エドワードの身に何が起こったのか、彼は今どこにいるのか、私にもはや知る術はない。
私の友が携わっていた禁断の研究、そして彼が姿を消したときの状況を考えると、今だに
慄然たる思いを禁じえない。
私は気苦労のない青年時代にエドワードと出会った。その時二人はミスカトニック大学
の新入生で、古物収集の趣味を通じてただちに意気投合したのである。我々のような傾向
をもつ人間が心安らぐことができる土地は数多くないが、アーカムはその稀有な例外の
一つであった。我々はそこで数多くの週末を、半ば崩壊しかけた古色蒼然たる家並の間を
経巡って過ごしたものである。エドワードが狂気に陥るきっかけがあったのも、あの街に
いたときのことだ。
あの日、エドワードと私は例のごとくアーカムの旧市街を探索し、良識ある人々が決して
足を向けることのない貧民窟をさまよっていた。今はニグロたちの住処となり果てた場所で、
我々は一軒の奇妙な店を見つけた。中ではおかしな目つきをした黒い肌の男が、あらゆる
未開の土地から集められた骨董品や装身具を売っていた。私はハイチで作られたヴードゥー
教の偶像に目をひかれたが、エドワードは難破した密輸船から引き上げられたという奇妙な
石に興味をそそられたようだった。
その石の外形は奇怪な角度で構成され、表面を赤い縞目が走り、はっきりと見定めがたい
幾何学模様を織りなしていた。自然の産物とは思えない、何かえたいの知れない邪悪さが感
じられる物体であったが、エドワードはひどく気に入ったらしく、黒人と値段の交渉をはじ
めた。私は別の棚で珍品を見つけていた。それは太平洋の島々からもたらされたとおぼしき、
下腹部から額まで伸びるファロスを備えた彫像で、私はそれを購入して学生寮の暖炉の上に
飾っておこうと考えた。石を手に入れたエドワードがそのような偶像をつぶさに眺めている
私を見て、困惑した表情を浮かべたのが今でも忘れられない。
寮に戻ったエドワードは奇妙な石にすっかり魅せられた様子だったが、それから一週間も
経つと、彼は次第に異様なふるまいをみせるようになった。彼はしじゅう小声で何事かを
つぶやき、部屋に閉じこもっては古い写本の類に目を通していた。そうした文書にいかなる
秘密が記されていたのか、そのときの私は知ることがなかった。とまれ、彼はある場所を
訪れなければならないと決意したようだった。その目的地とは、マサチューセッツの沿岸
にある<影の湾>と呼ばれる小港であった。
エドワードは不承不承といった様子で私の同行を認めた。彼は例の彫像のことを口にし、
宿泊先では別々の部屋に寝ることを主張した。そうした様子から、彼が何か重大な秘密を
隠しているのは明らかであったが、私にはただ彼の精神の均衡を危ぶむことしか出来なか
った。
<影の湾>への旅はほぼ完全な静寂の中でなされた。エドワードが父親から借り受けた
フォードに乗って海辺に着くと、彼はそれから数時間かけて沿岸を探索し、その間私と口
を利くことはほとんどなかった。私はナイフを取り出し、一本の流木に私とエドワードの
稚拙な似姿を刻みはじめた。そんなことをしたのも<影の湾>を漂う不吉な霧のせいだった
に違いない。仕上がったそれを目にした時、私はそのまぎれもない冒涜的な性質に気づいて
戦慄を禁じえなかった。私はそれをエドワードが目にする前に海へ放り込んだ。
大学へ戻ると、エドワードの行動はいよいよ常軌を逸したものとなっていった。彼は何か
につけ僕の部屋に来るのは止めてくれといい、また何者かが深夜に窓から寝室を覗きこんで
いるといって、血走った目で私を睨みつけた。彼の狂気はとどまる所を知らず、これ以上妙
なことが起きれば警察に通報せざるをえないとまで口にするのだった。
それから程なくして破局は訪れた。最悪の事態を案じた私はエドワードの部屋に忍び
込み、彼がひそかにつけていた日記を見つけ出した。若干の罪の意識を覚えつつ震える
ランプの光の下でページを捲っていった私は、ついにそれを見出した。恐るべきことに
そこにはエドワードの筆跡で、他ならぬ私の名前が記されているではないか!
「カーターが、自然に反した仕方で僕に好意を寄せているのではないかと恐れている」
疑惑が裏付けされた今、ただちに行動を起こさねばならないのは明白だった。私は日記を
元あった場所に戻し、足音を殺してエドワードの寝室へ忍び込んだ。毛布を剥ぎとって彼の
上に飛びかかり、叫び声があがる前に口をふさいだ。そして寝巻のボタンに手をかけたとき、
どこからかあの<影の湾>の奇怪な霧が漂ってきて、私を圧倒した。それに続いて何が起き
たのかは覚えていない。おそらく、それは慈悲深いことであったのだ。
目を覚ますと私は寝室の床に倒れていた。衣服は滅茶苦茶になり、体中に殴打の痕があった。
エドワードは姿を消していたが、彼の約束どおり、まもなく警官がやってきて私を逮捕した。
大学を放校になった私の手元に残されたのは、寝室の窓から盗み撮ったエドワードのあられも
ない写真と、彼のベッドからひそかに採取した精液だけだった。
この世には触れてはならない秘密、決して赴いてはならない場所がたしかに存在するのだ。
おそらくエドワードは旧支配者の人知を超えた秘密を探り出そうとしていたのだろう。だが
知識や力のかわりに彼が得たのは狂気だけだった。そして私は真の友を失ったのだ。