玄関先で追い帰せなかった自分の弱さが恨めしい。指先が肩に触れた途端に体に火がつき、
脆い決意はあっさり崩れた。
そんな体に変えた男に黙って身を預けながら、心の中で泣き喚いた。
―――よく顔が出せたものだ。一昨日の晩どんなに心配したか知りもしないで。
何も言ってないから知らなくて当たり前だと思う一方で、待っているのが判っていながら
あえて無視したに違いないと僻んでしまう。だからといって、今から問い質す勇気はない。
夜通し心配したのは自分の勝手。頼んだ覚えもないのに「徹夜で待った」と文句を言われ
ても困るだろう。約束もない以上、連絡をする義理はない。
そもそも待っている(かもしれない)人間に迷惑をかけたくなかったり心配させたくない
と思うから連絡するのであって、どうなろうと知ったことではない相手なら、無連絡でも
大して気も咎めないだろう。………要するに、彼にとって自分はその程度の男なのだ。
やるだけやって、彼は電車のある時間に帰った。
連休中のように泊まらなかったのは、次の日も学校があるからだろうか。もしかしたら、
連休最後の晩に来なかったのも同じ理由かもしれない。
―――テレビを見るまで連休が終わったのに気付かなかった自分とは大違いだ。
いかにのぼせているか、対して彼が冷めているかが良く判る。
自嘲に歪んだ唇から嗚咽が洩れるのに、大して時間はかからなかった。
“好きになった人に、同じように好きになってもらえる”。
そんな甘い夢を見ていたわけじゃない。けれども、ここまで何とも思われていないと辛い。
辛くて、胸が痛くて、泣いても泣いても涙が止まらない。
独りよがりな上昇と下降の連続に疲弊しきっていた心は、この夜ついに粉々に砕け散って
しまった。
破片が飛び散った後に残っていたのは、それでも彼が好きだという気持ち。
マルオタン…ガンバレ…( ´Д⊂