―――オモチャ、なのだと思う。俺はそれの名称を知らない。
さっき行ったドラッグストアの出入り口前の―――自販機?で、球状のカプセルに
封入されて売られていた。
ジェル状だ。
半透明だ。
青緑色だ。
俺は何となく、それを握ったり離したりをしばらく繰り返した。
ジェル状ではあるが、さほどベタベタ服や皮膚にくっついたりはしない。
感触としては、木炭でデッサンをする時に使う消しゴム、あれを柔らかくしたらきっと似ている。
いじっている間に体温に馴染んで、若干柔らかさの増したそれを今度は、
やはり大した考えもなく、俺は小さくちぎってみた。
ピザ生地のようにかなり伸びた後―――大きな抵抗もなくちぎれる。
しばらく無心で、ちぎっては床に並べ、ちぎってはまた並べ、を繰り返しているうちに、
唐突に我に返り、無性に恥ずかしくなった。
あわてて掻き集め、もとのひとかたまりに戻す。さっきまで八つ裂きにされていたのが
嘘のように、なめらかな一つの物体になった。床のホコリが付いてしまったのか、
透明度は幾分落ちたが。
「……」
そんな訳はないのだが、その下らない遊びをこの物体に”やらされた”気がして、
俺は妙に腹が立ち、それを乱暴に掴んで、野球のボールでも投げるように壁に叩きつけた。
ベシッと音をたてて壁に貼り付く。そのまま貼りついているのかな、と思いきや、
花びらでも散るようにゆっくり剥がれ落ちた。
拾い上げる。
なんかバカバカしいことやってるな。
もう捨てちまおうか。
そう思いながら、力を込めて握りこむと、
にゅる、とそいつは俺の指の股からはみ出してきた。
(―――え)
何だ。
今の感じ。
今一度床に置く。
五指の付け根部分で、全体重をかけて圧迫する。
―――ニュル。
当り前だが、また指と指の間からそれがはみ出てきた。圧し続けると、指の間をすり抜けた
それは、俺の手の甲で再び一つにまとまる。
俺の手の下で押さえつけられていたそれが。
俺の手を押さえつけている。
今までに味わった事が無い類の興奮にかられ、押さえつけては指の股からそれをひり出し、
手の甲から剥がしてはまた押さえつけ、をやり続けた。
ひんやり生温かいそれが、指の股をこすって通り抜けていく感触、手の甲に密着する感触、が
たまらない。押さえつける時に、「自動車」とか「農作物」とかつぶやきながら圧迫すると、
異様な快楽がもたらされる。俺はそれこそ夢中になって、圧してはにゅるにゅる出し、
にゅるにゅる出しては圧し、またにゅるにゅるだしおしおしにゅるにゅるだしゆのやうないんすいぬらぬらどくどく
「あー、懐かしい。スライムですね!」
「はわぁ!!」
※はらしからぬ声をあげて飛び退いた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」
ニホンは怪訝な顔をしながら、床にはりついた物体―――スライムを拾い上げた。
「まだ売ってたんだなあ。きれいな所で遊ばないと、ゴミを取り込んで汚れちゃうんですよ」
「あ、ああ」
周囲の汚れを吸い寄せる。
強く圧せば圧すだけ、指の間をすり抜けて、上へ通り抜けてゆく。
まるでそれは―――
「もうこれ、捨てちゃっていいですか。汚れてるし、弾力もなくなりかけてるし」
いつもと違う上気した顔の、妙に無口な※に首をかしげながらニホンは言うと、
「え―――」
※の返事も聞かずに、すたすたとゴミ箱に向かい、
「別に惜しいものでもないでしょう、貴方にとっては」
振り向きもせず、スライムを落とし込んだ。
スライムは確かにゴミ箱に入った。入ったのだが―――
※はさっきまで掌にあったあのひんやりした感触を、今では背筋に覚えていた。
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クレームブリュレを作っていて思いついたので書いたニダ
ウリの辞書に反省の文字はない。