□取り残された夜、(麒麟川島×中山功太)
『サンタなんていないんだよ。』幼い頃、ショックを受けたその一言。でも現に今、欲しいものは手に入りそうにない。
【取り残された夜、】
イブの夜、寝転がって天井を見ながら一人部屋で呟く。「・・・暇や。」外では浮かれたカップルが腕でも組んで歩いてるのだろう。
それを少しだけ羨ましく思う自分がとてつもなく嫌で、半ば無理やり目を閉じた。川島さんは俺のことなんて忘れてるだろう。
もちろん、それは当然の事だけど。でも もしかしたら、という期待がくすぶっているのも事実で。
「・・・もう、嫌や。」何も考えたくなくて、右手で探り当てた毛布にくるまった。クリスマスなんて早く終わってしまえばいい。
こんな、苦しい思いをするだけの時間なんて。「まぶし・・・。」目を開けると、窓からの光がちょうど顔に当たっていた。
立ち上がってカーテンを半分だけ閉めて枕元に置いておいた携帯を開く。
「・・・はは。」自嘲するように笑う。ほら、いないんだ。サンタなんか。
ひやりとした寒さを肌に感じながら、また毛布に潜り込んだ。
ピンポーン「・・・。」ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
「・・・うるさい」ピリリリリ「何やねん、ほんま・・・。」
チャイムの次に鳴りだした携帯を手に取り、通話ボタンを押す。
「もしもし、功太?ちょおドア開けて。」「・・・川島さん?!」
左手に携帯を持ったまま、急いで玄関のドアを開けに走る。
「どーも、川島サンタでーす。」「・・・はぁ。」そこにはマフラーに顔を埋めて笑う川島さんがいた。
俺はただただ驚いてとりあえず川島さんを玄関に入れてドアを閉める。「ごめんなー、朝早くに。」
「仕事、は?」「少しヒマもらったから大丈夫や。」
それまで笑っていた川島さんの顔が、途端に悲しそうな表情になった。
「・・・泣いたん?昨日。」
「え?」目じりに手をやると確かにざら、という感触。泣いた、っけ?
ごしごしとそれを擦っているといきなり川島さんに抱きしめられた。
「最悪やな、俺・・・よりにもよってこないな日に恋人泣かすなんて。」
「そんなこと・・・っ」泣きそうな声で言われた後、首筋に唇が触れて短い痛みが走る。
「・・・功太は俺のモノやし、俺も功太のモノだから安心しぃや。」
にぃ、と笑う川島さんにつられて俺もまた笑った。
「・・・って、ここめっちゃ目立つ!」「マフラーでもしとけ。」
そう言い放ってまた顔を埋めようとするのを手で必死に押さえていると、俺のではない携帯が鳴った。
「はい、もしもし・・・あぁ、大丈夫です。わかりました。」
話が終わったのか苦い顔でパチンと携帯を閉める。「・・・悪い、時間や。」
あぁ、本当に時間ないのに来てくれたんだ。
「また大晦日に来るから。・・・そや、功太んとこ泊まってもええ?」
「そういえば、帰って来るんでしたっけ?」川島さんは頷くと、顔を近づけて耳元で囁く。
「その時には昨日より鳴かせたるわ。」
「・・・楽しみに待っときます。」負けじと笑顔で返して、川島さんを送り出す。
互いに手を軽く振った後、ドアは静かに閉まった。さて。来週のために部屋の大掃除でもしておこうか。
一人取り残された夜、だけど俺だけのサンタクロースが、来てくれました。その証拠を赤い痕に残して。
□Surprise.(麒麟川島×中山功太)
夕方、移動中の車中で携帯が震えだした。『いつもの東京のホテルに行け!』
「・・・は?」ノブさんから送られてきた、ある意味命令とも言えるそれをもう一度読み直す。
『俺、東京に家あるんですけど。』
『いいから言ってみな。あ、これ俺らからの誕生日プレゼントだから。』
確かに自分の誕生日あと数時間。でもホテルは前まで良く使っていた普通のホテル。
…ますます意味がわからなくなってきた。
エレベーター特有の機械音の後、ドアが開いて長い廊下を広がる。
とりあえず言われたとおりに来たはいいが、静まり返った空間に少し尻込みした。
「どこや、部屋・・・。」メールで言われた部屋番号を探し、コンコンと軽くノックをする。
まさか実はイタズラで、全然知らない人が出てきたりしないだろうな・・・。
そんな事を考えていると何か物音がしてからドアが開いた。
「何や、こんな時間に・・・。」
風呂あがりだったらしく、髪が濡れたまま出てきた当人はかなり驚いた表情をしてまたドアを閉める。
俺はさっきより強くドアをノックをした。「功太、開けてや。」
「・・・あー、びっくりした。何でここにいるってわかったんですか?」
「いや、ノブからメールでここに行けって言われた。」
「・・・あぁー、だからか。」「・・・?」
「ここに来た時から俺だけなのに何で二人部屋何やろうって気になってたんや。みんなに聞いても間違ってへん、って言われるし・・・」
つまり、この一連の出来事はノブ達が仕組んだことらしい。確かにここは一人で泊まるには少し広すぎる。
中に入ると、恐らくこの部屋で一番大きい家具が目に入る。これは、明らかに一人用の大きさじゃない。
「・・・これって。」呟くような独り言は、どうやら聞こえなかったようだ。
そのベッドに座って携帯を操作している功太を、一脚だけのイスに座って頬杖をつきながら眺める。
いつもより少し色づいた頬に、画面を見るために伏せられている瞳。愛しい、とはこういう感情のことを言うのだろうか。
俺の視線が気になったのか、携帯を置いて功太が顔をあげる。「・・・あの。」
「何や?」「プレゼント、向こうで渡そうと思ってて・・・その・・・。」
「あぁ、別にええよ。ちゃんとここにあるし。」
俺は立ちあがって功太を軽く押し倒す。ベッドが二人分の重さを受け止めるために少し軋んだ。
「ベッド、苦手なんじゃないんですか?」
「一日くらい平気や・・・と言うよりここで何もしないで帰ったらアホやろ。」
笑いながら湿っている髪を撫でて口付ける。今まで触れられなかった分も埋めるように、深く。
「・・・かわしま、さん」唇を離すと、苦しかったのか酸素を取り込みながら俺の名前を呼んだ。
「お誕生日、おめでとうございます。」優しい笑顔で言われたその一言は、誰に言われるよりも嬉しい。
「ありがとう。」
end...