【ひりつかなきゃ】福本で801・4発目【駄目っ…!】
あれは7年前のことだった。
当時18歳だった一条を見初めたのは…。
幹部として、新入社員忠誠式に列席していた私の目に、
一条のその華麗すぎる姿は、実に鮮烈な衝撃をもって飛び込んできた。
…華奢で優雅な身のこなし、濡れ羽色の麗しい黒髪…
…そしてあの匂い立つように艶やかな比類なき美貌…!
一条は、その聡明な双眸の光と闊達な話術の閃きの指し示すとおり、
実務能力的にも、私の直属部下たるにふさわしい資質を兼ね備えていた。
私は、即座に一条を自分の直属の部下にすることに決めた。
もっとも、部下の公私混同を極端に嫌う会長の手前、
一条をすぐに目に立つ形で引き立てるのは憚られたから、
一条には、とりあえずは他の社員どもと同じ雑務をさせていた。
幹部個室の階の担当という、中途半端な優遇処置を除いては。
…しかし…この私の中途半端な一条への優遇がかえって仇となった…。
一条は…入社3ヶ月目のあの日、幹部個室の階のトイレで兵藤会長に乱暴されたのだ。
今思えば、両刀使いでとりわけ美少年には目の無いあの会長が、
一条ほどの麗人を目にしておいて、手をつけない筈が無かった。
(会長がまず入ってこない、平社員のトイレの担当にさせてやっておけば、
一条をあのような惨い目にあわせずにすんだかもしれぬ…。
…いや…しかし…あれほどの美貌だ…遅かれ早かれ
会長の慰み者になる運命は免れなかったかもしれぬな…。)
帝愛ホテルのスウィートルームで一人、オンザロック片手に、私は思いを巡らせていた。
コンコン…
ルームドアを控えめに叩く音がした。
「おお…一条か…入りなさい」
「失礼致します…!黒川様」
一条が優雅な手つきでドアを開き、頭を下げた。
「まあ、そこにかけたまえ…」
「ありがとうございます…」
礼儀正しく微笑みながら、一条が流れるようにソファに腰掛ける様を、私は黙って見ていた。
「黒崎様、本日は、王国の特A居住権を御獲得なさいましたこと、誠におめでとうございます」
「フフ…ありがとう…と言っておこう…」
「これで…黒崎様は実質的に帝愛のNO.2となられた…」
「フフ…もうその話はよせ…一条。…おまえはまだ若いから…ピンと来ぬやもしれぬが…。
こういう時こそ…人は謙虚な『ふり』をせねばならぬ…!最後まで登りつめ続けるためにはな…。
部下の倨傲…これは会長の最も嫌うところだ…それに今は、私にリードされた他の幹部たちも
心中穏やかならぬものがあろう…だから…こういう時こそ毛ほども自分の優越を晒してはならん…!
…それが仲間うち…一見味方と見える者ならばなおさらだ…!見せれば手痛いしっぺ返しを喰らう…。
聡明なおまえならわかるな?一条…」
「ええ…至りませんで申し訳ありませんでした。大変…勉強させていただきました」
一条は素直に応えた。
「ところで…一条…今日おまえに来てもらったのは…まったくの別用件を伝えるためだ…」
「…と申されますと…?」
「今宵よりおまえは会長から解放される…」
「え…?」
「会長がな…おまえをこの私に下賜されたのだ…」
「そ…それは…!」
ここはSS投下はアウツだった気がするが
つか自分のサイトでやりゃいいじゃん
「…実は会長は私に、王国入りの他にもう1つだけ望みの褒美を遣わすとおっしゃられてな…。
そこで…私は…無理を承知で…おまえを譲って頂きたいと頼み込んだのだ…。
会長も最近は御齢であちらのほうは大分難儀になっておられるようだから…
一か八かで頼み込んだところ…了承してくださったんだ…まあ、少々…骨を折ったがな」
「…し、しかし…そのようなこと、もし会長の逆鱗に触れたら…
黒崎さんとて只では済まなかった…!なぜ…そのような危険な申し出を…?」
一条は美しい瞳に驚愕の色を浮かべて、口走った。
(…美しいやつだな…まったく…)
「7年前から…欲しかったからさ、おまえが…!」
そういうと、私はグラスをテーブルに置いた。
「それに…おまえが耐えてきたこの長い7年の仕打ちの遠因は…私にもある…。」
そういうと、私は煙草に火をつけた。
「…そうでしたか…。そこまでの並々ならぬお心遣い…!本当に…ありがとうございます…!」
一条は、深々と頭を垂れた。絹糸のような黒髪がつやつやと細い肩をこぼれ落ちる。
「一条…これだけのリスクを犯して手に入れたおまえだ…。
おまえも察しはついているだろうが…いいな…?」
私は、一条を見据えて呟いた。
「…もちろんです…黒崎様…!私は…黒崎様のお傍にいたいが為に
7年間…耐えてきた者ですから…」
一条は控えめにニッコリと微笑を浮かべ、静かに頷いた。
一条のシャワーを浴びる音が止まった。
しばらくして、キッ… と静かにバスルームの扉が開き、
純白のガウンにほっそりした裸身を包んだ一条が、窓際のベッドで待つ私の元へ
滑るような足どりで近づいてきた。
「乾かさなかったのか…?髪…」
私は煙草を口からゆっくり離しながら、呟いた。
「ええ……お待たせしては申し訳ありませんから…」
肩まで届く漆黒の黒髪をタオルで軽く押さえながら、一条は伏目がちに答えた。
心持ち傾けたその玲瓏たる横顔に、ベッドライトのほの暗い灯りが
夜の秘密の陰影を重ねる。
私は無言でその細く滑らかな腕を掴むと、ベッドに引き倒した。
一条の濡れた艶やかな黒髪が、一すじ、形のよい額に張り付いている。
「フフ…おまえと…こうすることを7年間待ちわびたぞ…一条」
私は低く呟きながら、一条の額の黒髪を戯れに指に絡めた。
湯浴み後の一条の白い肌は、ほんのり上気して石鹸のかぐわしい香りがする。
「黒崎さん…私は……汚れてしまったでしょうか…」
いつもは見せない憂いを含んだ微笑を浮かべ、一条がぽつんと呟いた。
私は、一条の肩からゆっくりとガウンをずらしながら、答えた。
「汚れてなどいないさ…おまえは……美しい…」
するりと純白のガウンは滑り落ち、一条の大理石のような白い裸体があらわれる。
私は心中、驚嘆を隠せなかった。
ガウンの中、静かにうずくまる一条の均整のとれた華奢な肢体…
そしてその眩いばかりの美貌は、
ギリシャ神話の美青年アドニスもかくやと思わずにはいられない。
一条の細い背中に腕をまわすと、一条はそっと目を閉じ、その身を委ねた。
細く容のよいおとがいを持ち上げ、薔薇のような唇を吸うと、一条の
閉じたまぶたがかすかに震える。
唇を離すと私は言った。
「一条…おまえだけには言っておこう……いつか私が登りつめたとき…
その横にはおまえがいるだろう…」
「……ありがとうございます、黒崎様…貴方様についてゆきます」
そう静かに答える一条の澄み切った瞳の奥深く、
赤い燠火が燃え上がるのを私は見逃さなかった。
(この野心…この野心こそが一条の美しさを燃えあがらせているのかも知れんな…)
一条の肢体をゆっくり押し倒し、その艶やかな肌を愛撫する。
その敏感な部分に手をすべらせると一条の眉が愁わしげにひそめられる。
私はふと古代中国の傾国の美女西施のくだりを思い出した。
(なるほど…麗人の眉をひそめるさまは確かに得も言えぬ味があるものだ…)
蕾にそっと指を這わせると、一条は私の初めて耳にする甘い吐息を漏らした。
私は軽い嫉妬を…会長に覚えながら、一条のやわらかな蕾を責めた。
みるみるうちに一条の蕾は豊潤な蜜を湛えはじめる。
「フフ…一条…。今更だが…私は…嫉妬してしまいそうだよ…」
(…会長に…)
悩ましげにもだえる一条の妖艶さに魅せられ、
思わず言わでもいいことが口をついて出た。
「……心…までは…渡して…ません…か…ら…」
そう呟く一条の華奢で滑らかな脚に私はゆっくりと割って入った。
「フフ…おまえを見初めたその晩にこうして私の物にしておけば良かったかな…」
「むりですよ黒崎様…そしたら私は…今頃…この世に居ません…」
少しおかしそうに、一条がこたえた。
(…確かに…会長の前に既に男を知っていたら…あの会長のことだ…
激昂して一条を地下送りにしていたかもしれんな…)
そう思いながら、私は、一条の蕾に私のモノをあてがった。
「あぁッ…黒崎…様…!」
グッと腰を進めると、一条の唇から淫らな喘ぎ声が漏れ落ちる。
一条は熱く柔らかで、そして絶妙な感触で私を愉悦の境地へ導く。
「…ほぉ…!」
めくるめく快感の波に思わず私は呻いた。
(…なるほど…これは…!会長が7年間もお離しにならなかったわけだ…)
この歳まで生きてきて、上質の女たちを星の数ほど抱いてきたが、
一条ほどの肉体はしらぬ…。
淫らで妖艶で…その上精神の煌きすら兼ね備えたこんな見事な肉体は。
私は年甲斐もなく、一条のその妖しいまでの美しく淫らな体に溺れた。
とめどなく湧きあがる快感の誘いのままに、私は一条の奥深く、果てた。
一条は行為の後の身を静かにたゆたわせ、形容しがたい美しい微笑を湛えて
私の下で横たわっていた。
一条はやがて、起き上がり、そっと私のモノにその典雅な顔を近づけると
こぼれ落ちる黒髪を無造作にかきあげながら、私のモノをゆっくり咥えこんだ。
その限りなく淫らな行為とは裏腹に、一条の美貌は一層冴え冴えと澄みわたる。
「フフ…こんなことまで覚えさせられたのか…?一条…」
あまりの浮世離れした一条の美しさに、私は不意に
一条を軽くいたぶってみたい衝動にかられ、そう浴びせかけた。
一条は少し、動作をとめ、そして顔をあげ凛と言い放った。
冷たく蒼ざめた光を瞳に宿して。
「…そうです黒崎様……。フフ…いけませんか…?」
この一条の内奥にゆらめく冷たく蒼ざめた光こそ…
この7年間、唯一、一条の誇りを守ってきたのかもしれなかった。
「フフ…構わんよ…だからおまえは美しい…!」
…私は再び一条の上に折り重なり、この美しいけものを堪能した。
私の激しい愛撫に疲れ果て、隣で死んだように眠りこける一条の
凄いほどに透きとおった美貌を見遣りながら、
私の脳裏にはある予感が掠めていた。
(一条…おまえは…美し過ぎる……そして…透明過ぎる……
おそらく………遠くまでは翔べまい…そういう運命だ…)
半年後…私が地下シェルターを視察に行ったとき、あのカイジという男にであった。
一条の聡明さとは対極をなすところにあるその非凡な才。…あれはあれで面白い男だ。
それから数日後、一条と夜を過ごすため、Club luxury に一条を呼びつけた。
「ほおー…そんなことがあったのか…」
一条から、カジノでのカイジらの起こした事件の顛末をききながら
私は、半年前のあの夜に感じた例の予感が急に現実味を帯びてくるのを感じていた。
「ええ…。しかしどうぞご安心を…!」
「……」
「なんら問題なく…ねじ伏せました…!奴らは所詮事が自分の思う通りに運ぶ…
運ぶはずだと思いたい甘ったれ…!負けやしません…そんな輩に…!」
(一条の気位の高さが…よくない形で現れているな…)
わたしは直感的にコトの成り行きに妙な不安を感じ、警告を発した。
「…まあ…その坂崎とやらはともかく…穴から出てきた方…カイジくんは
そういう言葉でくくれるほど一筋縄じゃないぞ…!
ある意味じゃ…一条…カイジくんは君をはるかに凌駕する…!」
「は…?」
一条は唖然とした顔で聞き返した。
(こういう、素の状態の一条は…これまた…私からすれば逆に可愛いが…
しかし…生臭い勝負には…不向きだな…)
「せいぜい気を付けることだ…!足をすくわれぬよう…!」
その言葉に、一条は紅い唇を噛み締めた。
またとない美貌に一種の凄みのようなものさえ加わって、
その凄絶なまでの美しさは見惚れるばかりだ。
カイジが地下に戻る最終日が来た。
一条からカイジが沼に現れた話を聞いたときから、ずっと私の中には、
拭えぬ不安が澱んでいた。
(一条は…大丈夫だろうか…)
時計を見ると、9時15分前だった。私は電話に手を伸ばした。
「はい一条です…!」
いつもより少し昂ぶった声で、一条が電話口に出た。
「おお…すまんな朝っぱらから…」
「いえいえ」
「いやいや老婆心ながら…不意に気になってな…!今日なんだ…今日が最終日…!
あのカイジという男がこの地上にいられる最後の日…!何か変わったことはないか…?」
「はあ…変わったことというか…その…来てます…!」
私は、愕然とした。
「え…?来ている…?」
「ええ…」
「入れたのか…?」
「はい……」
(まずいことをっ…!おまえ…消えてしまうぞっ…!)
「馬鹿っ…!軽率だな…!」
私の叱咤に、電話の向こうの一条が一瞬返答に詰まっているのが感じ取れた。
「そうでしょうか…?」
一条が恐る恐るこたえた。
「あ…?」
「問題ありません…!入れはしましたが…問題はありません…!
奴は必ず負けます…!奴が選んだのは…あの『沼』…!不敗神話のあの『沼』ですから…!」
私は、抗えぬ運命の流れを感じ、受話器を耳から離した…。
(ああ…一条は…ここで終わる…!)
「愚か者っ…!あの『沼』こそ一番危険なのだ…やつがあの『沼』に異様に固執してたことを
知らないわけではあるまい…!その固執の果て奴があの台を打つ…ということはつまり…
勝算があるのだっ…!おそらく…5割強っ…!」
「バカなっ…!ありえませんっ…!そんなことは…!」
(…運命のサイは投げられた…もはや後戻りは…不能っ…!)
私は一条の運命を思い、拳を強く握り締めた。
「……まあ…いい…。ともかくこうなった以上…勝つしかない…!」
「もちろんです…!」
「現在貯まっている6億なんぼという貯玉は大金っ…!とても負けました…
と言って済まされる額ではない…!つまり…万が一負けた場合は一条…
過酷かつ破滅的な処遇をおまえに科すしかない…!いいなっ…!」
(ああ…以前も同じことを言った…)
「…かまいません…!」
「そうか…!その覚悟があればいいんだ…!」
(繰り返されるのか…また…!)
「黒崎様…どうぞ安心してください、なんら心配することなど…」
私は、一条の声を遮り、万感の想いを込めて、最後の言葉を一条に贈った。
「一条…勝てよ…!生きる為に…!」
受話器を降ろし…私は…束の間私の腕の中を飛翔した一条のその面影に…別れを告げた。