するとそれまで横でヘラヘラしていたベースが顔色を変えて「それをやったら俺が降りる」といい出す
「この人上手いけど、この人くらいの腕のギタリストこの辺に居るアマチュアに全く居ない訳じゃないでしょう?この人にこれ以上こだわる事ないよ」
「いないと思う」とボーカル。「あんた、高校でギター始めたんだろ?三年半くらいでそこまでうまくなれたやつは
俺は他にいないと思う」
ボーカルとベースが去ったあと、幼なじみとギタリストは偶然道で出くわす。
ギターボーカルだった幼なじみはドラムスに転向し、たった今、バンド仲間を見つけた所だと言う
とうとう幼なじみの歌う横でギターを弾くというギタリストの望みは潰えた
でも、幼なじみは楽しそうだった。ライブハウスに出るときは連絡くれよ。必ず行くわ。そう約束した。
ボーカルは結局高校卒業まで、軽音楽部の仲間とバンドを組んでいたが
ベース以外のメンバーはボーカルとの実力の差に段々活動に消極的になり
卒業式後の記念ライブin音楽室が終わったら、音楽活動は辞めることにするとボーカルに話していた。
なんか、何もかもが上手くいかないもんだな。
ボーカルはもやもやを一旦忘れて楽しんで演奏することに集中する
音楽室はかなりの数の在校生ですし詰め状態に。ライブは暖かい空気の流れる良い感触のまま、アンコールに
ボーカルは教室の隅に、ギタリストが居る事に気づく
その場の仲間に打ち合わせと違う事をさせてくれと頼みアコギを抱え、一人でギタリストに向かい挑むように歌う
確かに今の俺についてきてくれるのは、同情で付き合ってくれているベースの親友だけだ
これが今の自分の現状だ。だけど見ていろ、このままで終わってたまるかよ。
歌に込められた憤りに、声に出さないまでも客は不安な何かを感じ取る。
演奏終了後、後片付けしているボーカルにギタリストが声をかける「今更なんだと思うだろうが、俺と組んでもらえないか?」
なんでまた?ボーカルそんなに劇的に美声になったりしてないぞ?
「上手くなってたから」とギタリスト「まさかあれからここまで上手くなるなんて想像出来なかったわ。
こいつ、いったいどこまで上手くなるんだろ?それを考えたらわくわくしてきた。
んで、お前とやれたらきっと楽しいんじゃないかなと思った」
その頃
幼なじみのドラマーは、参加したバンドがどれもこれも3ヶ月足らずで解散するという
悲運に見舞われていた
今いるバンドはボーカルが負けん気が強いがいい曲を書く。
ギタリスト美形のテクニシャンだ。ファンだって多い
今度こそ、ここに骨を埋めさせてくれ神様!
その祈りを込め、頭をモヒカンにしていた。
四月、ボーカルは、家を出て、アパートで一人暮らしを始めてた。
ベースは、大学をちゃんと受けてた。
四年で卒業する事が家族のバンド活動を続ける条件だったので
まず合格した大学の軽音楽部に潜り込みでドラマー見っけなければね。
ギタリストは一人暮らし二年目。
最近の悩み、実はかなりの寂しがりやのボーカルが、一人でいるのに慣れない、と
毎晩酒持って押しかけてくる
うざい、俺にギターを弾かせろ。
「なあなあ、じゃセッションしよーぜ」
二人は川原なんかで向かい合わせてアコギのセッションをする
「自分が手加減無くバトれる仲間とやるのって、めちゃめちゃ楽しいなあ」
ギタリストもいつしか口元に笑いを浮かべていた「だな」
モヒカンにしたドラマーのその後
ライブ中にメンバーが大ゲンカした。その場で解散宣言が行われた。
美形ギタリストのほうが声援多い事にブチ切れたボーカルが(そのほかにもファンに
実は曲をほとんど作ったのは自分だとか
ボーカルの女を寝とって妊娠させたあと
父親はボーカルだろうがと言い出し逃げ回ったとか
いろいろ理由があった)
人間関係が最悪なことを除けば、人気になった見合う実力もあるいいバンドだった
なんとかボーカルとギターの仲を修復しようとしたベースが
入ったばかりだか頑張ったドラマーに謝った
「また再開出来そうになったら連絡くれよ」
「いや、今回ばかりはもう無理だわ」ベースはむしろせいせいした顔をしてた
「俺、明日ハロワ行く」
あ、バンドももう辞めるのか。ドラマーはわびしい気持ちになる
「俺はまた掲示板で仲間探しからだな」
肩を落として歩く帰り道。前のバンドも似たような理由で消滅してしまった。
どこにあるんだ、安住の地は、と溜息をついたドラマー
「よー、酷い目にあったなあ」声をかけられた
「ありゃ」軽音部の立ち上げに協力してくれた幼なじみじゃないか
「酷い目にあわせたのは俺らだろ?チケット代払わせ他お客さんに誤りもしないでさ」
そう言った途端、また気分が下を向く
幼なじみは少しいいか?と聞く
許可を取らなくて済まないが、と幼なじみは「さっきのライブ音源もらった」録音機を差し出される
自分が了承するものではない気もするが、もうメンバー間で連絡も取れないしなあ「いいよ、でも何すんの?」
「俺が今いるバンド、ドラマーが決まらなくてさ」
幼なじみは、じゃあ後で連絡入れるかもしれないから、その時は宜しくと言い残し別れる
「で、ぶっちゃけどうだ?」
何度か音声をリピートし、ドラムのリズム感、力量を脳内で測るため目をつむり、邪魔な音を洗った。そして、現在そこのバンドのリーダーは
「こいつ、ほんと今、フリーなのか?」
「この音録ったすぐあとバンドが空中分解したわ、ちなみにそれ、今から三時間前」
同席しているメンバーが「ヘビメタだよね、このジャンルでしかやりたくないって言いそう?」
「解らん、俺はただこいつの腕、どうなのかお前らに聴かせるの先決だと思ったからな」
そのリーダーは「音だけなら、こっちから頭下げて、お願いしたい」
そこまで言うかあ「後は人柄だねえ、こっちのが重要だよね。うちらのこと、気に入ってくれるといいけど」
「合わせるわ」と、リーダー。残りふたりは「は?」
「多分、出来ると思う、こいつあまり自己主張しないやつみたいだから」
「お前エスパー?なんで解る?」
リーダーは何かいいかけたが、面倒くさくなったのかなんとなく、と呟いた
翌日ドラマーはアパートまで来た幼なじみに、幼なじみのバンドがよく利用するという都内の安いスタジオ近くのミスドまで連れ出された。
「ショックは少しづつの方がいいからな」「え?何?」
「俺的にはお前が一番助かるメンツなんだが、問題はまずお前だからなあ」「なあ、話が全然読めんぞ!?」
「お待たせしましたあ!」
入ってきた見るからに人が良さそうな柔和な笑顔のやつをさして
「こいつが今俺とやってるベース」と幼なじみが紹介する「そして俺がリードギター」
どもども、とベース担当ドラマーの正面席を陣取り「お話は、いろいろ伺っています」と、深く一礼する
少しおいてベースはドラマーのフルネームを読んだ。幼なじみが教えたんだなと普通にドラマーは考えた
ベースが自分の名前を告げた時、どこかで聞いた名前だとわかったが
どこできいたか、情けないことにドラマーは思い出せなかった
昔はMr.Childrenなどにあがれて軽音楽部を設立した男だった。
やっと人前で演奏出来る技術(「お前の場合、どっちかっつーと開き直る図々しさ?」と、幼なじみのいまギタリスト評)
身につけた男は、その時求めてくれたのがヘビメタだった。それでやっているが
「こだわりはないよ。叩かせてくれるなら、どこでもありがたく受ける」
つうか、ヘビメタお前には似合わないわ、モヒカンにしときながら
自分で周りに嫌な思いさせてないかなんて萎縮してんだからな、とギター。
「だってお前が帽子かヅラ被る間もなく引っ張って来るから」
泣き言を言うドラマー
「じゃあ後は上手くやっていけるか、ですねえ」この日初めてあったベース担当
何も説明しないギターの代わりに、自分たちが今やっているバンドの方向性とかが
どんなものなのか、話す。
分かり易い説明出来るやつだなあ。頭良さそうだ。
メンバーの中でベース担当だけ大学生だという。「四年ちゃんと学業やる約束家族としましたから。
就職間近に脱退するなんてことしませんよ。音楽で食ってく覚悟は着いてます」
「どこ大学?」「バカボンのパパの母校の隣の大学です。
バカボンパパの後輩になりたかったなあー」
あ、こいつとは上手くやって行けそう。気さくだし、腹くくってる感じだし。
人見知りがちのドラマーはホッとした。
ギタリストに、いい話を持ってきてくれて恩に着るよと伝えた。
ギターがなぜ目を逸らすのか、あまり考えなかった。
ベース担当がしっかりドラマーの手を握り
おねがいします、うちのリーダー誤解されやすいけど
悪い奴じゃないんてす。ただ、普通の人の気持ちがわからないというか、いろいろずれてるんです
と、繰り返し言うのに、ああ、一生懸命だなあ
そのリーダーとだって上手くやれるだろうなとしか、楽観的にしか、考えられなかった
「あー!?」
男性向だけど最後までセックスしません
(308続き)
ドラマーはリーダーでボーカルギター担当見て逃亡した
ドラマーの幼なじみギタリスト、追いかける
ベースはボーカルにしばかれた。「なんで黙ってた!?」
だってこのドラマーがいいって言ってたじゃん、
それにドラマーがお前の高校時代めっちゃ嫌悪だった初代軽音部の部長って、俺も今朝聞いたばっかりだよお
いたいいたい赦して、つか
「今でも顔見るの嫌なの?初代部長さん」
「あっちが俺の事とことん嫌ってた。俺にどうしろってんだ?」
「嫌ってたんじゃなくて嫉妬だって」ドラマーに会う前、ギターに話をされた。それをそのままベースはボーカルに伝えた。
嫉妬?何を?あ、俺に学校中の女子が味方についた事か?
「曲、たくさん作ったの初代部長さんの前に出しちゃったでしょ?」
ボーカル訳がわからないよという顔「だったら作りゃいいじゃないか。1日1曲ノルマ作れば一年で追いつくだろ」
英単語の暗記かよ・・・
その頃昔取った杵柄、テニス部で県ベスト8に残った経歴のあるギター、、、ドラマーをとっ捕まえていた。
「お前の意志なんか俺はどうでもいい。お前がいれば、俺が楽なんだ。黙って言う通りにしろ」強硬な態度で押し切られていた
ドラマーは思い出す。どうしてこいつをいい奴だと今まで誤解していたのか?
小学校の時夏休み明け、しょっちゅう夏休みの友やアサガオ観察記録日誌やラジオ体操カードをちょろまかし、
俺の名前を消してこいつ、自分の名前書いて提出してたじゃないか?
連れ戻されたドラマーを、腕組みしたボーカルがじろ、とにらみ
「言っとくが、ここのリーダーは俺だ。俺の下につくなら、俺に絶対服従だ、覚悟してんだろうな?」
ベースが青ざめ、おろおろし出す。チッ、と舌打ちしたギタリストが拳を握る。どこまでこいつ馬鹿なんだ?状況理解する気あるのか?
(810続き)因縁のボーカルを目の前にして、
ドラマーの暗黒の高校時代が脳でフラッシュバックし始めた。
廊下で通りすがりの女子が「新入生の才能が凄いからって
はぶったりパシらせたり、虐めててダッさ。嫉妬と嫌がらせしかする事がないなんて」
と聞こえよがしに言葉を投げつけたこと。
下級生の部員があいつをたたき出しましょうよと訴えた、それだけは無視したが
本当は誰よりこいつに怯えていたのは自分だということ
あの時の、今も全く同じこいつの目が言う
お前のやってることは昔も今も
プロのミュージシャンの真似事、ごっこ遊びじゃないか
なのに一丁前にプライドにはしがみつく。何もないのに外側を守る殻の中で
傷つけられたと俺に的外れの恨みを抱いてる
ドラマーは、自分の両頬を両の手のひらで力一杯叩いた
「お前に会えて良かったわ
昔いいたくて言えなかった事、言えるな。今ここで」
ボーカルはドラマーを睨んだままだ。
「お前が初めて軽音部のに現れた時出したMD、それに入ってた曲全部聴いて、
すげえ、と思った」
言ったら嘘みたいに全身が軽くなった。「俺とほとんど違わない歳のやつがこんな事できるなんて
ショックだった。でも、こういう奴がプロになるんだな
俺が今更言ってもあれだけど、頑張ってくれ、応援する」
「恰好いいじゃないですか初代部長さん!?」とベース。横のギターも
「いや、俺も、コイツのこんなとこ始めてみたわ
ああでも昔から誰かのせいにする事は嫌うし、基本、人に褒められるの大好きなクソ正直な奴だった」
だがしかし、「ふ、ふざけんな!!」ボーカルは憎々しげに喚いた「てめえ一人大人ぶった事言って
俺の立場ねえじゃねえか!」
しばらくして、ボーカルがさっきまで殴り書いていた、が
ドラマーの一皮むけた瞬間に立会い、悔しそうに丸めてゴミ箱に突っ込んだレポート用紙を三人は開いてみた
初日、まず挨拶、舐められないよう一発かます
二日目、音合わせ、いいと思った所は褒める
三日目、そろそろ臨界点、拳と拳でぶつかり合う
四日目、川原で寝転がりながら、お互いの夢を語り明かす
五日目、一緒に銭湯にゆき、裸と裸の付き合い
この辺で過去の自分の生意気な言動を謝る
六日目、バンドの結成記念日、メンバー全員で呑みにゆく
「な、なんじゃあこれはっ?」
ギターも呆れた顔「スケジュールがタイトすぎる。一週間で生まれて死んだ男の歌思い出すわ」
「ごめん!リーダーせっかちだから」とベース。
そこにボーカルが戻ってくる。アマチュアミュージシャンのコンテストに今、申し込んできたと告げる
「二カ月後だから」
リーダーはドラマーの背中を叩く「今から曲合わせに行くぞ。行きつけのスタジオ連絡したら
今、丁度使えるとさ。ラッキーだな」
俺があんなに憧れ、嫉妬し、劣等感から音楽からも逃げる原因となったやつが
こんな奴なんて・・・ドラマーは絶望のあまり、天を仰ぎうめいた
そして二カ月、ドラマーはボーカルリーダーにめちゃくちゃしごかれた。
前に何人かのドラム候補がいたが、ボーカルと衝突して
遂には皆、腹を立てて出ていった。
「だろうなあ」裏話をベースから聞き、ドラマーは納得する。
どうやら曲ができると同時にボーカルの脳内にかなり明確なアレンジのイメージが
出来ているみたいで
そのイメージに近づけるため何度でもやり直しを求める
「でも、初代部長さんは今までで一番やりやすいみたいですねえ」
ボーカルにとって、だって?まさか
「これまでのドラムさん、みんな上手い人って評判の人が組んでくれたんですが」
ベースはドラマーの隣に座り、モスバーガーの袋を空け、分厚いテリヤキバーガーを頬張りながら
「入ってすぐ、下手くそってリーダー文句を影で言い出すんです
んで、我慢出来なくなるとすっごい細々と叩き方指示し始める」
つまり今、ドラマーがさまよっている地獄を見たのかそいつらは
「あいつ、少しは他人の気持ち考えろよ・・・」
「長くやってくんなら、早めにリーダーの言う通りにした方がいいんですが、
なかなか、皆わかんないのな」
まあ、素人クラスなのに組んだメンバーが良すぎたとか、
上手くルックうスうけたってだけでプロ続けてるやつ沢山いるからなあ
と独りごちた後、慌ててモス袋からポテトとクラムチャウダー差し出す「すいません俺ばっか食って」
「いいよ、お前が金だしてんだから」
「あ、じゃあ近いうち、俺の個人練習付き合ってくれません?いいですか?
じゃ、これ代償前払い」
「前に辞めたドラマーの共通の欠点が、初代部長さんにはない」
と、練習につきあったあとベースが言った
「早くして突出する人は、大抵手癖をすぐに身に付けちゃうんです。で、それを自分のオリジナリティだと思い込む。
確かに、あ、あのギターだ、とか聴いてる人が反応しやすいのはその手癖」
「だったら個性だろ、それは」それを矯正しろと言われたら、出ていくわ。ましてや自分の腕に自身のあるやつなら
「でもほっとくと、限られた曲しか出来なくなる。自分の可能性を狭めてるんです」
「あいつは?」ドラマーの幼なじみの腕利きギタリストは?
「あの人はほんと、理想的。ちょっともう、リーダーは他のギタリストとは組めないでしょうね」
だよな。大抵少しの指示でギターはOKが出る。
「うまいけどそれ以上に正確無比な弾き方しますよね。俺はこう弾きたいんだっていうのが無い。それがありがたいんですって、リーダー」
「師匠が良かったからだって言いますねギターさん。
初めに自分にギターを教えてくれた人間が、教本を丸暗記するくらい読み込んで
上手いプロギタリストのDVDにあわせてトレーニングして、とにかく基礎ほぼ一年潰してやるやつだった、って
ドラムに移ってもそういうの変わらないですね
うちのリーダーがあなたがいいって決めた理由は、とことん基礎を重視するとこと、手癖がないところ。押し付けがましくないところでしょうね」
コンテスト、頑張りましょうね」
ベースと別れてドラマーは、ボーカルにメールを出す
そういえばこっちから出すのはこれが初めてだ。
コンテストまではここに厄介になる。全力を尽くす
そんで、お前らはコンテストでうまいことうまいドラム見つけてくれ
その夜の日付が変わった少しあと返信が来た
お前の気持ちはわかった。当日までお前はここの一員だから
俺は遠慮はしない。それまで
よろしく頼む。
そのコンテストは昔から若手ミュージシャンの登竜門として
長く知られてきたものだった
数年前など、今、オリコンの上位に当たり前のように食い込む
ふた組の女性シンガーが頂上決戦で火花を散らしたことが
業界では語り草になっている
そして今年。残念ながら最後の開催となることがアナウンスされていた。
一次予選、関西関東ブロック分けされた二次予選。
年齢上限二十歳の素人ミュージシャン三千組が既に落とされていた
審査員席の近くに関係者席が固められ、出場者の名前と
略歴が印字されている用紙が回された。
この時既に今年の優勝者となる少女の名前の真下には
赤い線が引かれてあった
全国規模を誇るボーカルスクールが十三歳の頃から丁寧に育てた豊かな声量と音域を持つ高校生。
自分の実力の自信ゆえの、しゃんと伸びた背と堂々とした眼差しが、只者ではないと周囲に気づかせる
カリスマ性を漂わせる。
この時点で彼女は事務所、レコード会社が決定していた。
毎年そうとは限らないが、この年は彼女の箔付けのための出来レースの年、になるはずだった、が
「なんでこういう年に化け物が集中してぶっこんでくるんだ?」
審査員席の音楽出版編集者は呻く「去年なら皆優勝してるレベルばっかり残っちゃってる」
しかし、彼女の優勝は決定事項な訳である
「彼女がグランプリとった時、場内は納得してくれるか。
そこで歌姫の真価が問われるわけだから」後ろの席の音楽ライターの女性が「楽しみじゃないですか」
実際のところ、デモ音源と二次のパフォーマンスでは、超ハイレベルの猛者が集まったその年でも
彼女がボーカルを務めるガールズバンドが頭一つ抜けていた。
他の出場者も、別口のコンテストで名前を見たものばかりだ。
ただひと組のバンドだけ、審査員席、関係者席のだれもが見たことない名を持っていた
「インディーズの新人に詳しい人、こいつらの名前聞いたことある?」
この年の最終選考に残るならプロデビューさせる価値はある、そんな連中しかここにはいない。
一人、眉を潜めてじっと考え込んでる関係者がいた「このボーカルくんの名字」おかしいわけでも難読なわけでもないが
珍しく、一度目にしたらちょっと忘れられなくなりそうな姓だった。「もう居なくなっちゃったバンドの
ギターと同じなんだわ」
「有名なバンド?」「いや、バンドブームの真っ只中でデビューした泡沫バンドの一つだよ。
ギター君は上手かったし、ボーカルのお姉さんも美人でセンスが良かったんだか」
あの時代は元気がいい可愛い若いシンプルな兄ちゃん達のバンドか
あからさまに変なバンドでなけりゃ目立てなかったからな。今思えば惜しかったかも
その発言が引き金になり、その場はやれホコ天だイカ天だナゴムレコードが江戸アケミは素晴らしかった
ところで爆風はコミックバンド時代と売れ線時代とどっち派ですか?すいません私小室哲哉がやはり至高かと・・
と、自分が十代の頃耳にして人生変えた頃の音楽談義と言う名の私がたりがいくつも勃発した。
「両親が音楽で食ってただぁ?」
控え室で、「お前の才能すごいよな、どんな親から生まれたんだ?」と、ドラマーがボーカルに話しかけたら
よく考えなくても出てきそうな答えが帰ってきた。しかし、ドラマーの奇声は速攻で訂正された
「食っていこうとしたが、誰にも相手にされず、誰にも憶えてもらえずに
二年とかそこらで地元で就職した。おふくろがボーカルで親父がギター」
おじいちゃんもフォークソングでレコード出してたんだって、とベース「ちげえよ、フォークシンガーの声だけ裏方でやらせてもらってたんだよ」
ドラマーは溜息だか、うめき声だかしらん音を口から漏らした
あれ、そうすると?「お前、両親とじいちゃんのリベンジのためこんなことやってんの?」
ボーカルは即座に首を横に振った「逆」
あいつら俺をこんなんにしたくせに音楽で食ってくっつったら、殺そうとした「つか、殺しだ、あれは」
え?
ベースがいたたまれなそうな表情をする。
ボーカルは「だから今のとこ俺からも、親、捨ててる」
おい!?
ギターが声をかける。リハーサルの時間だ。使えるのは三十分しかねえぞ、急げ。
君達がー一番好きなーキャラはー
もうすぐ死にますよー
(316続き)
リハーサルが終わり、彼らは舞台裏で最後のパフォーマンスの順番を待っていた
その間ベースが小声で、ボーカルがミュージシャンを目指すと公言してから、両親との仲が嫌悪になった事を説明した。とりわけ高校時代母親との間に出来た亀裂はたまにボーカルの家に遊びにゆくベースにもひしひし伝わる程だった、と。
「殺したっていうのは、リーダーのお母さんがリーダーのギターを壊しちゃった事を言ってると思います」お昼を抜いて貯めたお金で買った初めての自分自身のギターだったから
ドラマーは胃に重い痛みを感じた。自分が同じ目に合わされたら・・・
「あの」ドラマーはパイプ椅子に腰掛け、じっと瞑想し集中しているボーカルに声をかけた「なんか、全然知らなくてすまん」
「謝ることじゃないだろが」
俺に興味がなかったし、今も好きじゃないんだろ。それはお前が悪いって言う話じゃない。
何と言って良いやら・・・ドラマーはうすら笑いをつい浮かべ、そしてそんな自分がださいと苦く思った。
「イメージが浮かばなかったんだ。俺がプロになるイメージが。
お前らにははっきりある。一緒にやってて嫌っつー程痛感した。
だから俺がこんなとこに居たら足手まといだな、と・・・」
そんなあ、と声をあげたベースをギターが制止する。
「それでか」
「そうだ」
「これ終わってどうんだ?」
「就職活動またはじめるわ」彼は腹をくくってモヒカンにした時に、努めていた工場にも辞表を出していた。
「ドラムは?」
まだどうするか解らない。
ボーカルは目をあけ低い声で「今だけはそんな甘ったれた感情捨ててけ」と命じた
ここには俺らだけじゃなく、参加者全員がプロになる気で自分の人生掛けて居るんだ。そんな奴らを生半可なやつが負かしたら失礼だろうが。今だけは、死に物狂いでてっぺん取るつもりになれ!
ボーカルの気迫にドラマーはつられて頷いた。が、舞台上でドラムセット組み立てている時に
あれ?と気づく。こいつまじでグランプリ狙ってるの?
だって俺ら、四人揃ってまだ二ヶ月じゃないか。
曲はスタンダードな奴と変速的で激しいやつ。どちらもボーカルがちゃっちゃと作り
イメージ通りのアレンジに近づけるためドラマーに艱難辛苦を強いた。結果贔屓目じゃなくても完成度の高いデモができたとドラマーも思った。
だが、二次のパフォーマンスで四人のグルーヴ感は正直今ひとつだった。
何年も一緒にやっているのが解る他の息のあったバンドを見てドラマーは痛感した。やっぱ、早すぎたよ。
勿論、出てみて人前でこの四人でやるのはいい経験だったが。
そして幼なじみのギターはやはり正確かつ安定した演奏で、コイツは間違いなくギターで食っていくんだと思わせてくれて、
さみしい反面不思議な嬉しさもあった訳だか。
グランプリは無理だろう?ひとつ前にアコギ一本で影のある伸びやかな歌をやりきった男見て、
あ、敵わんと思わなかったのか?
・・・いや、そんなこと考えたらあかんわ。ドラマーは組み上げたドラムセットの傾きや高さが間違いない事を確かめる。俺も最善をつくす事だけ考えろ。
あいつ、二ヵ月だけの同じバンドの仲間でリーダーが、プロになれる手伝いをきちんとできるようにな。
そう、自分の感情を良い方向へもって行こうとした矢先
審査員席から「ドラマーがモヒカンなんですね」「二次の時はモヒカンじゃなかったけど?」
そのざわつきで気がついた。俺、ヅラどこにやったっけえ!?
ここには俺らだけじゃなく、参加者全員がプロになる気で自分の人生掛けて居るんだ。そんな奴らを生半可なやつが負かしたら失礼だろうが。今だけは、死に物狂いでてっぺん取るつもりになれ!
ボーカルの気迫にドラマーはつられて頷いた。が、舞台上でドラムセット組み立てている時に
あれ?と気づく。こいつまじでグランプリ狙ってるの?
だって俺ら、四人揃ってまだ二ヶ月じゃないか。
曲はスタンダードな奴と変速的で激しいやつ。どちらもボーカルがちゃっちゃと作り
イメージ通りのアレンジに近づけるためドラマーに艱難辛苦を強いた。結果贔屓目じゃなくても完成度の高いデモができたとドラマーも思った。
だが、二次のパフォーマンスで四人のグルーヴ感は正直今ひとつだった。
何年も一緒にやっているのが解る他の息のあったバンドを見てドラマーは痛感した。やっぱ、早すぎたよ。
勿論、出てみて人前でこの四人でやるのはいい経験だったが。
そして幼なじみのギターはやはり正確かつ安定した演奏で、コイツは間違いなくギターで食っていくんだと思わせてくれて、
さみしい反面不思議な嬉しさもあった訳だか。
グランプリは無理だろう?ひとつ前にアコギ一本で影のある伸びやかな歌をやりきった男見て、
あ、敵わんと思わなかったのか?
・・・いや、そんなこと考えたらあかんわ。ドラマーは組み上げたドラムセットの傾きや高さが間違いない事を確かめる。俺も最善をつくす事だけ考えろ。
あいつ、二ヵ月だけの同じバンドの仲間でリーダーが、プロになれる手伝いをきちんとできるようにな。
そう、自分の感情を良い方向へもって行こうとした矢先
審査員席から「ドラマーがモヒカンなんですね」「二次の時はモヒカンじゃなかったけど?」
そのざわつきで気がついた。俺、ヅラどこにやったっけえ!?
321 :
320:2014/05/25(日) 21:54:19.48
ごめんね、ダブっちゃった。320はなしです。
322 :
320:2014/05/26(月) 21:58:06.54
青ざめ震え出すドラマーに気づくベース「どうしました?」
気合入れるため洗面所で頭から水かぶった時外してそのまんま「ヅラがねえ」
「わざとじゃなかったんですか?」
「この頭はメタルモードになるときだけだよ!第一俺らが今からやる曲に似合わねえし」
しかし探してくる時間はない「すまん、忘れてくれや」とベースに痩せ我慢の笑いを見せるも膝が笑い出す。
メタルバンドにいた時はそういうキャラを演じるため無くてはならない外見パーツだったがこっちのバンドの時は曲のイメージに自分を寄せるため鬘着用していなければ落ち着かない。
なのになぜ今、しかも人前、さらに最終選考!?
「どうせ誰もてめえなんか見ねえわ!」気休めのギターの一声、が、ボーカルはドラマーの様子を一瞥し
さっと舞台袖に走る。
二つ前のガールズバンドのメンバー二人が残っていた。どうやら今からやる彼らが「かっこよくない?イケメンじゃない?」
と気になったらしく、舞台袖からパフォーマンスを見るつもりでいたらしい。ボーカルが目前に来たのできゃーと奇声をあげる。
ボーカルが上着と帽子を「貸して」と頼む。二人はきゃあきゃあ言いながら上着を脱ぎ、ノースリーブスに。
ボーカルはごめんねといい、袖を通す「嘘おぉ!入った!キツキツじゃない!あなたどんだけ細いの!?」
体質的に太れなくて、それもコンプレックスの一つだよといいボーカルは帽子を目深に被る。
「やばぁぁぁい!女の子にしか見えないぃ!?」
「何やってんだあいつは?」ギターが不審がり、様子を見に行きかけた時「わりい、ちょっとだけなら、合わせる時間残ってんな」
「・・・おまっ、なんのつもりだ!?」
「言ったろ?審査員はバックより俺を見るって」
音合わせの最中審査員はここのボーカル男じゃなかった?いや、さっき立ってた男子が女の子っぽい帽子と上着にしただけだろ?とざわつき出す。
「小柄なんだねぇボーカルくん。ああいう中性的なカッコで可愛い歌を歌わせたら
グランプリの女の子より売れそうじゃない?」
「いやあ、それは無理だ」
その言葉はボーカルが歌い出した途端、納得された。透明感だの柔らかさだのとは無縁の太いシャウトはそれでもその時流行った喉も裂くかと言わんばかりの力ずくだけの唄い方とは違う聴きやすさがあった。
音程はやや不安定、声質はあまり魅力的ではない。
「変なボーカルだよね。ど素人みたいな新鮮なとことやたら慣れた器用なとこ両方ある。普通はどっちかじゃない?」
と審査員らの小声の感想が交わされる。「二次の時も思ったけど、この子ら演奏はうまいのに勢いがないんだよ、優等生過ぎる。おまけに楽しそうに見えないのが致命的」
デモ音源が最高近く、それで点数を稼いだがファイナリストの中で二次のパフォーマンスは最低点がついた。
「息があってないよね。急ごしらえのバンドなんだね。惜しいな、来年が楽しみと言えたらいいのに」
「なんか特別賞上げられません?曲は今回一番好き。渋いのよ」「あ、確かにあなたが好きそな懐かしい曲調」
じゃ、こいつらに優秀楽曲賞上げようかと空気がまとまり出した時「ピッチ、早くなり過ぎてない?」
舞台の上でもメンバーが走りすぎ出したドラムにメンバー全員が内心絶叫していた。
執筆作品以外の設定語りしたい
非執筆作品の設定語りは、卵子と精子のようなものorz
(323続き)
いま自分がモヒカンでいる事は考えないと必死で言い聞かせているうちに、なんでテンポが?
しかし今更テンポ戻すなんて余計駄目?いや、ボーカルはデモ通りの正確なテンポでやる方がのぞみなんじゃ?
半泣きでパニクっているドラムに一瞬振り返るボーカルが小さく頷いた
俺について来い
そう言っているようにしか見えない
そしてボーカルはドラムをさらに煽るようにピッチを上げた
ばかやろー!?
ギターが、そしてベースが歯を食いしばってついて行く
専門学校で何勉強したんだと怒鳴りつけたくなる下手くそどもと合わせた経験が
まだベースをもちはじめの頃
ボーカルに散々どやされ訳もわからないままとにかく合わせた初期の地獄体験が
ギターとベースをその時覚醒させた
しかし、悪魔に首に縄くくられて引き摺られてく感覚か?
それなのに
大サビ近くでは目眩に似た恍惚感が全身を貫いた
やばい、女と初めてやれた時より気持ちいいとすらギターは思った
それは審査員らにも伝わった
演奏は完璧じゃなくなったが、荒削りな魅力と一体感が今回出演したどのバンドより感じられた。
「面白いなあ、この子達」
一人の関係者がつぶやく
彼は国内有数の大手レコード会社に勤めていた。ボーカルと同じ姓を持つギターを有する
短い期間しか活動できなかった無名バンドの曲が好きで、今でも覚えていた。
だけど今見た連中のパフォーマンスには、そのバンドの端正で通ごのみのセンスを魅力とした個性以上に
追い詰められた獣みたいな狂気を肌に感じた。
アウトロと、その場でボーカルがとっさに被せた本来はない遠吠えが消えた
曲が終わった
んで
「俺らも終わった」ガクッとドラムは頭を垂れた
と、拍手がひとつ前からおこる
ボーカルが苦笑いしながら手を叩いてドラムを見ていた
ついでギターとベースも拍手しだした。
何やってんの、馬鹿じゃね?
言おうとした途端、ドラムの目から涙がぼたぼた落ちる
ドラムを隠すように肩に腕を回し、ボーカルは退場した。
ギターとベースがドラムセットを外し,片付けた
舞台袖で待ってた女の子達は帽子と上着を返された時「すっごい良かった。うちのリーダーがいなけりゃあなたたちが優勝してたよ」と興奮している。
実際一般客がいる客席でも、「今の連中すげえよ、なんか怖かった、鳥肌がたったわ」とか、ざわめかれていた。
しかし、メンバー全員思っていた
終わったな、と
控え室に戻り、濡れタオルを顔に被せてパイプ椅子に深く座り込んだドラムは
横にいるボーカルに改めて謝った
自分が乱れなきゃ、上位入賞出来。グランプリだって手が届いたかも知れない
「阿保、お前が居なかったらここには来られてないじゃないか」
ありがとな。
ドラムはそう言われて改めて情けなくなる
んで、新しいドラム候補の目星はついたか?
若いバンドマンがコンテストに出るときは、グランプリを取る、レコード会社にアピールする、
そのほかの目的として
新しいメンバー探しというのがある
一人だけ技術が突出しているが、ほかのメンバーが稚拙すぎて困っていたり
メンバー脱退が確定し、新メンバーを探さなければいけないバンド等が
新しい仲間を探すために参加したりもする。
だからドラム、ここにこいつらを送るのも大切な仕事だと頑張った。
「あー、他の連中のパフォーマンスあんま見なかったわ」
ボーカルが声上げる。馬鹿か、これからどうすんだよ?
「とりあえず帰って酒飲んで寝る。
先のことは目を覚ましてから考える」
お前は?と聞かれたドラム「同じだわ」二人は同時に声をあげて笑った「馬鹿野郎てめえはまだ18歳じゃねえか」
「そういう細いとこねちねち言うのは高校の時と変わんねえな」
ボーカルは笑うのを止めた。「お前はこれでもう、辞めちまうのか?なんかそれじゃつまんないな。俺はやだ」
考えさせてくれや、と言いかけてドラムは混乱する。あんなにきっぱり辞めると言っておきながら、コイツともうちょっと一緒にやりたい気持ちになっている。
ベースとギターがばらしたドラムセットを持ち込んだ。ドラムは恐縮し、「お前らにもなんか、その、俺がやらかして・・・」
すまん、といいかけるとギターに背中を叩かれた。「いや、楽しかったわあ、てめえのせいで」
「うんうん、大変だったけど、ランナーズ・ハイ起こしたみたいな感じなのかな?気持ちよかったです」
「それにお前が悪いなら、さらに飛ばしたこいつは何よ」ギターがボーカルを指さす
「そう!あの曲、あんとき気がついたけど、テンポ思いっきり上げた方が良くね?
このあと曲作り直すから明日集まってちょっとみんなで合わせ・・・」はっ、とボーカルは言葉を濁す
ギターが眉間にシワを寄せため息をつく
ベースは少しおいて、思い切ったようにドラムを見つめる。残ってください。あなたが俺らにとって一番有難いドラマーなんです。そう、訴える。
今だ、前言撤回するのは今しかない!みんな、こんな無様な俺を必要としてくれて有難う!
とドラムが腹をくくった時
ドアの向こうからノックがして、彼らのバンド名が呼ばれた。返事をすると、声の主は彼らが準グランプリに決定したと知らせた
歓声を誰かが上げるより先に
「待てよ、なんで俺らがグランプリじゃないんだ?」ボーカルリーダーがぶち切れたように叫んだ
残りのメンバーがあっけにとられている前で、ボーカルは訴える。
デモとはあまりに違うという点なら最低評価だろうが、演奏力と勢いは今回あきらかに自分達が突出していた
最低か最高評価か、そのどちらかでしかないはずだ。
つうか、自分たちの何がいけなかった?
「黙れ馬鹿!」
ギターがボーカルを殴り、ベースが失礼を必死で詫びる。
「うん、その話はね、表彰式のあとで説明できるかも。
でも、一位逃したからって悲観しなくてもいい
そう、思ってもらえるんじゃないかな?」
その男、レコード会社のプロフィールなどを担当していると名刺を渡す
ベースが受け取り、妙な声出す。ドラムは回ってきた名刺を見て
より奇天烈な悲鳴を上げ、震え出す。
そのくらい有名なレコード会社だった。
「でもここ、最近バンドミュージシャンにアニメのタイアップばっかりつけてるとこだろ?
俺漫画もアニメも見ないし」
黙れ、とボーカルは再度ギターに張り倒される
(訂正、プロフィールじゃなくプロモーションでした)
グランプリは当初の打ち合わせ通り,ガールズバンドが受賞した
彼らは準グランプリの副賞にキットカット一年分を贈呈された
「どうするよ、これ」
と途方にくれたボーカルは、ギターが早速封を切り、菓子を食べ始めるのを目撃する
キットカット問題はケリがついた。
さて、レコード会社のプロモーション担当者はデビューさせてくれるかと思いきや
「ううん、今僕が担当しているデビュー候補の新人のひと組として
様子を見させてもらう
君らもライブハウスにたってるんでしょ?
申し訳ないが、僕は知らなかった
もっと本数を重ねて知名度を上げてもらいたい
この一年、どれだけ動員数を伸ばせるかでデビューの時期や待遇が決まる」
「ライブハウスはほとんど出てません。レコーディングした曲をインディーズで出すつもりです」
ライブしなきゃインディーズCDなんて売れるわけないよ、とスカウトは呆れた
自分がインディーズも面倒を見ている事務所を紹介する。手順がわからなければ事務所に聞いてみて
その日のうちに契約書が四人の前に置かれた
自然、3人はドラムを見る。
ドラムは席を外す
遂にボーカルしびれを切らし、あいつをどんな卑怯な手を使っても引き止める案募集!と叫ぶ
腕、くそ真面目な性格、リズムセンス、曲のイメージを掴む勘の良さ
手放したくない、何より
「あいつ俺より身長ない!
俺の小ささが集合写真の時ごまかせる」
「あ、バカ!」
ドラムは戻ってきていた。しっかり聞いていた表情だ
冷たい目でボーカルを見た。その三秒前にボーカル凍りついているんだが。
ドラムは聞こえよがしに音を立てて椅子を引くと、テーブルの真ん中にある契約書の名前記入の一番したに
自分のフルネームをキリリとした楷書で記入した
「今電話で親に当分バイトで食ってく事説明してきた。さあ、煮るなり焼くなり好きにしろ
俺の人生はてめえらにかけるわ」
ボーカルは途端泣き出してドラムの腕にすがり有難うを連発した。
二人を放置してベースが丁寧に契約書を確認しながら必要なことを記入していった。
ギターは突然頭を掻きむしり「なあ、
俺、ライブやるの苦手なんだが、これでもう来月からライブハウス立たなきゃダメなわけか?」
ボーカルは涙をぬぐい
「俺もだ!何だ、嫌なの俺だけじゃないのか」
ドラムはぎょっとする。こいつらあんなに達者にやってたじゃないか
「客がうざい」とギター。そういやこいつ最近人気の若手俳優と顔立ち似てる
いくつか参加したバンドで人前で演奏すると必ず
件の俳優の名前を呼ばれイケメンだイケメンだと騒がれた。
おかげでバンド内の空気はその都度最悪になった。
ボーカルがライブ苦手な理由は
「客は所詮俺のオリジナルより流行ってる曲カバーした方が喜ぶもんなあ
あいつらにどうやって曲を聴かせればいいんだ?」
仕方ないよ。力付けるしかない、とベース。はい、ここに記入して判子押せば俺達
あの人に身を預けることになる。
「だな。あの女に負けたのは、何故かわからないが、事実なんだ
俺、まだまだだよな?」
頑張るわ、みんなの人生預かったんだから、頑張らねえと
ボーカルが自分に言い聞かせる
おい、お前一人でしょい込むつもりか?ドラムはベースを見る。ベースと目が合う。
ベースはちら、と、ドラムを見たが苦笑いして首をすくめた
なんだか、酷く嫌な予感がドラムはした
時をほんの少しだけ戻す。
あの最終選考の客席に、彼らのパフォーマンスでざわつく人達の中に
一際青ざめた顔でそれでもじっとステージの上のボーカルを目に焼きつけようと
端整な顔を上げている青年がいた。
ステージの上にいないのがおかしくなるレベルの容姿の彼は、それでもその時選ばれる場にすら立てなかった。
このコンテストに申し込んでいたが、二次審査で落とされていたバンドの彼もまた、ボーカルだった。
彼は関西から来ていた
今、舞台でパフォーマンスしたボーカルは自分と同じくらいだろう。ほかのメンバーも。
彼は高校の軽音部で幼なじみ三人と組み、バンドを始めた。楽しかった
文化祭のライブでは一番の動員を記録した
当たり前のようにプロになれると考えた
なのに、今、彼は大学と掛け持ちでライブハウスに立っていたが
知人以外の客が付いてくれなかった
彼は焦った。何かが自分たちには足りないらしい。何だろう?
申し込んだコンテストで、彼を抜いて選ばれた連中を、彼は見に来た。答えを探しに
当たり前過ぎて途方にくれる。彼らは下手くそだった
歌唱も、三人の演奏力も、曲の歌詞、メロディ、アレンジセンス
個性
今のバンドと比べて、あまりにも自分らには何もないと気付かされた。
彼は結果を見ずに席を立つ。(あのバンドが優勝だ、目が離せなかった。と思う)
落ち込む気持ちを直視すると心が折れそうだったから
次に自分たちが何が出来るか考えた
自分がライブで金を取るなんてまだ早い。路上でやろう。無料の音源を足を止めてくれた人に渡して
外の世界の人達に自分たちがいることを見てもらおう
バイト、もっとやらなきゃな。曲も考え直さなきゃ
外は雨が降っていた
会場の横の植え込みは紫陽花で、深い青の丸い花の塊が小雨に打たれていた。
ふと見ると、花の爽やかな色を汚すような汚い鍋牛が葉の上でもぞもぞたくっていた
華がある容姿だから、バンドのボーカルにうってつけだ。声も透明感があって女子ウケする
そう、ちやほやされて思い上がって本気になったが、自分は花なんかじゃない
今の自分は・・・
彼はいつしか歌い出す
こんなに声を上げたのは初めてかもしれない
今まで綺麗な表情で、綺麗な声で歌っていたからな。けど今は誰も見ていない
違う、見る価値、足を止める価値が自分にはない。
今の自分には
喉が張り裂けるかと思う声を鈍色の分厚い雲が覆う空に向かって放つ
その重たい雨雲にわずかでも針穴でも、穿つことができたなら、今の自分が変えられる気がした
彼の声はその時やはり外に出た一人の男の耳に届く。
男は見た感じは気さくな田舎のおじさんと行った風情だ。けど名のある芸能プロダクションの社長だった
今、演奏した若いバンドが気に入ったが、先にレコード会社のプロモーターに取られた
そのプロモーターは男の事務所とは違う事務所に現在出向している
残念、悔しいなあ、そう思っていた気持ちを
澄んだ、けどがむしゃらな歌声は貫いた
男は二次予選に参加させてもらっていた
その中に、まだ未熟だがこれは売れそうな声だと印象に残ったバンドがあった
写真を見ると、うお!と声が出るほどの爽やかな美青年。
ただ、惜しい、歌と声を生かす曲でもなかった
だか、男にその時のボーカルだと思い出させるほどのものを残していた。
男は五年後、あの時の青年がその時立っていたライブハウスに足をはこぶ。
青年の表情は険しくなっていた。バンドは達者なドラムを迎えることができたというのに客数は伸び悩み続けていた
ドラムに昔なじみのアマチュアから引き抜きの誘いが来ていた。プロになれそうだからと
ドラムは義理堅い男だか、引き留めたら可哀想じゃないか?とほかのメンバーが思っているのが解っていた
そうなったら自分たちは解散だ、ふざけるな。
ベースにポツリと言われた。最近のお前、起こってばかりだ。一緒にいるの嫌だわ
ふざけるなよ!
つい、辛く当たってしまうギターは見た目にたがわぬ大らかな、人に対する度量の大きい男でボーカルの理不尽な叱責も
だな、すまないわ、頑張るよ、うん。
そんな風に話もちゃんと聞いて誤ってくれた。
自分が情けなくて、夜中一人でずっと自分に憤っていた。畜生、畜生!変わらなきゃダメだ、このままじゃダメだ
だけど近づく破滅の足音が、伝えたい音楽より頭に反響し続ける
もうダメだ
そんなさなかだった「良かったらうちと契約してデビューしてくれないか?
僕が音源を持ち込んだレコード会社も君らのルックスとボーカルくんの声が気に入ってくれて、
ぜひと言っているんだ」
ボーカルは胡散臭そうな目で社長を値踏みしていた。そして「なんでもします。どんな裏があっても
話が違うと逃げたりしません」表情とは逆の、自分をとことん下に引きずりおろした言葉だった。
おそらくプライドは決して低くはないだろうに「話題作りのために脱げと言われても拒否しません」
同席しているギターが慌てて止めようとするが「できないとか言える立場じゃないだろう、俺たちは!
年寄り相手に枕だってやってやる」
社長、ううん、と唸る「君には僕がそんな極悪人か変態に見えるのかい?君を不幸にするためにだったらここには来やしないんだがなあ」
ですよねえ?とギター。他のメンバーは話がちゃんとできそうだ。
とりあえずこちらからの提示できる条件を並べるとボーカル以外のメンバーが青ざめ震え出す。
うますぎる!?裏がなきゃおかしい、でも自分たちなんぞ騙しても一銭にもならないと思うが?
「なんでなんですか?一体俺達のどこにそんな・・・三十人の客すら最近はキープ出来ていないのに」
そこでボーカルの鶴の一声「馬鹿じゃないか?こんなチャンス二度とない!」
一年後、彼らは大々的に流れるCMで全国にお披露目された。
FM、AM片端からパワープレイになった彼らのデビュー曲は女子中高生やOL、主婦層に受け入れられた。
それは外部のミュージシャンによるものだった。曲をいくつもギターと作り上げていたボーカルは、悲しかった。だったらここにいるのは自分じゃなくていいじゃないか。
いや、自分たちは申し訳ないほどの身に余るチャンスをもらった。
テレビに出演して、またファンが増えた。恋人にしたいアーティストのベストテンに入った。おかげで同世代の男性にはネットの上でフルボッコされ、同じ頃デビューしているミュージシャンからも距離を置かれた。
ある日、持たされたラジオの収録が終わってボーカルがスタッフにお疲れ様でしたと頭を下げると、スタッフの一人がもうすぐ別の番組にゲスト出演するバンドに何かコメントが欲しいのですが、という。
彼はそのバンドの名前を聞くと、知っています。アマチュアの頃から伝説になったコンテストで準グランプリをとっていますよね。と言った。
「そうなの?人気アニメのOPに抜擢されて注目を集めている事しか聞いてないわ」
彼はそのバンドのプロモーションパンフレットを見つめる。
やっとあの日のこいつらに、いま自分は追いついている。そう思うのは彼だけだったろう。
デビューシングル、ファーストアルバムの売上、チャートアクション、ライブ動員数。デビューして一年足らずで彼らは、あの時の準グランプリバンドよりはるかに先を走っていた。
たとえそれがファン以外の人間、彼自身にとっても張りぼての人形にしか思えないとしても。
ひどい文章
目が滑るし一生懸命読んでもつまらなくて読み続けられない
>>339 ありがとう
文章は評価されたことなくて、酷いんだろうなとわかっていたから
はっきり言ってもらって助かりました
どう勉強したら良くなるか今もって分からないけど
今後、意識的に矯正します。
間違えた
>>337
でした。失礼
(コンテストで準グランプリとったバンド、その後)
彼らはレコード会社の言う通り
定期的に都心のライブハウスに立った。
各々人前で演奏することは慣れていたし
客は速いペースで埋まっていった。
だけど半年くらい続けているうち、薄々気がつくことがあった。
彼らと契約した事務所の担当者が指摘した
「お客さんが楽しそうな顔してないの解ってる?」
やっぱりな。
ボーカルは一人で煙草をふかしながら
どうしたらいいか考えた。
原因は解っている。必ずチケットがはける人気のバンドのライブにゆくと
大抵は、似たような激しい単調なタテノリの曲ばかりやっている。
客はそれに合わせ一同に跳ねる。
曲を聴きに来たのではなくこいつらは
同じリズムに合わせ狂ったように飛び跳ねたいだけなんだ。
ボーカルは、ライブハウスに集まるのはこんな奴らばかりじゃないと信じたかった。
目の前でいい曲を丁寧に演奏されることを楽しむ人間は多いはずだと思っていたが
さあ、どうするよ俺
「うちのリーダー、原因が解っているとしても変われないかも」
あまり心配していないようなのんびりした様子のベースが
この問題を相談に来たドラムを前に言い放つ
「リーダー、頭硬いから」
ベースいわく
リーダーは自分が作る曲を大切にしすぎるんですよ。
頭の中で鳴っている曲を、余計なものをつけず、ありのまま人前でやって
受け入れられたいって欲求が強すぎる
ドラム「確かにあいつ、客の事気にかけないよな。後ろから見てて、それも気になってた」
ベース「それも、って、他に何か?」
ドラム「あいつ自身が楽しそうじゃない」
いや、はっきり言ってしまわないと駄目だ
「俺達四人とも楽しくライブやれてない、だろ?」
「なんだ、やっぱりそうか」部屋の隅でジャケットを被って
うたた寝していたと思ってたギターがいきなり言うので
ドラムはぎょっとして振り返る「起きてるならそう言え!んでちゃんと話し合いに参加しろ!」
ギター「俺は頭悪いからろくな考え出せねえ
お前らに任す。んで決まった事には文句言わず従う」
ベース「俺は楽しいですよ。三人とも好きだから。いい仲間が集まったなあ
ライブのほうもそのうちなんとかなりますよ。
だって一度すごく楽しかった事あったじゃない」
準グランプリとってキットカット山程もらったコンテストの事かぁ?
「あの時出来たことがなんで出来ない?」
やたら盛り上がっていた今のライブを頭の中で反芻しながらボーカルは自問自答する。
くやしいが今の俺達は、客にあんな顔させられない
それどころか、自分たちだって、あんな満足した顔して演奏出来ていない。
どうすればコンテストの時みたいに、気持ちいい、息のあった演奏ができるんだ?
どうしよう、バンド物はTOKIOで脳内再生される件
ましてやリーダーいるしw
>>338 このスレ荒らすより、ブログかなんかに貼り付けて
評価スレで評価してもらえば?
ネタバレスレじゃあなくて
フェイク入りの設定語りスレはないのん?
主人公である男は20歳前半という若さで難病にかかり、余命1年と宣告される
その日の夜、夢で神様から啓示を受け、時間を渡る力を手に入れる
男は、その力で何がしたいか想像を膨らませる
しかしいろいろ考えた末、両親に一人旅へ出ると告げ、病気を隠し通すことにする
そして一年後ずつ時間を渡って親に顔を見せ、最期をきっちり看取って男は満足した
おわり
暗い気分になったからボツ
最初2行くらいの設定は多分星新○のショートショートからぱくった
バッドエンドになると思った?
残念、ハッピーエンドになります!
ただし、恋愛的矢印は誰も成就しませんが!!
そんなのイヤ〜ン!
時代に合わせて、女ばっかの内容を選んだけど
実は男ばっかの内容(腐)も描きたいんじゃ
主要メンバーが初期からずっと変わりません
代わりに、パラレルで死んだり、公式軸で輪廻転生したり、異世界トリップしたりします
「高校生活が終っても、カプ、グループが一緒なのおかしくね?」と突っ込み防止に
「時間が経つにつれて、レギュラー対レギュラーより、レギュラー対モブの会話が増えていく」
「みんな同じ場所にいるようで、それぞれ違う場所にいる(カメラトリック)」
「定期的に、レギュラーを回想したり、ベッタリしてない接点を持ったりする」という表現を使います
シリアスではなくギャグで
殺人事件の犯人はヒロイン?って話が進みますが、
私的にもヒロインがそいつを殺してるかどうか決めてないです
というか
人間不信で信頼なんてないと思ってたヒロインに「私を信じて」って言わせる事と、
疑り深い主人公に「殺してないとヒロインに言われたらそれを信じる」
って言わせるのがテーマなので、実際に殺してるかどうかは永遠に闇の中です
最後は主要キャラ三人で家買ってみんなでそこに住みます
そんで主要キャラの一人Aの夢だった店を始めます
幸せハッピーエンドで終わります
歴史を改ざんして
女は全員湯文字の下にマエバリ貼ってる設定にしてます
ツンデレがヒロインをお姫様抱っこするまでの話を描かなくて良かった
どうせなら、もっと進展する話を見たいよね
糖度低めのハーレムを描かなくて良かった
完全ハーレムか、ハーレム妄想もできる硬派な話のほうが
潔いよね(ちょっとスレチ?)