。
確かにこの地に至るまでの間に数度、空に雪がちらつく事はあった。
しかしそれは比較暖かい西国ではほんの一瞬の事で、積もるほどのものではなかった。
ただ、今、問題なのはそんな事ではなくて……
「馬鹿か!冷たいだろう!」
思わず激しい口調で怒鳴りつけると、怒門は咄嗟に周囲に彼の靴を探す。
しかし見渡す限りにそれは見つからず、しかもたまらず焦る自分の心を逆撫でするように
この時、ゆったりとした佐治の声がまた耳に届いた。
「大丈夫だよ、この程度の冷たさなら凍傷にはならない。」
いったいどんな修羅場をくぐり抜けてこれば、そんな台詞が平然と口をつくのか。
彼は恐ろしい程の腕を持った暗殺者で、その知識や洞察力は常人には測り知れないものがあるが
……でもそのくせたまにこんな、どこかズレた子供のような面を見せる。
それがあまりに両極端すぎるから……不安になる。それ故、
「凍傷にはならなくても霜焼けにはなるだろう!」
こちらも思わずどこかズレた言葉を言い放ちながら、怒門は佐治との距離を一気に詰めると
その腕を伸ばしていた。
そして勢いのまま掴んだ手。それは近い記憶の中の子供のそれよりも更に冷たいものだった。
だから、
無意識に動いた身体。
怒門は彼の手を強く引くのと同時にその身を半転させると、巻き込むような形でこの時、
佐治の身体を背に負っていた。
「……なんの真似だい?」
さすがに驚いたような佐治の声が背後から聞こえてくる。
しかしそれにも怒門は彼を捕らえた腕を解こうとはしなかった。
「抱き上げるのはさすがに無理だからな。」
「いや…そうじゃなくて…」
珍しく戸惑ったような声が続く。
それには怒門はこの時、本当にわからないのかと言う苛立ちも微かに覚える。だから、
「見ているこっちの方が寒くなるんだ。」
「……………」
「こんな状況の雪で遊ぶもんじゃない。」
ついつい語調が強くなる。
そんな自分の様子に、佐治は少しの間黙ろうとしたようだった。
けれど、
「……何を、怒っているんだい?」
それでもやがて、彼から密やかに零された問い。
それは、自分の怒りの原因はそんな表面的なものではないだろうと、容易くこの胸の内を
見破ってくるものだった。
だからそれに今度は、怒門の方が黙り込んでしまう。
息を詰める、その脳裏には浮かんでは消えていく残像があった。それは、
腹をすかせた農民達。凍える子供。自分に縋るような目を向ける者達。
それらに怒門は、今更ながらに隠しきれない罪悪感を自覚する。
自分は純粋に彼らを救おうとだけしている訳ではない。
むしろその利用を考えている。
だから、そんな目で自分を見る必要はない。いや、見てくれるな……
歩み出そうとしていた足が知らぬ間に止まっていた。そして、
「すまん…」
佐治を背負ったままうつむく唇から零れた言葉。
「…すまん、八つ当たりだ…」
絞り出すように告げた、その謝罪に佐治は一瞬の沈黙の後、小さく吹き出したようだった。
そのまま背に凭れかかってくる重さがある。
肩越しに前に回された二本の腕。
それをキュッと軽く絡めながら佐治はうつむく怒門の耳元、楽しそうな囁きを落としてきた。
「君は本当にまっすぐな男だね。」
「……………」
「強くて弱い。そんな君の怒りは僕には心地の良いものだけど、でも自分以外の
感情まではあまり抱え込まない方がいい。目的がある時に誰かの為なんて、
身の丈以上の事を考えると、逆に己が身を滅ぼすよ。」
静かにもひんやりと、告げられるその言葉に臓腑が冷える思いがする。
だから、
「あぁ、すまん。」
もう一度謝罪を繰り返す。
するとそんな怒門に、佐治は尚もクスクスと笑いながら告げてきた。
「まぁ、いいよ。その時は僕がちゃんと行き先を正してあげるから。だって僕は
君の行く道を切り開く“サヅ”だからね。」
かつて、捕らわれた牢獄から外の世界へ自分を導いた、その道具から取った名の由来を
口にして、佐治はこの時再び怒門の目の前、サッと片手を空に向け伸ばす。
そして手の平に受ける雪。
それは彼の肌に触れた途端、すうっとその形を無くした。
「あぁ、君に触れてたから温かくなってしまった。すぐに消えてしまう。」
子供のように素直な口調で残念そうに呟かれる、その言葉に怒門は無意識にその唇を
噛み締めていた。
雪が解ける。それは仕方のない事だった。
人が人である限り、その体温に雪は耐えられない。
けれどそんな体温の中でも彼のそれは一際冷たくて、だから自分程度の人肌ですら
温かいと言う。
それを怒門はこの時、ひどく切ないと思った。
だからゆっくりと視線を上げながら、胸の内で呟く。
誰も苦しまず、彼も冷やさぬ―――そんな消えない雪があればいい
そして見上げた空に舞う雪は、この時怒門にかつて見た懐かしい記憶の光景を思い起こさせた。
だから、
「触れても消えない雪ならある…」
ポツリと零した、その言葉に背の佐治が「えっ?」と身を乗り出してきた。
「本当に?」
好奇に満ちた声で問うてくる、それに怒門はあぁと答えてやった。
「正確には雪ではなく花なんだが、その花びらは白くて、風に吹かれて散る様はこの雪に
とてもよく似ているんだ。」
「どこにあるんだい?」
「この国なら大抵の所に木がある。が、一番見事に咲きそろうのは、都の南にある山の
ものだろうな。」
「咲くのはいつ?」
「春だ。あれは冬を終え、春の訪れを知らせる花だから。」
「春か、ならちょうどいい頃だね。」
告げられる、そんな佐治の言葉は無邪気にも明確に、この先自分達の行く道を指し示していた。
冬を越え、春の頃には辿りつくだろう、目指す都。
そこで繰り広げようとする自分達の行動はひどく血腥いものだけれど。けれど…
「見てみたいね、その雪。」
今、歌うように軽やかに口にされるそんな佐治の言葉は、これまで一度として
口にされた事のない珍しい彼自身の願いだったから、それに怒門は背にした身体を
もう一度ちゃんと負い直しながら、この時その足を寺の方角へ向けていた。
中に入ったらすぐに湯を用意して、この手と足を温めてやろうと思う。
そして体温を戻したその手で触れても消えない雪を……
「見に行こう。」
連れてゆく。約束する。
そうでもしないと彼はある日一人勝手に、フラリと雪のように消えてしまいそうだから。
見たがる散り際が一番美しい花はひどく彼に似合いすぎていて、その柔らかい笑みを
霞みの中にさらってしまいそうだから……
だから、
「一緒に行こう。」
繰り返し告げる、そんな自分の言葉にこの時、返される佐治の返事はなかった。
ただその代わり、先程よりも更に深くペタリと背に寄せられる身体と共に、
フフッと耳元に零される笑みがある。
その腕の中の重さと温かさを、怒門はこの時素直に大事だと思った。
そう彼も温かいのだ。
その温かさに自分はこれまで幾度も救われ、支えられてきた。
だから、彼の願いもかなえてやりたい。
言葉ではなかなか上手く伝えられない心。
それを確かに彼に届ける術が欲しいと、雪舞う空の下、怒門は切実に願っていた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
引っかかったので最後だけ携帯で。長くてすいません…
舞台で見た籍春おんぶが衝撃的で、トキメイタ後かなり突き落とされましたw
でもやはりトキメイタのでこの2人でも。
>>294姐さん
感想とネタ許可ありがとうございました。髪飾り、ハート型までは
気付けてませんでしたw早くゲキツネ見たいです…
そして不妄鮫域GJ!域さんのギリギリストイックな色気にやられながら、
ツベリア話も気になりますw
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )
日本ホモ協会のアニメ「カワの光」で
ドブネズミの「紅蓮」と
「田ー田」と「地ッ地」のお父さん(名前不明なので仮に「北斗」と)
プラトニックで紅蓮×北斗
「生まれてくることは、もと来た場所へと戻ってゆくこと
静かなそこは暖かい光を湛え 僕らを待っていてくれる…」
ガラス窓のむこうの大きな月を見つめながら
いつものように紅蓮は詩を口ずさんでいた。
「きみは詩人だな」
傍らの北斗が言う。田ー田と地ッ地はぐっすり眠っていて、今は月しか二人を見ている者はない。
「やめてくれよ、詩人なんかじゃないさ」
紅蓮は笑って言うと北斗のほうへと振り向いた。
「……。」
切り出しにくそうにしていた北斗は、少しつらそうな顔をみせて言う
「明日、ここを発とうと思うんだ。冬が近いからね」
「……。」
紅蓮は何も言わない。そうかと言うようにうなづくとまた北斗に背を向けて月を見上げた。
「それがいい。君の二人の子供達も川へ戻りたがっていた」
「紅蓮」
「気をつけて。もう会うことは無いだろうが、君たちの無事を祈っている」
北斗の言葉をさえぎって続けた紅蓮の言葉。
「いつまでも。…北斗」
愛しているとは続けられなかった。自分達はクマネズミとドブネズミ。生態も違えば住むところも違う。
旅に自分がついていけば壁を登れない自分は足手まといになって子供達をも危険に晒すだろう。
だから愛しているとは言えない。このまま一生言うつもりもない。
投下します
_________
|┌───────┐|
|│l> play. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
∧∧
( ,,゚) ピッ ∧_∧ ∧_∧
/ つ◇ ( ・∀・)ミ (` )
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| ┌‐^──────────────
└──────│殿といっしょ 大友主従でほのぼの
└───────────────
「おやすみ」
紅蓮は北斗の顔を見ることもなくねぐらに入った。目をつぶり朝が来ればこの親子は自分の元から去って行く。
考えたくなかった。ずっとこの図書館で暮らそうという言葉を必死で飲み込んで目を閉じた。
北斗は一人、月の光に照らされたままずっとずっと眠ることができなかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
短いですが、さっき見ていてもたってもいられず書いてしまいました
このアニメについては他の方々の書かれた作品もぜひ読ませていただきたいです
「殿、」
「う〜ん…………」
「殿、起きて下さい」
「ムニャムニャ……もう食べられないよ」
なんて古典的な寝言なんだ……
道雪は間抜け面を晒して眠り呆けている宗麟を揺さぶるのをやめた。
「全く、うたた寝などしては風邪をひきますよ」
呆れた顔でそう言うと彼の肩からずり落ちそうになっている上着を直してやる。
宗麟の机の上には筆と硯と紙が乗っているが、それは白紙であり何も書かれていない。
その紙は既に涎まみれになっており使い物にはならないだろう。
今日はやけに大人しいなと思って来てみればこれだ。
大友家のトップであり九州探題の肩書まで持っているのだから仕事はちゃんとしろ。
仕事する前から居眠りしてるんじゃない。
あと島津の戯言にいつまでも付き合うな。
小言だったら幾ら言っても言い足りない。
道雪は昔からこの殿には振り回され続け、その都度頭を痛めていた。
禅宗に嵌って一休さんと化したかと思えば、改教して切支丹となっていたり。
家臣の妻を寝取ってみたり。
奥方と喧嘩して家を飛び出し、あまりに帰って来ないから心配して探しに行くと荒屋で一人泣いていた事もあった。
その時は「帰りたくない」と駄々をこねる殿を無理矢理引きずって連れて帰った。
そして島津と接触してからは”悪の親玉気どり”が加わり、道雪の苦労に拍車を掛けた。
もともと乗せられやすい性格だ。
島津の若殿を「生意気な連中だ」と言いつつも、悪の親玉らしいポーズや台詞回しの練習に力を入れ出すのに時間はかからなかった。
当人だけでなく、部下にまでそれを強要してきた時は全力で制止した。
放っておいたら道雪自身も”雷魔人”などと改名させられたかもしれない。
島津に言われるままにそこの三男を誘拐した時は、その後どうすればいいのかを攫ってきた三男自身に尋ね、挙句の果てに脚本を書いてもらっていた。
(その後の展開は、城に潜入した兄弟達と三男が合流して無事城を脱出し、夕日に向かって「俺達の戦いはこれからだ!」という物だったらしい。)
次男に”影の薄い自分を変え、目立つにはどうしたらいいだろうか”と相談を持ちかられたりもしていた。
当人は「奴をおびき寄せて騙し討ちにする為の作戦だ」と言い繕っていたが、それもそれで情けなかったので咎めておいた。
島津家の面々を生い立ち・趣味・女性遍歴に至るまで調べさせた所、年の離れた四男が異母兄弟と知り、何故かブルーになっていた時もあった。
もしかしたら家督を継いだ時のゴタゴタを思い出していたのかもしれない。
何故、あんな自分の息子と年も変わらないであろう若造に良い様にされているのか、道雪は未だに理解が出来ない。
「……………………………」
こうして考えてみれば本当に宗麟に付き合わされ続けた人生なのだな、と道雪は思った。
そしてこれはこれからも、多分どちらかが死ぬまで終わらないのだろう。
しかし道雪は別段それを苦とは思わなかった。
「う〜ん……」
急に、机に伏せって寝ていた宗麟がうめき声をあげた。
やっと目が覚めたのかと道雪が声をかけようとした所、更に言葉が続く。
「おい義久……」
そして更に不明瞭な寝言の後、宗麟は再び寝息を立てた。
「ちょっと待て殿」
寝言だとしても、何故よりにもよってその名前なんだ。
「いい加減に起きなさい!」
ゴロゴロ
ピシャッ!
ド――――――――――ン!!!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
宗麟の脳天に火花が飛び散り、禿頭からプスプスと音を立てて黒煙が上がった。
「おぉ道雪か」
流石に眼が覚めた宗麟は、それで道雪がここにいる事に気づいた。
「全く、一体どんな夢を見てらしたのですか」
「何がだ?」
道雪の言葉に、宗麟はキョトンと小首を傾げる。
年頃の娘ならその仕草も可愛いと思えるだろうが、彼は禿げたおっさんである。
「先程、寝言で島津義久の名を」
「あぁ!そうだった」
慌てて宗麟は机上の紙を手に取る。
それが白紙である事を確かめると、額に手をやり溜息をついた。
「どうなさいましたか」
「夢の中でな、島津の奴めが『返事が遅いから直接受け取りに来たぞ』と言ってそこの縁側で待っていたのだ」
「ほう……」
「待っている間暇だろうとあやつに聖書を渡したら『うちは仏教だからいらん』と突っ返された。
それはいいとして、早く返事を書いてやらねば。奴らも待ちくたびれてるだろうに」
「……それは仕事ではなかったのですか」
「えっ?あぁ、うん……」
答えながらふと紙から顔を上げた宗麟は、そのまま硬直した。
鬼神の如く険しい顔立ちで仁王立ちしつつ発電している道雪と目が合ったからだ。
「殿っ」
「は、はいっ!」
「仕事しなさい」
「はっ、はいぃぃぃぃぃ!!!!」
無表情なまま怒りを露わにする道雪に、宗麟は首がもげそうなほど何度も頷いて、ビシッと正座して机に向きなおした。
道雪は宗麟の机にドサッと紙の束を乗せた。
高く積み上げられているそれは今にも崩れ落ちそうだ。
「今日中に目を通して下さい」
「こんなに?!」
「溜め込んだのは他でもない、殿でしょう」
「うう……」
「あとは頼みましたよ。後で配下に頼んで見張りを付けておきますから、くれぐれもサボらないように」
「お、おい何もそこまで……」
「差支えなけれれば私が殿に付いていましょうか」
「わ、判った。仕事はちゃんとしよう」
「それならいいのです」
観念したようにそう言った宗麟に、道雪は満足げな顔をして頷いた。
「では、私はこれで」
そして自分の仕事に戻ろうと道雪は宗麟に一礼し部屋を出ようとする。
「あ、しばし待て道雪」
「なにか?」
急に呼び止められ振り向いた道雪に対し、宗麟はニコニコと笑っていた。
「今度はお前にも手紙を書いてやろうか」
「…………」
思いもよらない言葉に、一瞬道雪の動きが止まる。
「いりません」
すぐにそう言い捨てると道雪は更に続けた。
「殿、言いたい事があるなら直に言ってきなさい」
「島津とワシの文通が羨ましいのかと思って」
「戯言を……」
道雪はそう呟くと再び溜息をつき、
やっぱり自分と殿はどちらかが死ぬまでずっとこんな関係なのだろうなと、改めて感じていた。
それでもいいと思えてしまうのは慣れか、諦めか、忠誠心か。
【数日後】
「はい、殿」
「な、何だこれは……?」
突然、道雪から渡されたものを見て宗麟は呆気にとられた。
渡されたのは一つ一つナンバリングされた大量の紙の束。
段ボール箱にぎっしり詰まったそれは、直江状にも引けを取らない量である。
「折角ですので私も殿に手紙を書きました」
「しかしお前は”言いたい事があるなら直に言え”と言っていたではないか」
「何度言ってもあなたが聞かないからでしょう」
その後、宗麟は書状を読むのに半日費やし三日間落ち込んだとか、そうじゃないとか。
_________
|┌───────┐|
|│ロ stop. │|
|│ |│
|│ |│
|│ |│
|└───────┘|
[::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
ピッ ∧_∧
◇,,(∀・ )
>>322さん、割り込んでしまい申し訳ありません
. (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
| |
└────────────────┘
投下にまごついていたら、>>322-
>>326に割り込んでしまっていました。
本当に申し訳ありません。
4巻でのソーリンのチュー待ち顔にやられてしまいました。
可愛いおっさんいいよ、うん。
書きながら、正義のヒーロー×悪の親玉って展開も王道だよな〜とか思ってしまった事は内緒です。
>>311 いつもありがとーございます。
雪とたわむれる殺し屋、桜吹雪の下の殺し屋、それらを見守る教主が
脳内再生されました。
あまりにも美しすぎです。
>>263 gj!ありがとう!
萌えたぎって録画を全部見直したよw
スペシャルなんで無いんだよう
>>263 義羅義羅好きだった…!良かったよー!!エロさかげんもw
またたのみます
>>334 2きてもいいよなぁ…テロ朝!!
>>311 GJ!雪の中に佇む殺し屋と葛藤する教主とおんぶがリアルに脳内再生されました
あの錦嬢おんぶでトキメキ → 一気に叩き落とされたのは自分もだw
素敵な冬の白いお話とそれから感想もありがとうございました!
「鬼切丸」より少年の皮被った哲童→幻雄→少年
最終決戦で哲童が幻雄だけ生かして飼ってるパラレルな設定
大した描写では無いけれどカニバリズム的要素アリ
スレの同志様方に感謝
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
古寺の奥のその部屋は、天井近くの小さな窓と頑強な錠が座敷牢を思わせる造りだった。事実、昔はそのように使われたこともあったのかもしれない。
中で虜となっている男は、手枷足枷も無いというのに、拘束されているかのようにその場から動こうとしない。物音一つ、この部屋には響かない。
その静寂を破る、床板の軋む音。足音が、部屋へと近付いてくる。
足音が一瞬止み、鈍重な金属音が鳴り、扉が開く。
入ってきた少年はまず隅の明りを灯した。
部屋に満ちた宵闇が少し追いやられる。その明りを半身に受け、少年は壁に凭れた幻雄に歩み寄る。口元にはうっすらと笑み。
「ほら」
残っている左手に、学生服のポケットから取り出した勾玉を四つばかり握らせる。
幻雄はその感触を確かめるようにしばし弄び、ちらりと視線を落とすと、さもつまらないものであるかのように、床に投げ滑らせた。
「まったく…相変わらずだな」
足元に滑ってきた勾玉を、溜め息混じりに一つ摘み、にじり寄って口元に押し付ける。
緩慢な動作で、静かに顔を背ける。
「いつになったら素直に喰べてくれる」
溜め息を零し、手を下ろした。
目を合わせようとしない幻雄を、同じ高さのごく近くから強く見つめる。
「……幻雄、お前を死なせたくはないのだ。お前しか永き時を共有できる存在はないのだから」
彼はこのように幻雄の名を呼びはしなかった。名を呼んだことすら、あったろうか。そも、名を覚えていたかどうか。
猫撫で声で幻雄の名を呼ぶのは、鬼でありながら戯れに鬼を斬り、時に法力で鬼を勾玉に封じ込める、あまりに邪悪な存在。
「そうか…この程度の雑鬼では食欲が湧かないか」
落胆し伏せた目が、再び幻雄を捉えたとき、それは仄暗い愉しみに細められていた。
「ならば」
手にしていた日本刀を抜く。
刀身が反射する明りに、頑なだった幻雄も目を奪われる。
哲童が印を結ぶ時のように、少年は左手を握り小指を立てた。
「なにを」
「純血の極上の味ならどうだ」
「っ、やめ」
無い右腕を伸ばそうとする。
付け根に刀を滑らせると、小指は容易に手を離れ、床に落ちた。
「案ずるな、この刀はこの身の分身。この刀で滅せられることはない」
小指を欠いた左手が、床に落ちたそれを摘み上げた。
勾玉ではなく、鬼の肉を唇に押し付けられる。思いのほか肌理細やかで白い、若者らしくやや骨張った指。
彼の指に口付けているような錯覚に陥る。
困惑の中で、誘惑に負け、終にはその口を微かに開いた。
彼や後藤とつるみ、容易に鬼にありつけるようになっていたせいだろうか、随分と飢えに弱くなったものだ。自嘲せずにいられない。
出会い、その正体を知った時に、どのような味なのかと思い巡らせた。養殖ものや加工ものでない純血の味は、果たして別物かと。
とうとう味わったその味に感激したのでもなかろうに、幻雄は泣いてしまいそうな己を自覚した。
認めざるをえまい、自分に狩られろなどと嘯いたこともあったが、彼を獲物として味わうことなどとうにできなくなっていたのだ。
しかし、仲間に追われようとも共に追われた仲間を手に掛けようとも決壊することのなかった涙腺は、この時もとうとう涙を零しはしなかった。
あやすように頬を撫で、鬼が笑う。可愛げのない、それでいて人間を愛おしむ、哀しい彼の微笑ではなかった。懐かしくおぞましい、遠い記憶よりも残虐さを増した同胞の微笑。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
>>311 GJ!いつも楽しませてもらっています
情景が綺麗だなー。雪を見ながら、教主の背中で笑ってる殺し屋が目に浮かぶ
一緒に春を迎えるなんていう未来があったなら良かったのにな…切ない…!
とても綺麗で和やかな気分になれました。ありがとう!
341 :
ホームドラマ:2009/12/21(月) 00:39:33 ID:gN3d/NdV0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 以前投下した織吐露酢の戌
「その後の二人」の続編的な物語。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 神×悪魔、放送終了後で、妄想・捏造のオンパレード。
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ダークエンドな「奇跡管理庁」を書いたら、
なんか二人に他の幸せな結末を妄想したくなったんだ。
「奇跡管理庁」の二倍近くの長さなのにエロは少しだけ。すまん。
全36レスと長いのでインターバルを入れて投下します。
他の姐さんのお邪魔にならなければいいな…。
またしてもAAがズレてる予感…
>337
ありがとうGJ!!またここで二次が拝めるとは思わなかった!
全部判ってて少年を盾に使ってでも幻雄を繋ぎ止めたい哲童に見えて萌えました。
この軟禁二人暮らし、だんだん異常な方向にエスカレートしそうでその後が気になります…
「りょうすけ」
そう呼ばれた気がして、蒼井両介はふと、目覚めた。
部屋の中はまだ暗い。だけど遠くでカラスの声がした。そろそろ夜明けが近い
頃合かもしれない。
「……おまえは、わかって、ない……」
唐突に兄・流崎新司の言葉が耳に入る。
「え? 何を――?」
だが、返事はない。状況が掴めないまま半身を起こし、闇に慣れてきた目で、
すぐ横で眠っている兄の顔を伺う。
兄は息は荒いが、瞳を強く瞑っていた。どうやら寝言らしい。
「ダムの、うえでいった、だろ……」
また兄が呟く。ひどくうなされていて、額に汗の粒がいくつも浮かんでいる。
「兄貴」
肩をそっと揺する。
「……おれたちは……」
だが夢が深いのか、中々反応しない。
「兄貴――兄貴!」
「ふたりならいきていける……、って……」
「兄貴!」
一際強く呼びかけたとき、パッと兄の目が開いた。
またたいた目がさまよい、そして蒼井を捉える。だが、いつもなら優しく緩む
はずの瞳は、何か信じられないものでも見たかのように強く見開かれたままだ。
まるで自分を通して何か違うものを見ているかのような――。
「どうした、兄貴。悪い夢でも見たのかよ」
蒼井は、子供の熱を計る親のように、そっと流崎の額に手を置き、汗をぬぐった。
「……両介……」
ようやくその目が、蒼井自身に焦点を合わせる。荒かった呼吸が落ち着いてきた。
「ここは……ホテル・ラスタットか……?」
「何言ってるんだ。アパートだよ、俺たちの」
その目が周囲を確認して、ようやく表情が緩む。
「そうか……そうだよな……」
「一体どんな夢を見たんだよ」
一瞬、間があった。そして目をそらす。
「……大した夢じゃない」
そう言われても気になるが、追求したところで答える兄ではない。諦めて体を布団に戻し、兄に寄り添う。
途端、流崎が蒼井の胸にかじり付くように顔を埋めてきた。そのまま強く抱きしめる……というよりしがみついてくる。
「……どう、したんだ、兄貴……」
こんな、どこかたどたどしいような行為は、かつてないことだった。そして何
より驚かされたのは、兄の目が触れたところがヒンヤリと濡れたことだった。涙。
そのまま兄の体が蒼井の上に乗り上げてきて、その手が、探し物でもするよう
に蒼井の体をさまよう。
このままやるのかな、と思う。
もう夜明けも近いのに困るな、とも思うけれど、兄の何か切迫したような様子
に蒼井は負けた。
そっと両腕で、兄の体の重みを抱きしめる。
すると兄の、蒼井の体を求めるような動きが止まって、蒼井を見つめてきた。
なんだろう、今日の兄はまるで小さな子供のような気配をしている。
少し戸惑ったような兄の瞳が愛しくて、キスをした。深く味わって離し、もう一度兄を抱きしめる。
「大丈夫……大丈夫……」
蒼井は繰り返し呟きながら、それに合わせて兄の背中を広げた手のひらでゆっ
くり、リズムを取ってトン……トン……と優しく叩く。
兄は身じろぎもせず、されるがままにしていた。ふんわりと兄の髪のにおいが
してくる。触れ合った胸から、さっきまで早鐘を打っていた兄の鼓動が、ゆっく
りとしたテンポに戻って伝わってきた。
「大丈夫……大丈夫……大丈夫……」
もうしばらくこうしていよう、と蒼井は思った。
◇◇◇
仕事の後、外で一件用事を済ませたのでいつもより遅めの帰宅になった。12
月の戸外から室内に入ると、少しダシの匂いのする暖かな空気にホッとする。た
だいま、と声をかけたが、兄は、最近お気に入りのテレビドラマを見ていて夢中
らしく、蒼井の帰宅に気づかない。白髪混じりの頑固な父と適齢期を迎えた三姉
妹が、様々なトラブルに見舞われながらも家族として絆を深めていくホームドラ
マ。ちょうど終わるところだったようで、主題歌にあわせてエンディング映像が
流れていた。ピクニックに出かけた一家。満開の桜の下にレジャーシートが広げ
られ、たくさんのお弁当が並ぶ。缶ビールやワインなど思い思いの飲み物を掲げ、
乾杯する家族。幸せそうな光景に、キャスト&スタッフのテロップが被って流れ
ていく。
寝室にカバンを置いてコートをしまい、ダイニングキッチンに戻ると、ようや
く流崎が振り返る。
「……今日は遅かったな、両介」
「うん、ちょっと……用事があって。ただいま」
晩飯の用意に流崎がテレビの前を立つ。
流崎は割とテレビが好きだ。そしてとても詳しい。あの浮世離れした美貌の主
がテレビの前に陣取ってクスクス笑ったり、小声で突っ込んだりしているのを初
めて見たときは不思議な気持ちになったものだ。以前兄のテレビ好きを指摘した
とき、独房の中での唯一の娯楽だったからな、という答えが返って来た。確かに、
兄の牢にはテレビがあった。普通、独房にテレビなどあるはずもないだろうから、
「神の手」ならではの破格の待遇だったのだろう。
自分の力で人を生かすどころか、自分の力に群がった人々が自滅していく様に
絶望して監獄の奥に閉じこもっていた兄。10年にわたる独房生活の中で、唯一
の世間との接点がテレビだったのは確かだ。塀の外どころか独房からもあまり出
なかったという兄の目に、携帯電話のCMや下町グルメの情報はどんな風に映っ
ていたのだろうか。そのことを思うと、蒼井の胸はいつも痛む。
だが拘置所を出た今も実は、兄の生活においてテレビが外との数少ない接点と
いうのは、あの頃とあまり変わっていないかも知れない。
蒼井のアパートで一緒に暮らすようになって半年程が経つが、流崎はあまり外
出をしなかった。
それはそうだ。流崎新司は奇跡を行う「神の手」として世界中にその顔が知られ
た存在である。流国ダムでの一件の後、暫くしてから、ダムに落ちた流崎新司の
生存は絶望的・捜索打ち切りという報道が出たことで「神の手」事件はひと段落し
たが、流崎が最後に公開した動画は、その美貌と「神の手」という話題性からカリ
スマとあがめられ、一時期ほどの勢いは無いとはいえ今もネットで再生され続け
ている。
「流崎新司」の名前で生活していくのはもう出来ないので、元大臣の坂木のツテ
で辰巳シンジの戸籍を復活させて貰った。住民票も健康保険証も、クレジットカ
ードさえ作れたし、市民生活上は困らないのだが、街を歩いていると「もしや…
…」と声をかけられることが多いことに閉口し、段々と外出回数は減っていった。
今では、出かけてもせいぜい空いてる時間の近所のスーパーくらいだ。
兄はそれを特に苦に思うでもない風ではあったが、折角塀の外に出たのだから、
色んなところに兄を連れて行ってやりたい、この世界を見せてやりたい――それ
が蒼井の願いだった。
その為に今日も、本当は――。だが、まあいい。
ダイニングテーブルに、流崎が作り置きしていた料理が並んだ。ちゃんと二人
揃って、頂きます、と言って箸を取る。
「今日、ドラマはどこまで行った?」
「長女の婚約者が、次女との恋愛フラグ立ててたな。あと、三女は親友の借金
の保証人になって、来週辺りトラブルに巻き込まれそうだ」
「肝心のオヤジはどうしてるの」
「新規取引先の女社長が、失踪した元妻にそっくりで動揺してた」
「ベタだなあ」
蒼井が思わず笑うと、それが流崎にも伝染して二人で笑う。
白飯に、なめこと豆腐の味噌汁。メインは白菜と鶏挽き肉のロール巻き、副菜
は小松菜のおひたし、肉じゃが。流崎の肉じゃがにはいつも白滝とインゲンが入っ
ている。味付けはどれもどことなく上品だった。
蒼井には、流崎に話したいことがあった。そろそろ切り出しどきだ。
「……来週さ、クリスマスだろ」
「そうだな」
「拘置所でも、クリスマスは何か特別なことやるのか」
蒼井の問いに、流崎は吹き出した。
「幼稚園じゃないんだ、やるわけないだろ。ケーキが出るくらいだ」
「じゃあ今年は二人で、ウチでやろう」
流崎が顔を上げて蒼井を見る。
「……やるって、何を。クリスマスってことか」
「特別なことじゃない。イブの夜にここで一緒に晩御飯を食べて、シャンパン
とか開けて、ケーキを食べて、プレゼントを交換する」
蒼井は壁に掛けられたカレンダーを見る。
「24日、ちょうど終業式だし、俺もいつもよりは早く帰れると思う」
「クリスマスってのは、なぜか鶏肉食べるんだろ。CMでよく見た」
確かにその通りだが、そう言われてみると不思議な気がしてくる。兄の真顔の
発言に今度は蒼井が吹きだす番だった。
「違うのか?」
「違わないけど……、そうだね、丸焼きじゃなくていいから、ローストチキン
とかあるとクリスマスっぽいかもな。ケーキとシャンパンは俺が買って帰るよ」
ローストチキンね、付け合せは何が合うんだ……と呟いている兄を見ながら、
ドラマなんかよりずっと幸せな光景がここにある、と蒼井は思う。
酒は、スパークリングワインを昨日買って、もう冷蔵庫で冷やしてある。今日
はケーキを買って帰るだけだ。兄は、ケーキは余り甘くないほうが好きなようだ
が、今日くらい如何にもクリスマスらしいケーキの方が気分が高まるだろう。蒼
井は駅前のケーキ店で一番小さなホールのクリスマスケーキを買った。
プレゼントは結構前に用意してある。我ながらイイ線行ってる、と思った。兄
がどんな顔をするのか、楽しみだ。
だが、家について驚かされたのは自分の方だった。
「兄貴……これ全部兄貴が作ったのか」
「当たり前だろ」
「凄いな……」
夕飯の豪華さは、蒼井の想像を超えていた。むしろディナーとでも言ったらい
いようなメニューだった。さすが、凝り性というか完璧主義者の流崎である。骨
付き鶏もも肉のロースト、ホタテのカルパッチョ、三種オードブルの盛り合わせ、
オニオンスープ、パスタ二種、野菜スティック……これがあの狭い台所で用意で
きることがそもそも凄い、と蒼井は感心する。
「両介、そろそろワイン、出して来いよ」
テーブルに皿を並べている流崎の声で我に返る。
「あ、……ああ、そうだった」
グラス二つとスパークリングワインを持ってくる。兄はもうテーブルについて
待っていた。
コルクの周りの銀紙を剥き、栓を括っていた針金を外す。マッシュルームのよ
うに丸く盛り上がったコルクに手をかけ、栓の出口をカーテンに向けてゆっくり
ひねりながら押し出していく。
ポン!と小気味いい音がして栓が飛んだ。前の晩から冷やしていたので零れる
こともなく、グラスに注ぎ分ける。シャンパングラスなんて洒落たものは持って
いないから、いつもビールを飲んでいるグラスだ。
小さな泡がひっきりなしに底から上がってきて弾ける。葡萄の青臭い匂いが漂
うグラスの片方を兄に渡した。
そしてカチリとグラスを合わせる。
「メリークリスマス」
互いの顔に微笑を見つけ、また笑みが深くなった。グラスの中の陽気な飲み物
をぐいっとやる。蒼井はこれまでシャンパンなんて気取ってると思っていたが、
こうして飲むとなるほど、気持が上がる飲み物だという気がしてきた。飲みつけ
ているビールより、アルコール度数が高いからかもしれないが。
尤も、本物のシャンパンは値段を見たところで心がくじけ、アメリカ産のスパ
ークリングワインにしてしまったのだった。
「これ、俺から兄貴にプレゼント」
はい、と用意しておいた包みを渡す。
「……開けていいのか」
「勿論だよ」
流崎がとても神妙な顔で受け取るので、蒼井は思わず笑みを崩した。
だが、弁解するようにポツリとつぶやかれた流崎の言葉に胸を掴まれる。
「プレゼントなんて貰うのは初めてだからな」
おっかなびっくり、という様子の流崎がリボンを解き紙の包みを開くと、中か
ら出てきたのは黒いエプロンだった。流崎の表情に笑顔が広がっていくのを蒼井
は嬉しく見守った。
「料理の時に使ってよ」
カフェの店員が着ているような、下半身だけのバリスタエプロン。黒が好きな
兄にはさぞかし似合うだろうと思ったのだ。
「兄貴、着て見せて」
「……ああ」
こうか?と呟きながらキュッと、腰周りに長め丈の黒いエプロンを巻く。蒼井
はしばし言葉を忘れた。照れながら、軽くポーズを取った兄は、尋常じゃなくカッ
コ良かった。
「……プレゼントってのは、嬉しいもんだな。両介、有難う」
その笑顔が余りに眩しくてすぐにでもキスしたくなるのを、グッとこらえる。
「それじゃあこれは……俺からだ」
バリスタエプロンを着たまま、兄が無造作に封筒を出してきた。封筒? なん
だろう。金券だろうか。
そう思いながら開けた封筒からするりと滑り出たのは、鍵だった。
見つめるうち、自分の顔に血が上るのが判った。
「兄貴……これ、車の鍵だよな?」
「ああ。最近はネットで車も買えるんだな」
「そういうことじゃないだろ! こんなもの……どうして!」
「お前が欲しがってたからだ」
支援
ニヤリと笑う兄。さすが、兄はお見通しだった。確かにここのところの蒼井は
車が欲しくて悩んでいた。何度か中古車売り場にも足を運んだのだが、やはり今
の収入ではローンを借りたとしても現実的ではなく、諦めたのだ。
「兄貴、駐車場は? 車庫証明はどうした?」
「借りた。だから車庫証明もある」
駅から歩いてくる途中の……、と説明され、ああ成る程あそこか、と思い当た
る。
いや、納得している場合ではない。
元々、流崎が「神の手」時代に貯めた財産は億近く。しかも減るどころか更に最
近ネットで株も始めて、ついにその資産は億を超えていた。そんな兄からすれば
、車なんて大した買い物ではないかもしれないが――。
「――でも、兄貴……」
言い募る蒼井の手を、車のキーごと、流崎の両手が包んだ。
「なあ、両介……それで俺を、色んなところに連れてってくれるんだろ」
共犯者めいた笑みが、流崎の顔に浮かぶ。
「……本当に兄貴は全部お見通しなんだな」
蒼井は驚きの色を隠せなかった。確かに蒼井が車を欲しかったのは流崎のため
だった。兄に、もっともっとこの世界を見せてやりたい。だが流崎は顔が売れて
いて、人前には出にくい。色々なところに連れて行くには、車が一番だ。だから
蒼井は兄の為に車が欲しかった。
「いいか、運転するのはお前だが、乗せるのは俺だけにしろ。それなら、俺が
買うのは間違ってないだろ」
「まったく、兄貴には負けるよ……でも、有難う。凄く嬉しいよ」
蒼井は目が潤むのを隠すように瞬いた。しかし一つ気になることが。
「あのさ兄貴……、もしかして次は家買おうとか考えてたりしないだろうな?」
流崎は答えず、箸を取る。
「さ、そろそろメシにしようぜ。折角のご馳走が冷めちまう」
「ちょ……兄貴!」
「我ながらローストチキンが上手く出来たんだ。早く食わないと勿体無い」
「答えろよ!」
紅白がさっき終わって、行く年来る年が始まった。
テレビの中で、除夜の鐘が鳴っている。
流崎がテレビを消した。
だがまたひとつ、どこかで鐘の音がする。と思うと今度は遠くのほうでこだま
のようにまた響く。普段余り意識したこと無かったが、この辺りにも結構寺があ
るんだな、と蒼井は思う。
「行くか」
流崎の声に、蒼井は頷く。
連れだって外へ出る。
「……あ」
蒼井の口から声が漏れた。雪が降っている。積もるほどではなさそうだが、ま
すます寒く感じる。
「傘、取ってくるか」
「このくらいならいい。神社までそう遠くないんだろ?」
「10分くらいかな、多分」
計算では、着いた頃にちょうど年が変わるはずだ。
蒼井がこの街に住んで何年か経つが、近所に初詣に行くのは初めてだ。初詣ど
ころか、神社があるなんてことも考えたことがなかった。
黒のシンプルなウールのコートの流崎と、グレーのダッフルコートの蒼井。並
んで、静まり返った住宅街の裏道を歩いていく。聞こえるのは二人分の靴音だけ。
他には時折、一本向こうの道を車が過ぎる音がするくらいだ。
自然と小声になりながら、ぽつぽつと会話する。
「両介、お前、流国神社のことは覚えてるのか」
「……いや、村のことで覚えてることは殆どないんだ。覚えてるのは、母さん
に『絶対に人を憎んでは駄目よ』と言われたこと位かな」
「そうか」
俺たちあんなに境内で遊んだのにな、と流崎が呟く。
蒼井自身、兄と過ごした子供時代のことを思い出したくて堪らないのだが、幼
過ぎたせいか、どんなに想いを凝らしても記憶は蘇えってこない。ため息が白く
消えていく。
雪を孕んだ曇り空は、星空より濁っている分白っぽくて明るい。このままどこ
までも歩いていけそうな気がした。今この瞬間、何も余分なものは無く、足りな
いものも無い二人だった。
たどり着いた近所の氏神さまの境内にはもうぱらぱらと人が集っていた。あち
らこちらに置かれた篝火と、ひときわ大きな焚き火、後は余り役に立ってない薄
暗い街灯、甘酒を配っているテントのランプくらいしか明かりはなく、まるで影
絵のようにすれ違う人々の表情は定かではないが、漏れ聞こえてくる声は新年特
有の、少し浮き足立ったような調子だった。
参道を歩きながら蒼井が腕時計を確認する。
「0時を回ったよ。明けましておめでとう、兄貴。今年も宜しく」
蒼井はぺこりと頭を下げる。流崎も微笑んで頷きを返す。
「ああ、こっちこそ宜しくな、両介」
そして拝殿の賽銭箱の前に立ち、賽銭を投げ入れ、手を合わせた。
ひととき、祈る。
もし、自分達に特別な力などなくて、普通の兄弟として育っていたら――と、
蒼井はよく想像する。多分、あまり仲の良くない兄弟になっただろうな、と思う。
一緒に暮らしてますます痛感するのだが、兄はびっくりするほど頭がいい。常に
二手三手先を読んで行動し、手先も器用、運動神経も悪く無さそうだ。そして、
この美貌、このカリスマ。普通に難関大学を卒業して一流企業に就職、バリバリ
仕事をこなして出世しそうなタイプだ。或いはさっさと起業して、若くして社長
業というのも似合いそうだ。どちらかというと内向的な私立文系人間で、高校の
国語教師になった自分が、こんな兄を見ながら育ったら、コンプレックスでいっ
ぱいの人間になったに違いない。兄の中にある、熱い、とも、ストイック、とも
言えるような、人間らしさに気づくことも無く。
蒼井には家族がある。妹もいる。だが、彼らに対して感じる感情と、流崎に対
して感じる感情は全く別物だった。勿論、家族のことは大切だ。妹のことも、か
けがえの無い大事な存在だと思っている。だが流崎に対しての、心も体も惹きつ
けられていく、この強烈な執着とは比べ物にならない。
血のつながった兄だからだろうか、と思ったこともあったが、それも違う気が
する。ならば特別な力を持つ者同士だったからだろうか。確かにそれは、きっか
けではある。だが今こうして目の前に居る流崎への想いは、力とか運命とかでは
なく、ただ相手がこの人だから、としか言いようがなかった。
蒼井にだってこれまでいくつかの恋愛はあった。だが流崎への強烈な感情に比
べたら、白黒と極彩色ほどの開きがある。流崎と互いの「力」を介して出会って、
相対するうちに、初めて自分の中にこんなに強烈な執着があることを知ったのだ。
今でも恍惚とともに思い出す。流崎の真実に気づいた瞬間のことを。
あれは、辰巳神父が亡くなった後のことだった。病院で揉みあった際に流崎が
落とした、自分のそれと色以外はそっくりな古びたお守りを眺めていた時、ふい
に、自分と流崎だけが持つ特別な力、これまでの流崎の言動、実家の両親が明か
した自分の過去、そして辰巳神父が遺した言葉といった、全てのピースがゆっく
りとあるべき場所に嵌っていき、一つの真実が目の前に現れたのだった。
それまで、なぜこんなことを? あいつの目的はなんなんだ?と答えは求めぬ
まま怒りと憎しみを向けていた。
だが、その「なぜ」には理由があり、しかもそれは弟である自分――蒼井両介の
ためだった。
人はこんなにも誰かに対して深い愛情を持つことが出来るのか。しかもその深
い愛情がそそがれたのが自分だとは――。その力と孤独、使命感、愛情……その
瞬間、世界がぐるりと回って、強烈な恍惚とともに全ての色合いが鮮やかに変わ
っていった。
支援!
だが、いつもどこかで不安なのだ。流崎が、自分を愛してくれていることは確
かだ。だがそれこそ、特別な力を持ってしまったがゆえに、同じ境遇の蒼井にシ
ンパシーを感じただけなのではないのか、と思う。自分なんて、兄に比べたら、
何の才能も持っていない、つまらない人間だ。自分が兄を愛したのは必然だが、
兄が自分を愛してくれたのは宿命という名の偶然に過ぎない。
だからいつも祈るような気持でいる。
神様、どうかこの人と一緒に居られますように。
この人が望む限りは離れません。だから少しでも長く居られますように。
先に顔を上げたのは流崎だった。しばらくしてから蒼井も顔を上げる。
「お前、随分長く祈ってたな。神頼みがそんなにあるのか」
「……え? いや……兄貴と一緒に、健康で平和な一年が送れますように、
って……」
蒼井は気恥ずかしくなって、少し言葉を丸める。間違いではない、筈だ。
「ふうん、俺とは少し違うな」
兄に鼻で笑われ、蒼井は少し気分を害するとともに兄が何を祈ったのか、とて
も気になってきた。
「俺にだけ言わせないで、兄貴のも教えろよ」
「――俺は、」
言いかけて、クス、と笑う。
「……やっぱ、やめた」
言うが早いか笑って駆け出す。
「ちょ……待てよ、兄貴! ずるいぞ!」
蒼井も笑いながら追いかけるが、流崎は意外に脚が早く、黒いコートという目
立たない服装も相まって、パラパラとした人ごみにまぎれてしまう。
「兄貴、どこだ!? どこにいる!」
兄を見失った、と思った瞬間、自分でもびっくりするほどの動揺が襲ってきた。
不安と恐怖で全身から汗がふきだす。人ごみを避けつつ参道を走りながら、目
を凝らしても、明かりは暗く、皆似たような服装で判別は難しい。
どうしよう。もし……このまま兄を見失ってしまったら。
このまま兄を失ってしまったら?
「兄貴……兄貴!」
気が遠くなりながら慌しく周りを見回す。するとこんな時間に小学生になった
ばかりの半ズボンの子供が前方を走っていくのが見えた。子供が振り返って、自
分にニヤッと笑いかけたとき、口が勝手に言葉を発していた。
「――兄ちゃん!」
そこには子供の姿などなく、歩いていた黒いコートの人物がくるりと振り返った。
「お前今、なんて言った?」
流崎だった。その目は大きく見開かれている。
蒼井はなりふり構わず流崎に駆け寄る。足がもつれて転びそうになる。流崎が
蒼井を抱えるように抱きとめた。その腕を強く揺する。
「ふざけんなよ! 急にいなくなって……心配するだろ! 俺、おれ……」
後は言葉にならない。
「……悪かったよ」
よしよし、というように流崎は蒼井の髪にかかった雪を優しく払った。
「ちょっと遊ぶだけのつもりだったんだ、本当に悪かったよ、両介」
「……いや、俺も大騒ぎしてごめん」
子供のような反応をした自分が恥ずかしく、一気に顔に血が昇ってきた。
「両介、いいか、ちょっと待ってろ。ちゃんと戻ってくるから。いいな?」
「……ああ……」
何かと思って焚き火の側で待っていると、流崎は甘酒を両手に持って戻ってき
た。
「あったまるし、落ち着くだろ」
受け取ったプラカップに口をつけるとふわりと独特の香り。懐かしい。甘酒な
んていつくらいぶりだろう。
焚き火に顔をあぶられながら、甘酒を口に含み甘い粒を噛んでごくりと嚥下し
た。体の中を甘くて温かいものがゆっくりと降りていくのが判る。
「流国神社でも、初詣には甘酒を出してたな」
「……てことは、辰巳さんが?」
「いや。父さんは宮司だったからな、配ってたのは母さんだ。俺もよく手伝わ
された。両介は駆け回って遊ぶばかりで、全然役に立たなかったな」
「子供だったんだ、仕方ないだろ」
怒りや気恥ずかしさがない交ぜになって、少しむくれた口調になってしまった
かも知れない。兄が沈黙した。気を悪くしただろうか、と傍らの兄を見上げると、
じっとこちらを見つめていたので蒼井はたじろいだ。
「……両介、お前、さっき俺のこと『兄ちゃん』って呼んだよな」
「……ああ、確かに」
「子供の頃のこと、何か思い出したのか」
「そうじゃない。でもなぜか咄嗟に……」
蒼井は必死に記憶を探る。今度こそ、思い出せるかもしれない。
だが――もどかしさに頭を振る。
「ごめん」
いいさ、と兄は笑う。――俺は覚えてるから、と。
「お前は昔から、本当に世話の焼ける奴だったからな。俺の後を付いてきたか
と思うと、勝手にはぐれて、泣くんだ。……ま、今も変わってないってことだ」
飲み終わったカップをゴミ箱に捨てて、流崎は歩き出した。
そして振り返って微笑む。
蒼井も後を追って、兄の横に並んで歩く。
確かに兄はいつも先に行ってしまう。
だけど蒼井を散々泣かせたその先で、兄はいつも自分を待っていてくれるのだ。
◇◇◇
ずっといないと思っていた。遥か昔に失われ、とうに諦めていた。
だが、弟は、思いがけなく流崎の前に現れた。
流崎は今でも、蒼井両介という名を初めて聞いた日のことを、感動とともに思
い出す。
あの日、流崎の長い夜が明けた。
外で車が止まる音がした。暫くして、アパートのドアが開いて、グレイのパー
カーにカーキのチノパンの蒼井が戻ってきた。
「兄貴、車、アパートの下まで持ってきた」
「ああ、こっちももう少しだ」
弁当は流崎の担当だった。おかずを入れたタッパーのフタを閉める。ステンレ
スの水筒にほうじ茶も詰めた。後は、デザートのリンゴとイチゴを用意すればい
い。
「じゃ、俺、荷物積み始めてるから、兄貴もそろそろ、」
頼む、と言いながら慌しく弟が部屋を出て行く。
流崎は鼻歌を歌いながら慣れた手つきでリンゴを剥き塩水にくぐらせると、洗
ったイチゴと一緒にタッパーに詰める。
バリスタエプロンを外し、いつもの黒い上着を羽織る。弁当一式を持って、ア
パートの鍵を閉め、下で待ってる弟の元へ急ぐ。
車のトランクに弁当をしまい、助手席に乗り込んだ。
「待たせたな」
「じゃ、行こう」
蒼井が、ハンドブレーキを押し込んで、車は滑るようにスタートした。
クリスマスに流崎が蒼井にプレゼントした車は二人乗りのグレーのオープンカ
ーだった。以前CMを見て気になっていた車だった。初めて見たとき弟は「すげ
え!」とひとしきり喜んだ後、「……国産にしてくれて良かったよ」と安心したよ
うに呟いていた。そう言うと思って外車は止めたのだった。
支援
今日は4月上旬にしては暖かい。まさにドライブ日和の好天。冬の間は閉じて
いた可動式のキャノピーは、久しぶりに開けてあった。風が気持いいが、日差し
は眩しいほどで、流崎はサングラスを取り出してかけた。
もうカーナビには場所が登録されているようだ。このままうまく行けば、昼前
には目的地に着くはずだ、と蒼井は言う。
「それで、お前が言ってた花見の穴場ってのはどこなんだ」
「学生時代にサークルで毎年合宿してた那須の近くに、古くからある畜産試験
場があってさ」
「畜産試験場ねえ……」
「そこは桜の大木が何本もあるのに地元の人も余り知らないみたいで、空いて
たんだ」
流崎としては、アパートの近所で見られる桜だけでも満足だったのだが、蒼井
が、兄貴と花見に行きたい、と常にない熱心さで言うので、行くことにしたのだ。
蒼井は、顔が知られているために流崎が外出を避けていると思っている。確か
にそれもあるが実は他にも理由があった。
流崎は余り都会が好きではない。子供の頃暮らしていた流国村は人口が少なか
ったし、荷野宮に連れられて村を出た後は、地方の施設から拘置所だ。拘置所を
逃げ出して、初めて東京に出たときは、こんなに多くの人が、一体どこからやっ
て来たのだろうとうんざりしたものだった。
流崎は、一対一だったらどんな人間と対峙しても恐れるということは無かった。
それが拘置所の所長であろうが、大臣であろうが、大企業の社長であろうが、自
分に有利なルールを組んだゲームに持ち込めばいい。それは「神の手」という特別
な能力を持って生まれ、その力めがけてエゴをぶつけてくる周囲と渡り合ううち
に自然と身に付けた護身術のようなものだった。だがそれも大人数相手には役に
立たない。人間は集団になると醜さと愚かさが剥き出しになりやすく、それに抗
するのは難しいということもイヤというほどわかっていた。だから、今だに多人
数の人間を見ると無意識に警戒してしまう自分がいた。それ故に、実は外出への
欲求はそれほど無かった。
だがこうして出かけてみればやはり心浮き立つ。オープンカーで走っていると
、時折桜の花びらが座席まで舞い込んで来る。東京の桜は、昨日満開を迎えてい
た。都内でも意外に桜が多くて、桜の並木になった道路や、満開の桜でこんもり
盛り上がった公園がそこここに現れるので、車からでも十分楽しめた。
信号待ち、蒼井が流崎を横目で見て笑う。
「なんだ」
「兄貴がサングラスすると何だか、芸能人のお忍びデート、って感じだからさ」
「悪かったな」
言われて気になり、外す。
「外すところもサマになってる」
「そうかい」
半分はからかいだとしても、半分は本気なところが、この弟の凄いところだ、
と流崎は思う。
蒼井が時折、本気で流崎の顔立ちを誉めてくることに、流崎は閉口していた。
流崎から見たら、弟の方が自分より全然いい顔だと思うのだ。気持ち良さそうに
運転している弟の横顔は、午前中の春の光がとても似合っていた。
今でも思い出すのは、あの女刑事から「手で触れただけで人が殺せる蒼井両介」
の話を聞いた瞬間のことだ。
悪魔の手を持つ男・蒼井両介は、鬼の手を持つ弟・リョウスケにまず間違いな
かった。弟は母とともに村はずれの沼で死んだと思っていただけに、生きていて
くれたことには、ただただ、感動があった。
そして次に感じたのは、渇望、そして恐怖だった。記憶の中の弟は、世話は焼
けるが純粋さの塊のような存在だった。「神の手」を巡って殺伐としていく村の中
で、母の愛と弟の純粋さだけが流崎の救いだった。あの弟にもう一度会えるのな
らば、どんな代償を払っても構わない。ただ、ひと目会いたかった。
だが、あれからもう20年が経つ。弟がどんな人間になっているか想像もつか
ない。もしかしたら自分のように、他人を利用したり操ったりするとこに何の呵
責も感じない、醜い人間かも知れないのだ。そんな人間が「悪魔の手」を持ったら
どうなることか……。もしそんな人物ならば破滅するに任せようと思っていた。
とは言え、あのリョウスケだ。純粋なまま育っている可能性だってある。だが
、この世知辛い世の中で、そんな奇跡のようなことがあり得るだろうか。更に、
そんな人物が「悪魔の手」などという過酷な人生に耐えられるだろうか。
早速女刑事を丸め込んで、その蒼井両介と会う段取りを付けながら、両介がど
んな人物かに合わせて、何パターンか、起こりうるシナリオを頭に書いてみた。
果たして現れた、蒼井両介。ひと目見て判った。こいつは弟のリョウスケだと。
最初に何を問うかは、決めていた。
触れただけで人を殺せるというのは、どういう気持ちか、と。
それを問われた瞬間の蒼井の表情を流崎は見逃さなかった。重い十字架を背負
って耐えようとする、美しい顔だった。もともとの端正な顔立ちに、生来の優し
さと潔癖さ、そして使命感が加わって磨き上げられた顔。蒼井が美しいのは、生
き方が美しいからだ。自分の上っ面一枚の「美貌」などとは価値が違う、と思った。
ああ、こいつは俺のリョウスケだ――湧き上がる歓喜とともに流崎は思ったも
のだ。その平静さをわざと乱して泣かせたくなる風情まで昔のままだった。自分
とは違い、人を殺すという能力に深い罪悪感を感じ、だが授かったからには、そ
の力を何とか世の中のために使いたいと苦悩する男。この世にあって奇跡のよう
な存在だった。だがそれこそがリョウスケだった。
その瞬間、それまではただ、死ぬまで生きるしかないだけの流崎の人生に、絶
対の目標が生まれた。
こいつに、自分が辿ってきたような、修羅のような人生は、絶対に歩ませない。
「兄貴、一度車止めるよ。高速に入る前にキャノピー閉めた方がいいだろ」
「……ああ」
コンビニの駐車場に車を入れると、ソフトトップになっているキャノピーを閉
じる。
「俺、ついでに冷たいお茶買ってくる。兄貴、何かいるもんあるか?」
「……いや、いい」
判った、と言って蒼井はコンビニに入っていった。
去り際の蒼井の顎の陰にチラリとキスマークが見えて、流崎の顔が思わず緩む。
昨晩、蒼井が理性を飛ばしている間につけた印だった。気づいたら烈火のごとく
怒るだろうが、怒られるのも楽しみのうちなのだから我ながらタチが悪いと流崎
は思う。
蒼井と出会ってからの流崎の行動は全て蒼井の為だった。まずは脱獄、その後
、自分が力を公表することでどんな事態に巻き込まれるかを蒼井に見せる。やが
て蒼井が自分の力と向き合い、試練に耐えられる強さを身につけたら、自分は退
場すればいい――。全ては流崎のシナリオ通り進んでいった。そのせいで蒼井自
身から、憎まれても罵られても気にならず、むしろ爽快でさえあった。楽しくて
、楽しくて――だから思わぬ望みが生まれてしまった。
生きていきたい。こいつと一緒に。
持ち重りのするこんな力ごと、弟に滅ぼして貰えたら本望――と思っていたは
ずが、打ち消しても打ち消してもその望みは消えなかった。これまで周囲も自分
自身も冷静にコントロールしてきたはずなのに。
だからあの日、流国ダムの上で賭けをすることにした。自分一人が死ぬか、二
人で死ぬか、二人で「神」になるか。それはもはやゲームでさえなかった。
だが蒼井は、二人なら生きていける、と流崎に告げた。全く予想外の答えだっ
た。
そして今、本当にそうしている。
それも、自分が望んだとおりの形に。
まだ夢の中に居るような気がする。目覚めたら、また自分はあの拘置所の独房
の中にいるのではないか。或いは以前夢で見た、自分と弟が「神」になってしまっ
たあの恐ろしい世界に――。
あの夢を見たのはもう昨年のことなのに今でも時折流崎を苛む。夢の中で、流
崎と蒼井は、神の手と悪魔の手を失わず、力を生かして、世界に神として君臨し
ていた。状況は行き詰まっており、流崎は弟を愛するあまり壊してしまう。あの
夢が恐ろしいのは、あれもまた一つの真実だからだった。今も自分の中には闇が
ある。それがいつかリョウスケに向かう日が来ないとも限らないのだ。流崎が恐
れているのは他人ではなく自分だった。
そもそも自分とは違い、真っ当な家庭で真っ当に育てられた弟。本来ならそろ
そろ、ごく普通に女性とつきあって、結婚でも考える頃合だろう。だが、自分と
関わってしまったが故に、実の兄と、兄弟を超えた関係にまで踏み込ませてしま
った。体の関係を持つことまでは想定していなかったが、そうした手練手管が必
要になったら使おうとは思っていた。何しろ、拘置所時代には様々な目に遭った
。体で心を掴むやり方が、いくらでもあることは知っていた。
だが結局、お互い暴発するような形でセックスをしてしまった。だがそれは流
崎が知っているそれまでのセックスとはまったく違っていた。好きな相手とする
、というのはこういうことかと驚いた。
そこからは、溺れたし、溺れさせた。弟は男となんてやったことはなかった筈
で、どう考えても、悪いのは自分だが、後悔する気は無い。弟と違って自分は善
人ではない。手に入れた幸せを手放す気は無かった。初詣で手を合わせて思った
のは、こいつのことは、絶対に一生手放さない――という、願いではなくむしろ
決意表明、いや、宣戦布告に近かった。弟は随分可愛い願いを祈ったようだった
が……。
蒼井がコンビニの袋を提げて戻ってくる。
「缶ビールとウエットティッシュと、一応、紙皿とコップも買ってきた」
そう言いながら、緑茶のペットボトルのキャップをヒネり、ごくごくと飲む。
「両介、ひとくち」
流崎の言葉に、ああ、とペットボトルを渡そうとするが、その目を見て、顔を
赤くする。
「そういう意味かよ……」
蒼井の目が周囲を伺う。駐車場に人影は無い。緑茶をひとくち含むと、蒼井は
流崎に口付けてきた。
流崎は蒼井の口内から、こぼさないようにしながら蒼井の味のする緑茶を吸い
出してごくりと飲み込む。勿論飲み込んだ後はそのまま舌を入れ、蒼井の口内を
味わう。
「……ん、ふ」
蒼井も最近では慣れて、こうしたことに大分抵抗しなくなった。だがさすがに
、そのまま続きという訳にはいかなかったようだ。キスを終えると平気な風を装
っているのがバレバレの赤い顔で、それでもハンドブレーキを押し込む。
「車、出すよ」
「なら、続きは着いてからだ」
車を発進させながら蒼井が、それは勘弁してくれよ、と小さく呟くのが聞こえ
た。
車のエンジンを切ると急に静かになった。
古びたテニスコートの横、まだ辛うじて轍の後が残る砂利道のどんづまりに駐
車して、降りる。
畜産試験場の敷地に入ってから随分うろうろした。試験場内は確かに他の名所
より人は少なかったが、ある程度桜がまとまって生えているようなところには先
客がいたし、人が居ないところは、畜産試験場らしい匂いがしていたりして、落
ち着く場所を捜しているうちに随分奥まで来てしまった。とりあえず、駐車でき
るところを探して、歩いて探してみるかということになった。
東京より寒いかと思ったが、良く日が照っているせいもあって、日向では汗ば
むほどだ。このテニスコートが試験場のものなのか、それとも全然違うのかわか
らないが、コートのあちこちから雑草が生え、フェンスも錆だらけで、もう何年
も使われた形跡が無い。コートの横から奥へと、雑草に侵食されかかった獣道が
あって、その向こうは雑木林になっていた。まだ春浅いせいか緑というより新芽
独特の銀鼠色で霞む木立の奥に、淡紅色のこんもりしたシルエットが見えた。
「――あれ、桜だよな。あそこに行ってみるか」
「判った。荷物降ろすぞ」
トランクから取り出した荷物を持ち、二人揃って細い道を歩いていく。時折ピ
ツピツピツ、と鳥が鳴くくらいで、後は二人が枯葉や下草を踏む足音と渡ってい
く風くらいしか音がしない。久しぶりの静けさが流崎には心地よかった。あたり
に漂う、雑木林らしい少し煙いような匂いも流国村を思い出して懐かしかった。
「――すごいな」
桜の近くまで来て、蒼井の口から感嘆の声が漏れた。流崎も思わず足を止める。
薄暗い雑木林の、その一角だけ淡紅色の桜の林になっていた。
ちょうど正午の、真上からの日差しを受けて、満開のソメイヨシノからは、花
片がスローモーションのようにゆっくり降っていた。ソメイヨシノの他にも、花
びらが大きくて色が濃い枝垂桜や、背が高くて三分咲きの花弁が白い山桜や、蕾
が重たそうな八重桜など、何かの試験林だったのか十本ほどの様々な種類の桜の
古木が、等間隔で植えられているせいもあり、良く光が射して、渋い色合いの雑
木林の中でそこだけぽっかり明るい。まるで神域めいた荘厳な空間だった。
しばし、二人で言葉もなく立ち尽くす。
多分この先何度も、この日この時のことを思い出すであろう瞬間に、今二人は
いた。
どちらからともなく顔を見合わせると、笑顔が浮かんできた。ごく自然に、唇
を合わせた。
そして光の中へ揃って足を踏み入れる。
ひとまず荷物を降ろし、ソメイヨシノの、一際大きく張り出した枝の程よい日
陰に場所を決めた。蒼井が、下草を踏んで慣らし、落ちた大きな枝などをどけて
、瘤になった根を避ける。蒼井の手順には迷いが無くて、流崎は感心した。ピク
ニックシートを広げるのは二人でやった。それぞれ端を持ってフワリと下ろす。
地面との間の空気を抜き、四隅を石で押さえる。流崎はだんだんと子供のように
心が浮き立ってきた。思えば、花見も初めてだが、こんな風に戸外で弁当を食べ
るということ自体が初めてかもしれなかった。
流崎が持ってきた弁当を並べると、あっという間に花見の準備は整った。
日差しが遮られた花陰の下はひんやり涼しい。蒼井が缶ビールを渡して寄越す
。時折ヒラヒラと花びらが落ちてくる中、二人揃ってプシュと缶ビールのプルト
ップを開け、乾杯。ごくごくと飲み干し、しばし余韻に浸る。
「……なるほど、花見ってのは、気持いいな」
「そうだろ? でも俺も、兄貴と一緒だからかな、こんな楽しい花見は初めて
だ」
弟が可愛いことを言うのでムラっときたが、我慢してタッパーの蓋を開けてい
く。蒼井が歓声を上げた。
「うわ、凄いな。美味そうだ」
それはそうだ。どれも蒼井の好きそうな物ばかり集めたのだ。胡麻をまぶした
鶏つくね、春キャベツのメンチカツ、インゲンとチーズの海苔巻き、菜の花の胡
麻和え、スペイン風オムレツ。我ながら、どの料理も上手く出来た。ただ、以前
からそうなのだが、おにぎりだけはどうも上手く握れなくて、蒼井に手伝って貰
った。小さ目のサイズで、具は梅干・シャケ・タラコとスタンダードだ。
支援
もっかい支援
「このつくね、なんかコクがあって上手いな。ビールが進むよ」
「隠し味に味噌とマヨネーズを入れたからな」
「……なあ兄貴、いつも不思議だったけど、こういうメニューって、どこで調
べるんだ? 本か? それとも自分で考えるのか?」
紙皿におかずをいくつも載せ、おにぎりを頬張りながら蒼井が尋ねる。
「大抵はネットだな」
「へえ……ああいうメニューってネットに出てるんだ」
流崎は普段、蒼井が仕事に行く時の弁当も作っている。蒼井は嫌いなものが殆
どなく、いつも綺麗に食べてある。以前ウインナーを入れたときだけ、出来れば
タコ型に切るのは止めて欲しい、生徒にからかわれるから、と丁重な口調で断り
が入ったものだった。流崎としては手本の通りにやってみただけなのだが、何か
問題があったらしい。
「最近、生徒達が俺の弁当を、うまそうだからってチェックするんだ。職員室
までやってきておかずをたかるヤツもいてさ……」
絶対やらないけど、と少し意地悪そうに笑って、蒼井はビールを美味しそうに
飲む。その様子がおかしくてクスリと笑いがこぼれた。
「まったく、意地悪な先生だ」
「弁当の時間くらい先生じゃなくてもいいだろ」
「生徒用に今度、何か多めに作るか?」
「絶対ダメだ! あいつら食べ盛りだから容赦ないんだ。一度でも兄貴の料理
を食わせたら、大変なことになる」
真顔で言うのがおかしくて、流崎はとうとう声に出して笑ってしまった。
「大体あいつらさ、こないだだって新しいクラスで……」
蒼井が、この4月から担任し始めたばかりのクラスの話を、ビール片手にご機
嫌で始めた。弟は学校では『蒼井っち』などと呼ばれて、意外に人気者らしい。
教師という仕事を心から愛しているから、それが生徒にも伝わるのだろうと流崎
は思う。拘置所暮らしが長かった流崎は、なりたい職業どころか、将来さえ考え
たことは無かった。今も特にやりたいことは無い。だから余計に、仕事に真剣に
取り組む蒼井を支えてやりたいと思う。
向かいで楽しそうに喋る弟の話に相槌を打ちながら過ごす、他愛が無いけれど
かけがえの無い時間――。そろそろおかずも食べ終わってきた。空になったタッ
パーを片付け、デザートの果物を入れたタッパーを開ける。すると、蒼井がちょ
っと変な顔をした。
「おまえ、リンゴかイチゴ、どっちか苦手だったか?」
「いや。リンゴが、綺麗に剥いてあるな……ってだけ」
「綺麗に、ね……」
兎型に剥いたリンゴがいけなかったのだろうか。ネットで見たとおりにやって
みたのだが。怪訝な顔をする流崎に向かって、蒼井はリンゴを一個取ると、シャ
リとかじって見せた。
「うん、うまいよ」
「……なら、いい」
流崎もリンゴを手にとってかじる。
「ちょ……兄貴! 痕はつけるなって」
やっぱり怒った、と嬉しくなる。顎から耳へと唇で辿り、耳元で囁く。
「明日も休みだろ。学校までには消える」
言いながら下半身に手を伸ばす。唇で柔らかく耳を食みながら、もう形をかえ
つつあるそこを、ジッパーを開けて自由にしてやる。蒼井が声を漏らして、身じ
ろぎする。
体勢を変えて取り出したものを口に含む。
「うあっ」
唇でくるんで、粘膜を使って先端を刺激してやると見る見るうちに形を変えて
いく。仰ぎ見ると蒼井は普段のストイックさは欠片もなく、忘我の表情で形の良
い口元を震わせていた。流崎はこの瞬間が好きだった。蒼井の全てをコントロー
ルしているような気持になってくる。実際、蒼井は流崎の口淫に合わせ体をゆる
く揺すり、時々快感に耐えかね体を跳ねさせる。
「ふ……あ、っ、ああぅ、あ、あにき……」
荒い呼吸から訴える声が甘い。以前に比べて、行為に随分積極的になった。口
でしゃぶってやりながら、浮いた腰からボトムを脱がす。
ジャケットのポケットに入れておいたジェルを取り出すと、指にまぶし、蒼井
の後ろに突っ込んだ。
「んっ、あ、あ、あ、あ……っ」
中はとろっとして、自分の指を待っていた。動かす指に合わせて声を上げる様
が愛しい。欲しがられていたのだ、と実感する。口淫も続けながら後ろも刺激し
てやると、感じやすい蒼井はすぐに昇りつめて来た。
一度口を離し、体勢を変える。流崎は、幹にもたれるように座った。そこに向
かい合う形で蒼井をまたがらせてゴムをつけたものを挿入する。
「もっと、奥までくれ、よ……」
蒼井が言って、ねだるように自分で腰を揺する。入れたものが蠕動に巻き込ま
れて、思わず持っていかれそうになり、声があがる。
「……ん、っ、」
「……兄貴も、いいんだ」
「ああ……いいよ。凄く、いい……」
相手を欲し、相手から欲されるこの行為以上に気持いいことなどこの世にはな
い。蕩けきった顔の蒼井と音をたててキスをしていると、その瞳に自分の、やは
り蕩けた顔が映っていた。
自分がこんな顔をするなんて、想像もしなかった。
自分が誰かを愛することも、その愛した誰かから愛される日がくるなんてこと
も、想像していなかった。
「……兄ちゃん、って言えよ」
流崎にしてみれば、いつものプレイのつもりだった。
「……え?」
「兄ちゃん、って言ってみろ」
蒼井は目を見開いた。口が逡巡の形にゆがむ。恥ずかしくて言えないのか、と
思ったらそうではなかった。見る見るうちに蒼井の瞳に涙が盛り上がってきて、
流崎は慌てた。泣かせるのはいつものことだが、ちょっと様子が違う。
「おい、両介。どうした? どこか痛いか?」
「……あんたはさ」
涙を隠すようにうつむいた蒼井がくぐもった声で言う。弟から、あんた、と呼
ばれたのは随分久しぶりのことだった。
「やっぱり俺のこと、弟だから好きなのかよ」
思っても見ない方向に話が転がっていて流崎は少し戸惑った。
「……両介、なんでそんな話になるんだ?」
「俺は、あんたが兄貴じゃなくてもきっと好きになった。きっとじゃない、絶
対に。でも兄貴はいつも兄貴だ。俺が弟だから、『悪魔の手』を持つ人間だった
から、こうして構ってくれるんだろ――」
「お前――」
蒼井が涙目で見上げてくる。その顔を見つめて流崎は瞬いた。
全く、こいつは――。全身に愛しさと喜びが広がる。
「……! 兄貴、ちょっと、これ、ん……あっ」
「ああ……お前が、かわいいこと言うから、だろ」
蒼井の言葉で質量を増してしまったもので蒼井の中をえぐる。
「……なあ、両介」
「な……んっ、あ、にき……っ」
「……これが、兄弟にすることかよ……っ」
揺すり上げてやると、一際高く声があがった。
「だめ、ちょ……ア、ア、う……んっ」
乱れた声に、流崎ももう我慢がきかない。欲望のままに一気に抽挿を激しくし
た。体中に響いているうるさいほどの鼓動が自分のものなのか、繋がったところ
から伝わる弟のものなのか、もう判らない。どこまでが自分の快感で、どこから
が相手の快感なのかも――。
果てたのは同時だった。
頑張れ
脱力した弟が、とす、と肩に頭を乗せ体を預けてくる。その荒い吐息さえ愛お
しい。腰を支えていた両手を、背中に回し抱きしめる。蒼井も力の抜けた腕で、
それでもしがみつくように、流崎を抱いてきた。
「全く、お前は……」
「……好きなんだ、あんたのこと。自分でもおかしいって思うくらい好きなん
だ」
壊れたように言い募る蒼井の背中に、点々と桜の花びらが付いていた。汗で濡
れた髪にも絡まっていた。多分自分の髪にも幾らかは載っていることだろう。後
から後から、花びらは落ちてくる。
蒼井の、汗がまだ引かない背中を撫でながら、流崎もささやく。
「ああ……俺も、同じだ。お前を愛してる」
流崎は祈るように瞳を閉じた。眼裏にチラチラ映る、桜の枝と傾いてきた太陽
と、降りしきる花びらの残像。
ずっといないと思っていた。遥か昔に失われ、とうに諦めていた。
静かに瞳を開く。
だけど今、こうして腕の中にはリョウスケがいる。
何かを叶えて欲しいという願いでもなく、どうしてこんなという怒りでもなく
、ただ感謝の気持だけで空を見上げる日が来るなんて。
目の前には春そのものの光景。
祝福のように花は降りしきる。
祝福のように花は降りしきる。
384 :
ホームドラマ:2009/12/21(月) 03:24:42 ID:gN3d/NdV0
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
本当にこいつらが大好きなんだ…書いても書いても飽きないんだ…。
最後の最後にエラーが出て焦った…。
支援してくれた姐さんたち有難う!
>>384 とりあえず、乙としか言えないわ…
支援の人も乙です…
とっても乙!
でも32ががががっ!
※すみません! 抜けてました! 割と肝心なところが…
少しだけ、日が傾いてきた。一時を回ったくらい。まだもう少し暑くなるのか
も知れないが、花びらとともに木陰に吹く風が気持いい。
「なあ兄貴、来て良かっただろ」
「……ああ」
目の前には春そのもの光景があった。全てが新しく、ここから始まっていく季
節だった。
上からは、桜を透かして光と花びらがこぼれてくる。
ふと、不思議なことに以前こんな風景をどこかで見たような気がした。そんな
訳ないのに、脳裏にダブる光景がある。満開の桜の下、並ぶご馳走と、集まった
人々の笑顔。降りしきる花びら。思い出した。去年見ていたドラマのエンディン
グ画像だった。
だが今、自分はドラマを見ているのではない。これは現実だった。どんなドラ
マよりも素晴らしい現実だった。一番素晴らしいのは、この物語に終わりは無い、
ということだった。
顎を引き寄せ口付ける。そのまま押し倒すと、拍子抜けするほど弟は従順だっ
た。
組み敷いた蒼井に流崎は尋ねる。
「抵抗しないのか」
「覚悟はしてたよ。でも人が来たらどうするんだ」
「誰も来ないだろ、こんなところ。それにもし来ても気づくさ。そしたら止め
ればいい」
そう言うと思ってた、とため息をつくナマイキな口をまたキスでふさぐ。すぐ
に舌を絡めて、お互い夢中になった。
インナーの下から素肌に手を滑らせ、胸の飾りをいじりながら、首筋にキスを
降らせる。さっき見つけたキスマークをもう一度付け直してみる。
389 :
342:2009/12/21(月) 09:14:58 ID:dyHHydAL0
>341
割り込み失礼しました
>>327-331 遅ればせながらGJです!!
大友主従大好きなので物凄く萌えました。
可愛いオッサンは正義。カッコいいオッサンも正義。
絡みスレ逝けよ
長時間スレ占拠しすぎだろ…
投下も支援もルール読めよ
具体的に何時間以内とか書いてないと長時間かどうかの判断も出来ないの?
>>322 乙でした!
昨日、再放送を観て、「ネズミなのに……!」と思いながらもやもやしてたので
早速ここで読めて嬉しかったよ! 萌えた!
そういえば、お父さん名前出てないね
>>393 言いたいことは分かるが、
議論なら然るべき場所でやってくれ。
この人ローカルルールすら読めてないみたいだからまずはレスで注意するしかないでしょ。
然るべき場所で、というなら誘導してあげないといけないんじゃない?
当の本人がいなくて外野だけ別の場所で話しても意味ないし。
>>388が
>>3読めって言ってくれてるじゃないか
相談でも議論でもない、ここで本人に伝えなくてはならない注意だよ
色んな人に知ってほしいからこそ自分等だけ楽しければいいって考えは捨ててほしい
まあ、一度の投下は一桁位が良いのかもな
仲良く楽しもうぜ
>>311 いつもありがとうざます。バソユウキをアップしくださる姐さん。
本当に文章も美しい。毎回、「おおーーっ来たーーっ!」とわくわくしてます。
ところで、バソユウキの登場人物のビジュアルは、漫画家のシ波津シ林子さんの
絵で読んでます、私。特に佐治が怒門に顔を寄せるときなんか。
生
一角獣、鍵盤四弦鍵盤
ほのぼのというか、アホかも
少し早いクリスマスネタ
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「えーっと、あれは準備したし、これもあるし……」
部屋の中を歩き回って、クリスマスパーティー準備に余念ないのは一角獣の鍵盤さん。シャンパンにケーキ、ターキー……そう呟いて、ふと見上げた先のハンガーにかかったサンタの衣装を見て、ニヤニヤしだす。
かかっているのは男物のサンタ衣装(上だけ)とミニスカサンタの衣装。どちらとも着たら確実に裾は膝より上だ。
「絶対似合うよね、これ」
着せる相手は同じバンドの四弦さん。
「……楽しみだ」
すぐそばに鏡があるが、彼はそこをスルーしてベッドの周りも確認する。何故鏡をスルーしたのか……理由は簡単。自分の浮かれた格好を見て冷静になりたくなかったから。
……なにせ、トナカイの全身タイツ着てるからね。頭の片隅に冷静な自分がいるからあえて見ないふり。
全て確認して時計を見ると約束の時間。駐車場に着いたら連絡が来るはずの携帯は沈黙したまま。
ソワソワしだした彼は携帯を手に取って電話をかけてみた。
『……もしもし〜』
「あ、まだつかな……」
『今起きたよ〜ねーねー、迎えに来てよ』
がっくりとうなだれる彼は力無い声が思わず漏れます。
「……マジ?」
『ごめんね?』
首を傾げて、かわいい声で謝ってるのが解るだけに文句を言えなくなった彼は、すぐ迎えにいくから準備して待ってるように伝えて電話を切りました。
「俺、甘いね」
一人呟きながらバタバタ衣装を脱いで着替えます。
彼はまだ知りません。ドアを開けたらそこに寝てたはずの人が立ってる事を。呆然としている間に部屋に上がられてトナカイ衣装を彼が着てしまう事も。
必然と言うか、なし崩しにサンタの衣装を着せられて……美味しくいただかれてしまう事も、四弦さんが鍵盤さんをいただくことを最初から狙っていた事も、鍵盤さんは知りませんでした。
ま、きっとそうなっても幸せ何でしょうけども。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
クリスマスに浮かれる鍵盤を書きたくて書いたら、もれなく、腹黒四弦がついてきたんだ…
色々スマソ
でも後悔はしていない
>>401 倒置法な書き方がアホさを強調してて、変態的な情景を絵本のような錯覚で包んでほんわかに見せかけてる感じが好きです
棚
まとめサイトで絵師募集してるひとはなんなんだろう
他所の板で募集してるのをいちいち貼り付けてるけど、板違いもいいとこなんじゃ?
>406
絡みへの誤爆?
生。将/棋/星/人がhubなコピペネタ。冬編。
山魔。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )コピペニマジレス カッコワルイ!
ショーケースの中の、空白地帯をねめつける。
「えー、このお店にはモンブラン置いてないんですか?」
「申し訳ございません、生憎と切らしておりまして・・・」
「中に栗は入ってなくていいんです。どうにかなりませんか」
「そういわれましても・・・」
玉子雑炊玉子抜きが許されて栗抜きモンブランが買えない世間の理屈がよくわからない。
おそらくこれは敵の盤外戦術だ。
地球は現在、外宇宙からの侵略を受けている。将/棋/星/人が攻めてきたのだ。
というか、四冠が既に将/棋/星/人だった。大変コメントしづらい状況である。
人類代表を決めるための全キシ参加キ戦を催す時間的金銭的余裕も無く、実績と相性を考慮したうえで吟味し
た結果
季節は春でも夏でもなく冬だったので、人類代表の白羽の矢は僕に立った。
(ボナソザのときとおんなじだ)
自分の立ち位置はよくわかっている。勝っても何も得るものが無く、負けると全てを失う大一番に
連盟が投入できる最強の尖兵。箔はあっても格はない、可愛げもない若造タイトルホルダー。
別にそのことには不満はない。
出来る準備は怠らず、獲る物は獲り、勝負所と見れば頭から突っ込むだけだ。
もし自分以外がその役を受けたなら、僕は屈辱と心配で毎晩のた打ち回るだろう。
しかしこの場所は見晴らしはいいし気持ちいいけど、高くて寒くて少し怖い。
もうちょっと誰か他に居てくれてもいいのに、とも思う。
こういうとき想うのはたいてい同期でも兄弟子でもなく関西の彼で
こうしているときもきっとあっちで息をするように女の子に粉をかけているんだろうと思うと腹も立つ。
出会いはなかなか衝撃的だった。
史上4人目の中学生デビューを果たした僕の前に立ちはだかった3歳年長の関西の新鋭は
甘いマスク(笑)でちょっとニヒル(笑)で影を背負った(笑)美少年(笑)通称王子(笑)。
・・・漫画かよ、と。
果たしてその実態は、研究将/棋全盛のこの時勢に天然記念物級のアホ力戦で、
話してみると意外と人懐っこくて楽しくて、手合いがつくのは楽しみになった。
よく訓練された猟犬の攻め将/棋と獣道から回り込み翻弄する受け将/棋は、噛み合ってよく燃えた。
彼の成績もキ風そのままに良くも悪くも期待を裏切って迷走し、水をあけたつもりでも
准尉戦では後ろにぴたりとつけられて、結局同じクラスにいる。
・・・回想は唐突に断ち切られた。なぜか本人がすぐそこに立っていた。
相変らず格好だけは冗談のようにかっこいい。
「岸会会長からの任命を受け、関西/本部代表として立会いに参りました。明日は宜しくお願いします。
・・・こちらはずいぶん寒いね」
「こちらこそ。宜しくお願いします・・・立会いって? 聞いてないんだけど」
なんだか可愛い女の子のにおいがするなあ、などといいながら彼は身を寄せてきて、不意に声を低くする。
「渓川先生はこの件では関西から出さない。本人が行くといっても断固阻止する。
九募先生は戦力として温存。これが関西の決定や。渡部さん、ごめん」
「それは渓川先生が居ない所で決めたんだ」
「よくご存知で」
「ん、僕もそれでいい」
渓川先生は将/棋/星/人に狙われている。
馬に蹴られて死ぬなら本望だ。できるなら、日本の隅っこまで連れて行って8八銀と蓋したい。
ふと目を上げると、至近距離で彼がニヤリと笑った。
「何?」
「かためてどーん、って顔してた」
つ、と彼が身を離して、木枯らしが寒いことにあらためて気づく。
「代わりといっては何だけど、俺のことは好きに使っていいよ」
「こんなときに大盤解説もないだろうし。何て言われて来たの?」
「もし渡部さんが『じつはわたしも将/棋/星/人でした』とか言い出したら、全力で懐柔しなさいと。
そうでなきゃただの応援。あ、これは差し入れ。渡部さんの好きなモンブラン」
そう、ずっと持ってる紙袋は気になっていた。将/棋/星/人の魔の手も大阪までは及ばなかったらしい。
わくわくして中を覗いた分・・・・・・失望は大きい。
「山咲さん、これはマロングラッセという食べ物だよ」
「へー、そうなんだ」
この言い方はきっと三日で忘れる。
もし僕が将/棋/星/人だったなら、彼は「モンブランとマロングラッセを間違えて交渉を決裂させた男」
として歴史に名を残しただろう。惜しいことをした。
「実はあんまり深刻には考えてないんだよね。
これで負けたらもう二度と将/棋指せないっていうなら僕も本気で困るけど」
「・・・言ってる意味がわからないんだけど」
「いやほら、例えば囲/碁/星/人が攻めてきて、負けたら以後将/棋禁止とか」
「その場合、勝負は囲/碁でするでしょ」
「ああ、そっかなるほど」
全くこの人は・・・と思ったところで携帯が鳴り、失礼といって出ると、電話の向こうの連盟事務局は
関西/本部がこの対/局には一切干渉せず第二次防衛線として待機すると通達してきたことを伝えた。
「もう一度聞くけど。君 は 何 で こ こ に い る の」
「渓川先生に、訊きに行ったんですよ。先生なら、こういうときどうして欲しい?って」
決戦の地は、センダガヤ。いつものあの建物だ。
夕暮れに風花が舞い始め、ふらふら歩く彼は風除けにすらならないけど
伴走する伏兵の存在を僕はしっかり胸に留めておく。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
人称がブレるのは仕様。
改行がブレたのはただのうっかり。
>>412 ショーギ星人ktkr
>できるなら、日本の隅っこまで連れて行って8八銀と蓋したい。
惚れたw
>>412 だが萌えは断じてブレない!素敵なものをありがとう
>>412 これはいいヘタレ攻めと漢前受けですね
季節が春だったら…誰だったんだろう
決戦が将/棋ボク/シングなら1000ちゃんやイオカさんにお願いできるのにw
>>412 GJ
ワロタです。
ショーギ星人も侵略できない聖域(?)関西に禿ワロタ
中の人に惹かれて見たら、とんでもなくハマってしまったんだぜ!
映画「後衛門」より、後衛門×最蔵
ちょっと痛い目エロなので注意。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
雨は降り続ける。泥に汚れた滴が跳ねて跳ねて、二人の男を覆い隠す。
上に乗った男が倒れ伏した男の頬を殴る。その殴る手も泥と血にまみれて、
殴る度に赤黒い飛沫が舞った。
獣染みた声を発しながら、男は殴り続ける。殴られ続ける男は殴る男の
傍らに投げ捨てられた鈍い刀身をちらりと見て、合間に一つ、呟いた。
「これじゃ死なない」
口の中の血を地面に吐き出して、後衛門は男の手を掴む。途端にその手を振りほどかれて、
また頬に拳が飛んで来た。だが構わず、口を開く。
「こんなもんじゃ、俺様は死なない」
黙れ、という代わりに額に握り締めた両の拳が叩きつけられる。頭蓋骨が揺れる衝撃を感じたが、
もはや痛みというものはほとんど感じなかった。
「お前になら殺されてもいい」
「うるさい」
「何度も殺され損なった。今度こそだ、最蔵」
途端に見下ろす瞳に怒気が燃え上がって、最蔵の手が無双の剣に伸びる。
片翼の刃を握り、後衛門の喉へ突き立てた。上下する喉が剣先に沈み、紅い雫がぷつり、と零れ出す。
後衛門の濡れた唇が微笑む形に解ける。そうだ、と声に出さずに言う。
最蔵は動かない。ただ荒く息を吐きながら、何度も何度も刀を握り直しては唸り声を上げる。
後衛門の微笑みが止んだ。そうして、数度目に喉に刀が触れた時、最蔵の腕を力の限り掴み、
その身体を地面に薙ぎ倒す。最蔵が息を詰め、泥が宙に跳ねる。上下を変えた二つの身体が、
互いの瞳を交わして睨み合う。
「殺せないなら、俺はお前を犯すぞ」
「殺す」
「口だけだ、お前は」
血だらけの泡を吐く最蔵に冷たく言い放って、後衛門の手が最蔵の着物の襟を引き千切るように左右へ開いた。
やめろ、と声が上がるのも構わず、おびただしい程の黒い切れ目が刻まれた肌へと舌を這わせる。
雨で洗い流された鮮血の跡に歯を立てながら舐めると、食いしばった歯の合間から切れ切れの息が漏れた。
「痛むか」
止まない雨は、砕けた家屋へ落ち続ける。くたびれた女の着物を濡らして、その瞼を、鼻を、唇を、ずぶずぶと濡れさせている。
最蔵の頬が怒りに引き攣った。
「何の、前だと思ってる。今を、なんだと思ってる、お前は…お前は!」
「知ってる。だからやるんだ。痛くするぞ、嫌なら俺を殺してみろ」
後衛門の手が最蔵の顎を掴む。砕くほど強く握って閉じさせないようにしてから、舌を捻り込んだ。
すぐに牙を立てようとするその歯列をなぞり、嫌がる舌を無理に絡めれば口中に鉄の味が染み込む。
そうしながら後衛門の手が最蔵のもうほとんど意味を成さない布を開き、濡れた右脚を肩まで抱え上げた。
下布を乱暴に裂き、硬く閉じた尻の間を性急に指が割って入る。最蔵の喉が激しく反って、身体が限界まで強張るのを後衛門は抱いた肌で感じ取る。
「緩めろ」
「い…やだ、やめろ、やめろ、いやだ、いや、いやだ、…!」
見開いた最蔵の眼から、頬に落ちる雨と混じってぼたぼたと液体が零れる。
その間にも、後衛門の荒っぽい指の動きは最蔵の奥を開き、捻り、開かせて広げると、
嫌だ、やめろ、と繰り返すだけの口が、時折苦痛を孕んだ呻きに変わった。
やがて最蔵の中から指を抜いた後衛門が、その耳元へ言葉を流し込む。
「――――犯すぞ、最蔵。俺だ、後衛門だ」
そしてずぶ濡れの両脚を担ぎ上げ、素早く寛げた自身を開いた先へ進める。
「っ、あァ…!!」
抵抗し切れずその切っ先を中に受け容れてしまった最蔵が、苦しそうにざんばらの頭を振る。
その手は痛みを示す度に地面に爪を突き立て、ぼろぼろの爪が泥土を掻いた。
後衛門がその腕を掴み自らの肩へと導こうとするが、物凄い力で振り払われる。
「最蔵」
「呼…ぶな、」
「呼べ、最蔵。俺の名だ。今は俺の名だけを呼べ」
せめて奥までは受け入れまいと締め付けてくる後孔に自身を容赦なく沈め、腰を揺すり上げながら
最蔵の頬を両手で引っ掴む。そうして雨音の中、絶叫する。
「呼べ最蔵!!俺の名は後衛門、お前を犯しているのは、お前の痛みは、俺だ!最蔵!」
だが最蔵は全身を揺すられながら、雨に濡れた頬を歪めて嗤う。
「…一年前だ。山賊に殺されかかっていた所を、たまたま通りがかった。気まぐれだった」
「……」
「頭は足りない。顔も美しくはない。世話をする女が必要だったからだ」
「やめろ」
「犯しても、大人しい顔で文句の一つも言わない。便利な女だと」
「やめろ…」
「孕んだ時は、殺そうと思ってたんだ。俺は侍になる男だ。邪魔にしかならない存在を……
それを…俺はこの手で、生まれて初めて、抱いたんだ」
「やめろ!!」
湧き上がる苛立ちをぶつけるように、後衛門は最蔵の身体を揺さぶり、突き上げ、萎える最蔵のものを取り出し手を絡めて扱く。
痛みに慣れ切った身体へ不意に与えられた快感に、最蔵が口をつぐんで息を漏らした。
「っ………ふ……さ、わるな…っ」
「…やめて欲しいなら、名を呼べ、最蔵。頼むから、今は俺だけを考えてくれ、最蔵」
最蔵、最蔵、最蔵、最蔵。全てがかき消されるような雨霧の中、何度も何度も囁いて、
何度も何度もその肌に口付けた。
最蔵は、勝手だ、と一言泣きながら呟いて…絶頂を迎える瞬間、後衛門の肩へと両腕でしがみ付いた。
雨は止んだ。
「俺の名は…後衛門!!」
だからもういい、最蔵。
「天下の大泥棒、石河後衛門様だ!」
もういい、呼ばなくていい。俺は聞こえてるから。
とっくに聞えてたんだ、あの時、あの場所で。俺を呼ぶ、お前の声を。
だからもういい、最蔵。
「―――――これが石河後衛門、最後の傾きだ!」
ああ、どうして。
『後は頼んだぞ』
任せろ、最蔵。俺様が全て終わらせてお前の所に行ってやる。
そこはきっと、俺もお前も望んだ自由だ。
もう少しだ、最蔵。待っててくれよ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
この二人は、天国で幸せになるといいな。
棚
154
400
ホント気持ち悪い
サイト作って儲共々出ていって欲しい
>412
SS神様、素敵なクリスマスプレゼントをありがとう
絡みで書いてるのにわざわざコピペするのは
本人乙と言われたいとしか
人的ウイルス発生中?
>>420 姐さんGJ!
目から水が止まらないよ・・・
どうか天国で二人イチャコラしてますように、と私も祈ってる。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 将来バンドマンになる留学生の過去のお話
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| と言いつつ未来編は無いです…
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
嵐になったらいい。
十日前からそう思うようになり、一日前の今日、それは未だに変わらず重くそして黒ずんだまま、鈍い輝きをも失って心底に沈んでいる。
沈みきって横たわってしまったその気持ちは誰にも話すことが出来ないから、ずっとその言葉を知らない振りをしていた。
こちらへ来てもう十ヶ月が過ぎようと言うのに、今更言語の壁を都合良く作ることしか抵抗する術が残されていないのだ。
君が知る全ての人々を火葬しようと―― そのフレーズが流れ終わった頃に背中から声が飛んできた。かなり大きめの、低く脳を揺らす音だ。
一瞬吹き抜けた冷たい風に煽られまいと、邪魔な前髪を撫でつける。こちらの国で美容院へ足を運んだのは今から三ヶ月前のことだ。
生来無精だった根本的な性格は、残念ながら矯正出来なかったらしい。白い息も、吐いたそばから風に消えてゆく。
――Hey, Paul!
振り向けば、顔に眠いとはっきり書いたような目元をしたソウタが立っている。
寒そうに指先と背中を丸めて、ぱくぱくと口を動かしていた。まるでうちの池に住んでいるコイのようだ。
彼らは鮮やかな色を纏っている。赤や金や黒や白、人間は皆違う顔のように、コイ達も違うのだ。
おじいちゃんがあげるエサを待ち構えて水面に浮き、その時が来たと思ったら口を一生懸命開けたり閉めたり。
――Oh! Japanese style is so...Wasabi.
そんな言葉を口走り、語学に特化した大学に通う兄貴に大笑いされたことも思い出した。
十ヶ月前には侘び寂びなどという言葉の意味すら知らなかったのだ。
ゼン、サムライ。日本に来る前は、それらはTシャツに印刷されたただのアートでしかなかった。
今ではクラスの誰よりも詳しいのではないかと思う程、自分はこれらを美しいと認識している。
428 :
オリジナル 留学生→日本人2/8:2009/12/24(木) 16:23:44 ID:SOZrMvQC0
ソウタの吐く息も、白かった。
つまりはヘッドフォンを外せ、そういうことだろう。読唇術も読心術も、そんなスキルは持ち合わせていない。
しかしこの状況なら彼のジェスチャーなど分かりやすいものだ。でもちょっとそのジェスチャーが面白い。
まずは小指を耳に入れて、抜いて。今度は掌で耳を塞ぎ、リズムを取る振りをして最後に両手を胸の前でクロスする。
やはり吐く息が白いから、何事か彼が苦言を呈しているのは理解出来た。
ヘッドフォンを取れ、音楽を聴いちゃ……駄目。そんなところだろう。
しばらく見つめていたら顔が笑っていたようで、今度は彼が実力行使に出た。
「外せって言っとるやろ」
風邪で喉痛いんやから、大きい声出させんといて。
音楽プレーヤーごと没収するという随分な手段を取った彼は、取り上げたそれをそのままコートのポケットへと突っ込んでしまった。
耳慣れた日本語のリズムと、お得意のジェスチャーを交えて彼はそのまま自分の横に座る。
「……聡太、俺を探しに来た?」
ここで一つの疑問が浮かんだ。冷たく硬い防波堤に、彼は何の用事があったのだろうか。風邪をひいているのならば尚更である。
しかしその疑問は次の瞬間には愚問になった。自分で愚問だと確かめたと言った方が正しいか。やはりソウタは妙な顔をして溜息を吐いた。
「それしかないやろ、ほら」
至近距離から投げられた温かいコーヒーの缶は、意外と掌へずしりと響く。
少し熱いと感じるそれを握り込むと、今度はソウタはほっとしたように一息吐いた。不思議だ。
溜息も、今のような安堵の息も、冬は何もかもを白に染めてゆく。そして風は気紛れに、いつだってそれを消し去って行った。
「何聴いてたん?」
「マイケミカルロマンスの……」
「ヘレナ。おっまえ本当にそれ好きねんな」
ウィスコンシンから持ってきたこのiPodは、こちらの国でもすっかり旧式になりつつある。
きっとミルウォーキーに帰ったら、近いうちに買い替えねばならないだろう。
目の前のソウタも確かこれより小さいタイプの物を持っていたはずだ。しかし自分には、今のプレーヤーを手放せる自信が無かった。
こんなにも思い出の詰まった君を、どうして無下に扱えるだろう。
「お前こればっか聴いとるやろ? もうこっちまで覚えてしまってんけど」
ソウタは一旦ポケットにしまった自分のプレーヤーを取り出すと、勝手知ったる風にアートワークを眺めている。
彼が言った通りの曲を聴いていたし、彼自身すっかり見慣れたらしいジャケットの画像に呆れたような声を出した。
こちらに来てから、エモだのホモだの揶揄されることも無くなり、すっかりプレイリストはエモーショナルカラー一色である。
「俺がアメリカに帰って、英語は話せなかったら……悲しい?合ってる?」
「合っとる。そりゃ悲しいやろうね。でも大丈夫や、お前日本語もまだ喋れてない」
英語はーじゃなくて英語がーやし。こちらがそう首をすくめると、ソウタは意地悪く笑う。
楽しげにプレーヤーを回し続けながら、先程まで自分の聴いていた曲を口ずさみはじめた。
少々充電が心配だが、この際そんなことは忘れてしまうことにする。
イヤホンを付けたソウタの横顔を盗み見るように掠め、次に彼の指先へと視線を移した。
平均的な日本人の掌をしたソウタの指は、かじかんですっかり赤くなっている。
思わず缶へ視軸を戻すと、ひどくいけないことをした気持ちだった。プルタブを開けると、コーヒー独特のあの香りと湯気が漂ってくる。
鼻先に寄せるとそれだけで暖を取ることが出来るような気がしてしまい、結局口を付けるタイミングを逃してしまった。
そしてソウタと言えば、自分用に買ってきたシルコの缶を美味しそうに啜っている。
アンコとモチのあの料理は年明けに体験したが、それがあんな風に缶に詰められ自販機で売られていることを知ったのはつい最近だ。
「ポール、あと今日明日だけなんな。何か実沸かんげんけど」
唐突に開かれるソウタの口からは白く湯気が立ち上る。ソウタは猫舌だから、いつもはこのような熱い飲み物は
一旦置いておくのだが、今日ばかりはやはり寒さには勝てなかったようで、ずるずると音を立て続けている。
「そうだね、あと今日と明日だ」
あと一日で自分はこの街や、この街を包括するこの国に別れを告げなくてはならない。
初めてこの国に降り立った時は、まるでテレビの中に迷い込んだかのように感じた。
空港から出た瞬間、そこは今まで自分が生きてきた世界とは全く違った空気が流れていて、全く違う言葉が飛び交っている。
「荷物まとめた?」
「もうほとんど。お姉ちゃんが手伝ってくれた」
「そっか」
からんと音を立ててコンクリートに置かれた空き缶を眺め、やっとコーヒーに口を付ける。
幾分か冷めてしまったそれだったが、心を満たすには十分過ぎるほど温かい。
言葉が違ってもこのような心の温度というものは、どの国でも変わらないことを暮らしていく上ですぐに理解した。
本当に自分の周りの人間はヤサシイ、優しかった。言葉の分からない自分に精一杯の優しさと、出来る限りの愛情を注いでくれた。
対等に扱って、時にはきつく叱ってもくれた。日本の家族と友達には、生涯を通しても大きなものを与えて貰ったと思う。
むしろその与えて貰ってばかりの生活に甘え切っていたのも事実だった。
このシルコのような生活に浸っていたい、そう考えるようになっていたのも紛れもない自分であるから、全く否定のしようも無いのだ。
早い話が、正直色々やりたいことも残しているので、まだまだ帰りたくない。
「日本、楽しかった?」
ほらまた。自分が帰国すると知った周りの人物は、別れを惜しむ言葉と共にこの問い掛けをする。
楽しかったに決まっている。もっと暮らしていたいと思うのだから、そう答えるしか無いだろう。
日本人はよく自国を他国の人間に評価させたがるが、それが不思議で仕方がなかった。人が抱く評価など、それぞれ違うに決まっているのに。
そしてこの問いに必然的に含まれた事実は胸をどうしても痛くする。やはり自分は外国人なのだ。
数ヶ月間この土地で暮らし、言語や文化をどれだけ学んでも、パスポートには星条旗が掲げられているガイジンサン――なのだ。
ソウタの口元は笑んでいるのに目元は淋しげな表情を見ると、ついつられて自分もそのような顔を作ってしまった。
そして心はどこかで勘違いをする。
――No way Paul! Christ, no!
いけない、次にそんな声が聞こえた。
だから片言の日本語ではい、そう一言告げるだけだ。
「楽しかったよ、聡太」
「そっか、なら良かったわ」
目の前のソウタも先人達に違わぬ表情で自分を見つめてくる。
そんなに別れが惜しいなら、どうか帰るなと止めてはくれないか。
規制引っかかった?
支援
>>431 ありがとう!助かりました…
無理だと分かっていても、どうしてもその言葉が欲しい時――それが今だった。
自分の心の奥底に留めていた言葉が口を衝きそうになる。
「しっかし、お前ようそんな一年で喋れるようになったな」
ソウタとは入学してからというもの、ずっと友達付き合いをして貰っている。
クラスで面倒なお払い箱状態の自分に声を掛けてきた唯一の人物が、このソウタだった。
そしてちょっとばかしギターが出来たり、バンドの話が出来たので、友達の多いソウタがどんどんと自分に友達を作ってくれた。
楽しかった。本当に楽しかった。あの日々、あの日、あの季節。手放したくないと思う。
「俺英語全然分からんくて……ごめんな?」
また一段とソウタが申し訳無さそうに眉を下げる。どうしてもその顔が滑稽に見えなくて、心臓を掴まれる思いがした。
自分のプレーヤーがこんなに憎いと思った瞬間は、後にも先にもきっと今だけだろう。
防波堤の向こう側、荒々しく打ち寄せる波に奴を放り込んでやりたい。
そして空っぽになったソウタの両手を、両手を。しかし手放せるはずのない思い出がそれを邪魔した。
背骨をシグナルが貫く。帰りたくない。声にならない声を乗せ、静かに心が叫んでいた。
「ソウタが、日本語が上手で良かった」
「なんやそれ?」
今度は怪訝そうな顔をして、ソウタはこちらを見た。
頭上にクエスチョンマークが飛ぶ彼は、鼻の頭を真っ赤にして黒い瞳を眇めている。
こんな姿を見つめられるのも、あと二日のことだ。そんな彼を見ていると、叫ぶ心に反して顔は緩んでしまう。
けれども痛む胸に知らない振りを決め込んで饒舌になる。
「英語には無い繊細?だっけ……受け取り方、出来る……やろ?」
その饒舌ゆえの発言は、思ったよりもソウタの興味を引いたらしい。上手いはずの無い自分の方言に、彼は惜しみなく賛辞を贈ってくれる。
日本人だから、そんな理由ではない。心から嬉しそうに、瞳をきらきらさせたソウタは、一度鼻をすするとまた笑顔を見せた。
「だからね、うーん……あれこういう時なんて言う?」
自分の辞書から、ぴったりの言葉を見つけ出すことが出来ない。
こうして時折、まざまざと語彙不足を自分に突き付けてしまう度、カレンダーを眺めては悲しくなった。
この気持ちを言い表すにふさわしい言葉を知る前に、帰りたくないと。
何度も何度もそう強く思い、何度も何度も紙の辞書へと手を伸ばした。
結局今回も言葉が見当たらず、ソウタの眉毛が上がって一瞬無表情が作られる。
「俺は日本語が上手じゃない。ソウタは英語が上手じゃない……同じ、一緒」
「ああ、イーブンってこと?日本でもイーブンって言えば伝わる」
本当かい、ああ本当さ。ソウタは自分と同じく、特別英語の語彙が多いわけでも無かった。
しかし彼は彼なりに自分から何かを吸収して、短い受け答えをいつも用意してくれるようになった。
どれだけ嬉しかったことか、それこそ日本語で伝えたかったのに、言葉を知らない自分にはそれが出来ない。
英語で伝えてみても、ソウタはその意味を掴めない。歯痒かった。けれども、嬉しい。
そんな時はいつだって甘い痛みが指先から胸を浸食した。
届く場所にいる彼に触れることを躊躇って、指先を丸めると熱が心へ伝播するのだ。
「ポール、何か他に言いたいことあるんじゃないがん?」
驚いた。いつの間にかソウタは体ごとこちらへ視線を向け、白い歯を見せることもせずに真面目な顔をしてこう問うてきた。
虚を突かれた自分は、思わず言葉を失ってしまう。出来る限り、彼に嘘は吐きたくない。
ノーではないのだ。しかしイエスという勇気があるかと言えば、そればかりはノーだった。
「……ある、あるよ」
心の葛藤を制したのは、やはり真実だった。正義は勝つ。どうしてもソウタに後ろめたい部分を残したくなかった。
数日後、空の上で何度も何度も後悔する位ならば。ぐっと生唾を飲み込むと、やはりソウタの次の言葉が怖くなった。
頬が冷たくてたまらない振りをして軽く耳を塞いでしまう。
掌はほんのりと温かかったけれど、心はちっとも熱を帯びない。
コーヒーで温めたはずなのに、熱が心を蝕んだはずなのに、いつの間にか冷え切って冷たくて、たまらなかった。
「やっぱり、いいや」
「ふーん」
絞り出した勇気は、結局絞り出した声で無かったことにしてしまった。やっぱり駄目だ。
目頭を押さえるとどこか熱い。これが涙の前兆なのだと自分は知っている。
だからこれ以上、彼を困らせるようなことは出来なかった。リベラルとは言い難いこの国だからではない。
ソウタに拒絶されることを思って怖くなった。
同性に好きだなどと言われてみろ。おまけにさめざめと泣かれてみろ。
「言いたくなったら、言えば?」
「……そうする、そうするよ聡太」
猫舌のソウタ。今日は少し焦っている。
何故かって、あんな熱いものに口を付けるなど、彼にとっては自殺行為だからだ。
そのおかしいような、いつもと違う様子には気付いていた。
何か言いたいことを抱えていることはすぐに分かったが、平生から大雑把で感覚的に生きてきた自分には、
それをずばりと言い当てる言葉が思いつかない。日本語じゃ尚更だ。
そして自分だって何か伝えたいことがある癖に、こちらから先手を打たせようとする。大概彼も臆病者だ。
口を噤んだままでいると、ソウタがまた眉を下げて、口元だけ笑んでくる。その姿に、胸の内の熱く渦巻くものが沸き立った。
「泣いても……いいよ、誰にも言わんし」
――Can it!
その細く鋭い声は、自分の喉から発せられていたことにしばらく気付かなかった程だ。
優しい笑みはそのままに、彼の瞳に涙が光っていることに気が付いてしまった。やめろと思わず汚い言葉が口を衝く。
しかしソウタは何を言われたか分からないと言った風に、小首を僅かに傾げた。
そんなこと言ったら声出して泣くぞ。帰りたくない、帰りたくないって……見えもしない夕日に叫んでやる。日本じゃそうするんだろ。
「あーごめん、俺がもう……無理」
そうしてソウタは語尾を涙声でひっくり返し、ついには目元を掌で覆ってしまった。
こうなると嫌でも彼の言いたかったことが分かってしまう。彼は、別れを惜しんでいるのだ。自分との別れを。
そうなると涙腺が緩むのは早かった。はじめは彼の姿がぼやけ、次に鼻梁を緩やかに流れる温かな涙に気が付く。
いつの間にか泣いていた。しかしその涙の裏側で、自分は罪悪感を拭いきれずにいるのだ。
口に出すことが躊躇われず、悟られず、後ろ暗くなく愛を語ることの出来る言葉。
そんな都合の良い日本語があるのならば、今すぐ耳打ちして欲しい。
喉が痛いのは、誰かの為に泣いたから。その誰かが自分だったらいいのに。
彼が自分と同じ気持ちで、この別れを惜しんでくれたらいいのに。この気持ちを、受け入れてくれたらいいのに。
歌を歌おうと決めたのは、畳で目覚めた最後の眩しい朝のことだった。
>>384 よかった!
もっとこの二人の話が読みたいので、姐さん、また頑張ってくれ!
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| コンビニ店頭でサンタコスプレしながらケーキ売ってた兄ちゃん二人で妄想。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 性夜だからね
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
売れ残りのケーキとチキン、シャンメリーを店長に持たされてどっちかのアパートで食って帰ろうと言う話になる二人。
電子レンジであっためたチキンは既に油でギトギト、皿に移したケーキはすでに崩れてきて、100均の安っぽいシャンパングラスなど用意してみる。
「結局今年も『クリスマス=バイト代が上がる日』でしたよー」
「あーもう俺5年もそんな感じ」
「喧嘩売ってんすか?俺なんて生まれてこの方ずっとですよ」
「アヒャヒャ!なにそれ、お前チェリーちゃんなの?」
gdgdシモネタトークは際限なく続き、気付けば冬の遅い朝がもうそこまできていた。
「でも俺、去年も今年もお前がクリスマスの片割れでよかったと思ってるよ…バイトでも、さ」
「え…」
「はは、酔ってんのかな、俺」
「シャンメリーで?」
「…」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ それだけなんだけどね
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
>>412 今更ではありますが、神様ありがとー
春と秋バージョンも期待していいですか?
____________ モデル(ナマ)はいるけど捏造すぎるから名前は出さないよ
| __________ | 内容はホモホモしくないよ
| | | |
| | |> PLAY. | |
| | | | ∧_∧
| | | | ピッ (・∀・ ;)
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
世間はクリスマス・イブだというのに、今夜も二人でロードワーク。
別に二人でやる必要は無いんだけど、なんとなく習慣になってたから、
いつもの流れで並んで走ることに。
毎日走る道は、昨日までだってクリスマスのディスプレイに溢れていたけれど、
流石に今日は街の雰囲気が違う。
見慣れた街路樹さえ、浮かれてそわそわしているよう。
「今日は外でクリスマスケーキ売ってる。見てみ。サンタや」
隣人の視線の先を見ると道路の対岸。
常ならばけして繁盛しているようには見えない(失礼!)ケーキ屋さえ、
今日はサンタクロースの衣装に身を包んだアルバイトが店の軒下で
ケーキを求める客の相手をしている。
「コンビニでも売ってるもんなあ……」
今度は通りかかったコンビニの店内を走りながら覗き込んでやがる。
ガラス越しに赤と緑の箱がレジの前で小さなピラミッドを作っているのが見えた。
「お前、ケーキ食いたいだけやろ」
「甘いもん好きやから」
「知ってるよ」
すぐ先の赤信号に合わせてペースを緩めながら、二人で少し笑った。
「寮帰って、シャワー浴びたら、ケーキ買いに行こうかな」
信号が青になって、ペースを戻した時にぽつりと呟くのが聞こえた。
「一人で丸いっこ食う気か?」
「そこは、お前付き合うてくれよ」
「俺ら二人だけで?……クリスマスケーキ食うのかよ」
実は別に全然イヤじゃないけど。
男二人でそれは虚しい気分にならないといけない気がして。
「金無いし、一番ちっさいヤツしか買われへん。他の連中呼んだら、取り分少ななるやろ」
なんだか言い訳じみて聞こえるのは、たぶんコイツも同じ事を考えたからだろうな。
そう思うとちょっと面白くて、コイツ可愛いなんて思って嬉しくなって。
「お前がケーキ買うんやったら、俺が子供用のシャ…シャンパニー買ってやるよ」
「シャンメリーって言いたいん?」
「それそれ」
「シャンパンと混ざってもうてるやん」
また笑った。そしたら急に「あっ」と声を上げたからこっちは吃驚して。
なになに?
「あかん、やっぱ今日という日に男二人でケーキ買いに行くのはキッツイわ」
「あ〜……うん。そうやな」
今度は二人で遠い目をして。
しばらく黙々と走る。
「はぁ、既にケーキ食えるモードやったのに」
残念そうにため息と共に呟いて、また見えてきたコンビニに視線を奪われている。
「しゃーないなー。カンパするから、1番でっかいケーキと酒とつまみ買いこんでくか。
そしたら、飲み会の買出しっぽいやろ。そんで寮でみんなで食おうや」
「えっ、マジで」
「ケーキ食いたいんやろ」
「どうしたん、ちょー優しい。お前あれか、サンタさんか」
そんな、少年のようにキラキラした顔で見つめられても。
まっ、悪い気はしないけどな。
……。なんか二人だけじゃなくなったのは残念な気がするけども。
そうだ、明日は1番小さいケーキを買って、こいつの部屋に押しかけよう。
翌25日。
いつものロードワークの後シャワーを浴びてから
シャンメリーと一番小さなホールケーキを持って訪れた部屋には
同じく一番小さなホールケーキが用意されていたのだった。
お互いの“言い訳”は「別の味が食べたかったから」。
____________
| __________ |
| | | | この時期に二人きりでロードワークはしないダロとか思いつつ
| | □ STOP. | | リアルのモデルらの方がよほどイチャイチャしている件
| | | | ∧_∧
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
祝・公開一周年!かなり前に投下したものの続きになりますが、
長いので投下を二回に分けさせて頂きます。後編は数日中に。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
一緒に暮らし始めて分かったのが、シーフォンはかなり朝に弱いということだった。
まず、起きない。無理やり起こそうものなら巣をつつかれた獣のように激怒する。
ようよう起きて来ても、それはもう凄まじく機嫌が悪い。
普段も愛想がいい訳ではないがそれに輪をかけて態度が悪くなる。
更に、朝にした会話を昼には覚えていないということも多かった。
要するに朝の段階ではまだ寝ぼけていて、半ば夢の中のような状態で受け答えをしているのだ。
もちろん以前の探索の中で、一緒に野営したり仮眠をとることはあったのだが
彼はそんな時には比較的まともに起床していた。
おそらく、野外などの緊張を強いられる状況ではそもそも深い眠りに入れないのだろう。
その分自分が安全と認めた場所ではたっぷりと眠りたいのかもしれなかった。
ひばり亭に世話になっていた頃も、二階から降りてくるのが遅いことが多かったようには思う。
その日も、アベリオンは一人で起床し
向かいの寝台で未だすやすやと眠るシーフォンを横目に、水汲みと山羊の世話を済ませた所だった。
そろそろ朝食を作ろうかと考え、まず寝ている彼を起こすことにしたのだ。
朝食を用意してから起こしていたのでは
食べる頃にはすっかり冷え切ってしまうためである。
「シーフォン」
「……………………」
寝室の戸口から呼びかけただけではまず無理だというのは、これまでの生活で十分に承知していた。
しかしそれでも最初には声をかけてしまうのがアベリオンの律儀な所である。
そのままいつものルーチンワークのように、
頬でも軽くはたくか布団をはがそうかと考えながらベッドの傍まで寄った彼は、はたと目を見開いた。
涙が。
ほんの少しだけ赤みがかったシーフォンの睫毛を、涙が濡らしていた。
こちらを向いて横臥する彼の眉間やこめかみには一筋の跡が残り、
真下の枕も部分的に湿っているのが見て取れる。
何本も皺が寄るほどに寄せられた眉を見ても、およそ安らかに眠っているとは言えない様子だった。
一刻ほど前、自分が目を覚ましたときにはこんな状態ではなかったはずだとアベリオンは思い返す。
「……ぅ…………」
驚きのままアベリオンが彼を見つめている間にも
かすかな呻きと共に右の目蓋から涙がこぼれ、音もなく枕に吸い込まれていった。
真新しい雫を目の前にして、アベリオンは更に動揺する。泣いているのだ、あのシーフォンが。
甲の骨が浮き出るほどに握られた拳は、シーツを掴むでもなく
指先を自らの手のひらへ強く食い込ませている。
その様子があまりにも痛々しくて、起こすかどうかはともかくその拳をほどいてやろうと――
それでも、おそるおそる彼の手へ触れた途端にシーフォンが身じろいだ。
驚いたようにびくんと肩が揺れ、眉間の皺がいっそう深く刻まれる。
同時に喉へひゅっと音を立てて吸い込まれた吐息。その全てが「恐怖」を現していた。
またじわり、と瞼から涙が滲み出す。
「シーフォン……?」
そっと名前を呼ぶ声に反応して、ついぞあり得ないほどの素直さでシーフォンが目覚めた。
ゆっくりと瞼が持ち上がる。赤い瞳が現れる。
再びアベリオンの眼前で、その目覚めたばかりの瞳からほろりと涙がこぼされた。
「あ…………?」
ぼんやりと、涙の膜が張る瞳が揺らぐ。
思わず、アベリオンは新たにこぼれたその涙の粒を指先で拭い取っていた。
焦点の合わないその瞳がしっかりとアベリオンの姿を引き結んだとき、
シーフォンはがばっと物凄い勢いで身体を起こした。
「わっ!」
「…………!!」
真ん丸く目を見開いて、彼は絶句したままアベリオンの顔を見つめる。
寝起きのシーフォンはまさに警戒心の強い獣のようなものだったから、
アベリオンは近づきすぎたのかと思いうろたえた。
確かに、起きたとたん目の前にあったのが宿敵(彼曰く)の顔ではシーフォンも驚くだろう。
アベリオンは慌てて弁明した。
「ええと、その、ごめん、泣いてたから!心配になって」
「え……?」
主語も抜けている上に、非常にしどろもどろの説明になっていない説明だった。
しかしシーフォンはそれで彼の言わんとするところを理解したのか、
はたまた自らの目元に違和感を感じただけか、細い手を目にやる。
ぐいと甲でぬぐった所には、乾ききらない涙が光っていた。
自分がその涙を流していたのだと認識するや否や、シーフォンの顔にみるみる羞恥が上る。
そして彼はそのまま、物も言わずにアベリオンを両手で突き飛ばした。
「うわぁ!?」
無防備だったアベリオンはなすすべもなく尻餅をついた。
驚く彼の上へ、更に毛布が降りかかる。
ベッドを飛び出たシーフォンが被っていた毛布をはねのけて行ったのだ。
「シーフォン!?」
「うっさい、死ね!!!」
自分の声と、少し遠い罵倒の声をアベリオンは暗い毛布の中で聞いた。
その彼の耳に続いてけたたましい足音とドアを開閉する音が届く。
アベリオンが毛布の下から抜け出たときには、小さな家の中は静まり返ってしまっていた。
それにしても捨て台詞が「死ね」とは、あんまりだと思う。
寝室を出たアベリオンが目にしたものは、きぃ、と軽く音を立てて揺れる玄関のドアだった。
これが閉まる大きな音は確かに先ほどあったのだが、
おそらく一度閉まったものが勢いの余り跳ね返って開いてしまったのだろう。
シーフォンが家を飛び出ていってしまったことは明白だった。
しょうがないな、とアベリオンはドアを眺める。
シーフォンは、自分の弱い部分を見せてしまった事に耐えられなかったのだと思った。
あのはぐれ魔術師の性格が蔦よりもねじくれていて、
そのプライドが山よりも高いという事なら十分に承知している。今更だ。
通常、こういった形でどちらかが頭に血が上ったまま仲たがいした時には
頭が冷えるまでお互いに一人の時間をとり、その後話し合いなり何なりを持つのが望ましい。
しかしシーフォンの場合、このまま放置すれば更にこじれてしまう可能性が高かった。
聡明なぶん自分の考えに絶対の自信を持っており、一度自分の中で結論に辿り着くと
それと思い込んだ物からなかなか考えを改めないのだ。
要するに意地っ張りなのだが、頭も口先も他人より回転が速い分たちが悪く、
考えが凝り固まってしまう前に後を追って説得したほうが良さそうだとアベリオンは思った。
そして彼は玄関を出ると、東へと向かった。
---
ドアベルが可愛らしい音で鳴り響く。
中のカウンターでは、オハラが目玉焼きを二つ焼いている所だった。
いまだひばり亭を利用している探索者たちのための朝食だろう。
「あら、おはよう」
「忙しい所にすみません。うちの不良魔術師見ませんでしたか?」
「あの子?今日は来てないわよ」
「そうですか、どうもありがとう」
「今度は何か食べてってね!」
アベリオンはひばり亭を後にした。
そのままオベリスクを正面に見て、次に広場へと向かう。
「あ、やっほーアベリオン」
「おはよネル。あのさ、シーフォン見てない?」
「しーぽん?今お店空けたとこだけど見なかったよ〜。どうしたの、しーぽん家出?」
「そんなとこ」
「大変だねーアベリオンも。じゃあ見かけたら教えるね!」
「うん、ありがとう」
アベリオンは広場を後にした。
移民によって増やされた住宅が圧迫している狭い路地を抜け、港へと向かう。
その港ではラバンが桟橋に腰掛けて釣り糸を垂れていた。
アベリオンは驚いて声をかける。
「ラバン爺ちゃん!いつこっちに?」
「おお、アベリオンか。いや、ついさっきだな来たのは。
魚でも釣って手土産に持って行ってやろうと思ってたんだが」
「いいよそんなの。あ、そうだ、爺ちゃんはシーフォン見なかった?」
「さあ。少なくとも海には流れて来なかったぞ」
「……、分かった。しばらくはひばり亭にいるの?」
「そうだな、一週間くらいはいるつもりだ」
「じゃあまた明日にでも遊びに行くよ」
「おう、じゃあな」
アベリオンは港を後にした。
そのまま海沿いを歩いて町の中心にある橋のたもとまで来たとき、そうだ、と思った。
いつもここで店を構えている老婆の占いは良く当たるのだ。
笑い声は少々不気味だが、気にしなければどうということもない。
「イイーッヒッヒッヒ!!どうした、小僧?」
「友達を探してるんだけど、どこにいるか分からないかな?」
「あたしに分からないものなんてないんだよ。どんな奴だい?」
「赤い髪で、年は僕と同じくらいで、魔力が強くて、えー……」
「ああ、あの糞生意気なガキかい。分かった分かった、じゃあ占ってやるからちょっと待ちな」
「ありがとう」
老婆は言うなり、どう見てもただの石ころや木の枝でしかないものや
よく分からない文様を描いた布などを取り出して、台の上に並べたり転がしたりしている。
アベリオンはその前にしゃがみこんで、結果が出るのをじっと待った。
「よし分かった。お前の探しものは、西の方角、水の近くにある!」
西、水。
必然的に連想されるものは大河アークフィアである。
「河を辿って行けばいい?」
「おそらくはな」
アベリオンが礼を言って立ち上がろうとすると、そこへ老婆が更に声をかけた。
「ところでお前、結局王には成り損ねたようだねぇ。ああ勿体ない」
大げさな身振りで残念そうにして見せる老婆の顔は、
けれど揶揄するような楽しげな笑みでいっぱいに満たされていた。
「うん。いいんだ。なりたくなかったし」
「イイーッヒッヒッヒ!!そうかいそうかい!よし、道に迷ったらまたおいで!」
上機嫌な老婆に代金を払って、その場を後にした。
これまでの巡業で目撃証言が得られなかったことも合わせて考えると、
確かにシーフォンは占いの通りに、家から直接西門へとおもむいて
町の外へ出て行ってしまった可能性が高そうだった。
もちろん彼も強い魔力の持ち主であるため、
そこいらの野生動物やいまだ残る夜種などに傷つけられる心配は要らない。
しかし占いの結果で水と出たことがアベリオンは少し気になっていた。
まさか溺れたりはしていないと思うけど、と彼は気持ち足を速めながら門へと向かった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
生
一角獣、四弦鍵盤
浮かれクリスマス続編
エロ少々
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
カチャとドアを開けると、部屋で寝ていたはずの四弦さんがいました。
「えっ?!」
「おじゃましま〜す」
どんどん部屋に入っていく四弦さんを茫然と見つめる鍵盤さん。あー!と四弦さんの声が聞こえました。
我に返った鍵盤さんが部屋に戻ると、四弦さんがトナカイの衣装をニコニコしながら抱きしめています。
「ねぇ、これ着てもいい?」
首を傾けてかわいらしい表情と声を作る四弦さんに、鍵盤さんは何も言えなくなってしまい、頷きました。
「ありがと〜」
頬にチュッとキスされてデレデレになる鍵盤さんと、思惑通りに事を運べそうで嬉しくて仕方ない四弦さん。
四弦さんの頭の中には、鍵盤さんのあられもない姿が……。ちょっと早くないですか?四弦さん。
「わぁ、シャンパンにケーキ、七面鳥もある!」
四弦さんの嬉しそうな声に嬉しくなる鍵盤さん。
「シャンパンぬるくなっちゃうね」
四弦さんがいきなり服を脱ぎはじめて、鍵盤さんが驚きと照れで目をそらしました。四弦さんはトナカイ衣装に着替えます。
「ねーねー、サンタさんの衣装は?」
「えっ?」
着替え終わった四弦さんは、鍵盤さんに聞きました。鍵盤さんはギクッとなっています。そりゃあそうでしょう、ミニスカサンタとサンタ衣装(上だけ)しか揃えていないんですから。四弦さんが寝室に行くのを止められない鍵盤さん。
「かわいい〜ミニスカートのサンタさんがいいなあ」
そういいながら四弦さんは、ミニスカサンタ衣装を持って寝室から出てきます。
「ねぇねぇ着てみてよ」
いかにも無邪気を装う四弦さんに、鍵盤さんは逆らえません。
「う……ん、似合わなくても笑わないでよ」
四弦さんは頷きながら、似合わない訳ないじゃん!と心の中で呟いています。一方鍵盤さんは、四弦さんに着せるはずだった衣装……着て貰えないのか……そう考えてしょんぼりしています。
「どこ行くの?」
着替えるのに寝室に行こうとした鍵盤さんを、四弦さんが呼び止めました。
「ここで着替えて、俺も着替えたんだから」
「えっ」
四弦さんの顔をじっと見つめてしまう鍵盤さん。
「は・や・く・着替えてよー」
四弦さんはかわいらしくおねだりします。それでも何となく決心のつかない鍵盤さん。下着を脱がないと、きっと下から下着の裾が見えてしまうのです。目の前でノーパンになる事に抵抗があるのでしょう。
「手伝ってあげるね」
四弦さんが痺れを切らしました。近寄って鍵盤さんが着ているシャツのボタンを外しはじめます。
「ち、ちょ」
抵抗しようとした鍵盤さんを、四弦さんは悲しそうな表情で見ました。悲しそうな表情されただけで、四弦さんの笑顔が好きな鍵盤さんは抵抗出来ません。
「出来た!」
四弦さんの満足そうな声が部屋に響きます。あえて下着を脱がしていない四弦さん。鍵盤さんは着替えさせて貰ってる間、乳首や股間をさりげなく刺激されて顔を真っ赤にしています。股間はちょっとまずい事になりかけです。
「あ〜やっぱり下着の裾見えちゃってるね」
ビクッと四弦さんの言葉に身体を震わす鍵盤さん。
「やっぱり脱がしてあげるよ」
「えっ、いや、それは俺がやるって」
鍵盤さんの言葉に満面の笑顔で頷く四弦さん。じっと鍵盤さんの下半身を見ている、四弦さんの視線を感じて顔がますます赤くなる鍵盤さん。
「まだ?やっぱり……」
四弦さんの声に慌てて下着を降ろした鍵盤さん、慌てたもので勃っていた分身に下着を引っかけます。
「くっ!」
思わず声の出た鍵盤さんを四弦さんは見逃しませんでした。
「どうしたの?」
わざとらしく聞きながら素早く後ろに回ります。後ろから抱きしめて、スカート越しに鍵盤さんの分身を撫でました。
「っ!」
ナデナデと撫でられて鍵盤さんは気持ち良くなってしまいました。四弦さんは背後でニヤッと笑います。ここまでくれば、ほぼ望みは叶えられそうです。
「あれ?気持ち良くなっちゃったの?」
四弦さんの言葉に鍵盤さんは素直に頷きます。スカートの生地越しに当たる、四弦さんのが大きくなってるのも鍵盤さんにはわかりました。
やんわりと握られて鍵盤さんの口から声が漏れました。
「んっ……ぅ」
ゆっくりと四弦さんの手が上下します。四弦さんは鍵盤さんのお尻に硬くなっているのをこすりつけてみました。
「っあ……な、んで」
今頃何かがおかしいと気づいた鍵盤さん。遅すぎです。四弦さんは鍵盤さんの耳元で囁きます。
「プレゼントして……欲しいよ」
鍵盤さんは混乱しているようです。
「後ろ、俺にちょうだい」
お尻の割れ目に、四弦さんの硬い分身をこすりつけられて鍵盤さんも、四弦さんの本気が解りました。
「乱暴な事したくないから……「うん、あげる」って言って」
後ろはスカートがめくれてお尻が出ています。四弦さんは、分身だけを取り出せそうな穴を見つけて、そこから分身を取り出しました。直にこすりつけます。
「言って」
四弦さんは鍵盤さんに返事を促します。鍵盤さんは、先走りでぬるぬるなのをこすりつけられて、抱かれる覚悟を決めたようです……口を開きました。
「俺の後ろ……あげる」
翌日の朝になりました。鍵盤さんはぐったりしています。ものすごく時間をかけて抱かれたお陰で限界の回数までいかされています。目を開けると目の前に四弦さんの顔。
「おはよ」
四弦さんはニコニコしています。やっと鍵盤さんを抱けました。抱いた事で好きな気持ちが益々強まって、幸せいっぱいです。
「おはょ」
鍵盤さんの声が若干かすれています。昨夜は甘い声で鳴き続けましたから仕方の無い事です。チュッと鍵盤さんの頬にキスをした四弦さんは頭を撫でます。
「秘めはじめ、楽しみだね」
「……うん」
どうやらイベントの時は、抱く側になりたいと四弦さんは宣言したようです。鍵盤さんも抱かれて益々好きになったので、問題は感じなかったみたい。
ほらね、やっぱりどうなろうが幸せなんだよ、この二人。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
また、途中でカキコミ出来なくなった…
エロシーンは省いた。アホでスマソ
主/将/!/地/院/家/若/美 老×若
あまりにも供給が無いので出来心でやった 後悔はしていないといえば嘘になる
ギャグ無しエロ有り 受けがオ○マにつき女口調なのは仕様です
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )口ベス・ピエ子ガ オオクリシマース!(嘘
校長室の扉が開いて、不機嫌そうな声が近づいて来る。
「……まったく、酷い目にあったわ」
「言ったろう。気が使えるようになったからといってあまり遊ぶなと」
老修の苦言に、髪をかき上げながら、悪びれもせず若見は答えた。
「修行の一環よ……何事も、楽しい方がいいでしょ?」
言いながら、ゆっくりとデスクへ近寄って来る。
「女どもにのしかかられて、体が腐りそう……」
「自業自得だな。大体、お前はいつも」
「お説教を聞きに来たんじゃないのよん」
言葉を遮るように机を回り込み、老修の傍に立った。
足元に蹲り、慣れた手つきでベルトを外し、ファスナーを下ろす。
「体力を……回復しに来たのよ」
「……困った生徒だ」
さして驚きもせず困った風でもない老修の声に、ウフフ、と妖しく笑いながら、若見は唇を寄せた。
艶やかな黒髪をすっと耳に掛け、顔を埋める。長い髪が扇のように腿に散る。
女と信じて疑わなかった幼少の頃と同じく、今でも顔だけを見れば美女と見紛う程に整って艶かしい。舌が絡まり、緩やかに、柔らかい唇に呑み込まれた。
授業中で他人が来る恐れはそうそう無いとは言え、真昼間の校長室である。
怯んでもおかしくない筈だが、若見にはそれすら刺激になるらしい。
老修にしても、どんな状況になろうと世リアさえ居れば隠蔽し通せるという余裕が無ければ、こうはゆったりしていられまい。
一体どこで覚えたものか、若見の巧みな舌使いに思わず声を漏らしそうになり耐えた。負けたくない、という感情はこんな所にも及んでいる。
額に手を当て、前髪をかき上げてやると上目遣いに老修を見た。唇が唾液で濡れて光る。切れ長の目に欲情と、老修の反応を楽しむ色がある。
すでに絶頂を迎えようとしている己に対し余裕の表情をしている若見に、ふと苛虐的な感情が刺激され、そのまま引き抜いた。
目線で促すと、唇を指で拭いながら戸惑うような顔でこちらを見る。
「……そんなつもりじゃないのよ?」
「誘ったのはお前だろう」
翻すつもりが無い事を悟ると、諦めたように制服のブレザーを脱ぎ始めた。
初めて交わってからさして回数はこなしていない。普段の言動からは全く意外な事に、若見は自らが受け入れる行為は未経験であった。今でも彼にとっては快楽より苦痛が勝るらしいその行為を、敢えて望んだ。
老修の望む事なら大抵、若見は受け入れる。命を望んだとしても、あっさりと頷くのだろう。
――その逆も然り。
若見に請われるまま、老修は天印家の技を伝授している。
乾いた砂が水を吸い込むように、彼はそれを習得しつつある。老修が血の滲むような思いで習得した技を、彼は易々と我が物にしていく。
――天の配剤か。
彼の持つ天賦の才の幾分かでも、自分にあれば良かったと老修は思う。
妬ましい。天性の武人である彼が。
そして愛おしい。初恋の相手でもある、彼が。
均整の取れた体にシャツを羽織っただけの姿で、若見がデスクに両手をついた。突き出した腰に指を埋めると、びくりと全身に緊張が走るのが分かる。
幼い頃の記憶がそうさせるのだと、最近知った。無邪気に憧れていた彼の母親の、別な一面を知ったことは老修にとって軽い衝撃だった。
――だがそうさせたのは、他でもない、天印家なのだ。
もしも若見が地印家に産まれていなければ、現在の彼は無かったに違いない。
女として育てられる事も、幼い頃から暗殺術である地印家流合気柔術を仕込まれる事も、――そして老修と相見える運命を強いられる事も。
ただ天印家の贄となる為だけに血と技を脈々と紡いで来た地印家の、もしかすると最後の当主になるのかもしれない彼の体に、老修は己を埋めた。
「ん……んっ……」
貫かれる痛みに小さく声を上げ、それでも健気に堪えている。苦痛は想像に難くない。普段動じる事の無い若見の表情が、本気で怯える幼子のそれになっている。それでも、老修に気付かれまいと懸命に声を殺している。
ゆっくりと抜き差しすると、それに合わせるように吐息が漏れる。シャツの下に手を滑らせると、指の動きにいちいち体を強張らせ、反応が返るのが面白い。肉体の快楽よりも、自分の意のままに動く体を眺める快感に、老修は酔った。
今、若見の体は自分の支配下にある。苦痛を与えるのも、快楽に酔わせるのも老修次第である。
幼い頃からの思いはすでに遂げた。常に自分より一枚上手な年下の幼馴染を、意のままにしてみたい。その願いは叶ったと言っていい。
それでもなお、どこか満たされないこの気持は一体何なのか。
天印家の屋敷へ若見が忍び込んだ、数年前の出来事が思い起こされた。
初めて本気でやりあった、と思っていた。床にくずおれた若見を見た時、幼い頃とは違う、自分は彼よりも強靭な肉体と優れた技を身に付けたのだと、彼に初めて勝利したのだと信じた。――若見がわざと力を逃がした為に生じた、床のひび割れを目にするまでは。
形だけの勝利の後には、虚しさのみが残った。
『どこの世界に愛する人と殺しあうために修行する人間がいるというの。……私は天地剛など受ける気は無いわ』
若見のその言葉は、力一リヤから聞いた。
彼らしい言葉だと思った。
彼と本気でやりあう機会は、恐らく来ないのだとも、その時悟った。
若見が小さく呻いた。知らず、動きを早めていた事に気付いた老修は緩やかなものに変えた。安堵の吐息が、紅をひいた唇から洩れる。
胸を探っていた手を首筋に滑らせると、鍛え上げられたしなやかな肉体が揺れた。もう片方の手は下へ伸ばし、張り詰めたものをきつくしごき上げる。
「……あ、……あ……っ」
大きく背を反らせて喘ぐ。足が小さく震えている。昇り詰めようとしている気配に老修は手を止めた。
「……っ、はぁ……っ」
大きく息を吐いて振り返る。潤みきった切れ長の瞳が老修を捉えた。
口に出さずとも、その目が続きを欲している。
普段はまずお目にかかる事の無い、懇願するような表情に、ぞくりと快感が走った。
強く腰を打ち付けると、小さく悲鳴じみた声で鳴く。首筋に添えた指を唇に差し込むと、わずかに舌を絡めた後は余裕も無くただ忙しない呼吸を繰り返す。もう片方の手は握る事をせず、ただ柔らかく添えて擽るように動かすと焦れて自ら腰を振る。
唇から指を抜くと、また首筋へ這わせた。
自分でも意識しないまま老修は、その手に力を込めていた。
「く……、ふっ……!」
今度は明らかに、苦痛めいた呻き声がした。
今ここで、ほんの少し力を入れれば彼の命を奪うことができる。
老修は未だ、完成されてはいない。少年の頃から血を吐くような修行を積み、常人では考え得ない技と肉体を手に入れた今でもだ。
天印家次期当主である自分は、天地剛の儀式を経て、地印家当主である彼の命を奪う事で初めて天印家の当主足りうる資格を得る。天印家の贄となる、若見はその為だけに存在する。地印家に産まれついた彼の、それが運命なのだ。
彼が天地剛の儀式をするつもりが無いのなら。彼と本気で遣り合う機会が、来ないのならば。
今ここで、ほんの少し指に力を込めれば、それは為される。
と、若見がゆっくり振り返った。
先ほどまで情欲で潤みきっていた瞳が、今は静かに澄んでいる。
唇が開き、声に出さない呟きが洩れた。
『……殺しても、いいのよ』
己が欲していたのは、本当にそれなのだろうか。
ただ若見の命さえ奪えば、自分は完成するのか。
抵抗ひとつせず、ただ老修を受け入れる彼を?
――否。
老修は指に込めた力を抜いた。
「……はっ、はぁ……っ」
張り詰めた体がほどけ、大きく息をした、そこへ一際強く腰を打ち付ける。
「んぁ……っ!」
――闘う気が無いと言うのなら、その気になるようにすれば良い。
幼馴染のこの男を、老修は確かに愛している。だがそれ以上に、武人としての己が騒ぐ。
――手はいくらでもある。彼が大切にしているものを……
本気になった彼と遣り合って、勝利せねば気が済まぬ。
――滅茶苦茶にしてしまえば良い。
首筋に掛けていた手を、全身に滑らせる。律動に合わせて動く肌を汗が伝う。下に添えた手で再び強く握り、リズミカルに動かす。
「ああ……老、醜……っ!」
切羽詰った声に応えるように更に手の動きを早めると、びくびくと体がしなる。
「……若見……っ」
引き締まった体を強く抱きしめながら、想いの全てを刻み込むように、強く打ち付けた。
大好きだ、若見。――殺したいほどに。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
>>461-467 キタ――(゚∀゚)――!!!!
老×若話に初めてお目にかかった!
クリスマスプレゼントだと思って有り難く読ませて頂きました!
姐さんGJ!
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 大学時代捏造・エロなし・アンハッピーエンド・長くなります
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 準教授と数学者が大学時代つきあっていたらという話
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
きっかけは些細なことだった。
石上の学生アパートで夜更けまで飲んで、互いにアルコールが随分回っていた。
おそらく水を向けたのは石上のほうだったろう。酔っていたから定かではない。
「たまにキャンパスで会うと君は、いつも人に囲まれているね」
そんなことを言った。絡んだつもりはない。目で見た事実を口にしただけだ。
「そうかな」
油川は僅かに間をおいてそう答えた。
「そうさ」
石上は再びグラスを舐めた。もう何杯目になるか、座卓にはビールとウイスキーの空瓶が並んでいる。
狭い部屋の畳縁が回って見えて軽く天井を仰いだ。瞬くと蛍光灯の輪が網膜に残る。
真向かいに座った油川はまだ平気そうな顔をして石上を眺めている。この男は酒に強い。
キャンパス内で油川に会う時、大概石上は一人だ。それを孤独と感じたことはない。昔から同級生だろう
が女の子だろうが変わらない、数学以外のことには興味が持てなかったのだ。
正直なところ、石上には油川が何が面白くて自分に構うか分からない。二人の話題はもっぱら数学と物理
だった。
「君は変な男だよ、油川。なぜ僕なんかに興味を持ったんだ」
石上は呂律もろくに回らない舌で言って、息をついた。
「それは、……君がベンチに座ってものすごい速さでノートに数式を書き付けていたからだ。僕は不思議に
思って話しかけた」
それは以前聞いたことがあった。
「君と初めて話したとき僕は嬉しかったんだよ、石上。少なくともこの大学の中に一人は僕と同じレベルに
会話できるんだと知ったから」
油川は座卓の上に置いたグラスの縁を親指でなぞった。
「傲慢に聞こえるかもしれない。だが、本当に嬉しかった」
すっと向けられた視線に、石上は思わず目を逸らした。
「友人に順位をつけるわけではないが、僕は……、僕にとって君は特別だ」
特別だのところに力を込めて言い、油川はまだ残りのあるウイスキーの瓶に詮をした。彼は抗議を封じる
ように座卓の上に身を乗り出し、石上を覗き込んだ。
「もう止めにしよう。飲み過ぎだ」
石上が眉根を寄せる。
「君は少し、悪酔いしているよ」
油川は苦笑し酒瓶を手元に引き取った。
油川は苦笑し酒瓶を手元に引き取った。
「……油川」
なんだ、と答える声がする。
「僕には友人なんていない。いたことがないし、それで不自由したこともない。僕には友人の意義が分から
ない」
油川がいなくとも石上は現在となんら変わることなく数式を解き続ける生活をしていただろう。石上にと
って大学は純然たる学問の場だった。
「だから他の連中のところに早く行ってしまったほうがいい。僕といても何も得るものはないよ」
「あるさ」
油川は即座に反駁した。その勢いに自分でも驚いたように呼吸を詰めると、油川は静かに息を吐いた。
「……僕がいないほうが数学がはかどるか」
石上は驚いた。そう受け取られるとは思わなかった。
油川が自分に近付いてきた始めは憐れみなのかと考えた。しかしやがてこの男は心底、数学や物理の話を
するのが楽しいのだと気がついた。
油川から聞かせてもらったことがある。世界で最も美しいとされる実験は、そのほとんどが物理学の範囲
なのだそうだ。ゆえに、コンピューターでの四色問題の解き方を「美しくない」とした石神の言葉が印象に
残ったのだと彼は笑った。
「はかどるとか、はかどらないとか……、そういう話じゃない。僕はただ君がよく分からない。物理の話な
ら教授だっているのに、なぜ僕に構う」
石上は残ったウイスキーを干そうとグラスを持った右手を挙げた。挙げようとした。動かない。
上からグラスごと掴まれていた。油川はグラスを覆うように両手で縁を握り、指先が柔かく石上の手の甲
を抉る。
「君が特別だから、……君が好きだからだ」
グラスの底がかたかたと音を立てた。触れた油川の指先から汗が滲んでいる。石上が目を見開いた。
しばらく油川は俯いて彼自身の手を凝視していたが、やがて決したように顔を上げた。微動だにしない石
上を物問いたげに見詰める。
石上に返事をする気配がないと悟ると手元に視線を移し、石神の指を一本一本グラスからはいでいった。
そうして石上の手からグラスを奪い取り、座卓の上を滑らせて引き寄せた。落ち着かないのか、石上のグ
ラスを空になった自分のものに重ねる。琥珀色が油川の手の間で揺れた。
石上は散々迷った末に頭を上げる。口を開いた。
「……油川」
「石が……」
二人の声が重なり、思わず油川を見る。視線が合う。
瞬間的に手を差し伸べて油川に譲ろうとすると、同じく返された。
「君が」
「いや、君から」
石上は視線を落とした。気まずい沈黙がおりる。
意味が解らなかった。油川は石上が特別なのだと言う。そのことがどう先の話題と繋がるのかが
分からない。
「……石上」
ごく近いところ、真横から油川の声が聞こえた。振り向くと油川が何か強い感情を耐えるような
顔をしてそこに座っていた。
油川は片手でグラスに残ったウイスキーをあおる。そのまま石上の二の腕をぐっと掴んだ。
石上は瞠目した。動けなかった。油川の顔が近づく。唇に柔い感触がする。温くなったウイスキー
が痺れるような熱さで口内に流れた。
「……好きだというのは、こういうことだ」
油川は唇を離すと吐息混じりに呟いた。
「石上。君が好きなんだ」
その時に自分が何と答えたのか、石上は覚えていない。
そうして油川と付き合うことになったのだ。
石上と付き合うことになった。正直なところいまだに実感が沸かない。
油川は射ち放たれたシャトルの行方を見守っていた。サービスはまっすぐ斜めにネットの上を切り
おろし、やがて最初の勢いがなくなって減速するに辺り緩やかな弧を描いてコートに落ちる。
サービスの打たれる、その瞬間にラケットが空中を切って放つ音が、油川は好きだ。フォームの無駄
をなくせばなくすほど風を切る音は高さと純度を増し、後には静けささえ残る。だから油川はサービ
スが好きだ。おそらく、このサークルで最も美しいサービスを打つのは自分だろうと思う。
純度の高いものは美しい。混じりけのないものは美しい。それは人間でも同じことだ。
最初に石上に興味を持ったのは彼の頭脳ゆえだった。そのうちに彼の精神に惹かれた。彼の数学に
対する姿勢が、自らの手で問題を解き明かすことにのみ意味を見出だす彼が好きだと思った。
シャトルはネット脇に立つ油川の位置から、ライン上を射抜いて鈍くリバウンドして落ちたかに
見えた。
「アウト!」
ネットのもう一方の端から鋭い声が響いた。
「いや、インだ」
主審である油川が返すと、線審の草凪は首をふった。
「アウトだったぜ。羽根から落ちてラインの外に先についた」
そこまで詳細に見ていただろうか。油川が少し考えると、外野から暢気な声が飛んできた。
「油川、俺も見た。アウトだぞ」
油川がそっちを振り返ると、引退しているはずの元部長が笑いながら手をふっていた。三学年上の
薬学部修士二年、油川が入部した年に部長だったから、さすがの油川も頭が上がらない。
「……わかりました。では赤にポイント、5-7」
サービス権が赤の選手に移る。シャトルが放たれる。ポイント。
どうかしている。練習とはいえ、大会も近いのだ。
気づけば石上のことを考えている。あの夜、酒の勢いに任せて告白した油川に石上は
「君がそれでいいなら、いいんだ」
と返した。
拒絶ではない。そのことがどれだけ油川の心を救ったか。
あれ以来、油川は意図的に石上と一緒にいる時間を増やした。まだ拒まれてはいない。触っても振
り払われることもない。一度、
「あんまり問題を解いているときに顔を見つめるのは止めてくれ。……やりにくい」
と困ったように言われただけだった。
数学は山登りに似ていると石上は言う。どんな難問でも、まずその一歩を踏み出す、それを続ける
ことで解けない問題はないという。彼の数学に対する姿勢はいっそ敬虔と言って良かった。
その姿勢にいつも油川は胸を打たれる。数式を解く石上の横顔を美しいと思う。彼のペンだこで
不恰好になった指先から信じられない速さで数式がこぼれ落ちる、その手が美しいと思う。酷い癖字で
ノートを彫るように数式が紡ぎ出される瞬間に、その数式の一切の余剰を許さぬ厳しさに芸術の美しさ
を思う。彼の手で紡がれた数式は歌う。多くの理論が重なりあい一つの解が導かれる時、ノートの上で
オーケストラが奏でられる。
彼の数式を解く姿を眺めているだけで油川は何にも劣らぬ幸福感を覚えた。
最初は手だった。触れたいと願い、叶うことなく胸の奥底に押し込めたはずだった。
次には目だった。問題を解くためだけに使われるその瞳に人間が映ったらどんな色になるのだろうと
思った。これもとうに諦めたはずの願いだった。
それが酒と石上の悪酔いとで引き摺り出されてしまった。そして、容れられた。
嬉しかった。やがて戸惑った。しかし石上の戸惑いが伝わるにつれ拒絶されていないことを知り、
まずは少しずつ歩み寄ろうと思った。石上がと一緒にいれさえすれば良かった。
「油川、大丈夫か?」
練習が終わり片付けに移ると、すぐに草凪が寄って言った。草凪とは学部の違いはあるものの
同学年であり、また一年生から一緒にやってきたサークル仲間でもある。入部してからバドミントン
を始めたらしいが、生来運動神経がいいのか、二年の後半位から油川と草凪とで二人のエースという
ことになっている。
油川は笑った。
「さっきは悪かったな」
「そうじゃなくてな」
草凪は頭をかいた。
「最近、何かぼうっとしてるだろ。心配事でもあるのか」
油川は思わず草凪を見返した。ぼんやりしているようで、意外によく周囲を見ている。
「いや、最近実験が立て込んでてね。大会には響かせたくなくて、つい夜が遅くなるんだ」
草凪は納得したように頷き、顔に同情を浮かべた。
「ああ、理系は実験きついって言うな。……まあ頑張れよ」
草凪はそう言うと油川の肩を軽く叩き、片付けに戻っていった。
その背中を見送り、油川も自分の道具を軽く点検する。
本当の理由など言えるわけがない。
時計を見上げると夜七時を過ぎたところだった。大学図書館はまだ開いている。
だとしたら、石上もまたいつもの場所に座ってノートを広げているはずだ。
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 今日はここまで
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ちんたらしてて申し訳ありませんでした。
>>452の後編です
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
占いは当たっていた。
街道を四半時ほど歩いた所の、少し道から外れた岩場に彼はいた。
辺りを見回しながら道をそれずに歩いていたアベリオンは
少し離れた場所の小さな水音に気づき、彼を見つけたのだった。
シーフォンは、大河の傍に膝を付いてばしゃばしゃと顔を洗っていた。
赤くなった目を冷やすように。涙の跡を洗い流すように。
「シーフォン」
無事に見つけた嬉しさからアベリオンが声をかけると、シーフォンの背がびくりと揺れる。
そして彼は水をすくっていた手を止めると、非常に憎々しげな顔つきでアベリオンを振り返った。
その顔がびしょ濡れなのは当然のことながら、
顔の周りの前髪やサイドの長く伸ばした部分まですっかり濡れてしまっていた。よほどしつこく洗ったのだろう。
彼は、ひとしきりアベリオンを睨みつけた後で、濡れた顔を袖でぬぐった。
地面に膝を付いたままそうする姿は少し猫に似ていた。
しかしアベリオンが岩場を下りて近づこうとすると、シーフォンは素早く立ち上がり彼を拒んだ。
「来るな!!」
バシュン!と音がして、見ると、シーフォンの頭上に異界の魔剣が召喚されていた。
右腕を高く掲げた彼がアベリオンを必死の形相で睨みつける。
その目は血走っているのか潤んでいるのかは分からないがとにかく真っ赤だ。ついでに顔まで真っ赤だ。
「し、シーフォン、落ち着きなよ」
アベリオンはうろたえた。
何かと言うとすぐ魔法での決闘に持ち込みたがるシーフォンだが、
こんな普通ではない精神状態で、あれほど強力な魔法を詠唱すると言うのは尋常ではない。
精神力そのものを用いて操られる魔法という技術は使用者の心に大きく左右される。
今この状態はあまりにも危険だった。
その証拠に、魔剣の背後に広がる闇は不規則にゆらゆらとたゆたっている。
「その、泣いてた事だって、僕は気にしてないから。怖い夢を見ることくらい誰だって……」
「うわああぁ!!言うな言うな言うな!!!」
なだめようとした言葉が裏目に出た。
シーフォンの叫びに呼応して、闇を凝固させて作られた魔剣が
一直線にアベリオンを目指して飛んでくる。
「!」
それに反応したアベリオンが、素早く右腕を逆袈裟に振り抜くと
瞬時に彼の眼前へ鋭い氷槍が生成され、それは魔剣と変わらない速度で放たれた。
そして――中空で互いの切っ先同士がぶつかった剣と槍は、
透き通った甲高い音を立てて2本とも粉々に砕け散った。
後には魔力の残骸だけがぱらぱらと落ちる。
それを目の当たりにしたシーフォンは目を見張った。
そして、みるみるうちにきついまなじりが力を失っていく。
「……ちくしょう…………」
剣の行く先よと、アベリオンを指していた腕も下ろされ
彼はがっくりとその場にくずおれた。
改めて、アベリオンに魔法で敵わないという事を実感してしまったのだ。
今しがたの氷の槍……その生成の速さ、飛んでくる魔剣に命中させる正確さ、
剣と槍が確実に相殺されるように制御された魔力。どれをとっても敵わなかった。
槍が剣より弱ければ自身に被害が来るが、強ければ相手に怪我をさせる。
強くても弱くてもいけないという厳しい条件の中、その魔力の強さを瞬時に
しかも正確に読み取り、それにぴたりと合わせた槍をアベリオンは生成したのだった。
これはもうセンスとしか言いようのない魔力に関する一種の才能である。
努力で得られるような種類のものではない。
その違いをまざまざと見せ付けられて、シーフォンはやり場のない悔しさに身を震わせた。
しかし、アベリオンがその天賦の才を授かることになった経緯を考えると
それもまた古代の亡霊による悲しい因果なのである。
自分が求めてやまなかった、魔術の始祖の力。
一度は手にしたものの、利用するだけ利用され
再びもぎ取られてしまったあの力。並の者なら確実に呑まれてしまう力。
そして、まさにその申し子であるのが今シーフォンの目の前にいる少年なのである。
これだけの因果の下に生まれていながら、なぜこいつは笑っているのだろうと、シーフォンは思う。
「ほら、帰って、朝ごはん食べよう」
「…………」
逆光に薄い銀髪が透けている。
しかし、笑顔と共に差し出された手をシーフォンは取らなかった。
それは彼の高すぎるプライドが許さないのだ。
「ね」
だが、自分からしゃがみ込んだアベリオンから手を取られても、それを拒絶することはなかった。
彼に促されるまま大人しく立ち上がる。
まだ赤い目をしてうつむいてはいるが、アベリオンが歩き出すと
その手に引かれるままに黙って付いていくのだった。
[][]PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)ちょっと中断…
すみません、突然犬臭いに巻き込まれてしまいました
マンションの回線の関係で…
明日の朝直ってたら再開させて頂きます
申し訳ありません
>>478からの続きです
>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・;)サイカイ!
彼と密に接していないと分からないことであるが、
シーフォンの心の一部分にはまだ幼い子供のままである部分が残っている。
世を斜に見た、まさにはぐれ魔術師である大人びた部分と
成長しきれなかった子供の部分が同居しているのだ。
一見破綻しているように思われる彼の性格も、
そういったことに起因して形成された可能性がある。
愛情も友情も、その大きさや形すら彼はほとんど知らないのだ。
歪んだ形を自分自身に刻み込んだままここまで来てしまった。
まずはそれを教えることから始めようとアベリオンは思っていた。
大河の水で冷えた彼の手をぎゅっと握る。
いつか彼からも握り返してくれる日が来るといいと望みながら、二人で家路を歩いた。
少し後ろから聞こえる、ぐす、という湿った音を
アベリオンは聞かなかった事にした。
---
後日、アベリオンはひとつの護符をシーフォンに手渡した。
「これあげる」
「……何だこれ?」
「安眠のお守り。どっかの部族に伝わるものらしいんだけど、
師匠が前に作り方を教えてくれたんだ。
とは言ってもこれ自体にはそれこそお守り程度の効果しかないから、
今回は僕特性の悪夢を食う獣の召喚呪文を練り込んでみました」
「はぁ?」
「獏っていう仮想の動物をモデルにしたんだけどね、お守りを持つ人が悪夢を見てると
枕元にやって来て悪夢とか夢魔とかを食べてくれます。たぶん」
「たぶんって何だよたぶんって」
「いや、だって自動で召喚される精霊なんて作ったの初めてだもん」
「だもん、じゃねーよ。要するに試作品を僕様に押し付けようって腹か?ふざけんな」
「違うよ。これはシーフォンのために作ったんだから。
あ、ちなみに捨てると呪われるから気をつけて」
「ちょっと待てコラ!」
あの日、どうして自分が眠りながら泣いていたのかは、シーフォン自身にも分かってはいなかった。
目覚めたとたんに夢は霧散して内容の欠片すらも記憶に残らなかったためである。
ただ、何か巨きな恐怖の感覚だけは覚えていた。
うなされること自体も別に初めてではない、それは仕方のないことだとシーフォンは思う。
今まで散々、まさに寝覚めの悪くなるようなことをしてきたのだ。
むしろ夢くらいで済むのだからありがたい事だとすら思った。
だがアベリオンはそうは思っていないらしく、
あの日以来何かと夢に関する文献やまじないの類を集めてくるようになった。
今回の護符もそれによる産物なのだろう。
そして、更に数日。
「返す」
「えっ、どうして?効果なかった?」
「……効果自体はあった。あったがな、発動してる間じゅうずっとテメーの気配がすんだよ!
鬱陶しくておちおち寝てもいられねぇ!」
「ああ、獣を構成してるのもそれを呼び出してるのも僕の魔力だからね。
気配がするくらいはどうしようもないんだけど……
というか、シーフォンが敏感すぎるだけだと思うよ。
魔力の気配って言ったって普通の人なら感知も出来ないくらいしか残ってないはずだし」
「魔力に敏感じゃなくて妖術師がやってられるか!」
「まぁそれはそうなんだけど」
少し思案して、あくまで真面目な顔でアベリオンは言った。
「それじゃ一緒に寝ようか?
それなら気配がしても元々一緒だし、うなされてても起こしてあげられるし」
「お前いっぺん死ね、死んでこい、本当に」
今日も災厄の町は平和だった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
色々とgdgdで申し訳ございません、ありがとうございました
雪山でうなされながら謝るしーぽんの可愛さは異常
オリジナルで 過ぎたけどクリスマスネタです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
世話好きという言葉は決して褒め言葉じゃない。
特にここみたいな飲食店では、面倒な客の処理を押しつけられる時の常套句になる。
言い方がいやなら用心棒ってのはどうだ、クールだろと店長は言うけれど、要は同じじゃないか。
便器に顔を突っ込んだまま寝ている奴や、泥酔してフロアで大の字になって叫んでる奴を処理する役回りは全部自分にまわされてしまう。
特にこのシーズンは大変だ。世の中浮かれとんで、自分の限界を忘れて飲みまくる馬鹿が大量に発生する。
誰かが介抱してくれるとでも? どこかに連れ去られるならまだしも、下手するとあの世へ連れてかれてしまうとか考えないんだろうか。
今夜もこの店は貸し切り。近くの金持ち大学の学生達のパーティだから、いいとこの坊ちゃん達ばかり。
これは楽かもしれないと思っていたが、逆だった。金を持ったガキほど質の悪いものはない。
食べ物や飲み物を投げつけたり、グラスを壊したり、店の飾りを破壊したりやりたい放題だ。
やんわり注意すればすぐにプラチナや黒のカードをチラつかせる。金で済む問題かよ。
好きにすればいい、と諦めて傍観していると、店長がやってきた。
「ルー、あそこでぶっ倒れてるガキなんとかしてくれ」
見ると、隅でシャンパンのボトルを持ったまま倒れている奴がいる。
救急車を呼びますか、と聞くと店長は後々面倒だから、と止めた。
「どうせ後1時間くらいすれば、こいつら場所移動するから、それまでどっかに置いといてくれ」
鼾かき始めたらヤバいんで注意して見てて、と言われた。これだから嫌になる。
無駄に着飾った奴らをかき分けて倒れている男の元に行き、軽く顔を叩いた。
「おい、生きてるか?」
反応はないけれど呼吸はしている。仕方ない。従業員室のソファまで運んでおくことにした。後はほっておこう。
ブランドものらしきジャケットがシャンパンまみれになっている。
華奢な身体を抱えるとこっちまでシャンパンで濡れてしまった。
どうせ安物のTシャツだし、いつものことだからどうでもいいけれど。
店長のいう通り、ここでのパーティはほどなくお開きになった。次は主催した奴の家でやるらしい。
皆がタクシーでどんどん去っていく。慌てて近くにいたサンタのコスプレをしている奴に、従業員室で寝ている男のことを訪ねた。
「起きたら、トムの家にいってるって伝えといて。連れてけって? やだよ面倒くさい。保護者じゃあるまいし」
こっちだって保護者じゃねえよ! こういう輩が後に政治家とか医者とかになるのかと思うと、うんざりする。
なんだかんだと言い逃れられて、皆とっとと行ってしまった。
奴らが去った後の店は凄まじい惨状。従業員総出で、とにかく朝になる前に片付けてしまおうということになった。
明日からここもしばらく休みになるから、できるだけ持ち越したくなかったのだ。
何とか夜中のうちに店をきれいにしたのはよかったが、従業員室に戻って大変なものを残しておいたことに気づいた。
「誰これ?」
シャンパン男がすやすやと寝ていた。
店長は途中でとっとと帰ってしまったし、他の奴らも早く帰りたいらしく、あの呪文を唱えた。
「世話好きだなあ、ルーは」
「ああ、そういえば店長、ルーに任せたって言ってたしね」
「悪いなルー。早く実家帰らないと、親が怒るんだ。お前帰省とかしないだろ。じゃあ、メリークリスマス」
え、とか言っている間に誰もいなくなってしまった。
いつもこうだ。結局なんだかんだいって最後に店の鍵を閉める役回りになる。
シャンパン男は青ざめていた頬に血色が戻っていた。ただ寝ているという感じ。腹が立ってソファを蹴った。
フロアを点検すると端の方にガラスの破片がまだ残っている。
金が貯まって自分の店を持てることになったら、絶対あんな連中のパーティは断わろう。
「ちょっと」
従業員室の方から声がした。ガラスの破片もどきが起きたらしい。
「そこの、腕が刺青だらけの人!」
「聞こえてる。起きたんなら帰ってくれる?」
「ここはどこ? 今何時? 皆は?」
とりあえず目を覚ましてくれたことに免じて、トムの家、と知っている限りの説明すると、トムってどこのトム? と返された。
「俺が知るかよ。あんたの友達だろ。パーティ主催した」
友達の友達みたいな繋がりの集まりだから、よく分からない、と呟かれた。諦めて家に帰ればと言うと、言葉を濁す。
帰る家がないわけじゃないだろうに。それにここにいつまでもいてもらっても困る。
「お前もしかして、うまく忍び込んだだけのホームレスか?」
「は? 悪いけど、父親は映像関係の会社経営してるんで。別荘とかもあるんで」
「映像ねえ。どうせアダルトビデオとかだろ」
顔が赤くなった。図星だったらしい。
この時期になると家では毎晩パーティ三昧で、ポルノ女優や高級娼婦みたいな女が集まってくる、僕が部屋で寝ていると勝手に忍び込んでくるんだ、と聞いてもいないことを話し始めた。
普通に羨ましい環境じゃないか。
「皆そういうけどね。子供の頃からだよ。僕がどんな気持ちになるか分かる?」
「さあね。俺の知ったことじゃないんで。ここ鍵閉めるから、とにかく出てくれ」
愚図る奴の襟を掴むと外へ引っ張っていった。
夜中の3時過ぎだというのに、年末のせいか、外はまだ人が多く歩いている。
入り口を閉めている間、奴は横で待っていた。歩き始めてもまだついてくる。そしてまた身の上話の続き。
俺は奴が初体験が早すぎただの、整形した女優の身体がどうだのと話す間、何となく去年ここにいた子犬のことを思い出していた。
店の前の段ボールからすがる目で俺を見ていた。
かわいそうだったけれど、家にはすでに猫がいて余裕もなかったので、来るなというオーラを出しまくりながら歩いていったっけ。
なのに家のドアまでついてきた。結局今では、俺のベッドを占領するほど大きく成長して、猫と部屋で仲良く暮らしている。
しかしこいつは犬じゃなくて人間だ。口で言って話して理解してもらおう。
「いい加減ついてくるな」
「あんたはこれからどうするの?」
家で寝る、というと、なら家に行ってもいいよね、と当たり前にいうものだからふざけるなと怒鳴ってしまった。
「何で? 予定が何もないんだから、別にかまわないだろ」
「お前が決めることじゃない。お前のせいでTシャツがシャンパン臭くなっちまったし、とにかくうざいから」
「あれ、そうだったんだ。弁償するよ。いくら位?」
「弁償するとか。その金はお前が嫌がってる整形女優や親父が身体で稼いだお金で、お前の金じゃない。どんだけ坊ちゃんだよ。とっとと家に帰れ」
俺の怒鳴り声に、ほろ酔い気分の周りが一斉に目を向けた。本当に何やってんだ、こんな夜中に。
向こうは何も言い返せなくなり黙り込む。その代わりにこっちを見つめる。あの目はすがる子犬の目だ。
けれど俺は真っ直ぐ前を指差す。行っちまえ、と。
諦めたらしく、後ろを向くと、よたよたと道の向こうにあるタクシーに向かって歩き始めた。
赤の他人だってのに、さすがに言い過ぎたかもしれない、と少し後悔する。
でも知ったこっちゃない。
……家に帰るんだろうか、それともトムやらを探し当ててパーティに行くんだろうか。
……あいつなんだかんだ言って友達いないんじゃないの?
「おい!」
思わず叫んでいた。奴が振り返る。
「メリークリスマス」
それしか浮かばなかった。そしてそれが今言うべき言葉だと思った。
奴はようやく笑みを浮かべると、大きく手を振った。
「メリークリスマス!」
お互い名前さえ知らないけれど。
ありがとうごさいました
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
激団親幹線「バソユウキ」から復讐鬼と殺し屋の話。
今年最後なので少し明るく、を目指して。
誰かが言った
この肌は氷菓子のようだと
手にひんやりと冷たくすべらかで
舌に毒のように、甘い―――
怒門が熱を出した。
「気が緩んだのかもしれませんね。」
寝台の脇で、甲斐甲斐しく額に置いた布を取り換えながらガラソが口を開く。
それを佐治は少し離れた後方から見つめていた。
「すまないな。」
横たわる怒門から掠れがちな声が零される。その抑揚はさすがに弱々しい。
だからそれを擁護するように、またしてもガラソが明るい声を出した。
「しょうがないですよ。怒門さん、ずっと過酷な生活してたんだし。
追っ手もまけて、ちょっと気が緩んだんですよ。」
彼がそう言う追っ手とは、完獄島からのものだった。
無実の罪で投獄された絶海の孤島から、様々な出会いの偶然を重ねて脱走を謀り、早一ヶ月近く。
船旅で始まった逃避行は陸地についても続き、それでも先導する元ハマソ国の王女ペナソの
従者であるガラソ達がもう大丈夫だと、そう告げた地で怒門は倒れた。
体力や栄養の不足していた日々からの急激な環境の変化には、体がついていかなかったのだろう。
安堵と共に襲ってきた疲労による高熱。
そうして慌てて取ったその日の宿は、急な事もあって部屋数の確保が難しかった。
「佐治さんも疲れてるでしょう?今日は俺がついてますから隣りで休んで下さい。」
取れた部屋は三部屋。女性2人に一部屋、病人に一部屋を割り当てるとすると、残りは
もう一つだけになる。
それをあてがわれ、しかしその瞬間佐治の眉根が微かに寄る。そして、
「嫌だ。」
ポツリとそう呟けば、それにガラソの目がパチリと瞬いた。
「えっ?」
「なんだか、嫌だ。」
ひどく掴みどころのない言葉が繰り返され、それにガラソのうろたえが大きくなる。
「あ〜っと、じゃあどうすれば…」
「俺の看病は別にいいから、二人とも休んでくれればいい。」
そんなガラソに助け船を出すように、不意に怒門から声が発せられる。
しかしそれにも佐治の不満げな表情は変わらなかった。
「それも嫌だ。」
言いながらスッと目の前にいるガラソに視線を落とす。と、それにガラソはヒッと息を飲んだ。
まだそれ程長い時間を一緒にいる訳ではないが、とりあえず自分の暗殺者と言う出自は
知られている。
そんな人間と同じ部屋に放り込まれるのは、さすがに憶するところもあるのだろう。
何とはなしに思う、そんな自分の心中を読んだのか、この時また怒門が口を開いてきた。
「なら、佐治はどうしたいんだ?」
まるで諭すように問われ、佐治は微かに首を傾げる。
『どうしたい』と言うよりは『何が嫌ではないか』
答えは意外とあっさり出た。
「僕は君と同じ部屋がいい。」
サラリと告げた、その言葉に何故かガラソがザッと寝台の脇から後ずさる。
しかしそれによって遮るもののなくなった視界の先では、この時横たわる怒門の、
少し驚いたような顔が見えた。
その渇き気味の唇が動く。
「看病は別にいいぞ?」
「世話する気はないよ。」
「……うつるぞ?」
「僕は君ほど柔じゃない。」
淡々と交わす、その会話の末に怒門は微かに苦笑したようだった。そして、
「わかった。佐治の好きにすればいい。ガラソ、そう言う事だから今日は君が
一人で休んでくれ。」
ありがとう、と最後に付け加えられた礼と共に怒門の視線が流れる。
だからそれを追うように佐治も視線を向ければ、自分達の横、ガラソは呆然と見開いた目のまま
コクコクと壊れたからくりのようにその首を何度も縦に振っていた。
二つある寝台の一つに横になる。
そしてついた眠りが不意に破られたのは、夜半も過ぎた頃だった。
もともと浅い眠りの意識に滑り込んできた怒門の声。
呻きにも似た、それに佐治はふっと身を起こした。
そして視線を隣りの寝台に向ければ、そこには薄闇の中、壁際に丸まるように
身を寄せる影が見えた。
そこから再び聞こえてきた苦しげな声に、思わず足が床に降りる。
そして音を立てずに近づき、背を向けるその顔を覗き込もうとすれば、そこには
うっすらと汗ばむ怒門の額があった。
熱が高いのか。
そう思った瞬間、佐治はスッとその手を伸ばしていた。
他人から指摘され、自身でも自覚のある冷たい手。
それを熱い額に押し当ててやれば、怒門は一瞬ビクッと肩を震わせたようだった。
置いた手の下でゆっくりと瞼が上がったのがわかる。
そしてそのまま背後に返される身体。
闇の中でもぼうっと焦点が合っていない瞳が、こちらを茫洋と見上げてくる。
しかしそれでも置かれた手が払われる気配はないので、冷たいのが気持ちいいのかと、
佐治は今度はその額の手を頬や首筋に滑らせてやった。そして、
「水、飲むかい?」
面倒の見方などわからないがこれくらいならしてやれるかと、そう尋ねてみるが、
それにも怒門の反応はこの時鈍い。
だから、仕方がないと返事を待たずに動こうとしたその時、
「えっ?」
離れかけた佐治の手は、不意に延ばされた怒門の手に捕らえられ―――引き戻されていた。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
それでも背が寝台に沈み込む身体の上に、影のような怒門の体が覆い被さってきた時には
たまらず背筋に動揺が走る。
「ちょっ……どうしたんだい…っ」
言いながら、その体を突っぱねようと伸ばした腕。
しかしそれは全体重を掛けてのしかかってくる力の前に、あえなく潰された。
両腕を回され、強く抱き込まれる。
そのまま竦めた首筋に顔を埋められれば、無意識にギッと奥歯が噛み締められた。
こういう扱いを受ける事は別に初めてではない。
これまでだって、必要とあらば自らの身を使う事に厭いは無かった。
けれど、出会って一ヶ月。声だけの邂逅も含めれば一年ほどの交流の中で、何故か
彼とはこうなる気がしなくて。
彼だけは……違う気がして―――
しかしそれは自分の見誤りか。
ならば………仕方がない。
身体をどけるのに殺していいのならば話は簡単だが、今はそうする事も出来ず、
半ば諦観の念で佐治の身体から力が抜ける。
好きにすればいい
そう思い、すっと目を閉じたその顔に怒門の節だった手が這い上がる。
捕らえられ、固定され、口づけでもされるのかと。しかしそう先回りした佐治の思惑は
次の瞬間、横髪に差し入れられた怒門の手の動きによって、軽く予想を裏切られた。
大きく武骨な手。それが不意に……佐治の髪をわしゃわしゃと掻き乱してくる。
それは何かを探る様に、確かめるように。
そしてそれに再び驚きの目を開けた佐治の上で、怒門は不意に安堵のような吐息を洩らすと、
顔を埋めた首筋の耳元近くでポツリと小さな呟きを落としてきた。
「……牢の中じゃ……ない……」
そのままもう一度背中に回される腕。
背骨の近く、寝台と身体の間に挟まれ、感じ取れる怒門の手の形はこの時、固く拳が
握られているようだった。
それは寝衣越しにも自分の肌を弄ってくるような、そんな色めいた気配は無くて、
ただただ縋る様に自分を抱き締めてくる。
けれどそんな力でさえ、けして長く続くものではなかった。
徐々に弛緩し、重くなってゆく怒門の身体。
捕らえてくる拘束の力も緩み、それに佐治が戸惑いながらも体をすり抜けさせれば、
怒門の腕は呆気ないほどの容易さで、この時寝台の上に落ちた。
上半身を起こして見下ろす、その視線の先に捉えた彼の拳の形。
それに佐治は刹那、先程耳元で聞いた怒門の言葉を反芻していた。
牢の中じゃない―――
その言葉には、あらためて気づく彼が過ごした10年と言う月日の重みが滲んでいた。
地下に近い、光のほとんど射さぬ牢獄に閉じ込められ続けた日々の中、彼がその手で
触れたのは、おそらくわずかな食料と、湿った土の壁と、冷たく硬い鉄格子だけ。
そう思えば、今目の前にある彼の手は、まるであの牢獄の無慈悲な格子を今も
握り締めているようで……
たぶん、だからだ。その手にこの時、自分の指先が伸びたのは。
強く握られる怒門のその力の強張りを解くように、佐治は彼の指にそっと己のそれを重ねる。
一本一本に触れ、開き、出来た隙間に自分の指を差し入れ、キュッと握り込んでやる。
彼が今触れているのは、鉄の檻では無いのだと。
伝えてやろうとする。と、その感触に応えるように、この時怒門はそんな佐治の手を
ひどく柔らかな力で握り返してきた。
無意識に縋るような。その頼りないまでの素直さに、ふと佐治の口元から笑みが零れる。
だからその顔を覗き見た、しかしその瞬間佐治の眉は再びサッとひそむ。
薄闇の中に見遣った怒門の表情。それはまた熱に浮かされる苦しげなものに戻っていた。
きつく眉根を寄せ、吐く息が荒い。そしてその歯の根はカチカチと小さく音を立て
合っていないようだった。
熱いのか……寒いのか……
思えば、冷たいだろう自分の手が触れていてもいいのかもわからず、佐治は咄嗟に
絡めていた指を解く。
そのまま、具合の悪そうな怒門の様子を見下ろして戸惑う、しばしの時間。
正直どうしたらいいのかわからなかった。
自分は今まで、人の心の臓を止める事はあっても、助けるような事は無くて。
ただ知識だけは叩きこまれている。
だから、
無いよりはマシなのだろうか。
自分のものでも足りるのだろうか。
いつか誰かが言った、氷菓子のようなこの肌―――
白い指先が闇の中、ゆらりと持ち上がる。
視線は眼下の怒門の横顔にひたりと当てたまま、
佐治はこの時、自分の肩からすでに乱れ緩んでいた寝衣の襟を静かに滑り落としていた。
「おはよーございまーす。佐治さん、怒門さん、具合はどうですかー?」
部屋の扉が叩かれるのと同時にそんな声が聞こえ、佐治は瞬間んっとその目を開けていた。
落ちてくる前髪を無造作に掻き上げながら、ゆっくりと身を起こす。
誰かが起こしに来るまで目が覚めないとは、珍しく眠りが深かった。
その原因はおそらく、
「…………」
視線が落ちる。その先にあったのは未だ目を覚まさず眠り続けている怒門の横顔だった。
昨夜見たものよりはかなり穏やかになった。そんな表情を見止めながら頬に掛かった
白い髪を払い除けてやると、その額に触れる。
手の平に伝わる熱は、おそらく人並なものだった。
だから下がったのかと、少し安堵して佐治は寝台から降りた。
腰の帯でかろうじて留まっていた寝衣を引き上げ、袖を通しながら、扉の方角へ向かう。
そして、
「お二人共、起きてます…」
再度上げられた声を途中で遮る様に、佐治は部屋の扉を唐突な勢いで開けると、
その向こうにいたガラソに向け、こう言った。
「彼はまだ寝てるからもう少し静かに。」
声をひそめて告げる。と、途端、ガラソはその表情をビキッと固まらせた。
それに何だ?と思いつつ、佐治は事務的な事だけ口にする。
「熱は下がったようだよ。ただ朝方に汗をかいてたから着替えさせてやった方がいい。
って、聞いてるかい?」
目の前でぼうっと言うよりは愕然と言った面持ちで固まっている青年に声を掛けながら、
佐治はこの時一つ小さなあくびをする。そして、
「じゃあ、後はよろしく。僕は顔洗ってくるよ。」
言いながら棒立ちになっているガラソの横をすり抜けようとした、しかしその時
佐治は不意にその踵を返した。
「あっ」
「へっ?」
小さく零された声に、ガラソがビクッと振り返ってくる。
だからその顔に、佐治はこの時スッとその手を伸ばしていた。
白い指先でサラリと青年の頬に触れる。そして、
「やっぱり冷たいよね?僕の手。」
伺うように問えば、それにガランは一瞬の間の後、無言でガクガクとその首を
縦に振ってきた。
だからそれに佐治は、クスリと笑って続ける。
「だよね。それなのにこの程度の肌の温度で、しかも甘さも知らずに事足りるなんて
本当に欲の無い男だよ。」
最後はほとんどひとり言のように、そう含み笑いながら佐治は手を下ろした。
そのまま、あっさりとガラソに背を向けて歩きだす。
そしてその足が廊下の角を曲がり、階下へ繋がる階段に触れた時、
「ひいいいいっ!」
不意に背後から聞こえた青年の悲鳴。
けれどそれにもう振り返る踵は無い。
ただ階段を下りる動きに緩く合わせただけの襟が肩からずり落ちそうになるのを直しながら、
佐治は朝の光の中、もう一度小さなあくびを繰り返していた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ガラソ乙!
今年はお世話になりました。少し早いですが、よいお年を。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 昨日の続き
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 規制されませんように
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
石上は夢中でノートに数式を綴っていた。右下の紙の一番端まで至るとページを繰り、また鉛筆で
ノートを彫り込むように数式を続ける。
自分の手と脳内で数式が浮かぶスピードが同じこの時、忘我の境地にある。もはや恍惚に近いだろう。
再び右のページの中程になって解が導きだされた。石上は解に下線を引く。
すっきりとした、美しい解だ。
顔をあげて、背もたれに身体を預けた。遠くの書架に目をやり息をつく。学生の一人さえ見えなかった。
試験期間でもない大学図書館は閑散としている。そのぶん石上のような学生は落ち着いて勉強ができて
助かる。
「解き終わったのかい」
隣からひそめた声が聞こえ、石上は目を丸くした。
油川が隣の椅子に座り、微笑んで石上を見ていた。
「君か。いつ来たんだ。全然気づかなかったよ」
石上は言うと油川は楽しげに笑う。
「さっきだよ。君は数学に夢中だったから気を散らさないようにと思ったんだ」
図書館という場所柄から抑えた声になり、自然、顔が近付く。
「もうすぐ閉架の時間だ。出ないかい」
油川は問いかけて石上を見た。石上はそうだな、と頷きノートを閉じる。
参考にと開いていた本をたたみ、石上は立ち上がった。歩き出した油川に従って書架の間を進む。
「油川、僕はカウンターで貸し出し手続きをしていくから先に行っていてくれ」
工学関係の専門書が並ぶ書架の中で言葉をかけると、油川は足を止めて振り返った。
「借りるのか。珍しいな」
油川がそう言って石上の手元に視線を落としたので、石上はその本を表にして見せた。
油川が目を見開いた。
「前に君がこの本のことを言っていただろう。それで読んでみたんだ。面白かった。家に帰ってこの中
の数式を検討しようと思って」
石上は珍しく饒舌になった。なぜか気恥ずかしいものがあった。
物理学の分野に問題が起こるとき、数学は常にその数歩先で待ち伏せしていると油川は言う。大抵の
物理学者はとっくの昔に死んだ数学者の肩に乗って新しい発見をするのだと。
演繹的な論理によってのみ真理を決める数学は、ある意味では特殊な科学だ。石上はこれまで、数学
が何かの分野に役立つことを考えたことがなかった。
数学はいついかなる時代、状況、環境にも寄らず真実だ。その厳密さにおいて敵う科学分野はない。
地球が滅亡しようと揺るがぬ真理がそこにある。
物理学者は観察する。仮定する。実験する。実験を唯一の真理の裁定者とする点で、数学とは違う。
こういう小話がある。三人の学者が会議に出席するためロンドンからエディンバラに向かった。その
列車から外を眺め、原っぱにいる二頭の黒い羊に目を止めた。天文学者はそれを以て「スコットランド
の羊は黒い」と言った。聞いた物理学者は天文学者の安易な一般化を批判し、「この事実が示すのは
スコットランドの羊のうち、少なくとも二頭は黒いというだけだ」と言った。しばし沈黙が流れ、物理学者が
「どんなもんだい」と優越感に浸ったところに、数学者が言った。「根拠がないというところでは両方同じだ。
この観測結果に対する正しい解釈は、スコットランドの羊のうち少なくとも二頭は、少なくとも片面が黒い」
物理学者は片面が黒、片面が別の色の羊が地球上のどこかにいるなどという話は聞いたことがないの
で、そんな羊は存在しないという。
しかし数学者はそんな動物が存在しないということが証明されない以上、結果はわからないという。
石上は数学者だった。数学は真理を示す。その真理は他の科学分野の真理の一段も二段も上にある。
その考えは変わらない。しかし油川と話すことで、物理学とはおおよそ観測できうる範囲内において
この世界の自然現象に何が起こっているのかを研究しているのだと分かった。油川の目は、常に現在の
現実に向いているのだ。
それはそれで興味深い。少なくとも何かしらの対象に向けた真摯さがある。
油川はしばらく黙って石上が持つ本を眺め、石上を見上げて嬉しそうに目を細めた。
「……驚いたよ。君が、物理学に興味を持つとは思わなかった」
「僕自身も少し驚いている。僕の知る数式がこんなふうに応用されているのを見るのも面白いと気付い
たんだ」
君のおかげだ、と言うと油川は一瞬くすぐったそうに相好を崩した。
「君は僕のしていることに関心がないのかと思っていた」
油川は目線を書架にさ迷わせ、ぽつりとこぼす。
「なぜだい」
石上が問い返す。油川はかすかに眉根を寄せる。逡巡する風を見せた。
幾度か躊躇い困ったように口を閉じてから、吐息に紛らす程のささやかさで油川は言葉を吐き出した。
「……触れてもいいかい」
石上は驚き、油川を眺めた。
いつも自信ありげなこの男が、妙に小さく映った。
石上の返事を待たず油川の手が石上の右手に触れた。彼の指が手首に触れ、甲に移り、そろそろと
石上の指を包む。
手が熱い。右手の指先から発火するようだ。触れた場所から滲む汗はどちらのものか。
石上は指を震わせた。鉛筆だけを握ってきたこの手、数式だけのために使われてきた指だった。
たどたどしくも油川の指に絡ませる。熱い指先がぎゅっと握られる。
瞬間、油川が間近の石上の顔を見つめた。
「……石上」
呼んで、油川は苦し気に表情を歪める。吐息が近い。かすかに汗の匂いがする。伝わる体温に石上は
狼狽える。古い紙と埃が満ちた書架の間に、急に人間が割って入ったような感じだった。
頭を少しだけ動かした。思わず息を詰める。唇が触れた。柔らかく乾燥した感触。少し塩味がした。
顔を離すと、ふと視線があった。互いについ逸らしてしまう。握り合った手が熱い。目を伏せる。
詰めた息を吐いて、また吸っても呼吸が苦しいことには変わりなかった。
閉架を告げるアナウンスが天井から響いてもなお、二人してそのまま動けないでいた。
目覚めると視界が薄暗かった。
油川はうなじに寒気を感じて、無意識に毛布にもぐりこむ。身動ぎすると枕にした腕の下に畳の
感触がした。まばたきを繰り返す。暗さに目が慣れてくる。
部屋の一方が明るい。寝返りをうつと、机の上のライトが灰色のトレーナーの丸めた背中を暗闇
の中に浮かび上がらせていた。
石上が紙に鉛筆を走らせる音だけが聞こえている。油川には、その手に握られたちびた鉛筆が
一気呵成に数式を書き綴るさまが容易に想像できた。
石上の周囲では机脇の本棚に収まりきらなかった研究資料が日焼けした畳に雑然と積まれている。
紐でくくられているものもあったが、多くはコピーの束に紛れてそのままの状態だった。
散らかっているように見えてそうでもない。実際、散らかるほどの広さもない部屋だった。
しかし、ここには秩序がある。それは本とコピーの束に埋もれながら真夜中でも机に座り、一心に
手を動かす石上の精神と無関係ではないだろう。
石上は机に背中を丸め、油川を一顧だにせず数式に取り組んでいる。あるいは油川がそこにいる
ことなど忘れているのかもしれない。
油川が石上に告白した夜以来、久しぶりに彼の部屋に来ていた。
最初は油川自身どのように振る舞うべきか戸惑ったが、酒を酌み交わすうちに普段通りに落ち着いた。
石上が変わらなかったからだ。
いや、そうではないな、と油川はひとりごちる。
石上は戸惑っている。油川が恋人らしい振る舞いをするたびに、困ったように油川を見る。それでも
拒絶されるわけではない、むしろ最近はキスにさえ少しずつ応えてくれるようになった。油川はそれが
ひどくくすぐったくて、嬉しい。
薄闇の中、油川がひっそり苦笑した。こんなにも彼の振る舞いに一喜一憂している。
僕らしくもない、と思う。おそらく今まで付き合った誰より石上が好きだ。
こうして夜中に独り机に向かう背中が、油川にはどうしようもなく愛しい。背を丸め、数式に真摯に
向き合う彼を見ると何故か泣きそうなほどの感動を覚える。
彼の手は数式のためにある。油川は彼のために彼が死ぬまでこうして過ごしていられるよう、祈る。
彼の手が生活の垢にまみれることがないようにと祈る。
彼の手は殉教者の手だ。数式を解き始めるとき、その膨大な計算を繰り返す先に美しい解のある
ことを願っている。そこには敬虔な真理への信頼と祈りがある。
すべての科学者はこうあらねばならないと油川は思う。科学者はいつの世も人から怪しく見られる。
だからこそ科学を志すものはその目指す真理に身を捧げるつもりでいなければならない。
油川は石上の手に焦がれている。彼の一途で揺るぎない、純粋な魂に魅かれている。その切ない
までの純粋さに触れるたび、油川は自分の心さえも穏やかに清んでいく気がするのだ。
人は嘘をつく生き物だ。それを油川はこれまでの人生でよく学んでいる。故意につく嘘もあれば、
意図せずして嘘をつくこともある。一般に誤解や錯覚と呼ばれるものがそれだ。
人間の記憶はあてにならない。それこそ正に人間が人間たるゆえに発明した脳の最良の機能なの
かもしれないが、自分に都合よく歪められた観測結果は元より信用に値しない。
だが石上は、確かであることしか口にしない。石上が油川に返す言葉に嘘や誤魔化しがあったこと
など一度もない。自身の図れる範囲だけを言葉にする。そういう性格なのだ。
数学にしか興味がないように見える石上がふとした瞬間、戸惑いながらこぼす優しさに油川は心が
ほころび、暖かくなるのを感じる。
今だって眠ってしまった油川に毛布をかけたうえで、机のライトだけを灯し、寝る間も惜しんで数学
に取り組んでいる。
そういう学問への厳格さと律儀な優しさの差が油川には微笑ましい。
石上の見せる優しさはささやかで拙い。見落としそうになる優しさは、だからこそ愛しい。
君はいつも僕に心をくれる、ライトに照らし出された石上の背中に油川は小さく囁いた。
同じ気持ちを返してくれることなんか望まない。
十年後も二十年後も君と変わらずにこうしていられたら、僕はそれでいいんだ。油川は少し笑い、
再び目を閉じた。
がたん、と傍らで音がして油川はそれを振り返った。
さっきまで隣にいた学生は驚いたように声をあげて飛びすさる。自分に向かって落ちてくる点火された
バーナーを、油川はスローモーションでも見ている気分で眺めた。
「きゃあ!」
近くのグループの女子学生が悲鳴をあげる。
とっさに腕を振り払い身を引いた油川は、一瞬遅れてやってきた痛みに右手を抱えた。実験用の机から
ガス管が伸びている。垂れ下がったバーナーの火は消えていた。
目をやると、同じグループの学生が顔色をなくしてバーナーの元栓を握っていた。
「ごめん、油川! 大丈夫か?」
バーナーを落とした隣の学生が大げさに謝って油川を覗きこんだ。油川は痛みに顔をしかめる。
「大丈夫だ。……気にするな」
すぐ近くの水道に向かい、左手で蛇口をひねって右手を水に晒す。右掌の手首から小指の付け根まで、
まっすぐ火傷になっていた。
「油川」
顔をあげると、急いで駆けつけたらしい指導助手だった。青い顔をしている。すぐに救護室に行くように
言われた。
その言葉に従い、廊下に出てからもう一度自分の右手を見る。手を握ろうとすると、痛みに耐えかねて
眉をひそめた。背中に脂汗が浮く。
困ったことになった。これではラケットが握れない。
油川はその日のサークルで、怪我のことを報告した。
全治一週間の火傷だ。この怪我は確実に二週間後の大会に響く。
「おそらく、大会には出場できない」
油川は落ち着いて言った。
「すまない。僕の不注意だ」
サークルの主戦力となる三学年の連中が揃ってむっつりと黙り込んでいる。自分も三年である油川には
その気持ちはよく分かる。
油川はシングルのエースだ。油川が抜ければ確実に穴になる。補欠を入れて埋まるものではない。
「申し訳ない」
油川は再び頭を下げた。
「わかったよ」
思っていたより明るい声がした。
「俺が油川のぶん頑張って勝てばいいんだろ? その代わりおまえは後輩を見てやってくれよ」
草凪が少し茶化して励ますように言い、周囲を見回した。固まっていた空気がほどけていく。
「悪いな。頼んだ」
「おう。今度奢れよ」
ミーティングが終わり、練習のために体育館に散っていく選手の合間に草凪を捕まえて言うと、そう
返された。
草凪のおかげでとりあえずは助かった。しかし気分が晴れたわけではない。
誰より油川自身が、苛立たしかった。
図書館のいつもの時間、いつもの席。サークルを終えた油川が図書館に来ると、石上は必ずその席に
座っている。
約束したわけではない。油川が勝手に石上を見つけるだけだ。
油川は書架の影からいつもの席を眺めた。石上が背中を丸め、脇目も振らず数式に向かっている。
その姿を目にし、油川は口の端で笑った。安らぐ。彼との時間がこんなにも憩いのときになっている。
油川は彼の背中に近づいた。音を立てずに隣に座り、そっと鞄を開いた。ペンケースを出すときに
右手に鋭い痛みが走り、顔をしかめる。しばらくは何気ない動作にも気を遣わねばならないだろう。
「今日は早いな」
隣から声をかけられて、油川は目を見開いた。
「うん。……サークルが少し早くおわったからな」
油川は迷って、怪我のことを言わなかった。ふと右手を鞄の影に隠すように追いやった。
「昨日話していた証明は進んだのかい」
油川がそう言って石上の手元に視線を落とすと、彼は照れたように頭をかいた。
「いや、それが……思っていたよりも時間がかかってね」
「へえ。珍しいな、君が。見せてくれるか」
「ああ」
顔を寄せて石上のノートを覗き込む。
二人して解き方を話し合っているうちに閉館時間を告げるアナウンスが聞こえた。
「もうこんな時間か」
油川が少し驚きを滲ませて言うと、石上は気遣うように油川を見る。
「すまないな。君も勉強があったんじゃないのかい」
「構わないさ」
油川は笑う。君と過ごすためにここに来ているんだ、と音に出さずに続けた。
「おかげで新しい解法が見えた気がするよ。さすがだな、油川」
石上が珍しくはしゃいでいる。油川はそう感じた。
「君のアプローチの仕方が見事だったんだ」
そう言って立ち上がった。感情を見せる石上に知らず知らずのうちに微笑んでいる。
幸せな優しい気持ちになることはこんなにも容易い。それを油川は石上と過ごす時間から学んだ。
二人並んで大学図書館を出た。冬の外気は冴え渡って冷たく、街灯が照らす空を仰げば北極星が
強く瞬いている。物理学部棟を含め、実証科学の棟の窓には不規則に明かりが点っていた。
油川がコートの襟を掻き合わせていると、隣からぽつりと
「君も泊まり込むことがあるのかい」
と聞こえた。振り向けば石上はマフラーを肩に巻き直しながら物理学部棟を見上げていた。
珍しいことばかりだ、と油川はくすぐったい気持ちで答える。
「どうしても結果を見たい実験があったり、教授の都合次第でたまにね」
油川は実験が好きだ。実験から観察された結果に理論を当て嵌めて考えていく過程はパズルの
ピースをひとつひとつ組み合わせていく作業に似ている。ピースがしっかりと組み合い、磐石な
理論が現象を支えている真理を目の当たりにする喜びは何物にも換えがたい。
「そうか。やっぱり数学とは少し違うな」