客が入ってきた時、俺はおやっと目を見張った。一目見てなんか違うなって
わかるくらい、そいつは、なんつーか、崩れたところがなかった。
こんな店に来る男は、どこか崩れて歪んでるもんなんだ。
普段がどうでも、ここに入った瞬間に、そうなってるもんなんだ。
でも、若くて、きれいな目をしていて、なんとなく寂しそうなその客は、
俺を見て、ちょっと困ったような顔をした。慣れてないってわかる。
何をしに来たんだろう。そんな疑問が、一瞬で解けた。
客は、部屋の隅にいるあいつに目を向けたんだ。
誰も見なかったあいつを、初めて来た客が見たんだ。
俺がびっくりして動けないでいる間に、客はあいつに向かって
脚を踏み出していた。あいつがびくっと体を震わせて客を見た。
あいつが、人に目を向けて、その存在を認めたんだ。
俺は慌てて二人の間に飛び込んだ。
「あんた、こいつに何する気だよ!」
怒鳴った俺に、客は更に困った顔を向けてくる。
「君の、友達なのかい?」
静かで柔かい声が耳を打った。こんな声、初めて聞いた。
「友達なんかじゃねーよ。喋ったこともないんだからな。
でも俺はこいつとずっと一緒なんだよ。勝手なことするなよな!」
俺には、客が何をしに来たのか何となく想像が付いた。
だって、ものすごく優しそうで、悲しそうだから。