【hey!】トーナメントで萌えpart31【三戦!】
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SS、置き逃げさせていただきます。4レス予定。
4月から開始された祭は、6月を終わろうかという頃になってもまだ続いていた。7月半ばまで繰り返されるその祭の中で、さまざまな出会いと別れ、悲喜こもごものドラマが生まれては消えていく。
彼らもまた、そんな渦の中で踏みとどまっていた。
「遅い」
校門にもたれていた三戦は全速力で走ってきた友人に向かって、あえて渋い顔をして見せた。遅れてきた方はというと「わりぃわりぃ」と言いながら、まったく悪びれる様子はない。
「何やってたんだよ」
「いやー、昨日提出のレポート書いてなくてさ、待ち伏せしてるセンセをかわしてきたら、えらく遠回りになったんだ」
あまりに少年漫画らしい理由に三戦はわざとらしくため息をついてみせる。
「なんだよ。お前だって今日提出してたじゃんか」
「俺は前日にはちゃんと完成させてたんだっ。……提出日に持ってくるのを忘れただけで」
そこで提出が遅れた理由を語ってしまうところが三戦らしくて、少年漫画は思わずブッと吹き出した。
「お前ってさー、下準備とかすっげ真面目にやるのに、やることボケてるんだよなー」
「うるさいな、いっつもギリギリになって慌てふためいてる奴に言われたくない」
「なんだと?」
「やるか?」
三戦と少年漫画は真剣な面持ちでじっと睨みあう。互いに相手に対して効果的な攻撃になる出来事を必死で思い出そうとしていた。
4月になってからの短い期間で、けれど、共有してきた時間はその長さ以上に濃密で。
十秒ほど見合った果ての結論は。
「……やめよう、なんか不毛な争いになりそうな気がする」
「だな。さっさとラーメン食いに行こうぜ、みんな店で待ってるし」
少年漫画はそう言いながら、三戦の右側に立つと彼と同じように校門にもたれかかると、ゆっくりと青から橙へとその色を移しつつある空を見上げる。
「なんかさー、お前と知り合ってからそんなにたってないはずなのに、結構いろんなこと思い出したんだよな、さっき」
少年漫画の言葉は三戦が今考えていることとまったく同じで、彼は隣にいる友人と同じように空を見上げながら「そうだな」とうなずいた。
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2/4:02/06/29 06:22 ID:l/G0M0nL
きっかけはささいな事だった。
その頃はこの祭にこんなに関わることなど思いもせず、ただ、互いにがむしゃらに動き回っていた。
今だってそれはたいして変わってはいないけれど、祭が進むたびに彼らにかかる重みは増していく。
戦いという名の祭を勝ち抜くために交わした約束は、いつしか形を超えて彼らの絆になった。それは彼ら二人だけではない、他の様々な人たちを巻き込みながら一つの大きな流れとなってきた。
それが自分たちを支えてくれてきたことを、彼らはよく知っている。
彼らに関わってきたたくさんの人たち。ある時は敵で、ある時は味方で、それでもこの祭を一緒に楽しんできた。「勝負」と名が付く以上、勝った者は負けた者の思いを背負って前を進んでいかなければならない。
それは時にはプレッシャーという形をとることもあるけれど。
泣き、笑い、怒り、悲しみ、喜び。そして、また笑って、泣いて。
祭はいつしか、様々な人たちの交流の場になった。
その真ん中の位置近くに彼ら二人は立っている。
もう、逃げることはできない。ひくこともできない。
「毎回、もうダメだーって思ってさ。けど、やっぱり、勝ちたいって、俺らだけじゃなくって、他の皆のためにも勝ちたいって思うんだよな」
「うん。慌てて、パニックになってる俺らを叱咤激励してくれる人たちへの恩返しってそれしかないからな」
叱咤激励、という言い回しがいかにも三戦らしいと感じて少年漫画が思わず口元に笑みを浮かべた。
「……なんだよ、気持ち悪い」
「るせーな、気にすんな」
心底気味悪そうに少年漫画を見た友人の視線から逃げるように、ぶっきらぼうに答えてぷいっと横を向く。
「……なあ」
三戦は視線を再び空へと戻しながら、隣にいる少年漫画に声をかけた。
「ん?」
「俺ら、祭が終わっても友達だよな」
ためらいがちな一言が、涼しくなってきた風に乗って少年漫画の元へとたどり着く。
驚いて少年漫画が三戦を見ると、彼はさすがに照れくさいのか、空の一点を睨みつけている
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3/4:02/06/29 06:26 ID:l/G0M0nL
「……だーっ、なんでそういうクサイ台詞を真顔で言えるんだよ、お前はっ!」
「なっ、俺はっ」
「……決まってんだろーが、ボケ」
こう言われると、言った方だけではなく言われた方もかなり気恥ずかしいらしい。少年漫画がぷいっと再び横を向いたように、三戦もまた空を睨みつける。
お互い、嬉しさと恥ずかしさをその表情に滲ませながら。
「見つけたーーっ!」
聞き慣れた声に、少年漫画と三戦はどきっとして声がした方向に顔を向けた。一人の少女が二人に向かって駆けてくる。
「何やってんのよ、あっちで先生呼んでたわよ」
「ば、ばかっ、でかい声で呼んでんじゃねーよ」
幼馴染の言葉に、少女がきっと鋭い視線を少年漫画に向けた。
「バカっ?誰がバカよっ」
「少女漫画に決まってんだろーがっ」
「ま、まあまあ。で、先生が少年漫画に何の用だって?」
二人のじゃれ合いを放っておくと用件がどこかへ追いやられてしまう。三戦は仕方ないので二人の会話を遮る。
「うん、音楽室の忘れ物取りに来いって」
「あ、やべっ」
思い当たることがあるらしく、少年漫画は「すぐ戻ってくるから、待ってろよ」と言い残して校舎へと全速力で走っていく。
「まーったく、バカなんだから」少女漫画は幼馴染の背中にそうつぶやくと、三戦の方を見た。「ごめんね、三戦くんに迷惑かけっぱなしでしょ、あいつ」
「いや、そんなことないよ。いつも苦しいとき、助けてもらってるからさ」
本人がいないということもあって、三戦は素直に自分の心境を口にした。すると、少女漫画はくすり、と笑った。
「少年漫画もね、同じこと言ってたよ。俺が一番苦しい時に助けてくれたんだって」
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4/4:02/06/29 06:36 ID:l/G0M0nL
「……」
「いいよねえ、男の子同士の友情って感じで。あたしも男に生まれてきたらよかったかな。あたし、何もできないから」
「そんなことないよ」
「あはは、ありがと。……頑張ってね、応援してるから。少年漫画も、三戦くんのことも。たいしたことはできないけど」
「うん、ありがとう。俺が勝ってこられたのも、あ……、皆が支えてくれたからなんだけどさ」
「……うん、だから余計にうらやましいんだけどね、実は」
三戦が言いかけて飲み込んだ言葉を、少女漫画は理解していた。戦う彼の背中を後ろから支えている人の存在を。もちろん、その人だけではない。同じような思いでたくさんの人々が彼らを支えている。
「これからもよろしくね、ああ見えても結構いざって時には頼りになる……かもしれないし、バカだけど」
少年漫画の前では絶対に言わない言葉だろう、と三戦は思う。そういう意地っ張りなところは、さすがに幼馴染でよく似ている。自分も同じ穴のムジナであることに思い当たらないところが、彼の彼たる所以だったりするのだが。
「二人とも走れーーっ!」
バカでかい怒鳴り声に、二人は校舎の方を見た。
いたずら小僧そのものの顔をして、少年漫画が全速力で駆けてくる。
よく見ると、その後ろを追いかけてくる背広姿の男。
「また何かやらかしたのかな、まったくもう」
「……見つかったんだな」
二人は顔を見合わせると、肩をすくめた。
「そんなとこでマターリしてんじゃねえよっ!走れーーっ」
切羽詰ってるんだか嬉しいんだか判断の付かない表情の少年漫画が二人に迫ってくる。
「仕方ないなあ」
「何やってんだよ、少女漫画っ」
「え、あ、あたしもーっ?」
三人は鞄片手に、勢いよく学校の外へと飛び出した。
祭はいつかは終わる。どれだけ嫌だと駄々をこねても、時は立ち止まってはくれないけれど。
彼らの祭は、まだ終わらない。
真ん中に立って、二人で戦うその日まで。
……ご、ごめんなさい、姐さん方。無駄に長かったです…。