「ヒマだねぇ…」
とある日の放課後、『2ちゃん学園』の裏クラブ棟の薄暗い一室で、一人の女がつぶやいた。
着崩した制服姿で気だるげに机にもたれながら、慣れた手つきで煙草に火をつける。
彼女の名は『801板』。
世間の評判が必ずしもいいわけではない『2ちゃん学園』においてさえ、後ろ指さされる存在である彼女は、日の射さない隔離棟でヒッソリと自らの萌え心を満たすことで日々を送っていた。
深々と吸い込んだ煙を、ふーーーっと吐き出したあと、
「どこかに萌えるオトコはいないかねぇ…」
女はポソリとつぶやいた。
ここしばらく、彼女は少し退屈していた。
学園の内外に萌えの要素はたくさんあるけれども、なにかもっと、自分の心を燃え立たせてくれるような、そんな存在がないものかと漠然と考えていた。
昔はこんなじゃなかった。
探すまでも無く萌えるオトコは後から後から現れたし、彼らのために心をこめた贈り物を作るのに、2〜3晩の徹夜も苦にならなかった。
しかし今は、なにを見ても「萌え〜」よりも「マターリ」と思うようになってしまった。
「あたしももう年かねぇ…」
しかしその一言で済ますのは、あまりに寂しかった。
以前のように、寝食を忘れるほどに自分を萌えさせてくれる熱いオトコは、もう現れないのだろうか…。
小さくため息をついて、煙草をもみ消したときだった。
部屋の外で人の気配がすると同時に、よく通る澄んだ声が響き渡った。
「hey!801板のお姉さん!お願いがあります!」
ドアのところに、大きな目も愛くるしい真っ赤な頬をした一人の少年が、緊張の面持ちで立っていた。