男って痴漢にあったら、正直嬉しいんじゃねえのか?3

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563風と木の名無しさん
七時三十六分、四両目の後ろのドア。
階段を降りたすぐ目の前に位置するそこから電車に乗りこむのは、平日の日課だった。
しかしここ数日、わざわざ歩いて一番前の車両に乗ることにしているのは、不躾に
自分の体に触れてくる輩が現れたからだ。
最初は気のせいだと思っていた。垂らしている手が偶然に自分に当たっているだけだと。
しかし二日三日と経って、その手の動きは段々明確になっていった。
電車の揺れに従って押し付けられていたそれはそのうち意思を持って脇腹を撫で、脚の
付け根をなぞりだし、とうとうその日。
初めて振り向いて顔を睨みつけた日、その不躾な男に、ファスナーの中に手を突っ込まれると
いう暴挙を許してしまったのだ。
元々手の感触で判っていたとはいえ、痴漢が男だと確認した時は少々眩暈を覚えた。
電車の揺れで男に寄りかかってしまい、それがとんでもない屈辱に思えてすぐに
顔を背けてしまったから目までは見なかったが、口元に笑みを浮かべていたのが悪い意味で
印象的だった。

今思えば、あの時の自分は女の代わりだったのだと思う。
何故かというと、すぐ後ろに女性専用車両が位置していて、四両目は殆ど女性は乗って
いなかったからだ。
それなら男が女性のたくさんいる車両に移れば良いと思うのだが、何故かいるのだから
仕方が無い。
諦めて自分から車両を移ったのは賢明な判断だったといえるだろう。
おかげでまたいつも通りの、人に揉まれて電車に揺られるという平和な日々が
戻ってきたのだから。
ホームを歩くのは少々面倒だが、背に腹は変えられない。
そして今日もいつもと同じ七時三十六分の、しかし乗りなれていない一両目に乗り込んだ。