うたを わすれた かなりやは
うしろの やまに すてましょうか・・・
六月二十二日、その日は嵐が合戦場を襲っていた。
「すっげえ風だなー!このスレぼろいから、すっ飛ばされそうだぜー!」
三戦学園内にある物置(通称うんこスレ)。
このうんこスレの窓から外を見ているのは、うんこスレの実質的な主、うんこ孫策。
棒読みと、変な喋り方が特徴的な奴である。
「孫策、窓開けんなYO!本当にすっ飛ばされたらどうすんだYO!」
窓に張り付く孫策を一喝する、無名武将@お腹ゆるゆる。
予選終了時に切腹して果てたとも言われていたのだが、
つまったトイレよろしく、ある日突然うんこスレに帰って来ていたのだった。
「そういや、うんこタンクはどこ行ったんだ?昨夜から見かけないぞ」
咥えタバコに無精髭のゆるゆるは、かったるそうに孫策に話し掛ける。
「あいつなら、生徒会の連中と一緒に合戦場に行ったぜー!
なんか、AA作る道具持ってたなー!」
孫策は窓から離れ、うんこスレに転がっているテレビのスイッチを入れた。
テレビは誰かがここに捨てていったものらしく、最初の内は何も映らなかったのだが
ダウソが合戦の実況中継を開始する際に孫策が修理し、ようやく見られる状態にまでしたシロモノだった。
「う〜ん、映りが悪いぜー!内アンテナだからかなー?」
「ンな訳ねーだろ、こんなもんは叩けば直るんだYO!」
ガチャガチャとチャンネルを回す孫策を押しのけ、ゆるゆるはテレビの横っ面を乱暴に叩いた。
ザザーッと一瞬砂嵐になったテレビは、さらに映りが悪くなるように縦に流れ
それからしばらくして、正常な画面に近くなって安定した。
「やったー!映ったぜー!さすがゆるゆる大兄だぜー!」
ゆるゆると孫策はテレビから流れてくる映像に注目した。
そこに映し出された映像は、学園に吹き荒れる風の何倍もの威力をもつ大嵐。
広い投票所を席巻する嵐の中心部で、陣を構える厨房学園と
本陣が飛ばされないように耐えている三戦学園の姿だった。
「な、なんだこれはYO!投票所、めちゃくちゃ荒れてんじゃんかYO!」
「タンクは?うんこタンクは無事なのかー!?」
思わずテレビに駆け寄り、不安そうな顔をする二人。
生徒会も心配だったが、やはり同胞のうんこタンクの事が気がかりだったようだ。。
ごうごうと吹き荒ぶ風と、激しく轟く稲光。
あまりの凄まじさに応援用の垂れ幕も、次から次へと飛んでいく有り様である。
そんな中、ダウソの実況が始まった。
『えー、こちらは投票所です。
ただいま、もの凄い雷雨の為に、正確な情報のお届けが困難となっております。
我々と致しましても、情報がお届けできない事態は予測していなかったので、
このまま映像のみでお送りしたいと思います。どうか、皆さんご了承ください』
テレビの向こうの実況班は、今にも吹き飛ばされそうな格好で必死にカメラを回し
投票所こと合戦場を映し出している。本当の命懸けとは、こういう事を指すのかもしれなかった。
そしてカメラが三戦本陣に焦点を合わせた時、三人の人影が本陣から飛び出していった。
「ゆるゆる大兄!今の見たか? 抜刀隊だぜー!!」
「へー、これが抜刀隊ってやつかー・・・ん?」
「大兄、どうしたー?」
「おい孫策、抜刀隊の先頭の奴・・・なんか見覚えねえか?」
そう言っている間にも、抜刀隊は華麗に『悪・即・斬』を決め、投票所を沸かせていく。
そして先頭の、『悪』と大きく書かれた半被を着た人物が身を翻した瞬間、二人は驚いた。
「「うんこタンク!!!」」
間違うはずもない、たった今、走り抜けていったのはあまりにも見慣れた顔の奴だ。
毎日話をし、共にいたずらをして遊んでいた、あの三戦うんこ@うんこタンクである。
「うんこタンク・・・。すげえや!一番うんこだぜー!」
孫策は我が事の様に喜び、ガッツポーズをした。うんこの快挙を祝って。
今まで日陰者と言われ、人目につかないように活動をしてきたうんこが
ここに来て、やっと活躍の場を得たのである。
孫策の感じた喜びは、計り知れない程のものであった。
「大兄・・・、俺凄い嬉しいぜー・・・
うんこでも、こんなに格好よく活躍できるなんてなー・・・」
「孫策、俺も同じ事思ったYO・・・
タンクは・・・、うんこのイメージを変えてくれたな・・・」
ゆるゆると孫策、二人は映像のみが放送されているテレビを見つめ続けた。
本陣の慌て振り、手早く作成される抜刀隊のAA、反撃に向けての企画、
三戦本陣から次々と飛び出してくる「三戦学園抜刀隊」の勇姿・・・
その一つ一つが、二人の心に大きな衝撃となって打ち込まれていった。
「・・・孫策・・・、あいつ・・・うんこタンクは、俺らとは違う道を見つけたようだな・・・」
ゆるゆるは咥えタバコの火を消し、頬杖をついた姿勢でつぶやき始めた。
「孫策YOー・・・、こんな歌知ってるかー?」
うたを わすれた かなりやは
うしろの やまに すてましょうか
いえいえ それは なりませぬ
うたを わすれた かなりやは
せどの こやぶに いけましょか
いえいえ それも なりませぬ
うたを わすれた かなりやは
やなぎのむちで ぶちましょか
いえいえ それも かはいさう
「ゆるゆる大兄、その歌なんだー?」
横目でテレビを見つつ、孫策はゆるゆるに問い掛ける。
「この歌はなー、むかーし流行った歌だYOー。
なーんとなく俺らの境遇と似てないかー?
叩かれまくってた俺らとさー・・・」
「・・・うたを わすれた かなりや・・・かー、
似てるぜー、俺達うんことそっくりだぜー」
二人はしばらくぼんやりと感慨にふけっていた。
互いの心の内ではおそらく、様々な思いが駆け巡っていたのであろう。
その中には、生徒会に対する妬みもあったかも知れなかった。
「・・・俺達、今の三戦に必要とされてんのかー・・・?」
「さあな・・・、それすらも分からんYOー・・・」
そうこうしている内に、テレビ中継が三戦の反撃を伝え始めた。
続々と到着する援軍と、士気高まる本陣、次第に弱まってくる雷雲。
テレビは黙々と伝え続けた。
甲冑を身に付け、自分の出陣を待っている三戦学園生徒の姿と
うんこタンクが孫策達の到着を信じ待っている姿を。
その時、乱雑に積まれたガラクタが崩れ、奥の方からある物が顔を覗かせた。
それは、うんこ用に改造された二揃いの武具。
うんこタンクが合戦前に作っておいた手作りのものだった。
『きっと誰かが使うだろう』
そう願って、うんこスレに放り込んでおいた真新しい武具――
ゆるゆるは武具を手に取り、勢いよくうんこスレの戸を開け放つと、こう叫んだ。
「行くZO!孫策!!」
・・・うたを わすれた かなりやは
ざうげのふねに ぎんのかい
月よの うみに うかべれば
わすれたうたを おもひだす・・・
―終わり―
懲りずにまた書きますた。
今時「かなりやのうた」を知ってる人は、いないだろうな〜(w