では参ります。
(「あなにおちたトーマス」より。一部擬人化に合わせて変更してあります。)
「そして君はいたずらものだ。全て見ていたぞ」
ハット卿がやって来てトーマスを叱った。
「どうか助けてください。もうこんなことは二度としませんから・・・」
トーマスはしょんぼりしながら懇願した。
しかしハット卿は難しい顔をしている。
「さあて、助けられるかな?ここは地盤が弱くて、クレーン車も使えないし、そう大勢の人間を入れる
わけにもいかん」
(そんな・・・)
トーマスはますます落ち込んだ。そんな状態で、誰がどうやってここに近づき、自分を助けられるのだろう。
「ん・・・いや、待てよ」
ハット卿が何かをひらめいたようだ。
「ゴードンなら、お前を引っ張れるかな?」
確かに、彼ならば一人だけでトーマスを引っ張り上げるだけの腕力はあるのだが・・・
「ええ・・・多分・・・」
トーマスはゴードンに会いたくなかった。あれだけ散々からかっておいて、今更どんな顔をして
彼に救い上げてもらえというのだろうか。
しかし、ここはもう彼に縋るしか、トーマスの助かる途はなかった。
「でーっへっへっへっへっ、トーマスが鉱山の穴に落っこちたって?ハハハハハ、面白い冗談だぜ」
ゴードンが大笑いしながら現場にやってきた。
(ああ・・・きっとゴードンは僕のことをここぞとばかりにいじめるんだろうな・・・
あんな酷いこと、言わなきゃよかった)
トーマスは穴の底で暗澹たる気分だった。
やがて上の方が騒がしくなった。ゴードンが到着したようだ。
おそるおそる穴の入り口を見上げると、ゴードンと応援の機関士たちがトーマスを見下ろしていた。
案の定ゴードンはニヤニヤ笑ってはいたが、それでも頼もしい声で呼びかけた。
「ちびのトーマス!すぐに助けてやるぞぉ!」
トーマスの前に、丈夫なロープがするすると下ろされた。
「そいつをしっかり、体に巻きつけろ!」
ハット卿が言った。
トーマスは急いで、ロープを自分の腰に巻きつけ、余った部分をぎゅっと握った。
引っ張られるとかなり痛むだろうが仕方がない。
「用意はいいか?」
地上でも、ゴードンの方の準備が整ったようだ。
「それ、引っ張れ!」
ゴードンがロープを渾身の力で引き始める。
トーマスの体も、少しずつ、しかし確実に上に上がり出した。
(痛い・・・!)
引っ張られるたび、ロープが腰に食い込み、ズキズキと痛む。それでも、歯を食いしばって必死に耐えた。
やがてトーマスの体が地上に覗き始めた。
「それ、もう一息だ!」
ゴードンは最後の力を振り絞ってロープをぐい!と引き、トーマスの体が殆ど露になったことを確認すると、
彼をすかさず強く抱き寄せた。
「うわっ!」
弾みで二人はドサッ!と地面に折り重なって倒れた。
思ったよりも大変な作業だったが、トーマス救出作戦は見事に成功したのだった。
「・・・ごめんなさい」
ゴードンの大きな胸の中にすっぽりと包み込まれたトーマスは、その広い肩口に顔を埋めながら
かすれた声で彼に謝った。
「僕は・・・生意気でした・・・」
本当はもっともっと、彼に言わなければならないことがあるのに、うまく言葉を紡ぐことができない。
無事に助かった安堵感と、散々からかった相手に助け出された気恥ずかしさとが入り混じり、
トーマスの目と鼻の奥がじんわり熱くなった。
「いいってことよ」
ゴードンはこの小さくて愛らしい後輩の頭や背中を、ポンポンと優しく叩いてやりながら言った。
トーマスはゆっくり頭を起こし、彼の顔をそっと見つめる。
「お陰で笑わせてもらったぜ。ま、俺も前にドジをやったがな」
そう言って、この大柄で気の良い力持ちは豪快に高笑いした。
トーマスもようやく笑顔になる。
「僕だって、そうです」
そう、誰にだって失敗やドジはある。いつ、誰の身に起きてもおかしくない。
だからこそ、皆がお互いに助け合わなくてはならないのだ。
「なあ、トーマス。俺たちは手を組もうじゃないか。お前は俺を助け、俺はお前を助ける」
「それはいいね!」
トーマスは弾んだ声で答えた。
もう、いつもの無邪気で明るいトーマスに戻っている。
「よーしよしよし。これでよし!」
ゴードンも満足そうにそう言って立ち上がると、
「うわっ!」
トーマスは思わず声をあげた。ゴードンがトーマスを、いきなりその逞しい腕に抱き上げたのだ。
いわゆる「お姫様抱っこ」である。
「ちょ、ちょっと!ゴードン!何するのさ自分で歩けるって!」
「穴にはまった奴が無理言うんじゃねえ!車庫まで運んでってやる!」
「やめて!恥ずかしいよ!皆が見てるってば!」
「見たい奴には存分に見せてやるさ!このゴードン様が救出した可愛い可愛い姫君をな!がはははは!」
「誰が姫君なんだよ!もう!ゴードンのバカ!」
「あぁん?助けてもらった恩人に言う言葉かそれは?お前にはまだまだシツケってもんが必要なようだな。
まあいい、今夜一晩かけてたっぷり教え込んでやるぜ!」
「助けてえ〜!」
トーマスの悲鳴と、ゴードンの笑い声、そしてハット卿や機関士達の苦笑いを包み込んで、
ソドー島の一日はゆっくりと暮れていった。
おしまい
以上です。SS初心者なもので、未熟な点も多々あると思いますが、
皆様のお気に召せば幸いです。