モララーのビデオ棚in801板33

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1風と木の名無しさん
.   ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ | 
                  ̄       ̄
        ◎ Morara's Movie Shelf. ◎

モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)
前スレ
モララーのビデオ棚in801板32
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/801/1196354377/
ローカルルールの説明、およびテンプレは>>2-9のあたり

保管サイト(携帯可/お絵描き掲示板・うpろだ有)
http://wald.xrea.jp/moravideo/
2風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:32:48 ID:97akTohC0
★モララーのビデオ棚in801板ローカルルール★

ノンジャンルの自作ネタ発表の場です。
書き込むネタはノンジャンル。SS・小ネタ・AAネタ等801ネタであれば何でもあり。

(1)長時間に及ぶスレ占拠防止のためリアルタイムでの書き込みは控え、
   あらかじめメモ帳等に書いた物をコピペで投下してください。
(2)第三者から見ての投下終了判断のため作品の前後に開始AAと終了AA(>>3->>7辺り)を入れて下さい。
(3)作品のナンバリングは「タイトル1/9」〜「タイトル9/9」のように投下数の分数明記を推奨。
   また、複数の書き手による同ジャンルの作品判別のためサブタイトルを付けて頂くと助かります。

※シリーズ物・長編物の規制はありませんが、スレを占拠しないためにも投下ペースや分量を配慮して下さい。
※感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
※「公共の場」である事を念頭にお互い譲り合いの精神を忘れずに。

相談・議論等は避難所の掲示板で
http://s.z-z.jp/?morara
3風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:33:37 ID:97akTohC0
2.ネタ以外の書き込みは厳禁!
つまりこのスレの書き込みは全てがネタ。
ストーリー物であろうが一発ネタであろうが
一見退屈な感想レスに見えようが
コピペの練習・煽り・議論レスに見えようが、
それらは全てネタ。
ネタにマジレスはカコワルイぞ。
そしてネタ提供者にはできるだけ感謝しよう。

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  | ネタの体裁をとっていないラッシュフィルムは
  | いずれ僕が編集して1本のネタにするかもね!
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
4風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:34:20 ID:97akTohC0
3.ネタはネタ用テンプレで囲うのがベター。

別に義務ではないけどね。

テンプレ1

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  モララーのビデオを見るモナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  きっと楽しんでもらえるよ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


5風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:35:35 ID:97akTohC0
テンプレ2
          _________
       |┌───────┐|
       |│l> play.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
   ∧∧
   (  ,,゚) ピッ   ∧_∧   ∧_∧
   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |            ┌‐^──────────────
  └──────│たまにはみんなと一緒に見るよ
                └───────────────

          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) ヤッパリ ヒトリデコソーリミルヨ
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                |
  └────────────────┘
6風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:35:56 ID:97akTohC0
テンプレ3
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < みんなで
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < ワイワイ
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 見るからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < やっぱり
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < この体勢は
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 無理があるからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"
7風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:36:37 ID:97akTohC0
テンプレ4

携帯用区切りAA

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

中略

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

中略

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
8風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:37:04 ID:97akTohC0
 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 僕のコレクションに含まれてるのは、ざっと挙げただけでも
 |
 | ・映画、Vシネマ、OVA、エロビデオとかの一般向けビデオ
 | ・僕が録画した(またはリアルタイムな)TV放送
 | ・裏モノ、盗撮などのおおっぴらに公開できない映像
 | ・個人が撮影した退屈な記録映像、単なるメモ
 | ・紙メディアからスキャニングによって電子化された画像
 | ・煽りや荒らしコピペのサンプル映像
 | ・意味不明、出所不明な映像の切れ端
 \___  _____________________
       |/
     ∧_∧
 _ ( ・∀・ )
 |l8|と     つ◎
  ̄ | | |
    (__)_)
       |\
 / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 媒体も
 | 8mmフィルム、VCR、LD、ビデオCD、DVD、‥‥などなど
 | 古今東西のあらゆるメディアを網羅してるよ。
 \_________________________

9風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 17:37:59 ID:97akTohC0
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   じゃ、そろそろ楽しもうか。
   |[][][]__\______  _________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |       |/
    |[][][][][][][]//|| |  ∧_∧
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ )
   |[][][][][][][][]_||/ (     )
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   | | |
              (__)_)



 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 前スレ136の続きらしい
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ オシマイ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勢いに任せてつい
カッとなってやっちゃったんだ・・・二人とも可愛すぎる。
10風と木の名無しさん:2007/12/27(木) 19:27:13 ID:+zHFj1bs0
>>1
11風と木の名無しさん:2007/12/28(金) 00:17:47 ID:QtuZGzxI0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

武/装/錬/金 力ズキ×ハ゜ピヨン襲い受。
とりあえず書いてみた途中まで投下。初SSにつきお見苦しき点はご容赦。
12錬/金力ズパピ 1/たぶん6ぐらい:2007/12/28(金) 00:20:03 ID:QtuZGzxI0
 『……の数値…あとコンマ3…げてみろ。……だフィ…ドバ…ク…支障……るな……では……』
 分厚い特殊ガラス越しに、ハ゜ピヨンの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
 開発中の新型フラスコ内部に一糸まとわぬ姿で繋がれている力ズキは、無言で目を閉じ耳を傾けていた。


 ヴィク夕ーとの最終決戦の時は刻々と迫っている。
 体内に埋め込まれた黒い核鉄のために地球上全ての生命を喰らう怪物に成り果てた彼と、同じく黒い核鉄によって今まさに怪物と化しつつある力ズキ。
 ふたつの黒い核鉄に対し、その効果を中和できる白い核鉄はたったひとつ。
 どちらかを人間に戻せば、もうひとりは世界に仇なす化物として殺されるか、あるいはすべてを滅ぼすか――
 二者択一を迫られた力ズキが提案した第三の選択肢、それがこの新型フラスコだった。
 Dr.バ夕フライが遺したヴィク夕ー修復フラスコをベースに、力ズキ専用の冬眠フラスコをハ゜ピヨンが調整改造する。
 ヴィク夕ーに白い核鉄を使い人間に戻したのち、力ズキがフラスコで仮死状態に入り、ハ゜ピヨンがもうひとつの白い核鉄を完成させるのを待つ。
 一から十までハ゜ピヨン任せの、無謀といっていい作戦だ。
 そもそも製法の失われて久しい白い核鉄が何十年、何百年後に完成するか予測もつかない。
 人間の時の流れから解き放たれたホムンクルスであり、天才錬金術師でもあるハ゜ピヨンにすら可能かどうか。
 それでも、他人の命も自らの命も決して諦めない信念を持つ力ズキにとって、これが最も犠牲の少ない最良の選択肢と思われた。

 人間・武/藤力ズキとの決着を渇望するハ゜ピヨンは、彼の望む時間・場所・条件で力ズキと戦うという見返りで協力を快諾した。
 もとより力ズキのヴィクター化に誰よりも怒り狂い、独力で白い核鉄を精製しようとしていた彼だ。否やのあろうはずもない。
 決戦を前に突貫作業で行われる冬眠用フラスコの開発のために、力ズキはハ゜ピヨンの秘密拠点の研究室に足繁く通っていた。
13錬/金力ズパピ 2/たぶん6ぐらい:2007/12/28(金) 00:22:47 ID:QtuZGzxI0
 『……こまでだな。桜/花、貴様…バ夕…ライ…別研…棟に行っ…………を調達…てこい。…れと……の情報…探っ…おけ』
 フラスコ内部は粘性の高い液体に満たされており音が聞こえづらい。力ズキは目を開いた。ここからが本番のようだ。
 『判っ…わ。武…クン、も…少し頑張っ…ね』
 ハ゜ピヨンの助手を務める桜/花が、こちらをなるべく見ないよう足早に研究室から立ち去るのが見えた。
 平時なら交わされるであろう優雅な会話は一切ない。
 今が火急の時であり、またこれから先この場に留まれば足手まといになると彼女自身が承知しているからだ。
 外部モニタで桜/花が建物を遠く離れたことを確認すると、ハ゜ピヨンは手元のマイクをONにする。
 「よし、いくぞ武/藤。――ヴィク夕ー化しろ」
 全身に幾本ものケーブルを接続された力ズキの耳に直接声が響いた。

 「……判った」
 一瞬の逡巡ののち、力ズキは己の闘争本能を解放した。かつて心臓のあった位置で黒い核鉄が脈動する。
 左胸に浮き出たシリアルナンバーIIIの刻印を中心にして全身がざっと赤銅色に変わり、紫の照明に染められた室内を淡く光る蛍火の髪が彩った。
 蝶を模した豪奢な覆面の奥でハ゜ピヨンがわずかに柳眉をしかめ、急速に訪れる激しい疲労に耐える。
14錬/金力ズパピ 3/たぶん6ぐらい:2007/12/28(金) 00:23:46 ID:QtuZGzxI0
 ヴィク夕ー化と同時に発動するエネルギードレインは己の意思では止められない。
 その場に存在する全ての生命の活力を自動的に奪い吸収する。たとえそれがホムンクルスのパピヨンとて例外ではない。
 ましてやただの人間である桜/花など、こんな至近距離にいればひとたまりもないだろう。
 それでもヴィク夕ー化進行中の力ズキを収容するフラスコである以上、その変身後のデータを取らないわけにはいかない。
 ヴィク夕ー化後の力ズキのデータは桜/花を一時退避させ、ハ゜ピヨン単独で計測するのが常となっていた。

 ハ゜ピヨンは数種のモニタに鋭く目を走らせると、目にも留まらぬ速さでキーボードに何事か打ち込んでゆく。
 ここ数日というもの、ハ゜ピヨンは力ズキの生体パターンにフラスコ制御システムを同期させるのに試行錯誤を繰り返していた。
 完全に怪物化してバ夕フライの元に現れたヴィク夕ーと異なり、現在の力ズキは化物と人間の中間を不安定に行き来しているためだ。
 過去には呼吸停止状態の人間体力ズキがドレインを行ったケースもある。
 力ズキの冬眠中に黒い核鉄を沈黙させるには、フラスコの初期設定にわずかの誤差も許されない。
 「よし、もういい。戻れ」
 最後のEnterキーを叩くと同時に、いつもより少し掠れた声のハ゜ピヨンが早口で告げた。
 力ズキは努めて意識を静穏に保つ。赤銅の肌と蛍火の髪が砕け散るように力ズキ本来の体色へと回帰した。
 ひとつ深く息をつくと、ハ゜ピヨンは手元のパネルを操作した。フラスコ内部の液体が排出され、力ズキを拘束していた脊椎を思わせるグロテスクな固定具とケーブルが外れてゆく。
 数時間に及ぶ不自由からようやく開放されてフラスコを出た力ズキに、ハ゜ピヨンは蝶の刺繍が施されたバスタオルを投げ渡した。
 「今回はこれで終いだ。次は20時間後に来い」
15錬/金力ズパピ 4/たぶん6ぐらい:2007/12/28(金) 00:24:54 ID:QtuZGzxI0
 「……なあ蝶/野」
 「何だ」
 人間だった頃の名を呼ばれ、ハ゜ピヨンが応ずる。
 ハ゜ピヨンを蝶/野/攻/爵と呼ぶことを許されたただひとりの人間、それが武/藤力ズキだった。
 特権などではなく、むしろ一種の遺恨に近いのだろうと力ズキは思っているが、
では文字通りハ゜ピヨンが力ズキを恨んでいるのかというと、どうもそうでもない、ようにも思われる。
 力ズキにはっきり判ることは二つ。
 人喰いのホムンクルスと化した蝶/野をこの手で殺したあの春の夜、自分がこの男の心に消えない痕を刻んだこと。
 そしてあの夜、力ズキ自身の記憶にも生涯消えない名前が刻まれたこと。

 LXEの手で甦った蝶/野は力ズキの前に現れ、己が真に羽撃くために、いずれ必ず力ズキを斃すと宣戦布告していった。
 自ら人の身体を捨て、超人となった蝶/野――今は自らパピヨンと名乗る彼――がただひとつ残す人間時代の執着、それが力ズキだ。

 力ズキはハ゜ピヨンを、その昔の名で呼び続ける。
 忘れられない、忘れてはならない名前。
 救えなかった、己が手にかけた命。
 別人のように――芋虫から蝶のように――生まれ変わったハ゜ピヨンはしかし、力ズキにとってはどこまでも蝶/野/攻/爵だった。
 脆弱な人間時代の彼と今の彼を同一視することが、果たして良いことなのかどうかは判らない。
 あるいはそれは、自分の背負う業なのかもしれない。あの、誰にも顧みられることのなかった孤独な男を屠った自分の。
 ともあれ、ハ゜ピヨンといずれ決着をつけたいと願うのは力ズキも同様だ。
 ホムンクルスの手から守るべき人々のために。そして、自分とこの男の間に存在するあの夜の記憶にけりをつけるために。
16錬/金力ズパピ 5/たぶん7:2007/12/28(金) 00:29:22 ID:QtuZGzxI0
 重たい雫の落ちる固めの髪をタオルで乱暴に拭いながら力ズキは、もう幾度目になるか判らない問いを投げた。
 「やっぱりブラボ−を連れてきた方がいいんじゃないか?シルバ−スキンならエネルギードレインも無効――」
 「くどい。戦団の輩と馴れ合うつもりはないと言ったろう」
 絶対防御を誇る武装/錬金の使い手の名を出した力ズキの提案を、ハ゜ピヨンはにべもなく遮る。
 全てのホムンクルス殲滅を使命とする錬金/戦団は、ハ゜ピヨンにとって本来天敵といってよい存在だ。
 ヴィク夕ーというホムンクルス以上に危険な存在が現れ、事態が流動的な今でこそ目こぼしをされているものの
いつハ゜ピヨンが次の抹殺対象となるか知れたものではない。
 この秘密拠点の在処も把握されている可能性は高いが、だからといっていつ牙を剥くか判らない敵を
わざわざ自らのテリトリーに招く気などハ゜ピヨンには毛頭ないということなのだろう。

 「だいたい、あんなセンスの欠片もない全身コートを着るなんて想像するだにおぞましい」
 「オマエにだけは言われたくないと思うけどな」
 力ズキは呆れ、胸筋と腹筋と股間をこれでもかとばかりに強調した卑猥なボディスーツを見やる。
 「貴様まで何を言う武/藤。いいか、このスーツは――」
 滔々と自らが着用するスーツの素晴らしさを語り始めるハ゜ピヨンに力ズキは嘆息した。
蝶の覆面だけなら力ズキの美意識にも合致するものの、こちらの趣味は正直いただけない。
 ハ゜ピヨンは一通り熱弁をふるい終えると表情を改め、作業の大まかな進捗状況を力ズキに伝えた。 
 「次の調整が最後の詰めになる。栄養補給と体調管理を万全にしておけ」
17錬/金力ズパピ 6/たぶん8:2007/12/28(金) 00:30:45 ID:QtuZGzxI0
 体調。そうだった。
 意識をあらぬ方に逸らされていた力ズキは、ハ゜ピヨンの言葉に本来の疑問を思い出す。
 「蝶/野、オマエの方は大丈夫なのか?……その、毎日オレのデータ取ってばっかりで」
 不治の病を患ったまま不死となったハ゜ピヨンの血色は平素からひどく蒼白で、力ズキには彼のコンディションが読み取りづらい。
 「あと数日で化物になり果てる体たらくの貴様が、他人の心配とは悠蝶なものだな」
 ハ゜ピヨンは小馬鹿にしたようにせせら笑うと、ふと視線を下方に落とし、フンと鼻を鳴らした。
 「――なるほど。貴様の方は補給完了で元気ビンビンというわけだ」
 「え?」つられて視線を下に向ける。「――あ」

 バスタオル越しにでも明らかにそうと判るほど、力ズキの下半身が高らかに自己主張していた。


 「……ッ、……すまない」
 あまりの羞恥と罪悪感に力ズキはたまらず顔を俯け、消え入りそうな声で詫びる。
 先ほどヴィク夕ー化したせいに違いない。
 人間に戻った今、周囲から――つまりはパピヨンからだ――吸収した高純度の生命エネルギーが行き場をなくしているのだ。
 幾度も行われたデータ採取でこんなことは初めてだ。自分は確実に化物になりつつあるらしい。
 力ズキを人間に戻すため尽力するハ゜ピヨンから否応なしに生命力をもぎ取っておいて、自らはこのざまだ。どの口で大丈夫かなどと言えるのか。
 唇を噛みしめ己の浅ましい身体を呪う力ズキに、揶揄を含んだ声が届いた。
 「貴様は俺に何度同じ台詞を言わせるつもりだ」
 あの夜交わした最後の会話が脳裏に甦り、力ズキはぐっと言葉に詰まる。

 “すまない、蝶/野/攻/爵”
 “謝るなよ、偽善者”
18錬/金力ズパピ 7/たぶん8:2007/12/28(金) 00:31:58 ID:QtuZGzxI0
 冷徹なまでに聡明なこの男は、安易な謝罪や気休めの言葉を受け取らない。
 止めを刺す相手に許しを乞う力ズキを、偽善者だと断じて散った。
 あの時も、そして今回も、力ズキが一言謝ったところで本当は事態の何が変わるわけでもないのだ。
 「……それでも……。すまない、蝶/野」
 詫びずにはいられない。
 やれやれ、と呆れた風に溜息を吐くハ゜ピヨンに気まずい思いで背を向け、
 「……シャワー借りるぞ。また明日な」
 身体にべたつくフラスコ充填液を洗い落とすため、付属のシャワー室へと踵を向ける。その力ズキの前方を長身の影が遮った。

 振り仰ぐと、真顔のハ゜ピヨンが半歩ほどの距離から力ズキを見下ろしていた。近い。
 いつの間にこっちに――そうか、コイツ歩幅広いもんな。どうでもいいようなことを思う。
 「貴様が本当に俺にすまないと思っているのなら――そうだな」
 底知れない漆黒の双眸と目が合う。感情が読めない。

 「俺から奪った分は返してもらうとしようか」

 言うなり、蒼白い繊手が力ズキの喉に伸びた。ひやりとした感触。
 何を、と抗議の声を上げる間もなく――視界の全てが蝶で満たされた。
19錬/金力ズパピ 8/9:2007/12/28(金) 00:34:07 ID:QtuZGzxI0
口中に鉄の味が拡がる。
 ホムンクルスの牙に傷ついた己の唇の味なのか、それとも不死の根底に病を抱える男の吐血の味なのか――
力ズキにそれを考える余裕はなかった。
 背には先刻まで自分の入っていたフラスコの冷たい感触。
 細身の外見からは想像もつかない人間を超えた膂力は、力ズキの喉笛をがっちりと押さえつけ逃れることを許さない。
 フラスコに叩きつけられた衝撃と呼吸困難で力ズキの気が遠くなる。
 このまま首を折られ――
 と、どうにか呼吸が可能な程度に指の力が緩められ、唇が開放された。
 力ズキは目尻に涙を浮かべ、なおも拘束された不自由な喉で酸素を求め激しく咳きこむ。

 油断していた。
 再戦は互いの準備が万端整った時という協定が結ばれ、最近では奇妙な信頼にも似た関係が築かれていただけに
よもやこんな局面で何か仕掛けられるとは思いもしなかった。
 まさか今が、協力の報酬としてこの男の望む決着の時だろうか。よりによってヴィク夕ー戦を間近に控えた今?
 もしや――力ズキのヴィク夕ー化進行を止める望みが薄いから、まだ人間であるうちに、ということか?
20錬/金力ズパピ 9/9:2007/12/28(金) 00:34:42 ID:QtuZGzxI0
 どうにか呼吸を整え、ハ゜ピヨンの真意を問うべく開かれた力ズキの唇が再び塞がれる。
 喉に感じる死人のような肌の冷たさとは裏腹に、割り入ってきた舌は灼けるように熱かった。
 肉食獣を思わせるざらりとした塊が、上顎や歯列の裏を一方的に蹂躙していく。
 「…!…ッく…、…ふ…!」
 頚動脈の位置を、かり、と鋭く伸びた爪に引っ掻かれ、本能的な恐怖に全身が粟立つ。
 核鉄の納まる己の左胸に触れ、武装/錬金を発動する――それは果たせなかった。
 上げかけた腕を氷のような指が掴み取り、灼熱の舌が力ズキのそれを絡め取る。
 「…んぅ……ッ…!」
 逃げようとする舌を嬲られ、吸われ、尖った歯に甘噛みされて、力ズキの思考が白く染まった。
 淫猥な水音が聴覚を侵し、血の味のする二人分の唾液が顎を伝い落ちる。
 喉の拘束を振りほどこうと悪足掻きしていた片腕から力が抜け、がくがくと膝が笑う。
 ハ゜ピヨンは最後に力ズキの切れた唇を丹念に舐め取り、身を離した。
 無様に腰を抜かした力ズキの上に屈み込むと、陶然と舌を舐めずり囁く。
 「相変わらず貴様の味は極上だな、武/藤。他の人間など喰う気も起きなくなる」

 ――捕食者の目だった。
21風と木の名無しさん:2007/12/28(金) 00:35:53 ID:QtuZGzxI0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
改行失敗しまくり、レス数読み違えまくり。すまない。
22風と木の名無しさん:2007/12/28(金) 13:24:54 ID:+8xQG2vXO
ぐあぁ!GJ!
「悠蝶」とか芸が細かくてイイ!
出来れば続きも書いて欲すィ
23風と木の名無しさん:2007/12/28(金) 22:46:08 ID:BP9/xGqw0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  前スレで獄中兎ネタ書いた奴がまた獄中兎で一本
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  緑×赤(エロあり)前回と話が繋がってるようで繋がってない感じ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 何より無駄に長い。
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
24獄中兎 緑×赤 1/22:2007/12/28(金) 22:47:26 ID:BP9/xGqw0
「初めての時間」

事の発端は、あまりにも自分が情けない話だ。

朝、看守さんが新聞を部屋の中央に投げつけるように投函していく。
本来、自分達は新聞を読んでいい立場ではないのだけれど。
ましてや、看守さんを郵便配達の人のように使ってはいけないのだけれど。

どうやら隣にいる彼にはそんな決まりごとなど、知ったことではないようで。
今日もまた、看守さんに新聞を持って来させているようだ。
そういえば、何だか今日も
看守さんが朝から新聞片手に彼を挑発し、返り討ちにあっていたような気がするけれど
それは現実ではなくて、夢の中での話だったような気がする。
ドアのあちこちに絆創膏を貼り付けた看守さんが
忌々しげな目でこちらの様子を伺っている。
何だか、嫌に新聞が分厚い。
何かチラシでも挟まっているのだろうか。
25獄中兎 緑×赤 2/22:2007/12/28(金) 22:47:58 ID:BP9/xGqw0
チラシじゃなくて、看守さんの考えたささやかな悪戯だった。
新聞が異様に分厚くなるくらいに、大量のピンナップが間に挟まっている。

訂正。
ちっともささやかな悪戯ではない。
いじめだ。
主に視覚と下半身へ対しての。
そのいじめを受けたはずの彼はというと間に挟まっていたピンナップを全てその場に撒き散らすように払い落とすと
新聞だけを手にして、いつものようにトイレに腰掛けて新聞を読み始めている。
この人は本当に何事にも動じない。
それ以前に、この人にはこういったものに反応する・・・性欲とかあるのだろうか。

人並み、といえるかどうかは分からないが
自分にはその。
性欲がある。
自分が今いる刑務所には異性は1人もいない、はずなので
そういったことに縁遠くなって、3年が経とうとしている。
今まで、意識したことなど無かったことだっただけに
いざ、それに直面してしまうとその。
急激に抑えられなくなってしまうものであって。
26獄中兎 緑×赤 3/22:2007/12/28(金) 22:48:30 ID:BP9/xGqw0
その日の夜には、限界が来ていた。
彼が布団を被って、壁側を向いていることを確認してから
ベッドの上に先ほどのピンナップの幾つかを並べる。
そして、出来る限り音を立てないように
ズボンを下ろし、早々に事を済ませようと決心してから
いざそこに手を伸ばした、そのときだった。

耳をいきなりつかまれたと思ったら、
体は宙に浮かび、回転する。
回転した先には彼。
キレネンコさんがいた。

純粋に彼は自分が何をしようとしているのか、気になっただけなのだろう。
どこを見ているのか良く分からない目がはっきりと、
自分の、剥き出しとなっている下半身を見ている。
普段、何事にも動じず
表情がロクに変わらない彼が、
微かだが、びっくりしたような顔をしている。
27獄中兎 緑×赤 4/22:2007/12/28(金) 22:49:57 ID:BP9/xGqw0
まぁ、彼でなくてもルームメイトがベッドの上で下半身を露出していたら何事かと思うだろう。
一瞥して、何をしていたか分かるだろう。
理解したら、その後はちょっと気まずい空気になりつつも
見なかったことにして、放っておいてくれるだろう。
でも。
彼にはその、自分が期待していた常識は一切通用しないようで。
何度も、何度も首をかしげながらヒトの下半身をジロジロと見ている。
そろそろ、あまり耳を掴まれていると息が詰まるというか
正直、耳が千切れそうなくらい痛いので放して欲しいと訴えるべきか。
あまりジロジロ見られると、恥ずかしいやら情けないやらで
どうにもならなくなるので、もう見ないでくれと訴えるべきか。

どちらにせよ、この状況が辛い。
辛すぎる。
28獄中兎 緑×赤 5/22:2007/12/28(金) 22:51:34 ID:BP9/xGqw0
・・・・・・彼は一体、なにがそんなに気になっているのだろう。
まだジロジロ見ている。
まさか、見るのが初めてだから
つい珍しくて見ているということはないだろう。
シャワーの時に変わりばんこで裸になるのだからその際に見ていても不思議ではないし(自分は見たことがないのだけれど)
そもそも、自分と同じ性別なのだから
彼にだって備わっているものじゃないか。

そんなことを考えながらただ、ぶらぶらと揺れていると
ふいに彼が手を離した。
ベッドが自分の落ちた衝撃で、軋んだ音を立てる。
耳が痛いやら、お尻が痛いやらで
悶絶していたら
何の前触れもなく。
彼は自分の両肩を掴み
一気に引き寄せる。
引き寄せた先に待っているのは、彼の―唇だ。
29獄中兎 緑×赤 6/22:2007/12/28(金) 22:52:07 ID:BP9/xGqw0
身体の痛みが一瞬で吹き飛んでしまうくらい、衝撃的なことだった。
彼はこういったことをしなれているのかもしれない。
初めてのことなのに、何だか初めてでないような。
慣れ親しんだ相手のような気がしてくる。
本来なら焦ったり、驚いたりしなければならないような状況のはずなのに
お互い、酷く落ち着いた気持ちだった。
自分に至っては落ち着きすぎて、
無意識のうちに彼の身体に手を回し
色々なところを弄っている。

お互いに呼吸をするために、唇を離してはまた近づくを繰り返すのだけれど
その度に自分がそうやって弄っているうちに
彼は少しずつ体重をこちらに傾けてきて。
自分もそれにつられて傾いているうちに
お互いの体はベッドの上に横たわっていた。
30獄中兎 緑×赤 7/22:2007/12/28(金) 22:52:46 ID:BP9/xGqw0
何度目かも分からない口づけを終えたころになって
ようやく、彼の様子に気がついた。
どこを見ているのか、相変わらず良く分からない目は
はっきりと自分のことを見ている。
じっと見つめ合っていると何だか、妙な気持ちがふつふつと湧き上がる。
体の芯が、熱い。
今にも、発情期に入れそうな気分だった。

(・・・・・・キ/レ/ネ/ン/コ/さんも、もしかして・・・?)
そんなことを漠然と思いながら、恐る、恐る、
体を少しだけ起こし、
彼の服に手をかけた。
彼が嫌がる様子はない。
胸元の辺りまでタンクトップを捲り上げてみると
右のわき腹につぎはぎされたと思しき、継ぎ目が見える。
その継ぎ目を辿るように指でなぞってみた。

かすかに彼の体はそれに反応する。
それ以上に反応したのが、耳だった。
31獄中兎 緑×赤 8/22:2007/12/28(金) 22:53:25 ID:BP9/xGqw0
電撃でも走ったかのように、ピンと張り詰めたかと思うと
今は痺れたように震えている。

(・・・・・・感じて、くれてるんだ。)

そのことに安堵しつつ、今度は
その継ぎ目に舌を這わせる。
彼は口をぎゅっと閉じたまま、
いつもと変わらない様子でこちらを見ている。

多分、
多分だけれど、今の彼は自分に何もしてこない。
ただ、注ぎ込まれるものを
受け入れることだけを考えている・・・ような気がする。
そう思うと、ますます
体の芯に熱が入る。

少しずつ、継ぎ目を辿りながら下へ降りていく。
下に行けば行くほど、彼の体が
大きく反応するようになっているのは気のせいだろうか。
耳を見れば、それが気のせいでないと分かるのかもしれないけれど。
32獄中兎 緑×赤 9/22:2007/12/28(金) 22:54:34 ID:BP9/xGqw0
胸元からわき腹、腰。と下って
とうとうズボンで隠れてしまっている部分に手をかけるときがきた。
彼が自分の腕を掴んできた。
けれど、その力は驚くほど弱い。
こちらが少し力を出せば簡単に振りほどけるくらいに。

つかまれていないほうの手でそっと、彼の額を撫でてみる。
一瞬だけ、耳が張り詰めたかと思うと
くたん、と垂れてしまった。
掴んでいた手も力を緩めていく。

何故かは知らないけれど、彼は頭を撫でるとびっくりするくらい大人しくなってしまう。
いや、元から大人しいというか静かな人なのだけれど。
何というか、されるがままになるというか。
その際の彼はあまりにも無防備で可愛らしいので、ついもっと撫でてあげたくなってしまうのだけれど
今はその隙に便乗して、一気にズボンを下ろしていく。
思い切り蹴られる可能性があるので、足首の辺りでひとまず止めてみる。
彼ならそんなことなどお構いなしに蹴り飛ばしてくるのかもしれないが。
33獄中兎 緑×赤 10/22:2007/12/28(金) 22:55:10 ID:BP9/xGqw0
まじまじと見るのはこれが二度目だ。
あの時は正直、彼の安否を気遣いながらだったため
ゆっくり見ている余裕などなかったため。
実質、これが初めてかもしれない。
左足全てを手術で繋げたのだろう。
わき腹よりもつぎはぎされた箇所が広い。
薄いピンク色の肌。
そのすぐ隣に濃いピンクの―恐らくは彼の本当の地肌であろうそこに
はじめから備わっているもの。

流石にそこを直に触る勇気はまだ持てないため、
薄いピンク色と濃いピンクの境、継ぎ目を意味もなく辿ってみる。
瞬間、彼の体が。
大きく、震えた。
それと同時に彼の右フックが綺麗に、自分のこめかみをえぐるように入った。

足の代わりに力いっぱい殴ってくるとは流石にちょっと、思わなかった。
軽い脳震盪だろうか、意識が朦朧としてくる。
このまま気を失うのは、さすがにその。
情けない気が。
34獄中兎 緑×赤 11/22:2007/12/28(金) 22:56:28 ID:BP9/xGqw0
・・・・・・・・・。

気を失うどころか、気味が悪いくらい頭がすっきりした気がする。
これなら、やれる。

そう確信しながら
彼の両肩を抱くようにつかみ、ちょっとだけ
手を加える。
彼には今何が起こったのか、全く理解できていないだろう。
かすかに不快そうな表情をしたかと思うと、
びっくりしたような顔でこちらを見上げている。

ああ、ごめんなさい・・・・・・
肩、痛いですよね?
大丈夫、あとでちゃんと戻してあげますから
今は我慢してください。

そう言ったような気がするが、
自分の頭にそれは良く入ってこなくて、
きっと、彼の耳にも聞こえていないかもしれない。
35獄中兎 緑×赤 12/22:2007/12/28(金) 22:57:00 ID:BP9/xGqw0
どちらにせよ、自分はお構いなしに
彼が先ほど、過剰に反応をしめした継ぎ目に手を伸ばす。
再び、彼の体は震える。

やはり、ここが今のところ一番の性感帯のようだ。
ピンと張った耳のように、自分の手のすぐ隣で
それが張り始めている。
頭を一発殴られたことは、流石にちょっと癪に障ったので
そこには一切触れず、ギリギリの所を焦らすように愛撫していく。
それに耐え切れない、といわんばかりに
何度か彼は足を閉じようとしてくる。
両腕が使い物にならなくなった今。
彼に出来る、限られた抵抗だ。
しかしその抵抗も、膝が笑っていては何の役にも立たない。

はっきりいって
今の自分にはそれが抵抗しているのではなく、
誘っているようにしか、見えなくなってきている。
もしかしたら、本格的に自分は発情しているのかもしれない。
36獄中兎 緑×赤 13/22:2007/12/28(金) 22:57:48 ID:BP9/xGqw0
鼻の下が伸びそうになるのを、ぐっと押さえながらも
たまらずに手は彼が一番、触れて欲しくない箇所に伸びてしまう。
「・・・・・・!」
彼は目を見開いて、とめようとするのだけれど
腕は動かせないし、
足を閉じようにも、もう遅くて。

焦らされている間に、押さえきれずに
溢れてしまったものが、しっとりと周囲を濡らしている。
それをもっと、搾り出すように
重点的にそこを刺激する。

彼の耳はずっと、ピンと張りっぱなしで。
きつく目を閉じて、腰をくねらせるような動きする。
もう、彼には抵抗することすら出来なくなってきたようなので
このまま一度、搾り出してしまっても良いかと思ったのだけれど。

そろそろ。
蔑ろにされてしまっているものを使うべきだろうか。
37獄中兎 緑×赤 14/22:2007/12/28(金) 22:58:24 ID:BP9/xGqw0
ずっと外気に晒されていたので、少しは興奮から覚めて大人しくなっているかと思いきや。
下半身に熱が集中しているのが分かる。
自分の、情けないくらいにへにょへにょとした耳とは正反対に、そこだけがピンと張り詰めている。

彼の目は自分の下半身に釘付けだった。
心なしか、その目が。
怖がっているようにすら、見えてくる。
もしかしたら、ズボンに手をかけたとき
自分の腕を掴んだのも
怖かったからなのかもしれない。

それなら、安心させてあげよう。
頭を撫でて、落ち着かせてあげよう。

彼はまた、耳を垂らして大人しくなる。
何だか彼を無理矢理、そうやって押さえ込んでいるようで
実はちょっと、申し訳ないのだけれど。
38獄中兎 緑×赤 15/22:2007/12/28(金) 22:59:17 ID:BP9/xGqw0
腰を少しだけ落とし、一呼吸置く。
事を長引かせるつもりは全くない。
無いと、思う。

てこずるようなら、どうにかして慣らすしかないか。
そんな考えが杞憂に終わってしまうくらい、簡単に入ってしまった。
というのは、自分の主観で。
彼は心なしか、辛そう・・・というか明らかに不快な表情を浮かべている。
しかし、意地でも声は出さない気なのだろう。
口の端から血が滲むくらい、固く口を閉ざしている。

三度、落ち着かせようと思い・・・ふと、
違う形で落ち着かせる方法を思い立つ。
彼の背中に手を回し、
一気に彼を抱き起こす。
39獄中兎 緑×赤 16/22:2007/12/28(金) 22:59:49 ID:BP9/xGqw0
その際に彼は一瞬だけ口を開いて、何か言いそうになり・・・飲み込んだ。
強情な人だな。
そう思いつつ、彼を抱き寄せる。
いわゆる、対面座位というものだ。
繋がったまま。
何の前振りもなく起こしたからか。
物凄い勢いで彼は睨みつけてくるのだけれど。
唯一動かせる足は
いつの間にか膝を曲げ、自分の腰に吸い付くかのように傾いている。
彼の背中を、あやすように擦りつつ
適度な振動を与えてみる。

唯一、彼が動かせる足が自分の腰を締め上げるかのように食い込んでくる。
食い込んでくる、といっても攻撃的というより
むしろ、甘えにきているような。
そんな感じの、柔らかい締め付けである。
自分から腰を動かそうという気はないらしい。
いや、その気がないんじゃなくて
そんなことを考える余裕すらないのが正解かもしれない。
40獄中兎 緑×赤 17/22:2007/12/28(金) 23:00:26 ID:BP9/xGqw0
彼がふいに、力尽きたように自分の肩にもたれかかってきた。
もしかして、限界?

違う、噛まれた。
痛い。
凄く痛い。

彼だって痛いとは思う。
声を出したいくらい、痛いのだと思う。
その声を出すまいとしたことなのだとは思うけれど、
やりすぎじゃないか。
そう声に出さない代わりに、
彼の体の両脇を押さえ込み、軽く体を浮かせる。
これが、驚くほど簡単に出来てしまった。

火事場の馬鹿力という奴だろうか。
その勢いで今度は、手を離す。
もちろん、そんなことをすれば
彼の体は自重で、
深々とそこに腰を落とすことになる。
41獄中兎 緑×赤 18/22:2007/12/28(金) 23:01:10 ID:BP9/xGqw0
それが、彼にとっては
致命的なものとなったらしく。

彼の体が一瞬だけ、仰け反ったかと思うと。

「・・・・・・うぁ・・・っ」

ずっと閉ざされていた口元が
確かに、開いた。
そして。
確かに聞こえたものが、あった。
それには、彼自身が真っ先に気付いていたらしく。
目が一瞬、大きく見開いたかと思うと
今度はぎゅっと塞ぎ、俯いてしまう。
ピンと張り詰めていた耳もしおしおと垂れてしまった。

はた、と気付いて
自分と彼を繋げている箇所を見やると
彼が声を出した理由がはっきりと目に見えた。
濃いピンク色の肌に走った、白く濁った半透明の、線。
それを一瞥してから、彼の顔を見やる。
ピンク色の顔が確かに、紅潮している。
42獄中兎 緑×赤 19/22:2007/12/28(金) 23:01:52 ID:BP9/xGqw0
自分はその、一瞬だけ聞こえた声を耳にした瞬間。
興奮してきたというか。
その声をもっと聞きたいと思ってしまったというか。
もう一度、彼の体を浮き上がらせて――

・・・・・・そこから先のことは酷く曖昧だ。

途中から嫌がり出した彼のことなど、お構いなしに
突き上げたような気がする。
そのたびに彼が搾り出すような、声をあげていて
それがまた自分を興奮させて。

自分がいつ、溜まりに溜まっていたものを吐き出したのか全く覚えていない。
彼が声を発したりした回数は不気味なほど良く覚えているというのに。

気がついたときには
かすかに空が明るみ始めていた。
はた、と気付いて彼を見ると
何とまだ自分と彼は繋がったままで。
43獄中兎 緑×赤 20/22:2007/12/28(金) 23:02:31 ID:BP9/xGqw0
彼は完全に気を失ってしまっていて。
良く見ると、頬の辺りはその。
堪えきれずに零れてしまったであろう、涙の跡が残っていて。
つまり、その。
彼が泣くほどのことを自分はしてしまったわけで。

彼を起こさないようにゆっくりと、彼から離れる。
起きてしまうかと思ったけれど
彼は本当に、気絶してしまっているらしく
起きる気配がない。

捲り上げていただけだった、タンクトップを引き下げ。
足首まで下げられてたズボンをどうにかして引き上げる。
ここまでされて起きない、となると
途端に心配になってくる。
このまま、目覚めないなんてことはない・・・と信じながら
彼の無事を祈るように、額をそっと撫でた。
44獄中兎 緑×赤 21/22:2007/12/28(金) 23:03:10 ID:BP9/xGqw0
「・・・・・・いてぇ。」
凄くだるそうな口調でぽつり、と彼は呟いた。
どこを見ているのか良く分からないあの目が
ぎろり、と動く。
一瞬で眉間に皺を寄せ、
あの、垣間見る恐ろしい形相になったかと思うと
「ケツいてぇ。」
ただ、一言自分に告げる。
「ご、ごめんなさい・・・すいません・・・・・・」
自分はただ、ペコペコと彼に頭を下げ続けることしか出来ない。
ふと、そこであることを思い出した。
忘れたままではいけない、ことを。
「あ、ああ・・・!
す、すいません・・・あの、肩!
両肩、外したままでしたよね・・・!!」
慌てて彼の両肩に手を置き、軽く掴み、即座に戻した。
恐ろしい顔をしていたはずの彼が
一瞬で元の真顔に戻り、静止する。
45獄中兎 緑×赤 22/22:2007/12/28(金) 23:03:51 ID:BP9/xGqw0
そして、大きく息を吐きながら
ゆっくりと起き上がる。
両肩はたった今戻したばかりだというのに、
何事も無かったように両腕はしっかりと動いている。
右手には、
一体何時の間に、どこから取り出したであろうか。
ハエ叩きがしっかりと握り締められている。
それをしっかりと確認してから彼の顔を見ると。
それはもう。
起きたばかりの時に見せたものとは比べ物にならないくらい
恐ろしい顔をした、彼がいるわけで。
「あ、あの・・・キ/レ/ネ/ン/コ/さん・・・・・・本当にごめんなさい。
次はこんなことしないとおもぅ」
全てを言いきる前に、ハエ叩きによる往復ビンタが始まった。

ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち

きっと、看守さんが新聞を持ってくるころにはこの往復ビンタは終わるだろうなぁ。
その頃にはキ/レ/ネ/ン/コ/さんの機嫌もよくなっていると・・・良いなぁ。
・・・・・・良くならないだろうなぁ。
46風と木の名無しさん:2007/12/28(金) 23:11:44 ID:BP9/xGqw0
 ____________
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 本当に長々とすみませんでした。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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二羽のエロ書くだけにここまで長くなるとは思わなかった・・・
一箇所だけ伏字するの忘れたことに今気がつきました、ごめんなさい。
47風と木の名無しさん:2007/12/28(金) 23:13:17 ID:/4dl+Y8Q0
>>23
初のリアルタイム遭遇にハァハァしながら読みましたW
赤兎かわいいよ赤兎・・・
48風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 00:02:24 ID:hqoYTQpI0
>>23
ないものが勃った。赤可愛いよ赤
やる時はやる緑にも萌えたよGJ
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 四回目になります。感想嬉しいですよぉぉぉぉ!!
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 今回は更に短いですよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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「スペル」
ドアを開けたとき、ベッドの上にはスペルが小さな寝息を立てて眠っていた。
そういえば昨日から、一睡もしてない。
クィンは長いこと気絶していた様だから、一応寝たことにはなるのだろうが、体の負担もあって、スペルには限界が来ていたようだ。
 起こすのをやめて、そっと足音を忍ばせて近づいてみる。
ふっくらとした唇にそっと触れてみる。
(…)
可愛い、と思った。
艶姿は美しいとも思ったが、寝顔はこうしてみると可愛らしい。
何度も見た光景のはずなのに、交わって一夜明けてみればいつもと違って見える。
この姿を見ていいのは自分だけだ。
無垢で純粋な寝顔、思わず口付けてみる。
柔らかい唇が、唇に触れた。起きる気配は無い。
 スペルと再会して四年。
最初はクィンに心を開かなかった彼も、今ではすっかり心を開いて頼りにしている。
そんな思いに応えようと、クィンも今までがんばってきた。
ずっと交わりたかった。
ずっと口付けしたかった。
抱けといわれて思わず我慢できずにひどく抱いてしまったけど、大丈夫だろうか。
もしも抱ける日が来れば優しく抱いてやろうと思っていたのに、はやる気持ちは抑えられなかった。
もし次があるなら、優しく抱こう。
「愛してるよ」
心の声だ。
「愛してる…スペル」
毛布からはみ出た手を握りながら、つぶやいた。
スペルは眠ったままで、起きなかった。
ずっと言いたくて言えなかった。
交わっている最中にも、好きだとは言った。けれど、スペルには聞こえなかった。
好きだ、好きだ。
スペルの心に届いて欲しいような、このままでいて欲しいような、そんな複雑な感情が溢れ出る。
交わってしまったからには元の関係には戻れない。
かといって、交わることに怯えていたスペルに、無理強いはできない。
ああ…愛してるんだよ、スペル。
本当に、長い間の思いが恋に変わって、ずっと抱きたかった。
出会って、百年。恋に変わって、四年。
狂おしいほどのこの恋心はどうすれば良い?
「…スペル」
ぴく、と、握ったスペルの手が動いた。
「…クィン?どうした…?」
寝ぼけ眼で、ふわりと笑って見せる。
その笑顔に心臓が飛び跳ねた。
「いっ、いやっ、なんでもないっ」
上ずった声が出て、我ながら苦笑する。
「あ」
スペルが、クィンと手を握ってることに気づいて、あわてて振り払うように手を離す。
顔は一瞬にして真っ赤になり、何か言いたげに瞳を覗き込んできたが、そのうち会話がなくなったことが重く感じたのか、寝返りをうって向こうを向いてしまった。
「…」
「…」
会話が、無い。
「あの、スペル」
びくっと、スペルの体が震えた。
「な、なに?」
動揺している。
気まずさを紛らわすように、スペルが後ろを向いたまま答える。
「体、大丈夫か」
「…うん、ちょっと、痛い」
ひょこんと毛布から見える耳は、真っ赤だった。
「ごめんな、俺がもうちょっと優しく抱いてやれば…」
「!い、いいよ、そのことはいい」
スペルはプルプルと首を振った。その仕草さえ微笑ましく思えてしまうのは、気のせいだろうか。
相当自分は、スペルに入れ込んでるらしい。
立ち上がると、またもその気配にスペルの体が震えた。
そっと、覆いかぶさるように、スペルの手に己の手を重ねた。
耳元でつぶやく。
「なあ」
その声は熱を含んでいた。
「また、抱いても、良いか」
その声に、スペルが押し黙った。
何もいえない、硬直しているかのように体は動かない。
「好きだ」
と、クィンは続けていった。
「愛してる。それでは、駄目か?」
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 | |                | |           ∧_∧ エロなしですみませぬ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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54風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 02:51:09 ID:OzoZ8XXh0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 物のけ 薬売り受けで出産ネタとか死にネタもどきがありますので
                     嫌いな方は御注意下さい
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| エロ少なめ、捏造多めになってしまいました。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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55薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 1/21:2007/12/29(土) 02:52:07 ID:OzoZ8XXh0
昼なお暗い鬱蒼とした湿った森を、その子供はただひとりで歩いていた。
顔は、目だけを出して、頭ごと紫の頭巾を覆面の様にくるみ、
場に似つかわしく無い、艶やかな蛾を思わせる袷を羽織った上に
子供がスッポリと入ってしまいそうな大きな連尺を重そうに背負っていた。

森の奥、目的の洞窟はあった。
中から這い出てくる淫靡でネットリとした暗い妖気に、子供は少し後退さってグッと息を飲む。
このような時と場では、カタカタとやかましいはずの箱が静まったままなのが
却って、これからのことは、常態と違うのだと告げていた。
ここにモノノケが巣食い、男を獲って食らうと近隣の住民に恐れられるようになって数年が経つと聞く。
56薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 2/21:2007/12/29(土) 02:54:06 ID:OzoZ8XXh0
「ここ?」
『そうだ』

子供の問いに、背後から姿を浮かび上がらせた褐色の男が答えた。
金色の衣に赤い女帯、白い髪と褐色の肌、黒い目赤い瞳を持つ美丈夫だった。

『常のモノノ怪とは違う、既に真も理も判っている。形もアレは隠すまい。』
洞窟の中を見つめる子供の目が不安で揺らいでいる。
『討たねばならぬ、アレをここから浄め祓うのは我等でなければならぬ、』
男は子供の肩に手を添え、諭すように問いかける。
『出来るな』
子供は意を決して頷き、中へと足を踏み入れた。
57薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 3/21:2007/12/29(土) 02:56:20 ID:OzoZ8XXh0
ともすれば重い、ねばついた妖気に押し戻されそうになりながらも
子供が進んでいくと洞窟の最奥にそれは居た。
足元に転がり散らばる人骨、暗闇にヌラヌラと液を垂らし張り巡らされた糸の巣、
数え切れないほどの鈍く光る眼、ウネウネ動く触椀を持って蠢く大小の蜘蛛の群れ。

「あれが…?」

その中央に、その醜い生き物に囲まれ犯され、悦がり、喘ぎ、上気している。
白く輝き浮かび上がる妖しい、女と見まごうばかりに美しい、若い男の肢体、

今ははモノノケ・絡新婦(ジョロウグモ)。

それは、かつて自ら、退魔の剣を解き放ちモノノケを滅していた、
薬売りと称していた美しい男の成れの果てだった。
58薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 4/21:2007/12/29(土) 02:57:59 ID:OzoZ8XXh0
子供の生まれる前の話である。

薬売りは、ある時、モノノケを退治に、この森に入った。
剣を解き放ち、モノノケは滅したものの、
その前の、真と理を探る間に体内にモノノケの卵を産み付けられたのである。
例え産み付けられても、それを孵す情念が無ければ本体と共に失せるはずのものだった。
が、薬売りは、そのための情念を、その身と心の内に飼っていた。
モノノ怪を滅するために薬売りを依り代とする男への

省みられぬ恋慕と、
叶えられぬ欲望を。
59薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 5/21:2007/12/29(土) 03:03:59 ID:OzoZ8XXh0
いつの頃からか、薬売りは退魔の剣でモノノ怪を滅す、その男を想っていた。
その圧倒的な力を振るう、強く美しい様に憧れた。
只ひとり彷徨い、モノノケ退治の条件のために人の悲しみを、不幸を暴きたて、
時にそれに打ちのめされ、心をすり減らしていくだけの長い、長い時の中で、
薬売りにとって男は唯一の近しく一緒にいる存在でも有ったのだから、
それは必然だったのかも知れない。
薬売りは男を慕った、男にもそうであって欲しいと密かに願った。

その想いが、まだ純粋で膨れ上がってしまった時は
人とはまた違う体にもなってしまっていた薬売りの体に変化が興ったほどであった。
60薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 6/21:2007/12/29(土) 03:05:14 ID:OzoZ8XXh0
しかし男は薬売り以上に人では無かった。
心はあっても、人のような心は持っていないようでも有った。
男にとって薬売りは、モノノ怪退治という仕事のための道具のようなものだったのだろうか。
己がこの世に出るための依り代、形真理を得るための人の心と力を持ったというだけの者。

薬売りの想いに応え、報いる気配は見せなかったし、
それどころか疎んじていたのかも知れない、そもそも理解できなかったのかもしれない。

やたら一体であるために、そんなお互いの心は中途半端に伝わってしまい、
男の拒絶や無理解は薬売りの心に、ことあるごとに澱となって溜まっていき、
いつしか情念の瘤となり、人の思慕と情欲を核としたモノノケと接したことで、

爆ぜた。
61薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 7/21:2007/12/29(土) 03:07:34 ID:OzoZ8XXh0
薬売りを母としてモノノケの仔は孵った。
薬売りの胎で、その理性を侵し、情念と欲望を糧としつつ醸して育ったモノノケ、
蜘蛛の姿をしながらも海洋生物のような粘液質なモノノケだった。

それは産まれ落ちると、すぐに薬売りの体を犯しに係った。
異形の出産で体力を削がれ、半ば正気を失った薬売りは
退魔の剣を解き放つことも出来ずに、おぞましい我が仔を受け入れるしかなかった。
蜘蛛の吐く糸は触手のように薬売りを絡め、縛り、弄り出し、体の中にも入り込み蠢めいた。
引き出された快楽は、押さえつけられていた欲望の膿を爆ぜ飛ばし、体中に広がった。
薬売りは、悪腫の我が子のもたらす快楽に溺れ、沈んでいった。

薬売りはモノノケ・絡新婦となった。

そのさまを男といえば冷ややかに見据えていた。
『無様な』
『もう我の依り代としては使い物にならん』と何の感情も無く言い放つのを
薬売りは霞逝く正気のどこかで聞いた。
その時、涙が流れたが、それが悲しみによるものなのか
快楽によるものかは自分でも、もう判らなくなっていた。

そして男の気配が自分から完全に消えたのを感じた。
62薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 8/21:2007/12/29(土) 03:09:39 ID:OzoZ8XXh0
退魔の剣は既に子供の手にあった。
滅すべきモノノ怪から目を離すことなく、覆面に隠れていた口をキュッと引き結んだ。
剣を目の前に掲げ構える。
それを合図にしたように、それまで白い体を上気させ、悦がっているばかりだった絡新婦が、
子供を見た。

快楽に蕩けていた目が退魔の剣を捉え、剣呑になる。
「その子が、新しい依代で…?」
子供は、言葉と共に発せられる絡新婦からの邪気に少し怯む。
「アタシの昔のことは御存知で?」
子供は頷いた。
「なのに…依り代を承知した?」
さらに頷く。
「退魔と、あのお方も、また随分と惨いことを、可哀相に」
絡新婦はカラカラと笑った。
無数の蜘蛛どもも共に笑い出した。
63薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 9/21:2007/12/29(土) 03:11:46 ID:OzoZ8XXh0
子供は嫌な汗が背中に伝わるのを感じながらも剣は下ろさない。

絡新婦と蜘蛛たちは口を同じくして話しかける。
声は洞窟いっぱいに反響し子供を襲う。

「「「「「お分かりでないのだろうねぇ、まだほんの子供だもの」」」」」
「「「「「これから先の長い時、受け止め続ける人の世の哀れ、そして」」」」」
「「「「「抱え続けなければならない孤独と体」」」」」
「「「「「ずっと、ずっと、有る限りずっと」」」」」
「「「「「誰も癒しちゃくれない」」」」」

子供はワンワン響く音にと耳を責め立てられ後退さる。
それを、洞窟に入ってから消えていた男が後ろから腕で支えた。
その感触にホッとすると反響は止まり、

「そのお方だって、何もしちゃくれない!」
絡新婦が男を指差し叫んだ。
64薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 10/21:2007/12/29(土) 03:13:12 ID:OzoZ8XXh0
「これから先、モノノケを斬るための、剣を解き放つだけの存在としてだけ生きながらえる」
「心なんて無い方が、どれほどか楽なのに、
よりによって心が無くちゃ出来ないお役目を押付けられた…」
「今ならまだ遅くも無い、剣を捨てて、ここからお逃げなさい、昔同じお役目だったよしみ、」
「いつもみたいに精を絞ってから食うにも、まだ小さ過ぎて楽しめないし、見逃してあげましょう…」

子供は顔を上げ、シッカリと絡新婦を見据えて言う。

「俺はアナタを斬るよ」

絡新婦は、後ろで男が子供を護るように抱え込んでいるのに気が付いた。
子供はそれに勇気付けられたようだ。
何か、熱くて苦いものが絡新婦の腹から喉をせり上がり脳と体を焼いた。
65薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 11/21:2007/12/29(土) 03:15:58 ID:OzoZ8XXh0
「出来るものか!」絡新婦は激昂した。
「退魔の剣があったって、その男がいたって、
解き放つお前の技量が追いつかなきゃ斬れるものか!」
「お前ははまだほんの子供、技量も未熟なヒヨっ子だろう」
「御覧、この蜘蛛の数、この子たちは皆私の子供、みんな私と交わって、
 また交わって産んだ可愛い可愛い子どもたち」
「みーんな私の力の形、ここまで増えた、
 人を獲って楽しんで喰らって、まだまだ増やして楽しく暮らす」
「これを皆、お前が滅すだって?どれだけ居ると思っている?」
「私はお前と違って、もう、ひとりじゃないんですよ」

『お前はひとりだ』

子供の後ろの男が告げる。
66薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 12/21:2007/12/29(土) 03:17:29 ID:OzoZ8XXh0

「何を言って…」

『満たされていたら、お前はモノノケでは無くなっている』
『判っているはずだ。この蜘蛛どもはお前の満たされぬ心の分身に過ぎない。』
『どれだけ増えたって、例え、この洞窟を埋め尽くしても決してお前は満たされない』
『だからひたすら獲って喰らい交わって増やす』
『増えれば増えただけ、お前は満たされていないという証だ』

絡新婦は、しばし言葉に打たれたかのように固まっていたが
また笑い出した。
「心無き御身が、知ったような口を」
「そうと言うならモノノケでない頃から満たされてなぞいませんでしたよ、
ひとりでしたよ」
「だったらせめて欲望だけでも、みせかけだけでも」
67薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 13/21:2007/12/29(土) 03:19:00 ID:OzoZ8XXh0
絡新婦である薬売りは美しい顔を歪め、力を溜めはじめる。
歪んでも美しい顔を子供に向け、笑いながら威嚇する。
周りの蜘蛛どもが動き出し、絡新婦を囲んで一塊になり始めた。

『放てっ!』
子供が解放の構えを取る「解き、放つっ!」
絡新婦はそれをどこか懐かしい思いで見ていたが一瞬のことだった。
溜めた力を子供と男に向ってぶつけた。
『坊っ!』
子供の覆面が飛ばされる。
そこに絡新婦が見たのは薬売りの顔、子供のころの薬売りの顔だった。

自身に衝撃を感じた次の瞬間、
薬売りは男の顔が、目の前の間近にあるのを感じた。
68薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 14/21:2007/12/29(土) 03:20:32 ID:OzoZ8XXh0
よく知った光の束が、己が体の真芯を貫いていた。

薬売りは、それより今の自分が一番気にかかることを男に尋ねた。
答えてはくれないかもと思いながらも。

「あの子、どうして?」
「同じ顔に?作った…?選んだ…?成った…?」

子供は見えはするが既に別の空間におり無事なようだった。


腹が熱い。
69薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 15/21:2007/12/29(土) 03:22:00 ID:OzoZ8XXh0
『アレはお前の子だ』
「っ!?」
『この潰れた蜘蛛どもより確かなお前の子だ』

訳が判らない、死に際に謀(たばか)れているのか?
その疑問を察していた男が続ける。

『お前が我を想いはじめた頃、想い極まって体に変化を興し卵(らん)のような物を
生じたこと覚えているか?』


もう胸も熱い。
70薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 16/21:2007/12/29(土) 03:23:51 ID:OzoZ8XXh0
「でも、あれは、孵らないって、無精卵みたいなものだって、
 アナタは笑って…呆れて…捨てたとばかり、」

『アレはモノノケの類でもないものだった。でも生きてはいた。
眷属となった者から生じたものの生き死にを定める権は我には無い。
それで上位の方に御預けし、留め置いた。』


足に力が入らない、男は薬売りの腰に手を回し支えた。

『そのままでは只の卵だが、お前が絡新婦に変じたしばし後、
お許しを頂いて我が気を吹き込んで孵した。』
71薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 17/21:2007/12/29(土) 03:26:47 ID:OzoZ8XXh0
『それで生まれた、アレは我とお前の子だ。』
「嘘…だって」

男も、そして男によって変えられた薬売りであった頃の自分も
人の世のものとは違い、交わって体の条件が整っていたからとて
神力があったからとて、それだけで子が成せるものでは無いと、聞いた。
体より、心や気持ちがお互いに通じ合わねば子が生じないと、
だから想う気持ちだけが逸った自分は孵らぬ卵を生じてしまったのだと。

『お前は我を心無き身と言ったが、それは違う。
確かに人世の者と同じでは無いし、同じような心を得るのに必要な時も違う。』


喉が苦しい、話したいのに声が出ない。
唇がわななくだけで言葉にならない。
72薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 18/21:2007/12/29(土) 03:29:16 ID:OzoZ8XXh0
『お前がモノノケ変じた後、お前を見限ったと自分では思うていた、
無様で見苦しい有様と感じたと故と、その時は…』
『モノノケになったからには我が斬らねばならぬとも。
それで探した、また剣を解き放てるものを。
『だがどれも、お前と比べ足りぬ者どもにしか思えず、
気付けば、お前のことばかり考えていた。』

『そんな折に知らせが来た。留め置いた卵に変化が現れたと。』
『お前がモノノ怪になった故、悪い変化かと思うたが、違った。
 変化をもたらしたのは我の心のためだった、それで我は成すべきことをした。』


薬売りの体は崩れ落ち、男に抱えられていた。
73薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 19/21:2007/12/29(土) 03:31:24 ID:OzoZ8XXh0
『卵は孵った、そして我とお前の子の、あの坊が生まれた。
 剣を解き放てる者だった。』
『坊の力を磨くため、しばし旅をした。
お前としていたようなモノノケ退治の旅だ。
早く、お前を斬れるだけの力量と性根をつけるための、
…早く、お前を苦しみの縛りから解き放つための。』


男の顔が霞んで見えるのは
涙のせいか、時がもう無いのか
74薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 20/21:2007/12/29(土) 03:33:29 ID:OzoZ8XXh0
『ようやっと、その機が来た。』
『待ち望んでいたようで、来なければいいとも思っていた。』


顔に触りたいと思っても震えるばかりで動かぬ薬売りの手を
男は優しく握った。

『モノノケ絡新婦は滅するが、お前の本地は消えるわけでは無い。
我は待つ、坊とふたりで。』
『お前が滅する側の者でありながら、
モノノケとして犯してしまった罪咎を償って、
薬売りに戻って傍に来るのを』

男は薬売りが、かすかに頷いたのを見た。笑っていた。



そうして、モノノケ絡新婦は滅せられ、その体は男の腕から消えて無くなった。
75薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー 21/21:2007/12/29(土) 03:35:03 ID:OzoZ8XXh0
子供は剣を箱に戻した。
洞窟に蜘蛛は、もう居なくなっていた。
子供も次元と空間の向うで、薬売りが笑って消えたのを見ていた。
絡新婦の笑みは恐ろしかったが、薬売りの笑顔は怖くなかったと思った。
今は姿の見えなくなった男に子供は話しかけた。

「また会えるんだよね?」
『必ず』答える男の声は、短く力強かった。
76薬売りの卵 モノノケ×薬→ハイパー:2007/12/29(土) 03:36:58 ID:OzoZ8XXh0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ お粗末さまでした、初書きゆえ、未熟はお許しを
 | |                | |     ピッ   (;∀; )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
77風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 03:44:01 ID:xDMWaANfO
姐さんGJ!
目から汁が出たよ…!(;∀;)
78風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 03:44:39 ID:nYzH35mnO
>>76
リアルタイムで読んだ
全俺が泣いた

薬売りを抱きしめてやりたい衝動にかられている
79風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 03:48:36 ID:4HoflR8AO
>>76
乙!!!エロ切なくて好きだ(;ω;)
リアルタイムで読ませてもらいました。
…再会編も期待するのは駄目でせうか?
80風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 07:10:13 ID:hLmXLF1yO
>>76
朝からなんてもん読んでしまったんだ…!
ちくしょうドライアイが治ったぜ…姐さまGJ
81風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 08:27:53 ID:vkx4NSmcO
>>76
姐さん乙!薬売りとハイパーのすれ違いに泣きながら萌えた。
82風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 10:05:29 ID:QC4dEF+RO
>>23
祭りの待機中に読みました…GJ!髪返せw
緑はやればできる子(性的な意味で)
83風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 10:19:18 ID:KPPkZDBc0
>>49
GJ!
二人とも長生きしてる割に初心なんだねw
エロなしですいませんと書いてあるけども、後朝っていいと思うよ。

>ひょこんと毛布から見える耳は、真っ赤だった。

なんかかわいい。
84風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 13:37:19 ID:e04JFDPu0
何度も出てる話だけど21分割一気にってどうよ。
1人で40分ってのはスレ占拠しすぎ。誰も入れないだろ。
せめて10ぐらいで区切ってくれ。
85風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 14:41:31 ID:17TenGJy0
いつも楽しませていただいてます。
萌えネタは有るけどまだSSに書き起こしていないのですが、完成したら何の予告・前触れも無しに
いきなりテンプレのAA付けて投下しちゃっていい・・・んですよね?
86風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 20:13:14 ID:KPPkZDBc0
>>85
ここではべつに何も言わなくていい、というか言わない方がいいと思う。
当該スレあるならそっちで話を振ってからでもいいと思うけど、
それもスレの雰囲気によるんじゃないかな。
とにかく、どんなマイナー物でも、置いてあれば誰か読むよ。
たとえレス付かなくても大丈夫。

と、前に当該スレで話振って、
「黙って投下せんかい!」とごっつ怒られた自分が言ってみました。
87風と木の名無しさん:2007/12/29(土) 22:18:27 ID:j31mID6d0
>>85
うん。スレの空気にもよるが下手に話振ると本人にその気が無くても
感想クレクレみたいに見える時があるから
黙って投下するのが無難だと思う
88風と木の名無しさん:2007/12/30(日) 00:58:46 ID:IS0gip2c0
>>53
告白の結果が気になります。
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 五回目になります。クィンには頑張って貰ってます
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 感想毎度ありがとうございます!
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「あ…愛だなんて…私たちは男同士だぞ?」
震える声で、それに、と付け足した。
「それに、それに、お前にはレナや昔の恋人が…」
人間であり、仲間のレナ。スペルの弟ケイの恋人、レイムの妹である。
回復魔法が得意な彼女は、誰が見ても明らかなほど、クィンに恋をしている。
その様子を見ていると、あまり深くクィンにかかわってはいけないような気がして。
その言葉に、クィンは、首をかしげた。
「昔の恋人は昔だろ。レナ?なんでレナの名前が出て来るんだ?」
心の底から分からない、といったようだった。
「クィン、知らないのか?」
「何が?」
思わず、深いため息をつく。
レナが報われない。
「彼女は…いや…ううん…なんでもない。でも、愛なんてきっと錯覚だよ」
レナのことは伏せておこう。レナの恋心のことを思うたび、胸がずきんと痛む。これはど
う言うことなのか、スペルには分からなかった。
「愛なんて…」
ずきん。
「…?スペル?俺は…ずっと前からお前のことが好きだった。最初はただの友情だった。
ただ、いつも泣いてるお前を助けたいと思っていただけで、それが再開して、恋に変わっ
た。俺の思いは通じないか。どうしても、受け入れてはもらえないか。交わったのは、た
だ弟のためだけであったか」
ならばほかの男と交われといわれていたら、どうだっただろう。
だが弟の命がかかってるというのなら結果的には交わっていただろう。
それでも、どこかで…
どこかで。
クィンなら良いと思ったのではないか。
「知らない、知らない、分からない、そんなこと、わかるはず無い」
スペルがつぶやいたかと思うと、今度は叫びだす。
何度も首を横に振る。
「知らない!!!知らない!!そんなこと知らない!!私には分からない!!クィンが私
を愛するはずなんて無い!!私には穢れた血が流れているのだ!!」
今度は己の体を抱きしめる。
この体には呪われた血が、流れている。
そのせいで昔から迫害されてきた。人間には分からなくとも、エルフにはちょっと勘で分
かってしまう。それに、この目の色。間違いなく呪われた血の生き物の色をしている。
森の精霊とは天と地ほどの差だ、それが、呪われた血をもつ自分を愛するはずがない!
「!?スペル!?」
スペルが起き上がる。こちらからは顔が見えない。だが、その周りに小さな炎の塊が、円
を描くように六個浮いている。
ダークエルフのつかう攻撃技だ。
今、スペルは混乱している。
「落ち着け、スペル」
慌てて炎に触れないように、スペルの肩をつかんだ。
「私は…お前とつり合わない。私の…血は穢れている」
ポツリと、天井を見上げながらつぶやいた。
その目はうつろだ。
「スペル、聞いてくれ」
「嫌だ!」
クィンの手を振り解く。
再び顔を覆うと、その場で泣き崩れた。
「…スペル」
後ろからスペルを抱きしめた。スペルの顔が、驚きを表したものになり、手はぽとりとベ
ッドに落ちた。
「…クィン、私には穢れた血が」
「お前は穢れてなんかいない、どのエルフより純粋だ。弟のために何もかもを投げ出せる
だろう。それほどまでに純粋なのに、どうして穢れてるなんて言うんだ。ダークエルフの
血なんて関係ない。エルフからすれば憎むべき存在の血が入っていることは、そう取るの
かもしれない。でも俺はそうは思わない。愛してる、スペル。誰よりも、お前のことを思
う」
抱きしめる手に力がこもる。
ぽっ、と、炎の塊は消えていった。
一個、また一個とその形を残すことなく消えていった。
「ああ…」
また、涙が流れた。
後から後から、涙は流れて止まらなかった。
「その言葉…ずっと…?」
振り向いたとき、スペルははらはらと涙を流していた。クィンはそれを手でぬぐってやる
と、瞼に口付けた。
「勿論だ」
首筋に口付け。
バスローブをゆっくりと脱がせて行く。
背中に、腰に、口付けを残すと、スペルは戸惑ったようにクィンの行動を見守った。
「あ、あの」
「ん?嫌か?こっち向けよ」
バスローブもそのままに、クィンのほうへ体を向ける。
「ほんとに…本当に?」
「当たり前だ、昔だってお前に手を差し伸べたのに、お前は嫌がって逃げた。でも今はも
う逃げないだろ、俺だって逃がさない」
きっとクィンのとりこになったら逃げられない。逃がしてくれない。そして自分自身すら
逃げることはしないだろう。
今までと何かが変わる。きっと変わる。
柔らかく微笑むと、スペルは軽くクィンの唇に、唇を重ねた。すぐに離すつもりだった。
だが、クィンがそれを抱きしめて離さなかった。
舌を入れられ、歯列をなぞられる。
舌を絡める濃厚なキスが、スペルの頭を朦朧とさせた。
「んっ、ふぁ、クィン…」
涙が一筋流れる。
「な、に、泣いてんだよ…」
離れてはまたくっついて、そして口付けを。
次に離れたとき、スペルはクィンの背に腕を回し、頭を胸に預けた。
「…ありがとう」
クィンの体温が心地良い。
「スペル…」
嬉しそうに微笑みながら胸に顔を預ける彼を見ていると、下半身がうずいた。
ゆっくりと押し倒すと、一瞬あっけにとられた顔をしていたが、すぐに穏やかな顔になっ
た。
今度は抵抗しない。
「良いか?」
クィンが問う。
「うん…」
バスローブの小さなポケットに入れておいた軟膏を取り出すと、スペルが急に緩く首を振
り出した。
「?」
「それは使わないで…」
「でもよ、これ使わないと痛い…らしいぞ?十分に慣らすけどさ」
「痛くてもいい…正気のまま受け入れたい…」
薬で熱に浮かされるより、今は痛くても、今の状態のままでクィンと交わりたい。
頬を染めてうつむいて告げるスペルに、鼓動が早くなる。
可愛い。
純粋だ。
そんな純粋な彼を滅茶苦茶にして自分のものにしたいという衝動も生まれる。
(いかんいかん、今度こそ優しく抱こう)
そうだ。優しく抱いてやろう。
体だけでなく、心も一つになるように。
クィンは、もう一度口付けた。
 ____________
 | __________  |
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 次はえっちだよ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
95風と木の名無しさん:2007/12/30(日) 20:48:15 ID:T0HEUkmq0
>>89
GJ!スペル君切ないなあ・・・・。
種族間の根深い内部対立があるんだね。
クィン君の熱っぽい語りにジンときました。
96風と木の名無しさん:2007/12/31(月) 00:33:49 ID:bKrKMws00
クィン告白が報われてよかった。
スペル君の弟さんもハーフなんだよね?
だから兄弟の絆が強いのかな?
97オリジナル 先輩×後輩 1/7:2007/12/31(月) 08:33:30 ID:TUUO6moQ0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  前スレからの続きだってさ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  いい加減に改行に慣れて欲しいね
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ ) ゴタクハイイカラ、サッサトトウカシロヤ
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
98オリジナル 先輩×後輩 1/7:2007/12/31(月) 08:34:46 ID:TUUO6moQ0
実家から届いたダンボールを開けば、そこにミカンがあった。
見渡す限りのミカン。そう、ミカンしかなかった。
母親に電話を入れれば、
「安かったんだもの」
とのお言葉。なにが不服だと言わんばかりの口調で、俺は受話器片手に自然と背筋を伸ば
す。
「それに、ビタミンCも取れるじゃない」
分かってる、分かってますとも。それは暖かい親心。息子が風邪を引かぬようにとの贈り
物だとは。しかし、このミカンの山は一人暮らしの身で消化し切れる量ではない。食べ物
は大切に、とも教えてくださったのは母上、あなたではないですか。
「だったら、おすそ分けしなさいよ」
ごもっともなアドバイスを頂いて、俺は受話器を置いた。そして、窓から空模様を確認する。
朝からしつこく降り続いた雨は、夕方になってようやく止んでくれたようだ。それならばと、
俺はビニール袋を引っ張り出し、その中にミカンをぽいぽいと詰め込んだ。アイツへの
サプライズプレゼントだ。風邪を引かないようにって気を使ってやるなんて、
なんて後輩思いなんだろう、俺って。雨が降り続いていたならば、外に出ようとは
思わなかったけれども。
しかし、雨が止んだとは言え、デコボコ舗装の道路には大きな水溜りがあちこちに出来ていて
足元が危ない。ひときわ大きな水溜りを避けようと、大きく飛び上がったその瞬間、俺の横を
一台のドラックが横切った。
水の跳ね上がる大きな音と共に、水しぶきが俺を襲った。
99オリジナル 先輩×後輩 2/7:2007/12/31(月) 08:36:08 ID:TUUO6moQ0
冷たい。
脇腹辺りがぐっしょりと濡れて皮膚に張り付き、北風が余計に身に沁みる。
「なんだよ、くそっ」
腹の奥底から毒づいても、トラックはすでにはるか彼方へ走り過ぎ、ぽつんと俺は取り残される。
ついてねえな! 腹立ち紛れに、ぶんとミカンの入ったビニール袋を振り回した。
ついていないけれど、それもほんのちょっとの我慢だ。アイツの家に着いたら、暖かいコーヒーを
ご馳走してもらおう。
そう気を取り直すと、俺の足取りも軽やかに小走りに、ただ一目散にアイツのアパート目指して一直線だ。
いかにも一人暮らし用といった感じの年季の入ったアパートの一室の前で、俺は呼吸を整え、
バクつく心臓を宥め、自然に沸き上がる笑いを堪えつつ、チャイムを押す。だが、反応は無い。もう一度、
押す。だけれども、何の音沙汰も無い。更に押す。押す。押す。チャイムを押すごとに、俺の身体は冷えていく。
ぴんぽーん。
俺の心の動揺など我関せずとばかりに、チャイムの音は間抜けに響き渡り、そしてそれっきり静寂が訪れる。
俺はだらりと腕を下げた。
なんでだよ、なんで出てこないんだよ、いないんだよ。
それが理不尽な腹立ちであることは分かっている。だけれども、アイツは最初のチャイム一発目で大急ぎで
ドアを開いて、俺を迎え入れるべきなんだ。
仕方なく携帯を取り出して、かけてみる。延々と続く呼び出し音、切り替わる留守電サービス。軽く舌打ちして、
電話を切り、もう一度かけ直す。けれども、やはり電話に出てこない。
「どこ行ったんだよ……」
呟いて、ぺたんとその場に腰を落とした。コンクリの床は冷え切っていて、俺の体温を奪っていく。寒い。
身体だけじゃなくって。ひたすら寒い。身体を守るように膝を抱えてうずくまった。濡れた衣服が重く、
震えが止まらない。
100オリジナル 先輩×後輩 3/7:2007/12/31(月) 08:37:02 ID:TUUO6moQ0
早く、早く早く、帰って来いよ。
祈るような気持ちでただ帰りを待つ。
どれくらいそうしていたのだろう。時間の感覚も無くなって来たところで、頭上から戸惑いを
含んだ声が降って来た。
「せんぱい……? どうしたんですか、こんなところで」
反射的に顔を上げる。大きく見開いた瞳には、思いがけない来訪者の姿に対する驚きと、喜びがあった。
「携帯も通じなかったぞ、どこ行ってたんだよ」
毒づきながら俺は立ち上がり、ぶっきらぼうにミカンの入った袋を突き出した。
「ほら、差し入れ」
だけれども、ミカンそっちのけでヤツはポケットから鍵を取り出してドアを開け放つ。
「服、濡れてますよ。風邪引いたら大変だ! ほら、早く入って入って」
有無を言わさぬ迫力に、俺は慌てて玄関へと駆け込んだ。背後で、ばたんとドアが閉まる音が響き、
がちゃりと鍵をかけ直す音もそれに続く。せき立てられるままに、俺は部屋の中突き進む。
上がりこんだ部屋は相変わらず雑誌が散乱していて、取り込んでそのままになっていた洗濯物の山が
うず高くそびえ立っていた。ヤツはその中から、無造作に一枚のトレーナーを選ぶと、
「はい、さっさと脱いで!」
「うわあ、積極的ぃ」
思わず俺は口走る。それくらいの心の余裕が生まれてきたのだが、相手の方は眉間に皺を寄せ、
「とにかく何でもいいから、さっさと脱いでこれに着替えてくださいっ」
ばさりとトレーナーを投げてよこし、いそいそと脱ぎ始めた俺には目もくれず、台所へと向かって行った。
101オリジナル 先輩×後輩 4/7:2007/12/31(月) 08:38:28 ID:TUUO6moQ0
「でさあ、お前携帯も持たずにどこ行ってたわけよ」
もそもそとトレーナーに袖を通しながら、俺は大声を張り上げる。湯を沸かしながら、
ヤツは負けじと大声で返してきた。
「風呂ぶっ壊れたから、近所のスーパー銭湯行ってきたんですよ。携帯は充電していたし……」
ピーッとヤカンが鳴った。こういうすれ違いもあるか、と俺はクッションの上に腰を下ろして
ほうっと一息つく。さて、この濡れた服をどうするべきだろうと脱いだシャツを横目に思案している
ところへ、ヤツが両手にマグカップを持って現れた。
「服は後でまとめて洗濯しますから、先輩は俺の服着ていてくださいよ」
かたんと卓上にマグカップが置かれた。湯気を立てたコーヒーの香りが俺の鼻腔をくすぐった。
さっそくマグカップへと手を伸ばすと、ヤツはおかしそうに
「サイズ、全然合ってないですねえ」
そう言って頬杖をつき、まじまじと俺を見つめ、「やっぱり、合ってない」と繰り返す。
そんな改めて言うことか、放っておいてくれ。確かに、裾は長くてケツの部分まですっぽり隠れて
いるし、袖は長すぎて捲くらないとマグカップも持てないけれど。大きすぎる男物の服着て、相手の
部屋で二人っきりでコーヒー飲むって、なんて言うか……こういうのってカノジョ? 冗談じゃないね。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、相変わらずヤツのニヤニヤ笑いは消えそうに無い。
「せっかくだから、俺のズボンもはいてみます?」
まったく、このコーヒーの苦味のように、ヤツにははっきりとさせておかなきゃならないことがあるようだ。
「さみぃな……」
「大丈夫ですか?」
たちまち顔から笑みが消えて、俺の額へとヤツの手が伸びる。指先が俺の額へと触れるより早く、
俺はその手首を掴み、手の甲に口付けた。ぴくんと、腕が揺れるが振り払おうとはしなかった。
102オリジナル 先輩×後輩 5/7:2007/12/31(月) 08:45:08 ID:TUUO6moQ0
顔を上げると、かすかに頬を染めたヤツと目が合った。俺が何を言うのか、分かっているんだろうな。
沈黙はほんのわずかの間だったけれども、その間、俺の決めた覚悟の量は今までの人生で費やした
それの合計をはるかに上回っていた。乾いた唇をぎこちなく開く。
「抱かせろよ。二人で温まろーぜ」
一息に、言ってしまった。とうとう口にしてしまった。でも、後悔はしない。後はただ返事を待つだけだ。
エアコンの作動音がやたらに耳につく。
そっと伏せられた瞳が瞬きを繰り返し、そして、意を決したようにこちらに向けられた。真っ直ぐな視線に
射抜かれて、俺は硬直したまま、その視線を真っ向から受け止める。
「いいんですか?」
いいんだよ。多分、そう返したんだと思う。当たり前じゃないか。そう続けたような気がする。
でも、はっきりと記憶に残っているのは、テーブル越しに身を乗り出してきたアイツの唇の熱。
「俺も、したいから」
ようやく離れた唇からそんな言葉が漏れたのも、やっぱり覚えている。
そして、そこから先は無我夢中だった。
いかにも万年床ですというようなベッドの上に乗っかって、互いの身体をまさぐり合った。
重量オーバーだとばかりにベッドが不平の軋み音を上げるけれども気にしない。
そんなことよりも低い喘ぎ声が鼓膜を響かせ、俺の情欲を刺激する。
額に、頬に、首筋に、舌を這わせ、時折吸い上げて、アイツの身体の感触をしっかりと確かめる。
伸ばされた長い腕は、俺の肩に触れ、腕に触れ、俺がそこにいるということをしっかりと確認している。
103オリジナル 先輩×後輩 6/7:2007/12/31(月) 08:46:37 ID:TUUO6moQ0
「ちゃんと脚開けよ?」
脅えてすくむその場所に、俺は恐る恐る触れる。しっかりとたっぷりとチューブから搾り出し、
指で救い上げたジェルを塗りつけて、さらに奥へとくっと力を込めて侵入していく。頭の中で
思い描いていて、何度もオカズにしていたのに、やっぱり妄想は現実には叶わない。
こんな風に肌を触れ合わせる。だたそれだけで感じるんだから。
苦痛と不安をかみ殺した吐息が忙しなくアイツの口から漏れ出ているというのに、俺はさらに
その先の行為へと、もう止まらない。
指を引き抜いて、不安で震える脚をそっと抱え上げた。
イイ?
いいですよ。
涙を滲ませながらこっくりとうなずくのを確認して、俺は腰を進めた。慎重に大胆に、深く深く、
繋がっていく。
身体を揺さぶって、肌に手のひらを滑らし、腹筋を撫でて、さらにその下のモノに触れた。軽く強張った
それを揉みしだくと、背を反らして甘い声を上げる。もっとそういう反応が欲しくて溜まらなくなって、
一気に腰を入れると、今度は鎖骨に歯を立てる。今まで以上に肌と肌とが触れ合って、ヤツの腕が
しっかりと俺の背中を抱きしめる。もっと身体を密着させて、喘ぎ声が重なって、好きという言葉も
どちらが言ったものかも分からない、ただ一つになっていく。
このまま触れ合う部分から溶け合ってしまえばいい。
俺の腹の下で擦れて硬くなったペニスが泣き崩れる。昂ぶった身体は俺をきつく締め上げる。
ヤツの啜り泣きに俺自身の陶酔の声を重ねて、中に放った。
104オリジナル 先輩×後輩 7/7:2007/12/31(月) 08:47:49 ID:TUUO6moQ0
「……腹減った」
「はい?」
男二人で仲良く一つの布団を分け合い、さあ寝ようというところで、不意に俺の腹が鳴った
のだが、ヤツは信じられないというような顔で俺を見る。そんな目で俺を見るな、まあ気持ちは
分かるけれども。
「仕方ねえだろ。晩飯も食ってねえもん、俺」
「先輩が俺相手にがっついたからですよ。自業自得」
「ほら、俺が持ってきたミカンあるだろ。あれ食わせてくれよ」
ベッド脇の床に放り出されたままのビニール袋を指差して、俺は哀願する。仕方ないという
ようにため息をついて、奴はノロノロと身体を起こして、ミカンを一つ取り上げ、ベッドに腰を下ろした。
細くて長い指が皮を剥いていくのを俺はぼんやり眺めていた。
奇麗な指だなと思って、差し出された果実ごと口に含んだら、もう片方の手で頭を軽く殴られた。
それでも俺はめげずに指に舌を絡ませて指についた果汁を余さず舐め取ってやると、ヤツの顔は
真っ赤に染まっていた。
「サンキュ、美味かった」
ごちそうさまと心の奥底から手を合わせたところへ、ヤツがもそもそと不器用に俺の横へと潜り込んで
きて、ぎゅっと俺を抱き寄せる。エアコンつけていても寒いからな。もっとこっち寄れよと俺も抱き返す。
「明日、目が覚めたら」
うとうとと睡魔に捕らわれた俺の耳元でヤツが囁く。
「一緒に銭湯行きましょう。大浴場はすごく大きいから、先輩泳げちゃいますよ」
「俺は……そんなに……」小さくない、と言いかけて思い直し、「ガキじゃない」
さあ、どうなんでしょうね。苦笑の気配と、俺の唇についた果汁を舐め取るヤツの舌の感触を感じながら、
俺は深い眠りの世界へ落ちていった。
105オリジナル 先輩×後輩 おしまい:2007/12/31(月) 08:49:15 ID:TUUO6moQ0
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 | |                | |           ∧_∧ 個人的な萌えシチュばかりかけて幸せだったりする
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                     | 六回目。もっと誰か投稿してからと思ったけど…。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| まあ、投稿しちゃいます。
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同じハーフエルフだけど、弟のほうは人間(母)と暮らしてて、あまり差別がありませんでした。
反対に、兄のスペルは、父が偉大なエルフでなければ捨てられるところでした。それくらい故郷では毎日差別を受けてました。
ベッドに横になり、バスローブをはだけた状態のスペルは、その場で硬直していた。
性知識にこれでもかというくらい疎い彼は、何をすればいいのか、ましてや奉仕なんとことは思いつきもしなかった。
クィンははだけたバスローブを剥ぎ取ると、スペルの股間に顔を埋めた。
「あっ!」
それを手に持ち、するとクィンはそれを口に含んだ。
丹念になめて行くと、スペルから甘い声が上がる。だがそれに反して、スペルの手は、それを止めさせようとクィンの頭に手を置いて力を込める。
「やっ、駄目、だ…あ!あ!」
言葉とは裏腹に、とろりと濃い蜜が流れ出る。それを指にすくいながら、丹念に、丹念に舐め続けた。もはやスペルの手に力は入っていない。
「あっ…ああっ、クィン…ああっ、あああぁぁああ!!」
びくんびくんと体が跳ねる。
硬く立ち上がり、蜜をしたらせたそれが、白い液体を放った。精液だ。
指に絡ませると、もっと奥へと指は滑っていった。
やはりきついそこに、指はぬるぬるとした液体をまとって、奥へ進んでいった。
きゅうきゅうと締め付けてきて、まだ入れるには早い
「ぅっ…」
「痛いか?我慢してくれよ」
小さくスペルはうなずいた。目はとろりととろけるように甘い視線だった。
「…うん」
呼吸に合わせて一本目が指の根元まで入った。
中に精液を擦り付けるように、何度も出し入れを行う。
入り口付近に良い部分があるらしく、そこを指がつつくたびに体は震えた。
続いて二本、三本と指は増やされる。
三本が入った所で、スペルはうめき声を上げた。臓物が押し上げられるような苦しさに、汗がにじむ。
「うっ…ああっ…」
少し可哀想に思ったが、遠慮せずに中を押し広げて行く。
そしてゆっくりと指をはずした。
「…スペル」
「う…ん?」
そして自分のものを見せ付ける。
それは硬く起き上がっていたが、まだ足りないといった様子だった。
「俺がしたように、お前も舐めてくれないか?」
「えっ」
驚いたスペルが、起き上がる。
まじまじとそれを見つめていたが、恍惚としたクィンの表情と交互に見て、やがて恐る恐るそれをゆるく握り、舌を這わせた。
「んっ…」
「良い表情だ…すげぇ…淫らで…綺麗だ」
必死に、静かな部屋に水音を立てながらクィンのそれを舐めて行く。
決して上手くはなかったけれども、上気した頬と、それを丁寧に舐めるしぐさは、淫靡だった。
「っ…もういい、口はなして」
「ん…はあ…」
そろりと口を離すと、それはずいぶんと硬度と質量を増していた。
思わず熱い吐息が出る。
スペルを押し倒し、足を広げさせる。
彼の後孔にあてがうと、ゆっくりと貫きにかかった。
苦しそうに、スペルは顔をゆがめる。
「スペル、力抜いて…大丈夫だから」
「はあ…はあ…うん…」
スペルが大きく息を吐いたと同時に、根元まで貫く。スペルの体が跳ねる。
中は熱い。薬を使ったとき同様に絡みついてくるようで甘美だったが、、今はスペルの負担を考えて、動かさないようにした。
「大丈夫か?そういや腰が辛かったんだったな」
「大丈夫…大丈夫だから…」
続きを…と、確かに薄い唇は伝えた。
「無理すんな、よ」
ぐ、と腰をつかむと、一気に引き抜き、一気に貫く。ぎりぎりまで引き抜くと、今度は奥を一気に貫く。
「ひあっ!うあ、ああっ!」
スペルがベッドにしがみつく。
その様子を眺めながら、だがそれでもクィンは腰を動かすことを止めなかった。
優しく抱いてやろうと思ってた。
思ってたのに。
媚肉が、その表情が、開いた唇からこぼれる唾液が、声が、何もかもが理性を押さえつけて欲望があふれ出してくる。
もっと、もっと。声を聞きたい。
容赦なく打ち付けると、痛みは快楽に変わってきたらしく、甘い声が混じってきた。
「はあ、ん、ああっ!あん!」
スペルも自分から腰を動かしているが、それに気づいている様子はない。
快楽を求めて揺らめく腰。
たまらない。
「スペル、…気持ちいいか?」
にやりと笑みを浮かべながら、クィンが意地悪げにつぶやいた。
すぐに否定されるかと思ったが、スペルはこくこくと首を縦に振って肯定した。
「…素直だな」
「だっ、だって、だって、やあっ、もっと、もっと欲しい、あっ!あっ!あっ!はあっ!」
瞳は快楽をたたえて、うっとりと中空を見ている。時折敷かれた布を握り締め、声を上げる。
その声は十分媚薬になった。
きゅう…と中がクィンを締め付けた。絶頂が近い。
「外に…出したほうがいいか?」
「な、中に…、中に…」
誘うように腰が揺らめく。それに応えて、クィンは貫いた。
「ああああっ!!」
「っ…!!」
どくん、と、同時に吐精した。
「あ…、あつっ…。クィンのが、中に…」
そう考えただけで続々と肌があわ立つ。熱い精液はどろりと内部を満たして、そしてクィンのそれは、ずるりと引き抜かれた。
ぱたりと枕にうつぶせになる。
「はあ…」
「すげぇよかった…スペル…愛してる」
最高の快楽だった。二回既に抱かれていたからなのか、それとも思いが通じ合った結果だからなのか、薬を使ったときよりも何倍も心地よかった。
思わず放心して視点が定まらない。
「私も…私も、愛してる…」
愛してる。
なんて甘い響きだろう。
愛ある行為がこんなにも心地よいなんて、クィンの後ろから抱きしめてくる体温がこんなにも心地いいなんて。
初めて知った。
その心地よさに、うとうととまぶたが落ちてくる。
外はそろそろ昼、睡眠を途中で邪魔されたからか、疲労からか、強烈な眠気が襲ってきた。
「お休み、スペル」
「…クィン…、…」
そのうち寝息を立てて眠ってしまった。
一回、スペルの頭を優しくなでると、クィンは起き上がった。
そういえば朝食をとってない。宿ではないのでいくらかかるか分からないが、金を出してでもスペルの分と自分の分をもらっておくべきだろう。
老婆の元へと歩いて行く。



「おい」
「薬は役に立たなかったようじゃのう」
ふう、とため息を付く老婆は、やはり水晶球を眺めている。
「!?なんの話だ」
「せっかく心も結ばれたというのに、薬を使わなかったのにはわしはちょっとがっかりじゃよ。苦しそうだったろう。あの薬を作るのにはけっこう苦労したのにのう」
老婆はにやりと一瞬邪悪な笑みを浮かべた。嫌な汗が背中を伝う。
「てめー!やっぱり見てたな、それで!」
「いや、声が聞こえて」
「嘘付け!!薬云々のときは小さな声だったぞ!本当の事を言え」
ずいっと老婆の顔に顔を近づける。
老婆はにんまり笑って、白状した。
「すまんのう、見てた。ついでに聞いてた。じゃが隣の壁とこっちの壁が薄いのは事実じゃよ。壁に耳を当ててみるべし」
この婆、隅に置けない。
ためしに壁に耳を当てると、スペルの寝言が聞こえてきた。耳のいいエルフには、小さな声もよく聞こえる。
『うん…クィン…くぅ…』
寝言でまで自分の名前を呼ぶとは可愛い奴だ。
「って、お前水晶球で見ながら壁に耳当ててたんじゃねーか!無駄にそんなことに体力使うなよ!」
「…占ってやって、朝食も用意したんだからこれくらいの見返りは欲しいのう…」
「なにっ朝食あるのか。いくらだ」
「そんなもんに金は取らんよ、占い代だけで十分じゃ。あのハーフエルフの体の調子が戻るまで二日はかかると思うしの。その間はうちで休んでいけばいい。死神も魂を吸収するまではずいぶんかかる様子じゃから、大丈夫、間に合うよ」
お前さんの心が通じたことを祝って、と、リビングのほうへと案内した。そこでは、下僕が朝食を暖めなおしているところであった。
「こやつの作る飯はうまいでの、冒険者の宿の食事なんかとは比べ物にならんじゃろう。あのハーフエルフがおきたらハーフエルフにも食べさせてやっとくれ」
そこには、気のテーブルの上に、ずらりと料理が並んでいた。確かに宿の料理とは比べ物にならない。
「確かにスペルはハーフエルフだが、気にしてるんだから名前で読んでやれ」
「ほいほい、本当にお熱いのう。やれやれ」
料理は本当に豪華だった。
焼きたてのふかふかとした木の実が入ったパン、具の多く入ったスープ、高そうなワイン、茹でたてのウインナー、栄養満点の自家栽培野菜のサラダ、ローストビーフ。
「おはようございます」
下僕はウインナーを再度温めなおしながら、クィンに律儀にぺこりと挨拶をした。
「ああ、おはよう。まあ、もっと前から起きていたんだが…食っていいか?」
「はい、どうぞ」
それにしてもこんな家でこんな豪華な飯が並ぶとは。
椅子にかたんと座ると、置かれていたフォークを手にとって、サラダを食べ始めた。
うむ、美味い。
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 1〜3までナンバリングミスりました。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )すみませんorz
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115風と木の名無しさん:2007/12/31(月) 23:59:27 ID:Z8oNvfAK0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

某北方劇団の握飯コンビ
ちょっと前の写日記に萌えたんで書いてみた。
116風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 00:00:40 ID:Z8oNvfAK0
俯いた顔に、はらりと横髪が掛かっている。手を伸ばしてそっと避けてやると、彼は少し驚いた
ようにこちらを見て、柔らかく笑んだ。
コートのボタンを付け直す手は、淀みなく動いている。時々膝からずり落ちそうになる布地を
手繰り寄せる指は、精巧に造られた人形かと思うような白さだった。
少しでも触れたいと思ったら、もう駄目だった。細い手首を掴み、もう片方の手を腰に回して
引き寄せると、彼は戸惑ったようにこちらを見る。コートがはらりと床に落ちた。
茂、と耳元で囁くと、彼は恥じらうように俯いた。なんとも可愛らしい。
「陽ちゃん、」
独り言ともとれるような、本当に小さな呟きだったが、確かに彼が自分を呼ぶのが聞こえた。なに、
と聞き返すと、茂は躊躇いがちに顔を上げて、照れたように笑う。
「…好きだよ、陽ちゃん」

「…とかさあ!」
「なにそれ、気持ち悪い」
茂は心底嫌そうにそう吐き捨てると、美味そうに缶ビールを煽った。一方、俺は不慣れな裁縫に挑んで
大苦戦中だ。
隣に座ってくつろいでいる人物はこういうのが得意、というか手先が器用で、基本的に何でもこなして
しまうのだが、手伝ってはくれない。まあアドバイスしてくれるだけましか。
「素っ気ないねえ茂ちゃんは」
「俺が可愛らしく縫い物とかしてる画ってのもどうよ」
「…すごくいいと思う」
「…あほか…」
茂は呆れたように溜め息をついて立ち上がり、風呂入ってくるわと告げてリビングを出ていった。
ちょっとだけ耳が赤かったのは、俺の見間違いじゃない。
…はずだ。
117風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 00:03:25 ID:/232IVa50
「で、これか…」
ある程度は予想できていたが、O泉の裁縫の腕はそれはまあ酷いものだった。ついさっき脳天気に
鼻歌を歌いながら風呂場に入っていったが、これで大丈夫だとでも思っているのだろうか。
「とりあえずくっつけときゃいいだろ」とばかりに
付けられたボタンは、位置が少しずれていた。軽く引っ張ってみると、するすると糸が解けて、
あっけなく取れてしまう。呆れるのを通り越して、少し笑えた。
「…仕方ねえな…」
------------------
風呂から出てリビングに戻ると、茂がいなかった。トイレだろうか。
ソファーに座ろうとして、背凭れに無造作に掛けられていたコートを取ったときに気づいた。
買ったばかりの既製品かと思うほど、綺麗に付けられたボタン。
「…茂?」
俺が呼ぶのと殆ど同時に、茂がキッチンから姿を現した。両手にマグカップを持っている。
「コーヒー飲む?っていうかもう淹れちゃったけど」
茂がマグカップをテーブルに置く。
「茂、このコート…」
「ああ、あんまりにも酷かったから、付け直しといた」
茂はソファに腰掛け、マグカップに口をつけた。少し熱かったのか、すぐ口を離して小さく舌を出した。
「…さんきゅ、」
「うん」
俺は茂の隣に腰をおろして、マグカップを手にとった。温度をみてから口をつける。俺の好きな、濃いめの微糖だった。
どうしようもなくむずがゆい。丁寧に付けられたボタンとか、マグカップの中身とか、すぐ隣に座っている彼の気配とか。
「なあ、茂」
「ん?」
「俺やっぱお前のこと好きみたい」
告げると、茂は少し驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には不敵に笑った。
「おう。知ってるよ」
大胆にもそう言い放った彼は、俺の妄想の中での彼のように素直ではなかったし、控えめでお淑やかでもなかったけれど、
やっぱり誰よりも可愛くて愛おしかった。

118風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 00:06:40 ID:Z8oNvfAK0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
タイトルとナンバー入れ忘れてたorz 
そして正月から何を書きこんでるんだ自分orz
江別は手先器用だと思うけどね。

皆様今年もよろしくお願いしますノシ
119風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 02:23:12 ID:4OAsdjEpO
>>105
うひょー!
オリジナルでここまで萌えたの初めてなので続き読めて嬉しい。
本当にGJ!!
120風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 14:14:48 ID:kA7vYVqk0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
庭球皇子で、亜科沢×水漬きベースの水漬き×双子弟←双子兄。
当該スレでチラッと妄想したのを、3時間ほどで形にしてみました。
121庭球皇子 水漬き×双子弟←双子兄1/6:2008/01/01(火) 14:16:09 ID:kA7vYVqk0
 絶対に、いつまでも、変わることなく同じだと思っていた。


 夏休みに入った頃、久しぶりに篤に電話をした。
 声がかすれていて、嗚咽をこらえるみたいな音が、何度も混じった。
 篤は「大丈夫」といったけれど、どうしても気にかかって──
おれたちは双子なんだから、お前のがおれに感染ったらどうするんだなんて言って──
尋ねていった寮の部屋。
 今が夏休みでよかったなんて思ったよ。かあさんも、とうさんも、お前のところに行くんなら
安心だって、快く送り出してくれたから。
 風邪だからきっと退屈してるだろう。東京じゃ、駅の改札を入った中にもいろんな店があるんだな。
おれは途中、そこで本屋に寄って、お前の好きそうな小説一冊買ったよ。
 カップの豚汁じゃ、お前きっと、怒るだろ?
 …勿論、出資はかあさんだけどさ。
122庭球皇子 水漬き×双子弟←双子兄2/6:2008/01/01(火) 14:16:40 ID:kA7vYVqk0

 聖ノレドルフ学院中学校。
 “ノレドルフ”って、聖なる狼って意味らしいけど、転校する時お前は笑ってた。
 赤鼻のトナカイも同じ名前なんだよね、天根(その頃はまだダビデじゃなかった。背もちいさかった)
が知ったら駄洒落考えるんじゃない? …って。
 おれと同じ声、同じ顔で、同じ調子で、クスクス笑いながら。
 正直あの時は釈然としなかった。だってそうだろう? わざわざ、転校する必要なんかないじゃないか。
 千葉には皆がいる。家族が居て、六角テニス部の皆が居て、オジイが居て、潮干狩りの出来る海もある。
 お前は何かの理由でそれが嫌になっちゃって(サエの幼馴染、いただろ? あの幼馴染の弟みたいに)
東京にいくのかと考えてた。最初は。
 でも時間がたつにつれて、しょうがないかって気持ちも浮かんできた。
 千葉は狭い。海はあるし、スポーツショップも困らない程度の品揃えだし、六角は全国大会の常連校だけど、
その世界はとても狭い。
 お前は、おれたちより先に、外を見たいって言う気持ちが芽生えて、その始めが転校という
手段になったのかもしれないね。
 だから。
 おれは、篤の帰る場所になっていればいいんだって思うようにした。
123庭球皇子 水漬き×双子弟←双子兄3/6:2008/01/01(火) 14:17:41 ID:kA7vYVqk0
 それにしても、新しいし、広い学校だ。
 植え込みはどれも角をまっすぐに整えられているし、花壇には雑草もない。
 あ、奉仕活動があるって言ってたから、こういうのは生徒がやったりするのかな。
 でもお約束どおり、芝生には立ち入らないでくださいの小さな立て札。
 正門を入って直ぐのところには、差し招くように両手を広げた聖母像。
 白亜のマリア様も、東京の陽気に炙られて、表情を翳らせているように思える。
 夏休みだからか、おれ以外に人の姿は見えない。
 ただ寮へ向かう途中、フェンスで区切られたコートのほうから、気持ちのいい打球音が
聞こえてきたから、テニス部の練習はまだまだ続くんだろう。
 それから、お前とダブルス組んでるヤツ、柳沢くんって言ったっけ。
おれ、フェンス越しに練習風景を見てただけなんだけど、気付いたらしくって手を振ってきた。
篤は部屋に居るから、面会ノートだけ付ければ入れる大丈夫って教えてくれた。
 ……あいつ、本当にだーねだーね言うんだ。
124庭球皇子 水漬き×双子弟←双子兄4/6:2008/01/01(火) 14:18:22 ID:kA7vYVqk0
 寮の中の空気は、何ていうか、密度が違う。
 帰省が始まるときっとこんなもんなんだろうな。
 階段を昇る足音って、嫌に響く。寮母さんにスリッパを借りたけど、
爪先が落ちるとペタン、足を上げると踵が落ちてパタン、一度で二度足音がする。
 そのせいで、もうひとりすぐ後ろにいるような気持ちになった。
……怖くないけどね。篤が一緒に歩いてると思えば。
 篤の部屋は、さっきの柳沢ってヤツと一緒なんだね。木更津・柳沢の連名のネームプレート、
柳沢の名前のほうに、フエルトのアヒルワッペンが貼ってあった。
 扉は細く開いていた。
 外から比べると、寮の廊下は薄暗く感じる。
 そこにすぅっと切込みを入れる、室内からの陽光。
 家に居るときはノックなんてしたこともなかったけど、でも一応と思って、軽く叩こうとした。
 叩こうとした。
 お前の声が聞こえてきたから、止めたんだ。

 …んぅ、……ぁう、あ、──。
125庭球皇子 水漬き×双子弟←双子兄5/6:2008/01/01(火) 14:19:35 ID:kA7vYVqk0
 その息の音だけで、おれは、心臓がギュッと縮まった。
 ドアの隙間から見えた光景に、頭をがーんと殴られたような感じがした。
 二段ベッドと勉強机で、それでもういっぱいになってしまう部屋。
 篤はその机に突っ伏していた。
 手首に絡みついた制服のネクタイ。身につけているものといったら、白いワイシャツとそのネクタイぐらい。
 そして。
 後ろから覆いかぶさった、乱れの無い制服姿。

 みづき。
 みづき。
 ……みづき。

 篤は、泣いているように見えた。苦しがっているように見えた。
 でもその声は、脳の一番奥で響いて腰に落ちて、じりじり電流を流されるような、
温めた砂糖水じみた甘ったるさがあった。
 決定打は、聞きたくなくても耳に飛び込んでくる水音。生々しい匂い。
折れるんじゃないかと危惧するほど逸らされて硬直する、篤の背中。
 その一瞬、“みづき”が、サディスティックに曇った瞳で、扉のほうを見た。
 おれは間違いなく眼を合わせてしまった。そして、ようやく思い出した。
 あいつは確か、篤が電話で言っていたことがある。
 みづきは、僕と亮を間違えてスカウトしたんだって……亮がテニスをやってる姿を見て、
ランニングしてる僕に声をかけてきたんだよ……普段は冷静なのにさ、おかしいよね。

 世界がぐるぐる回って、止められない。
 痺れた頭のまま、おれは扉から離れた。摺り足で歩けば案外、スリッパも足音を立てない。
 階段のところまで来て、鞄から携帯電話を取り出す。
 短縮ゼロ番。発信。
 右耳には、ただ延々と鳴り響くコール音。
 左耳には、無機質に静寂をかき乱す着信音。
 篤は電話に出なかった。おれの見た全てが、夢でなかったことの証明に。
126庭球皇子 水漬き×双子弟←双子兄6/6:2008/01/01(火) 14:20:04 ID:kA7vYVqk0
 ──そのあとどうしていたのか、具体的に覚えていない。
 ただ途中、ルドルフ男子テニス部の面々に捕まって、どういうわけか練習を見ていくことになり、
そこでふと我に返った。
 小憎らしいほど乱れの無い、さっきと同じ──篤の上に覆いかぶさっていた時と
少しも変わりの無い姿で、みづきがいた。部長の亜科沢くんに、何事か言っていた。
 笑ってみたり、虚を突かれたり、怒ったり、良く動く表情。
 まったくぼくがいないと、あなたというひとは──叱声の一枚皮下、はにかむような響きが
確かにあった。
 そしてもう一度、今度は数秒間、目が合った。

 さっきと全く同じ表情で、あいつは、笑った。
127風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 14:25:55 ID:kA7vYVqk0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
と、コレにて終了。
書き終わってから昼ドラ風味になっていることに気付いた。

皆様の今年一年が、いい年でありますように。アデュ!!
128風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 14:28:09 ID:84Mehsj70
>>106
明けましておめでとう。GJ!
婆ちゃん貴腐人なんだね。いや、この年にもなれば何ていうんだろうな?w
エロ描写もさることながら、食べものの描写がやたら旨そうでおなか空いた。
129風と木の名無しさん:2008/01/01(火) 18:13:30 ID:zbVUB8MtO
>>120
正月からよだれが垂れ毛根が消失の危機ですどうしてくれる
テラデンジャラスなお年玉をありがとう
ああああしぶとくノレド好きでよかったー!萌えた!
この設定でバカと水月の話もみてみたいよ
130風と木の名無しさん:2008/01/02(水) 02:24:35 ID:pm9PV+Hg0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | ナマ 某ゲーム番組 パーマ×とんち とんち→パーマ前提
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 方言が分からないので変な部分があると思いますorz
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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131酒の話 1/5:2008/01/02(水) 02:25:22 ID:pm9PV+Hg0
「飲みに行かん?」
「はい?」

つい先ほど仕事を済ませ、事務所で帰り支度をしていた自分の下に先輩である彼が飲みに行かないかと誘ってきた。
いつもは自分が無理矢理言って連れて行ってもらう形なのだが、珍しい事もあるものだ。
彼のことを好いている自分には断る理由も全く無いので、連れて行ってもらうことにした。

彼のことを好きになったのはいつだったろうか、今思えば一目惚れだったのかもしれない
同性の先輩を恋愛対象として見るなんて無礼もいいところだが、膨れ上がった感情は一向に収まらない。
同じ担当ではなくなった今も、彼の事はずっと好きなのである。
男を好きになるなんて最初は自分でも信じられなかったが、そんな事今となってはどうでもいい。
叶わなくても、一時でも傍に居られればそれで良かった。

「…飲みすぎじゃないですか?」
「うるさい。」

事務所から近い位置にある店に入ってから休むことなく飲み続けている彼を心配するが、彼は飲むのを止めようとしない。
店に行く途中何故誘ったのかと聞いたのだが、どうやら先日彼女にふられたようなのだ。
仕事と私、どっちが大事なのと問い詰められたらしい。
ありがちな別れのパターンである。
その話を聞いた瞬間、少し嬉しくなってしまった自分を恥ずかしく思った。
そしてその憂さを晴らすために自分を飲みに誘ったらしい。
132酒の話 2/5:2008/01/02(水) 02:25:56 ID:pm9PV+Hg0
「…大丈夫です、裏河さん格好よかですから…すぐにまたいい人見つかりますよ。」
そんな自分の邪な気持ちが半分入ったフォローをしたり、しなかったり。
そして愚痴を聞いたり宥めたりしているうちにいつの間にかそろそろ店を出ないと終電が無くなる時間になっていた。
結局自分が飲んだのは最初の一杯だけである。
会計を済ませて店を出た。

「…しっかりしてくださいよ、裏河さん…。」
「離せ、一人でも…帰れる…。」
そう言いながらフラフラで今にも倒れそうな彼を一人で帰らせるのは危険であるため
とりあえず彼を支えつつ事務所へと向かった。終電はもう諦めざるを得ない。
ちなみに彼を支えている時、ずっとドキドキしていたのは内緒である。
思えば飲みに行くといつも自分が酔っ払って彼に迷惑をかけていた気がする。
これは一種の恩返しなのかもしれない。

「…やっと…着いた…。」
自分より背が幾分も大きい彼を支えるのには苦労した。
鍵を開けて事務所の中へと入る。
幸い中には誰も居らず、彼を椅子へ座らせ自分は給湯所へ行ってコップに冷たい水を入れ彼の下へ持っていった。
133酒の話 3/5:2008/01/02(水) 02:26:18 ID:pm9PV+Hg0
「これ、飲んでください。」
「おー…。」
眠くなってきたのかふられた影響なのか若干元気の無い声で水を受け取った彼は一気にそれを飲み干した。

「今ソファーで眠れるようにしますんで、今日はそこで寝てください。」
そう言ってソファーに適当なクッションを放り投げ枕にし、傍に自分の着ていた上着と毛布を持っていく。
後は彼をソファーに誘導して毛布と上着をかけてやるだけである。

「準備出来たんでどうぞ、俺は椅子で寝ます…か…ら?」
準備をして振り返った瞬間、目の前にいつの間に移動したのか彼が立っていた。
彼の整った顔が目の前にある、その事実だけで妙にドキドキしてしまう。

「…猪上…、お互い寂しいよなあ…。」
妙に据わった眼でそんな事を言う彼。
普段こんな物言いは絶対しない彼なのだが、やはり酒の力は偉大である。
「へ?あ…はあ、そうですね。」
突然の彼の言葉に間の抜けた声で返事をする自分、何を言ってるのか良く分からなかった。
彼の整った顔が更に近くなる、そして次の瞬間には自分は彼の腕の中にスッポリと納まっていた。
134酒の話 4/5:2008/01/02(水) 02:26:49 ID:pm9PV+Hg0
「え?」
「今日だけ、抱かせろ。」
耳元で低く囁かれて身体が強張る。
気がつけば自分はソファーに仰向けに押し倒されていた。

「ちょ…裏か…」
「黙っとれ。」
強引に口付けられ身動きが取れなくなる。
頭が回らない、何故こんな状況になったのか、ワケが分からない。
酸素を求めて開いた口に彼の舌がスルリと入り込んできた。
「ぁ…は…っ…」
事務所の中に湿った水音だけが響く。
誰か入ってきたらどう弁解しようか、とか考えた、今もうここで拒絶するべきなのではないかと。
幾ら自分が彼の事を好いているとはいえ、色々段階をぶっ飛ばしている気がする。
漸く唇を開放されたかと思いきや彼の腕は自分のパーカーの中に入り込み、胸の突起を刺激する。
「は、んぁっ…あ…うら…か…さ、ん。」
「…猪上…。」
彼の唇が切なげに自分の名前を紡ぐ。
もうこのまま、流されてしまっても良いかもしれない。
そう思い、目を閉じた時だった。
135酒の話 5/5:2008/01/02(水) 02:30:26 ID:pm9PV+Hg0
ドサリ、と自分の上に何かが圧し掛かる感触。
と同時に突起を攻め立てていた指の力も抜ける。
「裏…河さん?」
恐る恐る名前を呼びつつ目を開ける。
するとそこには、自分の上に圧し掛かって眠っている彼の姿が。

「マジっすか…。」
一人呟く。
馬鹿みたいだ、流されそうになってしまった自分が。
彼の腕をパーカーから出し抜け出そうとするが生憎彼をどかす気力も体力も残ってない。
酒のせいか彼の眠りは深いようでちっとやそっとじゃ起きそうにもない。
「…もう知りませんよ…。」
自暴自棄になりながら目を閉じた。
翌朝、彼の少し慌てた声で目を覚ましたのは言うまでも無い。
136風と木の名無しさん:2008/01/02(水) 02:32:00 ID:pm9PV+Hg0
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137風と木の名無しさん:2008/01/02(水) 03:04:20 ID:3/YevjvE0
>>130
新年早々良いもの見させてもらいました!
とんち可愛いよとんち
本当GJです!
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   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
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  └──────│私が描くと長編になるようです。我慢してください…
                └───────────────
戦いに明け暮れ、普通の生活を拒む冒険者。
 彼らは、ここマイソシアにて多くいる。
彼らの主な仕事は、マイソシアにあふれる化け物(モンスター)を倒し、それによって報酬を得、己を磨くこと。
 危険なモンスターと、平和を望む一般市民、そして限界を目指す彼らがいるからこそ成り立つ世界なのである。
当然志半ばで息絶える冒険者も少なく無い。
 そんな彼らも、同じ目的を持つもの同志が集まる「ギルド」がある。
そのギルドで仲間との親睦を深め、ともに戦い、情報を交換して育っていく。
 そしてギルド同士で争うこともあるのも、事実。
 ここマイソシアにある、雪国レビアにアジトを構える、戦闘ギルド『スコルピオ』と、森に囲まれた静かな町ミルレスにアジトを構える戦闘ギルド『リンドブルム』は、敵対していた。



『仲間』

「先日ディグバンカー最下部で、レイがスコルピオに襲われた。幸い、ロアが側にいたから彼女はたいした怪我にはならなかったが…、奴等は自分より実力の無い人間だろうがなんだろうが、容赦しない」




 ミルレスのあるアジトに、彼らは集まっていた。
中心に立って注意を呼びかけるのは、ギルドマスターのジーク。
 彼は戦士であり、かなりの実力の持ち主である。
赤い色の髪で、そしてその髪は、肩の所ではねている。
彼は戦士の最高位服である赤黒いアーマーをまとい、手には巨大なソードを持っていた。
その右隣には、紫色のロングコートの最高位盗賊服を着た、歳は20代前半の青年。
 漆黒のような黒く長い髪、そしてダガーの使い手。
最近ようやく、最高位服を着られるようになった少々幼さを残した顔立ちの青年。
 名は、アイル。
「…鞭、最高位光服、盗賊の男、シルバーウルフキャップ…か…」
 ジークが目を細めて考え込む。
「師匠、知ってるの?」
アイルが、ジークの態度が気になり、口を挟む。
「あ、ああ…。もしかしたらそいつ…、ディースって奴じゃないか、な」
「げっ」
 ロアが思わず声を上げた。
「そいつ、ヤバイ奴だろ。詳しい話は知んないけど、とっ捕まえた敵対の人間を縛り付けてとんでもねぇ拷問しまくるって…」
あくまで噂だけど、と、最後にロアは付け加えた。
 何せ捕まった人間のほとんどが無事に戻ってきてはいないのだ。
捉えられた人間が一体どこに連れていかれ、なにをされ、そしてその後どこに行ったのかは、詳細には知らない。
 ただ言える事は、異常なまでに相手を痛めつけるのが好きな人間[サディスト]ということだけ。
悪名名高いスコルピオのギルドの中でも、要注意人物である。
通称、死神。
「まあ…決まったわけではない。が、スコルピオの奴等は私たちのギルドを狙っている。皆も気をつけろよ。襲われそうになったらとっと逃げろ。能力に自信の無いものは、上級者と一緒にいるか、ここを抜けてもかまわん。それじゃ、解散」
解散の言葉と同時に、集まっていた二十人ばかりのギルド員は、アジトを出て行った。
そして後に残るのは、ジーク、ロア、アイルの三人である。
 がらんとした部屋の中、ジークは椅子に深く腰掛け、頬杖を付いてため息をついた。
「師匠、お疲れ様です」
アイルが師匠に笑みを浮かべてしゃべり掛けた。
ジークはそのポーズはかえずに、ちらりと愛弟子を見ると、初めて笑顔を見せた
「全く、スコルピオを敵に回すと厄介なことばかりだな。ロアがついてなかったら、レイだって、今頃どうなっていたか…」
「そういえば、レイは、どのような様子で?」
「レイは…、まだ若いからな。対人の恐ろしさを始めて知ったんだ、朝方尋ねたときは、宿でうずくまってたよ」
「そうですか」
 アイルはあいづちを打った
レイは人懐っこい子だ。なんにでも素直に感動を表す。
 アイルにもよく懐いていた。
彼女は、好奇心は旺盛だが、少し気が弱いところもある。
冒険者同士が一体となってモンスターをなぎ倒す、表の顔だけしか見てこなかった彼女にとっては大変なショックだったのかもしれない。
純粋すぎて、ギルド同士の争いには向かないだろう。
 冒険者同士の争いに巻き込むことを頭に入れず、彼女をこの戦闘ギルドに入れたことを、ジークとアイルは少し後悔していた。
「アイル」
「はい?」
ジークの呼びかけに、アイルはまじめな顔で答えた。
「お前も気をつけろ。特に、ディースにな」
 ディース以外にもスコルピオには、対人を好む人間はいるが、その場合は殆どが自分の技量を試したいから。
 その場合は闘技場に赴いて、決して殺す事は無いのだが…。
ディースは、ところかまわず襲撃してくる。
手加減はしないのだ。
「…はい、わかりました、師匠」
アイルはにっこりと微笑んだ。

 二日後、アイルとジークは、仲間の聖職者とともにレイの元をたずねた。
レイはサラセンの宿に泊まっていた。
あれから、外には出歩いていないとの事だった。
 リンドブルムに入っている限り、また狙われる可能性もある。
  にぎわうサラセンの、それも宿屋の中ならば、まずここまで追ってはこないはず。
宿で騒ぎを起こせば…それなりに処罰されるからであるし、スコルピオもそこまでして、レイを襲撃しようとは考えていないだろう。
 レイは、シャツにズボンという軽装で、ぼんやりと窓の下を眺めていた。
宿の下を、何人もの冒険者や一般人が通り過ぎていく。
「レイ、」
と、アイルが声をかけた。
レイはのっそりと振り返った後、わざと笑顔を作って気丈に振舞った。
その様子は、少々痛々しい。
「御免なさい、迷惑かけちゃったあ…」
 レイは、くしゃくしゃになってしまった茶色の髪の毛を手ぐしで梳かしながら、にっこりと微笑んだ。
聖職者によって体の傷はすっかりと消えてはいたが、心の傷までは消せることは無い。
「あたしなら大丈夫だよ、ほら、あの怪我だってすっかり治ってるもん」
「レイちゃん、ほかに怪我してるところはなーい?」
 仲間の女聖職者は、レイの側に行き、少し心配そうに顔を覗き込んだ。
レイを妹のように可愛がっていたのだ、レイも姉のように慕っていた彼女を見て、安心しきっているようだった。
「レイ」
ジークが、レイに呼びかけた。
いつになく鋭い目つきで見つめてくるジークに、彼女は、不安げな表情をしながら、見つめ返した。
「お前はまだ未熟だ。知能の無いモンスター相手ならば、勝てるだろう。だが、人間相手では、どうなるかわからない。また襲われたとき、助かるかわからない」
 そのことばに、びくっと震えた。
まだ体の震えが止まらない。思い出しただけでもあの恐怖がよみがえってくる。
薄ら笑いを浮かべならきりかかってきたあの盗賊…!
 レイは、同じような服を着ているアイルを見るだけでも、あの記憶がよみがえってきていた。
 それにうっすらと気づいたアイルは、彼女に気を使って部屋を出た。
「レイちゃん、大丈夫よ」
聖職者は、彼女を優しく抱きしめて頭をなでた。
「お前は、ここを抜けたほうが良い。抜けるか否かは、お前の判断にまかせる」
 その言葉をきいて、レイは顔を上げた。
しばらくためらい、皆の顔を見た後、彼女は言った。
「ジークさん、御免なさい…」
その言葉の直後、涙があふれだした。
 それが何を意味するのかは、彼らには、すぐに分かった。
こうして、彼女は脱退することになる。

「んー、やっぱ酒場で飲む酒は違うよな」
ジークはサラセンの宿にある酒場で、アイルと共に酒をあおっていた。
レイの脱退の手順は済ませた。
あれから彼女は、聖職者になだめられて、完全にではないが、笑顔が戻ってきた。
聖職者のほうも彼女についていたいとの事で、脱退を申し出、そしてそれを許可した。
「良いんですかー!二人も抜けちゃいましたよ?」
アイルは少々納得がいかないのか、頬を膨らませた。
「良いんだよ。それだけ腰抜けで、このギルドにも関心がなかったのだろ。その程度の人間は戦闘ギルドには相応しくない。」
「はあ。そうですか」
悪くは言ってるが、それは本音半分、嘘半分。
ギルドに腰抜けはいらないということは本当のことだが、心の優しいレイを、このギルド間の争いに巻き込みたくなかったのは事実。
 そのことは、付き合いが長いアイルにはよくわかっていた。
「アイル、お前も脱退したって良いのだぞ」
 少々酔っ払いながら、ぽつりとジークが呟いた。
その言葉にアイルは少し驚いたが、彼は笑って答えた。
「師匠、俺はあなたについていきますよ。約束したじゃないですか」
アイルは一瞬、少し寂しそうな目をしたジークを見た。
 もう何年も前。
彼らは戦いの日々の中でどのくらい経ったかは忘れてしまっていたが、アイルとジークが初めて出会った日。
 アイルがレイと同じくらいの実力のとき、彼はルアス森の、ずいぶん遠くのほうまできていた。
 一人で歩き回り、モンスターを倒していた彼の前に、見たこともない敵が現れた。
 それは真っ赤なランスを持ち、背と頭にツノを生やした足の無い敵だった。
まるで、海にいるタツノオトシゴをそのまま巨大化させたような白い体には、赤いラインがいくつも入った鎧を着ていて、背にはそれを操っている者を乗せている。
 自分の三倍はあるであろうその巨大なモンスター、『ハイランダー』を前に、思わず彼はすくみ上がってしまった。
 森にごくたまに暴れ出ることは知っていたが、実物を見るのは初めてだった。
上級者であれど、その敵とまともにやり合って死んだ例もある。
自分が獲物になるのは目に見えていた。
逃げなければ。
その瞬間、ハイランダーの背後に強烈な一撃が見舞われた。
 白い鎧を着て、羽のついた戦士の兜、それに、変わった形をした巨大な剣を持ったその人は、今の師匠、ジークだった。
 仲間の魔術師と聖職者と共に、あっという間にハイランダーをただの肉の塊にしたジークは、アイルには英雄に映った。
差し伸べられた手を受け取って、アイルはジークの弟子となった。
そして、『弟子として、あなたについていきます』と誓ったのだ。
「そうだった…なあ」
「そうですよ。師匠」
 アイルはジークを心から信頼していた。
ジークも、そのはずである。


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                ◇,,(∀・  ) エロマデズイブンアリマス
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                     | ル/ナ/テ/ィ/ッ/ク/ド/ー/ン/前途シリーズ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| より、冒険者×ヴァンパイアです
 | |                | |             \十六回目です。たぶん完結
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
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百年。
友人もその頃には死んでいる。むしろ自分を知っているものはいない。
「ロウッド…」
と、近くで声がした。
すぐそばに、いつの間にかヴァンパイアがいた。
コートを脱いで、黒のハイネックと黒のズボンという、身軽な格好になっている。
「レイン」
「やはり嫌か?嫌なら…考える。私だけ眠るということも…考える。私のわがままにお前を付き合わせても悪い」
「俺を一人にするのか?」
ベッドに寝そべったまま、ヴァンパイアの顎に手をかけた。
「!そうじゃない」
レインが困ったように、その言葉に反論した。一生懸命誤解を解こうとしている。
「私は…眠りたいけど。お前は…、なら、先に起きててもいい。一緒に目覚めなくても良い、…でも本当は一緒にいたいんだ」
百年先はヴァンパイア以外知っている人はいない。それでもやっていけるだろうか。
(こんなこと考えてるなんて…まだ俺も人間とかわらねぇんだなあ…)
なんだかちっぽけなことを悩んでるような気がする。
すべてを受け入れるためにヴァンパイアになったようなものなのに、まさかまだこんなことを悩むなんて。
ふう、と一つため息をつくと、ヴァンパイアを抱き寄せた。
ベッドに引き上げると、そのまま組み敷く。
「ロウッド?」
「永遠にお前を愛するよ」
誓い。誓いをたてる。
もう何度も繰り返した言葉だ。
 そう、眠ろう。二人ならばきっと悪夢も見ない。ヴァンパイアの衣服をめくりあげると、色づいた胸の突起に吸い付いた。
あ、と、ひくんとヴァンパイアが反応する。
それから肌をまさぐって、ズボンに手をかけた。そのとき、ヴァンパイアはロウッドの頭を優しく抱いて、快楽の予感に身を任せていた。
やがてズボンを脱がせると、自分も全裸になる。筋肉が隆々とした体は、何度見てもヴァンパイアを魅了した。
「一緒、に、眠ってくれるの?」
「ああ、眠るよ。一緒に、眠ろう」
「ああ…嬉しい…」
ロウッドの唇に口付けると、幸せそうにヴァンパイアは微笑んだ。
「もう、一人で眠らなくていい。一人じゃない。嬉しい」
ゆるゆると性器をなでると、ヴァンパイアは声を上げた。その唇をふさいでしまうと、くぐもった声が聞こえる。
「どうして欲しい?」
唇を離し、意地悪そうに問いかける。
「中に…入れて」
指を存分に唾液でぬらすと、奥まった部分に指をあてがった。
ぬるりと中に入れると、何度も出し入れを繰り返して、中を十分に慣らせて行く。
「もういいだろう」
その言葉とともに、張り詰めた性器を中に入れて行く。
「あ…!あああっ!」
高い声が上がる。めまいがしそうな久々の快楽。
我を忘れんばかりに腰をゆすった。
「はあっ、ああああ!気持ち、いい!」
「いいか?お前は本当に可愛いな」
腰を使って攻め立てる。ちゅく、ちゅく、と音が上がる。
「あっ!!そこ、だめぇっ」
入り口付近をつつくと、ヴァンパイアの背が跳ねた。
「駄目、じゃないだろ?もっとして欲しいんだろ?」
後ろから抱きすくめ、棟の突起を転がしながら、腰を大きく動かす。
甘い声はとめどなくもれ、ヴァンパイアは快楽に目がかすみそうなほどだった。
この交わりが終われば一緒に眠れる。
けれどこの交わりが永遠に続いて欲しいような、そんな気がする。
これ以上と無い快楽の中で、ヴァンパイアはロウッドの名を呼んで果てた。



「すー…」
「…」
ヴァンパイアが寝息を立てている。
幸せそうに笑っている。
よっぽどロウッドと眠ることができるのが嬉しいのだろう。
 今までは一人だった。ロウッドと出会うまで、ずっと一人だった。
自分は強いものと信じていた。
だが、ロウッドがいなければ、今の自分はこんなにも弱い。
弱さをさらけ出すことのできる相手がいる。
しっかりとロウッドの手を握りながら、夢の中だ。
「レイン…レイン」
眠るための準備をしなければならない。
起こそうと頬に触れたが、あまりにも幸せそうなのでやめといた。自分も枕に突っ伏して、眠りにつく。
「愛してるよ、レイン」

大き目の棺を一個、地下に運んで、マンドラゴラを二つ。エリクサーを二瓶、バオバブの木とブルーマッシュルームを三つ。さらにドラゴンニュートの卵を一つ。
それらを釜の中に入れてつぶしながら混ぜること七時間。
大き目の棺は人間二人が入れるほどの大きさのものだ。この棺に入って眠る。
「…なあ、レイン、何作ってんだ?家の中異臭だらけなんだが」
「何って、眠るための薬」
釜のそこにちょびっとのこるまでにできたそれは、ちょうど二人分あった。冷ましてコップに注いで行く。
この世の薬、もしくは飲み物とは思えぬ色をしているそれを手に、ヴァンパイアは言った。、
「ブルーマッシュルームをヴァンパイアが食べると、一時的に仮死状態になる。だがすぐさめてしまう。これらを調合することで、百年眠ることができる。五十年なら四時間、百年なら七時間煮込むそうだ。私はこれで五十年間眠った、安心しろ」
棺おけに寝やすいように、毛布と枕を入れる。
棺おけのそばで、愛を誓った。
ロウッドはヴァンパイアに口付ける。
ヴァンパイアもそれに応える。
笑みは、柔らかかった。
「おやすみ」
と、ヴァンパイアは言った。
「ああ、おやすみ。百年先に、また、な。それまで一緒に寝ていよう」
そして二人は同時にそれを飲み下した。
まずかったが、飲めないほどではなかった。
二人は棺おけに入る。そしてふたをして、眠りに落ちた。
二人は抱き合って眠りに落ちた。
百年の眠りが始まった瞬間だった。



エピローグ

大きな…揺れが起こった気がした。
『おい、ここにも家があるぞ!』
『住人は無事か!?』
『家はずいぶん古いものらしいからな…分からん。ああ、なんだ?地下通路があるぞ』
騒がしい。
カンカンカン、と、音がする。
誰かがこちらに向かってくる。
『なんだ。棺おけがあるぞ、あけてみよう』
ギィィィィ、と、こすれた音がして棺おけが空けられ、日の光が少し、見えた。
「…?」
「おい、あんたら、無事か!地下に逃げていたのか?」
「?」
ロウッドは、まぶしそうに毛布を顔に寄せた。
ここは地下室、おかげで日の光は入らないが、階段を上った先に、見覚えのある壁が瓦礫となっているのが見えた。
「ん…」
ヴァンパイアも覚醒する。
「あんたも、大丈夫か?」
「スマンが…今は何年だ?」
救助隊がわらわらと入ってくる。
まったく怪我のない様子に全員ほっとするが、困ったのは本人たちだ。
「え?五百五十二年だよ。そんなことより、こんな大きな地震のあった中で、よく生きていられたね、あんたたち!家の中滅茶苦茶だよ!」
「五百五十二年…」
「ちょうど百年だね、ロウッド」
ヴァンパイアが隣に立って、にっこり笑った。そして伸びを大きく一つした。
「あんたロウッドさんていうのかい?百年以上も前の英雄と同じ名前なんだなあ」
瓦礫の山を片付けながら、救助隊の一人が言った。
「何でも、ムシュフシュを倒した英雄がロウッドさんだったんだと、吟遊詩人が歌ってる
よ」
「へえー」
なんだか照れる。
それにしても、階段を上ると天井が崩れていた。隠しておいた財産はそのままで盗られて
ない様子でほっとしたが、こうも滅茶苦茶に家の中が破壊されてはしょうがない。落ち着
いたら、家を立て直そう。
今度は豪華な家を立てよう。次にまた眠るときがきても、壊れないような家を立てよう。
 ヴァンパイアとロウッドは、皆が地下から引き返すと、口付けを交わした。


 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧完結しました・
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )長い間ありがとうございます
 | |                | |       ◇⊂    ) 
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
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棚のまとめ板にシリーズものとして載ってるので、宜しければ読んでみて下さい。
153風と木の名無しさん:2008/01/03(木) 20:32:06 ID:rnE9lU0/O
>>120
うっひょーGJ!!ドロドロいいよいいよー!!
154風と木の名無しさん:2008/01/03(木) 22:18:31 ID:0hQCWieRO
>>152
待ち侘びてました!!
GJです!!
やっと胸のつかえが!!
155薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬:2008/01/04(金) 02:59:46 ID:UxyjamqQ0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 物のけ ハイパー×薬の>>54-76のその後の再会編です。
                     | 親子・出産・家族の捏造設定ですので、苦手な人は御注意。
                     | ハイパー(父)×薬(母)=子供(オリ)・たいまの剣
                     | 前にも増して、ものっそ、長くなってしまったので、前・中・後と
                     | 三回に分けますが、それでも一回が長めです。
                     | 前回とは趣きも違ってしまいましたが、それでもよければ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| ハイパー登場とエチーは中編のみです。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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156薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 1/10:2008/01/04(金) 03:01:13 ID:UxyjamqQ0
街道から少し外れた廃寺の柱に、新たに着けた背比べの跡を子供は指でなぞった。
それは前に着けた古い跡の上を重ねただけで位置は、ほとんど変わっていなかった。
「やっぱり。」
子供は溜息を着いた。
「ちっとも大きくなってない。」
薬を売りながらのモノノケ退治の旅の途中で、
前に、ここに立ち寄ってから数年は経つというのに。
人と違うのだから、人と同じようには成長しないのだと判っていても
人世で暮らしているにしては遅過ぎるのではないか、
孵ってから、退魔の剣を解き放てるようになるほどに生育したのは
むしろ人などより、ずっとずっと早かったのに、
ここ数年は体の成長が全く止まっている。

依り代としての必要もあって、先代の薬売りと同じに、
頭には藤色の頭巾、白い肌に赤い隈取、綺麗な蛾を思わせる艶やかな袷(あわせ)に、
女結びの派手な帯といった、一度会ったら忘れられないような目立つ形で行商しているだけに
これでは前に付いた上客のところにも行きにくい。
先年に商っていた者の末の弟だ、とでもいうような言い訳も必要になってくるかも知れない。

父である人にあらざる男は気にするな、としか言わない。
褐色の肌に薄色の長髪、黒い目赤い瞳の美丈夫の
退魔の剣の使い手である父と、自分はそんなには似ていない。
自分の姿は、いつもは父や退魔から聞き、
一瞬だけ邂逅したことのある母の子供の頃に生き写しらしい。
肌はこれ以上ないほど白く、瞳の色も薄い。
母にあたる薬売りも、体は小さい方だったとは聞かされてはいるが。

子供は座り込み、さきほどより大きく溜息を着いた。
157薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 2/10:2008/01/04(金) 03:02:56 ID:UxyjamqQ0
そんな子供の様子を、箱に仕舞われたまま感じ取っていた退魔の剣は
子供の成長の止まった原因が薄々、判っていた。

子供は今は人世にあったが、子供の父母たる者は人では無い。
父は一応はカミと呼ばれうる存在であり、
母は、それよりも人寄りの下位の者で、
子供と同じく人世に在ったが人とは違っていた。
そもそも、女めいた美貌の持ち主はいえ、人のままなら母とは成りえぬ、
れっきとした男であった。
そして、そんな人外の子としても子供の生まれは少し外れていた。

彼らは本来、眷属同士で子を成すには、
人で謂うところの体の交わりより、心や気の交感が必要だった。
砕いて言うと、何らかの情や気の、お互いの想い合いが無いと子を成せないのだ。

子供の母にあたる薬売りが子供の父を想った時、
父たる男は、薬売りを省みなかった。
人から見れば、美しく艶かしい、魅了されずにはおれないような者ではあったが、
その頃の男にとっては、モノノケを退治するために男が振るう退魔の剣を解き放つ役目を持つ同性の者、
自分に隷属する依り代としてしか薬売りを見られなかったのであろう。
しかし薬売りの強過ぎた想いは実体を成し、子供は、まず孵らぬ卵(らん)として生じた。
158薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 3/10:2008/01/04(金) 03:04:14 ID:UxyjamqQ0
後に、その報われぬ想いが悲劇を招き、
薬売りは退治すべきモノノケに取り込まれ、 自らもモノノケに変生した。
男は、そんな薬売りを、依り代として見放し、離れた。

男は次の依り代を探した。
モノノケを斬って滅す者としての自身の性(さが)を貫くため、
そしてモノノケと化した、かつての依り代を滅しなければとも思った。

その探索の中、実は既に、男の心に蒔かれていた種が芽吹き大きくなり始めた。
元より長い時を過ごすものたちは、心の熟しようも人のそれとは違うのだ。
男は自分が薬売りを「想っている」ことに気が付いた。
男の心に、初めて現れた類の感情だった。
薬売りの想いが、過去に卵として実体化していたため、時を隔てた交感が成り、
卵は「受精」した。
しかし常とは違う過程をとったためか、そのままでは卵は孵らず
男が直接、気を吹き込んで孵し、生まれた子供が新しい依り代と成った。

ここに原因があるように退魔は思う。

眷属の誕生の形は様々だが、卵として生じたなら
本来ならば誕生までは卵内に、想い合うことで醸される気が注がれ満たされて育てられるもの、
それが擦れ違いの片方ずつの想いや気で在ったことの無理の表れに見えた。
卵が孵り、誕生した当初は、男が吹き込んだ気の勢いそのままに成長し、
依り代として力を得たが、これより先は、母である薬売りの気が必要だと思った。
常ならば誕生までに必要だった想い合いの気が、今からでも必要になってきてるのだろう。
159薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 4/10:2008/01/04(金) 03:06:01 ID:UxyjamqQ0
薬売りであったモノノケ絡新婦が、
男と、今の依り代である己の子供に滅せられてから何年も経つ。
人の情念から生まれるモノノケは、退魔の剣で滅したからといって
情念の元が、生きている人間であった場合、死なねばならぬものでも無いし、
死んでいる場合でも、魂までもが滅せられるわけではない。
薬売りとて死んだというわけでは無い。

モノノケ退治の過程において、
モノノケが原因で失われた人の命や、その数については
男にとっても依り代にとっても罪咎(つみとが)の埒外だが、
滅する立場のものがモノノケとして人を殺めたとあっては、そうはいかない。
人や獣がモノノケとして犯した罪は退魔によって禊がれ浄化される分が大きいが、
眷属の罪は、それでは禊ぎきれず、当の者が自ら償うこととなる。

絡新婦は人の男に魅入り、精を絞り、喰らって、殺めた。
巣食っていた洞窟に散らばる人骨は、少なくは無かった。
絡新婦が退魔によって滅せられ消えた瞬間、
薬売りは、眷属の定法により償いの場へと飛ばされた。
償いの行が終われば、男と子供の元に帰って来ようが、
それがいつになるかは、男にも退魔にも判らなかった。
160薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 5/10:2008/01/04(金) 03:07:14 ID:UxyjamqQ0
退魔には薬売りについての心配が、もうひとつあった。
戻ってくる時期もそうだが、戻って来た時の本人の状態についてである。

償う方法は罪や重さによって色々だが、どれも甘いものでは無く、
本人が相当に消耗するものであると聞く。
薬売りなら、やり遂げよう、それは心配していない。
心配はその後のことである。
普通は償いを済ませた眷属は、しかるべき場で消耗した体と心を癒し整えてから、
在るべきところへ戻るという手順を踏む。

だが、薬売りは逸るのでは無いか、充分に癒さぬまま、
人世に戻って来てしまうのでないか、という考えが、どうしても拭えないのだ。
何故なら薬売りにとって、今の男と子供は、単に在るべきところではない。
渇望しながら、手に入れることが叶わなかったものの全てである。

とは言っても、償いについても、その後の癒しについても
退魔も、退魔の知るものも直接の経験は無いことゆえ、
そもそも不充分な状態で戻ることが許されるのかも判らないので
杞憂に過ぎないのかも知れないが。

そこまで考えが至ると、いくら運命を共にしているからとはいえ、
子供や薬売りはもちろん、男よりも遥かに長い時を経ている退魔は、
何やら若輩どもの挙動を
ハラハラと案じる年寄りのような立場になってしまっている自分を自覚して、苦り腐った。

その時、子供が、また大きな溜息をついた。
161薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 6/10:2008/01/04(金) 03:08:23 ID:UxyjamqQ0
雨に降りこまれ、子供は結局数日を廃寺で、ずっとひとりで過ごした。
男は、モノノケの気配が無ければ、おいそれと子供の前に姿を表さない。
どうしてもと、強く求めた時には声だけを返す。
元々、男はこちらへ、人世へは、まず降りてはこないのだ。
姿が見える時は、姿をこちらに表しているのでなく、モノノケやアヤカシのせいで、程度の差はあれ、
その場が、異界に変じているから表れたように見えるだけだ。
あるいは、こちらを自分の自由のきく領域に招き入れているだけなのだ。
依り代というのは男がこちらへ姿を現すための形代ではなく
男がこちらの様子を知るための器官や、力を通すための管のようなものなのだと、子供は最近になって理解した。
男にしても、封印が解けたとて、定められたところ以外では自由に動けるものでもないのだ。

子供も、モノノケの領域や異界には行って、そこに在ることが出来るが
札も無しに自ら、そのような場を作れるほどには、まだなっていなかったし、
父の普段在るところに自由に行き来することは許されておらず、
許しが無ければ、その領域の中に踏み入ることも出来なかった。

人でなくとも人の体裁を取って人世で過ごす者として、
異界内に不必要に長く居るのは良くないからだと聞かされていた。
良くないというのは子供にとってなのか人世にとってなのかは聞かなかった。

背比べで体が成長しておらず、人世に在りながら人とは違うことを強く意識してしまってせいで
子供は、人世にも異界にも、どこにも居場所が無いような疎外感に襲われ、
廃寺にひとりで篭っていたことで、尚のこと酷く孤独に苛まれた。

膝を抱えて座り、顔を伏せた。
母もそうだったのだろうか?
母もこうして長い間、孤独に苦しんでいたのだろうか、
それに耐え切れなくなって、あの艶かしくも恐ろしいモノノケに成ってしまったのだろうか、
自分も、ひとりで居たら、そうなってしまうこともあるのだろうか、
つらくなるばかりだから、お役目を捨てて定めから逃げろ、とモノノケとしての母が、自分に言い放ったのを思い出す。

思いは暗い方、暗い方に引き込まれていく。
162薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 7/10:2008/01/04(金) 03:09:26 ID:UxyjamqQ0
その時、突然、退魔の剣がいつにないほど大きく鳴った。

子供はすぐさま体勢を整えた。
こんなにイキナリ知らせてくるなんて、今まで無かった。
箱を開けて封印の札を剥ごうとした。
「「違うぞ、坊、モノノケでは無い」」

「「たぶん、薬売りだ、お前の母だ」」

そう聞いた子供は退魔が鳴ったことと、直前まで暗い思考に流されいたせいで
「またモノノケになっちゃったの?」と泣きそうな顔で尋ねた。
「「そうでないわい、待ちかねておったろ?人の世に戻った、」」
子供の顔が、明るくなる。

「「だが、まずい、心配事が的中したようだ」」
そう聞くと、両手で退魔の剣を握り締め、
騒ぐ心を抑え、気を澄ます、あちらで男も焦っているのを感じた。
「「罪を濯ぎ、こちらに着いたは良しとせねばならんが、」」
しばし剣は沈黙する。様子を探っているのだろう。
「「まだ按配が良ろしくない」」
「「戻るに急いて無理をし過ぎたか、普通の状態では無い」」
「「呼びかけに真ともに答えん、意識が曖昧だ」」
「「場所はわかる、早ように保護しなければ」」
子供が外を見ると、沈んでいる間に雨は止んでいたようで、
空は晴れ上がり、陽が落ち始めようかという頃だった。
ここに戻らないことも考え、連尺を背負って飛び出した。

成長しきらぬ子供の姿といえ、そこは人あらざる者ではある。
自分の体とそう変わらぬ大きさの荷物を担いだまま、
人目を避けながら、おそろしい速さで、退魔の剣の指示する場所へと走った。
163薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 8/10:2008/01/04(金) 03:10:23 ID:UxyjamqQ0
「「もうすぐだ」」
そう退魔が言ってきた頃は
宿場町手前の人が盛んに行きかう道上だったので子供は足を緩める。
「「アレだ」」
退魔の言う先には街道の道端、
何やら下卑た声を上げて騒いでいる男たちの囲みがあった。
暮れかかる薄暗がりの中でも、それはすぐに判った。
男たちの囲みの中、男たちの足の間から見える、投げ出された白い脚。

見た瞬間に、頭に血が昇った、男たちが、どういう者かも構わず、
「通してっ!!」と囲みを破った。
男たちの中から現れた光景に、目を疑う。

そこに居たのは確かに前に一度見た薬売りだった。
細く高く伸びた形の良い鼻梁、ネコのような蠱惑的な目に眠た気にかかる瞼、
程よい大きさの口から覗く並びのいい歯列と、その中に見える鋭い犬歯、
戻ってきたばかりだからだろうか、その白い面に赤の隈取は無かった。
薄色の、クセのある豊かな髪は結われても括られてもおらず、
そのまま白い肌の肩や背や胸に流れていた。
倒れていたのが起きる途中か、上体は手を地に着け起こしているものの、
腰から下は、まだ力無く投げ出されている。
意識が曖昧と退魔が言うように、どこか呆けた様な顔をして、
時々、イヤイヤをするように頭を小さく振っている、
だが、今、問題なのは、そういうことではない。
薬売りは、



全裸だった。

164薬売りの卵・その二・前編・ハイパー×薬 9/10:2008/01/04(金) 03:11:29 ID:UxyjamqQ0
一瞬、この男たちが、このような目に遭わせたのかとも思ったが、
無頼の者とて、宿場近くの往来がそれなりの街道の只中で、
いくら美形とはいえ男を、いきなり裸に剥いて無体をするとは考えにくい。
無理やり何をされたというような傷や痕は薬売りの体には無く、
脱がせられたのなら、ある筈の着物や布切れはどこにも見当たらなかった。

あまりの想定外の状況に次の行動に移れずにいると
囲みの男のひとりが声を掛けてきた。
「なんだぁ、餓鬼、何の用だ」
ハジかれたように、子供は薬売りを指差し答える。
「用があるのは、コレにだよ!」
「この素ッポンポンは、おめぇの何だよ、」
「おっかあっ…!」だよ、と勢いで答えようとして詰まった。
薬売りは今、全裸なのだ。事実として女のように美しくはあっても
どう見ても母親では無い、少なくとも人の世では。
「…に言われて探してたんだよ、タラズの兄ちゃんが目を離した隙に
素っ裸で、どっかへ行っちゃったみたいだからって」
子供は、男たちの視線を一斉に感じながらドギマギして答えた。
状況に合わせた口からでまかせで、それらしいことを言ったが、
自分の派手な行商人の風体で、どれだけの説得力があるだろうかと。

「おめぇのあんちゃんか、そういや似てるな、いや、ソックリだ」
男たちは、軽い落胆や愚痴を口にし始め、
囲みを解いて次々と離れて行く。
「今度から気ィ着けてやれよ、人や、運が悪けりゃ、
どこぞへ連れて行かれて、いい様に遊ばれるなり、売られるなりするところだぜ、
頭の弱ェえ、しかも野郎とはいえ、こんな別嬪が素っ裸で転がっていればよ。」

子供はホッとして、宿場の方角へと散っていく男たちに軽く頭を下げた。
そうして、どうしようかと考えた。
辺りは暗くなってはいたが、かといって裸の薬売りを
連れ歩くわけにもいかないし、このままでは宿場にも入れまい。
まずはと思い薬売りの手を引き、起こす。
薬売りの倒れこんでいた道の傍は少し高くなっていたせいか、
地面は、ほとんど乾いていて、薬売りの体はさほど汚れていない。
子供は、わずかな汚れを掃いながら、目を凝らして外傷が無いことを確かめる。
退魔の言っていたこともあり、もしかしたら別に障りがあって
歩けないかとも不安になったが、そのまま手を引いて街道脇の草むらへ向うと、
薬売りは素直に従った。

月明かりだけを頼りに連尺の日用品を入れた引き出しをまさぐる。
数は無い着替えの類は全部子供のもので薬売りの体には、どれも小さい。
だが薬売りがコレを使っていた頃から、どういうわけだが、何のためだか
入れっぱなしになっていた赤襦袢があったはずだと、見つけて引っ張り出した。
非常用に持っていた草履は何とか薬売りの足に遇った。

赤襦袢を着せたところで、事態はさして改善していないことが判った。
着物を揃えるため、このまま古着屋に連れて行っても、
これでは女郎が足抜けして逃げたきたか、と間違われるのがオチだと、
見かけの年よりは長く人の世を渡ってきた子供は、世間擦れしたことを思った。
かと謂って、この有様の薬売りだけを、どこかに置いて
自分ひとりで買いに行くのも躊躇われた。

幸い辺りは、もうトップリと日が暮れて暗い。
日中は雨だったし、街道を往来する人たちは、もう宿場に入り切った頃だろう。
とりあえず廃寺に戻ることを決め、薬売りの手を引いて歩き出す。
月の出ている夜を歩いて戻るのは、さほど苦にはならなかった。
気は急いていたが、繋いだ手が、子供の気分を明るくした。
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧次は中編に続きます。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )後日投下します
 | |                | |       ◇⊂    ) 
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
167風と木の名無しさん:2008/01/04(金) 03:22:08 ID:uNiF57eS0
>>155
GJでした!
続き禿げ上がりながらお待ちしてます!
うああああああ薬売りぃい(ごろごろごろごろ(ry
168風と木の名無しさん:2008/01/04(金) 04:47:44 ID:lAhjKdkj0
ぎゃぁぁああああああ!!!!
続きキテター!!!!
>>155殿GJ!!!
やばい本気で泣きそうだwww
待ってましたよー!待ってましたよ!!!
薬売り頼むから幸せになってくれと前作を泣きながら読んでました!!
続きにwktkがとまらんwww!!!!
うああああああ薬売りぃい(ごろごろごろごろ(ry
169風と木の名無しさん:2008/01/04(金) 07:53:11 ID:zYbzOK+wO
>>152

むはぁ!とうとう完結っスか!?

長編お疲れ様でした。
百年経ってもラブラブイイヨイイヨー(・∀・)
楽しませて貰いました。
ありがとう!
170オリジナル 先輩×後輩・番外編:2008/01/04(金) 13:24:09 ID:nn6iC0mu0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  一応>>97-105で完結だったんだけど
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  後輩視点の番外編ということで
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ ) コレデオサラバ
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

171オリジナル 先輩×後輩 1/4:2008/01/04(金) 13:25:33 ID:nn6iC0mu0
なあ、お前付き合ってる奴いるの。へえええ、どんな感じの子?
次の講義に向かう途中の雑談で、どういう流れだったかいつの間にか、
そういう話になっていた。
興味津々の友人の視線に促され、どういうってどうなんだろうとしばし考え、俺は
「……んー、小さい」
これくらいかな、と右の手のひらを差し上げる。
そしたら、そいつはぷっと吹き出して、
「そりゃ、お前十分大きいって。お前から見たら大抵はちびっちゃいんだろうけど」
俺はそれよりもうちょっと小さい方がいいな、とちょっと真面目な顔になって
付け加えられた。
やっぱり、俺が大きすぎるのかなあ。
そう言うと、俺の目の前でスナック菓子かじりながら漫画雑誌を読むのに夢中だった
先輩が急に顔を上げた。
「お前は馬鹿か。そいつはお前に彼女がいるかって聞いてたんだろ? 女!」
ああ、そうか。そういうことかと俺はようやく合点が行った。流石に女の子の平均身長と
先輩とはわざわざ比較するまでもないだろう。
そんな俺の思考を読み取ったのか、先輩の瞳から鋭い険しさが溶けて消え、代わりに
その唇から深々とため息が吐き出された。
172オリジナル 先輩×後輩 2/4:2008/01/04(金) 13:26:43 ID:nn6iC0mu0
「ほんとーに、お前って」
馬鹿だな、と駄目押ししたかったんだろうけれども、最後までその言葉が紡がれることは
なかった。その代わりに、
「お前、俺が良いって言うまで目を閉じとけよ」
と有無を言わせぬ命令口調。
逆らってもどうせ従わされることになるだろうから、分かりましたと目をつぶる。程なく、
がさごそと部屋を探る気配。
「あんまり汚さないでくださいよ」
「とっくに汚れているじゃねーか。後で掃除するから手伝え」
俺の部屋なのに手伝えとはこれいかに。見られてヤバイものは無いと思うんだけれども、
ちょっと心配だ。なにかを拾い上げて、一箇所にまとめている気配、重いものをばさりと床に
置くような音が耳に入る。なにをしてるんだろう、ちょっと薄目を開けようかな、そう思った
ちょうどその時に、
「目、つぶったままで立ってみろ」
言われるがまま、その場でそうっと立ち上がった。
「よし、目ぇ開けてよし!」
ようやくお許しの言葉を頂いた。恐る恐る目を開けたら、座卓の向こう側で先輩が俺を
見下ろしていた。そう、俺は見下ろされていて、そして俺は見上げていた。
173風と木の名無しさん:2008/01/04(金) 13:27:43 ID:Aj+mDCro0
>166
GJだよGJ!
実は元ネタしらねーんだけど前作で切な萌えてたよ。
続編が来てくれて嬉しい。
元ネタも読んでみるよ!
174オリジナル 先輩×後輩 3/4:2008/01/04(金) 13:27:56 ID:nn6iC0mu0
「うわあ」
思わず感嘆の声が出てしまった。これは新鮮だ。一体どうしたんだろうと得意げな先輩の
顔から徐々に視線を降ろしていくと、床に積み上げられた雑誌の台に先輩が乗っかっていた。
一番上の車雑誌、あれ、買ったばかりなんだけどな。
「こっち来い」
せっかく背が高くなっても移動できないのは不便ですね、とは言わなかった。てってって、
ほんの二三歩、軽やかなステップであっという間に先輩の目の前、いや、目の下へ、だ。
俺より頭ひとつ分くらい高いところにある先輩の顔、頬や顎のラインがいつもと違って見える。
触れてみたいという衝動に駆られて、指先でそうっとなぞる。指が覚えている感触はいつもと
変わらない。
先輩の手のひらが俺の頬を撫でて、そして上向かされる。悪戯っぽい瞳で覗き込まれて、
俺の心臓が跳ね上がる。
当然のように、唇が降りて来るのを待つ。
「んーっ」
唇を開いて、相手を迎え入れる。滑った舌と舌を絡ませあう。唾液が混じりあう音に合わせて
更に激しく貪り合った。お互い、相手を食らいつくす勢いで。
もっともっともっと。
腕を背に絡めて、身体を密着させようと抱きしめる。
175オリジナル 先輩×後輩 4/4:2008/01/04(金) 13:29:11 ID:nn6iC0mu0
瞬間、形にならない悲鳴が俺の咥内で弾けた。
不安定な雑誌の台の上で足を滑らせて、圧し掛かったくる先輩の身体。危ないと俺は全身
全霊で先輩の身体を受け止める。
ぎゅうっと。
「いい加減、降ろせ」
顔を真っ赤に染めた先輩にそう命じられるまで。
先輩を抱いたままの格好で足元を確認してみたら、先輩のつま先がほんのわずかだけ
床から浮いていた。
道理で重いはずだと、そっと用心深く先輩を床に降ろした。
俺と先輩と、同時に深く深く息を吐いた。
先輩の顔はまだ赤い。
「こういうキスもいいですね。またお願いします」
その顔を覗き込んで、笑顔で頼み込むと、
「これが最初で最後!」
ぷいっと顔を背けて、先輩はそんなことより掃除するぞと俺に命じた。部屋のどこかにある踏み台、
あれを見つけて先輩にプレゼントしたら怒るだろうなあ。怒り心頭の様子を想像しながら、
俺は踏み台探索のための掃除を始めるのだった。
176オリジナル 先輩×後輩 番外編・完:2008/01/04(金) 13:31:10 ID:nn6iC0mu0
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 | |                | |       ◇⊂    ) 
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久しぶりに801もの書いたけど、楽しかったです。
お付き合いいただいた方、ありがとうございました。
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  今日漫画を全巻読んで即興で作ったので
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  荒があります…。
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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「よう俺様の前に集まってきたスレイブども!!お前らにこのラヴ・ヴォイスを聴かせてやるぜ!!曲は…サタン!!」
ライブが盛り上がり絶頂を迎える。
奇抜な衣装に身を包んだヴィジュアル系バンドの「お化粧野郎バンド」は、今日もまた下僕――スレイブと呼ぶファンたちに、歌を歌っていた。
「サタンがタンを絡ませた♪さーっタンが出たぞ云々♪」
今日も…絶好調だ。

ライブは大盛況に終わった。メンバーたちは控え室でおもいおもいに体を休めている。
「お疲れー」
ドラムのみねをは超ナルシストで派手やろう。
「外にまだファンがいるぞ」
ベースのユーシスは存在感はないが、リーダーでおそらくお化粧野郎バンド唯一のまとも人だ。
「甘いものが食べたい…」
そしてボーカルのルナルナ。
不健康冷酷な悪魔と呼ばれているが、毎朝ラジオ体操は欠かせない、元体育会系のカリスマボーカルだ。
「ねーねー、ルナルナ、今日こそ飲みにいこう」
ぴょん、とルナルナの肩に抱きつくのは、長髪で美形だがリアル・ゲイの麗児だ。
麗児はひそかにルナルナを狙っている。
いや、ひそかではないかもしれない。
(また狙ってる…)
と、ユーシスは思った。
だが心の中でだけ言うことにした。
(報われないのに…)
「んー、たまにはどっかいくか」
「え」
と、皆が言った。今日のルナルナは気分が良い。いつもここではいる鉄拳も、ない。
当の麗児も固まったが、次の瞬間にはひまわりが咲いたような笑顔で、またもルナルナに抱きついた。
「やったー!店はどこが良い?俺いいところ知ってるよ!」
そんなこんなで二人は裏口から出て行き、二人は都心の闇に消えて行くのだった。
「なんか心配だなー」
ユーシスが、あの狼が尻尾を振っているような笑顔の麗児を気にする。
なんたって麗児は本気で本気のゲイなのだ。
「まあ、いいんじゃないの。それより俺たちも飲むか」
「お、いいな!よし、行こう!」
もはやルナルナへの心配は二秒で消えてしまった。



アレからどれくらいたっただろう。
ルナルナは麗児に誘われてバーに行き…どんどん酒を飲まされ(※ルナルナは未成年です)、あっという間に潰れてしまった。
へにゃりとテーブルに突っ伏すルナルナを心配するでもなく、あっけなく潰れた男を、麗児は見ていた。そして。
狼のような笑みを浮かべて、ルナルナの肩を担いだ。
夜の街の裏道を歩いて行くと、あふれんばかりのラブホ街に出た。
相変わらずルナルナは眠っている。
これはちょうど良い。
麗児は思った。
そして豪華そうなラブホテルに、ルナルナを連れ込んだ。

「…」
困った。
ラブホテルに連れ込んでルナルナを寝かせたまではいいが、なんだ背かこれ以上のことをしてはいけない気がする。
というのも、いつもはユーシスがいるからやってのけた機構であって、ユーシスのいない、ルナルナと二人っきりない間、禁忌を侵しているような気さえする。
(いや!!チャンスだ!まずは服を脱がせて…)
『変な人』と書かれたTシャツを脱がせて行く。
案外ルナルナは一般人に感性は近いが、なぜかこういう私服は変なものが多い。
いや、今はそんなことはどうでもいいのかもしれない。
「うーん…」
「!」
麗児は手を止めた。
しかしルナルナは寝返りをうっただけで、目を覚ます様子はない。
そして上半身を脱がせたところで、その肉体にうっとりと手を合わせた。
うっすら筋肉の乗った体はギリシャ像のよう。
『不健康』とみせかけるために保たれた白い体は、思わず抱きしめてしまいたくなるほどだった。
自分もぽぽいっと服を脱ぎ捨てて、さてそこでどうしようかと考える。
自分が上になる?下になる?
そう考えながらルナルナのズボンと下着に手をかけ――、おろした。
「―――!!ル、ルナ…!!」
思わずベッドの上で顔面を突っ伏した。
その…でかかったのだ。
ルナルナのそれは、麗児が今までに愛を交わしたどの男よりもでかかった。
確かルナルナは童貞、童貞なのにこんなでかいのはなんてもったいない!
思い切った麗児は、ルナルナのそれにしたを這わせた。
「んっ」
ルナルナが反応するが、やはり起きる気配はない。
次第にそれを硬く大きくなっていく。
(入るのかー?)
童貞を奪うつもりの麗児。
百戦錬磨の彼でも心配してしまうほどの大きさだ。ルナルナにまたがると、どこから持ってきたのか、いつから持ってたのか、もしやライブのときにもすでに持ってたのか、ローションをたっぷり自分の中に塗りこんだ。
ずる…とルナルナのそれが中に入って行く。
根元まで入ったあたりで、突然ルナルナは手をパタパタさせて覚醒した。
「うーん…、…?…!」
「あ、起きちゃった?」
自分の体に起こった異変を感じ取ったルナルナが、顔を真っ赤にさせて、そして。
「け…、けだものーーーーーーーーー!!」
「へぶし」
ガシャアアアンと音を立てて窓ガラスがわれ、麗児はシーツに包まってどっかに吹っ飛ばされた。
「う…うわーん、女の子とが良かったー!!」
あとのまつり。



それから一週間後、ライブで少しは麗児が小さくなるかと思えば…。
「キャー!!ルナルナさまー!!麗児―、もっとルナルナ様とくっついてー!!」
「ルナルナ様と麗児はできてるのよー!!キャー!!」
そしてその後要望どおりに、歌うルナルナの背にぴったりとくっつく麗児であった。
(…ま、いいか。ちょっ、ちょっとだけ気持ちよかったし…)
こうして半童貞を男に奪われたルナルナであるが、麗児の狙いはまだまだ続く。




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 | |                | |           ∧_∧
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 作者様本人に
 | |                | |       ◇⊂    ) 見られないことを願う
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
二巻の表紙があまりにもルナルナ×麗児っぽかったのでかいて見ました。
183風と木の名無しさん:2008/01/04(金) 18:19:31 ID:lnoQs2A50
>>176
GJ!!ほんとこの2人大好きだ!
萌えをありがとうございました
184風と木の名無しさん:2008/01/04(金) 22:56:48 ID:d/mU1LeBO
>>155
出遅れた!
うおぉぉぉ!待ってたぜ姐さん!赤襦袢GJだ!!!!
続き待ってる!!!!
185風と木の名無しさん:2008/01/05(土) 01:13:13 ID:wdCR/4ln0
>>176
かあわいいいい!!!好きだ!
186薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬:2008/01/05(土) 01:26:09 ID:VreCJ95C0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 物のけ ハイパー×薬の>>54-76の続きの再会編の中編です。
                     | 親子・出産・家族の捏造設定ですので、苦手な人は御注意。
                     | ハイパー(父)×薬(母)=子供(オリ)・たいまの剣
                     | 前にも増して、ものっそ、長くなってしまったので、前・中・後と
                     | 三回に分けますが、それでも一回が長めです。 前編は>>155-166に。
                     | 前回とは趣きも違ってしまいましたが、それでもよければ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| すみません、エチーは後編にズレ込みました。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(;∀; )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
廃寺に戻り、灯りを着けると子供と薬売りは隣合って座った。
子供の母である薬売りは、やはり、どこか呆けているようで
話しかけても喋りもせず、それでいて上機嫌のようでもある。
生まれて初めて、母と、こうしてしているわけだが、
子供は嬉しいは嬉しいが、普通でない状態を前にして
どうしていいやら判らず、段々と居た堪れなくなってきた。

モノノケの気配の無い平時なら、まず、しないことであるが、
子供は助けを求めるように、退魔の剣を取り出して見つめた。

退魔は街道で、子供が薬売りを確保してから、何も言ってこない。
その前は大慌てで、按配が良くないとか、意識が曖昧とか、
普通の状態では無いとか言ってはいなかったか。
父でさえ焦っているのを感じたが、
それは単に薬売りが、裸で往来に転がっていたからなのか?
確かに、それはそれで、非常にマズい状況ではあったろうが。

子供は、盛大に溜息を着いた。

「「溜息ばかり着いていると、幸福が逃げると言うぞ」」

退魔に、いきなり話しかけられたのに驚いたこともあって、
「じゃあ、どうすればいいのさ。」と、子供はふて腐れた。
退魔は、子供の混乱と困惑もわかるので、叱りはしなかった。
薬売りの帰還に、多少の問題が起こる事は懸念してはいたが、
こんなオマケの珍事が着いてくるとは思いもしなかった。
一度は自分が滅した母との再会で、
その時のことを蒸し返すような雰囲気にならずに済んだのは良かったのかも知れない。
けれど、印象的ではあったものの、感動的な母子の再会とは
到底言い難いものになったのは、子供にとって良かったのか、悪かったのか。

退魔も、ため息がつきたくなった。
188薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 2/9:2008/01/05(土) 01:30:29 ID:VreCJ95C0
退魔が間近で薬売りを探ってみたところ、
案じていたように癒しが充分でなかったわけでは無いのが判った。

「「どうやら、こちらへ渡る、その際に急いたせいで、しくじったようだ」」
「「コレにとっても今まで居た向こうの場から、こちらへ来るのは初めてのことだったわけだし」」
「「軽い事故に遭ったようなものだ、衝撃で、一時、意識が少し飛んで曖昧になっているにすぎん」」
「「まぁ衣は全部スッ飛んだわけだが」」
「「気の方は一晩二晩すれば、元に戻るだろう」」

子供は安心して気が抜けた。それと同時に眠気が襲ってきた。
只でさえ、この二・三日、鬱々と気が病んだせいで、よく眠れていなかった。
そして今日の、この騒動だ、興奮のあとの脱力が効いた。
その様子を見て退魔は子供に、もう寝るように促した。
「でも…」子供は薬売りを見た。
自分が眠ってしまった後の、今の状態の薬売りが心配だった。
「「この寺に札を貼ってもよいぞ、儂も今晩だけは特別に人除けの結界を張ろう」」

子供は、その様にして眠った。
189薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 3/9:2008/01/05(土) 01:31:45 ID:VreCJ95C0
子供が寝入ると、薬売りも横になったが、眠ってはいなかった。
子供が札を貼り、その上に退魔がさらに結界を張って廃寺内の気が変わったことが
良い方に働いて、薬売りの意識は回復していた。
意識が戻ったばかりの時こそ、こちらに帰還してから今までの自分の有様を
記憶の中から把握して冷や汗もかいたが、それも一瞬で収まった。
そのことで苦労させた子供には悪いが、曖昧な意識の中でのことゆえ、
憶えていないということにさせてもらおうと決めた。

今は、ひたすら子供の寝顔を見つめていた、ただ、ただ、愛おしい、
自分と同じ顔なのにと思うと、不思議な気持ちにもなった。

しゃらん、と涼やかな音に薬売りはハッとする。

廃寺の場と気が、また変わった。
訪いの先触れとして、子供の貼った札が無地のまま、
見る見るうちに白から金へと変わってゆく。

胸が詰まる。

次に、薬売りの上に、蛾を模した鮮やかな袷(あわせ)が現れ、
ふわりと掛けられた。

そうして、薬売りは横なったままの背後に、男が降り立ったのを感じた。
『帯と、小袖、小物も拾ってきた』
『全く、余計な手間を掛けさせてくれる』
そう言いながらも男の声は弾んでいた。
190薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 4/9:2008/01/05(土) 01:33:00 ID:VreCJ95C0
薬売りは動かなかった。
背中を男に向けたまま、声も出さずに、そのままだった。
男がいぶかしんで傍らに膝をつき屈んで覘き込んだ。
薬売りは小刻みに震えていた。
『泣いて、いるのか』
『渡りで、体を傷めたか、まだ、どこかおかしいのか?』

返事は無い。

『…償いの行が、そんなにも辛かったか?』
男は薬売りの言葉を待った。

「…いえ…ね」
薬売りは、やっとの思いで言葉を搾り出した。
「こちらに戻ったら、御身さまに会ったら、坊に会ったら、
始めに何と言おう、何を話そうと、色々と考えていたんですが」
薬売りは、ハーッと息を吐き出して、上体だけ起こし男に向き直った。
「帰ってきて早々、とんでもない事になったんで皆、忘れちまいましたよ」

薬売りの顔は泣き笑いの綯い交ぜになっていた。
男は薬売りの目から落ちずに溜まっている涙を、赤い爪先で、そっと拭い取った。
そして爪先に移った涙を、しばしの間、見つめていた。
薬売りも、その様子を黙って見ていた。
191薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 5/9:2008/01/05(土) 01:34:23 ID:VreCJ95C0
『辛かったのか。』
言われて薬売りは下を向く。
『吐き出してしまえ、楽になる。』
「…行は…キツかったけど…辛くはありませんでした。」
『では何が。』
涙は今、抑えようもなく落ち、床を濡らし始めた。
「始めは…償いの行だってのに、どこか浮かれていたんです…よ」
「滅せられる前に、御身さまに言われたことに舞い上がって、」
「償いさえ終われば何もかも上手くいくような気になって、」
「でも償いの行が重くなっていく頃に、我に返って…不安になって」
『償いが全う出来なくなるとでも?』

男は、床の上で固く握られた薬売りの拳に、己が手をそっと重ねた。

「役目を汚して、人を弄って殺めた、
どんなに重くても、どんなに長くても、償いは全うすると決めてました、でも、」
『でも?』
「本当に待っていて頂けるのか…と」

男は重ねた手で薬売りの拳を強く握り込んだ。
薬売りは顔を上げた。その顔は歪み、涙で濡れていた。

「待つことに倦んでしまうのでは無いかとか、」
「一緒になっても心変わりしてしまうのでは無いかとか、」
「もっと、想う人が出来てしまうのでないかとか、」
「結局は飽きられて、疎まれてしまうのではないかとか、、」
「そんなこと考え始めたら止まらなくなって、」
「一度は喜んでいただけに怖くなって」
「償いが終わって、癒しが終わっても…不安が消えなくて、」
「…戻ることさえ…怖くなって…でも会いたくて」
「早く会いたくて堪らなくて…」
「会えて嬉しい…優しいのに、まだどこか怖くて」
192薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 6/9:2008/01/05(土) 01:35:40 ID:VreCJ95C0
長い間、欲しながら決して手に入るまいと諦めていたもの、
それが思いもかけずに手に入った。
その喜びのあまりに、その幸福に酔いしれるより怖ろしくなった。
この喜びは本当のことなのか、
報われない時間は長く、辛かっただけに、
もし至福のあとにそれを失うことになったら…と。

男は、薬売りの言う「とんでもないこと」に、なったことに合点がいった。
力や技量とは別の、薬売りの、この心の揺れと迷いが
異界を渡る際の障碍となり、目標のブレとなったのだろう。

男は、涙の止まらぬ薬売りの両頬を褐色の手で挟みこんだ。
その手のそれぞれの指の腹で、優しく頬を撫でさすったが、強く言う。

『お笑い種だぞ、薬売り』
『長き人の世の内に、
 数多(あまた)の形を見出し、真を見極め、理を抉り出していたお前が』
『我のことは判らぬか』
『かつては共に歩む者であったお前を解そうともせず、応えもせず、
 そんざいに扱っていたことは認めよう、』
『今は、それと違うと判らぬか』

薬売りは叱られた子供のような顔になる。

『モノノケに転じたことといい、そのような心弱りといい』
『我はそんなにも、お前にとっての毒となるか、心に痛いか』
『想いはしても、我は信ずるに足らぬ者か、』
『坊を成しても、まだ不安か、』

顔を男に固定されたまま、たたみみ掛けられる言葉に、薬売りは苦しげに喘いだ。
193薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 7/9:2008/01/05(土) 01:37:18 ID:VreCJ95C0
『その様に定まらぬ心持では、いつまた悪しき方に転ぶやも知れん、』
そのことは、薬売り自身も恐れていた。
逸らされた目で、それを察した男が今度は静かに言った。

『それとも…そうなる前に、いっそ、我と共に、絶界の果てに、去んで滅ぶか』
薬売りは驚いて視線を戻す、男と、確かと目が合った。

男は薬売りの目を射抜くような真剣さで見つめたてきた。
そして、そのまま息吹と共に言霊を放ち始めた。

『聞け、今からの言(こと)に異は許さん』

『我とお前は、常に共に在らねばならん』
『幸いを得て栄えるも、禍いに遭って呻吟するも、徒(あだ)に拠って潰えるも、必ずや共に』
『これから先、離れることは決して、無い』
『我が、お前を想い、求め、欲している』
『お前が否、と願っても是非もなし』
『我が逃がさん』

あまりの驚きに薬売りの目は大きく見開かれ、涙は止まった。

以前、拠り代を勤めていた頃の男からは、
好き嫌いの別無く、心を向けられたことは無いに等しかった。
無さ過ぎたがために、心違う者、心無き者なのだろうとも思っていたほどだ。
それが、よりによってモノノケと化した己に、想いを明かし、再会を誓ってくれた。
そのことだけでも望外の喜びであったのに。
望外過ぎて、却って不安になるほどに。
さらに今、これほどまでに強い心を向けられようとは。
194薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 8/9:2008/01/05(土) 01:38:47 ID:VreCJ95C0
薬売りは、頬に添えられた男の手をオズオズと握った。

「…聞いちまいました…よ?」
「御身さまが、そうやって言霊にして…」
「ワタシが、それを容れちまったら」
「…この縁の、誓約に…定理(じょうり)になる」
「そうしたらもう、違えることなど…できませんよ…?」

『だから、言った。』
答はすぐに返ってきた。

薬売りは自分も何か言わなくてはと思ったが
新たな涙とともに、想いが溢れ過ぎて言葉にならず、
握った男の手の平に、ただ震える唇を寄せた。
それが返しの言霊の代わりだった。

『得たり』
『我が放ち、お前が容れた言霊は、その為の命を得て上界に昇り』
『眷属の神上誓紙、冥界王の金剛帳にも記されよう』
『誓約は成った』

男は薬売りの頭を優しく抱きかかえた。
薬売りは逆らわず、男の胸に、まだ涙の乾かぬ顔を埋めた。

『縁の誓いは、耳と心に告げ、上界にも記された』

『次は互いの体に刻もう』
195薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬 9/9:2008/01/05(土) 01:39:57 ID:VreCJ95C0
今、この廃寺には、子供と退魔の剣と薬売りと男が居た。
人の世の場所としては同じ場に居ることになるが、
領域としては、それそれが別の場に居た。

まず、廃寺自体に退魔が人除けの結界を張ったので
これを解くまで廃寺は人の世では、在っても認知できない仕様になっていた。
この結界の領域には退魔が居り、子供が眠っていた。

更にその中に男の領域としての場が有り、ここに薬売りと男が居る。
薬売りと男からは、子供と退魔は認知できるが、逆は出来ない状態にあった。
最も、互いに役目をともにするにあたって魂魄の内で繋がっているところがあるため、
感知し得ないというものではなかったが、
子供は眠っており、退魔は、男と薬売りの事の次第が判っているので、
向うの仔細がどうなっているかなど、知る気は、さらさら無かったし、むしろ御免被りたかった。

なのに、そういう訳に行かないことが、すぐに知れた。
196薬売りの卵・その二・中編・ハイパー×薬:2008/01/05(土) 01:42:23 ID:VreCJ95C0
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧次は完結の後編に続きます。週末中には投下します。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )エチー寸止め、申し訳ありません。
 | |                | |       ◇⊂    ) 
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
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197風と木の名無しさん:2008/01/05(土) 01:49:35 ID:t7K/vuNa0
>>196
リアルタイム遭遇ktkr!
目頭が熱くなったよ!何百年越しのプロポーズ!。゚(゚´Д`゚)゜。
続き待ってます。
198@DAYS 《Opening》:2008/01/05(土) 02:15:50 ID:bhRYLOqj0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )○リーダムよりダンカズ。
199@DAYS 《1/14》:2008/01/05(土) 02:17:15 ID:bhRYLOqj0
別に誰とは言わないけど、俺は今まで、惚れた相手に振り回されたり、
相手の言動に一喜一憂したり、見事に相手色に染まったりする、
恋に落ちると完全に自分を操縦できなくなる奴を、心のどこかでバカにしていた。

だから、のめり込むことのないように細心の注意を払って警戒していたはずなのに、見てみろ、この様だ。
今の今まで堅実に築き上げてきた、モラルとか秩序とか常識とかの、言わば俺を形作っていた大切なものが、
身体を重ねるごとに一枚一枚剥がれ落ちていく。

どうしたらいい?どうすればやめられる?はまってしまうのが怖いんだ。
このまま行けば、いつかどこかで確実に自分自身を見失ってしまう。
そのうち、あとわずかしかない自制心もついに働かなくなって、あっという間に中毒になって、
とうとう末期になって、最後にはどっぷりと依存してしまうんだろう。



『・・・なんだよ。』
「いえ、別に・・・・・。」

ベッドに二人して寝転がり、俺に被さるように上になってキスをしていたダンの唇を
顔を逸らして避けると、ダンが動きを止めた。

『どうしたんだ、急に。』
「別に、何も。」
200@DAYS 《2/14》:2008/01/05(土) 02:18:02 ID:bhRYLOqj0
ぐいとダンの胸元を押して、身体をどかす。

『・・・・・・なんだ、機嫌悪いな。』

と、こちらを覗き込む顔は、不敵に笑っている。
・・・・・なるほど、これが大人の余裕ってやつか。

『あぁわかったぞ。さてはお前、生理中だな?もしくは妊娠したか。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

この品のなさ。

『おいっ、まさかお前ほんとに・・・!』
「そんなわけないでしょ。あんま面白くないですよ、それ。」

「ついでに言うと上手くもない。」

・・・・・・・・・・・・・・あぁ、なんてのんきな顔で笑ってるんだ。
こっちは他でもない、あんたのことで思い悩んでるっていうのに。

『じゃあ何だ?何でもいいから話してみろよ。何を言われても驚かない自信があるぞ。』

そう言いながら、腹を撫で回してくる。
って、話聞く気ないだろ!!

「もうっ、やめてくださいよ・・・!」

手を払いのけて、ダンに背を向けた。

201@DAYS 《3/14》:2008/01/05(土) 02:18:47 ID:bhRYLOqj0
『・・・なんだよ、今日は頑なに拒んでくれるなぁ。もしかしてそういうプレイスタイルか?』
「違いますって!」
『だったらなんだ?ちゃんと言えよ。』

ぴったりと寄り添って、背中から抱きしめられる。
絡まってくる腕の強さと、触れ合っている部分から伝わる体温が心地良い。
時折耳にかかる優しい息は、ギリギリで抑えている衝動に拍車をかけるから、ちょっと困る。

「ただ・・・今日は、そういう気分じゃなくて・・・。」
『・・・・・・・なんだ、そんなことか。』

そう言うと腕を緩め、

「ちょ、ちょ、ちょっと・・・!」

Tシャツの裾から手を入れてきた。脇腹の辺りから胸の方へ、するすると手が這ってくる。

「何やってんすか!」
『何が?』
「だから・・・!そんな気分じゃないんですって!」

必死でもがき、やっとの思いで体勢を変えて、ダンの方へ向き直す。

202@DAYS 《4/14》:2008/01/05(土) 02:19:36 ID:bhRYLOqj0
『お、気が変わったか?』
「あんた俺の話聞いてんのか!!」
『あぁ、この辺でな。』

と、這わせていた右手を一旦引き抜き、頭から少しだけ離れたところでヒラヒラとさせた。

「あんたって人は・・・。」
『お互い様だろ?』
「えっ・・・?」
『お前が本気で話さないから、俺も本気で聞かないんだ。』
「・・・・・・・・・・・。」

『本当は、そんな理由じゃないんだろ?』

こちらを見捉える瞳は、とても深くて、とても優しい。



「・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。」

勝手に悪態をついていたことが申し訳なくなって謝ると、ダンが穏やかに笑う。

『こっちにおいで。』

言われるままに伸ばされたダンの腕の中に入ると、静かに引き寄せられた。

203@DAYS 《5/14》:2008/01/05(土) 02:20:13 ID:bhRYLOqj0
ダンと多くの時間を過ごすようになって、だんだんとわかるようになってきた。
こうやって、まっすぐに視線を捉えてくる時は、俺の心を真剣に知りたい時。
この時にはぐらかすと本気で怒る。

他にもある。
俺の腕の中に入ってくる時は甘えたい時で、俺の唇を指先でなぞり出したらキスをしたい時。
指の腹で歯を軽くノックしてきたら指を舐めてほしい時で、イライラしている時は予告もなしに耳を噛んでくる。
首筋にやたらとキスマークを残す時は嫉妬している時。(これを隠すのがいつも大変なんだ・・・!)

それから、胴体周りや下腹部を撫で回し始めたら、今から始めるぞ、というサイン。
腹の上に出す時はあと2、3回はやろうとしてる。
そして、どうしてかは未だにわからないけど、フェラをしてほしい時には
なぜか必ず俺をベッドから放り出す。
最後に、カズマ、と名前を連呼し始めたら、いきたい時・・・・・・など、他にも色々。

俺がダンを知ってきたのと同じように、ダンも俺を知ってきているのだろう。
自分で言うのは癪だけど、ダンは俺の扱い方を既に熟知しているように思う。

「なんか、怖いんです・・・・・色々と・・・・。」
『・・・・何が怖い?』
「俺たちの関係って・・・・・・不謹慎でしょ?」

同じ職場の上司とのスキャンダル、それだけでも禁忌なのに、それに加えて非生産的で非常識で不自然。
エデン法に大きく違反してるわけじゃないけど、俺の倫理観にはひどく反してる。
204@DAYS 《6/14》:2008/01/05(土) 02:20:54 ID:bhRYLOqj0
でも・・・・・・本当は、そんな理由であんたとの関係を続けることをためらってるわけじゃない。
真意はもっと、別のところにあるんだ・・・。

『そんなの気にすんなよ。大人の知恵を身につけるのとつまんない大人になるのとは違うって言ったろ?』
「でも・・・。」
『やっと身体がなじんできたんだ。そんなくだらん理由でやめられるか、もったいない。』

ニヤニヤと笑う。冗談を言っている時の表情だ。

「もしかして・・・・・茶化してます?」
『まぁな。・・・・・・・・で、本当のところは?』
「っ・・・!」
『ごまかせるなんて思うなよ。本当はそんな理由でもないんだろ?』

「なんで・・・!?」
『お前、俺に隠しごとがあるといつも勝手に機嫌が悪くなるからな。それに、
 嘘をついてる時は息遣いが微妙に違うんだ。』

と、目尻に優しくキスをする。

「・・・・・・・・・・・。」

あぁ、だめだ。何もかも読まれてる。
205@DAYS 《7/14》:2008/01/05(土) 02:22:23 ID:bhRYLOqj0
「ほんとは・・・本当は・・・・・、自分自身を見失ってしまいそうで怖いんだ・・・。」
『見失う?』
「・・・・・あんたのためなら、何だってやってしまう自分が怖い。」

そう、自分の何もかもにダンが大きく影響してる。
ダンが喜ぶから、いつも良い評価をもらえるように頑張った。
ダンの面を汚さないためなら、どんなに非情な任務にだって耐えてみせた。
嫌いだった食べものも、ダンが好んで食べていたから好きになったし、アルコールの嗜好も変わった。
どんなに眠たくたって、夜に来る、と言われれば、何時間でも待った。

良い子だ、と頭を撫でてもらえるのが嬉しいから、
部屋を片付けてやったり、洗濯物をたたんでやったり、背中を流してやったり、
ダンのやらないこと、やりたがらないことを代わりに全部やるし、

恥ずかしくてとても言えないようなことも、できないようなことも、ダンが望むなら何でもしてみせる。
ダンの上で、下で、腕の中で、快楽に堕ちていくことが抗えないほど気持ちよくて、
行為に没頭すればするほど、溺れれば溺れるほど、ダンが満足するからだ。


・・・・・・・・・・・・もうこれ以上先ってないんじゃないか?そのうち、殺してくれ、とでも言い出しそうな勢いだ。
犯してくれ、となら、既に2、3回は言ってしまったのかもしれない。

重症だな・・・・・っていうか、もう末期なんだろう。
206@DAYS 《8/14》:2008/01/05(土) 02:23:05 ID:bhRYLOqj0
「堕ちていくのが、怖い。」

静かな部屋に、自分の声だけが響いた。




『・・・・・・・・・・・・・つまり、俺に心底惚れてるってことだな?』
「なっ・・・!ちがっ・・・!」
『違わないさ。』

逃げるように身体を後ずさりさせると、ダンは、俺を抱き締めていた左腕に
さらに力を入れてそれを阻止し、右手でやんわりと腹をさすり出した。

『安心しろよ、カズマ。』

こちらの目をまっすぐに捉えてくる。
そのうち、見つめ続けられることに恥ずかしくなって、なんともいえない間に耐え切れず
思わず目を瞑ると、ダンは頬を寄せ、俺の耳元で続けた。

『俺も一緒だ。』
「んっ・・・。」

耳に間断なくかかる、熱くて少しだけ荒い息と、上っ腹を撫で回すゴツゴツとした指の感触は、
ギリギリのギリギリで抑えている衝動に拍車をかけまくるから、本当に困る。
207@DAYS 《9/14》:2008/01/05(土) 02:23:52 ID:bhRYLOqj0
『堕ちる時は二人一緒だ。だから、何も心配しなくていい。』

カズマ、カズマ、と、耳元で名前を連呼し始める。
・・・・・・・なんだ?なんで?まだ何もしていないのに、もういきそうなのか?
それはともかくこの感じ、どこかで・・・・・・・。

「っ・・・!あっ・・・・ぁあっ・・・!」

しまった!間違えた!間違えてた!!

「ダンっ・・・ちょっ・・・!ちょっと待って・・・!」
『カズマ・・・・・カズマ・・・・・。』

下腹とへその間をゆっくりと、少し強めにさすりながら、撫で上げる時に合わせて名前を呼ぶ。

「はぁっ・・・ぁ・・・。」

この感じ、奥深くをゆっくりと突き上げる、あの時のリズムと同じなんだ!

「ダンっ・・・!ダ・・・ン・・・・・。」

あぁ、だめだ。もう条件反射になってる。身体が覚え込んでいて、自然とそう反応してしまうんだ。
名前を呼ぶダンの声と、その間隔と、腹を撫でる行為が、
ダンと繋がっている時の、中を擦られるあの感覚を思い起こさせ、
頭と身体が吐精を促し始める。
208@DAYS 《10/14》:2008/01/05(土) 02:24:39 ID:bhRYLOqj0
名前を連呼し始めたら、いきたい時じゃなくて、いかせたい時だったのか。
ダン・・・・・ほんとにあんたって人は・・・・・・・。

俺は、あんたのことならもうなんだってわかるのだと、少しいい気になっていた。
でもそれは大間違いだった。ダンはおそらく、そうなるように仕向けていたんだ。
一見、あたかもそれが自分の自然の反応なのだと振る舞いながら、
実は毎回毎回意図的に同じ行動を取り、同じ反応をし、同じ言葉を言うことで、
俺が反射的にある一定のリアクションを取るようになるまで、俺に覚られないように
巧妙に、着々と俺をブリーディングしていたんだ。

・・・・・・・・・・いや、でもこの男がそんな手の込んだことをするか?いつだって直球勝負じゃないか。
俺と違って、思ったことは正直にオープンに、言葉と動作と必要とあらば(強引ではあるが)
身体も使って、なんでも正面切ってコミュニケーションしてくる男だ。
そんな男がこんな遠まわしなこと・・・・。

まぁ、それが真実だとしても仮定だとしてもどちらでも構わない・・・というか、
気付いたところで今さらもう遅い。
入れられてもなければ、局部に触れられてさえいないのに、名前を連呼されるだけで
オーガズムに達する前兆のあの感覚を反射的に思い起こし、
それだけで身体中が熱くなって、腰は疼き、指先にはジリ、と電流が走ってる。
腹の底から這い上がってくる快楽が全身に広がり、思考がまとまらなくなってくる。

「はぁっ、はっ・・・っ・・・!」

こちらの息が荒くなり、声が止まらなくなると、
腹を往復させているダンの手の動きが速くなって、名前を呼ぶ間隔が短くなって、

「ダン!やめてくれ!!ダン!!」
209@DAYS 《11/14》:2008/01/05(土) 02:25:19 ID:bhRYLOqj0
お願いだから、これ以上堕とさないで。

「ダンっ・・・!」
『カズマ、カズマ・・・・・・・・・愛してる。』

それが絶頂のトリガーとなって、

「あぁぁあああっ・・・!」

着衣のままだったが、たまらず吐き出した。ダンの腕の中で、全身がビクビクと波打つ。
それから少しの後、呼吸が整う頃に身体中を這っていた快楽の余韻も全て引き、
ゆっくりと身体の力を抜くと、ダンが意気揚々と話し始めた。

『だいたいお前はつまらないことにこだわりすぎるんだ。
 やれ常識だの世間体だの男のプライドだの、なんだかんだ抜かして、
 大して守るほどの価値もねぇ自分のちっぽけなイメージを守るのに必死になりやがって。』

・・・・・・・・・ちょっと、何気にひどいこと言ってないか・・・。

『俺と一緒にいる時くらいそんなもん手放しちまえ。そうすりゃずっと自由だ。
 真面目なのもいいが少しは肩の力抜けよ。』
「抜きすぎなんだよあんた・・・!」

『だから最高に気持ちいいぜ。お前をよくすることだけに没頭できるからな。』

不敵に笑いながら、こちらのシャツを脱がしにかかる。
210@DAYS 《12/14》:2008/01/05(土) 02:26:01 ID:bhRYLOqj0
「ダン・・・。」
『もっと腹の奥に感じたいだろ?俺を。』

・・・・・・・・・・あぁ、脆いプライドと自制心がまた一枚、ゆっくりと剥がれ落ちていく。

『さっきの1回で充分だとは言わせんぞ、健康優良不良少年。』
「・・・・・・・・・・・・・足腰立たねぇようにしてやるからな。」
『お、珍しく好戦的じゃないか。』
「明日身体中が悲鳴を上げたって知らないからな!なんの世話もしてやらねぇ!」
『その言葉そっくりそのままお前に返してやる。なんなら利息をつけてやってもいいぞ。』

お互いに服を脱がしながら、身体一つになって、視線を、胸を、掌を、重ね合う。

「今日は賭けましょうか、先にいった方が相手の言うことを何でも聞くってのはどうです?」
『いいぜ、乗った!一つだけか?それとも・・・。』
「ずっと。」
『ずっと!?』
「そう、一生この先ずーっと。相手の言うことを何でも聞く。」
『お前・・・・・、絶対に後悔するぞ。』

ダンが俺の上に乗ったまま、鼻先が触れ合うほどの距離で、
こちらの目を右、左と見てニヤニヤと笑っている。

「やってみないとわかんないでしょ。」
『前言撤回はなしだからな!それだけは約束しろ!』
「その言葉そっくりそのままあんたに返してやる!なんなら利息をつけたっていい!」

そう言っていきなりキスをしてやると、それを口火に始まった。
211@DAYS 《13/14》:2008/01/05(土) 02:26:40 ID:bhRYLOqj0
それから後のことはよく覚えていない。ただ、薄くなっていく意識の中で、

『カズマ、カズマ・・・・・。』

と、名前を呼ばれたことだけは覚えている。





いつの間にか眠りに落ち、目が覚めるとダンが笑っていた。

『お前、絶対に後悔するぞ。』

シーツの中、俺を腕に入れたままゆっくりと、いつもより少しだけ優しい声で話す。
行為の後は、いつもそう。

「・・・・・・・・・・・・・俺、負けた?」
『・・・・・・・お前なぁ。何も覚えてません、とかなしだからな。』
「・・・ちょっとは覚えてますよ。」
『ククク・・・まぁいいさ。・・・・・・・・・・で、ほんとのところはどうなんだ?』
「・・・な、何が?」

『俺のこと、好きなんだろ?』

それも覚えてないのかと、俺の目を見てニヤニヤと笑っている。
212@DAYS 《14/14》:2008/01/05(土) 02:28:09 ID:bhRYLOqj0
・・・・・・・ったく、ほんとに意地悪だな。俺の反応見て楽しんでるんだからかなり悪質だ。
ところで本当にそんなこと言ったのか?誘導尋問のような気がしてならない。
まぁ、どっちにしたって答は同じなんだけど、でも、あんたの望むままに正直になるのは悔しいから、
・・・・・・・・・・悔しいけど、でも、でもさ、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大好きです。」


本当に本当に好きだから、やっぱ嘘はつきたくない。
こっちの目をまっすぐに見捉えてくる時は、俺の心を真剣に知りたい時、そうだろ?

ダンは一瞬驚いたような表情をし、すぐ後に穏やかに笑って、
右手をうなじの辺りにそっと置いて、俺の顔を引き寄せると、

『勝負は引き分けだった。』

と、キスをした。



俺は今まで、惚れた相手に振り回されたり、
相手の言動に一喜一憂したり、見事に相手色に染まったりする、
恋に落ちると完全に自分を操縦できなくなる奴を、心のどこかでバカにしていた。

今は、バカにはできなかった。
213@DAYS 《Ending》:2008/01/05(土) 02:29:21 ID:bhRYLOqj0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )おしまい。長々とすみません。
214風と木の名無しさん:2008/01/05(土) 04:26:49 ID:m8nPBuLAO
>>196
GJ待ってた!全裸で正座して続き待ってる!

つうか姐さんもうサイト作っちまいなよ!
215風と木の名無しさん:2008/01/05(土) 08:22:59 ID:yzIMR9180
>>196
うわああああ姐さん大好きだ!GJ!
216風と木の名無しさん:2008/01/05(土) 09:55:30 ID:vL/vYAkg0
>>196
全儂が泣いた…GJ
217風と木の名無しさん:2008/01/05(土) 10:09:53 ID:L2IBl9HCO
>213
テラモエスGJ!!
カズマかわいいよカズマ
          _________
       |┌───────┐|
       |│l> play.      │|
       |│              |│
       |│              |│
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       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
   ∧∧
   (  ,,゚) ピッ   ∧_∧   ∧_∧
   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |            ┌‐^──────────────
  └──────│後々に拷問表現もあるので今から警告しとくです
                └───────────────

 日差しがつよく、独自の民族性のあるイカルス島にある火山地帯周辺には、とても強く攻撃性の高いモンスターが大量にいる。
 そのため、恐いもの知らずの冒険者たちはイカルス周辺でパーティを組んで戦っている。
 アイル、ジーク、ロアの三人は、その火山にきていた。
聖職者の補助は無くても、三人の技量ならば長くはいられないものの、かなり危険というわけではない場所。
 敵が強ければ強いほど、手ごたえがあり、血に飢えた冒険者にとっては最適な場所だった。
「お疲れさん!」
敵を蹴散らし、ここの最大の敵ともいえる、やたら頭が大きい恐竜の姿に、得体の知れない肉を持った、それでいて知能があるのか、腰みのを巻いている…やけに可愛い姿の、ティラノを倒し終わった三人は、お互いにねぎらいの言葉を掛け合った。
「大丈夫か、アイル」
「大丈夫です。自分で傷は、少しは癒せますよ」
ティラノは口から吐いたガスが外気に触れると炎となる。その炎の塊をとばす攻撃が得意だ。
アイルがそれをもろに受け、丈夫な鎧と盾で受け止め切れなかった、手の部分を火傷していた。
 彼は自分の傷を癒すことの出来る魔法、セルフヒールで所々の傷を癒していた。
 暖かい光に包まれ、体の傷はゆっくりと、徐々に治癒して行っている。
が、手の火傷を癒すには、少々時間がかかる様子だった。
「アイル、火傷してるぞ」
 避けるのが得意な盗賊だって、炎を食らえば辛いもの。
ロアは、体力を削られ、水溜り付近の草地の木の下で休んでいるアイルの代わりに、手に薬を塗ってやった。
「ロア…ありがとう」
 実際はたいした火傷ではなかったのだが。
それでも、自分を心配してくれる親友の心遣いが、とても嬉しく感じる。
 ジークは仲の良い弟子二人を見て、くすりと笑うと、視線を別の場所へうつした。
あたりを一瞥した後、ふと、視線を後ろのほうへうつす。
 背後に茂る木々の間、三人の冒険者がモンスターと戦っている姿が見えた。
一人は魔術師、一人は修道士、そしてもう一人は…
「!!」
 シルバーウルフキャップ、赤い鞭、そして、ぼんやりと光る最高位盗賊服。
その顔にも間違いは無かった。
スコルピオの、ディースだ。
「やばい、逃げろ!」
 その瞬間、ジークは思わず二人に向かって叫んでいた。
しまった、と思った。
 下手をすれば聞こえているかもしれない。
だがそれよりも、まず弟子たちを逃がすのが先だった。
「師匠?」
アイルが不思議そうに師匠を見やる。
ロアは、ジークの目線の先にスコルピオがいることを確認して、アイルの手を引いた。
「バカッ、スコルピオだ!」
 だが、ロアとジークの声で、スコルピオの人間はこちらに気づいたようだった。
 それまで戦っていた敵を切り捨てると、ディースがにやりと笑ったのが見えた。
猛スピードでディースが『獲物』に向かって走ってくる。
 それにあわせ、側にいた魔術師も標的を変え、詠唱を始めた。
アイル周辺の空気の密度が変わる。
「アイル、ロア、にげろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
アイルの手を引いていたロアにも、それがよくわかった。
 反射的に、ロアは体を引いていた。
「クロスモノボルト」
魔術師の詠唱が終わる。
一瞬、激しくきらめいたかと思うと、アイルの体にすさまじい電撃が走った。
その衝撃がロアにも伝わった。
それは見て取れるほどのものである。
 青く光る稲妻が、天に昇る竜のように絡みつく。
体中を、鋭い刃で切りつけられるかのような激痛に、アイルは叫ぶことすら出来なかった。
「ぐっ、ああああああああっ…!」
とっさに体を離したとはいえ、間近にいたロアも同じような衝撃を味わった。だが、魔法防御に優れた装備のおかげで、アイルほどの激痛は無い。
体力的にもロアのほうが上回っている。彼は崩れ落ちそうになるのをこらえ、その場に立っているのがやっとだった。
 一方アイルは、ほんの一瞬の出来事だったが、彼は体力をかなり削られていた。
電撃が止むのと同時に、彼はその場に崩れ落ちる。
鎧と柔らかい皮膚を切り裂き、血がうっすらと出てくる。
同時に、焦げ臭い匂いも漂った。
「…アイル、ロア…!」
ジークが何とか体勢を立て直したときには、驚くほどの速さで駆けて来たディースが目の前にいた。
剣にも劣らない、鋭い衝撃を放つ鞭を、ジークに浴びせる。
が、ジークは反射的にその一撃を盾で受け止めた。その衝撃は、盾を通じて感じることが出来た。
「ちっ」
 ディースは軽く舌打ちすると、更にもう一度、鞭を打ちつけようと振り上げた。
不意を突かれたジークには、次は受け止められる自信は無かった。
ヒュッと、風を切る鞭の音が耳をかすめた。
 だが、突然の爆音と同時に、ディースが苦しみだした。
攻撃を繰り出そうとしていた腕はふいうちによって鞭を落とし、代わりに目を覆った。
「……っ!!」
ディースの周りには煙が巻き、それが彼の視野を遮断していた。
と同時に、刺激性のあるものも巻かれている。
ジョーカーポーク(煙爆弾)とペパーボム(トウガラシ爆弾)が、ディースに命中したのだ。
「ジーク…逃げるぞッ!!」
ロアだった。
ディースが隙を見せたと同時に、仲間の魔術師と修道士も一瞬の隙を見せた。
 ロアが、少しよろめきながら、その隙を突いてその二人にもジョーカーポークを浴びせていた。
「だが、アイルが…!」
アイルは、先ほどの一撃で完全に気を失っていた。
 ティラノとのやりあいで怪我していた上に、クロスモノボルトの一撃は、体力の無い彼にとって耐えられないものだったのだ。
「アイル…」
ロアは、彼の元に駆け寄ろうとした。
が、その瞬間、何も無いはずの空間から、ディースに向かって、聖職者専用の暗視解除魔法、ホーリービジョンが唱えられるのを見た。
まだ、いる。
奇襲攻撃を受け、アイルが倒れ、聖職者すらいないこのパーティで、スコルピオの連中とやりあうのは自殺行為だった。
「すまん、アイル…!」
二人は呟くと、きびすを返し、全速力で逃げ出した。

「…ちっ、逃げられたか」
 逃げる二人を追うことはせず、ディースは呟いた。
自分のすぐ後ろに転がるアイルを見やると、足で軽く踏んだ。
アイルの体中についた小さな傷から血が出て、青い鎧を黒く染めていた。
「ネイヴィー、こいつ生きてるか?」
ディースは、何も無い空間に向き直り、問いかけた。
そしてその何も無い空間から、返事は帰ってくる。
最高位盗賊の中でもまれなものにしか使いこなせない、カムフラジュ(他人の姿を消す)の魔法である。
「生きてるわ」
その言葉と同時に、魔法がきれたのだろう。
 やわらかく長い茶髪の、白い高位服を着た女性聖職者が姿を現した。とても優しそうな顔立ち、笑いぼくろが特徴の、美しい女性。
彼女はアイルの側まで歩み寄ると、警戒をしながら、彼の脈を取った。
「そうね、生きてるけど、ちょっと危ないかな?殺したほうがいいの?」
「いや、生かしとけ。体力はなさそうだが、少しは使えるだろ」
ディースは無表情に告げた。
 その答えに、聖職者…ネイヴィーは表情を明るくした。
 彼女は、傷をほんの少しだけ癒す魔法、ヒールをアイルに唱えると、ぱんぱん、とちいさく手を叩いた。
「まあ!それなら…、シナモン、シナモン!さっき渡した薬を頂戴」
 ネイヴィーは、アイルにクロスモノボルトを放った魔術師に声をかけた。
シナモンと呼ばれたその魔術師は、ピンク色の高位服をきている。長い髪の毛を頭の上のほうで二つに結び、その上からレドギア帽子をかぶっていた。
 まるで十台半ばの子供のような顔立ち。もしかしたら本当に子供なのかもしれない。
彼女は、腰に下げていた薬草袋から、怪しげな白い粉の入った袋を取り出した。
「あいっ」
「なんだ?生かすならばヒールだけで良いじゃないか」
シナモンの隣にいた最高位服の、まぶしい金色の逆毛の修道士が口を挟む。
 ずいぶんがたいの良い体をしている。今までどれだけ修羅場を潜り抜けたかは、体と、そしてその顔に残る傷が物語っていた。
「ヒールだとね、気がついてしまうかもしれないの。そうなったらちょっと困るでしょ?だから、私が特別に調合した薬で、眠らせておくのよ。この薬はとても弱いから…」
 彼女はその粉薬をわずかな量の水を手持ちの容器にうつし、溶かす。
そしてそれを、アイルが吐き出さないように少しずつ飲ませた。
いわゆる睡眠薬。聖職者は独自の知識と材料によって、薬を作り出すことが出来るのだった。
「ジン、こいつ持って帰ろうぜ」
ディースは修道士に向かって告げる。
顎でアイルを示す。
つまり、ジンに、アイルを持ち上げるように指図しているのだ。
「ああ…わかったよ。…ったく。それがマスターに対する態度か」
ジンはしぶしぶと、アイルを肩にぶら下げるようにして軽々と持ち上げた。
ディースは、意識を手放したままのアイルをまじまじと見つめる。
「ディース?どうした」
 ジンの言葉に、ジンを見ることもせず、アイルを見つめ、笑みを浮かべたまま呟いた。
「…こいつ…どんな表情するだろうな…」
「?…早く行くぞ」
そのまま彼らはどこかへ消えてしまった。

「薬、そろそろ切れるころかな」
「死んでないだろうな」
「大丈夫よ…息はしてるわ。なんだったら気付け薬もあるけど?」
 コツコツ、と音が響いた。
それは誰かが待ちくたびれて靴の先で硬い地面をたたいている音だった。
男と女が話をしているのはぼんやりとした頭でもわかるが、その音の響き方から、ここは閉鎖された空間で、あまり広くは無い空間だということがわかる。
 背には冷たい、硬い石の感触。
そして手には…
途端、ばしゃん!と言う音同時に、頭から冷たい水が浴びせられた。
心臓が止まるかと思ったが、その衝撃でようやく目が覚めた。
「!…けふっ、ごふっ、ごほっ」
手で水を払いのけようかと思ったが、なにかにひっかかるような感触とともに、がしゃん!と音が響いた。
 手首には、鉄の輪がはめられていた。
不思議に思い、顔を上げると、目の前にはあの男の顔があった。
「…お前は…」
ディースだ。
「ずいぶんゆっくり寝てたな」
ディースはいやらしくにやりと笑う。
手には、先ほどまで水が入っていたであろう桶と、そして腰には鞭をぶら下げている。
 なぜ、自分はここにいるのだろうと思った。
なぜ、この男が目の前にいるのだろう。
そしてこの部屋は?なぜここはいてつくように寒く、血なまぐさい。
なぜ…
「手枷をされているの…?」
アイルは自分のおかれた状況が飲み込めていなかった。
壁につながる自分の手枷。
 頑丈な鉄で作られた鎖が、自分を壁とつないでいる。
大きく両腕を開かれた形になって、壁につるされている自分。
そして両足首にも、同じようなものがついていた。
 体の自由は完全に奪われていた。
「お前は、リンドブルムの人間だな?」
ディースの真っ赤な瞳に捕らえられて、アイルはその迫力に固まってしまう。
「そ…そうだ」
震える声で、答えるのが精一杯だった。
「あの時いた戦士は、ギルドマスターだな。逃がしたのは惜しかったな」
「!」
そこでようやく、ぼんやりと霞がかった頭がはっきりとしてきた。
 そうだ、直前まで、この男に奇襲を食らったのだ!
「はっ…!」
 そしてディースの背後には、二人の女性がいた。
一人は茶髪のおとなしそうな聖職者、そしてもう一人は、ツインテールの小さな魔術師。
その聖職者のほうは、穏やかな表情で、布をかぶせた盆のようなものを持っていた。
魔術師も、同じように布をかぶせた盆を抱えている。そして、その聖職者の側にぴったりとくっついている。
そのツインテールの魔術師こそ、自分にクロスモノボルトを浴びせた人間だった。
「お前はっ!よくも、よくも俺を!!」
 その魔術師、シナモンに向かって、彼は噛み付くように言葉を浴びせる。
だが両腕両足を捕らえられてるせいで、鉄と鉄、そして石壁がぶつかり合う激しい音が響き、彼の行動は遮られた。
魔術師はきょとんとした表情で、アイルを見つめている。
「貴様!!俺をどうするつもりだ!!」
アイルは、ディースを激しくにらみつける。
先ほどのぼんやりとした様子からは想像つかないほど、激しい嫌悪の表情を浮かべていた。
「ははははははは!!お前は、自分がそんな状態でよくもそんなことを」
ディースは高く笑った。
 部屋の中は、広いわけではなかった。
だが、壁にかけられている器具、そして床に直に置かれている物の数々は、どれも血がこびりついている。ディースのすぐ横にも、小さな棚が置かれてあり、そこには異様な薬や器具が置かれている。
 実際、アイルが背にしている壁も、血の跡が所々についていた。
ここは、拷問部屋なのだ。
「ねえ、ディース。シナモンも、参加していい?」
小柄な魔術師は、小首をかしげ、嬉しそうな表情で、くい、と、ディースの袖を引っ張った。
「駄目よ、シナモン」
 それをさえぎったのは、聖職者のネイヴィーだった。
シナモンの両肩に手を置いて、顔を覗き込むように優しく言い聞かせる。
「だぁめ、こんな事をあなたはまだ、してはいけないわ。ディースに任せましょう」
 シナモンは不服そうだったが、仕方なくネイヴィーの側で座り込んだ。
「さ、て…」
ディースは、腰にぶら下げていた、愛用の鞭を手に持った。
 鞭は乾いた音を立て、石畳を叩く。
まだ頭がぼんやりとしている彼には、その音はかなり耳についた。
これから始まることの予感に、びくりと体が震える。
 それでも強気を装うが、かすかに肩は震えていた。
「答えてもらおうかな」
「な…、何をだ」
ディースは、ふっと笑った。
「リンドブルムについてのことを洗いざらい」
持っていた桶を投げ捨てると、それは甲高い音を立てて石壁にぶつかった後、カラカラと床に転がった。
シナモンは少々驚いて目を丸くしたが、すぐに無邪気な笑顔を浮かべている。
 ネイヴィーは、その音にも動じず、ディースの行動を見守っていた。
「お前たちの心臓部。お前たちの考え。お前たちの弱点、お前たちの、」
拳が、アイルの顔のすぐ横の壁に打ち付けられた。
「お前たちの…ギルドの最大戦力」
すぐ目の前には、ディースの顔があった。
まるで死神のような邪悪な笑みを浮かべる男。
 アイルは、その笑みに恐怖を覚え始めていた。
「言うものか、お前なんぞに!」
「へ…え、言う気はない?」
「あ…たりまえだ!」
「なるほど。ならば仕方が無いな。シナモン、ナイフを」
「やりすぎちゃ、駄目よ」
 ネイヴィーの戒めに、分かってるさ、と、ディースは呟いて軽くうなずいた。
シナモンは盆の布を取り、小さなナイフを彼に手渡した。
 そのナイフは盗賊が武器として使うものではなく、護身用に使ったり、動物の肉を剥ぎ取ったりするような、小型のナイフである。
 彼は、その小型ナイフを鞘から取り出すと、鞭は棚に置き、ナイフをくるりと空中に投げ、キャッチした。それを繰り返しながら、アイルの服装を眺めた。
「…」
 アイルは、ただ黙ってみていることしか出来なかった。
これから何をされるかは、分かっている。
 ただ具体的に何をされるのか、そしてこの男が今から何をしようとしているのか。
不安げな表情をちらりとみせたアイルに、ディースはなんともたとえがたい、体の心がぞくぞくとするような感情が芽生えていた。
 彼の手がアイルの胸元につかみかかる。
「!」
その行動に驚き、身をよじって逃れようとするが、それは鉄の鎖によって邪魔をされ、むなしくガチャガチャと音が響くだけであった。
アイルの青く硬い生地の鎧をつかみ、更にその下のハイネックの厚手のシャツが顔を見せる。
しっかりと腰で鎧を固定しているベルトを切ると、乱暴にその鎧を剥ぎ取った。
 両腕に通された袖のみで支えられ、もはや体を守る役割を果たさなくなったその鎧から手を離すと、今度は、黒いハイネックに手を伸ばす。
「やめろっ…」
弱弱しく、アイルは抵抗した。
もはや、それは抵抗ではなく、懇願しているようにしか聞こえない。
 ディースはその言葉を無視し、ナイフをくるりと回す。
軽く、彼の胸元にナイフを滑らせる。
 その様子を、ネイヴィーは黙ってみていた。
アイルは、ナイフから体を遠ざけようとするが、それは出来なかった。真後ろには石壁であり、そして、服一枚隔てた肌に極めて近いところに刃がある状態では、下手に動けば自分から傷をつけてしまうのは明確であったからである。
 一瞬、ディースは彼の表情をうかがった。
困惑、そしてわずかに見せる恐怖の表情。
彼は、薄く笑みを浮かべた。
 そして、ナイフをそのまま上へと滑らせた。
ピッ、と、それは綺麗に布を切った。
          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  )
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                |
  └────────────────┘
拷問はわざと甘いのにしているので期待しないように・・・
228風と木の名無しさん:2008/01/05(土) 14:20:45 ID:AW+NrRvi0
>>213
遠投スマソ
構成も文章も上手いし、何より禿萌えたよ!
229薬売りの卵・その二・完結編・ハイパー×薬:2008/01/06(日) 02:35:47 ID:x3Vd7JA/0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 物のけ ハイパー×薬の>>54-76の続きの再会編の後編・完結です。
                     | 親子・出産・家族の捏造設定ですので、苦手な人は御注意。
                     | ハイパー(父)×薬(母)=子供(オリ)・たいまの剣
                     | 前にも増して、ものっそ、長くなってしまったので、前・中・後と
                     | 三回に分けますが、それでも一回が長めです。 中編は>>186-196に。
                     | 前回とは趣きも違ってしまいましたが、それでもよければ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ひっぱった割りにはぬるいエチーですみません。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(;∀; )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
230薬売りの卵・その二・完結編・ハイパー×薬 1/8:2008/01/06(日) 02:38:07 ID:x3Vd7JA/0
男も薬売りも、他者と肌を合わせることが、これまで無かった訳では、もちろんない。
男は主に同属との単なる戯れで、
薬売りは、孤独の憂さを晴らすため、人の世を円滑に渡るための術として、数は重ねた。
だが、共に、想い合う相手とは初めてだった。

男の青い舌が、薬売りのを目の周りを這い始めた、そして鼻梁へと移る。
青の通った跡に、かつての紅色が刷かれてゆく。
青はそのまま唇におり、なぞる。
唇が、小さな吐息とともに開かれると、入り込み、内をさぐり、
犬歯を撫で、己とは違う血色の舌を捕え、からめ、吸う。
そうやって口内を存分に味わうと、
次に、既に頭の芯がしびれ始めたらしい薬売りの耳を同じく唇と舌でなぶり、
甘やかな息とともに反り返って晒された白い首筋に移った。
反って倒された頭の後ろに手をやり、その髪をすきつつ支えると、
空いている手で薬売りの肩から、赤襦袢を落として、敷物の代わりにし、
その上に薬売りを組み伏せて、覆いかぶさった。
男の青色の舌と唇は、今ここで全てを貪り尽くさねば気が済まぬとばかりに
移動しながら、段々と激しさを増し、薬売りの体を攻め立てた。
それが胸に下りる頃には、男によって、かもされる感覚が、
薬売りの体中に広がり、喘ぎは、口を閉じる間もないほどになっていた。
薬売りは、男の頭を、肩を、背中に、必死にしがみつき、足を絡めた。
この、与えられる悦楽の凄まじさは、どういうことだ、
男が上位の者だからなのか、焦がれてやまない相手だからなのか、
これ以上のことをされたら、自分は死んでしまうのでは無いかと、さえ思った。

そんな薬売りの幸福な惧れにおののいていると、
男は、薬売りの中心を手の中に、おさめて愛おしむ。
既に男によって触れられるまでもなく、充分に高ぶったそれは、簡単にはじけた。

半分、気を飛ばし、脱力して荒い息をする薬売りに
己が印を打ち込むべく、男が身を進めると、気も引き戻され、
さすがに痛みに呻いたが、それで動きを止めようとした男を薬売りは先に促した。
今、男から与えられるものなら、快楽だけでなく、
苦痛であっても何ひとつ逃したくはないと薬売りは望んだ。

白と暮色、青と赤、交じり合うことの無いはずのない色彩が、
それでもひとつになろうと絡み、まさぐり、打ちつけあった。

下に敷かれた赤だけが体の交感の徴に染められて行き、
想いの交感の気は、領域の向こう、眠る子供に流れていった。
朝の光の眩しさに子供は目覚めた。良く眠れたらしくスッキリしていた。
が、何やらいつもと違う感覚がして、それが何かを知ろうとムクッと起き上がった。
目に入ったのは、いつも布団代わりに掛けている自分の袷(あわせ)、
これに始めの異変を見る。
昨日まで鮮やかだった蛾の文様が、随分と色薄くなっていた、驚いた。
まさかと思って、慌てて鏡を手に取り、覗く。やはり。
昨日までクッキリとした茜色だった顔の隈取、こちらも薄い桃色になっていた。
何とか落ち着いて考えて事を整理しようとするが、混乱して収まらない、
父に聞こうと、いつもするように気を内に溜めて澄ます。
すると、こちらの感覚もいつもと違うことに気が付いた。
父の気は感じるが、昨日までと違う、
袷や隈取の色のように薄くなったわけでは無いが違っている。
益々訳が判らなくなって子供は泣きたくなった。

「おや…起きていた」
声のする方を向くと、光を背に戸口に立って居たのは、
昨日までの自分の袷の色より濃い袷を羽織り、
昨日までの自分のより濃い紅色の隈取を顔に刷いていた、薬売りだった。
急に夕べの記憶が甦った。
自分がここに連れ帰った時とは別人のようだ。
この異変の原因が、薬売りだと直感した子供は
自分に向けられた晴れ晴れとした笑顔と、元通りになったらしい様を見て、
嬉しいやら腹立たしいやらの複雑な気分になった。
何と言っていいのかも判らず、返事も挨拶もせずに押し黙っていると
薬売りは隣に座って、その為に外へ出て調達してきたのであろう、
食べ物と水を差し出してきた。
子供は、それを受け取らず「…どうして?…」とだけ呟いた。
片手に袷、もう一方の手に鏡を握り締めたまま俯いてしまった子供に、
何を問うているのか察した薬売りは、話し始めた。
「夕べ…坊が眠った後に、父様と会ってね…これからのことを色々決めた。」
「父様は…封印解放の拠り代は…これから先、生涯ワタシだけだとおっしゃった。」
「そんなっ!」子供は泣きそうな顔をして叫んだ。
「そんなら俺はどうなるの!もう…俺はいらないの?」
とうとう泣き出してしまった子供の頭を優しく撫で慰めながら薬売りは続けた。
「まさか…そんなことあるはずないさ」
「大事な…大事な坊」
「夕べね…父様とワタシの縁を探って…明かして…誓って…確かめたんだ」
「それで…父様の拠り代はワタシに定まっちまったけど」
「坊が居てれたからこそ…そう出来た。坊が縁の何よりの証しなんだ」

子供は、まだ納得できずに、ぐずる。
「でも、やっぱり、モノノケ斬るのに俺がいらなくなったんじゃないか」
拠り代としての力はともかく、
実年齢としても、まだ大人で無い、経験不足な子供には
形・真・理を掴むことは、今だ容易なことではなく不首尾に終わることもあるのは確かだが、
一生懸命に努めてきたお役目を、こんなにイキナリ、何の前触れも無く
一方的に取り上げられるなんて納得のいくはずも無かった。

薬売りは子供を撫で、涙を拭りながら続ける。
「手伝っておくれ」
「坊が大きくなって、坊に…新しい縁が見つかるまで」
聞きなれない言葉を耳にして、それに興味が引かれたせいか、やっと子供の涙が止まりかける。
「新しい縁?」

薬売りは、どっちにしろ子は、
いずれは親から離れて巣立っていかねばならないものだから、
…などとは今は言わずに、今の事態から推量できることだけを話す。
「坊の…拠り代の印は薄くはなったが消え去っては、いないだろう?」
「ワタシに…父様が居るように、坊にもそんな縁があるってことだよ」
「坊にとっての御身様が現れたら…また印が戻る。
あるいは坊は父様の子だから…坊がいつかは父様の様になるのかも知れない」
何の先も見えず、ただモノノケ斬りの旅をしていた、かつての薬売りとは違って、
今までの子供には、時々に先の標(しるべ)とするものが有った。
まずは父の拠り代としての力をつける事で有り、
次に父と、その力を以って、モノノケと化した母を滅することで有り、
それを成した後は、その母が本性を取り戻して帰ってくるのを待つことだった。

それは今、叶った。
それで薬売りと一緒に旅が出来るようになるだろうと、
ただ楽しみにしていただけで、こんなことに成るとは思いもしなかったが、
考えて見れば、男が居て、薬売りと自分の拠り代ふたりでは、ひとり余るのは当たり前のことで、
何で、そのことに思い至らなかったのだろうと自分の迂闊さを悔やみ、
判っていただろうに、黙っていた退魔と父の、意地の悪さを呪った。

境遇の急変を、すんなりとは受け入れられず、母にも父にも退魔にも自分にも憤った子供だが
心の中で一通り、毒づいて、段々と気が鎮まってくると、
そこは子供ならではの前向きな柔軟さで、薬売りが言ったことは
そう悪いことでも無いかも知れないと思えるようになった。
薬売りの言い様からして、まだ大分、先のことになるのだろうが、
「新しい縁」とやらが、何やら楽しみになってくる。
何よりも、自分は、もう、ひとりじゃなかった。
父と退魔はモノノケに関すること以外では、側に在っても碌に接触や交流を持ってはくれなかったが、母は違うだろう。
自分と同じで、不必要に気安い気質では無いのだろうが、
母は知る限り自分と唯一、この世で同じ立ち位置の存在なのだ。
少なくとも昨日の様な孤独に苛まれて、ひとり膝を抱えるようことには、ならなくて済む気がした。

そう得心できると、腹が空いているのに気が付いた。
夕べの騒ぎから何も食べていない。
話し終えてから、子供が、ひとり押し黙って葛藤しているのを、
隣で黙って見守っていた薬売りが、改めて食べ物と水を差し出してきた。
子供は今度はそれを、少し照れながら受け取って、
いかにも言い馴れない風で、それでも嬉しそうに「いただきます…」と言って食べ始めた。
薬売りは、優しく微笑み返した。
朝餉と身支度が終わると、薬売りは子供と一緒に
子供が、商いに使っていた連尺の中身を検めていた。

薬売りの通行手形は、まだ有効のまま取ってあり、
天秤や刀箱は、薬売りが使っていた頃と変わりは無いとしても、
商品の中身は、子供の年齢もあって、それなりに変わっていた。
薬売りが扱っていた大人向けの商品や、調合や見立ての難しい薬は無く、
それらの入っていた所には、もっと一般用の、潰しの利く商品や子供の私物が入っていた。

これから、ふたり一緒に行商したからといって、倍売れるようになるわけでなく、
逆に生活費は二人分になってしまうのだ。
子供が商っていたものは、このまま子供に持たせて一緒に商うことにして
子供の連尺は別に誂えなければならないだろう。
かつて薬売りが扱っていたものも、新たに仕入れないことには始まらない。
春本や、遊具、既成薬や調合に必要な薬種、色々と物入りになる。
頭の中で、それらの費用の概算をすると、
薬売りは、後で洗わなくてはと思って除けておいた赤襦袢を手繰り寄せた。
子供が何やら興味津々で見ているので、昨夜の残滓が子供の目に触れないように折り重ねながら、
裾の返しの上の方をを指で探り、膨らみを感じると、糸を藤色の爪先でツイっと引き切った。

「あっ」隙間から、コロコロと金の粒が出てくるの見て、子供が驚く。
「もしもの時の秘密の蓄え、これで色々揃えよう」
だから、この赤襦袢が入っていたのか、と子供は納得すると、
あることを思い出して、連尺に目をやる。
コレを使っているときに、良く見ると外幅と寸や厚みが合っていないのではないかと思うような部分や、
当てると、違う音を出す所があることを子供は気が付いていた。
もしや、と思って薬売りを見ると、人の悪そうな笑みを浮かべていた。
退魔は、朝から自分の下でゴソゴソと騒がしいと思いながら、
昨夜のことに、まだ苦りきっていた。

万事目出たく収まったのは、まことに結構なことだが、
ワザワザ領域を違え、干渉が遮断されているにも関わらず、
向うから洩れて出て来るほどの、ふたりの交感気の質量にヘキヘキした。
これでもし、領域の違いも認知の遮断もない状態で始められたら
どんなにか、そのへ気へ気が溢れ返ることになるのかと思うだけで
剣の身ながら、足を生やして逃げ出したくなる程だ。

ただ、眠る子供に、早速その想い合いの気が注がれ始めたのは何よりだと思う。
そして、その子供に薬売りが告げていた「新しい縁」についても退魔は思うところがある。
子供は、それを男と薬売りのような他人との縁だと理解したようだが、
昨夜のことを鑑みるに、どうもそうは成らないのではないかと退魔は考えた。
頭の痛いことに当分の間は新婚よろしく、ふたりの濃密な交感は続くだろうし、
それが過ぎても「縁の誓約」まで、やらかしたらしい、ふたりのことだ、
程度問題で濃密なことには代わりはあるまい。
今のところの交感の気は自動的に子供に注がれるだろうが、
子供に必要なだけ満ちた後は、どうなるかと思えば、
碌な交感も無く、子供が生まれた卵を成したふたりが、
身も心も、凄まじく交感するのだから、次の子が成らないわけが無いのだ。
そして、その子は、その薄い交感状態で卵が生じたことが奇跡的な故に
縁の深さの証しとなった子供のように、母と同じ位に留まると思えず、
理想的に満ちて生じるが故に、父と並ぶ位に立って生まれる可能性が高いのではないかと。

ここまで思って退魔は、これでは自分は、
取り澄まして人との付き合いに距離を置いているようで
実は周りのことに首を突っ込まずにいられない古後家のようでないかと、忌々しく思った。
先のことを、薬売りは子供と簡単に話し合った。
仕入れの関係で、早めに大きな町に行かざるをえないが、
その前に金の粒も両替しなければならないし、
取りあえず、薬売りが例の出現をした近くの宿場町に出て
そこで揃えられるものは揃えることにしたことにした。
その時のことを、憶えていないと言ったため、
子供から、ひととおりの顛末を聞かされる羽目になったが、
礼と労いを子供の喜ぶように伝えたあとは、空惚けた。

そうこうしている内に廃寺から出る段になり、連尺を背負おうとした薬売りだが、
何やらそのさまを寂しげに見ている子供に気付いて
「坊の連尺を誂えたら、カラクリの仕方を教てあげるよ」と告げると
子供の気は、それに釣られたらしく、顔を輝かせた。
まだ、かろうじて用をなしている古びた戸を薬売りが開け、
その後から出た子供が少し苦労して閉めて前に向き直ると、
薬売りが見返りながら、子供の方に手を差し出していた。
手を繋いでもらわなければならないほど子供ではない、と
聡い子供に有り勝ちな意地が頭をもたげたが、したい気持ちの方が勝り、
薬売りの手を掴むと、強く握り返してくれたのが嬉しかった。

そのまま、ゆるい山道をふたりで下りて、街道に出ると、
子供は、薬売りが憶えていないと言った昨日の出来事から
あることを思い出し「ねぇ、」と薬売りに声を掛ける。
何かと思って薬売りが子供を見ると、
いたって真顔で
「何て呼べばいいの?」と聞いてきた。

一瞬、思案の外であったことを問われ驚いた薬売りだったが、
すぐに何やらイタズラっぽい笑みを浮かべ、
「そうだね…『兄ちゃん』とでも呼んでもらおうか」と機嫌良く答えた。
238薬売りの卵・その二・完結編・ハイパー×薬:2008/01/06(日) 02:53:48 ID:x3Vd7JA/0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧これで終わりです。ここまで、お付き合いくださり、ありがとうございました。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )再会編も、そう言ってくれた方がいなければありませんでした。多謝です。
 | |                | |       ◇⊂    ) 
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
239風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 02:58:51 ID:WWd5PaP/0
>>238
寝ずに待ってたよ!全裸で正座して!!
グッジョブーーー!!ヽ(*`Д´*)ノ
ハッピーエンドで良かった、ありがとうと言いたい。
ハイパー似の第二子に心馳せつつw
240風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 03:10:38 ID:Zipojh0P0
リアルタイムktkr!
GJ!
ハッピーエンドはよいものだ。
241風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 03:12:55 ID:a3HCgR1Y0
>>238
寝る前にのぞいてよかった!!!!
姐さんGJ
jr 2人目フラグktkr
242風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 03:25:37 ID:ei9BW1yVO
>238姐さんGJ寧ろ愛してる。
いいもの読ませて頂いた…。ほんと胸がいっぱいです。
243風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 04:04:43 ID:pD8wfrEs0
>>238
ありがとうありがとう。
起きててよかった。
第二子の話も読みたいと呟いてみるよw
244風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 07:13:46 ID:+ym4qCr60

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.      | |
 | |                | |           ∧_∧ 半ナマ? 日曜朝・単車乗リ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 熊←不運主人公? 微妙に死にネタ注意
 | |                | |       ◇⊂    ) __  予告の爆弾に触発されました。

 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |

245いつかの予感 熊←主人公 1/4:2008/01/06(日) 07:15:32 ID:+ym4qCr60
「いやだっ……いやだ!!」
 金色と黒の体が崩れていく。色と形をなくしていく。
 崩れた砂をかき集めて、かき集め続けて、指の皮が剥けて滲んだ血で湿っても、それが元に戻ることはない。繰り返される摩擦に耐えかね、爪も既に削れ始めている。
 それでも、青年はその行為をやめようとしなかった。
「いやだ、いやだ、いやだ……っ!」
 うわごとのようにそれだけを繰り返し、必死に自分の名を呼ぶ青年の姿に、情に厚い彼は何を思ったのだろう。
 ただ優しく微笑み(とは言ってもその仮面のような顔かたちから表情を読み取るのは簡単なことではないのだが)、崩れかけた手を伸ばし、そっと青年の頬をなでた。
「ええ……もうええ。それ以上やったら、お前の手が」
 どこまでも自分を気遣う気配をその声に感じ、青年は否定しようとした。が、首を振れば、少しでも彼に触れてしまえば、崩壊を早める。あとはもう、彼に触れないように、けれどその薄れゆく体温を感じられる距離を保ったまま、再び砂集めに没頭する。

 いつか別れなければならないのは知っていた。けれど、でも、まだだ。まだ、今ではないはずだ。
 いつか戦いを終えて、これでよかったのだと彼らが笑って、やっと覚悟を定めた自分も泣き笑いで彼らを見送って。そうして、別れるのだと思っていた。
 それなのに。
 何故、今。彼だけが先に逝く。
 何故、とても優しい、彼だけが。

 横たわった身体は傷だらけだった。
 自分を庇ったのだと、青年にとって自身を責める理由はそれだけで充分だった。
 常日頃から、自分の命は恩人である青年のものだと公言して憚らなかった彼だから、いつかこうなることは覚悟していたのかもしれない。
 だが、それは彼だけだ。

 足先から崩れ始めたのを知った時、青年はもう間に合わないと悟り。
 けれど、手を止めることは出来ず。
 それは即ち、彼との別れを認めることになると。
 他の居間人たちが、必死にとめてくれようとしているのを感じ、しかし青年はその声を拒絶する。
246いつかの予感 熊←主人公 2/4:2008/01/06(日) 07:17:35 ID:+ym4qCr60
 ああ、まだ繋がっている部分から、彼の、口に出さない叫びが聞こえる。

 不器用で優しい赤鬼よ、激情秘るしたたかな詐欺師よ、真っ直ぐに純粋な幼子よ。どうかとめてくれ。自分達の主を。これ以上傷付けたくない。どうか、どうか。


 血以外のものが、砂を湿らせた。それが汗なのか涙なのかすら、彼にはもう判らない。けれど青年が泣いているだろうことは容易に想像できた。
 心根の優しい彼は、きっと自分のために涙を流してくれている。嬉しいが、やはり笑っていてほしかった。
 最期の最期に、お前を傷つけてしまう。それだけを許して欲しい。そして、自分が去ったなら、いつかまた笑えるように。
 遠のいてゆく感覚の中、彼はそれだけを願った。

 崩壊が胸元まで進み、崩れた砂もほとんどが時間の流れの中に消えた。それでも形を留めようとし続ける青年の手指は、既にずたずたに裂けている。
「……すまんな、最期まで迷惑かけてしもて」
 揺れる遠い声に、青年の肩が跳ねる。
「俺はお前の手、好きやったで。優しいし、強い。ほんまに、お前そのものや」
 優しくて強いのは君だよ、と、青年は震える声で返した。
「――ほんまにおおきにな、リョウ」

 ざあっ

 ほんの一瞬だった。
 青年の名を呼びかけた彼の声が途切れ、身体が、崩壊した。
 残ったのは一抱えほどの冷たい砂。けれどそれもすぐに時間の流れが運び去る。
 青年の手には何も残らない。あるのは、裂けて血が滲む指と、削れて肉が見える爪と、頬を伝う雫。

「――っ……、あぁぁ――――!!」

 聞くに堪えない慟哭だ、とどこか遠くで意識し。
 それが己の発するものだと青年が気付いたのは、息が切れて意識を失う直前だった。

247いつかの予感 熊←主人公 3/4:2008/01/06(日) 07:18:49 ID:+ym4qCr60
「……――郎、おい、起きろって!!」
 強く揺さぶられて、はっと目を開ける。
 背中が汗で冷えて気持ち悪い。額に張り付く前髪をかきあげると、赤と青の人影が自分を覗き込んでいるのが見えた。
「物凄い魘され様だったから起こしたんだけど、大丈夫?」
「っ……、あ……うん……大丈夫」
「大丈夫じゃねーだろ。息あがってんぞ」
 硬い椅子に足をかけ、赤鬼が頭を撫でてくれる。その感触に先ほどの悪夢を拭われたような気がして、青年は大きく息をついた。
「……すごく、嫌な夢を見たんだ……怖くて、哀しい夢」

 大丈夫。だって自分の指は裂けていない。あれはただの悪夢だ。

 赤鬼はそーか、と呟いたが、しばらく手を止めるつもりはないらしい。頭を撫で続けてくれている。青亀がカウンターで貰ってきてくれたタオルとコップを受け取り、コップの中の水をあおった。
「……ねえ」
「うん?」
 ふと気付いて、金色の彼はどこかと尋ねる。
 いつもすぐそばで居眠りをしている巨体が見当たらない。
 赤鬼と青亀は互いに顔を見合わせると、きょとんとして言った。





「誰だ、それ」

248いつかの予感 熊←主人公 4/4:2008/01/06(日) 07:20:55 ID:+ym4qCr60
 がばっ、と身を起こす。心臓が鞠のように跳ねている。
 はー……と深い溜息をついて、青年は額に手を当てた。

 よりにもよって二段構えとは、どれだけ手の込んだ悪夢なのだろう。

 これも夢だろうか。一応手指に傷は見当たらないが。
 見回せばいつもの食堂車だ。遠くで三人がぎゃいぎゃいと騒いでいるのが聞こえるから、大方風呂にでも行っているのだろう。添乗員のあの子は買出しだろうか。
 そして気付いたのは、下腹部に回されている逞しい腕。
 腕をたどって背後を見遣ると、自分を抱え込むようにして舟を漕いでいる、金色と黒の人影があった。
 彼をみつけた途端、目頭に迫る熱を止められず、体をひねって彼の胸元の飾りに顔を押し当てる。

 大丈夫、ちゃんと暖かい。彼は確かに、ここに居る。

「……なんや、泣いとるんか?」
 肩を震わせる気配に目覚めたのか、彼は青年に声をかける。
じっとしがみついて離れようとしない青年に只ならぬ気配を感じたのだろう、青年を抱え込んでいた腕でその華奢な背中をさすり始めた。
「悪い夢でも見たんか……もう心配あらへん。俺がついとる」
 な、と労わるように頭を撫でられ、青年の脳裏を、力加減を知らずに物を壊す彼の姿がよぎった。人間への加減はわかるのか。
 ただ、すべてを包んでくれるような暖かさに、喉の奥が引きつった。涙腺の崩壊に拍車がかかり、もうどうすることもできない。
 胸の底の嫌な予感にすら目を瞑り、青年は彼の腕の中に己を委ねた。

 今はただ、このぬくもりが幻ではないことを祈りながら。

249いつかの予感 熊←主人公:2008/01/06(日) 07:25:00 ID:+ym4qCr60
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧  放映前にどうしても投下したかったんだ
 | |                | |     ピッ   (・∀・;)最初のAAずれたっつーか浮いた。スマソ
 | |                | |       ◇⊂    ) __ みんなが幸せな最終回になってほしい……
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  | 金ちゃん愛してる……!
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
250風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 11:36:47 ID:XRO5Xajs0
>>244
うわああああああああああ乙!超乙!!
読んでてなんだか涙が出てきた。
みんな仲良く幸せになって欲しいなあ…!GJ!
251風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 12:22:09 ID:/VjTc5kY0
>>238
GJ!
しかし姐さん、ヘキヘキはないと思うんだ
つ辟易
KYでスマソ…
252風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 16:09:02 ID:WH15BNa40
>>244
うあああ泣く(ノД`)・゜・。GJ!!!
最後はみんなで幸せになりますように…
253風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 19:20:21 ID:PVzQkz8v0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ゼノレイ云闇の大盗賊×アヌメ版工フゼ□隼で精神的鬼畜
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  一応乱闘兄弟だけど隼が完全別物
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ ) トクニナカノヒトガナ
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
254闇の大盗賊×超音速の隼 1/8:2008/01/06(日) 19:21:44 ID:PVzQkz8v0
魔王は退屈していた。
待ち人来ず、という奴だ。
その力の波動を何処からか感じるから、死んだり逃げたりした訳ではないだろうが。

――――全く、何処で手間取って、或いは遊んでいるのやら。
仕方がないから自分も遊ぶことにした。
最近手に入れた、面白い玩具だ。


その部屋を訪ねると、ありったけの憎悪と殺意を込めて睨まれた。
封印され戦うどころか動くことすらままならないというのに相変わらず強気だ。

闇の大盗賊や魔王と呼ばれる彼は、時の勇者のみならず様々な者から命を狙われている。
全世界のお尋ね者、というわけだ。
至極当然であるし、望む所だったが。
ここにいる男もその1人。
他の者は城まで来ても魔物や罠や自らの闇に喰らわれたので、彼の居る所まで乗り込んできた者は初めてだった。
顔を隠したこの戦士に、戦う前に聞いてみれば、隼を意味する名だった。
流石になかなかの手練だった。
彼の命には及ばなかったが。
そしてその素顔を見た。
敗れたというのに、その眼には強い意志を宿していた。
255闇の大盗賊×超音速の隼 2/8:2008/01/06(日) 19:22:35 ID:PVzQkz8v0
魔王は彼を殺さなかった。
情けをかけた訳ではない。
面白い奴だと思ったから、飼ってやることにしたのだ。
その名に相応しい鳥籠に封じて。

――――闇に染めてやるのは簡単だ。
強き炎。速き雷。それがその本質。
それは光に向いてはいるが、決して本来の光の者ではない。実際闇の素質も多く持っている。
だから力の方向を曲げてやるだけでいい。
ただ、簡単にやってしまっては面白くない。
一時的にそうしたことは多々あるが、全て後で戻している。
それを知った時の更なる憎悪。それが心地よかった。
敵を殺すことも出来ず、鳥籠の中での屈辱的な生を与えられ、気まぐれで好きなように弄ばれる。
自ら死を選ぶという選択肢はない。
その動きを封じられ、命を操る力を持つ相手で、何よりその信念から。
それでも普通なら諦めてもいいだろうに、その心は折れなかった。

「退屈しのぎだ。付き合ってもらう」
鳥籠を開けると他に目をくれることもなく真っ先に拳を叩き込もうとする。
「クク……だから貴様は面白い」
それをかわし、肩を掴んで魔力を送り込んだ。
その場から彼の姿がかき消えた。
256闇の大盗賊×超音速の隼 3/8:2008/01/06(日) 19:23:43 ID:PVzQkz8v0
隼が気付くと見知らぬ場所にいた。
あちこちが水に充たされた迷宮。
「貴様に機会を与えてやる。鳥籠から逃れる機会を」
姿はないが魔王の声が響く。
「その迷宮を脱出出来れば俺の手からも逃れられる。その後また俺を殺しにくるか尻尾を巻いて逃げ出すかは自由だ」
「甘言を……出口などないのだろう」
「あるぞ。無論ただで脱出させる気などないがな」
高笑いが響き、そして音のない世界に戻る。
「くっ……その選択を後悔させてやる!」
歩き出した。それより他に選択肢はない。


分岐点に差し掛かる。しかしそこに在ったのは道だけではなかった。
「クラ ンク……!?」
「よく闇に堕ちてないなんて言えるな。親父を殺したくせに」
彼の愛する者。それに対する負い目。
「っ……! いや、洗脳の類ではないな。擬態、或いは幻だ……!」
「そう。貴様の心を元に造った。実態はただの水の魔物だ。急拵えの脆弱な、な」
言い終わる前に銃声が轟き、相手は消し飛んだ。
「躊躇わないのだな」
「私の意志を折ろうというなら間違いだったな……私が最も嫌う類の幻覚だ。その存在を許しはしない」
257闇の大盗賊×超音速の隼 4/8:2008/01/06(日) 19:25:12 ID:PVzQkz8v0
隼は進む。
その言葉通り親しい者、敵、或いは彼自身の幻影が心をえぐるような言葉を連ねつつ襲い掛かってきても動揺や躊躇は見せなかった。
しばらく経って、また魔王の声が響いた。
「……1つ注釈を付け加えておこう。今まで言わずにすまなかったな。忘れていた」
「貴様の言葉に耳を貸すつもりなどない」
「まあ聞け。あれらの魔物は貴様の記憶を抽出し造り出した……その存在を消せば、大元も消える」
「……!!」
魔王の声が消えると同時にまた魔物が姿を現す。
「今の自分がキャプ テン・ファル コンだって胸を張って言える? 僕が憧れたファ ルコンだって」
少年時代の彼。
そして初めて速攻で勝負を決めなかった。

――――――耳を貸すな。
ブラフだ。それに乗ってここで戦うことを放棄すれば奴の思うツボだ。
だが、本当なら?
奴の力なら心や記憶を操るのは簡単だ。
実際何度もそれを受け、現に今目の前にそれを利用した幻影がいる。
記憶。想い。彼が最も大事にするもの。
だからこそ、それを弄ぶ幻影をこの手で始末してきた。
だが、その行動でそれを消してしまうとしたら。

「だからその名を奪いにきた」
迫ってくる――反射的にそれを貫く。
258闇の大盗賊×超音速の隼 5/8:2008/01/06(日) 19:26:17 ID:PVzQkz8v0
記憶が消えたのかどうかはわからない。
真に消えてしまえばその存在すらも忘れ、消えたことにすら気付かないはず。
故に魔王の言葉の真贋を見極めることは出来ない。

「クク……戦うがいい。その闘志の趣くままに。出口は近いぞ。その時に貴様が貴様であるか、その前に心が折れるか、それとも……どうなるかは俺にもわからん」
高笑いが迷宮に響く。

彼は戦う。
だがその度に動きは鈍り焦燥が浮かぶ。
息を切らせていた。
敵は魔王の言葉通り脆弱で一撃で消し飛んだし、これまではどれだけ過酷な戦いであろうとそんなことはなかったのに。

――――元々幻影とはいえその姿を消せる時点で狂っていたのではないか。
今更記憶を消した所で何だという?
それに、鳥篭にいればいずれ消される。
全てはその手から逃れるためだ。
そして、必ずこの落とし前はつけさせる。
259闇の大盗賊×超音速の隼 6/8:2008/01/06(日) 19:28:28 ID:PVzQkz8v0
また影が現れる。後姿だったがよく知っている相手だ。
「リュ ウ、か……」
彼の幻影もこれで何度目か。
だが、振り返ったその表情にこれまで現れたもののような殺意はなかった。
逆に優しく微笑んでいる。
「疲れているみたいだけど、大丈夫か?」

――――――今までのは全て前振りだったというわけだ。
これが、切札。それを有効にするための。
だからこれさえ切り抜ければ、逃れられる。
出口も見えている。

「いつも心配なんだ。肩張りすぎじゃないかって。今も凄く怖い眼しているぜ」
歩み寄ってくる。

――――幻影だ。
本物ではない。
実際闇の気を放ち言葉に妖しい響きを持つ。
その狙いはこれまでと同じ。
敵だ、倒せ。
倒すんだ……!
260闇の大盗賊×超音速の隼 7/8:2008/01/06(日) 19:29:50 ID:PVzQkz8v0
「もうちょっと楽にしてもいいと思う。俺が、いるから」
だが、触れ、囁くことを許してしまった。
動けない。顔の傷を撫でられても。
「今だけでもいいさ。全てを、俺に任せて……」
そして口付けを。そこから流し込まれた液体を。
受け入れてしまった。
急激に力が抜け、戦友の姿を持った魔物に支えられる。
「それでいいんだ…………それが本当の意思なんだから」
妖しく光る瞳に魅入ってしまう。
そうしてはいけないと理解しているのに。

――――これが自分の本当の意思?
闇に堕ちそれに身を委ねることが?
現に今、とても安らいでいる――――

朦朧とした意識の中、その身を抱き背を撫でる腕を感じていた
そして気付くと、その腕は魔王のものになっていて、場所も迷宮ではなく元の部屋になっていた。
「本当にもう少しだったのにな」
隼は答えない。
まだ完全に覚醒しておらず、力は抜け言葉もなかった。
「記憶が消えるというのは嘘だ……言葉というものは誰にでも使え、かつ素晴らしい力を持つ。ある意味どんな魔法よりも強力かも知れんな」
隼は睨む。だがその眼に力はなかった。
「俺は貴様の身心そのものには手を加えていない。それを利用し幻を生み出し言葉を使っただけだ……信じるかは自由だがな」
「……そう仕向けただけで、全ては私の選択……意思と言いたいのか…………そう思わせたいのか……」
「クク、面白い余興だった。次はこの身を満足させて貰おうか。たまには優しく抱いてやる。抵抗もないだろうからな」

全てを任せた。その身だけでなく、精神も快楽に。

――――きっとあの液体には脱力だけでなく媚薬の効果もあったのだ。
そうでなければここまで乱れるはずもない。
そうで、なければ――――
261闇の大盗賊×超音速の隼 8/8:2008/01/06(日) 19:30:42 ID:PVzQkz8v0
事を終え再び隼を鳥籠に入れる。
「薬の効果はそのうち切れる。力も意志も目覚めるはずだ……元通りかは知らないが、な」
身じろぎ1つせず、虚ろな眼をして答えない。
それを見て短い笑いを洩らす。

―――――――一時的な脱力か、本当に壊れてしまったのか。
また元の意志を取り戻すならあの猛る炎と雷をその身に感じることが出来る。
闇に転じたなら今度はそれを自分のために、その敵に向け奮ってくれるだろう。
壊れてしまったとしても、それをしてやったという充足感はあるし、その身の全てを思うがままにすることが出来る。
いずれにしても飽きない。
だからずっとそこで飼ってやる。

そして魔王は振り返ることもなく部屋を後にした。
時の勇者を待つために。
262風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 19:33:10 ID:PVzQkz8v0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 思い付きで書いた。反省はしていない
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 魔王様の言葉の真偽やこの後隼がどうなるかは想像にお任せ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 昔アニメにもなった奴の新版です。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 日本で経営しています。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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季節は夏。とあるペットショップでは、その主が、たくさんの甘味を前に狂喜していた。
「ん〜、美味しい、まさに天国ですね!パフェに、ケーキに、水羊羹」
大の甘味好きのD伯爵(カウント・ディー)は、今日もお客が来ないうちに色んな店から買いあさった甘味を、満面の笑みで召し上がっていた。
動物たちが人間へと変化する不思議なこのペットショップには、さまざまな動物たちが暮らしている。その中心が、D伯爵だ。
「伯爵、誰か来るぞ」
トウテツのテッちゃんが、外の気配に敏感に反応する。
と、ケーキにフォークを入れたばかりのD伯爵の手が止まった。
「太子…ですかね」
版!と乱暴に開かれた扉。そこにいたのは紛れもなくこの新中華街(ネオ・チャイナタウン)のオーナー、劉武飛(ラウ ウーフェイ)であった。
今日もきっちりと髪形を固め、スーツ姿で嫌な笑みを浮かべている。
一瞬にして不穏な空気が漂う。
「おや?太子…」
ちら、と劉の後ろを見やる。
「あなたの『お目付け役』がいませんね」
いつもD伯爵にも笑顔を見せる、そして劉と常に一緒である陳がいない。
動物たちがざわめく。
が、D伯爵が営業用スマイルを見せたところで、動物たちのうなり声は止まっていた。
「陳か?はっ、わざわざつれてくることもなかったからつれてこなかっただけだ」
そのまま、営業中だというのにボスンとD伯爵の向かいのソファに座り込み、タバコに火をつける。
「またそんなに甘いものばかり食べてると太るぞ」
「その心配には及びません」
ツン、と、劉の言葉を突っぱねると、フォークを持ってケーキを食べだした。
確かに甘いものを食べているD伯爵は、やせ身だ。本当に男なのかと思うほどの美貌と、スレンダーな容姿。
ごくりと、劉の喉がなる。
「…伯爵、昨日も客に変なものを売りつけたな」
部屋中がタバコ臭くなっていく。
妙な緊張感が張り詰め、それを察知した動物たちが再びざわめいた。
「なんの、ことですか?」
はて、昨日売りつけたものといえば、パートナーのほしいお客に犬を一匹。そして『特別なもの』が欲しいという男女に、蝉を一匹ずつ。
この蝉の件がばれましたかね、ばれたらとても面倒なんですけれど。と、伯爵は心の中で毒づいた。
「大きなかごを持って言ったサエナイ男女を見たんだよ、このビルの客がな」
「それが、何か」
たばこを灰皿に押し付け、大声でまくし立てた。
「また、人間に化ける動物か?!それとも恋人になって出てきてくれる妙な虫か!?答えろ!」
(むう、勘がいいですね)
劉の脅しにひるむことなく、ため息をつくと、フォークを置いた。
「昨日お売りしたのは、パートナーが欲しいというのでシー・ズー犬を、そして特別なものが欲しいとおっしゃるので、男性と女性に蝉の幼虫を売りました」
「それだけか」
蝉というのが引っかかったが、どうせたいしたことないだろう。劉は不機嫌そうに、タバコに手を伸ばした。
「もうこれ以上タバコはやめてくださいませんか?私も、動物たちはタバコが苦手でして」
ちっ、と、小さな声がした。
それを気にするでもなく、D伯爵は部屋に置かれた巨大水槽を見ていた。
「おい」
「なんです?」
「もてなしもなしか」
「おや?スウィーツはお好きでしたっけ?」
「そうじゃない」
ドサッと音がして、あっという間にD伯爵はソファに押し倒された。
「…なんのまねです?」
「見てのとおりだ。最近欲求不満でな」
劉はばさりと背もたれにスーツを放り投げ、ネクタイを緩める。そしてD伯爵の腕を片手で拘束すると、そのチャイナ服を脱がしにかかった。
「やめて下さい、太子!」
相手は本気だ。それに気づいたD伯爵は、初めて大声をだした。
なぜ劉が自分に固執するのか分からなかった。劉といえばこの新中華街でも人気のある男だ。
女なんて手に余るほどいるはずだ。
ぶちぶちとボタンを飛ばされてはがされていく衣服に戸惑いを感じながら、D伯爵はとっさに叫んだ。
「レオン!」
それは、アメリカのチャイナタウンでペットショップをやっていたとき、劉のようによくペットショップに訪れてきた刑事の名前だった。
レオン=オルコット。
何から何まであわない男のはずだったが、なぜとっさにこの名前だ出たのだろう。
 ぴたり、と、劉の手が止まる。
うっすらにじむD伯爵の涙に気づいたのだろう。こんな人間臭いところがあったなんて知らなかった。
「っ、恋人の名前か?それとも動物の名前か?」
「…」
劉が手を離す。その隙にD伯爵はボタンのとれたチャイナ服を正すと、目をそらした。
「大嫌いな人の名前です…よ」
劉はそれ以上は何も言わず、ネクタイをただし、スーツを着ると乱暴に店から出て行った。
その後、D伯爵は起き上がると、着替えに行こうと店の奥へと入った。
「…伯爵、大丈夫?」
アライグマが顔を出す。
それがフリルのついた服を着た、可愛い女の子に化けた。
「ああ、ポンちゃん、大丈夫ですよ」
「伯爵にあれ以上手を出そうもんなら、噛み付いてやろうかと思ったぜ!」
今度はトウテツのテッちゃんがD伯爵の肩を叩いた。
「テッちゃん、そんな事したら私がこのビルにいられなくなりますから、それだけはやめて下さいね」
軽く話をすると、姿見に自分を映した。
腕は強い力で握られてたため、跡が残っている。
その後をなぞりながら、ぽつりとD伯爵は言った。
「刑事さんにもされたことないんですから、ねぇ?」




          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧個人的には新じゃないほうが好きですが、
                ◇,,(∀・  ) 劉に嫉妬する伯爵が可愛くて…。お粗末さまでした
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                |
  └────────────────┘
268風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 20:30:02 ID:DydBHKYrO
>>263
うわ、GJ!!
まさかペットショップのSSが読めるとは。
伯爵なら誰に襲われてもアヤシゲなお香で幻覚見せて切り抜けられそうだがw
とっさに刑事の名前呼んじゃうのもありだと思った。萌えた。
太子もなんだかんだ言ってかわいい。絶対に伯爵には叶わないであろうあたりw
GJでした。
269破天荒×若獅子 0/3:2008/01/06(日) 21:16:57 ID:PzyBLnD00

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  └──────│※生物注意
              某絶叫歌集団 破天荒×若獅子
              遅いけど去年の年末の話です
                 
270破天荒×若獅子 1/3:2008/01/06(日) 21:19:33 ID:PzyBLnD00

「あれー?小兄、家こっちでしたっけー?」

足取りはそれほどまでもふらついてはいないものの、
見える肌が全てほんのりと赤く染まっていることと怪しい呂律に不安を覚える。
無茶な飲み方をするからこうなるのであって酒に弱いわけではない。
いつかのように車に撥ねられて朝起きたら病院、というのは困るのでこうやって連れて帰っている。
ため息をついているとニコニコと笑う顔がこちらを見つめているのに気がついた。

「ダ.ニ.ー・・・どうした?」
「別にー、小兄と帰れるから良いかなーって!」

まさに満面の笑み、そんな笑顔で言われたら面倒だけどな、なんて言えるはずがない。
弟のような存在に振り回されているのが事実。
兄さんの『一人で帰れるか?』との問いに『大丈夫でーす』と言っていたが、
コイツの『大丈夫』という言葉にはいまいち信用がおけない。
『大丈夫ですよ、ちゃんと作れますから!』や『大丈夫です、痛くないですから』と言って本当にそうだったことがない。
それだからこそ構いたくなるのかもしれない。
271破天荒×若獅子 2/3:2008/01/06(日) 21:20:45 ID:PzyBLnD00
鼻歌混じりで機嫌の良さそうな姿を少し後ろから眺めている。
そのままの機嫌で家の鍵を開けたのを見届け、別れを告げ帰ろうとすると腕を強く掴まれた。

「いいじゃないですかー、もう遅いし泊まっていってくださいよー」

ねぇ?と腕を掴まれ半ば引き摺られるように玄関に引き込まれる。
仕方ないと玄関で靴を脱ぎ、ふらつく彼について行く。
通された部屋はそれなりに片付けられており、人並みの生活を送っているように見える。
一瞬目を離した隙に姿が見えなくなった。
小さいから見えなくなったのだろうか?

とりあえず疲れた身体を休めようとベッドに身を預け、ゆっくりと息を吐き天井を見上げた。
程良く酔えたお陰で心地よく眠れそうだと思った矢先、眼前に顔が現れ馬乗りされていることに気付く。

「なにやってんだよ!」

抗議の言葉を投げかけると返答代わりに押さえつけられるようなキスを施される。
舌がそっと唇に触れたかと思うとそのまま顎、首元を通り鎖骨に吸い付く。
こそばゆい感覚に思わず小さく息を飲み込んだ。
吸い付いたまま、彼の手はシャツの裾を掴み勢いよく捲り上げるとようやく唇が鎖骨から離れた。
酒に酔ったせいなのか、思うように抵抗することができない。
いや、酒のせいにして歓楽を求めようとしているのかもしれない。

燃え上がる本能(さが)には勝てない、ということなのだろう。


胸の突起を強く摘まれると思わず背が反り、酒に焼けた喉から声が上がる。
身体がいつもより熱い。触れる手も触れられる部位も。
目を閉じ、思考することを放棄し、ただ与えられる悦楽に身を溶かしていった。
272破天荒×若獅子 3/3:2008/01/06(日) 21:21:46 ID:PzyBLnD00

「昨日のことは?」
「全く・・・覚えてないです・・・」

思わずため息をつき、目覚めたが気分が悪そうな彼をコップ片手に上から見下ろす。

「いつから?」
「・・・一軒目の途中」

二度目のため息。もうこれは無茶な飲み方以前の問題なのだろう。
飲む前にどんな薬を飲んでも変わらないに違いない。
水が注がれたコップと二日酔いの薬をベッド脇のテーブルに置く。

「え、じゃあ帰ってきてからも覚えてない?」
「何も・・・」

苦しそうにガラガラの声を出しながら彼はコップに手を伸ばそうとした。
急に恥ずかしさが込み上げ、彼がくるまっている布団を掴み、引きはがした。
その布団を遠くに投げ捨て、そのまま帰ろうと扉に向かう。

「小兄・・・!酷い・・・」
「バーカ!しらねぇよ!!」

彼の方へ向き舌を出し、勢いよく扉を閉めた。
今日の夕方どうするんだろうか、と他人事ながら不安になる。

もうどうにでもなれ、と思いながら指でそっと鎖骨に触れた。
273破天荒×若獅子 完:2008/01/06(日) 21:24:33 ID:PzyBLnD00
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                 ピッ ∧_∧ お粗末さまでした
                ◇,,(∀・  ) 今年はもっと801人口増えますように・・・
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274風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 21:27:18 ID:zzI31tnq0
>>263
GJ!
まさかカウントDにお目にかかれるとは思わなかった。
個人的には旧も読みたい。
275風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 21:48:23 ID:Hehzkerx0
>>269
不意打ち投下びっくりした…!姐さんGJ!
若獅子カワイソすぐるw
小さくて見えなくなったり、本能-SAGA-が燃え上がっちゃったり
要所々々で笑かしてもらいました
276風と木の名無しさん:2008/01/06(日) 23:02:42 ID:HYDOQDZlO
>>263
GJ!!こんなマイナー漫画(だと思う)のSSが読めるとは…!伯爵が可愛いよ伯爵
277風と木の名無しさん:2008/01/07(月) 04:54:14 ID:KatB3ssP0
>>269
不意打ち谷円キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!
円かわいいよ円…そして燃え上がるSAGAワロタw
ラジオネタもハァハァ
ちょっと撮り溜めしたあiにiぱiらi見てきますね
278風と木の名無しさん:2008/01/07(月) 05:13:15 ID:FDtG5QuPO
>>263
ktkr!普通に漫画の絵で再現されたよ。
そういや伯爵は原作でも一度喰われかけてたよねw性的な意味で
279風と木の名無しさん:2008/01/07(月) 10:38:34 ID:9fUzmlxx0
>>278
たしかトウテツのテッちゃんに性的なのと食物的と両方でだったなw
2801Mr.,come here.I want you./9 :2008/01/07(月) 20:45:56 ID:YFA5qHvY0
ギャグ漫画日和、電話組。漫画のやや未来を捏造。
ベルさんは電話を発明した功績で表彰されることになりました。
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  └──────│たまにはみんなと一緒に見るよ
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2812/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:46:59 ID:YFA5qHvY0
 授賞式の会場はずいぶんにぎわっていた。講堂の前にはホットドックやアイスキャンディのワゴンまで出て、まるでお祭りだ。
 手籠を下げて花を売っている少女がいる。僕は彼女から、白いカーネーションを一輪買った。それを胸ポケットに挿して講堂に入ると、セレモニーを待つ人々をかき分けて授賞者の控え室に行った。
「ベルさん、準備はできま――おわっ、どうしたんですか」
 ドアを開けたとたんに目に入ってきたものに、思わず変な声を上げてしまった。
 今日の主役であり、僕の雇用主のミスター・ベルがそこにいた。膝を三角に抱えて床に座り、頭が膝のあいだにめり込むくらい深くうなだれた状態で。
「ベルさん、ベルさん! どうしたんですか、しっかりしてください。おなかが痛いんですか? あっ、もしかしてスピーチの原稿を忘れてきちゃったんですか?」
「……ワトソン君」
 肩に手を置いて揺さぶると、ベルさんはようやく膝のあいだから顔を上げた。涙目だった。
「違うんだ……。いや、おなかもちょっと痛いんだけど……。原稿はちゃんと持ってきている」
「じゃあ、どうしたっていうんです?」
「もう緊張がピークに達してしまった……。ワトソン君、やっぱり私には無理だよ……もう帰りたい。むしろ消えたい。溶けてなくなりたい」
「溶けちゃ駄目です。しっかりしてくださいって、今日は晴れ舞台じゃないですか……」
 話を聞いてみれば、いつものベルさんだ。彼を励ますのも、すっかり慣れた作業だった。
 電話機と言う画期的な装置を発明したミスター・グラハム・ベルは、偉大な研究者であると同時に極度に後ろ向きな人物である。自分に自信がなく、気が弱くて極端な上がり性だ。
 そんなベルさんが今日は大勢の前で表彰され、しかも受賞記念のスピーチまでしなくてはいけないのだった。
 少しでもベルさんに気楽に構えてもらうために、僕は助手としてできる限りのことをしたつもりだ。
 スピーチの原稿も入念に準備した。ベルさんの草稿に僕の意見も加えて――つまり、「こんな私が電話を発明してしまってごめんなさい」に始まり「私はゴミ人間です」に至る自虐的ポエムをどうにかこうにか軌道修正して、用意してある。
2823/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:48:05 ID:YFA5qHvY0
 僕はベルさんの肩を優しく叩く。
「ベルさん、僕が言ったことを思い出してください。客席の人は、なんでしたっけ?」
「……カボチャの、ワタ……」
「ちょ、ワタってあの種と一緒のもしゃもしゃしたところですか。そこまでは限定してませんけど……」
「それじゃ、カボチャのヘタ」
「なんでカボチャ全体じゃ駄目なんですか? ……まあいいですけど。とにかく、お客さんはカボチャです。畑にカボチャがごろごろしているだけだと思えば、緊張もしませんよ。ね」
 それでも不安そうなベルさんの手をとって、床から立ち上がらせる。
 この日のために新調したスーツに身を包んだベルさんは、黙っていればちゃんと大学教授然とした立派な紳士だと思う。
 猫背だが背は高く、顔立ちは端正で優しげだ。伏し目がちなところも、研究一筋の人間の奥ゆかしさに見えるかもしれない。
 本人が強迫観念的に気にしているように体臭がきついなんてことはもちろんない。むしろエビチリのようなおいしそうな匂いが……
「ベルさん、ちょっと」
「うん?」
「失礼します」
 僕はベルさんの上着のポケットに手を突っ込む。ものすごくベタベタした物に手が触れた。
「……またポケットに食べ物を」
「あ、朝ごはんのエビチリ。後で食べようと思って残しておいたんだった……」
「エビチリ好きなんですね……。でも、ポケットに食べ物を入れるのはやめてください。せめて半固形状のものだけでもやめてください」
 ハンカチでエビチリを包んで取り除く。
「ごめん。どうしよう……」
「着替える時間もないし、このまま式に出るしかないでしょう。ちょっと表地に染みてますけど、この程度なら遠目にはバレないですよ。色の濃いスーツでよかった」
 ベタベタを拭き取りながら言うと、うん、とベルさんはうなずいた。歳に似ないしぐさに僕はあることを思い出し、苦笑いする。
2834/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:49:06 ID:YFA5qHvY0
 電話機の開発に明け暮れていたころ、ベルさんの教え子で日本人留学生の金子君が言ったことがあった。
「ワトソンさんは先生のオカアサンみたいですね」と。
「『オカアサン』って?」
 そこだけ日本語だったので僕が聞き返すと、もうひとりの日本人留学生の伊沢君が金子君のわき腹をつついて「おい、失礼だよ」とたしなめた。
「すみません」
 と金子君は謝り、結局『オカアサン』の意味は教えてくれなかったが、なんとなくニュアンスは感じ取れた。たぶん『ママ』ということだろう。
 自分より年上の男のママ扱いされることは不本意だったが、それからも僕は彼の世話を焼くのをやめなかった。そうしなければ仕事が進まないのだ。それに、僕は嫌いではない。
 明晰な頭脳の九割がたを研究に割いてしまって、他のことが何もできないベルさんが。
「これで大丈夫です」
 エビチリを拭き終わって、かがんでいた体を起こす。
 もうすぐ授賞式が始まる。今までの苦労が走馬灯のように目の前に浮かんだ。
 研究室に寝泊りし、朝から晩までベルさんと一緒に開発に没頭した日々。タッチの差で特許を取得し、実用化と普及のためにスポンサーを募り、各地を飛び回った。それにも今日の受賞で一区切りがつく。
 今日のこの日を迎えられたことは僕にとって嬉しくもあり、しみじみと寂しくもあった。
 僕はベルさんの助手という立場だが、基本はフリーの機械技師だ。彼の理論を形にするために雇われた助手であって、目的が果たされた今、契約は終了することになっている。
「ワトソン君?」
 僕が黙って見つめているのでベルさんは怪訝そうな顔をした。
 僕は手を伸ばしてベルさんの蝶ネクタイのゆがみを直し、それから自分の胸の白いカーネーションを抜き取り、ベルさんの胸ポケットに挿した。
「……ベルさん、どうか良いスピーチをしてください。
あなたの発明した電話機には僕の思い入れも詰まっています。電話機が世の中に認められ歴史を刻んだ証しの賞に、ふさわしいスピーチを聞かせてください」
「うう、あんまりプレッシャーをかけないでくれないかな……」
「伊沢君に教わったおまじないがあるんですよ」
2845/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:49:46 ID:YFA5qHvY0
 僕はベルさんの手をとり、手のひらを広げさせて、指を置いた。アルファベットのYをひっくり返したようなマークを指先で書き、これを飲み込んでください、と言う。
「こうすると、人前でもあがらないんだそうですよ。日本のおまじないだそうです」
 ベルさんはすなおに何もない手のひらを口に当て、薬を飲み込むようにした。
 それを見ながら僕は、心の中で誰にともない言い訳をする。これは、『ママ』として最後のつとめだから、と。
「ベルさん、もうひとつおまじないがあるんですが」
「ふうん、今度はどこの?」
「我が家のです」
 嘘ではなかった。子供のころ、学校で何か発表しなければならないとか、緊張することがあるときに母親がしてくれたこと。
 肩を抱き寄せて頬にキスし、神様が見ていてくださるのよ――と。
「……どう、ですか」
「うーん?」
 ベルさんの顔に、嫌悪感はない。驚きもない。どぎまぎした風でもなく、ただ効能のよくわからない薬を飲んだというような、あやふやな表情があるだけだった。
 僕は自分の動悸を馬鹿らしく思った。ベルさんにとって、異国の風習もワトソン家の習慣も意味を追及するような事象ではなく、説明された通りに受け取るだけだとわかっていたはずだ。
「あまり、効果はなさそうですか」
 意外な言葉が返ってくる。
「いや……なんとなく、気が楽になったような気がする……。なるべくがんばるよ」
 ベルさんにしては最大限に前向きな言葉だった。それを聞けただけでも嬉しいと思う。
 情けなく笑った僕に、ベルさんのやはり情けない眉尻の下がった顔が向けられる。
「あ……でもやっぱりおなかが痛い……」
「……トイレに行ってらっしゃい」
2856/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:50:27 ID:YFA5qHvY0
 授賞式が始まった。会場は満員だ。地元の名士、学者や研究者、上流階級のご婦人方が時の人を見ようと詰めかけている。新聞記者も大勢来ていることだろう。僕は一番後ろの席から、ベルさんを見守っていた。
 明るく照らされたステージの上で、ベルさんはギクシャクしながらもどうにか賞を受け取ったが、問題はその後のスピーチだった。
「お集まりの、し、紳士しゅく……しゅこっ」
 いきなり噛んでしまった。おまじないの効果は切れたのか、がちがちに上がってしまっているのが遠目にもわかった。
 壇上のベルさんを見上げて僕は声に出せない声援を送る。
 原稿を。スピーチの原稿を出して、とにかく読み上げればいいんです。そのために準備してきたんだから。
 ベルさんは原稿のことを思い出したらしく、ポケット(エビチリが入っていたのとは逆のほう)を探って取り出そうとした。
 だが見つからないのか、あせってポケットをかき回している。
 僕は、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
 どこかに原稿を落としてきてしまったらしい。たぶん、トイレに行ったときだ。
 ベルさんは呆然としてしまった。凍りついたように立ち尽くす演者に、聴衆が不審そうにざわめきだした。僕はよほど、今からトイレに走っていって原稿を拾って来ようかと思った。
 しかしほとんど席を立とうとしたそのとき、ベルさんが口を開いた。
「し、し、紳士淑女の皆さん」
 なんと、あのベルさんがアドリブでスピーチをしようとしている。
「紳士淑女の皆さん……皆さん。皆さんはカボチャのワタで……いや、ヘタで……」
 ああ、だけど緊張のあまり何を口走っているのかわかっていない!
2867/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:51:03 ID:YFA5qHvY0
 突然のカボチャ発言に会場がいっそうざわつく。
 僕の前の席のご婦人がたが顔を見合わせて言った。
「カボチャですって?」
「おかしな方ね、さっきから……本当にあの人が電話機を発明したの?」
 同様なささやきが、彼女たちだけでなく会場のあちこちから聞こえてくる。
 本当なんです、と僕は叫びたかった。ベルさんは間違いなくこの時代の天才の一人だ。偉大な人なんだ。彼の発明が人類にどれほどの恩恵をもたらすか、真に理解している人間がこの会場に何人いるというのだろう。
 ベルさん、もう何でもいいですから。
 僕はやきもきするあまり痛み出した胸を押さえて、祈るように思った。
 自虐的ポエムでもいい、サンダーファイヤーでもいい。
 どんなスピーチをしようが、あなたの功績を揺るがせにすることは誰にもできないのだから。
 ――だから、早く終わらせて。
 早く、僕のところに帰ってきてください。
 ベルさんは言葉に詰まってスーツの胸元に手をさまよわせ、その手が、僕の挿したカーネーションに触れた。
 深くうつむき、それからおそるおそる顔を上げて会場を見渡した。
「――皆さん。本日は、こ、このような賞をいただき、身に余る光栄に思います」
 優しいバリトンの声は明らかに震えていた。けれど、満場の頭上を越えて確かに最後列の僕まで届いた。
「けれども、電話機の開発は私ひとりの力でできたことではありません。私の持たない技術を提供し、常によき助言をくれ、精神的な支えにもなってくれたパートナーがいたからこそ、私は電話機を完成させることができました」
2878/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:51:54 ID:YFA5qHvY0
 ざわついていた会場が次第に波が引くように静まっていく。
 ベルさんは片手を体の脇に垂らし、もう片方の手を胸の上に、白いカーネーションを覆うように当てている。
 僕はいつしか、自分の上着の胸もとをきつく握り締めていた。
「研究が行き詰って目処が立たないときにも、開発費が底をつきかけて給料が払えないときでさえ、彼は私を見捨てないでいてくれました」
 ベルさん、あなたは。
「彼がいなければ、私はここに立ってはいなかったでしょう」
 ベルさん。
「私は、この賞と電話機という発明を、その素晴らしいエンジニアに捧げたいと思います。
――ありがとう、ワトソン君」
 僕は、思わず音を立てて椅子から立ち上がっていた。
 ベルさんが僕を見つけてステージの上から子供のように手を振った。
 満員の聴衆が、みな振り返って僕を注視したが、それを気にする余裕もなかった。ベルさんを見上げることしかできない。
「……ベルさん、あなたって人は……」
 僕はどうしようもなく熱くなった目頭を手のひらで押さえる。
 祖国とか、恋人とか、もっとほかに相手があるだろうに。
 世紀の大発明を、この人は一助手に捧げてしまった。
 カボチャ発言に驚いていた前の席のご婦人が、僕に優しく微笑みかけ、手を叩いた。
 パラパラと湧きおこった拍手はすぐに会場全体に広がって建物をどよもし、温かいスコールのように僕とベルさんの上に降り注いだ。
 ベルさんはまだ手を振っている。その顔が笑っているのかどうか、僕の視界にもスコールが降っていたから、よくわからない。
2889/9 Mr.,come here.I want you.:2008/01/07(月) 20:53:31 ID:YFA5qHvY0
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                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) オシマイ…
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
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  └────────────────┘

電話組大好きです。
289風と木の名無しさん:2008/01/07(月) 21:02:47 ID:2U/A2TwR0
>288
自分も電話組萌えだ!
笑った後でキュンキュンした。GJ!!
290風と木の名無しさん:2008/01/07(月) 21:19:31 ID:xI8zcgo40
>>254
おお…好みど真ん中だ
GJ
291風と木の名無しさん:2008/01/07(月) 22:33:26 ID:Ux2FPOdN0
>>11
お初だなんてとてもじゃないが感じられない上手さ。
萌えのあまり臨死の恍惚を味わいました。
謝罪と賠償を(ry
裏ヒロインのいっそ脅迫的な毒気がたまらん!GJ!
292男☆塾たぶんすぐ終わる:2008/01/07(月) 22:46:57 ID:Hs/l8TsI0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

男塾萌えー!!という気持ち。
293☆男☆塾☆1:2008/01/07(月) 22:47:58 ID:Hs/l8TsI0
枕から芽が出るなんて、誰も思いもしない。虎丸も目をまあるくして枕から生えた芽と向き合ったままボケボケと抜けた顔を晒している。
「どうした虎丸、ってオワ、あんじゃいこりゃあ」
「芽だ」
「見りゃあわかるって、だからソノ」
「どうして芽が生えたのか。それは想像に過ぎないがおそらく――」

そういつの間にか富樫と虎丸の側に寄ってきた桃は語りだした。ハチマキがまぶしい、マイクもないのに良く声が通った。富樫も虎丸も顔を見合わせたが、ホンホンと素直に頷いて清聴する。

「お魚くわえて裸足のマダムに追い回された虎丸は」
(おい虎、おめえ何やってんだよ)(や、やっとらんわい)
「オナモミの群生する原っぱへ逃げ込んだ」
(オナモミ?)(くっつき虫じゃ)(オオー)
「そのたなびく後ろ髪にチクチクとオナモミはしがみつく」

そして、

「風呂にも入らずに寝たから、破けた枕のソバガラにオナモミが植えつけられたのさ」
(………)(…………)
「髪の毛には油だとか、とりあえず栄養が行き渡って、天気も最近良かっただろう」
「…アー、桃、桃」
「なんだ虎丸」
なんだと言われて、虎丸は止まる。桃の目はきれいだ。ほほえみも何時も通りだ。
困った虎丸を助けるのは富樫の役目だ。富樫は芽の生えた枕を取り上げると、窓の外にソバガラごと捨てた。窓の外は花壇、運がよければ育つ可能性もある。
294☆男☆塾☆:2008/01/07(月) 22:48:48 ID:Hs/l8TsI0
「虎、枕買いに行くか」
「お、おお」
虎丸が富樫の助け舟にピシャリと膝を打った。桃は相変わらずにこにこと、富樫と虎丸を見ている。
「金が無え」「俺の顔を見るな、俺だって無えよ」
あるはずもない金、無くなった枕。虎丸は落ち込んだ。富樫もつられて落ち込んだ。

「俺が膝枕してやろうか」
桃の提案は突拍子も無い。男が男に膝枕されたってうれしくもなんともないと、虎丸はNOと顔に書いた。
「いや、そりゃあオメエに悪いからいいよ桃」
「そうか、じゃあ富樫、俺を膝枕してくれ」
いよいよもって桃は突拍子も無い。それでいて真面目ときている。昼寝にちょうどよさそうなあったかさだというのに、富樫も虎丸も凍り付いている。
「あーっと、俺が、桃に膝枕すんのか?つーかよオメエの枕は無事じゃ」
「虎丸、さあ遠慮なく頭を乗せるんだ」
富樫の言葉を遮って、桃は自分の太ももを叩いた。虎丸に頭を乗せろと促している。虎丸はうろたえている。
「そうしたらだ、虎丸」
「ええ?」
「富樫を膝枕してやってくれ」
「俺がか?…よくわからねえや桃、俺と富樫にきちんと説明してくれや」
桃は両手の人差し指と親指を合わせて、『△』の形にしてみせた。富樫と虎丸、二人別々の方向に首を傾げた。
「これぞ無限膝枕さ、俺が虎丸に膝枕をし、富樫は俺の頭を膝枕、最後に虎丸が富樫を膝枕して三角に繋がるぜ」

あれよあれよと仲間が増えて、三号生が教室を覗いた時には恐るべき一号生が多角形に膝枕をし合う地獄絵図が広がっていた。
安眠には程遠いのだろうけれど、くっついているのでとりあえずあったかいからまあいいやと誰かが言った。
295☆男☆塾☆終わり:2008/01/07(月) 22:49:44 ID:Hs/l8TsI0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
オッス、ごっつぁんでした!
296風と木の名無しさん:2008/01/07(月) 22:58:50 ID:qmT3fvYL0
>>295
ほのぼのと可愛いなあ。ゴツい男どもがw
しかしこれ、膝は伸ばした状態じゃないと昼寝から覚めたとき
別の地獄絵図が展開するw
297風と木の名無しさん:2008/01/08(火) 00:10:30 ID:uChDqHVk0
不覚にも萌えたw
298風と木の名無しさん:2008/01/08(火) 07:14:55 ID:IwW0B3IeO
>>292
朝からごっつぁんです!
いい萌えでした(*´Д`*)
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  └──────│新Pet〜にコメントくれた方ありがとうございます。
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 服は、未だ剥がれ落ちない。
それは、まだ上半身の中ほどから下は、生地が切れていない。そして、鎧と同じくして両腕にまだ生地が残っているからだ。
 だが、僅かに服の間から覗く肌からは、うっすらと傷がついていた。
間をおいて、赤い筋がにじみ出てくる。
「ふっ」
目を細め、鼻で笑う。
そしてその傷に指を這わせる。
血が、彼の指を汚した。
「…う…」
自分を傷つけた男に、肌を触れられる。嫌悪に顔をゆがませる。
 が、ディースは破れかけたその服に手をかけると、一気に切り裂いた!
「あ…!!」
もはや、彼の上半身の前面を覆うものは、何も無かった。
僅かに肩から腕にかけて、体を覆う役目をしていたものがあるだけ。
 ズボンと、切り裂かれた服だけをまとう男を、ディースは目を細めて眺めていた。
 こと、と、ナイフを棚に置き、代わりに鞭を手に取った。

ばしっ!!と、乾いた音が連続的に室内に響く。
その度、アイルの口からは悲鳴がこぼれ出た。
時間が凍ったかのように静かだった部屋は、いつしか鞭の音と男の絶叫だけが響いていた。
 苦痛になれた、といってはおかしいだろうか。しかし生傷の耐えない冒険者にとって見れば、傷による殺傷力は低い。
 戦いになれた冒険者は、厚い鎧で保護され、盾やダガー、そしてすばやい身のこなしによる回避、万一に敵の攻撃を体で受け止めてしまったとしても、反射的に未をかばうことが出来る。
だが、今の彼には、体の自由、肌を守るものをまとわず、当然盾なんてものも身に着けていない。
ディースの鞭を、まともに体に受けていた。
 その瞳にうかぶ喜びは、狂気を アイルの胸から腹にかけ、いくつもの赤い筋が走っている。
もう一度、鞭が風を切ってわき腹に見舞われる。
「ああああああああああああああああ!!」
「ふふ…、どうだ、言うか?」
「…っ、くたばれっ…!!」
アイルは、ぎりっと歯を噛み締めると、言葉を吐いた。
「はははは!」
パン!と音が響く
「うああああっ!」
 苦痛に耐えようとし、くぐもった叫び声をあげるアイルを、ディースは笑いながら打ち付けた。
帯びていた。
鞭が嘶く度、傷は増える。
どれだけの時間、そうしていたのか分からない。
 アイルの上半身は、真っ赤に腫れ上がり、血がこぼれ出て、鞭と床、服を汚していた。
ディースの使う鞭は、皮鞭だった。
 先端が丸くなっていて、丈夫なモンスター相手ではたいした殺傷力は無い。
だが、生身の人間に、それも肌をあらわにした相手に使ったとなれば、話は別だ。
当然傷はつくし、…その痛みは、焼け付くようだった。
「…もう、や…め」
 低く呟いた。
声は震え、肩は、荒い息のせいで激しく上下している。
 痛みのためか恐怖の成果は分からないが、体が震えているのは見て取れた。
「やめる?なら言うか?お前のギルドのことを」
ディースは鞭を片手に、身をかがめた。
そしてアイルの顔を覗き込むと、うなだれる彼のあごに手を添え、上へ向かせた。
 苦痛によって意識を手放しかけている彼は、朦朧としていた。
 何度も何度も苦痛から逃れようと激しくあがいたせいで、手首、足首は枷にすれて血がにじみ、体重を支えているせいでやがてしびれてきていた。
目には、光が無い。ほうっておけば、そのまま気絶してしまうことだろう。
「…」
「!」
笑みを浮かべていたディースは、突然の痛みに、彼から手を離した。
 彼の親指には、歯型があった。
僅かな抵抗に、アイルは彼の指を噛み付いたのだった。
「…こいつっ!!」
「ぐっ!」
 アイルの頬に、ディースの掌が飛んだ。
室内には
鞭とはまた違った音が響いた。
「ちくしょ…」
「俺は…言わない…」
アイルは、うわごとのように呟いた。
「…言…わな…い、師匠を…仲間を…売るよう…な…真似は…」
「ちっ。ネイヴィー。桶もってこい」
 ディースは、ぐったりと力なく手枷をされぶら下がる彼を眺めながら、手で合図をした。
ネイヴィーは持っていた盆をシナモンに預け、部屋の隅においやられていた桶を持ってきた。
 それは先ほど彼にかぶせられた水が入った桶と全く同じものである。
気を失いつつある彼に、その水が勢いよくかぶせられる。
途端、彼は切り裂くような絶叫を上げた。
 中身は、塩水である。
それこそ傷に傷が重なり、皮膚を切り裂き、神経をむき出しにされている状態だ。
そこに塩水をかけられれば、尋常ではない痛みが全身に走る。
激痛によって覚醒させられ、そして同時に舌を切っていた。
「嫌だ…!」
 鞭を手に構えたディースを、恐怖を浮かべ、見据えた。
恐い、恐い。
痛い!
 やめてもらえるのならば、やめてほしい。
ただそれしか自分の中に浮かばなかった。
だが、仲間を売るようなことは絶対にしたくない。
それは、師匠であるジークと、ともに苦楽を過ごしてきた仲間への、想いであった。
「…どうしよっかなあ…」
ディースは、鞭を床に放り投げ、ぽりぽりと頭をかいた。
だがアイルは、頭をかこうと手を上げたその行動にすらおびえ、目をぎゅっと瞑って体を硬くする。
小さく震えるアイルを見て、ディースはにやりと笑った。
「ディース?次は何をするの?」
「ああ。そうだな。ほかに何がある?」
「そうね…、ええと、茨鞭、蝋燭、焼きゴテ、ペンチ…あとは…」
ごそごそと、器具の置かれた棚をあさるネイヴィー。
つらつらと上げられるその単語に、アイルは怯え、唇を噛み締める。
「蝋燭で傷を焼いても良いし、ペンチで肉を剥ぎ取っても…ああ、焼き串で指を刺しても良いわね」
「ふーむ」
 けろっとした顔で、目の前に出されたそれらを眺めた。
そして交互にアイルを見やる。
アイルは、小さく首を振った。
「やめてほしい?」
ディースは笑う。傷だらけの彼に近づき、彼に覆いかぶさるように、その顔を眺める。
 勝ち誇った顔のディースは、威圧感が合った。
「やめ…て…」
小さく呟いた。
「やめて下さい、だろ?」
その言葉に、アイルは嫌悪を感じた。
 それはこの男に屈しることを意味する。
戸惑った表情だけを浮かべ、何も言わない彼に痺れを切らし、ディースはペンチを取り出した。
そして、手枷によって動かせないでいるアイルの右手の指をまとめて掴むと、人差し指の爪を、無造作にペンチで掴んだ。
「いやだっ、やめろ!!」
必死で逃れようとするが、力ではディースに勝てない。
そのままぎりぎりと力を込めて、ペンチで爪を引っ張っていく。
強烈な痛みに、ただ声を上げるしかなかった。
 ベリッと、爪がはがれた。
今度は中指の爪をはがそうとするディースに、アイルは言った。
「や…めて下さい…」
同時に、ディースは行動をやめた。
激痛に顔をゆがめ、目から大粒の涙をこぼすアイル。
 恐怖と怯えの表情を浮かべて、訴えかける彼の姿は、ディースの奥に潜む、邪な心を、激しく煽り立てた。
「もう一度、いってごらん?」
随分と優しげな声だった。先ほどかまれたときのように、あえてあごに手を添える。
だが、今度はアイルは噛み付くことはしなかった。
「やめて下さい…」
途端、部屋にはディースの高い笑い声が響いた。
「ならば、俺に跪け!」
 彼の目には興奮の色が見えた。
「俺の、犬になれ」
「…!」
 はっ、と顔を上げた。
「犬になり、俺をマスターと呼ぶか?それとも、断って、爪をはがされたいか?歯を折っても良い。今以上の苦痛を与えることは存分に出来る」
この男の、犬になる?
 それは下僕以下の扱いであることには間違いは無かった。
それは心底嫌だった。が、傷によって肉体的に追い詰められ、恐怖によって精神的に追い詰められた彼にとって、受け入れざるをえなかった。
 唇を噛み締める。が、それはあきらめたように開かれ、そして
「…分かり…ました、…マスター…」
彼は認めた。


『誤解』

「あなた、本気でやってなかったわね?」
 拷問から開放された安堵によって気を失ったアイルに、ネイヴィーは、彼の傷口を水で清め、自分が持っていた盆の中にあった薬を塗りながら、側で壁に寄りかかるディースに問うた。
「何のことだ?」
「とぼけないの。随分と珍しいじゃない?あなた、外傷少なく済ませたわね」
 少ない、とはいっても上半身は鞭によって赤くなり、そこに塩水をかけられたせいで、更にはれ上がっていた。
「いつもは、勢いあまって殺しちゃうのに」
 実は、いつもはジン、もしくはディースが拷問人をやるのだが、ディースのときに限って、彼は立会人をつけなかった。
 ジンは過度な痛めつけによって殺してしまうことを防ぐため、その見極めができ、そして治療のできるネイヴィーを立会人にしていた。
そしてジンの場合は、派手に血を噴出させるような拷問は好まなかった。
本音、出来ることならしたくないのだろうが。
 それに対し、ディースは快楽主義だ。
サディストである彼にとって、『敵の情報を知る』という名目の元行われる拷問は、嬉々として参加していた。
 だが、彼にとって本当にしたいことは情報を知ることではなく、相手が苦しむさまを見て、そして自分の手で苦しめること。
それによって、たびたび中断を強いられる立会人は、絶対につけなかった。
それが、マスター直々の命令だとしても、だ。
 それによって、詳細を聞き出す前に相手を殺してしまうことは、度々あった。
「なのに、今日に限って私をつけるなんて…、それに、死なない方法選んでたわね、わざとね?」
 彼女の表情は、下を向いて作業をしているせいで、髪に覆われてよくは見えなかった。
が、いぶかしんでいるのだろうとはすぐに分かる。
 壁に寄りかかったまま、その作業をぼんやりと眺め、何も言わないディース。
「犬ってどういう事?彼をどうするのよ。牢屋にでも入れて飼うつもり?」
「別に」
 意識の無いアイルを眺め、続けた。
「気に入っただけだ」
「あなたの愛情って言うのは、相当歪んでいるわね」
 ネイヴィーは顔を上げ、呆れて言い放った。
「まあな」
今回の事については、最初から、リンドブルムについての情報など興味は無かった。
ふと、興味がわいたこの男を、自分のものにするものが目的だった。
 とはいえ、前々から彼を狙っていたわけではなく。
従順そうな、人間。たまたまそれが手に入っただけ。さて、痛めつければどんな顔をする?
「やあね、あなたって」
「やーねっ」
 ネイヴィーが毒づいた。
それを真似て、シナモンも幼い声で言った。
可哀想な人。
 彼女は、アイルの頬を水を含ませたタオルで拭きながら、心の中でつぶやいた。

「ねえ、ジン」
スコルピオのギルドマスターであるジンはアジトの広間の、テーブルの前にある椅子にすわり、かったるそうに頬杖をついていた。
 顔に、右目の下から左頬まで大きな傷がある。逆毛の金髪を片方の手でわさわさといじり、そして、ネイヴィーに答える。
面倒くさそうに手を振ると、彼女の言葉も待たずに、ため息をつき、言った。
「わかった、わかってるさ、死体の処理は自分たちでしておけ、私ぁもうしらん!」
 あのバカめ!
どうせ私の忠告も無視して、楽しみのためだけに殺してしまったに違いない。
 ああ、あの男の考えていることは、私にはわからない。
何度も何度もそういうことはやめろと言ってきたのに、いつまでたってもなおらない!
 死体があがれば面倒なことになる、だから私ぁネイヴィーをつけたのに。
どうせ殺してしまったんだ、あのバカめ!
 彼は、ぶつぶつと考えながら、はぎしりをした。
「いつも言っておくが、住民には気づかれないような!外の奥にほうっておけ!熊かトナカイどもが食ってくれるだろうよ!」
鍛えられたこぶしで椅子の硬い肘掛をごつごつと殴る。
 大きな声をあげて殴りつづけているものだから、テーブルで食事をとっていた仲間とその守護動物は、驚いている。
「ねぇ、ジン」
「ネイヴィーがついていても、結局はやってることが変わらないとはな!あきれるわ、まったく!」
「ねぇ…話、聞いて頂戴よ」
ネイヴィーがいい加減にあきれ、彼の頬を思いっきり引っ張った。
「ひでで」
「あのね、ジン」
 ぱっ、と頬を離すと、いつもの穏やかな笑みを浮かべて、ジンの顔を覗き込んだ。
そこで初めて、ジンは彼女が何を持っているかを見た。
 食器に、毛皮に、毛布。
 食器は、外での冒険の際に持ち歩くものと同じ、安物の軽い木の皿であった。
毛皮は、イカルスで稀に手に入る、防寒に優れた毛皮であった。ふぶき荒れるレビアの外で行動ができるようにと作られた、ウィンターアンタゴンにも使われている素材である。
「何だその荷物は」
「まあまあ、話を聞いて頂戴。…とりあえず、来て貰えるかしら」
周りに仲間が数人いる事を確認すると、彼女は、周りに聞こえないように耳打ちした。
 不審に思いながらも、いつもと様子が違うことに、彼はおとなしくついていくことになった。
 そうして案内された先は、どういうわけか、ディースの部屋だった。
 あくまで仲間たちと主要メンバーが集まるための小屋にあるに過ぎないアジトだが、このアジトには、マスターや大体のオフィサーはここに部屋を持っていることになる。
とはいっても世界を旅する冒険者、オフィサーでもメンバーでも、数週間に一度、アジトに顔を見せればいいほうだ。
 だが、ギルドマスターのジン、そしてオフィサーのディース、ネイヴィー、シナモンは、このアジトにいる事が多い。
「入るわよ」
 彼女は、ドアを軽く二回たたいた。
中から返事はなかったが、人の気配がしたことで、彼女はかまわず扉を開けた。
 暗く、乱雑に物の置かれた部屋が、眼前に広がった。
入るとまっすぐにカーテンを締め切った窓が見え、窓際左に置かれた机には、やはり魔法書やゴミくずが散乱している。
そして、窓際の右側には、タンスや棚が置いてある。
そして部屋の中央に、どんと小さなベッドが置いてあるのだ。
 他にも物は置いてあるようだが、部屋には明かりがついておらず、黒い山がいくつか見えるだけであった。
そのベッドの上に、ディースはこちらに背を向けて座っていた。鎧を脱ぎ捨て、ハイネックのシャツにズボンという格好だった。
その脱ぎ捨てられた鎧も、床に散乱している。そこかしこに棚らしきものは置いてあるというのに、そこに置くということはしないようだ。
「お前、片付けるか掃除したらどうだ」
 ほこりっぽい部屋とこもったよどんだ空気に、ジンは窓を開けようと進んだところで、歩みを止めた。
ちょうどベッドの下、窓際側に、ちらりと、異物が見えたからである。
 それは、間違いなく人であった。
近寄ってみてみれば、それはあの青年である。
 リンドブルムと火山でやりあったときに、捕獲した盗賊、アイルである。
それが、床に転がっていた。
鎧は身に着けておらず、鎧の下にきていた黒服はびりびりに破かれ、そしてそこから見える肌は眼を覆うほどに傷つけられていた。
ズボンも所々破かれていて、それが鞭によるものだとわかったのは、胸に残る傷跡からだった。
「ディース」
ジンが口を開き、しかし続きを言おうとしたところで、ディースが遮った。
「言っておくが、死体じゃねぇぞ」
「何?」
 驚き、目を見開いた。
確かに、よく見てみれば胸は上下している。息をしているのだ。
部屋が暗くて、それ以外はよくわからない。
 カーテンを開けると、月明かりが入り、アイルと、ディースを照らした。
 アイルは、気を失っているようだった。
長い髪は床に投げ出され、後ろ手に麻縄で縛られている。胸は傷だらけであるが、少し治癒された痕があった。
 そして、彼の首には…
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309桜の木の下でまた逢いましょう:2008/01/08(火) 12:23:20 ID:9EIpOjiq0
※ナマ注意
初SS投稿につきお見苦しき点はご容赦下さい。
名前を書いてないのでオリジナルとして見て下さっても可です。
方言も適当です。

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310桜の木の下でまた逢いましょう:2008/01/08(火) 12:23:48 ID:9EIpOjiq0
春。満開の桜の下。少し散っている桜が地面に桜色の絨毯のようになっている。
「なぁ、桜の下には死体が眠ってて、桜はその人間の養分を吸って生きているんやて」
「血の色を吸ってあんな赤くなるんかな。オレが死んだら桜の木の下に埋めてくれへん?
ただ灰になるよりその方がええやろ」
「死ぬなとは言えへんしな。僕が止めても結局また危険な仕事をやるし。ずっと前からオマエの方が先に死ぬと思ってるよ」
「そん時は死体と一緒にジャンプ埋めてやるわ」
「ジャンプと心中か。オレはオマエが先に死んだらそれこそ後を追うよ。一人身だし、未練も無いし」
「僕は家族を置いて死ぬわけにいかないから」
「分かってるて。ああでも、オマエが先に逝くとオレを桜の下に埋めてくれるヤツがいなくなるな。やっぱりオマエが先にいなくなったら入水自殺でもするかな。海好きやし。水温に抱かれてるとオマエに抱かれてる気するんや、なんておかしいか?」
「それは笑ってええの?」
「笑ってええよ」
「おかしいな」
「ほんまや」
風が吹いて桜が舞う。それはまるで雪のように舞い踊る。
「来年もこの場所に来よう。そんで、来年も同じ事を話すんや。それがお互い無事な証になる。約束や」
「おう、約束やな」

僕達は子供の頃のように指きりげんまんをした。
死体を覆い隠すように敷き詰められた桜を想像した。
その想像はおかしく、僕は始終笑みを浮かべていた。
311桜の木の下でまた逢いましょう:2008/01/08(火) 12:24:16 ID:9EIpOjiq0
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312庭球皇子 亜科沢←水漬き(×双子弟):2008/01/08(火) 19:10:26 ID:ecKOKXXV0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
>>120-126で書いた、水漬き×双子弟←双子兄の続きです。
今回は亜科沢←水漬きで、最後にちょっとだけ水漬き×双子弟が入ります。
亜科沢が基督教徒なのは個人的な設定です。
(……台風、…号は今夜にかけて──、関東沿岸…都内、…暴風圏…)

 ぎゅぎュギゅぎゅう、と絞め殺されるような声をあげてそれっきり、ラジオは沈黙しました。
 寮の談話室のテーブルに置かれている、そのアヒルの形の防水ラジオは、柳沢くんのもの。
それを持ってきた当人はそこはかとない涙目で、背中の電源ボタンを切って、
すごすご部屋へ戻っていきました。
 さっきから風で揺れるだけではなく、飛んできた細かな砂がぶつかるせいで、
談話室の窓がぴしぴし鳴っています。
 テレビはとうに映らず、ぼくらに残された情報獲得の手段は、携帯電話かラジオの、ふたつにひとつ。
 悠太くんは先ほどまで毛布と一緒に、一晩中起きている!と窓外を見つめていましたが、
つき合わされていた兼田くんが船を漕ぎ出すと、諦めた様子で二人して部屋に戻っていきました。
 そして談話室には、ふたりだけになりました。
 ぼく。
 それから、亜科沢くん。
 彼は何も言いません。
 ぼくも、何も言いません。
「──何か、不思議な気分だな」
「……亜科沢くん?」

 1分と23秒の沈黙が、フローリングにひたひたと降り積もる頃、彼は口を開き、ぼくは応じました。

「はえぬき組と補強組。
 …──こんな風に、普通に話せるようになったの、最近だろ」

 そういって、彼は懐かしいものでも見るように、視線を窓外に移しました。
 亜科沢くんが言っているのは、ちょうど1年ほど前のこと。ぼくらがまだ2年生だったころのこと。
 聖ノレドルフ学院中学校、男子テニス部の双璧、はえぬき組と補強組。
 何を切っ掛けとしてなのかは、未だに理解できないところではありますが、
互いに切磋琢磨すべき選手たちの間に、微妙な軋轢、わずかな溝が生じていた時期がありました。
 表立った諍いこそ無くても、ぎくしゃくとしたふたつの意思の噛み合いはうまくいかず、
結果としてその年、聖ノレドルフは成績を残すことが出来ませんでした。
 このままでは、はえぬき組と補強組、共に割れてしまうのではないか──ぼんやりとした危惧を
抱きながらも、ぼくは何も出来ずにいました。今にして思えば、先輩方の引退や引継ぎなどに追われて、
あえてその動かしがたい事実から眼をそむけていたように思います。
 落ち葉が盛んに舞って、教会の屋根に滑り降り、かさかさと歌う12月の始め。
 1年の時に同じく、クリスマス礼拝で賛美歌の歌い手として選ばれたぼくは、
少し時期が早いかと思いながらも、部活の休みを見計らって、練習のため教会に赴きました。
 そこに居たのが、彼でした。
 急速に傾いていく午後の陽射しは、正面に掲げられた十字架の影を、跪く彼の背中に投げかけていました。
 時折のちいさな金属音は、ロザリオを手繰っているからでしょう。
 そして、漏れ聞こえてくる天使祝詞。
 部活で見かける彼の姿からは、正直なところ想像できない、敬虔そのものの姿でした。

 ぼくは祈りが終わるのを待って、彼に声をかけました。
 そして、日がとっぷりと暮れて闇が落ち、見回りのシスターに見つかって怒られるまで、
ふたりで長い長いこと、話をしました。
 テニス部の分裂の危惧や、成績を残せなかった悔しさや、現状を打破できない煩悶。
ぼくはそんな事柄を、ひとしきり彼に訴えたように思います。
 彼はそのひとつひとつに丁寧に同意し、同じ気持ちであると答え、
暇を見つけてはこっそりこの“お聖堂”に来て祈っていること
同じ気持ちのみづきに会えてよかったということを言い、
これからよろしく頼む、そういって頭を下げさえしました。

 ぼくの全ては、あの日から始まったのです。
「みづきには色々苦労かけたよな。……いつも有難いと思ってる。
 俺、部を引っ張っていくんなら何でも無いけどよ、難しいことになると──色々ダメだ」
「……亜科沢くん」

 ──かれは、例えて言うなら、絆創膏のような人です。
 体を張って、だれかの傷口を守れる人です。
 そんなかれだからこそ、ぼくは。

「…部長がそんな弱気を出しては、他の部員に示しがつきませんよ」

 ぼくは、そこで初めて、亜科沢くんを見ました。

「だから、胸につかえていることがあるなら、ここで全て吐き出しておしまいなさい。
 ──今日、この時間だけは、聞かなかったことにして差し上げますから」

 亜科沢くんは顔をゆがめ、泣き笑いのような表情で、
一言だけ──「ありがとな」と言ったきりでした。
 でもぼくには、ただそれだけで、充分でした。
 背後でほんの少し足音がし、気配が動いたのを、亜科沢くんが気付かねばいいと思いました。
 この、仄かに甘いぬくもりを持った時間が過ぎれば、“彼”の笑う声が、傷口を灼くオキシドールのように、
ぼくをさいなむに違いないのですから。

「──木更津くん。立ち聞きとは良い趣味ではありませんね」

 そしてぼくは、苛立ちの痛みに耐えながら、“彼”を部屋へ伴って、

「これは君への罰です。服を脱ぎなさい」

 また、実の無い快楽(けらく)を貪らねばならないのでしょう。
318庭球皇子 亜科沢←水漬き(×双子弟):2008/01/08(火) 19:17:49 ID:ecKOKXXV0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

やっぱり感想があるとモチベーション上がるね。
お付き合いいただきありがとうございました。
まだまだ続きを考えてるけど、今日はここまで。
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  モララーのビデオを見るモナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  きっと楽しんでもらえるよ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「はーくしゃくー!!」
アメリカのチャイナタウンにある、小さなペットショップ。
何でも取り揃えているという店に、今日も乱暴な刑事が足で扉を開く。
名はレオン=オルコット。これでも刑事だ。
「なんです、また!足で扉を開けないでくださいとあれほど!」
ちょうどティータイムだったD伯爵は、むかむかと席を立ってレオンに怒鳴りつけた。
ドアは壊れなかったが、きっちり足跡がついている。
「あん?まあそうおこんなよ、ホレ」
と、差し出されたものは、有名洋菓子店のケーキワンホールだった。
「ああっ、それは!!はい、刑事さんそこに座って、お茶を今お出しします」
(ちょろいな)
いそいそとレオンの分のお茶を用意するあたり、まんざらでもないようだ。
「そういや、なんだっけ、えーと、あの素菜(スーツァイ)作ったー…」
ぴた、と、D伯爵の行動が止まる。
「ああ…ミスター王(ウォン)ですか?」
ゆっくりふり向いて、レオンの前にお茶を置いた。
全部が野菜でできているという精進料理を作り、水中百花杏仁豆腐で伯爵の心を射止めた人物の名である。
「そーそー、そいつ。どうなんだよ、どーせアレから連絡ないんだろ」
けらけらとお茶を飲みながらその話題に絡んでくる。
…が、実は内心気が気でない。
あの男、ただならない。それに、甘味でD伯爵はすっかり王の掌中だ。
「いえ、今日も夕方からお誘いがありますが」
その言葉に、思わず茶を噴出すレオンだった。
「あなた、お茶もきちんと飲めないんですか」
呆れ顔のD伯爵の肩をつかむと、大真面目な顔で、レオンは問い詰めた。
「あのよ、誰がどの場所に行こうと勝手だけど、お前何もされてないよな!?もしくはされる予定はないよな!?」
「されていますよ」
「へ!?」
一気に胸に絶望が広がる。
珍しくしゅんとしていると、D伯爵が手を合わせて、うっとりとつぶやいた。
「ああ、今夜はどんなお菓子が食べられるのでしょう、楽しみです。それはそれは素敵なおもてなしをされていますよ」
なんだ、そういう意味か、と、ぽりぽりと頭をかく。
「それが、何か?」
にっこりと微笑む。その笑顔からは何も読み取れない。
「そのうち…ディーが食われるぞ」
「構いませんけど」
またもにっこりと笑む。
その言葉を気に入らないのがレオンだ。D伯爵から離れると、あからさまに不機嫌になりながら、茶をあおってタバコに火をつけた。
けれど正直、鈍いレオンには、なぜこんな感情がうまれるのかは分からなかった。
ただなんだか腹が立つ、D伯爵の浮かれ具合が気になる、まるで珍しい動物を見つけたかのような喜び方。
 実際、珍しい動物を見つけたから嬉しいのであって、お茶の話に乗っているのだが、口が裂けてもそんなことは言わない。
けれど。
レオンがこうして心配してくれることは嬉しい。
「ありがとうございます」
柔らかい声で、そういった。
「あ?」



それから数日がたつ。
世間では死体が出る事件であふれている。ああ、と思った。
この男の仕業だ。
王の手がD伯爵の滑らかな素肌をすべる。
「ワインには処女の生き血を」
服が脱がされて行く。
自然と目を瞑る。
「伯爵、あなたの肉はとろけるように甘いことでしょう」
刃物が振り下ろされようとしているのが分かる。
どこが切られるだろう。
肩?首?腹?
このトウテツに切られるなら悪くない。

D伯爵は、ペットショップに王を招いていた。
いつもは招かれている側だから、たまにはと。
そこで口付けされて、ソファに押し倒された。
食われるかな、と、思ったが、それでも構わなかった。
トウテツだ。あの幻のトウテツが手に入るのなら、食われても構わなかった。
このトウテツになら…。
 振り下ろされるのかと思っていた包丁は、弾丸によって弾き飛ばされた。
「!」
「そこまでだ王!伯爵から離れろ!」
レオンの声だった。同時にばたばたと、警察官たちが押し寄せてくる。
あっという間に、王は逮捕され、拘束された。
殺人罪だそうだ。彼のアパートから死体がゴロゴロ見つかったらしい。そう、レオンは話した。レオンに起こされ、身支度を整える。
殺人。そんなことは予想がついていた。
 ただトウテツさえ手に入ればよかったのに、すんでのところで邪魔が入った。
「…いいところだったのに」
と、D伯爵は言った。
「このオタンコナス!!」
レオンから本気の罵声が飛んでくる。
だがレオンからすれば、D伯爵が犯され、文字通り食われる前でほんとに良かったと思っていた。が、やはりこんなことは言えない。
しかしそんな危ない男にほいほいくっついて行くD伯爵もD伯爵だ。
一発殴ってやりたい。
 D伯爵はそっと部屋から出た。ちょうど、誰もがこちらを注目していないときだった。
「刑事さん」
「なんだよ」
まだ怒っている。
そんなレオンにくすりと一つ笑うと、いつもの笑みはどこかへ消え、心から笑っているかのような笑顔になった。
「お?な、なんだよ」
「いつもありがとうございます」
少し背伸びすると、そっとレオンの唇に自分の唇を重ねた。
「!!な、なななななななな!?」
思わず驚いて後ずさりするレオンに、D伯爵も困ったように笑う。
「お礼です。嫌、でしたか」
「いやっ、別に、ああ、もう!事情聴取するからそこで待ってろよ、ディー!!」
「はい」
顔が真っ赤になってるレオンが少し可愛いと思えてしまう。
明日またペットショップに来たのなら、美味しいお茶をご馳走しましょうか。




 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ああ、最初に言葉入れ忘れた!
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
旧も見たいといってくださる方がいたので書いて見ましたが、
伯爵デレてます。
このあと伯爵似のアジアン雑誌でピーしてしまうレオンまで想像しました。
お粗末さまでした。新の方の感想ありがとうございます!
325風と木の名無しさん:2008/01/08(火) 20:08:27 ID:QmCQ1il/0
>>324
わあああねえさんGJ!!
刑事のぞっこんっぷりがかわゆいよ!!
もちろん伯爵も!!
326風と木の名無しさん:2008/01/08(火) 20:26:08 ID:kcq7ek4TO
>>288
GJ!電話組が見れるとは思わなかった。イイハナシダナー
327風と木の名無しさん:2008/01/08(火) 21:37:44 ID:Lea3zaxkO
>>324
GJ!!姐さん仕事早い…!

刑事さん懐かしい…太子とはやっぱり微妙に違うなー
刑事はまだ伯爵探して世界中うろちょろしてるんだろうなw
328風と木の名無しさん:2008/01/08(火) 21:44:56 ID:dlsmMsjQO
>>312
前作に『亜科と水の話も読みたい』と希望した者です

ありがとうありがとう
勇気出してレス付けてよかった
今度も萌えた
亜科澤カコイイよ亜科澤
329風と木の名無しさん:2008/01/08(火) 22:44:20 ID:yRAdRqKh0
>>324
GJ!ありがとう、旧のほうも萌えた!
刑事いいよ刑事
330風と木の名無しさん:2008/01/09(水) 01:43:01 ID:BEdp2sE7O
>>324
新しか知らなかったが旧も買ってくる。
331風と木の名無しさん:2008/01/09(水) 02:14:47 ID:yti8r4KY0

一部方のご要望にお答えしてみました
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 16スレ02続きらしい
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 今更!!
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
332遊戯03 @:2008/01/09(水) 02:17:11 ID:yti8r4KY0
 夢を見た。
彼が僕に「ずっと一緒にいたい」と言ってくれる夢。
いつも遠めに見てきたその手で、僕の手をそっと握る。
そしてにっこりと笑い、照れくさそうに
「ずっと一緒におろう」と言ってくれたのだ。
その瞬間、それはそれは嬉しくて、
30を過ぎた大の大人が恥ずかしげもなく涙を流した。
握ってくれたその手は想像していた以上に温かくて、
でも、もっともっとそのぬくもりが欲しくて、
「痛い痛い!」と彼が思わず声に出すほど
強く握ってしまう。
「そんなに強く握らんでも大丈夫やって」
そう、いつもの様に彼はにっこりと笑って見せた。
 でも、僕は知っている。
本当に彼がずっと一緒にいてくれることなんてないって。
だから、この手のぬくもりも、ここにある彼の笑顔も
ちょっと目を放した隙になくなってしまうんじゃないかと思って、
僕は怖くて瞬きすらできない。
消えないように消えないように祈りながら、
その手をいつまでも強く握る。
333遊戯03 A:2008/01/09(水) 02:17:54 ID:yti8r4KY0
 ふと、自分の手見ると先程までなかった腕輪のようなものがついている。
ほら、よくアニメとかであるような。
壁に鎖が繋がれていて、手首を絞めて拘束するやつ。
いつの間にそこに作られたのか、そしてつけられたのか、
それらは僕の手首をしっかりと繋ぎ離さない。
束縛にいくら抵抗しても、カシャンカシャンと渇いた鉄のだけがあたりに響き
僕はその場から動くことができない。
 そして僕は、彼との別れを予感し始めていた。
気づけば、彼は惨めな姿の僕を見下ろしていた。
さっきまで、手を繋いでいた時と変わらない笑顔で。
そして、ゆっくりとその場を立ち去る。
別れの時が訪れたのだ。
334遊戯03 B:2008/01/09(水) 02:19:47 ID:yti8r4KY0
少しずつ遠ざかっていく愛しい背中に、僕は叫ぶ。
 
  好きなんです。

歩みは止まらない。

  好きなんです。

歩みは止まらない。

  ずっと、あなたを見ていたんです。

地面ににじむ涙を見ながら、届かないと知りながら、それでもなお呼び続ける。


  蟻野さん。
  蟻野さん。

愛しい人の名前を無限に叫び、

  僕を、僕を愛して。

それでも、歩みは止まらない。

  例え、明日それがなくなってしまってもいいから。

徐々に足音は細く、小さくなっていく。
335遊戯03 C:2008/01/09(水) 02:20:56 ID:yti8r4KY0
  永遠なんて望まないから。
  
そして徐々に、

  今だけだっていいから。

僕の声も、願いも、望みも小さくなっていく。

  一瞬だっていいから。

そして彼の背中も小さく消えていく。

  だから。
  お願いだから…!!!

 既に見えなくなった背中に向かって。
声にならない声を絞りながら叫び続ける。
出られぬ巣から二度と還るはずのない親鳥を呼び続ける雛鳥のように。



 目が覚めて、起き上がると着ていた寝巻きが
汗でぐっしょりと濡れていることに気がつく。
どうしようもない恋をしてしまったのだな、と思った。


   ◇   ◇   ◇
336遊戯03 D:2008/01/09(水) 02:21:52 ID:yti8r4KY0
 今日は、収録の日。
あの日から、何度か蟻野さんと顔を合わせてはいるが
特に変わった様子はなかった。
向こうから話しかけてくることもないし、
僕も特に用事がなければ話しかけることもなかった。
まるで、何事もなかったかのような時間が過ぎていた。
 もしかすると、僕が一方的に気にしているだけで、
彼にとってあの日の出来事はなんてことないことだったのかもしれない。
そんなことを考えれば考えるほど、僕は正常を保てなくなる。
どうしても、いつものように接しているつもりなのに
意識しすぎていてうまく笑うことすらできない。
仕事では普段ありえないようなミスをしてしまったりして、
後輩のシ甫川にフォローされている始末。情けない。
 「蟻野さん、はいられまーす」
気づくと、いつの間にか部屋に全員が集合していた。
しまった。またボーっとしていたようだ。
 「おはようございまーす。」
彼だ。
すらっとした長身に、いつも通りグリーンの作業着。
朝が早いせいか、低血圧の不機嫌そうな顔だ。
彼の周りにスタッフが集まり、打ち合わせを始める。
打ち合わせの間もチラチラと彼の顔色を伺うが、
僕を気にかけるような様子はない。
337遊戯03 E:2008/01/09(水) 02:23:20 ID:yti8r4KY0
 当たり前だ。
彼は番組の主演。
僕は番組のスタッフ。
この関係は変わることなんて一生ないのだ。
そんなこと、わかりきっているだろう?
何を期待しているんだ。
あの夢のような出来事が、起こるとでも思っていたのか。
 あの日のことは、気の迷いだったのだ。
だから、忘れろ。
 ありえない何かが起こって、
 ちょっと違う世界へ二人で迷い込んでしまったのだ。
だから、忘れろ。
 現に、彼も何てことない顔で僕に接するじゃないか。
だから、忘れろ。
 何かが変わることなんて、絶対にないのだ。 
だから、忘れろ。
頼むから、忘れてくれ。
 首を何度も横に振って、仕事モードへ切り替える。
プロとして仕事をこなすんだ。
しっかりしろ。真―郎。
自分を見失うんじゃない。
剣道をしていた時の、あの自分を思い出すんだ。
そう、出来る。
今までだって、どうしようもないことを乗り越えてきた。
大丈夫。
忘れられる。
あの日のことも。
この気持ちも。
忘れるんだ。
338遊戯03 F:2008/01/09(水) 02:24:59 ID:yti8r4KY0
 収録は順調に進行し、いつもより早い時間に終えることができた。
彼と何度か収録中に話をしたが、特に変なところもなかったと思う。
ほっと胸を撫で下ろして、機材の片づけをはじめていた。
この数時間でいつもの自分を少し取り戻せた気がする。
大丈夫。
普通にしていられる。
これが、いつもの自分だ。
 「トウジマ、ちょっとええか」
心臓が止まるかと思った。
振り返ると、夢と同じように僕を見下ろす彼がそこにいた。
「はい、なんでしょうか」
なんとなく、居心地が悪く感じて立ち上がる。
「次回のロケの話やねんけど…ちょっと外で話そうか」
と、言うと返事を待たずに部屋を出て行ってしまった。
その表情からは何も汲み取れなかった。
機材を簡単に片付けて、彼の後を追う。
 廊下へ出ると、彼の後姿が見える。
また夢の光景とダブって見えて、僕は急いで彼の背中を追いかける。
すると、夢とは違い、彼は振り向いて
「そんなはしらんでええのに」
と笑ったので、僕もつられてわらった。
 局内の小さな打ち合わせ室へ入る。
部屋には小さなテーブルと、椅子が4つ。会議用のホワイトボードがある。
僕たちは向かい合ってテーブルにつく。
「あ」
「どうしたん?」
「仕事の話ですよね、コーヒーでも入れてきます。」
立ち上がって、部屋を出ようと扉に手をかけた、その時だった。
339遊戯03 G:2008/01/09(水) 02:25:57 ID:yti8r4KY0
 「ほんまに、仕事の話やと思ってたん?」
理解するのに少し時間がかかった。
その言葉の意味、そして、
彼に後ろから抱きしめられている、この現実に。
「こうして欲しかった?」
ぎゅうと、彼が強く僕を抱きしめる。
「なあ、トウジマ。」
温かい息が僕の耳にかかって、ぞくぞくする。
「ふふ」
ドクンドクンと熱く血が通う。
「気づいてた?」
彼の手が、ゆっくりと僕の頬に触れた。
「トウジマが俺と話す時な、」
そして、指が僕の髭を弄ぶ。
「めっちゃもの欲しそうな顔してんで」
その言葉にどきりとする。

 仕事モードに切り替えて、あの日のことは忘れて仕事をしていたはずなのに。
 そして、あの日のことはもう忘れてしまおうって思ったのに。
 なのに、僕はもの欲しそうな顔をしていた…?
 あれほど、自分に言い聞かせたのに、忘れるって決めたのに。
 それに反して、僕は物欲しげな顔で彼を見ていたと言うのか。
340遊戯03 H:2008/01/09(水) 02:29:05 ID:yti8r4KY0
 あまりの恥ずかしさに、俯こうとするが彼がそれ許さない。
後ろから抱きしめられているので、表情はわからないが、
さぞ嬉しそうに笑っているに違いない。
 ゆっくりと、指先が僕の唇に触れる。
僕は彼に触れられる場所、すべてがビリビリと痺れていく。
とても恥ずかしいことを言われているのに、反論したいのに、
まったくと言っていいほど体が言うことを利かない。
それどころか、もっとして欲しいと願ってしまっている。
 だめだと、わかっているのに。抵抗しなきゃいけないのに。
 忘れなきゃいけないのに。
 身体は、心は、自分が思っているよりも正直に反応してしまう。
彼の指先が、唇を割ってゆっくりと僕の口内へ侵入してくる。
指先はくちゅくちゅと舌や唇を弄び、ただそれだけの行為なのに
そのあまりの気持ちよさに僕はだらしなく唾液をこぼす。
「・・・う・・・あぁ・・・!!」
ねっとりと指を差し込んだり、抜いたりするたびに、
くちゅぬちゅといやらしい音をたてる。
「トウジマの唇、めっちゃ柔らかい」
濡れた指先で唇を優しく撫でた。
 すると、身体が急に開放される。
急な出来事に振り返ろうとするが、足に力が入らず僕はドスンとその場へ腰を下ろしてしまう。
「情けないなぁ」
そう言って、彼は俺の顔を覗き込む。
 また、あのときの目だ。
なんだろう、この目は。
見たことなんてないけど、獲物を見つけた野獣って
きっとこんな目をしてるんじゃないかって思う。
見つけた獲物を、確実に落とす。落とせる。
 絶対的な支配者の目。
その目で見られると、僕はたまらなくぞくぞくする。
そして、もう何もかもどうでもよくなってしまう。
あの決意も。決心も。何もかもが彼の前では無効化されてしまう。
341遊戯03 I:2008/01/09(水) 02:30:51 ID:yti8r4KY0
 そうだ。
最初から僕はこれを望んでいたのだ。
忘れたくなんてなかったんだ。
でも叶うはずなんかないって諦めて、僕を縛っていたのだ。
 夢で僕を繋いだ鎖。
あれはきっと、僕の「諦め」。
叶うことのない、現実に向き合うことの出来ない僕の出来るたった一つの手段。
それを理解した瞬間、鎖がガシャンと切れる音が聞こえた。
 「その顔や。」
再び、指先が唇に触れる。
「なんて顔しとんねん」
ゆっくりと口を割って、侵入してくる。
「『もう、どうにでもしてください』って顔して」
彼の顔が、僕の目の前にまできていた。
「そんな顔されたら…」
にっこり笑って、いつもの蟻野さん。
その笑顔が、消える。
「むちゃくちゃにしたなる」

 あぁ。
きっと、後悔するだろう。
先のない、この関係を。
でも、今だけは。この瞬間だけは。
終わりも、この先についても考えない。
落ちるところまで、落ちてやる。
例え僕が僕でいられなくなったとしても。
もう僕は、僕を縛らない。

 そして、その日。
僕は彼に抱かれた。

   ◇   ◇   ◇
342遊戯03 J:2008/01/09(水) 02:33:17 ID:yti8r4KY0
 「早かったなぁ」
よいしょ、とゆっくり立ち上がって笑いかける。
「さすが、出来すぎ君やな」
「茶化さないでください」
僕は少しも笑わずに手に持ったビデオテープを差し出す。
「どういうことですか」
「見てのとおりや」
「見てのとおりって…こんなの…ありえません!」
思わず声が大きくなる。
もっともっと何か言ってやりたいのに。
でも、何をぶつければいいのかわからなくて、
俺は彼の顔を睨みつけることしか出来ない。
そんな俺を見て、彼は笑った。
その笑顔は、いつもの蟻野さんではない。
何故だか、そう思った。
 
 「ゲームをしよう、シ甫川。」
異様に落ち着いた声だった。
「お前が勝てば、トウジマは返したる」
俺と彼の距離が徐々に縮まる。
「でももし、負けたら」
一呼吸おいて、彼の口元がゆがむ。
「俺は、トウジマを殺す」
 狂った遊戯の幕開けだった。
343遊戯03 終:2008/01/09(水) 02:35:38 ID:yti8r4KY0
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ なおも続く
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ゲー夢の方々に捧ぐ。
気になるビデオの中身とかは次にw
        _________
       |┌───────┐|
       |│l> play.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
   ∧∧
   (  ,,゚) ピッ   ∧_∧   ∧_∧
   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |            ┌‐^──────────────
  └──────│犬になりました。
                └───────────────
「…首輪…?」
それは、動物を繋ぎとめておくための、首輪がはめられていた。
 ディースがにやりと笑った。
冷たく、悪魔のような笑い方に、背筋が冷たくなる。思わず、ジンは眉をしかめた。
その首輪から出た鎖を手にしているのは、彼だった。
「俺の、犬だ」
「…犬だと?」
 喉の奥が乾く。
ジンは自分で気づいてないのだろうが、今、彼はディースを見据える目は、侮蔑を帯びたまなざしだった。
「まあ、駄目よ!可哀想に。ベッドに寝かせてあげなさいよ」
 ネイヴィーは部屋のランプに火をつけ、状況を確認すると、慌ててアイルに駆け寄った。
「床で良い。言っただろ」
ディースは冷たく言い放った。
 ネイヴィーは、少しむっとしながら、持っていたものを床に置き、身をかがめる。
固い床に寝転がされたアイルを抱き起こすと、もっていた毛皮を床に敷こうとしていた。
 だが、細身とはいえ男の体は重い。ジンは、アイルが身動きできない状態にあり、意識もない事を確認すると、彼女に代わってアイルを持ち上げた。
 間近でみるアイルの顔は、思ったよりも女性的だった。
髪型のせいもあるのかもしれない。
少し幼さをのこしているが、年齢的にはディースとあまり違わないのだろうと、彼は思った。
(アイル、と、呼ばれていたか)
 火山での記憶が蘇る。
最高衣服の『あの戦士』は、仲間を傷つけられたことに憤りと焦りを感じていた。
 仲間を逃がそうと、そして彼らが無事に逃げきれると確認するまでは、盾になるつもりだったのだろうか。
結局、油断していたアイルはシナモンのクロスモノボルトによって、気絶してしまった。
 同じくその一撃でもう一人も怪我を負い、人数的にも自分たちの状況があまりに不利と判断して、仲間を残して逃げた戦士。
それは、ジンも同じ状況に置かれたら同じ事をしていただろう。
(奴は、私に気づいたか?)
それはわからない。だが、一度ジンを見て、顔色を変えた様に思った。
(あいつに可愛がられていたか)
ジンは、ぼんやりと思った。表情は、哀愁を漂わせていた。
「ジン、できたわ、彼をここに」
 その言葉に、現実に引き戻される。
 先ほど彼が寝かされていた床は、毛皮を数枚重ね、さらにその上に毛布を敷かれた寝床に変わっていた。
 そこにアイルを寝かせると、ジンは問う。
「同居でもするのか?」
「言ったろ。犬だ、『飼育』するんだよ」
「飼育…?」
理解しがたい。
 敵対相手、捕虜とはいえ、それに首輪をつけて鎖でつないで、犬とは。
地下でいったい何をしていたのか、それはジンにはわからなかったが、それ以上問うようなことをしても、それは無駄だろうと判断した。
 実際、そこまでアイルについて興味が湧かなかった。
そのまま本当に犬とするのか、それとも殺してしまうのか、もしかしたら…、アイルが自力で逃げ出すのか。
 逃げ出されては面倒なことになる可能性は高いが、ジンはそこまで気にとめることはないと感じた。
「面倒は、起こすなよ」
ぽん、と、ディースの肩を軽くたたいた。
ディースは軽く笑った。

 アイルが捕らえられて半日が過ぎた。
木の葉に彩られたミルレスの、それも奥のほう。スコルピオのアジトが見た目ただの民家と変わらないように、リンドブルムのアジトも一見するとそれとはわからないようになっていた。
 だがそこは冒険者の出入りが激しいので、慣れた者にはわかるだろうが。
名のあるギルドなら、アジトなんていくらでもある。それは町の中であったり、森の中であったりと、さまざまであるから、見つけにくいといえば見つけにくい。
そのリンドブルムのアジトには、主要メンバーが集まっていた。
 アイルを除いたオフィサーと、マスターのジーク。そしてロア。
ロアの怪我は、傷が意外にも浅く、そして聖職者の治癒と自らの体力の高さによって、今はかなり回復していた。
机を囲み、ジークを中心として座る。
 そこでジークは、机に腕をつき、しきりに舌を鳴らしていた。
それは誰が見てもわかるように、焦りを感じているものだった。
その隣、ロアも、いつもの陽気な表情から一変、険しい表情をしていた。
焦っているのだ。
「…ちっ…」
ジークが、腕を組みなおしてため息をついた。
「ディース達につかまったって、それじゃあどうなるの?」
ギルドメンバーの一人が、不安げに、つぶやいた。
「…、ジーク、早く何とかしないと、アイルの命が危ない」
ロアが、ジークに言った。
「…わかってるさ、相手が相手だ…」
「なら、行動に出ようぜ!いっそ、スコルピオ潰すとか!」
 自分で言ってても、ずいぶんと無理なことを言っているのはわかった。
スコルピオに属す人間の数は、以前聞いただけでも、今のリンドブルムの二倍は軽くいた。それも当てにならないうわさではあるが、スコルピオは普通じゃない人間の集まり。
 実力もかなりのものが集まってるという。
「…無茶言うな…」
そんな事をすれば、アイルの命だけではすまない。
当然、ジークとしては、アイルを無事に助け出したいし、それでいてスコルピオとこれ以上関係を冷ましたくはなかった。
完全に敵に回したくはなかった。
「けど、アイルが…、あいつらは、簡単に人間を殺すような奴らだろ?アイルの命が、…」
 命だけ?命だけですむのかな?
ふと、ロアはそんな事を思った。
「命だけですむのか?」
ロアが、ぽつりと言った。それは表情のない顔で。
「…ロア?」
「なあ、もしも、アイルがここの事を喋ったらどうなるんだ?」
 アジトのこと、リンドブルムの情報、それらについてを全て話してしまったら?
 今こそ、スコルピオに完全に目をつけられていないからこそ、リンドブルムもここまで続いてるようなものだ。
 だが、もしもそれらを知られて、目をつけられてしまったら?
「ロア!」
ジークが、噛み付きそうな勢いで大声をあげた。
 びくっ、と、皆は目を丸くした。
「ごめん…、でも、俺も心配でさ…、アイルのことも、ここのことも」
「ロア、落ち着け、ディースはわからないが…、スコルピオのギルドマスターはそんな奴じゃない。むやみに命は奪おうとはしないはずだ」
ジークが、落ち着かせようと優しく言葉をかけた。
「え?」
 ロアは、その言葉に何か違和感を感じた。
同時に、ジークも、自分の言葉に驚いていた。

場所はレビア、スコルピオのアジト。
 外は雪が降り積もり、レビアの外は完全な吹雪だった。
 吹雪と雪のせいで、いっそう夜は冷え込んだ。
だが町は明るい。町の中心から外れたこのアジトからも、その明るさはよくわかった。
 二階のディースの部屋はどうなっているか?
相変わらず、物が乱雑に置かれた部屋の中、ランプがひとつだけ明かりを灯されて吊り下げられている。
 黒い人影が、二つあった。
一人はディース。一人は、アイル。
アイルは、ネイヴィーによって作られた寝床の上、体を丸めて蹲っていた。
首輪をつけられて、その鎖がディースのベッドの足につながっている。
 アイルが動くたび、ジャラジャラと重い音を立てた。
 ディースを見つめるその目は、恐怖の色を浮かべていた。
殴られたのか蹴られたのか、彼の頬や額にはあざがあり、その拍子に口内をきったのか。
口の端に血がにじんでいた。
 わずかに肩が震えているが、それを抑えようと必死なのだろう。
縄の痕のついた手で、肩を抑えていた。
「首輪を外そうとしやがったな!」
 アイルの胸倉をつかんだ。
ディースの怒り狂った顔があまりにも近くて、今にもかみつかれそうである。アイルはぎゅっと目を瞑った。
 起きたら、知らない部屋にいて、一人きりだった。
首には首輪がはめられていて、そこから重い鎖がベッドに向かって伸びていた。
手首には何もなかったが、今まで縄をはめられていたのか、痕がついていてひりひりと痛んだ。
生理的に、首輪をはめられるのは嫌だった。外せるものなら外したい、そうして首輪をいじっていたときに、ディースが入ってきたのだ。
「お前は犬だ、その犬である証を、とろうとしたな!」
 バシッ!と、乾いた音が部屋に響く。それが何度も、何度も。
アイルを殴る音はやまず、そのたびに彼は小さくうめいた。
「うぐっ!!ご…ごめんなさ…」
 おびえる彼の顎をすくうと、目をまっすぐと見つめて、ディースは言う。
「良いか?何故お前がここにいると思う?お前は捕まったんだ」
呆然と、その言葉をただ聞いている。
          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) エロスまでもうちょっとかな
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                |
  └────────────────┘
351風と木の名無しさん:2008/01/09(水) 23:03:56 ID:I/edBAya0
>>331
うわぁぁぁ!どS蟻たまんねー!某スレじゃNGなネタがココで読めるなんて…
前の話も読んだよ!イイヨーイイヨー!続き楽しみに待ってます!
でも念の為機種依存文字は控えて下され…
352風と木の名無しさん:2008/01/10(木) 04:18:55 ID:Boy5lEBb0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  一応元ネタありだけど捏造全開なのでオリ扱い
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  おっさん×青年。船体みたいなものと考えていただければ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
353半オリジ おっさん×青年 1/3:2008/01/10(木) 04:20:57 ID:Boy5lEBb0
彼が、いなくなった。
ずっと己の信念のために生き続けてきた彼。
そしてそのために、彼は宿敵と相討ちになった。
それを見届けたのは、俺1人だった。

彼の遺言は「俺が今日から彼の役目を継ぐ」ということだった。
――身勝手だよな。運命に押し潰されそうだった俺を救ってくれたのは、あんただったのに。
そして散々愛しておいて、今度は俺にその宿命を押し付けるというんだから。
けれど、そう言った時の、決着をつけた時の彼は、とても澄み切った表情をしていた。
だから、彼は満足していたということだから。
354半オリジ おっさん×青年 2/3:2008/01/10(木) 04:22:07 ID:Boy5lEBb0
けれど、そうも行かない。
メンバーは、前々から知ってる連中ばっかだけど、彼がいなくなった、彼の代わりが俺、ということに納得が行っていなかった。
だから、衝突も起こる。
「てめぇ、何ださっきの無様な動きは!」
「うるせぇよ! こっちはこっちで必死にやってんだ!」
「気合だけでどうにかなるなら世界はとっくに平和になってるし、奴も死ななかったさ」
「…………!」
何も言い返せなかった。
彼はかなりの精神論者で、そして純粋に身体的にも強かった。
けれど、戻ってこない。もう二度と。
そして、とても優しく、時に厳格な父親のような人だった。
俺は彼を愛していた。けれど、他のメンバーも彼が大好きだった。
だから、許せないんだろうと思う。
「俺とあいつとの決着はまだついてねぇ……なのに、逃げやがった!」
「逃げたんじゃねぇ! だいたい、決着つけられなかったのがお前だけだと思うのか!?」
俺だって、メンバーじゃないけどあの人と一緒に戦っていたんだ。
そして、こんな結末、俺は望んでいなかった。
俺が好きだったのはあんたの役割じゃない。あんたがあんただからだよ。
欲しかったのは、あんただったんだ。ずっと一緒に、戦っていたかったんだ。
殴り合いの喧嘩に発展したが、誰も止めようとしなかった。
お互いが武器を取り出した所で、ようやく仲裁が入った。
このままだと、マジで殺りあいになるから。
355半オリジ おっさん×青年 3/3:2008/01/10(木) 04:23:55 ID:Boy5lEBb0
部屋に引きこもっていると、さっき喧嘩を売ってきた奴が訪ねてきた。
「……さっきはキレちまって悪かったな」
「いや、先に喧嘩売ったのは俺だ」
「…………認められる訳ねぇよな。あの人の後釜がこんな単純熱血バカで」
「それもあるが……俺はお前の戦いの姿勢を言っている」
「え?」
「前お前と殴り合いをした時はもっとキレがあった……あいつの代わりに、あいつらしく、ってずっと考えてるだろ」
「まあ、そういう所あるかな……」
「お前はお前であいつはあいつだ。縛られるな」
「そう言っているあんたも未だに縛られているみたいだけどな……あの人のこと、好きだったんだろ?」
「……くっだらねぇ。そういうお前はどうなんだ」
「大好きだったよ。愛していた……ある意味一つになった、ってことかな。魂を受け継いだんだから」
「魂なんてない。あるのは生きている今だけだ」
「そっかも、な……」
部屋に置いてあった酒を注ぐ。
「……飲むか?」
「奴の酒だろう?」
「好きに使ってくれって、言われているから」
「そうか……なら好きにさせてもらおうか、俺も……確かお前がタチであいつがネコだったんだよな」
「!! ま、まさか……! つか何で知ってるんだ!」
「ネコの気分、味わってみろよ。もうあいつとは出来ないんだしな。それにあいつは俺に対してもネコだった。少し強引な手を使ったがな」
「最悪だ、あんた……!」
「…………傷を舐めあうくらい、別にいいだろ……大人しくしてろ」
356風と木の名無しさん:2008/01/10(木) 04:25:50 ID:Boy5lEBb0
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 勢いで書きますた。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 好きなカプに脳内変換するなり何なりどうぞ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
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357風と木の名無しさん:2008/01/10(木) 07:36:01 ID:lm7wnzk70
>>352
自ジャンル(ローカルヒーロー)の妄想に利用させてもらった
・・・何だか申し訳ない気分だけど。

>気合だけでどうにかなるなら世界はとっくに平和になってるし、奴も死ななかったさ
この会話が好きだ。すごくツボに入った
358風と木の名無しさん:2008/01/11(金) 02:39:14 ID:exVZeZwG0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  封誇示、無差身部前提の影郎×見部
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 実写版設定です
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 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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359影郎×見部 1/10:2008/01/11(金) 02:40:32 ID:exVZeZwG0
汗ばんだ額には癖の無い漆黒の髪が張り付き、男の視界を僅かに遮っている。
男はそれに気付く素振りも無く、鋭い息吹と共に、頭上に構えた長刀を振り下ろした。
周囲の大気を引き裂く一閃が飛沫を切る。
切り裂かれた大気の裂け目から、冷気が爆風と成り地面へと叩きつけられた。
轟音と共に生まれ出る氷の塊が、大地へと突き刺さる。
破壊音と共に一瞬で世界が凍る。
絶対零度の剣。男の得意とする氷の剣技だ。
山中にある滝壷近いこの場所は、男の剣技を極めるには最適な場所だった。
空気中に飛散した飛沫は絶対零度の剣で雹と化し、氷となり、標的に向かって放たれる。
その剣技を幾度となく放ったのだろう。
男を取り巻く青々と茂った樹木は、何時の間にか真白に凍りつき、辺りの時の流れを止めていた。

白/鳳/学/院との抗争の末、北/条/姫/子が投入した騎士の駒。
チェックメイトを仕掛けていた筈の抗争が、その男の登場で形勢逆転していた。
──────風/魔/の/小/次/郎。
彼奴の存在が己の存在意義を粉々に砕いた。
文字通り、肉体もプライドも、夜/叉/一/族の正統な血筋である証ですらも。
男の手元には柄の赤く染まった黄/金/剣。夜/叉/一/族に伝わる伝説の長刀だ。
本来ならば、夜/叉の正統な血筋である己が受け継ぐであろう一族の宝刀。
あろう事か、実姉である夜/叉/姫は、その聖/剣を赤の他人に与えようという暴挙に出た。
風/魔の存在が全てを狂わせたのだ。男の人生も、運命も、何もかも。
確かに男は風/魔に敗北した。一度ならずに二度までも。
柳/生/家に伝わる伝説の剛剣、風/林/火/山を手にした風/魔の彼奴に。

古の時より伝わる忍の掟。掟とは、現代にも生き残る忍の誇り。
敗北とは死を意味する事。敵に情けをかけられ命を永らえたところで何の意味があるというのか。
それが忍という定め。つまり、己が生きている限り敗北は無い。 
と、男は己の心内で忍の掟を勝手に解釈する。
現代に生きる忍として利己主義な自己中心的な思考ではあるが、言葉通りに解釈すればそうなるだろう。
否、元々夜/叉に古の掟など存在しないに等しい。
360影郎×見部 2/10:2008/01/11(金) 02:41:16 ID:exVZeZwG0
忍びの技で私腹を肥やし、その勢力を伸ばし、この現代社会を裏で操り牛耳ってきた一族なのだから。

決着がはっきりとついた形で無い限り、敗北を受け入れる事など男には到底出来ぬ。
風/魔との闘いで命を繋いだという事は、戦いはまだ続いているのだ。
互いの命ある限り、闘いは永遠に続く。
戦いの終焉は命の灯が消えるその瞬間だ。
ならば、万全の状態で風/魔に臨むのが道理というもの。
得物の能力が力の差というならば、こちらも同等の力を持つ得物を手に入れれば済む事だ。
男はそんな自分勝手な理由で、誠/士/舘から、姉の夜/叉/姫の手元から無断でこの得物を持ち出した。
──────その得物で夜/叉/八/将/軍の一人である黒/獅/子を一刀両断したのは己の意思。
己の手に馴染ませる必要性と、その長刀の本来の能力を知る為に。
(──────そう、必要だった)

何故、このような場所に己が居るのか。
何故、逃げ隠れるするように人里離れた森の奥へ。
何故、このような事になってしまったのか。
何故、姉の庇護の元から抜け出したのか。
幾度となく自問自答するが、答えは見つからない。
否、最初から答えなどあるものか。
理由は至極簡単なのだ。
(──────風/魔)
(あの男に勝つ事が、全ての答え──────)
答えが見つからないからこそ、己はこのような場所に一人佇んでいるのだろう。
剣と技は表裏一体。心に迷いがあれば剣は応えてくれない。
ならば心を無にする為に肉体を苛め抜くしかない。
無心になれば自ずと応えは導かれるのだ。一心に剣に問いかければ、必ず光明が見えてくる。
だが──────

「……まだまだ心を捨て切れぬ、……か」
自虐的な笑みを浮かべ、壬/生/攻/介は足元に視線を送った。
361影郎×見部 3/10:2008/01/11(金) 02:41:44 ID:exVZeZwG0
一面の氷の世界にそぐわない、一輪の小さな花が咲いている。
山百合の一種だろうか。
その花はまるで何かに守られるよう、時の止まった氷の世界に唯一生き延び、美麗に咲き誇っていた。
淡い桜色を滲ませた小さくか細い花、一輪。
──────飛/鳥/武蔵と初めて出会ったのは何時だったか。
空を覆う鬱蒼とした木々から零れる薄明るい光に照らされた花一輪を眺め、壬/生は不意に思った。

不思議と武/蔵という男に壬/生は嫌悪を覚えなかった。
一族の血を受け継がぬ傭兵に過ぎない武/蔵に、姉が黄/金/剣を与えようとしたと今でも。
心・技・体。武/蔵は全てのバランスをかね揃え、人並み外れた特別な力を持つ。
否、あれは人の能力ではない。あの力は人知を超えた悪魔の力。
武/蔵の人ならざる能力は、夜/叉、風/魔の忍達の能力をも上回る。
その能力故に人並みの生活が送れない武/蔵を雇い入れ、安住を与えたのは夜/叉だった。
主を持たぬ現代の武士は、闘う事を好む狂戦士では無い。
己が望まずとも戦いに赴く定めにあるのは、やはりその呪われた力故だろう。
世界から排除された己を、その力故に受け入れた夜/叉。恩義を感じているのか、はたまた忠義か。
金で雇われた筈の傭兵は、誠/士/館の牙城が崩れ去った今も、その城から離れようとしない。
冷徹な仮面に隠された男の最後の情だとでもいうのだろうか。
だが、最愛の妹の命を繋ぐ為の約束された報酬が入れば、武/蔵も城を去るだろう。
名誉よりも金。名声よりも命。
根無し草の傭兵は、夜叉に恩義はあれども忠義など決して無い。
それが、武/蔵という男の生き方だ。
何故なら、武/蔵は死ぬ事を許されぬ身。
死の病に冒された妹を生かす為、武/蔵は何があっても死ぬ訳にはいかないのだ。
例え泥を啜ってでも生き延びねばならぬ、悲しき定めに生まれた男。
壬/生の唯一認めた男。
それが、飛/鳥/武/蔵。
己の捨てきれぬ心に過るのは、その男の姿──────
「俺は、一体……」
己の脳裏に焼きついた残像は、愁いを帯びた鳶色の瞳──────
362影郎×見部 4/10:2008/01/11(金) 02:42:07 ID:exVZeZwG0
「……馬鹿馬鹿しい」

己の内に沸いた淡い感情に決別し、壬/生は自分の血で汚れた長刀を力強く握り直した。
正眼の構え。切っ先をゆらりと回しながら長刀に念を込め、純度の濃い冷たい空気を体に吸い込み乱れた呼吸を整える。
再び訪れる無音の時。
冷気が周囲に満ち、木の葉のざわめき、流れる外気を全て包み込む。
長刀から強大な力が己に流れ込んで来るのが分かる。
持ち主が、自身を受け継ぐべき正統な資格を持つ者かを如何かを値踏みしているのだろう。
眩い光が己の中の醜き部分をはっきりと照らし出し、隠し切れない感情が露わになる。
長刀を手に入れた時から幾度となく繰り返されるこの感覚は、自身を見つめ直す禅の行にも似たものだ。

『下がりなさい、壬/生』
敗北──────繰り返される記憶。
(──────俺は敗北など認めない)
『姉弟の情など夜/叉には必要無い』
負け犬──────罵倒の言葉。
(──────二度とそんな減らず口を叩けぬようにしてやる)
『実の姉に刃を向けるというの?』
そして、遥か彼方の時代より伝わる、呪われた血の掟。
(──────今更)

(情など必要無いと言ったのは、貴女だというのに──────)
──────このままでは長刀の持つ力に飲まれ、自分自身を見失う。
壬/生は鋭い息吹と共に、心中に蟠った感情を一気に吐き出した。
この長刀を使いこなすには、先ず自分自身に勝たねばならないだろう。
剛剣を手に入れた風/魔と対等に戦う為には、この長刀をものにしなければならない。
(その為ならば、手段は選ばぬ──────)
例え、姉を裏切り、一族を裏切り、何もかも失ったとしても。
降り注ぐ木漏れ日の中で壬/生は瞳を静かに閉じ、切っ先に全神経を集中させる。
「霧/氷/剣!」
363影郎×見部5/10:2008/01/11(金) 02:42:32 ID:exVZeZwG0
「こんな所に居たのか?……壬/生?」
壬/生の背後から突然、何者かの言葉が投げかけられた。
足音も立てず、気配も感じさせず。まるで忍のそれだ。
その声はまるで幻聴のようにも聞こえる。
だが、壬/生は動じる事も無く、長刀を振り続けた。
声の主が山中に足を踏み入れた折から、その者の気配を感じていたからだ。
その中に混じる粘着質の邪気から、その者の正体は見当が付いていたが、無視を決め込んでいた。
夜叉の中でも最も狡猾で、強か。
誰一人自分の本当の姿を見せない得体の知れぬ男。
ほらを吹き、噂を走らせ、人の耳に耳打ちする言霊の術。
突然現れて人里を撹乱し、嵐のように里を乱しては、幻のように消え失せる。

春、晴れた日に砂浜や野原に見える色のないゆらめき。
大気や地面が熱せられて空気密度が不均一になり、それを通過する光が不規則に屈折するために見られる現象。
形は見えてもとらえる事の出来ないもの。
その忍名が表す通り、陽/炎のような男だ。
混乱と暴動を高みで一人決め込んで、ほくそ笑むのは何の為か。
それが戦略というならば、剣士である壬生にとっては水と油の間柄だ。
「ほう……その得物が、我が一族に伝わる伝説の守護刀・黄/金/剣という訳か」
聞き覚えのあるその声を無視し、壬/生は渾身の力を込めて長刀を振り下ろした。

「……私以外の八/将/軍は風/魔に全滅させられたぞ?」
「!」
実に信じがたい言葉に一瞬の動揺を見せるが、壬/生はその雑念を振り払うよう、再度長刀を振り下ろした。
「あの妖/水も風/魔にやられたぞ。古式の掟という闘いのルールを布いたのは、風/魔の指揮官だったか。……あの者、竜/魔といったな? つまり、最初の名乗りからその策にしてやられた、という訳か……敵ながら切れ者よ。我々の役に立たない指揮官とは大違いだ」
自軍の壊滅を平然と告げ、然もおかしそうに咽喉の奥で笑うのは、
「……残る夜/叉は、私とお前、唯二人だ」
八/将/軍の一人、陽/炎。
364影郎×見部6/10:2008/01/11(金) 02:44:39 ID:exVZeZwG0
「……武/蔵はどうした?」
陽/炎の口車にのせられるよう、つい壬/生は口を開いてしまう。
あれ程の男が風/魔に倒される筈が無い。壬/生はそう確信していた。
「さぁて……無能な指揮官殿は何処で野たれ死んだか……定かでは無いな」
「あの武/蔵ともあろう男が、死ぬ筈など無かろう!」
「壬生? まさかお前の口から武/蔵の名がいの一番に飛び出すとはな?」
背後の陽/炎は、何時ものよう鉄扇で口元を隠してほくそ笑んでいる事だろう。
これが陽/炎の策略の一つとも頭では理解していた。
だが、壬/生はその気配をはっきりと感じながらも、反論せずにはいられない。
否定しようとも先程から壬/生の心を占めているのは、その男の姿に間違いないのだから。

「どういう意味だ!?」
「お前の実姉であり、我々一族の長である夜/叉/姫の事を聞かぬのか?」
「武/蔵が傍に居れば、夜/叉/姫の身辺警護など心配無用だろう……」
「お前はあのような仕打ちを受けた今でも、武/蔵を信用し、夜/叉/姫の身を案じているとでもいうのか? 我々を内部から崩壊させ、乗っ取りを目論むあの男を?」
「それは貴様の妄想に過ぎない! あの武/蔵がそんな大それた事など企む筈も無かろう!」
「実の姉に見捨てられ、反逆者の印を押された今でも……か? 現に一族の宝刀を武/蔵に託したのは夜/叉/姫自身ではないか」
「それは!」
「分からんか? 壬生? 武/蔵は夜/叉/姫を誑かし、黄/金/剣の所有権を手に入れた。黄/金/剣を持つ者こそが、一族の長である証拠だ。奴は最初から一族の乗っ取りを目論み、お前達姉弟に近づいた……。そうは思わんか?」
気がつけば陽/炎の声が耳元で妖しく囁いていた。
「先に結論を言おう。残念ながら、武/蔵は生きている。夜/叉/姫も御無事だ」
咽喉の奥でくく、と妖しい笑いを零し、陽/炎は壬/生の黒髪を指で静かに撫でた。
365影郎×見部7/10:2008/01/11(金) 02:49:48 ID:exVZeZwG0
「奴は夜/叉/姫の命により指揮官を解任された。……まあ、実に役に立たない金食い虫だとしても、夜叉姫の守り役ぐらいは務まろう? おっと、奴はお前が誠/士/館に引き込んだのだったか?
……化け物のような能力があろうと、奴は一族の正統な血を受け継がぬ者だ。自軍の勝利よりも己が命の方が大切とみえる。そのくせ浅はかな陰謀で我々夜/叉/一/族の乗っ取りを目論もうとは……剣士の風上にも置けぬ薄汚い守銭奴よ。
そうは思わぬか? なあ、壬/生?」
厭らしい含み笑いを零し、陽/炎は壬/生を背後に気配も無く立っていた。
「!」
と、唐突に首筋に伸ばされる冷たく細い指。
忍の者とは思えぬ繊細で滑らかな指で、壬/生の襟足に絡まった黒髪を掬い上げる。
「一族の正統な血を継ぐ者が、夜/叉を率いるのに相応しいとは思わぬか? なあ、壬/生? お前は一族の長の血を継ぐ、唯一の男だ。夜/叉/姫は所詮女。何れは他所の男を引き込み、夜/叉の純血を穢れたものにして一族の崩壊を促す存在ぞ?
 ならば、純血を受け継ぐお前が一族の長となるのが理というものだろう? なあ、壬/生? 私と共に夜/叉を指揮し、新生夜/叉/一/族の結成を目指さぬか?
 我々正統な血筋が統べる、由緒正しき夜/叉/一/族の本来の姿を取り戻そうではないか?  誠/士/館の牙城が崩れ去ろうとしている今、それこそが夜/叉再建の近道ではないか?」
陽/炎の常軌を逸脱した言葉に壬/生は返す言葉を見失う。

この男は一体何を企んでいるのか。
誠/士/館を去り、夜/叉/姫を残したまま闘いから離脱した男に、今更何の用が在るというのか。
黄/金/剣を持ち出し、黒/獅/子を殺めた時点で、壬/生は夜/叉からも追われる身となったというのに。
武/蔵を指揮官と任命した夜/叉/姫を否定し、夜/叉/一/族現当主の牙城を崩壊させようと?
壬/生に取り入り己の意のままに操り、新生夜/叉の長として壬/生を御輿に担ぎ上げようと?
その言葉通り、自分自身が新生夜/叉を牛耳り、夜/叉/姫を長とする現の体制に反旗を翻そうと?
全ては伝説の聖剣・黄/金/剣がもたらす、夜/叉の呪われた運命なのか。
黄/金/剣を守護刀としたが為に主を持たず、流浪の民となった夜/叉/一/族の悲しき定めなのか。
この熱病のように歪んだ妄想が、陽/炎の中にとぐろを巻き、どろどろと蠢いて陽/炎自身を取り込んでしまったのだろう。
366影郎×見部8/10:2008/01/11(金) 02:51:29 ID:exVZeZwG0
否、夜/叉再建を願う陽/炎の言葉は間違いなく本心だろう。
だが、何時の間にか己の言霊の術に取り込まれ、幻を真実と摩り替えてしまっているのだ。
陽炎の幻が見せる夢幻に魅せられるかのように。
「壬/生?」
恭しげに黒髪をなぞりながら、陽/炎はうっとりと壬/生の名を呼ぶ。
「お前の体の中に脈々と受け継がれる夜/叉の純血に誓おう……」
その指先を静かに壬/生の襟元に忍ばせながら、耳元に囁く。
「私の主は、後にも先にもお前だけだ……」
妖しく香る甘い息が首筋を擽る。
「止めろ……陽/炎」
嫌悪感と同時に、壬/生の背筋に冷たいものが走った。
「その純血を、夜/叉再建の為に流せ。他の誰にも穢させるな……」
黄金剣を握る壬/生の手に静かにその冷たい手を重ね、陽/炎は恍惚とした声を上げる。
「壬/生? 風/魔との闘いの行く末は見えているのだ。今の誠/士/館は既に支配力を失っている。力を失った誠/士/館に残る事など何の意味も無いではないか。
黄/金/剣無き夜/叉になど未来は無い。……なあ、壬/生? 黄/金/剣を持った純血のお前さえ生き延びれば、各地に散り身を潜めた夜/叉の者達をかき集めるのは容易い事ではないか……。」
首筋に突き付けられる甘い毒牙。
「それ以上姉上を冒涜するような言葉を吐くな!」
言霊の術に。巧みな罠に。自尊心を擽る甘い誘惑に。
壬/生の心は大きく揺らぐ。
「貴様は夜叉に反旗を翻すつもりだというのか!」

「……冒涜? 私が紡ぐ言葉は全て真実。お前の明晰な頭では、とうに理解しているではないか。この戦いの行く末を、とうに捨ててしまったお前には……」
荒唐無稽な話だと壬/生は頭では理解している。
陽/炎の中で微かに色付いた妄想が限界近くまで膨らみ、現実との端境が曖昧になっているだけなのだ、と。
妄想と現実の境目を失った陽/炎の暴走なのだ、と。
だが、否定しようとも、耳元から忍び込む甘い毒牙に心が麻痺していく。
言霊の術に取り込まれたよう、壬/生の体は強張り、微動だに出来ないでいた。
367影郎×見部9/10:2008/01/11(金) 02:54:25 ID:exVZeZwG0
「これ以上闘って何が残る? 既に夜叉姫に一族を統率する力など無い。残るのは主を失った誠/士/館……そして一族の崩壊……それだけだ」
甘く腐った香りを放つ毒牙は、壬/生の首元へ色濃く突き付けられている。
「……違うか? 壬/生?」
狂気を帯びた吐息と共に、陽/炎の薄い唇が壬/生の耳元に落とされた。
「私にはお前が必要なのだ……」
「……止めろ!!」

壬/生が叫んだと同時だった。
不意に黄/金/剣が、
「!?」
鳴いた。
幾千回振り降ろそうとも、決して壬/生に応えようとしなかった長刀が。
凛と響くその音は、忍びである者にしか聞き取れない微弱な声。壬/生は陽/炎の様子を伺い見るが、凛と鳴り響くその音に反応を見せてはいない。
持ち主にしか応えぬ聖剣は、この瞬間、壬/生だけの心に初めて声を聞かせたのだ。
長の血を継ぐ、正当な夜/叉の末裔である壬/生に、この宝刀は語りかけたのだ。
夜/叉を守る守護刀として、その身を持って壬/生を護る為に。
予想だにしなかった陽/炎の言動が口火となったかは定かでは無い。
だが、今、この瞬間に、確かに黄/金/剣は壬/生に応えたのだ。
言葉にならない声は、壬/生の聞き覚えのある声にも似ていて──────どこか懐かしくもあり、心落ち着く声で。
──────壬生の名を、確かに呼んだ。
壬/生は反射的に陽炎/の術から逃れ体を返すと、黄/金/剣を振り上げた。
同時に陽炎の鉄/扇が壬/生の喉元に突き付けられる。
「……」
「……」
殺気に満ちた緊迫の時が静かに流れる。その瞬間は、一瞬にも永遠にも思える時の流れ。
二人の額に冷たい汗が一筋滴り落ちる。その一滴が地に触れた瞬間が、勝機。互いの切っ先に殺意が満ちる。
368影郎×見部10/10:2008/01/11(金) 02:55:38 ID:exVZeZwG0
どれ程の時が流れたか定かでは無い。
凍り付いていた周囲の木々の雫が、静かに地面に吸い込まれていた。
空高く飛ぶ鳥は既に寝床に帰り、周囲は薄闇に閉ざされようとしていた。
互いの呼吸音だけが静寂の中響いている。
何時の間にか黄/金/剣の声は静まり、壬/生の手の中で二度と目覚めようとはしなかった。
この時は何時まで続くのか。時を止めた静寂が、二人を永遠に包み込んでいくようだった。
だが。
「……悪ふざけも度が過ぎたようだな」
「……」
やはり、先に折れたのは陽/炎だった。
その言葉を吐きながら何時もの笑みを浮かべ、壬/生の首元に突き付けた鉄扇を静かに下げた。
「だが、よく考える事だな……壬/生? 今のままでは夜/叉は完全に崩壊する。お前が自滅すれば数百年に渡る夜/叉の歴史も終焉を迎えるのだ。お前の体に流れる純血を決して穢すな。そう……他の誰にも、な」
くつくつと、然も楽しげに笑いながら、
「武/蔵には気を許すのではないぞ、……壬/生?」
その言葉を最後に、陽/炎の姿はゆらめき静かに消え失せた。その忍名が表す通り、陽/炎のように。

壬/生は陽/炎の存在など、まるで無かったかのよう、無言で手元の黄/金/剣を見つめていた。
先程の声は一体何だったのか。黄/金/剣は己を認め、応えてくれたのか。
正統な持ち主と認めない限り、その剣の持つ最大の能力を使いこなせないと云われる聖剣。
夜叉の長の血を継ぐ壬/生の危険を察知し、守護刀としての役割を果たしただけなのか。
それとも──────
「あの声……」
壬/生に語りかけてきた聞き覚えのある声は──────
「……まさか、な」
己の耳にこびり付いて離れない、愁いを帯びた鳶色の瞳の持ち主──────
心の内に蟠った感情を振り払うかのよう、壬/生は長刀を頭上に構え、一気に振り下ろした。


369風と木の名無しさん:2008/01/11(金) 02:57:54 ID:exVZeZwG0
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文章が長杉改行大杉で投稿苦戦しちまったい!
370夢のまた夢、前編:2008/01/11(金) 03:50:33 ID:VF6m6U350
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  某昭和の大スターとその周りの人達のお話。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  今回は続きます、すいません
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ブンショウシリメツレツダゾゴラ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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371夢のまた夢、前編1/9:2008/01/11(金) 03:51:08 ID:VF6m6U350
ずっと前から、好きだった。
多分、初めて彼を見た時から、
少女と見まごうばかりのその面差しに、
意志の強そうなその瞳に。

見とれていた
惹かれていた
だから、彼を仲間に入れようと決めたのだ。

彼と共に過ごした日々は夢のようだった。
そう、あれは皆がその夢に耽溺した狂乱の宴だった。
誰も彼も、自分も、その熱に浮かされて、昇り詰めていった。
でも夢は、夢でしかなく、やがて全てが終わりを迎える。
バンドの解散という形で。

ブームと言われた熱狂は去り、自分が手にしたものは肩にかかるベースの重
みだけだった。
そこで全てが、終わる筈だった。
誰もが一時の夢を忘れ、元通りの日常に戻っていく筈だった。
ただ一人、夢に取り残された人を残して。

彼は、足掻いた。
夢を、夢のままで終わらせまいと。
自分を手元に残って欲しいと願い、かつての友人達と新しいバンドを立ち上
げ、新たな唄を歌おうとした。
372夢のまた夢、前編2/9:2008/01/11(金) 03:51:44 ID:VF6m6U350
周囲にも世間からも異端とそしられたその行為は、結局どの世界でも異分子
でしかなく、受け入れられないまま、バンドの空中分解という形で幕を閉じた。

それでも彼は、唄い続けた。

罵声を浴びても、
一人になっても、
誰も夢を忘れてしまっても。
彼だけは、あの熱狂の熱さを忘れまいと、がむしゃらに唄い続けていた。

それが誰のための行為であったか、何の為の想いだったのかは
当人にしか、分からない。

ただ彼は、
あの夢に一人、残されて、
あの夢を一人で、託されてしまったのではないか。
そんな事を、感じるようになってしまった。

ずっと彼の背中を見ながら、ベースを弾き続けて。


真夜中のホテル、ダブルサイズのベッド。
そこに横たわる、白い肢体。

両腕は縄状の擦り傷で血が滲み、
全身に情欲の名残の赤い跡が見える。
373夢のまた夢、前編3/9:2008/01/11(金) 03:52:23 ID:VF6m6U350
そしてその顔は、疲労で蒼ざめ、瞼は閉じられたままで、深い眠りに、つい
ていた。
「・・・・・・・。」
傍らに佇む、長身の影。
何も言わず、眼下の彼を見詰めている。
彼が、何をされたかはおおよそ察しが付く。
自分とて、この世界に長く身を置いている。
ほとんどが女に対して行われると思っていた事だったが、彼の美貌を思えば、
それだけに留まらない筈だと理解できた。

身体を介しての営業行為。
それが先ほどまで、彼の身におこっていたことなのだろう。
「・・・・何で・・・・。」
つい漏れ出る言葉。
何でもっと早く気づいてやれなかった。
何で彼の痛みに気づいてやれなかった。
握り締めた手のひらが、爪に食い込み血が滲んだ。


数時間前、
男は彼のマンションを訪れていた。
この夏から始まる全国横断ツアー。
そこから自分は、彼のバックバンドのメンバーから外れる。
長く慣れ親しんだベースも、これから永く、手にすることは無いだろう。
彼の側で弾くことがないのなら、「音楽」そのものを忘れてしまおう。
374夢のまた夢、前編4/9:2008/01/11(金) 03:53:03 ID:VF6m6U350
宛ての無いこれからの道程に不安を感じつつも、どこか肩の荷が降りた、安
堵感も感じていた。
大事とすがっていたものも、捨ててしまえば案外あっけないものなのかもし
れない。

彼の所に訪れたのは、彼への感謝を届けたかったから。
長く共にいた友に対しての気持ちとして、
一対のイヤリングを。

しかしドアホンを何度も押しても、彼の姿がドアから現れることは無かった。
「・・・・・あれ?」
事前のスケジュールで今日はオフだと聞いていたが。
余り外交的ではない彼が、休みの日に出かけているとは珍しい。
「まずったなあ・・・。」
こんなことなら電話でもしておけばよかった、と後悔しても始まらない。
今日は引き上げるか、と踵を返して人影に気づいた。

「・・・・社長・・・・?」
険しい双眸が、こちらを見詰めている。
「どうして・・・。」
「あいつに用か?」
顎で彼の部屋を指され、素直に頷く。
「はい、でも、留守みたいで」
「そうだな」
にべも無く返される言葉に残りの台詞を飲み込む。
後に続く言葉を探しあぐねて俯いていると、
375夢のまた夢、前編5/9:2008/01/11(金) 04:04:21 ID:VF6m6U350
「手を出せ」
という指示が頭上で出された。
素直に両手を前に差し出す。
その手のひらに、ホテルの鍵が落とされた。
「・・・・・?・・・・・」
「今奴はそこにいる。」
鍵についているプレートを目の前にかざす。
高級シティホテルの名前が刻まれてあった。
「行ってやれ。」
「・・・・・しかし・・・。」
いくら友人でも、プライベートに関わることなら無下に立ち入る気はない。
ましてや、社長が絡んでいる話にでもなれば。
「きっと奴も待っている。」
「・・・・はあ・・・・。」
渋々といった感じで彼の部屋を後にする。
社長に鍵を渡された以上、何か彼にも用件があるのだろう。
そう思い直して、マンションを降りた。
タクシーを停めて、ホテル名を告げる。
そのままタクシーは夜の街へと消えていった。

「・・・・・。」
残された男は、彼が立ち去ったのを確認すると、深くため息をついた。
「何も知らないまま、はいさよならって訳にはいくまい。」
苦々しく言葉を飲み込む。
「・・・・・それがお前達の築いた縁だろう。」
スーツのポケットに突っ込んだ右手から、マンションの鍵を取り出す。
376夢のまた夢、前編6/9:2008/01/11(金) 04:05:05 ID:VF6m6U350
「奴」を近くのホテルに保護した後、勝手に拝借させてもらった。
どうせあのままではホテルからは出られない。
部屋のドアをあけ、中に押し入った。
思ったより清潔に整理された部屋を見て、男はある女の面影を思い出す。
そういえば、もうすぐ「奴」と彼女は結婚するのか。
感慨深げに目を細めて、思わず苦笑する。
「・・・・つくづく業の深い男だな、あいつも」
男はしばらく、部屋の中で佇んでいた。


ホテルの部屋について、念の為にドアをノックするが、返事はない。
仕方が無いと、持っていたキーでドアを開けた。
「おーい」
部屋に入りながら、問いかける。
ベッドサイドに灯る、小さな光を頼りに、部屋の中を歩く。
「・・・・・寝とるんか?」
わざわざ人を呼びつけておいて、失礼な話だと少し憤慨しながら、ベッドの
側まで近づいていった。
微かな寝息が、聞こえてくる。
自分に全く気付かず寝入っている。
「・・・・何やそれ。」
思わず呆れて、彼を起こそうと右手を伸ばした。
「・・・・・?」
シーツに赤い斑点が、所々についている。
「血・・・・?」
思わず掛かっている上布をずらす。
377夢のまた夢、前編7/9:2008/01/11(金) 04:06:02 ID:VF6m6U350
「・・・・・!」
両腕に残る、痛々しい虐待の後。
まだ塞がらない擦り傷が、シーツに染みを作る。
「何で・・・・。」
思わず声が漏れた。

何が、
何が起こった。
彼に何があった。

混乱をきたしていた脳が、ある一つの例題を叩き出して慄然とする。

もし彼が、---------をしていたら。
もし彼が、■■を■■■いたら。

握っていた上布が震える。
固く目を閉じる。
「・・・・・すまん・・・・。」
男は意を決して、彼の身体にかかっていた上布をそっと外した。

驚いたのは、顔を赤らめたのは、
彼が全裸だったからではなく、
その身体に残る情交の跡が、
身体にこびり付いた残滓が、
そのままになっていたからだった。
378夢のまた夢、前編8/9:2008/01/11(金) 04:06:39 ID:VF6m6U350
「・・・・・あ・・・・・あ・・・・・!」
嗚咽を喉でかみ殺す。
それでも抑え切れなくて、両手で口を押さえた。
支えを失った上布が彼に被される。

知ってしまった。
ついに、知ってしまった。
---ついに?

驚愕に身体を戦慄かせながら、どこか頭の中で、冷徹な声が自分に囁きかけ
るのを男は感じていた。

今まで彼と共にいて、何も感じなかったのか。
彼がバンドを組んだ時も、
バンドが消滅しても、自分たちが彼と共にいられたのも、
何も無かったと思っていたのか。

-----そう、薄々、分かってはいた。
彼が自分たちのやりたいことのために、
自らを犠牲にしていることを。

男の目尻から涙が溢れ出す。
「・・・・・ごめんな。」
気づいていながら、知らないふりをし通し続けた。
目をそらして、見ないふりをしていれば、忘れられると思っていた。
まるで嫌なものに蓋をするように。
379夢のまた夢、前編9/9:2008/01/11(金) 04:07:18 ID:VF6m6U350
その結果が、今の彼の姿だとすれば。
「・・・・・ごめん・・・・ごめんなぁ・・・・。」
涙は止め処なくあふれ出てくる。
彼の頬にかかり、彼の顎を伝った。
彼自身の涙のように。

男は彼を見詰めながら、肩を震わせて涙を流した。
彼は何も知らずに、眠り続けていた。
男のこれからを想い、微かな笑みを浮かべ。
380夢のまた夢、前編:2008/01/11(金) 04:09:21 ID:VF6m6U350
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 | |                | |           ∧_∧ 書き忘れてましたが、スター×ベース
 | |                | |     ピッ   (・∀・; )です。文章辻褄あってなくてスマソ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
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381風と木の名無しさん:2008/01/11(金) 15:00:18 ID:/Lc10jnr0
>>358
影身部キタ━━(゚∀゚)━━!!!!
夜/叉スキーなんでたまらんかったです。GJGJGJ!!!!
382風と木の名無しさん:2008/01/11(金) 19:36:52 ID:/4GnEsga0
>>370
GJGJGJ!
切な萌え( ノД`)。受理も沙里も切なスグル……。
続き楽しみに待ってます。
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  └──────│まだ続きます
                └───────────────
ディースが手を離すと、糸が切れた人形のように、アイルの体は壁にしなだれかかった。
 全身が痛い。
ふと、今までにあったことを思い出して、身震いした。
拷問されたのか。そうだ。
この男が、笑いながら、鞭を振るってきた
 誰かが癒してくれたのか、傷は随分消えていたが、それでもまだ、所々に傷があり、体を動かすたび、痛んだ。
 疲れによって精神力は削られ、己で体を癒す魔法(セルフヒール)さえ、出来なかった。
 ディースが部屋を出て行くのを見届けると、アイルはゆっくりと目を閉じた。
これが、夢であればいいのに。

アジトの一階、ある吟遊詩人が歌を披露していた。
サンチョギター片手に歌う彼は、とても幼い顔をしている。
リズミカルに体を揺らせ、それを回りの人間も聴き入っている。
とても、透き通った声だった。
内容は、冒険者である夫のかえりをまつ、妻の歌であった。夫が戦死したことも知らず、待ちつづける。
 早く帰ってこないかしらと、待ちつづける。
 歌が終わると、ぱちぱちとまばらに拍手があがった。
吟遊詩人になりたての人間が着る、吟遊詩人服。青色で、肩をさらけ出し、半ズボンという身軽な格好だ。
 サンチョギターを壁に立てかけると、そばにいたディースに、彼は話し掛けた。
「久しぶり、ご機嫌斜めかい?」
ちら、と、ディースは彼をみた。が、すぐに窓の外に視線を移した。
雪が降っている。
「久しぶり?一ヶ月もたってないじゃねぇか」
「一ヶ月たってれば十分だよ、このへそ曲がり」
「カルテラ、お前はしばらくここにいるか?」
「いるよ。ほら、みて」
 と、カルテラはバッグから大量の金貨を取り出した。
机に山積みになった金貨に、他のギルド員も興味をもって近づいた。
 それでも一部なのだろう。
 カルテラは、その金貨の中に片手を突っ込むと、そのまま机に座った。
「ボスの報酬がこれさ、随分良いもの溜め込んでたみたいでさ。露店したら一気にお金持ち♪しばらくは遊んで暮らせるよ」
ケラケラと笑うカルテラ。
彼がかなりの実力者であることは、一見見ただけでは分からないだろう。
一時は魔術師の最高峰といわれたほどの力の持ち主だった彼は、二年ほど前、突然吟遊詩人になってしまった。
飽きたから。
それが理由だった。
「なら、ついてこい。どうせ暇なんだろう」
席をたって階段へと向かうディース。
「なにさ?ちょっと待ってよ」
疑問におもいながらも、興味津々。
大急ぎで机にばらまいた金貨をしまいこむと、足取り軽くついていった。

「人の気があるね」
ディースの部屋の前にたった彼が、つぶやいた。
何があるのかな?
一体何があるのかな?
ディースのことだから、とんでもないことでもやりだしたのかな?
 そういえば、昨日、捕虜が要るっていってたな。
ジンはそれ以上何も言わなかったけれど、そのことかな?!
あれこれと、想像しわくわくしながらカルテラは、扉を開けるよう催促した。
「アイル」
真っ暗な部屋、ディースの言葉に反応し、うごめくものがある。
暗くてよく見えない。
 持っていた燭台を、部屋に向けててらす。
まぶしそうに起き上がり、こちらを見るのは、長髪の男だった。
「♪」
 カルテラは、見覚えのあるその顔に、いそいそと近づいていく。
が、後一歩、というところでディースに服の裾を、まるで猫のように捕らえられて、とまった。
「気分はどうだ?」
 半身起こしたアイルの顎をすくうと、ディースは笑う。
アイルは何も言わない。言えなかった。
恐怖で足がすくんでいることなど、悟られまいと必死だった。
だが、震えは、顎をつかむ彼の手に伝わった。
「ディース、震えてるじゃーん。離してやりなよ。ねえ?」
アイルに向かって、無邪気に笑いかけるカルテラ。
その顔は、アイルにも、覚えがあった。
 だが随分と昔のことだった気がする。彼に出会ったのは。
最高衣服の、さらに上位服があると噂を聞く。
それは人間の域を越え、神ほどの力をつけた人間が着れるものだと、誰かが言った。
 当時彼は魔術師だった。
普通の最高衣服は、黒いマント、青い長い裾のある服。
だが、さらに上の服は、その青色の裾の部分が、白で、全体的に光を帯びている。
 その服を、彼は着ていた。
氷の城、アドリブンで、その幼い顔立ちに似合わず、火と、風と、水と、そしてほぼ全ての呪文を使いこなす姿は、思わず見惚れるほどだった。
 それが敵ギルドに所属していると知ったのは、つい最近である。
「あ…あんたは…」
 アイルは、目を見開いた。
ディースの後ろに立っている人物こそ、その人だった。
「こんばんは、アイル君。僕を知ってるの?」
「お前の事知らない奴は、殆どいないんじゃないか」
 横からディースが言う。
「…しってる…けど、吟遊詩人に…」
「うん。魔術師ね、飽きちゃったから、詩人になっちゃった。嬉しいな、僕、そんなに有名!?」
勿体無い。極めてから、吟遊詩人になるなんて。
「カルテラ」
ディースが、嬉しそうに笑っているカルテラに向き直った。
「はいな」
そして、アイルの首につながれた鎖を持つと、言った。
「こいつの世話役になれ。こいつは犬だ。」
「え」
 その言葉に、目を丸くしたのは、カルテラではなくアイルだった。
動揺して体を起こすと、じゃり、と、重い鎖の音が響いた。
「盗賊型守護動物?そんで犬?ワンって鳴くの?わんわん?」
 皮肉をこめてだろうか、カルテラはケラケラと笑い出した。
「ほれお手」
アイルのまえに屈みこむと、手のひらを差し出してきた。
手を乗せろ、という意味だろう。だがアイルにだってプライドがある。つい、と、目をそらして抵抗した。
その態度に、カルテラが、頬を膨らませる。
「冗談はほどほどにしろ」
「冗談はそっちだろ」
その言葉に、ディースはカルテラを見つめた。その目は厳しい。
「いままで、捕虜にこんなことしなかったじゃない。大体僕に世話を任すってなんでさ」
十秒くらい、間があいただろうか。何か考えているようだったが、ディースがいった
ことは、
「ただ、なんとなく。お前暇そうだし」
…ということだった。
「…」
あからさまに嫌そうな顔をしたカルテラだったが、その言葉が実に図星をついてることに、ため息をついた。
「仕方ないなあ。僕もしばらく冒険者業を休むつもりでここに来たんだけど…」
アイルの、その頬に手を寄せた。
「君の面倒は、僕が見るよ。宜しくね…」
その無邪気な笑顔の裏に、何があるのか。
 ただ、ディースと共にいるよりは、心は狂わされずにすむかもしれないと思った。

その日から、奇妙な生活は続いた。
アイルは首輪をされ、それはベッドへとつながれる。
ベッドの側には、アイル専用の寝床。といっても、毛皮と毛布で作られたか簡素な寝床であった。
 それはまさに、犬の寝床のよう。
とはいえ、ディース自身は、最初何もアイルに提供するものはないといっていたのだった。
だが、それを聞いたネイヴィーが激しく反対し、せめて毛布と毛皮を、と、彼女自身が提供したのであった。
 レビアは、寒い。氷点下を超えることがざらなこの街で、毛布もなしに人間を住まわせるなど、それは凍死させるようなものである。 
して、その日初めての食事を持ってきたのは、カルテラではなくディースだった。

荒々しく扉を開け、それまで毛布をかぶって凍えていたアイルの前に、肉や野菜の入ったスープを置いた。
「お前には十分すぎる食事だな」
食事は温かかった。安っぽい、冒険用の樹の器に盛られたスープ。
だが…、スプーンがなかったことに、アイルは戸惑った。
ちら、と、ディースの顔色をうかがう。
「なんだ?」
ディースは、アイルの前に屈みこんだ。
「…、スプーンは」
「犬には必要ないだろう?」
その言葉に、頭に血が上るのを感じた。だが、のどまででかかって、あえてそれを飲み込んだ。
逆らえない。
 彼が、護身用にと腰にぶら下げている短剣が目に入った。
仕方なく、アイルは目を伏せる。
「さあ食え、はいつくばって犬のように!」
途端、物凄い力で頭を捕まれ、スープ皿に押し付けられた。
不意を疲れた彼は、スープ皿に顔が半分ほど入ってしまう。熱さに思わず顔をのけると、スープ皿はガチャンと音を立てて転倒した。
「げほっげほっ…!あ…なに、を…!」
何をする!と彼のほうへ向き直ろうとした途端、またも力で押さえつけられる。スープが広がった床に顔を押さえつけられ、そのままディースを見上げると、彼は笑った。
「なめろ、犬のようにな!!さあ、這え!」
目は狂気に輝いている。
怖い。怖い。怖い。怖い!
「嫌だ!」
這って床をなめてまで食事にありつこうなんて、人間のプライドが許さなかった。
だが、拒絶の言葉に、ディースは力を込めて彼を殴り飛ばした。
          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
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                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) オソマツサマデシタ
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
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390歯車 始:2008/01/12(土) 13:26:02 ID:PUW4i+Db0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  羽間×蟻です
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ※ナマ注意
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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391歯車 始:2008/01/12(土) 13:28:00 ID:PUW4i+Db0
新しいゲームを広報の方から頂いたので、仕事が終わってから相方を家に呼んだ。
それだけだったはずなのに。
二人でゲームをプレイしながら、何故かこんな会話をしている。

「オレ、つくづく思うんやけど、蟻野くんと距離が出来てしまったなぁって」
「距離?」
「そうや、距離。『よ/る/こ』でも『瓦ぬ愛』を誓い合ったし、これだけ仲のいい愛し合ってるっちゅーのをTVで見せているのに楽屋であんま話すこともないし、番組終了後にレンタルビデオ屋で会うてもちょっと挨拶したぐらいですぐ別々のコーナーに分かれるやんか」
「僕はアニメコーナーだし、お前はAVコーナー直行やしな」
「で、思うんよ。そこんとこどうするんかって」
「じゃお前はどうしたい?いつも遠慮するんはお前の方やないか。僕がクリスマスに家に呼んでも結局来ぇへんし、大晦日に呼んでも来ぇへんし」
「去年は収録があったからどの道行けへんかったけどな。・・・っつかヨメとのラブっぷりを見せ付けられる場所にノコノコお邪魔出来るワケないやろ」
「まぁ僕はヨメさん愛してますからね」
「それや。間違いなくそれ。やっぱお前は離婚した方がええんちゃうの?」
「せぇへんの分かってて言うとんねやろ」
「オレもたまにオレのコトが嫌になるわ。何でオレってこうなんやろな」
「・・・やりたいんやったら別にええよ」
「はぁ?オレが出来ひんとでも思ってゆーとんの?何?オレが可哀想になった?お情け?ほんま余裕のあるヤツはそうやろな」
「ごめん」
「謝んなや、偽善者。ほら、さっさと脱げや。出来るんやろ?やらせてくれるんやろ?」
392歯車 2:2008/01/12(土) 13:28:28 ID:PUW4i+Db0
「・・・ここで僕が脱いで僕抱いてそれでお前は満足するんか?その場の勢いだけで言うとんのやろ?」
「帰れや、ヨメんとこに。こんな時酒飲めたら酒に逃げれるのに」
蟻野が服を脱いでいくのをオレは呆然と見ていた。
「どうすればいい?僕はこういうのやったことないから、どうしていいか分からへんで」
オレはコントローラーを持ったまま。TV画面の中から自機が死ぬ音が聞こえた。
「ヨメとやってるやろ」
「後ろの穴ではやってへんよ」
上半身だけ脱いだ蟻野にリセットボタンを押された。
「もういいから帰れよ。泣くとこ見せたくないから。あのな、オレもAVでしか見たことないけどめっちゃ痛いんやで?」
「泣いてるん?」
「煩い!服着て帰れ!オレのコトはほっといてくれ、頼むから」
抱きしめられ、涙の跡を唇で吸われた。
「ごめん」
「ちょっと止めろ、その気になったらどうするんや」
「だからええって。しよ?僕がええって言うてんやから」
「どうしたらええんや。だってお前は妻子持ちやないか。子供二人可愛いやろ?だからオレはいつも遠慮してるやんか」
まだ言おうとしてるオレの唇を奪われた。嫌だとか止めろとか帰れとかそんな言葉しか言えない。
偽善者はオレだ。本当はずっとこうしたくて、だけど結婚前も男同士だからとか何かと理由をつけてこうならないようにしてたんだ。だから今まで女も途切れることもなかったし、他の女で気持ちを紛らわせて自分の気持ちに目を背けていたのに。
「唇、柔らかいな」
「・・・アホ」
「ベッドの上で待ってる」
「ああ」
なのにあいつのヨメと同じ名前の女と付き合って、でもマスコミに追われて別れる羽目になって、それから1年間彼女がいなくて・・・1年間プライベートで一緒でなければ自然と想いは薄らいでると思ってたのに。何であいつは、オレの心に。
393歯車 3:2008/01/12(土) 13:29:16 ID:PUW4i+Db0
布団の中でこいつは目を開けてベッドに来たオレをじっと見ていた。いっそこのまま寝ていてくれたらオレも楽なんだ。このまま手を出さずに済めばいつも通りの関係でいられる。今やってしまうと間違いなく何かが壊れる。でももう崩壊寸前かもしれない。
脱ぎ捨てられた服を横目でちらっと見た。
「逃げずに来たのは偉いな」
「やっぱオレ、向こうの部屋で寝るわ」
「今日逃したら次は絶対無い。それは分かってんのやろ?」
「分かってる」
「ヘタレやな」
「それも分かってる」
布団からのっそりと起き上がり、こっちに来た。オレは動けなかった。
「ほら、こんなになっとるやないか」
服の上から股間を触られ、撫でられた。
「ちょっと、止めろ、マジで、止めてくれ」
「どっちが楽?僕をするのと、僕がするのと」
「触んな、出るっ」
「決めて」
「もう嫌やぁ。頼むから、オレに構うな、ほっとけばええやん。一人にしてくれ。オレは、ヨメを好きで家族が大好きなお前を愛してるんや。お前が家族を捨てるようならオレはお前を嫌いになる」
「捨てるわけないやろ」
「じゃこれは何や。どうしてこうなったんや。何でオレはこんな」
「また泣く」
「だって、やっ」
またキスをされ、そのまま片手でベルトを外された。
直接下着の中に手を入れられ、熱い手で触られ、オレは

吐精した。
394歯車 4:2008/01/12(土) 13:30:13 ID:PUW4i+Db0
「はぁはぁはぁはぁ・・・・・・最悪や」
ぐったりと座り込んだオレを裸の蟻野が見ていた。
「苦いな」
「それ、舐めんなや。何、オレからかって楽しいか?どうせ心ん中では楽しんでんねやろ?ああそうや、いつもいつもお前はオレを弄んで楽しんでるだけや。オレが逆らえへんコトも、あがらえへんコトも知っててそんなコトするんやろ?」
「黙って」
オレの精がついたままの指をそのまま口内に捻じ込まれた。その指が口の奥まで行き、オレは「うえっ」と声と涎を出した。
「うえっ、うえっ、げほげほっ」
咳き込むオレをその場に寝かせ、手際よくオレの服を脱がせていく。
「何かレイプしてるみたいや」
「これが、レイプじゃなくて、いったいなんや」
「だって僕のコト好きなんでしょ?両想いやのにレイプはないでしょ」
「うえっ、気持ち悪ぅ・・・水取ってきてもええ?」
「ごめん、後にして。喉渇いたら僕の唾液を飲んだらええよ」
「下は自分で脱ぐから。逃げないからどいてくれへん?」
「ふぅん。抜いたら随分大人しくなったもんやな」
「言っておくがな、お前が先に言い出したんやで?オレはするつもりなかった。出来ればこのまま何もせずに寝たいんや。いつもの通りでええやないか。それの何処が悪い?オレは収録が終わったら家に直行してネトゲ、お前は家に直帰して家族サービス。それで良かったやないか」
395歯車 5:2008/01/12(土) 13:32:37 ID:PUW4i+Db0
「よくもまぁベラベラ喋るな。家族んこと口に出したら僕が心変わりすると思うてんの?僕は覚悟してる。だったらお前も覚悟せえや。あとな、見れば分かるやろうけど僕の方が体格ええから押さえ込もうと思えば出来るんやで?
それとも無理矢理された方がええ?その方が僕のせいに出来るもんな。そしてまた自分の心から目を背けるんや、お前は」
上半身だけ裸になってそのままオレはじっとこいつの顔を見た。
「・・・それの何処が悪い」
「分かった。お前はそういうヤツや」
くすっと蟻野が笑う。これでオレはこの場から解放される。そう思っていたら甘かった。
蟻野は脱ぎ捨てられた靴下を拾うとオレの口の中にいれ、オレの手首をひっぱりベッドに投げ、更に逃げようとするオレの頬を叩き、両手を纏めて落ちてた上着で縛り、下半身も一糸纏わぬ姿にした。
「んーん!んー!!」
躊躇わずにそのままオレの中心に口をつけ、咥える。オレは頭をぶんぶん振りながらもがいていた。
股間から聞きたくない水の跳ねた音がする。足で蹴って離れさせようとしているのにその足も押さえられて身動き取れない。
二度目の吐精。ぐったりとするオレ。口の中に丸め込まれてる靴下が口から出された。
396歯車 6:2008/01/12(土) 13:33:14 ID:PUW4i+Db0
その口に入ってるものが口移しで飲まされる。
「気持ち悪い・・・」
「この部屋にローションはどこにあるんかなぁ」
「・・・・・・」
「ベッドサイドのチェストにコンドームがあるのは基本やね。ほら、ローションもある。女の子やってみんながみんなすぐ濡れるわけやないしな」
「・・・・・・」
「バイブは流石に無いか」
「蟻野くん」
「何」
「逃げないから後ろ縛ってるの外してくれる?」
「最初からそう素直になればええんや」
手首を縛っていた服が外された。オレは、再度手で扱かれるのを虚ろな目で見ていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「流石に3度目やと立つのもゆっくりやな」
オレの中心にコンドームが装着された。そして目の前のこいつは掌にローションを垂らすとそのまま後ろに手を回し、指を入れた。
その顔がとても苦しそうで、こんな目にあってるのに声をかけてしまった。
「ええって、もう止めよ?無理すんなって。オレはええねん。もう寝よう?」
「だって僕だってこのままで終わるの嫌なんや」
「ろくに指も入らへんのやろ?そんなんでこんな指より太いのが入るわけないやろ」
「ああもう、人にこれだけやっといてどんだけ根性無しや。抱きたいんやろ!?僕を!!だったら僕を滅茶苦茶にしたらええねん!絶対抵抗せぇへんし、どんなに痛くたってええんや」
397歯車 7:2008/01/12(土) 13:34:07 ID:PUW4i+Db0
傍目に見てもイライラしているのが分かる。いつも穏やかでオレより優位に立っているように見えるこいつが。
オレはこいつの体の中心に近付き、半勃ちになっているそれを咥えた。
何や、やろうと思えば出来るやないか。男のものを咥えるのって抵抗あったけど、こいつだからか。
「歯ぁ当たってる・・・痛い・・・」
オレはソレから口を外し、舌で舐めた。やっぱりAVで見るのと実際にするのとは違うな。
男のを舐めるのも咥えるのも初めてやけど、こういうのも慣れなんやろな。
「うん、気持ちええ・・・そこのカリんとこ・・・そう、上手や・・・」
塩辛く、熱く、オレの唇の中で脈打っている。
オレの肩を捕まれ、そのままオレの口から舐めていたものが外された時、白く濁ったものが静かに垂れた。
「・・・何でなんや。別にこのまま飲んでもええのに」
「あかんて。僕のは汚いから」
「もうええよ。このまま寝よう?そしてオレらは目覚めた時からいつも通りに戻るんや。それでええやろ」
オレはサイドテーブルのちり紙を取り、そいつの白濁した精とローションに塗れた後ろの穴を拭った。
「ごめん、ほんまにごめん。何でこうなんやろ。何で上手く行かへんのやろ」
「謝らんでもええよ。実際余程ほぐさんと後ろでやるのは無理やろ」
「愛しとんのや。ほんまに。僕はお前のコトを」
泣きそうなこいつの唇にキスをし、舌を入れた。
今だけはこのままで。もう二度とこんな事は無い。あってはならない。
そしてまたオレは心に鍵をつける。そしてその鍵は二度と開かない。
コンドームと使ったティッシュをそのままゴミ箱に投げ入れ、布団に入った。隣に入ってきたので腕枕をした。
「オレも愛してる」
心臓が静かに鼓動を刻んでいた。
398歯車 8:2008/01/12(土) 13:35:18 ID:PUW4i+Db0
同じ布団で抱き合って眠ったのはいつ以来だろう。高校の時の修学旅行の時に同じ部屋になって、ふざけて同じ布団の中に寝たんだっけ。
あの時「笑いを取るためにホモの真似をした」と他の同室の奴等に言い、実際に笑いを取れたけど、その実オレは出会った時からこいつの事が好きで、その頃からずっと心の奥底に想いを秘めていたんや。
そんなこいつもインタビューで「ホモやと思うぐらいこいつの事が好きやった」と答えてるぐらいだし、間違いなくそういうもんなんやろう。
歯車が違ってしまったというより、こいつが結婚するのもオレが独身なのも必然だったんや。それだけのこと。
(よく寝てるな)
明日からは普通に笑い合って、普通にコンビとしてそれぞれの道を歩む。
(いっそのこと嫌いになれればええのに)
寝ている蟻野の唇にキスをしてオレも目を閉じた。
体温と呼吸音。
きっと多分ずっと死ぬまで愛してる。
399歯車 終:2008/01/12(土) 13:35:53 ID:PUW4i+Db0
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                ◇,,(∀・  ) オソマツサマデシタ
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400風と木の名無しさん:2008/01/12(土) 14:04:07 ID:KksuN4xe0
>歯車

うぁぁぁぁぁぁ!いま絶妙な角度で心の奥の萌えが開眼した。GJb
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

オフシィズンなのに萌えて萌えて仕方ないので投下します!
ナマモノ注意!
中国グラソプリ、凄く大事な一戦だって事は分かっていた。
自分がチャソプになる為に。
でも、予選での不可解なペースダウンは、俺のモチベーションを下げるには十分だった。
あぁ、やっぱりここは俺の居場所ではない。


?????


ノレイスのミスとか不安定な天候とか色々あって、予選4位から決勝では2位まで上がる事が出来た。
トップでフラック゛を受けた黄身には追い付く事が出来なかったけれど、黄身も俺もまだまだチャソプの射程圏内だ。
絶対に俺がチャソプになってやる、俺は実力で勝ってやるんだ。
俺がしてきた事は正しかったんだと全ての人に認めさせてやる。
恋人だからといって黄身に譲るなんて事もしない。
そう考えながらマシソから降りると、パノレクフェノレメに向かう黄身の姿が見えた。
俺は、その黄身を引き止めてしまった。
こっちを見向きもしない彼に、つい手が出てしまったのだ。
引き止めて、彼に祝福の握手を求めたけれど、少し触れてさっさとパノレクフェノレメに行ってしまった。
でも分かっている。
彼がわざわざ俺と抹茶の間を通って行った意味を。
感情を表に出す事が苦手な彼は、俺におめでとうを言いに来たんだ。
だって、少ししか見えなかったけれど、ヘノレメットのバイザァから覗く彼の目は、とても柔らかかったから。


?????
「黄身?」
『…ん』
ダメモトで掛けた電話の呼び出し音が途切れた事に、俺は驚いてしまった。
彼が電話に出た事にもだが、起きていた事に。
ポテ゛ィウムで随分気持ち良さそうにシャソパソを飲んでいたので、もう酔っ払って寝ていると思っていたのだ。
「起こしちゃった?」
『部屋で飲んでた』
酒瓶を持つと止まらないんだよな。
『何?』
恋人だからといっても少しも甘い声を出してくれない彼に苦笑を返す。
「いや、おめでとうを言おうと思ってさ」
『何だよそれ』
言いながら小さく笑う彼はとても機嫌がいいようだ。
「…優勝おめでとう」
改めて言うと、彼はもう1度小さく笑って答えた。
『フェノレナンドもだよ、おめでとう』
そう言った後、でも、と付け足す。
『チャソプは譲らないから』
至って真面目な口調で言われたので、つい吹き出してしまった。
「分かってるよ、俺だって譲らないからな」
言って2人で笑い合う。
うん、やっぱり彼の機嫌はいいみたいだ。
「なぁ黄身」
『ん?』
機嫌のいい今なら聞いても答えてくれる気がする、昼の事を。
「今日パノレクフェノレメに行く時さ、俺と抹茶の間通って行っ…」
『っ!!』
一瞬息を飲んで、すぐにブツッと聞こえた。
「え?!黄身?!」
しまった、やっぱりこの反応だったか!
俺はもう繋がっていない携帯をベッドに放り投げて、頭を掻きむしってしまった。
酔っていようが気分が良かろうが、黄身は黄身だった。
照れているだけなんだろうけど、1度損ねてしまった彼の機嫌を取り戻すのは簡単な事じゃないだろう。
もしかしたらチャソプになる事よりも難しいかもしれないな。
次に彼に会えるのは2週間後のフ゛ラシ゛ルグラソプリ、今季最終戦。
レェスが終わったら、打ち上げとか口実を作って、大量の酒と彼の好物を持って部屋に押し掛けようかな。


どうか彼の機嫌が直りますように。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

このジャンル初書きでめちゃめちゃ緊張!
そして今更去年の10月の話をorz
遅筆な自分を恨む・・・!
しかも文字化けしてる!
?????の所は場面切り替えですorz

読んで下さった方ありがとうございました!
406風と木の名無しさん:2008/01/12(土) 19:21:53 ID:FuplczNN0
>>405
シーズンオフに燃料投下キタ――(゚∀゚)――!!
ツンデレどころか、ツンツンツンツンデレで酒瓶手放さない黄身に萌え、
きついシーズンの中強さを証明しようとする漢な眉に萌えました
407風と木の名無しさん:2008/01/12(土) 19:33:58 ID:OQq/QfGJ0
>>405
眉萌えぇぇぇ!頭かきむしってる眉が容易に想像できたw
電話ブッチな黄身は相変わらずでイイwww
中国はいいネタ宝庫だったよね。黄身全世界公開居眠りとか。
は、早くまた眉の黄身シャソパソぶっかけが見たいお!
姐さんGJでしたー萌えをありがとう!
408風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 02:11:10 ID:nE/1r1MQ0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  や/ま/だ/た/い/ちのミラクルの八木トムだってさ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ※下品なエロしかないから注意してね
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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最終回あたりのトムがアメリカに帰るか迷ってるところ
409やぎとむ 1/4:2008/01/13(日) 02:11:52 ID:nE/1r1MQ0
自室に戻ったトムは、先に無断侵入していた男の姿に苦笑した。
「なんだよ、八木沼。まーた、いやらしーことでもしようってのか」
このエロ魔人、と続けようとしたが、トムはそのまま押し黙った。八木沼の冷たい視線がトムを射抜いていた。
背筋が凍る。八木沼に対して、怖いと思ったのは初めてのことだった。
無言のまま、八木沼はつかつかとトムに近づき、その腕を握ったかと思うと、力づくでベッドへと押し倒し、そのまま覆いかぶさった。
ぎいっとベッドが鳴り、トムは小さく悲鳴を上げた。
八木沼はパンとその頬を叩き、耳たぶを舐めながら囁く。
「るせーな、黙ってろよ」
感情が感じられない声音。信じられない気持ちでトムは硬直する。一体全体、何が起こったのか理解できない。ただ、分かることは、自分はこれからこの男とセックスをするのではない。単に犯されるということだった。
かちゃ。
安っぽいおもちゃの手錠。先に準備してあったそれで八木沼は要領よくトムの両手首を拘束する。他の男にもこういうことをしてきたのだろうか。やけに要領の良い動作に、トムの心がずきりと痛む。
その痛みなど何処吹く風とばかりに、八木沼はトムのシャツをたくし上げて、右の乳首を指の腹で擦り、左の乳首に歯を立てる。びくんとトムの身体が跳ね上がり、艶っぽい声が上がる。
「はは。お前、好きだもんな。乳首いじくられるの。オナニーの時も弄くってるんじゃねーの? ちょっと前まではキレーなピンク色だったのによぉ」強く乳首を強くつねり上げ、「なに、このきったねえ色」
くっくっくという笑い声に、トムは首を振ることしか出来なかった。確かに、自慰に耽る時、乳首を弄ることもあったが…、なぜここまで侮蔑的な言葉を吐かれなければならないのだろう。
410やぎとむ 2/4:2008/01/13(日) 02:12:25 ID:nE/1r1MQ0
「今のトムの乳首の色、ドドメ色ってゆーの。ちゃんと覚えてくれよな」
ちゅぱっとわざとらしい音を立て、八木沼はトムの色づいたそれに吸い付き、執拗に嘗め回す。
「ぁああ、ん」
「そうそう。他にもドドメ色の部分はあるから、そっちも覚えとけよ」
そう言うなり、八木沼はぞんざいな手つきでトムのズボンを下着ごと剥ぎ取り、床に向かって放り投げる。ばさりと乾いた音が響いた。露になった両脚を八木沼は持ち上げて、秘められた場所をじっと見つめる。唇がにやりと曲がるのをトムは絶望的な気持ちで見守っていた。
「オメーのケツの穴な。すげえ使い込んだって色だぜ。ま、確かに俺もそこそこ楽しませてもらったけどさ」
「い、やああ。はひっぃィイ」
拒絶のはずの悲鳴には男の情欲を煽り立てる媚が含まれていた。更なる快感を求めヒクヒクと男を誘いかけるその場所に八木沼が舌を這わせ、ぴちゃぴちゃと音を立てて舐めだしたのだ。
「ん、んん…」
トムが腰を降り始めると、八木沼は顔を離し、股の中心で雄々しく主張するモノを強く握りこんだ。
「あんだ、おめえ。ちょっと舐められただけで、こんなになっちゃって。舌だけじゃ足りねーだろ?」
「や、ぎぬまぁ」
情けない声でトムはすすり泣く。侮蔑されればされるほど八木沼の手の中のモノは大きくなっていく。大粒の涙がぼろぼろとトムの瞳から零れ落ちる。八木沼はトムの股間から手を離し彼の泣き顔を覗き込もうとしたが、イヤイヤと駄々をこねるようにトムは首を振るばかりだ。
手錠がガチャガチャと鳴り続け、手首が擦れて痛みが走る。だが、その痛みも愛撫を止めた八木沼に対するもどかしさにすり替えられる。
411やぎとむ 3/4:2008/01/13(日) 02:15:50 ID:nE/1r1MQ0
もっともっと。そう唇が動く。
「好きにしな」
八木沼は手錠を外すと、刺激を求めて誘いかける場所を再び舐めだした。皺ひとつひとつを丹念に、じっくりとねっとりと。
そして、両腕が自由になったトムは自らの快楽の中心を掴み、擦り上げる。ビクビクと脈打ち先走りがトムの指を濡らし、それをすり込むように指が更に激しく蠢く。そして、
「っ!」
勢いよく吐き出された白濁の液がトムの手のひらを汚した。はあはあと荒く息をつきながら、トムはしかし物足りなさを覚え、八木沼の方へと視線を向ける。いつの間にか、八木沼は顔を上げて、足を抱え上げたままじっとトムの股間を凝視していた。
「なんだその目?こんな一杯出したのに、まーだ足りねえの?」
そして、唾液で濡れた入り口を指で突付く。
「わりーけど、潤滑油ねーんだわ。ここに突っ込むの、無理!」
八木沼の言葉が終わらぬうちに、トムは精液塗れの己の指を、その場所へねじり込んだ。
ぬめりが足りないが強引に押し込み、中で指を折り曲げて穴を広げる。トムの腰の動きに合わせてぐちゅぐちゅと湿った音が立つ。
その行為に誘われるように、八木沼はジーンズのジッパーを降ろし、己のモノを出した。
赤黒くそそり立ち、欲望の先走りを垂れ流しているソレを目の当たりにし、半開きになったトムの唇の端からツーッと涎が一筋垂れてシーツを汚した。
「や、ぎぬま。はやくはやくそれを、それを俺の……」
「俺の?」
トムは指を引き抜くと自身の尻の肉を掴み、ぐっと開いて八木沼に見せ付ける。
「俺の、きったないドドメ色のケツマンコにぶち込んでええええええ」
涙と鼻水と涎に塗れたトムの顔に喜悦の表情が浮かぶ。足りない足りないと指なんかじゃ満足できないと訴えかけていたところに八木沼のものが入り込んでたからだ。
圧倒的な存在感と熱さで、トムの内部を埋め、ぐちゃぐちゃと肉を掻き分け深く抉る。
「きっつうう」
激しく腰を動かしながら、八木沼は眉をしかめる。出し入れされるリズムに乗って、トムの入り口がぎゅっと締まり、八木沼の雄を容赦なく締め付けた。
「とても使い込まれたお古とは、思えないぜ」
ハァハァと犬のように呼吸を繰り返すトムに言葉嬲りをすれば、ぎゅうっと強く窄まる。
412やぎとむ 4/4:2008/01/13(日) 02:16:34 ID:nE/1r1MQ0
「あ、あ」
彼の背を抱こうと伸ばされたトムの腕を八木沼は引っつかみ、再び手錠をかける。拘束を解こうとトムは腕を動かすが、ガチャガチャと音を立てるだけで両手は自由を奪われたまま。
そして、挿入されてから一度も手を触れられていないトムのモノも所在無く腰の動きに合わせて揺れている。
無駄な抵抗を繰り返しながらも感じているトムの様子に満足げに八木沼は唇を吊り上げると、更に深く突き上げる。滑った音に、意味を成さない甲高い喘ぎが混ざる。
「放して欲しければ俺はド淫乱の白いメス豚です、って言えよ」
耳元で囁かれて、トムはぶるぶる首を振る。しかし、八木沼は卑猥な言葉をとろとろとトムの耳に注ぎ込み続け、ズブズブと肉欲に溺れるトムの最後の最後の理性の糸もとろけて消えていく。ずるっと鼻水をすすると、
「あひっ、ひっ、お、おでは、ド淫乱の白いメス豚で、すぅ…ケツ穴の汚い便所豚ですぅ」
あられもない言葉に八木沼は目を見開き、次いで満足げに
「大正解」
と呟き、自由を得られるという期待に目を輝かせるトムに、こう続けた。
「ご褒美に俺がイッたら外してやるよ」
「ひっひどいっうそつきっ」
「どこが嘘だよ。すぐに外してやるなんて俺は言ってねえ」
手荒にトムの身体を揺さぶり、角度を変えてはトムの反応をじっくりと楽しむ。トムが八木沼を罵る言葉に乗せて、犯し続ける。その声も掠れて意味を成さない喘ぎに変わる頃、
「ああ、やっぱいーよ。お前ん中。イきそ」
中は止めてと口にするより早く引き抜かれてトムが不審に思う間も無く、八木沼は自身のモノをトムの顔面に突き付け、桃色に染まった頬に向かって精を吐く。
どろりと肌を伝う濃密な雄の臭いが鼻腔から脳天に突きぬけてトムを刺激する。背筋にぞくりと甘い快楽が走り、濡れて放置されていたそれが勢いよく飛沫を上げた。
腹にたらりと滑める白濁を、己の精で濡れた指先で八木沼は掬い上げ、戦慄くトムの唇に擦り付けた。
「帰っちまっても、こーゆースケベなことしたって忘れるなよ…?」
嘲りの中に懇願が混ざっていることを、正気を失いどっぷりと快楽の海に浸るトムが気づくことは無かった。
413風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 02:17:30 ID:nE/1r1MQ0
        _________
       |┌───────┐|
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   (  ,,゚) ピッ   ∧_∧   ∧_∧
   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
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  └──────│本当に下品しかないね・・・
                └───────────────

414風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 05:28:25 ID:3w3GdVGg0
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  └──────│ドラマ・1/ポ/ン/ド/の/福/音より、上.田←石.坂
                └───────────────

昨夜の第一回放送を見て興奮冷めやらぬ内にこしらえたので、
この先ドラマが進むにつれおかしな部分は出てくると思いますが、萌えは書き捨て。
一番不安なジム内の間取りなんかは、脳内で適当に補完してくださいまし。

まだまだ手探り状態という事でカプ色は薄めとなっております。
4158時間の睡眠4-1 1/ポ/ン/ド 上.田←石.坂:2008/01/13(日) 05:36:05 ID:3w3GdVGg0

畑.中.耕.作のボクサーとしての矜持と存続を賭けた一戦から数時間。
普段はミットを打つ乾いた音が絶える事のない我が向.田ジムも、夜中の1時を回る頃には一転して
気だるい静けさに包み込まれていた。

久しぶりにカツ丼なんてコッテリしたものを収めたオレの胃袋は大いに張り切り、
張り切りすぎて必要としている以上の胃酸を多量に分泌し、こんな時間になってオレを苦しめ始めた。
どうにも寝付けない。暗がりの中となりの布団を見ると、皆の倍以上の飯をたいらげた筈である畑.中が、
それはそれは満足そうな寝顔でイビキをかいている。

(……喉渇いた)

オレは毎日8時間と決めていた睡眠を泣く泣く諦め、一杯の水を求めて薄い布団から身を起こした。
4168時間の睡眠4-2 1/ポ/ン/ド・上.田←石.坂:2008/01/13(日) 05:53:05 ID:3w3GdVGg0

手探りで階段の手すりを伝い一階に降りる。
月明かりにぼんやりと浮かび上がるリングがでかい切り餅みたいだ、なんてしょうもない事を考えていると、
薄暗い食堂内に溶け込んだ人影が目に入る。
椅子に座り、テーブルに片肘をつく気取ったシルエットから、影の正体が石.坂だという事はすぐにわかった。
石.坂はオレがその姿を確認するよりもずっと早くこっちに気付いていたらしく、背後を通っても反応がない。
水が波々注がれたコップを手に、食堂の入り口側の壁に凭れ掛かったオレは、沈黙に耐えかねて口を開いた。
コップを取り、水道の蛇口を捻ってる間も、こいつがオレの背中を目で追っていたような気がしたから。
「お前、なに電気もつけねえでボーっとしてたの?怖いよ?」
「……夜目きくんで」
微妙な間を置いて、質問とはちょっとずれた内容の答えが返ってくる。
無視を決め込まれるとばかり予想していただけに、次の言葉を探すのに少し手間取ってしまった。
「上.田さんは?」
見かねたように石.坂から珍しく話を振られ、一瞬何を質問されたのかわからなかったのだが、
こんな時間に起きているオレを訝しがっているんだとすぐに気付く。
「カツ丼で胃もたれしたっぽくてさぁ、なかなか寝付けねえんだわ」
「年なんじゃないっすか」
「何だぁ?」
淡々と言われ一瞬頭にきたものの、オレ自身そう感じていたところもあっただけに否定する材料がなく、
石.坂の肩を軽く小突くだけに反撃を留めておいた。
だが、大方あのシニカルな笑みが返ってくるんだろうという予想に反して、石.坂は至極真顔だった。
4178時間の睡眠4-3 1/ポ/ン/ド・上.田←石.坂:2008/01/13(日) 05:53:52 ID:3w3GdVGg0
「……なん、どうしたよ?」
「ムカつきました?」
「はあ?」
ムカついたって、たった今オレを年寄り発言した事にだろうか。
どれだけ気の短い先輩だと思われてるんだろうと呆れていたら、石.坂はそれを察してか、
違うと言いたげに首を横に振った。
「こないだ、ほら……畑.中がボクサーやめるやめないとかで、話してた時あったでしょ」
「ああ、おぉ……」
確かに覚えているが、いまいち話の要領がつかめず犬のうなり声みたいな相槌になってしまった。
「そん時に俺、上.田さんみたいになるよりマシだみたいな事言ったじゃ――…」
「あっ!そーおだよお前!お前なぁ、思うのは勝手だけどそういう事を口に出すんじゃねえよホント。
人格疑われっぞぉ!?」
思い出した怒りの勢いで食って掛かる。まあ、基本的にオレはさっぱりした気持ちのいい男だから、
ずるずるといつまでも怒りを引きずるような女々しい真似はしない。
石.坂に対しても、あれ以降だって普通に接してきたつもりだし。
こいつに至ってはそんなオレの寛大さをしり目に、次の日には『そんな事ありましたっけ?』
みたいな顔をしてサンドバッグを叩いていた。
どうせ今だって不貞腐れたよな顔をしてるに違いない。空になったコップをテーブルに置いて、
視線を石.坂に戻すと、何だかえらく深刻な表情でオレを見つめている相手と目が合った。
4188時間の睡眠4-4 1/ポ/ン/ド・上.田←石.坂:2008/01/13(日) 05:57:43 ID:3w3GdVGg0
「……何だよ」
「べっつに」
吐き捨てるような一言を合図に、また訪れる沈黙。何なんだよ、黙られると気まずいじゃん……。
奇妙な空気が二人の間に流れた後、二度目の長い沈黙を破ったのは、石.坂の方だった。
「俺、もう寝るんで」
そう言いつつ石.坂が椅子から腰を上げかけたので、
何となく今の会話を最後にしたくなかったオレは咄嗟に口を開く。
「っていうかお前、何でこんな時間に起きてたわけ?」
「トイレですけど」
ああ、そう。としか言い様のない返答。けど、何となく気まずい空気は打ち消されたような気がした。
「あれ?じゃ、何で食堂になんかいんの」
「……上.田さんが降りてくるところが見えたから」
「は?」
オレの間抜け面を最後に今度こそ会話は途絶え、それじゃ、と石.坂が足早に横をすり抜けていく。
一人ぽつねんと残されたオレは、冷え切った食堂内の空気に尿意を催すその瞬間まで、
石.坂の捨て台詞の真意を探ろうと首を捻り続けるのだった。



そして翌朝。
二人で食事の準備をしている中、ひょっとして先日の事を謝ろうとしたのかというオレの問いに対し、

「やっぱり8時間寝ないとダメですよ、上.田さん」

とシニカルな笑みを見せる石.坂がいた。
419風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 06:10:28 ID:3w3GdVGg0
          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
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         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) IDガメガネトッタベンゾウサン!
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                |
  └────────────────┘


どうしてだか途中で何度か書き込みできなくなって、リアルにちびりかけたよ。
人が多い時間帯じゃなくて良かった…。
石.坂はツンデレか?それともクールデレか?と悩みながら探り探り書きました。
ドラマや人物の設定が掴めたら、もうちょっとカプ色増したのも書いてみたいです。
いやしかし何で書き込めなかったんだろう?何かの呪いかな。はははまさかね!



あれ?こんな朝早くから誰か来たみ
420昼休み 振り ミ.ズ.ア.ベ. 0/3:2008/01/13(日) 06:19:53 ID:s8celNxZ0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  前回投下した小ネタの続き?の小ネタ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  似たようなネタでごめんね
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
421昼休み 振り ミ.ズ.ア.ベ. 1/3:2008/01/13(日) 06:20:35 ID:s8celNxZ0
「阿部」
「何だ?」
「なんでもない」
「…………」
 昼休み、昼メシ食い終わった直後のやりとりだった。
 こういうヤツだとはわかっちゃいるが、それでもやっぱり腹は立つ。
 わざとやってんのかそうじゃないのかわかんねートコがさらにムカつく。
「お前──」
「あーいや、やっぱ言おっかな」
 なんだそりゃ。
 面白がってる風でもない。深刻そうでもない。じゃあ何なんだよ。
「何を」
 イライラしても無駄だ。頭では分かってても、イラつくものはイラつく。
 別にオレが短気なわけじゃない。こいつの妙な言動が全部悪い。
「んー? イヤ、大したコトじゃないんだけどなー」
 読めない表情。今度は何を考えていやがんだ。どうせロクでもねーコトなのは分かってるけどな。
 わかってるからこそ、もったいぶられるとイライラすんだよ。
「だから、何が」
「気になる?」
「…………」
 こいつの目的はなんだ。オレを怒らせてなんの意味があるんだよ?
 オレの微妙に険を込めた問いにも、水谷は全く動じなかった。
 つか、オレがイライラしてんのに気づいてねーのかもな。何しろ水谷だ。
 誰か教えてくれ。オレにはこいつの思考回路がさっぱり理解できねえ。
422昼休み 振り ミ.ズ.ア.ベ. 2/3:2008/01/13(日) 06:21:10 ID:s8celNxZ0
「だからニラむなって〜……怒るトコじゃねーだろ?」
「怒ってねェよ。イライラしてるだけだ」
「一緒だ一緒ー。どっちにしろ怖えーから」
 怖いっつうわりには、全然怖がってるように見えねんだけどな。つか、イラついてんの気づいてんじゃねーか!
 わざとか。やっぱりわざとなんだな?
 またオレの気をひきたいってだけでこのアホくせェ問答続けてんだろ。
 オレは最大限の努力で声量を抑えつつ、確認する。
「……つまり、特に何もねーんだな?」
 でも、そんなオレの努力は全くムダだったようだ。
「あーもー、だからあるって! ったく、しょーがねーなあ……」
 呆れたようなため息だった。
 さすがに限界だ。なんでお前にそんな態度されなきゃなんねんだ。
「お前、さっきから──っ!?」
 言葉は、途中でせき止められた。唐突に伸ばされた水谷の手によって。
「うっせーなー、そーやってすぐ怒鳴るから三橋が怯えんだろ〜?」
 世間話のような口調、表情。水谷はごく自然な動作でオレの唇を指で撫でる。
「へー、思ったよりやわらけー」
「…………」
 何してんだ、お前。
 その程度の問いかけすら出てこなかった。
423昼休み 振り ミ.ズ.ア.ベ. 3/3:2008/01/13(日) 06:21:45 ID:s8celNxZ0
 完全にフリーズしたオレをよそに、水谷はそのまま指をスライドさせ、口の端にまで持っていく。そして、
「よし、取れた」
 何事もなかったように水谷は手を離し、告げる。
「ごはんつぶ。ついてた」
 思考が動き出すまでに、数秒。
「……へえ」
 出てきた声は、不自然な会話の間を埋めるには足りなさ過ぎた。
「阿部ってときどき面白いよなー」
 宙に浮いた相槌に笑うでもでもなく、相変わらずの読めない表情で水谷はつぶやいて、米粒を指で弾く。
 いや。なんかおかしいだろ、今の。
 そんな反論は、消えない指の感触に封じ込められてしまっていた。
「なー、やっぱ言ったほうがよかった? オレはどっちでもよかったんだけどさー」
「…………」
「あ、寝たフリ禁止。今度は阿部の赤い顔もっと見たい……って、だから禁止だって」
「……うるせえ」
「なんでよ? 別に笑ったりしないぞ!」
 誰か、オレの代わりにこいつをぶん殴って黙らせてくれ。
 まだ何か言ってる水谷を、オレは完全に無視した。
 それ以外、どうしろってんだよ。
 机に突っ伏したものの、妙に高鳴った心臓の音が邪魔で寝つけなかった。
 ──昼休み、早く終わんねーかな。
424昼休み 振り ミ.ズ.ア.ベ. 了:2008/01/13(日) 06:22:23 ID:s8celNxZ0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ オソマツサマデシタ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
425風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 07:12:28 ID:q2YjXb7w0
>>414
ジェバンニ乙w
今後の展開楽しみだな!
426夢のまた夢、中編:2008/01/13(日) 07:41:18 ID:CSJoUEvZ0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  某昭和の大スターとその周辺の人達の話
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ベース×スターです。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧長くなりすぎて中編
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )になったぞゴラ。
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
427夢のまた夢、中編1/9:2008/01/13(日) 07:42:01 ID:CSJoUEvZ0
誰かが泣いている。

哀しげに、切なげに、むせび泣く声が聞こえる。
頬を伝う雫は、誰のものだろうか。

哀しい筈なのに、
辛い筈なのに、
それはとても暖かく、優しい感覚だった。

たゆとう意識が、覚醒を促す。
泣いているのは、誰だろうか。
とめなくてはいけない。
もう誰も、泣いて欲しくないから。

「・・・・・・う・・・・・・。」
突然の彼の声に、男の泣き声が止まった。
薄っすらと瞼を開く。
寝覚めで霞んだ視界が、見知った男の顔を捉えた。
「・・・・・・え・・・・・・・?」

なぜ彼がここにいる?
その前に、
ここは、どこだ?
さっきまで、自分は、社長と-----。
そこまで思い返して、慌ててベッドから身を起こした。
428夢のまた夢、中編2/9:2008/01/13(日) 07:42:40 ID:CSJoUEvZ0
「あ・・・・ぐ・・・っ!」
身体中に走る激痛に、思わず毛布を握り締める。
「おい、大丈夫か?」
慌てて男が彼の背に手を添える。
それを、
「触んな・・・・・!」
乱暴に突き放した。

どうして、
どうしてお前が、
こんな所に。
こんな姿を。

混乱する思考に、両手で髪を掻き毟った。
男はどうすることも出来ず、そんな彼をただ見詰めていた。

「・・・・・・ここは、何処だ?」
彼の問いに、男はホテルの名を告げた。
「お前が・・・連れてきたんか?」
険しい表情で、問いかける。
「いや・・・多分社長やと思う。」
「社長・・・。」
大仰にため息をついた。
納得はいった。
最後に会話を交わした相手。
しかし、
「で、どうしてお前は、ここに居るんや?」
429夢のまた夢、中編3/9:2008/01/13(日) 07:43:16 ID:CSJoUEvZ0
わざと刺々しい声で、問いかけてみる。
「お前のマンション行ったら、社長に会うて、ここにおると教えてもら
って・・・。」
申し訳なさそうに、俯いて、
小さな声で、答えられた。
苛立たし気に、彼が乱暴に髪をかき上げる。
男はすまなさそうに項垂れていた。
「身体・・・大丈夫か?」
ぼそぼそと伝えられる、心配の声。
それを、
「お前が気にすることや無い。」
冷淡に返してしまう。
「・・・・・・いつもの事や、もう慣れた。」
自らを嘲る事で、更に男を傷つけて。

違う、
違う、
こんな事が言いたい訳じゃないのに。
悲鳴をあげる心が胸を締め付ける。
優しくしたいのに、
優しくされたいのに、
何故こんな場所で会わなければならない。

「・・・・・・くそっ・・・。」
傷ついた両腕を毛布に叩きつけた。
痛みに顔をしかめながら。
430夢のまた夢、中編4/9:2008/01/13(日) 07:44:02 ID:CSJoUEvZ0
「・・・・・・俺、帰るわ。」
俯いていた男が、意を決したように言った。
「誰にも言わんから、心配せんでええから。」
最後まで相手を気遣って、
背中を向けようとした。
それを
「待てや。」
彼の声で制される。
「用があったから、ここに来たんじゃないのか?」
突き放すような声で。
「それぐらい済ませてから、出て行けや。」
男を引き止める。
ここに居て欲しいと。
ゆっくりと彼のほうに振り戻る。
真摯に男を見つめる瞳が、そこにあった。
こんな所で妙に律儀なのも、やっぱり彼は変わらない。
よかったと、
何故か安堵の気持ちが男の心を満たした。
そして、ここまでの衝撃ですっかり忘れていた、当初の目的を思い出す。

ジーンズの右ポケットから、小さな包みを取り出して、彼に見せた。
「・・・・・?」
「これを、お前にと思って。」
彼が訝しげに男と包みを見返す。
「ずっと、一緒に音楽やってきたから。」
思わず照れ笑いが浮かぶ。
「最後に、感謝の気持ちと思って。」
431夢のまた夢、中編5/9:2008/01/13(日) 08:00:43 ID:CSJoUEvZ0
男の言葉に、彼の表情が凍りつく。
「何・・・言って・・・。」
思わず声が上ずる。
「・・・受け取って、くれへんかな・・・?」
哀しげな笑みで、訴えられる。
「お前と一緒に居れて、嬉しかった、本当に。」
目の前に差し出される、白い箱。
「だから・・・。」
「ふざけんな!」
それを右手で、思い切り払いのけた。
身体の痛みさえも気にならなかった。
「最後?感謝?」
怒りで身体の熱があがる。
「そんなへらへら笑って、お前はそんな事言うのか?」
身体が震える、頭の中が沸騰する。
戸惑う彼など、目に入らない。
「お前にとって、俺とやっていたことは、そんなもんだったのか?」
顔が熱い、目尻が熱い。
「お前にとって俺は、その程度のもんだったんか!」
はらはらと涙が零れ落ちる。
シーツの赤い血が、涙で滲む。
「俺が、どんな気持ちで、お前を・・・。」
あとは言葉にならなかった。
シーツに顔を突っ伏して、嗚咽を漏らした。
432夢のまた夢、中編6/9:2008/01/13(日) 08:01:24 ID:CSJoUEvZ0
ずっと一緒に居てくれたから、
大切な仲間だから、
側に居て欲しかった。
これからも自分の元でベースを弾いていて欲しかった。
何より、音楽を続けて欲しかった。
哀しかった、
辛かった、
その気持ちを、
彼も持っていると思っていたかった。
それは自分の、独りよがりだったのだろうか。

不意に、両肩を強く掴まれる。
「何・・・。」
言う間もなく、男の胸に身体を抱きこまれた。
「・・・すまん・・・。」
掠れた男の声が、耳元で聞こえる。
「すまんな・・・堪忍な・・・。」
彼も泣いているのか。
「お前にばかり・・・辛い思いさせた・・・。」
背中に回った腕に、力がこもる。
「勝手に仲間に引き込んで・・・勝手に離れて・・・。」
男の言葉に、又涙が溢れる。
「お前の気持ちにも気付かんで・・・。」
嗚咽をかみ殺しながら、男は言葉を続ける。
「どうしようもない奴やな・・・俺は・・・。」
男のすすり泣く声が、彼の耳元で聞こえた。
433夢のまた夢、中編7/9:2008/01/13(日) 08:02:08 ID:CSJoUEvZ0
しがみつくように男の首に両腕を回す。
決して離すまいと。
「ソロになって・・・売れて」
とつとつと言葉を紡いでいく。
「嫁さんももろうて・・・。」
何の感情も持たない声で呟く。
「幸せの頂点にいると、皆に思われて・・・。」
身体が震える。
「でも・・・そんなん嘘や・・・。」
両手で男の顔を挟んだ。
お互いの泣き顔を見詰め合う。
「だって・・・。」
彼の顔が哀しみで歪んだ。
「お前が・・・おらんようになる。」
再び男にしがみついた。
「お前が居なくなる!もうベースも弾かなくなる!一緒に音楽も出来なく
なる!」
それは慟哭に近い叫びだった。
血を吐くような。
「俺は・・・一人になる為に・・・ここまでやってきたんやない。」

皆がいたから、
お前がいたから、
ここまでこれた、
唄っていようと思った。
なのに、唄うごとに、
どうして皆が去っていく。
434夢のまた夢、中編8/9:2008/01/13(日) 08:02:48 ID:CSJoUEvZ0
どうして俺だけ、
夢の中に取り残される。
望んだものは、全く違うものなのに。

強く抱き合ったまま、二人は泣き続けた。
どうしようもない現実の中で、
ある者は諦めの哀しみで、
ある者は諦めきれない怒りの嘆きで、

暫くして口を開いたのは、男の方だった。
「お前は・・・俺の夢や・・・。」
その言葉に訝しがる彼を見て、泣きながら笑いかける。
「俺だけやない・・・きっと皆が・・・お前を見て夢を思い出す。」
男の言葉を、彼は真摯に受け止める。
「G/Sの頃の夢を・・・。」

あの熱狂を、
あの華やかな日々を、
そこに居たものなら。
覚えているなら。

「お前が唄っている限り・・・G/Sは終わらん。」
男の右手が彼の髪を撫でる。
慰撫するように。
「それが・・・俺の誇りや・・・。」
涙を流しながら、晴れ晴れとした顔で男は彼に伝えた。
435夢のまた夢、中編9/9:2008/01/13(日) 08:03:35 ID:CSJoUEvZ0
心からの彼への想いを。
「・・・・そうか・・・。」
落ち着いた声で、彼が答えた。
「それなら、しゃあないな。」
男に向かって、笑いかける。
「俺は、唄い続ける。」

例え一人になっても。
寂しくない、
孤独ではない、
そこには、数え切れない、人々の想いがあるなら。
どんな事でも、耐えていける。

「・・・ありがとう。」
男に向かって、心からの感謝の言葉を告げた。
男の肩に、顔を埋める。
優しく背中を撫でながら、男は彼を抱きしめ続けた。
感謝の涙を流しながら。
彼の体温を、匂いを、感じとっていた。

暖かい沈黙が、二人の間に流れていた。

「・・・・・・・なあ・・・・・・・。」
口を開いたのは、彼の方だった。
「何や?」
優しく問いかける。
436夢のまた夢、中編:2008/01/13(日) 08:08:52 ID:CSJoUEvZ0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 話豚切りソマソ、続きはしょっぱな
 | |                | |     ピッ   (・∀・; )からエチです。
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
437風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 09:02:35 ID:bJyKCwnx0
切ない…泣かせていただきました。
リアルでも心情的にはこうではなかったかと思われます。
ありがとう
438風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 09:24:02 ID:TolABucdO
414
まさかここで、読めるとは思ってもみなかった。
萌させてくれてありがとう!クソ萌た!GJ
439風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 09:39:04 ID:xR1oAmMi0
明けましておめでとうございます。映画スレ14の441を今年もよろしくお願いします。
大晦日から元旦にかけて書きました最新作です。前二作の姉妹編です。
この板のコピーの通り、除夜の鐘もわたくしには功徳がなかったようであります。

ノベライズ本の書き方がかっこよかったので、中途半端にパスティーシュ。
リバーシブルご注意ですよ。

映画 ギャング○ターNo.1
主人公×フレディ

一言お詫び。前作で主人公の方がだいぶでかいみたいな書き方してしまった。
実際はフレディの方が主人公よりわずかに大きいです。記憶違いすいません。
(実はノベライズ本にもフレディはそんなに背が高くないみたいな記述が・・・・)

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
440涅槃 Nehan 1/5:2008/01/13(日) 09:40:41 ID:xR1oAmMi0
 閉めきったカーテンの向こうには、恐らく、灰色の雲が重く垂れこめて、鈍く弱々しく
輝く太陽を彼方に追いやっていることだろう。
 特にこの季節、この街の空は滅多に、すっきりと晴れるということがない。天候までも
が、住人たちの陰鬱で虚無的で冷笑的な心のありように感応しているかのようだ。勿論、
実際はその逆なのだろうが。
 「雪になりそうだな」
 お前の艶やかな金髪に手櫛を施しながら、フレディが気怠げに呟く。
 だが、お前たち二人には、骨も凍るような外の寒さは無縁だ。よく暖房の効いた部屋で、
最高級の羽毛布団にくるまり、まだ情交の余韻を残す火照った体を寄せあっているお前た
ちには。
 所在なさげに自分の髪に絡むしなやかな指を、お前は貴重な宝石でも見るような思いで
眺めている。いつか映像で見た、東洋の寺院に祀られている彫像のそれを思い出す。気高
く柔和な、しかし、見ようによっては途轍もなく残酷な何かを感じさせる、謎めいた微笑
を湛えた異教の神々。お前には理解できぬ印を結ぶ、蠱惑的な指。
 同時に、その繊細な指を噛み切って、鮮血が噴き出すのを見たい、と思う。
 指だけじゃない。交わる時にはいつも、その舌を、乳首を、陰茎を、喰い千切りたいと
いう衝動に駆られる。飽くことなく、何十分も陰茎を頬張るお前を見て、フレディは、
「お前の持ちものみたいだな」と呆れたように言う。自分の心中を見透かされたようでど
きっとするが、その表現は悪くないか、と思う。
 お前はフレディの優美で貴族的な横顔を見る。上品な仕草で燻らす異国の煙草の匂いが
立ち籠める。趣味のよい香水の香りと相俟って、頭をくらくらさせる。さっきまであんな
に淫靡な表情で、お前の体を隅から隅まで舐め回していたとはとても思えない、憎らしい
ほど涼しげな面差し。
441涅槃 Nehan 2/5:2008/01/13(日) 09:42:18 ID:xR1oAmMi0
 そうしていると、ナイフとフォークより重いものを持ったことがない、どこかの富豪の
御曹司のようだ。警官どころか、虫も殺せそうにない。物騒な二つ名とは裏腹に、フレディ
・メイズなんて、名前からしてお蚕ぐるみのお坊ちゃんという感じだ。好物はマシマロと
バニラセーキで、ランボーだかヴェルレーヌだかの、愚にもつかない詩集を肌身離さず持
ち歩いているような男。そんな男が実際にいるのかどうかは知らないが。
 お前の世界が百八十度変わった、あの運命の日。獅子のようにゆったりと、お前の前に
腰を下ろした男を見て、お前は今とほぼ同じような感想を持った。ちょっと小突いたら泣
きが入るんじゃないか、とさえ思った。その直後に起こった血腥い出来事によって、その
場にいた全員が震え上がり、お前のナメた考えは一瞬で吹き飛ばされたのだが。
 しかし、その王者を誘惑し籠絡して、今その肩に頭をもたせているのだから、お前も大
した玉だ。
 敵からも仲間からも多少は恐れられていたとはいえ、小便臭い下町で気炎を上げるのが
精いっぱいの、小汚いチンピラに過ぎなかった頃と比べて、何という違いだろう。お前は
笑いそうになる。今は何でも持っている。金も、力も、スーツも、靴も、腕時計も、車も、
マンションも。
 そして、王者の寵愛さえも。
 知らなかった。乳房を、女性器を持たぬ体に、これほど欲望を掻き立てられることがあ
ろうとは。心も体も同じものどうしで睦みあうことが、これほど心地よいものだとは。生
まれ持ったこの美貌が、女ではなく、男を虜にする為にあったとは。
 心に魔を巣くわせて、お前は朝な夕な、王者を迷い狂わせる。女が羨ましいと言った柔
肌で、変幻自在の指と舌で、熱く燃え滾って猛々しいものを締めつける秘めやかな部分で、
官能の淵へと誘いこむ。
 フレディの緋色の唇がお前の名を呼ぶ。お前は我に返る。
442涅槃 Nehan 3/5:2008/01/13(日) 09:43:33 ID:xR1oAmMi0
 「上になれ」
 行為によっては、お前がフレディの腰に跨ることもあったが、奴が気紛れに命じる「上
になれ」は、それとは違った独自の意味を持つ。
 お前はそれでも少し躊躇っている。フレディはそんなお前を昂らせようと、両手の親指
と中指で乳首を挟み、人さし指で弄ぶ。お前の肌が粟立つ。全身の血が沸騰し、下腹へと
流れこんで、お前は再び力を得る。
 繋がる。
 「もっと深く!もっとだ」
 フレディが言う。言われた通り、力任せに押し入る。引き抜く。果てしなく繰り返す。
汗塗れになり、動悸がする。お前は動きを止める。
 「何だ、もう息切れか?そんなんでフレディ・メイズを目指す気か?」
 体の下で、お前の憧れが嘲笑う。
 お前は低く、冷静な声で言う。
 「くたばっても知らねえぞ」
 閨の中だけだ、こんな口の利き方が許されるのも。仕事中なら、誰であれ、その場で射
殺されかねない。
 「手加減したのか?生意気な奴だ。俺が死ぬのが先か、お前が搾り尽くされて音を上げる
のが先か、試してみるのも悪くないな」
 フレディの目に危険な光が宿る。見覚えがある。柳の眉をぴくりとも動かさず、お前を
侮った部下の顔をグラスで殴りつけた時の、あの光。花の唇を楽しげに微笑ませ、債務者
の整備していた車の窓をハンマーで叩き割った時の、あの光。
443涅槃 Nehan 4/5:2008/01/13(日) 09:50:11 ID:xR1oAmMi0
 フレディの中で、お前はより一層、いきり立つ。ガキの時分から、手をつけられないと
言われた凶暴性と嗜虐心が頭をもたげる。
 「後悔するなよ」
 再び、大きく腰を引き、百九十を超える巨体の全体重をかけて、最奥まで叩きつける。
フレディの体が跳ね躍る。豪華絢爛なベッドが悲鳴を上げる。
 掻き回す。この街で逆らえばいのちはない、その男の胎内を。
 踏み荒らす。この世でただ一人、お前だけが立ち入ることを許された楽園を。
 責め立てる。愛と快楽というよりも、憎しみと苦痛を求め、貪るように。
 「俺だけを愛すると誓え」
 激しい律動と乱れた呼吸の間から、お前は囁く。
 「勿論だ」
 同じように荒い息をつき、玉の汗を浮かべながら、フレディが答える。普段お前たちに
冷酷無比な命令を下す、独特な深い響きを持つ声が、わずかに艶めいている。
 「裏切ったらどうなるかわかるか」
 アイスブルーの目を燃え立たせて、お前は問う。
 「お前に殺されるなら本望だ」
 フレディはお前の首っ玉を片手で引き寄せ、血が滲むほど唇を吸う。
 ふと、このまま本当に突き殺してやろうかと思う。それならば、今この腕の中にある男
は永遠に、お前一人のものだ。決して裏切られることもない。
 しぶきを上げる。
 二つの白い体が、溶ける。境目を失い、混じりあう。
 初めて聞くフレディの極みの声に、お前は思う。全てを手に入れたのだ、と。
444涅槃 Nehan 5/5:2008/01/13(日) 09:51:14 ID:xR1oAmMi0
 俺は何も、手に入れていなかった。
 目の前で、三十年という時間が回転する。ボスの掛けるソファ。最上階のペントハウス。
殲滅した敵。消えて行った部下。新しく入った部下。銃声。硝煙。絶叫。許しを請う目。
恐怖と屈辱に歪んだ顔。コンクリート詰めにしてテムズの底に沈めた男。札束のトランク。
小切手。金塊。酒。薬。競走馬。スロットマシーン。ポーカーテーブル。ルーレット。夥
しいコイン。女たちの嬌声。ネオン。ダンスフロア。ねだられるままに買ってやる毛皮や
宝石。クルーザー。セスナ機。別荘。土地やビルの権利書。陰謀。密談。蜂の巣にされた
ジャーナリスト。議員の猿芝居。こっちが舌を巻くような警察幹部の悪辣さ。口を拭って
知らん顔の王室関係者に宗教関係者。そして、一日も欠かさずこの胸に輝いていた、FM
のイニシャルをあしらったダイヤモンド細工のタイピン。
 それでも俺は、やはり何一つ手に入れてはいなかったのだ。
 フレディはカレンと手に手を取って、未来永劫、俺の前から去って行った。遠い遠い昔、
何度となく俺を犯した、あの男。いつかの浅い冬の日、俺に犯されながら、一雫の涙、最
初で最後の涙を流した、あの男は。
 血に塗れ、炎に焼かれながら愛しあい、憎みあった、あの凄絶な若き日々。
 裸に近い死装束で、ただ一人、夜の街を見下ろす屋上に立つ。茫漠たる、闇。
 闇から生まれた俺は、闇へと還る。遥かに、遥かに堕ちてゆく。
 闇はやさしく俺を抱く。あの頃のフレディのように。

Fin.
445風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 09:52:19 ID:xR1oAmMi0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

長渕剛の「激愛」を聴きながら読むとスゴイ気持ちになれます。
ラストシーンは老けメイクしたベタ兄に脳内変換よろしく。
446夢のまた夢、後編:2008/01/13(日) 16:26:10 ID:+rhfojPv0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  某昭和の大スターとその周辺の人達の話の続き
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ベース×スター、エチありです。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧投下早杉だゴラァ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
447夢のまた夢、後編1/14:2008/01/13(日) 16:26:47 ID:+rhfojPv0
そこへ、
「せっかくやから、俺とやっとかへんか?」
衝撃の台詞が投げかけられて、男は彼の身体を引き剥がした。
「な、な、な、何言っとるんや!お、お前は!」
余りのショックに、思わず言葉がどもる。
「じょ、冗談にも、程っつーもんが!」
「冗談じゃないよ。」
真剣な彼の表情に、言葉が止まる。
「・・・俺な。」
一瞬のためらいの後、彼は言葉を続けた。
「色んな男に犯られてきたけど」
羞恥で顔が赤くなる。
「ちゃんと女みたいに優しく抱かれたこと、一度もないんだよね。」
俯きながら、彼に訴える。
「だからな」
小さくなる声で、
「せっかくなら、好意持った奴に、そういうの捧げてみたいなと思うて。」
耳まで赤くしながら、男への精一杯の想いを伝えた。
悔いを残したくないから。
「・・・お前がそういうの好きだとは思えんから、無理強いはせんけど。」
自嘲気味に、笑ってみせる。
羞恥を隠す為に。
「そんな・・・。」

抱きしめていた彼の身体に目をやる。
448夢のまた夢、後編2/14:2008/01/13(日) 16:27:28 ID:+rhfojPv0
生々しい情交の跡、
痛々しい手首の傷、
一体彼は、これまでどんな仕打ちを受けてきたのだろうか。
その上で、皆の前で笑っていたのだろうか。
「やっぱり、無理だろ・・・?」
言い終わる前に、彼の身体をもう一度抱きしめる。

「優しくしてやるわ・・・どんな女よりも。」
彼の身体を、ベッドに押し倒す。
互いの顔を、見合わせた。
「お前の初めての相手になるんやからな・・・光栄や。」
額に唇が落とされる。
喜びの涙が、彼の目尻から零れた。
その涙も、唇でぬぐわれる。
たどる様に触れた彼の唇を何度もついばむと、深く合わせた。
熱い口内を舌でかき回し、彼の舌を優しく吸い上げる。
彼の両手が男の首に回った。
互いの舌を何度も絡ませながら、名残惜しげに唇を離す。
濡れた唇に上気した頬が、艶やかに彼を彩っていた。
男の鼓動が跳ね上がる。

忘れていた、
この男は、
全ての人を狂わす魔性と呼ばれていたことを。

貪るように、首筋から胸元まで唇を這わした。
陵辱の跡を上塗りするように吸い上げる。
449夢のまた夢、後編3/14:2008/01/13(日) 16:28:08 ID:+rhfojPv0
「・・・あ・・・。」
吐息交じりの声が彼から漏れた。
右手を下方へと忍ばせる。
熱を帯びて半ば勃ち上がっている彼の雄に、指先が触れた。
ためらいがちに、優しく右手で包み込む。
「あ・・・大丈・・・夫・・・か・・・?」
熱を帯びた声で、気遣われる。
答えの代わりに、右手で何度か扱きあげる。
「ああ・・・。」
満足気な声と共に、右手の質量が増していく。
仰け反った喉元に、何度も口付けを落とした。
「お前も・・・欲しい。」
彼の手が、男のジーンズを脱がしにかかる。
そういえば自分がまだ服を着ていたことに気付いて、慌ててシャツをたくし
上げた。
乱暴にシャツとジーンズをベッドの下に投げ落とす。
彼の手が脱ぎとった下着を投げ捨てた。
互いの裸の体温を感じるように、密着させる。
下腹部に互いの昇まりを感じて、思わず彼の腰が動いた。
予期せぬ快感に男が呻き声をあげる。
悪戯っぽい笑い声が彼の唇から漏れた。
「こうすると・・・結構気持ちいいやろ?」
「お前な・・・。」
抗議の言葉を出そうとして、ふと思いつく。
今まで彼は、こんな風に抱かれることに楽しむ事さえ、許されなかったので
はないかと。
450夢のまた夢、後編4/14:2008/01/13(日) 16:28:52 ID:+rhfojPv0
強く胸が痛む。
「どうした・・・?」
彼の問いかけを塞ぐように、強く唇を合わせる。
自分から強く腰を押し付け、互いの雄を擦り合わせる。
「や・・・あ・・・。」
唇を離して、彼が悶える。
その声が聞きたくて、更に動きを早めた。
「あ・・・いい・・・。」
満足気な声が漏れる。
快感に閉じた瞼についばむ様な口付けをした。

湿った水音が、互いの腹から聞こえてきた。
先走りが、互いの雄を濡らしている。
彼が眉間にしわを寄せて喘いでいる。
限界が近いのか。
「・・・一度出すか・・・?」
耳元で囁く。
彼は何度も頷いた。
「出来たら・・・お前の・・・手で・・・・・・・お願い。」
「分かった。」
身体を離して、彼の側に横たわる。
屹立した彼の雄に右手を絡める。
先端から根本までくるみこむように何度も扱きあげた。
「・・・・・も・・・・・出・・・・・。」
泣きそうな顔で喘がれる。
一気に右手の速度を速めた。
451夢のまた夢、後編5/14:2008/01/13(日) 16:29:38 ID:+rhfojPv0
「・・・・・・あ・・・ぁっ!」
白濁した液が彼の先端から何度か飛び散る。
彼の腹を、胸を白く彩った。
彼が満足気に、荒い息を付く。
「すごい・・・よかった・・・。」
屈託なく囁かれる。
その笑顔に口付けを落とすと、男は彼にのしかかった。
こちらも限界が近い。
「入れても・・・ええか?」
男の言葉に、彼は笑顔で頷く。
「先に少し慣らして・・・いきなりは裂けるから。」
少しの戸惑いの後、
「自分で・・・慣らそうか?」
心配げな問いかけに、男は首を横に振った。
大丈夫だと。
安堵した表情で、彼は男の右手を掴む、
先程放った自分の残滓を、彼の指に塗りこめる。
「ごめんな・・・。」
と謝りながら。

その指を、彼の奥へと導く。
後孔にたどり着くと、男は彼の手を放した。
「もう分かるから・・・。」
人差し指の腹で、彼の後孔に液を塗りこむようにぐるりと回す。
びくんと魚のように彼の背が跳ねた。
最初に人差し指だけ、彼の中に埋め込む。
452夢のまた夢、後編6/14:2008/01/13(日) 16:30:19 ID:+rhfojPv0
思いのほかの熱さに、動きが止まった。
「もっと入れて・・・。」
唇を震わせながら、彼が訴える。
労わりつつも、中指と薬指を潜り込ませる。
「は・・・あ・・・っ。」
痛みよりも快感を感じるのか、彼の腰が揺らめいた。
ためらいがちに、指の抜き差しを繰り返す。
萎えていた彼の雄が、再び熱を持ち始めた。
「もう・・・もう・・・。」
右手を掴まれ、首を振られる。
「欲しいか?」
「欲しい・・・。」
濡れた目で訴えかけられた。
彼の膝を大きく開き、その中に身体を潜り込ませる。
大よその要領は女と同じ筈だから。
そう思いながら、自分の雄を彼の後孔へと持っていく。
先端で孔を軽く押してみて、感触を確かめる。
「や・・・。」
彼が腕で顔を覆う。
何度か軽く孔をつついた後、意を決した様に深く腰を進めた。
「ぁ・・・・・ああああっ!」
彼の喉がわななく。
女とは違う入り口のきつさに、男は顔をしかめて呻いた。
中は泥のように熱い。
彼の呼吸と共に、中も収縮を繰り返す。
「辛いか・・・?」
男の問いかけに彼は首を振って答えた。
453夢のまた夢、後編7/14:2008/01/13(日) 16:31:02 ID:+rhfojPv0
「平気や・・・それに・・・。」
彼の目尻から涙が零れる。
「何でやろ・・・何か・・・ものすごい嬉しい。」
この男と身体を繋げて。
まるで本当に処女を捧げた女のようだ。

「・・・そうか。」
優しい表情で男は答えた。
ゆるやかに腰を動かしてみる。
「あ・・・。」
内部をかき回す異物に、戸惑いながらも背筋が震える。

もっと、
もっと、

「もっと強く・・・。」
自分から腰を押し付ける。
猛った雄が男の腹に当たった。
それに合わせて、腰の動きが激しくなる。
まるで待ちかねたかのように。
「あ・・・あ・・・い・・・い!」
内臓がひしゃげるような衝撃が快感に変わる。
男のものをもっと感じたいと自然に孔が男のものを締め付ける。
中で男の雄の質量がぐんと増したのを感じて、身体を大きく仰け反らせた。
「いい・・・いい・・・すごい・・・!」
「お前も・・・すごい・・・ぞ・・・。」
454夢のまた夢、後編8/14:2008/01/13(日) 16:31:46 ID:+rhfojPv0
苦しげな男の息遣いが聞こえる。
限界が近いのか。
「どうする・・・外に出すか・・・?」
男の気遣いに、彼は首を横に振った。
ここまで来て、そんな気遣いはいらない。
最後までこの男を感じていたい。
「中で・・・いいから・・・欲しい・・・。」
男の首に両腕を回した。
うなづいた男は、叩きつけるように腰を突き動かす。
「あ・・・!あ・・・!」
切れ切れな悲鳴が漏れ出る。
2、3度大きく腰をうねらせて、男は彼の中に精液を吐き出した。
中に男の熱さが広がっていく。
その快感に、彼も再び精を放った。
密着した男の腹に、彼の精液がかかる。

ずるりと彼の孔から男のものを引き抜いた後、脱力したように男は彼の身体
に覆いかぶさった。
彼の荒い息遣いが、耳元で聞こえる。
「こう言うたら怒るかもしれんけど・・・。」
男が呼吸を整えながら、彼に向かって囁いた。
「すごいよかったわ、お前。」
男の言葉に、彼は照れながら笑った。
「俺も・・・よかった。」
455夢のまた夢、後編9/14:2008/01/13(日) 16:32:33 ID:+rhfojPv0
初めてだった。
気持ちを伝えながら、
身体を繋げるのは。
こんなにも気持ちよく、
こんなにも暖かい。
そう知りえたから。

彼の横に、男は仰向けに横たわった。
互いの中に、満たされたような安堵感が広がっている。

不思議なものだ、
つい先ほどまで、
憎しみさえ抱いていたというのに。

そういえば、
ふと思い出して、彼は男の方に顔を向けた。
「お前のさっきの気持ちって、何やったんや?」
彼の問いかけに、男は苦笑いで答えた。
「現金なやっちゃなぁ・・・お前は。」
よっこらしょと声を出しながら男は身を起こす。
しばらく床に視線を落として、探し物を見つけると、ベッドから降りた。
ひしゃげた包みを、彼に差し出す。
「・・・改めて。」

今度は素直に受け取った。
包みをほどき、蓋を開ける。
456夢のまた夢、後編10/14:2008/01/13(日) 16:33:13 ID:+rhfojPv0
「え・・・?」
そこには、真珠で彩られたイヤリングが一対あった。
「壊れてないやろうな?」
男が覗き込む。
一つを拾い上げて、無事を確認すると、満足気に微笑んだ。
「これ・・・お前が・・・?」
「そうや。」
信じられないような顔で男を見つめる。
彼が装飾具を付けるのを、快しと思ってないと感じていたのに。
「こっち向いてみ」
男の方に向き直った彼の左耳に、イヤリングを付け、嬉しそうに微笑んだ。
「よう、似合っとる・・・。」

艶やかな黒髪に、白い真珠のイヤリングが映えて、あでやかに彼を飾った。
「・・・何か送るなら、お前がこれから身につけるもんがええと思ってな。」
男は照れくさそうに後ろ髪をかいた。

彼が俯く。
「・・・おおきに・・・。」
長い睫に涙をためながら。
「ほんまに・・・おおきに・・・。」

大事にしよう。
そしてこれから、事あるごとに身に着けよう。
457夢のまた夢、後編11/14:2008/01/13(日) 16:33:58 ID:+rhfojPv0
彼が残した。
自分への想いを。
唄と共に込めよう。
そう思いながら、彼は涙を流した。

男はただ、彼を見て微笑んでいた。

電話の音が、二人の静寂を打ち破った。
慌てて彼が受話器をとる。
「はい・・・ええ・・・そうです。はい・・・わかりました。」
事務的な会話の後、受話器を置いた。
「どうした?」
男が問いかける。
「社長が来てるらしい。」
ため息混じりに、彼が答えた。
「この部屋まで来るってさ。」
「・・・そっか・・・。」

気が付けば夜が明けようとしている。
男は床の服を拾い上げると、素早く身に付け始めた。
「社長が来る前に、俺、行くわ。」
「・・・そうだな。」
社長が彼の行為を熟知しているからといって、この男と下衆な勘ぐりはされ
たくない。
自分はこの状態では外に出られないから、どうしようもない。
名残惜しい余韻を残しつつも、彼はドア近くまで彼を送った。
458夢のまた夢、後編12/14:2008/01/13(日) 16:34:41 ID:+rhfojPv0
「・・・次のライブは、来てくれるんやろ?」
「ああ。ゲストだけどな。」
寂しげに答える男に、彼は笑って返した。
「・・・又、いつでも会えるよな。」
「・・・ああ・・・。」
笑いあって。
最後に、一つ軽いキスをかわして。
男はドアから去っていった。
名残惜しげに、そこから立ち去れずにいると、
「俺だ」
いつもの低い声が、ドアから聞こえた。

無言でドアノブを回す。
入ってきた影が、鞄を彼に渡した。
「着替えだ。」
「・・・ありがとうございます。」
事務的に礼を述べると、鞄から衣服を取り出す。
着替え終わると、この男に問いかけた。
「周りに人は?」
「居ない、この時間だ、今なら誰にも気付かれずに帰れるだろう。」
「そうですか・・・。」

水を差された形だが、これでよかったのかもしれない。
改めて社長に感謝しつつ、
「それでは、失礼します。」
と部屋を出る前に。
459夢のまた夢、後編13/14:2008/01/13(日) 16:35:22 ID:+rhfojPv0
「待て。」
と声をかけられる。
「何か・・・?」
訝しげに社長に向き直った。
「お前、その左耳、どうした。」
「え・・・?」
改めて耳に触れて愕然とする。
イヤリングを付けたままだった。
うかつだった、と心の中で舌打ちする。
「あいつから貰ったのか?」
「・・・はい。」
今更弁解したところでどうしようもない。
素直に白状した。
心で男に詫びながら。
「粋なことするな、あいつも。」
社長の声に、珍しく感情の色が入る。
「とりあえず、外しておけ、目立つことはするな。」
「はい・・・。」
耳から取り外して、ジーンズの左ポケットに入れた。
感触をいとおしむかのように左手で探りながら。

「・・・いい顔になったな。」
社長の声に、彼は顔をあげた。
「一人前の大人の顔になった。」
意図が読めずに言葉が返せない彼に、話しかける。
460夢のまた夢、後編14/14:2008/01/13(日) 16:36:17 ID:+rhfojPv0
「・・・以前のお前は、どんなに抱かれても、男の間を振り回される小娘でしか
なかった。」
「・・・はあ。」
心外な言葉に、曖昧な相槌をうつ。
「好きな男に抱かれて、女ってのは一人前になるんだが・・・。」
彼を見詰めながら、少しだけ笑みを漏らした。
「お前も、その口か?」
「な・・・!」

唖然とする彼をそのままに、社長はホテルを後にした。
「お前もさっさと帰れよ。」
チェックアウトは済ましてあるから、と続けられて、消えていく人影。
その影に後から思い切り蹴りを入れている彼の姿があった。

朝焼けの光が、外を包み込もうとしている。
ある初夏の朝、それぞれの路に向かって、歩く人影。
その横顔には、一様に笑みが浮かんでいた。
461夢のまた夢、後編:2008/01/13(日) 16:39:35 ID:+rhfojPv0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧これで終わりです。長々と失礼
 | |                | |     ピッ   (・∀・  )しました。
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

462風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 18:10:56 ID:KB2twgw10
>>401-405

⊂⌒~⊃。A。)⊃モエシンダ シアワセー
463風と木の名無しさん:2008/01/13(日) 18:26:40 ID:bV8traIc0
>>390
AVコーナー直行ってとこで吹いたwww
んでそれ以上に 萌 え た !!
またの投下を期待してます!
464風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 00:39:41 ID:PPFzih0a0
>>461
想い合ってる者どうしのエチシーン堪能させていただきますた。
この2人が幸せになって、ホントにうれすぃ(*´∀`*)
素晴らしい萌えをありがd!
465風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 16:58:24 ID:mJuOJUz20
>>461
幸せで涙出たよ
素敵な萌えをありがとう!
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | すみません、エロです。寸止めばかり描いてたら欲求が。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| D伯爵でエロが見れない人は回れ右。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
真夜中、レオンの狭い部屋にうごめく人影が二つ。
一つは、レオン。もう一つは―――
「…ああ…刑事さん…」
D伯爵。
壁に押さえつけられた状態で、歯が、一個一個ボタンをといて行く。
現れた白い素肌に噛み跡を残しながら、レオンは、D伯爵の素肌を堪能していった。
白い素肌に点々とついている赤い噛み跡は、やたらレオンを欲情させる。
熱い吐息がかかる。
D伯爵の手が、レオンの頭に置かれる。
胸の突起を口に含むと、ひくんとからだが震えた。
「あ…」
「もっとして欲しいのか?」
意地悪げにつむがれる言葉。
「はい…刑事さん…」
遠慮がちに小さくうなずくD伯爵。
「こういうときくらい名前で呼べってーのに」



こんな関係になったのはいつからだろうか。
確か、一ヶ月前、レオンの弟、クリスとともにこの部屋を訪れたときだった。
いかがわしいポスターの全面貼ってある、汚らしいこの部屋が気に入らなくて、ポスターをバリバリにはがした。
ポスターが全部なくなり、クリスが懸命に掃除機をかけ、片付けたために、レオンの部屋は見違えるほど綺麗になった。
が、レオンにとって綺麗だからいいというわけではない。愛用のポスターはなくなり、分かりやすい場所においておいたものはどこかに行ってしまい、もちろんこんなことをしたのがD伯爵だということが苛立ちを増幅させた。
クリスがテッちゃんとポンタと帰った後、帰ってきたレオンはD伯爵に怒鳴りつけた。
「あんな部屋をクリスに見せるほうがどうかしてますね。この本も…本当なら捨てているところです」
つん、とD伯爵はそっぽを向いた。
山積みにされたいわゆる、エロ本。
いかがわしい表紙に、D伯爵の眉間にしわがよる。
「るせーっ、男の一人暮らしなんざ、こんなもんなんだよ!お前がおかしいんだよ、ディー!」
「あっ!」
「!」
D伯爵につかみかかったその瞬間、レオンが足を滑らせた。
次の瞬間には、ごん!という音とともに、D伯爵をベッドに押し倒していた。
この音は、D伯爵が頭を壁にぶつけた音だ。
「うう…痛い…け、刑事さん、早くどいてください!」
一瞬見せた人間らしい表情に、なにか残酷な気持ちが芽生えた。もっと、その仮面を脱がせてやろうかと。
白い首に、噛み付く。
D伯爵の動きが、止まった。
「刑事…さん?あなたは、動物ですか…」
ぺろりと舐めて、口を離した。首には赤く跡がついている。
「俺だって怒れば狼くらいにはなれるんだぜ」
もう一度、今度はのど仏に食いつく。狼が、獲物ののど笛を噛み切るかのように。
D伯爵は驚いたようだった。
その場でずるりとベッドを背に、固まる。
 いつもの手段であるあのお香もない、しかもここはレオンの部屋。
逃げられないこともないが、体が動かなかった。

「…っ、刑事さん…やめて、ください…ぁ…」
小さく喘ぎがもれる。ベッドに沈められ、チャイナ服は解かれ、半分体を外気にさらしている。
指は胸に触れて、突起をいじり、唇は体をさまよっては軽くかんだ。
腕はレオンの上着で拘束され、ベッドにつながれていた。
こんなにきつく巻かれては、逃げ出せない。
だがこの縛りがなかったとしても、逃げ出せずにいただろう。
 突起は強くつままれる。それだけでD伯爵はぞくぞくと背に快楽が走った。
「あっ…!」
思わず目をぎゅっと瞑る。
さらに服をはいで行き、レオンがズボンに手をかけた。
「!!だ、めです、刑事さん!!」
足をよじって手を遠ざけようとするが、やすやすとそれをつかまれて、D伯爵は背をのけぞらせた。
「少し黙ってろよ」
「そんな…」
手が、上下する。それをつかまれて、手はそれをしごいて行く。だんだんと硬度を増してきたそれに、レオンが口付けをする。
「ああっ、はあ、ん…あ!刑事さ…」
口付けからだんだん愛撫に変わり、舌はD伯爵のそれをなぶっていた。
D伯爵の息が荒くなる。逃げようとしてるのか、せめてもの抵抗か、拘束された腕が抵抗を示すようにがたがた揺れる。
「喘ぎ声ならいつでも漏らしていいんだぜ?小言じゃなくてな」
「刑事さん…お願いします…」
「駄目だ」
その言葉ははっきりとD伯爵の耳に届いた。腕は抜けられる様子がない。足は押さえ込まれている。
逃げられない。
 ____________
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧続きますよったら続いちゃうよ
 | |                | |     ピッ   (・∀・  )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
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471風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 21:28:26 ID:K2Bn122s0
三度板からやって参りました新参者です

きっとソフトタッチで物足りないでしょう
すんませ〜ん
472風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 21:29:42 ID:K2Bn122s0
三度板からやって参りました新参者です

きっとソフトタッチで物足りないでしょう
すんませ〜ん
473風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 21:34:29 ID:K2Bn122s0
二回もあげてすんません
474三度:2008/01/14(月) 21:49:30 ID:K2Bn122s0
金が蜂蜜兄貴のところに言ってる間、黒はまたお布団でネタ作り。寂しいから虎を抱いて

んでもって朝、夜中のうちに帰って来て、先に起きていた金に
「起きろ、タクシー来んぞ」と起こされる
目をこすりながら起き出す黒
「ネタ、どう」と微笑みかける金
「……んー、まだいまいちかな……」
「まあいいよな、無理すんなよな」まだ微笑みながら着替えはじめる金
黒も立ち上がり、トイレに行こうと擦れ違う時なんかよろける
「おおだいじょうぶかよ。お前ねてねーんじゃねーの?」
腕を掴んで黒の顔をいつものように覗き込む金
「……おまえこそねてないんじゃないのなんじだよゆうべかえったの」
腕を掴まれたまま目をこすり、ふと顔を上げるとそこには金の顔
「…だいじょうぶだよ。ちゃんとねたよ」
「……今日収録夜中までひっぱるってよ」
「……んー。タクシーきてんだろ?といれいく」
「さっさとしろよ」
「うん」
「着替え五分とかでできんのか?なあ、おい、何着てくんだよ」
トイレの中より「適当でいいよ。、向こうで着替えるから」
「荷物出来てんのかよ……ぁああったこれだなこれ。なあ。おい!先行ってっかんな!急げ、な」
「うん」
「カバン持ってくぞ」
「わりい」
「早く来いよタクシー待ってんだからよ」がちゃ
「おはようございます!どうもすみませんあのぁぃ‥‥」
トイレから出て来た黒は歯ブラシセットを持つだけのジーンズとトレーナーの寝巻き兼用のカッコで
真っ赤なダウンジャケットを羽織り、ゆっくりと金が待っているタクシーに向かって歩き出す。
「鍵かけろな、鍵」
金が慌てて鍵をかけにアパートのドアに走ってゆくのを横目に、黒はあくびをしながらタクシーの後部座席にゆったりと腰を降ろすのですよ。
475風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 22:47:28 ID:ewMoKEAS0
>>474
誤爆かと思ったけど違うみたいだし
他の人が投下しずらいから言うけど
初投下ならテンプレくらい読んだほうが
いいと思うよ
476三度:2008/01/14(月) 22:53:46 ID:K2Bn122s0
すびばせん
どうすりゃいいんです
477風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 23:10:27 ID:41Ow7K390
>>476
とりあえずテンプレ読んで、締めくくりのAA入れるといいと思う。
じゃないと誰も書き込めないと思うよ
478風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 23:11:53 ID:yjOAvzuJ0
>>280
亀でごめん、でも言わせて!天才!
久々に萌えすぎてにやにやしてしまったw
こういうほのぼのが上手いってほんとにすごいと思う。
素敵な電話組ごちそうさまでした!
479三度:2008/01/14(月) 23:44:37 ID:K2Bn122s0
どこにAA?
おしえてください。
480風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 23:46:45 ID:s2wNA8LpO
半年ROMれ
481風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 23:51:25 ID:Tkfefq4i0
>>479
テンプレさえ読めないなら使わない方がいいよ
投下途中で誰かに割り込まれたら気分悪くないか?
それを防ぐためにテンプレである程度説明してあるんだけどな
482風と木の名無しさん:2008/01/14(月) 23:54:56 ID:5rnWZHuQ0
テンプレ読めが通じない初心者なんて荒らし同然だ
構わない方がいい
483風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 00:09:27 ID:8AA00tBB0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 物のけ ハイパー×薬売り
                     焦らしプレイ?っぽい感じ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 初投下なんだって
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
484ヒトツノカラダ ハイパー×薬売り 1/5:2008/01/15(火) 00:10:51 ID:8AA00tBB0
 早い、短く浅い吐息が漏れるのを、薬売りはなかば朦朧としながら聞いていた。
 ゆっくりと浮上してくる、自分とは別の自我。頭の中に二人の人間がいるのはなかなかに
気味が悪い。しかも自分ではないほうの自我が体の支配権を握っているときたものだ。
 やめろ、と悲鳴をあげる思念を無視して勝手に動き回る手が信じられない。せめてもの抵
抗に視線をそらそうとしても頭はもちろん目も動かず、瞼すら自分の意志で閉じられなかっ
た。
 たったひとつ自由になるのは呼吸だけで、それ以外は何をどうしたって動かせない。
 ふとした瞬間にふたつの体がぴたりと符合したように錯覚することはあるが、それは彼が
表に出てくるときの合図のようなものであって、文字通りにこの体が彼のものになるわけで
はない。それがわかっていたから薬売りは警戒もしなかったし抵抗もしなかった。
 しかし目の前に物の怪がいるわけでもないのに体の奥のほうから彼が身を起こす気配がし
て、珍しいこともあるものだと暢気なことを考えていたら――次の瞬間には指先ひとつ動か
せなかった。
 一体なにが起こったのか理解できずにいると、あの低い声が耳元でなにごとか囁いたよう
な気がして、勝手にするすると体の上を手がすべりだす。それを見て薬売りは、体のありと
あらゆるものが彼に乗っ取られたことを知った。
 彼とはそう短くないつきあいだがそんな暴挙に出られたためしなどついぞ一度もなく、最
初はあまりの事に呆然とした。自分の意志とはまったく関係なく手が体のうえを泳ぎまわり、
勝手に帯をゆるめ襟をひらくのだから。
 帯の下の腰紐が引かれた段になってようやく薬売りはこの異常な事態に我に返り、これは
なんの真似だと一喝する。当然声なんか出ないので頭の中で怒声をたたきつけたわけだが、
相手はそれがまるで聞こえていないかのように無視した。
485ヒトツノカラダ ハイパー×薬売り 2/5:2008/01/15(火) 00:11:27 ID:8AA00tBB0
 夜露をしのぐために入り込んだ廃屋なので人目の心配はないが、だからと言ってこの仕打
ちはあまりにも酷い。どこからどう見ても一人で自分の体を慰めているみたいにしか見えな
いし、しかも彼は薬売りの体をある意味で本人よりもよく知っている。
 触れるか触れないかの距離で首すじをなぞりあげる指先、襦袢の合わせから忍び込む手の
重み、一番されたくない事ばかりがこれでもかと続けざまに自分の手を借りて行われる。
……気が狂いそうだ。
 くつくつと耳元で誰かの押し殺した笑い声。今はない、あの暗い色の舌に耳をなぶられて
いるような気がして薬売りは喘いだ。勝手にこんな不埒な真似をされて悔しいのか、それと
も熱を帯びてきた体の一点に指先を伸ばしてもらえないのが悲しいのか、あるいは薬売りの
体を知りつくした指の与える快楽が喜ばしいのか――じんわりと涙がにじんでくる。
 どうしても細切れになる息をこぼし、薬売りはもう止めてくれと血を吐くような気分で叫
んだ。
 そらすことも閉じることもできない目が、ゆるめられた下帯のさらに下、高い熱をこごら
せる所へたどりつく。脚を閉じようとしても膝はゆるゆると開き、変な声をあげそうになる
のが嫌で唇を噛みしめようとしても喉はあられもなく激しい吐息をこぼし、指先から逃がそ
うと引いたはずの腰は逆に床板から浮いた。
 うすく汗ばんだ胸を下へ向かって伝う右手、ゆるんだ下帯の奥でひどく器用に先のほうを
避けて裏側にまわりこむ左手の指、息が苦しくて目の前がちかちかする。
 そこは嫌だ、頼むからもう止めてくれ、と本気で泣きそうになりながら頼んでも、無視さ
れることがわかりきっている絶望。それでも体は本能に忠実に従って勝手にのぼりつめよう
とする。
486ヒトツノカラダ ハイパー×薬売り 3/5:2008/01/15(火) 00:12:00 ID:8AA00tBB0
 ふ、と急に首元の束縛がゆるんで薬売りの喉が高い声をあげた。
「――あ、ッ、ぁあ!」
 屈服した一瞬を狙いすまして声の自由を明け渡され、薬売りは目の前が暗くなったような
錯覚を覚えた。
 ひどい恥辱で頭の中がくらくらする。空気が足りておらず息をすることに専念していたら、
いつのまにか下帯の中にもぐりこんだ左手はぴたりと静止していて、かわりに右手が太腿の
内側を上に向かって撫でさすっていた。ぎりぎりまでせり上がっている熱が、行き場をなく
してぐるぐると回りだす。
 まさか、と恐ろしい想像が胸をよぎって薬売りは息を詰めた。
 その想像通りに、妙な圧迫感で動きを封じられていたはずの全身が自分の意志のもとに戻っ
てくる。
「……な……」
 溜まったままだった涙が横っ面をひとすじ流れてゆき、薬売りは目を閉じる。
 ――こんな所でいきなり体を返してきて、一体どうしろと言うのか。
 後頭部のあたりからまた押し殺した笑い声が聞こえる。自分で最後までたどり着くのも嫌
なら、さっきみたいに勝手に体を動かされて登りつめるのも嫌だった。……彼はそれを知っ
ていて、最後の最後で薬売りに体を押しつけて身を引いたのだ。
「……なんて、事を」
 苦しい息はさめやらず、腰の奥深くで限界近くまで引き上げられたままわだかまる熱は、
徐々に快楽からひどい苦痛に変わりはじめる。このまま冷めさせるにはもう手遅れで、かと
言って終わりにできるかと言えばそうもいかず、薬売りは体中のひどい疼きに肩を揺らして
喘いだ。
「責任とってください、よ」
487ヒトツノカラダ ハイパー×薬売り 4/5[:2008/01/15(火) 00:12:37 ID:8AA00tBB0
 こんな体のまま放り出して、一体なにがしたいのか。
 あられもない姿でひとり喘いでいるのが恥ずかしいやら一方的に翻弄されて悔しいやら、
吐き出すあてのない熱情がもうひとつ薬売りの頬に涙のすじを引く。
 ――本当はわかっている。わかっているのだ。彼が何を望んでいるのかなんて。
 強く唇を噛みしめた薬売りはゆっくりと両手をおろしてゆき、膝に絡みついたままの青の
袷と下帯を握りしめる。本当はわかっていたのだ、彼が自分をどうしたいのか、なんて。
 どくどくと耳元で心臓の音が聞こえる。見なくても、首すじや頬や耳朶が真っ赤になって
いるのがわかる。
 どこか敗北感にも似た、眩暈すら覚えるような屈辱。袷の裾をたくしあげ、もうすっかり
用を成していない下帯をどけて、薬売りは長く溜め息をついた。震える膝を自分から開く。
 ……これを、望んでいたのだろう?
「来て、――下さ、い」
 青い布地を握りしめた右手の爪がぎりりと鳴った。
 膝裏に褐色の手が添えられて脚が高く持ち上がり、薬売りは息を飲む。さらに両膝の距離
がひらいて急いで顔をそむけた。腰のあたりに別の体熱が密着したことを知り思わず胸が詰
まる。
 ゆっくりと薬売りの体の芯へからみつき撫であげる指の感触。耐えきれずに引けた腰へ褐
色の腕が巻きついてきて逃げ場が失われた。浅く早い息をついて薬売りは体をよじる。
「……はやく」
 とろりと熱い小さな雫をながした薬売りの先のほうを指先でなだめてから、下帯や袷やら
を掴んでいた薬売りの両手を左右に拘束して彼は体を進めた。悲鳴に似た高い喘ぎが漏れる。
488ヒトツノカラダ ハイパー×薬売り 5/5:2008/01/15(火) 00:13:10 ID:8AA00tBB0
 ほとんど脱げかけているとはいえ腕は着物の袖をとどめたまま、体には帯やら伊達締めや
らが乱雑に巻きつき、ようやく今体をつなげたばかりだと言うのにすでに何度も乱れたあと
のような自分の姿。さんざん焦らしたのはそっちのくせに、望む言葉を手に入れたら今度は
息つく暇もないような激しさで求めてくる。
 しかしそれは同時に、焦らされるまでもなく胸の奥底では待ち焦がれていたものでもあり。
 間断なく奥深くへ突き上げられ、勝手に体がよじれて床を藤色の爪が掻く。
 熱い舌が耳朶をねぶり、薬売りは夢中でひろい肩に両腕を回した。自分のものとはひろさ
の違う肩。こんな風に女じみてなだらかな線を描くうすい肩ではなく、しっかりと厚みがあっ
て、確かな――。
「あ、あっ」
 肌の味や体の感触どころか、どの一点が最も理性のきかなくなる場所なのかさえ、知られ
ている。
 かすれた声で、そこ、と勝手に自分の口が囁くのを薬売りは遠い気分で聞いていた。そん
なもの彼はもうとっくの昔に知っているのに。それでも。
 いつのまにかただ突きあげられるばかりでなく、線の細い薬売りの腰が揺れてくる。
 とろとろとあふれ出してきたものが薬売りの肌を伝い下へ下へ流れた。やがて互いに体を
つなげた所へたどりついて絡みあい、水音を立てる。重い粘質の感触、暴力的なくらいに内
側を攻めたてられてだんだん頭の中が白く霞みはじめた。
 意味のない言葉をうわごとのように漏らす唇、狂おしく背中を肩をさまよう指先、こぼれ
る熱い吐息が互いの間でまじりあう。薬売りの眉根がきつく寄り、ひとつ高い声をあげて背
中を反らした。達したことを知らせる熱い感触が腹のあたりにあった。
489風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 00:13:40 ID:8AA00tBB0
  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ お粗末さまでした。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
490風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 00:19:28 ID:Jz18Tun20
>>489
放置プレイハイパーの鬼畜さに萌えつきたよ・・・・ハァハァ
491風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 00:28:50 ID:OvXl3fPK0
>>489
さっそくGJ!
開脚お薬がエロすぎる
492風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 00:35:55 ID:hLWaKcjr0
おっし!GJ!
ドS鬼畜ハイパー最高。
493風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 00:52:25 ID:BrNZ7oCQO
>>489
GJ!鬼畜ハイパー最高でした!
494風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 01:24:08 ID:oqmDnR24O
>>489
いい夢が見られそうです(*´д`)
495風と木の名無しさん:2008/01/15(火) 01:51:06 ID:skzhX/eqO
>>489
今宵の夢見に薬ハ決定、ですよ。
496あ/い/之/り 量×軽簿:2008/01/15(火) 02:02:35 ID:n3oJRm1Q0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
あ/い/之/り 量×軽簿
初投稿でがくぶるっています。つい勢いで。短いのですが。

「量……今日は……」
 打二ーから無理矢理交換してもらった部屋。軽簿奈ー良と一緒の部屋。
今日昼間、一日一人でいた軽簿奈ー良と、俺はどうしても一緒にいたかった。
俺に続いて部屋に入ってきた軽簿奈ー良を、抱きしめようとした手を制止される。
「今日は……俺……」
「軽簿奈ー良」
 そんな軽簿奈ー良を無理矢理抱き寄せる。俺より少し低い身長を両手で抱きしめる。
抱きしめて、愛してて。
息をするたびに積もっていくこの恋する気持ちを、もう自分一人では抱えきれなくて。
「……つらいよ、軽簿奈ー良。力になれないの」
「うん」
「言えない事ってのは分かってるけどさ」
「うん」
「ここに心配している人間がいるの忘れんなよ」
「……うん」
 軽簿奈ー良からも、両腕でぎゅっと抱きしめ返される。
愛してる。愛してる。そんな事、言えない。この旅に参加している限り、言えない。
「軽簿奈ー良」
「何?」
 一緒に帰ろうよと、言いそうになる口で軽簿奈ー良にキスをした。
お前調子乗り過ぎだってと軽簿奈ー良に笑われて、俺も無理矢理笑い返した。
そして知らなかった。この時は。こんな風に抱きしめるのはもう何回もないことだなんて。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
497不手際だって恋は恋  准×作家:2008/01/15(火) 02:31:28 ID:t2y6pZSH0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |有/栖/川/有/栖 作家シリーズ准×作家 
                    (女性っぽい名前ですが男性です、念のため)
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 初投下です。不手際あったらすみません。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

498不手際だって恋は恋  准×作家 1/22:2008/01/15(火) 02:33:42 ID:t2y6pZSH0
火/村への自分の想いに気付いたのは、もうだいぶ昔のことだ。
いつだったかははっきり覚えていない。報われないであろうそれに、けれど気付いたとき、しばらく自分は辛い恋をしなくていいのだと喜んだ。
恋をし、それを伝え、育み、そして壊し、…そういったことに少々疲れていたのかもしれない。
進まないことに言い訳を与えてもらえる恋だと思った。
火/村がいつか誰かに恋をしたなら、そっと吹き消せばいい。

それは、淡い、憧れのような恋だった。強く誰かを責め立てるわけでもなく、この胸の内だけで、静かにあるもの。
それは誰にも気付かれず、誰にも壊されない。
消そうと思えばすぐにでも消してしまえる程度の、緩やかな恋。
いつしか熱を失い、消えることを待つ、ただそこにあるだけの恋。


499不手際だって恋は恋  准×作家 2/22:2008/01/15(火) 02:34:59 ID:t2y6pZSH0
「アリ/ス。俺は結婚することにした」
だから火/村が唇をわずかに歪ませながら(これは彼にとっての微笑だ)そう言ってきたときも、私は何の衝撃もなく言葉を返すことが出来た。
「なんや、急にこっちに来る言うから新刊のお祝いに来てくれたのかと思ったで、センセイ」
「もちろん素晴らしく読者を待たせた長編のお祝いに来たんだよ、センセイ。報告はついでだ」
真向かいのソファに座った彼は、視線をコーヒーテーブルの上に落とした。煙草を持った指が、上梓されたばかりの新刊―今しがた彼に
献本したものだ―の表紙を軽く弾く。
「灰を落としなや」
私はすぐに彼の手の下から新刊を救い出しひと撫ですると、微笑みとともに心からの祝福の言葉を献上した。
「まあ、おめでとさん。ようやく君が納税する気になって、俺は嬉しい」
「お前も早く年貢を納めろ。未納のやつがいると、他の納税者の迷惑だ」
「君も今はまだ未納やろ。俺は人より遅い分、高額の税金を納める予定なんや」
私の部屋からは、ちょうど今その名に恥じぬ美しい夕日が見える。私の恋が、沈む瞬間。この恋にそっと息を吹きかけその火を消す瞬間。
美しい夕日もまた、消えようとしている。
何をもって高額とするんだよ、とやや呆れたように言う彼を無視し、私は立ち上がった。
「よし、本当なら俺が祝ってほしいとこやけど今日は特別や、君の新しい未来のために俺が奢ったる。メシ食いに行こう」
火/村の目が少しだけ細くなる。そしてニヤリ、と音が出そうな人の悪い笑みを寄こして言った。
「俺は旨い寿司が食いたい」
「君遠慮という言葉を覚えたほうがいいで」
500不手際だって恋は恋  准×作家 3/22:2008/01/15(火) 02:36:32 ID:t2y6pZSH0
火/村が見合いをしたという話を、私は二ヶ月ほど前に聞いていた。特に詳しいことは言わなかったが、どうやら直接師事する教授の紹介だったようだ。
結婚というものを人生から抜き去っているように見えていた彼は、けれどどうやら最初からその見合いを断る気がなかったらしい。
それなりに格好のつく外見と、それなりに体裁を繕うことの出来る性格、そして才気溢れる仕事振りと、そんなものを持った火/村が相手に
断られるはずもなく、どうやら見合いは結婚に向けて着々と進んだようだ。
随分と早い展開だがまあ、それがどんな思惑であってもいい。私は、火/村が誰かを自分の人生の中に組み込もうとするその姿勢に、いたく感動していた。
誰も近づけることのない姿。誰も愛さず、誰かに愛されることを拒絶する姿。それは、誰かのものになってしまう哀しみより、もっと哀しい。
他の誰かであっても、近づくことを許し、そして愛し愛される姿を見るほうが、どんなにか嬉しい。
それはきっと、私に出来ないことをしてくれるだろうから。向こう側に行ってしまわないように見守るだけではなく、
彼の中に眠るあの悪夢を少しずつでも消していってくれるだろうから。
だから、私は、本当に心から彼の結婚を祝福していたのだ。

501不手際だって恋は恋  准×作家 4/22:2008/01/15(火) 02:37:41 ID:t2y6pZSH0
結局私たちは、うちから程近いカジュアルレストランに来ていた。寿司はどうした、とうるさい火/村には悪いがここら辺に美味しい寿司屋はない。
次回彼女さんと一緒に来るなら旨いところを探しておいてやる、と言うと火/村はようやく諦めた。どうして貧乏くさいやつだ。
普段より少しだけ高めのワインを頼み、グラスをそっと目線まで上げる。人生の墓場に乾杯、と言うと、同じようにグラスを持った火/村に
お前の墓場が見つかりますように、と返された。小さくチアーズ、と囁くところがなんとも気障ったらしい。
「ところで美人さんなんか?」
「教授の奥さんに、美男美女で絵のようにお似合いだ、とはしゃがれたよ」
「さりげなく自分のことも褒めるのはやめぇや」
サーブされた料理に舌鼓を打ち、いつもより少しだけ早いペースでグラスを空ける。彼との会話は変わらずくだらない応酬で、それもまた楽しい。
火/村もリラックスしている様子を見せていて、外見に似合わずあまり酒に強くないせいで少しばかり頬が赤くなっている。それをからかうと、
少しばかり拗ねたような声でザルより人間らしいだろ、と返ってきた。思わず声に出して笑う。
「でもここ旨いやろ。実はな、俺が見つけたんちゃうねん」
「お前の好きなタウン誌にでも載ってたのか」
「俺は別にタウン誌が好きなわけやないで。活字があると読まずにいられんだけや」
「難儀なご病気だな」
「ふん、同病相哀れむか」
で、なんなんだよ、と先を促される。
「ああ、そうやった。片桐さんが教えてくれてん」
「東京在住の人間に教えてもらうほどお前はここに根付いてないのか」
火/村の片眉が引き上げられて、それから遅れたように口の端が上がる。
「毎度男と来ているわけか。たまには好きな女でも連れてこいよ」
店の人にあらぬ疑いをかけられるぞ、とニヤリと笑う。
「何を言うてるんや、片桐さんも君も、俺の好きな人やで」
火/村の表情が嫌そうに歪んだのを見て、してやったりと―一部本心を伝えてしてやったりもないものだが―思ってから、私は自分の浮ついた気持ちに
気付きそっと苦笑した。好きな人が幸せに近づくことがこんなにも嬉しい。
502不手際だって恋は恋  准×作家 5/22:2008/01/15(火) 02:38:29 ID:t2y6pZSH0
その相手が自分じゃなくても嬉しいほどに、私は火/村のことを好きだったのだ。
「結婚式はいつ挙げるんや」
「3ヶ月後だと」
「随分急ぐんやな。さてはデキたんとちゃうやろな」
思わず下世話な反応をした私に火/村は呆れた顔を隠すこともなく向ける。こういった表情は出会った当初実に怖かったものだ。いつ友人という
ポジションから外されてしまうかとビクビクしていたのに、いつの間にか慣れてしまってそしてあっさりその視線を受け流すことが出来るように
なっていた。ふとそんな邂逅じみた考えをする自分がまた可笑しい。
どうやら無駄にハイテンションだ。
「お前、オヤジ度が上がってるぞ」
「フォークで人を指す人間にどうこう言われたないわ」
お前、とこっちをまっすぐ指していたフォークを火/村の手から抜き去り、私の皿に鎮座していた牡蠣をひとつ掬い上げるとその手にフォークを戻した。
「新婚さんには亜鉛が必要なんや」
ニヤリ、と笑って見せると、火/村はますます呆れた顔を向けため息をついた。
「そうか、オヤジ度が上がるも何も、お前はもう立派なオヤジだったんだな」
「そうや、だから君も立派なオヤジやねんで、安心せえ」
食事を終えコーヒーを待つ段になって、何となくだが胸苦しさを感じた。今日はそんなに飲んではいないが、
はしゃぎすぎて少々酔ったのかもしれない。便所行ってくるわ、と身も蓋もない言葉を火/村にかけて席を立った。


洗面所のドアを開ける。正面にあった鏡を見た瞬間、私は嫌悪した。
なんなんだろう、この顔は。
こんな顔は知らない。
べったりと張り付いた笑顔。機嫌よく上気した顔色。
なんて酷い顔なのだろう。
無理やりに引き上げられた口角は中途半端に上がったままで、そのために使われた筋肉が皮膚の下で痙攣にも似た疲れを訴えている。
真上から照らされた照明のせいで目尻の笑いじわが強調されていて、それが意図的に作られたものだと主張する。酒の力を借りた血色のよい顔は
けれど不自然なほど赤くて、グロテスクでさえある……醜悪だ。
これは作られた顔だ。
私は火/村と話している間中、この作られた笑顔で接していたというのか。
私は心から祝福していたはずなのに。なぜこんな顔をしているのだ。
唐突な嘔吐感に、慌てて個室の扉を開けた。
503不手際だって恋は恋  准×作家 6/22:2008/01/15(火) 02:39:15 ID:t2y6pZSH0
「随分遅かったな」
テーブルに戻ると、火/村は既に飲み干してしまったコーヒーのお代わりをウェイトレスに頼んでいた。
「ああ、昨日も締め切りで徹夜してたからな、ちょっと酒が廻りすぎたようや。頭冷やしてた」
「やっぱり若くねぇな、センセイ」
「勤勉なだけや」
ウェイトレスが持ってきた新しいコーヒーを、既に冷めかけた私のそれと無言で交換すると―さりげない優しさは心に痛い―、火/村はだらしなく
ぶら下がったネクタイをさらに緩めた。私の顔をじっと見つめ、そして息を吐く。
「確かに顔色がちょっと悪いな。今日はこのまま帰って寝た方がいい。悪かったな、急に押しかけて」
「素直なんは怖いな。けどそうさせてもらうわ。君はどうする?泊まってくか?」
「いや、今日はまだ早いし帰ることにするさ。明日講義前にまとめておきたい資料もあるし」
「そうか、頑張りや。俺もまたしばらく締め切りに追われそうやねん。売れっ子は辛いわ」
私は自分の口からするりと出た嘘に驚く。小さい締め切りは確かにあったけれど、追われるようなものはしばらくない。
その嘘に感情が遅れて追いついて、ああそうか、私はしばらく火/村と会いたくないのだ、と気付いた。
「売れっ子って言葉の認識をすり合わせたほうがよさそうだな」
火/村は小さく笑う。
私たちはコーヒーをゆっくりと飲み、そして席を立った。
504不手際だって恋は恋  准×作家 7/22:2008/01/15(火) 02:41:25 ID:t2y6pZSH0
私は、困っていた。
一ヶ月の間に三度、火/村から連絡があった。一度目はフィールドワークのお誘いで、これは締め切りがあるからと断った。二度目は近くに来る用が
あるから寄ってもいいかと問われ、締め切り以外の言い訳が思いつかず片桐さんと打ち合わせがあると言ってしまった。そして今日が三度目の連絡だ。
用事で大阪に来るので、こちらに結婚式の招待状を持って寄るという。断るつもりだったのだが寝起きの頭ではとっさに理由を探すことが出来ず、
私がああ、とかいや、とか言っているうちに、なにやら責め立てるような口調で8時頃行く、という言葉とともに電話はさっさと切れてしまった。
いや、実のところ別に差し迫った締め切りなどないし、特に用事もない。気持ちに整理などついていないがだいぶ落ち着いては来たし、火/村に
会いたいという気持ちもあった。が、今の状態で会うことはあまりよくないように思えた。
あれから、私は何度も吐いた。
普通に食欲はあるし、食事自体は出来る。けれど食事の度に思い出すのだ、あの作り笑いを。そして思い出した瞬間嘔吐感に襲われ、食べたものを
すべて吐き出してしまう。毎食というわけでもなかったが、かなりの頻度で吐き気に襲われるため、いつからか私は食べること自体が嫌になっていた。
私は酷く痩せた。病院にも行ったが、「心因性ですね」の一言と栄養剤の点滴がもらえただけで、何の解決にもならなかった。入院を勧められもしたが、
心因性の原因ははっきり判っているのだからどうしようもない。
あの化粧室で、私は自分の仮面を見た。そして気付いた。
この恋心は、思っていたよりは根深いものだったのだ。
私は、火/村が幸せになることをとても喜んでいる。けれど同時に、彼の一番近くにいる人間が自分でなくなることに困惑している。
彼が誰も愛さないよりは、自分以外でも誰かを愛して欲しい。その気持ちに嘘はない。けれど、出来ることならば、彼の一番は自分でありたいという傲慢。
なんて愚かなのだろう、と笑えてくる。今の地位を失うことに気持ちが追いついていかないのだ。
505不手際だって恋は恋  准×作家 8/22:2008/01/15(火) 02:41:54 ID:t2y6pZSH0
そんな自分に失望した。だから、身体がちょっとばかり言うことを聞かなくなっているのだ。
別にいい、そう思う。この恋は少しずつ諦めを飲み込んでくれるだろう。少しずつこの恋を忘れていけるだろう。多分、時間という便利なものが
すべてを押し流してくれるだろうから。今までだらだらとその存在を見逃されていたこの恋も、状況が変わったのだから。結婚式までにはこの気持ちを
葬り、友人としての自分を構築し直せる自信さえあった。
けれど、今のこの状況は困るのだ。
そもそも急激に痩せたこの姿を火/村が見れば、不審を抱くのは当然のことだろうし、今の私は、どうも自分の感情を上手くコントロール出来ないようだ。
体力の低下は如何ともし難く―吐くという行為は、思った以上に体力を奪うものだった―、それに伴って気力も奪われていて、愛想笑いひとつ作るのにも
疲れてしまう。そもそも笑えていないことを人に指摘されてる時点で(顔見知りのコンビニ店員さんにまで心配されてしまった)どうなのだ。たとえ
あんなに醜い作られた笑顔であっても、それを貼り付けることでこの恋情を騙し通せるのであればそれでいい。けれど仮面も被れないようなこの状態では、
上手く誤魔化すことなど出来ないだろう。
この先彼と友人関係を続けていくためには、余計なファクターは排除しなければならないのだ。火/村が実は情に厚い男であると知ってはいるが、
だからといって自分に恋情を傾けてきた気持ちの悪い同性の友人を、その先も傍に置くとは限らない。ただでさえ友人に邪な感情を抱くという罪を
犯しているのに、その上彼から一人の友人を奪うといった罪を重ねるのは何としても避けたいところだ。
……やっぱり何か理由をつけて断ろう。この状態では、平静を装うのは難しい。
こんな簡単な結論を導き出すのに随分と時間をかけてしまっていて、時計を見れば既に3時間ほど経っていた。
まだ間に合うだろうかと慌てて電話を取り上げる。
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
506不手際だって恋は恋  准×作家 9/22:2008/01/15(火) 02:43:38 ID:t2y6pZSH0


アリ/スからおめでとうの一言を貰ったとき、正直後ろめたい気持ちが先に立った。
自分は、愛情から結婚するわけではない。年齢と、社会的立場と、今後の研究の展望と、そして双方の都合と、そう言った諸々が組み合わさった
結婚という形だった。根っからのロマンティストであるアリ/スにこんな話は出来なかったし、かと言って後ろめたさもあって、どうしても
ありがとうとは言えずに適当にはぐらかした。けれど同時に、結婚という所謂世間で言うところの幸せとやらを心から祝ってくれているアリ/スの
笑顔に、こちらもひと時の幸福感に包まれた。自分の幸せを祝ってくれる人がいる、というのはなんという甘美な感覚なのだろう。
実際この結婚が自分に幸せをもたらすものではないと判っていたが、それに付随してこんな幸福感を味わうことが出来るのならばそれも悪くない、
と思った。
だから大阪府警に用が出来たとき、忙しいと何度も誘いを断られていたにも関わらずアリ/スと会おうと思ったのは、あの幸福感をもう少し
味わいたかったからなのかもしれない。
電話をかけ、俺だ、と声をかけると、ワンテンポ遅れてからどちらの俺様やねんー、と返ってくる。反応が遅いのは、まだ眠っていたからかもしれない。
「お前、締め切りはどうだ?」
「あー…いや、今は…」
「今日これから大阪に行く用が出来た。結婚式の招待状を渡したいんでそっちに寄りたいんだが大丈夫か」
「ああ…うん、いや、……」
間違いない、確実に寝ていたんだろう。要領を得ない返答に苦笑がこみ上げ、ついからかいの言葉が出てきた。
507不手際だって恋は恋  准×作家 10/22:2008/01/15(火) 02:44:10 ID:t2y6pZSH0
「デートの予定でもあるのか?」
「いや…あー、うん、いや…」
煮え切らない返答に、もしかして本当にデートの予定でもあるのかもしれないと思う。
アリ/スはあれで、別にもてない男ではないのだ。優しげな顔つきと、意外なほどの細やかな気遣いはかなりの魅力だと思う。もしデートをするような
女性がいるのであれば、それは祝福しなければならない。そう思ったはずだったのに、出てきた言葉はまるで見当違いの言葉だった。
「予定はないんだな?」
ならば8時頃行くとだけ伝えさっさと電話を切った。
少々強引な気もしたが、もし他に用があるようならかけ直してくるだろう。
なぜこんな電話の切り方をしてしまったのかと考える。アリ/スに特定の女性が出来れば、彼の時間を明け渡さねばならないからだろう、と
結論付けた。自分は思いのほかアリ/スに依存しているらしい。
彼は自分の結婚を祝福してくれたのに、自分はなんて幼いんだろう、そう思うと自分に少しばかり腹が立つ。
508不手際だって恋は恋  准×作家 11/22:2008/01/15(火) 02:45:44 ID:t2y6pZSH0
「ああ、お疲れ様です」
「また無理を言ってすみません」
府警に着くと、いつものように森下が対応してくれる。必要な資料はすべてまとめてくれていて、正直とても有難い。
それを受け取り、二、三の会話のやり取りを終わらせそのまま辞去しようとすると、ふと森下が思い出したようにあ、と声を上げた。
「そういえば、最近有栖川さんに会われました?」
「ひと月ほど前に会いましたが、どうかしましたか?」
いえね、と前置きをしてから、心持ち顔を火/村に近づけて言葉を続ける。
「昨日捜査で有栖川さんのお宅の近くに行ったんですけど、そのとき有栖川さんお見かけして…」
それがどうした、というように森下の顔を見やると、少しばつが悪そうに視線を逸らした。
「お声をかけようかと思うたんですけどなんやえらい痩せてて、疲れ切ってるって感じで」
「痩せてる?」
「ええ、げっそり。いつもの有栖川さんやないみたいで、声かけられませんでした」
「……この前また締め切りがどうとか言っていたので、それで無理をしたんでしょう」
それならええんですけど、と小さく呟くと、森下は急に照れたように笑った。
「いつも元気なんに、あんな顔もされるんやなーと思うたら、ちょっと心配になってもうて」
「いえ、締め切り破って森下さんにまで心配をかけるんじゃない、と伝えておきましょう」
そんなんええです、と慌てたように手を振る森下に再度暇を告げると、今度こそ府警を出る。
さっきの森下の照れたような笑いはなんなのだろう。人心を掌握するのが上手いアリ/スは、森下の心もまた掴んでいるのだろうか。そして、
今の自分のこの気持ちはなんなのだろう、とも考える。しばし考えて、自分の知らないアリ/スを森下が知っていたからだ、と結論付けた。
さっきの気持ちといい、自分はあの友人に対して随分狭量だ。自分にとってアリ/スが一番の友人でも、アリ/スにとってそうかどうかなどは判らないのに。
この後本当は在阪の大学に顔を出そうと思っていたが、予定を変更する。痩せてしまったという作家に、何か食わせてやろう。 
509不手際だって恋は恋  准×作家 12/22:2008/01/15(火) 02:47:01 ID:t2y6pZSH0
適当に食材を見繕うと、アリ/スの家へと向かう。伝えていた時間より随分早い到着となってしまうが、そこは気にしないことにする。
玄関前に立ち、インターフォンを押す。
いつもよりも少しだけ長く待たされている気がして―そして扉が開いた。
「人様の家に行く場合はな、到着予定時刻より早く着いたらあかんねんで」
「お前にだけは言われたくないな」
おもむろに皮肉をぶつけてきたその姿にとっさに言葉は返したが、その後の言葉が出てこなかった。
目の前に立ったアリ/スの姿といったらどうだ。これは痩せている、なんて言葉で片付けてしまっていいものなのか。今にも倒れてしまいそうな、
細い身体。もともとそう体格がいいほうではないが、それにしても異常だ。羽織ったシャツから出た手首の細さが痛々しい。首から肩にかけての
ラインが、明らかに一回り細くなっている。どちらかというと丸顔だったのに、その輪郭が削げ落ちたかのようになってしまっているし、
顔色も血の気がない。ただでさえ大きい目が落ち窪んで、その存在を主張している。
「……お前、どうした」
「何がやねん。入るんなら早う入り」
ちょっと困ったように笑うと扉から手を離し、アリ/スはそのままリビングへと進んでいく。慌てて後を追うように玄関に滑り込み、そして
森下の心配の意味に納得した。
510不手際だって恋は恋  准×作家 13/22:2008/01/15(火) 02:47:49 ID:t2y6pZSH0
「お前、なんでそんなに痩せてるんだ。食ってないのか」
キッチンからアリ/スの鼻歌が聞こえてくる。とりあえず荷物を下ろし買い込んだ食料品をキッチンに持ち込むと、アリ/スはコーヒーを入れてくれていた。
「ああ、いやな、締め切りあるって言うたやろ。それでただでさえ食べてなかったところに風邪ひいてもうてなぁ」
いやいやお恥ずかしい、とでも言いそうな顔でこちらを向く。
そんな状態でこちらに救援を求めなかった例がない。明らかに嘘と判る言葉にどう答えようか迷う。
「でもちょっとダイエットしようと思うてたからちょうどよかったわ。ほれ」
マグカップを押し付けて、そのままリビングへと行ってしまう背中を追いかけながら声をかけた。
「助けを求めなかったのは珍しいな。お前は放っておくと野垂れ死にするタイプって判っているだろう」
「せめて野垂れ死にしそうなタイプ、にしてくれんか」
フンと鼻を鳴らすと、アリ/スはソファの向かいにクッションを置きその上に座り込んだ。
ソファに腰を下ろし、改めてその姿を見る。見ているこっちが辛くなるような痩せ方だ。たかだかひと月で、こんなにも人間は弱ってしまえるものなのか。
「……で、風邪とやらは治ったのか」
「だいたいな。なぁ、招待状見せてや」
手をずい、とこちらに伸ばす。子供がお菓子でも要求しているのかという仕草に苦笑しつつ、唐突に話を切られて、なんとも複雑な気分だ。
なあなあ、と煩いので鞄から封筒を取り出す。広げられた手の上に置くと、アリ/スはしげしげと眺めた。
そして書斎からペーパーナイフを持ってくると、何をそんなに、と思うくらい慎重に開封し、中から招待状と返信ハガキを取り出す。
「ふぅん……なあ、ハガキ今書いたほうがええ?それともあとで投函するほうがそれっぽい?」
「なんだよ、それっぽいって。どっちでもいいさ」
招待状に丁寧に目を通し、ひっくり返して裏のデザインを褒め、そしてこの文章は定型で決まっているのかそれとも自分たちで考えたのかと質問し、
この会場は何とかという芸能人が式挙げたところや!と叫び、封緘がいかにもお前っぽいと笑い、この日は誰それの誕生日と同じ日だと驚き、
ひとしきり堪能したあとで、アリ/スはふいに動きを止めた。

511不手際だって恋は恋  准×作家 14/22:2008/01/15(火) 02:49:39 ID:t2y6pZSH0
「どうした」
「……ん、いや、なんや感慨深いなーと思て」
照れたように笑う姿は自然で、けれどなぜか視線が合わないことに苛立ちを覚えた。
「何が感慨深いもんか、何にも変わりゃしねえよ」
アリ/スはふい、とこちらに視線を寄こして、そして一瞬何かを言いかけて、結局困ったように笑った。
「俺も早う嫁さん探さなな。置いてけぼりはごめんや」
「ファンには手を出すなよ、作家センセイ」
「ファンが多いからな、ファンを避けると選択肢がだいぶん減ってまうわ」
「ファンを避けるといなくなる、くらい言って見せろよ」
俺は謙虚なんや、と嘯くアリ/スを横目に腰を上げる。
「キッチン借りるぞ。独身貴族の先生に、飯の差し入れでもしてやろう」
いつもなら尻尾を振りまくった犬のような反応を見せるアリ/スが、ほんの一瞬目線をさ迷わせた。
「あー、あんな、俺さっき変な時間に食事してもうてん。だからまだ当分腹減らんと思うし、もし作るんなら君の分だけ作ればええよ」
「……なら、作っておくからあとで食べろよ。飢え死にされちゃ寝覚めが悪い」
「君、野垂れ死にだの飢え死にだの、酷い言い様やな」
「そう言われないようせいぜい気をつけてくれよ」
キッチンに向かいふと振り返ると、アリ/スは窓から侵食するように入ってきた夕日に照らされ、手にした招待状をじっと見つめていた。
オレンジに照らされた頬はこけていて、その唇は何かを堪えるように引き結ばれている。
初めて見るアリ/スの姿に、摩滅したはずの心が、ざわざわと音を立てて揺らいだ。
512不手際だって恋は恋  准×作家 15/22:2008/01/15(火) 02:51:22 ID:t2y6pZSH0
「お前も少しは付き合えよ」
何種類か作ったおかずをローテーブルの上に並べ、冷蔵庫から勝手にビールを二缶出してひとつをアリ/スに手渡す。
さらにその手に半ば強引に箸を押し付けると、なんやセンセイは一人じゃメシも食えんのか、とニヤリと笑った。
「そうなんだ、一人じゃメシも食えない可哀想な俺のために付き合えよ」
「……素直な君はほんま怖いからやめてくれ」
「俺はいつでも素直だ」
ソファに腰を下ろすと、アリ/スがビールを掲げてきた。
「何に乾杯だ?」
「君が結婚するまで、乾杯はいつでも『人生の墓場に』、や」
「じゃ俺は毎回お前の墓場が見つかることを願わなきゃなんねえのか」
「願っといてくれ。俺も必死や」
二人で笑いあって、缶をぶつけた。
結婚の準備はどんなことをするのだ、とアリ/スが聞きたがるので、問われるまま答えてやる。いちいち「ほう」だの「そうやったんかー」だの
感嘆の言葉を口にしながらメモでも取りそうな勢いで次から次へと質問を繰り出してくる。
そのアリ/スに返事をしながら、動きをさりげなく見ていた―が、食べる気配も飲む気配も全くない。
いや、ビールには口を付けているが、中身は多分半分も減っていないだろう。いつものペースを考えると、らしくない。
さっき食事を準備するためにキッチンに立ったが、ここ最近使われた気配が全くなかった。食器を洗った痕跡さえない。シンクの脇に置いてある
グラスが唯一使った形跡があるだけで、あとはまるで何日かの旅行から帰ってきたときのようだった。違和感を感じてゴミ箱の蓋を開けると、
見事に何も入っていない。生ゴミはおろか、こいつのうちに常備してあるインスタント食品の袋もコンビニ弁当の類も。念のためさりげなく
リビングのゴミ箱をチェックすれば、そこにも紙ゴミ以外何も入っていなかった。
「なあ、冷めないうちにこれ食えよ。自分で言うのもなんだがかなりいい出来だ」
「あ、おう…あんま腹減ってないんやけどな」
「俺のありがたい友情を素直に受け取っておけ」
アリ/スは困ったように笑って、箸を手にした。
513不手際だって恋は恋  准×作家 16/22:2008/01/15(火) 02:52:18 ID:t2y6pZSH0
またこの顔だ。今日ここに来てから、アリ/スは時折この顔を見せる。もしかしたら本人も意識していないのかもしれないが、普段ではなかなか
しない表情を見せるこの男が、その痩せてしまった姿と相まって別人のように見える。
「あ、ほんまや、旨い。君いい旦那さんになれるで」
一つ、二つと嬉しそうに摘んで口にする姿はいつも通りだ。さっき感じた違和感は気のせいだったのかもしれない、
と思い始めたところでアリ/スがふいに動きを止めた。
「……どうした?変なものを入れた覚えはないが」
「……や、いや何でもあらへん。喉に詰まりそうになった」
そしてまた困ったように笑った。
「すまん、ちょっとトイレタイムや」

「なぁ、君幸せになってや」
戻ってきたアリ/スは、唐突にそんな言葉を呟いた。
どんな顔をして言ってるのかと見れば、一瞬目を伏せて、そしてにっこりと微笑んでビールを一気にあおる。
「うわー、恥ずかしいこと言うてもうた」
「言われたほうが恥ずかしい」
アリ/スはテーブルの上に置いていた招待状を改めて手に取り、そっと撫でるようにして丁寧に封筒にしまう。
「君とこうして過ごす時間も減るんやし、たまには恥ずかしい台詞もいいかと思うたんや」
「…なんで時間が減るんだ」
「なんでって……君、ただでさえ忙しいんやから、ちゃんと奥さんの元に帰ったらな」
また困ったように笑いながらのその姿に、なぜか急に苛立ちがこみ上げた。
514不手際だって恋は恋  准×作家 17/22:2008/01/15(火) 02:52:53 ID:t2y6pZSH0
「なあ、お前今日出かけたか?」
急な話題の転換について来られなかったのか、怪訝な表情をこちらに向ける。
「いや、今日は出てへんけど……」
「今日何食べた」
「何って…いや、」
「お前、今日何も食べてないだろ」
表情から仮面が落ちたかのようにアリ/スは無表情になって、そして一瞬の後またあの困ったような笑顔になった。
「なんや君、ほんまもんの探偵にでもなったんか」
「何で食べてないんだ」
「風邪が、治りきってないんや。食欲がない」
「いつから」
「一…週間くらい、前やな」
「なんでそんなに痩せている」
「だから、締め切りで食べてなかってそんで…」
「何があった、アリ/ス」
「……」
「何があったんだ、アリ/ス」
唐突に気付いた。あの困ったような笑顔は、笑っていたのではない。泣きそうになるのを堪えている顔だ。
アリ/スはふいに立ち上がると、そのまま寝室に向かった。扉を開けつつ振り返らずに言う。
「悪い、やっぱり体調悪いみたいや。君泊まってくなら風呂でもなんでも適当に使うてや」
パタン、と軽い音を立てて扉が閉まった。


515不手際だって恋は恋  准×作家 18/22
急に痩せた姿、慣れない嘘、そしてあの泣きそうな笑顔。今まで見たことのないアリ/スに、上手く思考がまとまらない。
コーヒーでも飲もうとキッチンに入って初めて、この部屋に入ってからまだ一度も煙草を吸っていないことに気付いた。
そこに綺麗なままの灰皿が置いてあったからだ。どうやら自分が思う以上に、痩せたアリ/スの姿に衝撃を受けていたらしい。
思わず苦笑いをこぼして、灰皿とコーヒーとともにリビングに戻る。
まだ熱いコーヒーはそのままに、何時間か振りの煙草に一息ついた。
ようやく廻り始めた頭でつらつら考える。そもそも、アリ/スが嘘をついたことが驚きだ。彼は嘘をつかない。言いたくないことがあれば言わないだけで、
それをわざわざ取り繕うようなことはしない。もし嘘をつくとすれば、それは嘘をつかないことで相手を傷つけてしまうと思ったときくらいだろう
―例えば寝た振りをする瞬間などに。もしかしたら、ここ最近忙しいといっていたのも嘘なのかもしれない。大体片桐との打ち合わせなら、大抵その後
一緒に飲むかと誘ってきていたではないか。
あの痩せた姿はその嘘の理由と繋がっているのだろう。そしてあの泣きそうな顔も。
一体何のためにアリ/スは変わったのだ。一体誰のためにこんなに変わってしまったのだ。
ひと月前まで、何にも変わりなかったのに。ひと月。そう、ひと月前。