夢の話(告白)1/3

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1sc
今から6年前
一通のメールが届く。
”お譲りします” 確かそんな題名のメールだった。
俺のメールアドレスを知る人は少なかった。片手で十分に足りる程度だった。
変えたばかりのプロバイダ。その俺の元にメールが届いた。
本文にはURLしか書いていなかった。
2chができるずっと前の話。あめぞうにひろゆきが現れる前の話。
あの頃はBOもHacktakもSSも無かった。まだ少し平和な時代。
ネットではアリスリデル程度のいたずら好きが大きな顔をしていられた時代だった。

地下、地下、地下、地下、検索をかけるのはそういう場所へ行くためだった。
最初に出合ったHPは非合法野郎の集いというウェブページだった。
そこからのリンクを辿り深く深く地下へ潜っていくことになる。
少しの英語しかわからない俺にとっては面倒な作業であったにもかかわらず、翻訳ソフトの
力もあり、さらに深く地下へ潜っていくことができた。
アンダーグラウンドという言葉すら、ネットでは一般的でなかった時代だった。
ウィルス・ハッキング・ドラッグ・売春・犯罪の請負等、ネットでの取締りが無かったあの頃、
利用者の絶対数が今ほどではなかったあの頃、そういうものの情報はいともたやすく手に入れられた。
Virii/Hacker/Crucker/Kruker/そういうのが大好きな変人たちとの付き合いは深くなる一方だった。
ドイツから送り込まれたトロイ。デスクトップからリカバリーしても消せなくなった回転するドクロ。
相手を見つけ出し、離れた場所から相手のマシンをクラッシュさせる。
そういう遊びにひきこまれていった暇だったあの頃にそのメールは届いた。
リンク先を辿る。
画面に写ったのはマカレフの写真だった。
あらゆる角度からの撮影で、制作者は本物であることを証明しようとしていた。
少なからずネットワークの知識があった俺にも、俺以上に詳しいサイバージャンキーの
友人たちもそのウェブページを立ち上げたのが誰なのか、特定することができなかった。
当時珍しかったcgi連動による匿名メールサーバー。メールからも一切の情報は
引き出すことはできなかった。
不思議な話ではなく、こちらの技術が負けていた。それだけのことだ。
とにかく、一切の情報を引き出すことができなかった。
2sc(2/3):02/06/01 07:01
持っていても使い道の無い拳銃が欲しかったわけじゃない。
ネットの暗部を知り尽くしたかった。
そういう魔法にかかってしまっていた。
コンタクトを取ることに決めた。
ネット上の友人たちには止めるものもいれば、煽るものもおり、
自らが人柱になろうとするものもいた。
結局自分で連絡をとることに決めたのは、ネットでの友人が信用できなかったからだ。
人柱になると言った友人は、
「身を守るために持っていても・・・。」そう言った。
チャンスがあれば、人を撃つ。そういう世界の住人だった。

連絡先は当然のように転送メールアドレスだった。仲間と辿ることにする。
今よりセキュリティの甘かった転送メールを提供するサーバーのハッキング。
想像どおりその先は海外経由の転送メールだった。その先も同じ。その先も
同じ。ネットの中で世界一周をさせられるのではないかと思った頃、ウェブメールに
いきついた。お手上げだった。
”詳細を教えて欲しい”
それだけをメールで送った。こちらもCGIプログラム連動の匿名サーバーを立ち上げた。
ここからが相手がどのようにやったのかが未だに判らないのだけれど、
”こちらから連絡します”
と云うメールを受け取った後、2日を置いて自宅の電話が鳴りひびく。
震えた。ヤクザなんかは怖くなかった。
当時のセキュリティと自分たちのネットワーク技術をはかりにかければ、
ヤクザのデータを警察から引き出し、全ての構成員の口座の凍結程度のことは
たやすくできることだったからだ。
今もできるかどうかは知らない。
怖かったのは、自分が完全に見られていると言う事実だった。
嵌められたのかと友人たちを疑ったりもしたが、友人たちにしてみても俺と同じように
恐怖を感じたようで、2人を除いてこのミッションからは降りるという連絡をよこしてきた。
当然降りた連中のデータは抜かせてもらった上で、確認は取っている。
彼らは何も知らなかった。
「こりゃ逃げるのは無理だな・・・」
そこで腹を決めた。
マカレフなる拳銃を手に入れることにしたのだ。
他のサイト(騙り有)で調べてみたところ、他のサイトに比べて
匿名者(彼はこう名乗っていた)の提示した金額は安すぎた。
本体15万・弾(マガジンひとつだけ)5万
一度電話で話してからは、メールでのやり取りとなった。
要約する。
”どこに住んでいますか?”
”○○です。”
”遠いですが東京まで出られますか?”
”OKです。”
”東京山手線○○駅に来てください。携帯電話を持っていますか?”
嘘をつく意味は無いと思われたので正直に答えた。
”はい。”
”番号を教えてもらっていいですか?”
”○○○ー○×○△ー○××○です。”
”はい。わかりました。携帯電話必要でしょうか?つけましょうか?”
飛ばし携帯のことを言っているのはわかったが、断った。
”いえ。結構です”
”・・・判りました。では○○駅に着いたら電話を下さい。”
”えっ?今からですか?”
”いつならいけますか?”
”来週の○曜日なら”
”では来週の○曜日、○○駅に着いたら電話を下さい。”
”判りました。”
3sc(3/3):02/06/01 07:23
約束の場所につく
電話をかけて欲しいと言われていたが、恐怖で俺は凍っていた。
警察だったらどうしよう・・・。囮捜査だったらどしよう・・・。
拳銃が手に入るかもしれないこともそうだった。
人殺しの道具を手に持ってしまう・・・。

駅のホームには時間もあって2〜30人しかいなかった。
捜す。前から来る高校生までが匿名者に見える。情けない話だが、倒れそうな
気分だった。その場で失神しそうなほどに俺は緊張していた。
一緒に来るはずだった友人も待ち合わせ場所には現れなかった。ネットの友人関係なんて
そんなものだ。
ここでふと思った。
ネットでの友人たちが警察に連絡をしていたとしたらどうしよう・・・。その不安は一瞬で
消えた。理由は書かない。
そんなこんなでホームの上をウロウロしていると携帯が鳴った。心臓が止まるかと思った。
○○駅へ行ってください。
予想通りの展開だった。本当のことであれば当然だろう。あそこまで身元を隠す匿名者が、
たやすく渡すわけも無い。
結局3つの駅を移動させられ、ホームにある公衆電話の裏に現金入りの封筒を置くように指示された。
商品は別の場所にあると言う。
拳銃が手に入るかどうかよりも、早くその場所から立ち去りたかった。
できれば詐欺であって欲しいと、心から思っていた。
しかし、それから30分後、僕のかばんの中には想像以上にずしりと重いマカレフが入っていた。
倒れそうになりながらトイレへ向かった。
個室に入る。
茶色の油紙にくるまれたそれを開けた。
がさがさ言う紙の音。今も耳から離れない。
真っ黒のオートマチック拳銃。マガジンが一緒に入っていた。
指紋がつかないように気を配りながらそれを眺めていた。マガジンを入れることも、
グリップを握ってみることもできなかった。
スーパーで軍手を買い、そのまま別のスーパーでガムテープと、小さ目のダンボールと、マジックを買った。
カメラのなさそうなのが店を選ぶ唯一の条件だった。
マカレフをダンボールに入れ、新聞を詰め、ガムテープでぐるぐる巻きにし、警察へ送った。
事の次第はこれで終わりだ。
当たり前のことだが、デジカメで写真はとった。が、ここにアップロードはしない。
夢の話なのでアップロードなんてできるわけも無いか・・・。
と、僕の与太話に付き合ってくれた方。どうもありがとうございました。