飢えている。満たされない。
どんなに貪欲に全てを引き寄せ食らいつくしても、この空白が癒される事はない。
かつては周りの何よりも輝く存在だった。
周りに自分よりも長けた者は居なかったのだ。
ある時起こった崩壊。爆発。
周囲を巻き込んで粉々になるはずだった。
けれど、多分自分は長く生きすぎた。
肥大した自我とエネルギーはバラバラになるには大きすぎた。
結果、残された全てが爆発とは逆に収縮して行く。止め処なく。
最初は吹き飛んだ自分自身の欠片。そして周りに残された全て。
失った輝きの分だけ、いやそれ以上の貪欲さで、空間すらねじ曲げて一つの塊に。
何もかも思うがままに取り込んでいく。圧倒的な力の感覚に酔いしれた。
けれど他の存在が自分の力になっていく事を楽しめたのは本当に最初だけだった。
そうして飲み込んでいけば行くほど、周りには何も無くなって、孤独が深まるだけだった。
その光は最初は遠い所にあった。けれど次第に不規則な動きで近づいてきた。
多分、自分の持つ引力が影響したのだろう。
そういう事は、周りが過疎化するに従い減ってはいたが皆無ではなかった。
周囲全てに伸ばした手。増し続ける引力の影響範囲は、じわじわと広がっている。
「ああ、びっくりした。そんな所にいるとは分からなかった。かくれんぼでもしているつもり?」
まだ若々しさの残る青白い光を放って、好奇心に満ちた口調で声をかけてくる。
若い恒星は自分のような存在に会ったのは初めてだったのだろう。
そして自分の噂が届く範囲に居なかったのだろう。
無邪気で、親しみすら感じさせる無防備な存在。
その姿にかつて自分も持っていた持っていた輝きと熱の記憶がかすめて消える。
今のこの体はただの力の固まり。かつて放っていた光もこの体の中を出ていく事はない。
音も何もかもを閉じこめた静寂と死の星だ。
……だからこちらから語りかける事は出来なかった。ただ言葉を聞くことしか、できなかった。
「返事もしてくれないんだね。でもいるのはもうわかったよ。
だってすごい力で僕を引き寄せていたのは君でしょう?」
その星は、自分が生まれた場所からはぐれて、影響し合う重力に流され続けてきたようだった。
彼の生まれた場所の近くで星が爆発した事が推進力になったのかもしれない。
もっともその星は、綺麗に砕け散ったのだろう。
……この自分の様に、持て余す大きさを別の力にすることもなく、
壊れ、ちりぢりになることができたのだろう。
そういう星が、いつかまたこの宇宙の中で新たなる生命の発祥の土台になることがあるという。
自分はその循環からはずれてしまったのだと、多くの星々を飲み込み、
全てを自分の身の内に取り込んだ結果の知識とした今は知っていた。
「……ここは寂しいね。どうしてこんなに何もないんだろう。
でも君は大きいね。すごいな。僕もね、今はこんなに小さいけれど、
いつか他の星みたいに大きくなりたいんだ」
希望に満ちた若い恒星の声。心の奥底にある記憶が不意をつくように甦った。
恒星に生まれ落ちれば誰だって願うに違いない根元的な願望。
少しでも長く大きくと願い続けた結果が今ある現実なのだとしたら
なんて皮肉なのだろう。
今はまだその星はこの場所から逃れる事が出来るはずだった。
けれど、その星はゆっくりとこの呪われた体に近づいた。
ゆらゆらと近づいてくる恒星は、自らの危険を知らずに、重力場へ。
近づくな、と警告は出来なかった。
自分の光どころか、声も意志も何もかも、表に出すことは不可能なのだから。
一瞬の出来事。
影響下に落ちた星は、悲鳴を上げた。上げたと思う。
その悲鳴すらも全て、自分の中に閉じこめる。何一つもらさぬように永久にねじ伏せ身の一部にする。
強い重力の中で、彼は圧縮される間もなく崩壊していく。
崩れ去る彼は自分がどうなったのか理解する間もなかったに違いない。
そしてまた、手の届く範囲には誰もいなくなる。
孤独という責め苦が終わる時が来るのかそれすらもわからないこの体だけ残して。