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| 虎ン素フォーマー・ザ・映画より
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| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 情報参謀ファンによる、ほとんどパラレルネタです
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歳場トロンとの死闘の末、敵の総司令官紺ボイは致命傷を負った。
しかし目がトロンもまた重傷を負い、応急処置では間に合わず基地に戻って
リペアしたとしても助かるかどうかは即答出来はしなかった。
「天下の目がトロン様もこうなっちゃあお終いだなぁ!」
星叫が至極嬉しそうに言い放ち、倒れ伏した目がトロンを足蹴にした。
「おいアストロ列車!さっさと虎ん素フォームしろ引き上げだ!」
早くもリーダー気取りを始めた星叫はその場を歩き去る。ずるずるとそれに
従うより無い日頃から纏まりのないDEATHトロン軍を横目に、音波はその場を動かなかった。
「……ま……待て…………置いて行くな――!」
助け起こす者もいないまま、目がトロンはボロボロの身体でもがいた。
縋る相手のいない手が宙を彷徨い、身体のどこかしらが動く度に銀色の外装が
雪の様にきらきらと剥がれ落ちて行く。
音波は無機質に自分が日頃から信頼を寄せて止まない破壊/大帝へと歩み寄った。
そして傍らに片膝をつき、その手を静かに、そして力強く握り締めた。
「――――お連れします」
哀しかった。
冷静で狡猾、機知に富んだこのリーダーは何事も部下任せにはせず、
前線に自ら立つ事を好んだ。その結果自分が傷を負ったとしても弱音などは
吐かない。もちろん誰かの肩など借りようなどとはせず、またその行為を激しく恥じる男だった。
しかし、戦場に凛と在った将の姿は今はどこにもない。
今目の前にいるのは死の淵に立たされ、ただただ生き延びようと必死に
あがく一つの生命でしかなかった。
音波は目がトロンを横抱きにして抱え上げた。目がトロンはぐったりと力無く、
されるがまま音波に身体を預けた。
全員が乗り込み終わるのを苛々と待ち構えるアストロ列車へと歩き出した
音波の後ろを、小さな足音が追いかける。
ちらりと背後へ視線をやると、フレンGが小さな身体をフル回転させて自分
の後をついて来る。ここに来て音波は、自分がこの小さな部下を自分の胸に
しまってやる事すらを忘れていた事に気がついた。
そのフレンGが沈痛な面持ちで抱えているは、目がトロンの融合カノン砲である。
紺ボイとの戦いの果てにいつしか外れ、傷だらけになってしまったそれを
宝物の様に抱き締めながら、いつもは小煩いその口をギュッと真一文字に結び
自分の後をついて来る。
音波はアストロ列車に乗り込んだ。それから内部の隅へと目がトロンの身体に
障りない様に腰を降ろし、いつものように沈黙して出立を待ち始めた。
『重量オーバーだ! もう飛べん!!』
宇宙空間に響いたアストロ列車の悲鳴が、その内部にいた全員の聴覚を打った。
「――――だとよ。荷を減らさなきゃいかんなあ……」
わざとらしい物言いで一同を見回した星叫は、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま続けた。
「どうだ、弱った奴を宇宙へ捨てて行くってのは」
『さんせーい!!!!』
すぐさま賛同したのは紺バット論を始めとする比較的に元気な者。『はんた〜い……』
一拍遅れて弱々しく抗議したのは、あちこちに重傷を負った印せくトロンやジェット論の面々である。
どちらに加勢すべきか……おろおろと主と仲間とを見比べるフレンGをよそに、音波は何も言わなかった。
己が生死の分かれ目とも言える事態に、腕の中の目がトロンは反応すらしていない。弱々しく光を放つ紅い眼で何とか生存が分かる程度だが、最早それも時間の問題と思える様な、そんな状態だった。
音波のロジック・サーキットは、冷酷とも言える手早さで『捨てろ』と主張した。
どの道これは基地まで持たない。死に損ないを後生大事に抱えて共倒れするよりは、さっさと放り捨てて新たなリーダーを据えるべきだ。
どこまでも現実的で、いっそ清々しい程に正論。
音波の中の大部分はそれに賛同した。音波は自分のロジカルな思考に絶大な自信を持っていたし、腕の中で命の灯を失いかけている目がトロンもまた、彼の弾き出した結論を信頼していた。
――だが。
捨てないでくれ。と誰かが泣いた。
誰だ。
歳場トロンに轢かれて片足を失くした印せくトロン?
敵のがむしゃらかつ正確な砲撃に翼をもがれたジェット論?
しかし実際目の前にいる彼らは、何かに取り憑かれたかの様に反対、反対と
口々に言い募るばかりだ。己に待ち受ける『宇宙葬』という名の処刑を受け入れ
嘆く者などいない。そんなやわな精神の持ち主など、DEATHトロンにはいるはずも無い。
じゃあ、誰だ。
音波は無感動に自問自答した。星叫に連なる形になってしまった他の連中は、
死に損ないのリーダーの命乞いなどしないだろう。もし一言でもそれに類する
発言をすれば、カリスマ性だけは無駄に備えたNo.2によって問答無用で宇宙へと
放り捨てられてしまう。
そうなると選択肢は限られる。アストロ列車は重たい自分の車体の世話で
手一杯、フレンGは音波が認めた人物の言う事しか聞かない。そして音波は
星叫を認めてなどいなかった。
目がトロンは…………違う。
例え危機的状況に在ってさえ、彼は怒りはすれど嘆きはしない。
その怒りを情熱に変え、事態の打破に全力を注ぐのだ。
「――――ああ」
納得から来る溜め息が零れた。
…………俺だ。簡単な事だった、俺が泣いていたのだ。
何百万年もそばに居続けたのだった。その魂を信奉し続けていたのだ。
自分自身が後にも先にもこれ程の傑物はいないだろうと悟り認めた
この気高き大帝を、何故捨てる事が出来るだろう?
DEATHトロン軍として、命令されるがままに諜報活動を始めとするあらゆる
仕事を成して来た音波は、生まれて初めて自分の意志で、この傷つき弱った
破壊/大帝を守ろうと思った。
――では、どうするか。
感情面と理性面が綺麗に分かれているこの情報参謀は、如何に星叫を
打ち倒しリーダーを救うかをすぐさま模索し始めた。
数の上では向こうが優勢、しかし大半は手負い。こちらにはまだ元気の
有り余る忠実なカセット論が5人もいた。大事な運搬要員のアストロ列車は
傷つけず、出来れば後で目がトロンが存分に罵れる様に星叫は殺さない。
音波の頭脳は目まぐるしく回転を始めた。それを赤いバイザーの奥の目に
見て取ったフレンGは、抱えていたカノン砲を目がトロンの腕に付け直した。
「…………、――――」
その微細な声は次々宇宙へと捨てられて行く哀れな同僚の悲鳴でかき消され、
音波でなければ聞き取れはしなかっただろう。
「………………音波」
「――――目がトロン様」
知らず声を抑えながらそっと目線を下げ、音波は将の顔を覗き込んだ。
その紅い眼はちらりちらりと炎の様に燃えていた――しかし、それは風前の灯。
死にゆく定めを打ち破る力は残されてはいなかった。
そんな状態の眼がトロンに容体に関する問いは無駄と思われ、音波は次に
何を言うべきか迷った。いつもなら沈黙を守り、主の命令を待てば良い。しかし、今は。
長い時間を共に過ごした右腕の、珍しくも戸惑った様子に眼がトロンは
口元をヒクヒク痙攣させて笑みの様な表情を作った。
「――構わん…………捨てて行け」
「しかし……!」
反駁が口を突いて出た。初めての事だった。
印セクト論は虫の形態そのままにしぶとかった。紺バット論が殴っても
蹴っても外壁にしがみつき離れない。それどころか不用意に手を出した
星叫の手をその鋭い歯で噛む事に成功した。
「どういう意味か、分かっておられますか」
その喧騒を余所に問い掛けた音波に、眼がトロンは緩慢に頷いた。
「……儂を始め、弱った者を捨て――――残った者、だけで、帰還する……」
「何故――貴方が消えたら、我々は」
「……儂だって、そうする」
その言葉に音波は言葉を失くした。頭のどこかで、彼もその道を選ぶだろう
と予感していたから。
「助かるかも……怪しい連中を、無様に引き連れるより、――元気な連中
が、助かる可能性を――優先する。……そうだろう、音波? ――――お前も
そう結論したのだろうに」
何故、ためらう。
言葉を続ける事が出来ずに口を噤んだ目がトロンは、聞き残した問いを眼で
ぶつけた。聡い音波はその眼を直視出来ず、視線を逸らす。
他の連中の騒ぎが全て、透明な膜でも張ったかの様に遠かった。
「――――貴方が、必要だからだ…………!!」
音波は震える音声回路を叱咤しながら告げた。目がトロンの胸が荒く揺れた。
笑ったのか。
「それは――DEATHトロン軍情報参謀としての、意見か」
音波は黙って首を振った。その右手が知らず伸びて、目がトロンの頬に触れた。
「俺の、意志だ」
それを聞いた目がトロンは眼を細め、触れられるままに再び笑いに似た音を
発した。口から発せられている筈なのに、その振動はひどく頼りない。
「――音波、お前の口から……そんな言葉を、聞くとはな…………長い付き合いだが、
まだ儂の――知らん事も、あったか」
「死ぬな、目がトロン」
音波は強く言った。頬の手触りがか細く思えて、言葉で繋ぎ止めないと
そのまま霞の様に通り抜けそうな錯覚を覚えた。
「音波………………」目がトロンの口が動いた。しかし、そこから先は
聞き取れずに音波は聴覚器のある顔の横を口元に近付けた。
「命令だ――――儂を、捨てろ」