hey!〜祭りのあとも萌え〜弐

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939玉ニラ
「えっと、俺はミルク金時で・・・・たま殿は?」
「私は宇治金時を」
今時珍しい、少し寂れた風情のある氷屋の店先。
無愛想な店主が無言で差し出す氷を受け取って、軒下に設えられたベンチへと座る。

秋分を過ぎ空が秋の様相を見せてきたとはいっても、日差しはまだ強いままで。
夏と変わらぬ陽光がアスファルトに黒々とした影を焼き付けていた。

柔らかく削られた氷はすくうたびにしゃりしゃりと涼やかな音を立てる。
崩さないように、と真剣に氷へ向き合うニラレバの様子が七色玉葱の微笑みを誘った。
「たま殿?」
「え?」
「食べないんですか?」
そう言われて初めて、七色玉葱は自分の手が止まっていたことに気づく。
ほとんど手を着けられないままの氷はゆっくりと溶けだしていた。
「もしかして、氷嫌いでした?」
「いや、そんなことはないから、大丈夫」
不安そうに表情を曇らせるニラレバを安心させるように笑って、七色玉葱は溶けかけた氷を口に運んだ。

ちりん。
硝子の風鈴が僅かな風に澄んだ音を立てる。
未だ五月蠅いくらいに鳴き続ける蝉の声とは対照的に、その風は秋の気配を含んでいて。
季節の変わり目を妙に意識させた。
「もう、夏も終わりですね」
「ああ・・・」
風鈴を見上げて呟くニラレバにつられるように、七色玉葱も視線をあげる。
仰ぎ見た先では、風鈴に描かれた金魚がまるで空を泳ぐかのように揺れていた。


ゆっくりと、夏が終わってゆく───・・・