【hey!】トーナメントで萌えpart27【三戦!】

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 飯抜けは左右を見、次いで天を仰いだ。どこにも逃げ場はない。
いみじくも地雷魚が告げたように、周囲に人影もない。生徒会室に、
このわけのわからない男とふたりきりだ。
 観念して正面に視線を戻すと、地雷顔の顔が思いがけないほど間
近に迫っていた。
「じ、地雷……」
 息を飲んだ刹那、さっと視界がクリアになった。
 なにが起きたかわからず、きょとんとしていると、声がかかった。
「助かりたければ、動かない方がいいですよ」
 声の主は、テンプレ屋だった。なかば開いた扉にもたれるように
立つその姿からは、今の事態をどう考えているのか想像もつかない。
「あの、いえ、その、つまり……?」
「前に出ると落ちます」
 テンプレ屋の視線を追って、ようやく飯抜けは理解した。床に、
黒黒とした穴があいているのだ。
「落とし穴……」
「希に乱心する者が出るので、こういう仕掛けが必要なんです」
 地の底から、たしかに地雷魚のうめく声が聞こえる。
「地雷魚殿、大丈夫ですか!」
「いてぇ〜」
9862/3:02/06/17 20:53 ID:b+ElXq1m
 落とし穴は、それほど深いというわけでもなさそうだった。だが、
自力での脱出は難しいだろう。穴からさしこむ光で確認した範囲で
は、怪我はなさそうだ。
 怒っているというより、地雷魚にも、なにが起きたのかわかって
いないらしい。
「おいたが過ぎるからですよ」
 穴の縁に膝をついて覗きこむテンプレ屋を見上げ、地雷魚は眼を
しばたたいた。そうして、ようやく理解に至ったらしい。
「テンにぃ! テンにぃいなくなったと思ったのに」
「生徒会室には八台の隠しカメラとマイクが仕掛けてあり、常時監
視中です。このあいだ、貴君が踊ったのもちゃんと録画済みですよ」
「げぇっ!」
「マジですか、先輩」
「嘘に決まってるでしょう。自分がそんな暇人に見えますか」
 しれっと答えたテンプレ屋に、飯抜けは疑いの眼差しを向けた。
この人ならやりかねない。だが、副会長は後輩の視線など意に介さ
ず、地下に捕えた獲物の処理を考えているようだった。
「さて、どうしましょうかね」
「副会長、俺のことなら気にしないでください、あれくらい、べつ
に――」
 言いかけて、後悔した。べつに、どうだというのだ。
9873/3:02/06/17 20:54 ID:b+ElXq1m
 しかし、テンプレ屋の存念はまた違うところにあった。
「べつに君を助けるために来たわけじゃありません」
 彼は吐息をひとつつくと、地下に向かって呼びかけた。
「生徒会室で不品行があれば、生徒会全体の問題になりますから、
それを阻止しに来ただけです。地雷魚殿には、しばらくそこで反省
してもらいましょう。イチャイチャするのも、TPOをわきまえて。
それがわかるまで、おとなしくしていてください」
 視線を上げて、今度は飯抜けに釘を刺す。
「君も、いたずらを誘うような言動は慎むように。いいね」
「は、はい……でも、たとえばどんな?」
 まじめに質問した飯抜けに、テンプレ屋はすこし考えるように首
をかしげ、それから微笑した。
「な、なんですか?」
「天然抜けには無理か」
 口がぽかんと開いてしまったので、あわてて閉めた。それから、
踵を返して生徒会室を出て行こうとするテンプレ屋の後を追った。
「待ってください、わかりません!」
 騒々しい足音が廊下に消えて行ったあとには、穴の底の地雷魚だ
けが残された。
「……今の質問の答なら教えてあげるから、飯チャマ出して〜」

          ―勝手に了―