「そういえばまだ前を洗ってなかったね」
親御さんが突然言い出すと膝の上に座っている子供の足の付け根に手を差し
入れようとしていた。
「ゃん……前はいいよぉ汚いし……自分で洗えるからぁ」
「なら汚いところはきちんときれいにしないとね。丹念に洗ってあげるよ」
そういうと膝の上に乗せていた子供を今度は鏡を見せるようにして膝の上に
座らせた。
「今度から自分できれいに洗えるように鏡を見ながら覚えるんだよ」
ボディソープのついたスポンジを、お腹から下腹部にかけてゆっくりとなで
おろし、肝心の部分に触れるぎりぎりのところでおへそに向かってなで上げ
る。じらすようにじらすように何度もくりかえし、やおら今度は太ももの中
ほどから足の付け根にかけてスポンジを躍らせる。
「…っ」
声にならない声を、細い頤からもらす。潤んだ瞳で背後にいる親御さんの顔
をじっと見つめる。本能では続きを期待しつつも幼いために知識がなく続き
をおねだりできない、そんな板ばさみ状態に陥っているかのようだった。
頃合良しと見たのか親御さんは低い声で一言
「それじゃ肝心のところをきれいにしようか」
といった。健康ランドの喧騒の中、聞こえてこないはずの声がなぜか耳に届いた。
ぞっとするような低い声で「気持ちいいんだろう?」と子供にささやくこの
光景は端から見ているだけでえもいえぬ背徳感を与えつつ現実感が喪失した、
そんな感じを与える。
体を洗う手も止まり、じっと隣の様子を伺うことしかできない自分に届くのは
リズミカルな体を摩擦するスポンジの音。そして子供の洗い息遣い。
みちゃいけない、でもみたい。その背反した想いが自分の中で葛藤として
渦巻いていく。自分の双眸はついに誘惑に抗いきれず親子のほうに向いて
しまった。
その瞬間、子供が発したであろう「ぁっ……」という言葉にならないアル
トの声が、自分の耳朶を打った。網膜には弓なりに反ったまだ性差すら表
れていない子供の躯。
ほんのり上気したその子の頬、耳まで真っ赤になっているうなじ、そして
まだほとんど肉がついていない胸−−−−そして足の付け根から迸る白い
ボディソープとは違う液体。
「ゃっ、ぁっ……なんか出てる」
少年が自失呆然となりながらつぶやくと、親御さんは安心させるように
「もしかして初めてだったのか?でもこれで大人の仲間入りさ」
といった。そして
「ほら、隣の人もお前が大人になった瞬間を見守ってくれていたぞ」
親御さんの顔はいたずらっぽく微笑んでいた。